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組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第7回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第7回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第1章》 平成13年度税制改正前の議論) (4) 各種引当金の引継ぎ等 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の「第四 各種引当金の引継ぎ等」では、「会社分割・合併等により移転する資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる場合には、その資産に関して適用される諸制度や引当金等の引継ぎについても、基本的に従前の課税関係を継続させるとの観点から、組織再編成の形態に応じて必要な措置を考えるべきである。」としたうえで、細かな処理方法について、別紙に記載している。この具体的な内容については、平成13年度に制定された組織再編税制の条文を見ながら確認していきたい。ただし、繰越欠損金について、以下のように記載されている点だけは、ここで指摘しておきたい。 上記のうち、合併については、平成13年改正前法人税法では、被合併法人の繰越欠損金の引継ぎを認めていなかったところ、平成13年度税制改正により、当該繰越欠損金の引継ぎを認める方向になったことが明らかにされている。しかしながら、どのようなものを租税回避行為と考えていたのかは、この段階では、指摘されていない。この点については、平成13年度に制定された組織再編税制の条文を見ながら確認していきたい。 さらに、会社分割では、繰越欠損金の引継ぎを認めない理由として、計算の困難性が挙げられている。そのため、平成13年度に制定された組織再編税制の条文においても、合併類似分割型分割の場合にのみ繰越欠損金の引継ぎが認められている(合併類似分割型分割は、平成22年度のグループ法人税制により廃止されたため、現行法人税法では、全ての会社分割において繰越欠損金の引継ぎが認められていない)。この点については、制度の簡便性を根拠とするものであり、やむを得なかったのではないかと思われる。 (5) 租税回避の防止 「第五 租税回避の防止」では、包括的租税回避防止規定の必要性について指摘されている。具体的には、「組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転とするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定を設ける必要がある。」と記載されている。この点に対し、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』33頁(日本租税研究協会、平成13年)では、「今回の改正案は、かなり柔軟なものとなっていますので、バランスをとる意味でも租税回避防止の規定は充実させる必要があります。」と指摘されている。 ヤフー・IDCF事件(平成28年2月29日最高裁判決TAINSコードZ888-1983、1984)にもあるように、租税回避を制度の濫用として捉えていたことの1つの根拠資料となり得るものである。 しかし、平成13年5月16日開催の会員懇談会において、朝長英樹氏が「いずれにしても、税を軽減するために、不自然、不合理な行為が行われることのないように、十分に注意して頂く必要があります。」(『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』70頁)と述べられたことから、制度の濫用としてではなく、従来の経済合理性基準と同じように捉えた税理士がほとんどであったと記憶している。租税回避の概念については、本連載の範囲を超えるものであるため、詳細な解説は割愛させていただきたい。 (6) その他 「第六 その他」では、連帯納付責任、消費税について触れられている。この点に対する解説をした平成12年段階での資料が見つからなかったため、平成13年度に改正された国税通則法、国税徴収法、地方税法及び消費税法の条文を確認しながら、本連載で触れていく予定である。 さらに、「第六 その他」では、上記のほかにも、「組織再編成に係る法人税制は、株式交換及び株式移転を合わせて検討する必要があるが、これらの制度は導入後間もないこともあり、今後、その実態等を見極めながら見直しを行うのが適当である。」と指定されている。 この点に対し、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』35頁では、「ここでは直接書かれていませんが、法人課税小委員会の委員の先生方からも、株式交換と株式移転については非常に問題があるとの指摘がなされています。『金がなくても会社は買える』というようなタイトルで雑誌に記事が出るような実態にあるわけですが、これについては将来何らかの改正が必要であると考えます。」と指摘されている。 この記載内容が、平成18年度の株式交換・移転税制に繋がっていくわけであるが、平成22年度のグループ法人税制、平成29年度のスクイーズアウト税制により、当初の制度趣旨とは全く異なる税制になったということも言える。この点については、本連載のどこかで触れていきたい。 (7) 総括 今回までで、平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から公表された「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」についての検討を行った。ここまでの検討で、組織再編税制と資本金等の額、利益積立金額の関連性が非常に重要であるということも理解できた。非適格合併、非適格分割型分割におけるみなし配当の取扱い、適格合併、適格分割型分割における利益積立金額の引継ぎを強く意識した内容になっているからである。 そして、企業グループ内の組織再編成において、50%超の概念、100%の概念がどのように作られていったかも理解できたと思う。50%ならどうなのかとか、99%ならどうなのかという議論は、制度の簡便化のためにやむを得なかった側面があるという点についても理解しておく必要がある。すなわち、適格外しに該当するかどうかの検討においても、「本来であれば適格組織再編成とすべきだったが、制度の簡素化のために非適格組織再編成になったもの」がどのようなものなのかを理解すれば、50%以下であるが実質的に支配が継続していると認められる場合、99%であるが実質的に完全支配が継続していると認められる場合において、そのような資本関係を行った行為が不自然、不合理であり、制度の趣旨に反すると認められる場合には、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される余地があるということが言えよう。 なお、IDCF事件(平成28年2月29日最高裁判決TAINSコードZ888-1983)における朝長英樹氏の鑑定意見書によれば、平成13年改正前法人税法で認められていた現物出資の課税の特例制度が、現在の組織再編税制における「見込まれる」という不確定概念を理解するために必要であることが指摘されている(※1)。 (※1) 朝長英樹『組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟』367-369頁(清文社、平成26年)。 *   *   * 次回以降では、当該現物出資の課税の特例制度を研究することにより、当該不確定概念の答えを探っていきたい。 (了)

