マイナンバー制度と 税務手続 【第2回】 「マイナンバーの利用範囲」 税理士 坂本 真一郎 前回は、マイナンバー制度導入の目的と、前提となる事項について述べたが、今回はマイナンバーを利用できる範囲について見ていきたい。 【マイナンバーの利用範囲】 来年1月から、社会保障・税・災害対策等において利用が始まるマイナンバーの利用範囲は、番号法第9条の別表第一(表1「マイナンバーの利用範囲」参照)に掲げられている行政機関等の業務のみに限定されており、番号法の施行時点においては民間での利用は予定されていない。 (番号法附則第6条1項により、番号法施行後3年を目処として法律の施行状況等を勘案し、利用範囲の拡大等を検討することとされている。) 表1 マイナンバーの利用範囲 (出典:内閣官房「社会保障・税番号制度」ホームページ『番号制度の概要』P12) マイナンバーは上記表1のとおり、税務署やハローワークなどの国の機関や地方公共団体等において、社会保障・税・災害対策の分野の事務で個人を特定し、各行政機関で情報連携できるよう利用される。 行政機関等(個人番号利用事務実施者)といえども、勝手に個人番号を収集することができないため、民間事業者は個人番号関係事務実施者として、取引先等や従業員及びその扶養親族等のマイナンバーを収集し、支払調書、給与所得の源泉徴収票、社会保険の被保険者資格取得届などに記載して、行政機関等に提出する必要がある。 【税理士業務におけるマイナンバーの利用場面】 税理士は、従業員を雇用している場合や、顧客から個人番号関係事務を委託される場合には、税理士自身が個人番号関係事務実施者となる。 「特定個人情報(※1)の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」によれば、税理士のように委託に基づいて個人番号関係事務を業務として行う事業者は、たとえ従業員が100人以下であっても中小規模事業者(※2)には該当しないため、特定個人情報の取扱いについて大企業並みの安全管理措置が求められるので注意が必要である。 (※1) 特定個人情報とは、マイナンバーをその内容に含む個人情報をいう。 (※2) 中小規模事業者とは、事業者のうち従業員の数が100人以下の事業者であって、次に掲げる事業者を除く事業者をいう(中小規模事業者は、特定個人情報の安全管理措置について特例的に簡易な対応方法が認められている)。 ・個人番号利用事務実施者 ・委託に基づいて個人番号関係事務又は個人番号利用事務を業務として行う事業者 ・金融分野の事業者 ・個人情報取扱事業者(下記「脚注(※4)」参照) マイナンバーは、法定調書・申告書・申請書等の様々な税務書類の作成に当たり記載が必要となることから、税理士は他人のマイナンバーを日常的に取り扱うこととなる。したがって、これまで行われてきた顧客情報の管理よりも厳格に、特定個人情報に係る安全管理を行うこととなる。 法人の確定申告書や申請書等に記載する「法人番号」についてはインターネット上で公表されるため、税理士自らが同サイトで法人名や本店所在地により検索して収集することが可能である。一方、個人事業主等や顧客に雇用されている従業員等のマイナンバー(個人番号)については、各税務手続等を行うまでに収集しておく必要がある。 マイナンバーは平成27年10月以降に通知され、平成28年1月から利用が開始されるが、顧客が行う従業員や取引先等からのマイナンバー収集方法等については、税理士自らが顧客に対しマイナンバー制度について解説、指導を行うことが必要である。 また、マイナンバーの利用開始は平成28年1月以降となっているが、平成27年の年末調整時において翌年分(平成28年分)の扶養控除等申告書を従業員から提出してもらう場合には、本年中にマイナンバーの収集を行うこととなる(※3)。 (※3) 内閣官房マイナンバーHP「事業者による個人番号の事前収集について」(平成27年2月17日付) なお、主な税務手続におけるマイナンバーの記載開始時期は以下のとおりとなっている。 表2 主な法定調書の提出時期 (出典:国税庁ホームページ『社会保障・税番号制度(税務関係書類への番号記載時期)』) 【利用目的を超えたマイナンバーの利用禁止】 マイナンバーは、番号法があらかじめ限定的に定めた事務の範囲の中から、具体的な利用目的を特定した上で利用するのが原則となっている。個人情報保護法とは異なり、本人の同意があったとしても例外として認められる場合を除き、これらの法令で定められた利用範囲の事務以外でマイナンバーを利用してはならないとされている。 利用目的を超えてマイナンバーを利用する必要が生じた場合には、当初の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内であれば、利用目的を変更して利用することができる。 また、個人情報保護法の適用対象となる事業者(以下「個人情報取扱事業者」(※4)という)が利用目的を変更した場合には、本人への通知等を行うことにより、変更後の利用目的の範囲内でマイナンバーを利用することができる(個人情報保護法第15条第2項、第18条第3項)。 (※4) 個人情報取扱事業者とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者(行政機関等を除く)であって、個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数(個人情報保護法施行令で定める者を除く)の合計が過去6ヶ月以内のいずれの日においても5,000件を超えない者以外の者のことをいう(個人情報保護法第2条第3項、同施行令第2条)。ただし、本稿執筆日現在、個人情報保護法の改正案が国会において審議中であり、改正法案が公布されればすべての取扱事業者が対象となる。 例えば、次の事例の場合には、当初の利用目的の範囲内としてマイナンバーを利用できる。 また、当初の利用目的の範囲内ではないが、利用目的の変更が認められる場合としては、 雇用契約に基づく給与所得の源泉徴収票作成事務のために提供を受けたマイナンバーを、雇用契約に基づく健康保険・厚生年金保険届出事務等に利用しようとする場合などがあげられる。 個人情報取扱事業者は、従業員等からマイナンバーの提供を受けるに当たっては、マイナンバーを利用するすべての事務を利用目的として特定して本人への通知等を行うことにより、利用目的の変更をすることなくマイナンバーを利用することができる。 