《速報解説》 「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」が確定 ~契約変更時の借手の会計上の取扱いについて規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月11日、企業会計基準委員会は、「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第31号の改正)を公表した。これにより、平成26年11月21日付で意見募集を行っていた公開草案が確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 平成26年6月30日の実務対応報告第31号の公表に際して、「契約変更時の借手の会計上の取扱いについて別途定める」とされていたものについて、規定を設けたものである。 リース・スキームにおけるリース契約の変更の取扱いについて、以下のように会計処理を行う。 次の設例が示されている。 1 ファイナンス・リース取引かどうかの再判定 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された場合のファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの再判定にあたっては、契約変更日に、契約変更後の条件に基づいてリース取引開始日に遡って、実務対応報告第31号3項の判定を行う(6項、23項)。 判定を行うにあたって、借手が現在価値基準を適用する場合において現在価値の算定のために用いる割引率は、借手が契約変更後の条件に基づいてリース取引開始日における貸手の計算利子率を知り得るときは当該利率とし、知り得ないときは契約変更後の条件に基づいてリース取引開始日における借手の追加借入に適用されていたであろうと合理的に見積られる利率とする(7項)。 2 オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引への変更 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された結果、オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引となるリース取引については、契約変更日より通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行い、契約変更日に、リース物件とこれに係る債務を、リース資産及びリース債務として実務対応報告第31号9項に示す価額で計上する(8項)。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、リース適用指針23 項から30項の方法に準じて会計処理し、所有権移転ファイナンス・リース取引については、リース適用指針38項から44項の方法に準じて会計処理する。 リース物件とこれに係る債務をリース資産及びリース債務として計上する場合の価額は、原則として①の方法による。ただし、当該リース資産及びリース債務の価額を②の方法によることもできる(9項、25項)。 Ⅲ 適用時期 適用時期は、公表日(平成27年3月11日)以後適用する。 (了)
《速報解説》 「自己株式等会計基準」「退職給付会計基準」「在外子会社の取扱いに関する実務対応報告」等の改正が確定 ~各改正の適用時期に留意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月26日、企業会計基準委員会は次の会計基準等の改正について公表した。 これにより、平成26年12月24日に意見募集されていた公開草案が確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準等の改正 1 主な改正内容 平成26年3月26日付の「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第19号)の単体開示の簡素化により、財務諸表等規則107条2項では、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、自己株式に関する注記を要しないと規定されている。 当該規定に対応して、以下のように改正する。 なお、アンダーラインは筆者が記載したものである。 2 適用時期等 改正された会計基準等は、公表日(平成27年3月26日)以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。 Ⅲ 退職給付に関する会計基準の適用指針の改正 1 確定拠出制度に準じた場合の開示 平成24年1月31日付で厚生労働省から発出された、厚生労働省通知「厚生年金基金の財政運営について等の一部改正及び特例的扱いについて」などにおいて、厚生年金基金及び確定給付企業年金に関する財務諸表の表示方法について変更が行われている(「退職給付に関する会計基準の適用指針」72-2項)。 