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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第10回】税率変更の問題点(9) 「短期前払費用の取扱い」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第10回】 税率変更の問題点(9) 「短期前払費用の取扱い」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   消費税の計算上、前払費用については、その役務の提供を受けていないことから、原則として、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことはできないが、一定の要件を満たした短期前払費用につき所得税法又は法人税法の規定により必要経費又は損金としている場合には、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことを認めている。 この短期前払費用の特例を適用している場合おいて、当該前払費用の支出した日が施行日前でその対象期間が施行日後にかかる場合に、どのように取り扱うかが問題となる。 そこで、以下ではこの問題点について解説していくこととするが、まず、前払費用の原則的な取扱い、法人税法における短期前払費用の取扱いを確認した上で、今回の税率改正に伴う消費税法における取扱いについて事例を用いて検討する。   1 前払費用の原則的取扱い 前払費用とは、法人が一定の契約により継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいい、以下の4つの要件を満たすものをいう。 この前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時点で損金の額に算入することとなっている。 前払費用の具体例としては、以下のようになる。 また、上記事例の場合における消費税の計算においても、1月分から3月分までの家賃分30万円が課税仕入れとして認識され、未経過分である90万円については、翌期の課税仕入れとなる。   2 法人税法における短期前払費用の取扱い 法人税法基本通達2-2-14では、上記1で述べた前払費用の原則的な取扱いにかかわらず、法人が支払う地代家賃、保険料、支払利息などの前払費用において、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合、その支払った金額を継続してその事業年度の損金の額に算入しているときは、その支払った時点で損金の額に算入することを認めている。 具体的には、以下のような要件を満たすものをいう。 これらの要件を満たせば短期前払費用の特例を適用できることから、上記【事例1】の場合には、この特例により賃料を支払った事業年度において全額損金に算入することができる。 他に認められる事例としては、以下のようなものがある(法人税法64条の2第3項に規定する売買取引とされるリース取引に該当する場合を除く)。 なお、上記の要件から、2年分の前払費用を支払った場合など1年を超えて費用を支払った場合やその費用を決算時までに未払いであった場合には、この規定の適用はない。 同様に、売上原価となる費用や借入金を預金や有価証券などで運用する場合の借入金の支払利息のように、収益と対応させる必要がある費用については、たとえ1年以内の短期前払費用であったとしても、支払時点で損金の額に算入することは認められない。 また、3月決算法人で当期の2月に支払う翌期4月からの1年間の年額家賃については支払日から1年以内ではないことから、この特例は認められず、全額資産計上となる。 この特例は、1年以内の短期前払費用について、企業会計上の重要性の原則に基づいて、支払時に一括して費用とする会計処理を税務上においても認めることを前提としているものであり、利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出、収益との対応期間のズレを放置すると課税上の弊害が生ずるものについては認められないので注意が必要である。   3 消費税法における短期前払費用の取扱い及び税率改正に伴う問題点 消費税における課税仕入れの時期は、所得税法又は法人税法と同様に、原則として資産の引受け、資産の借受け、役務の提供を受けた時点とされている。 例えば、機械などの資産の購入について前払金を支払っていたとしても、その支払いの時期に関係なく、実際に引渡しを受けた時点や役務の提供を受けた時点が課税仕入れの時期となる。 同様に、資産の購入について未払金がある場合も、その代金の決済時期に関係なく、資産の引渡しを受けた時点が課税仕入れの時期となる。 したがって、上記1の前払費用についても、実際に役務の提供を受けた時期に税額控除の対象となるのが原則であるが、所得税又は法人税との取扱いを統一するため、その前払費用を支出した課税期間において税額控除の対象とすることを消費税法基本通達11-3-8により認めている。 その内容は以下のとおりである。 この通達は、所得税又は法人税との取扱いを統一することが前提となるため、所得税又は法人税において短期前払費用の特例により支払った時点で必要経費又は損金として処理をしていなければ、消費税においても支払った課税期間で仕入税額控除を行うことができないことに注意しなければならない。 今回の税率改正に伴い、この短期前払費用の通達により前払費用を支出した課税期間において税額控除の対象とした場合、当該前払費用の支出した日が施行日前であり、その対象期間が施行日後にかかるような場合に、どの税率を適用するのかといった問題が生じることとなる。 例えば、短期前払費用の特例を適用している3月決算法人で、その年の1月に支払った前払費用で対象期間が12月までの場合には、4月以降の期間に係る部分につき新税率を適用して税額控除を行うことが可能かどうかということであるが、支払った消費税により、以下のような取扱いとなる。 上記内容について、具体例を示すと以下のようになる。 上記の場合において、〈ケース③〉については、法人税の取扱いと消費税の取扱いが異なることとなる。 このように、短期前払費用について、支払った日から1年以内の期間が施行日を含めた期間となる場合には、その課税されている税率など支払った内容を確認した上で処理しなければならないことから注意が必要である。 また、長期前払費用については、支出した費用のうち施行日後に係るものについては、新税率が適用されることとなるので注意しなければならない。 (了)

#No. 6(掲載号)
#島添 浩
2013/02/14

租税争訟レポート【第5回】税理士の過失による損害賠償義務の範囲(税理士損害賠償請求事件第一審判決)

