《速報解説》 国税庁、ホームページ上で「質疑応答事例」を更新 ~国境を越えた役務提供に係る消費税関連の5問含め29問が新設 Profession Journal編集部 国税庁は11月25日付けでホームページ上の質疑応答事例を更新し、新たに29問が追加された。 新設された29問の内訳だが、法人税に関する事例が12問と最も多く、その他、所得税5問、源泉所得税1問、譲渡所得1問、相続税・贈与税3問、消費税5問、印紙税2問となっている(財産の評価、酒税関係、法定調書については新設事例なし)。29問の各リンク先についてはこのページ下部の一覧表で確認されたい。 消費税に関する新設5問は下記の通りすべて平成27年度改正で創設された「国境を越えた役務の提供に係る消費税の見直し等」に係る事例であり、納税義務の判定等制度上の基礎的な事項について触れたものが多いが、事業者向け電気通信利用役務の提供を行った者が免税事業者であっても特定課税仕入れとして当該役務の提供を受けた国内事業者に納税義務が課されるとした事例(免税事業者からの特定課税仕入れ)については判定誤りのないよう確認しておきたい。 また法人税関連では下記のとおり、平成26年度改正で創設された生産性向上設備投資促進税制(租税特別措置法42条の12の5)について、投資計画に記載した生産性向上設備等を複数事業年度にかけて段階的に事業の用に供した場合に、投資計画のすべてが終了する前においてもそれぞれの供用年度において適用を受けることができるとした事例、工業会等に支払った先端設備であることの証明書の発行手数料は先端設備の取得価額に含まれず支出した事業年度の損金の額に算入されるとした事例等が追加されている。 相続税・贈与税関連では今年度改正で延長・拡充された「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」 (租税特別措置法70条の2)に関し、店舗兼住宅を取得した場合に店舗部分も含めた家屋全体の床面積で判定するため非課税制度の適用がないとした事例や、住宅ローン控除との併用について解説した事例2問が新設。なお本制度については下記の連載も参照されたい。 さらに平成25年度改正で適用要件が緩和された有料老人ホーム入居者に係る小規模宅地等の評価減特例(租税特別措置法69条の4)について、被相続人が要介護認定の申請中に死亡し相続開始後に要介護認定があった場合の特例適用について、被相続人の生前に心身の状況等の調査を行っていることから相続開始直前において要介護認定等を受けていた者に該当するものとして差し支えないとした事例が追加されている。 また昨年更新のなかった譲渡所得関連では、土地及び家屋の譲渡を行った際に買主から支払を受けた未経過固定資産税等に相当する額について、売主の譲渡所得の収入金額に算入されるとした事例(未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合)1問が新設された。 最後に太陽光発電設備に関する事例が3問新設されており、電力会社への売電事業を行う場合に発生する費用の取扱い等について解説している。電力会社の電気供給設備に太陽光発電設備を接続する際に必要となる連系工事負担金など一般事業会社には馴染みのない発生費用について触れており、実際に問い合わせがあったものと推察される。 なお今年度改正により、「環境関連投資促進税制(いわゆるグリーン投資減税)」(租税特別措置法42条の5)のうち即時償却については、平成27年4月1日以後に取得等する対象資産から太陽光発電設備が除外され、その適用期限が平成28年3月31日まで延長されている(30%の特別償却は継続適用。中小企業者等は7%税額控除も選択可能)。 なお、新設された29問の一覧とリンク先は下記のとおり。 (了)
《速報解説》 改正行政不服審査法の施行日が確定、 国税通則法施行令の一部改正も公布 ~平成28年4月1日以後の課税処分等に係る不服申立てから適用~ 弁護士 坂田 真吾 1 はじめに 平成27年11月26日付の官報号外第265号において、「行政不服審査法の施行期日を定める政令」、「行政不服審査法施行令」及び「行政不服審査法及び行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」が公布された。 「行政不服審査法及び行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」では第35条において、「国税通則法施行令の一部改正」が規定されている。 なお、上記行政不服審査法施行令等については総務省より10月13日付けでパブコメに付されていたが、国税通則法施行令の改正内容については明らかとされていなかった。 今回の政令公布により、 が確定した。 以下では、法改正の経緯等について簡単に解説する。 2 国税通則法改正の経緯 課税処分等の税務訴訟前の行政不服申立て(異議申立て、審査請求)については、国税通則法がその手続等を規定している。 