酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第26回】 「消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」(その2)」 ~租税法内部における同一概念の解釈~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅳ 解説 1 消費税法上の「事業」の定義 本件事案においては、消費税法上の「事業」の意義が争点とされた。 Yは、消費税法上の「事業」とは、「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう」とする消費税法基本通達5-1-1の考え方を示した上で、この定義からすれば、その判断に当たって事業の規模を問うものではないと主張した。 ここで、消費税法基本通達5-1-1をみることとする。 そして、Yは、 という。 これに対して、Xは、Yの主張によれば、消費活動以外の反復、継続、独立した収入を得る活動は事業活動に該当することになり、 というのである。その上で、消費税法は、Yの主張するような、少額な収入まで全てを事業として取り込む趣旨で小規模事業者の納税義務の免除制度(限界控除制度)を設けたものではないという。 さらに、Yが引用する消費税法基本通達5-1-1については、限界控除制度廃止前に出されたものであるから、廃止後もこれと同様に解すべきではないと主張したのである。 2 消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」 (1) 所得税法と消費税法の基礎とする「担税力」の相違 担税力に応じた適正公平な課税の実現など、所得税法と消費税法に共通の趣旨を掲げたとしても、次に乗り越えなければならない問題がある。それは、「担税力」に対する所得税法と消費税法の視角の相違という壁である。 所得税法は、所得の大きさをその所得の発生原因ないし源泉に応じて各種所得に区分し、かかる所得区分の上で課税所得を算出する仕組みを採用している。 所得税法が、いかなる態様で個々の納税者が所得を稼得したのかという点に着目する租税制度であるということに思いを致す必要があろう。同法は、納税者の行った所得稼得活動がいかなるものであったのかをみた上で、それが業務的な規模によって稼得されたものであるのか、あるいはより営利性や有償性の見地からみて事業的な規模といい得るような活動から得られたものであるのかにより、その取扱いを異にしている。すなわち、所得稼得活動の規模を基準に担税力の相違を判断し、課税標準の計算にそのことを織り込んでいるとみることができよう。 例えば、所得税法は、事業所得か雑所得かという点や、不動産所得の規模が事業的規模か業務的規模かという点に関心を寄せて、資産損失の取扱い、青色事業専従者給与の取扱いなどを定めている。このように、さまざまな点において、「事業的規模」であるのか「業務的規模」であるのかという視角を制度の隅々に織り込んで体系を構築しているのである。 ※なお、東京地裁平成7年6月30日判決(訟月42巻3号645頁)、国税不服審判所平成19年12月4日裁決(裁決事例集74号37頁)は、所得税法上の「事業」か「業務」かは単なる規模ではなく社会通念上「事業」といい得るか否かによって判断すべきと論じている。ここで筆者が規模と述べているのは、そのことを踏まえた上での便宜的な表現であることを付言しておきたい。 これに対して、消費税法における担税力は何に求められているのであろうか。 一般的な消費税は物品やサービスの消費に担税力を認めて課税されるものであるが、その担税力の捉え方は、消費税法上の「消費税」についても同様である。消費税法上の消費税は、直接消費税とは異なり間接消費税であることからすれば、その担税力の所在と納税義務者との関係は見えづらくなってはいるものの、その本質は異ならないはずである。最終的な消費行為の前段階において物品やサービスに対する課税が行われ、あらかじめ租税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的に消費者に転嫁されることが予定されている租税であるから、担税力の所在は直接消費税と異なるところではないはずである。 すなわち、消費支出がどの程度であるかという消費税法上の「担税力」は、その物品やサービスの提供者の活動規模とは直接の関係性を有していないのである。このような基本的な理解を前提とすれば、Xが主張する限界控除制度のような小規模事業者の納税義務の免除制度というものが、消費税法上の納税義務者の範囲を画する議論に用いられたことには違和感を覚える。小規模事業者の納税義務の免除制度は、あくまでも原則論ではなく特例であって、これは消費税制度導入の際に議論された事務負担等への配慮にすぎないのであるから、これをもって消費税法上の納税義務者の範囲を論じることは困難であるといわざるを得ない。 そもそも、消費税は、原則としてすべての物品とサービスの消費に対して「広く薄く」課税することを目的とした租税であって、課税ベースが広いところに特徴がある。例えば、国税不服審判所平成5年7月1日裁決(裁決事例集46号225頁)は、 と論じている。 なお、税制改革法10条1項は次のとおり規定している。 また、消費税法には、所得税法のような業務的規模と事業的規模の別に課税上の取扱いを規定する仕組みも存在しないのであるから、消費税法を所得税法と同様に解することは困難であるように思われる。 この点は、水野忠恒教授も、 と論じられるところである(水野忠恒『租税法〔第5版〕』739頁(有斐閣))。 このように、所得税と消費税がそれぞれいかなる課税物件に対して「担税力」を見出しているのかという点からみれば、両者の差異は明らかであるはずである。したがって、所得税法が規模の大きさに応じて「事業」と「業務」とを分けて課税上の取扱いを異にしているところ、そのような取扱いをしていない消費税法上の「事業」を所得税法上の「事業」と同様に解することは難しいといわざるを得ない。 もっとも、そうであるからといって、租税法律主義の要請する法的安定性の見地からすれば、同じ租税法上の概念(用語)を別異に理解することに躊躇を感じないわけではない。 まして、同じ租税法中の用語の概念の意義は同じように解するべきとの判決があることも踏まえて考えると、この点については、もう少し検討を要するように思えるのである。 (続く)