租税争訟レポート【第5回】 税理士の過失による 損害賠償義務の範囲 (税理士損害賠償請求事件第一審判決)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 本件は、税理士である被告が、人材派遣業を営む株式会社である原告から委任を受けて、その税務申告を行ったところ、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の額を誤って過少に申告し、原告が過少申告加算税や延滞税の納付を要することとなったとして、原告が、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。 被告税理士が、自らの責任を認め、過少申告加算税及び延滞税の賠償については争わなかったため、それ以外に原告が受けた損害の範囲、過失相殺、被告税理士による税務調査の立合報酬などに関して、相殺の抗弁が認められるかどうかが争点となった。   【過少申告に至った経緯】 ① 原告経理担当者が、会計システムの初期設定を行った際、「労務賃金」について、原告と雇用関係にある派遣対象者に対する賃金・給料等の支払いを示す科目であるにもかかわらず、誤って課税仕入れの対象に設定し、勘定科目一覧表を被告税理士に送信、内容の確認を依頼したところ、問題はないとの回答を受けた。 ② 被告は、原告の消費税等の申告に当たり、試算表、消費税集計表、勘定科目別税区分表の送付を受け、これらに基づき、消費税等を申告したが、送付を受けた税区分表について、帳簿等と対照するなどの調査・確認は行わず、その結果、原告の消費税等の申告において、課税仕入れ額に「労務賃金」として計上された額が含まれたままとなった。 ③ その後の税務調査により、上記の過誤が判明し、原告が納付すべき消費税等の額が、本来納付すべき税額よりも過少に申告されていたことが判明した。   【原告が求めた損害賠償の範囲と裁判所の判断】   【被告税理士による過失相殺・未払報酬との相殺の抗弁】   【解説】 消費税等の過少申告につき、税理士に過失があった場合に、納税者に生じた損害のどこまでが賠償の対象となるかが争われた事案である。原告の主張で注目されるのは、損害賠償金の受領に伴って増加する法人税額等についてまで、これを損害と主張したことである。一方、被告税理士は、自らの責任を認めながら、原告経理担当者の過失による相殺を求めた。 東京地方裁判所は、法人税額等については損害賠償を認めなかったが、被告の求める過失相殺を一蹴する中で、「被告による善管注意義務違反の程度は相当大きいものであると評価できることなどを考慮すれば、公平の見地からみて、過失相殺を認めることは相当ではない」として、被告税理士の専門家責任の重さを強調した。 (了)

#No. 6(掲載号)
#米澤 勝
2013/02/14

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載6〕 管理部門を分割した場合における事業性

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載6〕 管理部門を分割した場合における事業性   税理士 村木 慎吾   Question 当社は、同業他社と協力し管理部門をアウトソーシング化することを考えています。 そこで、同業他社と共同でアウトソーシング会社(A社)を設立し、当社からは経理部門を分社型分割によりA社へ移転させることを計画しています。 しかし、当社とA社は60%の資本関係となるため、本件分割が適格要件を満たすためには「事業継続要件」などを満たす必要があります。 この事業継続要件などでは、事業が移転することが前提となりますが、当社のように経理部門を分割するケースでも、「経理事業という事業が移転している」と考えることができるのでしょうか? なお、当社内においては、従来より事業部制の観点から、部門間での費用等の付け替え処理をしており、経理部門においても内部売上が計上されています。   Answer 貴社からA社へ分社型分割により移転する経理部門は、分割前に他社からアウトソーシングを受けて外部売上を計上しているようなケースでない限り、分割前に貴社で営まれている「事業」に該当しないと考えられるため、分割による事業の移転がないことから適格要件を満たせず、非適格分社型分割として取り扱われると思われます。   解説 50%超100%未満(支配関係)のグループ内分割における適格要件は、分割事業に係る主要な資産負債が分割承継法人に移転することなど、分割により事業が移転することが前提とされています(法法2十二の十一ロ)。そのため、そもそも事業の移転を伴わない分割であれば、適格要件を満たすことができず、非適格分割として取り扱われます。 この分割による事業の移転に関して、会社法上は分割を「事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させること」と定義していることから、事業の移転を伴わない分割も可能であると解されています(会社法2二十九、三十)。そのため、税務上では、分割により事業が移転しているか否かを別途検討する必要がありますが、この「事業」の定義については、規定が設けられていません。 一方、50%以下の資本関係にある法人間における組織再編成で用いられる適格要件においては、「事業」の定義が定められています(法規3①一)。そこで、50%超100%未満のグループ内分割における適格要件における「事業」の判定においても、当該定義規定を類推適用し、事業性の有無を検討することが合理的と思われます。 当該定義規定では、「固定施設の所有(又は賃借)」、「従業員の存在」及び「売上の計上」の3要素を満たすものを「事業」として定義しています(法規3③)。また、このうち「売上の計上」とは、自己の名義をもって、自己の計算において次のいずれかの行為をしていることとされています。 そもそも、事業の移転が適格再編の要件とされている理由は、その再編による資産及び負債の移転が、独立した事業単位で行われたものである必要があるからと考えられます。 ならば、再編後に移転したとされる事業は、再編前時点で既に存する、独立した事業であることが当然に必要です。 その意味で、再編前の時点で直接外部からの収益を生まない管理部門に関しては、分割前において、独立した事業単位を備えていたとは評価できません。たとえ、企業内部において管理会計の視点で内部売上を計上していたとしても、それはあくまでも計算上の仮定計算に過ぎません。 そのため、再編以前において直接外部からの収益を生まない管理部門(研究開発部門等を除く)に関しては、原則として分割前に営んでいた「事業」には該当しないものと考えられます。 一方で、平成21年3月13日付の照会(投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について)では、以下のようにも解説されており、文理解釈だけではなく個別に事業関連性要件を判定することが公表されています。 この照会を参考にすれば、この事例でも個別の事情を加味したところで判定すべきとも考えらえます。 しかし、「合併法人にのみ不動産を賃貸している不動産賃貸事業を営む被合併法人との合併は、合併後において当該不動産が自社所有となり不動産賃貸事業の売上が計上されないことから、事業継続要件を満たさない」(注)との国税当局側の考え方があります。この考え方は、合併後に事業が継続しているかどうかの判断で、今回のケースとは事業の消滅と発生という意味でスキームが逆ですが、この考え方との整合性を取ろうとするならば、今回のケースでは、事業性がないと考えざるを得ないのでしょう。 (注) 山田弘一「企業組織再編税制について」(『租税研究』(2009年9月号)) (了)

