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中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第12回】「役員退職金をめぐる税務の基本と使い途」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第12回】 「役員退職金をめぐる税務の基本と使い途」   税理士法人トゥモローズ   中小企業経営者の老後資金のうち忘れてはならないのが、役員退職金である。役員退職金については、その性質上、基礎編と応用編の2回に分けて解説する。今回は基礎編として、役員退職金の税務上の取扱いやその使い途について、基本的な部分を確認していきたい。   1 役員退職金の概要 会社が役員退職金を準備する理由は2つある。1つは、社長が現役時に万が一のことがあった場合に、その社長死亡後の遺族の生活を保障するためである。もう1つは、社長勇退後の老後の生活資金や相続資金で必要となるためである。 役員退職金をいくらに設定するかについては、会社の資金繰りの問題や税法上との絡み等で、適正値を算出することが実務上も悩ましい部分である。特に近年は、役員退職金が過大であるとして税務当局と納税者の間で見解が相違し、訴訟に発展することも少なくない。 過大役員退職給与として税務当局から否認されてしまうと、法人税上の損金にならない一方で、所得税法上は退職所得である事実は変わらないため、通常通り所得税が課税される。したがって、税法上、過大役員退職給与にならないように役員退職金を決めることが重要である。   2 役員退職金の税務 (1) 法人税務 ① 過大役員退職給与 法人税法上、過大役員退職給与は、法人税法第34条及び法人税法施行令第70条(以下参照)で定められている。 【法人税法施行令第70条《過大な役員給与の額》第1号イ(抜粋)】 上記条文だけで役員退職金の適正額を判断するのは難しいであろう。実務上は、功績倍率法により役員退職金を算定する方法が一般的である。功績倍率法は、平成29年度の税制改正に伴う下記通達新設により、下記の通り明文化された。 【法人税基本通達9-2-27の2《業績連動給与に該当しない退職給与》】 功績倍率法による計算式の構成要素である「退職時の最終報酬月額」や「功績倍率」について、税務当局と納税者の間で見解が相違するケースが多々ある。特に功績倍率については、類似法人の平均値を取るのか最高値を取るのか、又は、類似法人の範囲等が争点となる。 また、納税者側が類似法人の役員退職金を把握することが困難なことに対して、税務当局側は、「財務省や国税庁が公表している「法人企業統計年報特集」や「民間給与実態統計調査」、税務関係の雑誌(税務通信)の記事、書籍等の資料から、類似法人の1人当たりの平均役員給与を算定することが可能」と主張した事例もある。 これらの詳細な判例等の解説は、次回の応用編にて解説することとする。 ② 分掌変更 上記の過大役員退職給与とともに税務上問題となるのが、分掌変更の場合の役員退職給与の可否である。この論点についても、まずは通達を確認したい。 【法人税基本通達9-2-32《役員の分掌変更等の場合の退職給与》】 当該論点については、上記の外形的な要件を満たしていたとしても、分掌変更後に実質的に先代経営者が経営に参画しているような状況では、退職給与でなく賞与と認定される可能性もある。こちらについても次回の応用編にて具体的な判例等を用いて解説することとする。 (2) 所得税務 役員退職金は退職所得に該当し、下記計算式により算出する。 退職所得控除額については、下記計算表により求める。 (※) 役員退職金が特定役員退職手当等(勤続年数が5年以下の一定の役員)に該当する場合には、上記退職所得の算式中の「1/2」の適用はできない。 (3) 相続税務 社長が現役のときに死亡退職した場合には、所得税ではなく相続税の対象となる。当該死亡退職金は本来の遺産ではなくみなし相続財産として相続税の課税価格を構成する。 ただし、下記金額に相当する金額は、相続税が非課税とされている。   3 役員退職金の使い途 役員退職金の使い途としては、サラリーマンの退職金の使い途のように老後の生活資金となるのはもちろんのこと、中小企業経営者ならではの使い方も存在する。主には、下記の2つが挙げられる。 (1) 相続資金 中小企業経営者は、財産に占める自社株の割合が高いことが多い。相続財産が不動産や自社株など換金性の低い財産の占める割合が高い相続については、相続人間で遺産分割争いになるケースも少なくない。 このため後継者である相続人がスムーズに自社株を相続できるよう生前のうちに財産構成を見直すことが必要であり、その見直すための1つの手段が役員退職金である。具体的には、役員退職金として得た現金を遺産分割における代償金の原資や相続税の納税資金として活用できるのである。 (2) 株価対策 老後の生活資金や上記の相続資金としての使い途とは若干趣を異にするが、役員退職金を支給することにより利益と純資産を圧縮し、株価を引き下げ、そのタイミングで後継者に自社株を承継する。中小企業経営者の役員退職金には、株価対策としての使い途も存在する。 (了)

