女性会計士の奮闘記 【第35話】 「M子、初めてN男の会社へ」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 〈ノビ(株) 部門別損益表〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〈ノビ(株) 等級別給与 部門別人数集計表〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ◆ワンポントアドバイス◆ 部門別損益計算書では、まず、その月に仕入れたものやサービスを受けたものはすべてその月の原価や経費として“本当の利益”を計算します。 この“本当の利益”が赤字である場合には、部門の売上を伸ばすか、無駄な仕入を減らすか、経費を削減するか、作業効率を上げるか等、いずれかの手を打って黒字化していかなければなりません。 まず、部門別損益計算書で経営状態を「見える化」し、赤字であれば、部門のメンバー全員でその原因を探り、経営を立て直す方法を考えてもらいましょう。 会計事務所の仕事は、「経営の見える化」です。経営を伸ばす知恵は会社内部にあるのです。 (了)
《速報解説》 会計士協会、会社法と金融商品取引法による 開示・監査制度の一元化を提言 ~株主総会の分散化等柔軟な対応を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年11月4日付け(ホームページ掲載日は11月13日)、日本公認会計士協会は、「開示・監査制度の在り方に関する提言-会社法と金融商品取引法における開示・監査制度の一元化に向けての考察-」を公表した。 これは、コーポレートガバナンス・コードの適用や「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会報告書」(経済産業省)における提言内容を踏まえて、会社法と金融商品取引法による開示・監査制度の一元化を提言するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開示・監査制度の一元化をめぐる議論の状況 1 経済産業省 「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会報告書」(経済産業省)では、対話型の株主総会プロセスを実現するための総会日程やその前提となる議決権の基準日の設定を見直す際の考え方や方法、一体的・統合的な企業情報開示の実現に向けた方策等が提言されている。 2 金融審議会 金融審議会では、企業や投資家、関係省庁等を集めた検討の場を設け、会社法、金融商品取引法、証券取引所上場規則等に基づく開示を検証し、重複排除や相互参照の活用、実質的な監査の一元化、株主総会関連の日程の適切な設定等を含め、統合的な開示の在り方について総合的な検討を行い、今年度中に結論を得る予定である。 3 日本公認会計士協会 日本公認会計士協会では、「会社法と金商法に基づく監査制度の一元化」について検討を行ってきており、平成21年5月に「上場会社のコーポレート・ガバナンスとディスクロージャー制度のあり方に関する提言-上場会社の財務情報の信頼性向上のために-」を公表し、提言を行っている。 Ⅲ 提言の概要 日本公認会計士協会は、平成21年5月の提言を踏まえ、改めて会社法と金商法による開示・監査制度の一元化に向けた検討を行い、今回、「開示・監査制度の在り方に関する提言」を公表するものである。 「提言の概要」として、次のことを述べている(1ページ)。 (了)
《速報解説》 東京国税局、「固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例」に関する 文書回答事例を公表 ~異なる種類の資産の取引は「一の資産」に該当せず所基通58-9は適用無し~ 税理士 内山 隆一 東京国税局は平成27年11月6日付けホームページにおいて、文書回答事例「所得税法第58条の適用における土地については交換契約を締結し、建物については売買契約を締結した場合の所得税基本通達58-9の適用について」を公表した。 1 所得税法58条の交換の特例 所得税法58条の交換の特例(以下「交換の特例」という)は、下記の要件をすべて満たす固定資産の交換を行った場合に適用される。 2 本件事前照会の内容 【図1】 甲はA土地を乙に引き渡し、乙からB土地及びC建物を取得する取引について、C建物を交換差金等として取り扱うのか、C建物部分は交換契約とは切り離して単体で売買取引として取り扱うことができるのかという点について、所得税法基本通達58-9を引き合いに出して照会したものである。 3 所得税基本通達58-9の内容 例えば、甲所有の時価が5,000万円の土地と、乙所有の時価が7,000円の土地の交換があった場合において、上記1(3)の判定を行うと下記のとおり交換の特例は適用できないこととなる。 