法人事業税に係る平成27年度税制改正事項 ~外形標準課税の拡大、所得拡大促進税制の適用など~ 【第3回】 (最終回) 「「資本金等の額」の取扱い・負担軽減措置」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 資本割の課税標準となる「資本金等の額」 事業税資本割は、資本金等の額によって法人の行う事業に対して課する事業税をいい(地法72二)、資本割の課税標準となる各事業年度の資本金等の額は、各事業年度終了の日における「資本金等の額」(法法2十六)に「一定の調整」を加えたものである(地法72の21①)。事業年度が1年に満たない場合には、調整後の資本金等の額に事業年度の月数を乗じて12で除した金額が課税標準となる(地法72の21③)。 (1) 法人税法における「資本金等の額」の定義 「資本金等の額」とは、法人が株主等から出資を受けた金額として、以下の算式により計算された金額をいう(法法2十六、法令8①)。なお「増加調整額」及び「減少調整額」は法令上の用語ではなく、本稿の説明の便宜のために筆者が設けたものであるので、留意されたい。 「増加調整額」及び「減少調整額」は、前期末まで(過去事業年度)の増減額と当事業年度の増減額を合計したものであり、具体的な調整項目は、以下の通りである(号数は法人税法施行令第8条第1項におけるものである)。なお、黄色でハイライトしている項目は、本稿において特に関連のあると考えられるものである。 (2) 事業税における「一定の調整」について ① 無償減資・無償増資における調整 資本割の課税標準となる「資本金等の額」は、納税者の便宜等を考慮して、事業税で独自に設定するのではなく、原則として法人税の「資本金等の額」をそのまま用いることとされたのであるが、企業再生等の目的で会計上の資本金等(資本金及び資本剰余金)の額を減少して損失処理に充てた場合(無償減資等)において、会計上の資本金等の額が減少するにもかかわらず税務上の資本金等の額は減少しない(法令8①十二)ことから、事業税資本割について企業実態と乖離した課税が生じ、応益課税の考え方にそぐわない(課税の公平を損なうおそれがある)という問題があった。 そこで、欠損填補目的で実施された無償減資等の額については、制度創設当初から、資本割の課税標準となる資本金等の額から控除するという特例措置が講じられていた(無償減資特例。平成22年度税制改正前・地法附則9④⑫)。 その後、この措置は実際の事業活動の規模に応じて課税するという外形標準課税の趣旨に基づき講じられているものであるとして、平成22年度の税制改正で地方税法本則の措置として規定されることとなった(地法72の21①二、三)。これと合わせ、無償増資(準備金・剰余金の資本組み入れ)についても、資本金等の額に加算する措置が設けられた(地法72の21①一)。 なお、これらの調整も、法人税の資本金等の額の調整と同様、「過去事業年度」及び「当事業年度」における調整が反映されることとなる。 ② 持株会社特例 総資産の帳簿価額のうち特定子会社株式(発行済株式総数の過半数を直接・間接に保有する会社の株式)の帳簿価額の占める割合(A)が50%を超える場合には、資本割の課税標準となる資本金等の額(上記①の調整後)から、これに(A)の割合を乗じた金額を控除する(持株会社特例。地法72の21⑥)。 これは、持株会社のように、資本金等の額の大半が子会社株式の取得に充当されているような状況下では、親子会社の双方で資本割が課税されるのは企業グループとして「二重課税」されているようなものであり、これを調整するための措置と考えられる(連結会計の投資・資本の相殺消去に近い考え方であろう)。 出典:総務省「法人事業税の外形標準課税について」p2 ③ 大規模法人特例 資本割の課税標準となる資本金等の額(上記①及び②の調整後)が1,000億円を超える法人については、租税負担に配慮して以下の通り課税標準の圧縮措置が定められている(大規模法人特例。地法72の21⑦)。 ▷ 1,000億円超5,000億円以下:50% ▷ 5,000億円超1兆円以下:25% ▷ 1兆円超:ゼロ(課税標準に算入しない) 出典:同上 ④ その他の特例 上記のほか、特定の事業者を対象とした資本割の課税標準の特例が定められているが(地法附則9①~⑫)、本稿では説明を省略する。 2 平成27年度税制改正の内容 (1) 資本割の課税標準の見直し等 ところで、法人税法における「資本金等の額」は正数概念ではなく、減算調整額が大きい場合にはマイナスになることもある。たとえば、適格合併に際し合併法人が抱合株式を有している場合には、加算調整額の計算に際して抱合株式の合併直前の帳簿価額を「減算」することとされているが(法令8①五)、被合併法人の株価が高い等の理由で抱合株式の帳簿価額が十分に大きい場合、合併法人の資本金(出資金)の額を超える減算調整が織り込まれることとなり、その結果、資本金等の額がマイナスになるのである。 このことは、資本金等の額を課税標準として用いる税目(法人住民税均等割、法人事業税資本割)において不都合な状況である。言うまでもなく課税標準は「正数」の概念であるから、これがマイナスの場合にはゼロとして取り扱わざるを得ない。この結果、均等割の税率区分は最低レベルが適用され、資本割の税額はゼロとなり、応益課税の目的を十分に達成できない状況が続いていたところである。 かかる状況を是正し、応益課税の性質を一層明確化するために、平成27年度の税制改正によって、資本割の課税標準と均等割の税率区分の基準に用いる「資本金等の額」については、会計上の資本金及び資本準備金の合算額を下限とすることとされた(地法52④、72の21②、312⑥ほか)。 なお、下限の判定対象となるのは会計上の資本金及び資本準備金の合算額であるから、その他資本剰余金は含まれないことにも留意が必要である。 これと合わせ、これまで事業税独自に定めのあった「無償減資・無償増資の調整」(1(2)①)について、法人住民税(均等割)の税率区分の基準にも適用することとされた(地法23①四の五、52④、292①四の五、312⑥等)。 この結果、資本金等の額がマイナスになっている法人はもとより、自己株式を保有しているために「税務上の資本金等の額」が「会計上の資本金+資本準備金」の金額を下回っている法人については、住民税均等割及び事業税資本割の税負担が増加する可能性がある。 逆に、欠損填補目的の無償減資を行っている企業については、住民税均等割の税負担が減少する可能性があるため、留意が必要である。 なお、無償減資・無償増資の調整計算を行った場合には、その加減算の態様に応じて、申告書に以下の書類を添付する必要がある。 (2) 事業税の負担軽減措置(経過措置) ここまで説明してきたとおり、平成27年度の税制改正では、外形標準課税の拡大を中心として、事業税の課税標準及び税率の見直しが織り込まれた。 これらの改正は、平成27年4月1日以後開始事業年度より適用されるが、改正後の税率を適用することによって、外形標準課税の割合が拡大することに伴い、所得水準次第ではむしろ税負担が増加する可能性があることから、経過的に負担軽減措置が定められたところである。 具体的には、平成27年度及び平成28年度の2事業年度に限り、適用年度の付加価値額が30億円以下である企業については、適用年度の前年度の税率で計算した事業税額(所得割+付加価値割+資本割)との差額(税率見直しによる税負担の増加額)について、その2分の1相当額について納付すべき事業税額から控除するというものである(地方税法平成27年改正法附則8②~⑤)。 この経過措置は、付加価値額が40億円未満の企業まで段階的に適用される。付加価値額が30億円超40億円未満の企業については、段階的に控除割合が引き下げられ、付加価値額40億円のとき控除率がゼロとなる(同9②~⑤)。 図解すると以下の通りとなる。 負担軽減措置の適用に関しては、「適用年度の前年度の税率」の取扱いに留意が必要である。これは、平成27年度においては、「平成27年3月31日現在における税率」であり、平成28年度については「平成28年3月31日現在における税率」を指す。特に平成27年3月31日現在の税率は、地方法人税の導入にあわせて平成26年10月1日付けで改正された税率になっているので留意が必要である(下記に【第1回】に掲載した「事業税率の推移」の表を再掲する)。 〈事業税率の推移〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 外形標準課税適用法人に適用される税率。標準税率かつ軽減税率不適用法人を前提とする。 具体的には、以下の税率が適用されることとなるが、超過税率の定めがある場合にはその税率による必要があるため、合わせて留意されたい。 いささか余談になるが、事業税(所得割)の税率の定めについては、条文の読み方に注意が必要である。地方税法のほかに、「地方法人特別税等に関する暫定措置法」も合わせて確認する必要があるためである。 法人事業税に関する標準税率は地方税法第72条の24の7で定められているが、この税率テーブルが、地方法人特別税等に関する暫定措置法第2条で読み替えられている(下表参照)。 3 おわりに 平成27年度の税制改正によって、外形標準課税の重要性が増加するとともに、事業税が応益課税の思考に基づく地方税であるということが一層明確化された。 所得との関連で算定される法人実効税率は、ここ数年の税制改正で徐々に引き下げられており、今後もさらなる引下げを目指すとされている。その一方、事業税(外形標準課税)をはじめとした地方税は、応益課税の性質強化や地方自治体の財政力格差の縮小という目的に照らしても適合的であることから、課税ベースの拡大の手段として注目されている。 平成27年度税制改正大綱では、今後の検討課題として、法人事業税の損金不算入化をはじめ、事業税に係る検討事項がいくつかオープンになっている状況である。しばらくは事業税の改正もホットな話題になるであろう。 そのような時期に、今回の連載によって、事業税についてかなり詳細な説明を加える機会を得られたのは喜ばしい。読者の参考になれば幸いである。 (連載了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第5回】 「受取配当等の益金不算入制度の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [6] 連結納税適用法人に係る受取配当等の益金不算入制度の見直し 1 改正内容 (1) 受取配当等の益金不算入制度の見直し 連結納税制度に係る受取配当等の益金不算入制度について、次の見直しを行う(法法81の4①④⑤⑥⑦)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注1) 「株式等」とは株式又は出資をいう(以下、[6]で同じ) (注2) 「公社債投資信託以外の証券投資信託の収益の分配の額」については、その全額を益金算入(改正前は、収益の分配の額の2分の1又は4分の1の金額の50%相当額を益金不算入)とする(法法23①、旧法法23①、旧法令19①)。 (注3) 平成27年4月1日以後に受ける「投資信託及び投資法人に関する法律第137条(金銭の分配)の金銭の分配(出資総額等の減少に伴う金銭の分配として財務省令で定めるもの(出資等減少分配)を除く)の額」を益金不算入の対象となる配当等の額とする(法法23①、平成27年所法等改正法附則23)。 (2) 株式等の区分の定義 完全子法人株式等、関連法人株式等、その他の株式等、非支配目的株式等の定義は次のとおりである(法法81の4①⑤⑥⑦、法令155の9①②、155の10①②、155の10の2)。 なお、連結納税適用法人については、単体納税と異なり、連結法人全体で持株割合の判定を行うこととなる。 ① 完全子法人株式等 完全子法人株式等の定義は改正前と変わっておらず、完全子法人株式等とは、配当等の額の計算期間の初日からその計算期間の末日まで継続して配当等の額を受ける連結法人と配当等の額を支払う他の内国法人との間に完全支配関係があった場合の当該他の内国法人の株式等をいう。 また、その支払を受ける配当等の額が法人税法第24条第1項のみなし配当の額であるときは、完全子法人株式等とは、その支払に係る効力が生ずる日の前日においてその連結法人と当該他の内国法人との間に完全支配関係があった場合の当該他の内国法人の株式等とする。 ここで、計算期間とは、その配当等の額の支払を受ける直前にその配当等の額を支払う他の内国法人により支払われた配当等の額(適格現物分配に係るものを含む)の支払に係る基準日の翌日(次の各号に掲げる場合には、各号に定める日)からその支払を受ける配当等の額の支払に係る基準日までの期間をいう。 ② 関連法人株式等 関連法人株式等は改正によって新たに区分された株式等であるが、関連法人株式等とは、連結法人(その連結法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)が、他の内国法人の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式等を除く。「発行済株式等」という)の総数又は総額の3分の1を超える数又は金額の当該他の内国法人の株式等を、その連結法人が当該他の内国法人から受ける配当等の額の計算期間の初日から計算期間の末日まで引き続き有している場合おける当該他の内国法人の株式等(完全子法人株式等を除く)をいう。 