#No. 238(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/10/05

租税争訟レポート 【第34回】「賃貸用建物の建築費用の用途区分(国税不服審判所裁決)」

租税争訟レポート 【第34回】 「賃貸用建物の建築費用の用途区分(国税不服審判所裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)について、原処分庁が、課税仕入れに係る支払対価の額が過大に計上されており、また、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項第1号に規定する方法による課税仕入れに係る消費税額の計算において、課税仕入れに係る用途区分に誤りがあるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が原処分庁の認定に誤りがあるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 争点は、以下の7点である。 本稿では、(争点1)A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額、(争点2、3、6)の個別対応方式における各建物の用途区分について、請求人及び原処分庁の主張並びに審判所の判断を検討したい。 なお、本裁決は非公開裁決であり、情報公開法第9条第1項による開示情報であるところから、固有名詞や所在地、金額の多くについてマスキングがされているため、筆者において、適宜、業者名、金額等を推定しながら補っていることをお断りしておきたい。   【本件各建物の概要】   【争点1:A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額は幾らか】 1 原処分庁の主張 請求人は、A-1業者に対して、92,350,000円を支払っているが、A-1業者は、請求人の依頼に基づき上記金員のうち19,350,000円を請求人に返金しているから、A-1業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、73,000,000円である。 請求人は、A-2業者に対して209,235,000円支払っているが、A-2業者は請求人に依頼されて14,700,000円の施工事実のない架空の請求書を発行し、かつ、9,000,000円を請求人に返金しているから、A-2業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、185,535,000円である。 2 請求人の主張 A-1業者からの入金額19,350,000円は、請求人が借り入れたものであり、A-1業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、請求人が平成19年8月1日までに支払った92,350,000円である。 A-2業者からの入金額9,000,000円は、本件A建物に係る工事遅延及びバスルームの在来工法の問題から居室が冠水した瑕疵に対する補償金であり、A-2業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、209,235,000円である。 3 国税不服審判所の判断 (1) A-1業者に対して支払った請負工事代金 請求人は、請求人を原告とする損害賠償請求事件において、本件A建物に係る請負工事代金としてA-1業者に支払った金額は73,000,000円である旨記載した陳述書を提出しており、また、A-1業者も、19,350,000円の入金がA建物の請負工事代金の返金であると申述していることからすると、A-1業者に支払った請負工事代金の額は73,000,000円であったと認められる。 すなわち、請求人は、信用組合から請負工事代金を超える融資を受け、同組合から92,350,000円が請求人の貯金口座に振り込まれたこととの関係上、請負工事代金が同額であるよう装うため、A-1業者の預金口座に同額を振り込み、その後、返金させたものと認められる。そして、請求人の総勘定元帳には上記73,000,000円が記載されているから、A-1業者に係る請負工事代金の課税仕入れに係る支払対価の額は、73,000,000円となる。 (2) A-2業者に対して支払った請負工事代金 A-2業者の申述によれば、9,000,000円の入金は、A-2業者が請求人に依頼されて、平成22年11月30日に請求人から振り込まれた10,000,000円のうち9,000,000円を請求人の預金口座に返金したものであったから、結局、請求人が最終的にA-2業者に対して支払った請負工事代金の額は、209,235,000円から上記9,000,000円を差し引いた200,235,000円であったと認められる。なお、これは、A-2業者との工事請負契約に係る請負工事代金の額194,250,000円と追加請負工事代金の額5,985,000円の合計額200,235,000円と等しい。 もっとも、当審判所の調査の結果によると、追加請負工事代金の額5,985,000円については、総勘定元帳に記載されていないから、消費税法第30条第7項及び同条第8項の規定により、同代金から計算される課税仕入れに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除することはできず、結局、A-2業者に係る本件A建物の請負工事代金の課税仕入れに係る支払対価の額は、194,250,000円と認められる。 (3) まとめ 平成23年3月課税期間の本件A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額は、73,000,000円、194,250,000円及びエアコン取得費用の3,441,800円の合計額である270,691,800円となる。   【争点2:A建物に係る建築費用等の個別対応方式を適用する際の用途区分は何か】 1 原処分庁の主張 A建物の用途区分別の面積は、①テナント用として賃貸されるものは課税売上対応分、②住宅用として賃貸されるものは非課税売上対応分、③エレベーター、廊下及び階段等は共通対応分となり、課税売上対応分及び非課税売上対応分の各面積は、それぞれ125.95㎡、803.78㎡となる。 また、エアコン取得費用は、当該エアコンが住宅の用に供する居室に設置されたものであるから、全て非課税売上対応分に区分される。 2 請求人の主張 A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額は、個別対応方式を適用する際に共通対応分に区分され、A建物の用途区分別の面積に基づいて、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる。 この点、A建物の用途区分別の面積は、①住宅用として賃貸される部屋は非課税売上対応分となるが、②それ以外の部分は住宅用の部屋に入居した者のみが使用するものではないから課税売上対応分となり、課税売上対応分及び非課税売上対応分の各面積は、それぞれ940.12㎡、681.67㎡となる。 3 国税不服審判所の判断 (1) A建物に係る請負工事代金 課税仕入れの日におけるA建物は、テナント用及び居住用としての貸付けが予定され、また、当初の予定を変更して、居室の一部を事務所倉庫として賃貸するのを予定ないし賃貸されていたから、課税売上げと非課税売上げを得るための資産であると認められ、A建物に係る請負工事代金の用途区分は共通対応分となる。 そして、A建物のように、テナント部分と居室部分が構造上明確に区分できる建物については、その各用途区分別の面積により合理的に、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる。 請求人は、居住用として賃貸される部屋は非課税売上対応分となるが、それ以外の部分は課税売上対応分となる旨主張するが、これは、請求人の独自理論であって、課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分する際の合理的な基準とは認められない。 (2) エアコン取得費 エアコン取得費は、設置場所により用途区分することができることから、1階テナントに係るエアコン取得費は課税売上対応分、2階から9階の居室に係るエアコン取得費は非課税売上対応分に区分される。 原処分庁は、エアコン取得費について、全て住宅の用に供する居室において使用するものであるから、非課税売上対応分である旨主張するが、課税売上対応分であるテナントに設置されたエアコンを考慮しておらず、原処分庁の主張には理由がない。   