計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第17回】 「株主資本等変動計算書は『下段』で間違いやすい」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例17-1】 項目の名称が数字と整合していないものがある。 【事例17-1】は、連結計算書類の連結株主資本等変動計算書です。 この中に1ヶ所だけ間違いがあります。 どこだかわかりますか? 内容的には、そんなに難しくはありません。 しかし、見つけにくいところかもしれません。 では、ヒントを出しましょう。 上の段と下の段をよく見比べてください。 2 間違いが起きる場所は決まっている さっそく、答えを見てみましょう。 上の解答のとおり、連結株主資本等変動計算書の下段の方で項目名に誤りがありました。「親会社株主に帰属する当期純利益」となっていたところは、「親会社株主に帰属する当期純損失」としなければならないというものです。 数字を見ると、そのことがわかります。 上段の「親会社株主に帰属する当期純損失」と「利益剰余金」の交わるセル(黄色いセル)が△38となっていて、当年度において損失を計上していることがわかりますね。 したがって、項目名は「親会社株主に帰属する当期純利益」ではなく、「親会社株主に帰属する当期純損失」としなければならないのです。 この連結株主資本等変動計算書の作成者も、それぐらいのことはわかっていたと思います。なぜなら、上段の方は「親会社株主に帰属する当期純損失」となっているからです。 ただし残念ながら、下段の方で間違えてしまいました。 その原因は、この決算書の作成プロセスを考えてみるとわかります。 おそらく作成者は、連結株主資本等変動計算書の一般的な作成例(あるいは自社の前年度のフォーム)を見ながらフォームを用意したはずです。その後、当年度の数字を入力していきますが、いざ数字を入力する段階になって、当年度においては「親会社株主に帰属する当期純損失」となっていることに気がついたのでしょう。そこで上段の方だけは「利益」を「損失」に書き換えたものの、下段の方を書き換え忘れてしまったのではないでしょうか。 実は、株主資本等変動計算書(連結・個別)の下段部分というのは、間違いが発生しやすい箇所なのです。 株主資本等変動計算書(連結・個別)という決算書は、もともと横長のフォームであり、それを縦長の用紙に掲載するために途中で分断して2段書きにする会社が多いです。その場合、普通は上段の方から作成し始めるため、下段の作業に移るころには作成者の注意力が低下し始めます。 したがって、下段で間違いが起こりやすいのです。 3 類似事例の紹介 下段で間違いが起きた事例をもう一つ紹介します。 【事例17-2】 下段の項目の中に、削除し忘れているものがある。 この連載ではすでに、株主資本等変動計算書(連結・個別)について頻繁に起こるミスを【第4回】でご紹介しています。不要な行や列を削除し忘れてしまうというミスです。【事例17-2】はまさしくそれですね。ただし、ここでは下段の方だけでそのミスが起きています。 【事例17-2】は典型的なリサイクル・ミスです。 前年度においては「自己株式の取得」が行われたけれども、当年度においてはそれがなかったため、前年度のフォームをコピーして当年度用に使用するに際して「自己株式の取得」という行を削除しなければならないのですが、それを忘れてしまったというミスです。 この作成者は、上段の方では適切に削除したようですが、下段の方で削除し忘れてしまったのです。 4 上段と下段の整合性をチェックすべし 以上のとおり、株主資本等変動計算書(連結・個別)は下段の方で間違いが起きていないか、十分に注意する必要があります。 基本的には、上段と下段の項目名が一致しているかどうかをチェックすることで、ミスの防止につながります。 上段と下段が整合していない例としては、次のようなものもあります。 【事例17-3】 上段と下段の表現が不一致となっている。 【事例17-3】は、下段の「連結会計年度中の変動額」を「当連結会計年度変動額」としなければならないという事例です。 内容的には見ればわかることなので、このままでも問題はありませんが、もともと横長の一続きの表を二段書きにしているという経緯を考えると、上段と下段で別の表現になっているというのはおかしいです。 このようなミスにもぜひ気をつけてください。 〈今回のまとめ〉 株主資本等変動計算書(連結・個別)の作成、チェックに際しては、「下段でミスが起こりやすい」ということを覚えておくと、ミスの防止・発見に役立ちます。 (了)
〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第14回】 「連結納税グループに新規加入があった場合」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 1 決算日以外の日に連結納税に加入した場合の法人税等の調整 《解説》 会計上は、支配獲得日が四半期会計期間の末日以外の日である場合には、前後のいずれかの四半期会計期間の末日等に支配獲得が行われたものとみなして処理することが認められている(四半期財務諸表に関する会計基準16項)。しかし、税務上はこの取扱いが認められていない。そのため、会計期間と法人税法上の事業年度が異なる場合がある。 この場合には、連結損益計算書に含まれる当該子会社の損益(課税所得)と法人税等を期間的に対応させるために、連結損益計算書に含まれない期間の法人税等を控除する必要がある。 本ケースでは、P社がA社株式を実際に取得したのは×29年5月1日だが、会計上は第1四半期末である×29年6月30日を株式取得日(支配獲得日)としている。税務上は、実際の株式の取得日である×29年5月1日から連結納税に加入したとして取り扱われたとする。 この場合、会計上A社の損益のうち連結の対象となるのは第2四半期以降の期間に係る損益(【図1】「期間B」参照)となり、実際の株式取得日から第1四半期末までの期間(【図1】「期間A」参照)に係る損益は連結の対象外となる。 一方で、A社の課税所得のうち連結納税の対象となるのは実際の株式取得日から事業年度末(【図1】「期間A+B」)までの期間となる。