組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第15回】 「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括④」 公認会計士 佐藤 信祐 東京地裁平成26年3月18日判決に係る2つの事件においては、朝長英樹氏から3本の鑑定意見書が出されており、平成23年10月28日付鑑定意見書、平成24年5月14日付け鑑定意見書については、第12回から第14回までで解説を行った。 本稿においては、平成24年7月12日付鑑定意見書について考察を行うこととする。 (3) 平成24年7月12日付鑑定意見書 ① 概要 本鑑定意見書は、平成23年10月28日にみなし共同事業要件について争われた事件(東京地裁平成23年(行ウ)第228号)に対して提出された鑑定意見書の補充意見書となっており、裁判が進む中で追加的に提出されたものであると推定される。それが故にその内容は多岐にわたっており、大きく分けると、 に分かれている。このうち、主要な内容は(ⅰ)(ⅱ)(ⅴ)となっているため、本稿においてはこれらを取り上げることとする。 ② 法人税法132条の2の解釈 まず、本鑑定意見書においては、立法過程において、法人税法132条の2の規定を適用するものと考えられていた「租税回避」について取り上げられているが、これは、『平成13年度版改正税法のすべて』においてまとめられていた内容を詳細に解説したものとなっているため、ここでは割愛する。 また、本鑑定意見書においては、 と指摘されているが、あいにく、ここまで明確な証拠は発見することはできなかった。むしろ、平成20年当時税務大学校研究部教授であった清水一夫氏の論文において、行為計算否認(法法132、132の2、132の3)を適用するための要件として、 を挙げられ(※1)、平成23年には、財務省主税局OBであった佐々木浩氏も包括的租税回避防止規定については経済合理性がキーワードになる旨を述べられていることを考えると(※2)、少なくとも、財務省主税局や国税庁のなかでそれほど明確な統一見解が存在したとは想定し難い。 (※1) 清水一夫(2008)「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号314頁 (※2) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)『企業組織再編成税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』大蔵財務協会129頁 むしろ、わずかな事業目的だけで経済合理性を主張することは認められないとか、経済合理性の判断は制度趣旨を踏まえて判断すべきといった見解は少なからず見受けられるところであり、しっかりとした事業目的が存在し、個別に見ただけでなく、全体的に見ても経済合理性が認められるような場合についてまで、結果として、制度趣旨に合致しないという理由だけで包括的租税回避防止規定が適用されるという解釈までには至るべきではないと考えられる。 この点については、さすがに全体的に見ても経済合理性が認められるような場合についてまで包括的租税回避防止規定を適用しようとする趣旨とまでは解されず、本鑑定意見書においても、 と記載されていることからすると、「不自然」「不合理」かどうかという認定が重要になってくるということは本鑑定意見書からも窺える。 ③ 本件の全体像 本鑑定意見書においては、本件の全体像が触れられており、 と指摘されている点が特徴的である。 これはある意味当たり前のことであり、経済合理性の判断はストラクチャー全体で判断すべきであり、個々の行為だけで判断すべきではないということは言うまでもない。そうであるならば、敢えて、 とまで主張する必要があったのかという点は疑問に感じるところである。 ④ 原告の主張に対する見解 本鑑定意見書においては、原告の主張に対して見解を述べられており、その主要な内容については、特定役員引継要件の制度趣旨と包括的租税回避防止規定の射程範囲である。 このうち、後者については、今までの鑑定意見書の内容を言い換えた内容となっているため、本稿においては割愛するが、前者について「被合併法人の特定役員は被合併法人の事業を体現していると認められる者でなければならない」と指摘している点が特徴的であり、この内容が東京地裁判決に繋がったものと考えられる。 なるほど、確かに制度趣旨を考えれば、取締役副社長としての権限や職責を有していたとしても、事前に送り込まれた役員であるということであれば、被合併法人の事業を体現していないということは言えるため、同意できる部分は少なからず存在する。 おそらくは、この鑑定意見書が書かれた後に原告が主張したものであると想定されるが、第7回で解説したように、本事件において送り込まれた取締役副社長は、買収前における被合併法人(被買収会社)の100%親会社の取締役であり、かつ、合併法人(買収会社)の代表取締役であったという特殊事情が存在する。 すなわち、親会社の取締役である以上、子会社に対する監督責任というものは存在し、そうなると、取締役副社長に就任する前であっても、被合併法人の親会社の取締役として被合併事業を体現している者であると認められ、特定資本関係発生日前に取締役副社長に就任したとしても、それは変わらないということができる。そうなると、朝長英樹氏の鑑定意見書の内容がすべて正しいと考えたとしても、納税者が勝訴する余地が存在するという興味深い結論となっている。 いずれにしても、【争点2】についての争いが本事件における中心的な内容になってくると考えられ、控訴審、上告審がどのような判決文になるのかについては、今後の実務において重要な内容になると考えられる。 