山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第32回】 「条文からみた交際費課税」 税理士 山本 守之 税法条文には一定の読み方と解釈の仕方があります。 条文の構成に従って、法律、政令というように順序よく読んでいく必要があります。 今回は交際費等の範囲を例にとって、条文の読み方と解釈を考えてみましょう。 1 条文からみた交際費等 上記のうち①は、交際費等の支出の相手方を示したものであり、「得意先、仕入先」はあくまで例示で、「その他事業に関係のある者等」を含んでいますから、その範囲はかなり広いことになります。 なお、取扱通達では、「措置法第61条の4第4項に規定する「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、直接当該法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく間接に当該法人の利害に関係ある者及び当該法人の役員、従業員、株主等も含むことに留意する。(昭57年直法2-11「十一」、平6年課法2-5「三十一」、平26年課法2-6「三十二」により改正)」(措通61の4(1)-22)としています。 つまり、交際費等の支出の相手方は、直接その法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく、間接にその法人の利害に関係ある者及びその法人の役員、使用人、株主等も含まれるというわけです。 例えば、法人が役員だけを対象として温泉旅館で忘年会を催したり、大株主を対象として料亭で飲食を伴いながら決算事情説明会を行う場合も交際費等となります。 また、法人の役員が業務視察等で支店に出張した際に、支店の費用でその役員を接待した社内交際費も損金不算入の対象となる交際費等に含まれます。 ところで、「その他事業に関係ある者等」には、現在取引関係はないが、「将来関係者となり得る者」を含むか否かが問題になりますが、裁判例(興安丸事件、昭和44年11月27日東京地裁)では、これを積極的に解しているようです。 なお、この事件で課税庁(被告)は、「「得意先、仕入先、その他事業に関係のある者」とは、現に事業に関係のある者だけではなく、将来事業に関係のあるべき者をも包含するものと解するのが相当であり、X社がレセプションに招待した人達が将来X社の事業に関係のあるべき者に該当することはいうまでもない」として、本件レセプション関係者は事業関係者等に該当すると主張したのです。 裁判所では、「ここにいう『事業に関係のある者』とは、近い将来事業と関係をもつにいたるべき者をも含み、これを除外する合理的理由はないが、だからといって、不特定多数の者まで含むものでないことは、右の文言からみても、また、前述のごとき本条の立法趣旨に徴しても明らかである。」としたのです。 つまり、近い将来事業関係を持つにいたるべき者を含むが、不特定多数の者までは含まれないというのです。 上述した租税特別措置法第61条の4第4項の第1号で「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」を交際費等から除外しているのは、「その他事業に関係ある者等」には、その法人の従業員も含むからという説明が、訴訟における判決文に書かれることがあるからです。 例えば、成和工業事件(平成4年11月25日神戸地裁)の判決では、次のように述べています。 このような解釈に対して、他の事件(中央設備商会事件、昭和60年9月27日最高裁判決)の上告理由のなかで、上記のカッコ書きは「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」のただし書きの意味を持っているものだとする反論もあります。 しかし、これは上告理由で述べられた原告の反論に過ぎず、最高裁判決では、「原判決に所論の違法はない」として主張は斥けられています。 2 「これらに類する行為のために」の考え方 租税特別措置法第61条の4第4項は損金算入となる交際費等の範囲を明らかにしています。交際費等としているのは、単に会計費目上の交際費に限定されず、広義の交際費を含む概念があるからです。 つまり、会計費目に代表される狭義の交際費だけではなく、法人が業務を円滑に遂行する目的で、役員や従業員に対する慰安、贈答の費用でも、交際費、接待費、機密費その他の費用となる場合は交際費等に含まれるのです。 この場合、「その他費用」と規定しないで、「その他の費用」としているから、その他費用が無条件に交際費等となるのではなく、「交際費、接待費、機密費」は例示であり、「その他の費用」は、これらと同質、又は類似の費用を意味していると解すべきでしょう。 この点では、支出の態様(行為の形態)として、「接待、供応、慰安、贈答その他これに類する行為」という場合の「その他」についても同質又は類似のものと考えられます。 問題になるのは、「行為のために支出するもの」という規定の解釈です。 これは、接待、交際費のために直接支出するものだけではなく、これらに伴って支出したものを一切含むという意味なのです。 したがって、得意先を接待した際に支出するタクシー代は、「相手方を迎えに行くもの」「相手方と同乗して接待場所(例えば料亭)に行くもの」「接待後に相手方を自宅に送るもの」「接待をした側が帰宅するもの」すべてが交際費等となります。 税務調査において、タクシーチケットの使用状況を念査するのは、これらのうち損金不算入となる交際費等に該当するものを抽出するためのものであると理解してほしいのです。 ただ、「類する行為のために」を文理的に解釈し、間接費的要素のある費用をすべて交際費等とする考え方には賛成できません。 例えば、顧客を接待する場合に社用車を使った場合に、運転手である社員の給料、ガソリン代、車の減価償却費まで交際費等とはしていません。 また、顧客をゴルフに接待する場合に、ゴルフ場への送迎にハイヤーを使ったときのハイヤー代は交際費等としているが、社用車で送迎する場合の社用車の減価償却費、運転手の給料等は交際費等とされません。 これを原価計算における主材料費、副材料費のような接待、交際に伴う直接費的かつ変動費的なものを交際費等とすべきであって、間接費的、固定費的な支出は交際費等に当たらないとする次のような見解もあります。 ここでは、交際費関連費用であっても、接待があってもなくても支出する費用(社用車の運転手給料等)は直接関連費用とはいえず、直接的、変動的費用を交際費等とする考え方なのです。 注意したいのは、変動費的要素のあるものを交際費として抽出するという考え方をすれば、運転手のゴルフ場送迎に際して支払われた超過勤務手当やガソリン代も交際費等となるかといった疑問が生じてしまいます。 しかし、「類する行為」というのは、「接待、供応、慰安、贈答」に類するという意味があって、運転手の超過勤務手当やガソリン代がこれに類する行為とは言い切れません。 例えば、企業が得意先を海外旅行に招待する場合の日程表等の印刷費、旅行内容の説明会等における会場費、コーヒー代、通信費の支出や添乗員の超過勤務手当等は交際費等の支出行為に伴って支出するものに違いないが、どの程度までを「行為のために」と解するかが問題で、もともと「・・・類する行為のために・・・」と書かれているのは、接待、供応、慰安、贈答という交際費等となる行為を例示しているが、これら以外の行為も考えられることから規定したものであり、「その他これに類する行為」は、接待、供応・・・に類する行為、という意味で、間接費用をすべて交際費等に取り込むという意図ではないでしょう。 (注) 旅行接待を行う場合に、主催者である法人の社員が添乗した場合に、「先ほど私が交際費の原価計算の話をしましたけれども、例えば添乗員がお客さんについていって残業して超勤がついたという場合には、給与課税をすると同時に交際費になるというようなことが生じ得ると思います。」(前掲座談会)という考え方もあります。 もともと交際費課税は接待、交際費用の支出を抑制することが目的で、税制調査会でも「交際費支出に対する強い社会批判がある」ことを考慮して交際費課税を継続しており、制度創設時の資本蓄積策やその後の代替課税的要素は薄まり、少なくとも制度創設時とは異質のものになりつつあります。 法の定義も交際費成立要件を、①支出目的、②支出の相手方とともに、③行為の態様を必要としているため、「類する行為のために」と規定したのであって、接待、交際の間接的費用のすべてを課税対象に取り込むことを意図したのではありません。 交際費課税の対象を法の文理的検討だけに頼り、類する行為のための費用の考え方を拡張していくと、本来損金不算入とするべきではない費用にまで交際費課税が及んでしまうという問題が生じてしまいます。 なお、得意先従業員を祇園クラブに接待した際の送迎用タクシー代は交際費に当たるとした事例(平成11年9月10日)があります。 「法人税関係質疑応答事例集」 (国税庁課税部審理室、法人課税課)では上記とは逆の事例で、「他社が主催する懇親会に当社の従業員又は役員を出席させるために要するハイヤー、タクシー代(当社~懇親会会場、懇親会会場~自宅)は、会社の業務遂行上の経費ですので、接待、供応等のために支出するものではありませんから、交際費等以外の単純損金(旅費交通費)と解して差し支えありませんか。(注)懇親会の費用はすべて当該他社が負担します。」という納税者からの照会に対して、照会意見のとおりで差し支えありませんとし、その理由を「交際費等とは、交際費、接待費、機密費、その他の費用で法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものとされています(租税特別措置法第61条の4第4項)。照会に係る費用は、他社が主催する懇親会に出席するための費用であり、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」ではありません。」としています。 3 「支出するもの」の考え方 冒頭の租税特別措置法第61条の4第4項(交際費の定義)では、「・・・接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう」としています。 この場合の「支出するもの」とは「金銭を支払うこと」又は「金銭、物品その他の財産上の利益を供与又は交付すること」と解すべきです。 交際費等を「支出するもの」と定義している以上は、企業が接待専用の建物(迎賓館の要素を持つもの)を建築し、そこで得意先等の接待を行う場合に、接待に要した費用は交際費等とはなっても、その建物の減価償却費は「支出するもの」ではないので、交際費等となる余地はありません。 また、企業が顧客接待のためにゴルフ場の会員権を所有しており、これを譲渡したところ損失が生じたという場合の「譲渡損」についても、「支出するもの」に該当しないから交際費等とはなりません。 資産に計上したゴルフクラブの入会金(会員権)の処理については、次のような取扱い(法基通9-7-12)があります。 ここでは、法人が資産に計上したゴルフクラブの入会金については、ゴルフクラブを脱退したり、他に譲渡した場合には、入会金に係る譲渡損失は損金の額に算入することを明らかにしています。 注意したいのは、「損金の額に算入する」と表現していることで、その意味は、「交際費等以外の単純損金として損金の額に算入する」ということです。 これに対して、「ゴルフクラブに入会するのは得意先等の接待を目的としたものですから、その会員権の譲渡損失は交際費等に該当するのではないのか」という反論もあるかもしれません。 この点について、国税庁の公式解説(『法人税基本通達逐条解説』税務研究会)では次のように述べています。 したがって、法人がゴルフクラブを脱退し、又はその会員権を他に譲渡したことにより損失が生じた場合でも、その損失については、現時点では交際費等以外の単純な損失として認めることが妥当です。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第1回】 「個人が被災した場合の税務面の取扱い」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成7年の阪神・淡路大震災、平成23年の東日本大震災、平成28年の熊本地震等、近年多くの大規模災害が発生し、そのたびに甚大な被害が生じている。被災時特有の取扱いについては、企業会計や法人税に関するものだけでなく、源泉徴収や被災した役員や従業員の所得税に関するものも理解しておきたい。 〔税務面(所得税)のアドバイス〕の【第1回】となる今回は、源泉徴収と所得税に関する被災時特有の取扱いについて概要を示し、【第2回】以降で各取扱いの詳細について解説する。なお、被災した役員や従業員に関係する所得税の取扱いにポイントを絞って取り上げるため、個人事業主に特有の取扱いについては省略する。 【1】 源泉所得税の取扱い (1) 源泉所得税の徴収・納税猶予等 給与、公的年金等、報酬又は料金の支払いを受ける人又は源泉徴収の対象となる所得の支払いをする者(源泉徴収義務者)が、震災、風水害、落雷、火災等の災害により大きな被害を受けた場合には、源泉所得税の徴収猶予等の措置を適用することができる。 (2) 源泉徴収における災害見舞金等の取扱い 被災した役員や従業員(以下、従業員等という)に対して、企業が災害見舞金を支給したり、生活再建に向けて様々な支援をすることがある。 企業が従業員等に対して下記のような支給や支援をする場合、それらが合理的又は相当な範囲のものであれば、給与として源泉徴収をする必要はない(所法9①十七他)。 【2】 申告・納付期限の延長 災害その他のやむを得ない理由により、申告・納税が期限までにできない場合には、所得税についても法人税や消費税と同様に、次のような期限延長の制度が設けられている(通法3他)。 詳細については、本連載における公認会計士 税理士 新名貴則氏執筆の〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕【第2回】「申告・納付期限の延長」「2 災害時の申告・納付期限」をご参照いただきたい。 【3】 個人が支援を受けた場合、支援を行った場合 (1) 被災した個人が支援を受けた場合 被災した個人が災害見舞金や義援金を受け取ったり、勤務先企業から各種の支援を受けることがある。これらの災害見舞金や支援等については、社会通念上相当と認められる範囲であれば、所得税は課されない(所法9①十七他)。 (2) 金融機関等から債権放棄を受けた場合 個人が債務免除を受けた場合の債務免除益は、原則として所得金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入することになる(所基通36-15(5))。ただし、「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に受けた債務免除益であれば、課税の対象とはならない(所法44の2①)。 (3) 個人が支援を行った場合 個人が被災者のために、特定寄附金に該当する義援金等を支出した場合には、その支出した金額は寄附金控除の対象となる(所法78)。 【4】 所得税の減免制度 災害により住宅や家財等に損害を受けた個人に対して、税務上2つの救済制度が設けられている。被災した個人は、いずれか有利な制度を適用することができる(所法72①、災免法2)。 