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谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第36回】「租税法律主義と租税回避との相克と調和」-不当性要件と経済的合理性基準(2)-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第36回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -不当性要件と経済的合理性基準(2)-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、同族会社の行為計算否認規定の不当性要件について、判例・学説における経済的合理性基準の形成・展開の過程を辿ったが、今回からは、経済的合理性基準の意味内容について検討することにする。 今回は、IBM事件・東京高判平成27年3月25日訟月61巻11号1995頁が示した不当性要件の解釈を、前回その展開過程をみた金子宏教授の見解と比較検討しながら、経済的合理性基準の意味内容について検討することにしたい。 IBM事件については、不当性要件に関する要件事実論がおそらく初めて正面から争われたものと思われることから、既に第11回で「租税法律主義と実質主義との相克-税法上の目的論的事実認定の過形成③-」として、要件事実論の観点から、東京高判における不当性要件に係る事実判断の構造を検討したが、今回は、そこでの検討と重複するところもあるものの、その事実判断の構造の基礎にある不当性要件の解釈論それ自体について検討することにする。 なお、以下の検討は、税法の解釈論のレベルでの不当性要件の検討であり、第11回とは議論のレベルを「一応」(第11回の検討が不当性要件の解釈論を前提とするという意味で「一応」)異にするが、それでも、両方のレベルを通じて筆者の基本的な考え方は同じであり、その意味では、以下の検討も、拙稿「租税回避否認規定に係る要件事実論」伊藤滋夫=岩﨑政明編『租税訴訟における要件事実論の展開』(青林書院・2016年)276頁、287頁以下をベースにしたものである。   Ⅱ IBM事件・東京高判による不当性要件の解釈 まず、国(被告・控訴人)は、原審・東京地裁段階では、不当性要件の解釈として次のような見解を主張していた(訟月61巻11号2127頁。下線筆者)。 国は、このような解釈に基づき、不当性要件という規範的要件の評価根拠事実として、「①原告をあえてAb[=日本IBM]の中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと、②本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること及び③本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められること」を挙げていたが(訟月61巻11号2043-2044頁)、東京地判平成26年5月9日訟月61巻11号2041頁が①②③のいずれについても国側の主張立証を認めなかったので、控訴審段階で次のとおり主張を変更した(訟月61巻11号2012頁。下線筆者)。 国のこのような主張変更を受けて、納税者(原告・被控訴人)は「控訴人が当審で主張する『独立当事者間の通常の取引と異なる場合には、原則として、経済的合理性を欠く』とする具体的判断基準は誤りである」として次のとおり主張した(訟月61巻11号2019頁。下線筆者)。 両当事者の以上の主張を受けて、東京高裁は、最高裁昭和53年判決と最判昭和59年10月25日裁判集民143号75頁(前回Ⅱ2参照)を参照した上で、次のとおり判示した(訟月61巻11号2024頁。下線筆者)。 この判示は、不当性要件の解釈論のレベルでは、国の主張する解釈と基本的には同じ解釈を示したものと解される(要件事実論のレベルでの違いについては第11回Ⅲ参照)。東京高裁は、次のとおり判示して(訟月61巻11号2024-2026頁。下線筆者)、納税者の前記主張を採用しなかった。   Ⅲ 不当性要件の解釈論のレベルでのIBM事件・東京高判の問題性 1 金子宏『租税法』との見解の相違 以上で、IBM事件における国の主張(原審段階と控訴審段階)、納税者の主張(控訴審段階)及び東京高裁の判断をみてきたが、これらにみられる見解の相違は、経済的合理性基準に関する金子宏教授の見解をめぐる理解の違いにも起因するように思われる。金子教授は、体系書『租税法』(弘文堂)の初版(1976年)から一貫して、経済的合理性基準(行為・計算が経済的合理性を欠いている場合)について、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間の行為または計算(独立当事者間取引)と異なる場合(以下「独立当事者間取引基準」という)を問題にしてこられたが、上記の見解の相違は、とりわけ独立当事者間取引基準の理解の違いに起因するように思われる。 既に前回のⅢ2で述べたように、原審段階での国の前記主張は、当時の『租税法』(第2版~第16版)が、次のとおり(第2版273-274頁、第16版421頁。下線筆者)、経済的合理性基準とは2つの「場合」(そのうち2つ目の「場合」が独立当事者間取引基準)を「含む」としていたにもかかわらず、2つの場合を「いう」とする「誤解」(納税者の主張によれば、「2つの『場合』のいずれかに該当すれば、行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合として同項の『不当』性を認定できる」(訟月61巻11号2196-2197頁)ことに帰着する「誤解」)に基づくものであったと考えられる。 その後、国は控訴審段階で主張(解釈)を改め、東京高裁も、原審段階での国の主張のような「誤解」はせず、経済的合理性基準には独立当事者間取引基準を「含む」との解釈を示したが、しかしながら、その解釈は、その約3年前における『租税法』第17版(2012年)での改訂を踏まえたものであったようには思われない。 金子教授は、『租税法』第17版での改訂に当たって、原審段階での国の主張にみられるような「誤解」を招かないようにするために、次の叙述により(第17版431頁。下線筆者)、2つの「場合」の意味ないし関係を明確にしようとされたのではないかと推察されるが(前回Ⅲ2参照)、納税者の主張を採用しなかった前記判示からすると、東京高裁はこの改訂の意味を正解した上で、あるいは少なくともこの改訂を踏まえた上で、不当性要件の解釈を示したようには思われないのである。 『租税法』第17版の上記の叙述において明らかにされたのは、経済的合理性基準は「それ[=行為・計算]が異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない場合」(以下「租税回避基準」という)と言い換える(paraphrase)ことができ、独立当事者間取引基準がこれに当たると「解すべき場合が少なくない」ということである。 