次回以降は、グループ法人税制適用前の事件であるが、日本IBM事件について解説を行うこととする。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第15回】 「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、設立直後に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出しており、1~6月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を7月10日までに納付、7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を翌年1月20日までに納付しています。 先月末(平成26年11月30日)の当社の従業員数は、役員1名、正社員7名、合計8名です。平成26年12月1日付けで正社員が3名入社したので、現在(平成26年12月5日)の当社の従業員数は、役員1名、正社員10名、合計11名です。退職予定者は、いません。 今後の源泉所得税の納期についてご教示ください。 源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、源泉徴収した月の翌月10日までに納付しなければならない。ただし、次の①~③の全てを満たす場合には、1~6月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を7月10日までに納付、7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を翌年1月20日までに納付の年2回払いにすることができる。 今回のケースにおいては、平成26年12月より給与の支給人員が常時10人以上となることから、上記②の要件を満たさなくなる。したがって、遅滞なく、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署へ提出しなければならない。 提出した月以前に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、提出した月の翌月10日までに納付、提出した月の翌月以降に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、毎月翌月10日までに納付することになる。 “遅滞なく”提出すればよいことから、平成27年1月以降に提出がずれ込むことが考えられる。平成26年12月5日、平成27年1月5日、平成27年2月5日に「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署へ提出した場合の源泉所得税の納期は、以下の通りとなる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【49】 〔第6章〕判例の見方 (その7) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ③ 民事訴訟と刑事訴訟 裁判の種類といった場合、最も一般的な分類が、刑事訴訟(刑事裁判)と民事訴訟(民事裁判)に分類するものであろう。 そこで今回は、この分類について説明する。 なお「裁判」と「訴訟」の差異はあまり意識されていないが、まず「裁判」は、日常用語としては、裁判所で行われる手続自体を「裁判」ということが多い。しかし法律用語としては、裁判所が法定の形式に従い、当事者に対して示す判断(又はその判断を表示する手続上の行為)をいうものである。 また訴訟は、紛争について国家等の司法権を有する第三者を関与させ、その判断を仰ぐことで紛争を解決すること、又はそのための手続のことである。したがって裁判所で行われたとしても、当事者の話し合いで解決を図る調停や仲裁、和解などとは区別される。 したがって「訴訟」はこの「裁判」を含む手続全体、「裁判」は「訴訟」における裁判所が主体となっている部分を中心とした概念ということになろうか。しかしその差異について明確にすることに実益はないので、ほぼ同義語として、民事訴訟と刑事訴訟の分類を、民事裁判と刑事裁判の分類と同義として進めていく。 では、まず民事訴訟と刑事訴訟といった分類は、裁判(訴訟)の何による分類なのかについてである。 これは、裁判手続又はその手続を規定している根拠法令による分類といった一面がある。すなわち、その訴訟が刑事訴訟法によるか、民事訴訟法によるかといった点である。 しかしその裁判手続やその手続の根拠法令の差異も元々、争われている内容による差異でもある。すなわちその裁判が、犯罪被疑者に対する国家による刑事訴追であるのか、それとも私人間の紛争解決であるかといった内容の差異である。その意味では、争われている内容の差異ともいえる。 いずれにせよ、この争われている内容の差異、そしてその結果の裁判手続及び根拠法令の違いによる分類として、刑事訴訟と民事訴訟がある。もっともこれは大きく分けた場合であり、通常の分類としては「刑事訴訟」と「民事訴訟」、「行政訴訟(行政事件訴訟)」の3つに分けられる。 刑事訴訟は先に記したように犯罪被疑者に対する国家による刑事訴追に関する訴訟である。もう少し詳しく書くなら、特定の人の犯罪を認定し、これに対し刑罰を科すべきか否かを確定させるための訴訟手続である。国家と私人との間の問題であるため、私人を手続に関与させない形態も考えられるが、近代では人権尊重の観点から、訴追機関と審判機関を分離するとともに訴追機関と被告人とを当事者として対立させる訴訟構造が採用されている。なお、その手続が規定されている基本的な根拠法令は、刑事訴訟法となる。 民事訴訟もまた先に記したように私人間の紛争解決に関する訴訟である。