【5】 過去の大規模災害時における特例措置 災害による被害状況が甚大である場合には、法人税と同様に所得税についても特例法や国税庁の個別通達による特例措置が設けられる。 過去の大規模災害時に設けられた特例措置(個人事業主に特有の措置は除く)は、次の通りである。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第3回】 「「買換えの特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定③ (家屋と敷地の所有者が異なる場合)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q X(夫)及びY(妻)は、居住の用に供していた建物及び土地(いずれの所有期間も10年超で居住期間は10年以上)を合計1億1,000万円で譲渡しました。 その建物はXの単独所有で、その土地はYの単独所有となっていました。 この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」における譲渡価額要件(1億円以下)を満たすこととなるのでしょうか。 なお、当該譲渡した建物及び土地と一体としてX及びYの居住の用に供されていた他の建物又は土地等の譲渡はありません。 A 建物の譲渡価額と土地の譲渡価額の合計額が1億円を超えるため、X及びYの両者とも、譲渡価額要件を満たさないことになります。 ●○●○解説○●○● 「買換えの特例」は、居住用家屋の所有者を対象とする制度であることから、家屋の所有者とその敷地の用に供されている土地等の所有者が異なる場合には、その土地等の所有者の譲渡については、制度上、特例の適用はないこととなります。 ただし、居住用家屋の所有者とその土地等の所有者が親族関係にあり、かつ、生計を一にしている場合などは、特例の適用を認めることが実情に即していると考えられることから、土地等が家屋の所有者と共に譲渡されている等、一定の要件の下で、これらの者が共に特例を受ける場合に限り、特定の居住用財産の買換えの特例の適用を認めることとして取り扱われています(措通36の2-19(居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い))。 しかしながら、上記通達の取扱いにより、居住用家屋の所有者とその土地等の所有者が共に「買換えの特例」の適用を受ける旨の申告をするときは、当該家屋の譲渡価額と当該土地等の譲渡価額の合計額により譲渡価額を判定することとされています(措通36の2-6の2(譲渡に係る対価の額が1億円を超えるかどうかの判定)(4))。 したがって、本事例の場合、X及びYは建物及び土地を合計1億1,000万円で譲渡しており、譲渡全体の譲渡に係る対価の額は1億円を超えるため、譲渡価額要件を満たさず、特例を受けることができません。 なお、譲渡資産が共有である場合には、所有者ごとの譲渡対価で判定する(措通36の2-6の2(1))ことから、本事例のケースと違って、X及びYが建物及び土地を各2分の1ずつ共有しているときには、譲渡全体の譲渡に係る対価の額が1億円を超えても、各所有者ごとの譲渡対価が1億円以下であれば、譲渡価額に係る適用要件を満たすこととなります。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第2回】 「非居住者の役員の給与と住宅ローン控除」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本国籍)甲は、メーカー乙社の専務取締役をしています。平成29年3月10日より、A国の100%子会社の社長として3年間赴任します。日本には月に1回開催される取締役会の出席のために帰国します。 会社の給料の締めは従業員と同様に、毎月25日に支払われます。給料は赴任後も乙社から支払われます。家族は日本の自宅に住み続け、単身赴任となります。なお、収入は乙社からの役員報酬のみです。 従業員が海外赴任した場合、所得税は非課税となりますが、私の場合も同様でしょうか。 また、平成28年9月に自宅をローンで購入したことから住宅ローン控除を受けていますが、海外赴任後、家族が住み続けている場合は、住宅ローン控除の適用を受けることができますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者の所得 所得税法においては、納税義務者を居住者(非永住者、非永住者以外の居住者)と非居住者に区分し(所法2三・四)、非居住者(所法2五)については、国内源泉所得について、所得税の納税義務がある。 居住者か非居住者かは、日本に住所又は1年以上の居所を有するか否かで区分されるが、事実認定にすべて委ねると実務が混乱することから、一定の要件を満たす場合は、居住者や非居住者として推定される。国外において1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合には、非居住者と推定される(所令15①一)。 本件の場合、甲は3年間A国の子会社に赴任することになることから、国外において1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合に該当し、3月10日以降、非居住者と推定される。したがって、日本での所得税の納税義務は国内源泉所得に限定される。 ▷役員給与の原則的な考え方 従業員の給与の場合、その従業員が1年以上の期間、海外赴任になったときは、その赴任期間に支払われた給与については、原則として、国外源泉所得として課税されない。 しかし、日本の法人役員が国外で勤務した場合に支払われる役員報酬については、原則的には、国内源泉所得とされる(所法161①十二イ)。なぜなら、役員報酬というのは、「役務の提供の対価」だけでなく「経営の対価」という部分もあり、日本法人の経営の対価(取締役会に参加等して経営に関わる)である部分は国内源泉所得に該当すると考えられ、役員報酬を合理的に「経営の対価」と「海外勤務の対価」に区分することが困難であることから、一括して国内源泉所得として取り扱うものと考える。 この給与所得を国内に恒久的施設を有しない非居住者が取得した場合の課税関係は、20.42%の税率で所得税及び復興特別所得税が課せられ、課税関係が完結し、確定申告で精算されることはない(所法161①十二イ、162②二、169、170、復興財源法28) ▷役員給与の例外的な考え方 しかし、役員がすべて上記の取扱いになるとは限らない。役員としての勤務を行う者が、同時に、その内国法人の使用人として常時勤務を行う場合は、従業員と同様の取扱いとされる(所令285①)。国税庁のタックスアンサーでは、取締役支店長のような形で海外勤務した場合が挙げられている。 本社の平取締役が子会社の社長として勤務した場合はどうなのか、税務調査でも問題となることが多々あるが、その子会社での勤務の実態が親会社の使用人に相当するものであることを客観的に証明する必要がある(※)。 (※) 所基通161-43によると、次のようなケースは従業員として認められている。 (1) その子会社の設置が現地の特殊事情に基づくものであって、その子会社の実態が内国法人の支店、出張所と異ならないものであること。 (2) その役員の子会社における勤務が内国法人の命令に基づくものであって、その内国法人の使用人としての勤務であると認められること。 本件の場合、甲は内国法人乙社の専務取締役であることから、使用人として常時勤務が行われているとは考えられない。したがって、海外赴任期間中の役員報酬に係る給与所得は、国内源泉所得として20.42%の税率で所得税等が源泉分離課税される。 ▷住宅ローン控除の適用 住宅ローン控除は、住宅をローンを利用して取得等してから6ヶ月以内に居住し、年末にローン残高がある場合は、一定の税額控除が受けられる制度である(措法41①)。 平成28年度税制改正前は、住宅ローン控除を受けることができるのは居住者に限定されていたことから、海外赴任中に帰国後の住宅を購入して、その後居住した場合や、海外に本人が単身赴任し、家族が留守宅で居住している場合は、住宅ローン控除を適用することができなかった。 しかし、改正により、平成28年4月1日以後に住宅の取得等をした場合は、非居住者も住宅ローン控除が適用可能となった。非居住者期間中の住宅の取得や、海外赴任中に家族が留守宅で居住している場合においても、住宅ローン控除が可能である(措法41①、措通41-2(1))。ただし、本人が非居住者の期間の場合は、納税管理人を定めて確定申告を行わなければならない(通則法117)。 本件では、甲の所得が役員報酬に限られた場合、甲は恒久的施設を有しない非居住者であることから源泉分離課税となり、確定申告により精算をすることができない。このため、役員報酬に係る所得税から住宅ローン控除をすることはできないこととなる。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q33】 「外国のパートナーシップを通じて有価証券投資を行う場合の所得区分」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 パートナーシップからの所得 【Q31】の通り、外国籍のパートナーシップが日本の税務上、任意組合等に類するものとして取り扱われるのか、外国法人として取り扱われるのかにより、税務上の取扱いが異なります。 ここでは、本件のパートナーシップは日本の税務上、任意組合等に類するものとして取り扱われるとのことですので、構成員課税が適用され、基本的にはパートナーシップ等の投資対象について投資家が直接投資している場合と同様の税務取扱いとなります。 投資家は、投資家の各年の期間に対応するパートナーシップの損益を認識する、又は(毎年1回以上、一定時期においてパートナーシップ損益が計算される等の条件下で)パートナーシップの計算期間の末日が属する年の総収入金額として認識することになります。 2 利益等の額の計算 【Q29】の通り、組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次の①の方法により計算されます。ただし、①の方法により計算することが困難と認められる場合で、かつ継続して②又は③の方法により計算している場合は、その計算が認められるとされています。 ①(総額方式)、②(中間方式)の場合は、投資家における所得の金額の計算上、投資組合において発生する所得をその属性に応じて所得税法に規定する各種所得に区分することが必要となります。 一方、③(純額方式)の場合は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とされます。 3 本件へのあてはめ 本件のパートナーシップからの利益の分配については、個人投資家が上記①から③のいずれかの方法により計算するかにより、所得分類が異なります。 上記①又は②の方法による場合、原則としては個々の所得に応じた所得区分を用いるものと考えます。したがって、配当であれば配当所得、上場株式の譲渡損益であれば上場株式等の譲渡に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、総称して上場株式等に係る譲渡所得等)に分類されると考えられます。 配当所得は原則として総合課税の対象となりますが、本件の対象株式は上場株式とのことですので、上場株式等の配当所得の特例(申告分離課税)が適用できるものと考えられます。上場株式等に係る譲渡所得等については申告分離課税の対象となります。 一方、個人が③の経理方法をとる場合は、本件のパートナーシップからの利益は原則として雑所得として取り扱われ、総合課税の対象になると考えられます。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第13回】 「別表6(15) 地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第13回目は、平成27年度の税制改正において創設された地方拠点強化税制のうち、「別表6(15) 地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」についての内容と書き方について解説することにする。 Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる地方拠点強化税制のオフィス減税(地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 これは、平成27年8月10日から平成30年3月31日までの間に、地域再生法に基づき都道府県知事が認定する「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」を実施する法人が、その認定を受けた日から2年以内に、その地域内において特定業務施設に該当する建物等を取得し事業に供した場合に、以下の税額控除ができるものである。 ① 【拡充型】 地方活力向上地域で特定業務施設を整備した場合には、特定建物等取得価額のうち以下の割合を税額控除(当期の法人税額の20%が上限)。 ② 【移転型】 東京23区から地方活力向上地域に特定業務施設を移転して整備する場合には、特定建物等取得価額のうち以下の割合を税額控除(当期の法人税額の20%が上限)。 なお、地方拠点強化税制はこのオフィス減税と、雇用促進税制の特例措置の2種類があるが、雇用促進税制部分についてはすでに本連載の【第11回】で解説済みである。 [適用にあたっての注意点] 1 適用対象となる資産は、認定地方活力向上地域特定業務施設整備計画に記載された特定業務施設に該当する建物及びその附属設備並びに構築物で一定の規模以上(※)のものとなる。 (※) 一の建物及びその附属設備並びに構築物の取得価額の合計額が2,000万円以上(中小企業者にあっては1,000万円以上)のものをいう。 2 確定申告書等に、控除の対象となる特定建物等の取得価額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付が必要。 3 法人の有する減価償却資産が、租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度等及び震災特例法の規定による特別償却又は税額控除制度等のうち、2つ以上の規定の適用を受けることができる場合であっても、これらの特別償却又は税額控除制度等のうちいずれか一つのみの適用となる。 Ⅲ 「別表6(15)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 [法人税額の特別控除額の計算] ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例47(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮記帳(法法42~44) 法人が、固定資産の取得に充てるための国庫補助金等の交付を受け、当該事業年度においてその国庫補助金等をもってその交付の目的に適合した固定資産の取得をした場合、圧縮記帳をすることができる。 圧縮記帳は、法人税法上、その取得に充てた国庫補助金等の額に相当する金額(以下「圧縮限度額」という)の範囲内でその帳簿価額を以下のいずれかの方法により経理処理した場合に認められる。 ① 損金経理により帳簿価額を直接減額する方法 ② 当該事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法 ③ 決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法 そして上記方法①②③いずれかの方法により減額し又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 さらに、圧縮記帳は別表13(1)「国庫補助金等、工事負担金及び賦課金で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」の記載がある場合に限り適用すると規定されているが、この明細については、 その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、圧縮記帳の適用が可能となっている。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第26回】 (最終回) 「まとめ」 公認会計士 佐藤 信祐 前回まで、会社法及び租税法の観点から、裁判例、裁決例を分析してきた。 最終回となる本稿では、今までの裁判例、裁決例を踏まえたうえで、実務上の留意事項について解説を行う。 1 会社法の観点からの評価 【第2回】から【第10回】までは、募集株式の発行等における公正な払込金額について検討を行った。その結果、引受人が支配株主になる場合には、支配株主にとっての株式価値により評価され、引受人が少数株主になる場合には、少数株主にとっての株式価値により評価されていることが分かった。さらに、アートネイチャー事件にあるように、取締役の損害賠償責任が問われる場合には、外部専門家による鑑定評価を事前に入手しておくことにより、結果として、払込金額が実際の時価よりも安かったとしても、責任が問われない可能性が高いことが分かった。 【第11回】から【第14回】までは、譲渡制限株式の譲渡における売買価格について検討を行った。その結果、経営権の移動に準ずる場合には支配株主にとっての株式価値により評価され、少数株主間の譲渡の場合には少数株主にとっての株式価値により評価されていることが分かった。さらに、買主が支配株主であり、売主が少数株主である場合には、支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値を折衷することにより評価がなされている。 さらに、【第15回】から【第16回】までは、組織再編における反対株主の株式買取請求に対する公正な価格について検討を行った。その結果、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントが認められない可能性が高いことが分かった。このことは、株式併合、株式等売渡請求によるスクイズアウトにおいても同様の結論になる可能性が高いと思われる。 学説の傾向を見ても、組織再編、スクイズアウトにおける公正な価格では、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントを認めるべきではないとする傾向が強いように思われる。これに対し、募集株式の発行等、譲渡制限株式の譲渡では、統一的な見解は存在しないと思われる。そのため、募集株式の発行等、譲渡制限株式の譲渡では、今後、異なる裁判例が出てくる可能性があるという点にご留意されたい。 2 租税法の観点からの評価 【第17回】から【第25回】までは租税法の観点からの裁判例、裁決例の検討を行った。財産評価基本通達が改正される前の事件や、実務家の見解が統一される前の事件も多かったため、今になってみれば、実務家の見解を裏付けるものもあったと思われる。 とりわけご留意されたいのは、実務において、「第三者間取引だから」という理由で、時価とかけ離れた評価をしてしまうという点である。 第三者間取引は、利害の対立する第三者間の取引を意味するため、本来はその範囲は狭いはずである。とりわけ、非上場株式については、その株式を欲しがる人はほとんどいない。M&Aのような分かりやすい事案でもない限りは、本当に第三者間取引であるかどうかについて、慎重な判断が必要になると思われる。 さらに、実務でも議論がなされるのは、財産評価基本通達と異なる評価方法が採用されてしまう可能性である。 実際に税務調査で議論になった経験は無いが、筆者の専門が組織再編であることから、組織再編を利用して相続税評価額を引き下げるというコンサルティングは数多く行っている。その際に、経済合理性や事業目的からは説明ができない手法を選択した場合には、税務調査において、財産評価基本通達と異なる評価方法が採用される可能性があるということは指摘している。結果として、経済合理性や事業目的から十分に説明できる手法を採用しているため、そのような否認リスクはほとんどないと自負しているが、それでは、否認されない限界値はどこなのかという点は、誰も説明できないと思われる。 本誌における別の連載(包括的租税回避防止規定の理論と解釈)でも解説しているが、租税回避に対する否認は、解釈論の範疇では限界がきており、今後、立法論で対応される可能性もある。これに対し、財産評価基本通達はそもそも法律ではないため、解釈論により否認を受ける可能性もあることから、より慎重な対応が求められると考えられる。 3 まとめ このように、実務上は、会社法の観点からの分析と租税法の観点からの分析の両方が必要になると考えられる。 蛇足ではあるが、租税法の観点から、会社法上の裁判例の傾向と異なる結論になるかどうかについて分析したい。まず、募集株式の発行等については、株主において受贈益が生じるかどうかが問題となる。そのため、引受人が支配株主になる場合には、支配株主にとっての株式価値により評価され、引受人が少数株主になる場合には、少数株主にとっての株式価値により評価されるという裁判例の傾向は、租税法の観点からも受け入れやすい。 しかし、譲渡制限株式の譲渡については、買主が支配株主であり、売主が少数株主である場合は異なる結論になる可能性が高い。租税法上は、一物二価を認めることに差し支えはないため、買主の受贈益については支配株主にとっての株式価値、売主のみなし譲渡益については少数株主にとっての株式価値により評価がなされる可能性が高いと思われる。 そして、組織再編、スクイズアウトについても、支配株主の観点からすれば、マイノリティ・ディスカウントを認めるべきではないという裁判例の傾向は整合的であると考えられる。さらに、非適格組織再編に該当する場合における合併法人等の受入処理、被合併法人等の譲渡損益の計算においても、株主レベルでのディスカウントを反映させるべきではないため、同様の結論になると考えられる。 このように、会社法の結論がそのまま租税法も容認されるわけではないため、別々に検討が必要になってくる。 今回まで26回にわたり、会社法と租税法の両方の観点からの裁判例、裁決例の検討を行った。税務専門家の立場からすると、会社法上の時価を意識することは多くはないかもしれないが、公認会計士、税理士が会社法を意識しないで株式評価を行った結果、裁判で問題になった事案も存在する。そのため、本来であれば、会社法の観点からの分析も必要になろう。 本連載は、ここで終了させていただくが、いずれ機会を見ながら、新たな情報発信をしていきたい。本連載が、皆さまの実務のお役に立てれば幸いである。 (連載了)
