給与計算の質問箱 【第42回】 「賞与と歩合給の支給時期による社会保険料等の違い」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社は業績に応じたインセンティブを賞与又は歩合給として支給することを検討しています。具体的には、次のとおりです。 当社の給料は末日締めの翌月25日払いです。 上記①~③の場合において社会保険料や源泉所得税に違いは生じるのでしょうか。ご教示ください。 A 以下では、次の前提の従業員を例に、上記①~③の場合における社会保険料等の違いについて解説する。 〈前提〉 * * 解 説 * * ① 6月25日に賞与として支給 給与とは別に賞与から健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、源泉所得税を控除する。 〈6月25日に賞与100万円を支給した場合〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ② 6月25日に歩合給として支給 社会保険の算定基礎届には4月25日支給、5月25日支給、6月25日支給の給料を記載し、3ヶ月の平均の報酬額をもとにその年9月から翌年8月までの社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料等)が決まる。6月25日支給の歩合給を算定基礎届に記載することから、9月分以降の健康保険料、厚生年金保険料(9月分は10月25日支給の給料から控除)が高くなる。 〈6月25日に歩合給100万円を支給した場合〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ③ 7月25日に歩合給として支給 7月25日支給の歩合給は算定基礎届に含まれない。したがって、7月25日支給の給料だけ雇用保険料と源泉所得税は高くなるが、その他の月は同じである。 〈7月25日に歩合給100万円を支給した場合〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 以上より、①は、社会保険料が②③に比べて一番高い。一方、年末調整の際、所得税の社会保険料控除が②③に比べて一番高くなるので、所得税は①が最も安くなる。 ③は、社会保険料が①②に比べて一番安い。一方、年末調整の際、所得税の社会保険料控除が①②に比べて一番安くなるので、所得税は③が最も高くなる。ただし、社会保険料は会社の負担があるので、会社の立場からすると③が良いといえる。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第1回】 「登記制度の役割と登記情報の入手方法」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 はじめに 相続税申告のために不動産の情報を集める必要性が生じた場合、あるいは顧問先の企業に役員変更登記が必要となった場合などに、税理士の方々は不動産や会社に関する登記情報に触れることになる。登記制度や登記情報の分析の仕方については、体系的に学ぶ機会は少ないと思われるが、理解を深めることで登記制度を税理士実務により役立つものとすることができる。 本連載では、実践的な知識を提供するために、具体的な登記情報の記載例等を示しながら、実務で持ちやすい疑問点などについて解説を行っていく。 2 登記制度の役割と種類 (1) 登記制度の役割 登記制度は、所有者などの不動産に関する情報や役員などの会社に関する情報を、国が備える登記簿という帳簿に記録し、一般に「公示」することで不動産取引や企業取引の安全に寄与することを目的としている。いわば国が運営する不動産や会社等に関するデータベースといえる。 (2) 「公示」するということはどういうことか 登記情報を一般に「公示」するということは、登記情報を誰でもアクセス可能な状態に置くということである。他人の自宅の登記情報でもその人の住所さえ分かれば、第三者が入手することが可能ということである。会社についても同様で、他社の登記情報でも、社名と本社の所在地さえ分かれば入手することができる。 登記情報にはプライバシーに関わる情報も記載されているため、公示されることについては疑問を持つ方もいるだろう。しかし、例えば不動産を購入したいと考えたときに、所有者が分かれば商談を円滑に進めることができ、また企業間取引であれば、相手方企業の代表取締役を登記情報から把握することで、有効に契約を締結することができるなど、登記情報を公示することが社会に与えるメリットは大きい。 (3) 登記制度の種類 登記制度には主に不動産に関する情報を登記する「不動産登記制度」と、株式会社や合同会社といった会社や、一般社団法人、一般財団法人などの法人に関する情報を登記する「商業(法人)登記制度」がある。税理士の方々が実務で関わる登記制度は、これら2つの登記制度が多いと思われる。 登記制度には上記以外にも、資金調達のために企業が抱える在庫を担保に提供する「動産譲渡担保」や、売掛金などの債権を担保に提供する「債権譲渡担保」の際に利用される「動産譲渡登記制度」・「債権譲渡登記制度」、成年後見制度の利用が開始された場合に成年被後見人と成年後見人の情報などが登記される「成年後見登記制度」などがある。上記(2)で登記情報は公示されると紹介したが、「動産譲渡登記制度」、「債権譲渡登記制度」、「成年後見登記制度」に関する登記情報については、アクセスできる人や情報の内容が一定の範囲に制限されている。 3 法務局の役割 (1) 法務局とは 登記に関する業務を取り扱っているのは、法務省の地方組織の1つの「法務局」である。法務局は、全国の都道府県に存在し、不動産や会社の場所によって管轄が分かれている。法務局は、土日、祝日、年末年始を除く平日の8時30分から17時15分(昼休みなし)に開庁している。 (2) 登記の申請について 不動産を購入した場合や、会社の役員を変更した場合は、管轄の法務局に対して登記申請を行うことになる。登記申請には申請書のほか所定の添付書面を提出することが必要になり、例えば、役員変更登記であれば、役員の選任を決議した株主総会議事録が添付書面の1つとなる。登記申請を受け付けた法務局では、登記の申請書の内容や添付書面を審査し、不備がなければ申請された情報を登記簿に記録することになる。 (3) 登記情報の確認方法 法務局に請求すれば、登記情報を記録した登記事項証明書を発行してもらうことができ、登記情報を確認することができる。請求の方法としては、直接法務局に出向いて請求するか、オンライン又は郵送で法務局に請求する方法がある。 登記事項証明書を発行してもらう以外にも、登記情報を確認する方法としては、一般財団法人民事法務協会が運営する「登記情報提供サービス」で確認する方法がある。登記情報提供サービスは、オフィスにいながらインターネットを利用して登記情報を閲覧できるサービスで、平日は8時30分から23時まで、土日祝日は8時30分から18時まで(地図及び図面情報については、平日の8時30分から21時まで)と利用可能時間が長く便利であるため、登記情報の確認にはこのサービスを利用することが主流であるといえる。 なお、法務局が発行する登記事項証明書には、「認証文」が付されているため、契約や公的手続に利用する場合に、登記事項証明書を発行してもらうことが多い。 【記載例:登記事項証明書に記載された認証文】 ※赤い四角囲み部分が「認証文」である。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第42回】 「敷地の一部を将来道路として提供しなければならないケース」 ~価格に対する影響をどのように捉えるか~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 数多い土地のなかには、以下のようなものがあります。 