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常識としてのビジネス法律 【第20回】「会社法《平成26年改正対応》(その1)」

常識としてのビジネス法律 【第20回】 「会社法《平成26年改正対応》(その1)」   弁護士 矢野 千秋     第1 総論 株式会社は、社員(株主)の地位が株式と称する細分化された割合的単位の形をとり(株式の制度)、その社員は会社に対し各自の有する株式の引受価額を限度とする出資義務を負うだけで(有限責任性)、会社債権者に対しては責任を負わない会社である。したがって、「株式の制度」と「社員の有限責任性」とが、株式会社の最も根本的な2つの特質である。そしてこれによって会社の大規模化を果たさせようというのが株式会社制度の本来的なねらいである。 研究開発にしても、逆に会社の倒産を見ても、企業規模が大きいほど利益追求に適している。それを狙って株式会社は「株式の制度」により誰でも会社に容易に参加できるようにし、「有限責任性」により万一の場合の責任を投資限度に限定することにより安心して参加できるようにしている。 このように容易かつ安心して参加できるようにすることで株式会社が大規模化するように図ったのである。 そして「資本の制度」は、株主有限責任の結果、株主は会社債権者に対して直接の責任を負わず、その結果、会社債権者に対する担保となるものは会社財産だけであるから、会社財産の確保を図る必要性から、会社法は一定額を資本として定めさせ、会社財産がこの資本額を下回ることを極力防止することにしたものである。それゆえ、資本の制度は有限責任性から派生する第二次的な特質であるといえる。 ただし、最低資本金制度が廃止されたため、剰余金の分配可能額の算定において純資産額による制限が導入された。すなわち、剰余金の算定方法において、株式会社の純資産額が300万円を下回る場合には、通常の算定方法は適用しないとしている(458条)。 本来企業の経営は実質的「所有者」たる株主が行うべきである。しかし大規模化すれば経営内容は高度化・複雑化し、それと反比例して質が低下する株主に経営の責任を負わせるわけにはいかない。 そこで所有者株主は経営の専門家たる取締役を選任し、取締役またはそれが構成する取締役会に経営の意思決定を行わせることとされた。したがって取締役は所有者株主から委任された「受任者」である。 取締役会は会議体であるので執行に極めて不向きである。そこで取締役会が執行代表機関である代表取締役を選定する。その代表取締役を監査するのが監査役であり、やはり株主総会で選任される「受任者」である。しかし監査役は取締役と選任基盤が共通し、生まれながらに代表取締役の影響を受けやすい。そこで法は監査役に代表取締役からの「独立性」を強固に保障している。 以下に今後本連載で使用するキーワードをまとめる。 なお用語であるが、本解説においては「公開会社」でない会社を「非公開会社」、「大会社」でない会社を「非大会社」、「取締役会設置会社」でない会社を「非取締役会設置会社」等と呼ぶ。   第2 株式 1 総論 (1) 株式、株主 株式とは、株式会社における社員(株主)の地位であるが、その地位が細分化された均一の割合的単位の形をとっている点に特色がある(割合的単位の形をとらねば株式の取引相場の表示も困難になる)。そして、細分化された割合的単位の形をとるため、「株式」と称され、社員はこのような株式の所有者であるため、「株主」と呼ばれる。 株主は実質的に見れば会社企業の共同所有者である。しかし、この会社企業における共同所有者としての株主の持分は、会社が法人(会社自体が権利義務の主体となっている)であることから、会社に対する法律上の地位の形に引き直され、株主はこの地位に基づいて会社に対し多様の権利を有することとなる。 この株主の地位は、それが細分化された割合的単位の形をとっているところから、個性のない多数の者が容易に株式会社に参加することができるように仕組まれた、その意味で技術的なものである。 (2) 株主平等の原則 株式が均一の単位であるということは、1株1株は同じ大きさ、すなわち同一の権利内容を有するということである。だとすれば、これを株式の所有者である株主の面から見れば、株主は頭数で平等に取り扱われるべきではなく、原則としてその有する株式の数に応じて平等に取り扱われるべきだということになる。これを「株主平等の原則」という。 この原則は理念的な平等から生まれたものではなく、株主の地位が均一の割合的単位の形をとっており、株式が均一の単位であるということは同一の権利内容を有し、そうであれば取扱いも同一でなければならないということを表したものに過ぎない。その意味では、株式の制度を裏から表現した法技術的な平等である。 そこで会社法は「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」(109条1項)と規定して株主平等の原則の一般的規定を設けるとともに、その平等の意味は法技術的な平等であることを明らかにした。   2 株式の譲渡制限制度 一部の種類の株式についての譲渡制限も認められた(2条17号、108条1項4号)。すなわち、株式会社は、定款である種類の株式の譲渡について承認を要することを定めることができるものとする。 譲渡制限株式の取得者から株式会社に対してその取得の承認を請求する手続は、名義書換請求のために要求される手続と同様のものとし(137条2項(原則共同申請)。cf.133条2項。平成21年改正・規22条1項10号、2項4号5号、24条1項8号、2項4号5号)、承認なく株式を取得した者からの名義書換請求については、株式会社はその取得を承認せず名義書換を拒むことができるが、承認を拒否された取得者は、株式会社に対しその株式を買い取るか、買取人の指定を請求することができる(138条1号ハ)。 相続・合併により譲渡制限の定めのある株式を取得した場合、株式会社がその移転を承認しないときは、株主総会の決議により、その株式の売渡請求ができる旨を定款で定めることができる(174条~177条)。 譲渡制限株式については、株主間の譲渡についても原則として承認を要するものとしている。承認機関は株主総会(取締役会を設置する株式会社にあっては、取締役会)とするものとする(139条1項)。ただし、定款で次に掲げる事項などを定めることも妨げないものとする(139条1項但書)。   3 自己株式の取得 自己株式については議決権その他の共益権は行使できず(308条2項)、自益権についても剰余金の配当請求権はなく(453条括弧書)、株主割当の場合でも募集株式を割り当てることができない(202条2項括弧書)。株式の併合、分割の規定には、括弧書がない(180条、183条)。 (1) 株式の消却の概念の整理 会社法では、株式の消却を自己株式の消却の類型のみとした。したがって自己株式以外の株式を消却するには、会社がいったん株式を取得して自己株式としたうえで消却するという方法によってのみ行われる(178条)。 (2) 自己株式の取得手続 会社法には、株主との合意による有償取得は市場取引・公開買付け、特定株主からの取得および不特定株主からの取得の3種類が規定されている(155条3号、それ以外の自己株式の取得(155条1号2号、4号ないし13号))。  (続く)

