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改正労働者派遣法への実務対応《派遣先企業編》~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第2回】「期間制限への対応②」

改正労働者派遣法への実務対応 《派遣先企業編》 ~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第2回】 「期間制限への対応②」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【第2回】は前回に続き、期間制限への対応について検討する。   1 過半数代表者の選出 派遣可能期間を延長する場合に必要な手続きである意見聴取は、労働者の過半数で組織する労働組合(以下、過半数労働組合)がない事業所では、労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)を選出し、その者に対して行う必要がある。 (1) 過半数代表者の要件 「過半数代表者」とは、以下①②の2つの要件を満たす者となる。ただし、①に該当する者がいない事業所では、②を満たす者となる。 就業規則の届出に必要な意見を聴取する場合や労使協定を締結する場合等、他の法律においても過半数代表者の選出が必要な場面はいくつかあるが、実務の現場では適切に選出されていないケースが散見される。会社が指名して過半数代表者を決めているケースがその代表的な例である。 意見聴取の当事者となる過半数代表者の選出が適切に行われていない場合は、意見聴取が行われていないものと同視され「労働契約申込みみなし制度」の対象となるため、対応に注意が必要となる。 (2) 留意点 過半数代表者の選出にあたっては、上述した2つの要件を原則満たす必要があるが、以下の点にも留意が必要となる。 ① 従業員の範囲 過半数代表者は、その事業所の従業員の意思に基づいて選出された者だが、選出する従業員は、正社員だけでなく契約社員やアルバイト等の非正社員も対象となる。過半数代表者は正社員だけで選出するものと誤解しているケースもあるようだが、すべての従業員が対象となるため注意が必要だ。また、管理監督者は、原則、過半数代表者になることはできないが、過半数代表者を選出する従業員には含まれる。 ② 民主的な方法 過半数代表者の選出は、選出目的を明示した上で民主的な方法により実施すれば、どの方法を選択してもよい。その方法としては、グループウェアやEメールを活用する方法、投票用紙を用いて選挙を行う方法、また、すべての従業員が集まる会議等で挙手により選出する方法等がある。 事業所の従業員構成やパソコンの活用度等のIT環境等から、どの方法が適しているかを検討の上、選出に必要な書類等の準備を行い、スムーズな実施体制を整えておきたい。 ③ 労働組合がある場合 労働組合がある場合でも、事業所の過半数の従業員が組合員となっていない場合は、その労働組合は事業所の過半数労働組合ではないため、意見聴取を行う対象になり得ない。 よって、アルバイトや契約社員等の非正社員の構成率が高い事業所では、労働組合はあっても過半数労働組合となっていない場合があるため注意が必要となる。この場合は、意見聴取にあたり過半数代表者を選出する必要がある。   2 管理体制 派遣先は、期間制限に抵触しないよう、派遣可能期間を管理する体制を構築する必要がある。要は、労働者派遣法に関する一定の知識を備えた者を責任者として設置し、労働者派遣契約を締結する場合は必ずその責任者が関与する体制とすることで、派遣可能期間を超えて労働者派遣契約が締結されることがないようにする必要がある。 責任者は、会社や事業所の規模により、事業所毎に設置する方法と、人事部門等の本社組織に全社を一括管理する者として設置する方法が考えられるが、派遣可能期間の管理にあたっては労働者派遣法に関する一定の知識が求められるため、人事部門等で一括管理する方法がより確実と思われる。 責任者が関与する体制としては、派遣労働者を受け入れる際の業務フローで当該責任者を承認者として位置づけたり、承認手続きの中で派遣可能期間を記載し確認するフローを設ける等の対応が考えられる。 なお、複数の事業所を本社で一括管理する場合は、「事業所」単位の期間制限の抵触日が事業所毎に異なることがあるため、管理は煩雑となる。これに対しては、派遣可能期間を延長する場合に延長期間の終期を全社で合わせて事業所毎の期間制限の抵触日を統一し、意見聴取の時期を合わせる等の対応が考えられる。   3 対応スケジュール 新しい期間制限の考え方は、平成27年9月30日以降に締結する労働者派遣契約に基づく労働者派遣から対象となるため、どの事業所においても、少なくとも平成30年9月30日までは派遣労働者の受け入れが可能となる。 よって、派遣可能期間を延長する手続きが必要となるのは約3年後となるが、前回確認した通り、手続きは複数のStepにわたることから、一定の時間を要し、また、過半数労働組合がなければ過半数代表者を選出することから始める必要があるため、直前に慌てることがないよう、事業所毎に3年後を見据えたスケジュールを策定し、漏れなく必要な手続きが行われるように準備をしておきたい。 *  *  * 以上、2回にわたり期間制限への対応についてみてきたが、期間制限に違反した場合は「労働契約申込みみなし制度」の対象となるため注意が必要となる。派遣可能期間を延長する手続き等の対応が必要となる時期はまだ先であるものの、手続きを失念することがないようしておきたい。 なお、期間制限を受けない特例の労働者派遣だけを受け入れる場合(無期雇用者や60歳以上の派遣労働者を受け入れる場合等)は、2回にわたり検討した期間制限への対応は不要となる。 (了)