上記(ア)の典型的な例としては、対象地の前面道路が狭く、将来の建替え時に敷地の一部を道路境界線よりも対象地側に後退させなければならない(=セットバックが必要となる)土地があげられます。また、上記(イ)に該当する場合、その土地はしばしば都市計画道路予定地と呼ばれています。 今回は、これらの2つのケースを基に、税理士の皆様が土地価格を検討する際に留意していただきたい事項を解説します。 2 セットバックの必要な土地 建築基準法によれば、都市計画区域及び準都市計画区域内(※1)の建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならず(同法第43条第1項)、この場合の道路とは、原則として幅員4m以上のものでなければならない(同法第42条第1項)とされています。 (※1) 都市計画の策定対象となる区域を都市計画区域と呼んでいますが、都市計画区域外であっても、土地利用を放置しておけば将来の整備に支障が生じるおそれがある場合、必要な規制を行う目的で準都市計画区域という区域が指定されることがあります(都市計画法第5条の2第1項。〈資料1〉のイメージ図参照)。指定場所としては、例えば高速道路の出入口付近等があげられます。 〈資料1〉 都市計画区域及び準都市計画区域のイメージ図 また、建築基準法第42条第1項の例外として、都市計画区域もしくは準都市計画区域に新たに指定されることにより、同法第3章の規定(都市計画区域等における建築物の敷地、構造、建築設備及び用途に関する規定)が適用されるに至った際、現に建築物が建ち並んでいる(※2)幅員4m未満の道で特定行政庁(※3)の指定したものも道路とみなされています。 (※2) 建築基準法の条文では「立ち並んでいる」と記載されていますが、ここでは一般的な表現を用いています。 (※3) 「特定行政庁」とは、建築主事を置く市町村の区域については当該市町村長を、その他の市町村の区域については都道府県知事をいいます(同法第2条第35号)。 敷地の前面道路がこれに該当する場合、道路の中心線から水平距離で2m後退した線が道路の境界線とみなされます(同法第42条第2項。通称「2項道路」とも呼ばれています)。そのため、敷地の前面道路がいわゆる「2項道路」に該当していれば、敷地内には現に道路の形態をなすかどうかにかかわらず実質的に道路の一部が含まれていることとなり、将来、建物を建て替える際には本来の道路境界線まで敷地を後退(セットバック)させる必要が生じます(今すぐに後退が求められるわけではありません)。 このような土地を評価する場合、セットバック部分の面積について減価を織り込みますが、その際、当該部分が実質的には道路の一部を構成する(=宅地として利用できない)ことを考慮し、当該部分の価値をゼロと査定することが一般的です。 これを以下の〈資料2〉の図に当てはめた場合、セットバックを考慮する前の全体地の評価額を45,000,000円とすれば、セットバック部分の減価額は、 となり、セットバック部分を含むことによる全体地の減価率は約1.3%(=600,000円÷45,000,000円)と計算されます。 〈資料2〉 セットバックの必要な土地 3 都市計画道路予定地 ある土地が公道(例えば市道)に面しており、将来その幅員を拡幅することが都市計画で決定され、当該土地の一部が道路拡幅予定地に編入された場合がこれに該当します。そのイメージを〈資料3〉に示します。 〈資料3〉 都市計画道路予定地 道路、公園、下水道のような公共施設を都市施設と呼び、これらに関して都市計画決定がなされたものを都市計画施設と呼んでいます。このような都市計画施設の予定地内で建築物の建築を行おうとする場合には、都市計画法による規制を受けることとなります。 ちなみに、都市計画法第53条第1項には、次の規定が設けられています。 (※4) 筆者注。政令で定める軽易な行為、非常災害のため必要な応急措置として行う行為等がこれに該当します。 そして、許可を受けることのできる建築物についても同法第54条に規定されていますが、2階建て以下(地階を有しない)で、主要構造部も木造をはじめ容易に移転・除却が可能なものでなければ許可を受けることができない仕組みとなっています(同法第54条第3号)。 このように都市計画施設の予定地に編入されることにより建築制限を受け、その結果、近隣地域における標準的使用の土地と比較し最有効使用に支障が生じると認められる場合には、減価を織り込むことが必要となります(例えば、近隣地域では5階建ての建物が標準的使用であり、かつこれが最有効使用であるところ、都市計画施設の予定地部分には2階建てまでしか建築できない等がこれに該当します)。 なお、減価率査定に当たっての考え方ですが、公共団体が民間から用地取得をする際に用いている補償基準に当てはめて土地利用制限率を計算し、これを参考にするのが一般的です(この手法は専門的ですので詳細は割愛させていただきますが、そのイメージは以下のとおりです)。 この手法によれば、まず、当該宅地部分が都市計画施設予定地でないとした場合に想定される建物の最有効階数を査定し、次に、実際に都市計画施設予定地に編入されていることを考慮した建築可能階数を査定します。これらを相互に比較することにより、当該宅地部分が建築制限を受けることによる土地利用制限率が所定の算式から求められます(ただし、その計算過程はいくつかの要素の組み合わせから構成されており、かなり煩雑なものとなっています)。 その結果、当該宅地部分の土地利用制限率(=減価率)が仮に20%と求められたとすれば、当該宅地部分の価格は次のとおり試算されます。 最後に、価格を捉えるに当たって留意すべき事項があります。 以上述べてきた考え方は、都市計画が決定されてから具体的な道路拡幅等の事業認可がなされるまでの建築制限の内容を踏まえてのものですが、事業の実施が一歩進み、事業認可の告示が行われた場合には、それ以降の建築制限は一層厳しいものとなります。しかしその反面、この段階に至っては通常の時価による道路用地の買収が現実化してくるなど、特段減価を織りこむ必要のない状況も生じてくるということです。 このように、都市計画道路予定地の鑑定評価に当たっては、都市計画事業の進行段階により価格に対する捉え方が異なってきますが、本稿ではこの程度にとどめておきます。 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第2回】 「ズバリ解説“新NISAのすごいところ”」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇2024年からの新NISA 2024年1月から始まる新NISAは、これまでのNISAの拡大版です。非課税で投資ができるという点では、これまでのNISAも十分お得な制度ですが、少し使い勝手が悪かったり、選択が悩ましかったりするところがありました。しかし、それらの問題点が一掃されパワーアップするのが新NISAです。 「NISA」とは商品名ではなく、制度の名前です。NISAという名称の投資をする口座だとイメージしていただくとわかりやすいと思います。通常、金融商品から得た利益には20.315%の税金がかかりますが、NISA口座で生まれる利益は、税金を引かれることなく受け取ることができます。 パワーアップする新NISAのすごいところを3つ挙げると、次のとおりです。 以下で1つずつ解説していきます。 〇新NISAの特長①:投資できる金額が大きいこと 1つ目の「投資できる金額が大きいこと」の説明の前に、まず現行のNISAのおさらいをします。現在「NISA」には3種類あります。一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAです。このうちジュニアNISAについては2023年末で廃止されることが決まっているので、詳しい説明は割愛します。 NISAというのは、特別な口座であると説明しましたが、この口座で投資できる金額には上限が設定されています。年間投資枠は一般NISAでは120万円、つみたてNISAでは40万円で、1年間にそれ以上の投資はできません。また、年間の投資枠を使い切れなかったとしても、枠の持ち越しはできません。さらに、現行のNISA制度では、一般NISAかつみたてNISAのいずれか一方しか使えないという決まりになっています。 しかし新NISAは、現行の一般NISAとつみたてNISAを組み合わせたハイブリッド口座となり、さらに年間投資枠が合計360万円と大幅に拡大します。もはや「少額投資非課税制度」とは言えない規模の枠が誕生するのです。 年間360万円の枠は、現行の一般NISAを踏襲する「成長投資枠」とつみたてNISAを踏襲する「つみたて投資枠」に分かれ、前者の枠は240万円、後者の枠は120万円で、合計360万円となります。それぞれ一般NISAの2倍、つみたてNISAの3倍に拡大される、これが1つ目のすごいところです。 もちろんこの枠は、毎年すべて使い切る必要はなく、それぞれのペースで資産形成をすることができます。現行のNISAでは、月100円から投資ができる金融機関もあるので、おそらく新NISAであっても最低投資額は低く設定され、だれでも気軽に投資ができる仕組みが継続されると考えます。 〇新NISAの特長②:投資方法が柔軟であること 2つ目の「投資方法が柔軟であること」とは、新NISAは一般NISAとつみたてNISAのハイブリッドであるがゆえに、成長投資枠を利用する場合は、投資方法を、一括投資にするか積立投資にするか自由に選ぶことができます。注意点としては、つみたて投資枠はつみたてNISAを踏襲していますので、つみたてNISAと同様に、金融庁の基準に見合った商品のみを積立てで購入するのがルールです。 ここで、新NISAへの理解をより深めるため、現行のつみたてNISAと一般NISAの投資方法について解説します。 つみたてNISAというのは、そもそも投資に不慣れな人を想定し様々な特別ルールが設けられている仕組みです。まず投資できる商品は投資信託のみ、しかも金融庁が長期運用に適したものという基準を設定し商品を絞り込んでいます。日本に投資信託は6,000本近くあると言われていますが、つみたてNISA対象商品と認められているのはおよそ200本、実に3%にあたります。 また投資方法は積立てのみと限定しています。毎月決まった金額で投資商品を購入することにより、値段が上がった時の高値づかみを防ぎ、値段が下がった時により多く商品を購入できる「ドルコスト平均法」を用いた投資が自動的に実現されるようルールが敷かれています。 一方一般NISAについては、投資方法は限定されず、投資商品を一括購入するか、積立てで購入するかは投資家が自由に選べるようになっています。投資方法は必ずしも積立てだけが良いというわけではなく、投資家が目的に応じて選べばよいので、ハイブリッドである新NISAはより使い勝手が増したと言えます。また、一般NISAでは、投資信託に加えて上場株式等に投資することもできます。 上記のような、つみたてNISAと一般NISAの両方の投資方法を引き継ぐ新NISAは、投資家にとって活用しやすい制度と言えるでしょう。 〇新NISAの特長③:一生涯持ち続けられること 3つ目の「一生涯持ち続けられること」というのは、制度が恒久化されたという意味です。また同時に非課税期間も無制限となりますから、一生ものの「得する口座」を私たちは手に入れるのです。 現行の一般NISAの非課税期間は5年、つみたてNISAの非課税期間は20年とそれぞれ設定されており、「非課税期間が終了したらどうしたらよいのか?」という問題が常に付きまとっていました。 例えば一般NISAの非課税期間は5年ですから、5年ごとに運用を継続するのか商品を売却するのかを決めていかなければならず、特に投資経験が少ない投資家を悩ませていました。しかし新NISAでは非課税期間が定められていないので、いつまで保有しても、いつ手放しても売却益は非課税なのです。 〇生涯投資枠とは ただし、生涯投資枠が1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)に設定されたというのは覚えておきたいポイントです。ただここも柔軟な設計になっており、一旦投資した金額、つまり新NISA口座に投入した金額が1,800万円に達するとそれ以上投資ができなくなりますが、必要に応じて売却するとその元本分の投資枠が空き、その空いた枠については新たに投資ができるのです。 つまり、投資をして引き出して、また投資をして引き出してという風にこの1,800万円の生涯枠を使うことができます。つまりこの枠は何度でも再生するというわけです。 ただし、年間投資枠は再生分であっても変わりませんので、空いた枠に投資をする際も、成長投資枠は年間240万円、つみたて投資枠は年間120万円というルールは同じです。 少し細かい話になりますが、それぞれの枠はどちらか一方しか利用しないということもできます。例えば成長投資枠のみ、つみたて投資枠のみという風に利用することも可能です。仮に、株式投資をしたいので、成長投資枠だけを利用するという場合、年間240万円の枠で投資を行い、生涯投資枠は1,200万円となります。 逆に、つみたて投資枠のみを利用する場合は、年間120万円の枠で投資を行い、生涯投資枠の1,800万円を使い切ることができます。また、つみたて投資枠の対象商品は、成長投資枠でも購入することが可能です。つまり、つみたて投資枠の対象商品のみを購入して年間投資枠を360万円まで使うことができます。この場合も、生涯投資枠を1,800万円まで使うことができます。 〇新NISAの始め方 では、このように魅力的な新NISAはどうやって始めたらよいのでしょうか。すでに一般NISAあるいはつみたてNISAを行っている方は、現在利用中の金融機関で自動的に新NISA口座が開設されます。 その際、今保有中の現行NISAはそのまま継続されますので、それぞれの非課税期間をフルに活用し、適時売却していきます。新NISAはあくまでも、別の新しい口座ですから、今のNISAで保有している運用商品が移行されることはありません。また現在保有中のそれぞれのNISAの資産は、新NISAの生涯投資枠にはカウントされません。 2024年から新NISAを始めたいと思っている方は、おそらく10月頃から新規口座開設の申込みが始まるのではないかと思います。それぞれ希望する金融機関で口座を開設します。 筆者がこの原稿を執筆している段階では、各金融機関が成長投資枠でどのような商品を取り扱うのかなどといった情報はまだ出ていません。またつみたて投資枠対象商品の取扱いも、新NISA開始に向けて変わるかもしれません。もしかしたら、それらの情報如何によっては、金融機関選びに変化があるかもしれませんので、ぜひ今後も気を付けて情報収集をされることをお勧めします。 (了)
