《速報解説》 経産省・中企庁から所得拡大促進税制の平成30年度改正に関する ガイドブック・Q&A集が公表される ~大企業向けは「賃上げ・生産性向上のための税制」と呼称~ Profession Journal編集部 平成30年度税制改正によりその制度が改組され、大企業、中小企業ごとに異なる制度設計となった所得拡大促進税制について、経済産業省及び中小企業庁は8月8日付けでホームページ上において、それぞれの対象企業に向けた「ご利用ガイドブック」及び「よくあるご質問 Q&A集」を公表した。 上記のとおり、経済産業省HPでは大企業向け情報、中小企業庁HPでは中小企業向け情報に分かれており、大企業向けの制度(中小企業も選択可能)を「賃上げ・生産性向上のための税制」、中小企業向けの制度を「中小企業向け所得拡大促進税制」と異なる名称で取り扱っている。 (※) 旧制度に関するガイドブック等資料については、上記経済産業省HPで参照可能。 なお、今回の情報が公表されるまでは、経済産業省HPでは大企業向け制度について「賃上げ・設備投資促進税制(大企業向け)」と表記されていたが、今回の更新により「賃上げ・生産性向上のための税制」へ変更されている。このため、今年度改正で創設された生産性向上特別措置法による固定資産税の特例措置や、すでに廃止された生産性向上設備投資促進税制等と混同しないよう留意されたい。 ガイドブック及びQ&A集の内容については、用語の定義に関する解説など共通する部分もあるが、全体的にそれぞれの制度に特化した内容となっている。 例えば「賃上げ・生産性向上のための税制」には賃上げ要件に加え原則として設備投資要件が設けられているため、経済産業省HP上のガイドブック及びQ&A集では、国内設備投資及び当期償却費総額に関する解説やQ&Aが先月公表された措置法通達を踏まえ掲載されている。 また、上乗せ措置に係る追加要件として両制度共に教育訓練費の増加割合に係る要件はあるものの、比較する教育訓練費の定義が「賃上げ・生産性向上のための税制」と「中小企業向け所得拡大促進税制」では異なる(前者は過去2年平均、後者は過去1年分)ため、それぞれの解説・Q&Aの内容も異なるものになっている。 さらに「中小企業向け所得拡大促進税制」では上記教育訓練費の要件と選択適用で経営力向上計画の認定・報告により上乗せ措置が適用できるため、ガイドブックではこの「経営力向上要件」に関し必要な手続をステップごとに解説するなどページが割かれている。 このように、改正前の旧制度とは異なりそれぞれ別の制度になったという認識を持ったうえで、適用を受ける制度を明確にし、対象となる資料を正しく選択し確認したい。また、制度全体を把握する必要がある場合は、いずれか一方ではなく両HP上の資料に目を通す必要があろう。 さらに、今回公表されたガイドブック及びQ&A集が今後アップデートされることも想定の上、常に最新のものを確認するようにしておきたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2018年8月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.280を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第67回】 「統計数値が租税法解釈に与える影響(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 統計が租税法の解釈に何らかの影響を与えることもあると思われる。 ところで、税理士資格試験免除申請に関して国税庁は、ホームページにおいて、「税法に属する科目等」の学問領域に関する「租税についての経済分析や政策を研究したが、認定が受けられるのか。」との質問に対して、「研究の主たる関心が税法に属する科目等にあるとはいえないような場合」は「税法に属する科目等と密接に関連するものであるとは認められず、認定の対象となる研究領域に含まれません。」とし、その例として、「数学的処理や統計的処理に主たる関心を置いた研究等」を掲げている。 統計的処理に主たる関心を置いた研究は、税法に属する科目等と密接に関連するものとは認められないようであるが、そうはいっても、統計への関心が租税法領域においても重要となることは十分あり得るのではなかろうか。 もっとも、研究の主たる関心が税法に属する科目等にあり、その関心を分析するために統計的処理が重要となる場合には、それは「統計的処理に主たる関心を置いた研究」ということにはならないのであろう。 本稿では、統計と租税法との関わりについて主たる関心を寄せてみたい。 Ⅰ 統計とは何か? 統計が租税法の解釈に影響を及ぼす場面について考えるに当たって、確認のためにも、そもそも統計とは何かを明らかにしておきたい。 一般的な国語辞典によると、統計とは次のように説明されている。 このように、統計とは、個々の要素からその集団の傾向を把握するものであるが、統計数値は立法や行政に如何なる影響を及ぼすのであろうか。以下では、実例を基にこの点を確認する。 Ⅱ 統計と立法・行政 (1) 標本調査 国税庁では、各種の統計調査を実施しており、その内容を行政執行に生かしている。 各種統計調査の中でも、次の示す「申告所得税標本調査」、「民間給与実態統計調査」、「会社標本調査」はとりわけ有名であり、統計内容は国税庁ホームページにおいて公開され、また、大手報道機関からも報道されている。