#No. 6(掲載号)
#村木 慎吾
2013/02/14

会計リレーエッセイ 【第2回】「社会人に求められる会計リテラシー」

会計リレーエッセイ 【第2回】 「社会人に求められる会計リテラシー」   中央大学大学院戦略経営研究科 特任教授 藤沼 亜起   公認会計士としての経験を活かし、実務家教員として中央大学大学院のビジネススクール(通称)に奉職して、今年の4月で6年目を迎える。 生徒は30~40代の社会人が多く、人気のある研究テーマは「企業戦略」が第一位で、その他は、「マーケティング」、「人的資源管理(ヒューマン・リソーセス)」及び「企業法務」などがある。 しかし、会計を含む「ファイナンス」の分野については興味が湧かないのか、メジャーな科目とはなっていないのが残念である。 企業の経営幹部を志望している社会人にとって、程度の差はあれ、会計リテラシーの習得はビジネスをする際の必要最低限の知識であるのだが、大学の学部教育で選択しなかったからなのか、会計は生徒にとって取っ付きづらいというのが実情のようだ。 会計を経営に活かす、つまり会計的思考がビジネス上求められることは必然であるが、ビジネス分野に限らず、例えば公的分野で活躍する公務員や政治家にとっても、会計リテラシーは基礎的な素養の一つであることに変わりはないと思う。 公認会計士としての約40年弱の実務経験の中で、国際会計士連盟会長(2000~2002年)及び日本公認会計士協会の会長(2004~2007年)という公務を引き受けたことは、任期中は苦難の連続と感じていたが、今から振り返ってみると、大変に貴重な経験をしたと思っている。 特に内外の組織のリーダーシップとはいかなるものか、会計職業人(Accounting Profession)のバックボーンとなる職業倫理や守るべき公益(Public Interest)とは何か、国際的な基準設定の重要性とこれら基準等へのコンプライアンスについての考え方など、自らの職業をグローバルな観点やより大きな視点から考えなおす機会を与えられた。 このような経験が、現在のIFRS財団の評議員(Trustees)としての仕事にも影響を与えているものと思う。 今までに国内外で知遇が得られた人々は、必ずしも同業者だけではなく、内外の企業経営者を含むビジネス関係者、レギュレータ(規制当局者)や官僚、政治家、国際機関の職員、アカデミア、ジャーナリストなど多くの異なる分野の人たちであったが、交流を通じて気づいた点は、有能な人は、程度の差はあるものの、健全な会計リテラシーの持ち主であるという点である。 さて、昨年末に誕生した安倍政権は、成長重視の政策転換を掲げて昨年12月の衆議院選に大勝した。大胆な金融政策、機動的な財政政策そして民間投資を喚起する成長戦略という「三本の矢」を統合し、名目3%の成長を目指す「アベノミクス」を発表した。 今のところ内外の市場の反応も良く、株価も為替も良い方向に向かっていることは歓迎すべきである。 しかし、バブルの崩壊後のデフレ経済が約20年間続き、巨額の財政出動によっても一時的な景気回復しか達成できず国の借金が膨れ上がってしまった過去の政策運営の失敗の轍を踏むことがないように、新政権には細心の注意を払って国の舵取りをしていただきたいというのが国民の本音であると思う。 新政権の進める経済政策等により持続的な成長を達成できるか否かが新政権の評価のポイントとなるはずで、会計的な視点からは、今や我が国はゴーイングコンサーン(永続企業)として存続できるかがが問われていると思う。 「アベノミクス」の行方について、会計リテラシーの観点から気になる点が2つある。 まず第一は、我が国の公会計制度改革の遅れである。 現在の公会計制度は原則として現金収支に基づく単年度決算をその特徴としているが、企業会計制度で求められている複式簿記による会計記帳と発生主義に基づく会計処理が採用されておらず、固定資産の減価償却という概念がない制度である。 したがって、国及び地方自治体の財政状況や行政活動の成果が、一部の専門家以外の者には容易に理解できない制度となっているため、財務情報のデスクロージャーを通じて組織としての報告責任を果たすという会計本来の役割を果たしていないという問題がある。 公的分野の会計基準についても、世界各国で普及し始めた国際公的分野会計基準(IPSAS)が設定されており、将来は国際会計基準(IFRS)と同様に公的分野の世界基準となる可能性がある。 石原慎太郎氏は都知事時代に東京マラソンの開催やオリンピック招致でリーダーシップを発揮したが、東京都に初めて複式簿記による会計制度を導入した点において大きな成果を上げている。 国政レベルにおいても複式簿記制度による公会計制度改革の法案を提出するとの新聞報道があったが、その成果を大いに期待したい。 第二の点は、国の政策立案に係る人たちの会計リテラシーの問題である。 新政権の成長戦略の中で、民間資金の呼び水として、政府資金を使って官民共同で投資法人を立ち上げるなどの案が議論されているが、国の資金が主役の役割を果たす投資法人であっても現行の企業会計原則の適用対象になるということを、きちんと理解しているかという問題である。 国の関与度合いが高い法人は、その法人の設置目的を遂行することが第一で、その障害となるような厳格な会計基準の適用は望ましくないという観点から、会計基準の適用を軽視したり避けたりする結果、損失の先送り、つまり実際の損失の認識がだいぶん後になって発生するという問題が生じる可能性があるからである。 噂ではあるが、国債の大量発行で将来国債の価格が暴落した時を見越して、金融商品への時価会計適用を凍結すべきという意見を言って回っている人たちがいるという話を聞いたが、このような現行会計基準からの逸脱は国家を挙げての粉飾決算をするようなものであり、事態を好転させるどころか、かえって深刻化させるだけの話である。 会計は、ビジネスの世界のみならず、公的分野に関与する人々にとっても必要かつ有益なリテラシーであることを再確認した上で、会計を大学の文科系学部の必須科目にすることを提案したい。 (了)

