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企業結合会計を学ぶ 【第3回】「取得原価の算定方法の概要」

企業結合会計を学ぶ 【第3回】 「取得原価の算定方法の概要」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第2回】に引き続き、吸収合併の〔例〕を用いて、「取得」の会計処理における取得原価の算定方法の概要について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 吸収合併 〔例〕 次の条件による吸収合併を行った(会社法2条27号)。 A社(存続会社、取得企業)の吸収合併(取得)に関する会計処理は次のとおりである。   Ⅲ 取得原価の算定 1 基本的な考え方 「取得」とされた企業結合における取得原価の算定は、一般的な交換取引に関する会計処理と整合するように、次のように規定されている(企業結合会計基準84項)。 2 取得における取得原価の算定方法 「取得」の会計処理は、パーチェス法となり、被取得企業から受け入れる資産及び負債の取得原価を、原則として、対価として交付する現金及び株式等の時価を用いて会計処理する(企業結合会計基準17項、結合分離適用指針29項)。 被取得企業又は取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価(支払対価)となる財の企業結合日における時価で算定する(企業結合会計基準23項、結合分離適用指針36項)。 また、支払対価が現金以外の資産の引渡し、負債の引受け又は株式の交付の場合には、支払対価となる財の時価と被取得企業又は取得した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する(企業結合会計基準23項、結合分離適用指針37項)。 上記の〔例〕では、吸収合併(取得)に際して、B社の株主にA社の株式が交付されており、そのA社の株式の時価は1,000とされている[条件⑤]ので、取得原価は1,000と算定される。 3 支払対価が現金以外(支払対価が取得企業の株式)の場合の取得の対価の算定 支払対価として取得企業の株式が交付された場合、取得の対価の算定は下記①から④のとおり行う(結合分離適用指針38項)。 結合分離適用指針では、企業結合会計基準の趣旨に従って、支払対価として取得企業の株式が交付された場合の取得の対価の算定における優先順位を示している(結合分離適用指針355~357項)。 支払対価が取得企業の種類株式の場合の取得の対価の算定については、結合分離適用指針42項及び43項に注意する(結合分離適用指針38項)。 なお、下記②又は③において、株式の交換比率を算定する目的で算定された価額であっても、被取得企業又は取得した事業の時価や取得の対価となる財の時価に適切に調整しており、かつ企業結合日までに重要な変動が生じていないと認められる場合には、合理的に算定された価額とみなすことができる(結合分離適用指針39項)。 4 支払対価が現金の場合の取得の対価の算定 支払対価が現金の場合には、取得の対価は現金の支出額とする(企業結合会計基準84項、結合分離適用指針44項)。 5 支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価の算定 支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価は、結合分離適用指針38項に準じて算定する(結合分離適用指針45項)。 (了)

#No. 289(掲載号)
#阿部 光成
2018/10/11

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第12回】「引越し業務の過大見積り請求」-内部通報を活用できなかった事例