#No. 315(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/04/18

令和時代の幕開けに思い馳せる会計事務所経営 【第1回】「会計事務所経営とは何か」~今こそ気づき、考え、そして動くとき~

令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第1回】 「会計事務所経営とは何か」 ~今こそ気づき、考え、そして動くとき~   株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊   皆様、はじめまして。 今回から連載を始めさせていただくことになりました、杉山 豊と申します。 テーマはズバリ、「会計事務所経営」です。 これまで25年余り、全国各地の数多くの会計事務所の先生、そして職員の皆様とたくさんのお仕事をご一緒してきました。 私は生命保険会社の営業マンを長年やってきましたが、実は生命保険の販売支援に限らず、社員向けのセールス研修に始まり、採用面接への協力、そして所長先生の悩みや課題のご相談にもあたってきました。 僭越ながら、いわば会計事務所の経営顧問をやらせていただいたような感じでしょうか。 だからこそ今回、このような連載の機会をいただけたのではないかと考えております。   ➤ 「営業マン」だったからこそわかること さて、「保険の営業マンに会計事務所の経営顧問なんてできるの?」と、疑問を持たれる読者の先生方もいらっしゃるかもしれません。 会計事務所も事業会社であり、顧問先が増えなければ売上が上がりません。 実際に、売上などに不安を感じていた先生方から、 などの悩みや課題の相談を受け、解決してきました。 会計事務所経営の内情を知る、外部の人間であるからこそ、客観的な視点で辛辣かつ的確なアドバイスができるのかもしれません。 本稿を読まれている先生方、どうぞ今日から、訪問してくる営業マンを大切にしてあげてください。 決して飛び込み営業の電話を切るよう職員さんに指示したりしないでくださいね。その営業マンが先生にとっての救世主になるかもしれません。一度会って話してみて、そこで判断すればいいと思いませんか。   ➤ 「経営者」としての自覚を持つ さて、ここで本稿の一番重要なポイントをお話します。 先生方、どうぞこれからは「先生家業」ではなく、「経営者」として事務所経営にあたってください。「先生」と呼ばせずに「社長」と呼ばせるぐらいの気概で立ち居振る舞ってください。 中小企業に経営指導をしていくならば、まずは自分自身が経営者として何を目指すのか、会社をどのようにしていきたいのか、地域に、世の中にどのように貢献していきたいのか、独自の理念(先生の価値観)をしっかりと持ってください。 理念があってこその事業戦略です。どの市場にどんな価値を提供していくのか、月次監査だけが会計事務所の業務ではありません。 これからはテクノロジーの時代です。RPA(※)等が加速度的にこの世の中を凌駕していけば、旧態依然の事業ドメインは危機的状況に陥るでしょう。 (※) Robotic Process Automation:ビジネスにおいて人間のみが対応可能とされていた作業(主にホワイトカラー業務)を自動化・効率化する取り組みのこと。 今後を見据えてRPAを自ら企て、その市場に参入する会計事務所の先生もいる中で、それでも心地よい、変わらない、今の居場所にいることを選びますか? 今や大廃業時代、この流れは止めたくても止まりません。一方で起業する方々には経営指導者がおらず、経営が上手くいかないまま、5年も持たずに会社を畳むことも珍しくありません。 日本経済を支えているのは中小企業です。バブル時代は約650万社と言われていましたが今や約380万社にまで減りました。今後もどんどん企業が減っていく中で、生きた数字を教え伝えていく、若い経営者をどんどん育成していく、そんな使命感で会計事務所経営を考えてみませんか。 顧問先の経営者はいつもこのような外部環境の変化と対峙し、どの市場でどの商品で勝負するべきか、そのためにどんな投資をして、どのように社員を配置していくか・・・。これらを日々、瞬時にYES、NOの意思決定をしているのです。 ここで1つ先生方に覚えておいてほしいことは、「メールはすぐに返してくださいね」ということです。 経営者の日々の選択のスピード感を理解していれば、早く返してあげたくなりませんか。経営者は答えまでは求めていません、メールを見たか見ないかだけをまず知りたいのです。 さて、そんな先生も立派な経営者です。なぜなら従業員を雇っており、その従業員と家族を守らなければならない、責任あるお立場だからです。 従業員のモチベーションを考えていますか。どうしたら気持ちよく元気に働いてくれるでしょうか。どうやったら彼らに満足な給与を渡すことができるでしょうか。 これらを考えるのが経営者です。試行錯誤し事業展開をしっかり考えて、適切な投資と人材配置をしていく。これからは顧問先と同じ気持ちで経営に当たってみてください。 *  *  * 税理士受験者は減る一方だと言われています。 目指す人が増える、魅力ある会計業界にするためには、しっかり事務所として顧問先の経営を黒字化して売上を上げ、そして貢献してくれた従業員に利益を還元し、またその利益で新たなビジネスを創造することです。 日本を明るくする、会計業界を明るくする、それが先生方に求められている役割ではないでしょうか。 (了)

#No. 315(掲載号)
#杉山 豊
2019/04/18

《速報解説》 監査役協会、改正開示府令を受け有報等への記載が考えられる「監査役監査の状況」に関する事項を公表

《速報解説》 監査役協会、改正開示府令を受け有報等への記載が考えられる「監査役監査の状況」に関する事項を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年4月16日、日本監査役協会は、「『企業内容等の開示に関する内閣府令』における『監査役監査の状況』の記載について」を公表した。 これは、2019年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」により、有価証券報告書等において、監査役監査の組織、人員及び手続に加え、監査役及び監査役会の活動状況の記載が求められていることから、その記載の参考とするために公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 「監査役監査の組織、人員及び手続」(第二号様式の「記載上の注意」(56)a(a))及び「監査役及び監査役会の活動状況」(第二号様式「記載上の注意」(56)a(b))の記載について述べている。 監査役の活動の内容は個社により様々であり、同内容の活動でもその重要性が異なることから、参考として示している項目については個社の状況に応じ取捨選択するとともに、これら以外の事由を記載することも妨げないとのことである。 1 監査役監査の組織、人員及び手続 内閣府令の記載上の注意は次のとおりである。 記載が考えられる事項として、次の事項があげられている。 2 監査役及び監査役会の活動状況 内閣府令の記載上の注意は次のとおりである。 記載が考えられる事項として、次の事項があげられている。 (了)

#No. 314(掲載号)
#阿部 光成
2019/04/18

《速報解説》 節税目的の保険商品に係る保険料取扱いを見直した改正通達案がパブコメに付される~最高解約返戻率の区分ごとに一定額を資産計上、遡及適用なし~

《速報解説》 節税目的の保険商品に係る保険料取扱いを見直した改正通達案がパブコメに付される ~最高解約返戻率の区分ごとに一定額を資産計上、遡及適用なし~   Profession Journal編集部   支払保険料の全額が損金に算入される上、解約時の返戻率を高く設定することで解約ありきの保険契約による節税効果を謳った法人向けの保険商品が金融庁、国税庁から問題視されていたところ、4月11日付けでこれらの対応を含む定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いの見直しを目的とした法人税基本通達の一部改正案がパブリックコメントに付された(意見募集締切日は5月10日)。 改正案は上記問題への対応だけでなく、これまでも長期平準定期保険及び逓増定期保険、がん保険等の第三分野保険についてその都度適正化を図ってきた取扱いを整備する内容となっている。 具体的には下記5つの個別通達を廃止し、「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い」としてルールを統一化するとともに、「定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い」(法人税基本通達9-3-5の2)を新設、最高解約返戻率が50%を超えるものについてはこの新設項目によって損金算入が制限される(最高解約返戻率の区分ごとに一定の割合で資産計上を行う)こととなる。なお「最高解約返戻率」とは、その保険の保険期間を通じて解約返戻率が最も高い割合となる期間におけるその割合をいう。 改正案で新設された法人税基本通達9-3-5の2では、法人を契約者とし、役員又は使用人(これらの親族を含む)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものに加入して、その保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額については、最高解約返戻率の区分に応じ、それぞれ以下のとおり取り扱うこととされる。ただし、最高解約返戻率が70%以下で被保険者1人あたりの年換算保険料相当額が20万円以下のものについてはこの取扱いの対象外(法基通9-3-5の取扱いにより全額損金算入)。なお、連結納税基本通達においても同様の改正案が示されている。 なお、今回の改正案による取扱いは、改正通達の発遣日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料について適用し、同日前の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料には遡及しないこととされている。 改正案公表を受け、日本税理士会連合会はホームページ上で会員税理士に向け、通達改正の動向を注視するとともに、通達発遣の前後を問わず、改正案の趣旨及び内容を踏まえた適切な対応を呼びかけている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 314(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2019/04/16

