税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第7回】 「具体的な資金調達支援の流れ(その4)」 ~社長の理解を助けて存在感を出す~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 金融機関側に提出する書類は、事業計画書、資金繰り表、決算書、定款、その他登記簿謄本等である。このうち計数関係の資料作成について、税理士は支援できると前回説明した。その次に行う支援は、書類全体の整合性チェックである。作成者である会社、社長とは別の者によるチェックの方が、矛盾点等を発見しやすい。そこで、税理士がチェックを行う。今回はこの点を解説していく。 1 提出書類全体の整合性をチェックする 整合性チェックで判明する矛盾点とは、例えば、事業計画書の文章部分で、「人材採用を予定している」と記述しているのに、計数部分で人件費の増加が反映されていない、「月の中旬から新事業開始」とあるのに、初月の新事業売上高が1ヶ月分計上されている、新たに発生する経費項目が、事業計画書に表示されていない等である。 矛盾点や問題点があると事業計画書の信用が低下し、それを元に作成した資金繰り表の信用も低下する。社長や会社全体の信用にも影響し、融資判断にマイナスとなる。税理士による整合性チェックは重要である。 チェックは、書類全体を最初から最後まで、何度も目を通すことによって行う。「事業計画書の文章面と計数面に矛盾点はないか」逆に「計数面と見比べて追加すべき文章はないか」チェックする。気付いた点をその都度、社長に質問する。質問と回答を繰り返すことによって社長の理解は深まるし、修正する度に事業計画書の精度は高まる。融資交渉面談の対策になる。 書類全体の整合性チェックが一通り終わったら、準備は完了である。社長は、それらを持参して金融機関へ正式に申し込む。申し込み時は、基本的に書類の受け渡しだけである。内容に関する詳しい質問は、後日、交渉面談時に行われる。 2 手の込んだ資料やプレゼンは必要ない 交渉面談の際、プレゼンテーション(以下プレゼン)した方が有利なのか、面談までに別途、パワーポイントを使って事業計画書を作成した方が良いのか、質問を受けることがある。筆者のこれまでの経験でいえば不要である。パワーポイントを使ってプレゼンした社長は1人もいない。 また、「パワーポイントを使った事業計画書の方が、金融機関の印象は良い」という話を耳にすることがあるけれども、実際は関係なく、むしろ逆効果になることが多い。パワーポイント資料は、1枚1枚の情報の質が落ち、枚数が無駄に増える傾向にある。読み手である金融機関に負担をかけるし、事業の全体像がかえって見づらくなる。 金融機関は図を多用した色鮮やかな資料よりも、簡潔な文書を好む。筆者はいつもワード及びエクセルで作成している。図示した方が分かりやすい、という場合にのみ、パワーポイントを用いている。 3 融資交渉面談までの期間も重要な準備時間 申し込みから1週間前後で融資交渉面談となる。面談までの期間、社長は不安になる。事業計画書や資金繰り表を何度も見返すうちに「こんなことを聞かれたらどうしようか」、「どんな風に回答すれば良いか」心配になる。社長から相談を受けたら、税理士は回答案を具体的に示し、不安を解消するよう努める。「私だったら、このように回答します」というレベルで良い。上手く解消できれば、税理士の評価及び存在感は高まる。 回答案を直ちに示せない場合でも、社長の話を聞き、一緒に悩むという姿勢は重要である。姿勢を見せずに「分からない」、「社長ご自身で考えてください」という態度を取ると、信用を失う。「相手を納得させる回答が必要だと思います」という、会計士にありがちな「回答になっていない回答」も同様である。 * * * 以上、書類全体の整合性チェックについて税理士が果たす役割を説明した。チェックを通して事業計画書に対する社長の理解を助けることができる。正式に融資を申し込んだ後、交渉面談まで、社長は不安になることが多い。税理士は相談に乗り、不安を和らげるという支援ができる。存在感を示して信用を得る、良い機会である。 次回は、融資交渉面談時の支援について述べる。 (了)
パフォーマンス・シェア(Performance Share)と リストリクテッド・ストック(Restricted Stock) ~経済産業省報告書で示された「2つの新しい株式報酬」~ 【第3回】 (最終回) 「導入への課題と今後の動向」 弁護士・公認会計士 中野 竹司 本連載の最終回となる今回は、本稿公開時点におけるわが国法制下において、パフォーマンス・シェアとリストリクテッド・ストックを自社へ導入した場合の問題点について整理・紹介したい。 1 法律上の問題点 わが国の会社法上、役員に対して自社株式を無償で発行したり、役員から労務出資を受けることはできないとされていることから、株式型報酬は、株式取得目的のために役員に対して金銭報酬を支給し、当該金銭を原資として株式を取得するという形式をとる。このため、役員報酬の決議の枠内で支給する必要がある。 