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第12回】 「引越し業務の過大見積り請求」 -内部通報を活用できなかった事例   弁護士 原 正雄   Yホールディングスは、宅配会社を中心とする物流グループを組成している。その子会社に引越し会社Yホームがある。Yホームは、法人顧客から、社員が転居する場合の引っ越し作業を受託する事業を行っている。 2018年7月2日、Yホームの元従業員が記者会見を開いた。その内容は「Yホームが引越し業務で家財量を水増しし、法人顧客に対して過大な請求を行っている」というものであった。 その後、親会社であるYホールディングスは記者会見を開くなど釈明に追われ、同年8月31日、Yホールディングスは、調査委員会による調査結果を公表した。 調査報告書をみると、Yホームの親会社であるYホールディングスは、グループ共通の内部通報窓口を設置しており、本件に関する2件の内部通報を受けていた。にもかかわらず、Yホールディングスは十分な調査を行わず、自主改善の機会を活かすことができなかったことが注目される。 そこで今回は、調査報告書を基に、コンプライアンス及びリスク管理の観点から学ぶべき点について解説する。   1 過大見積り請求の概要 Yホームは、顧客である企業の社員で転居を行う者(引越し対象者)のために、その引越し作業を受託していた。ただし、引っ越しの価格算定には複雑な仕組みを導入していたため、見積りが難しかった。 また、顧客として代金を支払うのは、実際に転居をする引越し対象者ではなく、引越し対象者が属する企業である。そのため、企業には見積書を提示するものの、引越し対象者には見積書を見せないことが多かった。 さらに、Yホームでは、見積りより実際の家財量が少なかった場合に、減額する旨の規定があった。ところが多くの従業員は、そうした規定があることを認識しておらず、どのような場合に減額と判断するのか、その基準も定めていなかった。 その結果、Yホームでは、家財量を実際よりも多く見積もる「上乗せ見積り」が横行し、11ある支店のすべてで過大な「上乗せ見積り」が行われ、法人顧客に対し、総額17億円に及ぶ過大な請求を行っていた。Yホームの統括支店長や支店長も、現場で「上乗せ見積り」がされていることを認識していた様子がうかがえる。 「上乗せ見積り」の動機は、概ね以下のとおりであったとのことである。   2 内部通報への対応 Yホームの親会社であるYホールディングスは、法令違反やコンプライアンスに関する通報を受けつけるため、グループ共通の内部通報窓口を設置していた。同窓口には、本件に関し2件の通報があったにもかかわらず、次のとおり、Yホールディングスは2件とも適切な対応ができず、改善の機会として活かせなかった。 (1) 1件目の内部通報 平成22年5月、Yホールディングスは、グループ共通の内部通報窓口において通報を受けた。Yホームが引越し業務で「上乗せ見積り」をしている、中には実際の3倍で見積りをしたものもある、との内容であった。通報者は、四国統括支店の管下にある東予支店の社員であった。 通法を受け、内部通報窓口を担当するYホールディングスのCSR担当はYホームのCSR戦略部に連絡し、連絡を受けたYホームCSR戦略部は、四国統括支店長に調査を指示した。四国統括支店長は、東予支店長へのヒアリングを実施した。 その後、東予支店長は80件を調査し、内4件で「上乗せ見積り」が判明したと報告した。しかし、その理由については「経験不足で個数を間違えた」とのみ説明した。 (2) 2件目の内部通報 平成23年4月、Yホールディングスは、グループ共通の内部通報窓口を通じて、上記1件目の内部通報で調査をした後も「上乗せ見積り」が続いている、との通報を受けた。通報者は、四国統括支店の管下にある高知営業所の社員であった。 内部通報窓口を担当するYホールディングスCSR担当は、1件目と同じくYホームのCSR戦略部に連絡した。YホームCSR戦略部は四国統括支店長に調査を指示し、四国統括支店長は、通報対象となった引っ越しの出発地である横浜支店と横須賀支店の支店長に対して、同指示を伝えた。 その後、横浜支店長と横須賀支店長は「上乗せ見積り」が数十件あったとの報告を行った。ただしその理由については、「繁忙期で見積りに十分な時間を割けなかった」、「気が緩んでいた」とのみ説明した。 (3) Yホールディングスによる主体的な調査は? 上記2件とも、Yホールディングスは、Yホームへ通報内容を連絡するだけで、自ら積極的に調査に乗り出すことをしなかった。 また、YホームのCSR戦略部は、現場の説明を受け入れ、調査結果をコンプライアンス・リスク一覧表に記載してYホームのコンプライアンス・リスク委員会に提出したものの、それ以上深掘りしていない。さらにYホールディングスは、Yホームが現場の説明をそのまま受け入れていることについて、疑義を示さなかった。 Yホールディングス社内では、CSR担当者が深堀りをせず、通報については役員にまで共有されたものの、チェック機能は働かなかった。結局、意図的な上乗せ見積りかどうかの調査はなされなかった。 このように、Yホールディングスは、せっかくグループ内部通報を受けても、対象となる子会社に連絡をするだけで、調査に主体的に関わることをしなかったのである。   3 グループ内部通報制度が機能しなかった 内部通報制度は、企業が自らの努力によって不祥事を発見し、問題を自主的に解決することによって、その企業を改善していく制度である。その仕組みが正しく機能していれば、マスコミから強い批判を受けることはなかったはずである。 ところが本件では、2件もの内部通報がされたにもかかわらず、Yホールディングスは適正な調査を行わず、全社的な上乗せ見積りを把握できなかった。結果として、不正が是正されないまま、その後も過大な上乗せ見積りが全社的に継続し、ある日突然、元従業員が記者会見を開いたことをきっかけに、マスコミからの報道で強い批判を受け、記者会見等の対応をせざるを得ない状況に陥った。 Yホールディングスは、内部通報を受けたのに、コンプライアンス実現のために役立たせることができなかった。グループ全体で内部通報窓口を設置していても、これでは意味がない。   4 元従業員が記者会見にまで至った理由 報道(AERA・2018.7.6)によると、記者会見をした元従業員は、記者会見にまで至った理由について、「私が営業して、契約をいただいた顧客に水増し請求していることが、許せない」と述べたとのことである。また、一度は社内で内部通報をしたのに全く改善されなかったということも、記者会見に至った理由として説明している。 元従業員によるこれらの発言から、内部通報制度が正しく機能し、自主的な改善ができていれば、記者会見にまでは至らなかった可能性も否定できない。   5 本件から学ぶべきこと-グループ内部通報の取扱い 本件で内部通報を活かせなかった理由として、社内規程に、内部通報があった場合の手続や処理について、具体的な定めがなかったことが挙げられる。内部通報を受けた場合の手続や処理は、事前に社内規程で明確に定めておくべきである。 その際、社内規程に定めるべき事項として、例えば、以下のようなものが考えられる。 本件では、同種の通報が平成22年と平成23年とで連続して行われている。重要案件かどうかを判断するうえでは、同種の通報が連続したという事情も考慮すべきである。 また、実際の調査に当たっては、子会社任せにするのではなく、親会社として主体的に調査に関わる必要がある。調査そのものは子会社が行うとしても、親会社としてその調査方法や結果に問題がないか、検証する必要がある。 内部通報制度は、飾りではない。会社がコンプライアンスを実現し、また危機的状況を回避するために不可欠の制度である。既に内部通報制度を設置している企業も、本件を重大な教訓として捉え、改めて内部通報制度の在り方や運用の見直しをすべきと考える。 (了)

