《速報解説》 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が確定 ~適用時期等に関する公開草案からの変更点に留意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年12月28日、企業会計基準委員会は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)を公表した。これにより、平成27年5月26日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 繰延税金資産の回収可能性に関する取扱いについては、現行、日本公認会計士協会の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という)に基づいて判断しているが、適用指針の適用後は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)に基づいて会計処理することとなる。 適用時期等に関して、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う事項が公開草案から変更されているので、適用に際しては注意が必要と思われる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 公開草案に関する解説は、下記拙稿を参照されたい。 Ⅱ 主な改正内容(会社分類関係) 1 会社分類 監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲しており、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際に、要件に基づき企業を(分類1)から(分類5)に分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することになる(15項、63項)。 (分類1)から(分類5)に係る分類の要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する(16項)。 なお、16項における当該判断は、各分類の要件からの乖離度合を定量的に検討することを意図するものではないと述べられている(65項)。 2 「経常的な利益(損益)」から「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」 監査委員会報告第66号では、(分類2)及び(分類3)を行うに際して、「経常的な利益(損益)」という会計上の利益を用いている。 適用指針は、「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」に基づく要件としている(19項等)。 3 (分類2)におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異 監査委員会報告第66号では、(分類2)に該当する企業においては、スケジューリング不能な将来減算一時差異について、一律に繰延税金資産を計上することができないとする取扱いとなっている。 適用指針は、(分類2)に該当する企業においては、原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産については、回収可能性がないものとしている(21項)。 ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについては、当該将来のいずれかの時点で回収できることを「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとして取り扱われる(21項)。 公開草案では「合理的に説明できる場合」の表現が用いられていたが、適用指針は「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」の表現を用いている(78項、79項。適用指針の他の箇所も同様)。 4 (分類3)における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積可能期間 監査委員会報告第66号では、(分類3)に該当する企業においては、「将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度」とする規定となっている。 適用指針は、(分類3)に該当する企業においては、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとするとしている(24項)。 5 (分類4)に係る分類の要件を満たす企業が(分類2)又は(分類3)に該当する場合の取扱い 監査委員会報告第66号では、「重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等」であっても、「重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が、例えば、事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。」とされている。 適用指針は、過去(3年)又は当期において重要な税務上の欠損金が生じていること等により(分類4)に係る分類の要件を満たす企業においては、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを「企業が合理的な根拠をもって説明するとき」は(分類2)に該当するものとして取り扱い、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを「企業が合理的な根拠をもって説明するとき」は(分類3)に該当するものとして取り扱い、繰延税金資産の回収可能性を判断することとなる(28項、29項)。 Ⅲ 適用時期等 適用時期等は次のとおりである(49項)。 (了) ↓関連記事↓