ここで、計算期間とは、その配当等の額の支払を受ける直前にその配当等の額を支払う他の内国法人により支払われた配当等の額(適格現物分配に係るものを含む)の支払に係る基準日の翌日(次の各号に掲げる場合には、各号に定める日)からその支払を受ける配当等の額の支払に係る基準日(法人税法第24条第1項のみなし配当(同項第3号に規定する資本の払戻しに係る部分を除く)の額であるときは、その支払に係る効力が生ずる日の前日)までの期間をいう。 ③ その他の株式等 その他の株式等は、完全子法人株式等、関連法人株式等及び非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等をいう。 ④ 非支配目的株式等 非支配目的株式等は改正によって新たに区分された株式等であるが、非支配目的株式等とは、連結法人(その連結法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)が他の内国法人の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式等を除く)の総数又は総額の100分の5以下に相当する数又は金額の当該他の内国法人の株式等を、連結法人が当該他の内国法人から受ける配当等の額の支払に係る基準日(法人税法第24条第1項のみなし配当(同項第3号に規定する資本の払戻しに係る部分を除く)の額であるときは、その支払に係る効力が生ずる日の前日)において有する場合における当該他の内国法人の株式等(完全子法人株式等を除く)をいう。 この点、完全子法人株式等及び関連法人株式等は、計算期間中の継続保有が要件となるが、この非支配目的株式等は基準日時点での保有が要件となる。 (3) 受取配当金の益金不算入額の計算 連結納税は、法人ごとに株式等の区分ごとの益金不算入額を計算する単体納税と異なり、連結グループ全体で株式等の区分ごとに益金不算入額の計算を行い、各連結法人の配当発生額に基づき個別帰属額を計算することとなる(法法81の4①④⑨、法令155の8、155の11)。 【1】 株式等の区分ごとの受取配当金の益金不算入額の計算方法 【2】 負債利子控除額の計算 受取配当金の益金不算入額の計算において、負債利子を控除するのは、改正前は関係法人株式等及びその他の株式等であったが、改正後は関連法人株式等のみが負債利子を控除することとなる。 そして、連結納税では、各法人ごとに計算する単体納税と異なり、連結納税グループ全体を1つの法人として各連結法人の数値を合計して負債利子控除額を計算することとなる。 また、単体納税と異なり、負債利子には連結法人へ支払った負債利子は含めず、総資産の帳簿価額からは他の連結法人に支払う負債利子の元本である負債を控除して計算する。 上記のうち、分母及び分子の「前連結事業年度」は、最初連結事業年度以後の連結事業年度に限る。つまり、単体納税の事業年度は該当せず、連結納税開始事業年度においては、当連結事業年度末の金額のみで分母及び分子を計算することとなる。 また、上記のうち、分母となる「当連結事業年度末及び前連結事業年度末の連結グループ全体の総資産の帳簿価額の合計額」は、各連結法人の確定した決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額を合計したものをいい、次の①及び②の金額を減算することとなる。 ① 他の連結法人に支払う負債の利子の元本である負債の額に相当する金額 ② 固定資産の積立金、特別償却準備金、土地再評価差額金等 この点、改正前は、「その他有価証券」の「評価益等相当額」については総資産の帳簿価額から減算し、「評価損等相当額」については加算することとしていたが、改正後の関連法人株式等の負債利子控除額の計算においては、この加減算が不要となる。 さらに、上記のうち、分子となる「期末関連法人株式等」とは、連結法人が他の内国法人の発行済株式等の総数又は総額の3分の1を超える数又は金額の当該他の内国法人の株式等を、連結事業年度終了の日の6月前の日の翌日(当該他の内国法人がその翌日後に設立された法人である場合には、当該他の内国法人の設立の日)からその連結事業年度終了の日まで引き続き有している場合の当該他の内国法人の株式等(期末完全子法人株式等を除く)をいう。 ここで、期末完全子法人株式等とは、連結法人が他の内国法人との間に連結事業年度開始の日(当該他の内国法人がその連結事業年度の中途において設立された法人である場合には、当該他の内国法人の設立の日)からその連結事業年度終了の日まで継続して完全支配関係があった場合の当該他の内国法人の株式等をいう。 (4) 受取配当金の益金不算入額の個別帰属額の計算 連結納税では、連結グループ全体を一つの法人として全体計算を行った受取配当金の益金不算入額を、株式等の区分ごとに各連結法人の受取配当金の金額を基準に各連結法人へ配分する(法法81の4⑨、法令155の11)。 この点、改正によって計算方法に変更はなく、次のように、改正後の株式等の区分ごとに、各連結法人の配当発生額に基づき個別帰属額を計算することとなる。 2 適用時期 連結親法人事業年度が平成27年4月1日以後に開始する連結事業年度について適用される(平成27年所法等改正法附則29)。 (了)
ふるさと納税(平成27年度税制改正対応)のポイント 【第3回】 「『ワンストップ特例制度』の創設、 住民税「特例控除額」の上限額の拡充」 ~平成27年度税制改正事項~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 「ワンストップ特例制度」の創設 (1) 改正の概要 改正前は、ふるさと納税について税の軽減を受けようとする場合には、確定申告を行う必要があった。 平成27年度税制改正で、一定の要件を満たす場合には、確定申告を行わなくても税の軽減を受けることができる特例が創設された(ワンストップ特例制度)。 この特例を利用するためには、ふるさと納税を行うときに一定の手続が必要となる。その手続を行うと、ふるさと納税先の自治体からふるさと納税を行った人の住所所在地の自治体へ寄附金税額控除額に関する情報が連絡され、その情報に基づいて翌年分の住民税が自動的に減額される。 (2) 特例適用の要件 「ワンストップ特例制度」の適用を受けることができるのは、次の要件をすべて満たす場合である(地方税附則7)。 〈イメージ図〉 (総務省ホームページより) (3) 特例の適用を受けることができない場合 (2)で示した要件をすべて満たしていなければ特例を適用することはできないため、次のような場合には、原則通り確定申告を行う必要がある。 (4) 特例適用上の注意点 ① 同一自治体に対し複数回のふるさと納税をした場合 同一の自治体に対し、同年内に複数回のふるさと納税をした場合には、1つの自治体に対するものとしてカウントされる。ただし、ふるさと納税の都度、申請書の提出は必要となる。 ② 申請書の内容に変更があった場合 申請書を提出した後、住所変更等、申請書の内容に変更が生じた場合には、翌年の1月10日まで(平成27年のふるさと納税の場合には、平成28年1月10日まで)に、申請書を提出した各自治体に対し「寄附金税額控除に係る申告特例申請事項変更届出書」を提出しなければならない。 ③ 税が軽減されるタイミング 特例の適用を受けると、所得税の軽減分も「申告特例控除額」として、翌年度分の住民税からまとめて減額される(地方税法附則7の2、7の3)。 したがって、特例を受ける場合と受けない場合では、所得税の軽減分について減額されるタイミングが異なることとなる。 【第2回】で解説した〈ケース1〉を例にとると、所得税が軽減されるタイミングは次の通りとなる。 【2】 住民税「特例控除額」の上限額の拡充 (1) 改正の概要 住民税の寄附金税額控除額のうち、特例控除額の上限額が約2倍に拡充された。具体的には、改正前は住民税所得割の10%相当額であったものが、改正後は住民税所得割の20%相当額となった(地方税法37の2、314の7)。 (2) 改正の影響 【第2回】で解説した〈ケース2〉を例にとると、改正後は特例控除額の上限額が拡充され、結果として改正前よりも税の軽減額も増加することとなる。 ふるさと納税の額(100,000円)が同じでも、改正前後で住民税の特例控除額の上限額が22,600円から45,200円へ拡充された結果、税の軽減額の合計も42,405円から65,005円へ増加している。 (3) 注意点 住民税「特例控除額」の上限額は約2倍に拡充されたが、それでも上限額があることに変わりはない。(2)の結果からもわかるように、〈ケース2〉では、改正後の方が税の軽減額は増えているものの、改正前後を通じて特例控除額が上限額を超えており、ふるさと納税の額100,000円から2,000円を差し引いた98,000円相当の税の軽減は受けられない。 * * * 次回(最終回)は、ふるさと納税に関する実務上の疑問点をQ&A方式で解説する予定である。 (了)
研究開発税制における平成27年度税制改正のポイント 【第2回】 「特別試験研究費の要件確認」 税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔 1 特別試験研究費に係る税制改正の流れ (1) 平成27年度の税制改正の概要 前回まとめたとおり、従来、総額型の一部を構成していた特別試験研究費に係る税額控除制度が、平成27年度税制改正により総額型と別枠になり、また、特別試験研究費の額の範囲も見直された。 当該改正により、企業が行う研究開発投資の戦略次第では、今後適用できる税額控除額に大きな影響を及ぼすものと考えられる。 (2) 近年の税制改正の流れ ① 平成25年度税制改正 (ア) 改正の内容 適用対象の範囲が追加された。 イ 他の者と共同して行う試験研究 ロ 特定中小企業者に委託する試験研究 (イ) 上記イの改正の趣旨 「日本経済再生に向けた緊急対策」(平成25年1月11日閣議決定)で、「企業が自前主義ではなく、自他の技術等を幅広く活用して事業化や価値創造に取り組むこと」すなわち「オープンイノベーション」の取組を加速させることが決定されたことによる。 ② 平成27年度税制改正 (ア) 改正の内容 イ 税額控除制度の改組 総額型と別枠で、適用事業年度の法人税額の5%相当額を上限に、次の金額の合計額の税額控除を受けることができる。 (a) 損金算入される特別試験研究費のうち、特別試験研究機関等を共同して行う試験研究または特別試験研究機関等に委託する試験研究に係る試験研究費の額の30%相当額 (b) 損金算入される特別試験研究費のうち、(a)の試験研究費の額以外の試験研究費の額の20%相当額 ロ 特別試験研究及び特別試験研究費の額の範囲 (a) 特別研究機関等のうち試験研究独立行政法人を国立開発法人とする (b) 特定中小企業者に委託する試験研究の委託先の範囲を拡充する (c) 特定中小企業者へ支払う試験研究に際して必要な知的財産権の使用料を追加する (イ) 改正の趣旨 「日本再興戦略改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)において、「企業が行き過ぎた技術の自前主義・自己完結主義から脱却し、機動的なイノベーションを目指すオープンイノベーションを強力に推進するための環境整備を図る」ことが決定されたことによる。 2 特別試験研究費の具体的な範囲 特別試験研究費の具体的な範囲をまとめると、以下のとおりである。 (参考:平成27年度版「特別試験研究費税額控除制度ガイドライン」(経済産業省)) 3 繰越(中小企業者等)税額控除限度超過額に係る税額控除制度の廃止 繰越税額控除限度超過額制度とは、総額型の税額控除額が適用事業年度の法人税額の30%相当額を超過したため全額を控除することができなった場合において、翌事業年度に限り、当該超過した金額を繰り越して控除することができる制度である。 この制度は主に以下の理由を勘案した結果、平成27年度税制改正において適用期限の到来をもって廃止された。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第10回】 「建設協力金、保証金の受入れのある賃貸借契約書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は貸ビル業を行っています。 賃借人予定者との間で、建物賃貸借予約契約書を結びましたが、この場合の印紙税の取扱いはどうなりますか。 第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当し、記載金額30,000,000円、印紙税額20,000円となる。 [検討1] 予約契約書は印紙税法上の契約書に該当するか 印紙税法上の契約には、その予約を含むこととされている(通則5)。 また、ここでいう「予約」とは、本契約を将来成立させることを約する契約をいい、本契約と同様に取り扱われる。(基通15) [検討2] 建物賃貸借契約は課税文書に該当するか 建物等のように、土地以外のものが賃貸借の目的である契約の場合においては一般的に、不課税文書に該当するが、課税文書に該当するか否かについては、文書全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断し、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする(基通3)。 [検討3] 建設協力金、保証金の取扱い 貸ビル等の賃貸借契約に際して授受される金銭のうち、敷金のように賃貸料債権等を担保とする目的のものは消費貸借契約には当たらない。 保証金に関しても一般的には、敷金のように賃貸料債権等を担保する目的であるものの、賃貸借期間と関係なく、契約終了前に返還することとされているものや、契約期間終了後においても返還を保留するようなものは、一定の債務を担保するものとは認められない。このような場合は、保証金という名目であっても、消費貸借の目的と判断されることとなる。 また、建設協力金については、賃貸ビル等の建設にあたり、建設資金の調達の方法として、入居希望者等から資金提供を受けようとするものであり、消費貸借といえる。 したがって、事例の場合においては建設協力金として一定の金額を受領した場合に、賃貸借契約期間などに関係なく、賃貸借契約の終了前に賃借人に返還することとされており、消費貸借に関する契約書に該当する。 ▷ まとめ 貸ビル業者等がビル等の賃貸借契約又は使用貸借契約(その予約を含む。)を借受人等との間で結ぶ際に借受人等から建設協力金、保証金等として一定の金銭を受領し、当該ビル等の賃貸借又は使用貸借契約期間に関係なく、一定期間据え置き後一括返還又は分割返還することを約する契約書は、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)として取り扱う(基通第1号の3文書の7)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第47回】 「法人税基本通達9-6-1(1)の具体的内容」 公認会計士 佐藤 信祐 第44回から第46回までは、本連載における中間的な議論のまとめとして、貸倒損失の法律論について解説した。 第47回目以降においては、法人税基本通達の具体的な内容について解説を行う予定である。 本稿では、法人税基本通達9-6-1(1)に規定する「更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定」について解説を行うこととする。 1 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定 (1) 原則的な取扱い 法人税基本通達9-6-1(1)では、更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合には、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額について、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入することが明らかにされている。 この場合には、法的に債権が消滅していることから、損金経理を行うか否かにかかわらず、損金の額に算入されることになる。その結果、ある事業年度で損金の額に算入することを失念した場合には、その後の事業年度で損金の額に算入することはできず、損金の額に算入すべきであった事業年度に遡って、減額更正をすることになる。 そして、会社更生法201条では、「更生計画は、認可の決定の時から、効力を生ずる。」と定められており、民事再生法176条では、「再生計画は、認可の決定の確定により、効力を生ずる。」と定められている。 そのため、厳密に言えば、会社更生法の場合には、認可決定時点において損金の額に算入し、民事再生法の場合には、認可決定の確定時点において損金の額に算入すべきであろう。 しかしながら、法人税基本通達9-6-1では、いずれも「更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった」時点であると規定していることから、認可決定時点において損金の額に算入すべきであるという結論になる。 そして、更生計画又は再生計画が途中で修正され、追加で債権放棄をする必要が生じた場合には、新たな修正計画が認可決定された時点で貸倒損失として損金の額に算入することになる。 また、当然のことであるが、更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があったとしても、連帯保証人が存在するのであれば、当該連帯保証人に対する保証責任の追及を行う必要があり、当該連帯保証人に対する債権についても法的に切り捨てられた場合に限り、貸倒損失として損金の額に算入されることになる。 (2) 停止条件又は解除条件付債権放棄 なお、実務上、債権放棄について停止条件や解除条件が付されていることがある。すなわち、民法127条1項において、「停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。」と規定されており、同条2項において、「解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。」と規定されている。そのため、停止条件が付されている場合には、債権放棄が行った時点で貸倒損失として損金の額に算入し、解除条件が付されている場合には、更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった時点で損金の額に算入することになる(※1)。 (※1) 中村慈美『不良債権処理と再生の税務』234-239頁(大蔵財務協会、平成24年) (3) 非更正債権の取扱い 法人税基本通達14-3-7において、 と規定されている。 すなわち、更生債権としての手続きに参加しなかった場合において、更生計画認可の決定があったときは、もはや回収することが期待できないことから、指定期限が過ぎた時点でそれは予測できるものであるが、法的に債権が消滅するのは、更生計画認可の決定時点であることから、この時点で貸倒損失として損金の額に算入することになる。 なお、払込期日までに払込みをしなかったことにより失う債権については、払込期日が経過した時点で貸倒損失として損金の額に算入することになるため、留意が必要である(※2)。 (※2) 大澤幸宏『法人税基本通達逐条解説』1313頁(税務研究会、第7版、平成26年) ただし、極めて稀なケースであるとは思われるが、相当の金額を回収することができることが明らかであるにもかかわらず、他の債権者に対する贈与の意図をもって、意図的に更正債権等としての手続きに参加しなかった場合には、寄附金に該当する余地はあると考えらえる。 (4) 更正手続中又は再生手続中の債権放棄 国税庁のHPにおける質疑応答事例では、「更生手続中における貸倒損失」について解説されている。 すなわち、会社更生法47条5項においては、 と規定されており、民事再生法85条5項においても、 と規定されている。 このような法令を根拠として、少額の更生債権又は再生債権を早期に処理するために、以下のような手続きを行った事案に対しての質疑応答事例である。 ① 総額が50万円以下の債権は全額を弁済する。 ② 総額が50万円を超え250万円以下の債権については、50万円を超える部分の金額に相当する債権を放棄することを条件として、50万円を支払う。これによる弁済を受けない場合は、その金額を更生債権として更生計画に組み入れることとし、債権者はあらかじめ定められた日までにそのいずれによるかの意思表示をする。 このような場合には、裁判所の許可を受けた更正手続又は再生手続の一環として、一定額の弁済を条件として債権放棄が行われることから、実質的には、更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合と変わらないため、寄附金として処理することは相当ではなく、債権放棄の時点で損金の額に算入することができると考えられる。 (5) ゴルフ経営会社の取扱い バブル崩壊により、多くのゴルフ経営会社が破綻したことは記憶されている読者もいると思われるが、筆者も数多くのゴルフ経営会社の再生案件に関与した。 ゴルフ場には、預託金制、株主会員制、社団法人制の3つがあるが、このうち、社団法人制はいわゆる名門と言われているゴルフ場が多く、通常、譲渡が困難であると言われている。これに対し、預託金制、株主会員制のゴルフ会員権については、譲渡をすることが可能であり、バブル期には、資産運用のひとつとして取り扱われていた。 法的整理の対象となったゴルフ経営会社の多くは預託金制を採用しており、その返還が困難になったことから、やむなく法的整理に至ったゴルフ場も少なからず存在していた。さらに、ゴルフ場が開設に至らなかった案件も存在し、当時の時代背景を思わせるものである。 本稿校了段階では、ゴルフ経営会社の破綻はひと段落しており、今後、それほど多くのゴルフ経営会社が破綻するとは思えないが、依然として経営環境が厳しいゴルフ経営会社が存在すること、一部の後進国においてバブル期のゴルフ会員権と類似の動きが見受けられることを考慮すると、ゴルフ経営会社が破綻した場合における貸倒損失の取扱いについて検討しておくことは意義のあることだと考えている。 なお、本稿は、貸倒損失の取扱いについての解説であることから、預託金制のゴルフ会員権に限定したうえで解説を行うこととする。 国税庁のHPにおける質疑応答事例では、「ゴルフ会員権が金銭債権に転換する時期」として、破産法、特別清算の案件については、「破産手続開始の決定があった時点でゴルフ会員権は実質的に金銭債権に転換する」「特別清算の開始決定があった場合にも、その決定があった時点でゴルフ会員権は実質的に金銭債権に転換する」としたものの、会社更生法、民事再生法の案件については、「ゴルフ場経営会社に更生手続開始の決定や再生手続開始の決定があったことをもって、ゴルフ会員権が金銭債権に転換すると解することはできません」としている。 本質疑応答事例は、貸倒引当金についての質疑応答事例であるが、ゴルフ会員権の法的性質をよく表しており、①ゴルフ場施設の優先的利用権、②預託金返還請求権、③年会費支払義務などの債権債務関係を内容とする会員とゴルフ場経営会社との間の契約上の地位であるとされている(※3)。 (※3) 最高裁平成7年9月5日判決・民集49巻8号2733頁 すなわち、純粋な金銭債権としての性格を有していないことから、預託金の回収が困難であるという理由だけでは、貸倒引当金として計上することは認められない。そのため、貸倒引当金として計上するためには、金銭債権に転換するということが必要であり、本質疑応答事例はそのことについて明らかにしたものである。 これに対し、本稿で問題とするゴルフ経営会社が更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定を受けた場合における貸倒損失の取扱いであるが、別の質疑応答事例では、「ゴルフ会員権の預託金の一部が切り捨てられた場合の取扱い」として、「再建型の倒産手続などによって預託金の一部切捨てが行われた場合も、契約変更により、預託金返還請求権の一部が金銭債権として顕在化した上で、その一部が切り捨てられたとみることができます。」としている。 解釈論として、「金銭債権として顕在化した」という点については、やや疑問が存在するものの、債務者側であるゴルフ経営会社において債務免除益が計上されることとのバランス上、債権者側であるゴルフ会員権所有者において貸倒損失が計上されるというのはひとつの整理の仕方であると考えられる。 なお、実務上、ゴルフ会員権を預託金の額面金額よりも高い値段で取得していることが考えられるが、貸倒損失として計上することができるのは、あくまでも、切り捨てられた預託金に相当する部分の金額であり、それ以上の金額についてまで評価減を行うことはできない。 さらに、逆のケースとして、ゴルフ会員権を預託金の額面金額よりも安い値段で取得していることも考えられる。例えば、預託金が500万円であるゴルフ会員権を300万円で取得した場合において、預託金のうち50万円を超える部分の金額について切り捨てられたときは、50万円については預託金が残っていることから、貸倒損失として計上することができる金額は、250万円になるという点に留意が必要である。 次回では、法人税基本通達9-6-1(2)(3)の取扱いについて解説を行う予定である。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第7回】 「赤字のときはどうする?「重要性の基準値」算定方法」 公認会計士 石王丸 周夫 今回は、会社が赤字の時に「重要性の基準値」をどうやって求めるかについて解説します。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 【第6回】で解説したとおり、重要性の基準値の最もオーソドックスな算定方法は以下のようなものでした。 営利企業であれば、ほとんどの場合はこの算式で求めますが、ひとつ疑問が生じます。 それは、『会社が赤字だったらどうするのか?』ということです。 赤字の場合、税引前利益はマイナス値なので、上記の算式にそれを当てはめると、重要性の基準値はマイナス値になってしまいます。それでよいのでしょうか。