#No. 289(掲載号)
#原 正雄
2018/10/11

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第7回】「顧客リストがライバル会社に流出した場合」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第7回】 「顧客リストがライバル会社に流出した場合」   弁護士 影島 広泰   -Question- 退職した従業員がライバル会社に転職し、当社在籍中に使っていた顧客リストを利用して営業攻勢をかけているのですが、当社としては、何か対抗策があるでしょうか。 -Answer- その顧客リストが不正競争防止法の「営業秘密」に当たるように情報管理されていれば、裁判所からライバル会社に対して廃棄を命じてもらうことができます。 具体的には、(i)他の情報から合理的に区分した上で、(ⅱ)営業秘密であることを明らかにしておくことが必要です。 顧客リストは、氏名が含まれていれば個人情報保護法の個人データに当たる可能性が高い。したがって、それが他社に漏えいした場合に安全管理措置義務の違反を問われる可能性があることは、これまでの連載でご理解いただけるであろう。 もっとも、退職した従業員が顧客リストを転職先に持ち込んだようなケースでは、会社は元従業員による情報漏えいの被害者でもある。今回は、このような会社の側からライバル会社や元従業員に対して、何かアクションをとれないかという積極的な方策の検討である。   1 「営業秘密」が漏えいした場合にとれるアクションは? 不正競争防止法が「営業秘密」を保護していることは、【第1回】で述べたとおりである。同法によれば、「営業秘密」について「不正競争」(※1)があった場合には、差止請求と損害賠償請求ができる。 (※1) 「不正競争」の定義については本稿では詳しく触れることはしないが、不正な手段によって営業秘密を取得する行為や、取得した後に不正取得行為があったことを知ったにもかかわらず営業秘密を使用する行為などがこれに当たるとされている(同法2条1項4号から9号)。 ◆営業秘密に対する民事上の救済 差止請求とは、例えば、顧客リストの廃棄を求めることができるということである。このように、不正競争防止法はかなり強力な救済手段を用意している。   2 「営業秘密」とは では、このような救済手段が用意されている「営業秘密」とは何であろうか。これを定めているのが、以下の不正競争防止法2条6項である。 つまり、①「」ものであって、②「」情報であり、③「」が営業秘密である。この3つの要件は、一般に、①、②、③の3要件と呼ばれている。 つまり、この3要件を全て満たすものだけが、営業秘密として保護されるのである。 もっとも、実際には、②有用とはいえない情報が裁判になることは少ないし、③公知の情報が裁判になることも少ないので、裁判になるようなケースで大きな争いになるのは①秘密管理性である。例えば、顧客リストが流出したといってライバル会社に対して廃棄と損害賠償を求めて裁判を起こすと、ライバル会社から出てくる反論は、「あなたの会社では、この顧客リストは秘密として管理されていなかったので、営業秘密には当たりませんよ」という主張なのである。   3 秘密管理措置とは では、どのように情報管理しておけば、①秘密管理性を満たすのであろうか。 この点について詳しく解説しているのが、経済産業省の営業秘密管理指針である(※2)。同指針によると、なぜ秘密管理性が営業秘密の要件になっているかといえば、「企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員等の予見可能性、ひいては経済活動の安定性を確保する」ためであるとされている。 (※2) また、情報管理のベストプラクティスは、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」で解説されている。 このことは、大手通信教育事業者から顧客情報を漏えいさせた刑事事件の裁判である東京高判平成29年3月21日でも次のように判示されている。 ◆東京高判平成29年3月21日 つまり、ある情報が営業秘密に当たることになれば、それを不用意に使用すると差止請求や損害賠償請求の対象になり、場合によっては刑事罰を受けることもあるので、会社に存在している情報の中で、どれが営業秘密でどれが営業秘密ではないのかが明らかになっていなければ、従業員などにとっては、リスクが高すぎる。そのため秘密管理性があることが営業秘密として保護されるための要件になっているというのである。 したがって、秘密管理性が認められるためには、単に会社が秘密にしたいという意思を持っているだけでは足りず、その情報にアクセスした従業員などに、その情報が秘密であることを十分に認識される状態になっていることが重要であり、そのためには、会社が当該情報を合理的な方法で管理していることが必要とされるとされている。 秘密管理性=合理的な方法で管理する(秘密管理措置)ことで、秘密であることが十分に認識できるようになっていること このような合理的な方法での管理のことを、一般に「秘密管理措置」と呼ぶ。 では、どのように管理しておけば、合理的な方法で管理しているといえるのであろうか。 この点についても、営業秘密管理指針に記載がある。それによれば、秘密管理措置とは、(ⅰ)対象情報の一般情報(営業秘密ではない情報)からの合理的区分と、(ⅱ)対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置からなるとされている。 秘密管理措置=「(ⅰ)合理的区分」+「(ⅱ)営業秘密であることを明らかにする措置」 具体的には、紙媒体の場合には、以下のような方法が秘密管理措置として考えられるとされている。 ◆営業秘密管理指針(紙媒体の場合)(p.9) これによれば、例えば、営業秘密として保護したいと考えている顧客リストについては、(ⅰ)専用のファイルに綴じ込んだ上で(=合理的区分)、(ⅱ)ファイルの背表紙に「秘」と記載しておく(=営業秘密であることを明らかにする措置)のである。これにより、その顧客リストは、営業秘密として保護されることになる。 (了)