《編集部レポート》 最大4,500万円の住宅取得等資金贈与が可能に ~直系尊属からの贈与税の非課税措置は家屋取得の契約締結基準に変更 Profession Journal 編集部 平成27年1月から相続増税がなされているのは周知のとおりだが、平成27年度税制改正では、その相続対策ともなる直系親族からの住宅取得等資金贈与特例が大幅に拡充された。これまでにない“大盤振る舞い”な制度の改正となっており、注目が集まっている。 ◆改正の概要 平成26年末で制度の期限が切れた同特例であるが、27年度改正では、平成30年まで制度の延長が盛り込まれたことに加えて、その贈与税の非課税限度額が大幅に引き上げられている。 具体的には、下記の表のとおりである。 ① 住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合 ② ①以外の場合 ◆ ②の表は消費税8%と課税事業者以外との取引でも適用 上表で注目すべきは、通常の贈与税関係の制度の仕組みは、「贈与時期」で判断するのが原則であるわけだが、本改正では「住宅用家屋の取得等に係る契約の締結時期」に判断基準が変更されている点だ。 これは本制度の改正目的として、8%の消費税率引上げに伴う住宅建築着工件数の減少に加えて、10%の引上げを見据えて8%の引上げ時のように再度の景気の冷え込みを食い止めるための措置の一環として設けられていることが影響している。 さて、上表の注目ポイントの2点目が、①消費税率10%時と、②それ以外に別れている点。表①は文字どおり、消費税率10%となる平成29年4月以降の締結期間に対応するものだが、表②は8%時点と単純に考えがちだ。 もちろん、消費税率引上げ前の8%時点の契約締結に係る贈与は表②によるわけだが、「①以外の場合」とは、10%時点であっても「個人-個人」の相対取引など消費税の課税対象から外れる取引がすべて含まれることから注意が必要である。 ◆特例の2度使いが可能に! 本改正について、大綱上で目を引く表現が、次の箇所。 この注書が言わんとしているのは、②の表に応じて消費税率8%の契約締結期間(もしくは消費税課税から外れる者の取引)で住宅取得等資金贈与を受けて住宅を取得等した後に、①の消費税率10%が課税される契約期間に締結した住宅を取得等する場合であっても、再度、非課税となる住宅取得等資金贈与特例の適用が可能ということだ。 一度、非課税となる住宅取得等資金贈与を受けて住宅を購入した後に、その住宅を売却や賃貸とするなどして、再度新たに消費税10%となる住宅取得契約により住宅を購入する場合にも、住宅取得等資金贈与の非課税措置が受けられるというもの。 つまり、特例の2度使いを可能にするという、まさにこれまでの税制では見られなかった「大盤振る舞い」の特例に模様替えすることになる。 ◆「3,500万円の資金贈与+精算課税型資金贈与1,500万円」で最大5,000万円贈与が可能 以上のように、本特例の2度使いが可能となるため、本特例だけで4,500万円(表①で最大3,000万円+表②で最大1,500万円)の財産のシフトが可能となる。このため、本特例は、今後の相続対策にも大きなウエイトを占めることとなろう。 さらに、相続時精算課税による住宅取得等資金贈与が1,500万円用意されていることから、この精算課税制度を有効に活用できる状況にあれば最大で5,000万円の贈与が無税で可能となる。 当然のことながら、相続時精算課税を活用する場合には、相続時の精算や受贈者が贈与者よりも先に亡くなる場合などのデメリットを考慮する必要がある点を確認されたい。 (了)
〈あらためて確認しておきたい〉 『所得拡大促進税制』の誤りやすいポイント 【第3回】 (最終回) 「経過措置の適用に関する留意点」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 - 質問1 - (経過措置が適用できる場合) 当社は平成27年3月期において、所得拡大促進税制の経過措置の適用を受けることを検討しています。 経過措置の適用に当たり、留意すべき点があれば教えてください。 - 回 答 - 平成26年3月期において、改正前の適用要件をすべて満たしていた場合には、たとえ所得拡大促進税制の適用を受けていなくても経過措置の適用を受けることはできない。 また、平成27年3月期においても適用要件を満たしていなければ、経過措置の適用を受けることができない。 - 解 説 - 所得拡大促進税制は平成25年度税制改正によって創設されたものであるが、より一層の適用を促進するために、平成26年度税制改正において適用期限が2年延長されるとともに、下表の通り、適用要件の緩和が行われた(措法42の12の4①)。 改正後の規定は平成26年4月1日以後終了事業年度より適用されることとなったため(措法H26附則82①)、平成26年3月決算法人のみが改正前の規定の適用を受けることなり、それ以外の法人については最初から改正後の制度の適用を受けることとなった。 (注) 措法H26・・・所得税法等の一部を改正する法律(平成26年法律第10号) 所得拡大促進税制のより一層の適用促進という趣旨を踏まえ、改正後の制度の適用を受けることのできなかった平成26年3月期決算法人について、下表の通り経過措置が設けられた。 上表の「対象事業年度(経過年度)」の説明にあるとおり、経過措置の適用を受けることのできる事業年度にはいくつかの除外項目が含まれている。このうち特に、「改正前のこの制度の適用がある事業年度」という表現には留意が必要である。 「改正前のこの制度の適用がある」という表現は、改正前の規定に従い税額控除を受けたということではなく、「改正前の適用要件のすべてを満たしており、税額控除の適用を受けることができる状況にあった」ことを指している。 したがって、以下のようなケースは経過措置の適用を受けることができない。 以上要するに、経過措置の適用を受けるためには、対象事業年度(経過年度)において、改正前の適用要件の一部又は全部を満たしていないことが必要であるという点に留意が必要である。 さらに、経過措置はあくまでも「控除税額の上乗せ措置」であり、その前提として、平成27年3月期においても所得拡大促進税制の適用要件を満たし、税額控除を受けられる状況でなければならない(土台がないところに上乗せなし、ということである)。 