したがって、連結損益計算書上の法人税等は、申告書ベースの連結法人税等の額から、実際の株式取得日から第1四半期末までの期間(【図1】「期間A」参照)に対応するA社の法人税等の額を控除した金額となるように調整する必要がある。 【図1】 (※) 会計上、期間Aに対応するA社の法人税等については、連結損益計算書に含まれるA社の損益(課税所得)と法人税等を期間的に対応させるために控除する必要がある。 2 連結納税加入前の繰越欠損金に係る繰延税金資産の取扱い 《解説》 連結納税子会社が単体納税制度時に有していた税務上の繰越欠損金のうち、一定の要件(【図2】参照)を充たす場合には、連結納税への加入後も引き続き税務上の繰越欠損金の控除(特定連結欠損金)の適用を受けることが可能である。 一方、連結納税子会社が特定連結子法人(法人税法第81条の9第2項第1号、【図2】参照)に該当しない場合には、連結納税への加入により当該連結納税子会社の税務上の繰越欠損金は切り捨てられることになる。これは、連結納税制度加入前に連結子会社が有していた単体納税時代の繰越欠損金を利用した過度の節税を防止する趣旨であると考えられる。 本ケースにおいてA社は新規に外部から取得した子会社であり、特定連結子法人に該当しないので、A社が単体納税制度時に有していた税務上の繰越欠損金は、連結納税への加入により切り捨てられることになる。 なお、特定連結子法人が連結納税に持ち込んだ税務上の繰越欠損金の控除(特定連結欠損金)の適用は、その持ち込んだ連結子法人の個別所得金額を限度として繰越控除され、連結親法人や他の連結子法人の所得から控除することはできない。 【図2】 特定連結子法人(連結グループへの加入の場合) (1) 連結親法人又は連結子法人により設立された100%子会社 (2) 適格合併に係る被合併法人が長期保有していた100%子会社でその適格合併により連結親法人の100%子会社となったもの (3) 連結子法人が適格三角株式交換により発行済株式の全部を保有することとなった法人 (4) 適格合併に係る被合併法人が長期保有していた100%子会社でその適格合併により連結親法人の100%子会社となったもの (5) 適格株式交換に係る株式交換完全子法人が長期保有していた100%子会社でその適格株式交換により連結親法人の100%子会社となったもの (6) 法令の規定に基づく株式の買取り等により100%子会社となったもの (法人税法第61条の12第1項、2項) 【図3】 3 連結納税加入時の連結納税子会社の資産の時価評価 《解説》 法人税法の規定により、原則として全ての内国法人である完全子会社は連結納税への加入に伴い、時価評価対象資産を時価評価しなければならないが、一定の子会社(【図4】)については時価評価の対象外となる。 【図4】 時価評価の対象外となる子会社 (1) 株式移転完全子法人(実質親法人) (2) 5年超保有子法人 (3) 100%グループ法人により設立された100%子法人 (4) 連結納税開始前5年以内の適格株式交換による株式交換完全子法人 (5) 連結納税開始前5年以内に法令の規定による単元未満株式等の買取により、100%子法人となった子法人 (6) 連結納税開始前5年以内の適格合併等による被合併法人等の長期保有子法人等 (7) 完全支配関係を有してから2ヶ月以内にその完全支配関係を有しなくなる法人 (法人税法施行令第14条の8、法人税法第122条の12第1項) 本ケースにおいては、A社は新規に連結グループ外部から取得した子会社であるため、【図4】の時価評価の対象外となる子会社(【図4】)には該当しない。よって税務上、A社は連結納税への加入に伴い、時価評価対象資産を時価評価する必要がある。また、会計上の資本連結手続による評価差額の計上を行う必要がある。 以下では、A社の時価評価に伴う会計処理について、連結納税主体であるP社と連結納税子会社であるA社に分けて解説していく。 (1) 連結納税主体(P社)における一時差異等 会計上の資本連結手続による時価評価差額は、P社によるA社の支配獲得日において、取得した株式に係るA社の資産及び負債を時価することにより生じる(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針11項)。 一方で、連結納税へ新規加入する場合の税務上の時価評価は、時価評価対象資産(【図5】)に限定される。 本ケースでは、会計上の資本連結手続による評価差額(200百万円)と税務上の連結納税への加入に伴う時価評価対象資産に係る評価差額(150百万円)には50百万円(【図6】)の差額が生じており、当該差額が連結納税主体であるP社の一時差異等となる。 (2) 連結納税子会社(A社)の個別財務諸表における一時差異等 連結納税へ加入する場合であっても、会計上は連結納税加入直前事業年度における連結納税子会社(A社)の個別財務諸表において、税務上の時価評価対象資産(【図5】)に係る評価損益の計上は認めらない。 したがって、会計と税務で収益の帰属年度が相違するため連結納税制度に新規加入する場合における連結納税子会社(A社)の時価評価対象資産の時価評価損益は、A社の財務諸表上の一時差異(【図6】)に該当し、税効果の対象となる。 【図5】 連結納税加入時の時価評価対象資産 【図6】 A社の資産の時価評価損益 4 譲渡損益調整資産に係る損益の繰延による税効果の認識 《解説》 (1) 連結納税主体(P社)における税効果会計 法人税法の規定により、完全支配関係にある法人グループ内で取引された資産損益調整資産(【図7】)に係る譲渡損益については、繰り延べられることになる。連結納税グループは親法人とその親会社の国内の100%子会社により構成されるので、当然に譲渡損益調整資産の課税の繰延制度の適用がある。しかし、連結財務諸表を作成する段階において、連結グループ会社間の取引は原則として相殺消去される。よって、連結財務諸表においては、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益が税務上の課税所得と会計上の税引前当期純利益に与える影響に差異はないため(一時差異は生じない)、繰延税金資産及び繰延税金負債は認識されない。 本ケースにおいて、×30年4月1日に子法人であるA社は親法人であるP社に対して帳簿価額100百万円の土地を120百万円で売却している。