ストック・オプション会計を学ぶ 【第8回】 「条件変更の会計処理②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)にしたがって、ストック・オプションに係る条件変更の会計処理について解説する。 条件変更には次の類型がある。 Ⅱ ストック・オプション数を変動させる条件変更 1 会計処理 ストック・オプションについて、権利確定条件を変更する等の条件変更により、ストック・オプション数を変動させた場合には、次のように会計処理する(ストック・オプション会計基準11項)。 2 考え方 勤務条件や業績条件等の権利確定条件を変更した場合には、一般にストック・オプション数が変動することになる。 ストック・オプション数の見直しの会計処理については、ストック・オプション会計基準7項(2)に規定があるが、この規定の前提となっているのは、環境の変化等の企業が意図しないストック・オプション数の変動であり、そのため重要な変動が生じた場合には、その影響額を見直した期に損益として計上することとされている。 しかしながら、企業の意図による条件変更の結果、ストック・オプション数に変動が生じた場合(ストック・オプション会計基準11項)には、将来にわたる効果を期待して条件変更を行ったものと考えられるため、ストック・オプション会計基準7項(2)は適用されず、ストック・オプション会計基準11項にしたがって、その影響額は条件変更後、残存期間にわたって反映させることになる(ストック・オプション会計基準57項)。 Ⅲ 費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更 1 会計処理 ストック・オプションについて、対象勤務期間の延長又は短縮に結びつく勤務条件の変更等により、費用の合理的な計上期間を変動させた場合には、当該条件変更前の残存期間に計上すると見込んでいた金額を、以後、合理的な方法に基づいて、新たな残存期間にわたって費用計上する(ストック・オプション会計基準12項)。 2 考え方 条件変更の結果、当該ストック・オプションと対価関係にある対象勤務期間が変動する場合には、厳密にいえば、条件変更の前後で報酬としての同一性を失い、別の報酬に置き換わると理解することもできる(ストック・オプションが「どのサービスに対する対価として用いられているのか」ということ。財務会計基準機構監修、企業会計基準委員会編『企業会計基準完全詳解 改訂増補版』(税務経理協会、平成21年8月)187ページ)。 しかしながら、行使価格の引下げ等にあわせて、対象勤務期間の延長に結びつく勤務条件の変更が行われることもあり得るため、当初の対象勤務期間が延長又は短縮された場合には、条件変更の問題として取り扱うこととされた(ストック・オプション会計基準58項)。 Ⅳ 複合的な条件変更 前回と今回では、①公正な評価単価を変動させる条件変更、②ストック・オプション数を変動させる条件変更、③費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更について述べてきた。 これらの条件変更は、相互に排他的なものではなく、例えば、ストック・オプション数を変動させる勤務条件の変更は、通常、対象勤務期間の変更を伴い、合理的な費用の計上期間をも変動させる場合がある。また、勤務条件の変更は、権利確定日の変更を伴い、権利行使期間の開始日と一致することの多い権利確定日が変更されれば、ストック・オプションの公正な評価単価を算定する上での変数の1つである、ストック・オプションの予想残存期間に影響を及ぼす可能性がある。さらに、行使価格の引下げと同時に、対象勤務期間の延長が行われるなど、複数の条件変更が同時に行われることもあり得る。 このような、複合的な条件変更の場合にも、その会計処理は、それぞれの要素に分解して行うことになる(ストック・オプション会計基準59項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第131回】 金融商品会計⑭ 「任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵 日本公認会計士協会準会員 素村 康一 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 〔X1年4月1日 出資時〕 〔X2年3月31日 決算日〕 (*1) 純損益△100×出資割合10%=△10 〔X3年3月31日 決算日〕 (*2) 純損益200×出資割合10%=20 〈会計処理の解説〉 任意組合、匿名組合、パートナーシップ、及びリミテッド・パートナーシップ等(以下、「組合等」)への出資(商品ファンドへの投資を除く)については、以下の方法により会計処理されます(実務指針132項、308項)。 (注1) 金融商品取引法第2条第2項により有価証券とみなされるものについては有価証券として計上(実務指針132項) (注2) 任意組合、パートナーシップに関し有限責任の特約がある場合にはその範囲で損益を認識(実務指針132項) なお、組合等の財産について、その構成資産が金融資産に該当する場合には「金融商品に関する会計基準」に従って評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とします。例えば、組合の保有するその他有価証券の評価差額金に対する持分相当額は、その他有価証券評価差額金に計上されることになります(実務指針132項)。 任意組合、パートナーシップについては、法律上その財産は組合員又はパートナーの共有とされていることを考慮して、組合等の財産及び損益を総額で取り込む方法(上表の②の方法)で処理する実務もみられます。 しかし、出資者が単なる資金運用として考えている場合、又は有限責任の特約が付いている場合など、多くの場合には匿名組合、リミテッド・パートナーシップと同様に貸借対照表及び損益計算書双方について持分相当額を純額で取り込む方法が適切と考えられることから、純額で取り込む方法(上表の①の方法)が原則とされています。 また、状況によっては、貸借対照表について持分相当額を純額で、損益計算書については損益項目の持分相当額を計上する方法(上表の③の方法)も認められています。 匿名組合及びリミテッド・パートナーシップについても、原則としてそれらの財産及び損益を純額で取り込む方法(上表の①の方法)により処理しますが、それらが実質的に匿名組合出資者等の計算で営業されている場合もあり得るため、貸借対照表及び損益計算書双方について持分相当額を純額で取り込む方法は妥当でないことも想定されるので、そのような場合には純額で取り込む方法以外の方法(上表の②又は③の方法)により処理することも考えられます。 このような多様な実情を踏まえ、組合等への出資(有価証券とみなされるものを含みます)については、貸借対照表及び損益計算書双方について持分相当額を純額で取り込む方法を原則としつつ、その契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理を選択することになります(実務指針308項)。 (了)
