2014年2月13日(木)AM10:30、Profession Journal No.56 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第14回】 「土地譲渡に係る所得税と相続税との二重課税問題(その2)」 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅳ この事案の問題点 この事案の裁判所の判断をみる前に、相続税と所得税の二重課税問題が争点となったいわゆる年金二重課税訴訟最高裁判決を確認しておきたい。同判決は、死亡した夫から生命保険会社を経由して、妻が受領した年金受給権が相続税の課税対象とされた上で、さらに、妻が生命保険を年金形式で受領する際に、雑所得として改めて所得税が課されることとなることが、二重課税であるとして、所得税法9条1項16号(訴訟当時は15号)の規定を適用して、かかる雑所得に対する課税が違法なものになると判示したものである。 最高裁平成22年7月6日第三小法廷判決(判時2079号20頁) 最高裁は、 とする。 また、 と判示している。 このように、最高裁は、年金二重課税訴訟では、所得税法9条1項16号は、 というのである。 これと同様の考え方が、父から子どもへの資産移転にも当てはまるのではないかというのが、本件におけるXの見解である。すなわち、父から子どもに死亡に伴う財産の移転があると相続税の課税対象となり、その上で、引き継いだ資産を子どもが第三者に譲渡する段階で譲渡所得課税がなされるのであるが、問題は、所得税法60条の規定があるため、父から相続により引き継いだ資産の帳簿価額は父の取得価額がそのまま引き継がれ、子どもが第三者に譲渡したときに子どもに課される譲渡所得には、父の代における含み益が混入されることになるという点である。そこで、上記の年金二重課税訴訟との関係を考えると、本件のような父から子どもへの資産移転の場面でも、年金の事例と同様に、本件建物等に相続税が時価課税されているのであるから、二重課税が発生しているのではないかという疑問が湧き上がる。 図表をみながら確認したい。父親から引き継いだ帳簿価額と子どもが第三者に譲渡をした際の譲渡収入との差額部分については、所得税が課されるということになろう。すなわち、アミ掛け部分(α部分とβ部分)が子どもの譲渡所得課税の対象となるとするのが、Yの考え方である。これに対し、相続税の時価評価課税された部分を上回るキャピタル・ゲインについては、子どもが保有していた期間に生じた価値増殖部分である。したがって、α部分のみに所得税が課されるのであれば、二重課税の問題は発生しないものの、β部分は相続税と所得税との二重課税が生じているということになりはしないかというのが、Xの主張である。 《図表1》 Ⅴ 判決の要旨 1 東京地裁平成25年7月26日判決(判例集未登載) 東京地裁は、相続により取得した資産の譲渡に係る譲渡所得のうち、被相続人の保有期間中の増加益に相当する部分については、本件非課税規定により所得税が課されない旨のXの主張について、 とする。 また、 とした上で、 とするのである。 * * * 次に、Xが、所得税法60条1項1号は所得の範囲を確定する計算規定であり、本件非課税規定は所得に該当するものの中から所得税を課さないものを選別する規定であるから、同号に従って計算した結果、所得に該当するものであったとしても、そのことをもって本件非課税規定の適用が排除されるということはできないと主張した点に対して、東京地裁は次のように論じた。 * * * これらを検討の上、東京地裁は、「Xの更正の請求には理由がないということができる。」として、「本件通知処分は適法である。」との判断を下した。 2 東京高裁平成25年10月23日判決(判例集未登載) この事件は控訴されたが、控訴審東京高裁平成25年10月23日判決(判例集未登載)は原審判断を維持したのである。 (続く)