#No. 153(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2016/01/21

養子縁組を使った相続対策と法規制・手続のポイント 【第16回】「孫養子の相続税の節税効果」

養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第16回】 「孫養子の相続税の節税効果」   弁護士・税理士 米倉 裕樹   [1] はじめに 相続、遺贈、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含む)及び配偶者以外の人である場合には、その者の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算され、これを相続税額の2割加算という。2割加算は、上記のような場合において、一世代飛び越すことで相続税の課税を1回分減らすことができることから、その税負担を調整するために設けられた制度である。 被相続人の養子は、一親等の法定血族となることから、相続税額の2割加算の対象とはならない。ただし、被相続人の養子となっている被相続人の孫は、代襲相続人となっている場合を除き(被相続続人の子が相続開始前に死亡したときや相続権を失ったためその孫が代襲して相続人となっている場合を除き)、相続税額の2割加算の対象となる。 そこで、被相続人の孫を養子とすることで、何ら対策を行わない場合と比べて節税効果がどの程度得られるのか、被相続人の孫を養子とするのではなく、被相続人の子の配偶者を養子とする場合と比較しつつ、具体的事例及び数字とともに以下検討する。   [2] 何ら対策を行わない場合 当初の被相続人から孫に至るまで相続がなされた場合、当初の被相続人の相続財産がそれぞれ10億円(赤字)、5億円(黒字)、2億円(青字)であった場合の累計相続税額は以下のとおりである。 なお、前提として、各相続人は法定相続分の割合にて具体的相続分を取得したものとし、各被相続人から取得した相続財産からは相続税の支払分だけが控除され、それ以外には各相続人において費消されておらず、かつ、各相続人の固有の財産は存在しない(加算しない)ものとする。 また、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除、相続時精算課税等は考慮対象外とし、基礎控除額、税率、配偶者の税額軽減等は平成28年1月1日時点での税制を前提とする。 (1) 被相続人の相続時 (2) 子の相続時 (3) 子の配偶者の相続時  (4) 相続税総額 [当初の相続財産10億円]・・・6億2,236万円 [当初の相続財産5億円]・・・2億5,720万円 [当初の相続財産2億円]・・・6,395万円   [3] 被相続人の孫を養子とした場合 次に、被相続人の孫を養子とし、当初の被相続人の相続財産がそれぞれ10億円(赤字)、5億円(黒字)、2億円(青字)であった場合の累計相続税額を算出する。なお、前提事項は[2]と同じであるが、孫を養子とするため、被相続人相続時において孫の相続税額が2割増しとなる。 (1) 被相続人の相続時  (2) 子の相続時  (3) 子の配偶者の相続時  (4) 相続税総額 [当初の相続財産10億円]・・・4億9,870万円 [当初の相続財産5億円]・・・1億8,839万5,000円 [当初の相続財産2億円]・・・3,990万2,500円   [4] 小括 以上のとおり、孫を養子とした場合には、そうでない場合に比べ、被相続人の相続財産が10億円の場合には1億2,366万円、5億円の場合には6,880万5,000円、2億円の場合には2,404万7,500円の節税効果が生じることとなる。 なお、参考までに、以下のとおり、被相続人の孫を養子とするのではなく、被相続人の子の配偶者を養子とする場合との比較検討を行う。 被相続人の兄弟姉妹を養子とすることや、被相続人が親族以外の養子を迎えることも考えられるが、その場合には兄弟姉妹や親族以外の養子の子らに被相続人の相続財産が分散することとなり、被相続人の意図に合致しないため割愛する。   [5] 被相続人の子の配偶者を養子とする場合 被相続人の子の配偶者を養子とし、当初の被相続人の相続財産がそれぞれ10億円(赤字)、5億円(黒字)、2億円(青字)であった場合の累計相続税額は以下のとおりである。 なお、前提事項は[2]と同じであるが、被相続人の相続財産すべてが孫に至るまでに課税される相続税総額を算出するという趣旨からすれば、子の配偶者が被相続人から取得した財産(下記(1))は、子の配偶者の固有財産とせず、その結果、子の配偶者の相続時(下記(3))にその分も加算して孫に相続されることになる。 (1) 被相続人の相続時 (2) 子の相続時 (3) 子の配偶者の相続発生時   (4) 相続税総額 [当初の相続財産10億円]・・・5億9,697万5,000円 [当初の相続財産5億円]・・・2億3,910万8,700円 [当初の相続財産2億円]・・・5,568万2,500円   [6] 総括 以上のとおり、被相続人の孫を養子とする場合が最も節税効果が生じることとなり、かつ、被相続人の相続時という比較的早い段階において孫が相続財産の一部を取得することができる。 なお、被相続人の子の配偶者を養子とした場合には、被相続人の相続財産を子の配偶者が取得した後、子の配偶者の相続が開始するまでに子と離婚してしまうこともあり、その後、再婚、さらには再婚配偶者との間で子をもうけるなどされると、孫の法定相続分が大きく減少するという危険性も存在する。 (了)