#No. 106(掲載号)
#矢野 千秋
2015/02/12

企業における『マイナンバー導入プロジェクト』の始め方&進め方 【第1回】「企業内の“旗振り役”となる構成メンバーを集める」

企業における 『マイナンバー導入プロジェクト』の 始め方&進め方 【第1回】 「企業内の“旗振り役”となる構成メンバーを集める」   仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司   はじめに ~マイナンバーへの企業対応は順調か~ 2015年も2月に入ったが、読者の勤務する企業、あるいは読者が関与する企業でのマイナンバーの導入準備は、順調に進められているだろうか。 筆者の印象では、政省令等、ガイドライン、各種Q&Aあるいは法定調書の様式案等が順次公表されてはいるものの、社会全体としては依然認知度合いは低く、急いで取り組まなければならないというトーンにまでは至っていないのが実態と思われる。 「なかなか準備が進まない理由」としては、指針となる情報が最近になって矢継ぎ早に公表されていること、「本人確認」をはじめとする実務がほとんどの会社にとって初めてであることから、その手続き等、手探りにならざるを得ない状況であることも推測される。 また、着手にすら至っていない企業においては、マイナンバー制度自体の認知度の低さに加え、その実務への影響が十分に浸透していないことから、何から着手したらよいか分からないこともその理由に挙げられるのでないだろうか。 マイナンバー制度への対応について、まず何より、『旗振り役となるコアメンバー』の存在が不可欠である。 次に、このコアメンバーを中心として実務への影響を検討し、実際に実務への落とし込みを進めていく『導入プロジェクト』の存在が必要となる。 そこで本連載では、どのようにこのプロジェクトを立ち上げ、どのような役割分担で、どのように進めていけばよいかを解説していきたい。 本連載は計3回シリーズとし、およそ次の内容を予定している。 なお、2015年におけるマイナンバーへの対応については、本誌に掲載した下記の拙稿をご覧いただきたい。   1 マイナンバー制度が企業実務へ与えるインパクト 企業がマイナンバー制度へ対応するにあたって、まず、実務への影響度を認識する必要がある。 詳細は上記の拙稿にてご理解いただけると思うが、およそ次の2点が特徴として挙げられる。 (※1) ここでいう「規模」とは、売上高や資本金ではなく、従業員数、支店などの拠点数、株主数、契約数、源泉徴収票の発行数などをイメージされるとよい。 (※2) 本連載において後述するが、影響の大きい業種に、金融業、派遣業、運送業、小売業などが挙げられる。なお、本連載では、金融業は取り上げない。 マイナンバー制度への実務対応にあたっては、この2点を考慮に入れた慎重な対応が求められる。 1点目については、まさに本稿で説明するプロジェクトの進め方と直結する点である。 2点目については、プロジェクトの進め方とも関係するが、どちらかといえば実務的に対処すべき課題である。今まで以上に組織全体、組織の細部に至るまで情報管理の重要性を浸透させる必要がある。また、不要な個人番号を入手しないよう従業員教育を行うことが重要になる。この点は、制度が運用されるまでの残り1年弱の期間にかけてじっくりと、また制度が運用された以降も継続して取り組むべき事項である。   2 企業規模や業種等による影響度合い (1) 企業規模からみた影響度 マイナンバー制度の導入が企業実務へ与える影響の大きさは、その企業の売上高や資本金等におおむね連動することになると思われる。その他、番号法の実務への影響度合いを計る指標となるものとして、従業員数、支店などの拠点数、株主数、契約数、源泉徴収票や支払調書の発行枚数などが挙げられる。 これらの指標が多ければ多いほど、実務に与える影響は大きいといって間違いない。つまり、これらの指標が多いということは、企業で入手し管理すべきマイナンバー(個人番号)自体の数が多く、入手元である個人の種類も多様になると考えられるためである。 (2) 影響の大きい業種は? 業種からみた企業実務への影響度としては、総合商社、人材派遣業、介護・福祉、小売業、給与計算などのアウトソーシングを受けるサービス業などの業種においては、実務に与える影響が他の業種と比べて相対的に大きいといえる。その他の業種でも、運送業、塾や専門学校、出版社、不動産賃貸業、建設業などでも影響は大きいと考えられる。 これらの業種では、一般的に従業員数(アルバイトやパートタイマーを含む)が多く、事業拠点も全国に多数あるものと思われる。また、個人への業務委託、個人からの不動産賃借含め個人との関わりも深いと思われる。つまりは(1)と同様、マイナンバーの入手及び本人確認を行うべき対象となる個人が多種多数になると考えられるためである。 (3) 人事システム・給与計算システムが標準パッケージ製品か? 人事システムあるいは給与計算システムが標準パッケージ製品でない場合には、番号法への対応を機能面(マイナンバーの入力、新たな様式の帳票の表示や出力、マイナンバーの削除など)、情報管理面(マイナンバーへのアクセス制限、マイナンバーの非表示機能、出力ログの記録など)の両面にわたってシステム改修しなければならないことから、実務に与える影響は極めて大きいと考えるべきである。 (4) 導入に向けた『プロジェクト』が必要となる マイナンバー制度への実務対応の進め方を考えるにあたり、後述するとおり自社の業務を棚卸して影響度合いを分析するのが理想であるが、まずは上記(1)~(3)を照会することで、自社への影響度合いがおおまかにも把握できる。 影響度が大きいと考えられる企業については、できるだけ早期に対応を進めることはもちろん、影響範囲は広範に及ぶものと考えられることから、以下に示すように『プロジェクト』として対応を進めることが望まれる。   3 構成メンバーは『どの部署』から選ぶか? プロジェクトの発足にあたり、まずは関係する、あるいは関係しそうな部署の選定が必要となる。 この場合、「総務部」あるいは「人事部」が中心になると考えられるが、上述したようにマイナンバー制度は企業実務の広範囲に影響を及ぼすことから、関係する部署は多岐にわたるという認識が必要である。 例えば、 という切り口で考えれば、「総務部」あるいは「人事部」以外にも、「法務部」「経理部」などとも関係がある。 また、番号法やガイドラインで求められる安全管理措置を企業全体で達成しようとすると、「法務部」や「情報システム部」の協力は必要不可欠である。 そこで次の表は、 という2つの視点で、関係する部署とその役割について、筆者が想定するもので例示としてまとめたものである。 各部署の役割は企業の規模や業種で異なるため一概にはこのとおりに整理されないこともあると思われるが、実務上の影響をおおまかに把握し、各部署からメンバーを招集する際の参考にされたい。 なお、上記に『営業部』の記載がないが、営業部も業種によっては番号法遵守上、極めて重要な位置づけに置かれることもある。例えば、不要な個人番号の提示を顧客に求めたり、提示を受けた個人番号カードの写しや個人番号の記録を不用意にとることは、番号法上認められない。 そのため、営業部に在籍する従業員に対し、番号法上認められない事項や留意事項について十分な社内教育を行うことが、業種によっては重要になる。 なお、これらの対応はすべて、企業内の『誰か』が、プロジェクト化の重要性と、早期にプロジェクト化して取り組む必要性を問うてはじめて実現されうるものであり、繰り返しとなるが、やはり「旗振り役となるメンバー」の存在が極めて重要となるのである。   4 本稿のまとめ 本連載では、「企業における『マイナンバー導入プロジェクト』の始め方&進め方」と題し、企業全体として取り組むべき番号法への実務対応の進め方に焦点を当て解説していきたい。 初回となる本稿では、マイナンバー制度の実務上の影響度合いを概括的に把握するとともに、プロジェクトに関係があると考えられる部署はどこか探ってみた。 本連載の読者の一人でも多くの方がマイナンバー対応の事務局として旗振り役となり、組織に一石投じられることを心から期待している。 (了)