平成26年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第2回】 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制・研究開発税制」 OAG税理士法人 税理士 中島 加誉子 【商業・サービス業・農林水産業活性化税制】 青色申告法人である中小企業者等で認定経営革新等支援機関による経営改善に関する指導・助言を受けたものが、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に、その指導・助言を受けて行う店舗の改修等に伴い器具備品及び建物附属設備の取得等をして指定事業の用に供した場合には、特別償却か法人税額の特別控除(資本金等が3,000万円以下の中小企業者等のみ)の適用が受けられる。 〈適用対象資産〉 〈指定事業〉 〈特別償却額〉 〈法人税額の特別控除額〉 〈事業供用年度〉 〈書類の添付〉 【参考図】 (財務省「平成25年度税制改正」より) 【「指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類」のイメージ】 (中小企業庁ホームページ「商業・サービス業の設備投資を応援する税制ができました」) 【研究開発税制の拡充】 〈控除限度額の引上げ〉 〈特別試験研究費の範囲拡大〉 【参考図】 (財務省「平成25年度税制改正」より) (了)
提出前に確認したい 「国外財産調書制度」のポイントQ&A 【第6回】 (最終回) 「調書の記載事項と注意点」 公認会計士・税理士 前原 啓二 Q 国外財産調書(調書施規12⑥、別表第二)と国外財産調書合計表(調書通5-14、表1)の両方を所定の様式に記載して提出することとされていますが、このうち、国外財産調書はどのように記載するのですか。 A 国外財産調書には、国外財産を、(一)土地、(二)建物、(三)山林、(四)現金、(五)預貯金、(六)有価証券、(七)貸付金、(八)未収入金、(九)書画骨とう及び美術工芸品、(十)貴金属類、(十一)(四)、(九)及び(十)に掲げる財産以外の動産、(十二)その他の財産の区分に分け、それぞれの区分ごとにa.「種類別」、b.「用途別」及びc.「所在別」の「価額」及び「数量」等を記載する。用途別は、一般用及び事業用の別とする。 要約すると次のとおりである。 〈調書施規12①、別表第一〉 (一)土地 (二)建物 (三)山林 (四)現金 (五)預貯金 (六)有価証券 (七)貸付金 (八)未収入金(受取手形を含む。) (九)書画骨とう及び美術工芸品 (十)貴金属類 (十一)(四)、(九)及び(十)に掲げる財産以外の動産 (十二)その他の財産 〈様式見本〉 【国外財産調書】 ※画像をクリックすると、国税庁ホームページに移動します。 【国外財産調書合計表】 ※画像をクリックすると、国税庁ホームページに移動します。 (国税庁ホームページより) (連載了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第15回】 「死亡保険金・死亡退職金」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 今回は、死亡保険金及び死亡退職金について考えることとする。 被相続人が受取人になっている死亡保険金及び死亡退職金は、基本的には、法律上相続財産には該当しない。したがって、法律上の相続財産には該当しないが、相続税の計算上は、みなし相続財産として、相続税の対象に含まれることとされている(相続税法3)。 このように、死亡保険金及び死亡退職金はともに相続税の対象となるのであるが、一定の金額までは相続税が非課税となることとされている(相続税法12)。 具体的には、以下の金額までは、相続税がかからないとされている(*1)。 〔死亡退職金〕 被相続人が企業オーナーでない場合には、基本的には死亡退職金を受領することはほとんどないと考えられる(企業オーナーでなく、会社員で死亡保険金を受領するケースの例としては、不慮の事故・病気などで若い年齢で他界した場合に、死亡保険金を受領するケースがある)(*3)。 ただし、個人事業主(一定規模以上の不動産賃貸事業者も含む)の場合に、小規模企業共済に加入しているケースがあり、共済契約者が他界した場合に支払われる共済金は、死亡退職金として、相続税の対象になるので留意が必要である。 小規模企業共済に加入しているか否かは、被相続人の過去の所得税確定申告書を確認し、小規模企業共済等掛金控除があるか否かをチェックすれば、基本的にはわかる(所得控除を失念している可能性もゼロではないので、預金通帳のチェックを行う際に、小規模企業共済への掛金支払がないか、同時にチェックを行う必要がある)。 〔死亡保険金〕 生命保険会社から支給されるものでも、死亡保険金に含まれるものと含まれないものがある。他界前の、入院日数に応じて支給される金額、手術に対して支給される金額などは、死亡によって支払われるものではないので、(他界時に未払いとなっていても)死亡退職金には含まれない(相続税基本通達3-7、これらのうち他界時に未払いのものは未収金として相続財産に含まれることになる)。