ただし私人間に限らず、私法上の紛争解決の一方の当事者に、国家や地方自治体のような行政機関がなる場合もまた民事訴訟である。したがって、私人間の紛争解決というよりも、私法上の紛争解決といった方が正確であろう。したがって、端的に言うなら、私法を適用して解決するための訴訟手続といえよう。なお、その手続が規定されている基本的な根拠法令は、民事訴訟法となる。 行政訴訟は、この行政機関が一方の当事者となる民事訴訟と同様、行政機関が一方の当事者となり一方の当事者が私人となるのであるが、その争われる対象は私法上のものではなく、行政による公権力の行使に対して是正を求めるための訴訟手続である(もっとも両当事者が行政機関という場合もある(後掲、機関訴訟))。したがって、訴訟の対象となる法律関係が公法によって規律される点において、先の民事訴訟の場合と区別される。その手続が規定されている基本的な根拠法令は、行政事件訴訟法となる。 ただし行政事件訴訟法の第7条には、以下のように定められている。 ここにあるように、行政事件訴訟法に規定がない場合には民事訴訟法によることになるのであるから、広い意味(すなわち、刑事訴訟に対するという意味で)では、行政訴訟は民事訴訟に含まれると言えよう。 なお行政訴訟は、「抗告訴訟」、「当事者訴訟」、「民衆訴訟」及び「機関訴訟」に分けられる(行政事件訴訟法第2条)。 抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう(同法第3条第1項)。 当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう(同訟法第4条)。 民衆訴訟は、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益に関わらない資格で提起するものをいう(同訟法第5条)。 機関訴訟とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう(同訟法第6条)。 なお通常、訴訟という場合には、当事者の利益侵害を理由とするものであるが、民衆訴訟の場合は、当事者の利益侵害を理由としないものである点に特徴がある。 なお租税訴訟は当然、行政訴訟の一種である。 そして国税通則法第114条には、以下のように定められている。 したがって、その基本的な根拠法令は行政事件訴訟法ではあるが、特別法として優先して国税通則法第8章第2節の規定及び他の国税に関する法律の規定が優先して適用される。 (続く)
減損会計を学ぶ 【第22回】 「のれんの取扱い」 公認会計士 阿部 光成 のれんも固定資産であるので、減損会計の対象である。 今回は、のれんの減損に関する取扱いを解説する。 なお、共用資産の減損の兆候及びのれんの減損の兆候については、本連載の【第9回】で解説している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ のれん 1 のれんの帳簿価額の分割 のれんの減損処理を検討する際、その帳簿価額は、まず、のれんが認識された取引において取得された事業の単位に応じて、合理的な基準に基づき分割することになる(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)二8)。 のれんの帳簿価額を分割する場合、次のことに注意する(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)51項)。 このように規定した理由は、のれんが認識される取引において、取得の対価が概ね独立して決定され、取得後も内部管理上独立した業績評価が行われる複数の事業が取得される場合があることを考えたためである。このような複数の事業に係るのれんを一括して減損処理することは適当ではないと述べられている(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)四2(8)①)。 2 のれんに係る資産のグルーピング のれんに係る資産のグルーピングには次の2つの方法がある(減損会計意見書四2(8)②)。 のれんは、それ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないことから、①の方法が原則とされている(減損会計意見書四2(8)②)。 Ⅱ のれんについて、より大きな単位でグルーピングを行う方法 分割されたのれんを含む、より大きな単位に減損の兆候がある場合、減損損失の認識の判定及び測定において、より大きな単位でグルーピングを行う方法(Ⅰ2の①の原則的な方法)は、次の手順で行う(減損適用指針52項)。 Ⅲ のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法 1 手順 のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法(Ⅰ2の②の容認される方法)を採用する場合には、配分された各資産グループに減損の兆候があるとき(減損適用指針17項また書き)に、以下のように減損損失の認識の判定及び測定を行う(減損適用指針54項)。 2 留意点 のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法(Ⅰ2の②の容認される方法)についてだが、これは次のような場合に、のれんの帳簿価額を関連する各資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができるとされている(減損適用指針53項(1)、133項)。 