#No. 106(掲載号)
#岡田 健司
2015/02/12

此の国にも『日本企業』! 【第2回】「《ナイジェリア》 諦めない想いが繋いだ挑戦 ~(株)アンカーネットワークサービス~」

此の国にも『日本企業』! 【第2回】 「《ナイジェリア》 諦めない想いが繋いだ挑戦 ~(株)アンカーネットワークサービス~」   中小企業診断士 西田 純       〈挑戦のきっかけは1つの出会いから〉 古いパソコンをきれいにして、OSだけ新しく入れなおして安く売る、今そんなビジネスが注目されています。技術の進歩でちょっと前のパソコンでも快適に動くようになったこともあって、国の内外で注目されるサービスです。 今回取り上げた(株)アンカーネットワークサービス(以下、アンカー社)は、正規のMicrosoft Windowsを中古パソコンにインストールして販売する、いわば再生PCの正規販売事業者なのですが、限りある地球の資源を大切に使うことを社是とする、環境社会配慮型の会社でもあります。 そんなアンカー社がなぜナイジェリアでビジネスを始めたかというと、そこには人と人との出会いと縁があったとしか言いようがありません。 日本に長く住んでいたナイジェリア人のジェラルドさんとアンカー社が最初に出会ったのは、単に「他の人に紹介されたから」というものだったのだそうです。   〈大きなリスク、そして苦渋の決断〉 当時、アフリカへの足掛かりを探していた同社の興味と、日本発のビジネスをナイジェリアに持ち帰りたいジェラルドさんの思惑が一致し、アフリカにおける同社初のビジネス拠点をジェラルドさんが手伝うことになったのが2012年でした。「単に中古PCの輸出だけではなく、現地でのアフターサービスも手掛ける企業にしたい」そんな思いでアンカー社の若手スタッフとジェラルドさんは二人三脚で仕事を始めたそうです。 ところが、仕事を始めて間もなくアルジェリア・イナメナスで日本人を標的としたテロが発生しました。ナイジェリアも、都市を離れればイスラム教過激派の影響が心配される土地柄であることから、同社経営トップは苦渋の決断により日本人駐在員の引き揚げを決めます。そのとき、自らの家族を日本に残してまでビジネスの継続に協力を申し出てくれたのがジェラルドさんだったのだそうです。 実際にその後、ナイジェリアでは北部を中心とした過激派「ボコ・ハラム」による学校襲撃事件などが発生し、同国におけるビジネスの難しさを再認識させられる状況になりました。それでもジェラルドさんは、日本で丁寧に使われた品質の良い中古PCの輸入と販売、そしてサービスに至るまで、アンカー社の出先として頑張ってくれているのだそうです(2015年1月の段階でジェラルドさんはアンカー社の契約社員という扱いです)。   〈想いが繋いだ挑戦への道〉 現在の仕事の流れは、20フィートコンテナで輸出された中古PC1,500台をジェラルドさんが取引先へ卸し、売り切ったらまた次のコンテナを送るという流れで、おおよそ年2回から3回程度の船積みがあるそうです。 ただ日本の中古PCは高品質であるとの定評を得ているそうですが、反面で比較的長く大事に使われるため、アメリカや中東から入る商材に比べると、型式がやや古いと言われるハンディもあるそうです。ですが、現地で中古PCのビジネスを根付かせるためのカギはサポートの充実だと言われている中で、ナイジェリアではジェラルドさんがサポートまで対応してくれているため、現地で「アンカーネットワークサービス」のブランドは次第に認知度を高めているのだそうです。 同社としては、政治対立・宗教対立のリスクはあるものの、成長著しいナイジェリアの市場開拓には引き続き興味を持っています。さらに管理システムを充実させることによって地に足の着いたビジネスができるようになればと考えており、そのために遠くない将来ナイジェリアで再度現地調査を行うことを考えているそうです。 また、事情が落ち着けば日本人社員の再配置も検討すべきと考えていて、そのために①海外経験のある新人の採用、②現地派遣が可能な外国人スタッフの積極的採用を実施しつつあるとのこと。市場では海外ブランドのDELLやヒューレット・パッカードが強いのだそうですが、日本製の東芝や富士通もある程度のブランド価値を築いているのだそうで、今後の展開が楽しみな事例だと思います。 (了)

#No. 106(掲載号)
#西田 純
2015/02/12

《速報解説》 「医療法人の持分に関する納税猶予制度」に係る措置法通達が公表~みなし贈与が生じる「持分の放棄があった日」の判定方法が明らかに~

《速報解説》 「医療法人の持分に関する納税猶予制度」に係る措置法通達が公表 ~みなし贈与が生じる「持分の放棄があった日」の判定方法が明らかに~   税理士・行政書士 佐々木 克典   1 はじめに 医療法改正に伴い、平成26年10月より持分の定めのある医療法人から、持分の定めのない医療法人へ移行する計画の認定を厚生労働大臣から受ける、いわゆる認定医療法人制度が創設された。 持分の定めのある医療法人の出資者やその相続人などに相続税や贈与税が課される場合、一定の要件のもとその納税を猶予し、さらに持分の定めを消滅させた場合には猶予税額の免除を受けることができる(措法70の7の5、70の7の8)。 平成26年12月18日付けで、本制度に関係する43の措置法通達が公表された(平成27年1月23日公表)。そこで本稿はこれら通達のうち特に重要と思われる、持分の放棄があった日の意義(措通70の7の5-1)を解説する。   2 通達の背景 医療法人の持分の全部または一部を放棄したことにより、他の個人の持分の価値が増加した場合、増加した価額に相当する額の経済的利益を受け、みなし贈与が生じる(措法70の7の5①)。 このみなし贈与がいつの時点で生じたのか明確にするのが、以下の措通70の7の5-1である。   3 書面による放棄 持分の放棄については、従来から明確な方法はなく、一般的に社員総会において宣言をすることで行われてきたが、厚生労働省より持分の放棄に関する申出書の様式例(下記)が公表されたことにより、今後は書面による放棄も増加していくものと考えられる。 通達では書面による放棄は、書面提出日または書面に記載した放棄日のいずれか遅い日とされている。 例えば、出資持分の放棄申出書を記載した日が1月31日、医療法人に書面が到達した日が2月3日の場合、経済的利益が生じた日は2月3日となる。 本通達により、医療法人が持分放棄の事実を知り得る前に、みなし贈与が生じる可能性は排除されたが、逆に書面到着日に疑義が生じる事案も出てくるであろう。   4 書面によらない放棄 書面によらない持分の放棄は、厚生労働省に提出した出資持分の状況報告書に記載した日となる。したがって状況報告書の記載ミスがあった場合、課税に影響を及ぼすので慎重に作成をしてもらいたい。 【状況報告書(抜粋)】 では、書面によらない持分の放棄の時点はいつか、という論点がある。 一般的な医療法人の定款の場合、持分の放棄について特段の規定は設けられておらず、さらに医療法人にとって経済的損益は生じないことから、社員総会の議決を経なければならない重大な事項とも考えられず、持分を有する者の単独行為により、放棄が行えるものと考えられる。 したがって、出資持分の放棄を理事長などに宣言した日が、一般的な放棄日と言え、社員総会の承認日ではない。 (了)