《速報解説》 通勤手当の非課税限度額、 通勤圏拡大を考慮し「月額15万円」へ引上げ ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 はじめに 平成27年12月16日、与党による平成28年度税制改正大綱が公表された。 以下では、通勤手当の非課税限度額の引上げについて解説を行う。 なお、平成26年10月には、所得税法施行令の一部改正により、交通用具を使用している人に支給する通勤手当の非課税限度額を引上げる改正が行われている。こちらについては下記の速報解説を参照されたい。 【2】 改正の背景 交通機関の発達により時間距離は年々短くなり、最近では新幹線を利用した通勤(※)も珍しくない。一方、通勤手当の非課税限度額は、15年ほど前に現行の10万円に引き上げられて以降、改正が行われていない。 そこで、近年の通勤の実態をふまえ、現行の通勤手当の非課税限度額(10万円)を引き上げる改正が示された。 (※) 新幹線を利用した場合の運賃等は、非課税の通勤手当として扱われている。ただし、グリーン料金はその範囲に含まれない(所基通9-6の3)。 【3】 改正の概要 現行と改正後(大綱)の通勤手当の非課税限度額は、以下のとおりである。大綱では、通勤手当の非課税限度額を、現行の月額10万円から月額15万円に引き上げることが示されている。 当該改正は、平成28年1月1日以後に受けるべき通勤手当について適用される。 年明けすぐからの適用となるため、1月以降の給与計算時には注意が必要となる。 (了)
《速報解説》 住宅の「三世代同居改修工事等」に係る所得税額控除が創設 ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 はじめに 平成27年12月16日、与党による平成28年度税制改正大綱が公表された。 以下では、個人所得課税に係る改正事項のうち、三世代同居に対応した住宅リフォームに係る特例の創設について解説を行う。 【2】 制度創設の背景 少子化の要因には、若い世代が出産と子育てに不安を持っていることや、子育てに係る経済的負担の大きさがあると言われている。 そこで、出産・子育ての不安や負担を軽減し、世代間の助け合いにより安心して子育てができる環境作りを支援する観点から、三世代同居に対応した住宅リフォームに関する税制上の軽減措置が創設された。 新たな制度には、借入金を利用してリフォームを行った場合に適用される住宅借入金等特別控除の仕組みのもの(【3】参照)と、居住の用に供した年分の所得税額から一定の金額を控除する特別税額控除の仕組みのもの(【4】参照)がある。 【3】 借入金を利用している場合に適用される制度(住宅借入金等特別控除) (1) 現行の制度 居住者が、居住の用に供する家屋について借入金を利用して特定の増改築等をし、平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合には、次の2つの制度を選択適用することができる。 また、「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」の適用要件も満たしている場合には、①②に代えて、当該控除を適用することもできる(措法41の19の3)。 (2) 大綱に示された制度の概要 個人が所有する居住用家屋について、一定の三世代同居改修工事を含む増改築等(以下「三世代同居改修工事等」という)をし、当該家屋を平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合を、上記(1)②「特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例」の対象に追加することが示された。 新たな制度について、大綱に示された適用要件等は次のとおりである。なお、①から③に示すもの以外の要件は、現行の住宅の増改築等に係る「住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除」の要件と同様である。 ① 控除額と控除期間 三世代同居改修工事等のために借り入れた住宅借入金等の年末残高(1,000万円を限度)の区分に応じて計算される次の(イ)と(ロ)の合計額を所得税の額から控除する。 控除期間は5年である(最大控除額:5年間で62.5万円)。 (※) 財務省ホームページより ② 「一定の三世代同居改修工事」とは 上記①の算式における「一定の三世代同居改修工事」とは、次の2つの要件を同時に満たす工事をいう。 ③ 借入金の要件 この制度の適用対象となるのは、償還期間が5年以上の住宅借入金等である。 【4】 借入金を利用しない場合にも適用される制度(特別税額控除) (1) 現行の制度 居住者が、居住の用に供する家屋について特定の増改築等をし、平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合には、「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」を適用することができる(措法41の19の3)。 