《速報解説》 改正相続法の施行に伴い国税通則法基本通達が改正される

 《速報解説》 改正相続法の施行に伴い国税通則法基本通達が改正される   税理士 菅野 真美   国税庁は、平成31年3月18日付(HP公表は4月8日)で「「国税通則法基本通達(徴収部関係)」の一部改正について(法令解釈通達)」を公表した。 これは、平成30年(2018年)7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、原則として令和元年(2019年)7月1日から施行されるが、それに伴っての改正となる。 以下では新設された通達のうち、2つの項目について解説を行う。   (承継国税額のあん分の割合) 改正前の民法においては、相続財産について遺言により法定相続分以外の割合で相続分を指定することができたが、相続債務については相続分の指定があった場合でも法定相続分で按分されたものとして、債権者は債務者である相続人に対して返済を要求できるだけとされた。 しかし、現実に即した改正により、従来どおり法定相続分に応じて債権者は権利行使できるとしつつ、債権者が共同相続人の1人に対して指定された相続分に応じた債務の承継を認めた場合は、その承継による権利行使もできるとした(民法902の2)。つまり、債権者は2つの選択肢を持てるようになったといえる。 国税通則法においては、民法と異なり、従来から相続人が2人以上あるときは、承継する国税の額は、法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定の規定によりその相続分により按分して計算した額(国通法5②)とされ、例えば、準確定申告の所得税債務を遺言による指定相続分の割合によって相続人が承継することを認めている。 新設された通達によれば、遺言による相続分の指定がない限り、租税債務の承継は法定相続分によるとされた(国基通8-2)。つまり、遺言で相続分が指定されている場合でも、租税債務の承継は指定相続分だけでなく法定相続分によることもできるという意味だが、これは従来からある規定を民法の改正を踏まえて明確化したものと考えられる。   (還付金等の請求権について相続があった場合) 改正前の民法において、相続による財産の承継や相続させる遺言による財産の承継については、対抗要件を備えなくとも第三者に対して相続人が所有者として主張ができた。しかし、これでは取引相手に予期せぬ損害を生じさせることもあるため、改正により法定相続分を超える財産の取得については、対抗要件がなければ第三者に対抗できないとした(民法899の2①)。 また、債権については、法定相続分を超えて承継した相続人が遺言や遺産分割の内容を明らかにして債務者に承継の通知をしたときは、共同相続人全員が通知をしたものとみなして、第三者に対抗できるとした(民法899の2②)。なお、第三者に対抗するためには確定日付を付した通知でなければならない(民法467②)。 この民法の改正を踏まえて通達が新設され、還付金請求権の相続による承継があった場合で、法定相続分を超えて請求権を承継した共同相続人から遺言や遺産分割の内容を明らかにして承継の通知があったときは、その承継は第三者に対抗できるとした(国基通13)。 (了)

#No. 314(掲載号)
#菅野 真美
2019/04/15

プロフェッションジャーナル No.314が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年4月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.314を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/04/11

