税務判例を読むための税法の学び方【33】 〔第5章〕法令用語 (その19) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 11 取消・無効・撤回 前回や前々回に解説した「期限や期日を示す表現」では、単に法令用語というのみならず、民法等の他の法令による解釈をも交えて解説した。 引き続き、類似の意味を有する用語ではあるが、その意義については民法上に規定がある「取消」と「無効」について確認する。そしてこの「取消」と似た意味を有する「撤回」(この意味でありながら、かつては条文上「取消」と記されていたものもあった(改正前民法521条))についてもここで説明する。 ① 民法上の意義 外形的に見ると法律上の効果を求めた法律行為ないし意思表示がありながら、法律がこれに対して直接にその効力を否定する(無効)、又は行為者にその効力を否定する事を認めている場合がある。そしてこの後者の場合においても、はじめに遡って効力を否定するもの(取消)と、はじめに遡ることはせず将来にわたりその効力を失わせるもの(撤回)とがある。 では、この差異について詳しく見てみよう。 Ⅰ 無効 「法律行為の無効」とは、法律行為が有効となるための要件を満たしていないために、その行為が法律効果を生じないことをいう。また、「意思表示の無効」とは、表意者に行為能力がない場合等、主観的有効要件を満たしていないために、その行為がその法律効果を生じないことをいう。 そして無効は、法律がこれに対して直接にその効力を否定するものであるから、誰でも無効を主張でき、その及ぶ範囲も当事者に限られないのが原則である。また民法119条に「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない」と規定されているように、追認は認められないのが原則である。 しかし、この無効にもいくつか種類があるため、以下に説明する。 (1) 無効主張権者及び無効の及ぶ範囲による分類 (A) 絶対的無効 当事者間だけではなく、第三者に対しても主張できる無効である。また当事者だけでなく第三者からも主張できる無効である(公序良俗違反の法律行為や強行法規違反の法律行為がこれに該当する)。民法上の無効は、絶対的無効が原則である。 (B) 相対的無効 無効の主張が当事者間のみにしか許されず、善意の第三者に対しては主張できないものをいう。この意味から当然、第三者からの主張は原則認められない。 (C) 取消的無効 相対的無効の一種であるが、その中で無効の主張が当事者の一方にしか許されないものをいう。例えば、錯誤(民法95条)による無効は表意者を保護するための制度であることから、無効主張は原則として表意者のみが主張できるものとされている。ただし、例外的に表意者自身が要素の錯誤を認めている場合に、第三者に債権保全の必要があるときには表意者の債権の代位行使が許されるとして、第三者からの無効主張が認められている(最判昭和45年3月26日民集24巻3号151頁)。 この取消的無効は、取消的とあるように取消に近いものであるが(このように判例等で無効が取消類似のものになることを、一般的に「無効の取消化」という)、完全に同じものではない。例えば無効な法律行為は初めから効力がない為に時間が経過しても法律上の効力を生じることはないが、取消の場合は取消権が時効期間等にかかって消滅すると取消はできなくなる。 (2) 他の要素を変更や追認などにより有効なものに転換しうるか否かによる分類 (A) 確定的無効(確定無効) 他の要素を変更しても有効になることはない無効である。公序良俗違反の法律行為や強行法規違反の法律行為は追認や他の要素を変更しても有効とはならないので確定的無効である。したがって、追認によっても、その効力を生じないのが原則である(民法119条)。民法上の無効行為の原則は確定的無効である。 (B) 不確定的無効(未確定無効) 他の要素を変更すると有効となりうる無効のこと。例えば、無権代理行為による無効は、本人の追認によりその効力は本人に帰属することになる(民法113条)。ただし、追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなされるので、原則、遡って有効となるわけではない(民法119条)。 Ⅱ 取消 取り消すことのできる行為(「取り消しうべき行為」ともいう)は、取消権を行使までは有効であるが、取消権が行使されると、初めから無効であったとみなされる(民法121条)。 無効は当然に初めから効力を生じないのに対し、取消は効力が一応生じている法律行為につき法律で認められた取消権者が取消をなすことによってはじめに遡って効力を失うことになる点で異なる。 