〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第2回】 「検証プロセスのツボと勘所はこれだ!」 中小企業診断士 西田 純 前回は、フィージビリティスタディ(F/S)とはビジネスにおける「仮説→検証」プロセスである、ということをお伝えしたうえで、仮説作りには外部から得られた「情報」に加えて、担当者がひねり出した「アイディア」が重要であることをお伝えしました。 今回は検証プロセス、すなわち「事前調査→現地調査→フォローアップ」と続く作業に臨むうえで重要なポイントをお伝えしたいと思います。 【F/Sの流れ】(再掲) ▷ 検証とは、仮説の実現性が十分高いことを証明するための裏付け取りのことである F/Sにおいて、最終的には儲かるストーリー建てになっているはずの「仮説」ですが、「検証」プロセスを経ていない段階では、その確度が証明されていない、言わば願望に近い要素が多分に含まれています。 「検証」プロセスでは、事実関係の洗い出しや競争環境の調査、許認可の必要性や適用される規制の確認、潜在するリスクの算定などの作業を通じて、「仮説」に盛り込まれたストーリーが実現性の高いものであることを確認していきます。また、そうでない部分については捨象したり、修正したりすることでストーリーの実現性を担保します。 「検証」プロセスの特徴的な要素は、何と言っても出張などを通じた「現地調査」ですが、これに先立つ「事前調査」を手始めに、段階的に仮説の裏付け取りを進めていくことになります。 出張したところ、最初の仮説作りでは思いもよらなかった規制の存在に遭遇し、シナリオの書き換えを余儀なくされることも珍しくはありません。シナリオが変われば、当然のように数字も変わってきます。「検証」プロセスではこの仮説(数字)と裏付け取りの作業を綿密に行うことによって、シナリオの妥当性を高めてゆくことになります(現地調査を数回にわたって実施することも珍しくありません)。 結果として、新規事業が十分な収益をもたらす可能性が高いことを説明できれば良いのです。これについては「現地調査」が終わった後の「フォローアップ」段階までに収集する追加情報なども合わせて確かめることになります。 ▷ 仮説をはっきりと把握する 調査する段階で、どのような仮説を証明しようとしているのかをしっかり意識してデータ収集を行うべきことは言うまでもありません。ここを間違えると、必要なデータを集められなかった等の理由による再調査などが発生し、コスト・工期の両面から不要な負荷を負うことになります。 民間企業の場合、仮説のまとめ方としては、例えば などのようなパターンがあります。 チームとして共有しやすいまとめ方を使い、調査期間を通じてチーム内で理解にズレが出ないよう仮説を把握することに努めてください。 仮説についての理解がブレると、不要なものを含めてとにかく全てのデータを一式揃えればよいというように、本来は裏付け情報を得るための「手段」であったはずのデータ収集プロセス自体がいつのまにか「目的」と化してしまうといった潜在的な不具合が生じます(手段の目的化) 。そうなると処理する情報の精度が下がり、無駄な処理対象ばかり増えて時間や手間ばかりかかってしまい成果品作りがおろそかになる等、F/Sそのものの質を下げてしまいかねません。 仮説をしっかり把握して、効率的な情報収集・処理が行えるよう心がけてください。 ▷ フォローアップのために 「現地調査」を経て、成果品作りにかかる段階では、入手した情報が十分なのかどうか確認する手続きがあります。これが現地調査後の「フォローアップ」で、現地で聞き漏らした話や集めきれなかった情報を、メールや電話などを頼りに追加的に収集することになります。 通常のF/Sプロジェクトでは、「現地調査」をそう何度も実施できるわけではないので、「事前調査」の段階で調べるべき情報を確認したら「現地調査」においては拾い漏れのない情報収集を心がけることが重要です。「事前調査」の段階で、調査項目のチェックリストなどを作成しておくと良いでしょう。 * * * 次回は「検証しやすい仮説の作り方」として、前回お伝えした仮説作りの具体的な取り組み手順に焦点を当てます。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第19回】 「資金調達支援ノウハウの応用(その1)」 ~経営改善コンサルにも応用~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 前回述べた、事業計画と実績の差異を比較検討し、経営改善につなげる方法は、資金調達時に限らず実施できる。事業計画書は、売上と利益の目標値である。目標と実績を比較検討し、「なぜ目標を達成できなかったのか」、「なぜ目標を達成できたのか」振り返ることで、コツコツと経営改善を進めることができる。 この経営改善の方法を支援することで、税理士は経営コンサルタントとしての役割を果たすことができる。