当期にのれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用した場合には、事実関係が変化した場合(例えば、資産のグルーピングの変更、主要な資産の変更、資産グループ内での設備の増強や大規模な処分、資産グループ内の構成資産の経済的残存使用年数の変更など)を除いて、翌期以降の会計期間においても同じ方法を採用することになる(減損適用指針53項(2))。 また、当該企業の類似の資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある(減損適用指針53項(3))。 Ⅳ 将来キャッシュ・フローの見積期間 のれんに関して、より大きな単位でグルーピングを行う場合、減損損失を認識するかどうかを判定するために将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、原則として、のれんの残存償却年数(のれんが複数ある場合には、のれん全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めるのれんの残存償却年数)と20年のいずれか短い方となる(減損適用指針37項(4))。 また、その場合に、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、原則として、のれんの残存償却年数(のれんが複数ある場合には、のれん全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めるのれんの残存償却年数)となる(減損適用指針37項(4))。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《賞与引当金》編 【第1回】 「支給見込額基準」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 個別注記表の重要な会計方針において、賞与引当金の計上基準として、「従業員の賞与支給に備えるため、支給見込額の当期負担分を計上している」という記載を見ることがあります。 今回は、賞与引当金の原則的な計上方法である『支給見込額基準』についてご紹介します。 1 当期末および翌期X2年7月10日の仕訳 〈当期末〉 〈翌期X2年7月10日〉 賞与引当金は法的債務(条件付債務)である引当金に該当し、負債として計上しなければならないとされています(中小企業会計指針49)。具体的には、翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち、当期の負担に属する部分の金額を、賞与引当金として計上します(中小企業会計指針51)。 この設例では、翌期X2年7月10日に従業員に対して支給する賞与の見積額が6,000,000円であり、この賞与の支給対象期間は、X1年12月1日からX2年5月31日までの6ヶ月です。そこで、この賞与見積額6,000,000円のうち当期の負担に属する部分は、X1年12月1日から当期末X2年3月31日までの4ヶ月部分として、次のように算定して賞与引当金に計上します。 翌期の実際支給日において、実際支給額6,100,000円と賞与引当金4,000,000円との差額2,100,000円を翌期の賞与として計上します。この結果、実際の賞与支給額6,100,000円のうち、支給対象期間がX1年12月1日から当期末X2年3月31日までの部分4,000,000円は当期の費用に、X2年4月1日から5月31日までの部分2,000,000円と見積誤差100,000円は翌期の費用に計上されます。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上、賞与引当金繰入額については、平成10年度税制改正前には損金算入が認められていましたが、平成10年度税制改正においてこの取扱いが廃止されました。したがって、当期末において計上された賞与引当金4,000,000円は損金算入されず、原則として賞与が実際に支払われた日(翌期、X2年7月10日)の属する事業年度において損金算入できることになります。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第24回】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社・ 「第3次第三者委員会調査報告書(平成26年11月10日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【ジャパンベストレスキューシステム株式会社の概要(再掲)】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下「JBR」という)は、1997(平成9)年創業。創業時の社名は、日本二輪車ロードサービス株式会社。その後、平成11年8月に現社名に変更。 JBRホームページには、以下のような事業目的が記載されている。 連結売上高10,405百万円、連結経常利益141百万円(数字はいずれも平成25年9月期)。従業員数196名。本店所在地、愛知県名古屋市。東証1部、名証1部上場。 【2014(平成26)年5月以降の適時開示】 【概 要】 第2次調査委員会による報告書のポイント 1 3度目の第三者委員会の設置に至った経緯 再発防止策を実行中のJBRに、グループの元関係者から告発文書が届いたのは、平成26年10月20日のことである。JBRは、「告発文書に係る記載内容等には信憑性に疑義がある」としながらも、会計監査人である有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という)からの指摘もあり、3度目の第三者委員会の設置に踏み切った。 今般の告発文書は、JBR代表取締役榊原暢宏氏(以下「榊原社長」という)に関わるものであり、過去2回の調査委員会とは調査の範囲を異にしている部分も多い。