また上記のように、無効な法律行為は初めから効力がないために時間が経過しても法律上の効力を生じることはないが、取消の場合は取消権が時効期間等にかかって消滅すると取消はできなくなる。 また原則、無効な行為は追認によってもその効力を生じないが、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときには新たな行為をしたものとみなされ、その追認の時から効力を生じることになる(119条)。これに対して、取消は、取消権を行使するまでは有効なのであるから、追認権者が追認したときは以後は取消ができなくなり確定的なものになるにすぎず、はじめから有効なものである。 Ⅲ 撤回 一般的には、申し出た事柄を取りやめて、当該申し出がなかったことにするという意味で用いられる。しかし民法上は、表意者が、ある行為を将来に向かって無効とさせることである。撤回行使時まではその意思表示は有効であり、撤回行使時からその意思表示が無効となる。また撤回は、未だ効力が生じていない法律行為や意思表示についてなされるものであり、その効力の発生を阻止する点で取消や解除(一方の当事者の意思表示によって有効に締結された契約を解消し、これによって生じた債権債務関係を契約成立前の状態に復する制度)等と異なる。 (次回に続く)
過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第11回】 「諸税金に関する会計処理」 公認会計士 阿部 光成 《解 説》 前述のとおり、平成23年3月29日付で、過年度遡及会計基準を受けて、「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第63号)が改正されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 主な改正内容 アンダーラインの部分が改正された部分である。 Ⅱ 過去の誤謬に起因するもの 前述のとおり、実務指針63号では、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に基づき処理することになる。 その際、実務指針63号では、 と規定している。 ここで、「過去の誤謬に起因するもの」に該当するかどうかについては、事実関係を把握し、慎重に判断する必要があると考えられる。 例えば、課税所得に乗ずる法人税率について、誤った税率を用いていた場合には、特段の理由がない限り、「過去の誤謬に起因するもの」に該当すると考えられる。 一方、税務上、損金算入が可能と判断し、税金計算を行ったところ、後日、税務調査が行われて当該損金算入が否定されることがありうる。 この場合、過年度の税務上の判断が「過去の誤謬に起因するもの」に該当するかどうかは慎重に判断する必要がある。 例えば、当時の損金算入を可能とする判断について、事実関係の把握を十分に行い、関連する税法を調査し、税務の専門家に相談したうえで、損金算入可能と判断していた場合には、必ずしも「過去の誤謬に起因するもの」とは言えないと考えられる。 ただし、当時の損金算入を可能とする判断について、事実関係の把握や関連する税法の調査などがずさんである場合には、「過去の誤謬に起因するもの」と判断されるケースもありうると考えられる。 このため、「過去の誤謬に起因するもの」に該当するかどうかについては、損金算入可能と判断した経緯などを十分に踏まえて、慎重に判断する必要があると考えられる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第40回】 退職給付会計⑦ 「退職給付債務―割引率について」 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (*1) 当期の勤務費用36+当期の利息費用6 なお、個別財務諸表上の会計処理は上記のとおりですが、連結上は「退職給付に係る負債」という勘定を使用するため、下記の組替仕訳が必要となります。 (連結修正仕訳) 〈会計処理の解説〉 すでに解説したとおり、退職給付債務の計算は以下の3つのステップに分けることができます(図1)。 退職給付債務は、退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算します。 今回はSTEP3の割引計算で利用する割引率について解説します。 《図1》(再掲) STEP3の割引計算は、期末までの発生額を期末時点の現在価値に引きなおすための計算であり、その際に用いる利率を「割引率」といいます。 退職給付債務の計算における割引率は、国債、政府機関債、優良社債等の期末における安全性の高い債券の利回りを基礎として設定するとされています。そして、優良社債には、例えば、複数の格付機関による直近の格付けがダブルA格相当以上を得ている社債等が含まれます(退職給付に関する会計基準の適用指針第24項)。 割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。その割引率としては、例えば、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれます(退職給付に関する会計基準の適用指針第24項)。 (了) ※5月は、過年度遡及会計を取り上げます。