#No. 6(掲載号)
#藤沼 亜起
2013/02/14

訂正報告書に見る不適正会計処理の現状(1)

訂正報告書に見る 不適正会計処理の現状(1)   大阪経済大学教授 小谷 融   1 金融庁の不適正会計に対する対応 金融庁においては、オリンパスをはじめとする相次ぐ会計不祥事で損なわれた我が国証券市場の信頼回復を目指し、次の2つの検討がなされている。 一つは、平成24年10月1日から適用されている臨時報告書提出事由の拡大だ。 オリンパスは、有価証券の損失隠しを解消するために、売上高等の小さい会社を多額の資金で買収することにより、買収費用の資産化(のれん)を図った。多額の資金を使用した子会社の取得が適時に投資家に開示されていれば、経営トップによる、長年にわたる悪質な不正会計を防げたのではないかとの指摘がある。 それを受け、臨時報告書提出事由に、売上高の小さい会社に係る高額な対価による子会社取得が追加された。 あと一つは、平成24年12月11日に企業会計審議会監査部会から公表された「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定について」の公開草案だ。 この公開草案によると、監査人は「目的の不明な特別目的会社(SPC)が多数ある」などの不正リスクが認識された場合には、抜打ち監査や監査時期の変更など企業が想定しにくい監査手続をとらなければならない。 また、オリンパスの監査法人の交代で引継ぎが不十分だった反省から、前任と後任の監査法人が情報を共有するよう詳細な引継ぎ義務を課している。   2 訂正報告書 有価証券報告書提出会社が過去の財務諸表に関連して不適正な会計処理を発見した場合、その財務諸表の訂正と訂正後の財務諸表に対する監査証明を付した訂正報告書を金融庁に提出しなければならない。 この2月に清文社から刊行した拙編著『不適正な会計処理と再発防止策』において、平成19年7月1日から24年6月30日までの間に提出された訂正報告書について、①提出理由、②不適正な会計処理の内容、③不適正な会計処理が行われた背景、及び④その再発防止策の検討・分析を行ったところである。 これらの傾向や分析において判明した不適正な会計処理の特徴を、2回に分けてご紹介する。 なお詳細については、同書を参照されたい。   3 上場市場別の傾向 不適正な会計処理を行ったとして訂正報告書を提出した会社は、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡の5証券取引所にまんべんなく見られる。 上場会社数に対する不適正な会計を行った会社の比率は、新興市場銘柄が本則市場銘柄よりも高くなっている。 その背景として、次のようなことが指摘されている。 (1) 企業の規模の違い 会社の規模が大きく、また複数の事業部門を抱えている場合、特定の部門において不適正な会計処理が行われたとしても、全社的に見ると財務上の影響は限定的なものにとどまる。そのため、金額的に重要性の範囲内に収まる。 しかし、会社規模が小さく事業部門も少ない場合や新興市場の会社の場合には、会社全体の財務へ重要な影響を与える。 (2) オーナ経営者による不適正行為 金融商品取引法に基づく内部統制制度等の整備により、上場会社の開示の正確性を担保する制度的な枠組みは、以前よりも構築されてきた。しかし、規模の小さい新興市場の会社では、管理部門が脆弱で、経営トップや稼ぎ頭の中核幹部の発言力が圧倒的なことから、不適正な会計処理やその発覚の遅れにつながる。 特に経営トップ自らが適正な開示・会計処理に対する自覚を欠く場合には、これを阻止することは事実上困難な場合が多い。 (3) ビジネスモデルが発展途上 新興市場の上場会社の中には、ビジネスモデルが発展途上である社が多い。そのような状況の中で、経営トップが、上場企業としての株価等を気にするあまり、あるいは、第三者からの期待又は要求に応えなければならない過大なプレッシャーを受けることにより、粉飾に手を染めるリスクがある。 上記1で述べた「監査における不正リスク対応基準」においては、このような不正リスク要因が「付録1」として公表されている。   4 不適正な会計処理の発覚経緯 不適正な会計処理が発覚した経緯は、個別的要素が強く多岐にわたるが、次のような類型に分類することができる。 それぞれについて、代表的な事例を掲げておく。 ① 証券取引等監視委員会による立入り調査 立入り調査を受け、その調査により、過年度にわたり不適正な会計処理が行われていたとの疑義が生じたことから、証券取引等監視委員会から社内にて調査するように指示を受けた。 ② 国税局の税務調査・監督官庁による調査 税務調査により、不適正な会計処理が行われている旨の指摘を受け、第三者委員会を設置して、それによる調査が開始され判明した。 ③ 取引先からの照会 取引関係業者から当社経理部に支払予定のない支払いの確認と支払要請があったことから、担当社員に問い質したところ、その社員が不適切な取引の事実関係を認めたことにより発覚した。 ④ 内部告発・外部告発 当社内部者から監査役会に対して内部告発があったことを受け、内部調査委員会による調査が開始され判明した。 ⑤ 内部監査・社内調査 受注後工事が延期となっていた案件の仕掛原価が増加していたため、事実関係の調査を行った結果、判明した。 ⑥ 子会社からの報告 子会社から不適正な会計処理を行っていた旨の報告があり、これを踏まえて社内調査を実施したところ、判明した。 (以下、次回に続く) (了)