当該変更に対応して、複数事業主制度の会計処理及び開示に関する「確定拠出制度に準じた場合の開示」について改正する(「退職給付に関する会計基準の適用指針」65項、126-2項)。 2 簡便法による退職給付債務の計算 簡便法による退職給付債務の計算について、112-2項が新設され、簡便法による退職給付債務の計算にあたり、年金財政計算上の数理債務の額を用いる場合には、厚生年金基金及び確定給付企業年金の貸借対照表の欄外に注記されている「数理債務」の額(厚生年金基金の場合は当該「数理債務」の額と貸借対照表に表示されている「最低責任準備金」(負債)の額の合計額)を勘案して退職給付債務を計算することに留意する必要があると述べられている。 3 適用時期等 公表日(平成27年3月26日)以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。 改正適用指針の適用については、表示方法の変更として取り扱い、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)14項の定めに従って、表示する過去の期間における本適用指針65項の注記についても新たな表示方法を適用する(129-2項)。 Ⅳ 連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い 1 主な改正内容 平成26年1月に改正された米国におけるのれんに関する会計基準への対応及び平成25年9月に改正された「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)への対応として、次の改正を行う。 なお、IFRS 第9号における、その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品への投資の公正価値の変動におけるノンリサイクリング処理等を修正項目として追加するか否かについては、今後、検討を行う予定であるとのことである。 2 適用時期等 改正された実務対応報告及び平成27年改正実務対応報告の公表による他の会計基準等についての修正は、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。 ただし、今回の改正により削除された「少数株主損益の会計処理」に関する取扱いを除いて、平成27年改正実務対応報告公表後最初に終了する連結会計年度の期首から適用できる。 適用に際しての詳細な規定が設けられているので、注意が必要である。 (了)
《速報解説》 馬券訴訟の最高裁判決を受け所得税基本通達の改正パブコメが公表 ~雑所得に該当する場合の詳細な要件を通達34-1に追加~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 競馬の馬券の払戻金に係る所得区分については、去る3月10日の最高裁判所判決により、争点となった馬券の購入の態様から、営利を目的とする継続的行為から生じたものであり、雑所得に該当すること、必要経費についてはすべての外れ馬券の購入金額が対象となることが確定した。 判決の確定を受けて、国税庁は、翌11日、「最高裁判所判決(馬券の払戻金)に係る課税の概要等について」と題するリリースを発表し、裁判で争点となっていた所得税基本通達の改正予定を明らかにした。 〔追記:2018/3/5〕上記国税庁ホームページは公開が終了しています。 次いで、国税庁は、3月25日、パブリックコメントを求める手続きを公示した。 本稿では、所得税基本通達改正に向けた国税庁のリリース内容及び改正案について、検討したい。 なお、最高裁判所3月10日判決については、4月2日に本誌No.113掲載予定の拙稿「租税争訟レポート」【第22回】で取り上げる予定である。 2 「最高裁判所判決(馬券の払戻金)に係る課税の概要等について」 国税庁は、3月11日に公表した当リリースにおいて、「今後の対応」として、次のように記述している。 ここでは、基本通達の改正を行うことが明言されているうえ、同様の課税処分を受け、あるいは争訟となっている納税者に対する救済(リリース上は「是正」)についても言及されているので、全文を引用したい。 3 パブリックコメントの公示(3月25日) 基本通達改正のリリースから約2週間後の3月25日、「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続の実施について」と題されたパブリックコメントの募集手続が公示された。 (1) 所得税基本通達改正(案)の内容 現行の所得税基本通達34-1(一時所得の例示)の(2)に掲げられている「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」の後に、以下(下線部)のような括弧書きと注書きを加えるというのが、改正案の内容である。 (2) 改正(案)に対する国税庁の解説 上記の所得税基本通達改正(案)について、公示の際のリリースには、以下のような解説が記載されている。 (3) 改正(案)の検討 改正(案)を一読して感じることは、馬券の購入を「営利を目的とする継続的行為」と認定させるためには、相当に高いハードルがあるという点であろう。 通達は(注)1として、適用要件を詳細に規定したうえで、さらに、「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合」としており、馬券の払戻金が「雑所得」であると認定することをできるだけ制限したいという国税庁の考えがうかがえるところである。 今回の改正(案)については、競馬の馬券の払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じたもの」であるとする取扱いを認めることが明確に規定されたのは一歩前進であると評価できるが、そのための要件が細かく、また、「客観的に明らか」という課税庁・調査担当者の恣意性が介入する余地のある規定が入れられていることは、課税の公平の面からは問題があると言わざるを得ないところである。 パブリックコメントとしてどのような意見が集まり、それを受けて、国税庁長官が基本通達をどのように改正するかについて、今後も注視したい。なお、パブリックコメントの受付締切は、4月24日とされている。 (了)
2015年3月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.112が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第9回】 「税制改正とその問題点」 税理士 山本 守之 1 2段階の法人税改革 政府は法人税改革として2段階に分けて法人税率を引き下げることにしています。 まず、第一段階(平成27年度~29年度)では実効税率を改正前34.62%から平成27年度32.11%、平成28年度に31.33%とし、(以後は明らかではない)、第2段階は平成30年度、31年度はさらに引き下げ、ドイツ(29.59%)並みにするようです。 第二段階では、次のような改正を見込んでいます。 2 定額法一本化の目的 このうち、減価償却(定額法に限定)や事業税(損金不算入)についてはドイツの2000年改正でも行われたものです。わが国の政府税調では「定率法は節税効果や所得操作の可能性がある」等不合理な発言をしていますが、「定率法も定額法も理論的ですが、税率引下げの財源として定額法に限定します」と言った方が正直です。 また、協同組合等の事業分量配当金は経済的性格が売上割戻しと同じだから損金算入を認めているので、決して過剰支援ではありません。税調はもう少し勉強したらどうでしょうか。 これらを廃止し、協同組合等の法人税等の引下げを行わず所得計算で財源措置を適用すると、これらの法人の所得が増加して公益法人等や協同組合等か普通法人の税率引下げの犠牲となってしまいます。 (注) 財務省では、私のこの指摘に配慮し、平成28年度改正で協同組合の税率を19%から17%~18%に下げるという検討をしているようです。 3 実効税率に関する議論の問題 「日本の法人税は高い、日本の企業の国際競争力向上のためにも法人税の実効税率を引き下げて」という考え方で、平成27年度から数年かけて実効税率を20%台に引き下げることにしています。 「実効税率」は、次のように法人税率と事業税の表面税率をプラスしたものに過ぎません。 (※) 実効税率の計算は、地方税については標準税率ベースで計算している。 税負担は税率に課税ベース(課税所得)を足したものですから、税負担を比較する場合には、表面税率(実効税率)の引上げ・引下げだけで検討すべきでありません。 わが国の税制調査会でも、かつては次の①のように述べていました。 しかし、昭和61年以降は②のように態度を変えました。 しかし、「差し当たり」としてから30年も経過しており、日本の学者の不勉強を示しています。 ②の後、平成8年11月の法人課税小委員会報告では③のように指摘しています。 日本の「実効税率」に事業税率を含めて「高い」としていることにも問題があります。 日本の事業税は本来収益税ですから、収益を生む客体に対しても課税するものですから、たまたまその課税客体を課税標準とするときに所得金額にしているため、税の性格に反して「実効税率」の計算に組み入れられています。これが日本の実効税率を高くしている要因となっているのです。 この計算には「課税標準は所得金額だから所得のうちから支払われるもの」との考え方があるのかもしれません。 しかし、事業税の所得計算上の扱いは物税たる性格に着目して損金の額に算入されており、一般には、製品原価を構成する費用となっています。