#No. 153(掲載号)
#米倉 裕樹
2016/01/21

企業の不正を明らかにする『デジタルフォレンジックス』 【第6回】「デジタルフォレンジックスの現場」~調査編①~

企業の不正を明らかにする 『デジタルフォレンジックス』 【第6回】 「デジタルフォレンジックスの現場」 ~調査編①~   プライスウォーターハウスクーパース株式会社 シニアマネージャー 池田 雄一   1 はじめに 【第4回】および【第5回】で解説したとおり、証拠として収集されたデータは、よほどの理由がない限り現地で調査を行うことはなく、ラボに持ち帰りデジタルフォレンジック調査を行う。 そこで今回からは、前回までの証拠収集編に続き、デジタルフォレンジックの調査編として2回にわたり、実際の調査アプローチや調査に使用されるツールなどについても触れていきたい。   2 案件の性質に合わせる調査アプローチ 「デジタルフォレンジックス」が「コンピュータフォレンジックス」や「モバイルフォレンジックス」などの複数の分野の総称である旨は【第1回】で触れたが、「デジタルフォレンジックス」が適用されるあらゆる調査案件において、そのアプローチは大きく分けて「文系的アプローチ」と「理系的アプローチ」の2種に分類される。 案件の性質によって、「文系的アプローチ」、「理系的アプローチ」のどちらか、または2種のアプローチを織り交ぜた「ハイブリット型アプローチ」がとられる。 (1) 「文系的アプローチ」とは 「文系的アプローチ」と聞くと、完全に理系な調査手法として認識されているであろう「デジタルフォレンジックス」と相反する印象を持つかもしれないが、実際に行われているデジタルフォレンジックス調査には文系的要素も少なからず含まれる。 「文系的アプローチ」とは、その名の通り、コンピュータそのものに関する知識を必要としない調査アプローチである。 具体的には、不正行為の背後で当事者とその関係者などがどのようなコミュニケーションを行っていたのか、どのような文書が作成されシェアされていたかなど、電子データとして保存されているメールや添付されている文書、帳簿などの「内容」の分析に焦点を絞った調査アプローチを指す。 (2) 「理系的アプローチ」とは メールや文書の「内容」に焦点を当てる「文系的アプローチ」に対して、「理系的アプローチ」とは「デジタルフォレンジックス」の真骨頂とも言うべきアプローチであり、「Windowsアーティファクト」と呼ばれるWindows OS上で生成されるあらゆる情報の分析に焦点を絞った調査である。 ここでは、Windows上の各種設定情報などを格納する「レジストリ」と呼ばれるデータベース領域の調査分析や各ファイルが持つタイムスタンプの調査分析などのほか、あらゆるツールを駆使して行われる消去されたデータの復元、暗号化の復号やパスワードの解除などもこれに含まれる。 (3) 「ハイブリッド型アプローチ」とは 「ハイブリッド型アプローチ」とは、「文系的アプローチ」および「理系的アプローチ」を組み合わせたものになる。具体的には「理系的アプローチ」によって復元されたメールや文書などを「文系的アプローチ」によって、その内容の分析を行うものである。 例えば、証拠として収集したスマートフォンから、専用の調査ツールによりコミュニケーションアプリからメッセージの抽出・復元を行い、対象者が誰といつどのような会話をしていたかを分析するのがこのアプローチに該当する。   3 調査に使われるツール 「デジタルフォレンジックス」に使用されるツールは、無料のものから有料のものまで数多く存在するが、業界でスタンダードとなっているツールはそれほど多くない。ツールに関する詳細情報は割愛するが、これらのツールを使用することで消去ファイルの復元や通常のWindows環境では見られない領域の閲覧などが可能になる。 また、1つのコンピュータを深堀するのに使用するツールのほか、「eディスカバリー」で主に利用されるツールは、大量なデータに対して横断検索が可能で、調査チームの複数のメンバーでドキュメントレビューを分担できるほか、特定された重要なドキュメントの共有も容易にできるような仕様となっており、大量のメールやドキュメントを読みこなす必要のある「文系的アプローチ」に使用される代表的なツールである。 「デジタルフォレンジックス」で使用されるハードウェアについては【第4回】および【第5回】で触れたが、実際の調査で使用される主なハードウェアツールは、データ処理能力を高めた非常に強力なワークステーションと「ライトブロッカー」と呼ばれる調査対象のハードディスクに対する書き込みを防止し、調査用のワークステーションに接続するための装置である。 通常のコンピュータでも調査を行うことは可能であるが、対象のデータに対する各種処理にかかる時間を可能な限り減らし効率的に調査を行うために、ワークステーションには軽自動車を1台購入できるほどの費用をかけている。 上記のようなソフトウェアおよびハードウェアのフォレンジックツールを駆使し、短期間で正確な調査結果を出すことが、特に筆者のような民間の専門家には求められている。   4 実際の調査とその流れ 筆者の勤務するような大手会計事務所をバックボーンに持つファームにおいては、必然的に会計要素を含む不正案件の調査依頼が多くなる傾向にある。したがって、不正調査におけるデジタルフォレンジックスでは「理系的アプローチ」よりも「文系的アプローチ」の方が多くなる。 このような調査では、不正会計調査に特化したフォレンジックアカウンタントが不適切な会計処理の背後にある関係者間のコミュニケーションに焦点を当て、メールなどのレビューを行っていく。しかしながら、「理系的アプローチ」をとるか「文系的アプローチ」をとるかに関わらず、証拠データの収集からアプローチを決めるまで共通した準備作業がある。 準備作業については専門家によって多少の差があるものの、まずは専用の調査ツールを利用し、以下3つの作業を行う。 上記の作業を経て、「文系的アプローチ」がとられる場合には、すべてのメールとその添付書類および文書データに対して横断検索が行えるようデータベース化処理を行う。調査対象者が10名程度であればデータベース化処理には数日程度要し、その後案件の内容に応じてキーワード検索、期間の設定などを行った上でレビューを行う。 一方で、情報漏洩に関連する調査案件や電子データの証拠隠滅の有無などを確認する際にとられる「理系的アプローチ」においては、継続して専用の調査ツールを使用し、それまでに接続されたUSBメモリや外付けハードドライブなどの外部記録装置の接続履歴、同時に大量にコピーまたは消去ファイルの有無およびそれらのタイムスタンプの確認などの調査を行う。調査対象がスマートフォンであれば、コミュニケーションアプリなどによるチャット履歴、通話記録、テキストメッセージなどの復元なども行う。 特に「理系的アプローチ」においては、大量なファイルのアクセス日時が同一のものに書き換えられているなどの特定の現象が観察された際、それがユーザーのどのような行為によって発生したのかを「検証(バリデーション)」する作業に多くの時間が費やされることがある。 そのような現象が起こった原因を推測し、テスト環境で実際に実験し、同じ現象が再現できるまであらゆる方法を試すことで、ユーザーがどのような行為を行った結果、そのような現象が発生したかを特定できる。 最後に、上記の調査アプローチにより判明した事実と検証結果を報告書にまとめ調査の完了となる。 次回も引き続きデジタルフォレンジックの調査について、次の点を解説する。 報告書には「事実」のみを記す デジタルフォレンジックス専門家の適性とは セカンドオピニオンが必要な理由 (了)