#No. 289(掲載号)
#影島 広泰
2018/10/11

役員インセンティブ報酬の分析 【第11回】「業績連動型株式報酬(株式交付信託以外)」-平成30年度の導入状況-

役員インセンティブ報酬の分析 【第11回】 「業績連動型株式報酬(株式交付信託以外)」 -平成30年度の導入状況-   弁護士・公認会計士 中野 竹司   1 業績連動型株式報酬と平成28年度・29年度税制改正 役員のインセンティブ報酬のツールとして、株式報酬の活用が政府により提唱され、法的な考え方の整理がなされるとともに、平成28年度税制改正により、特定譲渡制限付株式として法人税法上役員報酬のうち損金算入が可能な事前確定給与に該当するものの要件が明確化され、株式報酬制度の導入は一定程度促進された。 さらに、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とする制度を導入するため、平成29年度税制改正において、欧米で発行されているパフォーマンス・シェアにより類似した権利確定時発行型の業績連動型株式報酬(以下これを「パフォーマンス・シェア」と呼ぶ)の発行等が可能となったことから、その導入の促進が進むのではないかと期待された。 なお、平成30年度税制改正では、業績連動型株式報酬に関する大規模な税制改正はなされていないため、平成30年度の導入状況がどのようになっているかは、現時点での業績連動型株式報酬に対する上場企業の傾向を考えるうえで有益な傾向分析になると考えられる。   2 平成30年度の導入事例 (1) 導入状況 パフォーマンス・シェアは、平成29年度税制改正により法人税計算上、役員報酬としての損金算入要件が明らかになった類型であり、税制改正直後の平成29年6月株主総会時点で導入した会社はそれほど多くなかった。しかし、譲渡制限付株式報酬が平成29年6月の定時株主総会までに多数導入されたことを考えると、平成30年6月株主総会までにパフォーマンス・シェアを導入する会社は相当程度多いのではないかと考えられた。 しかしながら、平成30年度定時総会時の導入状況を示す平成30年4月から6月の導入企業は、業績に連動して付与する株式数を決めるというパフォーマンス・シェアは10社以下であり、導入企業数は伸びなかった。 ただし、譲渡制限付株式の解除条件に業績目標条件を付した業績連動型の譲渡制限付株式報酬を導入した企業は10社以上あり、各社報酬制度についての工夫が見られた。 以下、本稿執筆時点における導入済み企業の事例を検討する。 (2) パフォーマンス・シェアの導入事例 パフォーマンス・シェアのみを導入した上場企業では、適時開示において導入制度の内容を開示している。例えば青山商事では、制度の概要について という開示を行っている。 上記事例のように、パフォーマンス・シェア導入企業では、中期経営計画の達成と株式報酬を関連付けている会社が多い。 (3) パフォーマンス・シェアと譲渡制限付株式両者を導入 導入企業の中には、制度目的に応じて、パフォーマンス・シェアと譲渡制限付株式の両者を導入したものもある。 例えば、株式会社ジャックスでは、この両者を導入している。そして、譲渡制限付株式報酬制度の概要について と開示し、パフォーマンス・シェアの概要については という開示をしている。 一般的に、パフォーマンス・シェアは業績向上のインセンティブ、リストリクテッド・ストックは継続勤務に対するインセンティブという性格が強いと考えられるから、パフォーマンス・シェアと継続勤務条件を付した譲渡制限付株式報酬の双方を設計・導入するのは合理的であると考えられる。 したがって、今後、株式交付信託以外の業績連動型株式報酬を導入する企業は、この両者を導入する企業が増えてくるのではないだろうか。 (4) 譲渡制限付株式で業績目標・継続勤務の両条件を設けた導入企業 もっとも、譲渡制限付株式報酬制度を導入しつつ、その条件として業績目標・継続勤務の双方を組み込むことにより、業績向上及び継続勤務へのインセンティブを高める効果をもたらすという設計も可能である。 このような制度設計をした企業の開示例としては、 といったものがある。 (5) クローバック条項 パフォーマンス・シェアにしろ、業績目標条件付きの譲渡制限付株式報酬にしろ、業績と役員報酬が連動する報酬制度である。そして、その算定基礎となった業績に誤りがあった場合には、過大に役員報酬が付与されてしまう。そこで欧米では、「クローバック条項」を業績連動型報酬に付すことが多いといわれる。 ここで、クローバックとは、一般に、業績連動型報酬において報酬額算定の基礎となる業績指標等の数値が誤っていた場合、又は、エクイティ報酬において株価が誤った情報を反映して不当に高くなっていたために報酬額もそれに比例して高くなった場合等に、正しい指標等に基づいて報酬額を算定し直し、差額の報酬を会社に返還させる仕組みであり、このような返還条件を定める条項をクローバック条項という(※)。 (※) 大塚章男「論説 役員報酬とコーポレート・ガバナンス-clawback条項を手掛かりとして-」筑波ロー・ジャーナル21号(筑波大学大学院 2016年11月) 平成30年度のパフォーマンス・シェア導入企業でも、クローバック条項を設けた企業があった。例えば、「重大な不正会計または巨額損失が発生した場合、対象取締役に対し、PSU制度に係る報酬額として交付した当社株式及び支給した金銭の全部または一部に相当する金額を無償で返還請求できるクローバック条項を設定しています。」(横河電機株式会社)といった開示を行っている企業があった。 クローバック条項を設けている導入企業は現時点ではそれほど多くないが、今後業績連動型株式報酬の導入が広く行われるようになれば、クローバック条項を設ける企業も増えていくものと考えられる。   3 まとめ パフォーマンス・シェア及び業績目標条件付きの譲渡制限付株式報酬制度を導入した企業は、それほど多くない現状にある。 しかし、導入企業においては様々な工夫がなされており、またこれらの制度のメリットもあることから、今後は徐々に導入企業数も増えていくのではないだろうか。そして、導入企業数が増えていけば、これらの報酬制度自体も安定し、さらに導入企業数が増えるという循環に入ってくるのではないかと思われる。 (了)