製造原価に含まれていれば、事業税を負担するのは企業ではなく消費者ですから、企業の実効税率に含めるのは理論的ではありません。 法人税実務では、事業税を原価に含めるか否かは企業の意思に委ねています。これは、 という考え方に基づくものでしょう。 これらの計算のあり方について、日本の学者は意見を述べていません。 今次の税制改正でも、減価償却が定額法に限定され、事業税を損金不算入として所得金額が増加するので、かえって増税になるところもあります。 このように、税負担を検討すべきときに実効税率だけを取り上げるのは誤りなのですが、日本の有識者(学者)や政治家はこれに気付いていません。 4 実効税率に反映されない政策減税 大企業は租税特別措置による政策減税で法人税負担が少なくなっていますが、これは実効税率に反映されていません。政策減税が特定の大企業に集中し、法人税の仕組みに欠陥があるからですが、これも考慮されていません。 平成25年度の研究開発減税は6,240億円で、前年に比べて5割以上増えました。これはトヨタ自動車など大手製造業や製薬業界が研究開発への投資を増やしたためです。上位10社の適用額が全体の4割を占めています。 売上額に占める研究開発費の大きい企業の減税は適用額の9割が上位10社(267億円)という状態です。 利用の偏りという意味では、肉用牛の売却益への減税(222億円)があり、船舶の特別償却(267億円)では、適用額の5割が上位10社です。これらに対してアベノミクスによる賃上げ促進税制は630億円の減収を見込んでいましたが、実際の適用分は420億円だけです。設備投資の税額控除は想定の半分しか利用されていませんでした。 租税特別措置にメスを入れないままに実効税率だけを比較し、税率の引下げをするのは単純な発想です。 5 相続税の基礎控除をめぐる問題 マスコミ論調は「相続税増税」「大変だ、相続税対策が急務」となっています。 これは、相続税の基礎控除が次のように引き下げられたからです。 〈相続税の基礎控除〉 実は、このように改正したのは、過去の税制改正を的確に行っていなかったのを反省したからです。それまでの改正は、昭和58年を100とした場合の地価は平成3年で336.8(三大都市の公示地価、全国の公示地価では199.3)となって「相続税が払えない」という資産家の声を反映して基礎控除を引き上げてきました。 分からないのは、地価がかなり下がった平成6年以降も基礎控除を上げ続けたことです。平成24年時点では、地価は昭和58年を100とした場合に70.0(三大都市地価表示)、84.8(全国地価公示)となっても手を付けていなかったのです。 さらに、地価が上がったため相続税の基礎控除を安易に引き上げると、金融資産を多額に保有している者の相続税負担を不当に減少させてしまうという筆者の意見を無視してきた立法当局の態度がこのような現象を生んでしまったといえます。 相続税の負担には耳を貸すが、勤労による所得によってマイホームを手に入れ、多額の住宅ローンを抱える庶民の所得税負担を無視してきたのも問題です。 〈地価と基礎控除額の推移〉 (財務省ホームページより) さて、相続税の基礎控除が引き上げられると、「大変だ」という声につられて安易な相続税対策が行われるようになりました。 銀行から数億円の借金をして不用な土地を立地を買い漁り、借入金と土地の相続税評価額の差額を使って相続資産の評価額を下げて「節税」しようとしています。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例24(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 東京都より立ち退きによる移転補償金2,000万円を収受したが、移転補償金は収用換地等の場合の所得の特別控除(以下「収用等の特別控除」という)の適用が受けられないと判断し、その適用をせずに申告をした。しかし、その内容は特別控除の適用がある借家人補償金であった。これにより法人税額等につき過大納付が発生し、賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成X4年10月11日 東京都より立ち退きによる1回目の移転補償金を収受。 平成X5年2月5日 東京都より立ち退きによる2回目の移転補償金を収受。 平成X5年5月31日 平成25年3月期の法人税を「収用等の特別控除」を適用せずに申告。 平成X6年8月 関連会社が東京都より立ち退きによる移転補償金を収受。 平成X6年11月21日 関連会社の申告において「収用等の特別控除」の適用が受けられたことから、平成X5年3月期の申告につき確認を求められ、ミスが発覚。 平成X6年11月26日 関与先に報告し、賠償請求を受ける。 