会社との関係を一層密にすることができる。 以下、事業計画書の作成から、経営改善コンサルの流れを説明していく。 事業計画書は期首に作成 一般に、税理士は決算後2ヶ月以内に税務申告書を作成し、社長に報告を行う。その際、決算処理や実績について社長に説明し、翌期の見込みを伺う。小規模企業が事業計画書を作成するタイミングは、この決算報告時=新事業年度期首が良い。本来は、新事業年度が始まる前に作成するのが理想であるけれども、決算申告前は社長も税理士もバタバタしていて余裕のないことが多い。決算後、当期実績を見ながら、翌期事業計画について話し合うのが効率的である。 作り方として、税理士と一緒に年間事業計画書と月次事業計画書を作成するのか、社長がまず一通り作成して、税理士が内容をチェックするのか、相手の要望に合わせて対応する。 事業計画書を作るのが面倒臭い、自分の頭の中にあれば十分というタイプの社長もいる。その場合、筆者はどうするかというと、無理に作らせるようなことはしない。社長自身にその意思がないのに作成しても、結局、活用されずに終わるからである。しかし、その場合でも年間目標売上、利益だけ教えてもらい、筆者の側で勝手に月次事業計画書を作ってしまう。例えば、「前期の1.2倍の売上を目標にしたい」と社長が言ったのであれば、その形の年間事業計画書および月次事業計画書をざっくり作成しておく。社長には特に見せず、売上に関して話をする機会があった時に触れる程度にしておく。社長から「計画数値を参考にしたい」と言われた時にはそれを提供する。 月次事業計画を具体的な行動計画に落とし込む 計画を設定しても、眺めているだけでは、いつまでたっても実現されない。実現するためには、いつ、どこで、だれが、何を、どのように行動するのか、具体的な行動計画を策定する必要がある。金融機関に提出する事業計画書と同様である。具体的な行動計画は、金融機関に対しては事業計画書の説得力を増す効果があり、会社内部に対しては、その実行可能性を高める効果がある。 抽象的な数値計画を作成して、そこで終わってしまう社長は多い。税理士が、さらに突っ込んだ質問を行うことによって、具体的な行動計画の策定を支援できる。 例えば、飲食店がひと月売上目標を100万円に設定したとすると、ひと月25日で1日売上目標は4万円。客単価が1,000円であれば、1日客数目標は40人となる。現在の1日客数実績が30人前後だとすると、10人増やす必要がある。そのためにはどうするのか、新規客を増やすのか、リピート客を増やすのか、新規を増やすには、いつ、誰が、どこで、何を、どのように広告宣伝活動を行うのか。リピートを増やすのであれば、既存客への広告宣伝をどのように具体的に強化するのか、新メニューを開発して飽きがこないようにするのか。メニューを開発するのであれば、いつ、どこで、誰が、何を、どのように開発するのか、計画を立ててもらう。 小売ではなく、法人取引が多い企業の場合だと、年間で最低、何件の新規客を獲得すれば年間売上目標を達成できるのか、これまでの成約率を元にすると、毎月何件の新規営業を行う必要があるのか、いつ、誰が、どこで、何を、どのように営業を行うのか、細かく計画を落とし込んでもらう。営業担当の従業員がいる企業であれば、各人の営業計画、目標が設定されることになるだろう。 月次計画を行動計画に落とし込む中で、計画目標数値が現実的に達成できない、無理な数字だと気付く場合がある。あまりにも現実離れした目標は、それに向けて行動する意欲を削いでしまう。その場合は年間事業計画から見直す。 具体的な行動計画は全て文書化しておく。後日、計画通りに進んでいるのか、進んでいないのかを振り返り、チェックするためである。 毎月の実績集計、月次決算 会社は合計残高試算表を作成して毎月の実績を把握し、月次事業計画及び行動計画と比較する。この流れのとおり、計画と実績を比較検討するには、まず、実績が迅速に、かつ計画と比較できる形で集計されなければならない。 税理士はこの実績集計=月次決算について支援することができる。実績集計および比較検討は翌月10日までに完了するスケジュールが望ましい。それが遅れると経営意思決定も遅れ、機会費用が発生するからである。スケジュールが10日に間に合わない場合、税理士は月次決算迅速化について助言する。現金勘定の廃止や棚卸方法の見直し、概算計上による迅速化、補助科目の整理、会計データの効率的な収集等、経理面の支援を行う。 税理士による記帳代行、実績集計業務は将来、AI、ロボットによる自動化によって消滅するといわれているけれども、現状、会社社長が正確かつ迅速な実績集計をストレス無く行いたいというのであれば、会計の専門家と分担協力するのが効率的である。 筆者の場合、毎月の実績集計は現金主義をベースとし、月末に月次決算整理仕訳を切ることで、発生主義に変換している。具体的な流れは次の通りである。 現金主義情報=現預金の入出金情報は、会社側でエクセルを使って日々作成してもらう。