検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10257 件 / 9701 ~ 9710 件目を表示

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第11話】「質問検査権の範囲と留置き」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第11話】  「質問検査権の範囲と留置き」  公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「あの~、田村上席・・・」 山口調査官が田村上席に声をかける。 法人課税第三部門では、ほとんどの職員が昼食に出ており、2人しか残っていない。 田村上席は、昨日の税務調査の報告を書いている。 「この国税通則法74条の2第1項の規定なんですけど・・・」 田村上席は、まだ罫紙を見詰めながら、ボールペンを走らせている。 「・・・なかなか調査経緯を書くのも難しいな・・・」 と田村上席は、苦笑いしながらつぶやく。 そして、山口調査官に向かって確認をする。 「・・・それって、新しくできた質問検査権の規定でしたね・・・所得税、法人税などの質問検査権をまとめて、載せている条文だったかな」 田村上席は、山口調査官の顔を見つめて応える。 「ええ、そうなんです。・・・その規定の最後に、『提示若しくは提出を求めることができる』と書かれているんですが・・・」 と言いながら、税務六法を持っていた山口調査官は、傍らに置かれていた広辞苑に持ち換える。 「広辞苑では、『提示』は、差し出して相手に示すこと・・・と記載され、『提出』は、書類などを差し出すこと・・・となっていますが・・・これって、どう違うのですか?」 山口調査官は、困ったような表情を浮かべている。 田村上席は、広辞苑を山口調査官から受け取りながら、思案顔になる。 「・・・まあ、提示は相手に示すことなんだから、提出のように相手方に物件が渡されるということはないと考えるんだろう・・・」 そして、田村上席は、引き出しから、国税通則法の通達を取り出した。 「ここにこう書いてある・・・法第74条の2から法第74条の6までの各条の規定において、「物件の提示」とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該物件(その写しを含む。)の内容を当該職員が確認し得る状態にして示すことを、「物件の提出」とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該職員に当該物件(その写しを含む。)の占有を移転することをいう・・・」(国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達1-6) 「新しい国税通則法74条の2第1項では、この『提示』と『提出』を求めることができると書かれているのですけど・・・それ以前の税務調査では、提示はともかく、提出を求めることはできなかったのですか?」 山口調査官は、尋ねる。 「相手の承諾があれば、提出を求めることはもちろんできるよ」 田村上席は答える。 「しかし・・・納税者が拒否すれば、提出を求めることはできなかった?」 山口調査官は質問を続ける。 「そりゃ、納税者が拒否すれば・・・できないだろう・・・もともと任意調査で、強制調査じゃないんだから」 質問を続けられた田村上席は、少し怒ったように言う。 「しかし・・・そうすると、今回の『提出を求めることができる』という条文ができたことによって、税務署が提出を求めた場合、納税者は、法律的にそれに従わなければならない義務を負うと考えられるのですかね」 山口調査官の質問に、田村調査官は、腕を組んで考える。 「・・・そうだなあ・・・」 さらに、山口調査官の質問は続く。 「そして・・・この提出は、『留置き』にも続くのですね」 山口調査官は、国税通則法74条の7を読み上げる。 「国税庁等又は税関の当該職員は、国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる・・・」 「・・・その提出は、占有が移転することだから、その占有移転された物件について、税務署がそのまま預ることを可能にした条文だね」 田村上席がコメントをする。 「この法律ができる前からも、税務調査では、このような留置きは存在したと思うのですけど、どのように違うのですか?」 「実質的には、従前と同じだろう・・・ただ、法律で明らかにしたというだけだ」 山口調査官の質問に答える。 「・・・ところで・・・留置きって、返還されることを含みますよね?」 「返還?」 田村上席が聞き直す。 「ええ・・・税務署が納税者から提出された書類を留め置いた場合、後日、それは、納税者に返還されなければならないですよね」 「そりゃ、そうだろう」 田村上席は大きく頷く。 「しかし、パソコンに入っているデータなんかは、どうなんですか?」 山口調査官は、少し笑みを浮かべて質問する。 「データか?」 田村上席は困った表情をする 「データの返還って・・・具体的にどうすればよいのですか?」 山口調査官は、たたみかけるように質問を続ける。 「フロッピーとかを返還すればよいのかなぁ」 田村上席が小さな声でつぶやく。 「でも、コピーなんかして、そのデータを改ざんされることもあるから・・・留置きされることは、納税者としても怖いですよね」 「そういえば以前、検察官がデータを改ざんした事件があったな」 田村上席は、持っていたボールペンを机の上にポンと投げた。 「ところで、田村上席は、昼食まだでしょ・・・まだ、お昼休みは20分ぐらい残っていますから、うどんでも食べに行きません?」 切り替えの早い山口調査官は、ニコニコしながら、まだ思案中の田村上席を連れて、部屋を出ていった。 (つづく)