そこで、株式取得目的の報酬プランとして「役員持株会」が用いられるが、支給額に関しては、インサイダー取引規制との関係で、原則として役員の1ヶ月あたりの拠出額を「100万円未満」とする必要がある(金融商品取引法166条6項12号、取引規制府令59条1項4号)など制約が多く、柔軟な設計は困難である。 こうしたことから、わが国においては、業績連動型株式報酬として米国で普及しているタイプのリストリクテッド・ストックやパフォーマンス・シェアを、そのまま導入することは現在のところ事実上困難である。 2 税務上の問題点(会社側) パフォーマンス・シェアやリストリクテッド・ストックは、株式取得目的のために役員に対して金銭報酬を支給し、当該金銭を原資として株式を取得する形式をとる。したがって、仮に法的問題をひとまず置いたとしても、法人税法上は役員報酬であるため、法人税法上の損金算入規制を受ける。 すなわち、法人税法上、役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与の要件を充足することにより損金算入できるが、法人税法の定める要件を満たさない場合には、損金算入できない。 ここで、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与の要件の概要は、以下のとおりである。 上記の損金算入要件は、中長期的なインセンティブ報酬に対する対応が十分ではないため、米国型のパフォーマンス・シェアとリストリクテッド・ストックをわが国で導入した場合、法人税法上、役員報酬相当額を損金算入可能とする設計は困難と考えられる。 3 わが国におけるリストリクテッド・ストック及びパフォーマンス・シェア型の役員報酬の設計例 このように、わが国では、米国型のパフォーマンス・シェアとリストリクテッド・ストックを導入しようとしても、制度的な壁が高い。そこで、同様な中長期的インセンティブ付けの手段として、株式報酬型ストック・オプションや株式信託の活用が一部なされている。 (1) 株式報酬型ストック・オプション 株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)とは、株式を報酬として付与することを目的とし、オプションの権利行使価格を非常に低く設定したものである(通常は1円)。これは、もともとは退職慰労金を廃止し、その代替として付与する目的で普及してきた。 ただ、役員個人の税務メリットを考えると、給与所得より退職所得と区分された方が有利なのが一般的である。しかし、退職所得と区分されることが明確なのは権利行使期間が退職から10日間に限定されているストック・オプションの場合であり(※)、それ以外の場合の所得区分は明確ではないという税務上の不明確さがある。 (※) 東京国税局(文書回答事例)「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」(平成16年11月2日) また、外国企業にとってなじみのないスキームのため、海外投資家にとって分かりにくいというデメリットがある。 (2) 株式交付信託の活用 近時、従業員のインセンティブ・プランとしてのESOP信託の役員版ともいえる、役員を対象とした株式交付信託を、新たな業績連動型の株式報酬プランとして用いるケースも現れてきている。 ただし、株式交付信託を活用する場合には、会社法上、役員報酬決議・自己株式取得規制への対応・仮想払込とみなされないための制度設計が必要である。さらに、法人税法上の取扱いについても、株式交付信託導入時には慎重な検討が必要となる。 4 業績連動型報酬導入のための税制改革の提言 経済産業省は、平成27年8月25日に公表した平成28年度税制改正に関する要望のなかで、役員給与等に係る税制の整備について、現行の役員報酬の損金算入制度は、厳格な要件が付されており、経営者のインセンティブを引き出すための報酬プランを作成する上で大きな障害となっているとしている。 (※) 経済産業省「平成28年度 税制改正に関する経済産業省要望の概要」p15-18を参照。 その上で、わが国企業の「稼ぐ力」向上に向けて、企業経営者に「攻めの経営」を促すため、コーポレート・ガバナンスが強化されている上場企業等を対象に、役員給与における多様な業績連動型報酬や株式による報酬の導入促進等を図ることを要望している。 また、役員報酬税制に関する上場企業の声として、以下のような記載を行っている。 平成28年度税制改正において、これらの要望がどのように具体化されていくかは不透明であるが、業績連動型の役員報酬を税制面でも促進しようという動きは、今後も進んでいく可能性は高いのではないだろうか。 (連載了)