[平成29年1月1日施行] 改正育児介護休業法のポイントと実務対応 【第4回】 「育児休業等に関するハラスメントの防止措置」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 今回は改正ポイントの最後として、新たに義務化されている「育児休業等に関するハラスメントの防止措置」の内容を確認していきたい。 改正前も、育児休業等の申出や利用を理由として解雇や雇止め等の不利益な取扱いをすることは禁止されていたが、今回新たに義務として追加されたのは、職場において、育児休業や介護休業等の制度の申出や利用に関する上司や同僚の言動により労働者の就業環境が害されることがないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する等の必要な措置を講ずることとなる。 1 定義等 (1) 職場 職場とは、業務を遂行する場所を指し、事業所内だけでなく、出張先や取引先との打ち合わせ場所等の事業所外も含まれる。また、勤務時間中だけでなく、勤務時間外の飲み会等の場であっても、実質的に職務の延長と考えられるものは職場に当たる。 (2) 労働者 労働者とは、いわゆる正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員等の正社員以外の者も含む雇用関係にあるすべての者を指す。 また、派遣先事業主は労働者派遣法に基づき派遣労働者を雇用する事業主とみなして必要な措置を講ずることが求められるため、派遣労働者も対象に含めて考える必要がある。 (3) 典型的な例 育児休業や介護休業等の制度の申出や利用に関する上司や同僚の言動により労働者の就業環境が害されるものの典型的な例として、以下のものが「子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(以下「指針」)で示されている。 ① 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの 労働者が、制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の申出等をしたこと又は制度等の利用をしたことにより、上司が当該労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること ② 制度等の利用の申出等又は制度等の利用を阻害するもの 労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等をしないよう言うこと 労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等を取り下げるよう言うこと 労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等をしないよう言うこと(当該労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、さらに言うことを含む) 労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等を撤回又は取下げをするよう言うこと(当該労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、さらに言うことを含む) ※ 単に言動があるのみでは該当せず、客観的にみて、一般的な労働者であれば、制度等の利用をあきらめざるを得ない状況になるような言動を指す。 ※ 上司の言動は一回でも該当すると考えられるが、同僚の言動は繰り返し又は継続的なもの(意に反することを明示しているにもかかわらず、さらに行われる言動を含む)が該当する。 ③ 制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの 労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることをいう)をすること(当該労働者がその意に反することを当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず、さらに言うことを含む) ※ 単に言動があるのみでは該当せず、客観的にみて、一般的な労働者であれば、「能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなもの」を指す。 ※ 上司と同僚のいずれの場合であっても繰り返し又は継続的なもの(意に反すること明示しているにもかかわらず、さらに行われる言動を含む)が該当する。 2 講ずべき措置 講ずべき措置については指針に従った対応が求められるが、指針では次の5つが示されている。 (1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 (2) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 (3) 職場における育児休業等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応 (4) 職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置 (5) その他(1)から(4)までの措置とあわせて講ずべき措置 (1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 育児休業等に関するハラスメントに対する方針を明確にし、これを従業員に周知・啓発することが必要となる。 育児休業等に関するハラスメントとはどういうものか、その発生原因や背景(育児休業等に関する否定的な言動等がハラスメントの発生の原因や背景等になり得ることがあること等)、育児休業等に関するハラスメントは許さない旨の方針、育児や介護に関する各種制度の利用ができる旨等を盛り込んだ方針等を周知・啓発する。 