#No. 26(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/07/04

法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第5回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第5回】   弁護士 木村 浩之   (前回はこちら) 6 償却限度額の計算 (1) 限度額計算の意義 減価償却資産に係る減価償却費を損金に算入するためには、①償却限度額の範囲で、②償却費として損金経理をする必要がある(法法31)。 このうち、②損金経理の要件については、他の科目で費用処理がなされていた場合などに問題となることがある。これについては、法人に償却の意思があることを担保するために償却費としての損金経理が要件とされているにすぎないことから、その意思を有していることが客観的にうかがわれるような一定の場合には、この要件を満たすものとして取り扱われることになる(法基通7-5-1参照)。 他方、①償却限度額については、その計算方法は多分に技術的であり、その適用を誤ると損金算入が否定されることになる。この償却限度額の計算に関しては、近年、大きな税制改正が相次いでなされていることから、その適用に当たっての留意点について整理しておきたい。 (2) 近年の税制改正と限度額計算 ア 改正の経過 減価償却資産の償却限度額に関する近年の税制改正の経過については、以下のとおり整理することができる。 ① 平成19年度改正 従前は、減価償却資産には残存価額が定められており、取得価額の95%相当額までが償却可能限度額とされていた。 平成19年度改正では、この残存価額が廃止され、平成19年4月1日以降に取得された減価償却資産については、従前よりも早い償却を可能とする新たな定額法、定率法(いわゆる250%定率法)等によって償却限度額を計算することとされた。 ② 平成20年度改正 平成20年度改正では、減価償却資産の法定耐用年数や資産区分が必ずしも実態に即していないとの指摘を受けて、耐用年数等に関する省令が改正され、機械及び装置を中心に、より実態に即した形での見直しがなされた。 ③ 平成23年度改正 陳腐化償却制度の廃止に伴い、耐用年数の短縮特例について、未経過使用可能期間で償却できるように制度が改められた。また、法人税の減税に伴い、定率法の償却の速度を一定程度緩めるため、その償却率が見直された(いわゆる200%定率法)。 イ 改正の適用関係 以上の償却方法に関する改正がなされたことにより、減価償却資産の取得時期によって、償却限度額の計算方法が異なることになる。 その適用関係について整理すると、以下のとおりである。 ① 平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産 平成19年度改正前の償却方法が維持され、旧定額法、旧定率法等による償却限度額の計算を続けることになる。ただし、累計償却額が取得価額の95%相当額の償却可能限度額に達した場合には、残存価額について5年間の均等償却が認められることになる。 ② 平成19年4月1日から平成24年3月31日までに取得した減価償却資産 平成23年度改正前の償却方法が維持され、定率法が採用されている場合については、250%定率法による償却限度額の計算を続けることになる。 ③ 平成24年4月1日以後に取得した減価償却資産 平成24年度改正後の償却方法が適用され、定率法を採用する場合については、200%定率法による償却限度額の計算をすることになる。 ウ 資本的支出の取扱い 固定資産に対する資本的支出については、減価償却資産として償却することになる(前回参照)が、上記イのとおり、資本的支出の対象となる固定資産(本体資産)の償却方法がその取得時期によって異なることから、それに伴って資本的支出の償却方法も本体資産の取得時期によって異なることになる。その適用関係について整理すると、以下のとおりである。 ① 平成19年3月31日以前に取得した固定資産に対する資本的支出 償却方法として旧定額法又は旧定率法等が適用されている固定資産に対する資本的支出については、 (a) 新たな資産の取得として定額法又は定率法(200%定率法)等によって償却する方法と、 (b) 本体資産の取得価額に加算することで一体の資産として旧定額法又は旧定率法等によって償却する方法 のいずれかを選択することができる。ただし、いったん選択した方法を後で変更することはできない。 ② 平成19年4月1日から平成24年3月31日までに取得した固定資産に対する資本的支出 償却方法として定額法又は定率法(250%定率法)等が適用されている固定資産に対する資本的支出については、新たな資産の取得として定額法又は定率法(200%定率法)等によって償却することになる。 この場合、定率法の償却率が異なることから、本体資産の取得価額に加算して一体の資産として償却するという方法は選択することができない。 ③ 平成24年4月1日以後に取得した固定資産に対する資本的支出 償却方法として定額法又は定率法(200%定率法)等が適用されている固定資産に対する資本的支出については、 (a) 新たな資産の取得として定額法又は定率法(200%定率法)等によって償却する方法と、 (b) 本体資産の取得価額に加算して一体の資産として定額法又は定率法(200%定率法)等によって償却する方法 のいずれかを選択することができる。ただし、いったん選択した方法を後で変更することはできない。 (3) 増加償却について 償却限度額の計算には一定の特例が認められており、機械又は装置については、その平均的な使用時間を超えて使用した場合に、通常よりも損耗が著しいと認められることから、その超過使用時間に応じて償却額を増加するという増加償却の制度の適用が認められている(法令60)。 その適用要件は、以下のとおりとされている。 なお、この超過使用時間については、機械又は装置ごとに、同業種において通常の経済事情のもとで使用される平均的な使用時間を超えて実際に使用した時間を計算するのが原則である。 この点、通達においては、機械又は装置ごとに、通常の使用時間が定められており、この通常の使用時間を超える分が超過使用時間として取り扱われることになる(耐用年数通達付表5参照)。 《減価償却》編の最終回となる次回は、耐用年数の適用をめぐる論点について整理したい。 (了)

#No. 26(掲載号)
#木村 浩之
2013/07/04

租税争訟レポート 【第11回】配偶者が受給する年金から特別徴収された介護保険料(所得税更正処分取消請求事件)