死亡保険金は、あくまで死亡したことによって支払われるものに限定される。 ただし、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金及び払戻しを受ける前納保険料の額で、保険契約に基づき保険金とともに保険契約に係る保険金受取人が取得するものは、死亡保険金に含むこととされている。 死亡保険金については、基本的には、相続後、相続人が受け取っていることが多いため、相続人に確認すれば、把握できると考えられる。ただし、何らかの事情で把握漏れとなる可能性もあり得るので、被相続人の所得税確定申告書(給与所得の源泉徴収票)の生命保険料控除の有無、預金通帳のチェックを行う際に、生命保険料の支払いの有無、支払先の生命保険会社名を、確認する必要がある。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第18問】 「転勤により空家とした後も継続して管理している場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q 会社員Xは、東京都杉並区にある家屋に居住し、新宿区の本社に通勤していましたが、5年前に神奈川県小田原市の営業所へ転勤となったことから、同市の社宅に家族と共に転居し、そこから営業所に通勤していました。 営業所勤務は2年間ほどで終わり本社へ戻るものと考えていたため、家財道具類も最少限度の移転にとどめ、戸締りはしたものの、月に一度はその杉並区の家屋に帰り、清掃等を行うほか寝泊りをすることもあり、他人に貸すということはしませんでした。 結局のところ営業所勤務が長くなったことなどから、小田原に新居を構えることとし、杉並区の家屋は売却しました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることはできない。 〈解説〉 居住の用に供さなくなった後も将来一定の時期に使用することを予定して、それ相応の事実支配、管理を行ったとしても、居住の用に供している家屋には該当しない。 したがって、居住の用に供さなくなった家屋を法定期限内(その居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで)に譲渡していないことから、「特例」の適用を受けることはできないこととなる(措法35①)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第11回】 「子会社支援のための無償取引⑦」 公認会計士 佐藤 信祐 第6回目から第10回目までは、無利息貸付け、低利貸付けに係る法人税法上の取扱いについて解説を行った。 第11回目以降においては、所得税法の判例である「平和事件」について分析し、法人税法と所得税法における無利息貸付けの考え方の違いを明らかにすることにより、法人税法第22条の収益認識、同法37条の寄附金についての考え方について考察する予定である。 6 平和事件 (1) 第1審・東京地裁平成9年4月25日判決(訟月44巻11号1952頁、判時1625号23頁、税資223号500頁) ① 判決の概要 第1審においては、所得税法第157条に規定する同族会社等の行為計算の否認を適用し、無利息貸付けによる利息相当分の雑所得を認定することについて、違法性がないものとして原告の請求を棄却した。 本判決は、法人税法第22条に相当する条文がないことや、所得税法第36条に規定する「収入」の意義が法人税法に規定する「収益」の意義と異なることから、同族会社等の行為計算の否認を適用せざるを得なかったという意味で、法人税法と所得税法の違いを感じる事件である。 なお、本事件においては、原告に訴えの利益があるか否か、国税不服審判所の手続きの瑕疵、所得税法第64条を適用又は類推適用する余地があるか否かなども争点となっているが、本稿においては、無利息貸付けに伴って認定利息を計上すべきか否かという点に限って解説を行うこととする。 ② 被告側(桐生税務署長)の主張 ③ 原告側(納税者)の主張 ④ 裁判所の判断 ⑤ 総括 このように、第1審判決では、被告の主張を全面的に認め、原告の主張は棄却された。 現在の実務においては、オーナーから同族会社に対して、無利息貸付けを行うということは頻繁に行われており、それほど大きな問題になることが少ないことを考えると、本事件は、かなり特殊な事案であると考えられる。 また、法人と異なり、経済合理性のみで行動するわけではない自然人において、このように厳しい対応がなされたという点は違和感が残るところである。