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《速報解説》 2024年版「上場会社等における会計不正の動向」をJICPAが公表~会計不正の業種別公表件数は38社でサービス業がトップ~

《速報解説》 2024年版「上場会社等における会計不正の動向」をJICPAが公表 ~会計不正の業種別公表件数は38社でサービス業がトップ~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2024年7月16日付けで経営研究調査会研究資料第11号「上場会社等における会計不正の動向(2024年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。   1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。   2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている、この分類についても、上述のとおり、2018年版以降、変更はない。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2020年3月期から2024年3月期までの5年間で187社となっている。当該5年間では、2020年3月期の47社が最大であり、2024年3月期における会計不正の公表社数は45社で、前年同期の34社を上回った。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2024年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が80.2%となっている。2024年3月期においては、件数ベースでは77.5%が「粉飾決算」で、前年同期の78.8%から少し減少して、調査対象の5年間で最も少なくなっている。また、粉飾決算の割合は、年度によってばらつきが見られるものの、77.5%から83.8%の範囲内に分布している。 粉飾決算の公表が80%程度で推移していることについて、研究資料では、「資産の流用による財務諸表への影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に準拠して公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、ほぼ同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合については5年間平均で35.9%、2024年3月期は33.9%であり、前年同期の38.5%を下回っている。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2024年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が38社でトップ、以下、卸売業28社と上位2業種の順位に変動はなかったものの、3番目に情報・通信業20社と続き、以下、建設業の16社、電気機器は12社と続いている。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2024年3月期においては、東証プライム市場20社(前年同期11社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証スタンダード市場15社(17社)、東証グロース市場7社(7社)、その他3社(1社)となり、前年度と比較すると、プライム市場に分類される会社において、会計不正の発覚が大きく増加している。 また、東証において市場区分の見直しが行われた後の上場会社数の割合と会計不正発覚会社の割合を図示すると、次のとおりである。 昨年の分析では、プライム市場に関して、上場会社数の割合と会計不正発覚割合との差異が△8.6%と他の市場区分に比較して顕著に少なかったが、2024年3月期は、大きな差異は見られない。 (5) 会計不正の発覚経路 2024年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、当局の調査等が42社(前回調査時は32社。以下括弧内の数字が前年調査時を示す)、内部統制等が34社(38社)、内部通報が29社(22社)、取引先からの照会等が28社(24社)、公認会計士監査が16社(18社)となっていて、前回調査との比較では、当局の調査等が前回報告書の2位から1位へと増加し、内部通報と取引先からの照会等も増加傾向にある一方、内部統制等と公認会計士監査は減少している。一方、調査報告書に発覚経路が公表されていないケースは27件(構成比14.8%)を占めている。 (6) 会計不正の関与者 2024年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が94社、単独が43社)、非管理職については、単独30社、共謀16社と、単独での会計不正が共謀を上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2024年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社(本社)、国内子会社及び海外子会社の別に分類して集計した結果、上場会社本体が81社、国内子会社が73社、海外子会社が23社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2021年3月期及び2022年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数(7社及び12社)を国内子会社(12社及び17社)が上回った状態が続いていたが、2023年3月期以降は、上場会社本体が国内子会社を上回る傾向が続いている。一方、海外子会社における会計不正の件数は、2021年3月期以降、6社➡4社➡3社➡3社と少ない状態が続いている。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が50.0%、北米・南米が23.3%、中国を除くアジアが16.7%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2024年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、25社、73社、83社となった。2022年3月期及び2023年3月期は、「外部専門家のみ」の調査委員会設置数が過半数を超えていたが、2024年3月期は43社中20社と過半数を割り込んでいる。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(48.2%)、「資産の流用」では「社内のみ」または「社内+外部専門家」で調査に当たる会社が多くなっている(「社内のみ」が36.8%、「社内+外部専門家」が42.1%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2024年3月期までの5年間において、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は76社であった。訂正を行った会社のうち64社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 内部統制報告書の訂正割合の変化に注目すると、2020年3月期の44.7%をピークに、2021年3月期は26.9%に減少したものの、2022年3月期以降は、42.4%➡38.9%と推移し、2024年3月期は44.4%となり、2020年3月期のピークに近似してきている。こうした状況について、2024年版の報告書では、「内部統制報告書の訂正理由として資産の流用、粉飾決算とも増加し、会計不正を防止する内部統制を構築できていなかったことが与える影響が高まっている」とコメントしている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#米澤 勝
2024/07/22

