検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10254 件 / 1161 ~ 1170 件目を表示

リース会計基準(案)を学ぶ 【第6回】「借手のリースの会計処理②」-借手のリース期間-

リース会計基準(案)を学ぶ 【第6回】 「借手のリースの会計処理②」 -借手のリース期間-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回(第5回)に続き、借手のリースの会計処理について解説する。今回は、借手のリース期間について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 借手のリース期間 1 リース期間 借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する「解約不能期間」に、次の①及び②の両方の期間を加えて決定する(リース会計基準(案)29項)。 イメージで示すと次のようになる。 借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する(リース会計基準(案)29項)。 貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる(リース会計基準(案)29項)。 2 「合理的に確実」の用語 前述のように、借手のリース期間に関して、リース会計基準(案)は、「合理的に確実」の用語を用いている。 これは、IFRS第16号の“reasonably certain”の用語であるが、同第16号では「合理的に確実」に関する具体的な閾値の記載はない(リース適用指針(案)BC22項)。 米国会計基準では、「合理的に確実」が高い閾値であることを記載した上で、米国会計基準の文脈として発生する可能性の方が発生しない可能性より高いこと(more likely than not)よりは高いが、ほぼ確実(virtually certain)よりは低いであろうことが記載されているとのことである(リース適用指針(案)BC22項)。 3 「合理的に確実」であるかどうかを判定するにあたっての経済的インセンティブ 借手は、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮する(リース適用指針(案)15項)。 これには、例えば、次の要因が含まれる(リース適用指針(案)15項)。 このため、借手のリース期間の決定に際しては、経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではなく、借手が行使する経済的インセンティブを有するオプションのみを反映させるとされている(リース適用指針(案)BC23項)。 例えば、借手が原資産を使用する期間が超長期となる可能性があると見込まれる場合であっても、借手のリース期間は必ずしもその超長期の期間となるわけではない(リース適用指針(案)BC23項)。 借手のリース期間は、借手が延長オプションを行使する経済的インセンティブを有し、当該延長オプションを行使することが合理的に確実か否かの判断の結果によることになる(リース適用指針(案)BC23項)。 また、借手が特定の種類の資産を通常使用してきた過去の慣行及び経済的理由が、借手のオプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性がある(リース適用指針(案)BC26項)。 ただし、一概に過去の慣行に重きを置いてオプションの行使可能性を判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要がある。合理的に確実か否かの判断は、諸要因を総合的に勘案して行うことに留意する必要があるとのことである(リース適用指針(案)BC26項)。 前述のとおり、「合理的に確実」の用語の説明はあるものの、それに関する具体的な閾値の記載はないこともあり、リース会計基準(案)等の開発に際して、「合理的に確実」の判断にばらつきが生じる懸念及び過去実績に偏る懸念が示されている(リース適用指針(案)BC21項)。 実務上、借手のリース期間の決定に際しては、具体的な数値基準(例えば、可能性が○%である)を示すことは困難な場合が多いのではないかと思われ、リース適用指針(案)15項の例示などに基づき、具体的な判断の過程を文書化するなどにより対応することが考えられる。 4 リース物件における附属設備の耐用年数と借手のリース期間(不動産リース) 普通借地契約及び普通借家契約に係る借手のリース期間を判断することの困難さについては、実務上の判断に資するため、設例が設けられている(リース適用指針(案)BC27項、[設例8-1]から[設例8-5])。 借手のリース期間を判断する際の思考プロセスが具体的に記載されており、リース会計基準(案)を実務で適用するにあたって、非常に参考になるものと考えられる。 また、リース適用指針(案)では、不動産リースに関する具体的な懸念として、リース物件における①附属設備の耐用年数や②資産計上された資産除去債務に対応する除去費用の償却期間と③借手のリース期間との整合性を考慮する場合、実務上の負荷が生じる可能性があると記載されている(リース適用指針(案)BC21項(2)②)。 実務上、リース会計基準(案)の適用に際しては、これら3つの要素の整合性に注意する必要があると考えられる。 リース適用指針(案)では、リース物件における「附属設備の耐用年数」と「借手のリース期間」の関係について、次のように記載されている(リース適用指針(案)BC27項)。 特に、下記の②の記載は、リース会計基準(案)を実務で適用するにあたって、参考になるものと考えられる。   (了)

#No. 537(掲載号)
#阿部 光成
2023/09/28

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第15回】「損益計算書に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第15回】 「損益計算書に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における損益計算書に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 会社計算規則上、連結注記表においては損益計算書に関する注記は求められていません。一方、個別注記表では、関係会社との営業取引による取引高の総額及び営業取引以外の取引による取引高の総額を記載する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表においては連結損益計算書に関する注記の記載例はなく、個別注記表のみ次のような注記例が記載されています。 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 損益計算書に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき損益計算書に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第104条)。 (※1) 会社計算規則第98条第2項第4号において、連結注記表では、損益計算書に関する注記を表示することを要しないと規定されています。 (2) 注記事項の解説 会社計算規則では、連結注記表において損益計算書に関する注記が求められていないことから、連結損益計算書に関する注記は記載されないことが多いです。 しかし、上場会社の場合、追加情報として連結損益計算書に関する注記を記載することもあります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社ドウシシャ 2023年3月期 個別注記表] ※株式会社ドウシシャ「第47回定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」23頁より抜粋。 [株式会社伊藤園 2023年4月期 連結注記表] ※株式会社伊藤園「第58回定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」21頁より抜粋。 [古河電気工業株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※古河電気工業株式会社「第201回定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」7頁より抜粋。 *  *  * 次回の第16回は、「株主資本等変動計算書に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 537(掲載号)
#竹本 泰明
2023/09/28