#No. 105(掲載号)
#佐々木 克典
2015/02/10

《速報解説》 JICPAより「金融商品会計に関する実務指針」及び「Q&A」の改正(公開草案)が公表~「異なる商品間でのヘッジ取引」及び「ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性」への対応を明記~

《速報解説》 JICPAより「金融商品会計に関する実務指針」及び「Q&A」 の改正(公開草案)が公表 ~「異なる商品間でのヘッジ取引」及び「ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性」への対応を明記~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成27年2月6日(掲載日)、日本公認会計士協会は、次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、企業会計基準委員会からの依頼によるものであり、ヘッジ会計の限定的見直しを行うものである。 意見募集期間は、平成27年3月9日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 1 異なる商品間でのヘッジ 次の取扱いは、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)及び「金融商品会計に関する実務指針」上、明確である。 これを周知するために、「金融商品会計に関する実務指針」143項に一文を追加するとともに、結論の背景を記載するものである。 2 ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性 「ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性」について、「金融商品会計に関するQ&A」に規定を設けるものである。 Q59-2が新設され、例として、当初、6ヶ月後に輸入を予定しているある商品の仕入価格の変動リスクをヘッジするため、輸入の見込時期に合わせた商品スワップ契約を締結していたが、船積みの遅延から1ヶ月程度、到着が遅れることが明らかとなったため、元の商品スワップ契約を満期に決済し、改めて新たな商品スワップ契約を締結した場合の会計処理について述べている。 このようなケースは「ロールオーバー」と呼ばれており、「金融商品会計に関する実務指針」180項に従って、当初のヘッジ手段である元の商品スワップ契約について、満期時点で商品の到着より先に決済がなされるため、ヘッジ会計の中止として会計処理することが述べられている。   Ⅲ 実施時期 本改正は現行の取扱いを明確化するためのものであるので、確定版の公表日以後に適用することが予定されている。 (了)

#No. 105(掲載号)
#阿部 光成
2015/02/09

3月20日(金)開催:笹岡宏保氏セミナー 【土地評価の基礎】 財産評価基本通達による『土地評価の基礎から解説』 お申込み受付を開始しました!

プロフェッションネットワーク主催の税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 3月20日(金)開催のお申込み受付を開始しました! テーマは【土地評価の基礎】 財産評価基本通達による『土地評価の基礎から解説』 。 過去開催分のアンケートでもご要望の多かった内容にお応えして、相続(贈与)税における財産評価のなかで、その中心となる『土地評価』について、基礎から実務上において誤りやすいと思われる項目までの総確認をします。 最新の情報を元に、知識の再点検を行う絶好の機会です。 確定申告期を過ぎてからの開催となりますので、奮ってご参加ください! ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。

#Profession Journal 編集部
2015/02/05

Profession Journal No.105が公開されました!~今週のお薦め記事~

2015年2月5日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル)  No.105 が公開されました。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2015/02/05