設備投資減税を正しく活用して強い企業をつくる ~設備投資における管理会計のポイント~ 【第8回】 「「設備投資の経済性計算」では判断が難しい場合」 公認会計士・税理士 若松 弘之 〈「設備投資の経済性計算」では判断が難しい場合とは〉 【第6回】・【第7回】で解説してきた「設備投資の経済性計算」は、あくまで計算に必要な金額や情報が適切に集計できることを前提としていた。 ところが、実務や現場では必ずしもそのように簡単に事が進まず、ある設備投資を実行することによって、どの程度の売上(または収入)もしくは利益(または正味キャッシュ・フロー)が増えるかという直接的な投資効果がはっきりと分からない場面も多いであろう。 完結した新製品製造ラインを導入した場合や、今まで人手をかけて行っていた作業をすべて機械が代替するようになった場合など、直接的な設備投資効果が分かりやすい設備投資ばかりではないのである。 例えば、既存製造ラインの一部設備のみを取替更新する場合や、製品不良率を抑えるため、または品質維持のため新しい機械を導入する場合などは、歩留り率向上による原価低減効果を間接的に測定する必要があり、適切な原価計算システムが構築されていることが大前提となる。 大まかに分類すると、設備投資は次の4つのパターンになる。 (ア)については、売上数量や単価の増加を合理的に予測し、設備投資の結果として売上高がどの程度増えるのかを測定することになる。 (イ)については設備投資によって、直接的に売上高が増えるわけではないが、不良率が下がることで原材料投入量が少なくて済んだり、稼働時間が短くなったり、電気・水道代が減少したりするなどにより、費用がどの程度減るのかを測定することになる。 (ア)と(イ)とも、結果的には利益および正味キャッシュ・フローの増加につながるものであり、「設備投資の経済性計算」になじむものであるため、何らかの形で売上増加額または費用削減額を測定したり、見積もったりする努力が必要となる。 一方、(ウ)は現状設備でも事業に差し支えはないが、設備の老朽化に伴い不具合や修理頻度が増加することに対応し、設備や部品などを更新することで一定水準の生産性を維持しようというものである。 また、これにより現有設備全体の寿命が延びるという効果もある。 この場合に「差額キャッシュ・フロー」の視点が必要となる。 例えば、現状設備を使用し続ける場合に増大するメンテナンスコストや修理費用、トラブルによって製造ラインがストップすることに伴うコストが年間100万円とする。 一方、300万円の最新鋭設備を導入した場合、メンテナンスコストは発生しなくなるとしよう。 仮に5年間その状態が維持できるとするならば、5年間におけるキャッシュ・フロー比較は下表のようになり、設備投資による差額キャッシュ・フローは+200万円となる(厳密には5年にわたるキャッシュの時間的価値を考慮すべき)。 したがって、(ウ)のような設備投資においては、設備投資しなかった場合に発生するマイナス影響である機会損失としての「差額キャッシュ・フロー」を適切に把握することが大事である。 そして「差額キャッシュ・フロー」がプラスになるのであれば、追加的な設備投資を積極的に検討することになる。 大事なポイントは、設備使用が長期間に及ぶ場合、現状に満足することなく、常に「差額キャッシュ・フロー」がプラスになるような代替的かつ追加的な設備投資機会を模索することである。 最後に(エ)のような設備投資であるが、これが最も意思決定を困難にするものとなる。 これらは、生産能力や品質向上・維持には直接的な関連性はないが、従業員の労働環境や意欲、利便性などを向上させるため建物、附属設備、備品などの投資を行ったり、万が一の自然災害や労災回避、または周辺環境や地域住民などに対する社会的な責任として設備投資を行ったりする場合などである。 例えば、発生可能性はさほど高くないとしても、ひとたび大地震が発生してしまった場合に、耐震補強工事を怠っていたことが原因で、建物や工場が倒壊して、企業に甚大な被害が及ぶかもしれない。 また、有害物質を除去する設備が不十分であったために、環境汚染を引き起こしてしまい、企業の信用が大きく失墜してしまうかもしれない。 