直近の各種調査の発表は以下のとおりである。 例えば、申告所得税標本調査は、昭和26年分から始まり、以後毎年実施されているものである。 この調査は、「申告所得税納税者について、所得者区分別・所得種類別の構成、所得階級別の分布及び各種控除の適用状況の実態を明らかにし、併せて租税収入の見積り、税制改正及び税務行政の運営等の基礎資料とすることを目的としている。」とされるとおり(国税庁ホームページ)、税制改正や税務行政の基礎資料とされている。 (2) 統計年報 また、国税庁は「統計年報」も公表している。 この年報は、「第1回大蔵卿年報書」が明治9年に刊行されて以来、「主税局統計年報書」、「国税庁統計年報書」とその名称を変えて現在に至るものであり、我が国の租税を巡る重要な基礎資料であるといえよう。 なお、国税庁は、当年報の目的について「国税に関する基礎統計として、国税の申告、賦課、徴収及びこれらに関連する計数を提供し、併せて租税収入の見積り、税制改正及び税務行政の運営等の基礎資料とすること」としている(国税庁ホームページ)。 例えば、第142回国税庁統計年報(平成28年度版)では次のグラフのような資料が公表されている(このデータからは、平成18年と同28年の直間比率(直接税と間接税の比率)に大きな差異がみられることがわかる。)。 【国税収入割合】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〔出典:国税庁統計年報平成28年度版〕 (3) 国税庁レポート 国税庁は毎年「国税庁レポート」を公表している。以下では、2018年度版のうちの1項目である「確定申告」について確認してみたい(同レポート20頁以下)。 同レポートによれば、2017年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告を行った申告者は2,198万人に上り、国民の6人に1人が確定申告を行っていることになるという。そして、そのうち、還付申告者は1,283万人を超え、半数以上を占めているとの統計結果が出ている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〔出典:国税庁レポート2018〕 グラフを見れば一目瞭然であるが、この50年間で確定申告を行う個人の数は増加傾向にある。 ここでは、このような統計資料を踏まえ、国税庁が、「納税者の多様なニーズに対応するために様々なサービスを提供→簡単・便利な申告手続の実現に向けた取組を実践」として、今後の税務行政の指針を示しているところに着目しておこう(具体的には、e-TaxをはじめとするICTを利用した申告の推進や、確定申告期間中における日曜開庁の実施を行っているとする。)。 (4) 法改正の具体例 当然のことながら、法律の制定や改正において統計資料が果たす役割は大きい。 ここでは、その一例として、給与所得者に係る特定支出控除の改正を確認することとしたい。 特定支出控除とは、給与所得者が所定の通勤費や転勤に伴う費用等の特定支出をした場合において、その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えるときに、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度であるが(所法57の2)、その特定支出の範囲が制限されていたことから、制度としてほとんど利用されてこなかったという経緯がある。 国税庁の発表によれば、平成23年分確定申告で特定支出控除適用者はわずか4人、翌24年でも6人であったというから、ほとんど利用されない制度であったといっても過言ではない。 こうした統計資料を参考に、平成24年度税制改正において特定支出の範囲が拡大された。具体的には、弁護士や税理士等の資格取得費などが追加されたが、これにより、平成25年分確定申告では、約1,600人が特定支出控除を適用して申告したとされている(国税庁発表)。 なお、特定支出控除は、平成30年度税制改正においてもその範囲の拡張がなされているが、上記のように、法改正と統計の関係性を示す具体例の1つであるといえよう。 以上のとおり、統計資料は立法や行政執行に資するものであるが、統計数値が租税法解釈に影響を及ぼす事例も多い。また、立法政策の合理性判断などにおいても、統計数値が用いられることがある。以下では、そうした事例を具体的にみていこう。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第49回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ④ 持株会社における事業関連性要件の判定 拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)118-119頁では、持株会社における事業関連性要件の判定において、子会社に対する経営指導、不動産や金銭の貸付けによる売上が計上されているとともに、「事業」があると認められるだけの従業者が存在している必要があるものとした。 この点につき、国税庁 質疑応答事例「持株会社と事業会社が合併する場合の事業関連性の判定について」では、 と解説されるようになった。 