なお、経済産業省のホームページには「平成26年3月末決算法人の場合の所得拡大促進税制の判定フローチャート(前年度ともに12ヵ月決算の場合)」が記載されており、上記留意点についてわかりやすく明示されている。 (プロフェッションネットワーク主催セミナー「【平成27年3月決算申告対応】所得拡大促進税制-適用判断と申告実務」使用教材より) - 質問2 - (経過措置の適用可否判定) 経過措置の適用可否判定に当たり、実務上留意すべき事項があれば教えてください。 - 回 答 - 適用要件の見直しに伴い、平均給与等支給額の概念が変更されている。 経過年度において新基準による適用要件を満たしているかどうかを判断するうえでは、特に「平均給与等支給額」及び「比較平均給与等支給額」の集計を早期に実施することが望まれる。 - 解 説 - 質問1で解説したとおり、経過措置の適用を受けるためには、経過年度において「改正後」の適用要件のすべてを満たしている必要があるが、適用要件のひとつである「平均給与等支給額」及び「比較平均給与等支給額」については算定方法が変更されているため留意が必要である。 平均給与等支給額の概念が変更された経緯については、前回(第2回)質問2の解説を参照されたい。 改正前の規定では、比較平均給与等支給額は「前期における平均給与等支給額」をそのまま用いることができたが、改正後の規定では、当期の継続雇用者の範囲を確定させたうえで、対応する前期の支給額を集計するという手順を踏む必要がある。 経過措置の適用可否を判断するうえでは、平成26年3月期における継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額を集計する必要があるが、具体的には、以下のデータについて整理をすることが必要である。 これらのデータはいずれも過去データであり、決算を待たず既に集計可能な状況であるといえる。特に、継続雇用者比較給与等支給額は、平成25年3月期に係るデータであることを考慮すると、早めの準備が望まれる。 - 質問3 - (連結納税における経過措置) 当社は連結納税を採用しており、平成27年3月期において所得拡大促進税制の経過措置の適用を受けることを検討しています。 そこで、経過措置のうち連結納税に特有の留意点があれば教えてください。 - 回 答 - 経過年度と特例事業年度との間で、納税者ステータス(単体納税・連結納税)が変更される場合における経過措置として、適用要件の判断単位と、経過措置(上乗せ控除)の計算単位についての取扱いが定められている。 - 解 説 - 連結納税を適用している場合には、所得拡大促進税制は「連結納税グループ全体で計算する税額控除項目」とされており、以下のような特有の取扱いが定められている(措法68の15の5、措令39の46)。 つまり、連結納税グループについては、たとえ個々の連結法人ごとに適用要件を満たしていたとしても、連結納税グループ全体として適用要件を満たしていなければ、グループ全体として本税制の適用を受けることができない(またはその逆)。 このような特徴があるため、経過措置の適用を検討するに当たって、経過年度と特例連結事業年度との間で単体納税と連結納税を行き来する局面(納税者ステータスの変更)が生じる場合において、適用要件の判断と上乗せ控除の計算をどの単位で行うかが問題となる。 これを踏まえ、連結納税を適用する場合に固有の事象である納税者ステータスの変更に関する経過措置の取扱いについて、下表の通り規定されている。 (※) 加入・離脱に関係しない他の連結法人については、グループ全体で判断・計算する。 このように、経過措置の適用可否を判断する場合の適用要件の判断単位は、基本的には、経過年度における納税者ステータスに基づくこととされている。 そのうえで、上乗せ税額の取扱いは、対象事業年度における納税者ステータスに基づくこととなるが、基本的にはその法人の単体の状況で計算することとなる。例えば、新規加入の場合には、連結グループ全体としては経過措置の適用を受けられない場合であっても、新規加入法人単体のみ、上乗せ控除を行うことができるということもあり得る。 ただし繰り返しになるが、経過年度において適用要件を満たしていたとしても、対象連結事業年度(又は対象事業年度)においてその法人が適用要件を満たしていない限り、上乗せ控除を行うことができない点に留意が必要である。 なお、上乗せ控除を行った場合の連結法人税個別帰属額の減算調整額の算定に当たっては、按分基準となる各連結法人の雇用者給与等支給増加額に、それぞれの上乗せ分(経過年度における雇用者給与等支給増加額)を含めて計算することとなる(措令H26附則29)。 (連載了)
[平成27年3月期] 決算・申告にあたっての留意点 【第2回】 「生産性向上設備投資促進税制・中小企業投資促進税制の上乗せ措置」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成26年度税制改正における改正事項を中心として、平成27年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。第1回は、「復興特別法人税の前倒し廃止」と、「交際費課税の見直し」について解説した。 第2回は、「生産性向上設備投資促進税制」と「中小企業投資促進税制の上乗せ措置」について、平成27年3月期決算において留意すべき点を解説する。 1 生産性向上設備投資促進税制 青色申告法人が、平成29年3月31日までに新品の機械装置等を取得又は製作等して、国内の事業の用に供した場合に、即時償却等又は税額控除の選択適用を認めるものである。その概要は次のとおり。 (※) 生産、販売、役務提供といった付加価値の生成による収益稼得に直接関係しない設備(本店や寄宿舎等としての建物、事務用器具備品、福利厚生施設等)は、対象にはならない。 「先端設備」、「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」の詳細 (※) 「器具備品」のサーバー用電子計算機と、「ソフトウエア」は中小企業者等の場合のみ対象となる。 【最低取得価額】 平成26年1月20日から平成26年3月31日までに上記の対象設備を取得・事業供用した場合でも、その事業年度が平成26年3月31日までに終了する場合には、その翌事業年度(平成26年4月1日を含む事業年度)に上記の措置を受けることができる。