これら様々なリスクに関して、未然に回避しようという設備投資も重要である。 一方、従業員の労働環境等の向上は、企業への定着率や生産性を高める効果があると思われるが、必ずしも客観的数値を測定することは容易ではない。 (エ)は、前述(ア)や(イ)の設備投資と比較した場合、企業への利益貢献が明らかでないため、単なる「設備投資の経済性計算」のうえでは、正味現在価値がマイナス評価となり、設備投資案から排除される可能性もある。 しかしながら、定量化できないリスクと向きあい、経験則に基づいてこれらの発生を回避することも重要な経営施策といえよう。 よって、発生リスクと企業への影響度を網羅的に把握し、優先順位の高いものから、政策的判断で設備投資の意思決定を行うことも必要となるのではないだろうか。 〈設備投資の意思決定を適切に実行する経営管理体制〉 設備投資は企業が持続的に成長していくために欠かすことのできない施策であり、金額や規模の多寡はあれども、毎期複数発生するものである。 したがって、本来、すべての企業において、長年かけて構築してきた設備投資の検討体制や仕組みがあるはずである。 以下に設備投資に関する経営管理体制のポイント例を示すので、自社の状況を踏まえて、ぜひセルフチェックをしていただきたい。 * * * 最終回である次回は、第1回から今回までの総まとめをしながら、設備投資減税を正しく活用するポイントについてあらためて確認する。 (了)
パワーハラスメントの実態と対策 【第3回】 「判例と法的解釈」 特定社会保険労務士 大東 恵子 職場のパワーハラスメント(パワハラ)は、裁判ではどのように判断されるのか。 いくつか判例をご紹介したい。 ① 日研化学事件(2007年) 2007年に判決が出た「日研化学事件」では、上司の叱責・暴言が原因で被害者が自殺した。 被害者は上司から「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している」「おまえは会社を食い物にしている給料泥棒」などの暴言を繰り返し受けていた。 裁判では、これらの行為は、「過度に厳しく、キャリアを否定し人格・存在自体を否定するものだ」と判断され、労災認定までも行われた。 この裁判では、このような言動は、部下の指導の範疇を超え、まさにパワハラ行為そのものと判断された。 【解説】 パワハラ行為は、加害者がどんなに指導と言い張っても通用しない。加害者がパワハラだという認識がなくても、その言動が「社会通念上、客観的に見て過重なもの」と判断されれば、パワハラに該当する。 ここでポイントとなるのが、「社会通念上、客観的に見て過重なもの」という点である。 次に、これによって判決が覆った例を紹介する。 ② 前田道路パワハラ自殺事件(2009年) 2009年に判決が出た「前田道路パワハラ自殺事件」では、不正経理やその隠ぺいを行っていた被害者が、不正を上司から厳しく問いただされたことを苦にして自殺した。 この事件について、2008年の松山地裁の判決では、上司の叱責は「業務上の指導の範疇を超えるもの」と評価され、会社に3,100万円の支払いが命ぜられた。ところが、2009年の高松高裁判決では、「不正経理等についてある程度の厳しい改善指導をすることは、上司らのなすべき正当な業務の範囲内にあるというべきものであり、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えるものと評価することはできない」とした。 さらに、自殺についても会社側が予見できたかについて、「予見可能性はなかった」として、会社の不法行為責任を否定し、原告の訴えは棄却された。 【解説】 この判例は、「社会通念上、客観的に見て過重なもの」かどうかという論点が、判決を覆した結果となったものである。この点が、パワハラを考える上で重要となる。 しかし、この前田道路パワハラ自殺事件のように、会社側が直接の不法行為責任はなかったと判断されたものであっても、一方で職場の安全配慮義務を怠ったとして債務不履行として責任を問われる可能性がある。 ③ 川崎市水道局事件(2003年) 会社側の債務不履行責任を問われたものとして、川崎市水道局事件がある。 これは水道局職員が職場内におけるいじめや嫌がらせなどにより自殺し、職員の遺族が使用者である市に対して損害賠償を求めたケースである(川崎市水道局事件 東京高裁 平15.3.25判決)。 この判例では、いじめの制止や謝罪など、適切な対応策を講じなかった市に対して、国家賠償法上の責任により、2,300万円の損害賠償義務が命ぜられた。 【解説】 使用者である会社側には、安全配慮義務に基づいて、労働者の就労を妨げるような行為の発生を未然に防ぐとともに、発生した場合には、ただちに是正措置を講ずる義務があるとされている。