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事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第10回】「大手製鋼所の工場における検査データの改ざん」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第10回】 「大手製鋼所の工場における検査データの改ざん」   弁護士 原 正雄   2017年10月8日、K製鋼が、アルミニウムや銅製品の一部で強度や寸法などを偽って出荷していたことを公表した。その後、K製鋼は「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止策に関する報告書」を作成し、同年11月10日、経済産業省に提出するとともに、公表した。 そこで今回は、本報告書及び各報道を元に、K製鋼におけるデータ改ざんについて、分析する。   1 不正の概要 K製鋼では、海外を含む17の工場において、検査データの改ざんが行われており、500社以上の取引先に影響が広がった。 この具体的な手法であるが、製品を検査すると、顧客と契約で定めた仕様を満たさない不合格品が一定程度生じる。その場合、検査機器から、不合格を示す赤い紙が出てくる。そこで、検査担当者が品質保証室長に相談し、データを改ざんするかどうかを決める。 例えば、規格は8%だが、検査結果が7.9%だったとすれば、安全性は問題ないと判断する。その場合、端末に入力済みのデータ数値を改ざんし、契約で定めた仕様を満たす新たなデータ数値に変更して、検査証明書を作成する。 K製鋼では、こうした改ざん行為を「メイキング」、データを改ざんした部材を出荷することを「トクサイ」と呼んでいた。こうした言葉は、40年以上前から使われていた、とのことである。   2 報告書の概要 報告書によれば、こうした不正は、チェックされる側の製造部門と、チェックする側の品質保証部門の双方が関与していた。すなわち、複数の部署にまたがってデータの改ざんが行われていた。これは「不正が組織ぐるみで行われていた」と言わざるを得ない状況である。 こうした不正が行われた原因として、工場に対し大幅な権限が委譲されていたことが挙げられる。もちろん、工場に権限を委譲することが、一律に悪いわけではない。しかし、K製鋼では、品質管理まで、工場に一任してしまっていた。本社による工場への統制は、収益を上げていればよいとするもので、工場の問題を把握する姿勢に乏しかった。 そうした中、営業部門が、工場の実力を超えた注文を受けてしまう。これにより工場は収益のプレッシャーに迫られ、データの改ざんに追い込まれた。工場の品質保証部署も、キャリアパスとして製造と品質保証を行き来する者がいるなど、独立性を欠いていた。 そのため、品質保証部署は、問題を指摘するどころか、積極的に関与してしまっている状況であった。本社は、そうした状況に、一切気づいていなかった。   3 原因分析 なぜ、K製鋼で上記のような状況が生じたのか。その原因を分析する。 (1) 営業と製造の分断 まず、営業部門が、製造部門の実力を正しく把握できていなかったことが挙げられる。その結果、工場の実力を超えた販売計画を立てたり、受注をしてしまった。 例えば、報道によれば、アルミ事業では、アルミ大増産の号令をかけたものの、工場の負担を緩和するような生産システムの導入はほとんどなく、「頼みは現場の頑張りだった」とのことである。 もちろん、営業が頑張り過ぎて、製造では受けきれないような無理な受注をしてしまうということ自体は、どの企業でもあり得る。ただし、本来、実力を超えた受注をすると、後になって製造での無理が判明する。その情報が営業に共有されれば、以後、実力を超えた受注を回避することができる。 ところが、K製鋼では、工場の無理が、営業に共有されなかった。それどころか、データ改ざんによって、工場の無理が隠されてしまった。営業は、工場が無理をしていることに気づかなかった。このように、「営業」と「製造」が分断された結果、実力を超えた販売計画や受注を止めることができず、データ改ざんがむしろ促進されて常態化してしまった。 営業と製造との間の情報共有は、不可欠である。情報共有を怠ることのリスクを、K製鋼の事件から学ぶことができる。 (2) 安全の軽視 次に指摘すべきこととして、安全の軽視がある。 本件は、契約で定めた仕様には反していたが、法令違反には該当しない、という事案である。そのため、K製鋼は、記者会見で「法令違反には当たらない」と強調した。 しかし、K製鋼の製品は、航空機、鉄道、自動車、さらには防衛装備品や、福島第二原子力発電所に向けても、納品されていた。顧客企業が仕様を定めたのは、消費者や社会の安全のためである。契約で定めた仕様は、実は、重い。 そのため、K製鋼による「法令違反には当たらない」との釈明に対して、マスコミからは「最終商品を使う消費者に対する意識は感じられなかった」との指摘がされている。顧客企業である自動車大手の幹部からも「ふざけるな、という思い」との声が上がっている。経済産業省も、K製鋼による「品質に問題はない」との見解について「うのみにすべきではない、と突き放した」と報道されている。 (3) 契約の軽視 さらに付言すべきこととして、契約の軽視がある。 本件は、契約で定めた仕様に違反した、というものである。報告書によれば、K製鋼は、契約に違反しても、クレームさえなければ顧客は満足しているので、問題はないと考えていた。記者会見で「法令違反には当たらない」と強調したのも、その趣旨と解する。 しかし、契約であれば破ってよい、ということなど、あり得ない。契約とは、企業間の約束である。約束とは、ときには法律よりも重い。吉田松陰は、友との約束を守るため、藩の法律を破って脱藩した。現代日本では、約束を理由に法律を無視することは認められない。が、だからと言って、約束を軽視してよいわけではない。 (4) K製鋼が負った代償 実際、安全や契約を軽視したことの対価は、重い。米国では、法律事務所が、株主代表訴訟を念頭に、K製鋼の株主に名乗り出るよう呼びかけている。