事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第8回】 「公正取引委員会等による立入検査等調査・指導への対応」 ~買いたたきへの取り締まりを中心に~ のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 消費税転嫁拒否等の行為に対する立入検査等調査・指導の現状 本連載第7回「公正取引委員会及び中小企業庁による書面調査」において述べたとおり、公正取引委員会と中小企業庁は、平成26年3月までに861件の立入検査を行い、1,199件もの指導を行った。 さらに、同年5月13日には、同年4月までの累計件数が、立入検査について1,051件、指導について1,218件(転嫁拒否等の行為を行っていると回答した事業者に対する下請代金支払遅延等防止法に基づく中小企業庁の指導を含む)、公正取引委員会による勧告について1件(本連載第5回「初の勧告事例」)に上ったことを公表し、さらなる転嫁対策の強化を宣言している(※1)。 上記1,219件の指導・勧告件数の業種別内訳は、製造業が492件と最も多く、次いで、卸売業・小売業が238件という結果になった(※2)。 また、上記指導・勧告の行為類型別内訳は次の表のとおりであり(※3)、買いたたきに対するものが圧倒的に多かったことがわかる。なお、行為類型別合計件数が1,236件となっていて、指導・勧告の対象となった事業者数1,219件と一致しないのは、事業者の中には複数の行為を行っている場合があるためと説明されている。 (※1) 公正取引委員会「平成26年4月までの消費税転嫁対策の取組について」(平成26年5月13日公表)別紙表1 (※2) (※1)の別紙表2 (※3) (※1)の別紙表3 上記の結果から、製造業では下請取引の発注や原材料の仕入れ、卸売業・小売業では商品の仕入れといったように、対価を支払って商品・役務(サービス)の供給を受けるという取引が各事業の根幹にあり、かかる費用を削減するために行われがちである買いたたきに重点をおいて指導の対象とされたことが推測される。なお、初の勧告事例が買いたたきに関するものであったことも、このことを裏付けよう。 また、公正取引委員会は、平成26年4月だけで、大規模小売事業者等の大企業を中心とした特定事業者(買手側)に対して、96件もの集中的な立入検査を行ったことも公表した(※4)。 このような当局による取り締まり状況を受けて、製造業、卸売業・小売業の買手側においては、他の業種以上に、特に買いたたきについての当局の立入検査等調査や指導への注意と準備が必要となる。 (※4) (※1)の2(1)ウ 2 買いたたきに対する立入検査等調査・指導にどのように対応すべきか (1) 買いたたきに対する立入検査等調査・指導におけるポイント 買いたたきとは、商品若しくは役務(サービス)の対価の額を、当該商品若しくは役務(サービス)と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対して通常支払われる対価に比して低く定めることにより、特定供給事業者(売手)による消費税の転嫁を拒むこととされている(消費税転嫁対策特別措置法3条1号後段)。なお、「通常支払われる対価」については、本連載第6回「買いたたきに当たらない「合理的な理由」」をご参照いただきたい。 他方で、例外的に、「合理的な理由」がある場合には、買手側が「通常支払われる対価」よりも低い額で売手側から商品・役務(サービス)の提供を受けても「買いたたき」には該当しない(公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)第1部第1の3(3))。 そして、この「合理的な理由」については、特定事業者(買手側)において、その存在を立証しなければならないとされている。 そこで、当局の立入検査等調査・指導に対応するためのポイントは、買手側が、売手側から、消費税率引上げ分を単純に上乗せした額よりも低い額で商品・役務(サービス)の提供を受けている場合に、当局に対して、いかに的確に「合理的な理由」の存在を説明し、かかる取引が「買いたたき」に当たるとの誤解を受けないようにするかということである。 (2) 「合理的な理由」が認められる場合 「合理的な理由」が認められる場合として公取委ガイドラインが列挙する例については、本連載第6回で示したが、以下のとおりである。 この例のうち、アとイのポイントは、次のとおりであった。 