これらの対応義務を怠り、従業員や第三者に人的・物的損害を与えた場合には、損害賠償等の責任を問われる場合もある。 これは、パワハラにおいても同様であり、発生した場合は相応の対応が必要となる。これを怠ると、上記の判例のように損害賠償義務が命ぜられることもある。 パワハラが発生した際の適切な対応の必要性は、これらの判例から見てとれる。 * * * パワハラ行為そのものは、裁判においてどのような判断が下ったとしても、当事者にとっては辛く悲しい出来事に違いはない。会社は、未然に防ぐ対策や、実際に起きたときの解決策が必要となる。 次回は、パワハラの防止策について触れたい。 (了)
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第3回】 「契約書の「〇〇円(税込)」という記載と買いたたき」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 「買いたたき」と「合理的な理由」 消費税転嫁対策特別措置法が禁止する「買いたたき」とは、「商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」をいう(同法3条1号)。 そして、「通常支払われる対価」とは、通常は、特定事業者(買手)と特定供給事業者(売手)との間で取引している商品・役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいうとされる(公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)第1部第1の3(2))。 つまり、平成26年3月に税込105円で購入していた商品については、108円が「通常支払われる対価」であり、同年4月以降、108円を下回る価格(105円はもちろん、106円や107円を含む)で購入することは、原則として「買いたたき」に当たる。 そして、このような「通常支払われる対価」を下回る価格での購入が許されるのは、「合理的な理由」がある場合に限られる(公取委ガイドライン第1部第1の3(3))。 2 契約書等における価格表示と「買いたたき」 契約書等において商品や役務の対価の額を合意する場合、消費税に関する表示の方法には様々なバリエーションが考えられる。 そこで、契約書等における価格表示と「買いたたき」の関係を整理すると、以下のようになる。 ア 「100円(消費税別)」 この場合、契約当事者間は、「100円」という本体価格を決めた上で、当該本体価格に法定の税率を乗じた消費税相当額を別途支払うことを合意したものとみられる。 したがって、消費税率引上げ後に合理的な理由なく税込105円のまま据え置くことは、買いたたきに当たる。 イ 「100円(別途消費税5円)」 この場合は、消費税相当額が「5円」と明記されている点が、上記アと異なる。 しかし、契約当事者の意思を合理的に解釈すると、契約当時の消費税率が5%であったことから「5円」という金額を明示したというにすぎず、消費税率が引き上げられた場合に本体価格を減額してでも「5円」という消費税相当額を維持することを合意したものとみることはできない。 したがって、この場合も上記アと同様、消費税率引上げ後に合理的な理由なく税込105円のまま据え置くことは、買いたたきに当たる。 ウ 「100円(税込)」 設問の事例である。 これについては、「消費税価格転嫁等総合相談センターの応答事例」に、以下のとおり同様の事例が掲載されている。 つまり、契約当事者の意思を合理的に解釈すると、「100円(税込)」という記載は、契約当時の消費税率が5%であったことを前提に、本体価格と5%の消費税相当額を合わせて100円とすることを合意したものであり、消費税率が引き上げられた場合にまで本体価格と消費税相当額の合計を100円に据え置くことを合意したものとみることはできない。 したがって、8%の税率により計算した消費税相当額を支払う必要があるのに、契約書に「100円(税込)」と記載されているからといって税込価格を据え置くことは、「合理的な理由」があるとはいえず、「買いたたき」に当たる。 しかし、法律や税務になじみのない企業担当者が、「100円(税込)」という記載を読み、特に悪気もないまま、消費税率引上げ後も100円のまま据え置いて構わないと文字どおりに解釈し、対価を据え置こうとする場合があり得るだろう。 このような事態が起こらないよう、注意が必要である。 