筆者が、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)に勤務していた当時、田島龍一・佐藤信祐ほか『組織再編における繰越欠損金の実務Q&A』92頁(中央経済社、平成17年)において、実務の経験を参考に同様の解説を行ったが、やや具体性、網羅性が欠けていた。その後、国税庁からは、より具体的な見解が公表されたため、実務では、国税庁の見解をそのまま採用している事案が多いと思われる。 なお、上記質疑応答事例の文言を見ていると、みなし共同事業要件の判定を強く意識した内容となっている。そもそも、グループ外の法人と組織再編成を行う場合には、持株会社同士の合併であったり、持株会社を株式交換完全親法人とし、事業会社を株式交換完全子法人とする株式交換であったりするからである。 この質疑応答事例がみなし共同事業要件の判定を強く意識した内容となっている理由は、平成22年度税制改正前に公表された見解であり、当時は、グループ内で設立された法人と合併する場合であっても、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課されていたからである。 その意味では、現在、持株会社との組織再編が問題となるのは、みなし共同事業要件ではなく、グループ外の法人と組織再編を行う場合における共同事業要件の判定であることが多いと思われる。 ⑤ 持株会社における事業規模要件の判定 前掲の拙著126頁では、事業規模要件の判定は、連結ベースではなく、単体ベースで行うべきであるとした。国税庁から公式見解が公表されていないが、条文上、単体ベースで事業規模要件の判定を行うことが明記されていることから、現在でもそのように解すべきであると思われる。 しかしながら、平成30年度税制改正により、合併後に、合併法人の100%グループ内の法人に事業や従業者を移転したとしても、従業者引継要件、事業継続要件に抵触しないものとされた。これにより、グループ外の法人と合併する場合において、事業規模要件を満たせそうな法人を合併法人とする三角合併を行ったうえで、他の法人に事業や従業者を移転することが可能になってしまったため、租税回避に悪用される危険性が高まったと思われる。 それを考えると、今後の税制改正により、連結ベースにより事業規模要件を判定するように改正すべきであると考えられる。 ⑥ 創設債務の設定と金銭等不交付要件 平成19年度から施行された合併等対価の柔軟化により、吸収分割の対価として、分割法人を債権者とし、分割承継法人を債務者とする創設債務を設定することが可能になった。ただし、新設分割の場合には、合併等対価の柔軟化として認められているのが、社債、新株予約権及び新株予約権付社債に限定されていることから、新設分割の対価として、このような創設債務を設定することはできない。 これに対応し、前掲の拙著193頁では、このような創設債務の設定は、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されていることから、非適格分割に該当するものとしている。 ただし、分割法人を債務者とし、分割承継法人を債権者とする創設債務の設定は、分割の対価と認められず、単なる贈与であるとして、分割法人において寄附金、分割承継法人において受贈益を認識するとともに、税制適格要件に影響を与えるべきではないものとした。 国税局からの公式見解は公表されていないが、上記の見解について争いはないと思われる。 ⑦ 未経過固定資産税と金銭等不交付要件 問題となるのは、未経過固定資産税である。なぜなら、未経過固定資産税を分割承継法人が納税することはできず、未経過固定資産税相当額の金銭を分割法人に支払ったと考えられるため、【第31回】で解説したように、平成17年改正前商法では、金銭等不交付要件に抵触するという見解が公表されていたからである しかし、会社法の施行により、分割の対価として未経過固定資産税の精算を行うためには、合併等対価の柔軟化の手続きによることになった。これに対応し、前掲の拙著195頁では、新設分割の場合には、金銭を対価とすることはできないため(会社法763①八)、分割とは別の手続きで未経過固定資産税の精算をせざるを得ないことを理由として、吸収分割が行われた場合の議論であるとした。 そして、吸収分割を行った場合の取扱いについて、以下のように解説を行った。 現在でも上記の見解に変更はなく、金銭等不交付要件に抵触しないと解すべきであると思われる。さらに、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入されたことに伴い、完全支配関係のある法人間で、未経過固定資産税相当額を負担させたことによる寄附金、受贈益については、それぞれ損金不算入、益金不算入となったため、会社分割とは別個の取引であるとされたことによる納税者のデメリットはかなり小さくなったと思われる。 * * * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)
