〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q1】 「平成30年度税制改正により変更・追加された事項の全体像」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 ◆はじめに◆ 平成30年度税制改正によって、従来の所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)が抜本的に改組され、租税特別措置法上のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」と改められた。 この改正により、適用要件や控除税額の計算が変更されたほか、改正前の制度における用語の定義自体も変更されたものがあり、従来の理解のまま改正後の制度を適用しようとすると結論を誤る可能性がある。 そこで本連載では、平成30年度税制改正により変更された点に焦点を当て、改正後の制度を適用する上で留意すべき事項についてQ&A形式で解説することとしたい。 本連載は単体納税制度における取扱いを前提としており、連結納税制度における取扱いについては触れていない。また、新制度について引き続き「所得拡大促進税制」と称するのは本来適当ではないと考えるが、適当な呼称が定着していないことに鑑み、本連載においては引き続き「所得拡大促進税制」と称する。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。 [Q1] 平成30年度の税制改正により、所得拡大促進税制について抜本的な見直しが行われたと聞きましたが、具体的にはどのように見直されたのでしょうか。 [A1] 平成30年度の税制改正では、主に以下のような見直しが行われています。 ① 適用要件の見直し ② 控除税額の計算方法の見直し ③ 上乗せ控除制度の見直し(人材投資に積極的な企業向け) 【解説】 平成25年度の税制改正によって創設された「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)は、賃上げの促進を通じて個人消費・投資の活性化を促し、ひいてはデフレ脱却と経済再生の達成を志向するという一貫した政策目標のもと、本税制の適用を促進すべく、毎年のように適用要件の見直し等が行われ5年が経過し、本来の適用期限の終了時期を迎えようとしていたところである。 そのような状況下、平成29年12月8日には「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定され、その中では「生産性革命」という項目が大きな柱として設定されている。特に、賃上げや設備投資・人材投資の加速は生産性革命を達成するための重要な要素とされている。 これを踏まえ、平成30年度の税制改正では、生産性革命を達成するための重要な要素である「賃上げ」と「投資」(設備投資・人材投資)の促進を税制面から支援すべく「所得拡大促進税制」の抜本的な見直しが行われている。本税制のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」に改められていることからして、本税制は単なる「賃上げ促進」のみではなく、一定の投資促進も政策目標に含めた税制に改組されたと理解すべきである。 これに伴い適用要件が抜本的に見直され、一定の賃上げ及び設備投資を行った企業に対して税額控除の適用を認めることとされた。ただし一律に適用要件を定めてしまうと中小零細企業に与える影響が大きいと考えられることから、設備投資の要件は大企業についてのみ求めることとし、賃上げに係る要件についても中小企業と大企業で異なる水準を設定している。 控除税額の計算についても、改正前の制度では「基準年度」からの増加額及び「前年度」からの増加額(上乗せ)を基礎として計算していたが、基準年度が既に5年以上前のものであり直近の賃上げの実態と乖離していることから、基準年度を廃止し、前年度からの増加額を基礎として計算する方法に改められた。 なお人材投資については適用要件に含めるのではなく、一定の人材投資を達成した企業に対して上乗せ控除を認めるという制度となっている。 (了)
〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第1回】 「適格請求書発行事業者の登録制度」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 適格請求書発行事業者の登録については、課税事業者に限られるのであるが、免税事業者であっても、以下のような場合には申請を行うことができる。 免税事業者が課税事業者となる課税期間の初日から登録を受けようとするときは、原則として、当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書を提出しなければならない。 免税事業者が登録を受けるためには、原則として、消費税課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要があるが、登録日が平成35年10月1日の属する課税期間中である場合は、課税選択届出書を提出しなくても、登録を受けることができる。 この場合においては、登録を受けた日から課税事業者となることから以下のようになる。 適格請求書発行事業者の登録は、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(以下「登録日」という)からその効力を有するのであるから、登録等の通知による通知を受けた日にかかわらず、適格請求書発行事業者は、登録日以後に行った課税資産の譲渡等について適格請求書を交付することとなることなる。 ただし、登録日から登録の通知を受けた日までの間に行った課税資産の譲渡等について、既に請求書等の書類を交付している場合には、当該通知を受けた日以後に登録番号等を相手方に書面等(既に交付した書類との相互の関連が明確であり、当該書面等の交付を受ける事業者が同項各号に掲げる事項を適正に認識できるものに限る)で通知することにより、これらの書類等を合わせて適格請求書の記載事項を満たすことができる。 免税事業者である新設法人の場合、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、消費税課税選択届出書を提出すれば、その事業を開始した日の属する課税期間の初日から課税事業者となることができる。 