また、カナダでは、2017年11月の時点で既に、自動車購入者たちによる集団訴訟が提起されている。 また、米国の司法省も、K製鋼に対して「召喚状(サピーナ)」を発した。これは、関係資料の提出を求める、強制力がある令状である。米国司法省は、消費者保護の観点から、厳しい姿勢で臨んでいる。詐欺罪を視野に入れている可能性もある。今後、K製鋼は、大量の資料を提出しなければならず、弁護士費用なども含め、大きな負担が発生することになるだろう。 同様に、欧州航空安全機関なども調査に動き出した。欧州航空安全機関は、2017年10月17日には、航空会社に対して、K製鋼の部品の使用停止を勧告している。   4 過去の不祥事に学んでいなかった 今回の事件は、何もないところである日突然に起きたわけではない。K製鋼の不祥事は、これが初めてではない。K製鋼では、過去、様々な不祥事があった。本来、そうした不祥事から教訓を学ぶこともできたはずであった。しかし、K製鋼は、過去の教訓を十分に生かすことができなかった。 (1) きっかけは2016年のJIS違反 今回の不正が発覚したのは、2016年6月、グループ会社でのJIS違反が発覚したため、一斉点検に着手したことがきっかけであった。 きっかけとなった2016年の事件では、K製鋼のグループ会社が、鋼線の強度試験の数値を改ざんし、JISを満たすと装って出荷していた。まさに、本件のデータ改ざんに類似した事件である。同事件では、K製鋼は、同鋼線についてJIS認証の取消処分を受けている。 (2) 過去にも多数の不正が発覚している さらにさかのぼると、K製鋼では、過去にも多数の不正が発覚していたことが分かる。まず、2009年には、政治資金規正法違反が発覚している。2008年には、子会社の鋼材の強度の偽装が発覚している。2006年には、製鉄所で基準値を超える煤煙を排出していたにもかかわらず、データを改ざんして自治体に報告していたことが発覚している。この事件では、住民の健康より利益優先かとの批判を受けている。さらに、1999年には、総会屋への利益供与事件を起こしている。 これらは全て、本件と同様の原因に基づく。本件報告書でも指摘されている「本社と現場の乖離」が、こうした不祥事の大きな原因である。 (3) 1999年の総会屋事件 こうした中でも、特に、1999年に発覚した総会屋事件は、重く捉えるべきである。 K製鋼は、1990年から1999年にかけて、総会屋に約2億円の利益供与をしていた。そのため、K製鋼の役員は、違法行為の責任を問われ、株主代表訴訟を提訴された。 K製鋼の役員は、総会屋への利益供与について「知らなかった」と弁明した。これに対して、神戸地方裁判所は、2002年4月5日、以下のとおりの「所見」を述べて、役員が「知らなかった」と弁明することは許されないとした(資料版商事法務1626号52頁)。 上記所見は、今回のデータ改ざん事件にそのままあてはまる。本来、K製鋼は、上記の所見を受けて、総務部門のみならず、生産現場を含めて全社的に、二度と不正が行われないよう、内部統制システムの構築に着手すべきであった。 しかし、残念ながら、K製鋼は、教訓を生かしきれなかった。K製鋼は、上記事件から約20年が経過しているにもかかわらず、その間、適正な内部統制システムを構築することができなかった。その結果、工場でのデータ改ざんを発見できず、今回の改ざん事件が生じた。 報告書によれば、今回の改ざんに関して、K製鋼は「上からの指示はなかった」として本社や経営幹部の関与を否定している。しかし、この主張は、1999年の総会屋事件における経営陣の弁明と同じである。当時、こうした弁明は厳しく排斥されたはずである。にもかかわらず、K製鋼は同じ弁明を繰り返している。   5 再発防止に向けて (1) 組織風土の変革 本件では、社内調査後も隠ぺいがなされるなど、現場での不正が続いていた。こうした事実は、従業員に経営陣の危機意識が共有されていないことを示す。二度と本件のようなことを起こさないためには、組織風土を根本的に変革する必要がある。 ただし、単に「組織風土の変革」というだけでは、抽象的に過ぎる。行うべきは、個別具体的な再発防止策と改善策である。細かい再発防止策や改善策を積み重ねることが、組織風土の変革につながる。 例えば、報告書では、データ記録に関して自動化を促進し、改ざんできる余地がないようにすることが提言されている。仕組みとして不正ができないようにすることは、極めて重要である。会社が微に入り細を穿つ対策を取ること自体が、従業員に対する明確なメッセージとなる。 (2) 原因究明が前提である 再発防止策や改善策を立案するのは、原因究明を尽くしているのが前提である。原因不明のままでは、再発防止策や改善策は立案できないからである。 とはいえ、本件の報告書は、事案の概要、原因、再発防止策の全てにおいて、抽象的な記載に留まっている。極めて短時間に作成したものでやむを得ないとはいえ、不足な点が多いことは否めない。さらに、社内のメンバーによる調査という点で、公正な第三者による調査とも言い難い。こうした調査結果を前提とする再発防止策や改善策が十分なものといえるかは、いまだ明らかではない。 K製鋼による自主点検や緊急監査が適正であったかどうかについては、別途検証が必要である。また、原因究明と再発防止策についても、より徹底的に突き詰めることが望ましい。 (3) 「外部調査委員会」による報告書 この点について、K製鋼は、上記報告書とは別に、外部委員のみで構成する「外部調査委員会」による調査をさせており、新たな報告書をまとめている。 K製鋼は、2017年10月26日の時点では、2017年中に同報告書を公表するとしていた。 しかし、K製鋼では、その後、様々な事象が判明した。調査の一環として設けられたホットライン窓口には、複数の案件が寄せられ、その中には慎重な調査が求められる案件もあった。そのため、2017年12月21日、K製鋼は、調査完了時期が2018年2月上旬にずれ込み、報告書の公表も遅れる、と発表した。 多少時間がかかっても、やむを得ない。二度と本件のようなことが起きないよう、徹底した原因究明を望みたい。 (了)