また、育児休業等に関するハラスメントの行為者に対しては懲戒処分とする等の厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に明記し、こちらも従業員に周知・啓発する必要がある。 これら方針等を明確に伝えるため、研修等を行うことにより従業員の理解を深めていく対応も考えられる。 (2) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 相談窓口をあらかじめ定めておく必要がある。また、相談窓口の担当者が、従業員からの相談に対してその内容や状況に応じ適切に対応できるようにしておく必要がある。 相談があった場合の対応フローを策定したり、相談対応マニュアルを作成して準備しておくことが考えられる。 (3) 職場における育児休業等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応 従業員からの相談に、迅速に対応するため次の体制整備が必要となる。 (4) 職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置 育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、業務体制の整備等、会社や制度等の利用を行う従業員等の実情に応じ、必要な措置を講ずることが必要となる。 (5) その他 相談窓口の担当者に対して研修を行う等、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずる必要がある。また、相談しやすい体制とするため、相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を就業規則等で明記して従業員に周知・啓発することが必要となる。 * * * 以上、育児休業等に関するハラスメントの防止措置については、さまざまな検討が必要となり、会社の風土に合わせた対応が求められる。 次回からは、これまでみてきた改正ポイントを踏まえて、どのような対応が求められるのか考えていきたい。 (了)
預貯金債権の遺産分割をめぐる 最高裁平成28年12月19日決定についての考察 【第2回】 「本件決定以前の判例及び実務上の取扱い」 弁護士 阪本 敬幸 前回は、最高裁平成28年12月19日決定(以下、「本件決定」という)の概要について述べた。今回は、本件決定以前の預貯金債権の相続時の判例・実務上の取扱い等について述べる。 1 従来の預貯金債権の相続に関する判例について 預貯金債権の相続に関連する判例としては、まず、可分債権の当然分割を判示した最判昭和29年4月8日(以下、「昭和29年最判」という)が挙げられる。 昭和29年最判は、 と述べたが、事案の内容としては不法行為に基づく損害賠償請求権が相続された場合に関する判例であり、預貯金債権の相続に関して述べたものではない。 しかし、預貯金債権も可分債権であると考えられたことから、その後の下級審においても、相続財産に預貯金債権が含まれる場合、預貯金債権は相続により当然分割され、遺産分割を経なくても各相続人が預貯金債権を単独で行使できるとするものが大勢を占めることとなった。 なお最高裁は、預貯金債権以外の可分債権については、繰り返し、相続により当然分割される旨を述べてきた。 こうした流れの中で、最判平成16年4月20日(以下、「平成16年最判」という)は、共同相続人の1人が相続財産である預貯金債権を解約して払い戻しを受けたという事案において、 とした上、①預貯金債権が可分債権であること、②それ故預貯金債権は相続と同時に当然分割され、分割単独債権となること、を前提とした判断を行った。 昭和29年最判・平成16年最判から、預貯金債権が相続と同時に当然分割されることは、判例上確立したものと考えられた。 2 実務上の取扱いについて (1) 裁判実務上の取扱い 上記のように、預貯金債権も相続と同時に当然分割されるとするのが最高裁の確立した見解であると考えられた結果、家裁実務の大勢は、預貯金債権は当然分割されるのが原則であり、相続人間において預貯金債権を遺産分割の対象とすることについて合意された場合に限り、審判対象とするという取扱いが取られてきた。 ただし、少数ではあるが、相続人間の公平・共同相続人間の調整等を理由に、預貯金債権を遺産分割の対象とした審判例も存在する。 (2) 金融実務上の取扱い 裁判実務上の取扱いとは異なり、金融実務上は、預貯金債権の当然分割を前提とした払い戻しには応じない金融機関が多数存在した(「銀行法務21」(687号)のアンケートでは、相続時の預貯金一部払い戻しには応じず、相続人全員の署名をもらってから払い戻しを行うとする金融機関が73%と多数を占めていた)。 これは、金融機関においては、法定相続分は戸籍等から確認できるものの、特別受益等を考慮した具体的相続分について確認することは困難であり、預貯金の一部払い戻しに応じた場合に、後で他の相続人から二重に払戻請求を受けるなど、紛争に巻き込まれる可能性があったためと考えられる。 金融機関が預貯金の払い戻しに応じない場合、払い戻しを請求した相続人としては、金融機関を被告として訴訟提起し、金融機関も判決により支払いを命じられた場合には払い戻しに応じるというようなことも頻繁に見られた。 もっとも、近時は、当然分割を前提にした払い戻しに応じる金融機関が増加傾向にあったのではないかと思われる。あるいは、預貯金の額が多額ではないとか、他の相続人との関係等を考慮して、払い戻しに応じるかを判断していた金融機関も多かったのではないかと思料する。 (3) 裁判実務に対する批判及び平成16年最判以降の動き 上記の通り、裁判実務上は、預貯金債権は原則として遺産分割の対象とはならないとされてきたが、これを批判する学説も多かった。 理由としては、預貯金が当然分割されるとすると、多額の生前贈与を受けており具体的相続分がゼロとなるべき相続人でも預貯金については取得できることとなり相続人間の実質的公平が害されるとするものや、預貯金には遺産分割の調整としての機能があること、金融機関の負担等が挙げられる。 また、一般的な相続案件においては「主要な相続財産は預貯金・現金・有価証券・不動産である」というものが多数であろうが、このうち、預貯金のみが当然分割とされるというのは違和感があることも否定できない。 