税務上、当該取引に係る土地の譲渡益20百万円は譲渡損益調整資産の課税の繰延制度により、譲渡した事業年度である×31年3月期の課税所得とはならないが、P社が当該土地をグループ外部へ150百万円で売却した×32年3月期の課税所得となる(当該土地の販売に係る連結納税グループの課税所得への影響+50百万円(P社:30百万円、A社:20百万円)。 一方で会計上は、連結会社間の取引は相殺消去されるので、当該の土地の譲渡損益は譲渡した事業年度である×31年3月期の利益とはならず、P社が当該土地を連結グループ外部へ150百万円で売却した×32年3月期の利益となる(当該土地の販売に係る連結納税グループの税引前利益への影響+50百万円)。 以上のように、連結財務諸表においては、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益が税務上の課税所得と会計上の税引前当期純利益に与える影響に差異はないため(一時差異は生じない)、繰延税金資産及び繰延税金負債は認識されないこととなる。 (2) 連結納子会社(A社)における税効果会計 法人税法の規定により、完全支配関係にある法人グループ内で取引された資産損益調整資産(【図7】)に係る譲渡損益については、繰り延べられることになる。連結納税グループは親法人とその親会社の国内の100%子会社により構成されるので、当然に譲渡損益調整資産の課税の繰延制度の適用がある。よって、税務上は譲渡調整資産に係る損益は譲渡した事業年度には益金とならない。 一方で、会計上は譲渡した事業年度の利益になる。このため個別財務諸表においては、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益が税務上の課税所得と会計上の税引前当期純利益に与える影響に差異があるため(一時差異が生じる)、繰延税金資産及び繰延税金負債は認識される。 上記のように、税務上は当該取引に係る土地の譲渡益20百万円は譲渡損益調整資産の課税の繰延制度により、譲渡した事業年度である×31年3月期の課税所得とはならないが、P社が当該土地をグループ外部へ売却した×32年3月期の課税所得(A社の土地売却による課税所得への影響+20百万円)となる。 一方で会計上は、連結子法人であるA社の個別財務諸表上は当該土地を売却した×31年3月期の利益となり、P社当該土地をグループ外部へ売却した×32年3月期については、この土地に関しては何ら利益が計上されないこととなる。 以上のように、個別財務諸表においては、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益が税務上の課税所得と会計上の税引前当期純利益に与える影響のタイミングが異なるため一時差異は生じ、繰延税金資産又は繰延税金負債は認識されることとなる。 なお、当該土地は、時価評価対象資産であるので、A社が連結納税へ新規加入した際に20百万円の税務上の評価益が計上され、会計上は当該評価益が計上されないため一時差異が生じていた。当該一時差異は、当該土地を×30年4月1日にA社からP社に売却された時点で解消される。 【図7】 譲渡損益調整資産の課税の繰延制度の概要 【検討事項のチェックリスト】 ~連結納税グループに新規加入があった場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
ストック・オプション会計を学ぶ 【第10回】 「ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号。以下「ストック・オプション適用指針」という)にしたがって、ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定について解説する。 Ⅱ ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定 1 段階的に権利行使が可能となるストック・オプション 付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれているため、時の経過とともに付与されたストック・オプションの一定部分ごとに段階的に権利行使が可能となる場合には、原則として、権利行使期間開始日の異なるごとに別個のストック・オプションとして会計処理する(ストック・オプション適用指針20項)。 これは、同時に付与された一団のストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれている場合には、内容の異なる複数のストック・オプションが同時に付与されたものと考え、内容が同一のストック・オプションごとにそれぞれ会計処理を行うことが原則と考えられたためである(ストック・オプション適用指針58項)。 ただし、付与された単位でまとめて会計処理を行うことも妨げられない(ストック・オプション適用指針20項)。これは、同時にまとめて付与されるストック・オプションは、全体として一定期間のサービス提供に対する報酬として付与されているとの見方もあるためである。この場合には、付与した単位で公正な評価額を、最後に到来する権利行使期間開始日の前日までの期間にわたって費用計上することになる(ストック・オプション適用指針58項)。 2 対象勤務期間中の会社都合退職により権利行使が妨げられないストック・オプションの取扱い 勤務条件が付されているストック・オプション(ストック・オプション適用指針17項(2)において、勤務条件が付されているとみなされる場合を含む)において、これを付与された者がその通常の対象勤務期間の途中で会社都合により退職した場合であっても権利行使が妨げられないとされている場合がある(ストック・オプション適用指針53項)。 3 待機期間が設定されていても対象勤務期間がないと判断される場合 税制適格要件を満たすため待機期間が設定されている場合であっても、当該ストック・オプションの被付与者が、税制適格オプションであることに伴う税制上の優遇措置を放棄すれば、待機期間の終了を待たずいつでも権利行使が可能である旨の定めがある場合がある(ストック・オプション適用指針54項)。 この場合には、対象勤務期間がないものと考えられるため、付与時に一時に費用を計上することになる。 