monthly TAX views -No.25-「マイナンバーをめぐる議論には整理が必要」

monthly TAX views -No.25- 「マイナンバーをめぐる議論には整理が必要」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   番号(以下、マイナンバー)制度が2016年1月から始まる。本年10月から、住民基本台帳に基づき、国民一人一人に生涯変わらない番号が住民票を有する者に割り振られ、希望者に個人番号カードの交付が始まる。 カードの交付時期となる秋口ごろから、世間は大騒ぎになるであろう。いったい何のための番号制度なのか、莫大なコストをかけて導入するメリットはどこにあるのかなど、国民からの疑問や問いかけが噴出することが予測される。 今のところ、番号制度の全体像は必ずしも明らかではない。話が分かりにくいのは、技術的な話と法律的な話が複雑にクロスすることにも原因がある。法規制の網でがんじがらめにされた「個人番号(マイナンバー)」と、法律的な制限の課せられていない「個人番号(マイナンバー)カード」や「マイポータル」との区別や関係が、我々素人には判然としないのである。 「個人番号(マイナンバー)」は、その使途が法律で、社会保障・税・災害対策の3分野に限定されている。将来的には、戸籍事務、旅券事務、預貯金付番、医療・介護・健康情報の管理・連携等に係る事務、自動車の登録等に係る事務の5分野等でも活用することが検討されることとなっているが、預金以外の分野への拡大は時間がかかるであろう。 では「個人番号カード」はどうか。これは、事業者が顧客等からマイナンバーの提供を受ける際の番号確認・本人確認に利用できる。また、免許証等に代わる本人確認手段としても利用することができる。加えて2016年1月より、民間事業者がカードに搭載される公的電子証明書を利用した公的個人認証サービスを利用できるようになり、この分野での活用が見込まれる。例えば、公的個人認証サービスを利用して、金融機関の口座開設に当たっての本人確認等を電子的に行うことができるようになる。 「マイポータル」はどうか。これは、自らの特定個人情報を確認することや行政からのお知らせを受けることを想定した機能であるが、現在“マイガバメント(仮称)”というコンセプトの下で、民間事業者についても、さまざまな活用が検討されている。電子私書箱や民間のサイトであるインターネットバンキングなどと連携する形で機能を拡張していけば、官民の様々なサービスへの連携が可能となる。 マイガバメント(仮称)というのは、暮らしに係る利便性の高い官民のオンラインサービスを、本人確認の連携等により電子的・シームレスに完結させる仕組みであり、現在、内閣官房のマイナンバー等分科会で検討されているもの(機能)である。この機能の下で、電子私書箱や官民連動型のワンストップサービスなど民間が利用できるサービスの提供が想定されており、国民及び民間の利便性向上に大きく寄与するものである。 例えば、保険料支払等各種支払を証明するデータの電子的な送付が実現すれば、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を通じた電子申告の利便性向上に役立つ。 さらに、利用者の同意のもと、行政や民間事業者の情報を他の機関と連携することも考えられる。例えば、行政が、住民の死亡情報を入手した場合、金融機関等にその情報を通知することが考えられる。 また、マイポータル・マイガバメント(仮称)に送られた情報を、本人の許諾のもとで民間事業者の手続に利用することも考えられる。例えば、マイポータルに所得証明書の送付を受け、その所得証明書を銀行における手続等に利用することが考えられる。 このように、番号制度の今後のあり方を議論するに当たっては、「個人番号(マイナンバー)制度」「個人番号カード」「マイポータル」のうち、どの分野の議論であるか、区分して全体像を考えることが必要である。 【参考図】 番号制度の民間利用の検討 (※) ジャパン・タックス・インスティチュート(金融税制・番号制度研究会)「社会保障・税番号(マイナンバー)制度の活用に向けた取組み」(2014年11月) (了)

#No. 105(掲載号)
#森信 茂樹
2015/02/05

[平成27年3月期]決算・申告にあたっての留意点 【第1回】「復興特別法人税の廃止・交際費課税の見直し」