平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第2回】 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 3 一般社団法人に対する課税 (1) 公益法人税制の改革 一般社団法人の導入等がなされた公益法人制度改革に合わせて、平成20年度の税制改正により、公益法人税制も改正されることとなった。その内容は以下の4点である。 第一に、旧制度の下における場合と同様に、収益事業(34事業、法令5①)から生じる所得に対してのみ課税することとしているが(収益事業課税主義、法法4①)、当該収益事業として課税される範囲が狭くなった。すなわち、公益事業に該当するものその他一定の事業は上記収益事業の範囲から除かれている(公益目的事業非課税原則、法令5②)。 第二に、公益法人等が収益事業に属する資産のうちから公益目的事業のために支出した金額については、法人内部の振替であるにもかかわらず、50%相当額まで損金に算入することが認められるようになった(みなし寄附金、法法37⑤、法令73①三イ)。 第三に、公益法人等のうち公益社団法人及び公益財団法人に係る収益事業については、普通法人と同様に23.2%(800万円以下の金額に対しては19%(※1))の税率で課税されることとなった(法法66①②)。これは、公益法人の収益事業は民間の営利事業と競合するのであるから、競争条件を合わせる(イコール・フッティング)ための措置であると考えられる(※2)。 (※1) さらに暫定税率として15%に軽減されている(措法42の3の2①三十七)。 (※2) 従来は軽減税率で課税することとしていた。金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)424頁。 第四に、公益法人はすべて特定公益増進法人とされたことから(所令217三、法令77三)、所得税法上、公益法人に対する寄附金はその法人の主たる業務に関連するものは広く所得から控除されることとなった(所法78②三、所令217三)。同様に、法人税法上も、公益法人に対する寄附金はその法人の主たる業務に関連するものは、通常の損金算入限度額に加えて、別枠で損金算入限度額に相当する金額まで広く損金に算入されることとなった(法法37④、法令73①)。 (2) 一般社団法人に対する課税 上記(1)は公益法人に対する課税制度全般の改革であるが、公益法人のうちの一般社団法人及び一般財団法人は、非営利法人であるといっても事業範囲に制約がなく、非営利性を担保する仕組みも不十分である。そのため、すべての一般社団法人及び一般財団法人を課税上一律に非営利の公益法人と取り扱うのは、必ずしも適切ではないと考えられる。 そこで、公益法人税制の改革においては、一般社団法人及び一般財団法人を2つの類型に分け、それぞれ異なる課税上の取扱いとなるようにした。 ① 非営利型法人 一般社団法人及び一般財団法人のうち、その行う事業により利益を得ること、又はその得た利益を分配することを目的としない法人であって、その事業を運営するための組織が適正であるもの(公益的非営利型法人、法法2九の二イ、法令3①、法規2の2①)、及び、その会員から受け入れる会費により会員に共通する利益を図るための事業を行う法人であって、その事業を運営するための組織が適正であるもの(共益的非営利型法人、法法2九の二ロ、法令3②、法規2の2①)については、法人税法上、非営利型法人とされ、公益法人等の範囲に含まれることとされた(法法2九の二、別表2)。 それぞれの法人の要件は以下の通りとなる。 〇非営利型法人の要件 非営利型法人の場合、その行う事業については、公益法人と同様に、本来の事業のために受け入れる寄附金や会費収入(共益的非営利型法人の場合)は非課税となる。 なお、非営利型法人の場合、課税上留意すべきは、非営利型法人の要件を満たさなくなった場合の遡及課税である。すなわち、非営利型法人がその要件を満たさなくなった(普通法人となった)場合には、過去において収益事業以外の事業から生じた所得として法人税が課税されていない部分の金額の累積額(累積所得金額)を益金に算入する必要があるのである(法法64の4①)。 ② 非営利型法人以外の法人 上記①の非営利型法人に該当しない一般社団法人及び一般財団法人は、法人税法上、普通法人として、株式会社その他の営利法人と同様に課税されることとなる(法法4)。 なお、前述の通り一般社団法人及び一般財団法人は、公益認定等委員会・審議会の諮問に基づいてなされる行政庁の認定を受けることにより、公益社団法人及び公益財団法人となる。法人税法上、公益社団法人及び公益財団法人は公益法人等に該当するので、収益事業から生じた所得に対してのみ課税され、公益目的事業は非課税となる。 また、公益社団法人及び公益財団法人の場合、みなし寄附金制度(法法37⑤)の適用が受けられるという点は、上記①の非営利型法人と大きく異なる点である。 * * * 一般社団法人及び公益社団法人に対する課税を表でまとめると、以下の通りとなる。 〇一般社団法人及び公益社団法人に対する課税 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q5】 「国内設備投資額、当期償却費総額の意義」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q5] 平成30年度の税制改正により新たに適用要件として定められた「国内設備投資額」及び「当期償却費総額」とは、具体的にどのように集計するのでしょうか。 [A5] 国内設備投資額及び当期償却費総額のそれぞれについて定義規定が設けられており、適用年度における一定の額を合計して集計することとなります。 