《速報解説》 四半期開示制度の見直しを受け、監査基準報告書等の改正案が公表される~表現等を中心に見直し~

《速報解説》 四半期開示制度の見直しを受け、 監査基準報告書等の改正案が公表される ~表現等を中心に見直し~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年7月16日、日本公認会計士協会は、「四半期開示制度の見直しに伴う監査基準報告書等の改正及び品質管理基準報告書の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、今般の四半期開示制度の見直しを受けて、関連する監査基準報告書等について所要の見直しを行うものである。 意見募集期間は2024年7月29日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」など多岐にわたる改正となっている。 例えば、「四半期レビュー」を「期中レビュー」とする改正である。   Ⅲ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する予定である。 「後発事象に関する監査上の取扱い」(監査基準報告書560実務指針第1号)は、2024年6月30日以後終了する中間会計期間に係る中間監査又は期中レビューから適用する予定である。 このように、各報告書において規定されているものもあるので、注意が必要である。 (了)

#阿部 光成
2024/07/18

《速報解説》 会計士協会、四半期決算短信及び第1種中間連結財務諸表に係るチェックリストを公表~期中レビューにおいて表示の確認を実施する際に有用~

《速報解説》 会計士協会、四半期決算短信及び第1種中間連結財務諸表に係るチェックリストを公表 ~期中レビューにおいて表示の確認を実施する際に有用~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年7月12日付で(ホームページ掲載日は2024年7月16日)、日本公認会計士協会は次のものを公表した。 これは、監査事務所が期中レビューにおいて、表示の確認を実施する際の参考となるチェックリストである。 いずれの研究報告も監査事務所における利用を想定しているが、財務諸表の作成者も利用可能である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」は次の構成となっている。 「第1種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリスト」は次の構成となっている。 いずれのチェックリストについても、「本研究報告利用上の留意点」が記載されているので、実際の利用に際しては注意が必要である。 (了)

#阿部 光成
2024/07/18

プロフェッションジャーナル No.578が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年7月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.578を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/07/18

日本の企業税制 【第129回】「新リース会計基準の導入による消費税への影響」

日本の企業税制 【第129回】 「新リース会計基準の導入による消費税への影響」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   企業会計基準委員会(ASBJ)では、昨年5月の企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等へのコメント対応の審議が進められ、最終化に向けた詰めの作業が行われている。   〇貸手の会計処理 昨年の会計基準案等では、連結財務諸表のみならず個別財務諸表も含め、借手のリースの費用配分の方法について、IFRS第16号と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースを金融の提供と捉え、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルによることを提案しており、その方向に変更はないものとみられる。 一方、貸手の会計処理については、借手の会計処理とは異なり、基本的に現行のリース会計基準等の定めを維持するとされており、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分及びファイナンス・リースにおける所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースの区分も変更されていない。 しかし、現行のリース会計基準等では、貸手のファイナンス・リースの会計処理について次の3つの方法の選択適用が認められているが、今回の会計基準案等では、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性を考慮し、②の方法を廃止することが提案されている。 オペレーティング・リース取引については、現行のリース会計基準等では、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めており、収益の計上方法に関する具体的な会計処理は示されていない。 会計基準案等では、フリーレント(契約開始当初数ヶ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にすることにより収益認識会計基準との整合性を図るために、貸手は、リース料についてリース期間にわたり原則として定額法で計上することが提案されている。   〇現行の消費税の取扱い 消費税においては、課税資産の譲渡等が行われた時に納税義務が成立し(通法15②七)、課税標準は課税資産の譲渡等の対価の額となる(消法28①)。 リース取引の貸手の課税関係については、課税・非課税の区分と課税売上を計上するタイミングそれぞれについて規定が設けられている。 課税・非課税の区分は、利子保険部分が契約に明示されているか否かによって決定される(消令10③十五)。 一方、課税売上を計上するタイミングについては、原則的取扱い(リース資産の引渡し時に一括課税)の他に特例が設けられている。 原則的取扱いでは、リース資産の引渡し時にリース資産の譲渡があったものとして(消基通5-1-9(1))、リース料総額から契約に明示されている利子保険部分を控除した金額を一括して課税売上として計上する(消令10③十五)。 特例では、①法人税法上(法法63①、法令124①一・②)の延払基準(賦払金割合)による方法(消法16)、②法人税法上(法法63①、法令124①二)の延払基準(利息法)による方法(消法16、消令32の2)、③法人税法上(法法63②、法令124③・④)の特例的計上基準(20%利息法)による方法(消令36の2)、の3つの方法が認められている。   〇会計基準改定の影響 上記の特例の中で①②については、「確定した決算において政令で定める延払基準の方法により経理したとき」(法法63①)に認められる方法とされている。 前述のように、改定される会計基準等において、貸手のファイナンス・リースの会計処理につき、リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法が廃止されると、法人税及び消費税における延払基準による方法の前提が失われることとなる。 同様のことは、収益認識会計基準の導入によりリース譲渡以外の長期割賦販売等における延払基準の制度が廃止されることとなった際にも生じたが、平成30年度税制改正では、平成30年4月1日以後に終了する事業年度において延払基準の適用をやめた場合に、その時までに資産の譲渡等として計上されていない賦払金の額がある場合に、その額を10年均等で収益計上する等の経過措置が設けられた(平成30年改正法附則44④)。   (了)