4 役員の任期満了後にはじめて権利行使が可能となるストック・オプション 役員就任時に付与され、その任期の長短のいかんにかかわらず、任期満了後にはじめて権利行使が可能となるストック・オプションは、他の条件から対象勤務期間が明らかである場合を除いて、権利行使のために業務執行を最低限継続する必要のある、就任後の最初の任期におけるサービス提供と対価関係にあるものと推定する(ストック・オプション適用指針55項)。 5 権利行使の可否が直前の期の業績に依存する場合の取扱い 業績による条件の中には、権利行使の可否を直前の期の業績に係らしめているものがある(ストック・オプション適用指針57項)。 当該条件が付されている場合、条件を満たしていったん権利行使が可能となった後も、業績悪化により権利行使できなくなったり、その後の業績回復により再び権利行使可能となったりというように、権利行使の可否が変動する可能性がある。 当該条件が付されている場合にも、企業は取引の対象として従業員等から一定の企業業績に結びつくようなサービスの提供がなされることを期待しているものと考えられ、最初に条件を満たすまではストック・オプションとしての権利は確定していないと考えられることから、このような条件も一種の権利確定条件(業績条件)であるということができる。 しかし、いったん権利行使が可能となった後、実際に権利行使を行えばその権利行使は確定し、その後の業績変動のいかんによって、その権利行使が取り消されることはないことに鑑みると、ストック・オプション会計基準の適用上は、最初に条件を満たした段階で権利が確定し、その後の業績の変動により確定した権利が取り消され、再び権利の確定しない状態に逆戻りすることはないと考えることから、いったん権利行使可能となった後に権利行使を行わないまま権利行使期間の末日を経過した場合には、権利不行使による失効として会計処理することが適当であると考えられている(ストック・オプション適用指針57項)。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第4回】 「消費者被害からの救済」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問04] 私の母は、ここ数年来、実家にて一人で暮らしています。今年で80歳という年齢もあり、昔に比べて理解力や記憶力が多少弱くなったなと感じるときはありますが、心身ともにまだ十分元気です。 一人娘である私は、月に1度は実家を訪れ、母と世間話をするなどして生活ぶりを把握するよう努めています。 ◆ ◆ ◆ 昨年あたりからですが、実家に戻るたび、女性物の着物の数が増えているなと感じるようになりました。 母は若い頃から日本舞踊を習っており、普通の人より多く着物を持っているほうだとは思いますが、今や着物を着て外出するような用事もほとんどありませんし、新しく着物を購入するといっても限度があります。 不審に思いながらも様子を見ているうちに、ついにはタンスに収まりきれないほどの数になってしまったのです。 ◆ ◆ ◆ さすがにおかしいと思った私は母を問い詰めましたが、なかなかはっきりしたことを話しません。それでも私が「大事なことだから」と何度も説明を求めると、しぶしぶながら話をはじめました。 母によると、昨年、京都の呉服店からダイレクトメールが来て、アンケートに答えると無料でハンカチがもらえるとのことだったので返送したところ、セールス担当の女性が実家を訪問してきたそうです。 この女性が非常に物腰柔らかく、かつ、昔に日本舞踊を習っていたということで話が盛り上がり、以後、何度も実家を尋ねてくるようになったとのことです。 そして、そのたびに着物のカタログを持参して母に勧めてくるので、母も断りきれずに購入してきたが、ついには貯金も不足してきたため、今度は言われるがままにローンを組んで購入していたとのことです。 実家には、まだ1回も袖を通していない着物がたくさん残っている状態です。 私は、今後どのようにしたらよいのでしょうか。 1 高齢者をターゲットとする消費者被害の特徴・傾向 【設問04】は、いわゆる「次々販売」(被害者と親密になった上で、使いきれないほどの高額商品を次々と購入させること)と呼ばれるものの典型例である。 高齢者をターゲットとした詐欺事件は古くから存在するが、公に発表されている統計上も、犯罪被害全体の中で高齢者が被害者となる比率が年々増加している(内閣府「平成28年版高齢社会白書」第1章第2節6の(3)イを参照)。 例えば、以前に大きな社会問題となったものとして「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」があった。その被害者の8割以上は、60歳以上ということである。 最近ではその進化版として、「還付金詐欺」(被害者を電話で誘導し、ATMで送金操作をさせるもの)や「ゆうパック(レターパック)詐欺」(同様に、現金を郵便で送付することを指示するもの)等々の被害も増加している。 このように、この種の詐欺事件は、摘発されるたびに別パターンへと“進化”を繰り返して生き延びており、まさに摘発と新たな詐欺被害とが“イタチごっこ”となっている現状にある。 この点、国民生活センターのウェブサイトでは、最新の被害情報をもとにした各種の有益な情報を掲載し、一般消費者に対して注意を喚起している。 2 高齢者被害の特殊性 このような各種の詐欺事件において高齢者が被害者となる場合の特殊性としては、以下のような事情が存する。 以上のような事情があることから、高齢者が被害者となる詐欺事件においては、周囲の家族等が積極的に事実関係を把握し、被害回復に向けて動く必要性が高い。 3 実際の救済方法 実際に被害が発覚した場合の対応は、次のとおりである。 (1) 弁護士・司法書士等の専門家への被害相談 被害救済のために使える手段・法的権利としては、解説編【第3回】の4項にて代表的な制度を説明したが、再掲すると次の通りである。 【認知症患者救済のために用いられる代表的な法制度】 【設問04】においては、まず、訪問販売ということを理由として特定商取引法上のクーリングオフを主張することが考えられる。 ただし、クーリングオフには法律上定められた内容を記載した書面を業者から受け取った日から8日間以内という期間制限が存在することから、専門的知識を持った者による至急の対応が必要となる場合がある。 