【争点3:平成23年3月課税期間のB建物に係る建築費用等の個別対応方式を適用する際の用途区分は何か】 1 原処分庁の主張 平成23年3月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、平成23年3月課税期間の末日までにB建物の用途が不明であり、個別対応方式を適用する際に全て共通対応分に区分される。 2 請求人の主張 平成23年3月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、個別対応方式を適用する際に共通対応分に区分されるが、B建物の用途別区分の面積に基づいて、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる。 この点、B建物の用途区分別の面積は、①住宅用として賃貸される部屋は非課税売上対応分となるが、②それ以外の部分は住宅用の部屋に入居した者のみが使用するものではないから課税売上対応分となる。 3 国税不服審判所の判断 B建物は、その建築費用等の各課税仕入れを行った日において、食事提供事業が附帯した高齢者向け優良賃貸住宅とする目的で建設が予定されていたことからすると、建築費用等は課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れであると認められ、個別対応方式を適用する際の用途区分は共通対応分となる。 請求人は、B建物の建築費用等は共通対応分に区分されるが、用途区分別の面積により更に課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる旨主張する。しかしながら、設計料、土地仲介手数料、地質調査費用、抵当権設定費用といった建築費用等は、一般的に建物の面積の区分とその費用の額との間に相関関係が認められないから、これらの費用をB建物の用途区分別の面積によって区分することは合理的といえず、よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。   【争点6:平成24年9月課税期間のB建物に係る建築費用等の個別対応方式を適用する際の用途区分は何か】 1 原処分庁の主張 平成24年9月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、個別対応方式を適用する際に共通対応分に区分されるが、B建物の用途は、請求人の入居者の募集状況から、請求人の目的、意図等の諸般の事情を勘案すると、本来の目的であった高齢者優良賃貸住宅としての募集(用途区分としては、非課税売上対応分となる)のほか、福祉施設としてショートステイ等に利用するために他の事業者に建物全てを貸与すること(用途区分としては、課税売上対応分となる)を検討するなどしていたことからすると、合理的な基準により、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することはできない。 よって、平成24年9月課税期間において、B建物に係る建築費用等は全て、共通対応分に区分される。 2 請求人の主張 平成24年9月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、平成24年3月以降、医療法人や社会福祉法人に対してB建物の一棟貸しの営業活動を行っていたことから、個別対応方式を適用する際に全て、課税売上対応分に区分される。 3 国税不服審判所の判断 B建物は、設計段階では、その2階部分において食事提供事業が予定されていたところ、課税仕入れの日である平成24年9月13日において、請求人が取得したB建物の間取りは、設計段階から引渡しを受けるまでの間に特段の変更はなかったこと、また、請求人が作成したB建物の入居者募集のパンフレットには、食事提供事業について記載されていたことが認められ、よって、課税仕入れの日において、B建物は、食事提供事業が附帯した高齢者向け優良賃貸住宅として使用する予定だったと認められる。また、B建物の3階及び15階の各1室は、課税仕入れの日である平成24年9月13日において、事務所倉庫として賃貸するのを予定ないし賃貸されていた。 課税仕入れの日におけるB建物は、食事提供事業が附帯した高齢者向け優良賃貸住宅としての使用が予定され、また、当初の予定を変更して、居室の一部を事務所倉庫として賃貸するのを予定ないし賃貸しているから、課税売上げと非課税売上げを得るための資産であると認められ、B建物に係る請負工事代金の用途区分は共通対応分となる。 請求人は、一棟貸しの営業活動を行っていたことから、課税仕入れに係る支払対価の額は、全て課税売上対応分である旨主張するが、課税仕入れの日におけるB建物の間取りの変更を行っていないし、また、請求人は課税仕入れの日において、B建物を高齢者向け優良賃貸住宅として入居者を募集していたうえ、平成25年1月下旬からB建物を一般住宅用として賃貸したことを考慮すると、請求人が、課税仕入れの日において、B建物の一棟貸しを模索していたことはあったとしても、B建物に係る建築着工時の使用計画を大きく変更するまでの具体的な計画があったと認めることはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。   【解説】 消費税の課税期間を3ヶ月間に短縮し、建築請負代金を支出した課税期間において消費税等の還付を受けていたと思われる不動産賃貸業を営む個人事業者に対して、国税不服審判所は、重加算税の賦課決定処分を含む原処分庁による課税処分のほとんどを是認するという厳しい裁決を言い渡した。 以下、いくつかポイントを検討したい。 1 金融機関による融資と建築業者への支払 請求人は、信用組合から融資を受けてA建物を建築するにあたり、実際の建築費用よりも過大な融資を受けており、それを隠蔽するために融資金額のすべてをA-1業者の口座に振り込んだ後、返金を受けていた。 こうした行為は、融資を実行した信用組合との間では問題となることも考えられるが、消費税等の申告にあたって、返金された部分を課税仕入れに含めなければ、課税処分の対象とならなかったところ、「支払った」という事実が残っていることを奇貨として、課税仕入れの額に算入したこと、他にもA-2業者に架空の請求書の発行を依頼していることなど、重加算税の賦課決定処分はやむを得ないものと考える。 こうした行為について、審判所は次のように指弾している。 2 粗雑な原処分庁による課税処分 上記(争点2)のエアコン取得費について、原処分庁は、全て住宅の用に供する居室において使用するという誤った事実認定に基づき、非課税売上対応分として課税処分を行っていることが判明している。本稿では紙幅の関係で触れることができなかったが、同じA建物に関する水道分担金についても同様の処分を行っており、国税不服審判所は、「原処分庁の主張には理由がない」と断じている。 こうした事実認定の誤りが、なぜ異議申立においても看過されたのか、非常に気になるところである。と同時に、本裁決を非公開と決めた理由が、こうした粗雑な課税処分を公表しないためであるとすれば、本来は全文公開が原則であるはずの行政文書である不服審判所による裁決の公開が、実は、公開を決定する側の国税不服審判所又は国税庁によって恣意的に決定されているのではないかという懸念を生じさせる。 3 金額欄が黒塗りの支払対価の額一覧表、消費税等計算明細書 上述したように、本裁決は情報公開法に基づき、開示請求を行った結果、入手されたものであり、当然、裁決書本文、別紙の多くに黒塗りされた不開示部分が存する。 裁決書の一部を不開示とした理由として列挙された7項目のうち、課税仕入れにおける支払対価の額や消費税額等を不開示とする理由として考えられるのは、次の2つの項目であると考えられる。 不開示理由はいつも同じような文章が並べられているのだが、気になるのは、項番2の「公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれ」という文言であり、項番7の「国税に関する審査請求における円滑な主張や証拠の提出等を阻害し、国税不服審判所の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」という文言である。 どちらも、「おそれ」があるかどうかを判断するのはあくまで開示を行う側であり、開示していいかどうかを審査請求人に問い質すことはしていないはずである。また、裁決書本文では開示されている金額が、「別紙」の一覧表になると黒塗りにされていることもある。 個人的には、住所地や個人名、生年月日など、直接的に個人を特定できる情報は当然不開示とすべきであるし、所得税額のように個人の収入や生活水準が推定できるような情報も開示すべきではないと考えるが、本件のような建築工事代金やそれに基づく消費税の課税仕入れの額、消費税額などを開示しても、「個人の権利利益を害するおそれ」が生じることはないと思料するところである。   (了)