すなわち、事業供用した事業年度と、税制措置を受けることができる事業年度が異なることになる。 したがって、平成27年3月期決算においては、平成26年1月20日から平成26年3月31日まで、及び平成26年4月1日から平成27年3月31日までに取得・事業供用した対象設備について、生産性向上設備投資促進税制を適用できることになるので、注意が必要である。 2 中小企業投資促進税制の上乗せ措置 ▷中小企業投資促進税制の概要 中小企業者などが、平成29年3月31日までに新品の機械装置などを取得又は製作して、対象事業の用に供した場合に、その事業の用に供した事業年度において、特別償却又は税額控除の選択適用を認める制度である。 制度自体は以前からあったが、平成26年度税制改正によって拡大及び延長が行われている。改正後の適用要件等は次のとおりである。 (※) 船舶については、取得価額の75%×30%が特別償却の額 この税制は、上記のとおり以前から存在したものであり、平成27年3月期から適用開始される制度ではない。 しかし、平成26年度税制改正により上乗せ措置が設けられており、3月決算法人においては平成27年3月期から適用されるので、注意が必要である。 以下では、その上乗せ措置について解説する。 ▷上乗せ措置の導入 平成26年1月20日以後に取得・事業供用した設備に対して中小企業投資促進税制を適用するに当たり、その設備が「生産性向上設備投資促進税制」の対象設備に含まれるものである場合は、中小企業投資促進税制において次のとおりに上乗せ措置が設けられた。 【上乗せ後の特別償却額及び税額控除額】 平成26年1月20日から平成26年3月31日までに上記の上乗せ対象設備を取得・事業供用した場合でも、その事業年度が平成26年3月31日までに終了する場合には、その翌事業年度(平成26年4月1日を含む事業年度)に上記の措置を受けることができる。すなわち、事業供用した事業年度と、税制措置を受けることができる事業年度が異なることになる。 したがって、平成27年3月期決算においては、平成26年1月20日から平成26年3月31日まで、及び平成26年4月1日から平成27年3月31日までに取得・事業供用した上乗せ対象設備について、中小企業投資促進税制を適用できることになるので、注意が必要である。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第8回】 (最終回) 「簡易課税における確定申告書及び付表の作成(その2)」 ~2種類以上の事業を行っている場合~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 2種類以上の事業を行っている場合の確定申告書及びその付表については、みなし仕入率の原則計算を行い、さらに特例計算が適用される場合にはその計算も行うこととなるので注意しなければならない。 設 例 F株式会社の当課税期間(平成26年1月1日~平成26年12月31日)の課税売上高等の状況は次のとおりである。なお、仕入税額控除の計算方法は、簡易課税制度による。 (ⅰ) 付表4の①欄から⑥欄(④欄を除く)までの作成 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ⅱ) 付表5-(2)の作成 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〔付表5-(2):Ⅰ 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額〕 〔付表5-(2):Ⅲ 2種類以上の事業を営む事業者の場合の控除対象仕入税額〕 (1) 事業区分別の課税売上高(税抜き)の明細 (2) (1)の事業区分別の事業区分別の課税売上高に係る消費税額の明細 (3) 控除対象仕入税額の計算式区分の明細 イ 原則計算を適用する場合 ロ 特例計算を適用する場合 (イ) 1種類の事業で75%以上 (ロ) 2種類の事業で75%以上 ハ 上記の計算式区分から選択した控除対象仕入税額 (ⅲ) 付表4の④欄及び⑦欄以降の作成 (ⅳ) 確定申告書の作成 確定申告の作成については、付表4及び付表5-(2)を作成し、その内容を反映させることとなるが、具体的には第7回の連載を参照されたい。 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (連載了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第7回】 「改正の内容⑥」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-1-9 中間申告 改正前は内国法人の中間申告に関する規定を準用することとされていたが、帰属主義への移行により、PEを有する外国法人が「恒久的施設帰属所得」と「それ以外の国内源泉所得」の2つの課税標準を有することとなったことから、外国法人特有の取扱いの明確化を図る等の観点から、外国法人の中間申告に関する規定の整備が行われた(法法144の3、144の4、144の5)。 3-1-10 確定申告 改正前は内国法人の確定申告に関する規定を準用することとされていたが、帰属主義への移行により、PEを有する外国法人が「恒久的施設帰属所得」と「それ以外の国内源泉所得」の2つの課税標準を有することとなったことから、外国法人特有の取扱いの明確化を図る等の観点から、外国法人の確定申告に関する規定の整備が行われた(法法144の6、144の7、144の8)。 (参考) 恒久的施設を有する外国法人の確定申告に係る記載事項(イメージ) (「平成26年度税制改正の解説」(財務省)737頁) 3-1-11 納付 外国法人の中間申告、確定申告に係る規定の整備が行われたことに伴い、中間申告、確定申告による納付について規定が整備された(法法144の9、144の10)。 3-1-12 還付 (1) 所得税額等の還付 PEを有する外国法人については、PE帰属所得に関する法人税から所得税額及び外国税額が控除され、PE非帰属国内源泉所得に係る所得に対する法人税から所得税額の控除がそれぞれ別々に行われることとなった(法法144の11①)。 (2) 中間納付額の還付 規定の整備が行われた(法法144の12)。 (3) 欠損金の繰戻しによる還付 帰属主義の導入により、PEを有する外国法人は2つの課税標準を有することとなったことに伴い、それぞれの課税標準に係る国内源泉所得に係る欠損金はそれぞれの国内源泉所得のみから控除できることになった。