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プロフェッションジャーナル No.180が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年8月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.180を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/08/04

monthly TAX views -No.43-「AI(人口知能)とBI(ベーシックインカム)」

monthly TAX views -No.43- 「AI(人口知能)とBI(ベーシックインカム)」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   安倍政権は、名目GDP600兆円の実現に向けた成長戦略(日本再興戦略2016)を打ち出しているが、その目玉は、AIを中核とした「第4次産業革命」である。閣議決定された戦略には、 という記述があり、第4次産業革命と中間層の崩壊について触れている。 AIの発達は、新たなビジネスチャンスを生み出すが、一方でわが国の経済・産業・就業構造に計り知れない影響を与える。 *  *  * 経済産業省の新産業構造部会の中間報告には、職業別の従業者数の変化が記されており、高度サービス業の充実による雇用者の増加の一方で、製造・調達で300万人弱、バックオフィスで143万人などの雇用の減少が予測されている。 筆者の興味は、このような変化が、どのような所得格差をもたらすかということである。 第4次産業革命に適切に対応していかなければ、乗り遅れた者とそうでない者との所得格差が拡大し、健全な思想の中核となる中間層の崩壊が起きかねない。上述の「成長戦略」の記述もそのことを物語っている。 これに対して一部の経済学者から、ベーシックインカム(最低保障制度、BI)のコンセプトが提唱され始めている。 BIというのは、人々が働くかどうかにかかわらず、国民全員に一定の所得を支給し、最低限の生活を保障する制度である。 AIがいくら効率よく生産しても、それを消費する(できる)者がいなければ経済は成り立たない。AIは消費主体ではないのである。そこで、AIの普及により持続的な経済成長が可能になれば、その成果を使って政府が国民生活の最低保証をすることができるので、BIを行うことにより消費を作り出し、経済が維持・発展できるようにしたいという考え方である。 これにより、人々はあくせく働くことから解放され、その分余暇や文化活動に振り向けることができるという、ユートピア思想の一種だ。 驚くのは、今回の参議院選挙で、生活の党など3党がBIの導入を公約に掲げていたことだ。 しかし、そこにたどり着くにはあまりにも乗り越えるべき課題が多い。 *  *  * まず、勤労をどう考えるかという問題である。BIは勤労を条件としないので、わが国のように、勤労を生きがいの一つとするという健全なモラルの国で受け入れられるのだろうか。 より現実的な問題は、BIのための財源をどうやって調達するのかという点である。現在のわが国税収である56兆円を1億2,000万人の国民全員に配ると、1人当たり50万円弱となる。BIのもとでは、社会保障はなくなるので、今の生活保護受給者は、これでおしまいとなる。 これでは暮らしていけないということになり、結局勤労により所得を得なければならないのだが、AIの発達した世界で、うまく職場が見つかるのだろうか。 ここでさらなる思考実験として、ヘリコプターマネーによる財源調達論が出てくる。これは、政府の決定の下で行われる返済不要の財政追加で、わが国でも一部でこれを主張する論者が出始めている。マイナス金利の先は、ヘリコプターマネーということである。 ここまでくると、何をかいわんやである。問題は、わが国経済はそこまで追い詰められているのであろうか。その現状認識こそ重要な気がする。 今真剣に考えるべきは、フルタイムで働いていても貧困層から抜け出せない人々にどう対応していくかということ、それが健全な世論を形成する中間層の崩壊を防ぐことにつながる。まずは勤労にインセンティブを与える給付付き税額控除(勤労税額控除)の制度を導入することから、地道に議論を始めることが必要である。 霞が関の縦割り社会の中で、このような制度の検討すら一歩も動かない現状こそ喫緊の問題だ。 (了)