平成29年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 Ⅱ 税効果会計の改正 平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収適用指針」という)」が公表された。 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」の主な改正点 回収適用指針では、以下の実務指針について、基本的にその内容を引き継いだ上で、必要と考えられる見直しが行われている。 本解説では、以下の主な改正点について解説する。 【主な改正点】 (1) 企業の分類 監委66号において、企業を5つに分類することが求められていた。回収適用指針においても基本的に踏襲した上で一部必要な見直しが行われている。 繰延税金資産の回収可能性を判断する際に、回収適用指針第16項から第32項に従って、要件に基づき企業を「分類1」~「分類5」に分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定する(回収適用指針15)。 「分類1」~「分類5」の要件は、監委66号と回収適用指針で以下のように異なる(回収適用指針15、17、19、22、26、30)。ポイントは将来の状況が要件に入っていること、及び会計上の指標である利益要件から税務上の指標である課税所得要件へ変更されていることである。 (※1) 営業損益項目に係る益金及び損金は通常の事業活動から生じたものであることから、原則として、「臨時的な原因により生じたもの」に該当しないと考えられる。一方、営業外損益項目及び特別損益項目に係る益金及び損金のうち、企業が置かれた状況等に基づいて検討した場合に将来において頻繁に生じることが見込まれないものは「臨時的な原因により生じたもの」に該当することが考えられる。 また、営業外損益項目に係る益金及び損金は毎期生じるものが多く、通常は「臨時的な原因により生じたもの」に該当しないと考えられるが、項目の性質によっては「臨時的な原因により生じたもの」に該当するものが含まれることがあると考えられる。 一方、特別損益項目に係る益金及び損金であっても必ずしも「臨時的な原因により生じたもの」に該当するとは限らず、企業が置かれた状況や項目の性質等を勘案し、将来において頻繁に生じることが見込まれるかどうかを個々に項目ごとに判断することになると考えられる(回収適用指針71)。 (※2) 課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値は、負の場合となる場合を含む(回収適用指針22)。 (※3) 一時差異等加減算前課税所得とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額及び当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額を除いた額をいう(回収適用指針3(9))。 なお、上記の「分類1」~「分類5」に示された要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得(上記(※3))の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する(回収適用指針16)。回収適用指針において、この判断は、各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することを意図していない(回収適用指針65)。ポイントは、過去、当期、将来の情報から総合的に判断することである。 (2) 「分類2」に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異 監委66号では、「分類2」に該当する企業でスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとされていた。一方、回収適用指針では、取扱いが以下のように変更されている。 「分類2」に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、原則として、回収可能性がない。 ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性がある(回収適用指針21)。 例えば、スケジューリング不能な株式の減損損失、役員退職慰労引当金について、将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、繰延税金資産を計上できる(回収適用指針75、106)。 なお、役員退職慰労引当金の場合、将来のいずれかの時点で解消されるものであるため、この点について説明は不要と考えられるが、将来減算一時差異の残高と課税所得の水準との関係から回収できることについては合理的な根拠をもって説明することが求められると考えられる(企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」に対する主なコメントの概要とその対応47)。 (3) 「分類3」に該当する企業における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積可能期間 監委66号では、「分類3」に該当する企業では、課税所得の見積期間がおおむね5年とされていた。しかし、実務上はおおむね5年ではなく、一律5年を限度として課税所得の見積りを行うことが多かったと考えられる。このような硬直的な運用では、企業の実態を反映しない可能性もあるため、回収適用指針では以下のように見直されている。 「分類3」に該当する企業は、合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を検討する(回収適用指針23)。 ただし、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(回収適用指針では、おおむね3年から5年を想定)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする(回収適用指針24)。 (4) 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」又は「分類3」に該当する場合 上記(1)の「分類4」の要件を満たす企業で、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積り、以下の①に該当する場合は「分類2」に、②に該当する場合は「分類3」に該当するものとして取り扱う。 ① 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」に該当する場合 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(回収適用指針では、おおむね3年から5年を想定)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、「分類2」に該当するものとして取り扱う(回収適用指針28)。 この場合、スケジューリング可能な一時差異等に係る繰延税金資産は回収可能性がある(回収適用指針20)。さらに、上記(2)のとおり、スケジューリング不能な一時差異等に係る繰延税金資産も回収可能性ありと判断する場合がある(回収適用指針21)。 例えば、過去において「分類2」に該当していた企業が、当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから「分類4」に係る分類の要件を満たしたが、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積った場合に、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときが該当する(回収適用指針91)。 ② 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類3」に該当する場合 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(回収適用指針では、おおむね3年から5年を想定)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、「分類3」に該当するものとして取り扱う(回収適用指針29)。この場合、合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を検討する(回収適用指針23)。 これは、監委66号における例示区分「4ただし書」に該当する。 例えば、過去において業績の悪化に伴い重要な税務上の欠損金が生じており「分類4」に該当していた企業が、当期に代替的な原材料が開発されたことにより、業績の回復が見込まれ、その状況が将来も継続することが見込まれる場合に、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときが該当する(回収適用指針92)。 なお、「分類4」の要件を満たす企業で「分類3」に該当する企業には、上記(3)のただし書の部分については、適用されない(回収適用指針89)。 また、「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」に該当するケースは、「分類3」に該当するものとして取り扱われるケースに比べて多くはないものと考えられる(回収適用指針89)。 (5) 会計方針の変更 回収適用指針の適用にあたり、すべての企業が会計方針の変更に該当するわけではない。回収適用指針の適用初年度の期首(下記(6)参照)において、以下の①~③の項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う(回収適用指針49(3))。 ① 「分類2」に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い(上記(2)ただし書参照。回収適用指針21ただし書) ② 「分類3」に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い(上記(3)ただし書参照。回収適用指針24) ⇒ 単純に5年を超える場合ではなく、おおむね5年を明らかに超える場合には、会計方針の変更に該当する。 ③ 「分類4」の要件に該当する企業であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には「分類2」に該当するものとする取扱い(上記(4)①参照。回収適用指針28) 《適用初年度の取扱い》 上記のとおり、回収適用指針を適用するにあたり、①~③の項目を適用することとなった場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる。 なお、遡及適用は認められず(回収適用指針123)、回収適用指針の適用初年度の期首時点で新たな会計方針を適用した場合の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と、前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額との差額を、適用初年度の期首の利益剰余金又はその他の包括利益累計額(評価・換算差額等)に加減する(回収適用指針49(4))。 《注記》 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更のため、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(以下、「遡及基準」という)」10項に従って注記を行う(下記(ⅰ)~(ⅲ)参照)。 ただし、表示する過去の財務諸表に対する影響額については、遡及基準第10項(5)ただし書の規定にかかわらず、下記(ⅳ)~(ⅵ)の事項のみを注記する(回収適用指針49(5)、125)。 連結財務諸表作成会社においては、子会社についても影響額を算出する必要がある。 (注) 遡及基準10項ではこの他にも注記事項が定められているが、今回の回収適用指針の適用に当たっては、ここに記載していない注記事項は不要であると考えられる。 会社計算規則でも、会計方針の変更に関する注記の定め(会社計算規則102の2)はあるが、上記と同一の注記内容の規定はない。しかし、会計基準等の改正による会計方針の変更に関する注記であることを考慮すれば、計算書類においても同様の注記を行うことになると考えられる。 また、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しない場合、会計方針の変更の注記は不要であるが、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しなくても、回収適用指針を適用していることには変わりはない。そのため、追加情報で回収適用指針を適用している旨について注記することが考えられる(財務諸表等規則8の5、連結財務諸表規則15、会社計算規則116)。 【会計上方針の変更の注記例】 【追加情報の注記例】 (6) 適用時期 回収適用指針は、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる(回収適用指針49(1))。 Ⅲ 減価償却方法の変更 (1) 税制改正 平成28年度税制改正において、平成28年4月1日以後「取得」(※)する建物附属設備、構築物、鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物に限る)について定率法が廃止された。 (※) 「事業供用日」ではなく、「取得日」で判断する。 (2) 会計上の取扱い 上記(1)の改正に伴い、平成28年6月17日に実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(以下、「実報32」という)」が公表された。 ① 会計処理 従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業において、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している場合、平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う(※)(実報32.2)。この場合、以下の事項を注記する(実報32.4)。 (ⅰ) 会計方針の変更の内容として、法人税法の改正に伴い、実報32を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨 (ⅱ) 会計方針の変更による当期への影響額 また、上記注記事項は、建物附属設備又は構築物を実報32の適用初年度に取得したかどうかにかかわらず、平成28年度税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合に、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを意図しているため、建物附属設備又は構築物を取得していない場合も記載する(実報32.18)。 