なお、①【客観的事情の存在】について、原材料の値下がりやコストダウン等の客観的事情の存在が認められる場合でも、仕入価格について、原材料価格等の客観的な下落幅を超える値下げや、コストダウンの幅を超える値下げを行った場合には、「合理的な理由」は認められず、買いたたきに該当すると判断される可能性がある。 また、上記②【交渉過程】について、「当事者間の自由な価格交渉の結果」といえるためには、当事者の実質的な意思が合致していること、つまり、特定供給事業者(売手側)との十分な協議の上に、当該特定供給事業者(売手側)が納得して合意していることが必要である(公取委ガイドライン第1部第1の3(3)(注))。 これに対し、上記ガイドラインの例のウは、原材料について、市場連動型の価格決定方式をとる場合(フォーミュラ方式)を想定したものである。この場合には、消費税転嫁対策特別措置法の施行日(平成25年10月1日)前から継続して当該市場連動型の価格決定方式を採用しているという事実そのものが①【客観的事情の存在】の蓋然性を裏付けるとして、当該方式を採用する段階での②当事者間の自由な価格交渉【交渉過程】を要請したものであろう。 ただし、消費税率引上げ前に、フォーミュラ方式で仕入価格の本体価格を決めた上で消費税として5%を上乗せしていた場合に、消費税率引上げ後、消費税込仕入価格を、従来の方式で決められる本体価格に8%を上乗せした額よりも低い額に定めることは、買いたたきに当たると考えられるので注意が必要である。 (3) 当局に説明すべき事情とそれを裏付ける資料の収集・提出 (2)で述べた「合理的な理由」に関する考え方を踏まえると、買手側は、【客観的事情の存在】と【交渉過程】のそれぞれについて、より客観的な資料を残して保管の上、当局の立入検査等調査や指導に対して、これらを示して説明し、「合理的な理由」の存在をアピールすべきことになる。 個々の取引の種類や内容によっても大きく異なるが、説明すべき事情とそれを裏付ける資料については、概ね、次のように整理できる。 (4) 勧告・公表措置の未然防止策としての立入検査等調査への対応 一般に、企業が行政当局から行政処分を受けた場合には、当該企業には取消訴訟等による救済手段が認められるのに対して、消費税転嫁拒否等の行為に対してなされる勧告や指導は行政処分ではないため、法的な救済手段も設けられていない。 このように、当局による勧告をひとたび受けてしまうと、企業は、これを法的に争うことができず、特に初の勧告事例のように勧告の事実を公表されてしまった場合には、これに対する名誉回復措置を講じることも困難となる。 したがって、このような勧告・公表措置による不利益も視野に入れた上で、企業においては、勧告の手前の立入検査等調査や指導の過程で、当局の見解と自社の見解との相違が浮き彫りになった場合には、勧告・公表措置を受けることのないよう、当局と粘り強く交渉を行うことが必要となる。 (了)
現代金融用語の基礎知識 【第6回】 「影の銀行」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 影の銀行とは もともと「影の銀行」(シャドーバンキング:shadow banking)とは、銀行を通さずに行われる金融取引一般を指したが、現在では、通常、中国におけるそうした金融取引を指す。しかし、後述するように、銀行がまったく関与していないわけではなく、間接的には関与している。 中国においては、その「影の銀行」の規模が近年急激に拡大している。中国人民銀行によると、企業や政府系機関などが1年間に調達した資金のうち、銀行融資以外によるものの割合は、2003年は18.9%だったが、2013年は48.6%に達したとのことである。それは影の銀行の拡大を反映したものである。 中国において影の銀行の規模が急激に拡大しているのは、それに対する需要があるからである。 影の銀行から資金を調達しているのは、中小企業や地方政府などであるが、それらは、資金需要はあるものの、銀行から融資を受けるのが困難なため、影の銀行を利用せざるを得ないのである。 2 理財商品とは 影の銀行を説明する際、併せて説明しなければならないのが、理財商品である。 理財商品とは、中国の高利回りの資産運用商品で、銀行などが主に個人投資家向けに販売しているものである。 この理財商品も、その発行規模が急激に拡大している。 中国銀行業協会によると、銀行が販売した理財商品の残高は、2013年9月末時点で約9兆9,000億元(約170兆円)とのことである。ただし、これは過小評価ではないかといわれているし、また、銀行以外が販売するものもあるため、全体の残高はそれよりもはるかに大きい。 