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第75回】「国語辞典から読み解く租税法(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第75回】 「国語辞典から読み解く租税法(その3)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   6 辞書間における統一的意義(承前) (2) 国語辞典の編集方針 イ 実例主義と規範主義 辞書や辞典では、各々がそれぞれの編集方針を採用している。例えば、三省堂の国語辞典についていえば、「実例に基づいた項目を立てる」という前提の下で、編纂及び編集がされている(飯間・前掲書38頁)。 このような編集方針のことを「実例主義」という。同書の例でいえば、「専門知識を提供する辞書とは別に、『それは要するにどのようなものか』という、基本的なことを説明する辞書」としての役割を担おうとしているからこそ、「実例主義」を採用しているようである。 これに対して、「規範主義」という考え方がある。「今の日本語はこのように使われている」とするのが実例主義であると定義すれば、「この用語は正しくはこうです」と説明することに主眼を置くのが規範主義だという。すなわち、対象となる辞書が実例主義を採用しているのか、規範主義を採用しているのかによって後述するように語釈が異なることになるのである。 辞書が「現代日本語を鏡のように映し出す」役割を持つとした場合、実例主義が「鏡」であるのに対して、規範主義は「かがみ」でも、「手本」としての意味での「鑑」であると説明されている(飯間・前掲書31頁)。 もっとも、規範主義とはいっても、現代の「ことば」には多くの意味が包摂されているのが通例であるし、そもそも、何が正しくて何が誤りかという点自体が歴史と共に流動しているともいえる(この点については、神永暁『悩ましい国語辞典』(KADOKAWA2019)に詳しい。例えば、「辛党」の意味は本来「酒類を好む人」であるが、現在は「辛いものを好む人」という用例もあるというのである(同書96頁)。)。 なにしろ、国語辞典にいう「国語」という用語さえ、それ自身新しい漢語であって、古い用例をみると「日本語」という表現の方が古いようである(田中克彦『ことばと国家』110頁(岩波書店2006))。ドイツ言語学者のアウグスト・シュライヒャー(August Schleicher)は、ことばには生物と同様に祖親があり、それは繁殖によって進化をするというように、ダーウィンの進化論になぞって説明している(田中・前掲書150頁)。 ロ 平易的説明と専門的説明 前述の三省堂の国語辞典は、実例主義に立ちながら、更に、「中学生にでも分かる説明を心がける」という方針を採用しているという(飯間・前掲書39頁)。ここでもまた、平易な説明をする辞書と専門的な説明をする辞書に大きく分かれていることを意識しておく必要がある。 飯間『辞書を編む』には、この点についての好例が掲載されているので引用したい。 これが平易的説明を採用する辞書による「汗」の定義である。 これに対して、専門的説明による辞書は次のように定義する。 このように平易的説明を採用する辞書と、専門的説明を採用する辞書との間には、説明の仕方に大きな違いを見せている。そうであるとすると、仮に、平易的説明をする辞書と専門的説明をする辞書を比較したとすれば、それらの辞書間に説明の仕方が異なるからという理由だけで、対象となっている用語について、明確な意義や外縁がみえないとする結論を導出すること自体に無理があるというべきであろう。 ハ 簡記主義と詳述主義 前述の平易的説明か専門的説明かに関係するところではあるが、分量として、簡単に記すか、詳しく記すかという編集方針に関しても違いがある。 これも、飯間『辞書を編む』が示すところであるが、以下引用したい。 このように簡記主義を採用する辞書がある反面、詳述主義を採用する辞書もある。 ここに例を挙げたとおり、同じ用語でも、辞書によって説明文の分量が大きく異なる。かような面においても、辞書の編集方針が強く影響を及ぼしている。 ニ その他 その他にも、現代語限定かあるいは古語も含むかとか、採用語数を多くするかあるいは少なく留めるかという編集方針の違いもあるようである。もっとも、本稿における関心事項には直接関わりが少ないと思われるので、これらの点については割愛することとする。 (3) 語釈・手入れ ところで、語句を解釈することや説明をすることを「語釈」という。 筆者としては、飯間『辞書を編む』を読んだ際、この語釈については、編纂者の「思い」がその辞書に相当盛り込まれるような印象をもった。他の出版社の出している辞書とは異なる説明を試み、より分かりやすい語釈を採用しようとする編纂者の苦労がここにはあるという。 この辺り、他の出版社の出す辞書と敢えて違う語釈を与え、より分かりやすい説明を施そうとする努力が編纂者にはあるのであろう。この点からすれば、むしろ、辞書や辞典によって、その語釈が異なるのは当たり前であり、編纂者としてはかえって同じ説明を行うという選択肢は選ばないというのである。 したがって、前述の長崎地裁が注目したとおり、辞書や辞典によってその説明が異なることは、むしろ当然であって、もちろん同じ用語の説明をする以上、そこに共通点は発見し得るであろうが、説明の仕方が必ずしも合致しない理由はこの語釈の取り方によっているのではないかと思われるのである。 もっとも、語釈は、編纂者の自由になされるものとする理解は必ずしも妥当せず、前述のとおり、編纂者が徹底した用例採集をした結果の結実であるとみるべきであって、いわば、編纂者の用例採集と編纂者の「思い」がその辞書独自の語釈に展開されているとみるべきであろう。 すなわち、語釈の違いは用例の取り方の違いでもあり、編纂者の思いや編集方針の違いでもあるのである。また、語釈についての手直しを「手入れ」というが、手入れにおいても編纂者の強い「思い」が反映しているといえよう。   