それでもなお、法人税法における無利息貸付けとは異なる理屈で判決が行われているという点は注目に値する判決である。 次回以降では、控訴審判決、最高裁判決について触れたうえで、さらなる詳細な分析を行い、法人税法との違いについて明らかにする予定である。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載52〕 外国子会社合算税制に係る外国税額控除制度における 無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額の取扱い 税理士 郭 曙光 特定外国子会社等がその所得に対して外国法人税を課さない国又は地域(以下、「無税国」という)に所在する場合には、外国子会社合算税制に係る外国税額控除限度額の計算における特定外国子会社等に係る益金算入額の取扱いは、その特定外国子会社の本店所在地国以外の国で課税されるか否かによって異なる。 1 無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額の取扱い 内国法人が外国子会社合算税制の適用を受ける場合には、その内国法人に係る特定外国子会社等の所得に対して我が国で課税が行われるとともに、その特定外国子会社等の所在地国においても課税が行われ、同一の所得に対して二重に課税が行われることとなる。 このような二重課税を排除するために、外国子会社合算税制の適用を受けた場合にも、外国税額控除を受けることができるように措置されている(図表1参照)。 この外国子会社合算税制に係る外国税額控除制度においては、特定外国子会社等の所得に対して課される外国法人税の額のうち、内国法人の収益の額とみなして日本で合算課税される所得に対応する部分の金額をその内国法人が納付する「控除対象外国法人税の額」とみなして、外国税額控除制度(法法69)の規定を適用することとされている(措法66の7①)。 【図表1】 特定外国子会社等に係る二重課税及び排除 平成25年度税制改正前は、内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入された金額(益金算入額)は、外国税額控除制度における控除限度額の計算基礎である「国外所得」に含まれるが、無税国に本店等を有する特定外国子会社等に係る益金算入額は、「国外所得」に含まれないこととされていた(旧措令39の18⑨)。 しかし、特定外国子会社等の所得に対してその本店所在地国以外の国で課税されるものがある場合においても、その無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額を国外所得から除外するということになると、外国税額控除限度額が算出されず、二重課税が生ずることとなる。 このため、二重課税の排除を適切に行い、「非課税国外所得」の取扱いとの差異(注)を解消するという観点から、平成25年度税制改正において、この無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額の取扱いについて見直しが行われた。 すなわち、特定外国子会社等の所得に対して、その特定外国子会社の所在地国以外の国で課税される外国法人税の額がある場合は、無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額であっても、その全額を国外所得金額に含めることとされた(措令39の18⑨括弧書き(図表2参照))。 【図表2】 無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額の取扱い これにより、特定外国子会社等が無税国に所在していても、その所得のうちその本店所在地国以外の国で課税されるものがある場合には、その無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額の全額を国外所得金額として外国税額控除限度額を計算することになり、二重課税の排除が可能となった。 2 処理例 外国子会社合算税制に係る外国税額控除制度における「控除できる外国税額」及び「国外所得金額」の計算は、次の図表3のとおりである。 平成25年度税制改正により、本店所在地国以外の国で課税される外国法人税の額がある場合の無税国に所在する特定外国子会社等に係る益金算入額の全額が国外所得金額とされたわけだが、この改正は、国外所得金額と外国税額控除限度額の計算にどのような影響を与えたかについて、改めて計算例で比較してみよう。 