租税争訟レポート【第11回】 配偶者が受給する年金から 特別徴収された介護保険料 (所得税更正処分取消請求事件)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 原告と生計を一にしている原告の配偶者は、平成18年においてその受給する国民年金(老齢基礎年金)の中から介護保険料4万6,600円を特別徴収の方法により徴収された。 原告は、平成19年2月26日、「社会保険料控除」の欄に、配偶者が特別徴収された介護保険料を含めた額である「33万5,400円」と記入した申告書を提出した。 西宮税務署長は、原告の平成18年分の所得税につき、社会保険料控除の額は、前記の確定申告における33万5,400円から介護保険料4万6,600円を差し引いた28万8,800円が正しいとして、平成19年12月10日付けで、課税総所得金額54万8,000円、還付金の額に相当する税額3万4,882円とする更正処分を行った。   【原告(納税者)の主張】 1 原告の配偶者の介護保険料を原告が支払ったとして原告の所得から控除できるか 特別徴収義務者は、介護保険料を市町村に支払う義務を課されていても、被保険者を代理して支払う権限は与えられていないので、特別徴収義務者が介護保険料を市町村に支払っても、それは市町村に対して特別徴収義務を履行したという法律効果が生じるだけで、被保険者との関係では無権代理行為であるから、被保険者本人が追認しなければ被保険者の介護保険料債務を弁済したという効果は生じない(民法113条)。 原告の配偶者は、自己に課された介護保険料を婚姻費用分担義務のある原告に負担させることを原告と合意することによって、社会保険庁による無権代理行為を原告と共同で追認した結果、配偶者の介護保険料債務を原告が第三者弁済をしたという効力が生じた。 2 本件更正処分は憲法14条に違反しているか 介護保険料を普通徴収している市町村に居住している納税者は、他の親族の介護保険料について所得控除を申告できるのに、特別徴収している市町村に居住している納税者は、他の親族の介護保険料について所得控除を申告できない場合があり、居住地が異なるという理由又は転居したという理由だけで、納税者には何の責任もないのに所得控除の可否について差別されることになり、これらの差別を許容できる合理的な理由がないので、不合理な差別を許さない憲法14条に違反する。 3 本件更正処分は憲法29条に違反しているか 特別徴収される介護保険料について、親族の社会保険料控除の対象とすることを認めないことは、親族が協力して介護保険料を支払うことが全く認められず個人の自由な財産権行使を禁止することになり、憲法29条に違反する。   【被告(課税庁)の主張】 1 原告の配偶者の介護保険料を原告が支払ったとして原告の所得から控除できるか 原告の配偶者が平成18年中に特別徴収された介護保険料を原告が支払った、又は給与から控除されたものであるとみる余地はない。 介護保険法の各規定に従って特別徴収の処理がされれば、当該被保険者の介護保険料支払義務は消滅するのであって、原告が主張するような無権代理行為に該当することはなく、また、その後に追認が必要とされることもない。 夫婦相互間の婚姻費用分担義務を定めた民法760条は、第三者との権利義務関係を定めるものではないから、上記規定を根拠に、一方の配偶者が第三者に負う義務について他方の配偶者が共に義務を負うことにはならない。 仮に、原告と配偶者との間で、配偶者が特別徴収された介護保険料を原告が負担するという合意があったとしても、原告には上記介護保険料債務の消滅に結びつく出捐が存在しない以上、原告は配偶者の介護保険料を支払ったと認めることはできない。 2 本件更正処分が憲法に違反するとの原告の主張は争う。   【裁判所の判断】 以下の理由により、本件更正処分は適法である。 1 原告の配偶者の介護保険料を原告が支払ったとして原告の所得から控除できるか 配偶者の介護保険料債務は、特別徴収(納入)により消滅しており、原告による第三者弁済の余地はない。また、保険料債務の消滅は配偶者の負担により生じたというべきであり、原告には上記債務消滅に結び付く出捐が存在しないから、原告が配偶者の介護保険料を支払ったと解することはできない。 したがって、原告が配偶者の介護保険料について負担する旨又は弁済する旨配偶者と合意したとしても、当該合意に基づいて配偶者の介護保険料を原告が支払った又は給与から控除されたということはできず、原告による配偶者の介護保険料額についての所得控除は認められない。 2 本件更正処分は憲法14条に違反しているか 憲法14条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものでなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱いをすることは、何ら同条の否定するところではない(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁)。 特別徴収の制度は、市町村が介護保険料を確保し、徴収手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、被徴収者の側においても、介護保険料の納付に関する煩雑な事務から免れることができるもので、年金所得者に対する介護保険料の徴収方法として能率的かつ合理的で、公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない。そうすると、自己と生計を一にする配偶者の介護保険料が特別徴収の方法により徴収されたため、所得額から介護保険料の支払額を控除することが認められず、そのため普通徴収の方法により介護保険料を支払ったものとして控除がなされた場合と比して、所得税額が増加することがあったとしても、そのことをもって直ちに合理的理由なく差別しているとはいえない。 本件においても、普通徴収の方法によっていれば、原告が配偶者の介護保険料の支払をし、原告の所得額からの社会保険料控除が認められた可能性があるが、特別徴収の方法によることに合理性があること、特別徴収の方法による場合は被保険者が自ら介護保険料を支払ったと評価できることや、原告の還付金の額に相当する税額の差額は年額4,230円にすぎないことなどを考慮すると、特別徴収の方法によることが、原告を合理的理由なく差別するものであるとはいえず、憲法14条に違反するということはできない。 3 本件更正処分は憲法29条に違反しているか 特別徴収された納税者の親族の介護保険料について、当該納税者において社会保険料控除が認められないとしても、当該納税者がその親族の社会保険料を補てんすることまでも制約されているわけではなく、個人の自由な財産権行使を禁止することにはならないから、憲法29条に違反するものということはできない。   【解説】 確定申告時期には、税務署と税理士会が共同して、納税者が確定申告書を作成するお手伝いをしている。筆者も毎年、そうした会場で納税者のみなさんから相談を受けているのだが、ここ数年、目立った質問が、本件のような事例である。 このようなやり取りの後、おもむろに、平成24年度所得税の確定申告の手引き(確定申告書B用)を取り出して20ページを開き、以下のような記述を説明する。 ここで、納税者の方から、「口座振替ならよくて、年金から引かれていると認められないって、おかしくないですか?」という質問が出ると返答に窮してしまうところだが、今のところ、みなさん、筆者の説明に納得して、申告書を提出してお帰りいただいている。 本件は、こうした説明に納得がいかなかった納税者が、本人訴訟を提起したものである。 本人訴訟ゆえの主張の甘さはあったかもしれない(訴えの利益のない部分まで取消しを求めて、裁判所に訴えの一部は却下されている)が、特別徴収されると社会保険料控除が認められず、口座振替だと認められるのはなぜかという、納税者の素直な疑問が伝わってくる主張である。 しかし、裁判所は、特別徴収が、「年金所得者に対する介護保険料の徴収方法として能率的かつ合理的で、公共の福祉の要請にこたえるもの」であるから、「普通徴収の方法により介護保険料を支払ったものとして控除がなされた場合と比して、所得税額が増加すること」を「もって直ちに合理的理由なく差別しているとはいえない」し、「原告の還付金の額に相当する税額の差額は年額4,230円にすぎない」として、この訴えを退けている。   (了)