現預金の動きの通りにプラスマイナスするだけなので、複式簿記の知識が無くても作成できる。翌月初に、現金主義によるエクセル出納帳と一緒に、月末時点の売掛金、買掛金、棚卸資産情報を会社から教えてもらう。これらを会計システムに入力して、発生主義による実績とする。 会計知識を持つ人材を有しない小規模零細企業には、この方法が一番分かりやすく、迅速である。社長、会社側としてもエクセル出納帳の作成を通じて入出金の内容を確認できる利点がある。 いわゆるクラウド会計と呼ばれるソフトによって、税理士による実績集計業務は代替されると一時期騒がれていたけれども、そのような状況にはならない。いわゆるクラウド会計では、預金の入出金情報は自動集計されるけれども、現金の入出金情報は集計されないし、発生主義への変換には、どうしても簿記の知識が必要になるからである。 「入出金情報から全自動で帳簿を作れる」という売り込み文句も、絶対に実行不可能であるし、この主張は現金主義から発生主義に発展してきた会計の歴史に反する。会計ソフトと呼べる代物ではなく、単なる預金明細集計ソフトというべきである。 費用収益対応原則の下、会計情報を経営改善に活かしたいと考える小規模零細企業にとっては、会計の専門家と協力した方が効率的である。 計画と実績を比較検討 実績集計の後、会社は計画と実績を比較検討し、それに基づいて経営意思決定を行う。社長や役員、従業員は前月実績を振り返り、計画通りに進んだのか、進まなかったのか、その原因は何か、次の目標に向けてどのように行動すればいいのか、話し合う。 この話し合いの中で、税理士は司会進行役として参加することができる。当事者同士の意見交換を促し、会社としての意思決定がスムーズに行えるように働きかける。司会進行役は慣れないと大変だけれども、ノウハウ本もあるので、機会があれば一度やってみると良い。 「従業員には会計情報を見せたくない」という社長も多いので、その場合は、社長と別途、1対1で振り返りを行っても良い。税理士からの質問に回答することによって考えが整理できるだろうし、報酬を頂いているスポンサー社長に対して存在感を示すことができる。 税理士はあくまで部外者であり、会社経営について考える主体は社長や役員、従業員である。彼らの知恵を引き出す役割に徹するべきである。一歩踏み込んで、具体的な提案をすることは避ける。例えば、「品揃えを見直した方が良い」、「A社に営業に行った方が良い」、「客導線に問題がある」、「席の配置を変えるべきである」等である。事業経験のない会計屋が思いつきで提案しても、全くの的外れであるか、会社側で検討済みである場合がほとんどである。適当な発言は、逆に信用を失うので控える。 議事録という形でメモを残し、次回比較時に進捗を確認 実績と計画の比較検討内容は、毎回、議事録という形で残しておく。計画の進捗状況を把握できるし、いつ、どこで、誰が、何を、どのように行動するのか文書に残しておくことで責任関係が明確になるからである。計画の実行可能性も高まる。税理士が議事録を作成して、社長に提出すれば、ここでも存在感を示すことができる。 議事録は、経営以外の打ち合わせメモとしても利用できる。筆者の場合、会計税務の相談があった場合、それも記入している。自身の備忘記録になるし、社長側も相談内容を放置されない安心感がある。「言った、言わない」トラブルになった場合の防護壁にもなる。 以下繰り返し 上記の流れを毎月、毎年繰り返す。【第1回】で「存在感をアピールしようと毎月訪問してはみても、何を話せば良いか分からない」と悩む税理士は多いという話をした。事業計画書の活用は、その解決策の1つになると思う。迅速な月次決算、計画と実績の比較検討を支援することによって、社長に存在感を示す機会は増える。信頼関係の構築につながる。 * * * 以上、資金調達ノウハウの応用として、事業計画と実績を比較し、経営改善につなげる方法および税理士の関与の仕方について解説した。これは業種や規模に関係なく、すべての会社に導入できる方法である。 しかし、冒頭で述べた通り、社長のタイプは様々であるから、この方法を提案しても全ての会社に受け入れられるとは限らない。業績が順調な会社は反応が薄いだろうし、強烈なワンマン社長にはいくら提案しても無駄である。その場合は、別のサービスを提供することで存在感を示すか、もしくは既存顧客の満足度向上という発想を変える。満足度は現状維持とし、「この顧客との契約は、いつか解除される」という前提で、余力を新規客獲得のための営業活動に集中した方が良いかもしれない。既存顧客の維持のみで会計事務所経営継続を図るのには限界がある。 * * * 次回は、「資金調達支援ノウハウの応用(その2)」として、助成金や補助金申請支援に活用する方法について述べる。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第8話】 「相続時精算課税の税務調査」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「谷垣くん・・・どうだった?」 