[平成27年3月期] 決算・申告にあたっての留意点 【第1回】 「復興特別法人税の廃止・交際費課税の見直し」   公認会計士・税理士 新名 貴則   平成26年度税制改正における改正事項を中心として、平成27年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 第1回は、「復興特別法人税の前倒し廃止」と、「交際費課税の見直し」について、平成27年3月期決算において留意すべき点を解説する。   1 復興特別法人税の前倒し廃止 ▷復興特別法人税の期間 平成23年12月2日に公布された「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」により、復興特別法人税が導入された。当初は、「平成24年4月1日から平成27年3月31日までの期間(指定期間)内に、最初に開始する事業年度開始の日から同日以後3年を経過する日までの期間内の日の属する事業年度」について、復興特別法人税が課されることになっていた。 しかし、平成26年度税制改正により、1年前倒しで廃止されることになった。つまり、「平成24年4月1日から平成26年3月31日までの期間(指定期間)内に、最初に開始する事業年度開始の日から同日以後2年を経過する日までの期間内の日の属する事業年度」について、復興特別法人税が課されることとされた。 3月決算法人であれば、次のとおりである。 【改正前】 【改正後】 このように平成27年3月期決算からは、原則として復興特別法人税の課税がなくなる点に留意が必要である。 ▷復興特別所得税の控除 受取利息等に課された復興特別所得税がある場合、平成26年3月期までであれば復興特別法人税額から控除し、控除し切れなかった金額については還付されることになっていた。しかし、平成27年3月期からは復興特別法人税がなくなるので、復興特別所得税は法人税額から控除し、控除し切れなかった金額について還付されることになる。   2 交際費課税の見直し 平成27年3月期より前の事業年度における交際費課税の概要は、原則として次のとおりであった。   (*1) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)   (*2) 平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度 このとおり、平成26年度税制改正前の交際費課税においては、資本金1億円超の大法人については、税務上の交際費等の損金算入は一切認められていなかった。 これに対して一定の中小法人についてのみ、特例として年間800万円までは全額損金算入が認められていたが、平成26年3月31日までに開始する事業年度までとされていた。 ▷平成26年度税制改正における改正点 ① 中小法人の特例の延長 平成26年度税制改正において、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)の期限が2年間延長された。つまり、平成28年3月31日までに開始する事業年度までは、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)が適用されることになった。 これにより、3月決算法人であれば平成28年3月期までは、中小法人の特例が適用されることとなった。 ② 「接待飲食費の50%損金算入」の導入 平成26年度税制改正によって、平成26年4月1日以後に開始する事業年度においては、接待の飲食のために支出した交際費等について、その50%を損金算入できることとされた。また、その損金算入額に上限は設定されていない。 この「接待飲食費の50%損金算入」の制度は、法人の規模等に関係なくすべての法人に認められた。したがって、平成26年度税制改正前は交際費等を一切損金算入できなかった大法人でも、接待飲食費に限っては50%を損金算入できることになった。 ただし、税務上の交際費等の中でもあくまで「接待飲食のために」支出したものに限定されており、すべての交際費等の50%が損金算入されるわけではない。法人内部の役員や従業員を接待した場合の飲食代(いわゆる社内接待費)は、「接待飲食費」には含まれないとされているので、50%損金算入の対象にはならず全額が損金不算入となる。 この点、親会社の役員や従業員などを接待した場合は、グループ内部の者であってもあくまで別法人に属する者であるため、その飲食代は「接待飲食費」に含まれ、50%損金算入の対象となる。 【接待飲食費の50%損金算入のイメージ】   ◆接待飲食費とは 50%損金算入の対象となるのは、あくまで「接待飲食費」に限定されている。接待飲食費とは、交際費等の中でも「飲食その他これに類する行為のために支出する費用」を意味する。具体的には、次のような費用を指す。 このとおり、平成27年3月期決算・申告においては「接待飲食費の50%損金算入」が適用されるので、中小法人以外の法人においては、従来のように全額損金不算入にしてしまうことのないよう注意すべきである。 また中小法人においては、「中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)」と「接待飲食費の50%損金算入」を選択適用できる。どちらが有利かは、接待飲食費が年間1,600万円を超えるかどうかがポイントになる。しっかり検討して、有利な方を選択する必要がある。 (了)