理財商品の発行規模の急激な拡大も、それに対する需要があるからだが、上述のとおり理財商品は、主に個人投資家向けに販売されているものである。中国では銀行の預金金利が規制により低く抑えられているため、高利回りの理財商品に個人投資家の資金が流れているのである。 3 理財商品と影の銀行 影の銀行と理財商品を併せて説明する必要があるのは、両者が一体といえるものだからである。理財商品に投じられた資金の中には、銀行からの融資を受けられない中小企業や地方政府などへ投じられるものがある。 これが影の銀行なのである。 上述のとおり理財商品は、主に銀行で販売されている。そして、理財商品に投じられた資金は、銀行からの融資を受けられない中小企業や地方政府などへ投じられている。影の銀行は、確かに銀行による融資ではないが、実質的な迂回融資であるといえなくもない。 〈理財商品と影の銀行〉 4 何が問題か 影の銀行は、銀行からの融資を受けられない中小企業や地方政府などのそれに対する需要と、個人投資家の高利回りの理財商品に対する需要とが合致して成立しているものであるといえる。リーマン・ショックへとつながったサブプライムローン問題を思い起こしてしまうのは、筆者だけではないはずである。理財商品のリスクの高さ、そして、影の銀行の脆弱さは、誰が見ても明らかだろう。 理財商品と影の銀行は、今後どうなるのだろうか。理財商品のデフォルト(債務不履行)が発生し、個人投資家が損失を負担することになるのだろうか。 理財商品に投資している個人投資家の多くは、理財商品のリスクの高さを認識していないようであり、理財商品のデフォルトが発生した場合、彼らの間には混乱が生じ、暴動に発展する可能性が高い。また、今後、理財商品への需要がなくなるだろうから、影の銀行は一気に機能不全となり、中国経済が麻痺してしまうだろう。 それでは、中国政府が公的資金を投入して個人投資家を救済するのだろうか。 その場合、まず財源をどう確保するのかが問題となる。増税などによって対応しようとすれば、中国経済に少なからぬ影響を及ぼすであろうし、政府が保有する金融資産の売却などによって対応しようとすれば、今度は世界の金融市場に少なからぬ影響を及ぼすであろう。また、政府によって救済された場合、個人投資家の間にモラルハザード(倫理の欠如)が生じるといった問題も懸念される。 いずれにしても理財商品と影の銀行をめぐる混乱は避けられそうになく、その影響は、当然、中国内部でおさまるものではなく、日本経済を含む世界経済へ波及することになるだろう。 (了)
《速報解説》 四半期財務諸表に関する会計基準の改正(確定)について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年5月16日付で、 企業会計基準委員会は次の会計基準等を公表した。 これにより、平成26年2月25日付で公表した公開草案が確定することとなる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正事項 平成25年9月13日に改正された「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)等において、企業結合に係る暫定的な会計処理が確定した場合の取扱いが示されたことに対応して、四半期財務諸表における取扱いを示している。 公開草案においては、上記の③(1株当たり情報関係)に関する具体的な改正案は示されていなかったが、改正後の「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」では規定されている。 Ⅲ 適用時期 適用時期は、平成25年に改正された企業結合会計基準の暫定的な会計処理の確定の取扱いに係る事項の適用時期と同様とする。 (了)
2014年5月15日(木)AM10:30、Profession Journal No.69 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。