なお、通知等の方法としては、従来から行っている個人情報の取得の際と同様に、社内LANにおける通知、利用目的を記載した書類の提示、就業規則への明記等の方法で行うことができる。 【例外的なマイナンバーの利用】 番号法では、次に掲げる場合に、例外的に利用目的を超えたマイナンバーの利用を認めている。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第4回】 「外国法人との間で作成される契約書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は、ドイツのA社との間で不動産の売買契約を締結することとなりましたが、契約の締結を日本国内で行う場合と国外であるドイツで行う場合とでは、印紙税の取扱いに違いがありますか。 契約書は、2通作成し双方署名押印等を行った後、各1通ずつ所持することとしています。 印紙税法は日本の国内法であり、その適用地域については日本国内に限られることとなる。したがって、契約書の作成が国内で作成されたのか、国外での作成かにより、課税かどうかを判断することとなる。 [検討1] 「作成」とは、「作成の時」とはどの時点をいうのか? 課税文書を作成した時に印紙税を納める義務を課しているが、この「作成」とは課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを文書の目的に従って行使することをいう。 また、「作成の時」とは、文書の目的に従って行使する時であり、相手方に交付する目的で作成される課税文書は交付の時、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書については証明の時が作成の時とされる(基通44)。 したがって、質問の契約書は契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書であるため、契約当事者双方の署名がなされた時に課税文書が作成されたことになる。 [検討2] 契約書の署名押印を従業員の名義で作成した場合、作成者は誰になるか? 法人等の役員、法人等や個人事業者の従業者の行為は、その法人等や個人事業者に直接的に帰属する(法人または個人事業者が作成者としての責任を負う)ことから、法人等または個人事業者の業務または財産に関して、役員や従業員の名義で作成する文書については、法人等や個人事業者が作成者となる(基通42)。 したがって、質問の契約書は法人の従業員の名義で作成したとしても、法人に直接帰属するものであり、法人が作成者となる。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例25(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 設立事業年度である平成X5年12月期を11ヶ月としたため、設立事業年度が特定期間に該当することとなり、結果として「特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例」により、2期目から消費税の課税事業者となってしまった。 これにより、設立2期目から課税事業者となった当初申告と、設立事業年度を7ヶ月以下の短期事業年度として2期目も免税事業者とした場合との差額につき損害が発生し、賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成X4年12月 法人設立の相談を受け、関与開始。免税事業者である期間が最も長くなるように課税期間を区切るよう依頼される。 平成X5年1月 資本金900万円で法人設立。免税事業者である期間が最も長くなるように12月決算法人に決める。 平成X5年6月 設立2期目の特定期間の課税売上高及び給与等の支給合計額が1,000万円超となり、特例により設立2期目が課税事業者になることが確定。 平成X7年1月 設立2期目の決算作業中に、特例により消費税の納税義務があること及び、設立事業年度を7ヶ月以下の短期事業年度にすれば、2期目は免税事業者でいられたことに気づく。 平成X7年2月 設立2期目の消費税申告書を提出。関与先に報告し、賠償請求を受ける。 《基礎知識》 ◆特定期間(消法9の2④) 特定期間とは、法人の場合は原則として、その事業年度の前事業年度(7ヶ月以下の短期事業年度を除く)開始の日以後6ヶ月の期間をいう。 ◆特定期間における課税売上高(消法9の2③) 特定期間における課税売上高については、法人が特定期間中に支払った所得税法231条1項(給与等、退職手当金等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき給与等の金額に相当するものの合計額とすることができる。 ◆特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例(消法9の2①) 法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、その法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されない。ただし、その事業年度の前事業年度が7ヶ月以下の短期事業年度である場合には、この特例は適用されない。 平成23年度の税制改正により、免税事業者の判定について、基準期間の課税売上高に加えて前年の上半期の課税売上高も加味されることとなった。本事例のように、法人の特定期間の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支給額の合計額が1,000万円超である場合には、設立2期目から課税事業者となる。なお、この免税事業者の判定の改正は平成25年1月1日以後に開始する事業年度から適用される。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 税理士は法人設立の相談を受けた際、免税事業者である期間が最も長くなるように課税期間を区切るよう依頼されていた。依頼者は複数の関与先が共同で立ち上げた法人であり、その実績から、当初より特定期間の課税売上高及び給与等支給額の合計額が1,000万円を超えることは明らかであった。にもかかわらず、この特例の適否を考慮せず、設立初年度を11ヶ月としたため、設立初年度が特定期間に該当してしまい、結果として2期目から課税事業者となってしまった。設立初年度を7ヶ月で区切り、短期事業年度とすれば、2期目は特例の適用を受けず、免税事業者でいられたことから、税理士に責任がある。 