この場合において、新設法人が、事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出した場合において、税務署長により適格請求書発行事業者登録簿への登載が行われたときは、その課税期間の初日に登録を受けたものとみなされる。 適格請求書発行事業者は、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「登録取消届出書」という)を提出することにより、適格請求書発行事業者の登録の効力を失わせることができる。 なお、この場合、原則として、登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われることとなるが、登録取消届出書を、その提出のあった日の属する課税期間の末日から起算して30日前の日から、その課税期間の末日までの間に提出した場合は、その提出があった日の属する課税期間の翌々課税期間の初日に登録の効力が失われることとなるので注意が必要である。 適格請求書発行事業者は、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合でも免税事業者とはならない。 登録番号の構成は、以下のとおりである。 (了)
〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第4回】 「相続税の納税猶予制度の特例(その1)」 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳 今回から2回にわたり、非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除(措法70の7の6)について解説していく。 相続税の納税猶予及び免除の特例を受けるにあたっての手続きは、以下のとおりである。 ① 特例承継計画の提出・確認 ↓ ② 相続開始・円滑化法の認定 ↓ ③ 相続税の申告 ↓ ④ 事業の継続(相続後5年間) ↓ ⑤ 株式の継続保有(5年経過後) ↓ ⑥ 納税猶予の免除(後継者の死亡・事業継続が困難な場合等) 1 特例承継計画の提出・確認 相続税の納税猶予において特例措置の適用を受けるためには、まず「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書(特例承継計画)」【様式第21】を平成35年3月31日までに都道府県知事に提出する必要がある(円滑化規則17①一)。また、平成35年3月31日までの相続については、相続後に2(2)の認定申請書と特例承継計画を併せて提出することも可能とされている。 特例承継計画の記載事項については相続・贈与共通であるため、贈与税の納税猶予に関する【第2回】の解説を参照されたい。 2 非上場株式等の相続・円滑化法の認定 (1) 非上場株式等の相続 ① 特例認定承継会社 特例措置の対象となる特例認定承継会社とは、円滑化法の認定を受けた会社で、以下の(a)~(f)のすべてを満たすものをいう(措法70の7の6②一)。 一般措置の対象となる認定承継会社の要件についても同様である。 上記(f)に掲げた「円滑な事業の運営を確保するために必要とされる要件」は以下のとおり(措令40の8の6⑨)。 (※) 特定特別関係会社とは、次の(ア)、(イ)、(ウ)が所有する議決権の合計が総議決権数の50%を超える会社をいう(措令40の8⑧)。 また、納税猶予の対象となる非上場株式等は、一般措置においては議決権総数の2/3まで(措法70の7の2①)であったが、特例措置においてはその上限が撤廃されている。 ② 特例被相続人の要件 今回の特例措置創設により、先代経営者以外からの非上場株式等の相続又は遺贈(以下「相続等」という)においても納税猶予の適用を受けることができるようになったが、先代経営者以外の者が特例被相続人となるためには、相続の開始の直前において以下のいずれかに該当する者が存在することが必要とされており(措令40の8の6①二)、代表権を有していたことのない代表者の配偶者等が最初の特例被相続人にはなれないことが規定されている。 (※) 特例被相続人については、一般措置においても複数名からの相続等を可能とする改正が行われており、特例措置と同じ要件が追加されている(措令40の8の2①)。 上記の要件が満たされない状況、つまり、初めて相続において特例措置を適用する際には、代表権を有していた個人で以下の(a)~(c)のすべてを満たす者が特例被相続人となる(措令40の8の6①一)。したがって、最初の特例措置は先代経営者からの贈与・相続でなければならない。 ③ 特例経営承継期間 特例措置が認められる期間は、先代経営者からの相続等については、平成39年12月31日までである。そして、先代経営者以外からの相続等については、先代経営者の相続の開始の日から特例経営承継期間の末日までの間に相続税の申告期限が到来する相続等に限るとされている(措法70の7の6①)。 「特例経営承継期間」とは、最初に特例措置の適用を受ける相続税の申告書の提出期限の翌日から次のいずれか早い日までの期間をいう(措法70の7の6②六)。 例えば、平成38年10月30日に特例措置の適用を受ける最初の相続があった場合、先代経営者以外からの特例措置を受けることができる期限は以下の通りとなる(特例経営承継期間は5年と仮定)。 つまり、特例経営承継相続人等(後継者)の死亡がない場合は、特例措置の適用を受ける最初の相続(特例贈与がある場合は最初の贈与)に係る申告期限の翌日から5年間が特例経営承継期間となるため、上記のように先代経営者以外から特例措置により相続を受けられる期間が、平成39年12月31日を超えることがある。 一方、平成33年10月30日に特例措置の適用を受ける最初の相続が行われた場合、先代経営者以外からの相続の期限は平成38年の10月30日となり、平成39年12月末よりも早く期限が到来するので注意が必要だ。 贈与者と受贈者双方で時期を決めることが可能な贈与とは異なり、相続開始の日をコントロールすることは困難であるため、先代経営者以外からの特例措置による承継が必要となる場合には、贈与税の納税猶予を選択することが望ましい。 ④ 特例経営承継相続人等 特例被相続人から相続又は遺贈により特例認定承継会社の非上場株式等を取得した個人で、次に掲げるすべての要件を満たす必要がある(措法70の7の6②七)。 上記(f)に掲げた「経営を確実に承継すると認められる要件」とは、次に掲げる要件とする(措規23の12の3⑨)。 