既に、行政不服申立て手続を一般的に規定する行政不服審査法が平成26年6月13日に公布されたところ、これにあわせて、国税通則法も所定の改正が行われた(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という)第99条)。 当該改正後の国税通則法(以下「改正通則法」という)は、異議申立ての廃止による再調査の請求制度の創設(再調査の請求は納税者の選択による)、不服申立期間の延長(2ヶ月から3ヶ月へ)、審査請求における審理手続の計画的進行、口頭意見陳述の整備及び審査請求人による証拠の閲覧対象の拡大等について規定するものであり、これまでの取扱いが大きく変更される。 改正通則法の施行は、公布の日(平成26年6月13日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされていたところ(整備法附則1条)、今回の関係政令の公布によって、施行期日が「平成28年4月1日」とされた。 3 施行期日前後の適用関係 ただし、国税不服審判所に申し立てられた審査請求について、平成28年4月1日から、直ちに改正通則法が適用されるわけではない。 すなわち、整備法附則5条(経過措置の原則)は、行政庁の処分についての不服申立てであって、この法律の施行前にされた行政庁の処分については、この附則に特別の定めがある場合を除き、なお従前の例による旨を規定している。 したがって、改正通則法は、平成28年4月1日以降になされた課税処分等に係る不服申立てに適用され、同年3月31日までにされた課税処分等に係る不服申立てについては、現行の国税通則法が適用される。 そうすると、推測であるが、通常の年と比べ、平成28年3月中には駆け込み的に課税処分件数が増加するのではないかと考えられる。 * * * 上記のように、改正通則法は、従前の審査請求実務の取扱いを大きく変更するものであり、今後、実務がどのように動いていくかが注目される。 (了) ↓お薦め連載記事↓
2015年11月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.146を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第17回】 「実効税率引下げの流れ」 税理士 山本 守之 1 法人税率及び実効税率の引下げの流れ わが国の税制改革では、第1次で実効税率を次のように引き下げることにしていますが、第2次ではドイツ並みに20%台に引き下げることにしています。 (出所:財務省資料) 実効税率は次のように計算されます。 なお、現在の世界の実効税率は次のようになっています。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所:財務省ホームページ) 「平成27年度(与党)税制改正大綱」によると、第2段階として次のように5つの改正を見込んでいます。 2 最近の変化 政府は「実効税率」を20%台に下げるのは、当初は「平成27年度から数年間で」としていたのを、平成28年度で建物附属設備とダムなどの構造物を定額法に限定し、設備投資減税を制限して実効税率を30.99%とし、平成29年度は設備投資減税を廃止し、外形標準課税を強化して実効税率を20%台とする予定です。 10月7日に発足した第三次安倍改造内閣で国内総生産(GDP)600兆円の実現など経済再生を最優先とするため、企業が今後の投資計画を立てやすいように平成28年税制改正大綱に先取りして方向性を盛り込むようにしようと考えたようです。 TPP交渉が大筋合意したことで企業の国際競争力強化を後押しすることが急務となったため、実効税率20%台を早くすることとにしたのです。 3 ドイツの問題点 一連の改正はドイツが平成8年から改正(付加価値税率を上げ法人税率を下げる)したものを日本もまねようということですが、もともとドイツは義務説の国ですから、日本で改正手法をそのまま学ぶのは問題があります。 義務説はジョン・スチュアート・ミル(イギリス)の唱えた犠牲説が源流になっており、この考え方がドイツの学者に引き継がれ、ワグナーによって論理が確立したといってよいでしょう。 この考え方は国家や公共団体は国民や住民がその生活を営む上で必要な共同機関であると位置付けることから始まります。教育、福祉、治安などは共同機関の存在がなくては考えられず、国民(住民)は生活を営む以上はこれらの機関が必要とする財源を租税の形で負担するのは当然の義務であるというのです。 この説は、イギリスよりもはるかに遅れて資本主義化の途を辿ったドイツらしい理論です。イギリスの場合は自由主義段階に対応する「安価な政府」を望むのですが、資本主義化を急速に推し進めるドイツとしては、その発展のために国家の保護と介入を必要とし、国家が資本主義を育成し、維持する役割を持っていたので、租税を「国家から受けるサービスの対価」と考えるよりは、「国家の経費を賄うもの」としての租税の義務化を考えたのです。 