《速報解説》 経済産業省、「企業買収における行動指針(案)」を公表 ~上場会社の経営支配権を取得する買収一般で尊重されるべき3つの原則等示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月8日、経済産業省は、「企業買収における行動指針(案)―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」を公表し、意見募集を行っている。 これは、上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る当事者の行動の在り方を中心に、M&Aに関する公正なルール形成に向けて経済社会において共有されるべき原則論及びベストプラクティスを提示することを目的とするものである。 意見募集期間は2023年8月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 行動指針(案)の主な内容は次のとおりである。 Ⅲ 主な用語 行動指針(案)で用いている主な用語の意義は次のとおりである。 Ⅳ 原則と基本的視点 1 3つの原則 上場会社の経営支配権を取得する買収一般において尊重されるべき原則として、次の3つを示している。 2 望ましい買収 買収によるシナジーの実現や、非効率な経営の改善などは、企業価値を本源的価値に近付け、又は本源的価値を高めるための、経営にとっての1つの重要な手段である。 行動指針(案)は、「本源的価値」を、会社の現在の経営資源を効率的な企業経営のもとで有効活用することで実現し得る会社の本質的な価値と表現している。 買収取引の実施について買収者や対象会社、株主には動機があり、これらの者が合理的に行動し買収取引が活発に行われることを通じて、シナジーによる価値向上や、経営の効率の改善を促すことが期待されるとしている。 加えて、買収の可能性があることは、現在の経営陣に対する規律として機能するとのことである。 これらの買収が持つ機能が発揮され、市場が経済的な効果を上げるためには、次のような問題が生じないように、買収の当事者・関係者が尊重し遵守すべき行動規範が求められる。 3 企業価値の向上と株主利益の確保 前述のとおり、「企業価値」とは、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和を表すものである。 「企業価値」は定量的な概念であり、買収の対象となる会社の経営陣は、次のようなことをすべきではないとしている。 4 株主意思の尊重と透明性の確保 会社を支配する者の変動に関わる事項については、原則として、株主の合理的な意思に依拠すべきであり、株主に対して、十分な情報が提供される必要がある。 通常、買収における株主意思の尊重は、公開買付けへの応募等を通じて株主の判断を得る形で行われるものであり、そのために必要な情報(買収の対象会社による意見表明を含む)や時間を確保するための制度枠組みが構築されている。 透明性の確保の観点から、制度的な枠組みによる対応では十分でないと考えられる例外的かつ限定的な場合に、同意なき買収に対して、会社の発意で買収への対応方針・対抗措置を用いることがある。 このような場合には、買収への対応方針や対抗措置への賛否を巡って、株主総会における株主の合理的な意思を確認することが基本となる。 Ⅴ 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範 次の事項などについて、買収提案の検討フローの例が図解されている。 取締役会は、買収者が提示する買収価格や企業価値向上策と現経営陣が経営する場合の企業価値向上策を、定量的な観点から十分に比較検討することが望ましいとし、買収提案への対応や買収提案に応じるかどうかという判断の合理性について、(事後的に)説明責任を果たせるように行動すべきであるとしている。 Ⅵ 買収に関する透明性の向上 1 買収者による情報開示・検討時間の提供 買収者が株式の取得を進める場合には、次の各段階によって、投資の性質や市場への影響、求められる透明性が異なると考えられるとし、具体的な内容が記載されている。 市場内買付けの場合には、公開買付制度に基づく情報開示規制が適用されないが、短期間のうちに市場内買付けを通じて経営支配権を取得するような場面においては、買収が企業価値に及ぼす影響を理解した上で株主が買収に応じるか否かの判断をできるよう、買付の目的、買付数、買収者の概要、買収後の経営の基本的な方針等の重要な項目については、少なくとも公開買付届出書における記載内容と同程度の適切な情報提供を、資本市場や買収の対象会社に対して任意の方法で行うことが望ましい。 また、買収をしようとする者が、公開買付けに先立って市場で株式の取得を進めるに当たり、その後に公開買付けを実施する意向が確定的である場合には、その旨の情報提供を、資本市場や買収の対象会社に対して行うことが望ましい。 2 対象会社による情報開示 経営支配権を取得する買収が実施される際に、買収の対象会社からの情報開示を充実させ、取引条件の妥当性等についての判断に資する重要な判断材料を提供することで、株主によるインフォームド・ジャッジメントが可能となるとのことである。 買収が実施される場合には、対象会社としても、金融商品取引所の適時開示規制による開示制度を遵守するにとどまらず、自主的に、取締役会や(特別委員会が設置されている場合には)特別委員会における検討経緯や、買収者との取引条件の交渉過程への関与状況に関し、充実した情報開示を行うことが望ましい。 3 株主の意思決定を歪める行為の防止 買収者が以下のような行為を行うことは望ましくない。 買収の対象会社が以下のような行為を行うことは望ましくない。 Ⅶ 買収への対応方針・対抗措置 1 買収への対応方針・対抗措置に関する考え方など 買収の対象会社やその株主に対して必要な時間や情報が提供されずに買収がされることや、買収者が買収の対象会社や一般株主の犠牲のもとに不当な利益を得ることを目的として経営支配権を取得することなどで、企業価値ひいては株主共同の利益を損なう可能性もあるとのことである。 現状は、こうした事態に公開買付制度等の法制度のみで対応するのではなく、事案に応じ、企業が差別的な内容の新株予約権無償割当てを利用した買収への対抗措置を用いた方針(買収への対応方針)を定め、それに基づく対抗措置を発動することがあり、これが適法であると司法判断で認められている場合もある。 しかしながら、このような買収に対する対応方針について、次の指摘も記載されている。 行動指針(案)は、これまでの司法判断も踏まえ、次の各論点について記載している。 2 利害関係者以外の過半数を要件とする株主総会決議 「別紙3:買収への対応方針・対抗措置(各論)」の1、(3)、a)では、株主総会の決議における「利害関係者以外の過半数を要件とする決議」について、司法判断の中には、当該決議が許容された事例が存在するものの、これが許容され得るのは、買収の態様等(買収手法の強圧性、適法性、株主意思確認の時間的余裕など)についての事案の特殊事情も踏まえて、非常に例外的かつ限定的な場合に限られることに留意しなければならないとしている。 (了)
2023年6月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.522を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第120回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その14)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅹ 広報活動と納税者への情報提供(承前) 4 国税庁の広報活動(予算額・執行額) 財務省の資料によると、国税庁の近年の広報活動の経費についての予算額は次のとおりである(※)。 (※) 財務省HP資料より〔令和5年5月30日訪問〕。次に示す図表2、図表3についても同様。 【図表1:国税庁の広報活動経費(予算額)】 また、執行額は次のような状況になっている。 【図表2:国税庁の広報活動経費(執行額)】 また、広報活動のうち、税についての啓発活動に関する広報活動経費の推移は次の表のとおりである。 【図表3:国税庁の広報活動経費(税についての啓発活動)】 新型コロナウイルス感染症の蔓延により、教育現場における租税教室の展開に困難を極めたこと、また、納税表彰式典が中止となり、そのことが広報活動経費の執行額に大きな影響を及ぼしていることが分かるが(図表2(注2)の記述参照)、他方で、かかる経費の活用については、図表3から判然とするとおり、租税教室の活動推移との関連性をも有しているようである。 