#No. 238(掲載号)
#米澤 勝
2017/10/05

相続空き家の特例 [一問一答] 【第14回】「敷地の一部について既に「相続空き家の特例」を受けている場合」-対象敷地の一部の譲渡-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第14回】 「敷地の一部について既に「相続空き家の特例」を受けている場合」 -対象敷地の一部の譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年2月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地(200㎡)を相続により取得し、その家屋を取り壊し更地にした上で、その敷地の半分(100㎡)を、同年8月に売却しました。 Xは、昨年分の所得税申告について、「相続空き家の特例(措法35③)」の規定の適用を受けています。 本年10月に、残りの敷地(100㎡)も売却しました。 この場合、Xは、本年分の所得税申告についても、同特例の適用を受けることができるでしょうか。 A Xは、その相続につき、既に「相続空き家の特例」の適用を受けていることから、本年分の所得税申告については、同特例の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」の適用を受けようとする者が、既に、その相続又は遺贈による被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡について本特例の適用を受けている場合には、同特例の適用を受けることができないこととされています(措法35③、措通35-17(被相続人居住用家屋の敷地等の一部の譲渡)(1))。 つまり、1回の相続につき1人の相続人ごとに1回しか本特例の適用を受けることができないこととされています。 したがって、本特例の場合、Xは父親の相続につき、前年既に本特例の適用を受けていることから、本年分については本特例の適用を受けることができないこととなります。 なお、1回の相続につき複数の相続人がある場合において、その相続人が本特例の適用要件を満たすときは、それぞれの相続人において、本特例の適用を受けることができます。 (了)

#No. 238(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/10/05

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第48回】「自然災害等により被害を受けられた方が作成する契約書の非課税措置」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第48回】 「自然災害等により被害を受けられた方が 作成する契約書の非課税措置」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   平成29年4月に租税特別措置法の一部が改正され、自然災害等により被害を受けた際に作成する契約書等に係る印紙税の非課税措置が設けられたとのことですが、どのような内容ですか。 また、この制度があることを知らず、契約書等に収入印紙を貼付してしまった場合には、何か救済措置はありますか。   租税特別措置法の改正による非課税措置として下記の2点が設けられた。 1点目は平成28年4月1日以後に発生した自然災害によって滅失、又は損壊したことにより取り壊した建物の代替建物を取得する場合に、その被災者が作成する「不動産の譲渡等に関する契約書」及び「建設工事の請負に関する契約書」について、印紙税を非課税とする措置が設けられた。 2点目は地方公共団体や政府系金融機関等が、平成28年4月1日以後に発生した指定災害により被害を受けた方に対しての災害特別貸付けに係る「消費貸借に関する契約書」及び一定の金融機関が平成28年4月1日以後に発生した指定災害により、被災者を対象として、新たに設けた特別貸付制度の下で行う貸付けに際して作成される「消費貸借に関する契約書」について印紙税を非課税とする措置が設けられた。 また、非課税に該当していたにもかかわらず、印紙税を納付してしまった場合は、税務署において過誤納確認を受けることにより、納付された印紙税の還付を受けることができる。 ▷条件1:非課税措置の対象となる「不動産の譲渡に関する契約書」等の範囲 非課税措置の対象となる「不動産の譲渡に関する契約書」又は「建設工事の請負に関する契約書」は、その自然災害の発生した日から同日以後5年を経過する日までの間に作成されるもので、以下の1~3すべての要件を満たすものである。 ▷条件2:公的貸付機関等が行う特別貸付けに係る「消費貸借に関する契約書」の非課税 印紙税が非課税とされる地方公共団体又は政府系金融機関等が行う特別貸付けに係る「消費貸借契約書」とは、下記の1から3までのすべての要件を満たす金銭の貸付けに関し作成される消費貸借契約書で、その指定災害の発生した日から同日以後5年を経過する日までの間に作成するものが非課税とされる。 ▷条件3:一定の金融機関が行う特別貸付けに係る「消費貸借に関する契約書」の非課税 印紙税が非課税とされる一定の金融機関が行う特別貸付けに係る「消費貸借契約書」とは、下記の1~4までのすべての要件を満たす金銭の貸付けに関し作成される消費貸借契約書で、その指定災害の発生した日から同日以後5年を経過する日までの間に作成するものが非課税とされる。 [過誤納確認手続き] 当措置は平成28年4月1日以後に発生した自然災害に係るものとされている。したがって、平成28年4月1日から改正の施行日の前日(平成29年3月31日)までの間に作成したものについて、印紙税が納付されている場合は、印紙税の過誤納があったものとみなされ、還付手続きの対象となる。   (了)

#No. 238(掲載号)
#山端 美德
2017/10/05

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第7回】「収益の認識基準⑤」-履行義務の充足による収益の認識-

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第7回】 「収益の認識基準⑤」 -履行義務の充足による収益の認識-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第2回】において、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)における収益認識のためのステップとして、次の5つがあることを解説した。 今回は、ステップ5の「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」のうち「履行義務の充足による収益の認識」を解説する。 収益認識は、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて行うので、履行義務の充足は重要なステップである(収益認識会計基準(案)14項(5))。 「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)では、履行義務の識別に関連する設例が多く作成されているので、実務の適用の際に参考になる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 履行義務の充足 履行義務の充足による収益認識では、次の用語がポイントとなる。 収益認識会計基準(案)及び収益認識適用指針(案)は、履行義務の充足による収益の認識について、次のように規定している(収益認識会計基準(案)32項~34項、118項、収益認識適用指針(案)8項)。   Ⅲ 一定の期間にわたり充足される履行義務 次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対するが顧客に一定の期間にわたりすることにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する(収益認識会計基準(案)35項、119項、120項)。 関連する収益認識適用指針(案)の設例は次のとおりである。   Ⅳ 一時点で充足される履行義務 収益認識会計基準(案)35項(1)から(3)の要件(上記Ⅲ)のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対するを顧客にすることにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識する(収益認識会計基準(案)36項)。 資産に対するを顧客にした時点を決定するにあたっては、収益認識会計基準(案)34項の定め(資産に対する)を考慮する(収益認識会計基準(案)37項)。 のを検討する際には、例えば、次の①から⑤の指標を考慮する。 また、のを検討する際の指標については、次を考慮する(収益認識適用指針(案)14項)。   Ⅴ 履行義務の充足に係る進捗度 1 進捗度に関する留意点 履行義務の充足に係る進捗度については、次のように規定されている(収益認識会計基準(案)38項~42項)。 2 アウトプット法とインプット法 履行義務の充足に係る進捗度(収益認識会計基準(案)38項)の適切な見積りの方法には、アウトプット法とインプット法がある(収益認識適用指針(案)15項)。 アウトプット法とインプット法のいずれを採用するのかについては、財又はサービスの性質を考慮して決定する(収益認識適用指針(案)15項)。 履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたっては、履行義務を充足して顧客に支配を移転する財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映するが、顧客に支配を移転しない財又はサービスの影響は当該進捗度の見積りに反映しない(収益認識適用指針(案)16項)。 3 履行義務の充足に関する意見 履行義務の充足については、以下の論点が検討されている(第342回企業会計基準委員会(2016年8月10日)の審議事項(4)-2、8項、13項、20項)。   Ⅵ 重要性等に関する代替的な取扱い 重要性等に関する代替的な取扱いとして、以下に述べる規定が設けられている。 なお、次のものに関する代替的な取扱いは規定されておらず(収益認識適用指針(案)157項)、現行の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなる。 1 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア 収益認識会計基準(案)35項の定めにかかわらず、工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができる(収益認識適用指針(案)94項、148項)。 受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて当該規定を適用することができる(収益認識適用指針(案)95項、149項)。 2 船舶による運送サービス 収益認識会計基準(案)32 項の定めにかかわらず、一定の期間にわたり収益を認識する船舶による運送サービスについて、一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み、運送サービスの履行を目的としない船舶の移動又は待機期間を除く)である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで、当該期間にわたり収益を認識することができる(収益認識適用指針(案)96項、150項)。 3 出荷基準等の取扱い 収益認識会計基準(案)36項及び37項の定めにかかわらず、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(収益認識会計基準(案)32項~34項、36項、37項の定めに従って決定される時点、例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができる(収益認識適用指針(案)97項)。 商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合である(国内における配送においては、数日間程度の取引が多いものと考えられる。収益認識適用指針(案)151項)。 4 契約の初期段階における原価回収基準 収益認識会計基準(案)42項の定めにかかわらず、一定の期間にわたり充足される履行義務について、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該契約の初期段階に収益を認識せず、当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができる(収益認識適用指針(案)98項、152項)。   Ⅶ 会計システム等への影響 次の影響が考えられる(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)104項~106項)。 (了)