3 企業がとるべき対応 契約書に「100円(別途消費税5円)」(前記イ)や「100円(税込)」(前記ウ)と記載されている場合は、消費税率引上げに当たって混乱を生じないよう、引上げ後の税率を前提とした記載の契約書を新たに締結したり、その旨の覚書・合意書を締結したりすることが望ましい。 また、そのような対応が困難な場合であっても、「買いたたき」を行わないために、8%の消費税率を前提とした支払を行うようにすることは必要不可欠である。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第16話】 「お客様の状況によって提案も変化する」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 《主な中小企業の税制メリット》 ① 法人税率について軽減措置があります。 〈普通法人の税率一覧〉 ※ 資本金5億円以上の法人等の100%子法人は適用されません。 ② 交際費課税について特例措置があります。 法人が支出した交際費等は租税特別措置法により損金不算入とされていますが、 中小法人は、 上記ア)とイ)の選択適用を可能とする措置が平成28年3月31日までに開始する事業年度まで講じられます。ただし、イ)は中小企業以外にも認められています。 ③ 中小企業投資促進税制の拡充・延長 中小企業の一定の要件を備えた生産性向上に向けた設備投資(ソフトウエア組込型装置 を含む)を即時償却することが認められています。 以前、資本金3,000万円超の法人は一定の設備投資に対して税額控除が認められていませんでしたが、平成26年度の税制改正で、資本金1億円以下の法人に税額控除が認められるようになりました。 ④ 中小企業等の小額減価償却資産の取得価額の損金算入の延長 取得価額30万円未満のすべての減価償却資産を対象に、平成28年3月31日までに開始する事業年度まで全額即時償却損金算入が認められています。 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の状況は日々変わります。 すべてを把握できるわけではありませんが、できれば月に1回は訪問し、この1ヶ月間の出来事や今後数ヶ月の予想される事項を伺い、その状況に応じた適切なアドバイスをしましょう。 その際、口頭だけでなく、分かりやすい資料を使って説明することも大切です。 (了)
《速報解説》 平成26年度改正に対応した 「法人税」及び「地方法人税」の申告書(別表)様式の変更について Profession Journal編集部 平成26年度税制改正関連法令の公布を受け、4月14日付け官報号外第84号において「法人税法施行規則の一部を改正する省令」等が公布された。 これにより、平成26年4月1日以後終了事業年度から適用される法人税申告書(別表)様式の改正内容が明らかとなった(「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」も同日公布)。 また、平成26年度改正で創設された地方法人税についての申告書及び付表が同日公布の「地方法人税法施行規則及び法人税法施行規則の一部を改正する省令」で明らかにされている。 同省令の施行に伴い、平成26年10月1日以後終了事業年度から適用される「法人税法施行規則の一部改正」が別途行われていることから、事業年度による申告書様式の改正については注意を要する。 〈平成26年4月1日以後終了事業年度から適用される法人税申告書〉 今回明らかとなった様式の改正のうち、主なものは下記のとおりである。 別表6(6):試験研究費の総額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(7):中小企業者等が試験研究を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(8):試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(12):中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※中小企業投資促進税制 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(15):国家戦略特別区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒★新設(措置法42の10) ※別表6(16)は「国際戦略総合特別区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(措置法42の11) 別表6(17):雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※雇用促進税制 ⇒一部改正 (旧様式はこちら) 別表6(20):雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※所得拡大促進税制 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(21):生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※生産性向上設備投資促進税制 ⇒★新設 別表12(1):海外投資等損失準備金の損金算入に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表12(2):新事業開拓事業者投資損失準備金の損金算入に関する明細書 ※ベンチャー投資促進税制 ⇒★創設 別表12(3):特定事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書 ※事業再編促進税制 ⇒★創設 別表15:交際費等の損金算入に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表15の2:交際費等の損金算入に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 〈地方法人税(平成26年10月1日以後開始事業年度から適用)に関する申告書様式(すべて創設)〉 別表1 各課税事業年度の地方法人税(確定)申告書 別表2 外国税額の控除に関する明細書 別表2付表 各連結法人の外国税額の控除に関する明細書 別表3 法第16条《中間申告:編集部注》第1項の規定による予定申告書 別表3付表1 中間納付額の調整計算に関する明細書 別表3付表2 最初の連結事業年度の前期実績基準相当額並びに連結納税の承認の取消し及び連結納税への加入の場合の調整額の計算に関する明細書 別表3付表3 合併及び残余財産確定の場合の調整額の計算に関する明細書 別表4 退職年金等積立金に係る地方法人税の申告書―退職年金業務等を行う法人の分 (了)
《速報解説》 財産評価基本通達改正に伴う パブリックコメントの公募について 税理士 小幡 修大 国税庁では、現下の社会経済の実態等を踏まえ「財産評価基本通達」の改正を予定しており、以下の点について平成26年5月2日までパブリックコメントを公募している。 1 上場新株予約権の評価 (1) 新株予約権無償割当て及び上場新株予約権 会社の資金調達手段の一つとして、株主にその有する株式の数に応じて当該会社の株式の交付を受けることができる新株予約権を無償で付与し、その権利行使を受けて株式を交付する、「新株予約権無償割当て」(会社法277)という制度がある。 その新株予約権は、会社の申請により新株予約権証券を金融商品取引所に上場することができ(上場新株予約権)、その事例が増加しているが、この場合の新株予約権の評価が明らかにされていないことから、次のとおり評価方法を明らかにする。 (2) 評価方法 新株予約権無償割当てにより株主に割り当てられた新株予約権で、①金融商品取引所に上場されているもの、及び②上場廃止後権利行使期間内にあるものを「上場新株予約権」と定義し、①と②の期間の別に、それぞれ次のように評価する。 ① 上場期間内にある場合 その新株予約権が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格と上場期間中の毎日の最終価格の平均額のいずれか低い金額 (注) 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した場合には、金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格 ② 上場廃止後権利行使期間内にある場合 課税時期におけるその目的たる株式の価額から権利行使価額を控除した金額に、新株予約権1個の行使により取得できる株式数を乗じて計算した金額 (注) 権利行使期間内に権利行使されなかった新株予約権について発行法人が取得する旨の条項が付されている場合には、上記②の金額と取得条項に基づく取得価格のいずれか低い金額 2 ストックオプションの定義 上記「上場新株予約権の評価」を新設することに伴い、ストックオプションの定義(評基通168(8))から上場新株予約権に該当するものを除く改正を行う。 3 証券投資信託受益証券の評価 証券投資信託受益証券のうち、上場されているものについては、上場株式における権利落や配当落に相当する現象が生じることを踏まえ、これらを評価方法に反映させる内容の改正を行う。 具体的には、上場株式と同様に以下の定めに準じて評価する。 