ただし、税賠保険の観点からは、決算期日の決定は、本来、法人自らが行うべきものであることから、保険金支払いの対象となるのは、税理士主導で行われた事実が客観的に確認できる場合等、特定の場合に限られる。 《予防策》 [ポイント①] 改正項目の確認 今回の事例は税制改正の内容を正しく理解していなかったことにより起きている。税制改正は毎年必ずあることから、改正により関与先で影響のあるところがないかどうかをその都度具体的に確認すること。また、担当者だけでなく、所内や税理士法人全体でどのように確認し、チェックするかのルール作りも必要である。 [ポイント②] 設立2期目の納税義務に注意 以前は資本金1,000万円未満で法人を設立すれば、基準期間のない設立当初2年間は必ず免税事業者であった。しかし平成25年以降は、本事例のように、設立当初より半年で課税売上高及び給与等支給額の合計額が1,000万円を超えることが明らかな場合には、特例の適用により設立2期目から消費税の納税義務が発生することを念頭に、法人設立のアドバイスを行わなければならない。 [ポイント③] 決定のプロセスや責任の所在を明らかにしておく 法人設立の際の資本金額や決算期等は依頼者法人が決めるべき事項である。したがって税理士のアドバイスによってこれらの事項が決定された場合であっても、税賠保険の対象となる税理士業務とはみられないこともあることを念頭に、決定のプロセスや責任の所在を書面に残し、明らかにしておくことが重要である。 (了)
贈与実務の頻出論点 【第8回】 (最終回) 「親からの借入れと贈与の関係」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 贈与とみなされる場合 夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で金銭等の授受が行われた場合には、実際は贈与であるにもかかわらず、賃借に仮装して贈与税課税回避を図ろうとする例があります。そのため、これらの特殊関係がある者相互間で金銭の貸与等において、実質的に贈与であるにもかかわらず、貸借の形式をとっている場合、「ある時払いの催促なし」または「出世払い」等の貸借の場合には、贈与として取り扱われます(相基通9-10)。 [2] 貸借とするには 特殊の関係がある者相互間での金銭等の授受が、贈与ではなく貸借として認められる場合には、主に次の点に注意することが必要です。 ① 契約書を作成する 金銭消費貸借契約書を作成し、借入金額、利息、返済期間等の条件を明示します。返済方法は、長期の据置期間をおかずに、毎月定額を返済するようにしましょう。 ② 借入金の返済証拠を残す 借入金の返済は、現金の手渡しではなく、預金通帳を通して返済し、返済の客観的証拠を残すようにしましょう。 ③ 無理のない借入金の返済計画を立てる 借入金が賃借人である子の所得から判断して返済可能な金額であるか、賃貸人の親の年齢等を考慮した返済期間が設けられているかなど考慮し、無理のない返済計画を立てるようにしましょう。 [3] 借入金の利子について 事実上貸借であることが明らかとなった場合においても、無利子で貸与があった場合には、利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与として取り扱われる場合があります。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合または課税上弊害がないと認められる場合には、強いて贈与税の課税をしなくてもよいこととされています(相基通9-10)。 (連載了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第12回】 「内国法人の法人税③」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-2-1-3 控除限度額の計算 控除限度額は、内国法人の各事業年度の所得金額のうちにその事業年度の調整国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額とする(法令142①)。「調整国内所得金額」とは、内国法人の各事業年度において生じた国外所得金額から非課税国外所得の金額を控除した金額をいう(法令142③)。 なお、非課税国外所得の6分の5を除外することとする経過措置は平成26年3月31日までであるため、平成26年4月1日以降は全額が除外される(平成23年12月改正法令附則9②)。 3-2-1-4 外国税額控除の対象とならない外国法人税の額 外国税額控除の対象にならない外国法人税について法人税法第69条第1項に定めがあるが、今回の改正で以下のものが新たに追加された。 3-2-1-5 文書化 (1) 国外事業所等帰属外部取引に関する事項 外国法人については、外国税額控除における国外所得金額を計算するうえで国外事業所等に帰せられる所得を計算する場合に、外国法人のPE帰属所得に係る所得の金額の計算と同様に、機能・事実分析によって取引から生ずる所得の帰属を判定することされている。 そこで、外国法人と同様に、外国税額控除の適用を受ける内国法人は、他の者と行った取引のうち、国外所得の金額の計算上、その取引から生ずる所得が国外事業所等に帰せられるもの(国外事業所等帰属外部取引)については、次の事項を記載した書類を作成しなければならないこととされた(法法69⑲、法規30の2)。 (2) 内部取引に関する事項 文書化は機能・事実分析を行う上での有用な出発点であるが、内部取引は私法上の取引でないため、企業内部におけるヒト・モノ・カネ等の動きがどのような内部取引を構成することになるかを明確にするための文書化の役割は、より一層大きなものになる。 納税者にとっては内部取引に関する自身の認識を表した文書を作成することで、税務リスクを軽減し、予見可能性を高めることが可能になる。税務当局にとっても、納税者の作成した文書を出発点として機能・事実分析を行うことで事務の効率化が図られるとともに、税務執行の明確化に資するものと考えられる。 そこで、外国税額控除の適用を受ける内国法人は、本店等と国外事業所等との間の内部取引に関し、次の書類を作成しなければならないこととされた(法法69⑳、法規30の3)。 