#No. 153(掲載号)
#池田 雄一
2016/01/21

プロフェッションジャーナル No.152が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年1月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.152を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/01/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第37回】「法人税法にいう『法人』概念(その1)」~株主集合体説について考える~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第37回】 「法人税法にいう『法人』概念(その1)」 ~株主集合体説について考える~   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 我が国の法人税法は、シャウプ勧告に基づく昭和25年の改正以来、法人に対する法理論につき、「株主集合体説」ないし「法人擬制説」の考え方を原則的に採用している。これは、「法人税は所得税の前払いである」という考え方と関係を有する。かような点から、法人税と所得税の間に介在する配当二重課税について、我が国の税制は、最終的な個人株主への配当の段階でその排除を行うという取扱いを採用している。 現行法においては、1個の配当原資に対しては1回の法人税課税しかなされないという前提で配当控除を行うものとしている。すなわち、法人税法23条により、法人株主の段階における受取配当金を原則的に非課税とすることによって(現行法は完全子法人株式等及び関連法人株式等のいずれにも該当しない株式に係るものについては50%のみが益金不算入)、配当が法人間を移転している限り、当初の配当原資に対するもの以外には法人税を課さず、これにより個人株主段階において最終的な二重課税の調整が有効に機能するようにしている。 二重課税の調整方法として、具体的には、①支払配当控除方式(支払配当損金算入方式)、②グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式)、③受取配当控除方式などがあるが、現行法は③の方法を採っている。   1 個人株主と法人との間の配当二重課税排除 (1) 支払配当控除方式 支払配当控除方式とは、法人が、ある年度の所得から株主に配当を支払った場合に、この配当支払相当額を法人税の課税標準から控除することで、未配当の所得部分についてのみ法人税を課税するという方法である。 すなわち、法人形態で稼得した所得のうち、配当として個人株主の手に帰する部分については法人税を一切課税せず、所得税のみを課する、という手法である。 この方法では、個人所得に対する課税が残るので、累進課税の機能は残る。 この支払配当控除方式には、支払配当の全部ではなく、一部のみを損金に算入する方法(支払配当一部控除方式)、あるいは法人税の課税標準たる法人所得のうち、支払配当に充てられた部分について法人税率を軽減する方法(支払配当軽課方式)がある。 支払配当軽課方式を純粋に推し進めれば、①既に法人税が課税された留保利益から配当が支払われたときには、過去に納付された法人税を還付すべきことになるという問題がある。また、②国外の投資家にも自動的に利益を与えてしまうという問題や、③配当性向の如何によって法人の租税負担が異なることとなり、 中立性の観点から好ましくない結果を招来するという問題もある。 ②及び③の理由から、この方式は制度として合理的ではないと論じる有力な学説が展開されている。 (2) グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式) グロスアップ方式とは、法人段階源泉課税方式とも呼ばれるように、法人税をいわば源泉徴収所得税と同様に扱おうとする方式である。 法人税は、個人株主が法人形態で稼得した所得に対する所得税の源泉徴収と観念され、個人株主の得た配当に対して所得税を課税するに当たり、既納付の法人税を他の源泉徴収所得税と同様に扱うものである。 例えば、法人税率を50%とし、100の法人所得に対して、50の法人税がかかったとする。ここでは、法人税法上の所得控除や税額控除がない単純な形を考える。法人税を納付した残りの50が全額1人の個人株主に配当されたとし、その個人株主の得た配当所得に対しては、60%の所得税率の適用があると仮定する。 この場合、グロスアップ方式によれば、配当50は法人税という源泉徴収税差し引き後の手取り額であるから、その個人株主に対する所得税額を計算するに当たっては、源泉徴収税差し引き前の所得、すなわち「配当50+源泉徴収税額(法人税額)50=100」を配当所得として、その個人株主の課税標準に取り込む。