#No. 6(掲載号)
#小谷 融
2013/02/14

税効果会計を学ぶ 【第3回】「繰延税金資産の回収可能性の判断ポイント」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第3回】 「繰延税金資産の回収可能性の 判断ポイント」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ 繰延税金資産の回収可能性   1 繰延税金資産の回収可能性の判断は慎重に行うこと 一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払いが見込まれない税金の額を除いて、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならない(「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)16項)。 繰延税金資産については、将来の回収の見込みについて毎期見直しを行わなければならない。 繰延税金資産の回収可能性とは、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかであり、この判断を適切に行うためには、将来の課税所得の十分性やタックスプランニングの存在等について、慎重な検討が必要となる。 その理由は、将来の課税所得の十分性などについては、将来事象の予測や見積りに依存することとなり、その客観性を判断することが困難な場合が多いためである。 また、繰延税金資産については、会社法上、特段の配当制限がなされていないため、その金額が分配可能額の算定に影響することも注意しておく必要があると考えられる。 繰延税金資産の回収可能性の判断のポイントは、次の事項と考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 2 収益力に基づく課税所得の見積り 個別税効果会計実務指針21項では、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたり、大きく分けて を規定している。 本稿では「① 収益力に基づく課税所得の十分性」を用いて、繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方を解説する。 [数 値 例] (前提) ① 滞留棚卸資産 1,500千円について評価減 1,000千円を行い、帳簿価額を 500千円とした。 ② 評価減 1,000千円は税務上、損金とならないので、別表四で申告加算し、別表五で繰り越している。 ③ 法定実効税率は40%とする。 ※1 : (税引前当期純利益5,000+評価減1,000)×法定実効税率40% = 2,400 ※2 : 評価減1,000(=税務上の帳簿価額1,500-会計上の帳簿価額500)×法定実効税率40% = 400 (仕訳)      繰延税金資産(BS)  400  /  法人税等調整額(PL)  400 上記の例では、税務上の帳簿価額1,500と会計上の帳簿価額500により、将来減算一時差異1,000が発生している。 当該将来減算一時差異1,000が、将来のどの事業年度において解消し、税務上、損金算入となる見込みかについて、スケジューリングを行うことになる。   Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性の判断手順 「税効果会計に関するQ&A」のQ1では、次のように、繰延税金資産の回収可能性の判断手順を述べている。   Ⅲ 適用に当たっての留意点 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、多くの場合、それらと相殺可能な将来加算一時差異が少ないことから、将来の課税所得の発生に大きく依存することになる。 そこで、入手可能な情報や資料に基づき将来の課税所得の発生の可能性を毎決算期に見積もり、評価しなければならない(「税効果会計に関するQ&A」Q1)。 見積り・評価に当たって以下の状況にある場合には、より慎重な対応が要求される。 (了)

#No. 6(掲載号)
#阿部 光成
2013/02/14

〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第2回】「正社員の雇用契約書」

〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第2回】 「正社員の雇用契約書」   社会保険労務士 真下 俊明   基本となる正社員向け雇用契約書 今回から具体的に、雇用形態別の雇用契約書の作り方について記すこととする。 まずは正社員を想定した説明を行う。パートタイマー、契約社員についても基本的には同じ事項となるが、特に注意すべき相違点がいくつかあるとお考えいただきたい。 正社員とは、期間の定めのない雇用契約を締結したフルタイムの従業員であり、雇用契約においても一番オーソドックスなタイプである。 期間の定めがないゆえに、特に中途採用の正社員に関しては契約書を締結せず、口頭で雇用しているケースも多い。 しかし、前回述べたとおり、トラブル防止はもちろん、それ以外にもメリットが多いことを考えると、書面で契約することは大前提と考えていただきたい。 そして、さらに有効に活用するためには、以下のポイントにご注意いただきたい。   雇用契約書作成のポイント 正社員向け雇用契約書作成のポイントは、以下の3点である。 〈ポイントⅠ〉について 具体的項目は前回記載したので、以下では主な注意点について説明する。 ① 契約期間 正社員は一般的には期間の定めはないので、「期間の定めなし」と明示 ② 就業場所・業務 雇入れ直後の場所・業務を明示。 将来の見込みまでは不要だが、限定的に書き過ぎない方が良い。 +αとして、できれば「期待する水準」を具体的に示したい。 ③ 退職・解雇 退職の事由と手続きを明示。 特に重要なのは解雇に関する事項。 ※特に解雇に関する事項など、特に明示する事項が多い項目は、就業規則の該当条文を記載する方法でも問題ない。   〈ポイントⅡ〉について 労働基準法に違反する内容については、本稿では割愛する。 問題は就業規則との関係である。 就業規則は個別の雇用契約に優先する。例えば、就業規則で完全週休2日と定められていて、雇用契約でそれに反することは、たとえ労働基準法に違反していなくてもできないので、注意が必要である。 参考までに、就業規則がある前提の正社員の雇用契約書のひな型を掲載する。 〔正社員の雇用契約書(ひな型)〕 ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。 (了)