3-2-1-6 適格合併等が行われた場合の繰越控除限度額等 内国法人が適格合併、適格分割又は適格現物出資(適格合併等という)により事業の移転を受けた場合には、被合併法人等の過去3年分の控除限度額及び控除対象外国法人税の額等のうち、当該内国法人が移転を受けた事業に係る部分の金額を当該内国法人の過去3年分の控除限度額及び控除対象外国法人税の額とみなして外国税額控除を行うこととされているが、今回の改正で、被合併法人等には外国法人が含まれない旨が規定された(法法69⑪)。 内国法人と外国法人では課税の対象となる所得の範囲や控除対象外国法人税額が異なることから、外国法人に係る外国税額控除の控除限度額や控除対象外国法人税額の内国法人への引継ぎは行わないこととされたものである(「平成26年度税制改正の解説」(財務省)780頁)。 3-2-2 連結事業年度における外国税額の控除 (1) 国外源泉所得 内国法人の外国税額控除に係る控除限度額の計算における国外源泉所得については、「国内源泉所得以外の所得」という規定の仕方を改め、積極的に「国外源泉所得」を定義することとされた(法法69④)。 連結納税制度における外国税額控除に係る連結控除限度額の計算における国外源泉所得については、単体納税における場合と同一とされている(法法81の15①)。 (2) 国外所得金額の計算 ① 概要 外国税額控除の連結控除限度額の計算の基礎となる連結国外所得金額とは、国外源泉所得に係る所得についてのみ法人税を課すものとした場合に課税標準となるべき当該連結事業年度の連結所得の金額とされ、国外事業所等に帰せられるべき資本に対応した利子の損金不算入相当額等について加減算の調整を行う必要がある(法法81の15①、法令155の27の2①)。 ② 国外事業所等帰属所得の認識時期等 国外事業所等帰属所得の認識時期、国外事業所等が内部取引により取得した資産の取扱い、内外共通費用の配分、国外事業所等に帰せられるべき自己資本に対応する負債利子の加算調整、銀行等の国外事業所等に帰せられるべき自己資本に対応する資本性負債に係る利子の減算調整及び保険会社の国外事業所等に帰せられるべき投資資産に係る収益の額の減算調整については、単体納税における場合と同様に計算することとされ、単体納税制度における各規程を準用することとされている(法令157の27の2②)。 ③ 明細書の添付 連結法人が外国税額控除の適用を受ける場合には、単体納税と同様に明細書の添付を要するとされた(法令157の27の2③)。 (3) 連結控除限度額の計算 連結事業年度における外国税額控除における連結控除限度額が、連結法人の各連結事業年度の連結所得に対する法人税の額に、その連結事業年度の連結所得金額のうちにその連結事業年度の調整連結国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額とするとされた(法令155の28①)。「調整連結国外所得金額」とは、連結法人の各事業年度において生じた連結国外所得金額から非課税国外所得の金額を控除した金額をいう(法令155の28③)。 なお、非課税国外所得の6分の5を除外することとする経過措置は平成26年3月31日までの間に開始する事業年度に係るものであるため、平成26年4月1日以後に開始する各連結事業年度については、非課税国外所得の全額が連結国外所得金額から除外される(平成23年12月改正法令附則17②)。 (4) 文書化 ① 国外事業所等帰属外部取引に関する事項 連結法人についても、単体納税におけると同様に、外国税額控除における連結国外所得金額を計算するうえで、国外事業所等に帰せられる所得を計算する場合に機能・事実分析によって、取引から生ずる所得の帰属を判定することとされている。 このため、外国税額控除の適用を受ける連結法人は、他の者と行った取引のうち、国内所得の金額の計算上、その取引から生ずる所得が国外事業所等に帰せられるものについては、一定の事項を記載した書類を作成しなければならないこととされた(法法81の15⑫、法規37の7の2)。具体的な書類は、単体の納税の場合と同様である。 ② 内部取引に関する事項 外国税額控除の適用を受ける連結法人は、単体納税におけると同様に、本店等と国外事業所等との間の内部取引に関し、国外事業所等との間の内部取引に関し、一定の書類を作成しなければならないとされた(法法81の15⑬、法規37の7の3)。具体的な書類は、単体納税における場合と同様である。 (5) 国外所得金額の計算の特例(独立企業原則の適用) ① 概要 外国税額控除の適用を受ける内国法人の本店等と国外事業所等との間の内部取引の対価とした額が独立企業間価格と異なることによる外国税額控除の控除限度額の計算における国外所得金額が過大となる場合には、当該国外所得金額の計算については、その内部取引は独立企業間価格によるものとされた(措法67の18①)。 ② 独立企業間価格の算定 内部取引に係る独立企業間価格は、移転価格税制における独立企業間価格と同様に算定することとされた(措法67の18②)。 ③ 比較対象企業に対する質問検査等 内部取引に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類又はその写しが遅滞なく提示又は提出がない場合における同業者に対する質問検査(措法67の18③)等についても移転価格税制と同様とされた(措法67の18⑩)。 ④ 文書化 移転価格税制と同様に、内部取引に係る独立企業間価格の算定に必要と認められる書類で、提示又は提出が遅滞なく行われない場合に推定課税がなされる要件となる書類について関連取引に準じて規定された(措規22の19の4①一・二)。 ⑤ 連結納税制度 連結納税制度の場合についても、①から④までと同様の改正が行われている(措法68の107の2)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第41回】 「法人税基本通達改正の歴史⑩」 公認会計士 佐藤 信祐 平成10年度税制改正においては、債権償却特別勘定が廃止され、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金として、法人税法52条、法人税法施行令96条として整備されることになった。 法人税基本通達もこれを受けて改正し、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金について、法人税基本通達11-2-2から11-2-13に定められることになった。 これだけでなく、平成10年度法人税基本通達の改正は、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の見直しも行われている。