このことをグロスアップという。そして、この100という配当所得に所得税率60%を適用して所得税額60が算出される。この60から源泉徴収税額と捉えるべき法人税額50を差し引いた残りの10をその配当に係る納付すべき所得税額とするのである。 このように考えることによって、法人税の負担50と所得税の負担10の計60が法人税と所得税の合計の税額となる。 〈図表1〉 グロスアップ方式の例 株主1人だけの会社の今期の利益が100万円のケース(配当可能利益を全額配当) ※ 法人税+所得税=50万円+10万円=60万円  二重課税が完全に排除されている。 この計算方法はやや複雑ではあるが、論理的であるといえる。すなわち、100%グロスアップ方式の下では、配当に充てた法人所得に関する限り二重課税は完全に排除され、個人事業と法人事業との間の中立性が回復されることになる。 しかしながら、この方式については、留保利益に対する過大負担ないし過少負担が排除されないという問題点が指摘されており、また、そもそもその計算自体の複雑さも大きな問題であるといえよう。 (a) 複雑さの原因-所得控除・税額控除のあるケース さらに、法人税における優遇措置としての所得控除や税額控除を考慮すると、計算方法はより複雑になる。 例えば、法人が稼得した100の法人所得から、20の所得控除がなされるとすれば、100-20の残り80の課税所得に対して、税率50%の法人税が課税される。すなわち、40の総法人税が課されることになる。加えて、さらに税額控除が4とした場合、40-4=36が純法人税となる。したがって、36を納付した残りの64が法人の所得である。 この64全てを1人の個人株主に配当するとしよう。その際に、グロスアップすべき源泉徴収税額に相当する金額は、純法人税36から既に優遇措置を受けた所得控除20を控除した、36-20=16となる。すなわち、課税対象となる個人所得は、64の配当にグロスアップすべき16を加えた80であるから、ここに60%の所得税が課されることによって、暫定的な総所得税(法人税+所得税の合計額)は48になる。 暫定的な総所得税のうち、既に法人税として源泉徴収された税額は36であるとともに、法人税上の税額控除4を受けることができるため、48-(36+4)=8が純所得税として計算されることになる。 (b) 複雑さの原因-100%承継でないケース 上記(a)では、完全統合において所得控除や税額控除の承継割合(所得控除や税額控除を考慮した場合についてまで二重課税排除を完全に行うかどうかという程度)が100%であるケースを考えてきたが、承継割合が100%に満たない場合(所得控除や税額控除についてまで二重課税の排除の完璧さを求めないという施策を採用した場合)などは、ますます計算が複雑となる。例えば、上記のケースで、承継割合が50%であった場合を想定すると次のようになる。 まず、法人の所得計算については変わりない。上記同様、稼得した所得は100、所得控除を引いた課税所得80、それに対する総法人税40、そこから税額控除4を引いた36が純法人税であり、手許に残る法人の所得は64である。 しかし、承継割合が50%の場合、グロスアップされる額が変わってくる。 グロスアップすべき源泉徴収税額に相当する金額は、純法人税36から、既に優遇措置を受けた所得控除20の承継割合50%に当たる10を控除した、36-10=26となる。したがって、課税対象となる個人所得は、64の配当にグロスアップすべき26を加えた90であるから、ここに60%の所得税が課されることによって、暫定的な総所得税(法人税+所得税の合計額)は54になる。 暫定的な総所得税54のうち、既に法人税として源泉徴収された税額は36であるが、法人税上の税額控除4については承継割合が50%であるため2となり、54-(36+2)=16が純所得税として計算されることになる。 このように、承継の程度によって計算は煩雑となり、また、そもそもの統合割合が100%未満の場合、さらに計算は複雑になる(図表2参照)。 〈図表2〉 所得税率60%の納税者に対する統合の程度及び租税優遇の承継の程度別の計算 もっとも、配当額にグロスアップする金額を明示することとすれば、納税者はその都度グロスアップ額を計算する必要はないから、受取配当控除方式に比較してグロスアップ方式が特に複雑であるということにはなりそうにない。 他方で、国際課税との関係において問題点が指摘されている。すなわち、グロスアップ方式の下では、国内の投資家の二重課税は全部又は一部排除されその租税負担は調整されることになるが、国外からの投資家の場合にはその効果が及ばない。そのため、それは、国外からの投資を差別することにもなり得るため、国際的中立性に反する結果を生ずるという問題である。この問題点は決して小さいものではない。 (続く)