このように、金子教授の見解においては、不当性要件の解釈論のレベルで、「不当性要件=経済的合理性基準=租税回避基準」という等式で示される規範が明確に定立され、独立当事者間取引基準はこの規範への当てはめのレベルで用いられることも明確にされたと解される。すなわち、独立当事者間取引基準は、租税回避基準の一適用場面(ただし「少なくない」適用場面)として位置づけられたと解されるのである。 金子教授の見解をこのように整理・理解すると、納税者の前記主張は金子教授の見解に従ったものと解されるのに対して、東京高裁は金子教授の見解と異なる解釈を示したものと解される。一般に、法解釈のレベルで異なる見解が存在する場合、それらが許される法解釈の限界を超えない限り、いずれの見解も法解釈として成り立ち得るが(勿論、広く支持されるかどうかは別問題である)、しかし、不当性要件の解釈に関しては、東京高裁の解釈は、次の2で述べるとおり、租税法律主義の下で許される税法解釈の限界を超えるものであると考えられる。 2 「趣旨の措定」による目的論的解釈の過形成 東京高裁は、既にみたように、経済的合理性基準(次の段落での引用判示の1つ目の破線下線部)には独立当事者間取引基準(次の段落での引用判示の2つ目の破線下線部)を「含む」と判示する一方で、不当性要件の解釈論のレベルで経済的合理性基準について租税回避基準を採用しなかったが、その理由として、納税者の主張する解釈(租税回避基準)を採用すれば、「税務署長が法人税法132条1項所定の権限を行使することは事実上困難にな」り、「同族会社と非同族会社の税負担の公平を図るために設けられた同項の趣旨を損ないかねない」旨を説示した。 不当性要件に関する東京高裁の解釈の問題性は、同族会社の行為計算規定の「趣旨」の捉え方に、その根本的原因があると考えられる。東京高裁はこの規定の「趣旨」について次のとおり判示している(訟月61巻11号2024頁。下線筆者)。 ここで注意すべきは、上記の判示において「そして」(下線部)の前の部分と後の部分とで、法人税法132条1項の「趣旨」とされる「税負担の公平」が文理上明らかに異なるにもかかわらず、同じ意味内容のものとして説示されていると解される点である。この点を以下で敷衍しておこう。 「そして」の前の部分では、「税負担の公平」は、「当該会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算」(「異常な行為又は計算」といってもよかろう)と「正常な行為又は計算」との税負担の公平、換言すれば、専ら経済的・実質的見地において純粋経済人として「不合理、不自然な行為又は計算」と「合理的、自然な行為又は計算」との税負担の公平を意味する(以下「税負担の公平①」という)のに対して、「そして」の後の部分では、「税負担の公平」は、「同族会社と非同族会社の間の税負担の公平」を意味する(以下「税負担の公平②」という)。この対比において、税負担の公平①と②には文理上明らかな相異が認められる。 もっとも、税負担の公平①と②の意味するところが異なるというのは、単に文理上の形式的な相異にすぎないといえるかもしれない。というのも、「非同族会社の通常の行為計算=合理的なもの、同族会社で行なわれやすい行為計算=合理的でないもの、という式が通常妥当すると思われる」(清永敬次「判批」租税判例百選(別冊ジュリストNo.17・1968年)42頁)からである。また、不当性要件に関する判例の中に、経済的合理性基準という「流れ」ないし「傾向」と「同族非同族対比の基準」という「流れ」ないし「傾向」が認められることは夙に指摘されてきたが(清永・前掲「判批」42頁、金子宏『租税法』初版238頁・第23版532頁参照)、税負担の公平①は前者に、同②は後者に対応するものの、いずれの「流れ」ないし「傾向」によっても具体的事件において結論に大きな違いはないので、税負担の公平①と②を特に区別する必要はないのかもしれない。 しかしながら、東京高裁の前記の判示がそれらのことをも考慮したものかもしれないとしても、その判断全体の論理構造からすると、東京高裁は、経済的合理性基準から租税回避基準(を認めた場合における税務署長の否認権行使の困難性)を排除するために、法人税法132条1項の「趣旨」を、独立当事者間取引基準「仕様」に、税負担の公平②の維持という「趣旨」に仕立て上げ、これをもって、税負担の公平①の維持という「趣旨」の意味内容とすることによって、税負担の公平①と②とを同じ意味内容のものとして措定したと解される。 このように、文理上明らかに異なる税負担の公平①と②とを同じ意味内容のものとして措定するとしても、判例が不当性要件の解釈により経済的合理性基準を導き出す際に参酌する「趣旨」がそのように措定された税負担の公平①の維持をいうのであれば、問題はないであろうが、しかし、不当性要件がわが国では伝統的に租税回避の否認要件と解されてきたこと(第25回Ⅲ2参照)からすれば、経済的合理性基準から租税回避基準を排除するために、そのような措定を行うことは許されないと考えられる。 東京高裁の判断を以上のように理解すると、それは、第12回で検討した「租税法規の趣旨・目的の措定論」のヴァリエーションともいうべき判断であり、税法の目的論的解釈の過形成として、特に税務署長の否認権行使の困難性排除という考慮からして経済的実質主義への「先祖返り」(第6回Ⅲ2参照)として、租税法律主義の下では許容されないと考えられる。観点は異なるものの、納税者による租税法律主義違反の主張は、正鵠を射たものと考えるところである。   Ⅳ おわりに 以上、今回は、IBM事件における東京高裁による不当性要件の解釈を概観した上で、金子宏教授の見解と比較検討しながら、特に経済的合理性基準から租税回避基準を排除することの問題性を検討した。 金子教授は『租税法』第17版での改訂において、不当性要件の解釈により「不当性要件=経済的合理性基準=租税回避基準」という等式で示される規範を明確に定立され、独立当事者間取引基準をこの規範への当てはめのレベルに明確に位置づけられたものと解されるが、これに対して、東京高裁は経済的合理性基準には独立当事者間取引基準を「含む」とする一方、経済的合理性基準から租税回避基準を排除する「解釈」を示した。 東京高裁がこのような「解釈」を示したのは、租税回避基準が税務署長の否認権行使を困難にすることを考慮したためであると解されるが、東京高裁はそのために、判例が不当性要件の解釈の基準としてきた「趣旨」について、異なる意味内容の「趣旨」を措定して、これに基づき不当性要件の目的論的解釈を行ったものと解される。このような論理操作による「解釈」は、「租税法規の趣旨・目的の措定論」のヴァリエーションとして、租税法律主義に反するものであると考えられる。 (了)