そこで、取引を2つに区分し、乙所有の土地を2つに分筆し、5,000万円部分は等価交換契約とし、2,000万円部分を売買契約とすれば、結果的に5,000万円部分について交換の特例ができるようになってしまう。 【図2】 このように、本来価額要件を満たさない物件についても、取引を区分してしまえば交換の特例がとれてしまうということでは、価額要件そのものの意味がないため、所得税基本通達58-9では、「一の資産」の一部を交換とし、一部を売買としているときは、全体を一の交換取引として取り扱い、売買代金を交換差金等とすることとされている。 4 本件事前照会に対する結論 上記3のとおり、所得税基本通達58-9は、「一の資産」の一部を交換、一部を売買とすることを問題としているものであり、本件事前照会のように、「土地」と「建物」という異なる資産については問題としていないことから、本件取引について所得税基本通達58-9の適用はないと回答されている。 なお、所得税基本通達58-9は、従前は「同種の資産」という表現であったが、下記のような取引を考慮して、昭和56年の通達改正の際に「一の資産」という表現に改められている。 【図3】 甲はA土地を乙に引き渡し、乙からB土地(A土地と等価)及びC土地を取得する取引について、B土地とC土地は「一の資産」ではないため、C土地を交換差金等とする必要はなく、C土地は単体で購入したものとすることができる。 (了)
《速報解説》 「監査委員会監査報告のひな型」 「監査等委員会監査報告のひな型」等が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年11月10日付けで、日本監査役協会は、次のものを公表した。 この結果、現在、次のものが公表されていることになる。 (※) 「監査等委員会設置会社における監査等委員会規則(ひな型)」、「指名委員会等設置会社における監査委員会規則(ひな型)」は公表済みである(ホームページ掲載日平成27年8月4日)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査等委員会関係 「監査等委員会監査報告のひな型」では、「事業報告等に係る監査報告」と「各事業年度に係る計算書類等に係る監査報告」を一体化して作成する形を採用している。 ひな型では、多くの注記と解説がなされているので、それらの記載にも注意が必要である。 Ⅲ 監査委員会関係 「監査委員会監査報告のひな型」では、次の対応を行っている。 ひな型では、多くの注記と解説がなされているので、それらの記載にも注意が必要である。 Ⅳ 「財務報告に係る内部統制報告制度の下での監査報告書記載上の取扱いについて-文例集の作成にあたって-」 文例集では、次の対応を行っている。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会より 「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する 監査役等の実務指針」が公表 ~監査役の重要性高まりを受け品質向上への利用を期待~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年11月10日付けで、日本監査役協会会計委員会は、「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」を公表した。 これは、会社法において、監査役等に会計監査人の選解任権の決定権が付与され、また、コーポレートガバナンス・コードにおいて監査役会が会計監査人の選定及び評価の基準を設けることなどが規定されたことに対応するものである。 なお、会計監査人に関する最近の動向としては、次のようなものがある。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 各項目についてチェックリストの形式で記載されていたり、解説が述べられるなど、実務に役立つように工夫されている。 1 会計監査人の評価基準 会計監査人の評価基準として、次の項目を記載している。 2 会計監査人の選定基準 会計監査人の選定基準として、次の項目を記載している。 3 付録 付録に記載されている「会計監査人の評価基準項目例の時系列表示」(p36~)は、本文に記載されている内容を時系列(監査契約の更新時、期中、期末など)で整理したものである。 また、「監査調書例」(p52~)は、チェックすべき項目と評価結果の形式で整理したものである。 いずれも実務に資するように工夫されている。 (了)