〈一問一答〉副業・兼業に関する担当者のギモン 【第4回】「ルール違反の副業・兼業への対処」

〈一問一答〉 副業・兼業に関する担当者のギモン 【第4回】 「ルール違反の副業・兼業への対処」   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 就業規則におけるルールの整備 労働者の副業・兼業を認める場合、副業・兼業の内容や稼働状況によっては、労務提供上の支障、企業秘密の漏洩、長時間労働の発生等のリスクも認められることから、会社としては、就業規則等の社内規則において、副業・兼業に関する一定のルールを定めておく必要がある。 具体的なルールの内容としては、許可制・届出制の別、申請先・申請期限、申請書の記載内容・添付書類、副業・兼業開始後の継続的な報告・確認フローなどの手続的なルールと、副業・兼業の制限事由(不許可事由)・許可基準(【第2回】、【第3回】参照)、ルールに違反した場合の措置や処分などの実体的なルールのそれぞれについて規定しておくことが考えられる。 労働者が就業規則に定めたルールに違反して副業・兼業に従事していることが判明した場合、会社の主な対応としては、懲戒処分、副業・兼業許可の取消し、注意・指導などの措置が考えられるが、いずれの措置が適切かは、個別具体的な事案ごとに、違反の程度や会社の業務に与えている影響の大きさなどを考慮して判断することとなる。   2 懲戒処分 無許可のまま競合他社において兼業に従事していたような場合など、労働者が就業規則上のルールに違反して副業・兼業を行っていることが判明したときは、会社は、当該労働者に対して、懲戒処分を行うことが考えられる。 会社が労働者を懲戒処分するためには労働契約上の根拠が必要となるところ、就業規則の懲戒処分に関する規定において、懲戒事由として、「就業規則に違反する行為があったとき」などの規定がなされているのであれば、副業・兼業に関する就業規則上の定めに違反したことをもって、懲戒処分の根拠とすることが可能である。 他方、就業規則の規定上、ルールに違反する副業・兼業が懲戒処分の対象となり得ることが明確でない場合には、就業規則上の懲戒事由として、「この規則に違反して副業・兼業に従事していたとき」などの規定を設け、制限事由に該当するような副業・兼業に従事した場合、あるいは、許可申請の手続を経ずに副業・兼業に従事した場合などの懲戒処分の根拠を明確にしておく必要がある。 また、懲戒処分は、処分の内容が社会通念上相当であると認められない場合(行為と処分のバランスが相当でない場合)は、権利の濫用として無効と評価されてしまう(労働契約法第15条)。 この点、労働時間以外の時間をどのように利用するかは本来労働者の自由であることから、会社の企業秘密を漏洩したり、会社の信用を毀損したりするなどして、会社に大きな損害が発生しているような場合を除き、副業・兼業に関する就業規則上のルールに違反したことをもって、懲戒解雇等の重い処分が有効と判断されるケースは必ずしも多くない。 同様に、就業規則上のルールに違反して、事前の許可申請をせずに副業・兼業に従事していたものの、当該副業・兼業が就業規則の定める制限事由(不許可事由)に該当しない内容であった場合には、会社の業務に与える影響も少なく、事前の許可を得なかったという手続違反に留まる場合も多いことから、このようなケースでは、仮に懲戒処分を行う場合であっても、処分の相当性の観点から、軽度の処分に限定する必要がある。   3 許可の取消し 労働者からの許可申請に対し、いったんは副業・兼業を許可したものの、その後、就業規則上のルールとして定められた許可条件を満たさないことが判明した場合や事後的な事情の変更により許可条件を満たさない状況となった場合には、副業・兼業の許可を取り消すことが考えられる。 副業・兼業が原則として労働者の自由であることに鑑みると、いったんなした副業・兼業の許可の取消しについても明確な根拠規定を定めておくことが相当であり、就業規則において、「会社は、許可を行った場合であっても、その後、許可条件を満たしていないことが判明した場合、または、不許可事由に該当する事情が生じた場合には、許可を取り消すことができる」などの規定を定めておくことが考えられる。   4 注意・指導 会社は、労働者との間の労働契約の範囲内で労働義務の内容を具体的に決定・変更する権利として労務指揮権(指揮命令権)を有しており、かかる労務指揮権に基づく業務命令として、業務の遂行上、相当の必要性が認められる場合には、労働者に対し、服務上の措置を命じることができる。 したがって、副業・兼業について、懲戒処分の対象となるような重大な違反がなかったとしても、会社が定めたルールの違反が認められる場合には、労働者に対する業務命令の一環として、違反する副業・兼業への従事をやめ、違反状態を是正するよう注意・指導することが可能である。 会社がかかる注意・指導を行ったにもかかわらず、労働者がこれに従わなかったような場合には、副業・兼業に関するルール違反の程度が重くなることに加え、業務命令違反の懲戒事由にも該当することとなるため、別途、懲戒処分を行うことが可能となる。 (了)