#No. 26(掲載号)
#米澤 勝
2013/07/04

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載26〕 適格分割型分割の計算事例 ─資本金等の額<0の場合など、各要素がマイナスとなる場合─

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載26〕 適格分割型分割の計算事例 ─資本金等の額<0の場合など、各要素がマイナスとなる場合─   税理士 竹内 陽一   適格分割型分割を行った場合、分割法人で減少する資本金等の額は、法令8条1項15号において、次表のように規定されている。この資本金等の額を決定して、減少する利益積立金額を決定する。 この算式は、分割型分割の分割法人の減少資本金等の額の計算においては、適格と非適格で共通であり、分割法人の株主の譲渡対価及び譲渡原価の額の計算において共通であり(法令119の8①)、非適格分割型分割において、みなし配当金額の計算において所有株式対応資本金等の額を計算する場合において同じである(法令23①二)。 なお、この問題は、本誌No.19(2013年5月16日)掲載の「〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載19〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の資本金等の額と利益積立金額の計算」(掛川雅仁著)においても、同じ趣旨について、債務超過の適格分割型分割として、特に下記【事例3】について詳しく論じられている。 本稿では、上記図表のうち、各特殊な場合について検討する。 計算事例としては、以下の完全兄弟型で無対価適格分割型分割を行う場合で検討する。 法人Pの100%子法人Xより、同じく100%子法人のYにA事業を移転する。 【事例1】 通常の場合 Pの有するX株簿価=100、Y株簿価=100(これらの株式簿価は以下の事例において同じ)X1の分割前帳簿価額は下記とする(厳密には、下記移転純資産割合の計算において分母は期末、分子は分割直前の簿価である。以下同じ)。 減少資本金等の額=100×0.484=48.4 〈分割法人Xの分割移転仕訳〉 〈承継法人Yの承継受入れ仕訳〉   株主PのX株 100-48.4=51.6 株主PのY株 100+48.4=148.4   【事例2】 資本金等の額がマイナスの場合 資本金等の額≦0 のため、特に移転純資産割合の計算は不要。 減少資本等の額=△100×0=0 〈分割法人Xの分割移転仕訳〉   〈承継法人Yの承継受入れ仕訳〉   株主PのX株 100-0=100 株主PのY株 100+0=100 株主の計算においては、法令23条1項2号及び法令119の8の1項において、分割法人の資本金等の額が0以下の場合、移転純資産割合が0とされるので、株式取得価額の訂正はない。   【事例3】 分割法人の簿価純資産がマイナスの場合でかつ、資本金等の額>0、移転簿価純資産>0の場合 分子>0 分母≦0 のため、 移転純資産割合=1 減少資本金等の額=100×1=100 〈分割法人Xの分割移転仕訳〉   〈承継法人Yの承継受入れ仕訳〉 株主PのX株 100-100=0 株主PのY株 100+100=200 この事例では、株主について、分割法人株式の簿価は0に改定される。 なお、この【事例3】で、下記のように、上記の要件のとおり簿価純資産≦0であるが、さらにその中身として、資本金等の額>0で、さらに、移転純資産<資本金等の額の場合、移転純資産の額を超えて資本金等の額を減少させることになる。 分子>0 分母≦0 のため 移転純資産割合=1 減少資本金等の額=300×1=300 〈分割法人Xの分割移転仕訳〉   〈承継法人Yの承継受入れ仕訳〉   このように、移転純資産が100なのに、資本金等の額が300の全部を減少させることになる。この点は前述した記事で記載したとおりである。なお、非適格の場合は、減少資本金等の額は、移転簿価純資産の100が限度となる。 株主PのX株 100-100=0 株主PのY株 100+100=200   【事例4】  移転簿価純資産>簿価純資産>0の場合 分子>分母>0 のため、割合の算式的解は1を超えるが、1とされている。 移転純資産割合=1 減少資本金等の額=100×1 〈分割法人X分割移転仕訳〉   〈承継法人Yの承継受入れ仕訳〉   株主PのX株 100-100=0 株主PのY株 100+100=200   【事例5】 移転簿価純資産<0の場合 分子の移転純資産の計算が控除規定のため、分子=0、移転純資産割合=0となる。 分子<0のため、分子=0 移転純資産割合=0 減少資本金等の額=100×0=0 〈分割法人X分割移転仕訳〉   〈承継法人Yの承継受入れ仕訳〉   株主PのX株 100-0=100 株主PのY株 100+0=100 以上、最初に表示した図表に基づいて、計算例を検討した。 (了)