【解説】 (1) 国内設備投資額の意義 本税制における「国内設備投資額」とは、法人が適用年度において取得等をした国内資産で、当該適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額をいう(措法42の12の5③八)。 ① 取得等 取得又は製作若しくは建設をいい、合併、分割、贈与、交換、現物出資又は現物分配、代物弁済による取得を除く(措令27の12の5⑯)。 本税制は設備投資を促進するための税制であるから、投資を伴わない資産の増加は除外する趣旨と考えられる。 ② 国内資産 国内にある当該法人の事業の用に供する機械及び装置その他の減価償却資産(時の経過によりその価値の減少しないものを除く)をいう(措令27の12の5⑰)。 この点、使用可能期間が1年未満であるもの又は取得価額が10万円未満であるもの(いわゆる少額減価償却資産)並びに一括償却資産も「減価償却資産」に含まれることから(法令133、133の2)、これらも「国内資産」に含まれる。 ここで「事業の用に供する」という表現は、実際に事業の用に供していることを必要としていないことに留意が必要である。 事業供用が必要な場合には「事業の用に供した機械及び装置・・・」、という表現になるべきであるし、これに続く「その他の減価償却資産」のカッコ書きからも、法人税法施行令第13条における減価償却資産の定義のカッコ書きに含まれている「事業の用に供していないもの」が除外され、単に「時の経過によりその価値の減少しないもの」のみが残されていることからも明らかである。このことは新たに設けられた通達においても明らかにされている(措通42の12の5-7)。 したがって以下のものは、「国内資産」に該当しないものと考えられる。 ●棚卸資産 ●有価証券(法法2二十一) ●繰延資産(法法2二十四) ●国外事業所にある減価償却資産 ●土地 ●取得価額が1点100万円以上の美術品等のうち、時の経過によりその価値が減少することが明らかなものを除いたもの ●取得価額が1点100万円未満の美術品等のうち、時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなもの また、取得等した無形固定資産が国内資産に該当するかどうかの判定を行う場合には、下表のように取り扱われることが通達で明らかにされた(措通42の12の5-6)。 なお、適用年度中に取得等した国内資産であっても、適用年度終了の日の前に除売却したものの取得価額は「国内設備投資額」に含まれないので留意が必要である(措法42の12の5③八)。 (2) 当期償却費総額の意義 法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額をいう(措法42の12の5③九)。 償却費として損金経理をした金額には、当該適用年度の決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法により特別償却準備金として積み立てた金額を含み、償却超過額の当期認容額、及び合併、分割等により移転を受けた減価償却資産に係る合併等事業年度前の損金未算入額は含まれない。また、法人税基本通達7-5-1又は7-5-2の取扱いにより償却費として損金経理をした金額に該当するものとされる金額が含まれる(措通42の12の5-11)。 当期償却費総額は、税務上の損金算入限度額ではなく、その母集団である「償却費として損金経理をした額」を対象とした概念であることに注意しておきたい。税務上は償却超過額として否認された部分も「当期償却費総額」に含まれることとなるから、前期以前の償却超過額の当期認容額は「当期償却費総額」から除かれているのである。また合併等事業年度前の損金未算入額についても、自己の設備投資に対応する償却費ではないことから、同じく「当期償却費総額」から除かれていると考えられる。 また、償却費として損金経理をした額には、少額減価償却資産又は一括償却資産の損金経理額も含まれると考えられる。 (3) 決算・申告上の留意点 設備投資に係る要件の判定に関し、「当期償却費総額」が確定する前であっても、前事業年度末の固定資産台帳(税務版)に基づいて翌期償却見込額を集計することは比較的容易と考えられる。 そこで、前年度末のデータに基づく翌期償却見込額を「当期償却費総額」とした場合に、適用要件を満たすために必要な国内設備投資額を逆算し、これに適用年度に予定されている設備投資計画と照らし合わせることによって、設備投資に係る要件を満たすかどうかの事前検討を行うことができると考えられる。 (了)
〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第2回】 「適格請求書発行事業者の義務等」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 【総論】 適格請求書の様式は、法令で定められていない。 したがって、適格請求書として必要な次の事項が記載されていれば、名称を問わず適格請求書に該当する(手書きの領収書でも可)。 適格請求書発行事業者が、適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付した場合においては、これらの書類の記載事項に誤りがあったときには、これらの書類を交付した相手方(課税事業者に限る)に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付しなければならない。 また、記載事項に誤りがある適格請求書の交付を受けた事業者は、仕入税額控除を行うために、売手である適格請求書発行事業者に対して修正した適格請求書の交付を求め、その交付を受ける必要がある(自ら追記や修正を行うことはできない)。 登録日から通知を受けるまでの間の取引について、区分記載請求書を交付していた場合には、適格請求書の記載事項を満たしていないため、通知を受けた後、登録番号や税率ごとに区分した消費税額等を記載し、適格請求書の記載事項を満たした請求書を改めて相手方に交付する必要がある。 なお、通知を受けた後に登録番号などの適格請求書の記載事項として不足する事項を相手方に書面等で通知することで、既に交付した請求書と合わせて適格請求書の記載事項を満たすことができる。 【交付義務の免除】 適格請求書の交付義務が免除される公共交通機関特例の対象となるのは、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送であり、この3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定する。 したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することはできない。 特急料金、急行料金及び寝台料金は、旅客の運送に直接的に附帯する対価として、公共交通機関特例の対象となる。 また、入場料金や手回品料金は、旅客の運送に直接的に附帯する対価ではないので、公共交通機関特例の対象とならない。 卸売市場法に規定する卸売市場において、卸売の業務として出荷者から委託を受けた事業者が行う生鮮食料品等の販売は、適格請求書を交付することが困難な取引として、出荷者から生鮮食料品等を購入した事業者に対する適格請求書の交付義務が免除される。 なお、この場合において、生鮮食料品等を購入した事業者は、卸売の業務を行う事業者など媒介又は取次ぎに係る業務を行う者が作成する一定の書類を保存することが仕入税額控除の要件となる。 農協等の組合員その他の構成員が、農協等に対して、無条件委託方式かつ共同計算方式により販売を委託した、農林水産物の販売は、適格請求書を交付することが困難な取引として、組合員等から購入者に対する適格請求書の交付義務が免除される。 なお、無条件委託方式及び共同計算方式とは、次のものをいう。 また、この場合において、農林水産物を購入した事業者は、農協等が作成する一定の書類を保存することが仕入税額控除の要件となる。 適格請求書の交付義務が免除される自動販売機特例の対象となる自動販売機や自動サービス機とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで、代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいう。 したがって、例えば、自動販売機による飲食料品の販売のほか、コインロッカーやコインランドリー等によるサービスのように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当することとなる。 なお、小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように、機械装置により単に精算が行われているだけのものや、自動券売機のように、代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなものは、自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれない。 【適格請求書の交付方法】 委託販売の場合、購入者に対して課税資産の譲渡等を行っているのは、委託者なので、本来、委託者が購入者に対して適格請求書を交付しなければならない。 このような場合、受託者が委託者を代理して、委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した、委託者の適格請求書を、相手方に交付することも認められる(代理交付)。 また、次の(イ)及び(ロ)の要件を満たすことにより、媒介又は取次ぎを行う者である受託者が、委託者の課税資産の譲渡等について、自己の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書又は適格請求書に係る電磁的記録を、委託者に代わって、購入者に交付し、又は提供することができる。 なお、媒介者交付特例を適用する場合における受託者の対応及び委託者の対応は、次のとおりである。 任意組合等が事業として行う課税資産の譲渡等については、その組合員の全てが適格請求書発行事業者であり、業務執行組合員等が、その旨を記載した届出書を税務署長に提出した場合に限り、適格請求書を交付することができる。 この場合、任意組合等のいずれかの組合員が適格請求書を交付することができ、その写しの保存は、適格請求書を交付した組合員が行うこととなる。 