本連載については、貸倒損失についての連載であるため、貸倒引当金についての通達については解説を省略し、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の改正についてのみ解説を行うこととする。 10 平成10年度法人税基本通達の改正 平成10年6月1日付課法2-6「法人税基本通達の一部改正について」が公表され、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の改正が行われることになる。これは、平成10年4月24日に公表された政府の総合経済対策において、「合理的な再建計画に基づく債権放棄により発生する損失は税務上損金の額に算入される旨の一般的な取扱いにつき、一層の明確化を図る」ことが明らかにされたことを受けてのことである。 法人税基本通達9-4-1の改正については、「子会社等」の範囲に、「当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる」ことが明記された。もちろん、同通達9-4-1についても対象となる改正であるが、その後の運用を見てみると、同通達9-4-2を主な視野に入れていたように思える。 また、法人税基本通達9-4-2の改正については、改正前に無利息・低利融資のみが例示されていたのに対し、債権放棄が含まれることが明らかにされた。この趣旨として、国税庁審理室課長補佐であった鈴木博氏は、 (税務弘報』VOL.46 NO.8、96頁) と解説されている。第38回で解説したように、平成10年法人税基本通達改正前の解説についても、そのような文章が散見されるため、通達で明確化を図ったという事実については間違いないと考えられる。しかしながら、単純に明確化を図ったというよりは、不良債権事案がとにかく増えてきたという時代背景もあるように思える。実際に、平成10年度法人税基本通達の改正を皮切りに、不良債権処理のための措置が税務の面からも採られていくことになる。 そして、法人税基本通達9-4-2においては、「合理的な再建計画」について明確化され、 ことが明らかにされた。これを受けて、平成12年2月23日には、「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」が公表され、現在、国税庁HPのタックスアンサーにおいて閲覧することができる。 著者が会計監査の世界から租税法の世界に移ったのは、平成13年7月のことである。当時は組織再編税制が導入されたことから、適格合併を行った場合における繰越欠損金の引継ぎについての案件が多かったように記憶している。しかしながら、それ以上に多かった案件は、金融機関の不良債権処理や事業会社の子会社整理の案件であり、法人税基本通達9-4-2を適用することができるか否かという相談が多かったと記憶している。 当時の金融機関の不良債権処理については、やはり、すべての事案について国税局に相談をしていくのは不可能であり、サービサーに対して一気に譲渡をするということも多かったように思える。銀行によってまちまちだが、平成10年度前後から不良債権処理による貸倒損失が多額であり、全く法人税を支払わない時期が続き、ようやく平成24年度に入ってから法人税の支払いをするようになったというのは記憶に新しい。 ここ10年以上の間に、不良債権処理についての様々な手法が生み出され、国税局に事前相談を行わなくても、法人税法上、損金処理をすることが可能になっていく。具体的には、私的整理ガイドライン、RCC企業再生スキーム、中小企業再生支援協議会、事業再生ADR、産業再生機構、企業再生支援機構、地域経済活性化支援機構などがその例である。 これだけでなく、債務者側で債務免除益と相殺するための損失(具体的には、資産評価損、期限切れ欠損金)を発生させるために、平成17年度税制改正において従来の損金経理方式だけでなく、別表添付方式が導入され、その後も実務に対応した改正が続くことになる。 また、倒産法についての改正も次々と行われ、まずは、民事再生法が平成11年度に制定され、平成12年度から施行されるとともに、和議法が廃止されることになる。さらに、平成14年度には会社更生法の全文改正、平成16年度は破産法の抜本改正がなされるとともに、平成17年度には会社法が制定され、特別清算の見直しと会社整理の廃止が行われている。 その結果、現在の法的整理については、会社更生法、民事再生法、破産法及び会社法の規定による特別清算の4つに整理されることになる。 こうしてみると、法人税基本通達9-4-2の改正が当時の時代背景を如何によく反映したものであるかが分かる。 これに対し、事業会社における子会社整理も進められていくことになる。平成10年当時においては、3つの過剰(雇用、設備、債務)を整理していく必要があり、赤字子会社の整理というのは急務であった。また、選択と集中という言葉ももてはやされ、ノンコア事業の撤退のためのM&Aというのも活発に行われていった。平成17年度版の「経済財政白書」においては、3つの過剰はほぼ解消されたと明記されており、リーマンショック直後においても、本業の悪化による赤字はあったとしても、いわゆるノンコア事業を営む子会社の存在による赤字というのはそれほど多くはなかったと感じている。 そういう意味では、法人税基本通達9-4-1を利用したノンコア事業を営む子会社の解散や経営権の譲渡、法人税基本通達9-4-2を利用した赤字子会社に対する支援というのは、平成10年度法人税基本通達の改正による子会社支援税制の整備と平成13年度税制改正による組織再編税制の導入を皮切りに次々に行われていったと考えられる。 しかしながら、赤字子会社の法人格を残したうえで債権放棄を行うというのは、それほど多くはなかったように感じている。これは、十分な繰越欠損金が存在していなかったというのもひとつの理由であると考えられるが、平成10年度法人税基本通達改正よりも前に第2会社方式というものが生み出されており、いったん子会社を清算した方が認められやすくなるのではないかという雰囲気が強かったことが原因ではないかと考えられる。 しかしながら、国税局に対する事前相談を行わずに第2会社方式を行った結果、税務調査で否認された事例も少なくない。当時の時代背景からして、法人税基本通達9-4-2の判断がかなり厳しいということと、相談窓口が存在しているということから、事前相談を行うべきであるという風潮が強く、実際に関与した案件の多くは事前相談を行っている。 