7 語釈の違いと意味の違い これらのことから、辞書や辞典には、それぞれの編集方針があり、その編集方針によって、採用項目や語釈に大きな違いあることが分かった。 このように考えると語釈には辞書や辞典ごとに独自のものがあることが判然とする。それは、これら語釈が編集方針に大きく左右されるものであるからである。したがって、辞書や辞典をいくら沢山並べてみても、そこに共通項を見出すこともあれば、見つからないことも当然にあるのである。 そうであれば、辞書や辞典のそれぞれの特徴を踏まえて解釈論に利用すべきことにもなろう。 上記を踏まえてもう一度長崎地裁判決を眺めてみたい。 すなわち、同地裁は、「サービス業」について、日本語大辞典(講談社)、社会科学総合辞典(新日本出版社)、精選版日本国語大辞典2(小学館)、日本国語大辞典5(小学館・第二版)、世界大百科事典(平凡社)、広辞苑(岩波書店・第六版)、大辞林(三省堂)のそれぞれの定義を踏まえた上で、次のように説示している。 ここで注意が必要なのは、長崎地裁判決が採用した辞書や辞典の用い方である。辞書や辞典に共通の説明がないからといって、概念の理解が統一されていないと結論付けるのは早計であると指摘できるのである。 その卑近な例として、例えば、「右」という用語の意味を考えてみたい。 前述の「改築」概念が争われた事例において、控訴審で税務署長側が採用した『新明解国語辞典〔第7版〕』(2011年)と『岩波国語辞典〔初版〕』(1963年)を引いてみることとしよう。 辞書や辞典によって語釈は異なることがあるのは前述のとおりであるし、上記のように極めて簡単な用語である「右」の語釈でさえ辞書によって異なっているのである。しかしながら、辞書や辞典によって「右」の語釈が異なるからといって、国民の間に、「右」自体の理解が統一していないということではないのである。 そうであるにも関わらず、長崎地裁は、辞書や辞典が統一的な語釈を採用していないことのみをもって、「日本語の通常の用語例として、『サービス業』の 外縁が明確にされているということはできない。」とするのであるが、同地裁の考え方によれば、辞書や辞典の語釈が異なることから、「右」という用語の「外縁が明確にされていることはできない」ということになるのであろうか。 この導出された結論が誤っていることは火を見るより明らかであるといわざるを得ない。つまり、辞書や辞典の語釈が異なるからといって、そのことから、用語の外縁が明確にされているか否かを判断することには無理があるのであって、語釈が異なるということは、そもそも、辞書や辞典の用例の取り方や、編纂者の思い、あるいは編集方針の違いが反映されたものであるということを忘れて、辞書や辞典の語釈の比較をしてはならないということを物語っているのである。 少なくとも、辞書や辞典の語釈を比較しただけでは日本語の通常の用語例の外縁が明確かどうかを決定することはできないというべきであろう(もちろん、参考の一つとして位置付けることまでをも否定するものではない。)。   8 辞書や辞典から租税法を読み解く(まとめ) 前述のとおり、辞書や辞典を解釈の資料として活用すること自体には問題がないが、辞書や辞典の使い方として、それぞれの辞書や辞典を並べて、共通の説明がないことを理由に一般概念を否定するような利用の仕方には強い疑問を覚えるところである。 そもそも、ウィスキーを飲んだことのない人にウィスキーの味をことばだけで伝えることができないのと同様、人それぞれの経験が異なっているので、ことばの「意味」を他人に伝達することはできないのである(鈴木孝夫『ことばと文化』95頁(岩波書店2018))。 もっとも、ことばの定義を伝えることは可能である。「しぶい」という言葉を、「渋柿を食べたときなどの、しびれるように舌を刺激する感じを与える。」と説明する辞書があったとすると、それは、どのような方法でその感覚を得ることができるかという、いわば「目的地に至るまでの道案内」を述べることによって、その先は同一(近似)の条件の下では、同一(近似)の体験を得ることができるという、証明不可能な直感的前提にいっさいを委ねることで、説明をすることに代えることができるのである。 これを定義といい、「対象そのものを教えるのではなく、対象の含まれる範囲を明確にすること」といってもよかろう(鈴木・前掲書96頁)。 そもそも、辞書や辞典の編纂者はことばの意味とことばの定義の区別をはっきりさせていないと指摘されているし(鈴木・前掲書86頁)、ことばを他のことばで置き換えて説明する方式を多用するが、それ自体は、ことばの意味を適切に示しているとはいえず、「ことばの置き換え方式は、いわゆる意味の説明を一段延期しただけ」であって、説明したことにはなっていないという循環論が多くの用語の説明においても散見されるのである(鈴木・前掲書88頁は、ある辞書が、「石」の意味を「岩より小さいかたまり」と説明しておきながら、「岩」の意味を「石のかたまり」と説明している循環論を例として掲げている。)。 このように考えると、辞書や辞典から言葉の意味を導き出すことは不可能であるといえよう。参考にするにしても、辞書や辞典を並べて、一般的な用語の意義が統一していないなどとの判示自体、まったく意味のないことを示しているといわざるを得ないのである。   結びに代えて 辞書や辞典にはそれぞれ顔がある。 本稿においてしばしば引用している飯間浩明『辞書を編む』によれば、「そのことばが正しいか間違いか、判断を求めたい人」にとっては、『岩波国語辞典』や『明鏡国語辞典』が向いているといい、「そのことばが、いつ頃から使われているかを知りたい人」にとっては、『新潮現代国語辞典』が、「そのことばについて、その辞書なりの解釈を知りたい人」には『新明解国語辞典』が向いていると論じている(同書230頁)。 なるほど、しばしば『新明解国語辞典』の語釈については、そのユニークさが面白がられて、興味本位に注目されることさえしばしばある。前述の東京高裁において、税務署長側が「改築」の意味を確定するために、『新明解国語辞典』を持ち出して主張している点についても、筆者は不安感を拭えないのである。 (了)