図表4で分かるように、平成25年度税制改正前においては、特定外国子会社等の所得のうちに第三国で課税されたもの(50)があるにもかかわらず、無税国に所在する特定国子会社等に係る益金算入額の全額(150)が国外所得金額に含まれず、外国税額控除限度額が零となって二重課税(15)が生ずることとなっていた。 平成25年度税制改正後は、無税国に所在する特定外国子会社に係る益金算入額の全額(150)が国外所得金額とされるため、外国税額控除限度額が算出されて二重課税が排除できることとなる。 【図表4】 比較計算例 (注) 財務省の平成25年度改正関係参考資料(国際課税関係)の図を参考にして作成。 ところで、この改正は、第三国で課税された所得(50)のみならず、二重課税が生じていない無税国である本店所在地国で得た所得(100)までを国外所得金額に含めることとなる。 外国税額控除限度額については、我が国は一括限度方式を採用しているため、この非課税とされる国外所得(100)によって作られる控除枠が高率の外国法人税額の控除枠として流用されるという彼此流用の問題が生ずることとなる。 平成25年度税制改正の解説においては、この控除枠の彼此流用問題に関して何も触れていないが、二重課税の排除を優先した結果ではないかと推測される。 (了)
日本の会計について思う 【第2回】 「日本にも国家会計戦略を」 関西学院大学教授 平松 一夫 シンガポールの会計戦略 私は2010年11月、シンガポールが戦略的に開催した一連の会計関連の国際会議に出席する機会を得た。そのうちの一つとして開催されたシンガポール公認会計士協会の大会は、いま評判の巨大複合コンプレックス、マリナ・ベイ・サンズでの開催であった。 この会議にはシンガポールの会計士だけでなく外国からの招待客も多く参加していた。また、シンガポール国内からは政界、経済界、学界を含む各界から多くの参加者があった。 ここで驚いたのは、2020年までにシンガポールをアジア太平洋における会計ハブにすることが高らかに宣言されたことである。 シンガポールでは会計に関する検討結果を82ページからなる報告書として取りまとめ、2010年4月に公表している。この報告書の戦略的勧告に基づき、2010年8月に、会計士、職業会計士団体、学界からなるシンガポール会計評議会が設置された。 この評議会は、シンガポール公認会計士のブランド強化のために大学卒業後の資格プログラムを開発すること、企業評価・内部監査・リスク管理と税・CFO協会といった領域でセンター・オブ・エクセレンスを開発すること、会計サービス研究センターを開設すること、会計部門開発基金を設けること、専門的会計サービスに対する指導的中心地としての地位を高めること、シンガポール公認会計士協会を国際的な会員や地位をもつ組織に転換すること、などを目指している。 このように、シンガポールでは会計について極めて意欲的な戦略的取組みがなされている。しかもそれは机上の空論とは思えない。国際社会でシンガポールがこれまでに築いてきた地位に加えて、シンガポールの多くの人々は英語と中国語を自由に話すことができる。現在においてこれはかなりの強みである。 韓国・中国の会計戦略 韓国は「2020年韓国の会計先進化のビジョンと戦略」を公表し、国レベルで教育を含む会計改革に取り組んでいる。 すなわち、韓国では学会、会計士業界、規制当局が会計発展フォーラムを設け、IFRS教育プログラムを開発し、世界で十位以内の会計透明性を達成し、会計教育の新しいパラダイムを構築しようとしている。そこではコミュニケーションスキルと経営についての理解力を強調し、IFRS環境下で会計専門家を教育することを目指している。 注目されるのは、会計に関わるすべての機関が力を合わせて戦略を策定していることである。 中国の会計戦略も注目に値する。中国では2010年3月、財政部が会計業界における中長期人材養成計画を樹立した。その中で2020年までに下記を達成するという極めて意欲的な数値目標を示している。 (なお、中国の会計戦略についてのここでの記述は、2011年9月に熊本学園大学で開催された日本会計教育学会第3回全国大会林慶雲氏の報告「中国における会計教育の現状について」に基づいている) 求められるわが国の国家会計戦略 ひるがえってわが国はどうか。わが国では会計基準をめぐる方針でさえ、最近では2年に1度、目まぐるしく変わっており、国家会計戦略といえるものは存在しない。 私としては、グローバルに活躍でき人材を育成するには、会計に限ってもその制度を国際的に競争力のあるものにするような抜本的な改革が必要であると考える。 この際、省庁の垣根を越える組織(国家会計戦略本部)を総理大臣直轄の戦略部門として設置し、官庁だけでなく、産業界、会計士界・税理士界、学界その他の関係者が参画して長期的視点から国家会計戦略を樹立することを提案したい。 そして、そこで打ち出された大方針に基づき、金融庁、法務省、経済産業省、国税庁など関係省庁が齟齬をきたさない制度設計を図るのである。もちろん、会計基準の設定は企業会計基準委員会が一括してこれにあたるのがよい。産業界、会計士業界、大学等は、国家会計戦略本部の推奨に基づいて目標の明確な会計人材の育成に取り組むことになる。 日本が会計において諸外国からも尊敬される国になるには、こうした取組みが欠かせないと考えるのである。 (了)
