「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例12(所得税)】
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
税理士は、相続税対策のため、依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却することを提案した。その際、みなし配当所得の計算の基礎となる「資本金等の額」の解釈を誤り、利益剰余金をも含めたところの「株主資本」の金額に基づいて1株当たりの資本金等の額を過大に計算してしまった。
そのため、配当所得が過少で、譲渡所得が過大なシミュレーションで説明を行ってしまった。
この誤ったシミュレーションにより、依頼者は同族法人への株式売却を決断し実行した。しかし、税務調査により、上記誤りを指摘され、結果として源泉所得税の追加納付を余儀なくされ、トータルでの税負担が当初のシミュレーションの金額より過大となってしまった。
依頼者は正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかったとして、更正処分により増加した所得税及び住民税相当額7,000万円につき賠償を求めてきた。
《賠償請求の経緯》
- 税理士は発行法人の顧問税理士であった。
- 税理士が相続税対策のため依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却することを提案。
- みなし配当の計算を誤り、株式の譲渡所得を分離課税で過大に申告。
- 税務調査による指摘により、発行法人への株式売却に係る所得税について、分離課税で申告した株式の譲渡所得が総合課税のみなし配当所得に是正されたため、所得税及び住民税の合計で7,000万円が追徴課税された。
《基礎知識》
◆みなし配当(法法24①、法令23①四)
同族法人の株主がその法人の自己株式の取得により金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額が資本金等の額を超えるときは、その超える部分の金額は、剰余金の配当とみなされ、みなし配当として課税される。
◆譲渡損益(法法61の2①)
交付金銭の額からみなし配当を控除した残額が譲渡原価より大きい場合には、譲渡所得として課税される。
《税理士の落とし穴》
税理士が、同族法人株式を発行法人に売却する場合の課税関係(みなし配当)について理解していなかった。
《税理士の責任》
依頼者は正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかったとして、更正処分により増加した税額につき賠償を求めてきた。しかし、相続税対策の観点から考えれば、当初の目的は達成している。
したがって、税理士に責任はあるが、税賠保険の観点からは、更正処分による増加税額は「本来納付すべき本税」であり、損害額とはいえないため、対象にはならない。
《予防策》
[ポイント①]
シミュレーションは慎重に
特に、本事例のように税理士サイドから提案するような場合には、単独では行わず、複数人でチームを組んで対応するのが望ましい。
[ポイント②]
契約書を作成する
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
(例)法令23①四・・・法人税法施行令23条1項4号
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週の掲載となります。