筆者が2007年にドイツに行った時に、ドイツ財務省では義務説と対価説との関係について という質問に対して と答えていました。 減価償却の手法を定額法のみとすれば、税収は増えるのですが、企業の投資が減るという問題があります。 外形標準課税を中小企業にも及ぼすのは、参議院選挙を控えてどうでしょう。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第3回】 「包括的租税回避防止規定の規定内容」 公認会計士 佐藤 信祐 3 包括的租税回避防止規定の規定内容 組織再編税制における包括的租税回避防止規定は、法人税法、所得税法、相続税法及び地方税法にて、それぞれ規定されている(法法132の2、所法157④、相法64④、地法72の43④)。そのほかにも、同族会社等の行為計算の否認(法法132、所法157①、相法64①、地法72の43①)、連結納税制度における包括的租税回避防止規定(法法132の3)などが規定されている。 これに対し、消費税法では、このような、同族会社等の行為計算の否認や包括的租税回避防止規定は設けられていない(※1)。 (※1) 八ツ尾順一『租税回避の事例研究』37頁(清文社、六訂版、平成26年)では、「消費税法には、租税回避に対処するために、法人税法132条のような『同族会社の行為計算の否認規定』は存しない。消費税そのものが間接税(伝統的な間接税の定義からすれば、実質的な税の負担者と納税義務者とは異なる税をいうのであるから、納税義務者である事業者は、租税回避を行う必要がないと考える)であるからなのか、消費税では租税回避が行われないと考えるのかは定かではない。」と指摘されている。 以前より、租税回避については、租税法律主義と租税公平主義との間で見解が分かれており、この点につき、松原圭吾教授は、租税法律主義に基づく立場を「当事者間で合理的に選択した法形式を、課税庁の裁量で新たに別の法形式に引き直すことは、憲法30条(いわゆる「納税の義務」)や憲法84条(新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するためには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする)に依拠した租税法律主義に反し、許されないという主張である。」と説明され、租税公平主義に基づく立場を、「憲法14条(いわゆる「法の下の平等」)に由来する課税の公平としての租税平等主義や租税公平主義の要請から、租税回避行為を選択した納税者と他の納税者との公平を期すべく、同一の法形式に引き直すべきであるという主張である。」と説明されていた(※2)。 (※2) 松原圭吾「租税回避行為の否認に関する一考察」税法学553号110頁(平成17年) 多くの学者の方々の論文を拝見すると、租税法律主義を重視する見解が多いという印象を受ける。また、納税者の立場を安定させるためにも、そのように解すべきであると考えられる。 しかしながら、国税庁のシンクタンクである税務大学校の雑誌である『税大論叢』では、租税回避に対して租税公平主義の立場から厳しい対応をすべきであるという内容が多く、ヤフー・IDCF事件の前においても、納税者にとって厳しい判決が下っているものも少なくなかった。 このような中で、筆者が平成21年に上梓した『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務(中央経済社)』では、租税回避に対する否認手法として、以下の分類に基づいて解説を行った(※3)。 (※3) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』22-27頁(平成21年) 当時の解説では、事実認定と法令解釈を重視したものとなっており、税務調査における否認手法についても、(1)書面上の事実関係に対する否認、(2)形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとしての否認、(3)包括的租税回避防止規定の適用に分けたうえで、とりわけ、税務調査で閲覧される可能性のある書類の整備を重視した解説をさせていただいた(※4)。 (※4) 佐藤信祐前掲書(※3)31-33頁 この考え方は、現在でも全く変わるものではなく、包括的租税回避防止規定についてのご相談を受ける際にも、それ以前の事実認定や法令解釈の問題であると思われるものも少なくない。とりわけ、法令解釈においては、文理解釈のみならず、拡張解釈、縮小解釈などの論理解釈もあり得るし、税務訴訟においても、そのような主張を国側が行っている場面も見受けられる(※5)。 (※5) 例えば、大和銀行事件では、課税庁が「納付」の文言に対する縮小解釈を主張していたことから、条文の文言を縮小・拡大解釈することができるか否かという点からも議論になっていたが、平成17年12月19日最高裁判決では、最終的に国側が勝訴したものの、このような縮小解釈を認められなかった。 