#No. 537(掲載号)
#木下 雅之
2023/09/28

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第26回】「出版事業会社の贈賄事件-『攻めの法務』とコンプライアンス」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第26回】 「出版事業会社の贈賄事件 -『攻めの法務』とコンプライアンス」   弁護士 原 正雄   東京五輪2021が開催された翌年2022年9月、K社のK会長、B顧問(元専務)、社員C氏(元担当室長)の3名が贈賄罪の疑いで逮捕、起訴された。X社に7,000万円を支払ったことが東京五輪のスポンサーに選定してもらうための賄賂であった、とするものである。 K社はガバナンス検証委員会を設置し、2023年1月23日に調査報告書を公表した。同報告書によると、K社では知財法務部のメンバーが「贈賄に当たるのでは」と疑義を抱いていたとのことである。それにもかかわらず本件を止めることができなかった。その原因は何だったのか、本稿では調査報告書に基づいて分析する。   1 贈賄の提案 本件の始まりは、逮捕、起訴から約6年前頃であった。当時、K社は五輪のスポンサーを目指していたところ、2016年10月5日、組織委員会のT理事から以下の提案(本提案)を受けた。 X社は、T理事と深い関係を有する会社であった。X社への支払いは、T理事に権限を行使してもらうことへの対価、すなわち賄賂と解し得るものであった。   2 知財法務部における葛藤 (1) 知財法務部メンバーが抱いた疑義 2016年12月7日、知財法務部のI氏は、本提案を聞いて「贈賄に当たるのでは」と疑義を抱き、G部長に「X社を調査すべき」と提案した。 しかし、K社では当時、実質上のトップであるK会長が本提案を聞いて喜び、社長でさえも止められずにいた(詳細は前回参照)。また、知財法務部を管掌するB専務がオリンピックプロジェクトも管掌しており、オリンピックプロジェクトに否定的な意見を述べるとB専務の不利益となるという事情もあった。 そのためG部長はI氏に対して、メールで以下のとおり、調査に消極的な姿勢を示す回答を行った。 (2) 知財法務部メンバーによる厳しい指摘と妥協の「アイデア」の提示 知財法務部のI氏は、オリンピックプロジェクトを担当するC室長に対して、G部長を介することなく直接に、本提案への懸念を伝えることにした。 2017年1月19日、I氏は、知財法務部のメンバーであるJ氏や社内弁護士とともに、C室長に対して「客観的に見ると限りなく黒に近いグレー」「非常に危険」「相当懸念している」と指摘した。本提案の問題の重要性に応じた厳しい指摘であった。 ただ、I氏らは同時に、仮に本件を進めるならば適正な取引と説明できる形をとる必要があるとしたうえで、X社はスポーツ関係のマネジメント業務や広告代理店業務をしているので、そうした業務を依頼する形を取るのもあり得るかもしれないとも伝えてしまった。 C室長は、これを「X社にお金を渡すためには、新たな別契約を入れて渡すほかないというアイデアを提示された」と受け止めたとのことである。知財法務部のメンバーによる厳しい指摘は、妥協の「アイデア」の提示によって上塗りされてしまった。 (3) リサーチペーパーの作成 2017年2月21日、知財法務部のJ氏は、本件が贈賄罪に該当するとの内容であるリサーチペーパーを作成し、G部長に示した。 しかし、G部長は「実直に法務の立場で真っ向勝負していく場面も必要だけれど、これについてはちょっとやり方を考えなきゃいけないんじゃないかな」と述べただけであった。 (4) 顧問弁護士の見解 2017年2月23日、G部長は、顧問弁護士から「やめた方がよい」「T理事はみなし公務員であり、職務関連性がある内容のお願いをT理事にして利益を供与すれば贈賄になる」との見解を伝えられた。 これを受けて、同年3月1日頃、G部長はC室長に「もっとも慎重に進めるべき」「しばらく時間がほしい、方策を考える」と伝えた。 しかしその後、G部長が「方策」を提案することはなかった。   3 報告の不存在 知財法務部は、本来であれば、コンプライアンス委員会や監査等委員会、社長に対して、贈賄リスクや顧問弁護士の見解を報告すべきであった。K社は、コンプライアンス規程、職務権限規程、リスク管理規程などで報告義務を定めていたからである。 しかし、知財法務部はそうした行動をとらなかった。   4 合同スポンサーを検討していたL社の撤退 2018年5月、L社から「スポンサーへの応募から撤退する」との連絡があった。L社とは、本提案においてK社と共に合同スポンサーとなるとされていた会社である。 L社のスポンサー応募からの撤退は、C室長が確認したところによれば、「本件を担当する役員が社長に、今回のオリンピックのことについては、どうしても気持ちが悪い(中略)と言って、・・・最終的に会社として降りることになった」とのことであった。 K社は、上記についてX社に問い合わせをした。これに対してX社は、X社の顧問弁護士が「法律的には何の問題も無い」と述べていると回答した。合わせて、同弁護士が「コンサルの内容としては『地位向上』『業績拡大』などを目的とするのが良い」「何らかの成果物(書類・レポートなど)が存在すれば、なお良い」と述べていることも伝えた。これは知財法務部からの上記「アイデア」に沿う内容であった。   5 贈賄に向けた動き (1) 契約書ドラフト 2018年8月31日、オリンピックプロジェクトを担当するC室長は、知財法務部のI氏とJ氏に対して、X社とのコンサルティング業務委託契約書のドラフトを作成してほしいと依頼した。知財法務部からの上記「アイデア」に応じたものであった。 知財法務部のメンバーは、X社への支払いにストップをかけることをもはや断念していた。後にI氏とJ氏は「会社としてやると決めている以上、法務としては進めるしか仕方がないと思った」と述べている。 同年9月4日、知財法務部のI氏はC室長に対して「対価は組織委員会契約締結に対して払うものでなく、締結以降のコンサル業務(中略)に対して、ということでもかまいませんでしょうか」とのメールを送信した。上記「アイデア」を具体化するもので、X社との契約書を作成することを前提にしていた。「スポンサーになるためのコンサルティングではなく、スポンサーになった後にオリンピックが始まるまでの間、出版社としてどう動くか、どうやっていくかのコンサルティングをX社にしてもらう、それに対してX社にお金を払うのであれば、スポンサーに関して支払いをしたわけではないという説明がしやすくなる」との考えに基づくものであった。 (2) 顧問弁護士からのメモと契約書ドラフト 2018年9月18日、知財法務部は、顧問弁護士に対して契約書ドラフトの作成を依頼した。合わせて、贈賄罪の成立についてグレーになる場合とアウトとなる場合を整理したQ&Aメモの作成も依頼した。 これに対して顧問弁護士は、依頼のあったQ&Aメモを提出しなかった。代わりに同月24日に「K社/スポンサー契約の件/贈収賄罪18.09.24」と題するメモを提出した。このメモは贈収賄の成立要件などを解説するもので、「業務委託契約について、第三者による業務遂行と報酬との間に対価的な均衡があったとしても、そのことだけで直ちに『賄賂性』を否定することにならない」と記載されていた。コンサルティング業務という形式にしたとしても、X社への支払いの違法性は治癒されない、と指摘するものであった。 しかし、もはや知財法務部においてさえ、こうしたメモが顧みられることはなかった。 同年10月2日、顧問弁護士は、知財法務部に対して、依頼に従って契約書ドラフトをメールで送付した。   6 贈賄の実現 2019年6月17日、K社はX社との間でコンサルティング業務委託契約を締結し、X社に対してコンサルティングフィーの名目で7,000万円を支払った。T理事の本提案のとおりの支払いであった。 後に東京地検特捜部は、上記7,000万円が五輪スポンサー選定に向けた賄賂であったと認定した。7,000万円の支払いに先立つ同年4月10日、K社は組織委員会とスポンサー契約を締結し、東京五輪のスポンサーになっていたからである。知財法務部メンバーが疑義を抱き、顧問弁護士が見解を伝えていたとおりの結果であった。   7 原因-「攻めの法務」 上述のとおり、知財法務部のメンバーは「贈賄に当たるのでは」と疑義を抱いていた。顧問弁護士からも贈賄に当たるとの見解を得ていた。それにもかかわらず、本件を止めることはできなかった。その原因は、知財法務部のG部長がオリンピックプロジェクトを推進する方向に動いてしまったからであると思われる。 K社は出版社であるが、映像やゲームなど幅広い事業を展開する総合エンターテインメント企業である。そのため、オリンピックプロジェクトを担当するC室長は「自分たちはクリエイティブな仕事をしているという驕りの中で社会的な規範から少しくらい逸脱してもよいというような考えを持つ人がK社の中にはいるかもしれない。自分もそうだったかもしれない」と述べている。K社では法令というものが軽視されていた様子がうかがえる。 そうしたこともあってか、K社内で知財法務部は「あまり重きが置かれていない」扱いであった。役員が知財法務部に意見を求めることもほとんどなかったようである。むしろ知財法務部は、他部署からは「相談しても回答を待たされるし、事業を止められる」「ストッパーというイメージである」とさえ言われていた。また、「新しいことをやる際に、前例がないとか言うのではなく何とかするのが知財法務部ではないのかと思っていた」とも言われている。 G部長は、こうした見られ方を変えたいと思っていたようである。そのため、知財法務部が新規事業等にストップをかける事態を嫌っていた。G部長は、従前から部下に対して「知財法務の仕事は、止めることではない。やろうとしていることをどうしたらできるのか考えるのだ」と伝えていた。人事考課でも、リスクを適正に評価できているかどうかより、対応の柔軟性や対応スピード等を重視していた。 G部長は、こうした積極的な姿勢を「攻めの法務」と称していた。知財法務部のメンバーによる「贈賄に当たるのでは」との疑義は、こうした「攻めの法務」の姿勢によって潰されてしまったといえるだろう。   8 結論 以上のとおり、G部長は「攻めの法務」という考えに基づいて本件を進めるべきと判断してしまった。その結果、とってはならないリスクをとってしまった。 K社内での知財法務部の見られ方を変えたい、法務が事業に貢献していることを分かってもらいたいというG部長の考えはよく分かる。また、「攻めの法務」という考え方も、本質的に間違っているわけではない。少しでもリスクがあればストップをかけるなどということは法務の在り方として間違っている。 しかし、他方で、法務は企業がコンプライアンスに反しないための砦である。犯罪になり得る可能性が高ければ、もはやリスクをとることは許されない。いかに「攻めの法務」を標榜していたとしても、そのようなリスクがあればストップをかけなければならない。場合によっては進退に関わることもあるかもしれないが、この結論は変わらない。法務は究極的には「守り」なのである。 本件は法務の職責の重さと重要性、そして立場の難しさを改めて明らかにした事案である。確かに辛い部分ではあるが、そうした難しさこそが法務のやり甲斐ともいえる。私たち法務に関わる者は、コンプライアンスのさらなる実現のため、ときには歯を食いしばりつつも常に誇りをもって職務に取り組んでいきたい。 (了)