また、事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法を前年度に採用した方法から変更した場合に該当するため、変更の旨、変更の理由及び当該セグメント情報に与えている影響を開示する(企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」24(5)) (※) 実報32による会計基準等の改正に伴う会計方針の変更「以外」の減価償却方法の変更については、今までと同様に、正当な理由に基づき自発的に行う会計方針の変更として取り扱う(実報32.3)。 【会計上方針の変更の注記例】 ② 適用時期 実報32は、平成28年度税制改正に係る減価償却方法の改正に「限定」して緊急に対応したものであり、今回に限られたものである(実報32.16)。 したがって、実報32は、公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する。ただし、平成28年4月1日以後最初に終了する事業年度が実報32の公表日前に終了している場合には、当該事業年度に適用することができる。 Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正 平成28年11月9日に企業会計基準公開草案第59号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計上基準(案)(以下、「公開草案59」という)」が公表されている。 (1) 内容 公開草案59では、監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計上処理及び表示に係る監査上の取扱い(以下、「監査保証実務指針63」という)及び会計制度委員会「税効果会計に関するQ&A」における税金の会計処理及び開示に関する部分のほか、実務対応報告第12号「法人事業税における外形標準課税部分の損益計算書上の表示についての実務上の取扱い(以下「実務対応報告12」という)」に定められていた事業税(付加価値割及び資本割)の開示について、基本的にその内容を踏襲した上で表現の見直しや考え方の整理等を行っている(公開草案59.23)。 そのため、実質的な内容は今までと変更がない(公開草案59.38)。したがって、本解説では、詳細に解説していない。 (2) 適用時期 公開草案59が会計基準として公表された日以後から適用される(公開草案59.18)。 公開草案59の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しない(公開草案59.19)。 公開草案59が会計基準として公表されることに伴い、実務対応報告12は廃止される(公開草案59.20)。また、企業会計基準委員会は、日本公認会計士協会に、監査保証実務指針63の改廃を検討することを依頼することになっている(公開草案59.21)。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第16回】 「金融商品の時価情報で記載漏れしやすい事項」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例16-1】 金融商品の時価情報の表に記載漏れの項目がある。 【事例16-1】は、連結計算書類のうち連結貸借対照表と金融商品の時価情報の注記を一部抜き出して掲載したものです。 これらのうち時価情報の方に、間違いと思われる点が1ヶ所あります。 どこだかわかりますか? 実は、何かが記載漏れになっている可能性があるのです。 何が記載漏れになっているかは、時価情報の表を連結貸借対照表と見比べてみるとわかるかもしれません。 2 連結貸借対照表と時価情報の突き合せの結果 ではさっそく、答えを見てみましょう。 記載漏れとなっていたのは、「電子記録債権」でした。 この科目について、時価情報の表に掲載することを忘れてしまったようです。 時価情報の表には、連結貸借対照表に計上されている資産負債の各項目のうち、金融資産・金融負債である科目について、時価等を掲載するのが通例です(重要性の乏しいものを除きます)。 したがって、時価情報で掲載されている科目と連結貸借対照表に計上されている金融資産・金融負債の科目とを突き合わせれば、記載漏れとなっている科目を見つけることができます。 この事例でそうやって見つかったのが、電子記録債権です。 電子記録債権とは、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することを発生・譲渡の要件とする金銭債権です。金融資産なので、時価情報の記載対象科目です。この科目の金額について、重要性が乏しいと認められる場合を除き、基本的には時価情報の表に掲載することになります。 3 電子記録債権だからこそ記載漏れになった 時価情報の表に電子記録債権を載せ忘れてしまったのは、単なるミスではありません。しかるべき理由があります。 結論から言うと、電子記録債権だからこそ、載せ忘れてしまったのです。 以下、順に説明しましょう。 まず、時価情報の表の作成プロセスを確認します。この表は、初めて作成する会社でない限り、前年度に作成した同じ表のデータを使って、そのデータに上書きしながら作成していくはずです。【事例16-1】の会社でも、おそらくそうやって作成したことでしょう。 そうすると、前年度に記載されていた科目については今年度も同じように記載されますが、今年度から新たに発生した科目については、書き加えない限り、記載漏れとなってしまうのです。 時価情報の表に掲載する科目は、たいていの場合、毎年同じ科目です。会社が同じビジネスを同じように継続している以上、結果的に同じ科目が発生するので、時価情報の記載対象も同じになることが多いのです。 ところが、100%そうだと思い込んでいると、失敗します。 これまでなかった科目(金融資産・金融負債の科目)が、今年度から新たに発生するということも当然あるからです。 【事例16-1】の場合、電子記録債権がまさにそれでした。 電子記録債権は、電子記録債権法(2008年12月施行)により創設された、比較的新しいタイプの金銭債権です。会社によっては、まだ利用実績がないというところもあるでしょう。 そのような会社で、たとえば、新たな取引先と取引が始まったことから電子記録債権が発生する、ということもあるのです。 【事例16-1】の会社については、そのあたりの事情はわかりませんが、前年度の連結貸借対照表を調べてみると、そこには電子記録債権が見当たらず、当期からそれが発生したと見られます。 その結果、上で述べたような作業プロセスを原因として、電子記録債権を時価情報から漏らしてしまったと考えられます。 4 類似パターンの事例 今回のミスは、パターンで言えば、『リサイクル・ミス』か『ファーストタイム・ミス』ということになります。 今年初めてこの連載をお読みになった方、もう忘れてしまった(悲)という方は、『リサイクル・ミス』については【第1回】を、『ファーストタイム・ミス』については【第13回】を、それぞれご参照ください。 「前年度の注記フォームを使いまわす」という作業プロセスに着目すれば、リサイクル・ミスと言えるでしょう。 参考までに、典型的な事例を紹介しておきましょう。 【事例16-2】 増減がないにもかかわらず、増減説明の注がある。 また、新たに発生した事項に関して起きたミスという側面に着目すれば、今回のミスはファーストタイム・ミスです。最近では、前回取り上げた「非支配株主に帰属する当期純損失」という科目に、関連するミスが散見されています。 【事例16-3】 損失について「利益と表示してマイナス数値で計上する」方法によっている。 〈今回のまとめ〉 金融商品の時価情報の表については、表に記載した科目を連結貸借対照表と突き合わせてみることで、記載漏れを防ぐことができます。 (了)