4 受益証券発行信託証券等の評価 (1) 受益証券発行信託 受益証券発行信託とは、受益証券という有価証券を発行する信託のことで、委託者から拠出された信託財産を信託受託者が管理し、信託財産からの収益や信託財産を受領する権利等(受益権)を受益証券という形にして発行される。その受益証券は証券取引所に上場され、株式と同様に金融商品取引所で売買されている。 このような金融商品取引所に上場される受益証券発行信託の受益証券(具体的には「ETN」と呼称される「指標連動証券」等)が増加しているが、このような受益証券発行信託の受益証券の評価方法が明らかにされていないことから、次のとおり評価方法を明らかにする。 (2) 評価方法 上場されている受益証券発行信託の受益証券については、ETFと呼称される「上場証券投資信託」と同様に評基通199《証券投資信託受益証券の評価》の(注)と同様、この取引相場を基に評価することとする。 また、株式における配当期待権に相当する金銭分配期待権については、評基通193《配当期待権の評価》に準じて評価する。 5 公開途上にある株式の評価 「公開途上にある株式」とは、株式公開が明らかにされた日から株式公開(上場)の前日までの間にある株式をいうところ、現在は金融商品取引所が株式公開(上場)を承認した旨を対外的に公表する手続とされている。 株式の公開価格については、現在、競争入札方式とブックビルディング方式のいずれかの方法により決定することとされている。 これらのことを踏まえ、公開途上にある株式の評価は公開価格(金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われる競争入札方式又はブックビルディング方式のいずれかの方式によって決定される公募等の価格)により評価する。 (了)
《速報解説》 「『不服審査基本通達(審査請求関係)の制定について』の一部改正」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 平成25年12月に公表された与党による平成26年度税制改正大綱には、「国税不服制度の見直し」が含まれているが、その多くは、本稿執筆現在、国会にて審議中の行政不服審査法の改正が実現した後に改正される内容となっている。 その中で、唯一、去る3月31日に公布された「所得税法等の一部を改正する法律」(法律第10号)の中に含まれていた国税通則法第99条の改正を受けて、3月31日付けで「不服審査基本通達(審査請求関係)」の一部が改正された。 本稿では、公布された通則法99条の規定とともに、国税不服審査手続における変更点を検討する。 2 国税通則法第99条の改正事項 改正後の国税通則法第99条は以下のとおりである(下線部分が改正点)。 まず、見出しが、「国税庁長官の指示等」から「国税庁長官の法令の解釈と異なる解釈等による裁決」に改められた。 次いで、「国税庁長官による国税不服審判所長への指示を」という文言が削除されるとともに、国税審議会への諮問は、これまで国税庁長官が単独で行っていたところを、国税庁長官と国税不服審判所長が共同して行うこととなり、審判所長は、国税審議会の議決に基づいて裁決しなければならないという条項が加わった。 3 不服審査基本通達(審査請求関係)の改正 上記の国税通則法第99条の改正を受け、不服審査基本通達(審査請求関係)の一部改正が、3月31日付け、国税庁長官から発遣された(4月9日に国税庁ホームページにて公表)。 具体的には、通達から、以下の規定を削除するというものである。 4 国税不服審判所による説明 本改正に伴い、国税不服審判所が公表した新しいパンフレット「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし」には、以下のような表記がある(7ページ)。 5 改正による影響 本改正により、国税庁長官の発遣した通達に縛られていると言われ続けてきた不服審査のあり方がどのように変わるか、注目される。 よく引き合いに出されるように、内閣府(行政救済制度検討チーム)資料によれば、これまで、国税通則法第99条の規定による国税不服審判所長の申出はわずか9件に過ぎなかったため、国税不服審判所が国税庁から独立していないことの証左の一つとされてきた。 今回の通則法改正によって、国税庁長官の指示が削除され、国税不服審判所長は、国税庁長官が国税不服審判所長の意見を認めない場合でも、国税庁長官と共同して国税審議会に諮問できることとなった。 とすれば、次は、国税審議会がどのように運営されているかが課題となるのではないだろうか。 本制度の透明化、実効性の向上にあたっては、国税庁長官と国税不服審判所長が共同して国税審議会に諮問した場合には、諮問内容と審議結果を適時に開示すべきであろう。 (了)