5 広報活動と租税リテラシーの醸成 さて、卑近な例を使って広報活動の効果についても考えてみたい。 消費税のインボイス制度導入を今年の10月に控えた現在、政府は同制度に関する広報活動に相当力を注いでいるようである。財務省の担当官による解説動画が同省のホームページに掲載されているし、国税庁はインボイス特設サイトを同庁のホームページにアップしている。そこでは、人気タレントを起用した解説動画の配信やチャットボットの活用などが展開されているほか、インボイスコールセンターの設置や各種説明会の開催、インボイス制度に関する相談窓口の紹介なども行っている。 かような大々的な広報活動が積極的に展開されている中にあって、果たして十分な広報の効果が出ているのであろうか。広報活動が功を奏するには、それを受け止める国民(納税者)の側に一定の租税リテラシーが必要なのではなかろうか。そもそも、税金に関する国民の基礎的な理解なかりせば、いかに人気タレントを活用して注目を集める広報を展開しようにも功を奏さない。すなわち、国民の側に聞く耳がなければならないはずである。 そのためには、消費税制度におけるインボイス制度という部分的な情報を発信するだけでは足りず、むしろ、そもそも税金とは何なのか、なぜ私達国民には納税の義務が課されているのかという根本的な理解がなければ、徹底的に力を注いでいるこれらの情報も単なる不要な情報爆弾としてしか認識されないようにも思われるのである。 聞く耳を持たない人に何度インボイス制度の重要性を説いたところで、破れ太鼓となってしまっているかもしれない。インボイス制度以前のリテラシーレベルの問題がそこに所在するのではなかろうか。 さりとて、短絡的に諦めることもできないのであるから、積極的な広報によって、差し当たりの租税リテラシーを同時に醸成していくほかあるまい。リテラシーレベルが上がらない限り広報の効果は発揮されないものの、他方で、広報によってリテラシーレベルを上げていくしかないというのが現状であるともいえるのである。 このように考えると、租税リテラシーの醸成と広報活動については、いわば「鶏が先か、卵が先か」という論争に近似した状況にあることが判然とする。すると、租税リテラシーの醸成と広報活動との間にはこのようにグルグル回りの関係があるようにも思われるのである。 しかしながら、むしろこれら2つの関係は立体的に螺旋階段の上昇を意味しているというべきであろう。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第15回】 「国税通則法24条~26条(~30条)」 -申告納税制度における税務官庁による納税義務の確定- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法24条(更正) 国税通則法25条(決定) 国税通則法26条(再更正) 1 はじめに 第11回では国税通則法17条(~22条)について、同条の定める期限内申告を申告納税制度の中心ないし基本に据えて「申告納税制度の体系的把握と実定的把握」(同回2・3)の観点から、検討したが、今回は、その検討の延長線上で、申告納税制度における税務官庁による納税義務の確定(税通24条~26条)について検討することにする。 しかも今回の検討は、申告納税制度の当事者として税務官庁だけでなく納税者をも視野に入れ、同制度が採用していると解される次のような構造にも着目して、行うことにしたい。すなわち、申告納税制度は、納税義務の確定について、納税者に第一次的確定権(納税申告権)を認め、かつ、これに対応する第一次的確定義務(納税申告義務)を課すとともに、税務官庁に第二次的確定権(課税処分権)を認め、かつ、これに対応する第二次的確定義務(課税処分義務)を課し(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【120】【123】【136】参照)、もって、納税者及び税務官庁が自己の確定権の行使だけでなく相手方の確定権の行使をもチェックすることを通じて、納税義務の確定が税法(課税要件法)に従って正しく(課税要件の充足によって成立した納税義務の内容どおりに)行われること、換言すれば、納税義務の確定手続を通じた課税要件法の実現、を確保しようとする「相互チェック構造」ともいうべき構造を採用していると解される(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)854-856頁[初出・1995年]のほか、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第5回Ⅱ2参照)。 なお、次の見解(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E403~420頁[中川一郎執筆])が説くところからもいえるように、今回の検討対象である国税通則法24条ないし26条の規定は、納税義務の第二次的確定のためのいわば「器」のような規定(以下「器規定」という)であるといえようが、今回の検討は、そのことを前提にして、納税義務の確定手続におけるそれらの器規定の意義・位置づけを中心に行うこととし、更正又は決定に関する国税通則法第2章第2節第3款の規定のうち他の規定については同法29条(更正等の効力)を取り上げるにとどめることにする。 2 納税義務の確定に係る相互チェック構造と器規定 申告納税制度の体系的把握は、納税申告のうち期限内申告を「原則的かつ基本的なもの」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)294頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)1204頁)として位置づけるが、それは、納税者が第一次的確定義務を構成する次の2つの義務、すなわち、①納税義務の存否又は範囲を各税法の規定に従って正しく確定する義務と②各税法が納税申告について一般的に定める期限(法定申告期限。税通2条7号)までに正しく納税申告書(同条6号)を提出する義務を共に履行し得るのが、期限内申告であるからである(第11回2参照)。 申告納税制度の体系的把握によれば、上記①の義務の不履行を是正する納税申告として修正申告(税通19条)が、上記②の義務の不履行を是正する納税申告として期限後申告(同18条)がそれぞれ位置づけられることになるが、これとパラレルに税務官庁の第二次的確定義務を考えると、上記①の義務の不履行を是正する課税処分として更正(同24条)・再更正(同26条)が、上記②の義務の不履行を是正する課税処分として決定(同25条)がそれぞれ位置づけられることになる。 このように、申告納税制度は、期限内申告を「原則的かつ基本的なもの」としてその中核に位置づけた上で、納税者と税務官庁との相互チェック構造の枠内で、前記の①及び②のいずれかの義務の不履行を是正する納税義務の確定行為として、納税者側には修正申告及び期限後申告を、税務官庁側には更正・再更正及び決定を、それぞれ定めるものとみることができよう。この意味で、国税通則法17条ないし19条と同法24条ないし26条には、上で述べた相互チェック構造を構成する器規定としての意義・位置づけが、与えられているといってよかろう。 3 更正と申告納税制度の実定的把握 ところで、期限後申告と決定は、法定申告期限の経過後に行われることが予定されている1回限りの確定行為であるのに対して、修正申告と更正(以下では原則として税通29条1項にいう「更正」の意味で用いる)とは、前者においては国税の徴収権の消滅時効(同72条)まで(前掲拙著『税法基本講義』【124】参照)、後者においては所定の除斥期間(同70条・71条)内であれば、それぞれ繰り返し(「重畳的に」)行うことができる確定行為である(「重畳的確定」については第11回4参照)。 