#No. 578(掲載号)
#小畑 良晴
2024/07/18

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第63回】「役員給与と事業所得」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第63回】 「役員給与と事業所得」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 事業所得の判断 まず、事業所得の判断要素について確認する。この点については、最高裁判所が判示した事例がある。具体的には、最高裁昭和56年4月24日判決にて(※1)、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。」と示されており、今日の実務はこれに倣っているといえる。 (※1) 民集18巻8号1762頁、TAINS:Z117-4788。 また、国税庁の参考となる通達に「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)(平成21年12月17日、課個5-5)」がある。これによれば、事業所得か給与所得かその区分が明らかでないときは、①他人が代替できるか、②時間的拘束を受けるか、③指揮監督を受けるか、④不可抗力により滅失等した場合に報酬を請求できるか、⑤材料や用具等が提供されるか、という点から判断すべき旨が示されている。この通達が示すこれらの要素は、上記最高裁判決を汲んだものであるといえる。 このような点から、その法人の所得を事業所得とすべきかどうかは上記最高裁判決の判示内容や上記通達に照らし、その実態に鑑みた判断が必要となる。ここで、仮に法人が、法人の役員に対して業務委託として支出した金銭がある場合、その相手が法人と密接な関わりがある役員であるために、「自己の計算と危険において独立して営まれている」かどうかの判断に悩む場合もあるかもしれない。 そこで、以下において、このような事例を紹介する。   (2) クラブを経営する法人がその代表取締役に支払った報酬につき、役員賞与であるとされた事例 クラブを経営する有限会社の代表取締役であり、そのクラブのいわゆるママでもある者に対して法人が支払った報酬が、その者の事業所得ではなく役員給与に該当するとされた事例として、札幌地裁平成25年6月20日判決がある(※2)。以下にその概要を紹介する。 (※2) 税務訴訟資料263号順号12237、TAINS:Z263-12237。なお、この事例は控訴及び上告がなされているが、高裁及び最高裁は地裁の判断を全面的に支持しているため、ここでは地裁判決を取り上げる。 本件裁判例の事実関係を整理すると、以下の事実が認定されている。 このような事実関係において、地裁は、①納税者の株式をすべて取得することが予定されており、②甲が資金繰り等の事情による支払い遅延を甘受していたこと、③衣装費用等を納税者が負担することもあったこと、④甲が認めたつけ払いについて納税者は甲に厳格な責任を追及していなかったこと、等の納税者と一体的に経営的立場からママとして稼働していたとして、第三者的立場でホステスとして業務委託契約があったとはいえない旨を認定した。 その上で、甲が、自己の計算と危険において納税者から独立した立場で個人事業を営んでいたとはいい難いとして、納税者から甲に支払われた本件金員の一部が役員賞与(旧法人税法35条)に該当するとして、損金不算入となる旨を示した。   (3) 本件裁判例の意義 本件裁判例は、上記最高裁判決が示した事業所得の意義に照らして本件金員の一部が事業所得に該当しないために給与や賞与であるとされ、それがすなわち当時の法人税における役員賞与に該当するために損金不算入である旨が示された点に意義を見出すことができると思われる。 役員給与税制が整えられた今日においても、外注委託費等として計上していた法人の代表取締役が、個人事業主を兼ねているケースもあるだろう。このような場合において、当該法人と全く関わりのない事業であれば問題ないといえるところ、当該法人の事業と関わりがある事業を個人が営んでいる場合、特に当該法人から業務委託や外注を受ける形であるならば、「自己の計算と危険において独立して営まれている」等とはいい難いとされる場合も考えられる。 本件裁判例では、ママである甲の衣装を法人が負担していたり、法人から甲に対するつけ払いの追及が無かったりという事情が決定打となったと思われる。仮にこのような事実が無く、甲が事業所得として確定申告をしていた等の場合には異なる結論となった可能性も否定できないが(本件裁判例では、甲が事業所得として所得税の確定申告をしていたかについて言及はない)、法人からのこのような金銭の支給が個人事業であるというためには、最低でも自己による危険負担等について立証できるようにするべきであると思われる。   (了)