田中統括官は税務調査から帰ってきた谷垣調査官に声をかけた。 「ええ・・・」 谷垣調査官は黒いカバンを机に置くと、田中統括官の机へ向かった。 「実は、贈与の漏れを発見したのですが・・・」 「贈与の漏れ?」 田中統括官は谷垣調査官の顔を見て尋ねる。 「被相続人は、いくら相続人に贈与していたんだ?」 「・・・1億円です。」 「えっ・・・1億円・・・」田中統括官は、もう一度谷垣調査官の顔を見た。 「はい、1億円です。」 谷垣調査官は大きな声で答えた。 「どんな調査をして発見したんだ?」 田中統括官は疑わしそうな眼差しで谷垣調査官を見ている。 「金庫の中に相続人の昔の預金通帳がありまして・・・それを見ると、被相続人から1億円が振り込まれていたのです。」 谷垣調査官は涼しそうな声で答える。 「・・・昔の通帳?」 田中統括官は首を傾げる。 「ええ、8年前の通帳です。」 谷垣調査官が答える。 「8年前だって?」 田中統括官は哀れむような眼差しで谷垣調査官に質問した。 「君は・・・贈与税の除斥期間を知っているよな?」 「もちろんです。6年でしょう。」 谷垣調査官は不思議そうな顔をして答えた。 「8年前の贈与だったら、課税できないんじゃないのか?」 田中統括官は少し怒りを含んだような声で言う。 「統括官。ご存じのように私は、大山達郎という被相続人の、相続税の税務調査に行っていたのですよ。」 谷垣調査官の声が大きくなる。 「そうか・・・そうだったな。」 田中統括官は大きくうなずいた。 「そして統括官、被相続人の長男は10年前に相続時精算課税制度を適用していたのです。・・・これだけ言えば、私が何を言いたいのか、お分かりですよね。」 谷垣調査官はまわりくどい表現をする。 「もちろんだ。」 田中統括官は、谷垣調査官の言葉にうなずく。 「たとえ8年前の贈与であっても、一旦、相続時精算課税の選択をした場合、相続税の計算において、特定贈与者からの贈与は、相続財産に加算しなければならない・・・」 谷垣調査官は、言葉を続ける。 「これに関しては相続税法の基本通達に明記されていたと思います。」 谷垣調査官はそう言って、ロッカーから通達集を取り出した。 「相続税法基本通達21の15-1ですね。」 谷垣調査官はその通達を読み始めた。 「この通達でも示しているように、相続時精算課税を選択した場合、その後の贈与について、贈与税を課されているかどうかを問わないということですから、たとえ贈与税の申告が洩れていたとしても、相続税で課税されます。」 谷垣調査官の声が、2人しかいない資産課税第三部門に響く。 「・・・まあ、それにしても、谷垣君。1億円の増差金額って、大きいな。」 田中統括官は腕を組んで感心している。 「はあ・・・しかし、この件について、まだご説明していない事項がありまして・・・」 谷垣調査官はチラッと田中統括官を見て言った。 「このケース・・・相続人が5人いまして・・・それで被相続人がそれぞれに2,000万円ずつ贈与していたのです。」 谷垣調査官は少しバツの悪そうな表情になる。 「それがどうしたんだ?」 田中統括官が問いつめる。 「ええ・・・相続人5人のうち相続時精算課税を選択していたのは長男のみで、他の相続人は選択していないのです・・・」 谷垣調査官の声が徐々に小さくなる。 「ということは、2,000万円が相続財産に加算されるということか。それでも増差金額は出るだろう?」 田中統括官の問いに、谷垣調査官は首を横に振った。 「いえ・・・今回の税務調査で申告漏れの贈与財産を発見したのですが・・・同時に、被相続人を債務者とする5,000万円の借用証書を金庫の中で発見してしまって・・・。それで結局は減額更正を行って、税金を返さなければならないという状況でして・・・」 そう言うと谷垣調査官は、申し訳なさそうに頭を垂れた。 (つづく)
《速報解説》 会計士協会、「監査人の独立性チェックリスト」及び 「監査法人監査における監査人の独立性チェックリスト」を改正 ~倫理規則の改正への対応等全般的な見直しを実施~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年4月28日、日本公認会計士協会は、次のチェックリストの改正を公表した。 これらのチェックリストは、基本的に監査人が利用するものであるが、例えば、コーポレートガバナンス・コードの補充原則3-2①では、監査役会が少なくとも対応すべきものとして、「外部会計監査人に求められる独立性と専門性を有しているか否かについての確認」が挙げられていることから、チェックリストは監査役等においても有用と思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 主な改正内容 2 監査人の独立性チェックリストの例示 チェックリストは、[法令編]と[倫理規則編]に分かれて作成されている。 例えば[法令編]では、次の項目について記載されている。 また[倫理規則編]では、例えば次の項目について記載されている。 なお、「監査法人監査における監査人の独立性チェックリスト」は、平成19年の公認会計士法改正により、有限責任監査法人が作成する計算書類について、特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付しなければならないこと(収益の額が一定の基準に達しない場合を除く)とされたことに対応して、実務の参考に資するため、その特別の利害関係に関する施行令及び施行規則の規定をまとめたものである。 (了)