#No. 371(掲載号)
#谷口 勢津夫
2020/05/28

[令和2年度税制改正における]ひとり親控除の創設と寡婦(寡夫)控除の見直し 【第1回】「改正の概要と改正前後の比較」

[令和2年度税制改正における] ひとり親控除の創設と寡婦(寡夫)控除の見直し 【第1回】 「改正の概要と改正前後の比較」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   令和2年度税制改正では、未婚のひとり親に対する税制上の措置が講じられ、それに伴い寡婦(寡夫)控除の見直しが行われた。以下、改正の内容について解説を行う。   【1】 ひとり親に対する改正前の制度(寡婦(寡夫)控除) (1) 制度の概要(改正前) 納税者自身が寡婦(寡夫)に該当するときは、27万円(特別の寡婦の場合は8万円加算)の寡婦(寡夫)控除の適用を受けることができる(旧所法81、旧措法41の17①)。 (2) 寡婦(寡夫)とは 寡婦、特別の寡婦、寡夫とは、次の要件を満たす者をいう(旧所法2①三十・三十一、旧措法41の17①)。 ① 寡婦 寡婦とは、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当する者をいう(旧所法2①三十、旧所令11)。 ② 特別の寡婦 特別の寡婦とは、寡婦のうち次の(ア)から(ウ)のすべてに該当する者をいう(旧措法41の17①)。 ③ 寡夫 寡夫とは、次の(ア)から(ウ)のすべてに該当する者をいう(旧所法2①三十一、旧所令11の2)。   【2】 改正前の制度の問題点 改正前の寡婦(寡夫)控除については、以前より次の問題点が指摘されていた。 ① 婚姻を前提としていた制度である ⇒ 未婚のひとり親には適用されない。 ② 事実婚の確認が求められていない ⇒ 事実婚の状況にある人も制度の対象になる。 ③ 下記のように男女で控除額が異なる。 (ア) 合計所得金額500万円以下、子(※)あり ・寡婦控除:35万円 ・寡夫控除:27万円 (※) 子の要件については、【1】参照。 (イ) 合計所得金額500万円以下、子なし ・寡婦控除(夫と死別、夫の生死不明の場合):27万円 ・寡夫控除:適用なし (ウ) 合計所得金額500万円超 ・寡婦控除(扶養親族又は生計一の子がいる場合):27万円 ・寡夫控除:適用なし   【3】 ひとり親に対する改正後の制度(ひとり親控除、寡婦控除) 【2】の問題点を踏まえ、令和2年度税制改正ではひとり親に対する制度の見直しが行われた。ポイントは次の4点である。 (1) ひとり親控除の創設 ① ひとり親控除とは ひとり親控除とは、納税者がひとり親である場合に、その年分の総所得金額等から35万円を控除する制度である(所法81)。 ひとり親とは、次の要件を満たす者をいう(所法2①三十一)。 ひとり親控除の創設により、生計を一にする子を有する寡婦に対する寡婦控除と寡夫控除はひとり親控除に統合され、特別の寡婦に対する加算は廃止された。また、ひとり親控除は、婚姻を前提とした制度ではないため、未婚のひとり親にも適用される。 ② 「事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者」とは 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者とは、住民票に一定の記載がされている事実婚の夫や妻をいう(所規1の3)。 (2) 寡婦控除の見直し ◎改正後の寡婦の範囲 改正後の寡婦とは、次の要件を満たす者でひとり親に該当しないものをいう(所法2①三十)。 上記(ア)と(イ)のいずれにおいても、合計所得金額500万円以下と事実婚の状況にないことが要件とされていることに注意しておきたい。 なお、改正後も寡婦控除額は27万円である(所法80①)。   【4】 改正前後の控除額 改正前と改正後の控除額を男女別にまとめると、次のとおりである((  )内の金額は住民税における控除額、住民税は令和3年度分以後に適用)。 女 性 男 性   【5】 ケーススタディ 5つのケース(ひとり親)について、改正前後の取扱いを比較する。 なお、「子」「未婚」「事実婚」については下記のとおりとする。 (了)