この点につき、清水一夫教授は、 (清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」、税大論叢59号278頁(平成20年)) と指摘されている。 しかしながら、条文の立法趣旨を勘案することにより、条文の文言を形式的に解釈するのではなく、拡大・縮小解釈すべき場面もあるという考え方もあるため、条文解釈においては、慎重な対応が必要になる。 これに対し、ヤフー・IDCF事件東京地裁判決、東京高裁判決は、包括的租税回避防止規定の中に課税減免規定の限定解釈論を持ち込んだものであるとも言われており(※6)、従来に比べて、制度趣旨を踏まえた解釈が重要になったという印象を受けざるを得ない。 (※6) ヤフー・IDCF事件が東京地裁で争われていた最中に行われた座談会における朝長英樹氏の発言からもそのような意図が推測される(朝長英樹ほか「組織再編成を巡る否認が相次ぐ中、今明かされる『行為計算否認規定(法人税法132条の2)の創設の経緯・目的と解釈』」T&Amaster449号1-12頁、450号16-26頁、451号13-19頁(平成24年)参照)。 しかしながら、本判決が公表される前であっても、①経済合理性の有無、②制度趣旨、③税務調査官の感情論を理解したうえで、包括的租税回避防止規定が適用されるべき事案か否かの検討を行うべきであると解説させていただいており(※7)、租税回避に対する基本的な考え方は、学術的にはともかくとして、実務的にはそれほど変わっていないと考えることもできる。 (※7) 佐藤信祐前掲(※3)35-38頁 そのため、これらの判決が公表された後は、ヤフー・IDCF事件は話題になることは多く、ミーティングでも質問されることが多くなっているものの、組織再編税制に対する実務が変わったという印象は受けない。なぜならば、ストラクチャーの検討段階では、租税法のあるべき論に比べ、かなり保守的な分析をしていた日本企業が多かったことから、実務上は、どの見解を採用したとしても、租税回避には該当しないようなストラクチャーが実行されていたからである。 そのため、筆者が平成21年に上梓した『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務(中央経済社)』では、課税当局への事前相談で租税回避に該当するか否かの回答を得ることが困難であること、それが故に税務専門家としての租税回避に該当するか否かの意見の表明が重要になるということを指摘させていただいたが(※8)、その考え方も基本的には変わっていない。 (※8) 佐藤信祐前掲(※3)35、38-39頁 しかしながら、当時の解説にあるように、ストラクチャー全体を見ながら判定をすることから十分な予算と時間が必要になるということと、答えに幅がある内容であることからオピニオンショッピングに繋がりやすいという点には留意が必要である。 第1回から第3回(本稿)までは、租税回避についての一般的な考え方を解説させていただいたが、前回解説させていただいたように、ヤフー・IDCF事件はドイツの一般的否認規定の影響を受けたものであるとも言われている。しかしながら、ドイツの一般的否認規定の分析だけをしても租税回避に対する研究としては不十分であり、本来であれば、租税回避についての全体的な分析が必要になるであろう。 そのため、まずは次回以降から、同族会社等の行為計算の否認について、その歴史的経緯を探っていく予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例32(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆特定資産の買換えの圧縮記帳(租税特別措置法65条の7) 法人が、特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合又は供する見込みである場合に、買換資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額する等の経理をしたときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる。 なお、長期所有の土地等(所有期間が10年を超える土地、建物、構築物等)に係る譲渡につき、買換えによって取得した資産が土地等である場合には、その面積が300㎡以上であるものに限られる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第19回】 「請負に関する契約書③(機械の売買契約~一の文書とは)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は大型機器販売会社です。 機器(規格品)を販売するにあたり、機器の引渡しには組立据付工事費を請求する場合としない場合があります。 見積書を袋とじにし、契印が押されていますが、この場合、印紙税の取扱いはどうなりますか。 