#No. 250(掲載号)
#原 正雄
2017/12/28

《速報解説》 都市のスポンジ化対策や中小企業等の再編・統合に係る軽減税率等、登録免許税に係る主な改正事項~平成30年度税制改正大綱~

《速報解説》 都市のスポンジ化対策や中小企業等の再編・統合に係る軽減税率等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~平成30年度税制改正大綱~   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   平成29年12月14日、与党(自由民主党と公明党)による「平成30年度税制改正大綱」が公表され、22日には閣議決定された。 登録免許税については、相続登記の促進のための特例措置が設けられた。その他、認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の延長等があり、主な改正事項は以下のとおりである。 新設 1 相続登記の促進のための特例措置 相続登記が未了となっている土地の発生については、要因の1つとして、相続登記に係る費用の負担が指摘されていた。そのため、相続登記にかかる登録免許税について、以下の特例措置を設けることで相続登記を促進させる措置がなされることとなった。 (1) 相続により土地の所有権を取得した者がその土地の所有権の移転登記を受けずに死亡し、その者の相続人等が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に、その死亡した者を登録名義人とするために受ける移転登記に対する登録免許税を免税とする。 (2) 個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(仮称)の施行の日から平成33年3月31日までの間に、市街化区域外の土地で市町村の行政目的のために相続登記の促進を図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地について相続による所有権の移転登記を受ける場合、移転登記の時における土地の価額が10万円以下であるときは、移転登記に対する登録免許税を免税とする。   2 都市のスポンジ化(低未利用土地)対策のための特例措置 多くの都市で、空き地等の低未利用土地が散在し「都市のスポンジ化」が進行している。そのため、市町村が、地域内に散在する低未利用利用土地などの利用意向を捉えて、関係地権者等の合意を得ながら計画を策定し、必要な利用権の設定等を促進させる措置として以下の登録免許税の税率を軽減する措置が新設された。 ◆都市再生特別措置法の改正を前提に、同法の改正法の施行の日から平成32年3月31日までの間に低未利用土地権利設定等促進計画(仮称)に基づき取得する不動産の所有権等の移転登記等に対する税率の軽減   3 中小企業・小規模事業者の再編・統合等に係る税負担の軽減措置 後継者不在により事業承継が行えないなどの課題解消のため、第三者への事業承継を後押しするために、認定を受けた経営力向上計画(仮称)に基づいて、再編を行った際に係る登録免許税を軽減する措置が、以下のとおり新設された。 ◆中小企業等経営強化法の改正を前提に、同法に規定する経営力向上計画(仮称)の認定(同法の改正法の施行の日から平成32年3月31日までの間にされたものに限る)を受けた認定事業者が、その計画に基づき行う登録免許税の税率の軽減 (※) 平成31年3月31日まで、土地を売買した場合には1,000分の15に軽減されている。   4 生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに伴う税制上の所要の措置 (1) 生計困難者に対して無料又は低額な費用で介護保険法に規定する介護医療院を利用させる事業について、社会福祉法人が社会福祉事業の用に供するために取得する不動産に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の非課税措置等を適用する。 (2) 生活困窮者自立支援法施行規則の改正を前提に、改正後の認定生活困窮者就労訓練事業について、社会福祉法人が社会福祉事業の用に供するために取得する不動産に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の非課税措置等を適用する。 (3) 社会福祉法の改正を前提に、改正後の生計困難者のために無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業について、社会福祉法人が社会福祉事業の用に供するために取得する不動産に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の非課税措置等を適用する。   延長 1 特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成32年3月31日まで2年間延長する。 2 認定低炭素住宅の所有権の保存設定登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成32年3月31日まで2年間延長する。 3 特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を平成32年3月31日まで2年間延長する。 (了)