#No. 371(掲載号)
#篠藤 敦子
2020/05/28

〔弁護士目線でみた〕実務に活かす国税通則法 【第1回】「国税通則法を学ぶ意味」

〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第1回】 「国税通則法を学ぶ意味」   弁護士 下尾 裕   1 はじめに 本誌読者の皆様は、「国税通則法」という法律名を耳にすると、どのようなイメージを持たれるであろうか。 税理士試験の受験にあたっては、各試験科目に共通して国税通則法が出題範囲に含まれてはいるものの、実際のところ、実務で活躍されている税理士である読者の中にも、国税通則法を苦手とされている方が一定程度いらっしゃるのではないだろうか。 また、税務調査に対応されている企業の財務経理担当者である読者におかれては、そもそも国税通則法を本格的に勉強する機会がなかった方も多くいらっしゃるものと思われる。 本連載は、様々な理由で国税通則法を苦手とされている又はこの機会に理解を深めたいという実務家を対象に、税務に携わる弁護士目線で重要と思われるポイントを解説するものである。   2 国税通則法を学ぶ意味はどこにあるか (1) 国税通則法が苦手になる背景 国税通則法を苦手とする実務家が一定程度おられる理由は、まずもって国税通則法が一見して無味乾燥であり、興味が湧きにくいということもあると思われるが、私見では、以下の事情も大きく影響しているものと推測される。 国税通則法の条文をななめ読みすると、もちろん「更正の請求」といった納税者側の手続も定められているものの、その多くは国税当局側の手続等を定めるものである。 そのため、税務調査の手続等は、事前に国税当局側が整理した実務運用に従って進められており、その是非について税理士側が異論を述べる機会が少なく、また、ハードルも高くなっている。 もう1つ見逃せない事情として、仮に国税当局が国税通則法に違反した税務調査を行って調査資料を収集し、当該資料を前提に課税処分を行ったとしても、こうした調査手続の違法が課税処分の取消し等に直結しないという点がある。 1つの比較として、刑事手続においては、“違法収集証拠排除法則”という考え方により、手続の違法がある捜査により収集された証拠は証拠として使えず、その結果、被告人が無罪になることがありうる。 例えば、尿に覚せい剤が含まれていたという鑑定結果の裏付け証拠として、覚せい剤使用の罪で起訴された被告人につき、尿の差押手続に違法があった場合に、尿が証拠として採用されず、被告人が無罪となるというケースなどである。 これに対し、課税処分については、(査察の事案を除けば)証拠等は納税者から任意に提出されるものであることもあり、仮に税務調査手続に違法があったとしても、納税者が税務調査官に恫喝され、その結果として任意性が認められないなどの特段の事情がある場合を除いては、収集された調査資料が使用できないということにはなりにくい。 こうした背景事情から、実務家においても、時間をかけて国税通則法に精通してまで、その違反を指摘するイニシアチブが働きにくく、個別税法に関する知識獲得を優先してしまうということがあるかもしれない。 (2) 国税通則法を学ぶ意味 では、上で述べたような事情を踏まえても、なお国税通則法を学ぶ意味はどこにあるのであろうか。 あくまで私見であるが、税務に携わる読者の皆様が国税通則法に精通することには、以下のようなメリットがあるものと考えられる。 税務調査担当者からすれば、たとえ国税通則法違反が課税処分の適法性に影響しないとはいっても、手続違反を犯すことは国税当局内部ではご法度であり、避けなければならないものであることは明白である。 税務調査官としても、安易に手続違反を犯すことはないと思われるが、それでも税理士が国税通則法に精通し、その点を税務調査官に示すことで、無理な調査を抑制し、かつ、心理的にも対等にやりとりを行うことが可能になる。 重加算税や過少申告加算税といった付帯税の課税根拠は、国税通則法にあるところ、重加算税の課税要件である「納税者」、「隠蔽」及び「仮装」の解釈(同法第68条第1項)や過少申告加算税の除外要件である修正申告が「更正があるべきことを予知してされたものでない場合」(同法第65条第5項)の解釈等を正しく理解していなければ、税務調査等において有効な反論ができない。 また、国税通則法には「再調査制限規定」(同法第74条の11第1項)が存在するが、再調査制限規定との抵触を国税当局に指摘するにあたっては、再調査制限がどの範囲で生じるのか(すなわち、調査の範囲はどのように把握されるか)、再調査を許容する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」とはどのような場合なのかを理解していなければ、やはり有効な反論ができない。 逆に税理士において、こうした内容を正しく理解することにより、税務調査官に対し、付帯税の課税に関する対等かつ実効的な反論を行うことが可能になり、また、取るべき対応を看過することによる税務過誤を防止することができる。   3 今後の連載 以上を前提に、次回からは、いよいよ本論として、実務上の重要性が高いと思われる調査、修正申告、更正処分、更正の請求、過少申告加算税、重加算税、更正期限、不服申立て及び犯則事件について、関連する議論・裁判例に言及しつつ、順次取り上げていくこととする。 (了)

#No. 371(掲載号)
#下尾 裕
2020/05/28

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例86(法人税)】 「再生計画の認可決定により、期限切れ欠損金を優先適用すべきところ、資産の評価換えについて誤った判断を行い、青色欠損金を優先適用してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例86(法人税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆会社更生等による債務免除による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入(法法59②) 内国法人について再生計画認可の決定があった場合において、その内国法人が債権者から債務免除を受けた場合には、その債務免除を受けた日の属する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額のうち債務免除益に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される。 なお、民事再生法等による資産の評価換えが行われた場合には、いわゆる「期限切れ欠損金」から優先して損金算入されるが、資産の評価換えが行われていない場合には、青色欠損金から優先して損金算入される。       (了)