#No. 152(掲載号)
#酒井 克彦
2016/01/14

平成27年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「平成27年分の申告から取扱いが変更となるもの①」

平成27年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「平成27年分の申告から取扱いが変更となるもの①」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   -はじめに- 年が明け、今年も確定申告を意識する時期となった。平成27年分の確定申告の受付は、平成28年2月16日(火)から3月15日(火)まで行われる。還付申告は、2月15日(月)以前であっても行うことができる。 なお、e‐Taxを利用する場合には、1月12日(火)の午前8時30分から3月15日(火)の間であれば、メンテナンス時間を除き、24時間申告書を送信することが可能である。 今回から4回シリーズで、「平成27年分の確定申告」に係る実務上の留意点を解説する。 【第1回】と【第2回】は、平成27年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、確定申告実務に影響があると考えられる事項について解説する。 確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。   (1) 最高税率の引上げ 平成27年分以後の所得税について税率の改正が行われ、最高税率が45%(改正前40%)となった(所法89①)。   (2) 公的年金等に係る確定申告不要制度の改正 平成23年分以後、その年中の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、確定申告の必要はないものとされている。 この確定申告不要制度について、平成27年分以後、源泉徴収の対象とならない公的年金等の支給を受けている場合には、制度の適用を受けられないこととなった(所法121③、所基通121-5の2)。 したがって、確定申告を不要とすることができるのは、原則として受給する公的年金等のすべてについて源泉徴収されている場合に限られることとなる。例えば、外国の制度に基づいて国外で支払われる年金など、源泉徴収の対象とならない公的年金等の支給を受けている場合には、金額に関わりなく制度の適用を受けることはできない。 ただし、源泉徴収されない公的年金等であっても所得税法203条の6の規定によるもの(額が少額であるため、源泉徴収を要しない公的年金等)は、今回の改正の対象ではないため、従来通り制度の適用を受けることができる(所法203の6、所令319の13)。 【参考図】 公的年金等に係る申告不要制度の整備(所法121・所基通121-5の2) ※ ケース1~3において、Y年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額はないものとします。 (※) 国税庁ホームページより   (3) ふるさと納税ワンストップ特例制度の創設 平成27年度税制改正では、ふるさと納税をより使いやすくする目的で「ワンストップ特例制度」が創設された。 この改正により、平成27年4月1日以後に行われた寄附について一定の要件を満たす場合には、確定申告をしなくても寄附金控除の適用を受けることができる(地方税法附則7)。 「ワンストップ特例制度」についての詳細は、以下の拙稿をご参照いただきたい。   (4) 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の見直し 相続又は遺贈(以下、相続等という)により取得した資産を、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる(措法39①)。 この取得費加算の特例について、土地等(土地及び土地の上に存する権利)を譲渡した場合の計算方法に見直しが行われた。 見直し前は、相続等により取得した土地等の一部を譲渡した場合であっても、相続等により取得したすべての土地等に対応する相続税額が加算されていた。見直し後は、土地等以外の資産を譲渡したときと同様に、譲渡した土地等に対応する相続税額のみを加算する計算方法となった。 〈取得費に加算する相続税額の計算方法〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 本改正は、平成27年1月1日以後に開始する相続等により取得した土地等を譲渡する場合に適用されるため、平成27年分の確定申告における対応は以下のとおりとなる。 *  *  * 次回は、国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の創設を中心に解説を行う予定である。 (了)