今回の改正により、最大3名まで特例措置の適用を受けることが可能となったが、複数名への相続は議決権が分散することから、実務上それほどの利用は見込まれないと予想される。 (2) 円滑化法の認定 相続又は遺贈により特例認定承継会社の非上場株式等を取得した場合には、その相続の開始の日の翌日から8月を経過する日までに特例認定承継会社の主たる事務所の所在地の都道府県知事に認定申請書を提出し、認定(円滑化法12①)を受けなければならない(円滑化規則7⑦⑨)。 その申請書は2種類あり、①先代経営者から後継者への相続については「第一種特例相続認定中小企業者に係る認定申請書」【様式第8の3】(円滑化規則7⑦)、②先代経営者以外の株主から後継者への贈与については「第二種特例相続認定中小企業者に係る認定申請書」【様式第8の4】(円滑化規則7⑨)に必要事項を記載して申請することになる。 申請書等の様式等については、中小企業庁WEBサイトを参照されたい。 * * * 次回も引き続き本特例制度について、相続税の申告以後の制度を解説する。 (了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第2回】 「『所得拡大促進税制』の改組(その2:中小企業向け)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 2 所得拡大促進税制(中小企業者向け) 単体納税では、中小企業者(適用除外事業者を除く)に該当する場合に、前回解説した大企業向けの制度を適用する代わりに、中小企業者の所得拡大促進税制を適用することが可能となる(措法42の12の5②)。 ここで、「中小企業者」とは、資本金1億円以下の法人のうち、次に掲げる法人以外の法人をいう(措法42の4③⑧六・六の二、42の12の5②、措令27の4⑫)。 また、適用除外事業者とは、平成31年4月1日以後に開始する事業年度において、当事業年度開始日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の年平均額が15億円を超える法人をいう(措法42の4③⑧六の二)。 一方、連結納税では、連結親法人が中小連結親法人に該当する場合に、大企業向けの制度を適用する代わりに、連結グループ全体で中小企業者の所得拡大促進税制を適用することが可能となる(措法68の15の6②)。 ここで、「中小連結親法人」とは、中小連結法人で適用除外事業者に該当しないもののうち、連結親法人であるものをいう(措法68の15の6②)。 中小連結法人とは、連結親法人が資本金1億円以下の法人(次に掲げる法人を除く)に該当する場合のその連結親法人又はその連結子法人(資本金1億円以下のものに限る)をいう(措法68の9⑧五、措令39の39⑪)。 また、適用除外事業者とは、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度において、当連結事業年度開始日前3年以内に終了した各連結事業年度の連結所得の金額の年平均額が15億円を超える連結親法人及び連結子法人をいう(措法68の9⑧五の二)。 中小企業者の所得拡大促進税制は次のとおりである。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第45回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (5) 組織再編税制の手引 ① 概要 平成22年1月に国税庁調査課により「組織再編税制の手引」が作成され、平成26年4月以降は、情報公開法第9条第1項による開示情報として、TAINSにて閲覧することが可能になった。副題として「審理・調査のポイント」と記載されているため、税務調査の手引きとして各国税局に配布された資料であることが分かる。 残念ながら、本稿校了段階では、グループ法人税制導入後のものを閲覧することはできないが(そもそも存在するのかも不明であるが)、現行法でも参考にすることができるポイントがいくつか見受けられる。本稿では、税務調査対策に焦点を当てたうえで、「組織再編税制の手引」について解説を行う。 まず、組織再編税制の手引は、Ⅰ.共通編、Ⅱ.合併編、Ⅲ.分割編、Ⅳ.現物出資編、Ⅴ.事後設立編、Ⅵ.株式交換編、Ⅶ.株式移転編、Ⅷ.申告調整編、Ⅸ.付録に分かれている。 このうち、Ⅰ.共通編で記載されている内容は市販の書籍で確認できるものがほとんどであり、Ⅸ.付録はキーワード索引に過ぎないため、本稿では、Ⅱ.合併編からⅧ.申告調整編のみを対象とする。 ② 合併編 (ⅰ) 税制適格要件の判定 ここでは、Ⅱ.合併編で記載されている内容のうち、実務上、間違いやすいと思われるものについて解説を行うこととする。 まず、「組織再編税制の手引」は、確定申告書に添付する「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」で入手できる情報から税制適格要件の判定を行うことを強く意識した内容となっている。そのため、同手引27頁では、 と記載されている。 そして、合併契約書では、合併の対価として交付された資産が明記されることから、同手引31頁では、 と記載されている。 さらに、完全支配関係継続要件、支配関係継続要件、事業継続要件及び株式継続保有要件が、合併時の見込みで判断することから、「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」からだけでは、これらの継続要件の判定を行うことができないため、同手引34、36、45、51頁では、合併を意思決定した際に作成した資料等で確認する必要があることが明らかにされている。 このように、「組織再編税制の手引」では、確定申告書に添付する「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」の記載内容についての事実確認を行ったうえで、記載されていることだけでは判断できない内容については、別途確認を行うという手順を採用していることから、「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」が税務調査の初期段階において重要な資料になるという点に留意した上で、確定申告書を作成する必要がある。 (ⅱ) 個別資産及び負債の引継ぎ 「組織再編税制の手引」58-61頁では、「合併法人が有する抱合株式の帳簿価額を消却損として損金の額に算入していないか。」という点について解説されている。 