《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2) 法人の有する資産につき土地収用法等の規定により資産を譲渡した場合において、その事業年度のうち同一の年中に収用換地等により譲渡した資産のいずれについても圧縮記帳又は特別勘定の適用を受けていないときは、譲渡益の額と収用換地等により取得した補償金の額のうち5,000万円に達するまでの額とのいずれか低い金額を、当該譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 ◆補償金等の種類と課税上の取扱い(措通64(2)-1~2) 収用換地等の場合の課税の特例の適用が受けられる補償金等は、名義のいかんを問わず、原則として資産の収用換地等の対価たる金額に限られる。 ◆対価補償金等の判定(措通64(2)-3) 法人が交付を受けた補償金等のうちにその交付の目的が明らかでないものがある場合には、当該法人が交付を受ける他の補償金等の内容及びその算定の内訳、同一事業につき起業者が他の収用等をされた者に対してした補償の内容等を勘案して、それぞれ対価補償金、収益補償金、経費補償金、移転補償金又はその他補償金たる実質を有しない補償金のいずれに属するかを判定する。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は東京都の再開発事業に伴い入居していたビルからの立ち退きを余儀なくされ、立ち退きによる移転補償金2,000万円を収受した。移転補償金は原則として「収用等の特別控除」の適用はないが、例外として建物の収用等に伴い借家人が転居先の建物の賃借に要する権利金に充てるものとして交付される借家人補償金には適用がある。しかし、被保険税理士は補償金を雑収入に計上しただけで、特別控除の適用をしなかった。 その後、依頼者の関連会社が同様の移転補償金を収受した際、「収用等の特別控除」の適用が受けられたことから、依頼者から平成X5年3月期に収受した移転補償金についても「収用等の特別控除」の適用が受けられたのではないかとの指摘を受け、はじめて特別控除の適用が受けられたことに気づいている。補償金を収受した段階で、その内容を確認していれば特別控除の適用は受けられたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 思い込みに注意する。 本事例は「収用等の特別控除」は対価補償金以外は対象にならないとの思い込みから生じたものである。上記《基礎知識》にも記載したように、例外があること、及び、名義のいかんを問わず補償の内容で適用を判断することを再認識し、場合によっては起業者に確認すること。 [ポイント②] チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築 申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第2回】 「同一書式で記載方法により課否が異なる場合」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は百貨店です。 時計宝飾等を修理加工等のために顧客から預かった際に下記の「お預り証」を交付しますが、同じ文書であっても課税文書に該当したり、しなかったりする場合があるとのことですが、その取扱いについて教えてください。 (書式) 時計宝飾等の修理加工依頼を受けた場合に交付する文書には、承り票、引受票、修理票、引換証、預り証、受取書等、作成者によって様々な名称が付けられており、その文書に記載される内容についても、預かる内容等によって様々である。 そこで、上記「お預り証」を基に印紙税の取扱いについて検討することとする。 (記載例1) (記載例2) (記載例3) ▷ ま と め 修理・加工の依頼を受けた際に交付する文書のうち、標題が承り票、引受票と称するものは、標題から修理・加工を引受けた旨が明らかであり、請負契約の成立を証明するものとなる。 また、修理票、引換証、預り証、受取書等と称するもので、仕事の内容(修理、加工箇所、方法等)、契約金額、期日又は期限のいずれか1以上の事項の記載のあるものも同様に請負契約の成立を証明するものといえるであろう。 (了)
贈与実務の頻出論点 【第4回】 「相続人以外の贈与で効果的な節税を」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 生前贈与加算(相法19) 相続または遺贈により財産を取得した者がその相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から贈与により取得した財産は、相続税の課税価格にその贈与により取得した財産の価額を加算します(この規定は暦年贈与を対象にしており、相続時精算課税を適用している場合には、別の規定により相続税の計算上加算されます。以下同じ)。 加算される贈与財産に対して過年度に贈与税の支払いがされている場合には、その支払った贈与税については、相続税の計算上控除します。 