#No. 537(掲載号)
#原 正雄
2023/09/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例87】株式会社セブン&アイ・ホールディングス「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動に関するお知らせ」(2023.8.31)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例87】 株式会社セブン&アイ・ホールディングス 「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動に関するお知らせ」 (2023.8.31)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社セブン&アイ・ホールディングス(以下「セブン&アイ」という)が2023年8月31日に開示した「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動に関するお知らせ」である。 同社の子会社である株式会社そごう・西武(以下「そごう・西武」という)の全株式をFortress Investment Group LLC(以下「フォートレス」という)に対して翌9月1日に売却することを決定したという内容である(厳密にはフォートレスの関連事業体たる特別目的会社である杉合同会社に対して売却)。 大きく報道されたが、同日、そごう・西武の西武池袋本店において、その株式売却見送りを求めて同社労働組合によるストライキが実施され、全館臨時休業となった。セブン&アイも、ホームページ上で「当社子会社である株式会社そごう・西武の西武池袋本店におけるストライキ実施を受けて」を開示している。   2 労働組合が求めたもの そごう・西武の労働組合が求めていたのは、同社従業員の雇用維持である。セブン&アイは2022年初めからそごう・西武株式の売却を検討していたようであり、それに関する報道を受けて、2022年2月1日には「一部報道について」を開示している。当然、そうした情報はそごう・西武の労働組合の知るところとなり、セブン&アイとの間で何らかのやり取りがなされたはずである。 セブン&アイがフォートレスに対してそごう・西武の全株式を売却すると最初に開示したのは、2022年11月11日の「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動のお知らせ」であった。その「本件譲渡の目的」では、売却先としてフォートレスを選んだ理由が次のように記載されている(下線は筆者による)。そごう・西武の労働組合の要求に配慮したのではないだろうか。   3 こじれる交渉 セブン&アイは、2022年11月11日に「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動のお知らせ」を開示した時点では、「そごう・西武の労働組合の要求にも配慮したし、大丈夫だろう」と思っていたのかもしれない。しかし、そうはいかなかった。 株式売却日は2023年2月1日とされていたのだが、2023年1月24日に「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動の実行時期に関するお知らせ」を開示し、「必要な所定の条件の充足に向けて交渉を継続しており、本件譲渡の実行が遅れる可能性」が高まったという理由により2023年3月中に変更した。 そして、さらに2023年3月30日に「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動の実行時期に関するお知らせ」を開示し、「必要な所定の条件の充足に向けて交渉を継続しており、3月中での実行が難しく」なったという理由により「完了次第お知らせいたします」に変更したのである。 確かにこじれそうな交渉である。そもそもそごう・西武の労働組合の交渉相手となるのは、本来同社の経営者のはずであり、セブン&アイではない。そのため、2023年9月1日付日本経済新聞によると、当初、セブン&アイは「我々が労組の相手をするのは筋が違う」と言って、根回しを怠ったとのことである。そして、こじれにこじれてしまった。   4 賃上げ交渉とは異なる性質 そもそもそごう・西武の労働組合が、同社株式売却後の雇用維持について、セブン&アイから納得のいく回答を得るのは難しいはずである。例えば賃上げ交渉ならば、経営者が賃金を上げると回答し、実際に上げれば決着する。しかし、売却後の雇用維持は性質が異なる。セブン&アイがフォートレスにそごう・西武の株式を売却した後、そごう・西武の従業員の雇用をどうするかについての決定権はフォートレス(同社が選んだ経営者)に移るのである。セブン&アイがいくら「売却後の雇用維持は大丈夫」と言っても説得力がないだろう。 ドライな会社ならば、労働組合の抵抗があったとしても、強引に売却を進めてしまうだろう。売却した後の会社はもう自社とは関係なくなるのである。売却後のことに配慮する必要などないだろう。それよりも自社の株主に配慮した方がいい。しかし、セブン&アイは、少なくともその開示を見る限りは、そのように考えなかったようである。   5 抵抗は無駄ではなかった セブン&アイが2023年8月31日に開示した「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動に関するお知らせ」の「本件譲渡実施の目的・概要」には、次のような記載がある(下線は筆者による)。 また、2023年8月28日にホームページ上で開示した「そごう・西武労働組合によるスト予告通知を受けて」の「当社による本件譲渡後における雇用維持への協力」には、次のような記載がある(下線は筆者による)。 売却に至るまでの経緯については様々な意見があると思われるが、最終的にセブン&アイが示したこうした姿勢については評価したい。株式の売却額を引き下げたり、売却後も協力を続けたりするといったことは、自社の株主からはマイナスに捉えられる可能性があるにもかかわらず、である。 また、そごう・西武の労働組合も評価したい。ストライキによる売却見送りは実現できなかったとしても、セブン&アイからこうした姿勢を引き出すことができたのである。労働組合が機能し、従業員の声が経営に反映された事例だと思われる。抵抗は決して無駄ではない。 (了)