これは、会計上、子会社と合併を行った場合には、被合併法人から受け入れた資産及び負債の簿価純資産価額と合併法人が保有していた被合併法人株式の帳簿価額との差額は特別損益として計上する必要があるものの、法人税法上は、被合併法人の資産、負債、資本金等の額及び利益積立金額を簿価で引き継いだ上で、抱き合わせ株式を資本金等の額のマイナスとして処理することから、法人税法上、当該特別損益が損金又は益金の額に算入される余地がないからである。 具体的な会計及び法人税法上の仕訳は以下の通りである。 【会計上の仕訳】 【法人税法上の仕訳】 (イ) 資産及び負債の引き継ぎ (ロ) 抱き合わせ株式の消却 そして、同手引63-64頁では、適格合併に係る被合併法人の最後事業年度以前の各事業年度分の調査により税務上の否認金の額があることが判明した場合、合併法人において利益積立金額の調整が適正に行われているかどうかを確認すべき旨が記載されている。これは、会計上も法人税法上も簿価で資産及び負債を引き継ぐとしても、会計上の簿価と法人税法上の簿価が異なることがあり得るため、その差異を調整したうえで合併法人に引き継ぐべきだからである。このほか、同手引81-85頁では、棚卸資産、減価償却資産及び繰延資産について指摘されている。 (ⅲ) 繰越欠損金の引継ぎ 適格合併を行った場合には、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことができるが、その帰属事業年度は、繰越欠損金が発生した被合併法人の事業年度開始の日の属する合併法人の事業年度である。ただし、合併法人の合併事業年度開始の日以後に開始した被合併法人の事業年度において生じた繰越欠損金については、合併法人の合併事業年度の前事業年度において生じた繰越欠損金とみなされる。 「組織再編税制の手引」65-67頁では、「適格合併に係る合併法人が被合併法人から引継ぎを受けた未処理欠損金額の帰属事業年度は適正か」という点が記載されていることから、税務調査において、帰属事業年度が適正かどうかの確認が行われる可能性が高いと思われる。 (ⅳ) 資産調整勘定の計上 「組織再編税制の手引」86-88頁では、資産調整勘定及び負債調整勘定の計上について解説されている。特に、同手引88頁では、 と解説されている。これは、その差額の中に、寄附金や資産等超過差額が含まれている場合には、これらの金額については、資産調整勘定として処理することができないからである。 * * * 次回では、「組織再編税制の手引」に記載されている分割編以降の内容について解説を行う予定である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第38回】 「制限超過利息事件」 ~最判昭和46年11月9日(民集25巻8号1120頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第5回】 「運転資本の分析(その3)」 -売上債権- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ ▷売上債権の調査 M&Aに際しては、対象企業が貸借対照表に計上している売上債権は、その全てが無条件に引き継がれるわけではない。デューデリジェンスを経て抽出された「回収可能性に疑義のある売上債権」については、その回収可能性に応じた適切な評価額をもって、買い手における引継ぎ要否が検討されることになる。 売上債権に関するデューデリジェンスにおける主な手続は、下記のとおりである。 「② 収益計上に関する会計処理、得意先との決済条件の把握」に際しては、通常の売上計上に関する処理に留まらず、売上値引や返品・割戻しの処理、品質保証に係るクレーム対応費用の発生実績等について、買収側との会計処理の相違を含め把握する必要があるだろう。さらに、長期にわたる請負工事やソフトウェア開発等の場合、収益が進行基準で計上されていたり、代金の一部が前受金として授受されている場合もあるかもしれない。 「③ 売上上位の主要得意先の把握」については、特定の得意先/業種への事業の集中度とその推移、当該得意先のライバル企業への業務提供余地等といった観点から分析する必要があるだろう。 「⑤ 過去における貸倒れの発生実績、貸倒引当金の計上方針の把握」に際しては、貸倒れ発生に伴う損失処理の実施有無だけでなく、貸倒れ発生に備えた貸倒引当金の引当計上履歴についても把握することで、期間損益の正常化に資する情報が得られるだろう。 「⑥ 売上債権の回転期間分析」は、可能な限り、得意先別に、当該得意先に適用されている決済条件に基づき、基準日現在の売上債権残高を構成する売上高を用いて基準日現在の売上債権の回転期間を算出し、決済条件との整合性を比較・分析することが有用であるが、こうした分析は手間がかかるため、デューデリジェンス予算との兼ね合いでスコープを決定することになるだろう。 なお、非上場会社では「⑦ 売掛金に関する年齢調べ表」といった内部分析資料は作成されていないケースが多いが、売掛金の消込みを毎月行っている担当者は何かしらの情報を持っているはずであるので、「⑨ 得意先別の補助簿や管理台帳等の通査」と合わせて、根気よく滞留債権をあぶり出す作業が必要であろう。 ▷クレーム対応費用の発生水準には要注意 得意先との売買契約上、納入製品等の品質保証のため、一定期間のアフターサービス義務が定められているケースがあり、上場会社では製品保証損失引当金等が計上されていることが多い。 引当金が計上されていない場合であっても、アフターサービス義務が定められているケースは多いので、期間損益の正常化の意味からも、営業費用に含まれているアフターサービスコストを把握する必要性は高い。 また、アフターサービスコストの発生水準が高い場合には、そもそもの収益計上時期に問題が内在している可能性を疑う余地があるかもしれない。 【実務事例5-1】 M工機では近年、受注が好調で業績にも伸張が見られたが、一方で原価率の上昇が顕著であった。個別原価の発生原因を調査したところ、前期以前に出荷済みのオーダーに対するアフターサービス費用が多額に発生しており、製造部門へのヒアリングを実施したところ、受注増で生産が逼迫し、前期以前に急場しのぎでの出荷が複数行われていたことが判明した。 ▷健全な得意先に対する債権であっても「正常」とは限らない 主要得意先が大手企業であったとしても、当該得意先に対する売上債権が全て正常である、とは言い切れないケースもある。 筆者らの経験では、過去に次のような事例があった。 【実務事例5-2】 S社は経営不振からスポンサーであるA社に資本参加を要請していた。