#No. 249(掲載号)
#山端 美德
2017/12/27

《速報解説》監査役協会、「中小規模会社の「監査役監査基準」の手引書」の改定版を公表~要望の多かった『取締役会+監査役』の機関設計を前提に、実務実態の新たな認識事項等を踏まえ改定~

《速報解説》 監査役協会、「中小規模会社の「監査役監査基準」の手引書」の改定版を公表 ~要望の多かった『取締役会+監査役』の機関設計を前提に、実務実態の新たな認識事項等を踏まえ改定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年9月28日付で(ホームページ掲載日、12月25日)、日本監査役協会は、「中小規模会社の「監査役監査基準」の手引書」(改定版)を公表した。 これは、平成27年5月1日施行の会社法令の改正及び平成27年6月1日に実施されたコーポレートガバナンス・コードの策定並びにそれらを受けて行われた監査役監査基準等の改定等、平成25年9月の初版発行後に寄せられた要望や中小規模会社の実務実態について新たに認識した事項等を踏まえて、改定したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 手引書は、「多くの中小規模会社が採用している機関設計である『取締役会+監査役』をベースにして欲しい」との要望を受けて、『取締役会+監査役』を前提に改定しているとのことである。 監査役の権限、義務、責任など丁寧に記載されており、実務に資するものと考えられる。 表紙を含めて277ページあるので、以下では主な項目について解説する。 1 中小規模会社の監査役が陥りやすい4つの誤解 中小規模会社の監査役が陥りやすい誤解として、主に以下の4つのものがあり、それぞれについて解説して、これらの誤解を払拭することを目指している。 現行の日本監査役協会の監査役監査基準については、監査役会と会計監査人という機関設計に関する規定を除けば、現行の監査役監査基準のほとんどの規定は、会社法においてすべての監査役に適用される規定に基づいているので、明らかに不要という規定は少ないとしている。 2 監査基準を理解するための会社法 手引書の「第1部 監査基準を理解するための会社法-中小規模会社の監査役の役割、権限、義務、責任の基本-」では、会社法が極めて明快に規定している「監査役の役割、権限、義務、責任」について解説しているので、必ず、読んで理解していただきたいとのことである。 3 中小規模会社の「監査役監査基準」の手引書 「第2部 中小規模会社の「監査役監査基準」の手引書」は、次の構成となっている。 4 参考資料 参考資料として、次のものが掲載されている。 (了)

#No. 249(掲載号)
#阿部 光成
2017/12/27

《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減や預貯金通帳に係る一括納付特例等、印紙税関係の改正事項~平成30年度税制改正大綱~

《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減や預貯金通帳に係る一括納付特例等、 印紙税関係の改正事項 ~平成30年度税制改正大綱~   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   平成29年12月14日、与党(自由民主党と公明党)による「平成30年度税制改正大綱」が公表され、22日には閣議決定された。 印紙税については、不動産譲渡契約書及び工事請負契約書に係る印紙税の税率の特例措置の延長、及び預貯金通帳に係る印紙税の納付の特例を受けるための申請に関する一部改正案が示された。   1 不動産譲渡契約書及び工事請負契約書に係る印紙税の特例措置の延長 【概要】 高額な負担となっている不動産譲渡や建設工事請負に係る印紙税について、消費者の負担を軽減し、建設工事や不動産流通コストを抑制することによって、更なる建設投資の促進、不動産取引の活性化を図ることを目的として延長され、租税特別措置法91条による「不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例」の適用期間が、平成32年3月31日まで2年間延長されることとなった。 【軽減税額】 ① 第1号文書に該当する「不動産の譲渡に関する契約書」のうち、平成30年4月1日から平成32年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて下記の印紙税額の軽減が延長される。 ② 第2号文書(請負に関する契約書)のうち、建設業法第2条第1項に規定する建設工事請負に係る契約に基づき作成されるもので、平成30年4月1日から平成32年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて下記の印紙税額の軽減が延長される。   2 預貯金通帳に係る印紙税の納付の特例を受けるための申請に関する一部改正 【概要】 従来、預貯金通帳等に係る印紙税の申告及び納付等の特例を受けるため、毎年、税務署長への提出が必要とされている承認申請書について、その申請の内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を提出することを要しないこととされる。 この改正は、平成30年4月1日以後に作成する預貯金通帳等に係る承認について適用される。 (注) 平成30年については2月16日から3月15日までの間で申請が必要であり、平成31年以後の申請時に適用となる。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 249(掲載号)
#山端 美德
2017/12/27