此の国にも『日本企業』! 【第11回】 「《ASEAN》 ピンチをチャンスに変えるため、日本から世界へ ~野村興産(株)~」 中小企業診断士 西田 純 〈老舗企業、フィリピンへ〉 先週、フィリピン・マニラで地元の製造業や官公庁を対象に、ちょっと変わったセミナーが開かれました。 内容は「このたびマニラで、蛍光灯や電池などの水銀含有廃棄物を国際条約に従って廃棄処理をするサービスを始めたので、廃棄物の処理にお困りの方はぜひお使いください。」というもので、地元の廃棄物処理事業者と一緒にこのセミナーを主催したのが、今回ご紹介する野村興産(株)です。 同社にとって初めての海外事業となるこのプロジェクトは、しかしながら大きな変化の単なる序章にすぎません。戦前からの老舗企業に何が起こったのか、今月はそんなお話です。 〈環境の変化に翻弄されて〉 同社はもともと、北海道で金属水銀鉱山を経営する会社でした。時代の変遷もあって、鉱山業は1970年代に廃業し、新会社が設備を引き継ぐ形で水銀含有廃棄物の処理と水銀リサイクル事業者として再出発したのですが、その後しばらくは100%国内市場で生きてきた会社でした。 今世紀に入り、水銀の市況が高騰したことから、同社と海外との付き合いが始まります。「水銀を輸出してくれないか?価格はそちらの希望に合わせる」そんなオファーが海外から舞い込むようになったのです。その後、それまでほとんど経験のなかった輸出事業の急拡大により、収益は大きく改善したのですが、それに続いて同社を襲ったのが、「水俣条約」による水銀の国際商業取引禁止という劇的な環境変化でした。短い間ながら、収益の柱とも頼んできた輸出事業ができなくなるからです。 〈日本で培った適正処理技術を活かして海外へ〉 健康被害を未然に予防する必要性があるといっても、水銀を使わなければそれでよいという簡単な話ではありません。 日本では、もうだいぶ前に使われなくなった水銀ですが、世界を見れば依然として、例えば化学工業の触媒や電極の材料として使われていて、条約が成立したことにより加盟国ではこれらの水銀を適正に処理しなくてはいけなくなります。同様に使用済み蛍光灯や水銀灯、電池などの廃棄物も水銀が環境に漏えいしないような処理をしなくてはならなくなるのです。 同じような需要は、条約に署名した世界の120を超える国々にも潜在的に存在しています。早ければ2016年中にも発効することが見込まれる同条約に対応するため、世界の国々が適正処理技術の導入をしなければならないという状況になったのですが、世界を見回しても技術を提供できる主体は実はそう多くありません。 野村興産(株)が対応しようとしているビジネスは、廃棄物の破砕・洗浄工程を中心として、求める国々へ適正処理技術の移転を行おうというものですが、元々が超薄利の廃棄物処理サービスなので、いずれの国についても慎重なフィージビリティ・スタディが求められます。 〈環境の変化を事業の転換・成長の糧に〉 フィリピンを嚆矢(こうし)として、インドネシアそしてマレーシアと現在アジアで複数の向け先に対する技術移転の可能性を検証中の同社ですが、条約の要求条件を満たすためには、同時並行的に複数の国を対象とするなど、かなりハイスピードな対応が求められる状況にあります。 ほんの15年前までは海外との取引すらしたことのなかった会社が、環境の変化に対応するためとはいえ、アジアを中心とした世界各国を新たなターゲットにビジネスを展開しようという大転換を進めているのです。 急速な海外展開への展望について、同社専務取締役の市橋豊さんはそう語ってくれました。外部環境の変化に対応するため、果敢に海外市場を目指す同社の今後から目が離せません。 (了)
《速報解説》 国税庁、「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」を公表 ~2割加算の適用対象者や生命保険契約に係る相続財産の判定等14事例~ Profession Journal編集部 本年1月1日以後の相続からは基礎控除額の引下げ等を含むいわゆる“相続増税”の改正が施行されており、すでに増税後初の相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内)を迎えている。 この改正による申告対象者の拡充により、税理士に頼ることなく自己申告をする納税者の増加が見込まれるが、国税庁は11月9日付、ホームページにて「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」(以下「事例集」)を公表し、申告書作成時の誤りやすい項目について事例形式で注意喚起を行っている。 事例集では相続人や相続財産の判定等に関し、各申告書の記載例を含む以下14の誤りやすい事例が示されており、主に基礎的な事項が中心となっているが、課税当局がどのような誤りが多いことを認識しているのか、念のため目を通しておきたい。 なお事例集では「小規模宅地等の評価減特例」や「配偶者の税額軽減」については触れられていないが、両制度については7月に「「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」を適用した相続税申告書の記載例」が公表されているため、そちらを合わせて参照されたい。 (了) ↓お勧め記事↓