#No. 180(掲載号)
#森信 茂樹
2016/08/04

贈与税の配偶者控除に係る添附書類の見直しについて~贈与契約書の作成及び名義変更登記を行わない場合の留意事項~

贈与税の配偶者控除に係る添附書類の見直しについて ~贈与契約書の作成及び名義変更登記を行わない場合の留意事項~   税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 角田 壮平   ▷改正の内容 平成28年度の税制改正において、贈与税の配偶者控除の適用を受ける場合の添附書類の1つである贈与を受けた者が取得した「居住用不動産に関する登記事項証明書」について、「その他の書類で当該贈与を受けた者が当該居住用不動産を取得したことを証するもの」が新たに追加された。 贈与税の配偶者控除の規定は、婚姻期間が20年以上の夫婦間において、専ら居住の用に供するための国内の居住用不動産の贈与が行われ又は居住用不動産の取得のための金銭の贈与が行われた場合には、贈与税の基礎控除額110万円とは別に最高で2,000万円の特別控除を受けることができる制度である(相法21の6)。 この特例の適用を受けるための手続きとして、一定の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要となっている。改正前の添付資料である登記事項証明書は、贈与による所有権移転登記がされたものであることまでは要求しておらず、所有権移転登記前の登記事項証明書が申告書に添付される事案が散見されていた。したがって、実際に居住用不動産の取得の事実が確認できない場合もあったようだ。 本改正において、居住用不動産を取得したことを証する書類に限定されたことから、贈与による取得の事実が判明できる所有権移転登記後の登記事項証明書や贈与契約書等の添付が今後は必要となる。 この改正に併せて、「特定贈与財産を贈与税の課税価格に算入する場合の記載事項」(相規1の5②二)や「信託財産である居住用不動産についての贈与税の配偶者控除の適用」(相基通21の6-9)の添附書類についても改正が行われているので留意が必要だ。 なお、この改正は、平成28年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る贈与税について適用が開始され、同日以前の贈与に係る取得については、なお従前の例によることとされている(H28改正相規附則2②)。   ▷「その他の書類で当該贈与を受けた者が当該居住用不動産を取得したことを証するもの」とは 新たに設けられた「その他の書類で当該贈与を受けた者が当該居住用不動産を取得したことを証するもの」とは、贈与契約書を想定しているようである。 この贈与契約書を作成する際には、登記事項証明書に代わるよう、贈与の事実が明確に証明できるように作成することが重要となるために、以下のような作成上のポイントが挙げられる。 なお、不動産に係る贈与契約書には、200円の印紙を貼付する必要がある。不動産をその同一性を保持させつつ他人に移転させることを内容とするものは、対価を受けるかどうかを問わず、第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)に該当する。 また、贈与は無償契約であるから、贈与契約書に土地の評価額が記載されていても、その評価額は不動産譲渡の対価としての金額ではないので、記載金額には該当しない。 また、夫婦間の取引であるため、贈与事実を主張するためには、公証役場において確定日付による証明を取っておくとなお良い。   ▷不動産取得税及び登録免許税に係る留意事項 登記事項証明書を添付する必要がなくなり、今まで以上に不動産の名義変更を行わないケースが増えると想定される。このことから、不動産の移転登記の際に課税されるべき不動産取得税や登録免許税の課税漏れが生じる可能性がある。 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の都道府県において、当該不動産の取得者に対して課税が行われるが、この「取得」には贈与も含まれる。そして、不動産取得税は、不動産登記の有無は直接関係せず、未登記であったとしてもその取得(贈与)に対して課税が行われることとなるのが本来の課税方式である。 しかし、所有権の登記が行われれば、登記簿上の所有者とされる者が実態上の真実の所有権の取得者と推定される(最高裁昭和34年1月8日判決昭和33年(オ)第214号)ことから、課税実務上においては、不動産登記を手掛かりとして不動産取得税の課税が行われている。 したがって、不動産取得税は、名義変更による所有権の移転登記が行われない場合には、その移転について課税主体である国や都道府県において、課税客体の補足ができないことがあるため、課税がされないことも想定される。 しかし、不動産取得税は、都道府県の条例によっては、不動産の取得者が取得の事実など条例に定める事項を申告又は報告しなければならず、正当な理由なくこれをしなかった場合には、10万円以下の過料を科される規定が設けられていることもあるので注意が必要だ(地法73の18、73の20)。 これに対し、登録免許税は、登記等について課税が行われ、登記等を受ける者は登録免許税を納める必要があるが、不動産取得税と同様に登録免許税についても、登記等を前提として課税が行われているため、未登記の場合には課税が行われないこととなる。   ▷その他の留意事項 配偶者からの居住用不動産の贈与について、所有権移転登記を行わないことによって、不動産の次の移転手続きが煩雑となるという二次的な問題が想定される。 例えば、贈与を受けた配偶者が、当該居住用不動産を売却する際には、原則として、登記上の所有者が売主となるため、一旦、受贈者である配偶者に所有権移転登記を行ったうえで、売却をする必要がある。 また、贈与を受けた配偶者が亡くなり、贈与時の所有権移転登記が行われていなかったときも、原則として、一旦、受贈者である配偶者に所有権移転登記を行ったうえで、相続人が相続登記を行う必要がある。 (了)