最高裁も、平成16年最判以降、遺産分割の対象とすべき遺産の範囲を拡大する姿勢を示しており、郵政公社時代の定額郵便貯金債権について、法律上、定額郵便貯金は分割払戻が許されないとされていること等を理由として、当然分割とはならないとする判断(最判平成22年10月8日)、投資信託について、可分給付を目的とする権利ではないことなどを理由として当然分割を否定した判断、国債について、法律上一単位未満に分割された権利行使が予定されていないことを理由として当然分割を否定した判断(いずれも最判平成26年2月25日)がなされている。 定額郵便貯金・投資信託・国債等は、いずれも可分債権であり当然分割されると考えるのが素直と考えられ、これらの判決の中では、最高裁は価値判断的な理由を述べることはなかったが、当然分割を貫くことによる不都合性といった価値判断に基づき、上記のような判断となったものと思われる。 こうした流れの中で、「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」(以下、「中間試案」という)において、「預貯金債権等の可分債権を遺産分割の対象に含めるものとする」とする見直しが提示されていた。中間試案においては、遺産分割がされるまでの間も原則として各相続人の権利行使を認める案(甲案)と、遺産分割がされるまでの間は原則として各相続人の権利行使を禁止する案(乙案)の2案が提示されている(中間試案p6)。 中間試案については法務省・法制審議会-民法(相続関係)部会においてパブリックコメントの結果を踏まえ内容の検討が継続審議されているところであるが、本件決定を受けて、今後の民法改正において、預貯金債権が遺産分割の対象とされることは確実な流れになったと考えられる。 * * * 次回は、本件決定における双方の主張・補足意見等、本件決定の内容をより詳細に確認した上、本件決定を踏まえた今後の対応について論じる。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第2回】 「既に認知症を発症している場合の対応」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問02] 共に90歳になる私の父と母についての相談です。 (1) 母について 母は、3年前から認知症と診断され、介護施設に入りながら投薬治療を受けています。 現在は、簡単な問いかけに「はい」「いいえ」程度を答えるといった最低限の会話しかできず、寝たきりの状態です。面会に行った際も、娘である私のことはかろうじてわかるようですが、孫たちや夫のことは理解できません。 (2) 父について 他方、私の一家と同居している父は、母と比べればまだだいぶしっかりしています。 ただ、昨年あたりから時間帯によって心身の状態に波が見られ、朝からお昼過ぎくらいまではぼーっとした状態が続いて会話もうまくいかず、着替えも一人ではできません。しかし、夕方近くなってくると、だいぶシャキッとした状態になり、家族と世間話もできるようになるという状態が続いています。医師の診断を受けたところ、やはり認知症と診断されました。 今回、父も介護施設に入所することになり、入所のための保証金や今後の施設利用料の支払いに充てるため、まとまったお金が必要となりました。 費用を工面するために、母と父がそれぞれ所有している複数の不動産を売却したいと考えています。付き合いのある不動産業者に相談したところ、 と助言を受けました。 お金を工面するため、このまま売却手続を進めてもらうということでよろしいでしょうか。 1 判断能力について ある人の判断能力が問題となったときに、これが「ある」か「ないか」が択一的に判定されるものではないこと、そして、問題となる行為や契約といった場面毎に、個別にその有無が判断される必要があることは、〔解説編〕【第3回】で詳しく説明したとおりである。 したがって、[設問02]における父と母に関しても、 という問題意識の持ち方は不正確であり、 という問題の捉え方が正しいことになる。 2 母に関する対応方法 (1) 不動産の売却について [設問02]での母は、既に認知症と診断されており、投薬治療も受けている。 ただ、前述のように、判断能力の有無は個別具体的に判断されるものであるから、認知症に罹患しているというだけで、即、判断能力を有しないものと判定されるわけではない。 もっとも、母の現在の状態に照らせば、本人が認知能力をどこまで維持しているかは極めて疑問であって、売買契約を締結するといった場合に、その意味内容を理解し、自己の意思を表示することは極めて困難と思われる。 そこで、父母の介護費用の捻出のために不動産売却がどうしても必要であるとの事情があるならば、相談者が親族として家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをし、母に成年後見人を付けてもらった上で売却するということが必要となる。 ただし、売却する不動産が居住用の不動産であった場合、つまりは、①被後見人が現に居住している、もしくは居住する予定がある不動産を売却する場合や、②現在は入院中で、この先退院した場合に居住する予定の不動産を売却するといった場合には、売却にあたり家庭裁判所の許可が必要となる。 成年後見人による売却といえども、裁判所の許可を得ていなかった場合には、契約は無効である。 (2) 相談を受けた場合の対応 なお、筆者も本問のように、家族による署名の代筆等により売買契約を締結することはできないかといった相談を受けることはたびたびある。 実際上、売買の際の仲介業者のコンプライアンス意識が高くなく、買主も特に異議を述べないといった場合には、実際上、このような形式で売買契約を締結してしまう例は少なからず存在すると思われる。 しかし、母には判断能力が認められない以上、契約は法律上無効であり、後日、買主からの転得者の元に所有権が移転していた場合でも、当初の売買契約が初めから無効だとして契約の効力が否定される(〔解説編〕【第3回】参照)。 よって、上記のような契約方法の是非につき税理士が相談を受けた場合には、これに積極的なゴーサインを出してはならない。 もし万一、契約当時に売主の判断能力が無かったことが後日に表面化し、裁判等に発展した場合には、契約締結に対して積極的なアドバイスをした税理士も巻き込まれる恐れが無いわけではないからである。 [設問02]での模範的なの回答としては、多少杓子定規であり、相談者は不満かもしれないが、前記(1)で説明したような原則的説明を回答すべきであろう。 3 父に関する対応方法 [設問02]における父の状態は、いわゆる「まだらぼけ」の状態の一つと言える。 このような症状は、認知症の原因疾患別のタイプでいえば「レビー小体型認知症(DLB)」の場合に顕著といえ、男性にやや多いと言われている(他のタイプを含めた説明については〔解説編〕【第2回】参照)。 