#No. 238(掲載号)
#阿部 光成
2017/10/05

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第136回】企業結合会計⑧「共通支配下の取引」-無対価の会社分割(分割会社、承継会社ともに子会社のケース)

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第136回】 企業結合会計⑧ 「共通支配下の取引」 -無対価の会社分割(分割会社、承継会社ともに子会社のケース)   仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹  公認会計士 素村 康一     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 1 B1社(分割会社)の会計処理 2 B2社(承継会社)の会計処理 3 A社(親会社)の会計処理 B1社の純資産に対する、移転したb事業の純資産の比率 = b事業の純資産6,000千円 ÷ B1社の純資産15,000千円 = 40% B2社株式に引き換えられたとみなされる金額 = B1社株式10,000千円 × 40% = 4,000千円   〈会計処理の解説〉 この設例のように、完全親子会社関係にある一方の100%子会社(分割会社)から他の100%子会社(承継会社)に対して会社分割により事業を移転する際に、承継会社は対価(例えば承継会社の株式)を支払わないケースがあります。 ここで、分割に際し承継会社が対価を支払わない場合には、原則として、承継会社は、受け入れた資産及び負債の差額のうち株主資本の額を負ののれん(又はのれん)として処理することになります(「企業結合・事業分離等適用指針」224項(1))。一方、承継会社の株式を対価として支払う場合には、承継会社は、受け入れた資産及び負債の差額のうち株主資本相当額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理することになります(「企業結合・事業分離等適用指針」227項(2))。 完全親子会社関係にある場合には、対価の有無は連結グループの経済実態に影響を与えません。にもかかわらず、上記のように会計処理が大きく異なってしまうことは好ましくないため、完全親子会社関係において対価が支払われない会社分割が行われた場合に、対価を支払った場合と結果が大きく異ならないように会計処理が定められています(「企業結合・事業分離等適用指針」437-2項、437-3項)。具体的には、承継会社は分割会社の株主資本の額を引き継ぐことになります。 ▷B1社 分割会社であるB1社においては、移転した事業に係る資産及び負債の差額について株主資本の額を減少させる処理を行います。なお、減少させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額とします(「企業結合・事業分離適用指針」203-2項、255項、233項)。 ▷B2社 承継会社であるB2社においては、この取引が共通支配下の取引に該当するため、B1社から受け入れる資産及び負債を、分割直前にB1社で付されていた適正な帳簿価額により引き継ぎます(「企業結合会計基準」41項、「企業結合・事業分離適用指針」203-2項、256項、234項)。受け入れた資産及び負債の差額についてはB1社で減少させた株主資本を引き継ぎます(「企業結合・事業分離適用指針」234項、227項、437-3項)。なお、その際にB1社で減少させた資本金及び資本準備金はその他資本剰余金とし、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぎます(「企業結合・事業分離適用指針」437-2項)。 これは、会社法上、株式を発行していない場合に資本金及び準備金を増加させることは適当ではないと解されているためです(企業結合・事業分離適用指針」437-2項)。 ▷A社 親会社であるA社においては、分割会社であるB1社の株式の一部が、b事業の移転によりB2社の株式の一部に実質的に引き換えられたと考えられます。そのため、分割直前のB1社株式の適正な帳簿価額を合理的に按分する方法によって、B2社株式に引き換えられたものとみなされる部分の価額を算定し、B2社株式の帳簿価額に加算します(「企業結合・事業分離適用指針」294項)。 合理的な按分方法には、次のような方法が考えられ、実態に応じて適切に用います(「企業結合・事業分離適用指針」295項)。 なお、上記設例では③の方法を用いて算定しています。   (了)