#No. 180(掲載号)
#角田 壮平
2016/08/04

金融・投資商品の税務Q&A 【Q6】「円建利付債券の償還時に生じた償還差損の取扱い」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q6】 「円建利付債券の償還時に生じた償還差損の取扱い」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 平成26年度税制改正による影響 税務上、公社債の償還差益に対する課税については、従前は原則として雑所得として総合課税の対象とされている一方、償還差損については家事上の損失としてないものとされていました。しかし、平成26年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、公社債の償還は譲渡と同様に取り扱われることとなりました。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、譲渡日が平成28年1月1日以後の場合は、改正後の税制が適用されます。   2 償還差損益の課税 (1) 償還差損益についての課税方法 平成28年1月1日以後、公社債の元本の償還(買入償還を含む)により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額(元本の価額の変動に基因するものを含む)は、公社債の譲渡に係る収入金額とみなされます。これについては、債券が特定公社債か一般公社債かを問わず、同じ取扱いとされます。 償還差益については、他の所得と区分し、上場・非上場の区分に応じ、株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。 償還差損の場合、上場・非上場の区分に応じ、株式等に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能ですが、株式等に係る譲渡所得等の計算上生じた損失については、生じなかったものとみなされます(すなわち、他の所得(例えば給与所得等)との損益通算を行うことはできません)。 ただし、特定公社債の償還差損については、上場株式等の譲渡損失として以下の特例の対象となります。 詳細については【Q2】を参照ください。 (2) 収入すべき時期 公社債の元本の償還については、以下の区分に応じそれぞれ次に掲げる日が、株式等に係る譲渡所得等の収入すべき時期とされます。   3 本件へのあてはめ おたずねの債券(特定公社債)の償還により支払を受ける金銭等については、公社債の譲渡による収入金額として取り扱われます。 したがって、2,000,000円が上場株式等に係る譲渡損失の金額として取り扱われ、申告分離課税の適用上、他の上場株式等に係る譲渡益との損益通算を行うことができます。 (了)

#No. 180(掲載号)
#箱田 晶子
2016/08/04

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第33回】「運送に関する契約書」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第33回】 「運送に関する契約書」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は運送業者です。下記の文書は顧客との間で、運転手付きの車両を提供し、従業員の送迎業務を行うことを約する契約書ですが、印紙税の取扱いはどうなりますか。   記載金額1,200万円の第1号の4文書(運送に関する契約書)に該当する。   [検討1] 賃貸借契約は不課税ではないのか 標題は賃貸借契約書とされているものの、乙の所有する車両を単に借用する内容ではなく、乙が運行業務を行うことを内容とするものであり、第1号の4文書(運送に関する契約書)に該当する。 [検討2] 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)には該当しないか 事例の運送契約書は、3ヶ月を超えた契約で、第7号文書の要件である営業者の間において運送に関する2以上の取引を継続して行うために作成される契約書で、2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち、単価(月額100万円)、契約金額の支払方法又は期日(月末締め切り翌月20日払い)を定めるものであり、第7号文書にも該当する。 [検討3] 第1号の4文書と第7号文書に該当した場合の所属の決定 一の契約書で課税物件表の複数の種類(この場合は第1号の4文書と第7号文書)に該当した場合、印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則3の規定により、いずれか一の課税文書として取り扱うこととされる。 第1号文書と第7号文書に該当した場合の通則3の規定を図示すると下記のとおりである。事例の場合、契約金額は月額100万円×12ヶ月=1,200万円と計算できることから、第1号の4文書に該当する。   ▷ まとめ   (了)