《速報解説》 企業のIoT投資促進を目的とした「コネクテッド・インダストリーズ税制」の創設~平成30年度税制改正大綱~

《速報解説》 企業のIoT投資促進を目的とした 「コネクテッド・インダストリーズ税制」の創設 ~平成30年度税制改正大綱~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   1 はじめに 本稿では、12月22日に閣議決定された平成30年度税制改正大綱において新たに創設されることが決まった情報連携投資等の促進に係る税制、いわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制」について、その概要をまとめておきたい。   2 法人税改正の観点について 同月14日公表の与党大綱冒頭では、「一億総活躍社会」を税制面から支える方策について、税制改正の観点が以下のように説明されている。 また、経済産業省から公表されている「平成30年度税制改正(租税特別措置)要望事項」では、「Connected Industriesに向けたIT投資の抜本強化」として、以下のような記述があり、コネクテッド・インダストリーズ税制のもととなった要望であると思われる。   3 情報連携投資等の促進に係る税制の創設 (1) 制度概要 12月22日に公表された経済産業省の資料によると、本税制の概要は次の通り。 (2) 適用要件 新たな法律である「生産性向上の実現ための臨時措置法(仮称、以下「臨時措置法」と略称する)」の成立を前提に、以下の要件を充足した投資について、特別償却又は税額控除が認められる。 ① 対象となる法人 青色申告書を提出す法人で、臨時措置法に規定する「革新的データ活用計画(仮称)」(後述)の認定を受けたもの。 ② 適用期間 臨時措置法施行の日から平成33年3月31日まで。 ③ 具体的要件 当該計画に従って、5,000万円以上のソフトウエア(ソフトウエアとともに取得又は製作をした機械装置又は器具備品の取得価額を含む)を新設し、又は増設をした場合において、情報連携利活用設備の取得等をして、事業の用に供したとき。 (注) 情報連携利活用設備とは、ソフトウエア、機械装置及び器具備品をいい、開発研究用資産を除く。なお、機械装置は、データ連携・利活用の対象となるデータの継続的かつ自動的な収集を行うもの又はデータ連携・利活用による分析を踏まえた生産活動に対する継続的な指示を受けるものに限る。 なお、経済産業省資料(p11-12)では、データ利活用等による生産性向上の2事例が紹介されている。 ④ 大企業の適用除外要件 大企業については、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度において、以下の全ての要件に該当する場合、その事業年度において本制度は適用できない。 (3) 特別償却又は税額控除 取得価額の30%の特別償却又は取得価額の5%の税額控除(当期の法人税額の20%を限度とする)のいずれかを選択適用できる。 ただし、所得拡大促進税制に規定する「平均給与等支給額から比較給与等支給額を控除した金額の比較給与等支給額に対する割合が3%以上である」という要件を満たさない法人にあっては、税額控除は取得価額の3%までとし、かつ、当期の法人税額の15%を上限とする。 (4) 革新的データ活用計画(仮称)について 経済産業省資料によると、革新的データ活用計画(仮称)の認定要件は次の通り。 上記②のセキュリティ面については、前出の経済産業省による「平成30年度税制改正(租税特別措置)要望事項」について、さらに踏み込んだ要望が記述されている。 2017年5月、ランサムウェア「ワナクライ」が猛威を振るったことは記憶に新しいが、データ連携により増大する可能性のあるサイバー攻撃リスクについて、セキュリティ対策を講じることを義務づけることが予想される。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 249(掲載号)
#米澤 勝
2017/12/26

《速報解説》 会計士協会、「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」を確定~Q&A等も同時公表~