#No. 371(掲載号)
#齋藤 和助
2020/05/28

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第41回】「課税当局は外国の課税当局からどのように情報を入手しているのか」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第41回】 「課税当局は外国の課税当局からどのように情報を入手しているのか」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は以前から海外に財産を分散して保有しています。国外財産調書の提出義務があるといっても、海外の財産まで調べることは難しいと思うので、適当に対応しておこうと思いますが、いかがでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷租税条約等に基づく情報交換 経済のグローバル化は人や物の行き来を増加させ、それに伴い、日本に居住している日本人が所有する財産の中に占める国外財産の割合も増加している。 国外財産を利用した租税回避行為が問題となった場合、税制改正を通じて歯止めを行っているが、これだけでは国外財産に係る課税漏れを防ぐことはできない。そこで課税当局としては、多様な方法で情報を入手して精度の高い分析を行い、課税漏れを防ぐために、国内において、国外財産調書制度や国外送金等調書制度を創設している。 また、課税当局が外国の課税当局との間で、租税条約等に基づき納税者の情報を交換する制度がある。この制度には①自動的情報交換、②要請に基づく情報交換、③自発的情報交換がある。 日本の課税当局は、これらの情報交換を利用してどのように外国の課税当局から情報を入手しているのかを、上記3分類のうち自動的情報交換と要請に基づく情報交換の2つについて検討する。   ▷自動的情報交換 自動的情報交換は、各国の課税当局がCRS(共通報告基準)により非居住者に係る金融口座情報を交換する制度である。この制度による情報交換は2018年から始まった。2019年11月時点においては85(国・地域数)から1,891,040口座の情報を受領し、64(国・地域数)へ473,657口座の情報を提供している。2018年は新規口座と既存の口座のうち残高1億円超が対象となったが、2019年以降は個人の既存の低額口座も対象となっている。 金融口座情報を報告する義務のある金融機関は、銀行、生命保険会社、証券会社、信託等投資事業体であり、報告の対象となる金融口座は、預金口座、キャッシュバリュー保険契約、年金保険契約、証券口座等、信託受益権の投資持分であり、報告の対象となる情報は、口座保有者の氏名、住所、居住地国、外国の納税者番号、口座残高、利子配当等の年間受取総額等である。   ▷要請に基づく情報交換 要請に基づく情報交換は、個々の納税者に対する税務調査を国内で行ったけれども、情報が不足しており十分に解明できない場合に、必要な情報を外国の課税当局に依頼するものである。 この情報交換はどのようなプロセスで行われたかを、東京地方裁判所平成25年(行ウ)第618号租税協定に基づく情報交換要請取消等請求事件、平成27年(行ウ)第172号租税条約に基づく情報交換要請取消等請求事件(TAINSコード:Z267-12980)に基づいて検討する。   ▷どのような事案か パソコン周辺機器メーカーの創業者A・B夫妻(日本在住)が、保有する持株会社の株式を現物出資してオランダにX社を作った。A・B夫妻はX社株式全部をオランダにあるY財団に預託して、Y財団から預託証書を受け取った。 A・B夫妻の子であるCはシンガポールで永住権を有しており、シンガポールに全額出資のZ社を設立して投資運営を行っていた。A・B夫妻は2009年9月28日に、保有するX社株式の預託証書をZ社に譲渡した。そしてA・B夫妻はこの譲渡所得に関する申告について、株式等の譲渡所得として申告分離課税を行わず、役員報酬と損益通算する申告をした。 この申告に関して所得税の税務調査(他に相続税の税務調査)が行われ、A・B夫妻にZ社が運用する投資信託の内容、X社及びY社の定款や預託証書に係る契約書等の提出を求めたが、A・B夫妻は応じなかった。 そこで国税庁国際業務課長は、シンガポールの課税当局とオランダの課税当局に対して情報の提供を求めた。その理由として、A・B・C等一族の所得を把握したい。X社株式預託証書を時価に比べて低い譲渡価額でZ社に譲渡した。その結果、Z社に含み益が生じていることが想定され、Z社の株主であるCがA・Bから含み益の移転について贈与税課税の可能性がある。また、A・BはX社株式預託証券の譲渡所得について損益通算を行っているが、株式等の譲渡所得に該当するか検討する必要がある。これらの問題点を検討するための情報を国内の税務調査だけでは入手ができなかったので、外国の課税当局に要請して情報を入手したい、というものである。   ▷情報入手のプロセス(シンガポール) 国税庁の国際業務課長が2012年11月22日付でシンガポール課税当局に対し、情報の提供を依頼した。そして、シンガポールの課税当局は2013年1月17日付で 租税条約に基づく情報交換の促進のためとして、Z社に対して預託証券譲渡に係る譲渡価額と譲渡時の時価の情報の提供等、Cに対して三菱東京UFJ銀行シンガポール支店にある関係者8名の保有者の特定の口座について2006年1月から2012年2月までの取引明細書の提示等を求めた。 2013年4月19日に当局の検査官が、三菱東京UFJ銀行シンガポール支店にある上記8名の保有者により保有されるすべての口座の2006年1月1日から2011年12月31日までの情報提供を求めて高等裁判所に訴え、2013年5月31日高等裁判所は当局の申立てを全面的に認めた。これに対して不服なZ社やC等が取消し等を申し立てたが、いずれも棄却された。 そしてこの決定に不服なAが上告して、2015年1月22日付最高裁においては特定された口座の保有者により保有されているすべての口座に広げて銀行取引明細書の写しの作成や引渡しを命じた部分は規定に違反するとして取り消し、関係者の保有する特定された口座の銀行取引明細書の写しの作成と引渡しを命ずる内容に変更した決定書を公表した。   ▷情報入手のプロセス(オランダ) 2012年11月27日付で国税庁の国際業務課長がオランダ課税当局に情報の提供を依頼し、2013年2月5日付でオランダの課税当局がX社に対して租税条約に基づく情報収集のために実地監査を行うことを予告する書面を送付し、2009年から2011年までの記録が必要であるため決算書、総勘定元帳、X社の定款、議事録、Y財団の規則や通信文書、請求書、銀行取口座取引明細書等の提出を求めた。   ▷この事案の行方 この事案については、A・Bの納税地が変更になった後も税務調査が引き継がれ、2013年5月27日付で「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が発せられたが、国税庁の国際業務課長はシンガポールへの情報要請を継続して行っていた。 そして、C等は日本において、租税協定に基づく情報交換要請取消等請求や国家賠償請求を行ったが敗訴となり、本稿執筆現在、控訴中である。   ▷まとめ 現在の状況では、自動的交換においても口座の残高情報が入手できることから、以前よりも迅速に情報を入手することができるようになってきている。しかし、自動的情報交換の対象は金融財産で、かつ口座の残高に限られることから、調査で重要な資金移動情報までは手に入らず、具体的に更正・決定ができるほどの情報収集は、個別要請に頼らざるを得ない。 上記の事例においては、日本の当局から外国の当局に連絡した場合、3ヶ月以内には本格的な情報収集に着手している。 このように日本において海外情報の開示を拒んだとしても、情報がとれないことはないということを念頭に税理士も対応すべきである。   (了)

#No. 371(掲載号)
#菅野 真美
2020/05/28

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第22回】「建物の寄附とその建築資金として借り入れた借入金の承継を同時に行った場合」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第22回】 「建物の寄附とその建築資金として借り入れた借入金の承継を同時に行った場合」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 美術館の運営を目的とする特定一般法人を設立するため、私Xは所有する建物とその敷地を美術館として運営するために寄附し、この建物の建築資金として金融機関から借り入れた借入金も同時に承継させる予定です。 この場合、私は租税特別措置法第40条の規定の適用を受けられますか。   - 回 答 - 特定一般法人へ建物の譲り渡しとともに債務の引き受けが行われているため、資産の譲渡と債務の引き受けが実質的に対価関係にあると考えられます。 したがって、この譲渡は無償譲渡ではなく有償譲渡となることから、当該寄附については、租税特別措置法第40条の規定の適用を受けることはできません。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 贈与という名目で法人に対し資産を移転した場合でも、当該移転に伴い債務を引き受けさせることによる経済的な利益による収入がある場合には、当該移転については、所得税法第59条第1項第1号の規定の適用はなく、当該経済的な利益による収入に基づいて同項第2号の規定の適用の有無を判定することとされています(所基通59-2)。 租税特別措置法第40条は所得税法第59条第1項第1号の規定の特例であるため、そもそも所得税法第59条第1項第1号の規定の適用を受けることがないのであれば、租税特別措置法第40条も適用の対象外ということになります。 したがって、本事例のように、建物の贈与と、その建物の取得に際し借り入れた借入金の両方を特定一般法人に承継させる場合には、建物の贈与について租税特別措置法第40条の規定の適用を受けることはできません。   (了)