#No. 180(掲載号)
#山端 美德
2016/08/04

連結納税適用法人のための平成28年度税制改正 【第7回】「組織再編関連税制の見直し」

連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第7回】 「組織再編関連税制の見直し」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   [9] 適格現物出資の見直し 1 改正内容 平成28年4月1日より外国法人の事業所得に対する課税原則が帰属主義に変更されたことに伴い、適格現物出資の範囲について次の見直しが行われることとなった。 (1) 適格現物出資の対象の追加 外国法人に対する現物出資のうちその移転する国内資産のすべてを恒久的施設に直接帰属させるものについて、適格現物出資の対象に加える(法法2十二の十四、法令4の3⑨)。 ただし、国内不動産その他の恒久的施設から国外本店等への内部取引が帳簿価額で行われたものとなる国内資産が含まれる場合には、現物出資後これらの国内資産について内部取引を行わないことが見込まれている場合に限る(法法2十二の十四、法令4の3⑨)。 これは、従来、内国法人が外国法人に対し、国内不動産など国内事業所に帰属する資産(25%以上を保有する外国法人の株式を除く)を現物出資した場合、その現物出資は、非適格現物出資となっていたが、帰属主義への変更により、外国法人に対する現物出資であっても、現物出資される国内資産が日本の恒久的施設に帰属する限り、日本の課税権が失われなくなったため、内国法人が国内資産を外国法人の日本の恒久的施設に対して現物出資した場合、適格現物出資に該当することにした。 その一方で、現物出資された国内資産について、現物出資後に、外国法人の日本の恒久的施設と国外本店等との間で帳簿価額により内部取引が行われ、さらに、その内部取引後にその国内資産が国外で譲渡された場合、日本での課税権が失われる可能性があるため、適格現物出資になるのは「現物出資後これらの国内資産について内部取引を行わないことが見込まれている場合に限る」こととした。 [ケース1] 適格現物出資のケース (2) 適格現物出資からの対象除外 次の現物出資について、 適格現物出資の対象から除外する。 これは、内国法人が国外支店等に国内資産を内部取引した後に、外国法人の国外本店等に現物出資した場合、日本の課税権が失われてしまうため、内国法人が外国法人の国外本店等に対し「その現物出資の日以前1年以内にその内国法人の国内本店等からの内部取引により国外事業所資産となった資産(現金、預貯金、不動産及び不動産の上に存する権利以外の棚卸資産、有価証券を除く)」を現物出資した場合を適格現物出資から除外することとした。 [ケース2] 非適格現物出資のケース(その1)   これは、帰属主義に変更されることに伴い、国外資産の含み損が日本に持ち込まれることによる課税上の弊害を防止するため、従来から非適格現物出資となっている外国法人が内国法人に対して国外事業所に帰属する資産(国内にある不動産等を除く)を現物出資する場合に加えて、外国法人が他の外国法人の日本の恒久的施設に対して国外事業所資産を現物出資する場合も、非適格現物出資とすることとした。 [ケース3] 非適格現物出資のケース(その2)   2 適用時期 平成28年4月1日以後に行われる現物出資について適用される(平成28年所法等改正法附則22②)。 ただし、現物出資が被現物出資法人の平成28年4月1日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度の平成28年4月1日から当該事業年度終了日までの間に行われるものである場合の現物出資は改正前の取扱いとなる(平成28年所法等改正法附則22②)。   [10] 組織再編税制の見直し 1 改正内容 組織再編税制について、次の見直しを行う。   2 適用時期 平成28年4月1日以後に行われる合併、分割、株式交換、株式移転について適用される(平成28年法令改正法令附則1、3、9)。   (了)