相続税の生前贈与加算は、相続または遺贈により財産を取得した者に限られるため、相続または遺贈により財産を取得していない者への生前贈与は、加算されません。 相続税で適用される最高税率が贈与税の実効税率よりも高い場合には、積極的に生前贈与を行ったほうがいいのですが、贈与後3年以内に相続が発生してしまっては意味がなくなってしまいます。相続人以外への贈与を行うことで、効果的な生前対策をすることができます。 下の図表では、毎年500万円の贈与を行っていて相続が発生した場合、相続人である子に贈与を行ったときと相続人でない孫への贈与を行っていたときを比較したものです。相続開始時の相続財産が3億円、相続人が子2人であることを前提としております。 相続人ではない孫に生前贈与をしていた場合には子に生前贈与をしていた場合と比べて454.5万円の節税、さらに孫2人に分散して贈与をしていた場合には516万円節税となっています。 〈相続人以外への生前贈与の効果〉 *1 上表は年間500万円生前贈与、相続開始時の相続財産3億円相続人子2人の場合 *2 ③のケースでは、孫1人につき250万円(計500万円)贈与した場合で計算しています。 *3 生前贈与加算を考慮して相続税を計算した場合と生前贈与加算を考慮しなくていい場合との相続税の差額を計算しております。 課税価格300,000,000円+15,000,000円=315,000,000円 算出相続税額 75,200,000円 贈与税額控除970,000円 納付相続税額 74,230,000円 3億円の財産に対して課税される相続税額 69,200,000円 生前贈与1,500万円が加算されたことによる増差税額 74,230,000円−69,200,000=5,030,000円 [2] 相続税に加算される贈与財産・加算されない贈与財産(相基通19‒1、19‒3、19‒4、19‒8) (1) 加算される贈与財産 相続税に加算される贈与財産は、相続または遺贈により財産を取得した者がその相続に係る被相続人から相続開始前3年以内に贈与により取得した財産です。また、相続税で加算する贈与財産の価額は贈与の時における価額です。 加算される贈与財産は、暦年贈与で贈与税を申告した財産はもちろん、贈与税がかかっていない基礎控除以下(110万円以下)の財産及び相続開始の年に贈与された財産も含みます。 (2) 加算されない財産 相続開始前3年以内の贈与で相続税に加算されない贈与財産は次のとおりです。 贈与を受けた者が相続開始した時に無制限納税義務者に該当したとしても、贈与時に贈与税の課税財産とならないものについては、相続税の計算上加算しません。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第10回】 「内国法人の法人税①」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-2 内国法人の法人税 前節までは、外国法人の日本に所在するPEの課税に関する改正内容を解説してきたが、本節では、内国法人に関する改正点について解説する。 3-2-1 外国税額控除の改正 3-2-1-1 国外源泉所得 (1) 改正の概要 《改正前》 内国法人の外国税額控除に係る控除限度額の計算における国外源泉所得は、外国法人課税における国内源泉所得の概念を借用し、国内源泉所得以外の所得をいうとされていた(旧法法69①、旧法令142③)。 《改正後》 帰属主義の採用に伴い、国外源泉所得を積極的に定義した(法法69④)。 (2) 各種国外源泉所得の内容 具体的には国外源泉所得を次の①から⑯に掲げる16種類に区分して定めた。 (3) 国外事業所等帰属所得への該当性の優先 上記②から⑬まで及び⑯に掲げる所得には、上記①に掲げる所得は含まれないとされている(法法69⑤)。つまり、「国外事業所帰属所得」はその他の種類の所得には該当しない。 (4) 租税条約に異なる定めがある場合 租税条約に上記(2)と異なる定めがある場合には、租税条約の定めるところによる(法法69⑦)。 (5) 単純購入非課税の扱い 内国法人の国外事業所等が単純購入非課税の定めのある租税条約相手国に所在する場合には、国外PE帰属所得の計算において、単純購入非課税の取扱いが行われる。つまり、当該PEが本店等のために商品の買付けのみを行っている場合、帰属所得はないものとされる(法法69)。 (6) 複数の国外事業所等を有する場合の取扱い 国外事業所が複数ある場合には、事業所ごとに帰属所得を計算する。一の外国に複数の事業活動の拠点がある場合には、1つの拠点として認識し計算することとされている(法基通16-3-9の2)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第39回】 「法人税基本通達改正の歴史⑧」 公認会計士 佐藤 信祐 前回、解説したように、昭和54年度から昭和55年度の間には、法人税基本通達等の総点検が行われており、第三次分である昭和55年12月25日付直法2-15通達においては、貸倒損失についての通達が公表されている。 