この制度は、借入金の利用がない場合にも適用することができる。 (2) 大綱に示された制度の概要 個人が所有する居住用家屋について、「一定の三世代同居改修工事」をし、当該家屋を平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合を、「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」の適用対象に追加することが示された。 新たな制度について、大綱に示された適用要件等は次のとおりである。 ① 控除額 三世代同居改修工事に係る標準的な工事費用相当額(※)(250万円を限度)の10%相当額がその年分の所得税の額から控除される(最大控除額:25万円)。 (※) 「標準的な工事費用相当額」とは、改修部位ごとに標準的な工事費用の額として定められた金額に当該改修工事を行った箇所数を乗じて計算した金額をいう。 (※) 財務省ホームページより ② 「一定の三世代同居改修工事」とは 上記の「一定の三世代同居改修工事」とは、次の2つの要件を満たす工事をいう。 ③ 制度を適用することができない場合 次の(ア)から(ウ)に該当する場合には、その年分においてこの特別税額控除を適用することはできない。 (了)
《速報解説》 JICPAより「合意された手続業務に関する実務指針」の公開草案が公表 ~保証業務との区分を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年12月22日、日本公認会計士協会は、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が公表している国際関連サービス基準(ISRS)4400「財務情報に関する合意された手続の実施契約」に相当するものであり、監査事務所が実施する合意された手続業務に関する実務上の指針を提供するものである。 意見募集期間は、平成28年1月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 合意された手続業務の特質 合意された手続に関する業務実施者の報告は、手続実施結果を事実に則して報告するだけである。つまり、業務実施者の報告は、手続実施結果から導かれる結論の報告も、保証の提供もしないということである。「合意された手続業務」と「保証業務」は、その性質が異なる(5項、6項)。 実施結果の利用者は、業務実施者から報告された手続実施結果に基づいて、自らの責任で結論を導くこととなる(5項)。 2 合意された手続実施結果報告書の特質 合意された手続実施結果報告書は次の特質を持つ(7項)。 3 要求事項と適用指針 公開草案では、要求事項と適用指針に分けて規定されている。 要求事項は次のとおりである。 また、公開草案では、次の付録が示されている。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成30年4月1日以降に発行する合意された手続実施結果報告書に適用する。 ただし、本実務指針の3項、4項及びすべての要求事項が適用可能である場合には、平成28年4月1日以後に発行する合意された手続実施結果報告書から適用することを妨げない。 (了)
-お知らせ- 2015年下半期(7月~12月)掲載分の目次をアップしました。 2015年下半期(7月~12月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、どうぞご活用下さい(PDFファイル内の文字検索も可能)。 Back Number ページからもご覧いただけます。
2015年12月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.150を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第18回】 「実効税率はどのような経過で引き下げられたか」 税理士 山本 守之 1 実効税率はどのように変わるか 新聞報道各社などから、「日本の税制は誰がどのように決めるのだ」「税制改正の方向を知るためにはどうすればいいのだ」 こんな質問をよく受けます。 例えば、政府が11月26日に開いた「官民対話」での安倍首相と榊原経団連会長の発言は次のように報じられています。 実は「賃上げ・設備投資」をめぐって、経団連は環境整備を条件として、①平成27年を上回る賃金引上げ(平成27年に71兆6,000億円)、②設備投資10兆円増と表明したのです。 その代わりに経団連は、次の9つの要望をしていました。 このような「やりとり」が行われたのは、安倍政権の目指す「経済の好循環」が目詰りを起こしていたからです。 円安で大企業の収益は改善したものの、働く人や中小企業に恩恵が滴り落ちる効果は出てないのです。物価の影響を除いた9月の実質賃金は前年比0.9%増に過ぎず、消費者が実感して受ける食料品など身の回りの物価が1%も上がり、賃金や投資における弱さがデフレの流れを止めかねない危機感があったのです。 こうなると、経済界が、「官民対話」で踏み込んだ目標を示さなければ、税制改正論議での成果が得られない状況にあったのです。 「9つの要望」にはこのような背景があったと読むべきです。 