《速報解説》 経済産業省、役員給与課税見直しを受け 『リストリクテッド・ストック導入等の手引』を公表 ~税務・会計・会社法上の取扱いQAや契約書例など示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年4月28日、経済産業省は『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を公表した。 経済産業省は、我が国企業の収益力・「稼ぐ力」の向上や、中長期的な企業価値向上に向け、コーポレートガバナンスの強化に取り組んでおり、その取組みの1つとして、会社役員へのインセンティブ報酬の導入を促進するため、『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を公表するものであり、平成28年度税制改正も踏まえて記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 平成28年度税制改正を踏まえて、次の事項について記載されている。 以下では特徴的な項目について述べる。 1 リストリクテッド・ストック 「リストリクテッド・ストック」とは、一定期間の譲渡制限が付された現物株式を報酬として付与するものである。 当該期間中は株式の譲渡が制限されるため、役員のリテンション効果があり、また、株主目線の経営を促す効果を有すると考えられている。 欧米では、譲渡制限期間中に一定の勤務条件等を付し、条件が満たされない場合に株式が没収される等の設計とすることが一般的とのことである。 2 特定譲渡制限付株式に関する税制改正の概要 平成28年度税制改正において、法人からその法人の役員又は従業員等(以下「役員等」という)にその役員等による役務提供の対価として交付される一定期間の譲渡制限その他の条件が付されている株式(以下「特定譲渡制限付株式」という)について、その役員等における所得税の課税時期は、譲渡制限期間中はその特定譲渡制限付株式の処分ができないこと等に鑑み、その特定譲渡制限付株式の交付日ではなく、譲渡制限解除日とされた。 3 特定譲渡制限付株式に関する会計処理 法人がその役員等に報酬債権を付与し、その役員等からのその報酬債権の現物出資と引換えにその役員等に特定譲渡制限付株式を交付した場合には、その付与した報酬債権相当額を「前払費用等の適当な科目」で資産計上するとともに、現物出資された報酬債権の額を会社法等の規定に基づき「資本金(及び資本準備金)」として計上する。 次の会計処理のイメージが示されている(『手引き』26ページ)。 4 利益連動給与 法人税法上、損金算入となる「利益連動給与(法人税法34条1項3号)」の算定の基礎となる利益の状況を示す指標の範囲について、純粋な利益指標(営業利益、経常利益等)に加え、ROE、ROA等の一定の利益関連指標が含まれることの明確化が行われた(法人税法34条1項3号、法人税法施行令69条8項)。 例えば、営業部門担当役員については営業利益を指標とし、財務部門担当役員についてはROEを指標とする等、役員の職務の内容等に応じて有価証券報告書に記載されている指標を用いて合理的に定められている場合には、役員ごとに指標が異なることを妨げるものではないと解されている(「第2 利益連動給与に関するQ&A」Q2)。 (了)
《速報解説》 会計士協会、実務指針案へのコメント等を受け 『合意された手続業務に関する実務指針』に係るQ&A(公開草案)を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年4月27日、日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会研究報告「専門業務実務指針4400『合意された手続業務に関する実務指針』に係るQ&A」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 Q&A(公開草案)は、同日に日本公認会計士協会が公表した専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(以下「専門実4400」という)を実施する際に理解が必要と思われる事項について、Q&A方式によって解説を提供し、会員の理解を支援するために作成したものである。 