【事例1】 【事例2】 【事例1】は組立据付工事の請負については定めておらず、単なる機器の売買に関する契約書に該当する。【事例2】は据付工事を請負うことに合意しており、第2号文書(請負に関する契約書)に該当する。 [検討1] 一の文書に該当するか 契約見積書には契約当事者双方の署名、押印はなく、各売買契約書に、それぞれ袋とじにされて、契印が押されている。契約当事者双方の署名、押印は売買契約書にされており、契約当事者は、契約見積書の内容を含めたところで合意し、売買契約書において双方署名、押印を行ったとみられる。 したがって、売買契約書、契約見積書は印紙税法上の「一の文書」と認められ、売買契約書が課税文書に該当するか否かについての判断は、売買契約書及び契約見積書に記載されている事項を含めたところで総合的に行うこととなる。 [検討2] 「請負に関する契約書」と「物品の譲渡に関する契約書」のいずれに該当するか 【事例1】のように、売買契約書において「組立据付工事は一切含まない」とあるのは、契約見積書で提示された組立据付工事について、請負うことまでを含めない旨合意した契約書であるため、機器の売買に関する契約書となる。 他方、契約見積書に工事を行う旨の記載があり、【事例2】のように「据付工事を行わない」など、明確に組立据付工事を行わない旨の記載がないものは、工事を請負うことに合意した契約書であり、第2号文書(請負に関する契約書)に該当することとなる。 なお、「請負に関する契約書」と「物品の譲渡に関する契約書」との判別が明確でないものは、契約当事者間の意思が仕事の完成と、物品の譲渡のどちらに重きをおいているかによっても判断することとなる。この場合は大型機器の売買であり、規模からみても家庭用電気器具の取付けのような物品の譲渡に付随する簡単な工事ではない。 組立据付工事が終了して初めて機器の使用ができることから、この売買契約書は、仕事の完成に重きをおいたものである。 ▷ まとめ ◆ 一の文書の意義(基通5) ◆ 請負に関する契約書と物品の譲渡に関する契約書との判別(基通別表1第2号文書2(抜粋)) (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第6回】 「国税関係書類のスキャナ保存(1)」 税理士 袖山 喜久造 前回までは、国税関係帳簿書類に係るデータ保存にあたっての問題点や税務調査への対応等について解説した。今回からは、平成17年の電子帳簿保存法(以下、「電帳法」)の改正で導入された国税関係書類のスキャナ保存について解説する。 1 スキャナ保存制度の要件緩和の経緯 スキャナ保存制度の規制緩和の内容については、【第3回】において概略を解説したが、今回から数回にわたり、国税関係書類のスキャナ保存制度について詳細に解説する。 国税関係書類のスキャナ保存に関する電帳法の規定は、平成17年に施行されたe-文書整備法に基づいて改正され盛り込まれた制度である。しかしながら、国税関係書類のスキャナ保存に係る入力要件や保存要件が厳格であったために、今年で改正法の施行から10年経過したにもかかわらず、承認件数が150件余りと低調であった。このことについては、かねてから経済団体等からの規制緩和要望や、内閣官房の規制改革会議などで民間事業者等の電子化の阻害要因となっていた電帳法のスキャナ保存に関する規定の改正が望まれていたものである。 今後は民間事業者等の電子化の流れを止めることなく推進していくため、一定の統制のとれた環境で作成された国税関係書類のスキャンデータについては、さらに規制緩和が進められていくであろう。 2 スキャナ保存の保存要件の厳格性 なぜ国税関係書類のスキャナ保存の規定が厳格なのか、それは国税関係書類が税務行政の運営上、非常に重要な位置づけとなる証憑であり、その書類の真正性を担保することが必要であったからである。 我が国において収益事業を営めば、一定の期間を区切りその期間の収支について計算を行い税法に基づいて所轄税務署に申告を行うこととなる。法人であれば事業年度単位での申告となる。税務署に提出された申告書は税務当局において必要と判断されれば、国税通則法で規定されている質問検査権に基づいて正しく申告がされているかを確認することになる。これが税務調査である。 税務当局は強い権限をもって、申告書に記載されている内容や日々の取引、決算処理などについての事実認定を行い申告漏れがないかどうかを確認する。その結果、法令に基づいた会計処理や税務処理がされていないことが明確になれば、調査に基づく修正申告書の提出を促されたり、あるいは更正処分といった行政処分が行われるのである。 税務当局が更正処理を行った場合、その処分について不服がある場合には、納税者側には、異議申し立て、不服審査請求や税務訴訟といった救済措置がある。この場合、税務当局側は行政処分を行ったその事実を証明する挙証責任の割合が非常に高い。このために帳簿の備付、保存や書類の保存については紙のものであっても厳格な規程がある。これら帳簿書類が紙でなく電磁的記録であれば、なおさら厳格になる。