ところで、11月24日(官民対話の前々日)に財務相や自民党税調会長がどのような発言をしていたのかを考えてみましょう。 ここでは、実効税率引下げを否定しているのですが、官邸はどうでしょうか。 結果として平成28年度は実効税率を29.97%に、平成30年度からは29.74%に下げることになったのですが、その背景を探ってみましょう。 2 引下げの背景を考える 実は、菅官房長官は11月下旬に財務・経済産業両省の幹部を首相官邸に呼んで「来年度(平成28年度)から実効税率20%台に下げられる財源を探せ」と指示していたのです。 これに対して財務・経済産業の幹部は「財源が見つからない」と答えたのですが、菅長官は「来年度から絶対やるのだ」と突っぱねていたのです。 実は、平成27年11月24日の経済財政諮問会議における菅氏の発言「16年度に20%台まで引き下げるよう様々な施策を検討すべきだ」はこのような背景があったのです。 菅氏がこのように強気にならざるを得なかったのは、アベノミクスの最大の効果といえる株価が平成27年8月を過ぎてから2万円台から急落し、市場に悲観的な見方が広がっていたからです。 それだけではありません。7月~9月(第2四半期)の実質経済成長率も前期から連続してマイナス成長に落ち込んでおり、平成28年度の参議院選挙を考えると官邸としては経済の上昇措置を取り戻す必要があったのです。 その答えが、法人実効税率の早期引下げです。 しかし、この段階では財務省が外形標準課税の拡充を財源とすることには反対していましたし、経産省も先行減税は賛成でしたが、減税財源として外形標準課税を強化することには反対でした。 このような状況のなかで菅氏が平成28年度から実効税率の引下げを主張したのは、菅氏と榊原経団連会長との水面下における二人三脚があったからです。 3 官邸と財界の二人三脚 菅氏と榊原経団連会長との二人三脚は平成27年の10月下旬からはじまりました。それまで首相の海外出張には常に同行していた今井首相政策秘書官(首相の腹心)を首相の中央アジア歴訪の際に国内に残したのは、官民対話で経団連が賃上げと設備投資に踏み込んだ見通しを示すように調整をする仕事を委ねていたからです。 11月5日の官民対話で首相は経団連に「次回の官民対話では見直しを示してほしい」と注文をしていました。 それが、11月26日官民対話で、榊原会長の「決意表明」で実ったのです。 その「決意」とは、次の2点です。 経団連は上記の2点については決意を示す代わりに「来年度の実効税率20%台実現をぜひお願いしたい」というものです。 その代わり経団連が減税財源として従来は「絶対反対」としていた外形標準課税に同意する方向に傾いたのです。 このため、財務省や経産省もはしごを外され、自民党税制調査会も蚊帳の外となり、事後報告だけとなりました。 「実効税率を平成28年度から20%台に」という税制改正方向は、官邸と経済界主導で進められたのです。 4 主要国の実効税率 主要国の実効税率は次の通りとなります。 (注) 日本は平成30年度で29.74%になる見込みです。 5 実効税率とは何か (1) 従来考えられていた実効税率 平成27年までは、日本の実効税率は次のように推移すると考えられていました。 (出所:財務省資料) 実効税率は次のように計算されます。 これから日本の法人実効税率は次のようになります。 〔法人実効税率〕 税負担は課税ベースに税率を乗じたものですが、実効税率は表面税率を加えただけのものであり、本来の負担額を示したものではありません。 税制調査会でも実効税率による国際比較の限界について「法人の税負担水準は本来税率水準と課税ベースの相乗として決まってくるものであるのに対し、「実効税率」は各国における課税ベースの計算方法の差異を斟酌することなくその一面を示すにとどまることから、個々の産業や企業の税負担水準の国際比較を行う場合の指標としては、自ら限度があることに留意する必要がある。」としています。 例えば、税率を引き下げても、減価償却の方法を定額法に限定して課税ベースを広げれば、償却資産を多く持つ製造業の負担が増加し、サービス業が有利となるだけです。 このような内容を無視した「実効税率」の比較だけで税負担を考えると、次のような問題点が生じます。 2008年のドイツの税制改革では、付加価値税の税率の引上げ(16%→19%税収増200億€)、法人税率の引下げ(25%→15%実効税率38.65%→29.83%税収減50億€)、所得税最高税率の引上げ(42%→45%税収増2,500万€)、となっています。 ただ、ドイツとしては、法人税率の引下げによる税収減を防止するために課税ベースの拡大(営業税の損金算入否認、減価償却は定額法のみ、非課税となっていた株式譲渡益の課税、支払利子の損金算入の制限)を行っています。 わが国の場合は、政治家だけでなく、財務省や学者も「実効税率」だけを論議しているのはなぜでしょうか。 「日本の法人税は高い」というのが常識になっていますが、企業の公的負担は法人所得課税に止まるものではなく、社会保険料の事業主負担も含めた企業負担全体の水準で見れば、わが国の企業の公的負担は、欧米の先進諸国と比較して高いとはいえないのです。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第5回】 「同族会社等の行為計算の否認の歴史②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回解説したように、大正12年に創設された同族会社等の行為計算の否認は、大正15年度に見直しをされただけで、ほとんどそのままの形が維持されてきた。 