#No. 578(掲載号)
#中尾 隼大
2024/07/18

基礎から身につく組織再編税制 【第66回】「適格株式移転(共同事業)」

基礎から身につく組織再編税制 【第66回】 「適格株式移転(共同事業)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、共同事業を行うための適格株式移転の要件について解説します。   1 共同事業を行うための適格株式移転の要件 共同事業を行うための適格株式移転の要件は次の7つです。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、株式移転完全子法人の株主に株式移転完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十八)。 ただし、次の①又は②を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 (※) ①から②の詳細は、本連載の【第64回】を参照。   3 従業者継続要件 (1) 従業者継続要件とは 「従業者継続要件」とは、株式移転直前の株式移転完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式移転後に株式移転完全子法人の業務((2)参照)に引き続き従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔三)。 (2) 株式移転完全子法人の業務について 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に、株式移転完全子法人との間に完全支配関係がある法人の業務と株式移転後の次に行われる適格合併等に係る合併法人等の業務も株式移転完全子法人の業務に含まれます。   4 事業継続要件 「事業継続要件」とは、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業が株式移転後に株式移転完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔四)。 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に株式移転完全子法人との間に完全支配関係がある法人の業務と株式移転後の次に行われる適格合併等に係る合併法人等において、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   5 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業(子法人事業)と他の株式移転完全子法人の株式移転前に行ういずれかの事業(他の子法人事業)とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます(法令4の3㉔一)。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」というのは、次のような場合をいいます(法規3①二・②・③)。   6 事業規模要件又は経営参画要件 共同事業を行うための適格株式移転の要件として、事業規模要件又は経営参画要件のいずれかを満たすことが求められています(法令4の3㉔二)。 (1) 事業規模要件 「事業規模要件」とは、株式移転完全子法人の子法人事業と他の株式移転完全子法人の他の子法人事業(子法人事業と関連する事業に限ります)のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。共同事業を行うための適格合併の要件と異なり、資本金による規模の判定はできませんのでご留意ください。 事業規模要件は、規模があまりにも異なる株式移転は共同で事業を行うものとは認められないという趣旨により設けられたもので、事業の規模の割合がおおむね5倍を超えないかどうかは、いずれか1つの指標が要件を満たすかどうかにより判定します(法基通1-4-6(注))。 (例) (2) 経営参画要件 ① 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、株式移転前の株式移転完全子法人又は他の株式移転完全子法人のそれぞれの特定役員(②参照)の全てが株式移転に伴って退任するものでないことをいいます。 事業規模要件を満たさない場合でも、株式移転完全子法人の経営陣が退任することなく、株式移転後に経営参画しているものは共同で事業を行うためのものとして認めるという趣旨により設けられています。 ② 特定役員とは 「特定役員」とは社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(③参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 ③ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。   7 株式継続保有要件 (1) 株式継続保有要件 「株式継続保有要件」は、株式移転により交付される株式移転完全親法人株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主((2)参照)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔五)。 (2) 支配株主とは 株式継続保有要件における「支配株主」とは、株式移転の直前に株式移転完全子法人又は他の株式移転完全子法人の発行済株式の50%超を保有する株主をいいます。 上図の株主Aは支配株主に該当するため、対価(株式移転完全親法人株式)を継続保有することが求められます。 支配株主に該当しない株主(株主B、株主C、株主D、株主E)については、対価の継続保有は求められません。   8 完全支配関係継続要件 完全支配関係継続要件は、株式移転後に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人の間に株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔六)。   ◆共同事業を行うための適格株式移転の要件のポイント◆ 原則として株式以外の対価を交付しないことが求められています(金銭等不交付要件)。 株式移転完全子法人の株式移転直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が引き続き株式移転完全子法人の業務に従事することが見込まれているかを確認します。 株式移転完全子法人の主要な事業が株式移転後に株式移転完全子法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 事業関連性の判定において、一方の株式移転完全子法人は株式移転前の主要な事業に限定されていますが、他の株式移転完全子法人の事業は限定されていません。 事業規模要件については、事業関連性要件の判定において関連性があるとした事業により判定します。 経営参画要件においては、単なる役員ではなく特定役員が退任しないことが必要です。 支配株主がいる場合のみ、株式継続保有要件の判定を行います。 株式移転後には株式移転によって生じた株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが求められます。   (了)