#No. 314(掲載号)
#酒井 克彦
2019/04/11

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第9回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法上の目的論的事実認定の過形成②-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第9回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法上の目的論的事実認定の過形成②-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、「租税法律主義と実質主義との相克」について、税法上の目的論的事実認定の過形成①として、私法上の法律構成による否認論の意義及び狙い・位置づけを述べた上で、租税法律主義の見地からその許容性を否定する私見を述べたが、今回は、私法上の法律構成による否認論について判例がどのような立場に立っているかを検討することにしたい。 既に前回、下級審において①映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁、②ガーンジー島法人所得税制事件・東京高判平成19年10月25日訟月54巻10号2419頁、③住所国外移転[武富士]事件・東京高判平成20年1月23日訟月55巻2号244頁等で、私法上の法律構成による否認論(②③については、これより射程の広い事実認定による否認論)が採用されたものと解される旨を述べたが、今回は、それらの事件の上告審において、最高裁がどのような判断を示したのかを検討することにする(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第3章第2節参照)。 前記の3つの事件のうち②及び③においては、最高裁が高裁の判断を直接否定したものと解される判断を示した(【73】【75】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。まず、これらの事件からみておこう。 なお、前々段落では括弧内で、事実認定による否認論の方が私法上の法律構成による否認論よりも射程が広い旨を述べたが、それは、②ではガーンジー島の法人所得税の性質決定が、③では住所の判定という、私法上の法律関係ないしその法形式に係る契約解釈とは異なる、課税要件事実の認定が、それぞれ問題にされていたからである(課税要件事実の認定の意義については【56】参照)。私法上の法律構成による否認論は、私法上の法律関係ないしその法形式という課税要件事実についてその認定(契約解釈)が問題にされる場合における、事実認定による否認論である。以上のことを考慮して、以下の見出し等では、「事実認定・私法上の法律構成による否認論」と表記することにする。   Ⅱ 事実認定・私法上の法律構成による否認論「直接否定」判例 1 ガーンジー島法人所得税制事件 本件は、内国法人がタックス・ヘイブンとして有名なガーンジー島(英国王室領)に所在する子会社に、課税方式や税率の選択を認める同島法人所得税制において、当時のタックス・ヘイブン対策税制(租特66条の6)のいわゆるトリガー税率(25%)を若干上回る税率(26%)を選択させることによって、同税制の適用を回避しようとした事案である。課税庁はガーンジー島法人所得税(本件外国税)について、「税という名称にもかかわらず、その実質は、外国法人に本国におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるサービスを提供するための対価といい得るもの」と認定することによって、タックス・ヘイブン税制のトリガー税率に係る「外国法人税」該当性を否定した。 つまり、課税庁は、本件外国税の性質決定という事実認定によって本件外国税の「外国法人税」該当性、したがって「外国法人税」の納付の事実そのものを否定し、もってタックス・ヘイブン対策税制の適用要件の充足を主張したのであるが、これは事実認定による否認論に基づく主張である。東京高裁は、次のように判示して課税庁のこの主張を認めた(下線筆者)。 これに対して、最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁は、ガーンジー島法人所得税の「外国法人税」該当性の判断に当たって、❶確立された判例上の租税概念、すなわち、「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付」(旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁。大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁も同旨。第3回Ⅱ参照)に照らして、「本件外国税がそもそも租税に該当しないということは困難である。」と判断した上で、❷関係法令の解釈によって「外国法人税」該当性を肯定した。 最高裁は、前記❶の判断に関して次のように判示している(下線筆者)。 この判示においては、2段落目の「しかし」以下の2つの文章が同じく判例上の租税概念の要素を肯定する判示でありながら、両者の間に、それぞれの表現の点で消極的肯定(「否定することはできない」)と積極的肯定(「明らかである」)という際立った違いが認められる。このことは、最高裁が2段落目の2つ目の文章で、本件外国税の非対価性は「明らかである」として租税該当性に関する積極的肯定の判断を示すことによって、原審とは異なり、本件外国税をタックス・ヘイブン対策税制適用回避の対価として性質決定するという、事実認定による否認論を採用しないことを明らかにしたものと解される。 2 住所国外移転[武富士]事件 本件は、国外に移転した財産の贈与に対する贈与税の課税を、受贈者が住所を香港に移転することによって、回避しようとした事案である。本件において、課税庁は当初から、贈与税回避の目的で香港に渡航したことは贈与税の課税における「住所」の認定において十分に考慮されなければならない旨を主張していたが、これも事実認定による否認論に基づく主張である。 東京高裁は「住所」該当性の判断基準について次の❶の判示を行った上で、「租税回避の目的等」について次の❷の認定を行った。 東京高裁は、❶にいう「外部から客観的に認識することができる居住者の居住意思」の認定において❷の事実をも考慮することによって「被控訴人の居住意思の面からみても、香港を生活の本拠としようとする意思は強いものであったとは認められない」として、客観的事実との総合判断の結果、被控訴人の住所は国内にあると認定し、課税庁の前記の主張を認めた。 これに対して、最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁は、「住所」該当性の判断基準について判例に従って次の❶の判示を行った上で、次の❷の判示(下線筆者)に基づき原審による住所の認定を否定した。 最高裁は上記❷の下線部で住所の認定における「贈与税回避の目的」(租税回避目的)の考慮を明示的に否定していることからすると、租税回避目的を事実認定において「重要な間接事実」として考慮する、事実認定による否認論(前回Ⅱ1参照)を採用しない立場を明確に示したものと解される。 なお、最判平成29年1月31日民集71巻1号48頁は養子縁組無効確認請求事件において以下のとおり判示したが(下線筆者)、この判断は租税事件における判断ではないものの、住所の認定に関する最高裁の前記の判断の系譜に属するものと考えられる。   Ⅲ 事実認定・私法上の法律構成による否認論「間接否定」判例 最後に、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件をみておこう。本件は、いわゆるセール・アンド・リースバック取引を基本とする、循環金融との複合的な「売買契約」(本件売買契約)により「取得」した映画フィルム(本件映画)の減価償却費を利用したタックス・シェルター(費用・損失控除等の租税利益を人為的あるいは殊更に発生させ、これによって課税所得を打ち消す(shelter)ことを目的とする投資をいい、租税回避の一種である。【69】参照)の事案である。 本件において、課税庁は「本件売買契約は事実認定・私法上の法律構成による否認により、売買契約としては不成立ないし無効であるとして、本件映画が減価償却資産には当たらない」と主張した。この主張は、本件売買契約の不成立・無効を認定することによって本件映画の「取得」を否認し、もって本件映画の減価償却費の損金算入を否認するための主張であると解されるが、大阪高裁は次のように判示して課税庁のこの主張を認めた。 これに対して、最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁は、結論としては原審と同じく本件映画の減価償却費の損金算入を否定したものの、理由づけに関しては、原審が採用したと解される事実認定・私法上の法律構成による否認論に(少なくとも明示的には)言及することなく、次のように判示して(下線筆者)、法人税法31条1項の解釈に基づき本件映画の減価償却資産該当性を否認し、もって上記の結論を導き出した。 この判決に関する調査官解説では、「本判決は、租税回避行為につき、税法に明文の根拠のない一般的な否認法理を用いることなく、個別の税法の規定の要件解釈により対処するという方向性を示したものということができ、重要な意義を有するものと考えられる。」(谷口豊「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成18年度(上)163頁、184頁。下線筆者)という評価がなされている。 この調査官解説にいう「税法に明文の根拠のない一般的な否認法理」は事実認定・私法上の法律構成による否認論を指すものと解されるが、同解説は、最高裁が同否認論を「用いることなく」と述べているだけであって、同否認論を否定したとは述べていない。したがって、「私法上の法律構成による否認を否定するものではなく、そのことについての判断を避けた上で、減価償却資産の別な課税要件の存否で決したものと考えられる。」(今村隆「判批」ジュリスト1333号(2007年)146頁、148頁)との見方も成り立ちはするかもしれない。 しかし、大阪高裁が事実認定・私法上の法律構成による否認論によって本件映画の「取得」を否認したのに対して、最高裁は本件映画の「取得」それ自体は否認していないと解される。というのも、最高裁は本件映画に関する権利について「移転している」、「失っている」と説示しているが、そのような説示は、論理的には、本件映画に関する権利の「取得」を前提としているはずであるからである。「取得」していないものについて、もし「移転している」、「失っている」と判断しているとすれば、その判断が論理的に破綻していることは明らかである。 本件映画の「取得」に関しては、確かに、判決文では「・・・・・・を取得したとしても」という表現が用いられており、その点を捉えて「仮定的に判断している」(今村・前掲147頁)と理解することもできるかもしれない。しかし、その表現を用いた説示が傍論の中での説示であれば格別、判決理由(民訴253条1項3号)の中での説示である以上、「仮定的に判断している」という理解は妥当でない。というのも、仮定的な判断は、判決理由すなわち「判決において主文の判断を導くに至った前提をなす事実の認定や法の適用を示して主文に至る判断経路を明らかにする部分」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)1087頁)においては、不要な判断であるからである。もし最高裁が仮定的な判断を前提にして主文の判断を導くようなことをするのであれば、その主文の判断はまさに「砂上の楼閣」の如き判断といわざるを得ないことになろうが、そのような判断を最高裁がするとは到底考えられない。 そうすると、「・・・・・・を取得したとしても」という表現は、「仮定的に判断している」ことを意味するものではなく、その表現を用いた説示を含む一文の前後の文脈からすると、本件映画に関する権利のほとんどは他に「移転している」、本件組合は実質的には本件映画についての使用収益権限及び処分権限を「失っている」、というような状態に至っては、その前に「本件映画に関する所有権その他の権利を取得した」という事実の認定は、もはや、主文に至る判断にとって直接的には重要でないということを意味するものと解される。 以上により、最高裁は、事実認定・私法上の法律構成による否認論を直接正面からは否定してはいないが、事実認定のレベルでは本件映画の私法上の「取得」を肯定する認定を前提としつつも、「[法人税法31条1項という]個別の税法の規定の要件解釈」によって定立した減価償却資産に係る規範に本件映画は当てはまらないと判断したものと解され、その意味で事実認定・私法上の法律構成による否認論を少なくとも間接的には否定したものということができるように思われる。   Ⅳ おわりに 事実認定・私法上の法律構成による否認論について、筆者が否定的な立場に立つことは前回述べたところであるが、今回の検討からして、判例も直接的又は間接的に否定的な立場に立つものと考えられる。 このことは、判例が前記の調査官解説にいう「税法に明文の根拠のない一般的な否認法理」を採用しなかったという意味で、租税回避論において重要な判断を示したものといえる(租税回避論については、いずれ改めて詳しく検討することにしたい)とともに、税法上の目的論的事実認定の過形成(前回Ⅳ参照)を阻止したという意味で、税法上の事実認定論において重要な意味をもつといえよう。 (了)