#No. 371(掲載号)
#中村 友理香
2020/05/28

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第48回】「仮想通貨の会計処理」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第48回】 「仮想通貨の会計処理」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 日本でも様々な仮想通貨が発行されている。この仮想通貨の会計処理について、基準がなかったため、2018年3月14日にASBJより実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、「仮想通貨取扱い」という)が公表された。今回は、この「仮想通貨の取扱い」について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が「保有」する仮想通貨と仮想通貨交換業者が預託者から「預かっている」仮想通貨で会計処理が異なるため、まず、「保有」する立場か「預かっている」立場かを判断する。 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の「保有」している仮想通貨の場合は、【STEP2】を検討する。仮想通貨交換業者で預託者から「預かっている」仮想通貨の場合は、【STEP3】を検討する。 (1) 仮想通貨の売却時の会計処理 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者が、仮想通貨を売却した場合、仮想通貨の売却損益を売買の合意が成立した時点において認識(約定日基準)する(仮想通貨取扱い13)。 損益の計上区分は、仮想通貨取扱いでは決められていないため、各社の状況に応じて、決定することになる。 (2) 期末評価 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨の期末評価は、仮想通貨の活発な市場が存在する場合と存在しない場合で異なる。 【活発な市場が存在する場合とは】 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいう(仮想通貨取扱い8)。   ① 仮想通貨の活発な市場が存在する場合 保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、市場価格と帳簿価額との差額は当期の損益として処理する(仮想通貨取扱い5)。 ② 仮想通貨の活発な市場が存在しない場合 保有する仮想通貨について、活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失とする(仮想通貨取扱い6)。 なお、翌期以降、当該損失を戻し入れることはできない(仮想通貨取扱い7)。 【処分見込価額の見積り】 処分見込価額は、独立第三者の当事者との相対取引を行った場合の価額等、資金の回収が確実な金額に基づくことが考えられるが、資金の回収が確実な金額を見積ることが困難な場合にはゼロ又は備忘価額を処分見込価額とする(仮想通貨取扱い43)。   損益の計上区分は、仮想通貨取扱いでは決められていないため、各社の状況に応じて、決定することになる。 《設例①:活発な市場が存在する場合》 ・A社の決算月は3/31である。 ・A社は、当期に活発な市場が存在する仮想通貨を5,000取得した。 ・当期末の仮想通貨の市場価格は4,000である。 〈取得時〉 〈当期末〉 (※) 取得価額5,000-市場価格4,000=1,000 《設例②: 活発な市場が存在しない場合》 ・A社の決算月は3/31である。 ・A社は、当期に活発な市場が存在しない仮想通貨を5,000取得した。 ・当期末の処分見込価額は5,000である。 ・翌期末の処分見込価額は4,000である。 〈取得時〉 〈当期末〉 (※1) 取得価額5,000≧処分見込価額のため、会計処理不要 〈翌期末〉 (※2) 取得価額5,000-処分見込価額4,000=1,000 次は、【STEP4】を検討する。 (1) 仮想通貨に係る資産及び負債の認識 仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意により仮想通貨を預かった場合、預かった仮想通貨を資産として認識する。当該資産の当初認識時の帳簿価額は、預かった時の時価とする。 また、同時に預託者に対する返還義務を負債として認識する。当該負債の当初認識時の帳簿価額は、資産の帳簿価額と同額とする(仮想通貨取扱い14)。 (2) 期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額 仮想通貨交換業者は、預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者が保有する同一種類の仮想通貨と分離したうえで、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、仮想通貨取扱い第5項及び第6項(上記【STEP2】(2)①及び②参照)と同様の方法により評価を行う。 また、預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しない(仮想通貨取扱い15)。 次は、【STEP4】を検討する。 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨、及び仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨について、以下の注記が必要である(仮想通貨取扱い17)。 ただし、仮想通貨利用者は、仮想通貨利用者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる。また、仮想通貨交換業者は、期末日において保有する仮想通貨及び預託者から預かっている仮想通貨の合計額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる(仮想通貨取扱い17)。 なお、上記注記は、計算書類では必ずしも求められていない。 *  *  * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 371(掲載号)
#西田 友洋
2020/05/28

税効果会計を学ぶ 【第5回】「繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率」

税効果会計を学ぶ 【第5回】 「繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の「税率」に基づいて計算する。 今回は、税効果会計で用いる税法と税率について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 法定実効税率 税効果会計基準は、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算すると規定している(税効果会計基準第二、二、2)。 当該税率について、税効果適用指針は、「法定実効税率」を定義し、連結納税制度を適用する場合を除いて、次の算式によると規定している(税効果適用指針4項(11))。 【法定実効税率の算定方法】 税効果適用指針は、「[設例10]法定実効税率の算定」において詳細に計算式を示している。 実務上、決算ごとに、税率の改正が行われているかどうかをチェックし、法定実効税率を適切に算定するように注意する。   Ⅲ 税効果会計で用いる税法 1 決算日において国会で成立している税法 税法は、国会の審議を経て改正されるが、税効果会計で用いる「税法」は、いつの時点の税法かが論点となりうる。 税効果適用指針は、税効果会計で用いる「税法」とは、決算日において国会で成立している税法であり、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいうと規定している(税効果適用指針44項、146項、147項)。 税法及び税率に関連して、税効果適用指針では次の用語が用いられているので、その定義に注意する(税効果適用指針44項、46項)。 2 成立日基準 法人税及び地方法人税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率である(税効果適用指針46項)。 また、住民税(法人税割)及び事業税(所得割)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している地方税法等(住民税等の税率が規定されている税法)に基づく税率である(税効果適用指針47項)。 税効果適用指針は、①当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立していない場合と②当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合に分けて規定している(税効果適用指針の[設例11] を参照)。 決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率をまとめると、次のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 公布日基準 かつて、個別税効果実務指針は、改正税法が決算日までに「公布」されており、将来の適用税率が確定している場合は、改正後の税率を適用すると規定していた(個別税効果実務指針18項)。つまり、改正税法が決算日までに公布されているかどうかを基準としていたのである。 ところが、この公布日を基準とする取扱いについては、3月末日を決算日とする企業において、当事業年度に税法を改正するための法律が当該決算日前までに国会で成立していても、官報による公布が当該決算日間際までなされないことが多く、決算手続や業績予測等の実務的な対応に困難を伴うなどの意見が聞かれた。 このため、「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第27号。税効果適用指針の公表によりすでに廃止)では、税効果会計で用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によるとされたのである(税効果適用指針149項)。 税効果適用指針は、当該規定を引き継ぎ、前述のように、国会の成立日を基準としている(税効果適用指針46項)。 (了)