S社では永年にわたる主要取引先である業界最大手のG工業に対する依存度が極めて高く、S社の貸借対照表には、過年度における大幅な値引きに伴う未精算債権や多量の返品在庫が簿価のまま資産計上されていた。これらはG工業製品のモデルチェンジや生産工程の海外移転の結果として生じたものであった。 当該未精算残高については、今後の取引価格に上乗せする等の方法で長期的に精算を行っていくことに関する合意がG工業との間で得られており、スポンサーであるA社によるS社への資本参加に際して、当該合意はその後も継続する旨、確認された。 こうした取引は上場会社では考えづらいものであるし、そうした精算方法がベストな解決策とは言い切れないとはいえ、主要得意先との間で当該未精算残高の処理方法について合意がなされている以上、直ちにこれらを全額、「回収可能性に疑義のある債権」とも言い切れないだろう。 当該得意先が短期的に経営破綻に至るというような可能性が極めて低い、と判断される場合、回収が長期にわたる場合であっても、当該得意先との取引関係の継続に当該債権の引継ぎが必要と判断されるのであれば、回収可能性に問題なしとは言い切れない債権であっても、適正時価で評価された上で買収側に引き継がれるケースもあり得るだろう。 ▷「回収可能性に疑義のある債権」が含まれていることの意味 上記のような検討プロセスを踏まえ、対象会社が貸借対照表に計上している売上債権について分析がなされた結果、「正常な売上債権」と「正常でない売上債権」が峻別されさえすれば、果たして「議論は十分尽くされた」といえるであろうか。 貸借対照表に「回収可能性に疑義のある債権」が含まれている、ということの本質的な意義は、対象会社のこれまでの営業スタイルや、得意先とのパワーバランスなどに内在するであろう商慣習上の構造的な問題、経営者の誠実性、当該事業固有のガバナンスの有効性の程度に何らかの問題がある、ということを物語っている、という点にある。 売上債権の正常性や回収可能性に関する検討は、これらの債権の適正時価がいくらか、の問題に留まらず、こうした問題のある債権を発生させるようなガバナンスを有する企業、事業環境を、買い手としてどのように変革していくか、という問題提起も含むものといえよう。 ◆回収可能性に疑義のある債権の検討イメージ (筆者作成) (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第74回】 日本紙パルプ商事株式会社 「社内調査委員会調査報告書開示版(平成30年5月18日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【社内調査委員会の概要】 【日本紙パルプ商事株式会社の概要】 日本紙パルプ商事株式会社(以下「当社」と略称する)は、創業1845(弘化2)年、設立1926(大正5)年。1970(昭和45)年より同商号となる。紙、パルプの売買及び輸出入を主たる事業とする。連結売上高521,526百万円、経常利益9,998百万円、従業員数3,693名(数字はいずれも平成30年3月期)。子会社73社及び関連会社24社を有する。本店所在地は東京都中央区。東京証券取引所一部上場。 不適切な会計処理が発覚した非連結の完全子会社JPシステムソリューション株式会社(以下「SS社」という)は、2007年1月、当社の印刷・情報用紙営業本部特需部ソリューションビジネス化を母体として設立。コンピュータシステムの企画設計・運用サービス及びシステム機器の販売を主な事業内容とする。訂正前の2017年3月期の売上高1,948百万円、経常利益92百万円。資本金50百万円。調査時点における従業員数は39名である。 なお、SS社を連結対象としていないことについて、調査報告書には以下の記載がある(p.8)。 【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 2017年5月から6月にかけて、当社内部監査室によるSS社の業務監査の結果、期間保守契約において収益の繰延べや利益操作がなされるおそれがあること、SS社専務取締役X氏の接待費について、発生年月と計上年月の期ズレ、領収書の不備、事前稟議申請漏れなどが指摘され、こうした指摘事項が、当社関連事業管理部国内事業管理課において解決する取組みを行っている過程で、一部の売上について約4億5,000万円(累計)の売上原価が不正に先送りされている可能性があることが発見され、社内調査委員会が設置された。 2 不正の手口 社内調査委員会は、SS社専務取締役X氏及び取締役Y氏が行った不正行為を次の3つに分類し、電子メールの解析と関係者に対するヒアリングを通じて、実態解明を行った。 なお、社内調査委員会は、事案1から事案3の関係について、次のようにコメントしている。 3 不正による影響額 (1) 事案1:取引先との通謀による不正な取引 年度ごとに損益の影響は発生するが、期間を通しての影響額は認識されない。外部の取引先との通謀による不正取引の損益影響額については、事案2の棚卸資産の過大計上による影響額に反映されている。 (2) 事案2:SS社内部における前受金と売上原価の不正な利益操作 期末棚卸資産の過大計上額は、最大で583百万円に上がっていたが(2016年3月期)、調査時の2017年12月時点では、444百万円となっていた。 (3) 事案3:仕入取引を仮装した不正な資金流出 SS社が、取引先C社に対して支払った架空の仕入代金の累計は、238百万円であった。このうち、X氏に対するキックバックは57百万円、取引先A社の求めに応じた物品の購入費用等が31百万円、取引先H社に対するコンサルティング報酬が21百万円、C社社員の転籍に伴う損失補償が29百万円であったことが判明しているが、それ以外の使途不明金が100百万円となっている。 4 発生原因の概要 社内調査委員会は、「(1)不正行為の特性」、「(2)主観的・属人的要因」、「(3)SS社における制度的・組織的要因」、「(4)SS社における環境要因」、「(5)当社において不正行為を予防・発見できなかった原因及び開示に時間を要した原因」の5つの視点から分析している。 (1) 不正行為の特性(前提) 不正行為の特性(前提)として、以下の3点が挙げられている。 (2) 主観的・属人的要因 続いて、社内調査委員会は、不正行為者であるX氏とY氏の動機・機会・正当化事由について、ヒアリング内容を基に分析している。 