#No. 6(掲載号)
#真下 俊明
2013/02/14

誤りやすい[給与計算]事例解説〈第6回〉 【事例⑧】雇用保険料の免除 ・ 【事例⑨】解雇予告手当

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第6回〉   税理士・社会保険労務士  安田 大   3 控除額の計算-雇用保険料 【事例⑧】―雇用保険料の免除― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 労働保険料(雇用保険料)の算定 労働保険料(雇用保険料)は、保険年度(4月1日~3月31日)単位で算定することになる。 2 雇用保険料被保険者負担分の算定 雇用保険料の被保険者負担分については、賃金額に雇用保険料率(被保険者負担分)を乗じることによって算定することになる。 3 雇用保険料の免除 保険年度の初日(4月1日)において満64歳以上の人については、雇用保険の被保険者であっても、雇用保険料の負担が免除されるので、雇用保険料本人負担分は控除しない。 ただし、この取扱いは、あくまでも保険年度単位でその初日に満64歳以上である人が対象となるので、保険年度の途中で満64歳になった場合でも、その保険年度中の雇用保険料は免除されない。   4 控除額の計算-源泉所得税 【事例⑨】―解雇予告手当― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 解雇予告手当 労働基準法では、労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければならないことになっている。 30日前に予告しない場合には、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないこととされ、これを“解雇予告手当”と呼んでいる。 2 所得税・住民税の取扱い 労働基準法の規定により支払われる解雇予告手当について、所得税・住民税では、給与所得ではなく、退職所得として取り扱われることになっている。 したがって、通常の給与としての所得税の源泉徴収や住民税の特別徴収は行わず、退職所得とし、退職金と同様の源泉徴収・特別徴収を行うことになる。 なお、退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)が提出された場合には、勤続年数等に応じて計算された退職所得控除額(最低80万円)の適用があるため、一般的には解雇予告手当以外に退職金の支払いがない場合、退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)の提出があれば、金額的に源泉徴収が不要となる(課税されない)ことが多いと言える。 なお、住民税についても、退職金の場合と同様の特別徴収を行うことになるが、退職所得控除額は所得税と同額であるから、所得税の源泉徴収が不要の場合には、住民税の特別徴収も不要となる。 (了)