#No. 289(掲載号)
#中野 竹司
2018/10/11

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成30年1月~3月)」~注目事例(重加算税の賦課決定処分の取消し)の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成30年1月~3月)」 ~注目事例(重加算税の賦課決定処分の取消し)の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成30年9月27日、「平成30年1月から3月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり全15件で、7件が国税通則法関連で、かつ、「隠ぺい、仮装の認定」がそのうち5件となっている。 その他の税法別の分類は、所得税法が4件、法人税法、登録免許税法、消費税法及び国税徴収法がそれぞれ1件となっている。今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が10件、棄却された裁決が5件となっている。 【表:公表裁決事例平成30年1月~3月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された15件の裁決事例のうち、原処分庁が認定した「隠ぺい又は仮装」について、国税不服審判所が認めなかった裁決事例5件について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 重加算税の一部取消し(換地不交付清算金の未申告)・・・③ (1) 争点 本件の争点は、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否かである。 (2) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人について、 を理由に、重加算税の賦課要件を充たすと主張した。 これに対して、国税不服審判所は、請求人について、 を認めたうえで、原処分庁の調査担当職員が作成した質問応答書に記載された請求人の申述が信用できる根拠がなく、請求人自身が理事を務める土地区画整理組合が、原処分庁に対し支払調書を提出することは容易に察しうる状況にあることから、請求人が支払調書などを確定申告会場へ持参しなかったとしても、清算金の受領の事実を秘匿するための行動と評価するのは困難といわざるを得ないとして、原処分のうち、無申告加算税を超える部分を取り消す判断を示した。   2 重加算税の一部取消し(相続財産の一部除外)・・・④ (1) 争点 本件の争点は、請求人が一部の生命保険金等を除外した税理士提出用一覧表を作成した行為は、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装の行為に当たるか否かである。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人が受け取った無申告生命保険金等の額が、相続税の申告を行ううえで失念しやすい相続財産ではなかったといえるとしたものの、以下の理由から、請求人が本件税理士提出用一覧表を作成した行為は、無申告生命保険金等の存在を隠匿したとか、故意にわい曲したものと評価することはできず、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装の行為に当たらないと言わざるを得ないと結論づけた。   3 重加算税の一部取消し(相続財産の一部除外)・・・⑤ (1) 争点 本件の争点は、請求人らの亡養母が相続税の申告に当たって被相続人の生前に預金口座から引き出した現金及び有価証券等(本件財産)を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否かである。 (2) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人らは、本件財産を申告しなければならないと認識していたにもかかわらず、相続税を安くする目的の下、本件財産などの記録がされたUSBメモリを相続税の申告を依頼した弁護士に渡さず、請求人らが現金を出金したことも弁護士に伝えなかったうえ、請求人の1人は、調査の際、USBメモリを本件弁護士に渡した旨の事実と異なる申述をしたことから、重加算税の賦課要件を満たすと主張する。 これに対して、国税不服審判所は、請求人の1人が、弁護士に対してUSBメモリを交付していたものと認められ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人らに、「当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」があったことをうかがわせる事情は見当たらないことから、請求人らの亡養母が本件財産を申告しなかったことについて、重加算税の賦課要件は満たさないと判断した。   4 重加算税の一部取消し(領収証名目の書き直し)・・・⑥ (1) 争点 争点は、以下の3点であるが、本稿では③のみをとりあげる。 (2) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人が、弟に対して支払った金員について、離農補償金ではないため、譲渡費用にならないことを認識していたことを前提に、各領収証における各金員の名目を「離農補償費」又は「離農補償金」としたことが、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為であると主張した。 これに対して、国税不服審判所は、請求人は、農地法上の耕作権がない者に対しても慣例に従って金員を支払う必要があると認識していたこと、各不動産の貸借関係についての紛争解決のために金員を支払ったことなどから、請求人が支払った各金員について、離農補償金ではなく、譲渡費用にならないと認識していたことを直ちに推認させるものではなく、各領収証における各金員の名目を「離農補償費」又は「離農補償金」としたことは、請求人による仮装と評価すべき行為に該当するとは認められないと判断し、請求人は、平成26年分の所得税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、又は事実を隠ぺいしたとも認められないと結論づけた。   5 重加算税の一部取消し(相続財産の一部除外)・・・⑦ (1) 争点 本件の争点は、次に掲げる4点であるが、本事例でも、争点②の「隠ぺい又は仮装行為」に関する不服審判所の判断を検討する。 (2) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人Eは、引き出した被相続人名義の預金(本件金員)が相続財産であることを十分認識したにもかかわらず、遺産分割協議書に本件金員を記載せず、また、申告代理人に対し、被相続人名義の預金口座の残高証明書のみを提示することにより、過少な相続税額が記載された本件申告書を作成させた。請求人Gは、相続財産の調査及び本申告手続を請求人Eに委任していたところ、その選任及び監督に過失がないとする事情は認められず、請求人Eの隠ぺい又は仮装の行為を請求人Gの行為と同視することができると主張した。 これに対して、国税不服審判所は、請求人Eは、被相続人が倒れたことによる入院費用や死亡時の費用の支出に備えて預金の引き出しを行ったものと認めるのが相当であり、申告代理人が、請求人Eに対し、被相続人名義の預貯金に係る通帳の提示や相続の開始前後の入出金について説明を求めなかったことからすると、請求人Eは、申告代理人に対し、過少な相続税額が記載された本件申告書を作成させるため、被相続人名義の預貯金に係る通帳を提示せず、残高証明書のみを提示したものと評価することは困難であるといわざるを得ないと認定して、請求人Eが、当初から過少に申告する意図を有していたとか、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められないことから、請求人Eについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められないと判断した。   《まとめ》 原処分庁調査担当者が作成した質問応答書が信用できないと認定した事例(前掲表③)、明らかに間違った回答をした弁護士による訂正を認めなかった原処分庁の主張を一蹴した事例(前掲表⑤)など、原処分庁による、やや行き過ぎた重加算税賦課決定処分を戒めるような裁決が目立った。 また、5件の裁決のうち、3件が相続財産の一部申告漏れ事案であった。相続開始後短期間で、被相続人の財産のすべてを把握し、申告納税することは決してたやすいことではなく、また、⑦の事例にみられるように、被相続人の入院費用や葬式費用のため、生前に相続人が被相続人名義の預金を引き出すことはよくあることであろう。 その結果、申告した相続財産の一部を除外していたとして、「当初から過少に申告する意図を有していた」から「隠ぺい又は仮装行為」が認められるとして、重加算税だと結論づけるのは、いささか納税者の事情に対する思慮が足りないようにも思える。 (了)