#No. 371(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/28

社外取締役と〇〇 【第2回】「社外取締役と会社法改正」

社外取締役と〇〇マルマル 【第2回】 「社外取締役と会社法改正」   西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 野澤 大和   1 はじめに 「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)(以下「令和元年改正法」といい、改正後の会社法を「改正会社法」という)が、2019年12月4日に成立し、同月11日に公布された。改正項目は多岐にわたるが、平成26年改正会社法(平成26年法律第90号)(以下「平成26年改正法」という)では実現しなかった社外取締役の選任の義務付けが実現したことが注目される。 本稿では、平成26年改正法及び令和元年改正法による社外取締役に関連する会社法の改正の趣旨とその内容を概観する。近時の会社法改正による社外取締役に関連する改正項目は下記のとおりである。 《近時の会社法改正による社外取締役に関連する改正項目》   2 平成26年会社法改正 (1) 社外取締役の要件の厳格化 社外取締役には、業務執行者に対する監督機能を果たすことが期待されているところ、平成26年会社法改正前の社外取締役の要件(平成26年改正前の会社法2条15号)の下では、親会社等の関係者及び兄弟会社の業務執行者や、業務執行者の近親者であっても社外取締役になることができるため、これらの者に業務執行者に対する実効的な監督を期待することはできないという指摘や、過去に一度でも使用人になる等して業務執行者の指揮命令系統に属したことがある者は社外取締役になることができなかったが、そのような者であっても、一定期間の経過によって業務執行者との関係が希薄になれば、社外取締役の機能を実効的に果たすことができるという指摘がされていた(※1)。 (※1) 坂本三郎編著『一問一答平成26年改正会社法〔第2版〕』(商事法務、2015)101頁。 そこで、平成26年改正法では、社外取締役の要件を厳格化し、親会社等の関係者及び兄弟会社の業務執行者や、会社の業務執行者等の配偶者又は2親等内の親族は、当該会社の社外取締役になることができないこととし(会社法2条15号ハ~ホ)、また、取締役への就任前における会社又はその子会社との関係に係る要件の対象となる期間を、原則として10年に限定するとともに、社外取締役への就任前の10年内のいずれかの時において会社又はその子会社の業務執行者以外の取締役等であったことがある場合には、当該取締役等への就任前10年間にまで遡ることとした(同号イ、ロ)。 (2) 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務 平成26年会社法改正に至る法制審議会会社法制部会において、社外取締役の選任を義務付けるかどうかは、重要な検討課題として取り上げられたが、積極・消極双方の立場の意見が対立し、コンセンサスを得られなかった(※2)。 (※2) 坂本・前掲(※1)81頁。 そのため、社外取締役の選任を義務付けることとはせずに、会社法上、事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、有価証券報告書を提出しなければならないもの(以下「上場会社等」という)が社外取締役を置いていない場合に、取締役に、当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する義務を課すこととした(会社法327条の2)(※3)。 (※3) 坂本・前掲(※1)84頁。 なお、平成26年改正法附則25条(以下「平成26年検討条項」という)において、施行後2年を経過した時点で社外取締役の選任状況等を勘案・検討し、必要があると認めるときは「社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする」とされた。   3 令和元年会社法改正 (1) 社外取締役の選任の義務付け 令和元年会社法改正に至る法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会においては、平成26年検討条項や平成26年改正法の施行後の社外取締役の選任比率の上昇(※4)等社会経済情勢の変化を受けて、上場会社等について少なくとも1人の社外取締役の選任を義務付けるか否かについて議論された。 (※4) 2019年には全上場会社の98.4%が社外取締役を1名以上選任している(東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2019年8月1日)6頁参照)。 当初、部会では、賛成意見と反対意見が対立していたが、中間試案のパブリックコメントの結果も踏まえ、わが国の資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等については、社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信すべきであるなどとして、最終的には、会社法において、上場会社等に社外取締役の選任を義務付けることでコンセンサスが得られた(※5)。 (※5) 竹林俊憲=邉英基=坂本佳隆=藺牟田泰隆=青野雅朗=若林功晃「令和元年改正会社法の解説〔Ⅴ〕」旬刊商事法務2226号(2020)7頁。 「社外取締役を置くことが相当でない理由」の取締役の説明義務を規定する会社法327条の2が改正され、社外取締役の選任が義務付けられた(改正会社法327条の2)。社外取締役の選任義務付けの規律の対象となる会社は監査役会設置会社の上場会社等であり、上場会社でなくとも、その要件を満たせば、社外取締役の選任が義務付けられることに留意する必要がある。 また、上場会社等において、事故等により社外取締役が欠けることとなった場合であっても、社外取締役を選任するための手続を遅滞なく進め、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、その間にされた取締役会の決議は無効とならないと解されている(※6)。 (※6) 竹林ほか・前掲(※5)8頁。なお、「遅滞なく」とは、具体的に置かれた事情に応じた幅のある概念であるが、社外取締役を選任するための株主総会の開催の準備のために要する期間であり、会社の規模や状況に応じて合理的な対応をすれば問題ないと解されている(神田秀樹=竹林俊憲=古本省三=井上卓=石井裕介「〈座談会〉令和元年改正会社法の考え方」旬刊商事法務2230号(2020)30~31頁〔神田秀樹発言〕)。 なお、改正会社法327条の2の経過措置(令和元年改正法附則5条前段)により、施行(※7)の際に現に上場会社等であって社外取締役を置いていない監査役会設置会社は、臨時株主総会を開催する必要はなく、施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を選任すれば足りる(※8)。 (※7) 令和元年改正法は、原則として公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(令和元年改正法附則1条本文)。なお、株主総会資料の電子提供制度及び支店の登記の廃止に係る改正については、公布の日から3年6月を超えない範囲において政令で定める日から施行される(令和元年改正法附則1条但書)。 (※8) 竹林ほか・前掲(※5)9頁。 (2) 業務執行の社外取締役への委託 社外取締役が会社の「業務を執行した」(会社法2条15号イ)場合には、社外取締役の要件を満たさないこととなると解されており、「業務を執行した」を広く解釈すると、経営陣が買収者となるマネジメントバイアウト(以下「MBO」という)や親子会社間の取引等において会社と業務執行者その他の利害関係人との利益相反を回避する観点から期待される社外取締役の活動機会を過度に制約するおそれがあると指摘されていた(※9)。 (※9) 竹林ほか・前掲(※5)4頁。 そこで、MBOや親子会社間の取引のように、会社と取締役又は執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役又は執行役が当該会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは(※10)、当該会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができることとするとともに、これにより委託された業務の執行をしたときであっても、社外取締役の要件を満たさないこととならないことが規定上明確にされた(改正会社法348条の2第1項、第3項)。 (※10) 社外取締役への業務執行の委託が可能となる利益相反等の要件は広く解してよく、業務執行取締役がやるよりも社外取締役に委ねたほうがよいときや、取締役会が委ねようと考えるときには委託することができると解されている(神田ほか・前掲(※6)32頁〔神田秀樹発言〕)。 ただし、社外取締役が業務執行取締役の指揮命令により業務を執行したときは、社外取締役の要件を満たさなくなること(同法第3項但書)には留意が必要である。 改正会社法348条の2は、令和元年改正前の会社法の解釈上、「業務を執行した」に該当しないと考えられている社外取締役の一定の行為(※11)について、新たに「業務を執行した」に該当することとするものではないと解されており(※12)、セーフ・ハーバーとしての機能を有するものである(※13)。 (※11) 例えば、経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」(2015年7月24日)別紙3「法的論点に関する解釈指針」6頁参照。もっとも、同指針で掲げられた行為の限界等が必ずしも明らかではないことも踏まえて、改正会社法348条の2の規律が設けられたことに留意する必要がある(神田ほか・前掲(※6)32頁〔竹林俊憲発言〕)。 (※12) 竹林ほか・前掲(※5)5頁注1。 (※13) 神田秀樹「『会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案』の解説〔Ⅴ〕」旬刊商事法務2195号(2019)7頁。   4 おわりに 平成26会社法改正及び令和元年会社法改正を通じて、社外取締役に期待される機能を果たすための制度的な枠組みは整備されたと考えられる。今後は、その機能を実効的に発揮できるようにするために、各社の個別事情に照らし、実務において、コーポレートガバナンス・コード等のソフトローも踏まえ、社外取締役の複数選任や社外取締役に相応しい人材及び資質の確保等を検討していく必要があろう。 (了)