以上に加え、法が要求する書面に不備があれば、8日間を経過した過去の売買であってもクーリングオフできる可能性が存在するし、消費者契約法による取消権等を主張して過去に遡って着物の売買契約を取り消し、着物を業者に返還する代わりに売買代金を戻させる等の救済方法も考えられる。 この点、特定商取引法や消費者契約法等といった消費者保護を目的とした法令は頻繁に法改正がなされ、年を追うごとに裁判例も蓄積されている。そのため、問題となる条文に具体的ケースが当てはまるかという該当性判断が非常に複雑である。 そこで、有効的な被害救済のためには、まずは消費者事件に詳しい弁護士・司法書士に相談するのが得策であろう。 (2) その他の窓口 -消費生活センター/国民生活センター/警察署へ相談 専門家にいきなり相談するのは敷居が高いと感じるならば、全国の地方公共団体が設置する「消費生活センター」や消費者庁が所管する独立行政法人である「国民生活センター」が共同して設置する「消費者ホットライン188」(局番なしの188(いやや!)番)に電話することで、最寄りの消費生活相談窓口に被害相談することも一方法である。 なお、筆者の経験では、詐欺被害を受けた場合に、まず警察署に相談する例も多いようである。 しかし、警察署は、いわゆる「振り込め詐欺」等、これまでに同種事件が全国的に多発し、警察署自身が啓発ポスター等を掲示して注意を喚起しているような事犯に対しては被害相談に積極的に応じてくれるものの、それ以外の消費者被害の場合には、民事不介入の原則等を理由に消極的な対応を取る場合も少なくないとの実態は念頭に置くべきである。 4 被害の防止のために 本稿の最後に、高齢者を詐欺被害から守るための予防策について触れておきたい。 (1) 適切な財産管理人/成年後見人を付する 仮に高齢者本人の判断能力が減弱し始めている場合には、信頼のおける親族あるいは第三者に対して財産管理を依頼するか、あるいは成年後見人等を付することを検討すべきであろう(解説編【第6回】参照)。 これにより、高齢者が高額の財産を自分一人の判断で処分することはできなくなり、被害防止に役立つ。 (2) 普段からの声がけ・密なコミュニケーションの重要性 以上のような財産管理人あるいは成年後見人を付した場合でも、高齢者が手元にまとまった現金を持ち、自宅にも外部から様々な人間が出入りしているという状況があったとしたならば、第三者による詐欺行為を完全に防ぐことは難しい。 そのため、財産管理人や成年後見人を付しているか否かにかかわらず、①同居している、あるいは近所に住む親族が高齢者本人の生活ぶりをよく観察し、話し相手にもなるよう努力する、②遠方に住む親族しか身寄りがない場合には、郵便局の「みまもりサービス」や、民間の警備会社が展開している同様のサービスを利用する等も一つであろう。 (3) 万一の場合に備えた「対応手順」を確認しておく 不審な訪問者等が来訪した場合に備え、火災予防の避難訓練等と同様、その場に及んでの具体的な行動手順を明確にしておくことが好ましい。 例えば、 等につき、家族間でよく話し合い、高齢者本人に十分内容を説明し、徹底してもらうべきであろう。 (了)
顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第7回】 「分かりやすい論理的な話し方・伝え方にチャレンジ!」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 皆さん、こんにちは。坪田まり子です。 皆さんは、上司やお客様の話し方が気になったことはありませんか? なんだかまわりくどくて、結局何を言いたいのか分かりにくいと感じられてしまう人、士業者に限らず、少なくないようです。 今回は、分かりやすい説明ができるように工夫できるポイントをお話します。 分かりやすくあるためには、論理的であることはいうまでもありませんが、それ以前にクリアしなければならないことがあります。 まずはそこからはじめましょう。 ◆ ◆ ◆ 以下は、「分かりにくいと言われる話し方」に共通する特徴です。 ご自分に当てはまる項目がないかどうか、チェックをしてください。 ① 聞こえにくい声の大きさである ② 目線が必ずしも相手を見ていない ③ 相手に合った内容ではない ④ 専門用語を使いすぎている ⑤ ときに押しつけがましい言い方をする ⑥ 同じ話を何回も繰り返している ⑦ 全体的に話が長い では、一つひとつ解説していきましょう。 ①声が聞こえにくい場合、相談者は皆さんにこう言えるでしょうか。 「もう少し大きな声で話してくれませんか?」って。 言いたいけれど、言いにくい気持ち、お分かりになるはずです。とくに初めて皆さんに相談する来訪者の場合、自分が報酬を払う立場ではあるのに、やはり税のプロフェッショナルである皆さんに遠慮してしまい、そんな失礼なことを言いにくいと思うはずです。 しかし、聞こえないから分からないのです。「聞こえない」と言えないから、最後まで皆さんのお話を聞いても「大事なことがよく分からなかった。。。」となってしまうのです。 自分の声が小さいかも、と自覚のある方は、 であることを意識してください。それは“相手に好感を与える”話し方ではないということです。 相手にちゃんと聞こえる声の大きさで話すことは、分かりやすい話し方の大前提です。 ◆ ◆ ◆ ②目線がキョロキョロしてどこを見ているか分かりにくいと思わせてしまうと、皆さんの目を見て話を聞いている相談者からは、なんだか自信のない士業者に見えてしまうものです。 もちろん税に関する面談では、手元の資料をお互いに見ながら話すことが少なくないはずですが、それでも前々回にお話した本論以外の「雑談」など、相手と良好な関係を築くための会話も必要です。 目線は、話の内容に説得力を持たせるためにも、極めて重要なポイントです。相手の目を見て話すのが苦手だと自覚している方は、普段から意識して、職員さんや上司、ご家族の目を見て話すことができるよう練習なさることをお勧めします。 ◆ ◆ ◆ ③の相手に合った内容ではないということと、④の専門用語の使いすぎも、ビジネスマナー違反です。 確かにアドバイスをするのは皆さんであり、税や会計のプロフェッショナルという観点から、難しい専門用語や解説が必要であることは理解できます。 しかし、話の効果は聞き手にあるのです。 聞き手にとって分かりにくい内容であれば、それは報酬をいただいて解決する士業者が自分の話し方を改善するしかありません。むしろ相手のレベルに合わない話し方や専門用語の使いすぎは、偉そうで感じ悪い士業者の代表例とも言えます。 