#No. 578(掲載号)
#川瀬 裕太
2024/07/18

相続税の実務問答 【第97回】「贈与を受けた年の中途で贈与者が亡くなった場合の相続時精算課税の選択」

相続税の実務問答 【第97回】 「贈与を受けた年の中途で贈与者が亡くなった場合の相続時精算課税の選択」   税理士 梶野 研二   [答] 令和6年1月1日以後に相続時精算課税の適用を受ける財産の贈与を受けた場合には、その贈与者が亡くなったときに相続税の課税価格に加算される価額は、その財産の価額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額となります。贈与を受けた年中に贈与者に相続が開始した場合には、贈与税の申告書の提出義務はなくなりますので、その贈与について相続時精算課税を適用しようとする場合には、相続時精算課税選択届出書のみを相続税の納税地の所轄税務署長に提出することになります。 あなたの場合、令和7年3月17日までに相続税の納税地(Y市)の所轄税務署長に相続時精算課税選択届出書を提出することにより、お父様から贈与を受けた150万円のうち基礎控除額110万円相当額は、相続税の課税価格に加算する必要はなくなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税に係る基礎控除 令和5年度の税制改正により、相続時精算課税においても暦年課税における基礎控除額と同額の110万円の基礎控除が設けられました。すなわち、令和6年1月1日以後に特定贈与者(「相続時精算課税に係る贈与をした者」をいいます)から贈与により取得した財産については、その者から同年中に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円(注)を控除し、その残額(相続税法第21条の12第1項に規定する相続時精算課税の特別控除を適用することができる場合には、この特別控除の額を控除した残額)に対して贈与税が課されることとなります。 (注) 相続税法第21条の11の2第1項では、基礎控除額は60万円とされていますが、租税特別措置法第70条の3の2第1項の規定により、相続税法の規定による「60万円」は「110万円」に読み替えられています。 また、相続時精算課税に係る特定贈与者に相続が開始した際には、相続時精算課税を適用した財産については、相続税の課税価格に加算又は算入することとされていますが、令和6年1月1日以後に贈与により取得し相続時精算課税を適用した財産については、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額を相続税の課税価格に加算又は算入することとなりました(相法21の15①、21の16②)。   2 相続時精算課税選択届出書の提出 贈与税の申告書は、原則として贈与により財産を取得した年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与を受けた者の納税地(一般的には贈与を受けた者の住所地)の所轄税務署長に提出しなければなりません。贈与税の申告において相続時精算課税を選択する場合には、贈与者ごとにその贈与者から贈与により取得した財産について相続時精算課税の適用を受けようとする旨その他の一定の事項を記載した「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付しなければなりません(注)(相法21の9②、相令5①、相規10)。 (注) 相続時精算課税を適用する最初の年に「相続時精算課税選択届出書」を提出すれば、同じ贈与者からの贈与については翌年以降も相続時精算課税が適用されますので、翌年以降の贈与税の申告時に、再度、相続時精算課税選択届出書を提出する必要はありません。 しかしながら、贈与を受けた年中に贈与者が死亡した場合には、贈与税の申告書の提出義務はありませんので、贈与税の申告書に相続時精算課税選択届出書を添付して提出することはできません(相法21の9②、28④)。 この点について相続税法施行令は、贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合において、受贈者がその贈与により取得した財産について相続時精算課税の適用を受けるためには、相続税の納税地(一般的には被相続人の死亡の時における住所地)の所轄税務署長に相続時精算課税選択届出書を提出しなければならないと定めています(相令5③)。この場合、贈与税の申告書は提出されませんので、上記の期間内に、相続時精算課税選択届出書だけを単独で提出することとなります。 相続時精算課税に係る贈与財産の価額(相続時精算課税に係る基礎控除後の価額)は、相続税の課税価格に加算又は算入しなければなりませんので、贈与者(被相続人)からの贈与に係る相続時精算課税の選択は遅くとも相続税の申告書の提出期限までに行われる必要があります。このため、贈与税の申告書の提出期限までに当該贈与をした者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限が到来するときは、相続時精算課税選択届出書は、当該相続税の申告期限までに提出しなければならず、当該贈与をした者の死亡に係る相続税の申告書を提出するときは、相続時精算課税選択届出書は、当該相続税の申告書に添付して提出しなければならないこととされています(相令5④)。 相続税法基本通達21の9-2では、手続きの誤りを防止する観点から、贈与者が年の中途で死亡した場合の相続時精算課税選択届出書の提出先や提出期限について、留意的に次のとおり整理をしています。 (出典) 国税庁ホームページより一部抜粋   3 ご質問の場合 あなたは、お父様の財産を相続されますので、相続時精算課税の選択をされない場合には、相続税法第19条第1項の規定により、令和6年2月にお父様からの贈与により取得した現金150万円を相続税の課税価格に加算しなければなりません。 一方、相続時精算課税が適用される場合には、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額のみが相続税の課税価格に加算されます。すなわち、あなたが、令和6年中にお父様からの贈与により取得した現金150万円について相続時精算課税を選択するのであれば、基礎控除額110万円を控除した後の残額は40万円となりますので、この40万円だけを相続税の課税価格に加算することとなります。 あなたが、お父様からの贈与について相続時精算課税を選択するためには、相続時精算課税選択届出書を提出しなければなりません。その提出先は、あなたの贈与税の納税地(S市)の所轄税務署長ではなく、相続税の納税地(Y市)の所轄税務署長となります。 なお、贈与税の申告書の提出期限は令和7年3月17日(令和7年3月15日は土曜日となりますので、翌週の3月17日(月曜日)が提出期限となります)であり、相続税の申告書の提出期限であるあなたがお父様の相続開始を知った日の翌日から起算して10ヶ月を経過する日(令和7年5月)よりも前に到来します。したがって、お父様からの贈与について相続時精算課税を選択する旨の届出書は、贈与税の申告書の提出期限までに相続税の納税地(Y市)の所轄税務署長に提出しなければなりません。 (了)