#No. 537(掲載号)
#鈴木 広樹
2023/09/28

プラス思考の経済効果 【第19回】「2023年の花火大会の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第19回】 「2023年の花火大会の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 2023年は日本中で花火大会が再開されました。新型コロナによる行動制限も訪日外国人の入国制限もなくなり、さらに新型コロナがインフルエンザと同様の5類感染症へ移行したことなどが後押しをして、各地の花火大会が新型コロナ前と同様、またはそれ以上の観客を集めています。   2 日本の花火大会 花火に関する伝統・文化・技術などを支援している公益社団法人日本煙火協会によりますと、日本の年間の花火大会数は500~1,000程度とのことですが、小さい大会などの詳細は十分には把握できていないとのことです。 「日本三大花火大会」と言われているのは、秋田県大仙市大曲地区の「全国花火競技大会(通称「大曲の花火」)」、茨城県土浦市の「土浦全国花火競技大会」、そして新潟県長岡市の「長岡まつり大花火大会」です。また、大阪府の「天神祭奉納花火」、東京都墨田区・台東区の「隅田川花火大会」、福岡県と山口県の「関門海峡花火大会」、東京都と千葉県の「江戸川区花火大会」は、新型コロナなどの影響がなければ毎回約100万人前後の観客を集める人気の花火大会です。   3 隅田川花火大会 (1) 観客数 隅田川の花火大会は、江戸時代に隅田川で花火師の玉屋が花火を打ち上げたことに由来するもので、「江戸川区花火大会」と並んで「東京二大花火大会」の1つです。今年は4年ぶりに、2023年7月29日に開催され約103万5,000人の観客を集めました。 花火大会では多くの観客は日帰りですが、前日から付近の観光を兼ねて遠方からホテル、親類、知人宅に宿泊して花火を鑑賞する観客もいます。過去の多くのデータから、スポーツ、祭り、花火大会などの1日のイベントの場合、観客の日帰り客の割合の平均値は約95%、宿泊客は約5%と仮定します。その結果、隅田川の花火大会の日帰り客は約98万3,250人、宿泊客は約5万1,750人となります。 (2) 観客の消費額 国土交通省観光庁「旅行・観光消費動向調査」の2021年1~12月期の資料、「【参考】 都道府県別集計表」表2-2「都道府県(47区分)別、費目(7区分)別消費単価【観光・レクリエーション目的】」によると、東京都の観光客1人当たりの消費項目別消費単価は、宿泊費4,000円、飲食費4,000円、交通費3,000円、娯楽・サービス費(雑費も含む)4,000円です。その結果、1人当たり平均消費額は、日帰り客1万1,000円、宿泊客1万5,000円となります。そうすると、日帰り客の総消費額は約108億1,575万円、宿泊客の総消費額は約7億7,625万円、総額約115億9,200万円となります。 (3) 経済効果 東京都発表の「2015年東京都産業連関表」を用いると、今年の隅田川花火大会の経済効果は、以下に示すとおり約210億9,744万円となります。 〈隅田川花火大会の経済効果〉   4 天神祭奉納花火 (1) 観客数 天神祭は日本各地の天満宮で催される祭りです。有名な大阪天満宮の天神祭は「京都の祇園祭」、「東京の神田祭」と並ぶ「日本三大祭り」の1つで、奉納花火は毎年7月25日に開催されます。新型コロナによる中断のため、今年は隅田川花火大会と同じように4年ぶりの開催でしたので大いに盛り上がり、約110万9,000人の観客を集めました。隅田川花火大会と同様の割合で宿泊客と日帰り客を分けますと、日帰り客は約105万3,550人、宿泊客は約5万5,450人となります。 (2) 観客の消費額 前述の国土交通省観光庁の資料によると、大阪府の観光客1人当たりの消費項目別消費単価は、宿泊費4,000円、飲食費5,000円、交通費5,000円、娯楽・サービス費(雑費も含む)5,000円です。その結果、1人当たり平均消費額は、日帰り客1万5,000円、宿泊客1万9,000円となります。そうすると、日帰り客の総消費額は約158億325万円、宿泊客の総消費額は約10億5,355万円、総額約168億5,680万円となります。 (3) 経済効果 大阪府発表の「2015年大阪府産業連関表」を用いると、今年の天神祭奉納花火の経済効果は、以下に示すとおり約193億3,475万円となります。 〈天神祭奉納花火の経済効果〉   5 日本全体の花火大会 2で述べたように、公益社団法人日本煙火協会によると、日本の年間の花火大会数は500~1,000程度であると考えられます。本稿では観客数によって、80万人以上の大花火大会、40万人以上80万人未満の大会、10万人以上40万人未満の大会、1万人以上10万人未満の大会の4種類に分けて経済効果を推計します。 100万人の観客を集める花火大会は、天神祭奉納花火、隅田川花火大会など有名な大会があるものの全国では数大会です。公益社団法人日本煙火協会等の資料によると、新型コロナや天候の関係で毎年の観客数には若干の変動があるものの、観客数80万人以上の花火大会は全国では約10大会であると推定します。 40万人以上80万人未満の観客を集める花火大会は、その地域の華であり非常に有名な花火大会が多く、約100大会が開催されると仮定します。 10万人以上40万人未満の観客を集める花火大会は、その地域で人気の花火大会であり非常に数が多く、全国で約300大会が開催されると仮定します。 1万人以上10万人未満の観客を集める花火大会は、その地区の花火大会であり、約300大会が開催されると仮定します。 そして、それぞれの種類の分析については平均の観客数を求め、さらに日帰り観客と宿泊観客の比率は95:5とします。さらに1人当たり消費金額を前述の国土交通省観光庁の資料を用いて前述と同様の分析を行うと、以下の表のように日本全国の花火大会の経済効果は約2兆2,590億円となりました。 〈日本全国の花火大会の経済効果(2023年)〉   6 今後の花火大会の課題 花火大会は日本が誇る夏の風物詩ですが、いろいろな課題が発生してきています。次にそれらの課題を述べてみましょう。   7 まとめ 花火大会は日本の歴史と伝統のある年中行事です。これまで大勢の日本人に親しまれ、喜ばれてきた風物詩です。今年の日本全体の花火大会の経済効果約2兆2,590億円は、2020年に新型コロナでほとんどの花火大会が中止や延期になって失われた経済効果約1兆5,840億円と比べると、非常に大きな経済効果であると言えます。これからは地元の住民の方々の理解を得て、歴史と伝統のある花火大会が大勢の人々に夢と楽しみを与える日本の行事として発展することを願っています。 (了)