#No. 288(掲載号)
#米澤 勝
2018/10/05

プロフェッションジャーナル No.288が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年10月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.288を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/10/04

monthly TAX views -No.69-「消費増税の準備はなぜ進まないのか?」

monthly TAX views -No.69- 「消費増税の準備はなぜ進まないのか?」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   2019年10月からの消費税率10%への引上げまで1年をきったが、事業者の準備が進んでいない。 今回の引上げの特色は、わが国で初めての8%の軽減税率が飲食料品などに導入されるという点である。軽減税率の導入に際しては、食料品などを販売する小売店や外食関連の店は、8%と10%という2つの税率に対応したレジへの切り替えや価格表示、さらには経理事務が必要となる。 日本商工会議所が9月28日に公表した「中小企業における消費税の価格転嫁および軽減税率の準備状況等に関する実態調査」によると、軽減税率制度については、約8割の事業者が準備に取りかかっていない。とりわけ「5千万円以下の事業者」等の小規模な事業者の準備が遅れている。 *  *  * このことは、中小の小売事業者に対するレジの導入やシステムの改修等の補助金の申請状況が芳しくないことからもうかがわれる。 今回、中小の小売事業者に対しては、小売り段階の支援(BtoC)と流通段階の支援(BtoB)の2つについて、複数税率対応レジの導入への補助金や、受発注システムの改修支援などに対する補助金が用意されているが、未だ2割程度の申請状況だという。 (※) 財務省資料 今回は軽減税率の導入ということだけでなく、外食と食料品の適用税率が異なる(イートインは標準税率、テイクアウトは軽減税率)ことから来る価格表示の問題もある。準備不足では事業者も国民も混乱し、消費税への不信につながっていく。 *  *  * では、なぜ事業者の準備が遅れているのか。 それは、「安倍首相はこれまで2度、消費増税を引き延ばした。今回もまた延期するに違いない。」という期待感(?)が国民や事業者にあるからだ。 特に2度目の延期が行われた16年6月には、大きな国際経済変動もない中で、「リーマンショック並みの経済変動」と言って延期したので、国民にはこの記憶が残っている。トランプ政権の政策や米中経済対立など様々な不確実要因がある中で、引上げ延期の理由は山ほどあると言っていい。 増税を信じる気にならなければ、準備をする気にもならない。 一方、霞が関では、消費増税は織り込み済みである。幼児教育や高等教育の無償化など具体案が議論され、年末の予算編成に向けて、各省での議論が始まっている。また、駆け込み需要やその反動減の主因となる、自動車や住宅などへの購入支援など、需要変動を平準化するための税制・予算も議論が始まっている。 増税は予算編成の大前提となっているのだ。 *  *  * もう1つ、筆者が注目すべきだと考えるのは、小売事業者などへの補助金をうまく使って、わが国経済の生産性向上に結びつけることができるという点である。 わが国経済の生産性の低さの主因は小売事業者の生産性の低さにある。この際、補助金を活用して、レジや商品マスターの設置を行ったり、電子的に受発注を行うシステムの改修を行っていけば、生産性向上につながっていく。補助金支給の要件がネックになっている(厳しい)という話もあるが、そうであればもっと弾力化するよう政府に要請すべきだ。 いずれにしても、安倍総理は今度こそ消費税率を引き上げるという確たる意思表明を行い、不確実な現状を改める必要がある。 (了)

#No. 288(掲載号)
#森信 茂樹
2018/10/04

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第57回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第57回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (3) 分割型分割により取得した分割承継法人の株式に係る相続税額の取得費加算 相続又は遺贈による財産の取得をした個人で、当該相続又は遺贈につき相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡をした場合には、譲渡所得に係る取得費の計算上、当該相続税額のうち当該譲渡をした資産に対応する部分を加算することが認められている(措法39①)。 これに対し、藤田良一「分割型分割により取得した分割承継法人の株式に係る相続税額の取得費加算」税務通信2945号54-59頁(平成18年)では、相続開始後に分割型分割を行った後に、分割法人株式及び分割承継法人株式を譲渡する事案に対して、取得費加算の制度を利用することができるかどうかにつき検討している。 藤田氏は、租税特別措置法39条の文理解釈では、分割承継法人株式に対する取得費加算を認めているようには解せないものの、分割承継法人株式のみが交付される分割型分割を行った場合に取得費加算を認めないとすると、金銭等不交付型分割により取得した分割承継法人株式に対応する部分の譲渡所得について、取得費加算をする機会を逸してしまうことから、取得費加算を認めるべきであるとしている。 そして、藤田氏は、当時の租税特別措置法通達39-3において、換地処分等により取得をした資産を譲渡した場合についても取得費加算を認めていることから、分割型分割についても同様に取り扱うべきであるとしている(ただし、現行通達上は、同通達の規定は廃止されている)。 たしかに、阿部輝男『平成22年版譲渡所得・山林所得・株式等の譲渡所得等関係 租税特別措置法通達逐条解説』1025頁(大蔵財務協会、平成22年)では、換地処分等による資産の譲渡については、納税者の選択の有無にかかわらず強制的に課税繰延べが適用されることから、換地処分等によって取得した資産と相続等により取得した資産と同一性が保持されていることを理由として、同通達の規定が定められたことが明らかにされている。そう考えるのであれば、組織再編成により、旧株の対価として取得した新株についても同様に取り扱うべきであるとも考えられる。 この点については、当局の公式見解は公表されていないし、文理解釈上はそのように解釈することができないため、実務上、慎重な対応が必要になる。 (4) 負ののれんと消費税 上杉秀文「負ののれん代が生ずる事業の譲受けに係る対価の額の計算」税務QA 65号 31頁(平成19年)では、 としている。そして、同稿32頁では、具体的な計算方法として、総資産の時価が5億3,000万円であり、総負債の時価が3,000万円であり、譲渡対価が4億5,000万円(すなわち負ののれんが5,000万円)である事案に対して、譲渡対価と負債の引受の合計額である4億8,000万円を合理的に各資産に係る譲渡対価の額に按分した事案を紹介されている。 このような上杉氏の見解は、現在でも有効な解釈であると思われるが、当時に比べて、会計コンバージェンスの結果、企業結合会計において、負ののれんをなるべく計上しないように修正されたという事実がある。 具体的には、企業結合に関する会計基準33項では、負ののれんが生じた場合には、以下のように取り扱うことになった。 このように、現行企業結合会計では、負ののれんが生じた場合には、個別の資産及び負債に配分する形を採用していることから、租税法上も、個別の資産及び負債に配分していくべきであると考えられる。 例えば、負ののれんが生じる事案では、買い手サイドが、固定資産に対して相続税評価額よりもかなり低い金額で評価していることが少なくない。このような場合には、負ののれんとして処理するのではなく、固定資産の評価額を引き下げることも検討すべきであると考えられる。 (5) 組織再編と事業所税 森田貴子「経理シャイン養成講座 第12回組織再編と事業所税」旬刊経理情報1196号34頁(平成20年)では、 と指摘されている。 森田氏の指摘のほか、組織再編により、事業所税の課税標準である資産割や従業者割が変動することも考えられる。筆者も、組織再編に伴う事業所税への影響をほとんど検討したことがないが、森田氏の指摘のように、一応は検討しておかなければならない事項であると思われる。 (6) 小括 このように、平成18年から平成21年までの間には、条文で明らかな部分についてはともかくとして、条文で明らかではない部分に対する課税当局の公式見解はほとんど公表されておらず、税務専門家としても、それほど踏み込んだ解釈を公表していないことが分かる。 記憶をたどっていくと、組織再編税制に関与する税務専門家が、極端な文理解釈を採用した時代でもあった。その後のヤフー・IDCF事件において、そのような傾向は改善されていったが、平成18年から平成21年までの文献を紐解くと、条文に書かれていることを分かりやすく解説することを目的とする文献が多かった。 これに対し、組織再編税制が導入されて10年近くが経過すると、様々な問題が生じるようになった。 平成22年度税制改正により導入されたグループ法人税制は、条文の不備を整備するという意味で、重要な改正であったことは明らかであるが、それ以上に、当時のグレーゾーンを明確化した改正であったということも言える。 平成22年度税制改正をスタートとして、国税庁のHPに掲載されている文書回答事例、質疑応答事例が充実し、平成24年には、日本租税研究協会から「外国における組織再編成に係る我が国租税法上の取扱いについて」が公表されるに至っている。 *   *   * 次回以降では、平成22年度から平成28年度までの税制改正に触れたうえで、その期間に公表されている財務省、国税局及び税務専門家の見解について解説する予定である。 (了)