日本の企業税制 【第7回】 「政策税制の見直しに不可欠な視点」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 法人税率引下げの財源として、租税特別措置の見直しが当然のように言われている。 例えば政府税制調査会法人課税DGの第1回会合(2014年3月12日)において、大田弘子座長名で配布された「法人税の改革の論点について」では、課税ベースの拡大の第1に「租税特別措置はゼロベースで見直すべきではないか」とされている。 確かに、ある政策を推進するために税制上の支援措置として講じられたものについては、その政策効果を検証しつつ見直していくことが必要である。 特に、26年度税制改正で講じられた生産性向上設備投資促進税制のように、当初から期限を限定しての政策効果を狙う措置については、期限到来時に廃止を含めて見直すことも当然である。 2 税制として当然の措置 しかし、租税特別措置の中には、特定の政策を推進するためとは言い難いものがいくつかある。 例えば、移転価格税制や外国子会社合算税制など、国際租税の基本的な仕組みは租税特別措置法で定められているが(外国税額控除制度は本法で規定)、これらを政策税制と考えることはできないであろう。 そもそも、租税特別措置法に規定されているかどうかで制度の要否を判断するのは不毛な議論である。 法人税関係ではないが、石油化学原料用ナフサに対して揮発油税や石油石炭税を課すならば、日本では石油化学工業は存立できないことになる。また、原料への課税として税制の基本的な考え方に反することとなり、そのような課税を行っている国はない。 本来であれば、本法に規定されてしかるべきであるが、これも租税特別措置とされている。 3 産業存立のために必要な措置 また、その産業においては国際標準であるような仕組みであって、産業の存立のために不可欠な措置であっても、特定の業界向けの仕組みとして租税特別措置に規定されているものもある。 例えば、外航海運業については、所得ではなく、船舶の運航トン数を標準して課税を行うことは、少なくとも世界の主要海運国においては、普遍的な仕組みである。 わが国においても2008年より適用対象を日本船舶に限定したトン数標準課税が導入され、2013年4月からは一部の外国船舶(準日本船舶)にも対象が拡大されたが、その割合は全運航船の15.8%であり、全運航船(自国船舶・外国船舶)が対象である諸外国と比べ、依然として適用割合が著しく低い状況となっている。 海洋立国・貿易立国であるわが国が、海洋におけるプレゼンスを確保しつつ持続的に成長していくため、また世界の成長をわが国に取り込むためには、わが国輸入物資(原材料・食糧等)の約7割を輸送している日本商船隊の競争力の維持・強化が必要であり、このため、徹底した国際競争条件均衡化の観点からの改善が不可欠である。 鉱業における探鉱準備金等の措置も同様である。 日本経済が持続的な成長を実現するためには資源・エネルギーの安定供給の確保が重要であるが、近年は探鉱開発費の高騰、資源獲得競争の激化、国際資源メジャーの寡占化、資源国のナショナリズムの高揚などにより、資源の安定供給確保は以前に比べ格段に困難さを増している(資源開発コストは2000年代当初の約2.5倍程度に増加)。 このような切迫した状況の中、わが国の資源開発企業と資源メジャー等との財務力の格差は、依然として大きい。 わが国は「資源を持たざる国」であることを忘れてはならず、資源関連税制はわが国において必要不可欠である。 【資源確保のための税制措置】 4 経済活性化のために必要な措置 政策税制であるとしても、その国が置かれた環境や、将来にわたり何をもって成長していくかとの国の方針を税制で支援するという重要な役割を果たすものである。 それぞれの措置の内容が、わが国として必要な政策目的に沿ったものかを検証し、特に、国際的な動向も十分に把握した上で、わが国の将来を支えるもの、国際的イコール・フッティングを実現するために不可欠なものは維持・拡充していくことが必要である。 例えば、研究開発税制については、諸外国でも法人税率引下げと同時に研究開発税制の拡充を進めている。控除上限については、英国やフランスは無制限であり、繰越期限についても英国は無期限、米国は20年となっているが、日本の税制措置はこれらの面で劣後している。また、日本のように租税特別措置としてではなく、本法で恒久化されている例が多い。 日本は科学技術立国であり、成長戦略を実行する上で企業の研究開発は生命線である。「第4期科学技術基本計画」では、官民合わせた研究開発投資の対GDP4%以上を目標にしているが、組織別研究費負担割合において日本は民間企業の占める割合が81%と、他国(英国:50.1%、ドイツ:66.4%、米国:67.5% 等)に比べ大きいことも忘れてはならない。 その効果についても、最近の研究成果によれば、研究開発税制は、税額控除額の約2.33倍の研究開発費の支出増加をもたらしている。 研究開発投資を継続していく上で、特に恒久措置となっている総額部分は不可欠の制度であり、縮減は絶対に行うべきでない。 政府税制調査会では、研究開発税制、特に総額型について「税率引下げに応じて、その必要性を抜本的に見直すべきではないか」としているが、大いに疑問である。 