#No. 26(掲載号)
#竹内 陽一
2013/07/04

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第11回】棚卸資産会計①「実地棚卸時の会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第11回】 棚卸資産会計① 「実地棚卸時の会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   〈事例による解説〉 商品Aの3月末の在庫は、帳簿上は100個(@10)で、実地棚卸の結果は80個(@10)であった。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 帳簿上の在庫は、仕入及び売上による商品の払出しの差引きで算出されます。不正がなく、正確に在庫の管理、仕入及び売上による商品の払出しの記帳を行っている限り、「帳簿上の在庫」=「実地棚卸による在庫」となります。しかし、記帳が誤っていたり、在庫管理の不備や不正があった場合には、「帳簿上の在庫」≠「実地棚卸による在庫」となります。 財務諸表には、会社の実態を表す必要があるため、「実際の在庫」で計上します。言い換えると、実地棚卸時の数量により在庫を計上します。 本事例では、「帳簿上の在庫」よりも「実地棚卸による在庫」が20個少なかったため、(100個-80個)×@10=200を棚卸減耗損(売上原価)として計上します。そして、在庫は80個×@10=800となります。 また、期首商品棚卸高100で、当期仕入を5,000とした場合、売上原価は、以下のようになります。 「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」は、「期首商品棚卸高100+当期商品仕入5,000-期末商品棚卸高1,000=売上原価4,100」となります。 一方、「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」は、「期首商品棚卸高100+当期商品仕入5,000-期末商品棚卸高800=売上原価4,300」となります。「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」よりも「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」は200多くなっています。 これは、「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」よりも「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」の方が、棚卸減耗損200の分、「期首商品棚卸高+当期商品仕入」から控除する「期末商品棚卸高」が少なくなっているためです。 言い換えると、「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」では、棚卸減耗損200を売上原価に計上することになり、「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」よりも売上原価が200多くなります。 次回は、「棚卸資産評価の会計処理」について解説します。 (了)

#No. 26(掲載号)
#西田 友洋
2013/07/04

税効果会計を学ぶ 【第13回】「その他有価証券の評価差額の取扱い①」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第13回】 「その他有価証券の 評価差額の取扱い①」   公認会計士 阿部 光成   今回は、その他有価証券の評価差額に係る税効果会計の取扱いを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ その他有価証券の評価差額 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)は、その他有価証券に関する会計処理を規定している。 その他有価証券については、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は洗い替え方式に基づき、次のいずれかの方法により処理する(金融商品会計基準18項)。 そして、純資産の部に計上されるその他有価証券の評価差額については、税効果会計適用上の一時差異となり、これについては繰延税金資産又は繰延税金負債が認識されることとなる。 後述するように、その他有価証券は多様な性格を有していることから、税効果会計の適用に際して、銘柄別の評価差損と評価差益の各合計額を相殺した後の純額に対して繰延税金資産又は繰延税金負債を認識することも認められるか否か、その場合の繰延税金資産の回収可能性の判断をどのように行うかについて論点がある。   Ⅱ その他有価証券の性格 その他有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券と定義されている(金融商品会計基準18項)。 その他有価証券は、業務上の関係を有する企業の株式等から市場動向によっては売却を想定している有価証券まで多様な性格を有しており、一義的にその属性を定めることは困難と考えられている(金融商品会計基準75項)。 金融商品会計基準は、その他有価証券について、その多様な性格に鑑み保有目的等を識別・細分化する客観的な基準を設けることが困難であるとともに、保有目的等自体も多義的であり、かつ、変遷していく面があること等から、売買目的有価証券と子会社株式及び関連会社株式との中間的な性格を有するものとして一括して捉えることとしている(金融商品会計基準75項)。   Ⅲ その他有価証券の評価差額に関する税効果会計 上記の論点に対応するため、日本公認会計士協会は「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(監査委員会報告第70号。以下「監査委員会報告第70号」という)を公表し、監査上の取扱いを示している。 1 原則的処理 原則的処理としては、その他有価証券の評価差額に対する税効果会計については、評価差額を評価差損と評価差益とに区分し、個々の銘柄ごとに、評価差損(将来減算一時差異)については回収可能性を検討した上で繰延税金資産を認識するとともに、評価差益(将来加算一時差異)については繰延税金負債を認識することになる。 2 例外的処理 前述のように、その他有価証券は多様な性格をもつことから、監査委員会報告第70号は、その他有価証券の時価評価により生じる評価差額については、税効果会計を一括して適用することも認められるとし、次の会計処理を、監査上、容認している。 (*) 一時差異の将来解消見込年度のスケジューリングをいう。   3 その他有価証券の評価差額の純額に税効果会計を適用したケース その他有価証券の評価差額に関する純額で税効果会計を適用したケース(図表1の②の処理)では、純額の評価差損又は評価差益に対して、次のように繰延税金資産又は繰延税金負債を認識している場合には、監査上妥当なものとして取り扱う(監査委員会報告第70号、3)。 4 その他の監査上の取扱い 監査委員会報告第70号は、その他の監査上の取扱いとして、次の事項を規定している。 (了)