#No. 105(掲載号)
#新名 貴則
2015/02/05

〈あらためて確認しておきたい〉『所得拡大促進税制』の誤りやすいポイント 【第2回】「継続雇用者の取扱い」

〈あらためて確認しておきたい〉 『所得拡大促進税制』の誤りやすいポイント 【第2回】 「継続雇用者の取扱い」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎     - 質問1 - (継続雇用者:ケーススタディ) 以下のケースについて、継続雇用者に該当するかどうか教えてください。 なお、いずれの者も65歳未満であることを前提とします。   - 回 答 - 〈ケース1〉 ⇒ 該当する (翌期は該当しない) 〈ケース2〉 ⇒ 該当しない(翌期は該当する) 〈ケース3〉 ⇒ 該当する (翌期も該当するが、集計には含まれない) 〈ケース4〉 ⇒ 該当する (翌期は該当しない)   - 解 説 - 継続雇用者とは、「適用年度及びその前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者」をいう(措法42の12の4②五)。そのため、継続雇用者に該当するかどうかを検討する上では、その前提として「国内雇用者」に該当するかどうかを検討する必要がある。 国内雇用者とは、法人の使用人(役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く)のうち、その法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者であって、労働基準法第108条に定める賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の4②一)。 すなわち、国内雇用者は以下の要件を満たしている必要がある。 これらの要件を満たさない者は、国内雇用者に該当せず、したがって継続雇用者にも該当しないということになる。例えば以下の者は国内雇用者に該当しない。 これらの者について、前期は国内雇用者として給与等の支給を受けていたことを前提とすると、当期(適用年度)は期首から当分の間、国内雇用者として給与等の支給を受けた期間が存在することから継続雇用者となるが、翌期は国内雇用者に該当しないため、たとえ在籍していても継続雇用者の要件を満たさないこととなる。 つまり継続雇用者への該当性という見地からすれば、期の途中で「国内雇用者に該当しない者」になった場合には、「退職社員」と同じ扱いをすることとなる。同様に、期の途中で国内雇用者に該当することとなった場合には、「新入社員」と同じ扱いをすることとなる。 以上を踏まえ、質問の各ケースについて判断すると以下のようになる。 〈ケース1〉の判定 前期:国内雇用者該当 当期:国内雇用者該当 ⇒ 国内雇用者非該当 翌期:国内雇用者非該当 以上より、当期は「継続雇用者」に該当するが、翌期は「継続雇用者」に該当しないこととなる。 なお、継続雇用者給与等支給額として集計すべき額は、「国内雇用者」であった期間に支給を受けた額に限られるという点についても、念のため申し添える。 〈ケース2〉の判定 前期:国内雇用者非該当 当期:国内雇用者非該当 ⇒ 国内雇用者該当 翌期:国内雇用者該当 以上より、当期は「継続雇用者」に該当しないが、翌期は「継続雇用者」に該当することとなる。 なお、翌期における「継続雇用者比較給与等支給額」(翌期からみて「前期」の支給額。すなわち当期の支給額)の算定に当たっては、国内雇用者に該当したとき以降の支給額について集計することとなるので、念のため申し添える。 〈ケース3〉の判定 前期:国内雇用者該当 当期:国内雇用者該当 ⇒ 国内雇用者該当(継続雇用制度) 翌期:国内雇用者該当(継続雇用制度) このケースは他のケースと異なり、いずれの期も「継続雇用者」に該当する。 ただし、継続雇用者給与等支給額の集計に当たっては、継続雇用制度適用対象者は除かれるため、集計の観点からは「期中退職」と同じように取り扱ってよいといえる。 すなわち当期の継続雇用者給与等支給額は、継続雇用制度の適用前までの期間に支給を受けた額について集計し、翌期は集計対象外となる。 (プロフェッションネットワーク主催セミナー「【平成27年3月決算申告対応】所得拡大促進税制-適用判断と申告実務」使用教材より) 〈ケース4〉の判定 前期:国内雇用者該当 当期:国内雇用者該当 ⇒ 国内雇用者非該当 翌期:国内雇用者非該当 〈ケース1〉と同様である。当期は「継続雇用者」に該当するが、翌期は「継続雇用者」に該当しないこととなる。 なお、期の途中で海外勤務から帰任した社員については、〈ケース2〉と同様に考えればよい(当期:該当しない、翌期:該当する)。   - 質問2 - (継続雇用者:「2期にわたり給与等の支給を受ける」の意義) 継続雇用者の定義中、「適用年度及びその前事業年度等において給与等の支給を受けた」の解釈について、留意すべき点があれば教えてください。   - 回 答 - 適用年度及びその前事業年度において一度でも給与等の支給を受けていればよく、連続的に支給を受けている必要はない。 