【主要国の研究開発税制】 5 おわりに 租税特別措置であっても、単なる政策措置ではない税制の基本的仕組みとして理解すべき措置や、たとえ業界特有の制度であったとしても、当該業界にあっては国際標準となっている措置は、恒久化・拡充さえ必要であり、財源として考えることはできない。 また、研究開発税制は政策税制であるとしても、わが国が将来に向け活力を維持していくために不可欠である上に、法人税負担の国際的なイコール・フッティングを考えていく上では、実効税率と同じほどの重要性がある。 少なくとも基本的制度としての総額型を縮減するようなことでは、法人税改革の目的である日本経済の活性化にも反するものと考える。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第1回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)①」 公認会計士 佐藤 信祐 1 みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決) (1) 判決の概要 新聞報道で有名であるため、その概要を知っている読者も少なくないと思われるが、法人税法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定についての最初の裁判例である。 実際に包括的租税回避防止規定が適用されたものとしては、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返した行為について租税回避行為として否認された事例(※1)が存在するが、この事例は裁判において争われていないため、今のところ、唯一存在する裁判例が東京地裁平成26年3月18日判決である。 (※1) 平成24年2月12日、読売新聞朝刊 包括的租税回避防止規定の射程範囲として、法人税法132条の射程範囲である「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」だけでなく、「組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものも含む」として、買収の2ヶ月前に副社長を送り込んだ行為について、包括的租税回避防止規定の適用対象とすることにより、繰越欠損金の引継ぎを認めなかった更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を適法と判断した。 原告はこれを不服として、東京高裁に控訴を行っている(※2)。 (※2) 新日本法規「検証ヤフー・IDCF事件」T&Amaster 542号4頁 なお、本事件においては、別途、非適格分割により設立された子会社が計上した資産調整勘定についても包括的租税回避防止規定が争われており、同日に原告の子会社が敗訴しているが、本連載において、いずれ解説する予定である。 (2) 事実の概要 原告(以下、「A社」という)の議決権のうち、B社が約42.1%を保有しており、当該B社からC社を買収し、その後、合併を行うことにより繰越欠損金の引継ぎを行っている。なお、当該買収に先立ち、C社は会社分割によりF社を設立し、当該F社もA社が買収を行っている。本件会社分割は非適格分割に該当することから、F社において資産調整勘定が計上されているが、当該資産調整勘定の計上についても別訴において争われている。 本件買収、合併におけるスケジュールは以下の通りである。 本件合併当時、丙氏は、A社の代表取締役でもあるが、B社の取締役でもあった。 (3) 主たる争点 ① 法人税法132条の2の意義【争点1】 (ⅰ) 法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)の解釈について (ⅱ) 「その法人の行為又は計算」の意義について ② 法人税法施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について、法132条の2の規定に基づき否認することができるか否か【争点2】 ③ 本件更正処分に理由付記の不備があるか否か【争点3】 (4) 本事件における特徴 法人税法上、合併を行った場合において、税制適格要件を満たしたときは、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことが可能である(法法57②)。