これに対し、特別清算を利用した第2会社方式については、その風評被害を嫌ったせいか、あまり事例は多くはなかったが、子会社の整理、M&A、組織再編などが活発に行われるようになってくると、それほど風評被害も多くはないのではないかという風潮により、平成17年頃から特別清算を利用した第2会社方式が活用されていくようになる。 この場合の特別清算は、別名対税型と言われている和解型で行われることになり、慣れている弁護士の先生だと半年以内に清算結了することが可能である。この場合、法人税基本通達9-6-1(2)においては協定型(本来型)についての規定であるが、同通達を準用して解釈するという意見が強いようである。 このように、法人税基本通達9-4-1、9-4-2については、平成大不況における金融機関の不良債権処理、事業会社の子会社整理・支援のために利用されることを想定して平成10年度に改正されたが、現在における実務としては、金融機関については債権譲渡、事業会社については特別清算を利用した第2会社方式が中心的な手法として活用されるようになってきているというのが個人的な感触である。 ここまでで、貸倒損失についての時代的な変遷については説明できたと思う。平成10年度税制改正後も、わずかながらも法人税基本通達の改正がなされており、また、不良債権処理についての文書回答事例も公表されているため、次回以降はその内容について解説をしていく予定である。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第1回】 「『重要性の基準値』は メタボ診断の『ウエスト85cm』と同じ」 公認会計士 石王丸 周夫 第1回は、「重要性」とは何か、何のためにあるのかというお話です。 まず手始めに、重要性に関する以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか? 正解できたでしょうか。 この程度なら簡単だという方もいれば、意外と難しかったという方もいることでしょう。 以下、この解答について触れながら、重要性という概念について基本から解説していきます。 《「重要性」とは1本の線のこと》 「重要性」という概念を非常に簡単に言い表すなら、「1本の線」ということができます。 「重要性」とは1本の線! 1本の線には、物事を2つの領域に分けるという機能があります。 たとえば、こんなふうにです。 1本の線は物事を2つの領域に分ける 中高年の男性の中には、「ウエスト85cm」と聞くとビクッとする人もいるのではないでしょうか。 「ウエスト85cm」というのは、メタボリックシンドロームの診断基準の数値です。男性の場合、85cm以上だと内臓の回りに脂肪が多くたまっていること(いわゆるメタボ)が疑われます。 つまり1本の線を境に、上側がメタボ、下側が正常と区分けされるわけです。 この1本の線と同様のものは、メタボの判定以外にもさまざまなところで見ることができます。たとえば、入学試験における合格ラインもそうです。その点数を境に、上が合格、下が不合格となります。 そして、会計の世界における「重要性の基準値」も、これとまったく同じ発想から来ています。 つまり、1本の線である「重要性の基準値」を境に、上が「重要性あり」、下が「重要性なし」と判定されるのです。 《どうして重要性判定が必要なのか?》 今ここに大小さまざまな金額の取引があるとします。それらの取引を金額の大きい順に縦に並べてみます。そして、ある金額を境に1本の線(境界線)を引いてみます。 この境界線は適当な金額ラインで引いたものではないとします。合理性のある方法によって、「それを上回る金額には重要性がある」と認められるような基準値として設定したとします。すなわち「重要性の基準値」です(実務では「重要性の金額」あるいは単に「重要性」と呼ばれることもあります)。 このとき、重要性の基準値を境に、上側の取引には重要性があり、下側の取引には重要性が乏しいと判断することができます。 これが何を意味するか、分かりますか? 区分けする以上はちゃんと意味があるのです。メタボの場合もそうですよね。メタボと判定されると生活改善が求められます。 では、会計の場合はどうかというと、重要性があるかないかで、会計処理の方法に影響が及んでくるのです。重要性がある取引については厳密な会計処理が求められる一方、重要性が乏しい取引には厳密でない会計処理が許容されます。 そうすることによって、必要以上に厳密な会計処理をせずに済むという実務への配慮がなされています。 これが会計実務において「重要性」概念が必要とされる理由です。 しかもこれは、単なる実務上の取扱いではありません。企業会計原則をはじめとするいくつかの会計基準にしっかりと記載されていることなのです(⇒したがって、問題1のアの記述は誤りです)。 ちなみにこの重要性の基準値は、必ずしも金額だけで示されるわけではありません。全体に占める割合(%)で示されることもあれば、その他の数字(たとえば、従業員の人数)によって示されることもあります(⇒したがって、問題1のイの記述は正しいです)。 《どんな場面で重要性判断が必要になるか》 重要性の判断が実務で必要になる場面は、大きく分けて2つあります。 ①は「四角い部屋を丸く掃く」ことです。 必要以上に細かな会計処理を省くことにより、業務を効率化できるというメリットがあります。 ②は「『ペンキ塗りたて』のところを触ってしまっても、目立たなければ塗り直さない」ということです。 経理の実務でも、間違いを修正しようとして、かえって間違いを大きくしてしまったりすることがありますが、そうした二次災害を防ぐメリットがあります。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第79回】 純資産会計⑦ 「減資」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 【仕訳】(単位:百万円) ▷減資 ▷欠損填補 〈会計処理の解説〉 1 減資 資本金の額を減少させることを減資といいます。 減資には、資本金を減額して会社財産を株主に払い戻す「有償減資」と資本金を減額するだけの「無償減資」があります。有償減資の場合、資本金を減額して増加させた剰余金を原資として、減資と同時に配当を行います。 会社法上、減資は資本金を減額するだけの純資産の部の計数の変動と整理され、有償減資は「資本金の減少+剰余金の配当」と整理されています。 