#No. 578(掲載号)
#梶野 研二
2024/07/18

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第47回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第47回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   17 ビットコインETFと分離課税(その1):概要 今後、数回に分けて、日本の居住者が米国のビットコインETF(上場投資信託)を譲渡した場合の所得が分離課税の対象となるかという点を検討する。この論点は、日本における暗号資産の分離課税に関する議論に種々の影響を与えるであろう。 (1) SECによるビットコインETFの承認 2024年1月10日に、SEC(米国証券取引委員会)は、暗号資産であるビットコインの現物を運用対象とするETF(Exchange Traded Fund)(以下「ビットコインETF」という)を承認した。同日において承認された11銘柄は下記「米国ビットコインETF比較表」のとおりである。 〈米国ビットコインETF比較表〉 (出典) 各銘柄の目論見書等に基づいて筆者作成 この11銘柄は、原則として、いずれの銘柄も、①運用対象は現物のビットコインのみである、②受託者はデラウェア州法定信託法に従って設立されたDelaware Trust Companyである、③信託は米国連邦所得税法上、グランタートラストとして取り扱われる可能性が高いという見解を示しているなど、共通点が多い(ただし、銘柄によっては異なる場合あり)。 SECによる上記承認の背景には次のような事情がある。 本稿執筆時点(2024年6月末時点)では、日本において暗号資産を原資産とするETF(上場投資信託)を組成することは、法令等の関係上、難しいと考えられている。 もっとも、日本の居住者が米国ビットコインETFを売買することはありえるし、そもそもビットコインETFを譲渡したことによる所得についてどのような課税関係になるのか、とりわけ分離課税の適用があるのかという点について、日本の投資家の関心は高いと思われる。 このようなビットコインETFの課税関係が日本の暗号資産税制、とりわけ分離課税導入の是非をめぐる議論に影響を与える可能性も見過ごすことはできない。 (2) ETFとは 国内ETFの組成類型について、根拠法令は何か、投資信託を金銭又は現物で設定するか、解消する際には金銭で償還するか又は現物と交換するかなどの観点から、次の4つに分類される。 上記の4つの類型のうち、比較的スタンダードな類型である❸の現物設定・現物交換型の設定・交換プロセスは、次のとおりである(森・濱田松本法律事務所編『投資信託・投資法人の法務』224-225頁(商事法務、2016) 参照)。 ETFには、大口の投資家がETFの設定(発行)・償還 (交換)を行う発行市場と、一般投資家がETFの受益証券を取引する流通市場とがある。 各市場における価格について、発行市場では、ETFの純資産総額(Net Asset Value)を発行済受益権の総口数で割った基準価額が用いられ、流通市場では一般投資家が市場価格で取引をしている。 参考として、証券監督者国際機構 (International Organization of Securities Commissions)は、ETFについて、要旨次のとおり説明している(The Board OF THE INTERNATIONAL ORGANIZATION OF SECURITIES COMMISSIONS, Good Practices Relating to the Implementation of the IOSCO Principles for Exchange Traded Funds: Final Report 63-64(2023))。 (3) ビットコインETFの特徴 銘柄によって仕組み等が異なる場合はあるものの、ビットコインETFに共通する特徴として、例えば次の点を挙げることができる。   (了)