しかしながら、例えば、本事件のような100%子会社との合併については、合併の直前において、合併法人と被合併法人との間に完全支配関係が成立していれば税制適格要件を満たすことができることから(法令4の3②一、当時の政令では法令4の2②一)、繰越欠損金を有する法人を買収した後に合併を行うような租税回避が考えられるため、特定資本関係(現行法では「支配関係」に名称変更)が生じてから5年を経過しない適格合併については、みなし共同事業要件を満たさない限り、繰越欠損金の引継制限が課されることとなった(※3)(法法57③)。 (※3) 朝長英樹(2001)『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』日本税制研究協会94頁 この場合のみなし共同事業要件であるが、以下の①から④の要件を満たすか、①及び⑤の要件を満たした場合に充足することとされている(※4)(法令112③、当時の政令では法令112⑦)。 (※4) 佐藤信祐(2010)『組織再編における繰越欠損金の税務詳解(第3版)』中央経済社、稲見誠一・佐藤信祐(2012)『実務詳解組織再編・資本等取引の税務Q&A』中央経済社においては、事業関連性要件、規模要件、規模継続要件、経営参画要件と表記したが、本稿においては判決文における表現に合わせるものとする。 この場合における特定役員引継要件であるが、特定資本関係発生日以後に特定役員を入れ替えることにより形式的に本要件を満たすような行為については制度趣旨に反することから、特定資本関係発生日前に役員であった者に限定することとしている。 本事件においては、特定資本関係発生日前に合併法人の特定役員を被合併法人の特定役員として送り込むことにより、形式的に特定役員引継要件を満たしており、これに対して、包括的租税回避防止規定が適用された事案である。 奇しくも、本事件は、「組織再編における繰越欠損金の税務詳解(佐藤信祐、中央経済社)」の93-94頁(※5)に記載させていただいた内容に類似したものであり、当時の解説として、 としたうえで、「送り込んだ特定役員がほとんど何もしていないような場合」には、事実認定により否認される可能性があると指摘させていただいた。 (※5) ここで紹介したのは初版(2007)であるが、第2版(2009)102頁、第3版(2010)105-106頁においても同様の記載をした。 事実、事業上の理由で特定役員を送り込む事案は少なからず見受けられるものであり、結果的に法人税の負担が減少したとしても、事業目的の方が税目的よりも上位にあることから、制度の濫用とも言い難いため、控訴審、上告審において同様の判決となったとしても、判例の射程の範囲外にあり、包括的租税回避防止規定を適用すべき事案にはならないと考えられる。 しかしながら、本事件の特殊性としては、株式譲渡の提案から副社長就任、株式譲渡、合併までの一連の取引が極めて短期間で行われており、事業目的よりも税目的が上位にあるという疑義を抱かせる原因ともなっている。 次回以降は、それぞれの争点における被告、原告の主張についてそれぞれ解説し、本事件においてどのようなことが争われたのかについて分析を行っていく予定である。なお、【争点3】は形式的なものであるため、本連載においては【争点1】と【争点2】についてのみ分析を行うこととする。 (了)
中小法人の〈交際費課税〉 平成26年度改正のポイント 【第1回】 「改正のあらまし」 公認会計士・税理士 新名 貴則 はじめに 平成25年度税制改正に引き続き、平成26年度税制改正においても、消費税率の引上げに伴う景気後退を防ぐ施策として、交際費課税の見直しが行われた。 本連載では、この改正による中小法人への影響について解説するが、まず第1回目は、平成26年度税制改正における交際費課税の改正のあらましについて解説する。 1 平成26年度税制改正前の交際費課税 平成26年度税制改正前の交際費課税の概要は、次のとおりである。 (*1) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) (*2) 平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度 【平成26年度改正前の中小法人の特例のイメージ】 このように平成26年度税制改正前の交際費課税においては、資本金1億円超の大法人については、税務上の交際費等の損金算入は一切認められていなかった。 これに対して一定の中小法人については、特例として年間800万円までは全額損金算入が認められていたが、平成26年3月31日までに開始する事業年度までとされていた。 