《速報解説》 会計士協会、「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」を確定 ~Q&A等も同時公表~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年12月19日付で(ホームページ掲載日、12月25日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これにより、平成29年10月10日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 なお、公開草案に対するコメントの概要及び対応についても公表されているので、本実務指針などの理解に資するものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 保証業務実務指針3000の主な内容 主な構成は次のとおりである。目次を含めて101ページある。 保証業務実務指針3000は、監査事務所が行う監査及びレビュー業務以外の保証業務について実務上の指針を提供するものであり(1項)、保証業務を次のように分類している。 なお、「保証(assurance)」とは主題情報に信頼性を付与することであり、法律上の保証(guarantee)や保険(insurance)とは意味の異なるものである(12項(35))。 保証業務実務指針3000の要求事項及び適用指針は、主題情報の提示を受ける合理的保証業務及び限定的保証業務に適用されることを主として想定している(2項)。 次のことに注意する(1項)。   Ⅲ 「保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」に係るQ&A」の主な内容 保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」に基づき保証業務を実施する際に理解が必要と思われる事項について、Q&A方式によって解説を提供するものである。 保証業務実務指針3000の適用対象となる業務、保証業務に関連する主体など19のQ&Aが述べられている。   Ⅳ 「監査及びレビュー業務以外の保証業務に係る概念的枠組み」の主な内容 監査事務所が行う監査及びレビュー業務以外の保証業務について、その概念的枠組みを取りまとめている。 《付録1 我が国における保証業務の体系及び関連する品質管理の基準及び倫理規則》において、我が国における保証業務の体系及び関連する品質管理の基準及び倫理規則(職業倫理に関する規定)が示されているので参考になる。   Ⅴ 適用時期等 平成32年1月1日以降に発行する保証報告書から適用する。 ただし、保証業務実務指針3000の3項、4項及びすべての要求事項が適用可能である場合には、保証業務実務指針3000の公表日以降に発行する保証報告書から適用できる。 なお、平成29年12月19日付けで「保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」」(監査・保証実務委員会実務指針第93号)が公表されたことから、「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」(監査・保証実務委員会研究報告第20号)は同日付けで廃止された。 (了)

#No. 249(掲載号)
#阿部 光成
2017/12/26

《速報解説》 中小事業者等の先端設備等導入計画に係る固定資産税の軽減措置(ゼロ以上1/2以下)~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 中小事業者等の先端設備等導入計画に係る 固定資産税の軽減措置(ゼロ以上1/2以下) ~平成30年度税制改正大綱~     辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   平成28年度税制改正で導入され平成29年度改正で拡充された、中小事業者等が取得した機械装置等に係る固定資産税の特例措置について、平成30年度税制改正において、さらなる改正が行われる。大綱を一読すると納税者有利となる改正のようであるが、以下に見る通り、必ずしもそうではない点に留意が必要である。   1 概要 一定の中小事業者等が「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮)」の施行日から平成33年3月31日までの間に取得した一定の機械装置等に係る固定資産税について、課税標準を最初の3年間、下記の算式により計算した額とする。   2 対象者 生産性向上の実現のための臨時措置法(仮)の認定を受けた中小事業者等が対象となる。中小事業者等とは、次の法人又は個人をいう(発行済株式の総数の2分の1以上が同一の大規模法人により所有されている法人等を除く)。   3 対象設備 認定を受けた先端設備等導入計画(仮)に記載された一定の機械装置等(※)であって、生産、販売活動等の用に直接供されるもの。 (※) 旧モデル比で生産性(単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率等)が年平均1%以上向上するもので、下表に掲げるもの (注) 家屋と一体となって効用を果たすものを除く。   4 その他 本制度は、新法の制定が前提であるため、認定手続等の詳細は不明だが、経済産業省から公表された資料によると、以下のことが判明する。 (1) 認定の流れ 生産性向上の実現のための臨時措置法に基づき国が導入促進指針を策定の上、各市町村は導入促進基本計画を作成し、国と協議の上、国から同意を得ることが前提である。そして、申請者である事業者は先端設備等導入計画を策定の上、市町村に申請し、市町村は事業者が作成した設備投資計画が市町村の計画に合致するものについて認定するという流れになる。 (経済産業省「平成30年度経済産業関係税制改正について」より) (2) 現行制度との相違点 本制度は、集中投資期間(平成30年度~32年度)中における中小企業の生産性革命を実現するための臨時・異例の特例措置であり、支援対象となる設備投資は、(ア)真に生産性革命を実現するためのものであり、かつ、(イ)企業の収益向上に直接つながるものであることが要求される。 前者は、導入により労働生産性が年平均3%以上向上する設備投資であることが必要とされる。中小企業等経営強化法に基づく現行制度においても労働生産性の向上は求められているが、計画期間が5年の場合、5年後までの目標伸び率が3%以上(4年の場合は1.5%以上、3年の場合は1%以上)が基本であることを考えると、年平均3%以上というのは既存の制度よりも高い労働生産性の実現が求められているといえる。 また後者は、生産、販売活動等の用に直接供される新たな設備投資であることが必要とされる。これは過去の設備投資減税制度においてもしばしば要求された条件であり、工場や店舗等で使用する設備が対象であり本社で使用する設備投資は対象外となることと思われるが、既存の制度では要求されていない点に留意が必要である。 (3) 留意点 本制度の対象者及び対象設備は、基本的には既存の制度と同じであるが、最大の特徴は、本制度が各市町村の制定する条例に依存している点であろう。 条例の内容によっては、対象者や対象設備が市町村によって異なることもあり、また対象地域は市町村内で地域指定がある場合もあるようである。したがって、課税標準の圧縮率だけでなく、対象者や対象設備、対象地域等の要件についても、市町村の条例の内容を確認することが肝要である。 課税標準の圧縮率が現行制度よりも高くなる可能性がある点は歓迎すべきだが、新制度が全体として現行制度よりも納税者にとって有利になっているわけではない点を十分理解する必要があろう。 なお、本措置の創設に伴い、中小企業等経営強化法に基づく現在の特例措置は、適用期限をもって廃止される予定である。 最後に、25日公表の中小企業庁「平成30年度中小企業・小規模事業者関係税制改正について」より、新制度と現行制度の解説ページを掲載するので参考にされたい。 【新制度】 【現行制度】 (了)