#No. 238(掲載号)
#渡邉 徹、素村 康一
2017/10/05

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《自己株式》編 【第2回】「自己株式の処分」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《自己株式》編 【第2回】 「自己株式の処分」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 「中小企業会計指針」は、(1)自己株式の取得及び保有、(2)自己株式の処分、(3)自己株式の消却について、言及しています。 会社法により、A社自身が取得して保有しているA社株式(自己株式)を、原則として株主総会の特別決議により、例えばd氏のような他者へ譲渡(処分)することができます。 今回は、「(2)自己株式の処分」についてご紹介します。   【設例2】 (1) A社は、×2年5月30日の株主総会の特別決議に基づき、×2年7月15日にA社自身が保有するA社株式をd氏へ1株100,000円で4株譲渡(処分)し、同日(払込期日)に払込されました。 非上場会社であるA社(3月31日決算)の×2年3月31日決算の貸借対照表上の純資産は次のとおりです。 資本金40,000千円、資本準備金10,000千円、利益準備金5,000千円、繰越利益剰余金50,000千円、自己株式△800千円、純資産合計104,200千円 A社の譲渡(処分)直前の保有自己株式は10株で、×1年7月20日に、@80,000円/株にて取得したもののみです。 (2) A社は、×3年5月30日の株主総会の特別決議に基づき、×3年7月10日にA社自身が保有するA社株式をe氏へ1株60,000円で6株譲渡(処分)し、同日(払込期日)に払込されました。 非上場会社であるA社(3月31日決算)の×3年3月31日決算の貸借対照表上の純資産は次のとおりです。 資本金40,000千円、資本準備金10,000千円、その他資本剰余金80千円、利益準備金5,000千円、繰越利益剰余金40,000千円、自己株式△480千円、純資産合計94,600千円 A社の譲渡(処分)直前の保有自己株式は6株で、×1年7月20日に、@80,000円/株にて取得したものです。 (1)(2)いずれも A社の発行済株式数は1,000株(普通株式の1種類のみ発行)です。 前回の【設例1】におけるA社の×2年3月31日現在の資本金等の額を、この設例でも引き継ぐものとします。 自己株式の処分に関する付随費用はないものとします。   1 仕訳 A社の仕訳は、次のとおりです。 自己株式の譲渡(処分)は、会社と株主との間の資本取引としての性格を有しているため、新株発行の会計処理と同様に貸借対照表の払込資本を直接増加させます。 具体的には、マイナスの自己株式の帳簿価額を減少させ、さらに、自己株式の譲渡(処分)の際の処分差額を、純資産の部の「その他資本剰余金」に計上します。 (1)では、自己株式の帳簿価額320,000円(=取得単価@80,000円/株×4株)を400,000円(=譲渡単価@100,000円/株×4株)で譲渡しているので、譲渡の際の処分差額はプラスの80,000円(=400,000円-320,000円)となり、これを純資産の部の「その他資本剰余金」に計上します。 (2)では、自己株式の帳簿価額480,000円(=取得単価@80,000円/株×6株)を360,000円(=譲渡単価@60,000円/株×6株)で譲渡しているので、譲渡の際の処分差額はマイナスの120,000円(=480,000円-360,000円)となります。 このような自己株式処分差損は、純資産の部の「その他資本剰余金」から減額し、控除しきれない場合には、さらに、その他利益剰余金の「繰越利益剰余金」から控除します(中小企業会計指針70(2))。(2)の自己株式処分差損120,000円は、その他資本剰余金残高80,000円を超えるので、その超過額40,000円を繰越利益剰余金から控除しました。   2 決算書 決算書の金額は、次のとおりです。 〈株主資本等変動計算書-「自己株式の処分」に係る部分を抜粋〉 〈株主資本等変動計算書-「自己株式の処分」に係る部分を抜粋〉   3 法人税法の規定における取扱い 自己株式の譲渡(処分)対価を、税務上は、資本金等の額の増加とします。 (1)の場合、自己株式の譲渡(処分)対価が400,000円であるので、資本金等の額が同額だけ増加します。 (2)の場合、自己株式の譲渡(処分)対価が360,000円であるので、資本金等の額が同額だけ増加します。   4 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 上記3(法人税法の規定における取扱い)によると、自己株式の譲渡(処分)についての税務上の仕訳は、次のとおりです。 この税務上の仕訳と上記1(1)の会計上の仕訳を比べると、損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得への調整には影響がありませんが、資本金等の額は400,000円(自己株式譲渡(処分)対価の額)の増額調整が必要なので、別表五(一)において次のように記載します。 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 この税務上の仕訳と上記1(2)の会計上の仕訳を比べると、損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得への調整には影響がありませんが、資本金等の額は、360,000円(自己株式譲渡(処分)対価の額)の増額調整が必要なので、別表五(一)において次のように記載します。 また、自己株式処分差損のうち繰越利益剰余金から控除した40,000円は、税務上資本金等の額から控除するので、利益積立金額を40,000円増額調整します。 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 (了)