意見募集期間は平成28年5月27日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のQ&Aが取り扱われている。 以下では特徴的な項目について述べる。 1 専門実4400の適用対象となる業務(Q2) すべての調査報告業務に専門実4400の適用が強制されるわけではない。 実施結果の利用者のニーズに応じて合意された手続業務を実施したことを記載する報告書を発行する場合には、業務実施者は専門実4400を適用することが求められている。 2 適用対象となる業務の例示(Q3) 専門実4400が適用されることが想定される業務として、例えば、次のものがあげられている。 3 会社の買収に関する調査への適用(Q4) 専門実4400付録1には、会社の買収に関連した合意された手続業務に係る実施結果報告書の文例が記載されている。 付録1は例示であり、会社の買収に関する財務状況の調査(以下「買収調査」という)について、常に合意された手続業務として実施することが求められているわけではない。 買収調査について、合意された手続業務として業務を実施するかどうかは、報告書の利用者のニーズに応じて決定されることになる(専門実4400A1項)。具体的には、専門実4400を適用して合意された手続業務として実施するか、合意された手続業務以外の調査報告業務として実施するかを業務契約において定め、業務を実施することとなる。 任意に行う買収調査において、報告書の利用者から「合意された手続」である旨を記載することが特に求められておらず、また手続やその実施結果について、専門実4400の文例のように詳細かつ具体的な記載ではなく概括的なもので足り、むしろ、業務の実施の過程で気が付いた情報の作成や内部統制等に関する助言等の記載が求められているのであれば、報告書の利用者のニーズに照らして、合意された手続以外の調査報告業務として実施することが考えられると述べられている。 (了)
《速報解説》 「合意された手続業務に関する実務指針」が確定 ~H28.10.1以降発行の合意された手続実施結果報告書からの早期適用も可~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年4月27日、日本公認会計士協会は、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」を公表した。これにより、平成27年12月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 実務指針は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定した、国際関連サービス基準4400「財務情報に対する合意された手続業務」(International Standard on Related Services 4400, Engagements to Perform Agreed-Upon Procedures Regarding Financial Information (Previously ISA 920))を基礎とするものであり、監査事務所が実施する合意された手続業務に関する実務上の指針を提供するものである。 公表に際して、「専門業務実務指針4400『合意された手続に関する実務指針』(公開草案)に対するコメントの概要とその対応」が公表されている。 公開草案へのコメント等を受け、実務の参考に資するため、監査・保証実務委員会研究報告「専門業務実務指針4400『合意された手続業務に関する実務指針』に係るQ&A」(公開草案)が公表されており、平成28年5月27日まで意見募集されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 合意された手続業務の特質 合意された手続に関する業務実施者の報告は、手続実施結果を事実に則して報告するだけである。つまり、業務実施者の報告は、手続実施結果から導かれる結論の報告も、保証の提供もしないということである。「合意された手続業務」と「保証業務」は、その性質が異なる(5項、6項)。 実施結果の利用者は、業務実施者から報告された手続実施結果に基づいて、自らの責任で結論を導くこととなる(5項)。 2 実務指針の対象 実務指針は、以下を対象とする合意された手続業務に対して適用される(2項)。 いずれの場合においても、業務の対象とする情報等は、業務実施者が十分な知識を有し、手続実施結果を事実に則して合理的に識別できるものであることを前提としている(2項)。 業務実施者とは、専門業務(実務指針では合意された手続業務)を実施する者をいい、業務執行責任者又は業務チームの他のメンバー、場合によっては監査事務所を含めて使用される(12項(3))。 3 合意された手続実施結果報告書の特質 合意された手続実施結果報告書は次の特質をもっている(7項)。 4 要求事項と適用指針 実務指針は要求事項と適用指針に分けて規定されている。 要求事項は次のとおりである。 また、実務指針では次の付録が示されている。 Ⅲ 適用時期等 監査・保証実務委員会研究報告第20号「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」(平成21年7月1日付け公表)の「14.合意された手続(Agreed upon procedures)」については、実務指針の適用以後は、実務指針の規定が優先することとなる(常務理事前文)。 (了)