#No. 152(掲載号)
#篠藤 敦子
2016/01/14

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第22回】「不動産の譲渡に関する契約書(土地交換契約書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第22回】 「不動産の譲渡に関する契約書(土地交換契約書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   土地を交換するにあたり、土地交換契約書を作成しようと思います。 等価交換で交換差金は発生しない場合と、等価交換でなく交換差金が発生する場合の印紙税の取扱いはどうなりますか。 【事例1】 【事例2】 【事例3】   【事例1】は記載金額のない第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)に該当し、印紙税額200円となる。【事例2】についても第1号の1文書に該当し、記載金額3,000万円、印紙税額10,000円となる。また、【事例3】についても第1号の1文書に該当し、記載金額5,000万円、印紙税額10,000円となる。   [検討1]  課税物件表に規定する・・・の譲渡に関する契約書とは 譲渡とは、資産、権利その他の財産をその同一性を保持したまま他人に移転させることをいうため、譲渡に対して対価を受けるかどうかは問わない。 したがって、売買契約書、交換契約書、贈与契約書、代物弁済契約書及び法人等に対する現物出資契約書等などの所有権等の権利の移転を内容とする契約書はすべて含まれる(基通13)。 [検討2] 交換を内容とする契約書の記載金額 不動産と不動産の交換の場合の記載金額は以下のとおり(基通23(1))。   ▷ まとめ   ◆ 不動産と動産との交換契約書の記載金額(基通別表1第1号の1文書5) 不動産と動産の交換の場合の記載金額は以下のとおり。 ◆ 土地贈与契約書の記載金額(基通23(1)ホ) 上記の説明のとおり、贈与も譲渡の形態の1つであるため、土地の贈与契約は、第1号の1文書に該当する。 なお、贈与契約は無償契約であることから、贈与契約書に土地の評価額が記載されていたとしても、その評価額は不動産の譲渡の対価ではないため、記載金額には該当しない。 (了)

#No. 152(掲載号)
#山端 美德
2016/01/14

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第9回】「電子取引に係る電磁的記録の保存(1)」

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第9回】 「電子取引に係る電磁的記録の保存(1)」   税理士 袖山 喜久造   【第8回】までは、税法上、備付け・保存が義務付けられている国税関係帳簿書類の電子保存について、電子帳簿保存法で規定された保存要件等を解説してきた。 今回から2回にわたって、同法第10条《電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存》に規定されている電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務の規定について解説する。   1 電子取引を行った場合の新たな規定 法人税法等で規定されている保存すべき国税関係書類については、本連載【第3回】においても解説しているが、取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収証、見積書、その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類で写しのあるものは、その写しを保存することとされている。これらの取引関係書類は「書面」すなわち「紙」のものを前提としている。 紙の書類の受け渡しも行われている一方で、インターネットの爆発的な普及により、取引に関しては、簡易な書類のやり取りのほか受発注情報などもインターネットや電子メール、EDI取引(後述)などを通じ頻繁に行われるようになった。このような流れを受け、平成10年7月に施行された電子帳簿保存法では、EDI取引やインターネット等による電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を義務付けたわけである。 電帳法第10条で規定されている電子取引に係る電磁的記録の保存義務について、正しく理解している税理士や納税者は少ない。電子取引の増加により、昨今の税務調査においても電子取引に係る電磁的記録が事実認定を行う上で重要な調査対象となり、その際に電磁的記録の保存がされていないと問題となるケースが多くなっている。 電帳法第10条では、電子取引を行った場合には当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないとされている。なお、同条但書きでは、当該電磁的記録を書面で出力した場合には紙による保存も認めている。データで保存することができないケースもあることから、紙保存も認めているのである。 ただし、紙保存をする場合には当該取引形態に係るすべての取引情報を紙で保存する必要がある。電子取引による取引情報の電磁的記録については、紙保存のものとデータ保存が混在しないように保存する必要がある。   2 電子取引とは 電帳法第2条第6号では、「電子取引」について次のように定義している。 ここでいう「取引情報」とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項のことを指す。完成された書類を添付するメールのみならず、取引先とやり取りしたメールはほぼすべてが電子取引の対象となる。 IT技術の劇的な進歩により電子取引の形態は年々変化していくと思われるが、電磁的方式により取引情報を授受するのであれば、インターネットを利用しようが電子媒体の授受であろうが、すべてが電子取引とされるのである。 現状における電子取引の例を示すと以下のとおりである。 *   *   * 次回は、電子取引に係る電磁的記録の保存方法に関する要件について解説する。 (了)