プロフェッションネットワーク主催の税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 2016年1月9日(土)開催のお申込み受付を開始しました! 前回に続き、笹岡氏の著書『平成27年3月改訂 これだけはおさえておきたい 相続税の実務Q&A』が特別割引でご購入いただけるお得なセットお申込みプランがございます! また12月7日(月)開催セミナーのお申込みも承っておりますので、こちらからご覧下さい。 ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《速報解説》 タワーマンションの財産評価通達を改正!? ~通達改正は限界アリ、そして個別事案への対応も困難か Profession Journal編集部 昨今、話題となっている相続税の節税策が、タワーマンションを利用したもの。これに対して、政府税制調査会で問題視する意見が出されるなど、規制を求める動きもみられ通達改正が行われるのではないか、との憶測もあるが、現実的には困難といえそうだ。 〇「タワーマンション節税」とは 区分所有するマンション1室の相続税財産評価は、次のようになる。 つまり、路線価は時価の約80%、固定資産税評価額はおよそ時価の40~60%程度に圧縮されるため、現預金などで保有するよりも評価が格段に低くなる。おまけに低層階に比べて取引価格が高くなる高層階でも、床面積が同じなら評価額は同一となる。 この評価の仕組みを利用し、相続開始前に高層階のマンションを購入。相続開始に伴う評価額は上記の評価方法となるために、まず相続税の節税が可能となり、その後にマンションを売却するというのがタワーマンションの節税スキームだ。 〇国税庁はバブル期以来、問題視 タワーマンション節税策は、このように財産評価基本通達による評価額と売買価格の乖離を利用したものだが、この節税策は最近見られるようになったものではなく、国税庁はバブル期以来、これを問題視していた状況にある。 また、最近はタワーマンションに脚光があたっているが、程度の差こそあれ同様の財産評価方法を採る低層階マンション、また一戸建物件であってもそのメリットは引き出せることになる。 〇通達改正には限界あり 国税庁は、数十年にわたって本節税策を問題視していたにもかかわらず、なぜ通達の改正を行わなかったのだろうか。そこには多くの乗り越えられないハードルが存在するからだ。 ハードルの1つは、税務通達の性格にある。 周知のとおり、同通達は、全国統一的な適用を行うことになるため公平性を担保するわけだが、この節税スキームが有効となるのは首都圏でも一部の局地的な対象物件に限定されること。また、課税サイドでは各事案に対して短時間で評価額を算定できる簡便さと、納税者であっても計算できるシンプルな建付けでなければならない。おまけに評価額は原則的に時価で算出される必要があるが、通達を適用した際に決して上回ることがあってはならないという安全性も考慮される。 もう1つのハードルは、通達改正を行う場合の評価の基準の設定だ。 現行通達は、路線価と固定資産税評価という公的・客観的な指標を基準としているわけだが、これを改正してタワーマンションの各階の部屋に応じた評価額を算定する場合に、簡便な評価方法を構築するために採りえる公的・客観的な基準をどう設定するかは大きな課題だ。 また、タワーマンションの評価方法を改正し、評価の減額幅を縮小させた場合には、前述のとおり全国統一的な取扱いとなる。節税策の対象は値上がりが著しい首都圏などのマンションなどの限定的な地域であるにもかかわらず、取引価格と大きな乖離がない地域の、それも節税を目的としていない納税者に対しても課税強化をもたらす。とすると、納税者の反発は相当に大きなものとなろう。 そして最後に控えるハードルが、パブリックコメントだ。 財産評価基本通達に関するパブリックコメントは他の法令解釈通達に比べて多数の意見が寄せられる傾向にあるため、批判意見に耐えられる完成度が求められる。上記の状況を考えると、通達の発出前に避けては通れないパブリックコメントは、とても大きな障害だ。 〇個別事案への対応も困難 国税庁は個別事案をチェックし、行き過ぎた節税策に対して評価通達総則6項で税務否認を行っていく方針を打ち出している。 例えば、相続の開始が想定されるようなケースで、売買契約能力がないと判断される親がタワーマンションを購入、相続開始後に相続税申告期限を待たずに売却したようなケースでは、税務否認を受けても致し方ないと思われる。 だが、上記のような“みえみえ”な事例は、多くは存在しまい。被相続人が居住した実態があり、また相続人が相続開始後も一定期間保有し、売却したケースでは否認を行う根拠は希薄となろう。 また、事例一つひとつの洗い出しに加えて、タワーマンションの時価の算定を行わなければならないことは、限りある国税職員の労力を考えると大きな困難が伴うと想定される。 「タワーマンションの節税効果は物件の高騰が前提で、現在の高騰はバブルの様相にあり、それが弾けるリスクと隣り合わせにある」との指摘も聞かれる。 本節税策は、相続の開始と売買価格が下落しないことが前提。想定どおりに相続が開始せず、また相続の開始前に値崩れが起これば、評価減額効果のみならず資産価値自体が下がるため、目も当てられない状況となるのはバブル経済の崩壊で経験したのと同じ状況だ。 「所詮、タワーマンション節税ブームは、東京オリンピックまで・・・」これは国税OBのつぶやきだが、いつ値崩れが始まるかもしれないタワーマンションの節税スキームは、税務否認以外にも大きなリスクを抱えていることを認識しておきたい。 (了)