《速報解説》 純資産価額方式に必要な 「評価差額に対する法人税額等相当額の控除割合」、 平成28年4月1日以後の相続等から37%へ Profession Journal編集部 平成28年度税制改正で法人税率が引き下げられたことに伴い、このたび財産評価基本通達の一部改正が公表され、純資産価額方式により取引相場のない株式を評価する際に用いる「評価差額に対する法人税額等相当額」の控除割合を37%(改正前:38%)とする見直しが行われた。 変更後の控除割合は、平成28年4月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用される。 なお、上記の変更に伴い、取引相場のない株式(出資)の評価明細書の様式及び記載方法についても改正が行われている。 - 補 足 - 取引相場のない株式等を評価する場合の純資産価額方式は、次の算式により計算される。 〈算式〉 この場合の「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」は、「相続税評価額による純資産価額」から「帳簿価額による純資産価額」を控除した残額に「法人税(地方法人税を含む)、事業税(地方法人特別税を含む)、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合」として38%を乗じて計算した金額とされていた。 (※) この割合は昨年(平成27年)も改正されており、平成27年の改正前は40%であった。 今年度の税制改正により平成28年4月1日以後開始事業年度から法人税率が23.9%から23.4%へ引き下げられたことで、上記の割合の根拠となる税率が変わることから、今回の通達改正により37%となった。 ※「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」より一部抜粋 (了)
2016年4月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.167を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第22回】 「訴訟のわかれ道~認知症と損益通算」 税理士 山本 守之 はじめに 平成28年2月1日最高裁第3小法廷は、平成19年愛知県大府市の認知症で徘徊中の男性A(当時91歳)が列車にはねられ死亡した事件をめぐりJR東海が家族に720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、介護する家族に賠償責任があるかは「生活状況などを総合して決めるべきだ」とする画期的判断を示しました。 判決の推移は次のようになります。 民法第714条は、責任能力のない人(事例ではA)の損害賠償責任は「監督義務者が負う」としています。しかし、精神上の障害で責任能力がない人の監督義務者は改正前の「保護者」(精神障害者福祉法)や「後見人」(民法)による監督義務者に該当するとはいえません。 次に民法752条では夫婦に同居・協力・扶養の義務があるとしていますが、これは夫婦間相互の義務であり、第三者との関係で、夫婦の一方に何かの義務を課すものではないですから、夫婦の一方が監督義務者とはいえません。 (注) もっとも監督義務ではなくでも、責任能力がない人との関係や日常生活での接触状況に照らして特段の事情が認められる場合は、賠償責任を問えます。 また、「監督義務者」に準ずる立場は、生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ、という基準を示しました。 事例について、これを考えると、妻は当時85歳で要介護1の認定を受け、長男は横浜在住で20年近く同居していなかったことなどから「準ずる立場」にも該当しないとしました。 妻の介護の状況に即した判決といえます。 なお、2人の裁判官(岡部喜代子・大谷剛彦の両裁判官)は、長男は「監督義務者に準じる立場」に当たるが、義務を怠らなかったための責任は免れるとの意見を述べました。 同じ裁判所の判断でも、本稿で取り上げる租税訴訟では、人間の温かみを感じる判決がないのはどうしてでしょうか。 