#No. 152(掲載号)
#袖山 喜久造
2016/01/14

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第6回】「国税通則法の制定に関する答申」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第6回】 「国税通則法の制定に関する答申」   公認会計士 佐藤 信祐   昭和36年7月に「国税通則法の制定に関する答申」が公表されたが、あまりに批判の多かった内容であるため、一部については将来の検討に委ねたうえで、国税通則法が制定されることになった。 この将来の検討に委ねることとされた事項のひとつとして、「実質課税の原則に関する規定、租税回避の禁止に関する規定及び行為計算の否認に関する宣言規定」が存在しており、現在においても、その内容は理解しておく必要がある。   5 国税通則法の制定に関する答申 昭和36年7月に、税制調査会から公表された「国税通則法の制定に関する答申」(以下「答申」という)においては、実質課税の原則、租税回避行為、行為計算の否認についても記載がされている。その具体的な内容は、論末の《補足資料①》(国税通則法の制定に関する答申抜粋)のとおりであるが、実際の答申には別冊として、「国税通則法の制定に関する答申の説明」(以下「答申の説明」という)が添付されているため、興味のある読者は、実際の答申及び答申の説明を一読されたい。 このうち、実質課税の原則であるが、答申の説明を読む限り、いわゆる実質所得者課税よりもその範囲を広く捉えているように思える。それがゆえに、昭和36年11月に日本税法学会から内閣総理大臣宛て提出された「国税通則法制定に関する意見書」(以下「意見書」という)では、以下のような痛烈な批判がなされている。 そして、租税回避行為についてであるが、答申では、「私法上許された形式を濫用することにより租税負担を不当に回避し又は軽減することは許されるべきではない」としており、答申の説明では、「われわれは、このようなう回行為又は多段階行為により租税負担を軽減回避することを租税回避行為と呼ぶこととする。」としている。 なお、答申を読み進めていくと、「実質課税の原則の一環として、租税回避行為は課税上これを否認することができる旨の規定を国税通則法に設ける」と書かれており、答申の説明を読み比べると、後の時代における「私法上の法律構成による否認論」を思い起こさせるものであるが、「私法上の法律構成による否認論」に比べて、時代が古いせいなのか、租税法律主義をやや軽視しているようにも思えてしまう。さらに、西ドイツにおける租税調整法第6条の議論、アメリカにおける事業目的の検定にも触れられており、「ドイツ租税調整法6条を援用して参考にしながら、何故この部分については、法系を異にするアメリカの判例法を持ち出して来なければならないのか。これでは全くのつぎはぎ細工であり、体系的な研究がなされていないと考えるの外はない。」(※1) といった批判がなされており、この批判は現在でも当てはまるものである。 (※1) 中川一郎「国税通則法答申の批判(三)」税法学130号2頁(昭和36年) しかしながら、答申の説明では、「われわれは、租税回避行為に対処する最後の担保的規定を設けるについては、税法上容認されるべきであると考えられる取引行為までも否認する虞れのないよう配慮するものとし、たとえば、そのような取引行為を採るについて経済上の理由が主たる理由として合理的に認められる場合等には、あえてこれを税法上否認しない旨の注意的規定を設ける必要があると考えた」としており、意見書でも、「納税義務者及び関係人の選択した形成形式または処置が異常であっても、それが節税以外の正当な事由に基づく場合、及び節税が顕著でない場合には、租税回避が成立しないことを明確に規定しておく必要がある。」としている。 このように、事業目的よりも税目的が上位にある場合には、当時の大蔵省主税局(現財務省主税局)ですら、租税回避行為として否認することを想定していなかったことが分かる。また、意見書によれば、節税以外の正当な事由に基づくものであれば、経済人として不自然・不合理であっても、租税回避として考えるべきではないとしていることが分かる。現在では、経済合理性と事業目的と同義に使ってしまいがちではあるが、この用語の使い分けも意識する必要があるのかもしれない。 最後に、行為計算の否認についてであるが、答申及び答申の説明では、行為計算の否認により否認すべきものと事実認定により否認すべきものを明確に区別していないように思われる。これは、50年以上も前の時代のことであるからやむを得ないのかもしれない。なお、意見書では、租税回避についての一般的否認規定の導入に一定の理解を示していることから、その反射として、行為計算の否認についての規定は削除すべきであるとしている。 さらに、意見書では、税務行政の権力主義の排除のために以下の事項を明文化する必要があるとしている。 本稿では、実質課税の原則、租税回避行為、行為計算の否認についてのみ取り上げたが、答申は様々な方面からの批判が多く、結果として、《補足資料②》(国税通則法の制定について抜粋)にあるように、一部については将来の検討に委ねることとされ、実質課税の原則、租税回避行為、行為計算の否認についても、国税通則法には規定されなかった。 50年以上が経過した平成の時代から答申を見てみると、その多くは、事実認定により解決できるものが多いのではないかというのが正直な感想である。課税の公平を図ろうとする課税当局と租税法律主義を守ろうとする租税法学者の見解の相違は現在までも継続しているが、実質課税の原則の名のもとに、恣意的な課税を行うということは、権力主義的なものであり、民主主義国家においては許されるものではないというのは、現在では多くの税務専門家のみならず、課税当局においても同意されているものであろう。 しかしながら、情報化社会、グローバル化社会となった現在では、当時における租税回避の概念を超えるものも出てきており、租税回避の定義を見直す必要があるのかもしれない。それは、答申が公表された後の時代における判例や租税法学者の研究の積み重ねを参考にすべきであろう。 次回以降では、同族会社等の行為計算の否認についての判例の分析を行う予定である。 (了)

#No. 152(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/01/14

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第7回】「ねずみ講事件」~最判平成16年7月13日(集民214号751頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第7回】 「ねずみ講事件」 ~最判平成16年7月13日(集民214号751頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 152(掲載号)
#菊田 雅裕
2016/01/14
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