#No. 6(掲載号)
#安田 大
2013/02/14

企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第2回】「会社運営から組織再編、撤退まで」

企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第2回】 「会社運営から組織再編、撤退まで」   アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範   1 会社設立後の手続と事業運営   (1) 取締役会の開催 香港の会社においては、毎年最低1回、取締役会を開催する必要がある。 また、必要に応じ、随時取締役会を開催することができる。  (2) 株主総会の開催 第1回株主総会は、会社設立後18ヶ月以内に開催する必要があり、第2回以降は、前年度の開催日より15ヶ月以内、かつ、暦年毎に一度開催することとされている。 (3) 商業登記所への登記 会社設立の承認が下りると、会社設立証明書とともに商業登記証(事業目的の記載がないもの)が発行される。 事業開始後、事業開始日の1ヶ月以内に社名、主な事業目的、登記住所等を記載し、商業登記所へ通知書を提出しなければならない。この通知書を提出すると、正式な商業登記証が発行される。 なお毎年、商業登記料の納付(450香港ドル/1年(2012年12月現在))とともに更新が必要となる。 (4) 銀行口座の開設 資本金の払込み、設立後の事業運営などのために、銀行・口座の種類・銀行取引署名者などを決定し、銀行口座を開設する。 なお、銀行口座開設と銀行取引署名者の決定は、取締役会の決議事項となっている。 (5) 年次報告書の提出 香港に拠点を置くすべての会社は、毎年、会社設立日付けで年次報告書(Annual Return)を作成し、会社設立日より42日以内に会社登記局に提出する必要がある。 年次報告書には、社名、登記住所、授権資本金、払込資本金、株主(住所や所有株式数)、会社秘書役、取締役(住所や身分証明書番号)、債務額等が記載され、これらの情報はすべて第三者の閲覧が可能となっている。 なお、期限内に提出した場合の私的会社の登記料は105香港ドル(2012年12月現在)であるが、提出期限を過ぎると登記料が高くなるとともに、罰金が課せられることもある。 (6) 会計監査 香港のすべての会社は、毎年決算期ごとに会計監査を受ける必要がある。 会計監査については、特に法定の期限は設けられていないが、上場会社子会社のように開示上の要請がある場合などは、日本本社が指定する期限までに行う。そうでない場合、実務上は、監査報告書は事業所得税申告書に添付して税務局へ提出されるため、下記(7)の税務申告期限までに会計監査を完了させることになる。 (7) 事業所得税の申告 事業所得税申告書(Profits Tax Return)を年に一度、監査報告書及び税金計算書を添付して税務局へ提出する義務がある。 なお、申告書の提出期限は申告書の発行日から1ヶ月以内とされているが、税務代理人に委託する場合、一般的には税務局へ申告期限の延長申請をするため、決算期に応じて以下の提出期限までに税務申告を行う。 (8) 個人所得税の申告 雇用主は、従業員の雇用開始と雇用終了時には、税務局へ通知書を提出しなければならない。 また、税務局から毎年、雇用主及び従業員に申告書が送付され、発行日より1ヶ月以内に申告しなければならない。 (9) 利益の配当 利益の配当は、配当可能利益の範囲内で行う。 通常、決算配当については年次株主総会の決議により年1回、中間配当については取締役会の決議により、いつでも行うことができる。 (10) 法定記録の保管及び更新 各種議事録、書面決議書及び登記事項などの法定記録については、いつでも株主や関連当局などの閲覧に供することができるよう適切に保管及び更新する必要がある。   2 組織再編(増資、事業譲渡、株式譲渡) 香港に進出する日系企業が、事業拡大、拠点の整理統合など様々な要請から組織再編を行うケースは、稀なことではない。 ここではその主な方法として、増資、事業譲渡、株式譲渡についてまとめることとする。 (1) 増資 増資の手続は、まず定款において、授権資本金の増加を行うことができる旨が記載されているかどうかを確認する。 その上で、株主総会を開催して授権資本金の増加を決議し、授権資本金の範囲内で新株の割当てを行う。また、会社登記局への通知が必要となる。 (2) 事業譲渡 香港には“合併”という法的な概念が存在せず、 1 譲渡会社の事業(資産負債)を譲受会社に譲渡し、譲渡会社を解散させる 2 新規に会社を設立し、既存会社2社の事業(資産負債)を新規設立会社が引き受け既存会社2社はともに解散する という、いずれかの方法が採られる。 事業譲渡にあたっては、事業譲渡(債権者保護)規則(The Transfer of Business(Protection of Creditors)Ordinance)の規定に従い、官報や香港の新聞への公告などが必要となる。 (3) 株式譲渡 全事業の譲渡を行う場合、株式譲渡の方法を採用することができる。 この場合、上記の事業譲渡とは異なり、買収する会社が譲り受ける事業全体を引き受けるため、事業譲渡(債権者保護)規則の適用は受けない。 株式譲渡を行う場合、取締役会の決議、印紙税の納付や会社登記局への変更事項の通知書の提出などが必要となる。   3 撤退(休眠、清算、登記抹消) 事業の撤退の方法としては、会社を法的に休眠させる方法又は解散させる方法がある。 解散させる場合、主に清算又は登記抹消のいずれかの方法が採られる。 いずれの方法を採用するかは、費用面とリスク面とを考慮し決定することとなる。 (1) 休眠 香港では、会社を法的に休眠させる制度が認められている。 法的な休眠会社となるためには、株主総会の特別決議を行い、会社登記所に必要な届出を行う。休眠会社となるための条件は、会社の会計取引が生じない状態となることである。 休眠会社となると、年次株主総会の開催、年次報告書の提出、会計監査の義務が免除される。ただし、税務申告については、数年に一度、税務局から会社に対し税務申告書が発行されることがあり、その場合は申告義務がある。 (2) 清算 清算手続には、下記のものがある。 日系企業の場合、上記の中でも「株主による任意清算」の方法が採られるのが一般的である。 この方法は、取締役が会社の運営・財務状況などについて十分に調査した上で、清算開始日より12ヶ月以内にすべての債務を返済できると判断し、会社法に準拠し支払能力証明書にて宣誓を行うことを要件として採用することができる。 清算手続は登記抹消に比べ一定の費用と期間を必要とする(1年~1年半程度)が、一旦会社が解散されると、解散が無効になることはない。 (3) 登記抹消 登記抹消を行う場合、会社法に従い、以下の全条件を満たしていれば採用することができる。 全株主が会社の登記抹消を行うことに同意している 会社に未払いの負債がない 会社が設立以来事業を開始していない、もしくは登記抹消申請時に事業活動終了後3ヶ月以上が経過している 登記抹消手続は、株主による任意清算に比べ低コストであり、手続が比較的簡易で期間が短くて済む(6ヶ月程度)。 ただし、登記抹消が承認されても、取締役と株主の義務は会社が存在している時と同様に残ること、登記抹消後20年間は債権者等が異議申立てを行うことができ、裁判所が認めた場合は登記抹消が無効となる可能性が残る。 (了)