#No. 238(掲載号)
#前原 啓二
2017/10/05

外国人労働者に関する労務管理の疑問点 【第7回】「後々トラブルにならないよう入社時に説明すべきこと(その1)」

外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第7回】 「後々トラブルにならないよう入社時に説明すべきこと(その1)」   社会保険労務士・行政書士 永井 弘行     1 新社会人なら日本人でも知らない人が多い 新卒で入社した新社会人であれば、外国人だけでなく日本人でも、給料・賞与から法定控除(いわゆる「天引き」)により社会保険料や税金が引き去りされることを正確に知っている人は多くありません。 外国人はなおさら、日本の制度や仕組みを知らないケースがほとんどと言っていいでしょう。例えば採用面接の際に、「初任給は20万円です」と聞けば、「毎月、20万円が給料日に支払われる」と思ってしまいます。しかし、給料からの法定控除がありますので、20万円全てを受け取ることはできません。 こうした『日本人ならあまり疑問に思わないこと』や、『そうした制度なら仕方がない』で終わるようなことでも、外国人の従業員にはなかなか納得できないケースもあります。このため、最初に丁寧に説明して、あらかじめ理解を得ておくのが賢明です。 そうしないと、後で苦情を言われたり、会社との信頼関係が崩れたり、トラブルに発展することがあります。   2 給料から税金や社会保険料が引き去りされます 一般に社会人であれば常識ですが、給料の「額面」と本人が受け取る「手取額」は異なります。実際に従業員が受け取るのは、税金や社会保険料が引かれた後の金額(手取額)です。そのため「労働条件通知書に書かれた給料の額」に比べ、「本人が受け取る手取額」は少なくなります。 勤務先の会社・団体を問わず、給料からは次の税金・社会保険料が引かれます。 扶養家族の人数によって税金の額は変わりますが、①~⑥の合計で給料の約20%程度が引かれます。つまり、給料の額面が20万円の人は、4万円程度が引かれて、手取額は約16万円になります。賞与についても、上記の②住民税は控除されませんが、それ以外の①、③~⑥の合計が支給の都度、控除されます。 〈給与・賞与から引かれる保険料の料率(平成29年9月以降)〉 ⇒「従業員負担分」が従業員の給与・賞与から控除される。 (※) 前提:サービス業(その他の各種事業)、協会けんぽ(東京都)に加入。   3 多くの場合、住民税の引き去りは「入社2年目」から 学生から社会人になった人は、入社1年目は、給料から住民税は引かれません(学生のときは無収入の前提)。住民税は、2年目の6月の給料から引き去りされます。つまり、1年目と2年目で給料の額が同じなら、2年目の6月から手取額が減ることになります。 このため「今月から急に給料が減りました。私の給料の計算や支払いが間違っていませんか?」という苦情(誤解)が出ないように、あらかじめ説明しておく必要があります。 なお、住民税は「前年1月~12月の1年間の所得」に応じて課税されます。毎年5月に市区町村から会社に、従業員一人一人の住民税の「特別徴収税額通知書」が通知されます。その通知書に記された住民税を従業員の毎月の給料から引き去りし、会社が市区町村に納付します。会社としては、市区町村から届いた「特別徴収税額通知書」の内容を、従業員各人に通知することが必要です。 外国人の従業員には、入社時にこの制度について説明した上で、上記の通知を行う際(入社2年目の5月頃)に、あらためて説明しておくのがよいでしょう。   4 社会保険は従業員個人の希望の有無に関わらず強制加入 時々、外国人の従業員から「私は数年後に帰国します。将来、日本の年金をもらうことはありません。私の給料から厚生年金保険料を引かないでください。」という要望を聞くことがあります。 会社で働く人は、外国人も日本人と同様に、給料・賞与から税金や社会保険料が引き去りされます。法令で決められた条件を満たしていれば、本人が希望する・しないに関わらず社会保険に加入し、法定控除として給料・賞与から保険料が引き去りされます。 つまり、外国人従業員が「社会保険に入りたくない」と希望しても、その人だけ厚生年金保険に加入しないとか、給料から引き去りしないことはできません。 厚生年金保険は国が運営する公的な保険であり、加入者には老齢年金以外にもいくつかのメリットがありますので、次の内容を説明して理解を得るのがよいでしょう。   5 外国人が日本出国後に請求できる厚生年金保険の脱退一時金 外国人従業員が日本で会社に6ヶ月以上勤務(厚生年金保険に6ヶ月以上加入)して帰国した場合は、帰国後も、日本年金機構に請求すれば、厚生年金保険の脱退一時金が支払われます。 例えば、日本で3年間、年収300万円で働いた外国人が帰国した場合、日本年金機構に請求すれば、約80万円の脱退一時金が支払われます。これは厚生年金保険料を支払っても老齢年金の受取りにつながらない外国人のために、「掛け捨て防止」を目的とした制度です。これまでに納付した厚生年金保険料(の平均額)が、3年分を上限に一時金として払戻しされます。 このように、厚生年金保険料は掛け捨てにはならないのです。実際に、最初は厚生年金保険の加入に否定的だった外国人従業員が「退職してから、帰国後に請求すれば、脱退一時金がもらえますよ」と説明することで納得してもらい、円満に解決したケースもあります。 なお、本年8月から、老齢年金を受け取るための条件が、国民年金・厚生年金保険の合計で「25年以上加入」から、「10年以上加入」に短縮されました。そのため、日本で会社に10年間勤務した外国人従業員は、国籍を問わず、65歳以降に支給される老齢年金の受給権を得ることになります。 この場合、老齢年金の受給権を得た外国人には、脱退一時金は支給されません。つまり脱退一時金を受け取ることができるのは、「厚生年金保険に6ヶ月以上加入し、老齢年金の受給権を得ていない外国人」に限られますので注意しておきましょう。 この脱退一時金については、別の回にあらためてご説明する予定です。 *  *  * 次回(第8回)も引き続き「後々トラブルにならないよう入社時に説明すべきこと」について説明していきます。 (了)

#No. 238(掲載号)
#永井 弘行
2017/10/05

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第19回】「民事信託の利用(その1)」-親なき後問題への対応(遺言代用型信託)-

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第19回】 「民事信託の利用(その1)」 -親なき後問題への対応(遺言代用型信託)-   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   [設問16] 私はまだ50歳ですが、数年前から日常生活や仕事の場での物忘れが激しいため検査してもらったところ、若年性認知症であると診断されました。 私には、別れた妻との間に、生まれつき知的障害を持った未成年の息子がおります。息子がこの先自分の生活費を自分で稼げるようになる可能性はほとんどなく、親である私が息子の面倒を一生みる覚悟をしておりました。 そのような中で医師から今回の告知を受け、私自身の今後のみならず、息子の将来の生活に対しても非常に不安を感じております。 ◆  ◆  ◆ 私には親から相続した預金が4,000万円ほどあり、これを今後の私や息子の生活費に充てていきたいと思っていますが、将来的に私が亡くなって相続が発生したときに、相続人である息子自身が数千万円という高額なお金を自分で持つことになるのは、それはそれで不安に感じます。 また、将来、息子が亡くなった際に私が残したお金が残っているようであれば、息子がいつもお世話になっている地元の障害者自立生活支援センターへ寄付されるようにしたいのです。 ◆  ◆  ◆ 先日新聞で読んだ内容で、私のようなケースでは「民事信託」を利用する方法があるという記事を目にしました。 この「信託」というものはどのような制度なのでしょうか。わかりやすく説明してください。   1 「信託」とは何か? 高齢者の財産管理の一手法として、「民事信託」ないし「家族信託」というキーワードを目にする機会も多くなった。特に平成18年12月の信託法の改正以降、その傾向は年々強まっているといえる。 それでは、そもそも「信託」とはなんであろうか。 その意味内容を端的に言えば、その名が表すように、「誰かのことを信じて、財産を託する」という制度である。 信託は、もともと英米法における長年の歴史の中で形成されてきた制度を導入したものであること、当事者も多く法律関係も複雑なものとなることから正確に理解することがなかなか難しい面がある。 そこで、まずは信託の基本構造や基本用語について説明することにしたい。   2 民事信託の基本構造 前述した信託の意味内容に沿って考えれば、信託においては、①信託を利用したいと考えている者(委託者)がおり、②この者が所有する財産(信託財産)を、③一定の目的(信託目的)を実現するために、信頼する他者(受託者)に信託財産を託して移転させ、④受託者の管理のもとで、特定の者(受益者)が経済的給付を受けるという構造を取る。 これを図解すると、次のような三面構造となるのが原則である。 【信託の基本構造】 信託の場合、受託者は、成年後見人等のように本人の「代理人」として財産を管理する立場にとどまらず、信託財産の移転も受け、信託目的実現のために財産の管理処分権限まで有する点が大きな特徴といえる。 一般的なケースであれば、委託者と受託者は他人となるが、このような場合を他者信託という。他方、現行信託法では、委託者と受託者が同一であることも許されている。これが自己信託ないし信託宣言と呼ばれるものである。 また、委託者と受益者が他人となることが通常であろうが、このような場合を他益信託という。他方、委託者と受益者が同一であるケースも許され、このような場合を自益信託という。 そして、受託者が適切な財産管理・処分を行っているかを監視するための信託監督人や、受益者の権利確保を支援するための受益者代理人が置かれる場合もある。 なお、信託と聞くと、信託銀行のことを想起する人も多いであろう。この信託銀行が販売するものに、「遺言信託」という名称にてサービス展開しているものがある。 これは、①信託銀行が遺言書の作成を支援し、②その後、作成された遺言書を保管し、③遺言者が亡くなった後は遺言執行者として遺言執行業務を行うという内容のサービスである。 この内容に照らしても明らかなように、これは前記で説明した意味での信託ではない。混同しないように注意する必要がある。   3 【設問16】(親なき後問題)における利用例 【設問16】のケースは、民事信託の中でも、いわゆる「親なき後問題」と呼ばれ、信託の使用が検討されるケースの典型例の1つと言われている。 【設問16】のケースを仮に遺言書で定めようとすれば、息子に直接財産を相続させた場合、知的障害を持つ息子が多額の財産を直接所有することになる。そうなれば、悪意ある第三者が近づき、財産を詐取される恐れも考えられるし、息子自身が無計画に散財してしまう可能性もある。 そこで、相談者としては、信託のスキームの採用を検討することになる。 すなわち、自分の財産を信頼して託せる親族や知人があればこれを受託者とし、そのような者が身近にいなければ信託銀行に相談して受託者となってもらい、受託者に責任をもって信託財産を管理してもらうことにする。 そして、相談者が亡くなるまでは、相談者が委託者兼受益者となり(自益信託)、相談者が亡くなって以降は、知的障害を持つ相談者の息子を受益者とする(他益信託)よう信託契約にて定める。同時に、息子に毎月支払う定額の金額や通院・通所する病院や施設があれば、その費用も信託財産から支払われるように定めることになる。 このようにすることで、委託者である相談者が亡くなって以降も、相談者の息子は生活していく上での金銭の心配をせず、安心して暮らしていくことができる。 なお、相談者は、将来、息子が死亡したときに信託財産に余りがあるようであれば、地元の障害者自立生活支援センターに寄付したいという希望を有している。そこで、このような内容についても、予め信託契約において定めておく必要がある。 このように、委託者が数次にわたる将来的な財産処分を定めることができるのも、信託制度を利用するメリットの1つである。 民事信託制度は、工夫次第で様々な用途に対応できると言われている。次回は、他の用途に用いられる信託の事例を見てみよう。 (了)