#No. 537(掲載号)
#宮本 勝浩
2023/09/28

《速報解説》 JICPAが「環境価値取引の会計処理に関する研究報告」を公表~バーチャルPPAの会計処理に関し多くのコメントが寄せられる~

《速報解説》 JICPAが「環境価値取引の会計処理に関する研究報告」を公表 ~バーチャルPPAの会計処理に関し多くのコメントが寄せられる~   公認会計士 石王丸 周夫   Ⅰ はじめに 2023年9月21日付で、日本公認会計士協会は、会計制度委員会研究報告第17号「環境価値取引の会計処理に関する研究報告-気候変動の課題解決に向けた新たな取引への対応-」(以下、本研究報告という)を公表した。 本研究報告は、脱炭素社会実現に向けた企業の様々な取組みを背景として、現行の会計基準等では明らかにされていない新たな環境関連取引に係る会計上の取扱いについて、現時点の考え方を取りまとめたものである。   Ⅱ 主な内容 1 本研究報告の検討対象 本研究報告は、そのタイトルからもわかるとおり、環境価値取引を対象としている。環境価値取引とは、「環境価値を直接取引対象とする環境関連取引」(本研究報告1ページ及び2ページ)であり、環境価値とは、「例えば温室効果ガス排出削減・吸収という環境の保全に関する付加価値」(本研究報告1ページ)を指す。 2 本研究報告の位置付け 環境価値取引に関する現行の会計基準としては、2004年に企業会計基準委員会より公表された実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告15号という)がある。しかしながら、非化石証書等、近時広がりを見せている新たな環境価値取引について、実務対応報告15号をどう適用すべきかが明確ではない。 本研究報告ではこうした新たな環境価値取引に関する会計上の取扱いを整理、検討し、複数の考え方を示している。ただし、「実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものでもない」(本研究報告3ページ)としている。   Ⅲ 着目すべき点 非化石証書とは、「発電時にCO2を排出しない電気が持つ「環境価値」を、電気自体の価値とは切り離して証書化したもの」(本研究報告33ページ)である。例えば鉄道業等でも、非化石証書を利用してCO2排出量が実質的にゼロとなる電力への切替えの取組み(実質再エネ化と呼ばれている)が広がっている。 本研究報告ではこの非化石証書に関する会計処理について検討を行っており、中でも関心が高い項目は、バーチャルPPA(※)と呼ばれる非化石証書を用いた環境価値取引に係る会計上の取扱いである。本研究報告とあわせて公表された公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応の資料を見ても、公開草案に寄せられたコメントの大半がバーチャルPPAの会計処理に関するものであったことがわかる。当該取引の会計処理のあり方が再生可能エネルギーの普及に影響を及ぼす可能性もあるといえそうだ。 (※) PPA・・・「Power Purchase Agreement 電力購入契約)」の略 バーチャルPPAは、「電力の需要家が実質的に再生可能エネルギー由来の電力を調達したのと同じ効果を得ることができる」(本研究報告49ページ)仕組みであるが、最大の論点は、この取引に特有の差金決済が、会計上、デリバティブ取引に該当するか否かという点だ。デリバティブ取引に該当する場合は時価評価が求められる上、その時価を求めるにあたっても必要なデータの入手等に課題があるという。本研究報告では付録として「バーチャルPPAの設例」を示しており、理解の助けとなる。   ◆BOOK◆ 『気候変動リスクと会社経営 はじめの一歩』 好評販売中 「気象災害の多い日本で、気候変動リスクと会社経営を考えるとき、最初に読む一冊。」 (了)