#No. 249(掲載号)
#安積 健
2017/12/25

《速報解説》 農地関連の改正事項の確認~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 農地関連の改正事項の確認 ~平成30年度税制改正大綱~   税理士 島田 晃一   平成29年12月14日に公表された「平成30年度税制改正大綱」(22日には閣議決定)の中で、農地に関する改正事項がいくつかある。以下では、その中でも特に重要なものをピックアップして解説を行う。   1 農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の改正 (1) 現行制度 農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度とは、農地等を相続した相続人が農業を継続する場合、通常の農地等の評価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税について、一定の要件のもとに、納税猶予期限までの納税が猶予される制度である。そして、納税が猶予された相続税は原則として猶予期限において免除される。ただし、他に貸し付けている農地は原則として適用は受けられない。 猶予期限は次のうちいずれか早い日となる。 ただし、三大都市圏の特定市以外の市街化区域農地等について納税猶予を受けたとき、又は、市街化区域農地等以外の農地等について平成21年12月14日以前から納税猶予を受けているときは、申告期限から20年経過した時点で猶予税額が免除される。 (2) 改正案 大きく区分して次の4つの改正が行われる。 上記①及び②の改正は、都市農地の貸借の円滑化に関する法律の施行の日以後の相続について適用される。なお、同日前に相続・遺贈により取得した農地等について相続税の納税猶予を受けているときは、納税者の選択により①の適用が受けることができる。ただし、この場合、②の適用も受ける必要がある。   2 生産緑地の固定資産税・都市計画税に関する改正 土地の固定資産税・都市計画税については、改正後も現行制度が踏襲される。ただし、生産緑地指定を受けている農地で特定生産緑地の申出基準が到来するものについては、特定生産緑地指定を受けた農地のみ現行の「農地評価」になり、特定生産緑地指定を受けなかった生産緑地は「宅地並み評価」になる。 これにより、特定生産緑地指定を受けなかった生産緑地の固定資産税・都市計画税は急激に上昇することになる。この上昇による負担増を緩和するため、市街化区域農地と同様の激変緩和措置が創設される。 激変緩和措置の具体的な内容は今後明らかにされるが、例えば、「宅地並み評価」となった初年度は通常の算式に基づいて計算した税額の20%、2年度目は40%といったように、徐々に税額を上げる形になることが予想される。   3 コンクリート等で覆われた農作物栽培施設の敷地の取扱い 土を使わず作物を育てる水耕栽培やハウス内でのロボットの移動等のため農地をコンクリート化した部分は、従来農地と認められていなかったが、これらの部分も農地として認めるよう農地法が改正される予定である。 それに伴い、コンクリート敷の農地の譲渡を行った際、次の特例を受けることができるようになる(従来は宅地とみなされ適用が受けられなかった)。 また、相続税等に関する法令の適用上、これらの土地は農地と同様の取扱いとされる。 ただし、従来からコンクリート化されていた部分は今回の改正対象にならず、農地法改正後にコンクリート化を行い農業委員会に届け出た部分のみが上記改正の対象になるようである。これについては今後の情報を待ちたい。 (了)