過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第2回】 「決算期の変更」 公認会計士 阿部 光成 《解 説》 「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(以下「研究報告14号」という)に基づいて解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 決算期の変更は会計方針の変更か 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)が公表され、会計方針の変更に関する取扱いが規定されている。 過年度遡及会計基準では、会計方針の変更を行う場合、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することを規定している(過年度遡及会計基準6項)。 このため、決算期の変更が会計方針の変更として取り扱われるとした場合、過去の期間のすべてに遡及適用することになってしまう。 研究報告14号の「5.連結子会社の事業年度等の変更」では次のように述べており、決算期の変更は会計方針の変更に該当しないことから、決算期の変更が行われた場合でも、過去の期間に遡及適用する必要はない(Q5、Q6A(2))。 Ⅱ 決算日の変更に伴う会計処理 1 決算日の統一のタイミング 決算日の変更については、親会社の決算日変更と子会社の決算日変更がある。 前述のように、決算日の変更は会計方針の変更に該当しないが、四半期報告制度や次年度以降の比較情報の有用性等を考慮すると、会計方針の変更の取扱いに準じて、親会社の第1四半期決算から四半期連結決算日の統一を行うことが適当と考えられる(Q6A(1))。 Q6のA(1)なお書きでは「なお、いわゆる第4四半期において決算日の統一を行うやむを得ない場合もあると考えられる。」と述べられている。 どのような場合が「やむを得ない場合」に該当するかはケースバイケースと考えられるが、研究報告では「実施した会計処理の概要のほか、その理由も記載することが適当と考えられる。」と述べられているので、第1四半期から決算日を統一できず、いわゆる第4四半期から統一せざるを得ない理由について、財務諸表の利用者に対して合理的な説明ができるものである必要があると考えられる。 2 子会社の決算日の変更 子会社の決算日を変更し、15ヶ月の事業年度(X1年1月からX2年3月まで)として決算を行う場合、親会社の事業年度に係る期間(月数)は12ヶ月となり、決算日変更後の子会社の事業年度に係る期間(月数)は15ヶ月となる。 この場合、子会社のX1年1月からX1年3月までの損益については、利益剰余金で調整する方法と損益計算書を通して調整する方法の2つがある。なお、研究報告では親会社の決算日の変更についても取り扱っている。 研究報告は、利益剰余金で調整する方法と損益計算書を通して調整する方法を並列して記載している。 しかしながら、上記の例を前提にすると、X1年4月1日からX1年6月30日までの3ヶ月に係る親会社の業績と、同期間に係る子会社の業績を基礎にして四半期連結財務諸表を作成するほうが、親会社と子会社のいずれも3ヶ月間の業績が基礎になることから、第1四半期に関する業績を開示するという趣旨に照らして、利益剰余金で調整する方法がより適切と考えられる。 損益計算書を通して調整する方法では、X1年4月1日からX1年6月30日までの3ヶ月に係る親会社の業績と、X1年1月1日からX1年6月30日までの6ヶ月の子会社の業績を基礎にして四半期連結財務諸表を作成することになり、一時的に、第1四半期に関する業績のなかに、子会社の6ヶ月間の業績を含めて開示することになってしまう。 前述のように、研究報告は2つの方法を並列して取り扱っているが、所要の注記により、それぞれについて会計処理などの内容を説明することに注意が必要である。 (了)