#石王丸 周夫
2023/09/25

プロフェッションジャーナル No.536が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年9月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.536を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/09/21

日本の企業税制 【第119回】「各府省庁による「令和6年度税制改正要望」」

日本の企業税制 【第119回】 「各府省庁による「令和6年度税制改正要望」」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   2023年9月14日(木)、わが国のプロ野球セントラル・リーグにおいては、阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を決めた。これによる経済効果は、関西地域だけでも約872億2,114万円に上るとの試算もある。 ところで前回優勝の年に行われた平成18年度税制改正では、景気の回復や財政状況を反映して、所得税・個人住民税の定率減税の廃止や、景気対策として講じられてきた各種政策税制の縮減、たばこ税の引上げ等、増税路線へと舵が切られた。 また、三位一体の改革として、所得税から個人住民税への3兆円規模の税源移譲に関し、個人住民税の10%比例税率化と所得税の税率構造の見直しが行われた。法人税では研究開発税制において総額型・増加型の選択制から総額型への一本化が行われ、また会社法制定に伴う様々な改正が盛り込まれた年でもあった。   〇令和6年度税制改正要望の全体像 話を戻し「令和6年度税制改正」については、8月末に各府省庁から税制改正要望が出そろっている。 今回の要望項目数は、単純合計で国税189項目・地方税209項目、重複排除ベースで国税136項目・地方税162項目であった。なお、廃止・縮減項目数は単純合計ベースで国税1項目・地方税0項目、重複排除ベースで国税1項目・地方税0項目であった。国税の要望項目は少なめといえる。 今回、廃止・縮減項目として挙げられた国税の1項目は、復興庁による「被災者が直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の縮減」である。   〇法人課税 法人課税では、8月31日に開かれた政府の「新しい資本主義実現会議(第21回)」において、岸田総理が と発言したことから、 という3分野での税制措置の検討が注目される。 経済産業省は、①戦略物資生産基盤税制(中長期的な経済成長を牽引するGX分野を中心に、DXや経済安全保障等の観点を踏まえつつ、戦略的に重要な物資(戦略物資)について、その生産・販売量に応じた税額控除措置)の創設、②イノベーションボックス税制(民間企業の課税所得のうち、我が国で開発した知的財産に由来する所得に対して優遇税率を適用する措置)の創設、③成長志向の中堅企業等の成長を促進する税制措置の検討、を要望している。イノベーションボックス税制については、内閣府、厚生労働省、農林水産省からも要望されている。 このほか経済産業省は、大企業向け賃上げ促進税制の延長・拡充、リース会計基準の変更に伴う所要の措置の他、国土交通省とともにカーボンニュートラル投資促進税制の延長・拡充を要望している。 スタートアップ関係では、経済産業省がストックオプション税制の拡充、スピンオフ税制の拡充、オープンイノベーション促進税制の延長を要望する他、経済産業省と金融庁が共同で、エンジェル税制の拡充、個人から上場ベンチャーファンドへの投資促進に係る税制措置の創設、法人(発行者以外の第三者)が継続的に保有等する暗号資産の期末時価評価課税の見直しを要望している。 なお、本連載でも取り上げた本年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」においても、税制適格ストックオプションの制度見直しとして、株式保管委託要件の撤廃、認定に伴う手続負担なしでの高度人材への付与、上限額の大幅引上げ又は撤廃を検討することが掲げられていたところである。   〇中小企業関連税制 中小企業関連の税制では、経済産業省が、非上場株式等についての納税猶予及び免除の特例(法人版事業承継税制)・個人の事業用資産についての納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)について、令和6年3月31日となっている承継計画の申請期限の延長を行うとともに、本税制の適用期間における事業承継の取組み等も踏まえ、円滑な事業承継の実施のために必要な措置について検討するよう要望している。なお、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」では「親族等に経営を託する事業承継税制の延長・拡充を検討する」とされている。 一方、令和4年度税制改正において、特例承継計画の提出期限を令和6年3月末まで1年間延長した際、与党の令和4年度税制改正大綱では、「日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上が待ったなしの課題であるために事業承継を集中的に進めるための時限措置としていることを踏まえ、令和9年12月末までの適用期限については今後とも延長を行わない」とされていた。 また、経済産業省と厚生労働省が交際費の課税の特例(800万円までの損金算入)の延長を要望するとともに、厚生労働省は交際費等とならずに損金算入可能な飲食費の上限(5,000円)の引上げを要望している。 これらの他、経済産業省、農林水産省、国土交通省が中小企業事業再編投資損失準備金の拡充及び延長を、経済産業省、総務省、厚生労働省が中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長を、経済産業省が中小企業向け賃上げ促進税制の拡充(繰越控除、仕事と子育ての両立や女性活躍支援に積極的な企業に対する控除率の上乗せ措置)及び延長を、それぞれ要望している。 さらに経済産業省は、法人事業税の外形標準課税の適用対象法人のあり方に関する検討を行う際には、地域経済・企業経営への影響も踏まえ慎重に行うよう求めている。与党の令和5年度税制改正大綱では、減資や会社分割などの組織再編により「外形標準課税の対象から外れている実質的に大規模な法人を対象に、制度的な見直しを検討する」とされているものである。   〇住宅・土地税制 住宅・土地税制関係では、国土交通省と環境省が、現下の住宅取得環境の悪化等を踏まえた住宅取得促進策に係る所要の措置を要望するとともに、期限切れとなる居住用財産の買換え・売却に伴う特例の延長を国土交通省が、既存住宅の耐震・バリアフリー・省エネ・三世代同居・長期優良住宅化リフォームに係る特例措置については、国土交通省の他内閣府・経済産業省・環境省・こども家庭庁が、それぞれ要望している。 また国土交通省は、新築住宅に係る固定資産税の税額の減額措置の延長、土地に係る固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度の延長を要望している。   〇消費課税 消費課税では、経済産業省が、国境を越えたサービスの提供に係る消費課税のあり方の見直し、具体的には「国外事業者に代わってプラットフォーム運営事業者が消費税を納税するプラットフォーム課税の導入」等を要望している点が注目される。 これは、本年6月の政府税制調査会の中期答申「わが国税制の現状と課題-令和時代の構造変化と税制のあり方-」において、 と指摘されていた事項である。 (了)