そうすると、申告納税制度の相互チェック構造の主要部分を構成するのは、修正申告と更正であると考えてよいであろう。しかも、修正申告は先行する納税義務の確定の過誤(過少確定)を納税者の不利に是正するための確定行為であり、過大確定の過誤を納税者の有利に是正するためには更正の請求(税通23条)を通じて減額更正によることとされていること(第12回1参照)からすると、更正こそが上記構造の中核を担っているといってもよかろう。 以上のように、申告納税制度は、その体系的把握からすれば、期限内申告を「原則的かつ基本的なもの」として納税義務の確定手続の中核に位置づけるものではあるが、その実定的把握からすれば、更正を納税義務の確定手続の中核に位置づけるものであるとみてよかろう。比喩的にいえば、申告納税制度は、体系的には(理念上は)期限内申告が「先陣」を担い、実定的には(実際上は)更正が「後詰め」を担う制度であるといってもよかろう。申告納税制度の実定的把握における租税徴収の観点からは、納税義務の確定の場面では「後詰め」としての更正に極めて重要な役割が期待されると考えるところである。 納税義務の確定手続における更正のこのような「後詰め」としての性格は、更正の効力(納税義務の確定効)を定める国税通則法29条において、次のような形で具体化されていると考えられる。 この規定は、実質的には、修正申告の効力を定める国税通則法20条(第11回4参照)と同じく、先行する納税義務の確定に対する更正の追加的確定効を定めている(税通29条1項)。ただし、減額更正については、形式的には、修正申告の場合と異なり、減額部分の確定効のみを排除する(取り消す)といういわば「マイナスの追加的確定効」を定めている(税通29条2項)。 いずれにせよ、国税通則法29条が同法26条の文言(再更正について増減税額のみを確定し直すとの定めにはなっていない)にもかかわらず、先行する納税義務の確定に対する更正についてその効力を全面的に見直すこととするのではなく、追加的確定効を定めるにとどめているのは、その限りにおいてではあるが、主に租税法律関係の早期確定・安定を考慮し、もって申告納税制度の実定的把握の観点である租税徴収の確保を図ろうとしたものと考えられる。 国税通則法は、そうするために、納税申告・更正等の行為相互間の関係の捉え方について国税通則法制定前から存在していた次の㋐の2つの考え方(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)62頁)の「折衷説」(中川=清永編・前掲書E296~298頁[新井隆一・波多野弘執筆]。志場ほか共編・前掲書402頁も同旨)ともいうべき、次の㋑の「基本的な考え方」(税制調査会・上掲答申別冊63頁)を採用したものと考えられる。 この㋑の考え方は吸収説と呼ばれ、㋐の(a)の考え方(併存説)とも(b)の考え方(吸収消滅説ないし消滅説)とも区別される(「吸収説」と「消滅説」とは同じ考え方の別称として捉えられることもあるようであるが、先行する納税義務の確定の効力が(後行行為に吸収されはするが)存続するか又は(先行行為時に遡って)消滅するかの点で区別すべきものである)。 ただ、更正・決定と再更正との関係に関する判例の立場については、増額再更正の場合(最判昭和42年9月19日民集21巻7号1828頁)吸収消滅説により、減額再更正の場合(最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁)併存説(減額再更正を一部取消処分とみて「一部取消説」とも呼ばれる)により、それぞれ理解がされている(清永敬次『税法〔新版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)256-257頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)981頁、武田監修・前掲書1658-1661頁等参照)。 この点について、判例は、国税通則法の立場の解釈論的理解を示したものというよりも、訴えの利益との関係で紛争の一回的解決(増額再更正については、更正・決定に対する訴えの利益[訴えの対象]を、減額再更正については、一部取消処分としての減額再更正に対する訴えの利益[狭義の訴えの利益]を、それぞれ否定することによる紛争の一回的解決)を重視したものと考えられる(前掲拙著『税法基本講義』【147】参照。なお、課税処分取消訴訟における訴えの利益について詳しくは、中尾巧=木山泰嗣『新・税務訴訟入門』(商事法務・2023年)168頁以下参照)。 (了)
〈判例評釈〉 ムゲン・ADW事件が残したもの ~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第4回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 Ⅳ 「準ずる割合」についての裁判所の判断及びその検討 課税売上割合に準ずる割合(以下「準ずる割合」という)については、ムゲン事件では争点化されたが、ADW事件では、課税仕入れの用途区分(本件更正処分の適法性)に係る争点の中で審議されている。したがって、以下では、ムゲン事件第一審及び控訴審を検討した上で、ADW控訴審判決(※37)における納税者側の主張とそれに対する裁判所の説示を中心に見ていくこととする。 (※37) ADW事件第一審では、納税者側が勝利したため、「準ずる割合」については説示されていない。 1 ムゲン事件第一審判決 (1) 準ずる割合の税務当局による却下と東京地裁の判断 ムゲンは、東京地裁への提訴に先立つ平成28年11月15日、所轄税務署長に対し、本件課税仕入れに係る準ずる割合について、各課税期間に譲渡した住宅用賃貸部分を含む建物の譲渡対価の額(課税売上げ)及び当該譲渡した住宅用賃貸部分を含む建物の仕入日(当該割合を適用する各課税期間より前のものも含む)から譲渡日までに生じた事業用貸付けに係る対価の額(課税売上げ)及び住宅用貸付けに係る対価の額(非課税売上げ)の合計額のうち、当該合計額から建物の住宅用貸付けに係る対価の額(非課税売上げ)を除いた額の占める割合(以下「本件割合」という)によって計算するものとして、本件割合についての適用承認の申請をしたところ、同税務署長が、同年12月27日、同承認申請を却下した(※38)ため、第一審において本件割合の合理性を主張した(争点③)。 (※38) もっとも、後述する課税期間を超えて算定される本件割合の問題を除き、所轄税務署長が何を問題視し本件割合の申請を却下したかは、判決文からは判然としない。東京地裁判決文には、被告(国側)の主張として、「本件割合には、適用される課税期間において収受する各住宅用賃貸部分を含む建物の貸付けに係る対価の額の一部が含まれておらず」との記載があるが、ここでいう「建物の貸付けに係る対価の額の一部」が具体的に何を指すかは不明である。一方、ムゲン事件控訴審判決には、「被控訴人(国側)は、従前、本件割合が、消費税法30条3項に規定する事業や費用の種類ごとに区分して算出するものではないことなどを理由に課税売上割合に準ずる割合に該当しないと主張しており」との記載がある(下記Ⅳの2参照)。 これに対し東京地裁は、「本件課税仕入れは、住宅用賃貸部分を含む建物の購入であって、課税売上げである販売代金及び事業用貸付けに係る賃貸料、非課税売上げである住宅用貸付けに係る賃貸料に共通して要することから共通課税仕入れに区分されるところ、その共通仕入控除税額を計算するに当たって、土地の販売収入及び賃貸料収入を算定の基礎に含めることは、その事業状況を適切に反映するものとはいえず、建物の販売収入及び賃貸料収入に基づく割合によって計算することは、課税売上割合によって計算するよりも合理的といえる(※39)。」