#No. 180(掲載号)
#足立 好幸
2016/08/04

租税争訟レポート 【第29回】「不動産所得、返還しなかった敷金に対する課税(国税不服審判所裁決)」

租税争訟レポート 【第29回】 「不動産所得、返還しなかった敷金に対する課税(国税不服審判所裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人が、所得税の修正申告をしたところ、原処分庁が過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、修正申告書の提出は、調査があったことにより更正があるべきことを予知してしたものではないなどとして、過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めるとともに、請求人による修正申告について、原処分庁が、請求人が返還しなかった敷金は不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであり、一方、請求人が支払った設備の修繕費、修繕積立金及び委託料は必要経費に算入されないとして、また、減価償却費の計算に誤りがあるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、これらの処分等の一部の取消しを求めた事案である。   【審査請求人による不動産貸付のスキーム】 審査請求人は、その妻が代表取締役であるR社との間に各種の業務委託契約を締結していた(下図参照)。 不動産管理業務委託については、請求人が所有する賃貸物件単位で契約を締結し、定額の管理費用、修繕積立金又はリフォーム費用を支払って、これを不動産所得の金額の計算上必要経費に算入していた。 不動産運用業務コンサルティング契約の目的は次のとおりで、月額委託料は23,500円であった。 不動産会計税務事務委託契約の目的は次のとおりで、月額委託料は31,500円であった。   【裁決内容】 本稿冒頭で示したとおり、本審査請求の争点は多岐にわたっているが、不動産の取得価額の計算及びそれを基にした減価償却費の計算については審査請求人独特の主張であることから、また、国税通則法をめぐる争点については一般的な国税不服審判所の判断に基づき棄却されているところから、本稿では割愛することとし、それ以外の下記3つの争点について、審査請求人の主張とそれに対する国税不服審判所の判断を中心に検討したい。 1 争点イ 敷金は、請求人の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきか否か 平成24年において、審査請求人が返還しなかった敷金は合わせて3件あるので、請求人の主張に基づき、返還しなかった理由をまとめておく。 共通するのは、敷金の清算はR社と賃借人との間で行われていることだけで、契約内容はそれぞれにより異なることから、審判所は、この主張に対し、1件ずつ総収入金額算入の是非を判断した。 以上の検討結果から、不服審判所は、各敷金のうち、賃借人1に係る敷金60,000円及び賃借人2に係る敷金のうち4,188円は平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきでないと判断して、原処分庁の処分の一部取消しを認めた。 2 争点ロ 修繕費、修繕積立金等は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か 審査請求人が、原処分庁により「必要経費とは認められない」とされた修繕費等について処分の取消しを求めた争点においても、請求人とR社との契約内容は物件によって異なっているため、国税不服審判所は、それぞれ個別に検討し、判断している。 3 争点ハ コンサルティング委託料及び会計税務委託料は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か 審査請求人が、原処分庁により「必要経費とは認められない」とされたコンサルティング委託料及び会計税務委託料について処分の取消しを求めた争点においても、請求人とR社との契約内容により、国税不服審判所は、それぞれ個別に検討し、判断している。 請求人による主張は、請求人がR社と締結している不動産運用コンサルティング業務委託契約及び不動産会計税務事務委託契約に係る業務には、一切家事上の内容が含まれていないことを確認しているから、これらの契約に基づいて支払った委託料は請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるというものであるが、国税不服審判所は以下のように判断して、これを斥けた。   【解説】 上記【審査請求人による不動産貸付のスキーム】においてその概要を説明したとおり、請求人は、その妻が代表取締役を務めるR社を設立し、自身の不動産貸付業に係る節税スキームを構築していたところ、それらをことごとく原処分庁に否認され、本裁決でも、国税不服審判所により棄却されることとなった。 国税不服審判所が必要経費への算入を認めなかった理由を中心に、裁決内容を検討したい。 1 返還を要しない敷金に対する原処分の一部取消し 和解により返還を要しないことが決まった敷金が、実質的には賃借人が負担すべき賃料その他の費用に充てられた件及び敷金から原状回復費用を除く部分が実際に返還した件について、請求人に経済的利益がないとして収入に算入すべきではないとした判断(原処分の一部取消し)については、不服審判所により、請求人の主張が認められた。 一方、すでに「リフォーム費用」として請求人からR社に支払いが行われていたにもかかわらず、原状回復費用を必要経費に算入すべきであるから、敷金を収入に計上する必要はないという請求人の主張が斥けられたのは、当然の判断であったといえよう。 2 修繕費・修繕積立金の必要経費性 請求人が管理契約に基づいて、修繕費又は修繕積立金としてR社に支払った金員について、国税不服審判所は、修繕費については、R社による修繕の有無や金額を認定することができないことからR社への支払いの必要性を認めることができないとし、修繕積立金については、請求人からの預り金として積み立てられ、その取崩しについては請求人の了解が必要であることから、請求人がR社に支払った時点においては、請求人の資産としての性質を有するとして、それぞれ、必要経費への算入を否認した。 なお、通常の分譲マンション等における修繕積立金については、以下のように判示しており、請求人とR社との間の任意契約による修繕積立金は、事実関係が異なると判断している。 3 コンサルティング契約等による委託料の必要経費性 まずは、関係する所得税法、同施行令及び基本通達を確認しておきたい(以下、いずれも関係部分だけを記載し、かっこ書きについては簡略化又は省略している)。 国税不服審判所による判断の筋立ては、コンサルティング委託契約及び会計税務委託契約における委託業務の中には、所得税法上家事関連費等として必要経費に算入しない「所得税」に関わるものが含まれており、こうした委託事務は必要経費に算入できない。このうちコンサルティング委託契約における業務の内容である「異議申立等の費用」は、基本通達においても必要経費に算入しない旨が規定されている。また、契約では、業務の遂行上必要である部分と家事費とすべき部分が明らかに区分されていないため、施行令の適用を受けることができず、その全額が必要経費とならない、というものである。 本契約については、審査請求人がR社に委託する業務の範囲を広くとりすぎたことが否認につながったのではないかと考える。下記に再掲するが、すなわち、コンサルティング契約であれば、委託業務の①から⑤まで、会計税務事務契約であれば、①から③及び⑥であれば、請求人の事業遂行に直接必要であるという主張が通ったはずである(委託料の金額をめぐる是非は別にして)。 とはいえ、会計税務事務として委託された「④ 請求人の青色申告のための各種資料の作成」、「⑤ 税務署への申告書提出のための作業」、「⑦ 税務調査対応作業」について、所得税法45条に規定する必要経費に算入しない所得税に関連する業務であるからというだけで、必要経費に算入しないという結論を導くのはいささか無理があると思われる。 この理論を推し進めると、筆者を含む税理士に対する報酬も、家事関連費として否認できるということにつながりかねないのではないか。むしろ、税理士法の規定により、「こうした行為は税理士以外には受任できない」ことを理由に、必要経費算入を否認した方がよかったのではないかと考える。 税務調査の場面では、委託業務の内容が明確に定められていない場合に、コンサルティング契約の実態が問われることも少なくないが、本件では、あまりに広範な委託内容としてしまったことが、原処分庁に否認という判断を提供し、不服審判所がこれを容認、請求人の主要を棄却した側面もあるのではないだろうか。   (了)