ただし、平均給与等支給額の算定対象となる「継続雇用者給与等支給額」の集計に含めるかどうかについては、雇用保険への加入状況を別途考慮する必要がある。   - 解 説 - 所得拡大促進税制の適用要件のひとつとして「平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を上回ること」が求められているのは、「一人当たりの給与等支給額」が増加することこそが、所得拡大促進税制が最終的に目指す「個人所得の拡大 ⇒ 個人消費の拡大 ⇒ 経済成長」という循環を実現する上で必要不可欠だからである。つまり、本質的には「一人当たりの給与等支給額」の増加が認められれば、本税制の適用が認められるべきなのである。 制度創設当初、平均給与等支給額は、国内雇用者給与等支給額から「日雇い労働者に係る給与等支給額を控除した額」に基づき算定されていた。しかしこの計算によると、月給の高い社員が退職する一方で新入社員を採用する場合など、構造的に平均給与が引き下がる場合に適用要件を満たすことができないといった問題が指摘されていた。 そこで平成26年度税制改正において、「一人当たりの給与等支給額」をより適切に算定するために、「継続雇用者に対する給与等支給額(継続雇用者給与等支給額)」を対応する支給人員数で除して計算することとしたのである。 継続雇用者とは、適用年度およびその前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者をいう(措法42の12の4②五)。これにより、適用要件を判断する上で集計すべき平均給与等支給額は、前事業年度と当事業年度(適用年度)の2期にわたり在籍している国内雇用者に対する給与等支給額によって計算されることとなり、前事業年度中の退職社員や、適用年度中の新入社員は算定から除かれることとなった。 そして定義中の「適用年度及びその前事業年度において給与等の支給を受けた」という表現からは、適用年度の前事業年度から継続して在籍し、連続的に給与等の支給を受けていることまでは求められておらず、適用年度及びその前事業年度において一度でも給与等の支給を受けている国内雇用者はすべて「継続雇用者」に該当することとなる。 こういった特殊な勤務形態として想定されるのは、例えば、毎年繁忙期の時期だけ業務に従事するパート社員、アルバイト社員などが考えられる。これらの者も、適用年度及びその前事業年度においてそれぞれ支給実績を有しているならば、継続雇用者給与等支給額(および比較継続雇用者給与等支給額)の集計に含められる必要がある、ということである。   - 質問3 - (継続雇用者:「雇用保険一般被保険者」の考え方) 平均給与等支給額の算定上、継続雇用者給与等支給額には、継続雇用者のうち雇用保険の一般被保険者のみを集計することとされています(継続雇用制度適用対象者を除く)。 この点、本来は雇用保険の一般被保険者の要件を満たしていながら実際に雇用保険に加入していない社員の取扱いはどうなりますか。   - 回 答 - 継続雇用者給与等支給額の集計対象となるのは、雇用保険の一般被保険者「に該当する者」とされており、実際に雇用保険に加入していることは求められていない。   - 解 説 - 継続雇用者給与等支給額の定義については、租税特別措置法第27条の12の4第13項において、以下のように規定されている。 (下線筆者) いささか条文の細かい読み方の話にはなるが、条文上、一般被保険者に該当する者という表現が用いられている以上は、加入の有無にかかわらず、一般被保険者の要件に該当する者を広く含むものと解釈すべきである。仮に、雇用保険に実際に加入している者のみを対象とするならば、「一般被保険者に支給したものに限り」という表現になるはずだからである。 したがって、継続雇用者給与等支給額の集計に当たっては、実際の加入の有無にかかわらず、雇用保険の一般被保険者の要件を満たしている者に対する給与等支給額を集計すべきである。 参考までに、以下に雇用保険一般被保険者の範囲について示しておく。 (出典:厚生労働省ホームページ公表資料)   - まとめ - 継続雇用者に該当するかどうか(その前提として「国内雇用者」に該当するかどうか)、そして継続雇用者に該当したとして「継続雇用者給与等支給額」の集計対象になるかどうかを判断する上では、それぞれの定義をきちんと理解したうえで、それらを判断するために必要な人事情報を効率よく収集・整理することが求められる。 所得拡大促進税制の適用に当たっては、用語の意義を理解することが最も重要であると考える。そこで以下に「国内雇用者」、「継続雇用者」、「継続雇用者給与等支給額の集計対象者」の区別について下図にまとめておく。 (プロフェッションネットワーク主催セミナー「【平成27年3月決算申告対応】所得拡大促進税制-適用判断と申告実務」使用教材より) (了)

#No. 105(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2015/02/05
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