動機について、X氏については、収益に対する過度なプレッシャーを受けていた形跡がないことから、「SS社を存続させて欲しいままに利益の操作や交際費の捻出工作が可能な自身の立場や地位を保全・維持する意図があったことは否めない」と厳しく断じている。 一方、Y氏の動機については、「不正あるいは不適切行為であるとの認識を有していなかった」「X氏に採用してもらった恩義等があるなか、X氏に依存した業務形態において不正な会計処理を断ることができなかった」といったY氏のコメントを紹介するに止めている。 機会については、SS社の営業権限を掌握していたX氏であるから、X氏及びY氏による不正な会計処理を止める業務プロセスや人的関係はSS社に存在せず、非コア事業を行う非連結子会社というSS社の特性もあって、当社の会計監査人又は内部監査室の毎年の監査対象とならなかったことから、不正行為を継続しやすい状況にあった。 X氏による正当化事由としては、不正な売上計上は、全てSS社の売上及び利益を上げ、従業員の雇用を守る行為であり、棚卸資産の過大計上は、いつか解消できるという思いから不正行為を継続していた。また、架空の仕入発注については、交際費捻出あるいは重要顧客との関係維持が目的であり、最終的にはSS社の利益につながる行為として正当化していた (3) SS社における制度的・組織的要因 SS社における制度的・組織的要因として、社内調査委員会が指摘したのは、次の6項目であった。 (4) SS社における環境要因 SS社における環境要因として、社内調査委員会は、取引先A社・取引先B社及び両社社員との個人的な癒着関係とX氏と小規模外部業者(取引先C社、D社、F社、G社その他)との結託(癒着)を挙げている。とくに、後者については、「外部業者との癒着を防止するコンプライアンス体制が構築されていなかった」として、不正原因としている。 (5) 当社において不正行為を予防・発見できなかった原因及び開示に時間を要した原因 社内調査委員会は、親会社である日本紙パルプ商事が、SS社における不正行為を予防・発見できなかった原因として、組織風土と子会社統制上の問題点を挙げたうえで、開示に時間を要した点について、以下のように問題点を指摘している。 そのうえで、開示に時間を要した理由を次の3点にあるとした。 こうした検討の結果、社内調査委員会は、当社が本件を隠蔽するために意図的に情報開示を控えたといった動機は全く見当たらず、むしろ法律事務所などの外部専門家や会計監査人に積極的に相談しながら慎重に検討を進めている間に時間が経過している状況が認められることからすれば、本件不正行為の開示に時間を要したことにつき、当社の開示の姿勢に問題があったとまではいえないと結論づけている。 5 再発防止策 社内調査委員会の提言を受けて、日本紙パルプ商事が、6月20日、公表した再発防止策は次のとおりである。調査報告書全57ページ中8ページを費やした委員会提言に沿ったものであり、内容は多岐にわたっているが、「すべての子会社を連結子会社化して統制を強化する」「すべての子会社を内部統制システムの評価対象とする」といった抜本的な対策は、委員会提言にもなかったものの、会社側の再発防止策にも盛り込まれていない。 【調査報告書の特徴】 「ノンコア事業」、「非連結子会社」、「内部統制スコープの範囲外」といった、上場会社の子会社で不祥事が発覚するたびに指摘される子会社の特徴に、不正な取引が行われてきたJPシステムソリューション株式会社も見事に合致していた。 連結売上高の0.3%でしかない規模の子会社を連結対象にすることの実務上の困難さは十分に理解できるが、会計監査人による監査を受けない子会社の内部統制について、同様の子会社を有する上場会社においては見直すべき時期にあるのではないかと思わせる事案である。 報告書の特徴としては、詳細な原因分析とそれに依拠した具体的な再発防止策の提言に多くの紙数を割いていることである。提言された再発防止策については、日本紙パルプ商事も全面的に取り入れているところであるが、すでに述べたとおり、連結対象会社の選定や内部統制システムの評価範囲の拡大については、提言事態に言及がなく、抜本的な対策としては少し不十分ではないかという印象である。 1 社内調査委員会の構成の一部変更 日本紙パルプ商事は、SS社による不正に対する社内調査委員会の設置後、約1ヶ月経って、同社の取締役と常勤監査役を委員から退任させ、新たに、社外監査役(公認会計士)、内部監査室長及び社外の弁護士を委員に選任する手続きをとっている。この点に関する、調査報告書の説明を引用しておく。 この変更は、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」における「第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保」を意識したものであろうが、調査委員会を第三者委員会という形態ではなく、「顧問弁護士+内部監査部長+社外取締役+外部の弁護士」という組成が最適であると判断した根拠について、調査報告書に言及がなかったことは残念である。 2 受注金額の一部前受金計上による追加コストの吸収 筆者のかつての勤務先も、「保守・メンテナンス業」を営んでいたこともあって、将来の追加コストに備えて、売上の一部を前受金に計上しておきたいという現場の考えは理解できる。 とくに、一部の顧客では、機器代金に複数年分の保守料を含んだ形での契約を求められていたこともあって、機器の売上高と保守料の売上高の切分けをどうするか、税務調査の場で問題になったことも経験している。 そうした経験から抱く疑問であるが、SS社には設立以来、税務調査は入っていなかったのだろうか。 調査報告書(p.25)には、「2014年前後に当時のSS社元社長の方針により年度を跨ぐ前受金の計上は許されなくなったようである」との記載があり、この方針がその後も生きていたとすれば、税務調査で問題とならなかったとも考えられるが、社内調査委員会が3ヶ月近く調査を行っても、「本来の売上計上時期を確定する証拠は得られなかった」という杜撰な管理状態で、どのように税務調査が行われ、申告内容の修正が行われてきたのか、疑問を感じた次第である。 (了)