#No. 6(掲載号)
#白水 幹範
2013/02/14

事例で学ぶ内部統制【第10回】「連結決算業務プロセスの内部統制の評価」

事例で学ぶ内部統制 【第10回】 「連結決算業務プロセスの 内部統制の評価」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、決算財務報告プロセス(FSCP)の内部統制から、連結決算業務プロセスの内部統制の評価を取り上げる。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、連結決算業務プロセスのリスクとコントロールの概要と評価手法について意見交換を行った。 交流会で明らかとなった各社の創意工夫を見てみよう。   連結決算業務プロセスの実態 意見交換に入る前に、筆者が参加企業に対して、参考情報として、準拠する会計基準(日本基準、現地基準、IFRS)について確認した。 参加企業Aは、「親会社は日本基準を採用している。連結子会社の所在地が日本の場合は、その子会社が準拠する会計基準は日本基準だ。米国子会社の場合は米国基準、欧州やアジアの子会社の場合は、各国の現地基準となる。このように、親会社と連結子会社との間で会計基準が相違しているため、親会社の経理部が、毎四半期の連結決算業務で日本基準に決算数値を組み替えている」(部品メーカー)と話した。 参加企業Bは、「親会社としてのわが社は米国基準を採用している。連結子会社は、一部IFRSを採用する連結子会社もあるが、各国の現地基準だ。連結子会社の経理レベルが低く、親会社が採用する米国基準で決算を組むことができるのは連結子会社の総数の1%にも満たないため、A社さんと同様、毎四半期の連結決算業務で親会社が大量の組替仕訳を行うのだが、連結子会社に対して細かい確認をする手間が重いし、雑多な確認作業で情報が錯綜して誤るリスクが高い」(商社)と話した。 参加企業Cは、「親会社は日本基準、連結子会社は現地基準なので、会計基準が異なっている。さらに、親会社は3月決算だが、連結子会社の一部は12月決算だ。また、連結決算では、3ヶ月の期ズレを許容し、連結子会社の数値は親会社の数値よりも3ヶ月古い前四半期の数値を連結している」(食品メーカー)と話した。 他の参加企業も同様の報告をしていた。 そこで、連結決算業務プロセスの実態を簡潔にまとめると、次のようになる。   連結決算業務プロセスのリスクとコントロール では、各社は内部統制の評価の実務で、どのように連結決算業務プロセスを定義しているのだろうか。 筆者が参加企業に対して、「連結決算業務プロセスを構成するサブプロセスはどうなっているか」と質問したところ、次のようなサブプロセスに収斂した。 前回(第9回)明らかにしたように、個別決算業務プロセスを構成するサブプロセスは参加企業間での呼称も統一されておらず、企業の固有事情に応じてサブプロセスを加減していた状況に比べれば、連結決算業務プロセスの中身は参加企業間で差異が少ない。 では、各社が連結決算業務プロセスでリスクが高いと判断するサブプロセスは何か、設定したコントロールはどのようなものか。 前出の参加企業Aは、「連結決算業務プロセス自体がFSCP全体においてリスクが高い業務プロセスであるという認識を前提に、特にリスクが高いと思うサブプロセスは、決算方針、決算体制、決算日程の決定である。 このサブプロセスは、連結財務諸表作成のための基本となる人員配置や日程などの重要事項の承認や新会計基準や新税法基準に対応するための連結パッケージの変更やシステム設計変更の承認を行う。 このサブプロセスに内在するリスクは、新しい基準が担当者に十分理解されないため、会計方針が適時、適正に更新されないリスク、新会計基準や新税法基準に対応するシステムの新設・変更の漏れや誤りが発生するリスクとなる。 そこで、経理部門の責任者及び担当者の二重チェック、監査法人との事前の基準内容の確認ミーティングの開催、イントラネットへの掲載や社内文書通知の徹底という人的コントロールに加え、ITインフラに組み込まれた機能を使う自動化コントロールを設定した」と、連結決算業務プロセスの入り口の体制整備を重要視していた。 参加企業Dは、「連結会計システムへのデータ入力と取込み、その他連結仕訳の入力というサブプロセスに注意を払っている。このサブプロセスは、連結子会社又は親会社の連結決算担当者による勘定科目毎の入力、為替レートのデータ入力から、科目振替えによる決算組替仕訳入力、税効果戻しなどの仕訳入力を行い、元資料と入力後データとの整合性の承認を行うサブプロセスである。 このサブプロセスには、入力すべき仕訳の漏れ、データ入力元資料の計算や記載の誤り、データ入力時の誤りが発生するリスクがある。どのリスクも、決算数値に直接的に反映され、かつ誤りがあっても修正の機会が限られている点で、極めて高いリスク属性であると思う。 わが社は、連結子会社の規模が小さい場合、ライセンスコストの削減のため、親会社が使っている連結会計システムを導入していないことから、そのような連結子会社から決算数値がバラバラなデータフォーマットで電子メールを通じて親会社に送られるため、親会社の組替入力の負担が大きく、誤りや漏れが発生するリスクが高い。 そこで、経理部門の責任者及び担当者の二重チェック体制を取り、データ投入前チェックリスト、連結決算処理確認一覧表等を利用して漏れや誤りを発見する人的コントロールと、関係帳票間のシステムチェックによるエラーの確認という自動化と人的の混合型コントロールを設定し、運用評価の対象とした」(商社)と、組替業務のリスクとコントロールを強調した。 総じて言えば、連結決算業務プロセスにおいても、コントロールの設計は次の3つの要素が考慮されている。 より重要なのは、複数の参加企業が、「他の業務に比べて、連結決算業務プロセスでは、会計システム入力前の証憑自体が、外部のステークホルダーから得られる客観的な証憑ではなく、連結子会社や親会社の連結決算担当者の計算や集計によって作成されることが多い。つまり、それらは誤っている可能性がある。そこで、証憑の存在だけでなく、証憑が証明する会計事象や計算や集計の正しさまで確認する必要性が相対的に高くなる」と指摘している点である。 それに敷衍し、前出の参加企業Aは、「だからこそ、内部統制の評価の時点で、確認対象となる資料がきちんと整頓されていることが、評価作業を効率的に進める鍵になる。そこで、わが社は、親会社と連結子会社で評価対象データの抽出時期をずらし、例えば、親会社の評価は3月決算のデータを使うが、連結子会社の評価は9月決算のデータを使い、連結子会社に資料を整備する十分な準備期間を設けて余裕をもって対応できるようにした」と、資料整備の重要性を加えた。 次回は、運用評価の効率化に向けた評価対象部門の集約事例を紹介する。 (了)

#No. 6(掲載号)
#島 紀彦
2013/02/14
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