なお、交付する適格請求書に記載する「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」は、原則として組合員全員のものを記載することとなるが、次の事項を記載することも認められる。 適格請求書発行事業者が適格請求書発行事業者以外の者と資産を共有している場合、その資産の譲渡や貸付けについては、所有者ごとに取引を合理的に区分し、相手方の求めがある場合には、適格請求書発行事業者の所有割合に応じた部分について、適格請求書を交付しなければならない。 適格請求書には、適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号の記載が必要であるが、登録番号と紐付けて管理されている取引先コード表などを適格請求書発行事業者と相手先の間で共有しており、買手においても取引先コードから登録番号が確認できる場合には、取引先コードの表示により「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」の記載があるものと認められる。 また、請求書等に記載する名称については、例えば、請求書に電話番号を記載するなどし、請求書を交付する事業者が特定できる場合、屋号や省略した名称などの記載でも差し支えない。 適格請求書の記載事項である消費税額等については、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う。 なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができる。 (注) 一の適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められない。 適格請求書発行事業者が発行する請求書に、適格請求書と適格返還請求書それぞれに必要な記載事項を記載して一枚の書類で交付することも可能である。 例えば、当月販売した商品について、適格請求書として必要な事項を記載するとともに、前月分の販売奨励金について、適格返還請求書として必要な事項を記載すれば、1枚の請求書を交付することで差し支えない。 また、継続して、課税資産の譲渡等の対価の額から売上げに係る対価の返還等の金額を控除した金額及びその金額に基づき計算した消費税額等を税率ごとに請求書等に記載することも認められる(純額主義)。 適格請求書は、一の書類のみで全ての記載事項を満たす必要はなく、交付された複数の書類相互の関連が明確であり、適格請求書の交付対象となる取引内容を正確に認識できる方法(例えば、請求書に納品書番号を記載するなど)で交付されていれば、その複数の書類の全体により適格請求書の記載事項を満たすことになる。 区分記載請求書等に登録番号を記載しても、区分記載請求書等の記載事項が記載されていれば、取引の相手方は、区分記載請求書等保存方式の間(平成31年10月1日から平成35年9月30日まで)における仕入税額控除の要件である区分記載請求書等を保存することができるので、区分記載請求書等に登録番号を記載しても差し支えない。 (了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】 「『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設 (その2:連結納税と単体納税の有利・不利)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 連結納税を採用した場合、大企業に対する租税特別措置の適用除外措置について、次の点で単体納税と比較した場合に有利・不利が生じることとなる。 ① 連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合、連結グループ全体で租税特別措置の適用除外措置が適用されてしまう。 連結納税の場合、連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合(連結親法人が中小企業者に該当しない場合、あるいは、中小企業者に該当するが連結納税の適用除外事業者に該当する場合)、連結グループ全体が適用除外措置の適用対象となってしまうため、単体納税で適用除外措置の適用対象外となっている連結法人がある場合、不利益が生じる。 [ケース1] 連結親法人の資本金が1億円以下のケース(その1) [ケース2] 連結親法人の資本金が1億円以下のケース(その2) [ケース3] 連結親法人の資本金が1億円超のケース [ケース4] 連結親法人が大規模法人の子会社のケース ② 大企業に対する租税特別措置の適用除外措置の適用要件を連結グループ全体で判定する。 連結グループ全体で適用要件(賃上げ要件、設備投資要件、所得減少要件)の判定を行うため、単体納税において、各連結法人ごとに適用要件を満たしてしまう場合でも、連結納税において、連結グループ全体で適用要件を満たさない場合がある。また、逆に、単体納税において、各連結法人ごとに適用要件を満たさない場合でも、連結納税において、連結グループ全体で適用要件を満たしてしまう場合がある。 [連結納税では租税特別措置の適用除外措置が適用されないケース] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [連結納税では租税特別措置の適用除外措置が適用されてしまうケース] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第39回】 「南九州コカ・コーラボトリング事件」 ~最判平成21年7月10日(民集63巻6号1092頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第7回】 「運転資本の分析(その5)」 -仕入債務- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ ▷仕入債務の調査 「仕入債務」は支払手形及び買掛金などの営業上の未払債務をいい、M&Aに際しての調査ポイントとしては、買収対象会社(事業)が営業上の債務として認識すべき仕入代金が網羅的に計上されているか否か、すなわち「仕入債務の網羅性」が重要な項目といえる。 非上場会社にあっては、仕入債務の計上科目として「未払金」や「未払費用」が使用されているケースも見受けられることから、こうした債務科目についても合わせて吟味する必要があろう。 仕入債務のデューデリジェンスにおける主な調査手続を挙げると以下のとおりである。 ▷仕入先との決済条件について 上記のうち、「③ 仕入計上に関する会計処理、仕入先との決済条件の把握」に関しては、本連載【第5回】の売上債権の項で述べたのと同様に、仕入債務の決済条件が買収側から見て「正常」な範囲に収まっているか否かの検討は欠かせないポイントといえよう。 例えば長年の取引関係から、特定の仕入先との間では特別な決済条件が許容されているような場合、そうした条件がM&A実行後も継続して適用されるものでなければ、買収に際して思わぬ運転資金負担が生じることになろう。 また、古い商慣習が残る業界や、業績の厳しい会社にあっては、特殊な商慣習が通用しているケースもあろう。例えば地方のホテル/旅館業では、毎月継続的に取引の発生する食材等の仕入先に対して、毎月一部の金額のみを支払い、あえて残額を延払にするケースも見受けられるし、和装業界等ではいわゆる「歩引き」といった商慣習が残っている場合もある。 さらに、特定の仕入先との間で、長期にわたる発注を契約上で確約することで、他社よりも有利な価格/条件での調達を行っている場合もある。こうした長期契約がM&A実行後も継続すべきものであるか否かについても検討が必要となるうえ、契約内容によっては、解約に際して多額の違約金支払等が発生する場合もある。 こうした契約上の課題等については、弁護士等による法務面の調査と連携を図りつつ、状況を把握する必要がある。 ▷計上漏れの起きやすい項目は何か 筆者らのこれまでの経験では、仕入債務の支払は「相手のある話」でもあり、商慣習上も毎月の締め日ごとに仕入先からの請求書が届くことが通常である。支払を失念したまま放置したり、一方的に期日を延期することもできないことから、仕入債務の計上漏れが多額に発見されるケースは(悪意をもった意図的な計上漏れ、すなわち粉飾を除けば)さほど多くはないといえよう。 むしろ多く見受けられるのは、毎月のルーティーンでの請求がなされないような、非経常的に発生する、以下のような取引に起因するものであろう。 【実務事例7-1】 ・年に数回、不定期にしか発生しない仕入取引に関して計上漏れが発生 ・仕入先担当者の入院により、仕入先からの請求忘れによって計上を失念 ・期末に緊急で実施した地方工場の生産現場の保守費用について、本社で計上を失念 ・通常月は少額しか発生しないため期末決算での未払計上の対象となっていなかった取引が、特殊な事情により多額に発生したため計上を失念 ・従来は少額の発生しかなかったため未払計上の対象となっていなかった取引が、近年の経済環境の変化により急速に取引金額が増加していたものの、依然として現金主義による処理を継続 ・年間購買量に基づくボリュームディスカウント・リベートに関する仕入値引等の精算が行われていなかったケース こうした取引であっても、必ず事後的な請求に基づく支払等が行われているはずなので、調査基準日以降の主な請求書を通査し、期間対応にズレの生じている取引を抽出することで、計上漏れを把握することができる。 例えば仕入債務等の科目を経ずに、(借)仕入 (貸)現金 といった仕訳で翌月以降に支払われている取引は、端的に仕入計上漏れに該当するケースが多いといえるので、基準日以降の仕訳データを通査することで計上漏れと思われる取引を抽出することも可能である。 さらに、仕入債務の計上漏れは仕入や外注費等の損益項目の月次推移の異常値等から把握されることも多い。 ▷「融通手形」の振出しにも注意 「融通手形」とは、資金繰りに窮した取引先などからの要請に基づき、実需を伴わずに振り出される約束手形で、受け取った側ではこの手形を銀行で割り引くことで資金繰りに充てるというもので、実質的には資金の貸付取引である。 振り出した側では当然に、手形期日が到来すれば資金が引き落とされるが、受け取った側では実需を伴っていないことから返済の裏付けとなる資金の発生がなく、極めて危険な取引である。 M&Aに際しては、全く見ず知らずの企業を買収するのであるから、こうした危険な取引の有無についても、支払手形の耳を通査すると同時に、仕入/外注費の発生と相関性の見られない取引はないか、慎重に調査する必要があろう。 融通手形の振出しが行われていなくとも、継続取引のある外注先等に対する外注費の期日前支払の事実等がある場合には同様の注意が必要と思われる。 (了)