#No. 536(掲載号)
#小畑 良晴
2023/09/21

相続税の実務問答 【第87回】「生前退職したが相続開始後に退職金の支給額が決定した場合」

相続税の実務問答 【第87回】 「生前退職したが相続開始後に退職金の支給額が決定した場合」   税理士 梶野 研二   [答] お父様の退職金は、相続開始後にその支給額が決定したものであることから相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等に該当することとなります。お父様の相続人は3名ですので、相続人であるお母様に支給された退職手当金2,400万円のうち非課税金額1,500万円(500万円×3人)を控除した残額900万円が相続税の課税価格に算入される金額となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 退職手当金等に対する相続税の課税 (1) みなし相続財産となる退職手当金等と本来の相続財産となる退職手当金等 被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(以下「退職手当金等」といいます)で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合には、その退職手当金等は、その支給を受けた者が相続又は遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税対象とされます。このような退職手当金等については、被相続人が生前に有していた抽象的な権利である退職手当金等請求権が相続開始後に具現化したものであって本来の相続財産を構成するとの理解もあり得るところですが、相続税法は、このような退職手当金等は、被相続人の死亡により勤務先会社等の退職給与支給規程や株主総会の決議等に基づいて相続人等が固有の権利として原始的に取得するものであるものの、その実質は被相続人から相続又は遺贈により取得したものと同視し得るものであることから、相続又は遺贈により取得した財産とみなして、相続税の課税対象としています。 これに対して、被相続人が生前に退職しており、退職手当金等の支払金額が勤務先会社の退職給与支給規程や株主総会の決議等に基づいて決定していたものの、被相続人の相続開始時までに支給されていなかった場合において、被相続人の相続開始後にその相続人等が当該被相続人の退職手当金等の支払いを受けた場合には、この退職手当金等は、被相続人の相続開始時においては、被相続人の財産である未収金として存在していたものであり、本来の相続財産を構成するものとなります。 (2) みなし相続財産となる退職手当金等と本来の相続財産となる退職手当金の相違 みなし相続財産となる退職手当金等については、それを相続人が取得したものであるときには、次の算式により計算した金額までの金額が非課税財産となり、相続人が取得した被相続人の退職手当金等の額から、非課税とされる金額を控除した残額が、相続税の課税対象とされます。 (注) 相続人の数には、相続を放棄した者を含め、相続人中に養子がある場合には、相続人の数に算入する養子の数には一定の制限があります(相法15②③、63)。 これに対して本来の相続財産である退職手当金等(未収金)については、このような非課税とされる部分はありません。 また、みなし相続財産となる退職手当金等は、退職金支給規程や株主総会の決議により支給を受ける者とされている者が原始的に取得することとなりますので、この支給を受けることとなっている者以外の者が当該退職手当金等を取得すると、支給を受けることとなっている者から贈与を受けたことになります(もっとも、遺産分割において、当該退職手当金等を代償金の支払い原資とすることは可能ですから、実際に贈与があったのかどうかは、事実関係を総合的に勘案して判断することが必要です)。   2 被相続人の死亡後支給額が確定した退職手当金等 被相続人の死亡の時までに被相続人の生前の退職による退職手当金等の支給が決まっていない場合、又は退職手当金等を支給することは決まっていてもその金額が定まっていない場合には、その支給額が決まることによってはじめてその支給を受ける権利が相続人等に発生することから、その支給を受ける権利は本来の相続財産を構成しません。所得税課税の面からみても、生前退職をしても相続開始時においてまだその支給額が決まっていない場合には、その退職手当金等を被相続人の所得として認識することはできず、その支給額が決まってはじめてその退職手当金等の支給を受ける者の所得となります(ただし、相続又は遺贈により取得するもの(相続税法の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされるものを含みます)には所得税を課さないこととされています(所法9①十七))。 被相続人の生前退職に伴う退職手当金等の金額が被相続人の死亡後に確定した場合も、被相続人の死亡退職に伴う退職手当金等の金額が確定した場合も、実質的な差異はなく、いずれも、相続税法第3条第1項第2号に定める「被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった」退職手当金等に該当すると解するのが相当であると考えられます。そこで、相続税法基本通達3-31は、被相続人の生前退職による退職手当金等であっても、その支給されるべき額が、被相続人の死亡前に確定しなかったもので、被相続人の死亡後3年以内に確定したものについては、上記1の(1)のみなし相続財産となる退職手当金等に該当する旨を留意的に定めています。 〈参考判例〉 (注) 旧相続税法(昭和25年全文改正前の相続税法)第4条   3 ご質問の場合 あなたのお父様は、病気治療のために会社を退職しましたが、その退職手当金の支給額は相続開始後に確定したとのことですので、この退職手当金は、相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等に該当することとなり、相続税の課税対象となります。ただし、お父様の相続人は3名ですので、お母様に支給された退職手当金2,400万円のうち非課税金額1,500万円(500万円×3人)を控除した残額900万円が相続税の課税価格に算入される金額となります。 なお、この退職手当金は相続税の課税対象となることから、お母様に所得税が課されることはありません。 (了)

#No. 536(掲載号)
#梶野 研二
2023/09/21
#