これに伴い、欠損金の繰戻し還付に関する規定についても整備された(法法144の13)。 PEを有する外国法人は、2つの課税標準ごとに繰戻還付額を計算して還付請求を行うことになる(法法144の3①)。 PEを有しない外国法人の繰戻還付額の請求についても規定が整備された(法法144の3②)。この取扱いは、外国法人が連続して青色確定申告書を提出している場合であって(租税条約によりすべての国内源泉所得について確定申告を要しないとされている場合を除く)、当該欠損事業年度の確定申告書を期限内に提出した場合に限り適用される(法法144の13⑧)。 (参考) 恒久的施設を有する外国法人に係る欠損金の繰戻し還付(イメージ) (「平成26年度税制改正の解説」(財務省)744頁) 3-1-13 更正の請求 外国法人の更正の請求についても規定が整備された(法法145)。 具体的には、PE帰属所得に係る所得の金額等について、修正申告書を提出し、又は更正若しくは決定を受けたことに伴い、当該事業年度の法人税額が過大、又は中間納付額の還付金額が過少となる場合には、その修正申告書を提出した日又はその更正又は決定の通知を受けた日の翌日から2月以内に限り、国税通則法23条1項の規定による更正の請求ができることとされた。 3-1-14 青色申告 《改正前》 内国法人の青色申告に関する規定が準用されている(旧法法146①)が、外国法人の特殊性が考慮されて必要な読替え規定が置かれている(旧法法146②、旧法規62)。 帳簿書類への記録の対象となる取引は、外国法人については国内源泉所得に影響を及ぼすすべての取引となる。また、帳簿書類の保存については、納税地に補完することを困難とする相当の理由があると認められる場合には、その写しを納税地に保存していればよいとされる。 《改正後》 引き続き内国法人の規定を準用することとされたが、帰属主義への見直しに伴い、青色申告の承認申請の提出期限等の基準日となる日等については、PEを有することとなった日とされた(法法146②)。 帳簿書類への記録の対象となる取引に関しては、PEを有する外国法人については、内部取引を含めることとされた(法法146条による読替後の法法126、法規62による読替後の法規53、54、55、59等)。 認識すべき内部取引は、私法上の取引ではなく、契約書等の証憑類が当然には存在しないため、証憑類に相当する書類を作成することが義務付けられた(法法146の2②、法規62の3)。それらの内部取引に関する証憑類も青色申告の承認を受けた外国法人が保存する帳簿書類に加えることとされた(法規62による読替後の法規59①三)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第36回】 「法人税基本通達改正の歴史⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 昭和40年度に法人税法全文改正が行われ、さらに、昭和42年度に公正処理基準が導入された。 現行法上、貸倒損失については、法人税法に定めがなく、法人税法22条4項に規定する公正処理基準に従って処理することになるため、貸倒損失についての法人税法上の取扱いを理解するためには、昭和42年度に導入された公正処理基準について理解する必要がある。 本稿においては、公正処理基準の導入とその背景として出された2つの意見書について解説を行う。 5 公正処理基準の導入 まずは、昭和27年度に公表された「税法と企業会計原則との調整に関する意見書(昭和27年6月16日・経済安定本部企業会計基準審議会中間報告)」について解説したい。 本意見書は、その前書きにもあるように、 と述べている。すなわち、会計と税法とで目的が異なることから完全な一致は不可能であるとしても、可能な限り、調整を行うべきであるという立場から意見が述べられたものであり、当時の法人税法における貸倒準備金と企業会計における貸倒引当金との差異についても意見が書かれている。 これに対し、国税庁の立場としては、会計と税法は目的が違うということから、基本的には批判的な立場となっており、国税庁が公表した「『税法と企業会計原則との調整に関する意見書』について(昭和27年7月23日直法1-101)」においてもそのことが読み取れる。そうはいっても、法人税法が全く企業会計を無視したうえで課税所得の計算を行うことができるわけでもなく、その後の法人税法の改正については、企業会計を意識したものが散見される。 この点につき、武田昌輔教授は、 と述べられている。 その後、昭和40年度の法人税法の全文改正が行われることになるが、税制簡素化についてもその目的のひとつとされている。このときに、現在の法人税法22条1項から3項、5項に相当するものが導入されることになる。 さらに、昭和42年度税制改正において、現在の法人税法22条4項に規定する「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」という規定、すなわち、公正処理基準が導入されることになる。公正処理基準はアメリカにおける「一般に承認された会計原則(generally accepted accounting principles)」に相当する概念である。 公正処理基準の具体的な内容については様々な見解があるが、企業会計原則のみが「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」であるというわけではなく、確立した会計慣行を広く含めるべきであるという点には争いはない。しかしながら、何が確立した会計慣行であるのかという点については、会計ビッグバンから現在までの会計制度が大きく変わったこともあり、必ずしも明確ではないと考えられる。また、金子宏教授は、『租税法(第18版)』296-297頁において、企業会計原則の内容や確立した会計慣行が必ずしも公正妥当とは限らず、また、網羅的であるとはいえないという指摘をされている。 これに対し、私見ではあるが、企業会計と法人税法はそもそもの制度目的が異なることから、企業会計における諸基準において定められているものであったとしても、法人税法の制度趣旨に遡って、異なる視点により異なる解釈が求められることも存在し得ると考えている。 