#No. 578(掲載号)
#泉 絢也
2024/07/18

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第50回】「寄与度利益分割法の適用が認められた事例(地判平24.4.27、高判平25.3.28、最判平27.1.16)(その1)」~租税特別措置法66条の4第1項、2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第50回】 「寄与度利益分割法の適用が認められた事例 (地判平24.4.27、高判平25.3.28、最判平27.1.16)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、2項~   税理士 水野 正夫     1 事案の概要 本件は、被告(Y、課税庁)が、農産物の輸入・卸売販売を営む内国法人Xに対し、バハマ所在の国外関連者Sからエクアドル産バナナを仕入れた国外関連取引(以下、「本件取引」という)についていわゆる移転価格税制を適用し、平成11年度から平成16年度までの法人税等について更正処分等を行ったところ、原告Xが被告Yが行ったこれらの処分に違法があると主張して、その取消しを求めた事案である(※1)。 (※1) 移転価格税制の適用による経済的二重課税の救済については、わが国と国外関連者の所在国の租税条約上の相互協議条項に基づいた二国間の相互協議によって二重課税を排除するというルートも用意されており、相互協議を通じて二重課税の排除を求めるケースも多くあると思われるが、本件の場合、わが国と国外関連者の所在地国であるバハマと租税条約が締結されておらず、相互協議を利用できなかった事案である。 本件は、地裁判決、高裁判決で納税者が敗訴し、最高裁は納税者による上告を不受理としたことから、本稿では東京地裁判決(以下、「本判決」という)(※2)を検討することにする。 (※2) 本判決の評釈として、神山弘行「移転価格税制において寄与度利益分割法の適用が認められた事例」ジュリスト1445号(2012年)8-9頁、宮本十至子「寄与度利益分割法による独立企業間価格算定の適法性」税研178号(2014年)166-170頁参照。 租税特別措置法66条の4第1項は、「法人が、・・・各事業年度において、当該法人に係る国外関連者・・・との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、当該取引・・・につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。」と規定する。 また、同条第2項は独立企業間価格の算定方法につき、「前項に規定する独立企業間価格とは、国外関連取引が次の各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法により算定した金額をいう」として、独立価格比準法(同項1号イ)、再販売価格基準法(同項1号ロ)、原価基準法(同項1号ハ)、を挙げ、これらの同項1号イからハまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り、イからハまでに掲げる方法に準ずる方法その他政令で定める方法を用いることができるとしていた(※3)。 (※3) 本件は基本三法がその他の方法(利益分割法を含む)に優先していた当時の事件である。その後平成23年改正により、優先順位は廃止され、最も適切な方法によることとされている(租税特別措置法66条の4第2項)。 この委任を受けた租税特別措置法施行令39条の12第8項は、「法第66条の4第2項第1号ニに規定する政令で定める方法は、国外関連取引に係る棚卸資産の同条第1項の法人又は当該法人に係る同項に規定する国外関連者による購入、製造、販売その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法とする」として、いわゆる寄与度利益分割法を規定している。 本件の争点は以下のとおりである。 (1) 本件国外関連取引に寄与度利益分割法を用いたことの適法性【争点①】 寄与度利益分割法は、基本三法を用いることができない場合に限り、これを用いることができる(租税特別措置法66条の4第2項1号柱書)ところ、本件国外関連取引について、基本三法のうち再販売価格基準法を用いるに当たり、エクアドル政府規制が「通常の利益率」(同号ロ)の算定に当たって必要な調整を加えるべき「差異」(租税特別措置法施行令39条の12第6項)に当たるにもかかわらず、その調整が不可能であるとして、再販売価格基準法を用いることができないとしたことは違法か否か。 (2) 日本市場の特殊要因(エクアドル産バナナの価格下落)によるXの営業損失を分割対象利益に含めたことの違法性【争点②】 寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失の全額を分割対象利益としたことの違法性、すなわち、上記各事業年度における原告の営業損失の全部又は相当部分は、日本市場におけるエクアドル産バナナの市場価格の下落などの日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであったのにそれをせず、営業損失の全額を分割対象利益としたことは違法か否か。 (3) 分割要因としてX及びSが支出した販売費及び一般管理費(以下、「販管費」という)を用いたことの違法性【争点③】 寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、分割要因として、原告及びBが支出した販管費を用いたことの違法性(租税特別措置法施行令39条の12第8項は「支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」を分割要因とすべき旨規定しているところ、本件において、原告及びBが支出した販管費がこれに当たるとしたことは違法か否か)。   