#No. 180(掲載号)
#米澤 勝
2016/08/04

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第20回】「実質主義①」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第20回】 「実質主義①」   公認会計士 佐藤 信祐   本稿では、実質主義について検討を行うこととする。実質主義は、実質課税の原則とも呼ばれることがあるが、その内容の意味するところは論者によって大きく異なる。そのため、実質主義が容認されるべきかどうかを論じるためには、まずは、実質主義の定義を明確化する必要がある。   1 実質主義の定義 「実質主義」という言葉を使う場合、「法的実質主義」と「経済的実質主義」の2つに区別する必要がある(※1)。 (※1) 吉良実『実質課税論の展開』64-65頁(中央経済社、昭和56年) 法的実質主義は、法適用上の表見的事実と法適用上の真実の法律事実がある場合には後者を優先すべきであるという考え方である。これに対し、経済的実質主義は、私法上の法律要件を満たした法律事実と経済的成果をもたらす事実がある場合に後者を優先すべきであるという考え方である。 現在の通説では、法的実質主義は認められるものの、経済的実質主義は認められないとされている(※2)。とりわけ、実質主義の否認を否定した東京高裁昭和47年4月25日判決以降は、経済的実質主義を否定する判決が増えてきていると言われている(※3)。 (※2) 矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』133頁(財経詳報社、平成27年)、松田直樹『租税回避行為の解明』18頁(ぎょうせい、平成21年) (※3) 松田直樹前掲書(※2)18頁 これから、裁判例として、東京高裁昭和47年4月25日判決、東京高裁平成11年6月21日判決、大阪高裁平成14年10月10日判決、東京高裁平成16年1月28日判決についてそれぞれ解説していく予定である。   2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900) (1) 事実の概要 本事件は、金銭消費貸借契約により、株式会社三越から1億2,900万円の借入れがあることから、債務控除を行って相続税の課税所得を計算したところ、当該金銭消費貸借契約は租税負担回避のためになされた通媒による虚偽仮装のものであって無効であるから、これによって原告らに対する相続税の課税財産価額から控除すべき相続債務が生じたということはできないとして課税処分が行われた事件である。 そのため、第一審において、課税庁は「地上権設定の対価として授受する趣旨にあったものであり、これをあえて消費貸借の目的として授受する趣旨の契約に仮装したのは伊助が負担すべき所得税(当時は不動産所得)を回避する目的に出たものと解される」という主張がなされている。 本事件では、課税庁から相続債務の評価減についても主張されているが、本連載の論点とは異なるため、ここでは解説を省略するものとする。 (2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712) (3) 控訴審 (4) 上告審、差戻控訴審 上告審(最高裁昭和49年9月20日判決・TAINSコード:Z076-3395)、差戻控訴審(東京高裁昭和50年3月20日判決・TAINSコード:Z080-3505)では、相続債務の評価減についてのみ争われているため、本稿では解説を省略するものとする。 (5) 評釈 このように、本事件では、租税法律主義に観点から、実質主義による租税回避の否認を認めなかった(※4)。もともと、経済的実質主義を認める考え方が主張されていた経緯としては、ドイツの経済的観察法の影響によるものとされているが(※5)、前述の通り、本判決以降では、経済的実質主義は認められないという考え方が主流となっていった。 (※4) なお、相続債務の評価減についての課税庁の主張は一部認められているため、必ずしも納税者が勝訴した事件とは言い難い。 (※5) 松田直樹前掲書(※2)18頁、谷口勢津夫『税法基本講義』36頁(弘文堂、第3版、平成24年) 本事件でも、金銭消費貸借契約を地上権設定の対価であると課税庁は主張しているが、法的実質主義の観点からもこのような主張は可能であると考えられる。第一審にて、「仮装」「通謀虚偽表示」という文言が主張されていることからもその余地は十分にあったと考えられる。しかし、そのためには証拠の積上げが必要となり、前回、解説したように、証拠のない事実認定は認められないということになる。 やや古い事件であるが故にやむを得ないのかもしれないが、現在から本事件を見てみると、課税庁の主張はやや乱暴であったのかもしれない。 次回では、岩瀬事件(東京高裁平成11年6月21日判決)について解説を行う予定である。 (了)