2 平成26年度税制改正における改正点 (1) 中小法人の特例の延長 平成26年度税制改正において、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)の期限が2年間延長された。つまり、平成28年3月31日までに開始する事業年度までは、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)が適用されることになった。 決算月が何月かによって異なるが、具体的には次の事業年度まで、税務上の交際費等を年間800万円まで全額損金に算入できることになる。 (2) 「接待飲食費の50%損金算入」制度の導入 平成26年度税制改正によって、接待の飲食のために支出した交際費等については、その50%を損金算入できることとされた。また、その損金算入額に上限は設定されていない。 この「接待飲食費の50%損金算入」の制度は、法人の規模等に関係なくすべての法人に認められた。したがって、平成26年度税制改正前は交際費等を一切損金算入できなかった大法人でも、接待飲食費に限っては50%を損金算入できることになった。 中小法人では、平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度においては、「中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)」と「接待飲食費の50%損金算入」を選択適用できることになった。 ただし、あくまで税務上の交際費等の中でも「接待飲食のために」支出したものに限定されており、すべての交際費等の50%が損金算入されるわけではない。 また、接待飲食のための支出であっても、いわゆる社内接待費については、50%損金算入の対象とはならず、全額が損金不算入となる。 【接待飲食費の50%損金算入のイメージ】 3 接待飲食費とは 50%損金算入の対象となるのは、あくまで「接待飲食費」に限定されている。 接待飲食費とは、交際費等の中でも「飲食その他これに類する行為のために支出する費用」を意味する。具体的には、次のような費用を指す。 ここで注意が必要なのは、法人内部の役員や従業員を接待した場合の飲食代(いわゆる社内接待費)は「接待飲食費」には含まれないので、50%損金算入の対象にはならないということである。 ただし、親会社の役員や従業員などを接待した場合は、グループ法人内部の者であってもあくまで別法人に属する者であるため、その飲食代は「接待飲食費」に含まれ、50%損金算入の対象となる。 また、次のような費用もここでいう「接待飲食費」には含まれないので、注意が必要である。 * * * 次回はこの改正が中小法人の交際費に係る実務にどのような影響を与えるかを検討したい。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第1回】 「復興特別所得税の納付もれへの対応」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成25年11月にフリーのデザイナーにデザイン料の報酬10万円(税込)を支払う際、10.21%で源泉徴収するところ、復興特別所得税0.21%の源泉徴収を失念し、源泉所得税10%として1万円を源泉徴収し、9万円を振り込みました。源泉所得税1万円は、所定の納期限までに納付しました(図表1参照)。 図表1 源泉所得税1万円を納付した際の源泉所得税の納付書 先日納付もれに気づき、復興特別所得税を追加で納付することになったのですが、納付書の作成についてご教示ください。 納付書は、図表1と同じ「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を用いる。ただし、記載方法は図表1と異なる点があるので注意していただきたい。以下にポイントをまとめた。 図表2 復興特別所得税を追加で納付する際の源泉所得税の納付書 (了)
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第6回】 「「有利選択」のケーススタディ③ 固定資産に関する税額調整を要するケース」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 第4回・第5回に引き続き、個別対応方式・一括比例配分方式「有利選択」の実務と題して、ケーススタディ形式でいずれが有利か見ていくこととする。 本稿で取り上げるケーススタディは、固定資産に関する税額調整を要するケースである。 ア.通算課税売上割合の計算 イ.課税売上割合が著しく増加したかの判定 ウ.