父の午前中の様子を見ていると、母の場合と同様、売買契約の意味内容を理解できるかは疑わしく、判断能力があるかどうかは相当問題となりそうである。 そうなると、素直に考えれば、設問の母の場合と同様、父にも成年後見人を付け、この者が売買契約を締結することが必要となりそうである。 しかし、この場合に、成年後見人を付ける他に方法はないのであろうか。 本問で重要なことは、父の心身の状態として、夕方以降の遅い時間帯は比較的良好であるということである。 つまり、この時間帯であれば、身の回りのことに対する理解力も相応に回復し、他者とのコミュニケーションを取ることも一定程度可能な状態にある。 この点、前述のように、判断能力はあくまでも個別具体的に判断され、契約締結時に備わっていれば足りるのである。 仮にそれ以外の時に判断能力の減弱を疑わせるような事情が存在した場合であっても、そのことだけでは判断能力の存在が否定されることにはならない。 よって、父の判断能力が回復する夕方の時間帯に、売買契約の内容を丁寧に説明し、本人の了解を得た上で、本人が氏名を自署できるようであればそうしてもらい、難しければ家族が代筆する形で契約書への署名捺印を行うことが考えられる(この場合、代筆者の氏名も書き添えておいた方が良いであろう)。 加えて、後日の不測の事態に備えて、「契約書に署名捺印した当時に判断能力を有していたこと」の証拠を確保しておくべく、以下のように工夫することが考えられる。 4 事前対策の必要性と有効性 以上のように、いざ認知症の症状が出始めて以降に財産の処分を行おうと考えると、大小様々なハードルが出現することにもなる。 そのため、あくまでベストであるのは、本連載でも何度も言及しているように、認知症の症状が出始める前に、早期の対策として財産管理のあり方や具体的方法につき事前に検討し、準備しておくということである。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔法務面のアドバイス〕 【第3回】 「被災による取引関係の法律問題」 弁護士 岨中 良太 1 賃貸借契約 (1) 賃借していた建物の被災 前回述べたとおり、賃借していた建物が災害によって被害を受けた場合、賃貸人との賃貸借契約が終了するか否かは、当該建物が「滅失」したか否かによって決まる。 (2) 建物が滅失し賃貸借契約が終了する場合 災害によって建物が滅失し、賃貸借契約が終了する場合には、賃借人は賃貸人に対して敷金の返還を請求することができる。敷金返還請求権は、本来であれば賃借人が賃貸人に目的物を返還した時に発生すると解されているが、建物が滅失した場合には目的物の返還そのものが観念できないからである。 (3) 建物が滅失せず賃貸借契約が終了しない場合 前回述べたとおり、賃貸人は、賃貸目的物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(民法601条1項)ことから、賃借人は賃貸人に対して、建物の修繕を請求することになる。 この場合に、賃貸人が修繕義務を負うにもかかわらず修繕を行おうとせず、賃借人の業務に支障が生じた場合、賃借人は賃貸人に対し、①債務不履行責任に基づく損害賠償請求をすることができる。 また、②使用収益が妨げられた割合に応じて賃料の一部の支払いを拒み、あるいは賃料減額請求をすることも可能であるが、減額割合に関する紛争をできるだけ避けるため、賃貸人との事前の協議は行った方が望ましい。 さらに、③賃借人自ら賃貸目的物を修繕し、その修繕費用を賃貸人に請求することも可能であるが、修繕の範囲を超えて増改築となってしまうと賃貸人から無断増改築を理由に契約解除を主張される場合もあることから、やはり賃貸人との事前の協議は行った方が望ましい。 2 災害によって企業が取引先に対して負う債務を履行できなくなった場合 取引先との契約に従った債務の履行ができなくなった場合(履行不能)、期日を過ぎて履行した場合(履行遅滞)、完全な履行ができなかった場合(不完全履行)には、いずれも債務不履行責任(民法415条)が問題となり、企業が取引先に対して損害賠償責任を負う可能性がある。 この点、不可抗力によって債務を履行できなくなった場合には、債務不履行責任が成立するための要件の一つである「債務者の帰責性」を満たさず、責任を負わない場合があるが、災害が原因であれば全て不可抗力になるわけではない。 債務の内容や債務不履行の態様など、事案ごとに個別に不可抗力といえるかどうかの認定が行われることになる。 3 災害によって取引先が債務を履行することができなくなった場合 逆に、不可抗力といえる災害によって取引先が商品の引渡等の債務を履行することができなくなった場合に、企業は商品の代金を支払う義務を負うかについては、危険負担が問題となる。 民法上の原則では、一方の債務の履行が不能となった場合には、反対債務も消滅するとされている(民法536条1項)。この場合には、企業は商品の代金を支払う義務を負わない。 例外として、①契約の目的物が特定物(中古品や土地のようにその物の個性に着目したもの)の場合(民法534条1項)、②契約の目的物が種類物(不特定物)(同じ種類の物のように代替性のあるもの)であっても一定数量が選び出されて「特定」している場合(同2項)には、一方の債務の履行が不能となっても反対債務も消滅しない。この場合には、企業は商品の代金を支払う義務を負うことになる。 もっとも、民法上の危険負担の定めは当事者間の特約で変更することができるため、実際には民法と異なる約定をしている場合も多い。 (了)
顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第3回】 「こんな第一印象では税理士としての品格を下げてしまいますよ!」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 皆さん、こんにちは。坪田まり子です。 初回では『お客様は自分の力でつかみとれ!』、2回目では『税理士もサービス業であることを心得て!』など、いずれも強気の発言をしましたので、もしかして読者の皆さんの中には、すでにめげ始めている方、いらっしゃいませんでしょうか。 面談がちょっと苦手な方にとって、この2つはいずれも対人関係能力とコミュニケーション能力に深く絡んできますので、気分的にかなり重たいことだとお察しいたします。 でも、めげる必要はまったくありません。 大丈夫。この重みを乗り越えるための戦略を、これから立てていけばいいのですから。 勇気を出して。今回も一歩、前進していただきますよ。 さあ、はじめましょう! ◆ ◆ ◆ 前回に引き続き、今回も皆さんがよくご存じの税理士法の条文から見ていきます。前回触れたのは税理士法第1条でしたが、私がもう一つ気になったのは、税理士法第37条です。 ここでも皆さんにとってお客様との面談がいかに大切であるかが、関係していると考えたからです。 税理士法第37条では と定められています。 下線を入れている『品位』とは、皆さんの接客・面談中の言動からも、良くも悪くも評価されるものですし、もう一つの『信用』こそ、その延長線上にあるものではないかと考えました。 誤解のないよう申し添えておきますが、前回ご紹介した第1条もこの第37条も、このような解釈ではないということは充分承知の上で、あえて面談術の重要性をお伝えしたい私の視点からとらえたものです。 税理士の皆さんだけでなく、すべての士業者の置かれている現状が成熟社会を迎えているからこそ、ただ依頼者の“期待に応えるだけ”では不充分で、依頼者の“期待を超える”サービスが求められているのです。 そのサービスをお客様に提供する段階で、一番大切なシーンが『第一印象』時です。 今回はこの第一印象がいかにモノをいうか、ということについてお話します。 第一印象には、次のように3つのポイントがあります。 ① 短時間で決まる ② 一度持たれた印象は変えにくい ③ マイナス面をプラスに変える効果がある ①の短時間説には、3秒説、5秒説、15秒説から30秒説までいろいろありますが、私は3秒よりもっと短い、『超瞬間』ではないかと考えています。 場面で解説すると、先に会議室に入っているお客様が、遅れて入室してきた皆さんの姿を見た瞬間、ということになります。 皆さんのお仕事は、一般の営業職のように飛び込み営業で仕事をとることは少ないと思われます。飛び込みではなく、誰かの紹介や講演したことなどがきっかけで、顧客予備軍と出会うことができるはずです。 前者である誰かの紹介でお客様と会う場合には、すでにそのお客様の心の中には、「田中さんのご紹介の税理士さんだから、きっと素晴らしい方に違いない」といった期待感があることでしょう。なぜならば、紹介者は皆さんのことを誰かに紹介するときに、「報酬は高いし、人の話もよく聞かないし、おまけに数字もしょっちゅう間違えて、何度、修正申告をさせられたか。最悪な先生だから、あなたに紹介するよ」とは言わないはずだからです。 紹介する以上、田中さんは、「誠実で人の話をよく聞いてくださる立派な先生がいらっしゃるんだよ。お若いけれど、適任者だと思うから、よければ一度訪ねて相談してみるといいよ」などと皆さんのことを褒めた上で、紹介してくれるはずです。 そんなふうに紹介されたお客様の心には“素晴らしい先生に違いない”という期待感しかありませんから、最初に見た皆さんのお姿が、目の光もなく、全体的にだらしなくて頼りない印象の税理士さんの姿では、一瞬でがっかりされてしまうはずです。 短時間とは、『お客様の視点に皆さんが入った瞬間』と心得ましょう。 次に、②の「一度持たれた印象は変えにくい」というのは、期待していた分、がっかりしたその気持ちの方が強く、目の前にいる皆さんの最悪の姿が、本当の姿だと思われてしまうということです。 一度そのような印象を持たれてしまうと、「実は誠実、そして堅実で爽やかな方であった」と見方を改めていただくまで、どれほど時間がかかることでしょう・・・ これでは早期に本格的な依頼につながることは見込めません。 期待感が大きいほど、がっかり感も大きい、ということです。 そして③の「マイナス面をプラスに変える効果がある」という点は、第一印象が良い場合には、多少のミスがあったとしても(事の重大さによりますが)、相手は悪くは取らないはず、というものです。 「お互いに人間だからこそ、失敗することもあるさ」と、寛大に見てくれることが多いといわれています。 ◆ ◆ ◆ いかがでしょうか、皆さん。 第一印象が良いだけで多くの得をすることは、これでご理解いただけたはずです。 ここで、私が清文社様から出版した『士業者が身につけたい顧客をつかむ面談術』から、「これではいけない」という具体例を挙げておきます。 拙著の中では、面談の場でのあれこれとして、「話し方や聞き方に対して気になること」「言葉以外で気になること」の両方からご紹介していますが、ここでは第一印象に絡む「士業者の言葉以外で気になること」だけを列記してみます。 これらは士業者である皆さんに特有のことばかりではないと思います。一般の人の中にもこのような無意識な悪い癖を持っている人はたくさんいます。しかしながら、皆さんの税理士というお仕事は、お客様があって初めて成り立つものです。どんなに税理士としての高い能力を備えていたとしても、その皆さんの腕を役立たせることができる相手がいなければ、ただの自己満足でしかありません。 皆さんの中に、この中に一つでも思い当たる節があれば、さっそく意識をして、第一印象を改善なさることをお勧めします。 皆さんの仕事が良いかどうかを決めるのは、皆さんご自身ではなく、お客様です。 仕事がとれるかどうかは、お客様がじっくりと「この税理士の先生の助言が、自分や当社にとって有益がどうか」を判断した結果にあります。 仕事の実が良いかどうかを図るのは、皆さんのように税務の専門家ではない相手にとっては難しいことです。ですからお客様方は、目に見える皆さんから受ける印象の良し悪しで判断することもあるのです。 さっそく今日から、お客様が面談に入る前には必ず鏡を見る癖をつけてみませんか? 「かっこいいなあ、俺の顔」や「きれいだわ、私の顔」と自己満足状態で見るのではなく、 この鏡に映っている税理士を見て、今日のお客様は仕事を任せたいと思ってくれるだろうか? と、客観的に自分の全体の姿を見る癖をつけてくださいね。 * * * 次回は「面談の苦手意識を克服するためにこそビジネスマナーが活用できる!」というお話をしたいと思います。 自分の第一印象を客観的に振り返るためにも大切な観点です。 次回もどうぞお楽しみに。 (続く)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第17話】 「机上調査」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「あの・・・田中統括官・・・この相続税の申告・・・どのように処理しましょうか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「どのように?」 田中統括官は、机の側に立っている谷垣調査官を見上げた。 