と判示し、土地の販売収入を除外して計算した本件割合を本件課税仕入れに適用することを認めつつ、「本件割合は、当該課税期間に譲渡した住宅用賃貸部分を含む建物に着目した上で、当該建物に係る販売収入及びその仕入日から譲渡日までに生じた賃貸料収入によって計算するものであるが、このような計算によると、当該建物が譲渡されない限り、その賃貸料収入は課税売上割合に準ずる割合に反映されないこととなるところ、このような計算方法によることの合理性は明らかにされているとはいい難い。」として、本件割合が、仕入日から譲渡日まで、場合によっては課税期間を超えて計算されることを疑問視し、本件割合は合理的に算定されているものとはいえないと結論付けている。 (※39) ムゲン事件第一審は、続けて、「なお、その上で本件課税仕入れ以外の共通課税仕入れについては課税売上割合を適用することとしても、不合理な結果は生じないといえる。」と判示している。 (2) 検討 本件割合が課税期間を超えて計算されることについて、東京地裁が合理性がないと判断したのは、課税売上割合は、当該課税期間における売上げ等によって計算することとされていること(消法30⑥)を論拠としている。しかし、「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用」(※40)では、突発的に土地の譲渡があった場合の準ずる割合の承認について、土地の譲渡が単発のものであり、かつ、当該土地の譲渡がなかったとした場合には事業の実態に変動がないと認められる場合に限り、便宜的に当該土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合と前課税期間の課税売上割合とのいずれか低い割合を課税売上割合に準ずる割合として承認しても差し支えないという取扱いを認めており、従前より、準ずる割合の適用において、課税期間を超えて算定するという考え方が示されているため、本件についてのみ、課税期間を超えているから不合理、というのは消費税の他の取扱い(※41)と比べて説得的でない。 (※40) 「-平成23年6月の消費税法の一部改正関係-「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔1〕【基本的な考え方編】」国税庁消費税室・平成24年3月 (※41) 特定の課税期間を超えて課税売上割合を調整するその他の取扱いとして、消費税法には、調整対象固定資産を転用した場合の税額調整(消法34①、35)や、課税売上割合が著しく変動した場合の調整(消法33①、消令53①、③、④)がある。 さらに、次回のⅤで詳細に検討する令和2年度の税制改正で新たに導入された居住用賃貸建物に係る仕入税額控除制度は、本件割合とほぼ同様の考え方に基づいた取扱いとなっており、ムゲンの採用した方法が令和2年度の税制改正を先取りしたような形となっている。 また、ムゲンが第一審で、「(課税庁や裁判所のいう)課税期間単位の割合を計算すると、各課税期間における本件割合とほぼ同じ9割前後であるところ、このことは、原告のように住宅用賃貸部分を含む販売用建物を購入し、できる限り短期間で販売するという事業を複数年にわたり継続する場合、双方の割合にほとんど差が生じないことを示しており、このことからしても、本件割合がこれを適用しようとする課税期間の状況を示す数値により算定されていないことをもって、『合理的に算定される』ものでないなどといえないことは明らかである。」と主張するように、当該課税期間に限定して算定しても、また本件割合や令和2年度改正のように課税期間を超えて計算してもその計算結果にほとんど差がないとしたら、裁判所の結論に特別な意義を見出すのは困難である。 2 ムゲン事件控訴審判決 ムゲンは、控訴審において、ADW事件第一審判決を引用し、収益不動産を転売する際には、建物・敷地の譲渡も併せて行われるのが通常であるため、課税売上割合が低いものとならざるを得ず、課税売上割合と、賃料収入額が売上げ全体に占める割合とのギャップが生じ、この問題を、課税売上割合に準ずる割合の利用によって解消しようとしても、国側は、本件割合が、消費税法30条3項に規定する事業や費用の種類ごとに区分して算出するものではないことなどを理由に課税売上割合に準ずる割合に該当しないと判断しており、ギャップの問題を解消する手段が全く無かったと主張した(※42)。 (※42) なお、この主張は、争点①「本件更正処分の適法性」についてされたものである。 これに対し、東京高裁は、ギャップの問題は、準ずる割合の利用によって解消すべきものであり、ギャップの問題を解消する手段が全くないとはいえず、ギャップの問題を理由に、本件課税仕入れを課税資産の譲渡等にのみ要するものに区分しなければならないとまではいえないとし、本件割合が合理的算定と判断されなかったのは、本件割合が本件各課税期間における賃貸料収入によっていない点で課税売上割合に準ずる割合として正当と認められなかったからであり、控訴人(ムゲン)が本件各課税期間における賃貸料収入によって課税売上割合に準ずる割合として適用承認の申請をしていれば、訴訟手続を利用して最終的には課税売上割合に準ずる割合として認められた可能性はあったと推測できると判示し、原審同様、「課税期間中の住宅用賃貸部分を含む販売用建物の賃貸料収入の全部を計上せず、さらに、課税期間前の住宅用賃貸部分を含む販売用建物の賃貸料収入の一部を計上することに合理的な理由は認められ(ない)」、あるいは「課税期間中の収入の全部を計上せず、すなわち、住宅用賃貸部分を含む建物を譲渡しない限り、その賃貸料収入を課税売上割合に準ずる割合に反映せず、一方で、課税期間前の収入の一部を計上することは、課税資産の譲渡等に要するものとその他の資産の譲渡等に要するものとを区別する方法として不合理である」と繰り返し述べ、複数の課税期間にわたって計算する方法を主張した控訴人を排斥している。 ところで、ムゲンは、控訴に際し、いくつかの反論・文書提出命令の申立て(※43)を試みたが、判決文には「被控訴人(国側)が本件訴訟追行のための戦略的ないし政策的考慮に基づき同項に関する従前の解釈及び執行を覆して平成30年12月21日付け(※44)で控訴人のなした消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請を承認した」との記載があるので、ムゲンは、課税売上割合に準ずる割合について、平成28年12月27日に最初の承認申請を却下された後、再度別の方法(※45)を申請し、税務当局から、最終的に、準ずる割合の承認を受けていたことが分かる。 (※43) 控訴人(ムゲン)は、被控訴人(国側)が、課税期間単位の割合と同一の計算方法による割合であっても、課税売上割合に準ずる割合として承認していなかった事実を立証するためと主張して、3種類の文書提出命令の申立てを行った。これに対し、東京高裁は、「被控訴人が、課税期間単位の割合と同一の計算方法による場合にも課税売上割合に準ずる割合を承認していなかったか否かは本件の結論を左右せず、文書の取調べの必要性が認められない。」と判示した。 (※44) ADW事件控訴審判決にもムゲンによる課税売上割合に準ずる割合の再度の申請の記載があり、それによれば、再度の申請の日が平成30年11月19日、承認の日が同年12月26日とされており、承認の日付に若干の齟齬がある。 (※45) 上記Ⅳ1(2)①~③の金額について、課税期間単位で集計したものの割合を指すと思われる。 3 ADW事件控訴審判決 (1) 東京高裁の判示 ADWは、訴訟を提起後の平成31年2月27日、ムゲン同様、所轄税務署長に対し、課税売上割合に準ずる割合の承認申請を行い(※46)、同年3月28日に認可された。