本稿では、現在の規定とほとんど変わらない形になった昭和25年度税制改正の内容とその具体的な論点について解説を行うこととする。 (5) 昭和25年度税制改正 昭和25年度税制改正は、シャウプ勧告に基づく税制改正の一環であることは言うまでもないが、同族会社等の行為計算の否認についても、「法人税を免れる目的があると認められるものがある場合」と規定されていたものが、論末の《補足資料①》(昭和25年法人税法)にあるように、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」と改正された。 この改正により、租税回避目的の立証が不要になったと説明されることがあるが、前回解説したように、昭和25年度税制改正前であっても、租税回避目的でなされた行為又は計算に対する規定であるものの、租税回避の意思があることの立証は要しないと説明されることがあり、本改正は、規定の明確化を図ったにとどまるという見解も存在する(※1) 。さらに、「従前の表現としては、法人税を免れる目的を有していると認められるという場合であるが、改正された規定によれば、客観的にみて免れる目的はなくとも、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることになれば否認できる」(※2) とする見解もあり、これによれば、昭和25年度税制改正により、同族会社等の行為計算の否認が適用される射程は広くなったと考えることができる。 (※1) 村山泰治「同族会社の行為計算否認規定の沿革からの考察」税大論叢11号252頁(昭和52年) (※2) 武田昌輔編『DHCコンメンタール法人税法』第一法規5540頁 しかしながら、租税回避の意図の立証は困難であることから、その立証までを課税当局に負わせる必要はないというのは立法論としては理解できるが、上記の見解を採用したとしても、租税回避の意図が何ら存在しないことが客観的に明らかであるにもかかわらず、結果として法人税の負担が不当に減少したという理由により、同族会社等の行為計算の否認を適用することができるということまでは意味していないと思われる。この点については、ヤフー・IDCF事件控訴審判決でも、税目的が事業目的よりも上位にあることが包括的租税回避防止規定の適用の根拠のひとつになっているようにも読み取れることから、さらに深い研究が必要になってこよう。 また、そもそも「不当」とはどういう意味なのかについて、現在では、経済合理性基準が有力な見解ではあるものの、ヤフー・IDCF事件、日本IBM事件を受けて、もう一度検討すべきであると考えられる。これらの点についても、いずれ本連載にて検討したいと考えている。 なお、軽微な改正であるが、「課税標準」だけでなく、「欠損金額」についても更正の対象とすることが明らかにされたのも、この時期である。 また、昭和25年には、下記(※3) にあるように、法人税基本通達355に11項目の例示が示されることになったということで、その後の実務においても大きな影響を与えている。なお、本規定は昭和44年に削除されているが、その規定内容は、現在の法人税法の個別規定で対処できるものであり、一般論として、個別規定が整備されればされるほど、同族会社等の行為計算の否認が適用される可能性は少なくなるということがいえる。 (※3) 矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』財経詳報社120頁(平成27年)より抜粋 (6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正 昭和28年度税制改正は、論末の《補足資料②》(昭和28年法人税法)にあるように、個人事業から法人成りをした法人に対する行為計算の否認規定が創設された。 そして、昭和29年度税制改正では、更正の対象として、「課税標準又は欠損金額」だけでなく、「法人税額」も追加された。これは、同族会社等の留保金課税により、課税標準又は欠損金額には影響を与えずに、法人税額にだけ影響を与える場合があることに対応したものであると言われている(※4) 。 (※4) 村山泰治前掲(※1)258頁 また、昭和37年度では国税通則法の規定に対応する形で、論末の《補足資料③》(昭和37年法人税法)にあるように改正がなされ、昭和40年度でも法人税法の全文改正に対応する形で、論末の《補足資料④》(昭和40年法人税法)にあるような改正が行われている。 (7) 平成15年度以降の税制改正 平成15年度税制改正は出資金額の下に「(その内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)」と加えられた。 さらに、平成18年度税制改正では、論末の《補足資料⑤》(平成18年法人税法)にあるように、対応的調整についての整備がなされた。 このように、昭和25年度税制改正により整備された同族会社等の行為計算の否認の規定は、現在の規定とほとんど変わらない規定になっており、その後の改正は、微修正なものに留まっている。 なお、昭和25年度税制改正以降の租税回避に対する課税当局の考え方を理解するためには、結果としては導入されなかったものの、昭和36年度に公表された「国税通則法の制定に関する答申」において検討されていた租税回避防止規定を理解する必要がある。