《速報解説》 修正国際基準及び改正会社法に係る 「会社法施行規則・会社計算規則」の改正案がパブコメに 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年11月6日、法務省は「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成27年6月30日に企業会計基準委員会から公表された「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」を受けた会社計算規則の改正及び、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行に伴う会社法施行規則の改正を追加的に行うものである。 意見募集期間は、平成27年12月6日までである。 なお、修正国際基準を受けた連結財務諸表規則等の改正は、平成27年9月4日付で、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第52号)として公布されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会社計算規則の改正 「修正国際基準で作成する連結計算書類に関する特則」(61条、120条の2)として、次の規定が設けられる予定である。 「米国基準で作成する連結計算書類に関する特則」は、会社計算規則120条の3とする予定である。 Ⅲ 会社法施行規則の改正 平成27年5月1日に施行された改正会社法を受け、以下の改正が追加的に予定されている。 Ⅳ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 次の経過措置が設けられる予定である。 (了)
2015年11月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.143を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「山田二郎 氏(弁護士)」 【後編】 〔語り手〕山田 二郎(弁護士) (写真/右) 〔聞き手〕川田 剛(税理士) (写真/左) (2015年9月15日東京都内にて収録) (了)
monthly TAX views -No.34- 「軽減税率問題、欧州型インボイスの導入が決められるか」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 1ヶ月前のこの連載で、「見えない『日本型軽減税率』の行方」と題して、筆者なりの予想をした。 しかしその予想は、見事に外れた。 自民党税制調査会会長を更迭するという荒業を駆使して、安倍官邸は、公明党への配慮を優先させ、消費税率10%引上げ時の軽減税率の導入を決めた。 もっとも「この問題の本質は財源問題だ」という認識は的外れではなさそうで、対象品の線引きを巡る議論が11月中旬まで続く。民主党の主張してきた総合合算制度のとりやめ(財源4,000億円)と軽減税率導入のどちらがわが国にとって重要か、そのような検証は新聞でも一切なされていないまま、突っ走っている。 一方、驚きの展開を見せているのが、インボイスである。 筆者のこれまでの経験では、インボイスの導入は中小事業者が体を張って反対する高度なイシューであり、ちょっとやそこらでは導入は無理、と思っていたのだが、今回のどさくさともいえる議論の中で、導入に向けた議論が続いている。 まずは簡素なインボイス方式を数年続け、その後は欧州型のインボイスを導入する、という仕切りになるのであろうか。 ◆ ◆ ◆ この連載でも以前申し上げたが、筆者の、(欧州型)インボイスに関する見解は以下のとおりである。 第1に、インボイスは軽減税率の導入の是非にかかわらず、消費税、さらには所得税や法人税の信頼向上のためにも必要なツールだという点である。 インボイスによって「益税」だけでなく、「不正」も防止される。それだけに、中小事業者をはじめとした反対は根強く、最後まで予断を許さないのだが。 第2に、インボイスは複数税率に伴う税額計算の手間を緩和するためのもので、インボイス自体に手間がかかるわけではない。 確かに導入時のイニシャルコストはかかるが、事業者は、インボイスさえ入手しておけば、売上にかかる消費税額と仕入れにかかる消費税額を足しあげて、前者から後者を控除して納税すればいいので、複数税率導入の際の消費税額計算は、はるかに楽になる。 手間がかかるのは複数税率・区分経理の導入であって、インボイスではない。 第3に、インボイスにより取引の相手側に消費税額を正確に請求できるので、事業者間の取引では、「価格転嫁が容易になる」ということである。 この点の認識はわが国ではほとんどないが、消費税が間接税であるということは、この転嫁メカニズムをきちんと機能させるということである。 第4に、「免税事業者が排除される」と主張する者があるが、欧州諸国の例を見ると、彼らはむしろ免税特権を放棄し、課税選択をしている。その方が仕入税額控除ができるので得、という判断である。その事務の手間は、インボイスが省力化してくれる。 ◆ ◆ ◆ 軽減税率は、いずれは導入せざるを得ない。むしろ軽減税率があるからこそ消費税の標準税率を上げることができる、これが欧州諸国の現実だ。 そう考えると、欧州型インボイスの導入が本当に決まれば、「(今回の)軽減税率問題は、財務省にとって悪い話ではなかった」ということになる。 (了)