谷垣調査官は、右手に相続税の申告書を持っている。 「今・・・この相続税の申告書をチェックしていたのですが・・・小さい額ですが何箇所か誤りと思われるところがありまして・・・しかし、わざわざ納税者の自宅まで臨場して調べる必要もないのですが・・・」 谷垣調査官は、歯切れの悪い言い方をする。 「そうか・・・相続税の課税ベースの拡大で相続税の申告ケースが増加しているから・・・局からも効率的な税務調査を行えとの指示があるしな・・・」 そう言いながら、田中統括官は、谷垣調査官から渡された相続税の申告書をめくって見た後、机に置いた。置かれた申告書のそばには、国税庁の公表している「平成27年分の相続税の申告状況について」と題する資料がある。 田中統括官はその資料を手に取る。 「・・・この相続税の申告実績の資料をみると、課税割合が、平成26年分は4.4%だったのが、平成27年分には8.0%になっている・・・」 谷垣調査官は、田中統括官の説明を聞きながら、資料を覗き込んだ。 「相続税の課税割合が倍近くになったんですね・・・この数字って・・・すごいですね。」 谷垣調査官は少し興奮した口調で言う。 「確かにうちの税務署でも、最近、相続税の申告書の提出数は増加していると感じるな・・・」 田中統括官は谷垣調査官の顔を見た。 「・・・ところで、この相続税の申告書のどこが誤っているの?」 田中統括官は、机の上に置かれている相続税の申告書を指さして尋ねた。 「ええ・・・」と言いながら、谷垣調査官は、相続税の申告書を開く。 「この生命保険金なんですが・・・」 谷垣調査官は、申告書の第9表(生命保険金などの明細書)の「相続や遺贈によって取得したものとみなされる保険金など」の欄に書かれている金額を指した。 「これって、生命保険金ではなく、生命保険契約に関する権利だと思います。もしそうであれば、この保険金の非課税限度額の中に入れることはできません・・・」 第9表の明細書の「受取金額」欄には、845,876円と書かれている。 「それに・・・この土地の評価にも誤りがたくさんあって・・・」 谷垣調査官は申告書をめくって、土地の評価明細書を開く。 「・・・この土地の評価について、特定路線価をわざわざ側方加算しているのですが・・・加算する必要はありません。」 田中統括官は黙って谷垣調査官の説明を聞いている。 「それに・・・個人間の使用貸借と思われる土地について貸宅地の評価をしているようで・・・借地権の有無について聞かなければならないのです・・・」 そう言うと谷垣調査官は、田中統括官の顔を見た。 「・・・よし、わかった・・・とりあえず税理士に税務署に来てもらって、君の指摘した申告書の疑問点について説明を聞こう。」 田中統括官は谷垣調査官に諭すように言う。 「この場合、税務調査であることを税理士に告げるんですよね。」 谷垣調査官が確認する。 「もちろんそうだ・・・そして、この事案は机上調査で処理する。・・・ただし、税理士に質問して、回答が十分でなく、もっと調査をしなければならないと判断したら、実地調査に切り替える・・・新基準に基づいて・・・」 田中統括官が谷垣調査官に言う。 「あの・・・その新基準のことですが・・・具体的に、どのようにするのですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 田中統括官は机の上で、簡単に図を描いた。 図を描き終えると、田中統括官は谷垣調査官を見て言った。 「相続税の税務調査は・・・新基準に従って判定し、次のように4つに区分することになっている。そして、実調には、納税者のところに行って調査をする『実地調査』と、納税者に税務署に来てもらって調査をする『机上調査』がある。・・・君の事案は、机上調査で処理することになるな。」 田中統括官の言葉に、谷垣調査官は頷く。 「・・・この机上調査というのは、一種の簡易調査みたいなものですね。」 「そのようなものだな・・・とりあえず、申告書を作成した税理士に来てもらって、この申告書の疑問点を明らかにしよう。それで、もし是正事項があれば、納税者に修正申告をしてもらうという手順だ・・・簡単だろう?」 田中統括官はニヤリと笑って、相続税の申告書を谷垣調査官に渡す。 「わかりました。これから税理士に電話します。」 谷垣調査官は納得した表情でそう言うと、自分の席に戻った。 (つづく)
《速報解説》 「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)が公表 ~一定の事業規模以上の社会福祉法人への会計監査義務に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月30日、日本公認会計士協会は、「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成28年3月の社会福祉法の改正により、一定規模を超える社会福祉法人について会計監査人による監査が義務付けられたことに対応するものである。 意見募集期間は平成29年3月2日までである。 なお、平成29年1月27日に日本公認会計士協会は「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表しているが、こちらについては別稿にて解説することとする。 上記のほか、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものとして、平成29年1月25日、日本公認会計士協会は、「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号)も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 対象となる社会福祉法人 平成29年4月1日に社会福祉法が改正・施行され、経営組織のガバナンスの強化、経営の透明性の確保、財務規律の向上等を目的とする社会福祉法人制度改革の一環として、平成29年4月1日に開始する会計年度から会計監査人制度が導入されることとなり、さらに、事業の規模が一定の基準を超える社会福祉法人に対しては会計監査人の設置が義務付けられることとなるとともに、今後段階的な当該基準の改定により、会計監査人の設置を義務付ける社会福祉法人の対象を拡大することが予定されている(公開草案4項)。 会計監査人設置社会福祉法人とは、定款の定めによって会計監査人を置く法人(社会福祉法36条2項)及び「事業の規模が政令で定める基準」を超えることにより会計監査人を置かなければならない社会福祉法人(社会福祉法37条)をいう(公開草案11項)。 