減資は、株主にとっては会社に対する自己の持分の減少を伴うため、原則として株主総会の決議が必要となります(会社法447条1項)。 また、債権者にとっては会社財産の減少につながるおそれがあるため、債権者保護手続が求められています(会社法449条)。 そのため、株主と債権者の両者の保護手続が完了しなければ減資の効力は認められず、株主総会で決議した効力発生日までに債権者保護手続が終了していない場合には、債権者保護手続が終了した日まで減資の効力は発生しないとされています(会社法449条6項)。 会計上も、法的に効力が発生した日に減資の処理を行います(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」20項)。 2 欠損填補 欠損とは、純資産額から新株式申込証拠金・土地再評価差額金・その他有価証券評価差額金等を控除した金額が、資本金・資本準備金・利益準備金の合計額を下回る状態のことをいいます。 実務上、準備金や任意積立金、その他資本剰余金を取り崩して繰越利益剰余金のマイナス額を補填することがあります。 減資による欠損填補には株主総会の決議が必要なため(会社法447条)、株主総会で決議した効力発生日に、本事例のように繰越利益剰余金を増加させます。 ※4月は2013年10月に続き、減損会計を取り上げます。 (了)
非正規雇用の正社員化における留意点と労務手続 【第2回】 「改正法の内容と対応状況」 特定社会保険労務士 池上 裕美 前回は、非正規社員の雇用状況を確認した。今回は、非正規社員に関わる法律の改正法内容をお伝えする。また、その改正法に対して、企業はどのように対応しているのか、その対応状況をみてみることとする。 1 改正パートタイム労働法のポイント(2015年4月1日施行) ① 正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象となる範囲の拡大 改正前は、職務内容と人材活用の仕組みが正社員と同一で、期間の定めのない労働契約(以下、無期労働契約)を締結しているパートタイム労働者が対象であったが、改正法では、人材活用の仕組みが正社員と同一で、期間の定めのある労働契約(以下、有期労働契約)のパートタイム労働者も、正社員との差別的取扱いが禁止された。 ② パートタイム労働者を雇い入れたときの説明義務 賃金制度、教育訓練、福利厚生施設や正社員転換推進処置等の雇用管理の改善措置を、パートタイム労働者を雇い入れたときに、事業主が説明しなければならない。また、説明を求められたことにより、不利益な取扱いをしてはならない。 ③ パートタイム労働者からの相談に対応するための体制整備と相談窓口の周知 事業主はパートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するため、相談担当者を決めて対応させる等の必要な体制を整備しなければならない。 また、パートタイム労働者を雇い入れた時に、文書などによる明示事項(昇給、賞与、退職手当の有無)に、「相談窓口」が追加された。 特に注目すべきは、有期労働契約のパートタイム労働者も、差別的取扱いが禁止されたことである。職務内容、人材活用の仕組みが正社員と同じであれば、例えば、正社員に支給されている各種手当を、期間の定めのあるパートタイム労働者にも支給しなければならなくなる。 また、正社員とパートタイム労働者の待遇を相違させる場合は、その相違は、職務内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して不合理であってはならないとされている。 2 改正労働契約法のポイント(①③2013年4月1日施行、②2012年8月1日施行) ① 有期労働契約から無期労働契約への転換 有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換される。 原則として、6ヶ月以上の空白期間があるときは、前の契約期間を通算しない。また、契約期間以外の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間等)は、別段の定めがない限り、直前の契約と同一の労働条件となる。 ② 有期労働契約の更新等「雇止め法理」の法定化 有期労働契約を反復更新し、実質的に無期労働契約と異ならない状態の場合、または契約期間が満了した後、契約が更新されると合理的に期待が認められる場合は、契約を更新しない(雇止め)が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が更新されたものとみなされることとなる。 ③ 不合理な労働条件の禁止 有期労働契約の労働者が、無期労働契約の労働者と労働条件が相違する場合、その相違は、職務内容や配置変更の範囲等を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 契約期間を通算して5年のカウントがされるのは、2013年4月1日以降に開始する有期労働契約からであり、多くは2018年4月以降に無期労働契約に転換への対応を迫られることになる。 これらの法改正に各企業はどのように対応していくか。次に労働政策研究・研修機構の統計データをみてみる。 3 改正法への対応について ① 無期労働契約転換ルールへの対応の検討状況 「対応方針は未定」がフルタイム契約労働者が38.6%、パートタイム契約労働者が35.3%ともっとも多いが、次いで多いのが「通算5年を超える有期労働者から、申込がなされた段階で無期契約に切り替えていく」が28.4%、27.4%である。それと合わせて、何らかの形で無期契約にしていく意向のある企業として「適性を見ながら、5年を超える前に無期契約にしていく」「雇入れの段階から有期契約での雇入れは行わないようにする」を合わせてみてみると42.2%、35.5%となった。 【無期契約転換ルールの対応検討状況】 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構より) ② 無期契約への転換方法 何らかの形で無期契約に転換する意向のある企業は、どのような形で無期契約にするのか。もっとも多いのが、「有期労働契約の業務、責任、労働条件のまま、期間のみ無期へ移行させる」フルタイム契約労働者33.0%、パートタイム契約労働者42.0%であった。 【無期契約の形】 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構より) ③ 無期契約に転換するメリットと課題 有期契約の労働者を無期契約に転換するメリットとして、企業が何らかのメリットがあるとの回答は89.7%であった。