〈平成27年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「海外転勤・外国人の年末調整」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 シリーズ第2回は、海外転勤や外国人に係る年末調整について、留意事項をまとめることとする。 (1) 海外転勤に係る年末調整 ① 年の途中で「非居住者」となる場合(出国者の年末調整) 1年以上の予定で海外転勤する人が非居住者となるのは、出国の日の翌日からである(所令15①一、所基通2-4の3)。 年の途中で出国し非居住者となる従業員等については、それまでに支払われた給与等の金額が2,000万円を超える場合を除き、出国前に支払われる最後の給与等(給与又は賞与)で年末調整を行う必要がある(所法190、所基通190-1(2))。 この場合に注意すべき点は、次のとおりである。 (ア) 対象となる給与等 年末調整の対象となるのは、出国までに支払われた本年中の給与等の総額である。 なお、出国後に支払われる給与等については、その計算期間のうちに出国前の期間が含まれている場合でも、年末調整の対象とはならない(所基通212-3)。 〈例〉 当社は、前月16日から当月15日分の給与を当月25日に支払っている。 次の2つのケースにおいて、10月25日に日本で支払われる給与は年末調整の対象となるか。また、源泉徴収はどのように行うのか。 (イ) 扶養控除等の適用 控除対象配偶者や扶養親族に該当するかどうかの判定は、出国時の現況で行う(所法85③、所基通85-1(1))。 所得要件である「合計所得金額38万円以下」の判定についても、出国時の現況に基づいてその年の1月から12月までの金額を見積もることとなる(所基通85-1(2))。 なお、合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。よって、配偶者が海外赴任に同行し、出国後に海外で所得を得る予定であるとしても、その金額は合計所得金額には含まれない。 また、配偶者控除や扶養控除の額は、期間按分しない。年の途中で行われる年末調整であっても、一般の控除対象配偶者や控除対象扶養親族であれば、38万円をそのまま控除することができる。 (ウ) 保険料控除の対象となる保険料 社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除の対象となるのは、居住者が支払った保険料に限られる(所法74①、76①、77①)。したがって、出国前に支払った保険料は、各保険料控除の対象となるが、出国後に支払う保険料は、控除の対象とならない。 (エ) 住宅借入金等特別控除の適用 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受けることができるのは、居住者に限定されるため、海外赴任中の各年においては、当該税額控除の適用を受けることはできない(措法41①)。 なお、転勤に係る住宅借入金等特別控除の再適用についての詳細は、以下の拙稿をご参照いただきたい。 ② 年の途中で「居住者」となった場合(帰国者の年末調整) 海外赴任から帰国した人が居住者となるのは、帰国した日の翌日からである(所基通2-4の3)。 年の途中で帰国し居住者となった従業員等については、居住者となった日以後に支払われた給与等の金額が2,000万円を超える場合を除き、本年最後に支払われる給与等で年末調整を行う(所法190①)。 この場合に注意すべき点は、次のとおりである。 (ア) 対象となる給与等 年末調整の対象となるのは、帰国後に支払われた本年中の給与等の総額である。 帰国後に支払われた給与等については、その支給対象期間のうちに帰国前の期間が含まれている場合でも、年末調整の対象となる。 〈例〉 当社は、前月16日から当月15日分の給与を当月25日に支払っている。 次の2つのケースにおいて、10月25日に日本で支払われる給与は年末調整の対象となるか。また、源泉徴収はどのように行うのか。 (イ) 扶養控除等の適用 控除対象配偶者や扶養親族に該当するかどうかの判定は、12月31日の現況で行う(所法85③、所基通85-1(2))。 所得要件である「合計所得金額38万円以下」の判定については、その年の1月から12月までの合計所得金額により判定する。 なお、①の(イ)で述べたとおり、合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。よって、配偶者が帰国前に海外で所得を得ているとしても、その金額は合計所得金額の計算上はないものとして扱われる。 また、配偶者控除や扶養控除の額は、期間按分しない。一般の控除対象配偶者や控除対象扶養親族の場合には、38万円をそのまま控除することができる。 (ウ) 保険料控除の対象となる保険料 社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除の対象となるのは、居住者が支払った保険料に限られる(所法74①、76①、77①)。したがって、帰国後に支払った保険料は、各保険料控除の対象となるが、帰国前に支払った保険料は、控除の対象とならない。 また、外国の生命保険会社と海外で生命保険契約を締結した場合には、当該保険に係る保険料は生命保険料控除の対象とはならない(所法76⑤一)。 (エ) 住宅借入金等特別控除の適用 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受けることができるのは、居住者に限定されるため、海外赴任中の各年において当該税額控除の適用を受けることはできない(措法41①)。しかし、帰国後その住宅に再居住したときには、一定の場合に税額控除の再適用を受けることができる。 この場合、家族と共に海外赴任した場合と単身で赴任した場合で取扱いが異なる。詳細は以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 外国人に係る年末調整 所得税法は、課税所得の範囲を居住者か非居住者かによって区分している(所法5①②)。 外国人であっても、国内に住所を有するか又は現在まで引き続き国内に1年以上居所を有する人は居住者に該当する。居住者に該当する場合には、他の従業員等と同様に年末調整の対象者となるかどうかを判定する。 すなわち、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を給与の支払者に提出しており、その年の給与等の金額が2,000万円以下であれば、原則として年末調整の対象者となる。 外国人の年末調整について注意すべき点は、次のとおりである。 (ア) 扶養控除等の適用 平成27年分の所得税までは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記載内容に従って配偶者控除や扶養控除等を適用することとなる。「親族関係書類」や「送金関係書類」の提出や提示が求められるのは、平成28年分の所得税からである。平成28年分以後の取扱いについては、前回をご参照いただきたい。 合計所得金額に含まれる所得の範囲は、(1)の①(イ)に記載のとおりである。ただし、控除対象配偶者や扶養親族は、所得者と生計が一であることが前提となるため、送金の事実等を確認しておくことが望ましい。 (イ) 保険料控除の対象となる保険料 社会保険料控除の対象となる保険料は、日本の各種制度に基づいて負担する保険料である。したがって、外国の制度に基づいて負担する保険料は対象とならない。 また、(1)の②(ウ)で述べたとおり、外国の生命保険会社と海外で契約した生命保険の保険料は、生命保険料控除の対象とならない(外国の生命保険会社でも国内に営業所があり、国内で締結した保険契約の場合には、他の要件を満たしていれば控除の対象となる)。 (ウ) 技能実習生の取扱い 日本と技能実習生の母国が締結している租税条約は、相手国ごとに内容が異なる。租税条約によっては、所得税及び住民税が免除される場合もあるため、年末調整の対象者の中に技能実習生がいる場合には、租税条約の内容を確認し処理を誤らないようにしなければならない。 例えば、中国から来日している技能実習生の場合には、生計や訓練のために受け取る給付又は所得については、日本の租税を免除することとなっている(日中租税協定21)(※)。 (※) 源泉徴収の段階から免除の措置を受けるためには、給与支払者経由で「租税条約に関する届出書」を支払者の所轄税務署長に提出する必要がある(租税条約実施特例省令8)。また、住民税の免除を受けるためには、各市町村へ別途届出書を提出することが必要となる。 なお、租税条約に基づき租税の免除を受ける場合にも「給与所得の源泉徴収票」の作成及び提出は必要となる(所法226①)。この場合、源泉徴収票の支払金額欄には免税となる金額を含めて記載し、摘要欄には「日〇租税条約〇〇条該当」と赤書きすることとされている。 * * * 次回(最終回)は、年末調整について質問を受けることが多い事項をQ&A形式で取り上げる予定である。 (了)
商業・サービス業・農林水産業活性化税制の 適用・申告のポイント 【第3回】 「特別償却の事例と付表(7)の書き方」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 ここまでは「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の制度概要や申告書の添付書類として必要な「認定支援機関等からのアドバイスを受けた旨を明らかにする書類」の留意点について確認してきた。今回からは、具体的な申告書・付表の記載方法について確認していく。 今回は特別償却を選択した場合に作成する特別償却の付表(七)〈特定中小企業者等が取得した経営改善設備の特別償却の限度額の計算に関する付表〉ついて、次に掲載した実際の記載例を見ながら、記入方法について確認する。なお、事例の前提条件については、主に前回の添付書類の記載内容をもとにしている。 ▷記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 [適用要件等]の枠内 [中小企業者又は中小連結法人の判定]の枠内 [15]~[25]欄については、その経営改善設備を事業の用に供した日の現況により法人の発行済株式等の状況(その法人が連結子法人である場合には、連結親法人の発行済株式等の状況)をそれぞれ記載する。 (了)