連結会計を学ぶ 【第22回】 「持分法の意義」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 持分法に関する会計処理等は、「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)及び「持分法会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第9号。以下「持分法実務指針」という)において規定されている。そのほか、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)も公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 持分法の意義 1 持分法の適用範囲 非連結子会社及び関連会社に対する投資については、原則として持分法を適用する(持分法会計基準6項)。 「関連会社」とは、企業(当該企業が子会社を有する場合には、当該子会社を含む)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業をいう(持分法会計基準5項)。 「子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合」については、持分法会計基準5-2項に規定されており、より詳細には、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号)を参照していただきたい。 また、重要性の原則の適用については、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第52号)を参照していただきたい。 2 基本的な会計処理 「持分法」とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいう(持分法会計基準4項)。 持分法適用会社の純資産又は資本には、資本連結手続の対象となる子会社の資本と同様、新株予約権は含まれないことに留意する(持分法実務指針2項、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)6項等)。 3 持分法と連結の関係 前回までの本連載では、連結財務諸表の作成に関する会計処理等について解説してきた。 連結は、連結会社の財務諸表を勘定科目ごとに合算することによって企業集団の財務諸表を作成するので、完全連結(ライン・バイ・ライン・コンソリデーション又はフル・ライン・コンソリデーション)といわれる(持分法実務指針2項)。 一方、持分法による処理は、被投資会社の資本及び損益に対する投資会社の持分相当額を、原則として、貸借対照表上は投資有価証券の修正、損益計算書上は「持分法による投資損益」によって連結財務諸表に反映することから、一行連結(ワン・ライン・コンソリデーション)といわれる。 連結と持分法による処理との間には、連結財務諸表における連結対象科目が全科目か一科目かという違いはあるが、その親会社株主に帰属する当期純利益及び純資産に与える影響は、持分法実務指針2-2項に記載する事項を除いて、同一である。 4 持分法と連結の会計処理の相違 持分法と連結の会計処理の相違として、次のことが規定されている(持分法実務指針2-2項)。 (了)
改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第5回】 「遺言制度の見直し」 弁護士 阪本 敬幸 前回は遺産分割等の見直しに関する改正事項を取り上げたが、今回は、遺言制度の見直しについて解説する。 [1] 自筆証書遺言の方式の緩和(法案968条) 現行法上、自筆証書遺言は全文自書が要求されている。しかし財産目録については全文自書とすることは煩雑である上、対象の特定という形式的な事項であることから、自書でなくてもよいこととされた。 ただし、目録の全頁について、遺言者の署名・押印が必要である(法案968条2項)。また財産目録の加除訂正については、現行法同様に、遺言者が自筆で訂正したことを付記した上、署名・押印が必要である(法案968条3項)。 [2] 遺贈義務者の担保責任(法案998条) 債権法改正により、売買等有償契約の担保責任について法定責任説の考え方が否定されて契約責任説的な規定が置かれることとなった。すなわち、特定物・不特定物を問わず、売主には、当事者の意思すなわち契約内容に適合する物を引き渡す義務があり、契約内容に適合しない物であった場合には、買主は売主に対し追完請求等をすることができることとされた(債権法改正により平成32年4月1日に施行される民法(以下、「改正民法」という)条文562条・563条・565条等)。 無償契約である贈与においても、贈与者の契約責任が明確にされることとなった。すなわち現行法上は、贈与者は原則として担保責任を負わないとされているが(民法551条)、改正民法においては、贈与者に契約責任があることを前提とした上で、贈与者は目的物を贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定されることとされた(改正民法条文551条)。 こうした改正民法の規定を遺贈の場合に引き直して考えると、通常、遺言者の意思としては、遺贈義務者に遺贈目的物を相続開始時の状態で引き渡しをさせようとするものと推定することができる。そこで、現行法上の遺贈義務者の担保責任の規定を削除し、遺贈義務者に遺贈目的物を相続開始時の状態で引き渡す義務を負わせ、遺言者が遺言でこれと異なる意思を表示していた場合にはその意思に従うとされた(法案998条)。 また現行法上は、第三者の権利の目的である財産の遺贈について、受遺者は遺贈義務者に対し、第三者の権利の消滅を請求できないとされている(民法1000条)。しかし、第三者の権利を消滅させるべきか否かについても遺言者の意思により決するべきものであるから、上記法案998条の定めがあれば足り、民法1000条は削除されることとなった。 [3] 遺言執行者の権限の明確化等(法案1007条以下) 1 趣旨 現行法上、遺言執行者の法的地位や権限については不明確な部分も多い。また、遺言執行者がある場合の第三者保護が薄いことから、第三者保護の必要性も指摘されていた。 こうした観点から、遺言執行者の権限や第三者との関係等に関する改正がなされた。 2 内容 (1) 法的地位・一般的権限等 (ア) 遺言執行者の法的地位 現行法上、遺言執行者の法的地位について「相続人の代理人とみなす」という規定(民法1015条)がある。しかし 遺言執行者は、遺言すなわち遺言者の意思を実現することを職務とする者であるから、本来は遺言者の代理人的立場にあり、必ずしも相続人の利益のために職務を行う地位にあるわけではなく、相続人の意思に反して行動することもあり得る。 このような考えに基づき、民法1015条は削除され、「遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」として、遺言執行者の行為の効果が規定されることとなった(法案1015条)。 (イ) 遺言執行者の権限 また現行法上、遺言執行者の一般的な権限として「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされているが(民法1012条)、判例上、遺言執行者には必ずしも包括的な権限があるわけではなく、遺言内容の実現の範囲で権限が与えられているとされている。このように遺言内容により遺言執行者の権限の範囲も変動するため、「遺言の内容を実現するため」に権利義務を有するということが明記された(法案1012条)。 法案1012条は、遺言執行者は遺言内容を実現するために行動する者であり、必ずしも相続人のために行動するわけではないという前記遺言執行者の法的地位を明らかにする意味も持つ。 (ウ) 相続人への通知義務 他に、遺言執行者が任務開始した場合の相続人への遺言内容の通知義務が規定された(法案1007条2項)。 (2) 特定財産に関する遺言の執行に関する権限 (ア) 特定財産に関する遺言の執行 後日解説することとするが、遺産分割によるものか否かに関わらず、相続に際して法定相続分を超える権利承継があった場合は、法定相続分を超える部分については、対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないとされることとなった(法案899条の2第1項)。 現行法上は、特定の財産を相続人に承継させる遺言(相続させる旨の遺言)により権利を承継した場合には、対抗要件なくして第三者に権利を対抗できるとされている(最判平成14年6月10日)ことを修正するものである。 この改正により、相続人にとって、相続により承継した権利の対抗要件を具備することは重要なものとなる。 そこで、この点を明確にすべく、遺言執行者は対抗要件具備のために必要な行為をすることができるとする規定が置かれることとなった(法案1014条2項)。 (イ) 特定財産が預貯金債権であるとき 特定の財産を相続人に承継させる遺言の対象財産が預貯金債権である場合、遺言執行者としては、相続人に預貯金債権の対抗要件を取得させ、預貯金債権を行使させる(預貯金の名義を相続人に変える)ということも考えられる。 しかし、実務上、相続財産である預貯金の名義変更をするということはほとんどなく、預貯金を解約又は払戻しをすることが通常であり、遺言者の通常の意思にも合致する。 そこで、預貯金債権を相続させる旨の遺言がある場合には、遺言執行者に預貯金債権の払戻し・解約を行う権限を与える旨が定められることとなった(法案1014条3項)。 ただし、解約については、相続させようとする預貯金債権の全部を目的とする遺言がある場合に限られる(法案1014条3項但書)。 (ウ) 被相続人が遺言で別の意思表示をしたとき 当然ではあるが、被相続人が遺言で別の意思表示をしていれば、遺言執行者としては遺言に従わねばならない(法案1014条4項)。 (3) 遺言執行者の復任権 現行法上、遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ第三者に任務を行わせることができないとされている(民法1016条1項)。しかし、法的知識のない相続人が遺言執行者となることも多いことから、復任のための要件を緩和することが提案されていた。 そこで、遺言執行者は相続人の法定代理人であると解されていることを考慮し、他の法定代理人の復任権(民法106条、改正民法105条)同様、「自己の責任で」第三者に任務を行わせることができるとされ(法案1016条1項)、やむを得ない事由があって復任する際には、遺言執行者の責任は選任及び監督に限定すると定められた(法案1016条2項)。 (4) 第三者保護 現行民法1013条及び判例により、遺言執行者がある場合、相続人の遺言執行妨害行為は絶対無効とされている。しかし、この「遺言執行妨害行為は絶対無効」を貫くと、遺言執行妨害行為に基づき利害関係を有することとなった第三者は、遺言内容や遺言執行者の存在を知らなかったとしても、不測の損害を被ることとなる。 そこで、遺言執行妨害行為は原則として無効であるとしつつ、善意の第三者には対抗できないことが定められた(法案1013条2項)。 また、遺言執行者がいたとしても、相続人の債権者が権利行使できることも定められた(法案1013条3項)。 [4] 自筆証書遺言の保管制度の創設(法務局における遺言書の保管等に関する法律案) 1 趣旨 自筆証書遺言には、作成後の紛失の恐れ、相続人による隠匿・変造の恐れ、相続人が遺言の存在を知らないまま遺産分割がなされる恐れ、遺言の真正をめぐる紛争の恐れなど、公正証書遺言に比べ、問題が生じる恐れが高い。こうした問題を防止すべく、中立な第三者が自筆証書遺言を保管する制度の創設が提案されていた。 これを受けて、今回の改正相続法案と同時に、法務局で自筆証書遺言の保管を取り扱うこととする「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」が国会で成立した。 2 内容 「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」の概要は、以下の通りである。 ◆遺言書保管官(法務局職員)が、遺言者の申請に基づいて遺言書(自筆証書遺言に限る)を保管する。 ◆遺言書保管を申請する場合は、本人が出頭して行わねばならず、本人確認資料も必要。 ◆遺言者は、いつでも、保管されている遺言書の閲覧・保管申請の撤回を申請できる。 ◆遺言書保管官は、遺言書を保管するほか、電子記録(遺言書保管ファイル)として遺言書の画像情報を保管する。 ◆相続人・受遺者・遺言執行者など一定の者(法案では、「関係相続人等」と呼んでいる)は、遺言者の死後、遺言書保管ファイルに記録された事項の証明書(遺言書情報証明書)の交付を受け、あるいは遺言書原本の閲覧を求めることができる。遺言書の写し(遺言書保管ファイルとして記録された画像)は証明書により交付されるが、遺言書原本の交付はされないので、遺言書原本は法務局で保管され続けることとなる。 ◆誰でも、自分が「関係相続人等」となるような遺言書が保管されていないか、遺言書保管官に請求して確認の証明書(遺言書保管事実証明書)を交付してもらうことができる。 ◆遺言書保管書が保管している遺言書については、検認の手続きは不要。 法務局における遺言書の保管等に関する法律案の詳細は、法務省ホームページから確認されたい。 (了)