調整額 ◆本ケースの評価◆ 本件の場合、課税売上割合が著しく増加したケースに該当するため、平成27年3月期において追加で548,480円控除できることとなった。本件の場合、事業者が個別対応方式を採用し、調整対象固定資産を共通対応分に分類していたため、追加での税額控除が認められることとなった。 仮に、調整対象固定資産を課税売上のみ又は非課税売上のみに要するものに分類していた場合には、追加の税額控除は不可能となる。そのような場合であっても、一括比例配分方式を採用していれば追加の税額控除は可能となる。用途区分は決して恣意的に変更できるものではないため、課税売上割合が著しく増加することが見込まれる場合には、一括比例配分方式の採用も検討すべきということになるだろう。 * * * 次回は、「課税売上割合に準ずる割合」の実務について解説を行う。 (了)
まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第10回】 「申告書作成の際の留意点について」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 吉田 知至(執筆) 第10回である今回は、施行日以後に終了する課税期間における申告書を作成する際の留意点について、以下の具体的な取扱いを確認する。 消費税率の引上げに伴い、次の申告書・付表の様式が変更されている。 上記のうち、特に付表1、付表2-(2)、付表4及び付表5-(2)については、従来は提出する機会が少なかったものと考えられるため、提出を失念しないよう注意されたい。 なお、施行日以後に終了する課税期間において、例えば、その課税期間中のすべての取引について8%の消費税率が適用される場合には、従来どおり確定申告書に付表2(簡易課税の場合は付表5)を添付して提出することになる。 【解 説】 今回のケースでは、確定申告書は次の手順で作成することとなる。 付表2-(2)は、課税売上割合の計算における課税売上額や課税仕入れに係る支払対価の額等を適用税率ごとに記載する。 したがって、課税売上割合の計算における課税売上額は、次のように計算することとなる。 同様に、仕入税額控除についても適用税率ごとに次のように計算する。 次に、付表1は確定申告書を適用税率ごとに計算するための計算表であり、課税標準額や消費税額、控除税額(控除対象仕入税額、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額)等を税率ごとに記載し、集計した金額を確定申告書に転記する。 売上に係る対価の返還等に関する経過措置では、施行日の前日までに販売した商品について、施行日以後に返品を受け、値引き、割戻しを行った場合には、旧税率により税額控除を行うこととされている。 したがって、売上に係る対価の返還等を行う場合には、次のように販売を行った時期に応じて返還等対価に係る税額を計算する必要がある。 なお、例えば4月中に返品を受けた商品は3月中の販売に対応するものとして処理をしている場合など、合理的な方法により継続して返品等の処理を行っているときは、事業者が継続している方法により売上げに係る対価の返還等に係る消費税額を計算しても差し支えないこととされている。 返還等対価に係る税額と同様、貸倒れに係る税額についても、貸倒れの対象となった債権に係る課税資産の譲渡等の時期に応じて税率を適用する。 例えば、施行日前に行った課税資産の譲渡等に係る債権について、施行日以後に貸倒れの事実が生じた場合には、旧税率により貸倒れに係る消費税額の控除の計算を行う。 上記により計算した返還等対価に係る税額及び貸倒れに係る税額を付表1の⑤欄及び⑥欄に記載する。 【解 説】 今回のケースでは、確定申告書は次の手順で作成することとなる。 付表4は確定申告書を適用税率ごとに計算するための計算表であり、課税標準額や消費税額、控除税額(控除対象仕入税額、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額)等を税率ごとに記載し、集計した金額を確定申告書に転記する。 なお、控除対象仕入税額については付表5-(2)において適用税率ごとに計算し、その金額を付表4の④欄に記載する。 【解 説】 今回の改正により、消費税率は6.3%に、地方消費税率は1.7%に引き上げられる。 (注1) 消費税額の25/100 (注2) 消費税額の17/63 消費税について旧税率と新税率が混在する場合には、地方消費税についても適用税率に応じて納税額を計算する必要があるため、次のように計算することとなる。 なお、この計算は付表1(簡易課税の場合には付表4)において行うことになる。 (了)