公正処理基準が導入された以降の税実務を見てみると、企業会計に比べて収益の認識を早めに行い、費用及び損失の認識を遅めに行っている事例は少なからず存在する。たしかに、過度に保守的な対応であるというものも存在しなくもないが、実際には、業界における暗黙の了解のようなものも存在するというのも事実である。さらに、「企業会計原則」は会計ビッグバンに対応しきれておらず、過去20年の間に五月雨式に出された会計基準、適用指針や実務指針の方がむしろ「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に近いと考えられる。 「中小企業の会計に関する指針」がダブルスタンダードを認めておらず、国際会計基準についても連結財務諸表のみが導入されており、個別財務諸表においては導入されていないという現状を考えれば、企業会計基準委員会、企業会計審議会、公認会計士協会等から出されたものと異なる会計慣行というのは、そもそもとして適正に会計処理がなされていない違法な会計慣行というべきであり、公正妥当なものとは言い難い。 すなわち、法人税法の制度趣旨に遡って、異なる視点により異なる解釈が行われるような場合を除き、企業会計基準委員会、企業会計審議会、公認会計士協会等から出されたものが「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と捉えるべきであると考えられる。 また、昭和42年度税制改正に先立って、昭和41年度においては、「税法と企業会計との調整に関する意見書(昭和41年10月17日大蔵省企業会計審議会中間報告)」が公表されることになる。 本意見書は、「調整の対象を税法と企業会計原則のみに限定せず、税法・税務行政と企業会計原則・企業会計実務との間に存する差異についても取り上げている」という点に特徴がある。さらに、法人税法の課税所得計算については税法に準拠する旨の考え方を導入すべきであると指摘しており、例えば、 旨の規定を設けるべきであるということも指摘している。 このような時代の流れにより、会計と税務の調整が図られ、法人税法22条4項に規定する公正処理基準が導入されることになったのであるが、本稿のテーマである貸倒損失については、回収可能性の判断、損失の確定の判断については、企業会計よりも厳格に捉えられていると思われる点も少なからず存在する。 例えば、日本興業銀行事件における控訴審判決においても、 と判示している。 昭和40年度税制改正における法人税法の全文改正の流れは、昭和44年度の法人税基本通達の全文改正に繋がり、従来、同通達78の2から78の12に定めていた貸倒損失の取扱いについては、同通達9-6-1から9-6-11に定められることになった。具体的な内容については、若干の修正があるものの昭和42年度法人税基本通達の内容と大きくは変わらず、そのまま継承されているものがほとんどであるため、本稿においては具体的な解説を省略することとする。 次回においては、シャウプ勧告から昭和44年度の法人税基本通達全文改正までの間の議論を振り返りながら、部分貸倒れの論点について検討をする予定である。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第26回】 株式会社エナリス 「第三者調査委員会調査報告書(平成26年12月12日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 株式会社エナリスの概要 株式会社エナリス(以下「エナリス」と略称する)は、2004年(平成11年)12月設立。電力をはじめとするエネルギー商品の購入・販売コンサルティング及び特定電気事業者に対する業務代行、卸電力の売買取引仲介などを主な事業としている。連結売上高10,177百万円、連結経常利益681百万円(数字はいずれも平成25年12月期)。従業員数100名。本店所在地、東京都千代田区。東証マザーズ上場。 調査報告書のポイント 1 調査に至った経緯――WEBサイトへの書き込み エナリスが、「一部WEBサイトへの書込みについて」と題するリリースを公表したのは、平成26年10月24日であった。そこでは、エナリスの平成25年12月期有価証券報告書に記載のあるテクノ・ラボ株式会社(以下「テクノ・ラボ」と略称する)に対する売掛金10億500万円の実在性に関する疑義が書き込まれていることに対し、同社との契約解除を認めたうえで、同じ発電設備を東証一部の金融機関に販売し、12月末までに入金予定であることが説明されていた。 しかし、その後、当該取引についての疑義が拡大し、社内調査委員会による調査を経て、第三者調査委員会による調査が行われるに至ったものである。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 不適切な会計処理と認定された取引類型 第三者調査委員会が不適切な会計処理であると認定した取引は、次のとおり7つに分類されている。 本稿では、金額的重要性の高い取引①を中心に、不適切な会計処理が行われてきた経緯を検証したい。 (2) テクノ・ラボとの取引の経緯 本商談は、もともと福島県の発電プロジェクトをめぐるものであり、発電事業者はエナリスが融資した資金(約8億5,000万円)をもとに、発電所を建設、平成25年3月末までに発電を開始して、経済産業省から補助金を受けた後、融資金額を返済するというものであった。 しかし、平成25年4月中旬になっても発電事業は開始されず、当然、補助金の受給もできなかったことから、エナリスは発電機に設定された譲渡担保権を実行し、これを第三者へ売却することを企図する。 同年11月、エナリスは、テクノ・ラボとの間で、この発電機を10億500万円(消費税額等を含む)の価格で売買する契約を締結、12月13日付の物品受領書を取得したことから、同日において、売上計上を行った。 しかし、本来の支払期日である平成26年1月30日が2度にわたって延伸され、エナリスは転売先を探索することになる。 (3) 発電機の一部盗難とリース会社への転売 テクノ・ラボからの回収が滞っているさなかの平成26年4月、発電機18台のうち、3台が盗難にあったことが判明する。契約条項によれば、所有権の移転時期は「売買代金の入金日」であり、盗難発覚時点では、エナリスが所有権を有しているにもかかわらず、エナリスは何ら会計処理もしないまま、残る15台の発電機の転売を進める。 