#No. 26(掲載号)
#阿部 光成
2013/07/04

長時間労働と労災適用 【第1回】「労災認定基準の基本的な考え方」

長時間労働と労災適用 【第1回】 「労災認定基準の基本的な考え方」   特定社会保険労務士 大東 恵子   近年、うつ病の発症やそれに伴う自殺が増大し、それに伴って労災請求も増大している。 平成9年には41件であった精神障害等に関する労災請求件数はほぼ増加の一途をたどり、平成23年度には1,272件を記録するほどまで大幅に増加し、今後もさらに増加することが見込まれる状況となっている(厚生労働省「平成23年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」まとめ」【P14 表2-1】)。 企業としても、従業員が業務上の理由でうつ病を発症し、また、うつ病により自殺する事態が生じると、労災請求に加え、企業に安全配慮義務違反があるとして、従業員又はその遺族から民事訴訟が提起される可能性がある。 このため、企業としては、こうした事態を未然に防ぐ対策が必要であり、うつ病発症の一因となっている長時間労働に対する対策もその一つとなる。 さて、精神障害を発症した者が、労災認定されるためには、その精神障害が「業務上の疾病」に該当しなければならない。そして、精神障害が「業務上の疾病」といえるためには、以下の要件を満たす必要がある。 上記要件のうち、(2)について補足したい。 「認定基準」には、「業務による心理的負荷評価表」があり、この表を判断指標として、業務による心理的な負荷の強度を、「強」「中」「弱」の三段階に区分し、総合評価で「強」と判断される場合には、上記(2)の要件を満たすことになる(「業務による心理的負荷評価表」については、厚生労働省「精神障害の労災認定」P5を参照)。 また、「認定基準」にはついては、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と判断する場合の「出来事」の具体例が示され、その「出来事」の発生の有無や程度を考慮して、総合評価を行うことになっている。 (了)

#No. 26(掲載号)
#大東 恵子
2013/07/04

親族図で学ぶ相続講義 【第7回】「遺言のハナシ」

親族図で学ぶ相続講義 【第7回】 「遺言のハナシ」   司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司     [被相続人甲野太郎 相続関係説明図]   前回少し触れましたが、今回は遺言の方式についてご紹介しましょう。 遺言というのは、要式行為の典型でありまして、民法が定める方式に従ってこれをしないと、全く無効とされてしまいます。 ※「この法律」とは、もちろん、民法のことである。 まず、もっとも簡単な自筆証書遺言についてご説明しましょう。 これは、自宅で、1人で作成できます(証人が不要)。 読者のみなさんが、今から書こうと思えば、すぐに簡単に作ることができます。 以上です。 「たったのこれだけ?」と驚くかもしれませんが、これで、有効な遺言です。 ただ、この遺言は、全文、日付、氏名が自書でなければいけないのです。 つまり、ワープロはだめです。 これは、後に、この遺言の真贋が問題となったときに、その筆跡鑑定をするためなのです。 では、自筆証書遺言について、その条文をご紹介します。 どうですか。 先の遺言書の記載は、そのすべてが自書であれば、この民法968条1項の要件をすべて満たしていることをご確認ください。 つまり、先の遺言書は有効な遺言書なのです。 では、その他の注意点をご紹介しましょう。   [その1] 「平成25年7月吉日」と書いた場合 無効な遺言となります。 それは、自筆証書遺言の法定要件のうち、日付の自書がないためです。吉日では、それが何日かが分からないのです。 これに対して、遺言書に「長野オリンピック開会式当日」と自書されていたときは、その遺言は有効です。 その日がいつであるかの特定ができるので、日付の自書があるということになります。   [その2] 「指印」で押印した場合 自筆証書遺言の法定要件の1つに、印を押さなければならないとあります。 ただし、民法は「印」と書いただけで、それ以上の制限は置いていませんから、これは、印であれば何でもかまいません。 ですから、指印が押された遺言も有効です。 もちろん、認印でもかまいません。 しかし、認印で押印した遺言は、その後、その遺言の真贋が問題となったときの証拠力が弱いので、実際に作成するときには、実印を押印した方がよいでしょう。 また、印の場所も法定されてはいません。 したがって、氏名の下に押印がなくても、例えば、遺言書を入れた封筒の封じ目に印が押印された場合でも、その遺言書は有効です。   [その3] ペンネームを書いたとき ペンネームも氏名に当たります。 したがって、ペンネームからその遺言書の作成者をはっきりさせることができるときは、その遺言は有効です。 *  *  * 以上が、自筆証書遺言を作成するときの形式上の注意点です。 あとは、その内容ということになりますが、この部分は、法律を知らない人にはちょっと敷居が高いですね。 私は、こんな自筆証書遺言を見てギョッとしたことがあります。 はい。この遺言の効力はどうでしょうか? もちろん、上記の項目のうち、2の条項は無効ですね。 遺言者は、「もともと俺の財産なんだから、これをどうするかは全部俺が決める」と思っているわけです。 しかし、これは法律的に言うと、とんでもない間違いとなるわけです。 「相続は一件ずつ」という基本的な考え方は、本連載においてはもうご説明済みですよね?(第2回参照) まず、夫の死亡による第一の相続によって、相続財産は妻の固有財産となります。 これは、妻の財産です。 すでに夫の財産ではありません。 ですから、その後、妻のものとなった財産をどうするかは、地上の日本国の法律においては妻以外の人が決めることはできません。 民法には、天国の夫があの世からこれを支配する仕組みは存在しないわけです。 というわけで、先の遺言は、その項目のうち2の条項が、全く無効です。 上記は極端な例にしても、自筆証書遺言には、よく、その趣旨が法律的に不明瞭であったり、その効力が不分明なもの、遺言の執行に困難を伴うものが存在しがちです。 では、どうしたらよいか。 遺言者が、死後の遺言の執行を心底願うなら、少々の手間と費用を惜しまず、公正証書遺言を作成すべきなのです。 (了)