#No. 288(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/10/04

租税争訟レポート 【第39回】「消費税の適正な転嫁と課税庁による外注費の給与認定」

租税争訟レポート 【第39回】 「消費税の適正な転嫁と課税庁による外注費の給与認定」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   平成26年4月1日に行われた消費税率の引上げに伴い、中小企業庁/公正取引委員会は、消費税額等の適正な転嫁に向けて広報活動を繰り広げている。そうした中、免税事業者に対する消費税額等の取扱いについて、中小企業庁/公正取引委員会と国税庁との間で、見解に齟齬があるのではないかという懸念を抱いている。 本稿では、免税事業者に対しても税率引上げ後の消費税額等の適正な転嫁を推進する中小企業庁/公正取引員会の取組みと、外注費等について給与認定を行うことによって課税仕入れに該当しないものとして取り扱い、仕入税額控除を否認すると同時に、源泉所得税の徴収洩れに伴う納税告知処分を行っている税務調査の現場と、これを認容する国税不服審判所の判断を参照しながら、免税事業者と消費税について、論考を行いたい。   1 中小企業庁/公正取引委員会による消費税の適正な転嫁促進措置 消費税率が5%から8%に引き上げられたことに伴い、公正取引委員会は、「消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問」を公開して、以下のとおりの解説が掲載されている。 「Q19」では、免税事業者である納入業者に対する消費税の上乗せをしないことは、「合理的な理由がない限り」、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下、「消費税転嫁対策特別措置法」と略称する)違反であることが明示されており、同じく「Q20」では、「雇用関係にある場合には該当しない」旨のなお書きが付されている。 免税事業者に対する消費税額等の上乗せ支払いは、支払う側にすれば、国に消費税額等を納付するか、免税事業者からの課税仕入れとして消費税額等を支払い、仕入税額控除の規定に従って消費税の申告・納税を行うため、実際の損益に与える影響はないが、いわゆる「益税」問題として、本来は国庫に納付されるべき消費税額等が、免税事業者の収入となるという弊害が生じていることは、言うまでもないことである。   2 国税不服審判所の公表裁決(外注費等が給与所得であるとして、仕入税額控除が否認された事例) こうした中小企業庁/公正取引委員会の転嫁促進措置を読みながら、大変気になる点がある。それは、税務調査において、納税義務者が外注費として課税仕入れに計上した費用が給与であると認定されて、仕入税額控除が否認されている事例である。 国税不服審判所が公表している裁決要旨検索システムで、「課税仕入れ等の範囲」を争点とする裁決要旨を検索すると、課税仕入れとして仕入税額控除の対象とした外注費等が給与認定されて、仕入税額控除が否認された事例が、以下のとおり存在する。 上記6件の裁決のうち、要旨ではなく裁決本文が公表されているのは、裁決事例集No.59及びNo.94のみであるが、いずれも、雇用契約がないにもかかわらず、「業務の一環としてその指揮命令下、役務を提供するものであり、個人が独立して顧客に対してその役務を提供するものではないといえるから、役務の提供は、雇用契約に基づいて提供されたものであると認定するのが相当」である、「請求人の指揮監督ないし組織の支配に服して、場所的、時間的な拘束を受けて継続的に労務を提供し、業務に当たり費用負担もないと認められる」ことから、「雇用関係がある」という課税処分について、国税不服審判所が、課税庁の主張を認めたものである。また、裁決要旨検索システムで見る限り、類似事例で、納税者である審査請求人の主張を認容したものは存在しない。   3 事業所得と給与所得の課税上の相違について 上記の国税不服審判所名古屋支部平成26年2月17日裁決が引用している、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)から、事業所得の定義を確認しておきたい。 この、あまりにも有名な判例は、「雇傭契約又はこれに類する原因」に基づく労務の対価を給与所得として捉えており、雇用契約に基づかない役務の提供であっても、給与所得に該当することがあることを示したものである。その結果、「ある経済活動が事業に該当するかどうかは、活動の規模と態様、相手方の範囲等、種々のファクターを参考として判断すべきであり、最終的には社会通念によって決定するほかはない」(※1)と論じられている。 (※1) 金子宏『租税法(第22版)』227頁以下 雇用契約を締結していない外注業者が得る収入は、外形的には雇用関係に基づく役務提供によるもの、すなわち、給与所得ではなく、そうなると、中小企業庁/公正取引委員会の立場からすれば、消費税額等を適正に転嫁して外注費を支払わなければならないことになるわけだが、一方、前項で見た公表裁決事例のとおり、税務調査においては、雇用契約の有無にかかわらず、給与所得であると認定されて、仕入税額控除の否認に伴う過少申告加算税及び延滞税の賦課決定処分、源泉徴収すべき所得税の納税告知処分と不納付加算税及び延滞税の賦課決定処分が課されるリスクがあることとなる。   