その結果、エナリスがリース会社(AX社)発電機を売却、リース会社はこれをグリーン燃料開発株式会社(AW社)に割賦販売し、エナリスはAW社が発電した電気を買い取るというスキームで合意に達し、6月30日、リース会社との間で、検収期限を11月30日とする売買契約を締結、同日付で、テクノ・ラボとの間の売買契約を解除した。 しかし、本契約は、12月29日になって「合意解除」されたことがリリースされている。 (4) 社長、会長による独断専行 上記の発電機売買取引(①)は、代表取締役社長である池田元英(以下「池田社長」という)が推進した事業であり、当初の発電事業者との間の基本合意者が、取締役会に付議されることなしに締結され、また、取引先審査も行われていなかった。取引⑦に係る商談についても、池田社長は、取引承認申請の過程において、合議部門である経理担当者のコメントを無視して、決裁を行っていた。 また、取締役会長である久保好幸(以下「久保会長」という)もまた、自らが主導した取引③から⑤について、正規の手続きを履践せず、取引の適正性よりも形式的な売上計上を優先させた。例えば、取引③は、子会社の連結外しによる売上計上を企図したものであり、取引⑤は、本来ならば、有償支給品として工事業者に支給すべき部材を、エナリスが別の会社に販売したように見せかけたうえで、工事業者に買い取らせる方法により売上を計上したものである。 エナリスの売上計上基準は「引渡基準」であるにもかかわらず、不適切な会計処理と認定された取引においては、物品受領書の交付を受けずに売上計上がされたものがあり、取引⑦では、エナリスが契約する倉庫に保管されたまま売上が計上されており、それが結果的に、売掛金の未回収、多額の返品につながっていることがうかがえる。 (5) 過年度決算に与えた影響額 3 調査報告書の特徴 (1) 2回に分けて公表された調査報告書 エナリス第三者調査委員会は、平成26年12月12日に調査報告書(以下、後記する追加報告書と区別するために、「第1次報告書」という)として事実関係と適切な会計記処理に関する報告を行い、同月19日、追加報告書として発生原因及び責任の所在並びに再発防止策の分析検討を行った結果を報告している。 これは、提出期限延長後の平成26年12月期第3四半期報告書の提出期限である12月12日までに調査報告書をまとめ、同日までに、過年度決算の訂正を行うための苦肉の策であったかと思料される。 (2) 責任の所在についての厳しい判断 追加報告書では、池田社長、久保会長の責任について、厳しい指弾がされている。 こうした報告を受けて、12月19日の会社側のリリースでは、池田社長、久保会長の取締役辞任とともに、後任の代表取締役社長として、社外取締役である村上憲郎氏が就任すること公表された。 (3) 再生可能エネルギーをめぐる報道 エナリスは、平成26年10月1日、「電力会社の再生可能エネルギー発電設備接続申込み保留による当社への影響について」を、同月14日には、「経済産業省による大規模太陽光発電施設の新規認定一時停止の検討の報道について」というリリースをそれぞれ公表し、電力会社の方針転換や政策の変更が、エナリスの業績に与える影響は軽微であることを説明している。 第1次報告書では、「エナリスと電力会社間の電力の部分供給に係る契約交渉が遅れる」ことや「貴社(引用者注:エナリス)の風評被害等により検討はサスペンドの状況」となっていることなどが、キャンセルの原因になったという記述があることを考え合わせると、国による再生可能エネルギー政策の推進を追い風に業績を伸ばしてきたエナリスにとって、こうした報道が業績に与えた影響は決して軽微ではなく、そうした逆風の中、売上至上主義に邁進する経営トップの姿勢が、不適切な売上計上を誘引した面も否定できないのではないだろうか。 4 再発防止策の提言 第三者調査委員会がまとめた再発防止策は、次の11項目にわたっている。 エナリスに特有の再発防止策としては、(8)に掲げられた「池田社長の持分比率の低下」が挙げられよう。平成26年3月期有価証券報告書によれば、池田社長及びその親族と見られる者の持ち株割合は54.9パーセントであり、他の株主がすべて5パーセント未満の株式しか所有していないことを合わせて考えると、池田社長が経営の一線から退いたとしても、大株主として権力を行使する恐れがないとは言えない。そこで持分比率を下げるための具体的な方策として、エナリスによる自己株式としての取得、第三者による取得、増資による希釈化などの方法が列挙されている。 こうした提言を受けて、エナリスが12月19日のリリースで公表した再発防止策は以下のとおりである。概ね、第三者調査委員会の提言に沿った内容となっているが、当然のことながら、上記の「池田社長の持分比率の低下」については言及がない。 その後、エナリスは、平成27年2月5日に、「最高財務責任者(CFO)の就任に関するお知らせ」と「「経営監視委員会」の発足に関するお知らせ」を公表した。最高財務責任者(CFO)は三井住友銀行から招聘され、「幅広い経営実務から経営管理部門のマネジメント強化」を図っていただきたいという就任理由が開示されている。一方、第三者調査委員会のメンバー3名がそのまま就任することとなった、経営監視委員については、選任理由はとくに触れられていない。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第2回】 「個別B/Sの「その他利益剰余金」が空欄になっているミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトには、うっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例2-1】 貸借対照表(個別)の「その他利益剰余金」の欄に数字が記載されていない。 【事例2-1】は、貸借対照表(個別)の純資産の部だけを切り出して掲載したものです。この中の「その他利益剰余金」が空欄になっているというミスの例です。 一見、何の問題もなさそうに見えますが、この欄は数字を記載すべきところです。空欄ではいけないのです。 ではなぜ、空欄のままにしてしまったのでしょうか。 後から気づくこともできなかったのでしょうか。 実はこのミス、起こるべくして起こったものです。 貸借対照表(個別)の「その他利益剰余金」は、このミスがよく起こる場所なのです。 