#No. 26(掲載号)
#山本 浩司
2013/07/04

起業家が求める税理士の役割、税理士が求める経営者の姿勢 【上】「アーリーステージにおける税理士の役割」

起業家が求める税理士の役割、 税理士が求める経営者の姿勢 【上】 「アーリーステージにおける税理士の役割」   株式会社クロスフィールド 取締役 税理士法人あおやま 代表社員 公認会計士・税理士 松元 良範   はじめに 会社のアーリーステージ(起業準備から起業を経て2、3年程度)の方々をサポートする機会が多いが、そのアーリーステージの過ごし方で、その後の会社の発展もしくは存続可能性が概ね決まってくると言っても過言ではない。 実際、創業して10年後に残っている会社は、ほんの数%にすぎない。 また、アーリーステージにおける経営者の経営スタンスは、自ずと対税理士との関係においても表れてくるものである。 そこで、税理士との人間関係を通して普段接しているアーリーステージの経営者の方々を考察し、我々税理士には何ができるのか、どうあるべきかについて考えてみたい。   1 起業準備段階での税理士の役割とは これから起業しようとする方々から多く寄せられる質問の1つとして、例えば、個人事業が良いのか会社形態が良いのか、そして会社の場合どのような会社形態がいいのか、といった質問がある。 しかし、これに対応する普遍的な解答はない。 例えば、従来の得意先と独立起業後も取引を継続するために会社形態であることが条件とされる場合には、個人の戦略や嗜好とは別に、否応にも会社形態にしなければ事業がスタートできない場合もある。また、以前から付き合いのあるビジネス上のパートナーと一緒に起業する場合には、必然的に個人ではなく会社形態にするのが通常であろう。 そして、特段そういった事情がない場合には、個人と会社とで税務上どちらが有利なのか、といった点に着目する方々が大半である。 とかく起業する前においても節税の観点から事を考えがちではあるが、節税は利益あってこその話である。そもそも利益が出なければ、そのようなことを考えても全く意味がない。 利益が出なければ、そもそも事業を継続することができないのだ。 まずは、利益を出せる事業構想であるのか、自分はそれを実現できるだけのアイデア、経験、スキル、人脈等を果たして持っているのか、これについてまず自問自答してほしいと常々考える。 税理士の立場からすると、多くの方々が起業し、我々の顧問先になっていただき、共に成長していくのはこの上ない喜びである。 しかし、起業したものの、数年ですぐ行き詰まる会社が実に多い。うまくいかない典型的なパターンは、これまで自分が全く経験していない領域で事業を起こす場合である。 つまり、素晴らしいアイデアこそあるものの、それを実現するための具体的なプランがない。 このようなケースで、我々税理士として彼らをサポートできることは一体何であろうか。 彼らがこれから始めようとするビジネスそのものについては、我々も門外漢であることは間違いない。しかし、何もできないわけではない。 まずは、経営者には事業で収益を上げることに専念してもらい、その他もろもろのバックオフィス業務については我々が一手に引き受けることである。しかし、これは至極当たり前のことであり、これだけでは十分ではない。 もう一歩踏み込んで、彼らのサービスや商品に対して、買う側の立場だとしたらどう思うのか、どう感じるのかを、素人の観点、しかし客観的な観点から意見を述べることはできるだろう。 経営者はなかなか第三者の意見を聞く機会が少ない。創業時から事情を知っている我々税理士は、経営者に対して客観的な意見を消費者と同じ立場から物申すことができる数少ない立場の人間であり、経営者からみても単なる帳簿付け、申告書作成をお願いしているだけでなく、そういった役割を期待しているはずである。 経営者と税理士は単に税金の話だけではなく、ビジネスそのものについても議論できる関係になってこそ、お互いに成長できるのだと思う。   2 経営者と対立する場面で必要なこと しばしば一般の会社において、営業と経理部とが対立する場面を見かける。 営業は、第一に売上を上げることが本来の仕事である。一方、経理部は会社の帳簿に会社の取引の実態を適切に反映すること、そのために、現場から正確な情報を入手することが仕事である。この役割分担が、時として対立関係に発展する。 例えば売掛金の額と入金額とが違う場合、経理の立場からすると、この差の原因が分からなければ会計処理ができない。営業に問い合わせると、「得意先に問い合わせるのが面倒だし、大した差ではないから適当に処理してくれ」と要望されてしまう。 あるいは、相手の会社名や参加した人数が書かれていない飲み代の領収書が営業から経理へ提出される。経理では交際費なのか会議費なの判断がつかない。そこで営業に問い合わせると、「いちいち細かいことを聞いてくる」と不満を言われる。 営業からすると、「経理の依頼ばかり聞いていると管理業務ばかり増えて営業に専念できない」「誰が稼いで会社を支えていると思っているのか」などと、怒鳴り合いの関係になってしまう。 税理士と顧問先との間においても、記帳業務を請け負っている場合には、同じような関係になる場合がある。 顧問先から請求書や領収書を預かって、税理士の方で記帳するのだが、顧問先からいただく資料だけでは、会計処理に必要な情報が不足している場合が往々にしてある。 そこで、顧問先に問い合わせると、「そんな細かいこと覚えてないから適当にやってくれ、忙しい中、資料をそろえて渡しているんだ、それでも不満があるのか」と。 「それも含めて税理士にお願いしているのだ」と。 このような経営者の中には、実は着々と売上を上げている方々が多い。ある意味、立派な経営者である。しかし、経理の重要性についての認識が足りない。 このような場合には、会計処理の重要性、そして現場からの情報の必要性について理解してもらうよう税理士も努力しなければならない。社内で管理業務を行ってくれる事務職員を雇えれば、その社員に整理をしてもらえば良いかもしれない。しかし、そこまでの余裕がない場合には、経営者を説得してそこはきちんとやってもらうように指導しなければならない。 ただし、単に、「お願いします」ではなく、やはりここでも経営者の立場になって考える必要がある。 資料整理はとても大変な作業である。経営者にとって最低限の労力で済み、かつ、記帳する上でも必要最低限の情報をいただくための工夫を、経営者と一緒に議論すべきである。 税理士が単に請負作業者として仕事をしているのでは、会社にとっても良くないのだ。 (了)