#No. 314(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/04/11

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第1回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第1回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   連載に当たって 収益をいつ、いくらの金額で計上すべきであるかは、法人税法上の所得金額を適正に計算するために、極めて基本的かつ重要な論点の1つである。これまで、かかる収益の年度帰属(計上時期)及び収益の額の論点を規律する最も重要な規定は、法人税法22条という所得計算の通則規定であったが、平成30年度税制改正では、法人税法22条よりも、資産の販売等に係る収益に関して明確で具体的な内容を有する法人税法22条の2がここに加えられた。 法人税法22条の原型は、1965年(昭和40年)の法人税法全文改正で作られた。同条に関する改正を振り返ると、1967年(昭和42年)に公正処理基準に従った計算を要請する規定(現行法4項)が挿入され、その後、1998(平成10)、2000(平成12)、2006(平成18)、2010(平成22)年で資本等取引(現行法5項)に関する細かな改正がなされたのみである。よって、インパクトのあるものとしては、今回の改正は1967年(昭和42年)以来のものといってよい。 今回の改正は、2018年3月30日に民間の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)によって公表された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」又は「基準」という)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」又は「指針」といい、設例部分を「指針設例」という)に伴うものである。 租税法の代表的な教科書においては、「収益および費用の年度帰属をめぐって、きわめて多くの租税争訟が生じているが、これらの個別の問題の大部分については、企業会計上その取扱は白紙の状態である」ことが指摘されてきたが(金子宏『租税法〔第23版〕』350頁(弘文堂2019)の脚注20)、収益の認識については、わが国にも包括的で詳細な会計基準が誕生したことになる。 連結財務諸表のみならず個別財務諸表にも適用されるこの収益認識会計基準は、実現主義や販売基準などの収益に係る諸原則を定める企業会計原則に優先するものとされている。仮に、収益認識会計基準と法人税法それぞれにおける収益認識のルールが相違する場合には、企業は法人税の申告に当たり、煩雑な申告調整を強いられる可能性もある。 中小企業は、収益認識会計基準を強制適用されるわけではないが、任意に適用することは可能である。とはいえ、平成30年度税制改正で導入された資産の販売等に係る収益に関する改正規定は、その適用に当たり、直接的には、収益認識会計基準を適用しているか否かを問うものではない。すなわち、中小企業にも適用されうるものである。また、平成30年度税制改正では、返品調整引当金や長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例といった既存の規定を廃止等する改正も行われている。これらの点で、中小企業にも改正の影響があることはいうまでもない。 では、改正法はその具体的内容という面において、どのような、どの程度の影響力があるというべきか。この点は即答が難しい。資産の販売等に係る収益に関する改正規定が実務の中でどのようにワークし、実際の適用場面でいかなる問題を提起するのか、という点について、現段階で詳説することは困難である。しかしながら、政令を含む改正規定及び改正された関係通達の下で、実務は動き出している。 本連載は、このような状況に鑑み、資産の販売等に係る収益に関する改正規定(法人税法22条の2)の逐条解説や収益の計上に関する事例の研究等を通じて、今後、様々な場面で起こりうる問題又は紛争の予防ないし解決にいくらかでも貢献することを目的とする。 - 留 意 点 - 本連載は、財務省主税局又は国税庁の解説や通達等の内容をそのまま情報提供することを意図するものではない。主税局が公表する税制改正の解説は時に立案担当者の説明として重視されるものであるし、国税庁が公表する通達やQ&Aなどは、一般に、難解で抽象的な税法の条文をわかりやすく具体的に解説する点で納税者にとって有益なものである。 しかしながら、これらはあくまで法令の内容を理解するための参考資料にすぎない。租税法の世界には、租税の賦課・徴収は必ず法律の根拠に基づいて行われなければならないという峻厳なる租税法律主義の原則が存在する(憲法30、84)。かかる原則の面前では、法律ではなく、また、法律からの委任によって制定されたものではない当局の解説や通達等が直接的には法規範性を有していないことの意義を軽視することはできない。 以上を踏まえて、本連載では、新しく制定された法人税法22条の2及び関連する条文等に軸足を置いて、法的な観点から考察を進める。 《本連載の構成(予定)》 本連載は次のような構成で進めることを予定している。   第Ⅰ部 収益認識会計基準の概要 第Ⅰ部では、収益認識会計基準の内容を概観する。収益認識会計基準及び適用指針の詳細については、本誌掲載の他の解説を参照されたい。 1 目的と適用範囲 収益認識会計基準は、同基準第3項及び第4項の範囲に定める収益に関する会計処理及び開示について定めることを目的とする。かかる範囲に定める収益に関する会計処理については、「企業会計原則」に定めがあるが、本会計基準が優先して適用される(基準1)。収益認識会計基準の適用に当たっては、適用指針も参照する必要がある(基準2)。 収益認識会計基準は、次のものを除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(基準3)。 顧客との契約の一部が上記(1)から(6)に該当する場合には、上記(1)から(6)に適用される方法で処理する額を除いた取引価格について、収益認識会計基準を適用する(基準4)。 このほか、次の点に留意する。   2 基本原則と収益認識ステップ 本会計基準の基本となる原則は、次のとおりである(基準16)。 理解を深めるために、あえて分解すると次のようになる。 この基本となる原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを適用する(基準17)。 【図表:ステップの見取図】 ステップ2は、契約中に財又はサービスの移転に係る約束が2つ以上含まれている場合に、これを履行義務として、区別して、識別するものである。基本的に、契約中に1つの約束しかない場合には行う必要がない(ステップ4も同様)。もっとも、ステップ5において、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識することになるから、いずれにしても契約を履行義務として捉えておく必要がある。 かように、収益認識会計基準は、契約単位ではなく履行義務単位で収益を認識するのである。 指針設例1を参考に、各ステップのフローを説明すると、次のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   3 適用時期 収益認識会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用される(基準81)。 次のとおり、早期適用も可能である。   4 適用対象企業 収益認識会計基準が適用されるのは、上場会社など金融商品取引法の規制の適用対象会社及び大会社など会社法上の会計監査人を設置している会社である。 中小企業においては、企業会計原則、中小企業の会計に関する指針又は中小企業の会計に関する基本要領等が適用される。中小企業に収益認識会計基準が強制適用されるわけではない。もっとも、中小企業が企業会計基準を適用することは妨げられないため、収益認識会計基準を適用することも可能である。 また、連結財務諸表の連結範囲に含まれる子会社である中小企業について、「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一する」とされていることに注意が必要である(企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」17)。なお、収益認識会計基準は、基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定めることとしている(基準99)。   5 第Ⅰ部のまとめ 第Ⅰ部では、次回以降における考察に差し当たり必要な範囲で収益認識会計基準の概要を確認した。同基準の内容について、現段階で理解しておきたいことを要約すると、次のとおりとなる。 (了)