#No. 371(掲載号)
#野澤 大和
2020/05/28

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第13回】「売買における買主の権利の明文化(その2)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第13回】 「売買における買主の権利の明文化(その2)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 前回の解説で、瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更の内容については理解できました。では、この改正を受けて、現在使っている売買契約書は見直しが必要となるでしょうか。 【A】 従来から利用している売買契約書が改正法施行後(2020年4月1日以降)直ちに利用できなくなるわけではない。しかし、瑕疵担保責任に関する条項、損害賠償に関する条項など、改正に合わせて見直しをすべきものはある。 見直すべき条項の具体例は、次のとおりである。   1 用語の修正 改正法により瑕疵担保責任は契約不適合責任へと変更になった。従前の契約書では、契約書の文言としても「瑕疵」という言葉が用いられていることが多かった。また、不適合があったときの履行の「追完」という文言も、改正前民法にはなかった。 改正法下においては、契約書の文言も改正法の内容に従って整理するべきである。   2 追完請求権に関する条項 改正法では、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡しなどを請求できる(追完請求権、改正法562条1項)。 このことを明確化するために、以下のような条項を記載することが考えられる。 一方で、売主には、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることが認められている(改正法562条1項但書)。例えば、買主は代替品を請求したが目的物を簡単に補修することもできるときに、それが買主にとって不相当な負担でないときは、売主は補修によって対応することができる。 買主としては、負担の有無や売主の希望にかかわらず、常に追完の方法の選択権がある方が有利である。そこで、売主の選択権を排除するために、以下のような条項を定めることも考えられる。   3 代金の減額請求 改正法では、2で説明した履行の追完が可能な場合には、買主は履行の追完の催告をしたうえで、売主が相当期間内に履行の追完をしないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(改正法563条1項)。 このことを明確化するために、以下のような条項を記載することが考えられる。 しかし、商品がほんのわずかに傷ついている場合などのように、買主としても代替品をもらうことや売主に修理してもらうよりも、代金を減額してもらったが方が合理的な場合も考えられる。そうした場合に、買主側としては履行の追完の催告を行うことなく減額の請求をすることができるように、代金の減額請求の条項を下記のように定めることも考えられる。   4 損害賠償と免責事由 改正前の瑕疵担保責任は、売主は無過失責任と理解されてきた。したがって、瑕疵の損害について売主に何らの帰責性がなくとも、買主は売主の瑕疵担保責任を追及することができた。 一方、改正法での契約不適合責任は、目的物の欠陥があったときの売主の責任を一種の債務不履行責任として理解することになった。そして、追完請求、代金減額請求、解除については、売主の帰責性にかかわらず買主は権利行使可能であるが、損害賠償については、売主は、契約不適合が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、売主は損害賠償責任を負わないとされた(改正法415条1項)。 改正前は、上記のとおり損害賠償を含めて無過失責任と理解されていたため、従来の契約書では、瑕疵担保責任の条項のところで帰責性については何も触れていないものが通常であった。しかし、改正法下において同じ契約書を使っていると、帰責性について何も記載がないということは、改正法下の法令通り、売主に契約不適合に帰責性がないときは、損害賠償義務を負わないということになり、同じ契約書であっても改正前より買主に不利な契約となる可能性がある(ただし、売買契約で目的物に契約不適合があったときに、売主に帰責性がないというケースは稀だとはいえる)。 そこで、改正前と同様に、契約不適合に対して売主に帰責性があるかどうかにかかわらず、買主は損害賠償請求ができるという条項をおくことが考えられる。 【条項例】   5 損害賠償について 【第12回】でも解説した通り、改正法においては損害賠償の範囲が、転売利益などを含む「履行利益」の範囲まで拡大することとなった(なお、改正前においても、瑕疵担保責任の場合に、常に損害賠償の範囲が信頼利益に限定されると解されていたわけではなく、事案によって柔軟な解決がなされてきた面はある)。 損害賠償を一定の範囲に限定したり、あるいは金額的な上限を設定することは、売主にとってその責任の範囲を限定して明確にするために改正前においてもなされてきたが、改正法下においても、そのニーズは変わらない。特に、履行利益も対象になることで損害賠償の範囲が広がったとも理解され得るので、売主にとっては注意が必要である。 【条項例1】 【条項例2】 (了)

#No. 371(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2020/05/28
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