ここで認可された準ずる割合は、ADWの平成30年3月期の建物売上高と同年度の課税売上げ(賃料収入)の合計額を分子とし、当該分子に同年度の非課税売上げ(賃料収入)を加えた額を分母とする割合(以下「本件準ずる割合」という)である。 (※46) もっとも、ADWは、同年3月18日に、訂正後の適用承認申請書を提出し、最終的に、訂正後割合(91.58%)が認可された。 ADW事件控訴審でADWは、「M(筆者注:ムゲンを指すと思われる)社及び別同業他社に対する承認申請却下処分の事例等(中略)の当時における課税庁の解釈及びその執行並びに課税庁が公表していた課税売上割合に準ずる割合に関する解釈等に照らして検討しても、本件各課税期間の当時において、本件準ずる割合(中略)をもってしては、課税庁の承認を得ることはおよそ不可能であった。」と主張したのに対し、東京高裁は、それらの解釈は、「課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみを意味すると解することの妨げとなり得るものではな(い)(※47)」と判示し、平成30年に、ムゲンが、当初申請した準ずる割合とは異なる算定方法を申請したところ、所轄税務署長から承認された事実を指摘した上、納税者が「不可能であった」ことを理由付けする解釈等について、要旨、次のように反論している。 (※47) ここでの裁判所の表現は分かりにくいが、要は「不可能ではなかった」ということが言いたいのであろう。 上記説示を踏まえ、東京高裁は、ギャップの問題について、「このような場合について消費税法は納税義務者の選択に従って課税売上割合に準ずる割合の適用によって対応することを予定しているものといえるから、消費税法が制度的に予定する手続を納税義務者が執らない場合に、将来課税売上げを生ずる取引に加えて非課税売上げを生ずる取引も客観的に見込まれる課税仕入れについて、同法30条2項の文言及び趣旨等並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みにおいて予定されている範囲を超えて、これを殊更に課税対応課税仕入れに区分するという所論の解釈は、税負担の累積の排除の観点を踏まえても、消費税制度の立法趣旨に沿った消費税法の規定の解釈として相当とは解し難い」とし、「準ずる割合」を申請しなかった納税者にその責めを帰すような判断を示している。 (2) 検討 被控訴人(ADW)の主張及び東京高裁の上記判示を俯瞰して見ると、やや水掛け論的な印象を受ける。高裁の判示は、「(XXXの)趣旨とは解されない。」「(XXの)証拠はない。」と結んではいるが、そう言い切る明確な理由が示されているわけでもない。特に本件の場合対象となる収益不動産は、当然ながら建物とその敷地で構成されている資産であり、「これを併せて購入し、これらを併せて販売するもの」(※48)である。そのような場合に、果たして、建物と敷地を分離して準ずる割合を算定してよいものかどうか、ADWの主張のとおり、外形的事実を示す要素のみが想定されている消基通11-5-7では判断のしようがなく、判断に迷うのはある意味当然で、「土地を除いて計算した準ずる割合の適用承認申請を行っても、これが課税当局に承認される可能性は極めて低い」という税務出版物の記事や、「居住契約付物件の建物から生じた課税売上高及び非課税売上高のみから準ずる割合を計算することは認められない」いう判断も、明確なガイダンスのない中、ある意味やむを得ないものと思われる。 (※48) ムゲン事件第一審「第3 争点に係る当事者の主張」「3 争点3について(原告の主張)(2)ア」参照。 ADWが準ずる割合の適用承認申請を行ったのは、「飽くまで本件訴訟における被控訴人の立場を主位的には維持しつつ、被控訴人にとって無用な税負担に係る経済的損失を最小限に食い止めるための(中略)予備的なもの」とのことであり、「課税庁がこれを承認したのは、(中略)はるか後において突如として立場を変遷させたことによるもので、M社に係る別件訴訟及び本件訴訟の訴訟追行上の政策的考慮以外にはおよそ想定できないものである。」というような主張からは、ADW側は、課税庁に対し、相当の不信感を抱いていたものではないかと思われる。 なお、本件の最高裁判決では、ムゲン事件においては準ずる割合の記述はなく、またADW事件においては、「課税売上割合を用いることが当該事業者の事業の状況に照らして合理的といえない場合には、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることにより個別に是正を図ることが予定されている」と説明的に判示されているに過ぎない。 (続く)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第27回】 「調整対象固定資産の取得によって2割特例の適用が受けられない場合」 税理士 石川 幸恵 【Q】 個人事業者です。令和5年10月1日より適格請求書発行事業者となるよう、登録を済ませました。 ところで、近々、営業車(取得価額200万円、事業専用割合60%)の購入を予定しているのですが、消費税の申告について小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)の適用に当たっての注意点を教えてください。 〔ポイント〕 いわゆる「調整対象固定資産を取得した場合の3年縛り」が適用される課税期間は2割特例の適用を受けられません。 「調整対象固定資産を取得した場合の3年縛り」があるのは課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった場合等に限られますので、免税事業者に係る登録の経過措置(28年改正法附則44④、インボイスQ&A問7)により令和5年10月1日から課税事業者となった場合、3年縛りはありません。 * * * 【A】 次の要件にすべて該当した場合、取得の日の属する課税期間から3年間は2割特例の適用を受けられず、本則課税が強制適用となります。 (1) 「調整対象固定資産を取得した場合の3年縛り」の復習 (出典:国税庁「課税事業者選択の取りやめと簡易課税制度選択の制限」) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 2割特例の適用が受けられないケース 「調整対象固定資産を取得した場合の3年縛り」の期間は、2割特例の適用を受けることができません(インボイスQ&A問112)。 例えば、次の図の令和6年・7年は2割特例の適用を受けられません。 なお、令和5年も別の理由(※)で2割特例の適用を受けられません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 令和5年に2割特例の適用を受けられない理由 「課税事業者選択届出書」の提出により、令和5年10月1日より前から引き続き課税事業者となるため、令和5年は2割特例の適用を受けられません(詳しくは【第26回】もご参照ください)。上図のケースでは令和3年中に課税事業者選択届出書を提出して令和4年から課税事業者選択の適用を受けていますので、令和5年中に課税事業者選択不適用届出書を提出し、令和5年から課税事業者選択届出書の効力を失わせることもできません(28年改正法附則51の2⑤)。 (3) 調整対象固定資産の3年縛りに該当しなければ、本則課税と2割特例の有利選択が可能 免税事業者に係る登録の経過措置(28年改正法附則44④、インボイスQ&A問7)により、令和5年10月1日から課税事業者となった場合に、令和5年11月に営業車を取得しても、令和5年については本則課税と2割特例を比較して有利な方を選択することができます。 そこで、令和5年は本則課税を選択し、令和6年以降は2割特例の適用を受けることも可能です。 (了)