2015年11月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.144を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第35回】 「公正処理基準の形成過程と税務通達(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 税務通達と公正処理基準(承前) 2 公正処理基準と商法(会社法)(承前) 法人税法22条4項は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」ともいう。)に従って、法人所得の金額の計算を行う旨規定している。これは一般に企業会計準拠主義とも呼ばれているが、法人税法において、企業会計の処理として慣習化された基準に従うこととしているのは、私法が慣習法を法源として取り込むことと似ているように思われる。 しかしながら、租税法と商法はその目的を異にするものであるから、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについては疑義があるところである。この点は、この事件〔長銀配当損害賠償事件第一審東京地裁平成17年5月19日判決〕において、原告側から批判的主張が展開されたところでもあるが、東京地裁は、次のように判示し、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについて否定的な立場をとってはいない。 このような判示からは、租税法上の取扱いや実務慣行が何らかの形で商法(会社法)上承認された会計慣行となり得る可能性があることをみてとることができる。 なお、商法(会社法)上承認された会計慣行について、東京地裁は上記のとおり、民法92条における「事実たる慣習」と同義であると判示しているが、そもそもそれらが用語を異にしていることからすれば、商法(会社法)上承認された会計慣行の形成は、民法92条における「事実たる慣習」の形成ほど厳格に解すべきではないようにも思われる。 したがって、一般的に広く会計上のならわしとして相当の時間繰り返し行われている企業会計の処理に関する処理方法があるのであれば、それが商法(会社法)上承認された会計慣行であると認められることは十分に考えられるのであって、その基礎となる広く繰り返し行われてきた処理方法が、租税法上の取扱い、又は税務通達等に沿って行われている租税実務上の処理方法であることも十分にあり得るだろう。 このことは、立法的手当が遅れている課税領域においては、よりその可能性が高まると考えられるところである。 Ⅲ 通達における「課税上の弊害」要件 1 法人税基本通達14-1-2と公正処理基準 ところで、租税法の規定のみではその取扱いが明らかではない点を、税務通達においてカバーしている領域の代表例として、組合課税通達がある。法人税基本通達14-1-2は、次のように通達している。 この取扱いに法律上の根拠があるのか否かについては議論のあるところだが、考えられる法的根拠としては、法人税法22条4項となるだろう。そうであるとすれば、(2)の方法(いわゆる中間方式)及び(3)の方法(いわゆる純額方式)の適用について、通達が「課税上弊害がない限り、これを認める。」としていることは何を意味しているのであろうか。 (注) 類似の組合通達である所得税基本通達36・37共-20《任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の額の計算等》における中間方式及び純額方式の要件には、法人税基本通達14-1-2のような「多額の減価償却費の前倒し計上などの課税上の弊害がない限り」という制限は明記されていない。なお、所得税基本通達を基礎とした課税上の取扱いにつき、法人税基本通達と同様に「課税上の弊害」要件が考慮されるべきとの課税庁の主張が排斥された事例として、第一審東京地裁平成23年2月4日判決(裁判所HP)及び控訴審東京高裁平成23年8月4日判決(裁判所HP)を参照。 