もっと目の前の相談者に敬意を表することを、くれぐれもお忘れなく。 ◆ ◆ ◆ ⑤押しつけがましいと思われないためにも、⑥しつこく何度も同じ話を繰り返さないことが大切です。さらには皆さんの目つきや態度も絡んできます。常に、感じの良い話し方や雰囲気であるかどうかも意識してください。 ◆ ◆ ◆ そして⑦。説明をする、アドバイスをするお立場だからこそ、士業者の説明はどうしても長くなりがちだと思います。内容が難しく専門的であるからこそ長くなるのであればなおさら、聞き手が理解しやすく分かりやすい話し方を工夫しなければなりません。 ダラダラと分かりにくい話し方では、相手をうんざりさせてしまいます。相手も忙しい中、時間を割いて皆さんのところへ来ているからです。論理的かつ分かりやすい説明のポイントは、下記のとおりです。 ① まず結論から述べます。 ② 次に結論に対しての明確な理由をズバリ述べます。 ③ ①と②を理解してもらえるよう具体的に説明します。 ④ 最後にもう一度結論に戻ります。 ⑤ 全体を通して相手が理解しやすい言葉を選びます。 くわしくご説明しましょう。 ◆ ◆ ◆ ①は「目的地を先に示す」という意味合いです。相談者からの質問に対して、まずは簡潔かつ明瞭に結論から言い切ることをお勧めします。そのためにも、相談内容に対し、勘違いで答えないように、「傾聴」が必要だったのです。 相談者の要望を正確に把握できたなら、相手の質問に対し、相手が求める方向性を間違えず、プロフェッショナルとしての結論を述べることができるはずです。結論は短い方が分かりやすいので、簡潔に言い切ることをお勧めします。 ◆ ◆ ◆ ②結論を述べた後は、「なぜそれが必要であるか」を理解してもらうために、明確な理由を述べましょう。 普段の会話でも、相手はおそらく「なんで?」「どうして?」と無意識に聞きたがるものではないでしょうか。相談に来た立場だからこそ、自分が知りたいことについて意味がよく分からない場合、イライラしてしまい、安心して皆さんの話を最後まで聞くことが難しくなってしまいます。 結論のすぐ後に“分かりやすい理由”が示されることは、相手に安心感を与えるのみならず、その理由が相談者にとって『もっともだ』『確かにおっしゃるとおり』というものであればなおさら、早い段階で皆さんに対する信頼感が増すことにもつながります。 ここで注意すべきことがあります。 それは、「理論だけが先行しないように心がける」ということです。 理論だけが先行して相手の意向や感情をないがしろにしてしまうと本末転倒です。傾聴をする必要性は、相手の真意と要望をしっかりつかむことにもありましたね。相談者は税や会計の素人であっても、「できればこうしたい」という意向と要望をもって皆さんのもとを訪ねているはずです。 法律に基づく正しい方向性に導くことは言うまでもありませんが、相手の理想に極力近い結果を目指すことが顧客満足につながります。論理的な話し方で相手にご満足いただけるためには、前回お話した「傾聴」が基礎になっています。改めて前回分を読み直していただければ幸いです。 ◆ ◆ ◆ ③具体的に説明する場合にも、次のようなコツがあります。 たくさん盛り込む場合には、予めこれから話す具体例の数を述べましょう。たとえば、「似たような事例が3つほどあります」などと、事前にさりげなく予告をすることで、聞き手には聞く覚悟が自然とできるからです。 さらに、それらを話す順番にも気をつけましょう。 一般的な配列としてよく知られているものが次のとおりです。 「時間的配列」とは、過去→現在→未来と、時の経過に従って説明する方法です。継続してアドバイスをしている依頼者に対しては、昨年のことを振り返り、今年の内容を説明し、来年の方向性を指し示すこと、税理士の皆さんにとっては基本的な会話だと思いますが、いかがでしょうか。「場所(空間)的配列」も同じで、物事が発生した場所ごとに順を追って説明する方法です。 「既知から未知への配列」は、相談者のレベルに合わせて話すという意味でも重要です。「相手が知っていること=よく分かること」から説明し、「相手が知らないこと=重要なこと」へと話を進める方法です。さらに「重要度による配列」は、重要なことから話しはじめ、「因果関係による配列」は原因から結果につなげて話す方法です。 後半の3つは特に士業者である皆さんには有効な進め方だと思いますが、くれぐれも気をつけなければならないことがあります。 それは皆さんが説明しやすい順番ではなく、 相手が理解しやすい順に話す ということです。 皆さんは税の専門家、目の前の相談者は素人。場合によっては、これまで依頼していた税理士には何らかの不満を持っていて、新しい税理士に切り替えたいという要望で来ている相談者もいるはずです。 そんな相談者は前の税理士に対し、何らかのストレスを抱えているのですから、まずは相談者の気持ちを逆なでせず、理解されやすい順番を模索するようにしてください。 ◆ ◆ ◆ 最後にもう1つ、大切な観点があります。 それは 目の前の相手 = 相談者を決して置き去りにしない ということです。 説明を頑張りすぎると、どうしても話が長くなりがちです。夢中で話をしても、結果として相手にとっては「???」ということがないように、話をしている最中でも、聞き手がどれくらい理解してくれているか、または不明な点がないかという点を、適宜、確認しながら話を進めてください。 そのときの言葉例は「この時点でご不明な点はありませんか?」でよろしいと思います。 説明の区切りでこのように確認することも一案です。 ただし注意すべきは、不必要にこの言葉を使いすぎると、逆に分かりにくくなるものです。使いすぎないためにも、上述したように、専門用語を使いすぎず、相手が分かりやすい言葉で説明することが大切です。 さらに士業者である皆さん自信が、説明している最中、自己満足に陥らないためにも、常に相手の表情を注視し、相手の感情や理解度を推し量りながら話すことを常に意識することをもお忘れなく。 そして最後にはもう一度、結論と理由を繰り返すことをお忘れなく。 それが有効なクロージングへとつながっていきます。 * * * さあ、いよいよ次回は最終回です。 クロージングを締めくくるにふさわしいお見送りのコツ、次につなげるコツなどをお話する予定です。 どうぞお楽しみに。 (続く)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第18話】 「取得費の算定方法」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「統括官、お尋ねしたいのですが・・・譲渡所得を計算するときに、不動産の取得費が分からなかった場合、必ず措置法31条の4を適用しなければならないのですか?」 谷垣調査官は条文を示しながら田中統括官に尋ねた。 「取得費が分からないということは、取得したときの売買契約書を紛失したということなのか?」 田中統括官は少し苛立った様子で確認する。 「そうです・・・売買契約書があれば、取得費は分かるのでしょうが・・・この譲渡所得の申告書をチェックしていたら、土地は市街地価格指数を基に算定し、建物は着工建築物構造別単価表を使って推計しているのです。」 谷垣調査官は手に持っていた申告書を田中統括官に見せた。 「取得費の計算明細書ではこうなっているのですが・・・取得費の計算はこれでよいのでしょうか?」 そう言いながら谷垣調査官は、確定申告書に添付されている建物の取得費の計算明細を示す。 「そして、この建築時価から経過年数の償却費を控除し、建物の取得費を算出しています・・・」 谷垣調査官は自信なさそうに説明をする。 「・・・そして、土地の取得費は、本件物件(土地・建物)の譲渡価格から上記の建物の取得費を控除して、土地の譲渡時の時価相当額とし・・・これに、次の譲渡時①と取得時②の市街地価格指数の割合を乗じて、以下のように、土地の取得価額を計算します。」 田中統括官は、取得費の計算明細書を見ながら、大きく頷く。 「取得費の計算は、これでいいんじゃないかな・・・」 「・・・ということは、このような計算をすれば、取得費が分からなくても、措置法31条の4の概算取得費を使わなくてもよいということですね。」 谷垣調査官が確認する。 「そうだな・・・私は、この申告書に書かれている取得費の計算は合理的だと思うが・・・」 田中統括官は腕を組みながら、答える。 「その他にも、土地の取得価額は土地の取得時の売買事例から算定し、建物の取得価額は、譲渡価額の総額から土地の譲渡時の売買実例価格を差し引いて算出された建物の譲渡価格から減価償却費を控除する方法もあるが・・・この場合、土地の売買実例がなければ正確に計算できないし・・・」 田中統括官は思案顔になる。 「しかし・・・これって推計課税になりませんか?」 谷垣調査官は疑問を投げ掛ける。 「推計課税だって?」 田中統括官は頸を傾げる。 「ええ、推計課税は課税庁だけができるもので、納税者はできないと思うのですが・・・」 谷垣調査官は、傍らにある税務六法から所得税法156条(推計による更正又は決定)を開いた。 「確かに・・・この条文の主語は、『税務署長は・・・』となっているが・・・これは、税務署長が更正又は決定を行うときに、一定の条件(①帳簿書類等の保存がない場合、②保存していても信頼性が乏しい場合、③税務調査に非協力(不提示)の場合)の下で、実額ではなく推計課税ができると定めている規定であって、だからと言って、納税者が推計で、課税所得を算出することができないと読むことはできないだろう・・・」 そう言うと、田中統括官は谷垣調査官を見た。 「その計算に合理性を認めることができるならば、納税者にも推計課税が認められるべきだと思う。」 田中統括官の言葉に谷垣調査官は頷いた。 「確かに統括官の仰るとおりですね。実額に代わる何らかの合理的な方法があれば、それを認めることも問題はないのでしょうね。」 「・・・ところで、バブルが崩壊してから、土地のキャピタル・ゲインが期待できなくなったためか、税務署は譲渡所得について積極的に税務調査をしてこなかったんだよ・・・」 田中統括官は少し反省するようにつぶやいた。 (つづく)
《速報解説》 類似業種比準方式の評価方法見直しを含む 財産評価基本通達の一部改正案がパブコメへ ~平成29年1月1日以後の相続等取得財産の評価に適用 Profession Journal編集部 平成29年度税制改正大綱においては、3要素(配当・利益・純資産)の比重変更を含む類似業種比準方式の評価方法の見直しが記載されていたが、3月1日付けでこの改正を中心とした財産評価基本通達の一部改正(案)がパブリックコメントに付された。意見募集は3月30日までとなっている。 今回の改正案における概要は以下のとおり、取引相場のない株式の評価の見直しに加え、こちらも大綱に記載のあった杉・ひのき及び松の評価見直しも織り込まれている。 これらの改正は平成29年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用することが改正案の概要に明記されている。正式な通達改正は4月以降となるため、遡及適用となる点について経過措置が設けられるのではとの見方もあるが、改正案において経過措置の記載は見られず、パブコメを受けた結果に注視する必要があろう。 なお、今回の改正案は上述のとおり平成29年1月1日から適用されるもので、大綱に記載された「広大地の評価方法見直し(現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法への見直し)」及び「株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を加える改正」については平成30 年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用されることから、今回の改正案には含まれていない。 (了)
《速報解説》 会計士協会、有価証券上場規程等の改正を受け 決算短信等への監査・レビュー不要を会員向け文書で確認 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年2月22日付け(ホームページ掲載日は2月27日)、日本公認会計士協会は、会員宛て文書として次のものを公表した。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 平成29 年2月10日付けで、株式会社東京証券取引所は、有価証券上場規程及び決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領等(以下「作成要領等」という)の改正を公表している。 作成要領等の4ページでは、〔決算短信等には監査等が不要であることについて〕の箇所において、次のように記載されている。 決算短信等については、従来から、監査や四半期レビューの手続の終了を開示の要件とはしていないとのことである。 なお、会社法監査の終了後に決算短信を開示している会社が全上場会社の約4割、四半期レビューの終了後に四半期決算短信を開示している会社が約1割あるとのことである。 会員宛て文書では、決算短信等については、監査等の対象外であることから会社の責任において速報値として早期に開示を行うよう促し、監査人においては、会社法監査及び金融商品取引法監査について、より高品質な監査を実施するために十分な監査期間を確保した上で実施することが要請されている。 (了)