#No. 249(掲載号)
#島田 晃一
2017/12/25

《速報解説》 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置及び設備廃棄等欠損金額の特例がそれぞれ適用期限を2年延長(平成32年3月31日まで)~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置及び 設備廃棄等欠損金額の特例が それぞれ適用期限を2年延長(平成32年3月31日まで) ~平成30年度税制改正大綱~   税理士 小谷 羊太   12月14日に公表された平成30年度税制改正大綱(与党大綱)において、中小企業者等のみ認められている現行の「欠損金の繰戻し還付制度」、「設備廃棄等欠損金額の特例」の適用期限が2年延長されることとなった。   Ⅰ 「欠損金の繰戻し還付制度」の概要 この制度は、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(欠損事業年度)において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる制度である。 ただし、次の欠損金額については、その適用が停止されている。 なお、今回の改正により、上記①及び②に該当する法人にあっては、平成4年4月1日から平成32年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額について、その適用が停止される。   Ⅱ 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の適用 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の適用にあたっての留意点(①適用対象となる法人、②還付金額の計算、③適用の要件)については、過去の記事を留意されたい。   Ⅲ 「災害損失欠損金を有する法人」の欠損金の繰戻し還付制度 災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度又は災害のあった日から同日以後6月を経過する日までの間に終了する中間期間において生じた災害損失欠損金額がある場合には、その事業年度又は中間期間(災害欠損事業年度)開始の日前1年(青色申告である場合には、前2年)以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付を請求することができる。   Ⅳ 「設備廃棄等欠損金額の特例」による欠損金の繰戻し還付制度 認定事業再編計画に基づき設備廃棄等を行ったことにより欠損金が生じた場合には、還付所得事業年度の法人税額のうち設備廃棄等欠損金額(廃棄した設備等の廃棄直前の帳簿価額及び設備廃棄等に要した費用の合計額)に対応する部分の金額について、還付を請求することができる。 (了)

#No. 249(掲載号)
#小谷 羊太
2017/12/22

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成29年4月~6月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成29年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成29年12月18日、「平成29年4月から6月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、全10件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等の一部が取り消された裁決が4件、棄却された裁決が6件となっている。税法・税目としては、国税通則法が3件、所得税法、相続税法及び消費税法が各2件、法人税法が1件であった。 【表:公表裁決事例平成29年4月~6月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された7件の裁決事例のうち、国税通則法に規定する加算税に対する審判所の判断が示された2件の裁決①②と、消費税法における納税義務の免除が争われた裁決⑩について紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 相続税の申告における無申告加算税と正当な理由・・・① (1) 争点 争点は、「請求人らには、期限内申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する『正当な理由』があるか否か」である。 (2) 審判所の判断 国税不服審判所は、無申告加算税について、その趣旨を次のように説明した。 そのうえで、無申告加算税が課されない正当な理由について、次のように解釈した。 そして、本件のように、相続財産のすべてが判明していないような場合について、「正当な理由が」成立するかどうかについては、次のように述べた。 以上の解釈から、国税不服審判所は、本件では、請求人らは、法定申告期限より早い段階で、税理士から申告が必要であるとの説明を受け、国税庁のホームページなどで調べた結果、土地の価額のみで基礎控除額を超えることを認識していたと判断した。 したがって、法定申告期限において損害賠償金の額が確定していなかったとしても相続税の申告書を提出しなければならないと認識していたにもかかわらず、相続税の申告書を法定申告期限までに提出しなかったのであるから、請求人らが期限内申告書を提出しなかったことについて、「正当な理由」があるとは認められないとし、賦課決定処分は適法であるとして、請求人らの請求を棄却する裁決を言い渡した。   2 収入金額の一部が計上されていない試算表の作成が隠ぺい又は仮装にあたるか・・・② (1) 争点 争点は、「請求人の無申告は、課税要件事実を隠ぺい又は仮装したことに基づくものか」である。 (2) 審判所の判断 国税不服審判所は、無申告の場合に課す重加算税の制度について、次のように解釈した(下線は引用者による)。 そのうえで、原処分庁が重加算税を賦課した根拠について、審判所は、「原処分庁は、要するに、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当する」という主張に基づくものであるから、試算表の作成経緯に関する事実認定を行い、以下の事実を認定した。 こうした事実関係から、審判所は、請求人が本件試算表に基づき申告するつもりがあったと考えることについて疑問が残るとしたうえで、請求人が、確定申告義務の生じないことの説明資料として本件試算表を税理士に作成させたとは認められないことから、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当するとは認められないと判断した。 そして、重加算税の負荷決定処分を取消し、無申告加算税相当額を超える部分の金額は違法であると結論づけた。   3 消費税等の納税義務の免除(事業を開始した日はいつか)・・・⑩ (1) 争点 争点は、「同課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する『課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間』に該当するか否か」である。 (2) 審判所の判断 国税不服審判所は、新たに事業を開始した者による「消費税課税事業者選択届出書」の提出について、以下のようにその趣旨を説明した。 そのうえで、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」について、次のように解釈した。 こうした解釈のもと、審判所は、請求人が平成25年課税期間において、発電設備を建設する契約を締結して契約金を支払った後、再生可能エネルギー発電設備の認定申請などの手続を順次行っていることから、これらの行為は、請求人が再生エネルギー措置法に基づく太陽光発電事業を行うために必要な準備行為であると認定し、平成25年課税期間が課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間であると判断した。 したがって、請求人が提出した消費税課税事業者選択届出書に係る課税事業者選択の効力は、平成26年課税期間の翌課税期間から生じることとなり、平成26年課税期間について請求人は、免税事業者となることから、原処分庁の賦課決定処分は適法であると結論づけた。 (了)

#No. 249(掲載号)
#米澤 勝
2017/12/22
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