#No. 314(掲載号)
#泉 絢也
2019/04/11

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第4回】「親族内に後継者がいない場合の事業承継対策」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第4回】 「親族内に後継者がいない場合の事業承継対策」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私Aは、健康食品の製造販売を営む非上場会社Y社の3代目社長です。創業者である祖父B、2代目社長の父CからY社の事業を承継し、20年かけて事業を拡大させてきた結果、従業員数は200人を超え、売上・利益ともに順調に拡大を続けています。 私も60代後半となり、後継者へのバトンタッチを考えなければならない年齢に差し掛かっているのですが、私には子供がおらず、親族の中にも会社経営を任せることができるような者が見当たりませんので、同族経営にはこだわらず、当社を経営していく意志と能力のある人に会社を継いでもらいたいと考えています。 メインバンクからはM&Aの提案も受けましたが、従業員の雇用の維持や、取引先にも迷惑をかけたくないので、事業をスムーズに継続することができるように、社内の役員・従業員の中から後継者を決めて事業承継を行いたいと考えています。 この場合、どのような方法で自社株の承継を進めればよいでしょうか。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 役員・従業員への事業承継 近年の少子化や価値観の多様化により、経営者に子供がいない、または、子供がいても会社を継がないケースが増加しています。子供や親族への事業承継は「親族内承継」、親族以外の後継者への事業承継は「親族外承継」といわれていますが、親族内の後継者を確保することができない等の理由から、親族内承継の割合が減少し、親族外承継の割合が増加しています。 親族外承継には、大きく分けて、①役員・従業員への事業承継、②M&Aによる事業承継の2つがあり、いずれも増加傾向にありますが、なかでも役員・従業員承継の割合は近年、急増していると言われています(中小企業庁「事業承継ガイドライン」(平成28年12月)P16)。 オーナー経営者の下で長期間働いてきた役員・従業員への事業承継は、経営方針の一貫性が保たれやすく、オーナー経営者が築き上げてきた企業理念や文化もそのまま承継されることが多いようです。また、従業員の雇用や取引先との関係なども維持されることが多く、利害関係者の不安も少ないことから、M&Aに比べて理解が得られやすい方法とされています。 役員・従業員への親族外承継における大きな課題であった後継者の株式購入資金の問題については、持株会社を活用するMBO(Management Buy-Out:マネジメント・バイアウト)や、従業員持株会、投資育成会社などの安定株主対策を活用するスキームなどが普及してきたこと、事業承継税制の対象に親族外の後継者が加えられたこと、などもあり、後継者の負担を抑えつつ事業承継を行うことが可能な環境が整いつつあります。   [2] MBOによる場合 親族外承継におけるMBOとは、会社の役員又は従業員(従業員が行うものをEmployee Buy out:エンプロイー・バイアウトと呼び、EBOと略されることもあります)である後継者が、オーナー経営者から株式の譲渡を受ける事業承継スキームです。 後継者となる役員・従業員が、オーナー経営者から株式を買い取ることを目的とした持株会社を設立し、金融機関から資金調達をしてオーナー経営者の保有株式を取得することが一般的です。 持株会社は、対象会社からの配当金を原資として借入金を返済するか、あるいは、持株会社と対象会社を合併させて、対象会社の現金預金を原資として借入金返済を行う場合もあります。 スキームの概要は下図のようになります。 【MBOによる親族外承継】   [3] 安定株主対策により後継者の負担を少なくする場合 親族外の後継者は、たとえ後継者に指名されるような人物であっても資産の蓄えがないことが多く、オーナー経営者から株式を取得するために多額の株式購入資金を準備することが容易ではありません。また、金融機関から多額の融資を受けることや、債務保証を受けることに難色を示すことも想定されます。 そこで、オーナー経営者が株式の譲渡対価に執着しない場合や、金銭面よりも会社の存続を優先したい場合には、役員持株会や従業員持株会に配当還元価額などの比較的低い価格で株式を保有してもらう安定株主対策を活用した承継スキームを採用するケースが増加してきています。 次世代経営陣による役員持株会、従業員持株会、外部株主ではあるものの経営方針に賛同し、長期間にわたって株式を保有してくれる投資育成会社(※)のような安定株主に一定割合の株式を保有してもらうことで、後継者となる役員・従業員が承継すべき株式の数を減らし、株式の取得に要する費用を抑えることが可能です。 (※) 地方自治体や金融機関が主要株主である政策実施機関で、安定的な配当を条件に株式を引き受け、長期間にわたって株式を保有しながら、中小企業の成長発展を支援する法人です。 スキームの概要は下図のようになります。 【安定株主対策による親族外承継】   [4] 親族外の後継者への事業承継税制の適用 親族外の後継者に対して贈与税の納税猶予(措法70の7の5)を適用した場合、後継者は贈与税・相続税の負担なく自社株式を承継することが可能です。 一方、オーナー経営者の相続人は、後継者に贈与された自社株式が相続税の課税対象に含められ、相続税負担が増加する結果となります。贈与税の納税猶予の対象となった株式の贈与者であるオーナー経営者に相続があった場合、株式の贈与を受けた後継者(役員・従業員)が遺贈により株式を取得したものとみなして、相続税を計算することとされているためです(措法70の7の7)。 相続税の計算にあたっては、自社株式を他の相続財産と合算し、相続税の総額を計算することとなりますので、納税猶予の適用を受けられない相続人は、自社株式の高い評価額を加味した税率により算定された相続税額を応分に負担しなければなりません。 オーナー経営者に自社株式を承継しない相続人がいる場合には、遺留分への対応や、オーナー経営者の相続人と親族外の後継者が共同して相続税の申告を行う相続税申告の過程において、オーナー経営者の遺産内容が後継者に知れてしまうという問題についてもあらかじめ考慮しておかなければなりませんので、事業承継税制を活用することは現実的ではありません。   [5] 結論 オーナー経営者が相応の譲渡対価を得る必要がある場合には、役員・従業員へのMBOによる親族外承継か、従業員承継が難しい場合にはM&Aによる株式売却を選択せざるを得ないでしょう。親族への事業承継でない以上、相応の対価を求めるのは自然なことと言えます。 一方、オーナー経営者が金銭面に執着せず、会社存続のためなら配当還元価額などの比較的低い価格で株式を手放しても構わないと考える場合には、「安定株主対策」による親族外承継により、後継者たる役員・従業員が少ない負担で株式を承継することが可能となります。 【事業承継スキーム選択フロー】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注) 上記は一例であり、様々な条件によって、必ずしも最適な選択になるとは限りません。 なお、具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 314(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2019/04/11
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