2 リサイクル・ミスを防ごうとした工夫が仇に 本連載の【第1回】で、「前期の数字が当期の決算書に載っている」というミスの事例を紹介しました。 そのミスの原因は、前期の決算書のデータファイル(エクセルやワード等)をコピーして利用すること(データのリサイクル)にありました。前期の決算書データの数字部分に当期の数字を上書きしていく際、一部の科目で上書きし忘れてしまうというものです。上書きし忘れたところは、前期の数字がそのまま残ってしまいます(リサイクル・ミス)。 このリサイクル・ミスを防ぐ方法として、次のような方法が考えられます。 ファイル内のデータを上書きする際に、数字をひとつずつ上書きしていくのではなく、最初にすべての数字データを消去し、数字が一切入力されていない状態の決算書フォームを用意し、その状態から当期の数字を入力していくという方法です。こうすれば、前期の数字が残ってしまうリスクはゼロになります。前期の数字は最初にすべて消去しているので、残りようがないからです。 ところが、この方法は別のうっかりミスを招く可能性があります。 数字を入力すべき欄に数字を入力し忘れるというミスです。 数字をひとつずつ上書きしていく場合は、前期の数字が入力されている欄に当期の数字を入力していくので、こうしたミスは起きません。しかし、最初に前期の数字を全消去してしまうと、数字が何も入力されていない状態から数字の入力をするため、何も入力せずに済ませてしまうというミスが起こるのです。 3 B/S(個別)の「その他利益剰余金」に注意 何も入力せずに済ませてしまうミスが起こるとはいっても、ほとんどの科目では、そのようなミスは起こりません。 このミスが起こる可能性が高いのは、貸借対照表(連結・個別)の大科目や中科目といった集計科目の欄です。小科目の数値入力の際は、間違いのないように神経を使って行いますが、小科目のほうに気を取られてしまうと、大科目・中科目でミスをするからです。 特に貸借対照表(個別)の「その他利益剰余金」は、このミスが最も起きやすいところです。 【事例2-1】をご覧いただくとわかるとおり、貸借対照表(個別)の純資産の部は、内訳の中にさらに内訳を表示するという面倒な構造になっています。「その他利益剰余金」については、さらにその内訳を表示することになっており、【事例2-1】でも「別途積立金」と「繰越利益剰余金」が表示されています。 こうした面倒な構造が、数字の入力作業時に余計な神経を使わせてしまいます。 そのため「その他利益剰余金」でミスが起こるのです。 4 発見しづらいのがこのミスの特徴 このミスの怖いところは、ミスが起きても気づかないことです。【事例2-1】のように「その他利益剰余金」のところが空欄になっていても、違和感がありません。 加えて、このミスは計算チェックをしても見つかりません。数字の入力ミスは、たいていの場合、計算チェックで発見されますが、このミスはそうではないのです。空欄の項目は計算チェックの対象外ですから、計算チェックを行ってもひっかかることがないのです。 このミスが見過ごされやすい理由はもうひとつあります。 有価証券報告書の個別財務諸表では、計算書類の貸借対照表(個別)と違って、純資産の部の「その他利益剰余金」の欄は数字が記載されないのです。上場会社の経理担当者の場合は、この様式を日頃から目にしているため、計算書類の貸借対照表(個別)で「その他利益剰余金」が空欄になっていても、異常だと感じないわけです。 結局、このミスを防ぐには「ここでこういうミスがよく起きる」ということを頭に入れておくのが、手っ取り早いといえるでしょう。 〈今回のまとめ〉 貸借対照表(個別)の純資産の部の「その他利益剰余金」が、空欄になっていないか確認すること。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第71回】 リース会計⑤ 「転リース」 仰星監査法人 公認会計士 薄鍋 大輔 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (1) 回収・返済スケジュール表 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 仕訳( 単位:千円) ① X1年4月1日(リース取引開始日) (*1) 利息相当額控除後の金額で計上する方法によっている(リース取引に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針という)47項)。 ② X1年4月30日 (ⅰ) 第1回 回収 (*2) C社からの受取リース料 (*3) 回収・返済スケジュール表より(元本分) (*4) 回収・返済スケジュール表より(当該転リース取引において手数料収入以外の利益は生じないため、利息相当額については預り金として処理する) (*5) ① 受取リース料総額60,300千円-支払リース料総額60,000円=300千円 ② ①×1ヶ月/60ヶ月=5千円(手数料総額300千円を毎月定額で配分する) (ⅱ) 第1回 支払 (*6) 回収・返済スケジュール表より (*7) (*4)で計上した金額 (*8) B社への支払リース料 以後も同様の会計処理を行います。 〈会計処理の解説〉 転リース取引とは、リース物件の所有者から当該物件のリースを受け、さらに同一物件を概ね同一の条件で第三者にリースする取引をいいます(適用指針47項)。 転リース取引の特徴は、これを行う会社がリース契約の貸手と借手の両方の立場で取引を行い、場合によっては、実質的にリース契約を仲介しているといえる点にあります。 本事例の取引の全体像を図に示すと次のようになります。 本事例でみれば、A社にとっては、C社からの受取リース料とB社への支払リース料の差額が手数料収入としての性格を有しているといえます。そのため、A社においては、貸借対照表上は貸手としてのリース投資資産と借手としてのリース債務の双方を計上する(仕訳①)こととなりますが、損益計算書上は、借手としての支払利息、貸手としての売上高、売上原価等の計上は行わず、手数料収入相当額を転リース差益等の名称で計上する(仕訳②)こととなります。 なお、本事例では、リース投資資産およびリース債務を利息相当額控除後の金額で計上しているため、リース投資資産の回収・リース債務の返済の会計処理では、元本部分と利息部分を分けて、利息部分については、預り金勘定で処理します。 * * * 次回は残価保証があるケースの会計処理について解説します。 (了)