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《マイナス値はありえない》 重要性の基準値がマイナス値になってしまった場合、全く意味をなさないことは説明するまでもないでしょう。 重要性の金額というのは、取引金額や科目残高の重要度を、金額を物差しにして測るための基準値です。それがマイナス値ということだと、取引金額や科目残高はすべて、重要性の基準値より大きくなってしまいます。 そこで思いつくのは、マイナス値として算定された値の「絶対値」を重要性の基準値にしようという案です。 しかし、これもあまり意味がありません。会社が税引前損失を計上した場合、それは営利企業としての本来の姿ではありません。税引前損失は異常値なのです。 異常値をもとに算定した値を重要性の基準値にすることは、適切ではないでしょう(⇒したがって、問題7のアの記述は誤りです)。 《赤字の原因となった損失を除外する方法》 マイナス値はダメ、その絶対値もダメということだと、どうすればよいでしょうか。 そもそも赤字の場合は重要性判断の必要性はないのでは、と考えたくもなります。赤字というのは、それ自体が異常なわけですから、赤字の額が多少ブレたとしても問題にはされないかもしれません。そうであるなら、会社の数字に重要性があるかないかを議論する機会はないのではないかという理屈です。 しかし、重要性判断が全く必要ないということはありません。赤字であっても資産・負債の残高もあれば、売上高もちゃんと計上されています。そうした勘定残高や取引高の重要性を金額で測る場面はあるのです(⇒したがって、問題7のイの記述は誤りです)。 ではどうするのかというと、赤字をもたらした原因に着目するという方法が考えられます。 例えば、多額の減損損失を計上したために赤字になったというケースを考えてみてください。その減損損失がなければ、いつも通りの黒字決算だったというようなケースです。 そのようなケースでは、減損損失の額を除外したベースで重要性の基準値を求めます。以下のような計算式になります。 上の算式中の「(税引前損失+減損損失)」の部分は、この会社の本来の正常損益を示しているといえます。それを指標にして重要性の基準値を求めるというわけです。 《他のベンチマークを使用する方法》 正常損益は他の方法でも求めることができます。過去数期間におけるその会社の税引前利益の平均値を取るといった方法です。 赤字の場合の対処法は他にもあります。指標として税引前利益以外の財務諸表項目を使う方法です。 会計監査の実務でも、売上高、純資産、売上高、総資産等の項目を、重要性の基準値の算定のための指標に使用している例はいくらでもあります(⇒したがって、問題7のウの記述は正しいです)。 ただし留意点もあります。 第一は、なぜその指標を使うのか、なぜ税引前利益を使わないのかという理由を明確にしておくことです。 監査実務では、この点をきちんと監査調書に書いていないと、後で問題になります。 第二は、指標に掛ける率を何%にするかという点です。 例えば売上高を指標に選んだ場合、それに掛ける率は、5%では大きすぎます。一般に、会社の売上高は税引前利益よりも相当大きいので、税引前利益を指標に選んだ時と同じ5%を使ったのでは、重要性の金額が大きくなりすぎてしまうからです。 以上が赤字の場合の対処法になりますが、上記で紹介した方法は、赤字の場合だけでなく、税引前利益が極端に小さい場合や税引前利益が毎年大きく変動するような場合にも適用できます。 (了)
『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』への 対応ポイント 【第3回】 「企業の分類の見直しと 監査委員会報告第66号との比較(その2)」 公認会計士 阿部 光成 前回に引き続き、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会。以下「監査委員会報告第66号」という)と比較しながら、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第54号。以下「公開草案」という)における企業の分類を取り上げ、(分類4)と(分類5)に関するポイントについて解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 企業の分類に関する公開草案と監査委員会報告第66号の比較(分類4と分類5) 企業の分類に関して、公開草案と監査委員会報告第66号を比較すると次のようになる(公開草案26項から31項)。 Ⅱ (分類4)に関する留意点 前述のように、(分類4)の企業でも、将来の一時差異等加減算前課税所得の発生を合理的に説明できるときは、(分類2)又は(分類3)として取り扱うことが規定されている。 企業は、この合理的な説明を行うであろうし、監査人においては、その説明の適切性を判断することになるので、次のことが公開草案を実務に適用した際のポイントになると考えられる。 公開草案は、上記事項に関する例として次のものをあげているので、今後の実務への適用に際して、参考になるものと考えられる(85項~87項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第88回】 金融商品会計⑩ 「貸倒懸念債権における貸倒引当金」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 【貸倒懸念債権に係る貸倒引当金の計上】 (A社に対する売掛金2,000千円-受入保証金1,000千円)×60%=600千円 〈会計処理の解説〉 金融商品会計基準では、貸倒懸念債権については債権の状況に応じて、財務内容評価法、又はキャッシュ・フロー見積法のいずれかの方法により貸倒見積高を算定することとされています(金融商品会計基準 第28項(2))。 「財務内容評価法」とは、担保又は保証が付されている債権について、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法です(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」)第113項(1))。 (なお、キャッシュ・フロー見積法は、元本の回収および利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積ることができる債権(主に貸付金やリース債権など)について用いられます。本事例の債権は売掛金であるため、今回は財務内容評価法について詳しく説明します。) 財務内容評価法を採用する場合には、債務者の支払能力を総合的に判断する必要があります。 しかし、一般事業会社においては、債務者の支払能力を判断する資料を入手するのは困難な場合もあります。 そのような場合には、例えば、貸倒懸念債権と初めて認定した期には、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降において、毎期見直す等の簡便法を採用することも考えられます(金融商品実務指針 第114項)。 本事例において、当社はA社と営業取引を行うにあたり、A社から1,000千円の保証金を受け取っています。そのため、当該保証金部分を控除した残額の1,000千円について、A社の支払能力を考慮し、回収不能と見込まれる部分、すなわち貸倒見積高を算定します。 * * * 次回は、破産更生債権等における貸倒引当金について解説します。 (了)