#No. 26(掲載号)
#松元 良範
2013/07/04

改正金融検査マニュアルのポイントと中小企業へ与える影響 【第3回】「マニュアルを使った[債務者区分]の判定」

改正金融検査マニュアルのポイントと 中小企業へ与える影響 【第3回】 「マニュアルを使った [債務者区分]の判定」   OAG税理士法人 税理士 山下 好一   1 金融検査マニュアル 金融検査マニュアルは、金融庁及び地方の財務(支)局(一部の金融機関については、農林水産省及び厚生労働省も検査を行う)の検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書である。 この金融検査マニュアルは、「経営管理(ガバナンス)」、「金融円滑化編」及び「リスク管理等編」で構成されている。 この中で、中小企業等に最も影響があるのが、「リスク管理等編」の「資産査定」である。 (「金融検査マニュアル」195頁「資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト」参照) 金融機関は、金融検査マニュアルに沿った自己査定マニュアルを策定し、これによって与信先の査定を行い、債務者区分を決定する。 なお、自己査定マニュアルは、金融機関が規模・特性に応じたものを独自に策定するため、各金融機関において異なるものとなっている。 このため、例えば甲社の債務者区分は、A金融機関では「要注意先」、B金融機関では「正常先」と、判定が異なる場合がある。このような場合には、B金融機関の検査において、検査官が異なる理由を解明した上で横串を刺し、甲社の債務者区分を「要注意先」としている。 「債務者区分」とは、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分することをいう。 (「金融検査マニュアル」「自己査定(別表1)」参照) 債務者区分の判定において、金融検査マニュアル自己査定(別表1)を見ると、「要注意先」の適切性の検証では「・・・業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。」とある。 また、正確性の検証についても、「左記に掲げる債務者が要注意先とされているかを検証する。・・・」とある。 しかし、ここに記載されている内容だけでは、債務者区分の判定は困難である。たとえ総合的に勘案し判定したとしても、判定者によってその結果は異なるものになるであろう。 そのため、自己査定では、例えば有利子負債の債務償還年数が5年以下は「正常先」、6年以上10年未満は「要注意先」といった、金融検査マニュアルの内容に沿うような定量的な判定方法を用いている。 このようにして判定された債務者区分が要注意先以下になると、金融機関にとっては、回収の危険度(信用リスク=引当金)が増加するため、それに見合った金利(収益)を設定することになる。 また、破綻懸念先では新規融資は原則不可能となるほか、場合によっては元金の回収となる。 このように債務者区分は、借手の企業にとって、資金調達に大きく影響するものである。   2 金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編) 中小企業等と大企業を比較した場合、両者には大きく異なる点がある。 それは、中小企業は「株主=経営者」であるのに対し、大企業は「株主≠経営者」となる点である。 また、技術力、販売力や成長性などの内部要因は、中小企業等の業績の変化に大きく影響を与えることに加え、外部要因も中小企業の業績を大きく左右する。 このような、大企業とは異なる中小企業等の経営実態の観点から、債務者区分の判定においては、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」(以下「マニュアル別冊」という)が策定されている。 このマニュアル別冊では、一定の要件のもと、債務者区分のランクアップができるようになっている。 「一定の要件」とは、 など、財務諸表では明らかにならないものとなっている。 つまり、先に述べた定量的な判定に捉われず、中小企業等の経営実態など定性的な要件に重点を置いた判定を行うものである。 金融機関が、マニュアル別冊に沿った債務者区分の判定を行うためには、中小企業等との密度の高いコミュニケーションを通じて、経営実態を適切に把握(コンサルティング機能の発揮)する必要がある。 これにより、金融機関は、信用リスクを下げることができる。 逆の見方をすれば、借手の中小企業等は、金融機関に対して、代表者等個人の財力を含め、自社の優れた技術力等の経営実態に関する情報を積極的に提供する必要がある。 これにより、中小企業は、債務者区分のランクアップが可能になり、資金調達が今よりも容易になる。 (了)

#No. 26(掲載号)
#山下 好一
2013/07/04
#