次回では、この内容について解説を行う予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例33(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(租税特別措置法65条の2) 法人の有する資産につき、収用換地等によって補償金等を取得した場合で、買取り等の申し出があった日から6ヶ月以内に譲渡が行われる等、一定の条件を満たすときは、5,000万円と譲渡益の額とのいずれか少ない金額を損金算入することができる。なお、損金算入時期は「収用等のあった日」の属する事業年度とされる。 ◆「収用等のあった日」(法人税基本通達2-1-14) 「収用等のあった日」とは、固定資産の譲渡の場合と同様、資産の引渡しの日であるが、法人が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日の属する事業年度としているときはこれが認められる。 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第8回】 「国税関係書類のスキャナ保存(3)」 税理士 袖山 喜久造 前回は、国税関係書類のスキャナ保存に当たっての法的要件のうち、スキャンデータの真実性の確保として、入力時期とデータへの措置等について解説した。 これまで国税当局は税務調査では紙の書類を確認することが中心であった。今後国税関係書類をデータで保存することが主流となった場合、当該データの真正性の担保をするためには、保存される当該国税関係書類に係るデータは、改ざんされることなく法定保存期間保存されていることが前提である。 それに加え、当該国税関係書類の電子化の入力環境も重要であり、平成27年度の税制改正においては、当該国税関係書類の入力時期の要件や保存要件については規制を緩和したものの、スキャンデータが作成される会社の入力環境については一定程度の内部統制要件として、いわゆる「適正事務処理要件」が新たに追加された。 今回はスキャナ保存制度の法的要件のうち、内部統制に関する要件、スキャンデータの保存に関する要件について解説する。 1 内部統制に関する要件 (1) 関係書類の備付け 規則第3条第5項第7号においては、電帳法第4条第1項及び同2項の国税関係帳簿書類に係る電磁的記録の保存の場合と同様に、国税関係書類をスキャナ保存する場合にも次に掲げる書類の備付けを行うことを規定している。 なお、市販のプログラム等を使用する場合には「①」及び「②」に掲げる書類は必要ない。また、スキャナ入力を他の者に委託している場合には「③」に掲げる書類は必要ない。 (2) 適正事務処理要件 平成27年度の税制改正において新たに盛り込まれたのが「適正事務処理要件」である。 会社の規模が大きければ、領収証等を精算する際には必ず何人かの承認を経て処理がされるが、これらの処理を1人で行う場合には、「正しく入力される」という担保がされないことになる。これを客観的に担保することを法律の要件としたのが適正事務処理要件である。 規則第3条第5項第4号には、申請対象の国税関係書類の作成又は受領から当該国税関係書類に係る記録事項の入力までの各事務について1人で行わない体制、そして入力された記録事項を定期的に検査する体制と、当該結果に不備があった場合の改善する体制が求められている。 2 スキャンデータの保存に関する要件 (1) 相互関連性の確保 規則第3条第5項第5号によれば、スキャナ保存された国税関係書類に係る電磁的記録と関連する国税関係帳簿の間で、相互にその関連性を確認することが必要とされる。この「関連性を確認すること」とは、伝票番号やその他の関連性を有する共通も項目を保持して、帳簿と書類の相互の側から確認することができることをいう。 この要件は現に進行している事業年度の帳簿が作成される途中に満たす必要はなく、事業年度終了後、帳簿作成が終了した時点で満たせばよいこととなっている。 (2) 検索機能の確保 規則第3条第5項第7号においては、スキャナ保存された国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項の検索機能として、以下の機能を確保することが規定されている。 この場合の検索は、承認された国税関係書類の種類別に検索できればよい。 この検索要件を満たすには、検索用のデータの作成や、帳簿との関連性を保持し、帳簿を検索することでデータを特定する方法などが考えられる。導入企業の多くは帳簿のデータを使用して検索要件を満たしているが、この場合には帳簿データが正しく保存されていることが前提となる。 国税関係書類のスキャナ保存については、今後、入力機器等の規制緩和も検討されているが、紙の国税関係書類に代えて保存されるスキャンデータの作成に当たっては、そのデータの真正性の担保をするために統制のとれた環境で作成されることには変わりないのである。 そしてスキャナ保存制度の導入を検討する企業は、これまで解説してきた入力や保存等の要件を自社でゼロから対応したシステムを構築するとなると、費用と時間がかかることになる。このため、法的要件がプログラミングされたシステムを導入することが早道である。ただし、入力に係る手順等が記載された入力フローや事務処理規程等は作成し自社で運用する必要がある。 国税庁ホームページではこれらの規程等のひな形を公開しているので、活用するのもいいだろう。 * * * 次回からは電帳法第10条で規定される電子取引に係る電磁的記録の保存義務について、2回にわたって解説する予定である。 (了)