ただし、上記の調査の目的(4)に掲げた株式会社バイノス(以下「バイノス」という)の不適正な売上計上に関する事実関係については、過去2回の調査報告書に依拠しており、「原則としてこの点に関する検証及び新たな調査を行うものではない」としている。 2 内部告発者について 内部告発者は、JBRグループ元関係者であり、告発文書には、第一次調査委員会設置の端緒となった内部告発を行った同一人物が、再度告発を行ったものであることが記載されているという。また、告発は「外部機関」に対し提出されたものであることが報告されているところ、前回の告発文書が、JBRの会計監査人であるトーマツに届いたものであることから類推すれば、今回の告発もトーマツに対して行われ、同時にJBRにも告発文書が提出されたものであると考えることができる。 なお、告発文書の内容について、第3次調査委員会は以下のように結論づけている。 この評価については、第1次調査報告書でも、告発内容であったバイノスとJBRの連結子会社であるJBR Leasing株式会社との間の車両賃貸契約が法外であり、そのことがバイノスの赤字の原因であること等の指摘に妥当性がないと判断されたこととも一致していると言えよう。 3 第3次調査報告書により判明した事実(その① 代表取締役個人による出資と関連当事者の範囲の網羅性) 第3次調査委員会では、JBR榊原社長、JBR取締役管理部長鈴木氏(以下「鈴木取締役」という)、JBR社長秘書及び榊原社長が個人的に出資し、又は融資を行った各社の代表者等からヒアリングを行い、各社の子会社若しくは関連会社又は関連当事者の該当性の判断を、個別に行っている。 その結果、第3次調査委員会は、以下のような留保条件を付けつつも、当該各社は、子会社、関連会社又は関連当事者には該当しないと結論づけている。 4 第3次調査報告書により判明した事実(その② 榊原社長個人の出資、融資、遊興費等に係る資金の流れ) また、第3次調査委員会は、告発に基づき、榊原社長による出資、遊興費等の資金が、JBRグループの資金によって支弁されていないかどうかについて、榊原社長個人の預金通帳、証券口座の取引履歴の入手、関係者へのヒアリングなどにより、調査・分析を行った。 その結果、JBRグループからの不適切な迂回入金は顕出されず、これらの資金は、榊原社長がJBRの上場後、同社株式を売却して得た40億円を超える資金により支出されていたことが確認された。 5 第3次調査報告書により判明した事実(その③ バイノスの不適正な会計処理に関する榊原社長の関与の有無) バイノスの不適切な売上計上については、過去2度の調査報告書で、榊原社長の関与、又はこれを認識していたという事実は認められなかったところ、第3次調査委員会では、告発文書に記載のある「榊原社長による不適正な売上計上の指示又は関与の存在を窺わせる事実が顕出されるか否かという点」を主眼として、関係者のヒアリング、告発文書に添附された別の電子メール及び告発者から別途提出を受けた電子メールについて、検討・調査を行った。 その結果、第3次調査委員会でも、バイノスの不適切な売上計上に榊原社長が関与していた事実は認められないと判断した。 6 3度にわたる第三者委員会の設置は必要だったか (1) 第3次調査委員会による指摘 第3次調査報告書は、「第6 最後に(第三者委員会の設置について)」という独立した章を設け、「3回もの第三者委員会がわずか半年の間に相次いで設置されたことは、異例なことである」としたうえで、以下のようにコメントしている。 (2) 会計監査人からの申入れによる第三者委員会の設置 本件において、それぞれの調査委員会の設置を強く主張したのは、JBRの会計監査人であるトーマツであったことは、報告書に明記されているところである。第1次調査委員会の設置は、内部告発に基づき現地往査を行った会計監査人自身が、不適正な売上計上の端緒を把握したものであり、第三者委員会の設置を求めるのは極めて当然であった。 しかし、2度目以降の設置申入れはどうだろうか。 バイノスの不適切な売上計上に関して、調査する電子メールの範囲を広げるべきだという主張は、第1次調査の過程で言明できたはずである(会計監査人も委員会のヒアリングの対象となっているし、報告書を公表する前にレビューする機会もあったのではないかと推測される)。本来であれば、調査報告書公表前に追加の調査を行わせることで、「2回目の第三者委員会設置」という事態は避けられたはずである。 また、第2次調査委員会の調査対象となった日本電源技術株式会社に対する投融資の判断についても、第3次調査委員会の調査対象となった榊原社長個人による投融資に係る子会社、関連会社又は関連当事者の範囲の判断についても、基本的には、会計監査人が、有価証券報告書の記載内容が適正であることを担保するために行う会計監査のプロセスの中で把握し、会社に確認を求める問題であり、会社と会計監査人との間で見解が異なり、第三者の判断を仰ぐという場面ならともかく、最初から「第三者委員会の判断を求める」というのでは、第三者委員会の本来のあり方とはいささか相容れないものがあるのではないかと思料する。 本件告発内容が、「告発者が伝聞した内容や社内外の噂等、真実でない情報や不正確な情報に基づく、告発者の推測が多く含まれている」ことは、最初の告発内容からも推測できるところであるし、会計監査人が告発者に直接ヒアリングを行い、社内関係者の証言と比較分析すれば、告発者の有する情報の不正確性や推測については、おそらく容易に判明したのではないかと思われる。 会計監査人としては、調査結果の信頼性が担保されることを第一義に考え、3度の調査委員会の設置を申し入れたものであろうが、その結果、「わずか半年の間に3度の調査委員会設置」という風評だけが独り歩きして、JBRという上場会社の価値を棄損してしまったのではないかという懸念が払拭できない。 (3) 3度にわたる第三者委員会の調査を終えて JBRの株価は、第三者委員会設置の発表のたびに下落しており、本稿執筆時点では280円前後で取引が行われている。もちろん、株価が、第三者委員会の調査といった風評だけで上下するものではないが、調査報告書の公表によって株価が戻っているわけでもないところが、気になるところである。 3度にわたる調査で判明した事実は、子会社のバイノスで不適正な売上計上が行われており、これを主導していたのが、バイノスの代表取締役(当時)湯川恭啓氏、バイノス取締役(当時)でJBR管理グループ・シニアマネージャーc氏(第1次報告書ではY氏、第2次報告書ではB氏、改善報告書ではD氏と記載されている)の両名であり(以上、第1次調査報告書による)、バイノス取締役(当時)でありJBR取締役加盟店サポート部長であった竹内正行氏は、少なくとも不適正な売上計上を認識していたということであった(第2次調査報告書による)。 不適正な売上に係る関係者の処分は、次のとおりとなっている。 湯川元バイノス代表取締役は、7月23日付で代表取締役の職を辞任したのち、8月25日開催の臨時株主総会で取締役も辞任。バイノス元取締役のc氏及び竹内氏も、同日の株主総会で辞任している。また、JBRの榊原社長、取締役管理部長の鈴木良夫氏及び竹内氏に対して、役員報酬の一部を減額する社内処分が行われている(8月22日付)。 なお、第3次調査報告書においては、c氏を「元JBR管理部経理グループ、元バイノス取締役」と表記しており、同氏が、どこかのタイミングJBRを退職したことがうかがえる。 (4) 第三者委員会による調査費用等 あまり開示されない第三者者委員会の調査費用であるが、JBRの8月11日付「特別損失の計上に関するお知らせ」によれば、第1次調査委員会による調査費用等として、過年度決算訂正関連費用(特別損失)93百万円を、平成26年9月期第3四半期決算に計上したということである。 第2次、第3次調査委員会に係る費用については、本稿執筆現在、個別に開示されていない。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第64回】 外貨建取引① 「外貨建営業取引」 ―二取引基準 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 輸出時(X1年4月1日) (*1) 1,000ドル×取引発生時レート 100円/ドル=100,000 ② 決済時(X1年6月30日) (*2) 1,000ドル×決済時レート 103/ドル=103,000 〈会計処理の解説〉 「外貨建取引」とは、売買価額やその他の取引価額が外国通貨で表示されている取引のことです(外貨建取引等会計処理基準注解(以下、外貨基準注解)注1)。 外貨建取引には、以下のような取引が含まれます。 本事例の売上取引は、「a.取引価額が外国通貨で表示されている物品の売買又は役務の授受」に該当するため、外貨基準等に従い、収益(売上高)や資産(売掛金、現預金)を計上することとなります。 まず、取引発生時には、原則として取引発生時レートに基づく円換算額をもって、売上高と売掛金を計上します(①の仕訳)。 「取引発生時レート」とは、取引が発生した日における直物為替相場又は合理的な基礎に基づいて算定された平均相場(例えば直近の一定期間の直物為替相場を平均したもの等)をいいます(外貨基準注解注2)。 そして、決済時には、受け入れた外貨を決済時レートで円換算した金額で計上するとともに、当該金額と売掛金との差額は為替差損益として処理します(②の仕訳)。 ここで注意しなければならないのは、決済時レートによる外貨建ての販売価額の円換算額と取引発生時に計上された売掛金との差額は、売上高の修正とするのではなく、為替差損益として処理されるということです。そのため、売上高は輸出時に計上された金額(取引発生時レートによる円換算額)から変動しません。 外貨基準では、売掛金の決済時に生じた為替変動による換算差損益は、商品の販売により獲得した収益とは区別することが求められています(外貨基準一3)。すなわち、売上取引と売掛金の決済取引は、それぞれ別個の取引として取り扱うことになります。これを「二取引基準」といいます。 なお、決済前に期末日を迎えた場合は、決算時の為替相場に基づき売掛金を換算替えします。外貨建取引における売掛金は、為替相場の変動リスク(決済時レートの変動により決済額が増減するリスク)を負っているため、それを反映するために決算時には換算替えを行うのです。 この場合も、換算により生じた差額は、売上高の修正ではなく、為替差損益として処理します(外貨基準一2②)。 ①の仕訳後、売掛金の決済前に決算を迎えた場合、必要となる決算修正仕訳は以下のとおりです。決算日(X2年3月31日)の為替相場(以下、決算日レート)は、1ドル98円とします。 期末時(X2年3月31日) (*3) 1,000ドル×決算日レート 98円/ドル=98,000 100,000((*1)より)-決算日レートによる円換算額98,000=2,000 * * * 次回は為替予約における独立処理について解説します。 (了)