中でももっとも多いのが「長期勤続・定着が期待できる」で61.2%であった。 また、無期契約に転換すると、雇用管理上の課題と考えられているものとして、「雇用調整が必要になった場合の対処方法」55.6%、「正社員と有期労働者の間の仕事や労働条件のバランスの図り方」41.4%があげられている。 【無期契約転換の課題】 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構より) 非正規社員の正社員化へと踏み切る企業が増え始める中、有期契約労働者に関わる人事労務管理のあり方を、抜本的に見直ししている企業も増えている。その具体的な取組みとして、どのようなことが必要なのだろうか。 * * * 次回は、正社員登用・転換制度の事例をもとに、無期転換ルールへの具体的な対応課題をお伝えする。 (了)
〈まずはこれだけおさえよう〉 民法(債権法)改正と 企業実務への影響 【第3回】 「定型約款」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 定型約款の定義 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」47頁より抜粋。 (1) 約款に関する改正がなされた背景 電気やガスなどを利用する場合、電車や飛行機を利用する場合あるいは保険契約を締結する場合にみられるように、現代社会では「約款」を利用して契約が締結されることが多い。しかし、多くの読者の方も経験があると思われるが、一般的に約款に目を通す人は少なく、約款の条項について個別に交渉することは少ないのが実情である。 成立した契約内容(契約書記載の各条項の内容)に当事者が拘束されるのは、当事者が契約の内容を理解し、合意していることに根拠がある。そのため、約款を用いた契約の多くは、各条項をまったく見ることもなく契約をすることから、約款に定める各条項が契約内容となる根拠がないのではないかと指摘されていた。 また、約款は約款作成者の相手方が内容を認識せずに契約することが多く、その内容が相手方にとって著しく不利益なものであったときに、これに相手方が拘束されるのは不合理であって、何らかの規制が必要ではないかと考えられる。 そこで本改正において、「定型約款」という項目を設け、約款に関する規定を新設することとなったのである。 (2) 定義 上記要綱1は、「定型約款」の定義について定めている。内容を整理すると、次のとおりとなる。 相手方の個性に着目して契約をするような場合に用いられる契約書は、①の要件を満たさない。 また、②の要件により、契約内容が画一的であることが「双方」にとって合理的であることが必要である。したがって、交渉力の格差によって結果として画一的になるような場合は、この要件を満たさないとされている。 一方、提供される財やサービスの性質から、多数の相手方に対して同一の内容で契約を締結することがビジネスモデルとして要請される場合は、事業者間契約においても、②の要件を満たすとされる。例えば、ある企業が一般的に普及しているワープロ用のソフトウェアを購入する場合のソフトウェアの利用規約や、銀行の預金取引規定といったものは、②の要件を満たすことになる。 さらに、③の要件から、契約当事者が契約条項の内容を十分に認識したうえで契約を締結する場合は、これを満たさないと理解されている。 なお、事業者と消費者との契約において、事業者が消費者一般と同様の契約を締結するための準備している契約条項は、この定型約款に該当する場合が多いといえる。 2 定型約款についてのみなし合意(組入要件) (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」47・48頁より抜粋。 (1) 組入要件 要綱2の2(1)は、約款の内容を認識していなくても、契約の内容となる(当事者を拘束する)根拠となる規定である(「組入要件」という)。 この組入要件によって契約内容となる前提として、「定型取引を行うことの合意」がなされている必要がある。「定型取引を行うことの合意」とは、例えば、インターネットで商品を買う場合には、どの店でどのような商品をいくらで購入するといったことについての意思の合致のことをいうとされている。 この合意があり、「一定の要件」を満たせば、約款の内容を認識していなくても、約款が契約内容となる。 そして、ここでの「一定の要件」とは、ⅰ)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしていたか、ⅱ)定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたこととされている。 なお、この定型約款を契約の内容とする旨の合意は、黙示の合意でもよいとされている。 (2) 不当な条項への規制 約款は、内容を認識していなくても契約内容になることから、約款作成者に一方的に著しく有利であったり、相手方にとっておよそ予測できないような条項が含まれていた場合には、これを制限することが必要である。 そこで、要綱2の2(2)は、民法に定める信義誠実原則に違反して、相手方の利益を一方的に害するような条項は、たとえ組入要件を満たすものであっても、無効になるものとされている。 3 その他-内容の表示・変更 このほか、定型約款については、定型約款準備者の定型約款の内容の開示義務や、定型約款の変更について定められている。 このうち、定型約款の変更は、定型約款による契約が成立した後に、約款作成者において定型約款の内容を修正した場合に、個別に相手方の同意をとらなくとも、既に契約が成立している相手方との契約内容も変更されるための要件を定めるものである。 多数の相手方との間で継続的な定型約款取引を行っている事業者にとっては、ぜひとも活用したい規定である。 4 企業実務への影響 定型約款についての明文の定めが設けられることで、まず自社の使用する契約書等がここでいう定型約款に該当するか否かの確認が必要とされる。 もし、定型約款に該当するのであれば、組入要件を満たしているかの検討や、各条項が不当条項規制に該当しないかといった点の検討も必要である。 また、開示請求に対応する体制も整える必要がある。 さらに、定型約款の変更の規定の利用を必要とする事業者は、定型約款の変更ができるように約款の内容を修正する必要がある。 (了)