本稿では、昭和55年度の貸倒損失についての法人税基本通達の改正について解説を行う。 8 昭和55年度法人税基本通達改正における貸倒損失の取扱い 昭和55年度において改正された法人税基本通達のうち、貸倒損失に係る部分については、以下の通りである。 このうち、「容易に処分できない担保物がある場合における担保物の価額を超える部分の金額」について、貸倒損失ではなく、債権償却特別勘定として処理されることになったというのはひとつの大きな改正であり、平成23年度税制改正により、中小法人や金融機関等を除き、貸倒引当金の設定が認められなくなった現在に至っては、貸倒損失の適用範囲を考えるうえで、重要な論点であるため、以下ではその点について、私見を述べさせてもらいたい。 この改正の趣旨として、当時の国税庁法人税課係長である戸島利夫氏は、 として、そのようなトラブル防止のためであったと解説されている(*1)。 (*1) なお、金融機関については、「金融機関の貸倒金の取扱いについて(昭和25年直法1-42)」が廃止されておらず、「当該債権の担保に供されている資産がある場合において、当該担保に供されている資産について、担保権が実行されていないときにおいても、当該債権の額のうち担保物の価額をこえている金額が明らかに回収不能と認められる場合は、その回収不能と認められる金額について法人の計算を認めるものとする。」という規定が、平成9年度に同通達が課法2-10によって削除されるまで存続しており、部分貸倒れが可能であったとする考え方も存在する。 すなわち、かなり、事務的な理由により対応がなされており、「債権償却特別勘定として処理すれば実害は無いだろう」というご都合主義的なものも含まれていたように思える。言い換えれば、貸倒損失と債権償却特別勘定の間における厳密な境というものが存在していたのかどうかすら怪しい対応と言わざるを得ない。 現在のように、平成23年度税制改正により、中小法人や金融機関等を除き、貸倒引当金の設定が認められなくなった時代においては、過去の法人税法に遡ったうえで、「容易に処分できない担保物がある場合における担保物の価額を超える部分の金額」について、貸倒損失として処理することを容認されるのではないかという意見が出てきても不思議はない。 実際に、平成23年度税制改正後の論文や文献を見てみると、平成21年度税制改正により、法的整理等を行った場合において、金銭債権の評価損が可能となったことから、解釈論としての部分貸倒れに対する大きな障害が取り除かれることになったとする見解(金子宏『租税法(第18版)』331頁、野口浩『会計』第184巻第1号40頁、中井稔『税務弘報』VOL.60 NO.1・144頁)も存在しており、このうち、野口浩准教授は、平成23年度税制改正により中小法人や金融機関等を除き、貸倒引当金を設定することができなくなった影響についても触れられている。 この点につき、昭和39年度法人税基本通達の文言を見ると、「債務者から貸金等の一部について金銭等による弁済がある間」は適用されないことが明らかにされており、担保物以外に回収手段がないという特殊なケースについてのみ認められていた内容である。さらに、「担保物が特殊な専用機械、農地等であるため容易に処分できないもの」となっており、これまたかなり特殊なケースについてのみ認められていたものであるが、担保物の時価そのものは変動することから、当然のことながら回収不能見込額は常に変動することになり、担保物を処分するまでは貸倒損失が確定するということは考えにくい。 すなわち、昭和55年度改正前の法人税基本通達については、本来の法人税法では認められるべきでなかった貸倒損失について、通達により緩和を図ったという見方をすることも可能であり、債権償却特別勘定が貸倒損失として認められないものについて通達で緩和を図ったものであったという背景を考えると、そのような見方も決して不自然ではない。そうなると、担保物以外から回収することができず、かつ、担保物が容易に処分することができない場合であっても、担保物の処分が不可能であり、実質的に回収可能額が0円であると認定されるような特殊なケースを除き、貸倒損失として認識することはできないという整理の方が、現在の法体系からすると自然ではないかと考えられる。 ちなみに、現在の法人税基本通達11-2-8(1)においては、「担保物の処分によって得られると見込まれる金額以外の金額につき回収できないことが明らかになった場合において、その担保物の処分に日時を要すると認められる」場合には、個別金銭債権に対する貸倒引当金として処理することが明らかにされている。 次回においては、平成4年に公表された「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について(平成4年9月18日課法2-4、査調4-4)」について解説する予定である。 (了)