「事業の規模が政令で定める基準」とは、前年度決算において収益(最終会計年度に係る経常的な収益の額として法人単位事業活動計算書のサービス活動収益計の項目に計上した額)30億円又は負債(最終会計年度に係る法人単位貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額)60億円を超える法人(社会福祉法施行令13条の3第1号及び第2号、社会福祉法施行規則2条の6)である。 2 適用する会計基準 社会福祉法人の会計は、厚生労働省令で定める基準に従い、会計処理を行わなければならない(社会福祉法45条の23)。 「厚生労働省令で定める基準」として、「社会福祉法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第79号(最終改正 平成28年11月11日))が定められている。 社会福祉法人は、社会福祉法人会計基準で定めるもののほか、一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行を斟酌しなければならないとされており、「一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行」の中には「運用上の取り扱い」や「運用上の留意事項」が含まれるものと解されている(公開草案7項。「運用上の取り扱い」及び「運用上の留意事項」については公開草案6項(5)(6)を参照)。 社会福祉法人会計基準に規定する計算書類は、一般目的として受入可能であり、また、社会福祉法人会計基準は監基報200第12項(13)に規定する適正表示の枠組みの要件を満たしていると考えられるため、一般目的の財務報告の枠組みであり、適正表示の枠組みであると考えられている(公開草案9項)。 3 監査上の留意事項 公開草案の《Ⅲ 監査上の留意事項》において、法人単位の計算書類に対する意見表明に当たっての留意点などのほかに、組織管理体制並びに会計業務体制を始め関連する内部統制の整備・運用の改善に向けた助言、指導的機能の発揮についても述べられている。 4 独立監査人の監査報告書の文例 独立監査人の監査報告書の文例として、次のものが示されている(公開草案の付録1)。 公開草案では、《付録2 社会福祉法人における財務会計に関する内部統制の項目(例示)》も示されている。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成29年4月1日以後開始する会計年度に係る監査から適用する(公開草案32項)。 (了)
《速報解説》 「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)が公表 ~H29.4.2以降会計年度の監査義務へ対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月27日、日本公認会計士協会は、「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成27年9月の医療法の改正により、一定規模以上の医療法人及び社会医療法人について、平成29年4月2日以降開始する会計年度から公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられたことに対応するものである。 意見募集期間は平成29年2月28日までである。 なお、平成29年1月30日に日本公認会計士協会は「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表しているが、こちらについては別稿にて解説することとする。 上記のほか、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものとして、平成29年1月25日、日本公認会計士協会は、「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号)も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 対象となる医療法人 平成27年9月の医療法の改正により、医療法人の経営の透明性を高めることを目的として、一定の基準に該当する医療法人については公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられ、平成28年4月20日に公布された厚生労働省令第96号により、次の法人が監査の対象とされた。 ①及び②に該当する医療法人は、新たに平成29年4月2日以降開始する会計年度から、厚生労働省令で定めるところにより、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作成し、公認会計士等による監査を受けることとなる。 2 適用する会計基準 今回の医療法の改正に伴い、一定の基準に該当する医療法人に対しては、医療法第51条第2項の規定により作成する貸借対照表及び損益計算書の作成のための会計処理の方法として、次のものが公布・発出されている。 医療法人が作成する計算書類の財務報告の枠組みとしての、厚生労働省令により制定された医療法人会計基準及び運用指針は一般目的の財務報告の枠組みであり準拠性の枠組みであると考えられている(公開草案16項)。 なお、公認会計士等の監査報告書の内容として、医療法施行規則第33条の2の5において、「二 財産目録、貸借対照表、損益計算書が法令に準拠して作成されているかどうかについての意見」が求められており、法令上も準拠性の意見が求められている(公開草案17項)。 3 簡便的な会計処理を採用している場合の留意点 医療法人会計基準において、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満の医療法人は、簡便的な会計処理(所有権移転外ファイナンス・リース取引に関する賃貸借処理など)を採用することが容認されており、医療法人が簡便的な会計処理を採用しているかどうかは、計算書類の利用者が計算書類を理解する基礎として重要な項目であると考えられるとして、次の留意点を述べている(公開草案13項、19項~21項)。 4 独立監査人の監査報告書の文例 独立監査人の監査報告書の文例として、次のものが示されている(公開草案の付録)。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成29年4月2日以降に開始する会計年度に対して行われる監査から適用する(公開草案24項)。 (了)