4 消費税法における免税事業者制度について 消費税が導入された1989(平成元)年4月1日当時、「小規模零細事業者の事務負担を軽減する」(※2)ため、基準期間における売上高が3,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務を免除されており、その後、平成15年度税制改正において、この免税点が1,000万円以下にまで引き下げられ、現在に至っている。 (※2) 金子、前掲(※1)746頁 ところが、税率が3%の段階では、徴収できる消費税額よりも小規模零細事業者の事務負担の軽減を優先した格好の消費税法であったが、消費税率が5%、8%と引き上げられるにしたがって、免税事業者に対する益税問題が大きく浮上してきた。 消費税の免税事業の存在を容認することが、「小規模零細事業者の事務負担の軽減」だけを理由とするのであれば、消費税率の引上げを議論する過程で、帳簿の作成、保存義務を負う青色申告を行う事業者については、すべて課税事業者として取り扱うよう、消費税法を改正することも可能であったはずであるが、残念ながら、そうした議論が行われたという話があったのかどうか、寡聞にして存じていない。 一方、消費税法における免税点が残置されたまま、小規模零細事業者の事務負担は、所得税の面で大きくなっている。2014(平成26)年から実施されている、白色申告を行う事業者に対する帳簿の作成及び帳簿等の保存の義務化である。 消費税法には簡易課税制度が存在し、課税売上高が5,000万円以下の事業者は、基本的には売上高を集計すれば、納付すべき消費税額等の計算が可能となる。消費税の免税事業者が白色申告をしているとは限らないとはいえ、白色申告の事業者にも帳簿の作成が義務化された以上、「小規模零細事業者の事務負担の軽減」という消費税の免税点の存在理由は、もはや無くなったものと考えるべきではないだろうか。 現状は、中小企業庁/公正取引委員会が、消費税率の引上げに伴う消費税の転嫁を指導すればするほど、国庫に入るべき消費税収は益税として免税事業者の収入となり、免税事業者である個人事業主との取引に依存せざるを得ない特定事業者は、税務調査において給与課税認定に伴う仕入税額控除の否認による追徴課税処分と源泉所得税の徴収洩れによる納税告知処分に怯えながら、行政指導に従わざるを得ない。 1つの方策としては、益税の発生を最小限にするため、事業所得として所得税を申告する者については、消費税の申告納税義務を負わせることとすることが考えられよう。そうした法改正がなされて初めて、中小企業庁/公正取引委員会が推し進める消費税の適正な転嫁が実現するのではないだろうか。 (了)

#No. 288(掲載号)
#米澤 勝
2018/10/04

企業の[電子申告]実務Q&A 【第5回】「義務化に際して連結申告法人が注意すべき点」

企業の[電子申告]実務Q&A 【第5回】 「義務化に際して連結申告法人が注意すべき点」   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● (1) 消費税申告について 消費税及び地方消費税の申告については、その申告主体ごとにその資本金の額又は出資金の額で対象か否かを判断することとなります。 したがって、連結子法人の事業年度開始の時における資本金の額又は出資金の額が1億円超である場合は、その連結子法人の消費税申告は電子申告の義務化の対象となります。 (2) 個別帰属額等の届出書について 連結子法人が所轄税務署に提出する「個別帰属額等の届出書」は、納税申告書には該当しないため、電子申告の義務化の対象となりません。しかしながら、「個別帰属額等の届出書」は、連結親法人の法人税申告の添付書類として提出する必要があり、連結親法人が電子申告の義務化の対象となる場合には、各連結子法人の「個別帰属額等の届出書」を含めてe‐Taxにより提出する必要があります。 なお、e‐Taxの利便性向上の施策の1つにより、2020年4月以後は、電子申告の義務化の対象か否かにかかわらず、連結親法人が確定申告書をe‐Taxにより提出する際に、各連結子法人の「個別帰属額等の届出書」及びその添付書類の記載事項をe‐Taxにより提供したときは、連結子法人は所轄税務署に対して個別帰属額等の届出書を提出する必要はありません。 本施策は、連結親法人が電子申告の義務化対象法人であるかどうかにかかわらず適用があるため、例えば、連結親法人が資本金1億円以下の電子申告の義務化対象外の中小法人であっても、 e‐Taxで確定申告書を提出する際に各連結子法人の「個別帰属額等の届出書」を添付して提出すれば、各連結子法人は「個別帰属額等の届出書」を提出する必要はありません。 (連結親法人がe‐Taxで提出する際は、「会社事業概況書(子法人分)」の添付も必要です。) 【個別帰属額等の届出書の提出先一元化】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 288(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/10/04
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