#No. 238(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/10/05

これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務 【第8回】「定款・議事録管理の仕組みづくり」-不完全な定款から万全な定款に-

これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第8回】 「定款・議事録管理の仕組みづくり」 -不完全な定款から万全な定款に-   司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹   はじめに 本稿では、【第2回】でその必要性を説明した「会社主導で中長期的に管理し続けられる体制づくり」の一環として、定款を中心とした「議事録管理」をテーマに解説する。 定款や議事録等を管理するうえで何か工夫している点はあるだろうか。今後、管理体制を見直していきたい意向の読者であれば、本稿を通じて、定款・議事録管理の仕組みづくりに関する秘訣をぜひ知ってもらいたい。 まずは定款を中心にみていく。   不完全な定款と万全な定款 登記実務の現場で「不完全な定款」を目にすることがある。 例えば、定款の商号や目的等の記載が、登記記録の記載と一致していなかったり、定款の役員の任期や事業年度が現在運用しているものと異なったりすれば不完全な定款といえる。 不完全な定款には次の問題点がある。 【不完全な定款の問題点】 一方、不完全な点が一切ない定款、つまり「万全な定款」であれば、次の①~③のとおり、不完全な定款の問題点がクリアになる。 【万全な定款によりクリアになる点】 自社の定款はいかがだろうか。もし不完全な点があれば、そのような定款が生み出される原因として以下の点が挙げられる。   不完全な定款が生み出される原因 不完全な定款が生み出される原因、それはズバリ、“定款変更に関する株主総会の決議の都度、定款に株主総会の決議内容を反映していないから”ではないだろうか。   株主総会の決議内容を定款に“反映する”とは 定款変更の効力は株主総会の決議が成立した時点で生じる(会社法第466条)。株主総会議事録に定款変更の旨を記載し、その記載を定款に盛り込んではじめて定款の記載が更新される。つまり、“反映”とは、株主総会の決議内容を定款に“盛り込む”ことをいう。 株主総会の決議内容を定款に反映するまでの過程をまとめると下図のようになる。   登記手続の場面で勘違いしやすい点 登記実務の場面で、①株主総会議事録は作成されるが、②定款変更に関する株主総会の決議内容が定款に反映されていない事例がよくみられる。 なぜ定款変更に関する株主総会の決議内容が定款に反映されないのか、事業目的の変更登記手続の場面をもとにみてみよう。   株主総会の決議内容が定款に反映されない原因 事業目的を変更する場合、事業目的が定款の記載事項とされている関係で、定款変更(=事業目的の変更)の株主総会の決議を行う。 登記手続の場面では、定款変更の記載のある株主総会議事録を添付すれば足り、変更後の事業目的を記載した定款の添付は求められていない。 実際、定款変更に関する株主総会の決議成立をもってその効力が生じるのであるから、定款変更の記載のある株主総会議事録を作成すれば十分であると考えても不思議ではない。 しかし、この工程で終わると定款には株主総会の決議内容が反映されないことになる。 これまで株主総会議事録の作成の工程で定款変更が完了であると信じていた読者に訴えたいのは、株主総会議事録の作成の工程からもう一歩ふみこんで株主総会の決議内容を定款に反映する工程を加えてもらいたいという点である。 この工程は、会社主導で中長期的に株主総会議事録と定款を管理していくうえでカギとなるところでもある。   株主総会議事録と定款の管理は“点と線のイメージ” 株主総会議事録と定款を管理するうえで、“点と線の”イメージを持つとよいだろう。 つまり、株主総会議事録は、ある株主総会の決議の内容をまとめたもの(=点)である一方で、定款は、定款変更に関する株主総会の決議の内容をその都度反映したもの(=線)である。 定款と株主総会議事録の関係性を表すと次のイメージとなる。 【定款と株主総会議事録の関係イメージ】 定款変更に関する株主総会の決議の都度漏れなくその決議内容を定款に反映することで、万全な定款となる。一方で、株主総会の決議内容を定款に反映することを一度でも失念すると、不完全な定款となってしまう。 そこで次回は、不完全な定款を生み出さないための実践方法について詳しく解説する。 (了)

#No. 238(掲載号)
#本橋 寛樹
2017/10/05
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