過労死等防止対策推進法と企業への影響 【第1回】 「過労死等防止対策推進法はなぜ制定されたのか?」 特定社会保険労務士 池上 裕美 《はじめに》 2014年11月1日より過労死等防止対策推進法が施行された。 この法律制定に向けての動きは、2008年11月に日本労働弁護団の総会において、「過労死等防止基本法」の制定と長時間労働の規制強化を求める決議が行われたことから始まった。 この法律はいったいどのような内容なのか、企業に与える影響も気になるところである。 本連載では、「法律制定の背景」「法律の概要」「企業に与える影響」の3回に分けてお伝えしていく。 《過労死・過労自殺の実態》 近年、過労やストレスで身体、精神が破綻し、死亡や自殺に至るケースが社会的問題になっているが、「過労死」「過労自殺」が法律などで明確に定義されていなかった。その上、過労死の実数や実態はほとんど把握されておらず、調査や統計もない状態であった。また、脳・心臓疾患で亡くなった人の中で、過重労働やストレスが原因の人や、精神疾患を発症して自殺した人の中で、業務による心理的負荷が原因でうつ病となった人が、どれだけいるのか把握できるような調査や統計も行われていなかったのである。 唯一、過労死・過労自殺の実態を探る資料として「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」がある。 これによれば、脳・心臓疾患の請求件数は700件~800件を推移し、精神障害の請求件数は、平成25年では1,409件と前年より152件も増加し、過去最多となっている。 これら労災申請のデータは、過労死・過労自殺の実態からいえば氷山の一角と言われている。このように過労死が発生、増加している深刻な状況であるにもかかわらず、過労死に関する調査・研究がほとんどなされていない。過労死の発生を根絶するために、国が過労死防止の責任を負い、労働者の命と健康を守るという理念を法律で定め、国民や企業に強くアピールをしなければならないと考えられたのである。 【脳・心臓疾患の労災補償状況】 【精神障害の労災補償状況】 (厚生労働省「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」より) 《過労死等防止法制定の背景》 「過労死」という言葉は1982年に初めて使用され、それ以前は、急性死、突然死などと呼ばれていた。1988年に大阪過労死問題連絡会が、初めて「過労死110番」を開設したところ、相談の電話が殺到し、その後も相談は増え続けた。日本の過労死問題は国際的にも注目され、「karoshi(過労死)」が オックスフォード英語辞典に新しい単語として登録されるほどであった。 また、当時の労災の認定基準は厳しく、年間700件程の労災申請に対し、認定はわずか30件前後であった。1995年には、労災認定基準が一部改定され、認定件数は80件前後とやや増加した。 1997年には、入社2年目の社員が長時間労働の末に自殺し、両親が会社に民事訴訟を提起した電通事件で、原告勝訴判決が下され、自殺も過労死として救済するべきと「自殺過労死110番」が実施された。 過労自殺の認定基準となる「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」は1999年に策定された。この時期に過労死・過労自殺の労災認定を受けた遺族が、会社を被告として民事訴訟を起こす例が増え、企業に対する損害賠償を命ずる判決が多数となった。これらの判決を踏まえ、2001年に脳・心臓疾患、過労死の労災認定基準が改定された。これによって、過労死の労災認定件数は300件前後に増加した。 このように労災認定件数は増えたものの、改善される気配はなく、過重労働等による精神障害・自殺は増加し続けた。 過労死等防止法制定の動きは、2008年に日本労働弁護団の総会において「過労死防止基本法」の制定と長時間労働の規制強化を求める決議から始まった。遺族は、「過労死防止基本法」を国会で制定してほしいと陳述し、これをきっかけに、国会議員に直接訴える院内集会を行うようになった。 2011年には、過労死防止基本法制定の実行委員会が結成され、以来、実行委員は、法成立に向けての理解、指示、協力等を求める運動、署名活動や、地方公共団体の議会において意見書を採択するよう要請を行ってきた。これらの取組みが多くのマスコミに報道され、過労死防止の世論が高まっていった。 そして過労死等防止対策推進法は、2014年6月に参議院本会議で可決、成立した。 * * * 次回は過労死等防止対策推進法の概要についてご案内する。 (了)
介護事業所の労務問題 【第1回】 「介護事業所を取り巻く環境変化と労務管理」 クロスフィールズ人財研究所 代表 社会保険労務士 三浦 修 1 介護保険事業所を取り巻く環境変化 介護保険法は平成12年に施行されて以来、3年に一度の見直しが行われており、平成27年にも改正が予定されている。 今回の改正(平成27年4月)については、これまで以上の大改正となっており、介護事業者はどのような方向性で経営を行っていけばよいのかを慎重に検討をしなければならない。 介護保険法、介護報酬の改正について、主なテーマには以下のようなものがある。 このように、大きな変化を迎えようとしている中、これまでの福祉という観点からの介護事業所経営は厳しくなっていくのではないだろうか。介護保険法と介護報酬をしっかりと理解し、経営、マネジメント等を学んだ上で、今後はよりシビアに介護事業経営を行っていかなければ成り立たないのではないか、とさえ思える。 2 介護事業所の特徴 健全な介護事業経営を行う上で、重要なのは上記に加え、正しい労務管理と人事管理を行うことである。そのためにも、介護事業者自身とその中で働いている介護職員の特性を知ることが必要である。 以下、介護事業所特有の労務問題が起こる背景について紹介したい。 ① 国の制度事業である 介護事業は、国の介護保険制度事業である。都道府県知事、または市町村より指定を受けて介護サービスを提供している介護事業者は、介護保険法上の基準(人員基準・運営基準・設備基準)を満たした上で事業の展開を行っている。 このような中、ジレンマになっていることの1つが、「介護職員に売上が見えにくい」という点である。介護職員にとって介護事業は、現場のサービス提供に加え、地域貢献・社会貢献という面から理解されること、また利用者、ご家族への想いが強いことなどから、事業としての売上が意識されることが少なく、経営者である介護事業者の考え方とズレが生じてしまうケースが多々ある。 ② 女性が多い職場である 男性と女性の比率に関しては、どの介護事業所も女性が多い傾向にある。このような中、よく取り上げられる問題が「労働時間(特に深夜勤務)」「いじめ、嫌がらせ」「様々なハラスメント(セクハラ・パワハラなど)」などである。また女性が多いということと直接の関係性はないが、精神疾患が多いという特徴もある。 ③ 資格者が優遇される 第2回で解説する「人員基準」に大きく影響するが、資格者が優遇される業界であることから、介護福祉士や看護師などの有資格者が多数就業している。しかしながら、協調性のない有資格者が資格を持たない職員に横柄な態度をとったり、介護福祉士などの資格の有無が役職・人事に影響し、人員配置の流動性が確保できなくなるなどの問題も多々起きている。 特に小規模の事業所では、資格の有無により職員の配置換えが効率的に行えなくなる、という点が今後ますます大きな問題となっていくだろう。 ④ 慢性的な人手不足である 建設事業、保育事業等と同様、またそれ以上に介護事業所は慢性的な人手不足である。言い換えれば、労働者にとって介護業界は売手市場になっていることから、突然退職やモラル低下などの問題が発生している。 つまり、採用当初は一生懸命働いていても、ちょっとした問題や不満が生じると他の事業所に移ることが容易にできるため、職員の意識低下を招きやすい状況となっている。 ⑤ 職員の年齢構成が幅広い 最近では、若い介護職員から70歳以上の介護職員など、様々な年齢で構成している事業所が見られるようになってきた。年齢構成が幅広いことによるメリット・デメリットとしては、様々なことが考えられる。 例えば、高齢の職員の場合、利用者とコミュニケーションを取りやすいという反面、自動車の運転やパソコン入力による報告書作成等は苦手なことが多い。それに対し、若い職員の場合は、パソコン等のシステムに強い、様々な面において情報収集力が高いといったメリットがある反面、どうしても利用者との年齢が離れているため、ミスコミュニケーションが起こる可能性が高いというデメリットも想定される。 * * * 上記の特徴を理解した上で労務管理を行うためには、避けては通れない重要な事項がある。それは、介護保険法の基準のひとつである、「人員基準」の存在である。この問題点を理解したうえで労務管理、人事管理を行わなければならない。 これから数回にわたり、人員基準の視点で、介護事業所の労務管理について解説していきたい。第2回である次回は、介護事業所における募集・採用の難しさと、介護保険法における人員基準について解説を行う。 (了)
私が出会った[相続]のお話 【第12回】 (最終回) 「税理士としての喜びを実感できるのが相続業務」 ~画一的なコンサルタント像はありえない~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔財務コンサルタントになってよかった〕 私は銀行員として、二度の職種に携わることができました。 すなわち50歳までは支店長としての店部経営と人材の育成を経験し、それ以降は財務コンサルタントとして顧客対応と新任財務コンサルタントの指導と教育を行いました。そして60歳以降は引き続き、銀行及び関連会社の顧問として業務委託契約を交わすとともに、独立して個人のコンサルタント事務所を開設いたしました。 つまり、銀行員としての完全なるサラリーマン生活(雇われマダム)、財務コンサルタントとしての顧客に重きを置いたコンサル生活(チーフコック)、そして独立してからの自営業(自由業)としての生活と、今日70歳に至るまで貴重な経験を積ませていただいたことになります。 振り返れば、財務コンサルタントになって本当に良かったと思っています。 もしこの業務に携わらなかったら、おそらく50歳過ぎで支店長職を退き、60歳過ぎまで関連会社の役員を務め、サラリーマン生活を終えなければならなかったでしょう。現在のように、多少なりともクライアントのお役に立てている実感は得られなかったに相違ありません。 そんなコンサル業務の心構えの「原点」は、かつて銀行のコンサルタント時代に聞いた、当時の社長からの財務コンサルタントへの訓示でした。 それからの私はコンサルタントとして業務を行う際に、常に意識してその訓示を心がけてきました。そして、指導者として銀行の新任財務コンサルタントの研修の際には、必ずこの話を披露してきました。 その内容は次に要約して申し述べさせていただきますが、単に銀行の財務コンサルタントだけに通用するのではなく、税理士業においても、また、事務所勤務の若手税理士さんにも通ずるものではないかと感じております。 ご参考になさってください。 いかがですか。 本文のコンサルタントを税理士に、銀行や支店長を事務所または事務所経営に、置き換えてお読みいただければと思います。 サラリーマンであるコンサルタントと税理士先生とを同じレベルにすることはできませんが、少なくとも顧客対応の考え方の原点として理解していただければ幸いです。 〈連載を終えるにあたって〉 ~老コンサルタントから最後にひと言~ 冒頭に申し上げましたように、コンサルタント業務を通じ、人脈の大切さ、面白さ、楽しさを実感し、この歳になるまで感動できる生き方を味わうことができました。 その主たる理由は、『人から感謝される喜び』が実感できたからだと思います。 もちろん苦しく困難な状況もありましたが、振り返ってみますと社会生活はすべて修業の場だと思います。 時には開き直りが大切で、「所詮儲けものの人生、山より大きな獅子は出ん!」をモットーにやってまいりました。 重ねて申し上げますが、社会のお役に立っている実感、自分自身の生きがいの実感、それが体験できるのが、税理士業務と相続業務なのです! 長い間お付き合いいただきまして、本当にありがとうございました! (連載了)