2 判示 (1) 本件国外関連取引に寄与度利益分割法を用いたことの適法性【争点①】 原告は、フィリピン産バナナの輸入取引を行うA社を比較対象とした再販売価格基準法が適用可能であるとし、再販売価格基準法における「通常の利益率」に客観的に明らかな重大な影響を与える差異についてのみ調整すれば足り、「比較対象取引との比較においては、『売手の果たす機能』が最も重視されるところ、原告とA社の果たす機能は類似しており、A社の売上総利益率は原告にも当てはまるべきものであるから、A社の売上及び原価並びにA社と原告の機能の類似性の判断について、エクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない」と主張した。また、原告は、「バナナ輸入業者による加工業者等に対する再販売は、需要と供給によって定まる市場価格である浜値で取引されており、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから、原告のエクアドル産バナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない」とし、「エクアドル政府規制の有無は、バナナ輸入業者の『通常の利益率』の算定に客観的に明らかな重大な影響を与える差異であるとは認められないから、再販売価格基準法の適用に当たり、調整を行うべき差異であるとはいえない」と主張した。 これに対し、本判決は、「エクアドル政府規制、すなわち、エクアドル政府による最低買取価格及び最低輸出価格の設定は、バナナ輸出業者によるバナナ生産者からの買取価格及び輸出価格の下限を定めるものであって、当該規制が存在しない場合に比べ、バナナ生産者からの買取価格及び輸出価格を上昇させる方向に作用する要因であることは明らか」であり、「エクアドル産バナナの輸入価格が上昇すれば、その分だけ原価の合計額が上昇し、売上総利益の額が減少することになるのであって、その割合である「通常の利益率」にも影響が及ぶことは明らかというべきである」とした。 そして、「エクアドル政府規制は『通常の利益率』に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり、当該規制の有無により通常の利益率に生じる差について調整する必要があるところ、その具体的な影響を数値化して特定することは不可能であり、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないから、本件国外関連取引について、A社のフィリピン産バナナの輸入取引を比較対象取引として、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許され」ず、また、「本件国外関連取引について、原価基準法における適切な比較対象取引が存在しないというべきであるから、原価基準法を用いてその独立企業間価格を算定することはできない」として、「本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法である」と判示した。 (2) 日本市場の特殊要因(エクアドル産バナナの価格下落)によるXの営業損失を分割対象利益に含めたことの違法性【争点②】 本判決は、争点②について、「寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失は、日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであるとの原告の主張は、法令上の根拠を欠くものであって、その理由として述べるところもいずれも採用することはできない。そして、他に、原告の主張するように解すべき理由を見出すこともできない」とし、「よって、本件国外関連取引について、平成11年12月期ないし平成13年12月期におけるBの原告に対する取引に係る営業利益を円換算した額及び原告の営業利益(損失)の額の合計額を分割対象利益として、寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定したことは適法である」として、納税者の主張を排斥している。 (3) 分割要因としてX及びSが支出した販管費を用いたことの違法性【争点③】 さらに、本判決は、争点③について、「原告及びBの支出した販管費は、措置法施行令39条の12第8項にいう『当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因』に当たるというべきであって、この点の原告の主張、すなわち、およそバナナの輸入販売業においては、販管費の支出が増加すれば営業利益が増加するという関係がなく、平成12年12月期及び平成13年12月期における分割対象利益は、その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日本市場の特殊要因により生じた原告の営業損失から構成され、原告及びBの販管費との間に関連性はないから、販管費は、『当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因』に当たらないという主張は、採用することができない。よって、本件各処分が、販管費を分割要因として寄与度利益分割法を用いて算定された独立企業間価格に基づいてされた点に、何ら違法な点はない」と判示した。 ((その2)へ続く)

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#水野 正夫
2024/07/18
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