社外取締役の教科書 【第3回】 「社外取締役の職務・活動内容(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 社外取締役は、会社に対してどのような義務を負うか? これから社外取締役の職務活動を説明していくに際し、活動の前提としての義務、すなわち社外取締役が会社に対して負う義務につき確認したい。 その名称が示すとおり、社外取締役も会社法上の「取締役」であることに変わりはない。そのため、法が取締役に対して課している各種義務については、社外取締役も等しく負うことになる。 これについて整理すると、下記のようになる。 このうち「善管注意義務」や「取締役の対第三者責任」(会社外の者に対する法的責任)については、取締役の経営責任等に関連して近時多く問題とされている。これに関しては、本連載において改めて詳しく取り上げる。 今回は、それ以外の各種義務につき、社外取締役において特に注意すべき点を説明する。 2 忠実義務とはなにか? 取締役は、委任者である会社から、「会社の経営」につき委任を受けている関係にある(会社法330条)。 このような立場となることを了解して取締役に就任した以上、会社の利益と取締役個人との利益とが衝突するおそれがある場合に、会社の利益を優先させるべきであることは当然である。 このような義務を「忠実義務」という(法335条)。 これは、取締役であれば、社内・社外にかかわらず全員が負う義務である。 そして、会社法は、忠実義務が問題となる典型例(上記の囲み参照)につき個別に条文を設けて具体化している。 以下では、そのうちでも特に重要な競業避止と利益相反取引の禁止につき説明する。 3 競業避止義務について 取締役は、自己又は第三者のために、会社の事業の部類に属する取引(競業取引)をしようとするときは、①取締役会設置会社では、取締役会において、②これを設置していない会社では、株主総会において、事前に取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない(法356条1項1号)。 そして、取締役会設置会社においては、競業取引を行った取締役は、取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。 これがいわゆる「競業避止義務」と言われるものである。 もし、取締役がこのような義務を負わないとすれば、会社は、当該取締役により顧客や取引先を奪われ、重大な不利益を被る。会社の利益を保護するためには、当然の義務といえよう。 なお、上記の「競業取引」とは、会社が現実に行っている事業はもちろんのこと、開業準備中の事業や一時休止中の事業も含まれる。 社外取締役の場合、他社で自ら事業を行ったり、別企業の経営に役員として参画している者も多い。そのため、社内出身の取締役よりも競業取引を行う可能性は高いとも言えるから、十分に注意が必要である。 4 利益相反取引の禁止について 取締役は、自己又は第三者のために、会社と取引をしようとするとき(利益相反取引)は、前記の競業取引と同様の会社の承認を受けなければならない(法356条1項2号・3号)。 これもまた、そのような取引について当該取締役が決定権や代表権を有する場合はもちろん、そうでない場合にも、他の代表取締役等と結託することで自己又は第三者に有利で、かつ会社に不利益を与えるような取引を行うおそれがあるため、これを防止しようとしたものである。 このような利益相反取引の禁止についても、社外取締役に対して規制が及ぶ。 社外取締役に就任している会社と、社外取締役が自ら経営する会社ないしは関与する会社との間で取引を行うことは、相互のシナジー効果を目指す上でも十分あり得る話であり、会社法上の規制を順守する必要がある。 紙幅の関係で詳しくは取り上げないが、いかなる場合が利益相反取引に該当するのか、該当するとしてどのような社内手続を経る必要があるのか等については、普段から十分確認しておく必要がある。 5 社外取締役が義務違反を回避するためのポイント (1) 社外取締役本人ができる工夫 それでは、上記に述べた各種義務、特に競業避止義務や利益相反取引の禁止に違反することを防止するために、どのような準備が必要か。 社外取締役本人としては、まず何よりも、法が上記の各種義務を取締役に課していることを知識として持っておく必要がある。 とはいえ、法律専門家と同程度の知識を常にアップデートすることは現実的でなく、またその必要もない。 各種義務に関して概括的な知識を有していれば、義務違反が問題となりそうな状況を迎えた際に、「ひょっとして・・・」という感覚が生まれる。そのような問題意識が湧き上がることこそが重要なのである。いったん問題意識が芽生えれば、事前に専門家や当該会社に相談する機会を持つことができる。 このようにして、社外取締役自ら、義務違反を防ぐことは可能である。 (2) 会社ができる工夫 会社としても、万一、社外取締役において各種義務違反が生じた場合は、会社の内外に対し、法が定める各種手続を実施したり、事態の顛末を公式発表する等の事後処理を行う必要が生じる。これに割かなければならない労力や費用は決して軽視できない。 そこで、会社が被る人的・経済的な負担のみならず、レピュテーションリスク(市場・社会における企業評価の低下)等が生じることを避けるため、会社としては次のような工夫が考えられる。 また、万一、法令違反等の問題事例が発覚した場合には、以下のような対応が必要となる。 社外取締役が積極的に活動し、企業価値の向上に貢献すると言っても、それは法が求める最低条件の義務をクリアしていることが大前提となる。 この点すらもグレーな状態であれば、その会社は「コンプライアンス軽視」との不名誉なレッテルを貼られ、株主は勿論のこと、取引先や株式市場においても企業姿勢に理解を得ることは難しくなる。 以上の観点も踏まえた、普段からの取り組みが重要となる。 (了)