#No. 180(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/08/04

ストーリーで学ぶIFRS入門 【第7話】「日本ではまだ馴染みの薄い有給休暇引当金」

ストーリーで学ぶ IFRS入門 【第7話】 「日本ではまだ馴染みの薄い有給休暇引当金」 仰星監査法人 公認会計士 関根 智美   「お帰り。有給届のハンコ、もらえたか?」 桜井が経理部のシマに戻ると、隣の席の2年先輩にあたる藤原が話しかけてきた。桜井は、経理部長の清瀬から有給申請届の承認印をもらってきたところだった。 今は昼休み中のため、経理部の半数以上がランチを食べに外出している。人が少ないせいか、ムダ話もしやすい。 「ええ。あの“仏の清瀬部長”ですから。2つ返事で押印してくれました。後はこの申請書を総務に持っていけば、心置きなく一週間休めます。」 桜井はふぅっと息を吐いた。気がつけば8月上旬。第1四半期決算も収束に向かいつつあり、経理部でも夏休みを話題にできる雰囲気になってきた。 「俺も有給取りたいんだけど、宿題が山積みだしなぁ。」 藤原も頭の後ろで両手を組み、ため息をついた。藤原の言う「宿題」とはIFRS導入関連の作業のことだろうな、と桜井は推測した。 2人は東証一部に上場している中堅クラスの会社に勤めているのだが、つい先日、会社がIFRSを導入することを決定したのだ。入社3年目の桜井はまだまだ戦力不足のためプロジェクトチームには入ってないが、藤原はメンバーの一員としてフル稼働している。桜井もまた、IFRS導入後の新戦力となるべく、この6月から藤原の指導の下でIFRSについて勉強を始めたばかりだった。 「でもさ、有給申請に上司の承認が必要なのは分かるけど、直接伺ってハンコもらいに行くのは、けっこうキツイよなー」 「分かります。悪いことをしてるわけじゃないんですが、『休みください』って言うのは気が引けるというか・・・。その点、ウチの部長は話しやすい方でラッキーですよね。」 「そうそう。総務とか大変らしいぜ。」 「あー、ビッグママですか。」 ビッグママとは、もちろん通称である。本名は二階堂 梓。男社会のこの会社では唯一の女性部長である。噂によると、自分にも他人にも厳しいタイプらしい。同僚たちは彼女のことを秘かに「ビッグママ」と呼び、畏怖されている。 「仕事はピカイチだし、尊敬はしてるけど、なんだろ、あの威圧感・・・。スゲーとしか表現できないよな・・・」 「180cm以上ある先輩でも、威圧感って感じるんですか?」と、桜井は不思議に思った。 「身長の問題じゃないんだよな。迫力がさ、ハンパないだろ?『女傑』って言葉がぴったりだよなー」 ビッグママとは接点が全くない桜井は、よく分からないがそういうもんなのかな、と納得することにした。 「聞いちゃった!二階堂さんにチクっちゃおうかな~」 桜井の斜め向かいの机から本棚越しに橋本が顔を出した。こちらも派遣社員を除くと経理部唯一の女性社員だ。 「は、橋本さん!・・・盗み聞きですか?」 藤原はいきなりの橋本の登場にあたふたした。 「人聞きの悪いこと言わないでよ。聞・こ・え・た・の。そんな大きな声でしゃべってる方が悪いんじゃない。」 「あのー、ここはひとつ穏便に・・・」 雲行きの怪しい展開になりそうだと判断した桜井は、仲裁に入ることにした。 「あら、じゃ、〇タバのキャラメルマキアートで手を打ってもいいわよ。グランデでお願いね♥」 橋本は藤原に向かって、「もちろんアイスよ。」とにっこりほほ笑みかける。 「ぐっ・・・分かりました。」 明らかに分が悪い藤原は折れることにしたようだ。いつどこに異動されるか分からないサラリーマンにとって、未来の上司になるかもしれない女性から目の敵にされるリスクは冒せない。 悔しがる藤原をよそに、橋本は桜井と夏休みの予定について話が盛り上がっていた。 「じゃ、桜井君は実家に帰るんだね~」 「そうなんですよ。」と桜井は相槌を打とうとした時、「橋本くーん」と清瀬部長が橋本を手招きしていた。橋本は桜井に一言断り、席を外す。 「俺さ、」と、藤原が橋本の背中を見ながら桜井に話しかける。 「2代目ビッグママはあの人になる気がする。」 橋本とは接点がある桜井は、心から同意した。もちろん、口に出すようなヘマはしない。   桜井が有給申請届を総務部に届けた後、エレベーター前でグランデサイズのコーヒーカップを持った藤原に出くわした。 「お疲れ様です。」と桜井は思わず口にした。 「お、おぅ。」 藤原は苦笑いを浮かべて、桜井と一緒に経理部へ向かう。 「ところで、先輩。」 「ん?何だ?」 藤原は横を歩く桜井を見下ろす。 「有給申請する時にふと思い出したんですけど、IFRSを導入したら、有給休暇引当金を計上することになるんですよね。」 「有給休暇引当金か。IFRS導入の有名な論点の1つだな。」 「たしか、期末時点で未使用の有給休暇に係る債務を計上することになるんでしたっけ。」 「その通りだ。よく知っているじゃないか。」 「本で見たので。