組合課税に関しては、法人税法上に「別段の定め」がないため、その取扱いについて税務通達においてカバーしているわけであるが、仮に当該通達に基づく処理方法が公正処理基準に昇華したと認めることができるのであれば、素直にその処理方法に従うことが法人税法22条4項における要請なのであり、「課税上の弊害」の有無などを問うような余地はないように思われる。 上述のとおり、税務通達で定められた処理方法が、広く繰り返し行われることで、商法(会社法)上承認された会計慣行を形成する可能性は否定できないであろう。そして、商法(会社法)上承認された会計慣行となった以上は、それがたとえ、もともと税務通達を基礎としてなされた処理方法であったとしても法人税法22条4項にいう公正処理基準となるのである。 商法(会社法)における会計慣行の基礎となる処理方法の要件に、「課税上の弊害」などという租税法独自の観点からの要件を織り込むことが果たして妥当であろうか。差し当たり、通達が行政先例法として認められるかどうかという論点に触れずに措いたとしても、「課税上の弊害」という租税法独自の観点を予め含めた通達の処理基準が、結果的に法人税法22条4項にいう公正処理基準となることには疑問を抱かざるを得ないのである。 〔通達が公正処理基準になるまで〕 2 「課税上の弊害」 上記通達にいう「課税上の弊害」の意味するところはいかなるものであろうか。 適正公平な課税の実現に何らかの弊害がある場合という意味であろうか、あるいは、租税負担の軽減を図るおそれがある場合をいうのであろうか。前者の場合、仮に租税負担が本来よりも重くなる場合(換言すれば、国がより多くの租税を徴収できることとなる場合)であっても、「課税上の弊害」となるのに対して、後者は租税負担が軽減される場合(国からしてみれば、租税の徴収が減少又はできなくなる場合)のみ「課税上の弊害」に該当することになる。これらの捉え方の違いは極めて大きな意味を有すると思われる。 〔2つの「課税上の弊害」の意味〕 仮に、前者の捉え方が妥当であるとすると、そもそも、組合課税通達(2)の中間方式を採用すると、各組合員は、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用を受けられなくなり、また、(3)の純額方式を採用すれば、各組合員は、受取配当等の益金不算入、所得税額の控除、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用はないことになるのであるから、納税者の負担は増え、大いに「課税上の弊害」があるといえそうである。 このように考えると、通達の取扱いそのものが既に「課税上の弊害」を内包していることになり、自己矛盾を起こしているということになる。 したがって、この通達にいう「課税上の弊害」とは、「多額の減価償却費の前倒し計上などの」と前置きされているように、租税の負担を軽減させるような課税逃れ的な意味内容を持ったもの、すなわち後者の考え方と捉えるべきなのであろう。 こうした、課税逃れ対策という課税庁側の思惑が予め織り込まれた通達に基づいた実務上の処理が慣行として定着し、商法(会社法)上の「一般に公正妥当と認められる(企業)会計の慣行」となり、結果的に、法人税法22条4項にいう公正処理基準とされる可能性があることは極めて深刻な問題だと思えてならないのである。 そもそも、前述の興銀事件控訴審東京高裁平成14年3月14日判決が、適正公平な課税の実現という目的を織り込んだかたちで法人税法22条4項を理解しようとする態度に出ていることに対しては批判の強いところである。同法22条4項の解釈についてそれが許容されると、法人税法上、「別段の定め」のない場合であっても、企業会計と異なる処理を同法22条4項により強制することを正面から認めることにもなり、法人税法の基本構造を無視したものになってしまうし、ひいては租税法律主義に反する可能性さえ否定できないのではないだろうか(中里実「貸倒処理一時価主義の下の資産評価」税研104号42頁)。 このような批判とここで取り上げた通達課税などの問題点を併せ考えると、公正処理基準を通して、組合課税通達が法人税法上の「別段の定め」のような機能を果たすことになり、租税法律主義にいう課税要件法定主義を脅かすことにもなりかねないように思われるのである。 (続く)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第2回】 「租税回避の定義」 公認会計士 佐藤 信祐 包括的租税回避防止規定は、租税回避行為を行った場合についてのみ適用されるものであるため、まずは、租税回避の定義を明らかにしていく必要がある。 とりわけ、近年では、租税回避の定義についても争いが生じるようになっているため、本稿では、それぞれの考え方を明らかにしていきたいと思う。 2 租税回避の定義 租税回避の定義は論者によって様々な定義がなされているが、ヤフー・IDCF事件以前においては、金子宏教授の という定義が通説であったといえる。