《速報解説》 東京都、消費税率引上げ延期に伴い 法人事業税・法人都民税に係る税率改正の施行日を変更へ ~平成31年10月1日施行とする東京都都税条例等の改正を都議会へ提案~ 公認会計士・税理士 八代醍 和也 Ⅰ はじめに 東京都は当初、平成28年度税制改正における地方税法等の改正を受け、「東京都都税条例の一部を改正する条例(平成28年東京都条例第82号)」(以下、「改正都条例」)を平成28年6月21日に公布し、平成29年4月1日以後に開始する事業年度より、法人事業税(所得割・収入割)及び法人都民税(法人税割)の税率を改正することとしていた。 ただし既報の通り、消費税率10%引上げの2年半延期を定めた税制関連法案が昨年11月28日にて公布、同日施行されており、このうち地方法人課税の税率見直しの延期等を定めた「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律等の一部を改正する法律」を受ける形で、このほど東京都は、平成29年2月15日付けで、改正都条例の施行日を平成29年4月1日から平成31年10月1日に変更する方針であることをホームページ上で明らかにした。 公表によると、改正都条例の施行日を平成31年10月1日に変更することとした東京都都税条例等の改正を平成29年第1回東京都議会定例会に提案するとのことである。 昨年8月に閣議決定された、消費税率引上げ延期に伴う方針を示した「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」(以下「税制上の措置」)をめぐり、同月公開の下記拙稿では、基本的には平成28年度の改正税法において、地方法人税の増税分と法人住民税の減税分とが相殺され、法定実効税率に影響がないように措置されていたところ、「税制上の措置」に基づく改正地方税法が成立したとしても、法定実効税率に影響はないと考えられると述べた。 一方で、「税制上の措置」公表による、実際の各自治体の条例改正に向けた動きは未定となっている部分も多く、今後の地方税法改正やそれを受けた条例改正によっては、異なる結果となる可能性がある点についても付記したが、今般の東京都の公表によって、この点がかなり明確になってきたものと筆者は考えていることから、本稿において改めてその影響について追加的な補足解説を行うものである。 なお、文中の意見に関する部分は、筆者の私見であることを申し添える。 Ⅱ 改正案の内容 東京都の公表によると、法人事業税、法人都民税の改正内容は以下のとおりである。 【法人事業税】 税率改正の施行日を平成29年4月1日から平成31年10月1日に変更 (参考) 施行日変更後の税率表 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ※東京都では超過課税(超過税率を適用)を実施していますが、あわせて、資本金の額又は出資金の額が1億円以下で、かつ、年所得が2,500万円(年収入金額が2億円)以下の普通法人(収入金額課税法人)又は年所得が2,500万円以下の特別法人等に対しては、標準税率で課税する不均一課税を行っています。 ※軽減税率不適用法人とは、3以上の都道府県に事務所・事業所を設けて事業を行っている法人で、資本金の額又は出資金の額が1,000万円以上の法人をいいます。 ※外形標準課税の所得割における( )内の標準税率は、東京都での適用はありませんが、地方法人特別税の基準法人所得割額の計算に用います。 【法人都民税法人税割】 税率改正の施行日を平成29年4月1日から平成31年10月1日に変更 (参考) 施行日変更後の税率表 ※東京都では超過課税(超過税率を適用)を実施していますが、あわせて、資本金の額又は出資金の額が1億円以下で、かつ、法人税額が年1,000万円以下の法人に対しては、標準税率で課税する不均一課税を行っています。 Ⅲ 実務への影響 (1) 適用事業年度 上述の通り、今回の変更については、平成29年第1回東京都議会定例会に東京都都税条例等の改正として提案するとのことである。 周知のとおり、平成28年3月31日以降に終了する事業年度より「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」においていわゆる「成立日基準」を適用することが求められていることから、上記都議会が開催されている3月中に当該改正条例が成立した段階で、平成31年10月1日以後に終了する事業年度における税効果会計の計算を同条例に記載された税率を用いて行うことになる。 (2) 設例計算 読者の理解に資するため、外形標準課税適用法人を前提とした場合の、改正都条例の施行日の変更による影響について、設例による計算例を以下に示す。既報でも述べたとおり、施行日の変更前後で法定実効税率に影響はない。 【前提となる税率】 ■改正都条例施行日変更前 ■改正都条例施行日変更後 【法定実効税率の算定】 改正都条例の施行日変更により税率の変更が生じる平成30年3月期、平成31年3月期及び平成32年3月期について、以下の算式に基づいて、変更前、変更後の法定実効税率を計算すると以下のようになる。 ■平成30年3月期 (施行日変更前) (施行日変更後) ■平成31年3月期及び平成32年3月期 (施行日変更前) (施行日変更後) 【参考図】 (※) 東京都主税局ホームページより (了)
2017年2月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.207を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。