なぜならば電磁的記録は紙の帳簿書類と比較して容易に改ざんや書き換えが可能であり、改ざん等の後を全く分からなくすることも容易にできるからである。 我が国の申告納税制度は、税務調査により一定程度の税務コンプライアンスを維持しており、この税務調査の根幹をなす帳簿と書類の保存がきちんとされなければ、税務行政の運営に著しく支障が生じるわけである。 このために電帳法第1条では、 と規定されており、納税者等の帳簿書類の保存に係る負担を軽減することを目的とするのであるが、納税義務の適正な履行を確保するため、つまり税務調査に支障を生じる程度のデータの作成や保存は認めていない。データの保存に当たっては、帳簿書類の電磁的記録の真正性の担保のための一定の保存要件等を規定しているのである。 3 e-文書法との関係 平成15年頃、経済団体等から、様々な法律で保存が義務付けられている紙の書類が、民間業務運営の効率化の阻害要因となっているとして、書類の電子保存化について強い要望が行われた。このような状況を踏まえ、民間事業者等の利便性の向上、経済発展に寄与するため、当該事業者等に対して書面の保存が法令上義務付けられている場合について、税務関係書類を含めた原則としてすべての書類に係る電磁的記録による保存等を行うことを可能とするため、e-文書法が平成17年4月に施行された。 e-文書法は、「e-文書通則法」と「e-文書整備法」の2つの法律で構成される。 e-文書通則法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)は、民間事業者等が電磁的記録による保存等をできるようにするための共通事項を定めたものであり、通則法形式の採用により、約250本の法律による保存義務について、法改正せずに電子保存ができるとする法律である。 一方、e-文書整備法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)は、文書の性質上一定の要件を満たすことを担保するために行政庁の承認等特別の手続が必要である旨の規定等、e-文書通則法のみでは手当てが完全でないもの等について、約70本の個別法の一部改正により、所要の規定を整備している。 税務関係書類については、適正公平な課税の確保のため、税務署長の事前承認を要件としており、e-文書整備法において電帳法を改正して措置したのである。 4 スキャナ保存の検討 今年度の電帳法施行規則の改正により、国税関係書類のスキャナ保存に関する要件が緩和された。改正後の保存要件は次表のとおりとなる。 【スキャナ保存要件一覧表(平成27年9月30日以後申請分)】 ※画像をクリックすると別ウィンドウでPDFが開きます (注1) 電帳法施行規則第3条の該当箇所を指します。 なお、丸囲いの数字は「項」を、漢数字は「号」を表します。 (注2) 「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則第3条第6項に規定する国税庁長官が定める書類を定める件(平成17年国税庁告示第4号)」に定める書類が該当します。 (注3) 当該電磁的記録の作成及び保存に関する事務の手続を明らかにした書類(当該事務の責任者が定められているもの)の備付けを行う必要があります。 保存要件等は緩和されているとはいえ、書類のデータの真正性は厳格に確保するべきである。そのためには、入力方法については、ルールを作成し、入力者が誰であってもきちんとデータが保存されることが必要である。なぜならば、入力作業が終了し、一連の入力事務等についての検査が終了すれば、原本は破棄されるからである。 電帳法では青色申告や連結申告の承認要件の1つである国税関係書類の保存の要件を、当該スキャンデータの保存をもって紙の保存に代えているのであり、法定保存期間にわたって整然とした形式で明瞭な状態でこのデータが確認できなくてはならない。当該スキャンデータの保管がなければ、当然これらの優遇制度の承認の取消要件となるので、注意が必要である(もっとも私見であるが、これらのデータがないことだけをもって承認が取り消される運用はされないと思われる)。 このようなスキャナ保存の導入の検討に当たっては、まずどの業務で作成あるいは受領したどの書類を電子化したいのかを明確にする必要がある。申請された書類が紙で保存されていたり、データで保存されたりすることはできないのである。 また、電子化することで社内にどのようなメリットがあるのかを明確に説明できなければ導入に至らないことが多く、まず法的要件を検討する前には「何を申請するか」、「何のメリットがあるか」について検討する必要があろう。 * * * 次回からは、スキャナ保存の法的要件について詳細に解説する予定である。 (了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第6回】 「国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式の見直し」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 5 国外事業者による芸能等の役務提供に係る消費税 (1) 制度の概要 国外事業者が国内において行う芸能・スポーツ等の役務の提供について、その取引に係る納税義務を、役務の提供を行う事業者から役務の提供を受ける事業者に転換することとなった。これは【第4回】4(4)で説明した「リバースチャージ方式」の導入を意味する。当該改正は、平成28年4月1日以後に行われる役務の提供について適用される。 当該制度を図示すると以下のとおりとなる。 【国外事業者による芸能等の役務提供に係るリバースチャージ方式】 国内において特定役務の提供を行う国外事業者は、リバースチャージ方式が適用される国内事業者に対して、その取引がリバースチャージ方式の対象となることを表示しなければならない(消法62)。 なお、特定役務の提供を受けているため、リバースチャージ方式による申告納税義務を負う事業者に関しては、事業者向け電気通信利用役務の提供を受ける場合と同様に、特定課税仕入れがある課税期間の課税売上割合が95%以上である場合には、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとして消費税法の規定を適用することとされている(経過措置、改正法附則42)。 (2) 制度導入の背景 このような税制改正が行われるようになった背景には、会計検査院の指摘(※1)があったものと考えられる。会計検査院は、平成21年から24年までの課税期間に係る外国人スポーツ選手や芸能人ら延べ276人につき、その消費税の課税状況を確認したところ、課税漏れの可能性のある「消費税の確定申告を確認できなかった者」が延べ102人いた。そのうち、基準期間の課税売上高が1,000万円を超すため消費税の納税義務を有する可能性が高い者が延べ30人おり、その中で課税期間に支払われた報酬が確認できた者が延べ20人、その合計額が4億5,716万円であった。 (※1) 会計検査院『平成25年度決算検査報告(第3章第1節第7財務省)「消費税の申告審理等において国内で人的役務の提供等を行った非居住者に係る報酬等支払調書を活用することなどにより、消費税の納税義務のある非居住者を的確に把握して課税を行うよう改善させたもの」』177~181頁。 また、上記延べ102人のうち、基準期間の課税売上高が確認できず納税義務の有無が不明な者が64人おり、その中で課税期間に支払われた報酬が確認できた者が延べ12人、その合計額が5億2,533万円であった。 【会計検査院の調査結果】 (出典) 会計検査院前掲(※1)報告180頁 上記検査結果は、外国人スポーツ選手や芸能人への報酬の支払いに関する消費税の課税漏れがあることを意味するものと考えられるが、それが生じる原因として、会計検査院により、課税庁内部の報酬等支払調書の回付の体制の不備があること等が指摘されていた。 それを受けて課税庁は、課税の実効性をより高めるため、国内の事業者に消費税の納税義務を課す「リバースチャージ方式」の導入に踏み切ったものと考えられる。 (3) 特定役務の提供の意義 今回の改正で、国内において外国人タレント等が行う役務の提供のうち一定のものを「特定役務の提供」と位置付け、当該特定役務の提供を受ける行為(「特定課税仕入れ」)に対して消費税の申告納税義務を課す、前述のいわゆる「リバースチャージ方式」(【第4回】参照)が導入された。 特定役務の提供は、消費税法上、資産の譲渡等のうち、映画もしくは演劇の俳優、音楽家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供を主たる内容とする事業として行う役務の提供のうち、国外事業者が他の事業者に対して行う役務の提供であると定められている(消法2①八の五、消令2の2)。ただし、「電気通信利用役務の提供」に該当するもの、不特定多数の者に対して行う役務の提供は除かれる。 特定役務の提供を行う国外事業者は、法人のみならず個人事業者も含まれるため、例えば、プロテニスプレーヤーが国内の楽天オープンに参加し優勝して賞金を得る場合も、特定役務の提供に該当する。 一方、国外のプロモーターが国内事業者を介さずに国内でコンサートを開催する場合、それは国外のプロモーターが直接不特定多数の者に対して行う役務の提供に該当することから、特定役務の提供に該当しないこととなる。 (4) 特定役務の提供と内外判定 電気通信利用役務の提供とは異なり、特定役務の提供に関しては国内取引の判定基準の改正はなされていない(消法4③二)。そのため、役務提供者が誰であるかにかかわらず、役務提供地が国内である場合には、国内取引に該当することとなる。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第4回】 「遡及立法事件」 ~最判平成23年9月22日(民集65巻6号2756頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)