Ⅰ 租税法の遡及適用 1 3つの訴訟 従来、土地建物の譲渡損益とその他の所得の譲渡損益は通算されていましたが、平成16年の税制改正でこれが禁止されたのは、税法の遡及禁止の原則に反するという納税者の主張が次のように否定されたことが問題でした。 2 納税者勝訴の内容をみる 8つの判示(福岡事件第一審、第二審、千葉事件第一審、第二審、最高裁、東京事件第一審、第二審、最高裁)のうち納税者が勝訴したのは福岡地裁の第一審だけで、他はいずれも国側が勝訴となっていますので、まず、納税者勝訴となった福岡地裁の判決を取り上げます。 Ⅱ 福岡事件 福岡事件の第一審は次のように損益通算を禁止した規定は違憲無効であるとしました。 1 違憲の判断 平成16年の税制改正は、平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布、同年4月1日に施行されたものですが、施行前である同年1月6日から3月31日までの土地建物等の譲渡の譲渡損益とその他の所得の損益通算の禁止は「租税法規不遡及禁止の原則」に反します。 2 期間税の理論 1に対して、国側は、所得税は期間税であり、 と主張しました。 この国側主張に対して裁判所では として排斥されました。 3 判示事項の内容 Ⅲ 最高裁(東京事件) 1 取り上げる事案 上述した3つの事件のうち、福岡地裁を除く裁判所では国側が勝訴し、税制改正が遡及立法であるという納税者の主張が否認されたものですが、このうち東京事件の最高裁判決を検討してみましょう。 (注) 東京事件としていますが、国側の処分庁は芦屋税務署長、目黒税務署長、吹田税務署長です。 2 判決の概要 Ⅳ 民間の目からみたコメント 1 福岡事件の内容 問題のきっかけは平成16年の所得税の改正でした。改正内容は、不動産売買で生じた損失とその他の所得の損益通算を禁じたものです。 ところで、福岡事件の原告Xさんは、「平成16年1月以降の譲渡にさかのぼって適用する」という規定が問題で、3月に譲渡損があったXさんは、これを損失として他の所得と通算できないために173万円の税が増加してしまいました。 これに対してXさんは、この措置は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定した憲法84条に違反しているとして、福岡地裁に提訴しました。 この場合、Xさんは母親の介護をしていたので、弁護士もつけずに本人訴訟で「違憲である」と主張しました。 第一審の福岡地裁では、「損益通算の適用を受けられなくなった納税者に適用される限りにおいて租税法規定遡及の原則(憲法84条)に違反し、違憲無効というべきである。」として納税者勝訴としました。 ところが、二審の福岡高裁は「租税法は立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかなく、その裁量的判断を尊重せざるを得ない」として逆転国側勝訴としています。本人訴訟となったAさんは3年間の争いに疲れ果て、上告を断念しました。 2 行政的判断となる理由 税務訴訟となると、裁判官も税務の専門的知識の分かりにくさに困るようです。司法試験でも選択科目として「租税法」を選んで合格したのはわずか6%で、他の科目に比べて少ないのです。 東京地裁の裁判官室の隣には行政調査官室があり、国税庁から出向している調査官3人が裁判官の相談を受けます。納税者と国税庁が争っている事件で裁判官の相談を受ける調査官が国税庁出向というのは納得できるでしょうか。 3 遡及的適用とされる理由 3つの訴訟のいずれも事件を遡及適用でないとした理由は、「所得税は期間税だ」とする国側の主張です。 国側の主張では、所得税は期間税(一定の期間の所得を課税標準とするもの)ですから「1暦年の途中においては納税義務は成立していないので、暦年途中の法改正によってその暦年における所得税の内容を変更する本件改正は、既に成立した納税義務の内容を変更するものではなく、遡及適用に当たらない」というものです。この理論で弁護士や税理士ほど納得してしまうものです。 つまり、所得税は期間税であるから「所得税の納税義務が成立するのはその暦年の終了の時であって、その時点では当該改正法が既に施行されているのであるから、納税義務の成立及びその内容という観点からみれば、当該改正法が遡及して適用されその変更をもたらすものであるということはできない」という理論一見専門家向けでありますが、改正所得税の施行は4月1日なのに3月に譲渡(1月~3月)したものが適用されるのは、まさに遡及適用(違憲)だという素人向けの素直な考え方はできないのでしょうか。 4 税務訴訟にも人間的判断を 本稿の「はじめに」に述べた認知症訴訟の最高裁判決も、専門家向けの考え方では、妻や長男に賠償責任があるとする考え方(現に地裁・高裁ではこの考え方でした)が、最高裁の専門知識によらない素直な素人的な判断力がされました。 税務訴訟にもこのような判断ができないものでしょうか。 (了)