すなわち、「税負担の減少」と「通常用いられない法形式の選択」という2つの点が大きな要素となる。 (※1) 金子宏『租税法』121-122頁(弘文堂、第19版、平成26年) なお、私見ではあるが、「通常用いられない法形式の選択」については、達成しようとする経済的成果に合理的な理由がない場合だけでなく、達成しようとする経済的成果に合理的な理由があるものの当該経済的成果を達成するために選択する法形式に合理的な理由がない場合も含まれるべきであると考えられる(※2)。 (※2) この点につき、太田洋弁護士は、「いかなる場合に『正当な事業目的』が存在すると解すべきかについては、組織再編によって企図されている事業目的を達成するためには複数の手法があり得ることに鑑みると、ⅰ)組織再編を行うこと自体についての正当な事業目的(経済合理性)が存在することだけでなく、ⅱ)他の代替的なスキームではなく当事者が選択した組織再編のスキームを用いることが、特に異常であるとはいえず、また、課税関係以外の点において不合理であるともいえないことまで必要と解するのが適切であるかも知れない」(太田洋・伊藤剛志『企業取引と税務否認の実務』大蔵財務協会46-47頁(平成27年))と解説されている。 また、租税回避と区別すべきものとして節税と脱税がある。すなわち、 と解説されている。 (※3) 金子宏前掲(※1)123頁 これに対し、今村隆教授は、前述の金子宏教授による租税回避の定義に対して、①意図した経済目的がなく、減免規定の充足により、専ら税負担の減少を図る場合が含まれていない、②「通常用いられる法形式」といっても、何が「通常」であるのか断定するのが困難な状況となっており、この基準は限界にきているのではないか、③租税回避は、そもそも「租税法規の濫用」であり、そうすると租税法規の解釈のあり方すなわち租税法規の文言解釈を堅持すべきとする立場を採るか、租税法規の趣旨・目的を考慮してこれに即して解釈すべきとする目的論的解釈をすべきとする立場を採るかの対立でもあることが見失われているのではないかと批判されていた(※4)。 (※4) 今村隆「租税回避とは何か」税務大学校論叢40周年記念論文集13-14頁(平成20年) そして、租税回避の本質を「租税法規の要件を定める規定の文言には形式的には反しないが、当該租税法規の趣旨・目的に反する」(※5)としたうえで、「租税法規の要件を定める規定」には課税根拠規定と課税減免規定の2つがあることから、この2つに分けて検討した結果として、 とされた。 (※5) 今村隆前掲(※4)54頁 (※6) 今村隆前掲(※4)55頁 そのうえで、具体的な租税回避の定義を とされた。 (※7) 今村隆前掲(※4)57頁 このように、租税回避の定義を、経済合理性の有無で判定するのか、租税法規の趣旨・目的に反するか否かで判定するのかという点は従来からも争いがあったが、今村隆教授の解釈を採用したとしても、事業目的よりも税目的が上位にあることが前提となっている。さらに、経済合理性の有無で判定するといっても、少なくとも、実務上は、経済合理性の有無についても組織再編税制の制度趣旨を踏まえたうえで検討する必要があると考えられており(※8)、さらに、条文解釈についても、制度の趣旨・目的、沿革や他の法令との関係、結論の妥当性を踏まえて検討する必要があったことから(※9)、実際に両者の定義の違いによる影響を受けるケースはそれほど多くはないと考えられる(※10)。 (※8) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』中央経済社35-38頁(平成21年) (※9) 伊藤義一『税法の読み方 判例の見方(改訂新版)』TKC出版67頁(平成19年) (※10) そもそも、ほとんどの事案が税務訴訟に至らないことから、税務訴訟に至っている時点で特殊事案であると言えなくもないからである。 しかしながら、税務訴訟の現場では、少なからず影響を受ける場面が存在し、従前の解釈論では、租税回避を行う納税者に対する対応という意味でも、租税回避を意図しない納税者に対する保護という意味でも不十分であるとも考えられる。そのため、平成19年から平成21年にかけて、朝長英樹氏が代表理事を務める日本税制研究所の国税通則検討委員会において、租税回避否認規定の提案について検討がなされており、酒井克彦教授により、 と述べられていた。また、ヤフー・IDCF事件における朝長英樹氏の鑑定意見書は、租税回避の定義を租税法規の「濫用」や「潜脱」と捉えており、ドイツの一般的否認規定の影響を受けているのではないかという印象を受ける。しかしながら、酒井克彦教授が述べられたのは立法論であり、解釈論として、現在の法制度の下でどこまで租税回避の定義を広げてよいのかという点は慎重な検討が必要となる。 (※11) 酒井克彦「租税回避否認規定の提案と問題点(1)」税大ジャーナル9号2頁(平成20年) (了)