でも、具体的にどう計算するのかまでは書いていなかったから、イマイチよく分からないんですよね。」 それを聞いた藤原は腕時計を確認した。 「うん、ちょうどいいな。ちょっと来い。」 2人が経理部に着くと、藤原は机の脇に積上げたファイルから分厚い束を抜き取り、桜井に渡した。 「『IFRS任意適用に関する実務対応参考事例』・・・?」 桜井はよく分からないまま、渡された資料のタイトル名を読み上げた。 「そうだ。2014年1月15日付で経団連から公表されたもので、既にIFRSを適用している会社がどうIFRSを適用したのかがまとめてあるんだ。その中に、確か有給休暇引当金について書いてあったはずだ。」 桜井がぱらぱらと紙をめくると、後半のほうにやっと「有給休暇引当金」の項目を発見した。 「午後の始業まで少し時間があるから、IFRSではどう規定されているのか教えてやるよ。」 藤原はニヤリと笑って、廊下を指した。 「ここだと落ち着かないから、ミーティングルームに移ろうぜ。」   引当金ではない有給休暇引当金 空いているミーティングルームに入ると、藤原はホワイトボード用のペンを手に取り、「コホン」と咳払いをした。 「では、有給休暇引当金の解説を始めよう。」 「よろしくお願いします。」桜井は椅子に腰かけてノートを広げる。 「まず、有給休暇引当金はIFRSの何号に規定されているか、知っているか?」 さっそく藤原は桜井に質問した。 「えーと、引当金って言うからにはIAS第37号の『引当金、偶発資産及び偶発負債』で規定されてるんじゃないんですか?」 「チッチッチ」藤原は得意げに指を左右に揺らす。 「IAS第19号の『従業員給付』に規定されているんだ。」 「え、そうなんですか。ということは、有給休暇引当金って引当金ではないんですか?」 「日本ではそういう表現が一般化しているが、IFRSでは引当金とは分類されていない。IAS第19号の中でも『負債(未払費用)』と記載されているんだ。」 「へぇ。」 桜井は意外に思った。 「暇があれば、IFRS任意適用会社の有報を調べてみるといい。有給休暇引当金として計上している会社もあるが、未払有給休暇や有給休暇債務としている会社もあるんだ。」 「そう言えば、注記を見ていた時にそんな勘定科目を目にしたことがあるような・・・」 はっきりと思い出せない桜井は、“後で有報を確認しておくこと”とメモを取った。 「だが、ここでは一般的に使われている『有給休暇引当金』に言葉を統一して説明していこう。いろんな言い方だと混乱するからな。」 「はい。分かりました。」   資産負債アプローチで考える有給休暇引当金 「なぁ、IFRSでは資産負債アプローチを採用していると、以前教えたことを覚えているか?」 「はい。いきなりどうしたんですか?」 桜井は藤原がなぜ唐突に資産負債アプローチの話を持ち出したのか、意味が分からず首をひねった。 「これから有給休暇引当金の会計処理を学んでいくんだが、まずIFRSがどういう視点でこの会計処理を定めているのかを最初に確認したほうがいいと思ってな。」 「ただ、」と藤原は補足した。 「これから説明する考え方は基準に書いてあるわけじゃない。あくまでも俺が基準を読んで解釈した内容だということを先に断わっておくな。」 「分かりました。」 桜井は返事をした後、資産負債アプローチの定義を記憶から引っ張り出した。 「えっと、資産負債アプローチでは資産や負債の認識や測定を重視するんですよね?」 「そうだ。」と、藤原は一度頷いて、資産負債アプローチとは反対の概念である収益費用アプローチと対比させて説明することにした。 「収益費用アプローチでは、収益と費用を重視することになる。例えば、米国基準では、期間損益を適正化するという収益費用アプローチの観点から有給休暇引当金の計上が要求されているんだ。」 「へぇ、そうなんですか。」 「一方、IFRSでは、『債務』をいつ認識するのか、どう測定するのかについて規定されている。つまり、負債の計上を重視しているんだ。」 「なるほど。視点が負債側なんですね。」 桜井は納得したようだった。 「IFRSでは、有給休暇引当金の計上額は期末時点で未行使の有給休暇のうち、実際に行使される分に係るコストが会社の計上すべき債務だ、と考えるんだ。」 「ふぅん。IFRSではそんなふうに考えるんですね。」 「よし。IFRSでは具体的にどう規定されているか、見ていくぞ。」   人件費に関する基準はIAS第19号とIFRS第2号の2つ 「さっきも言った通り、有給休暇引当金はIAS第19号の『従業員給付』に規定されている。じゃあ、IAS第19号はどういうことを定めた基準なのか?」 藤原は首を傾げて、桜井を見た。 「給与とかの人件費に関する会計基準じゃないんですか?」 桜井は当たり前じゃないですか、といった口調で答える。 「正解。人件費に関する基準は2つある。1つは、ストック・オプションに関する会計処理。これは、IFRS第2号で定められている。それ以外の人件費については、このIAS19号に基づいて計上されることになる。」 藤原はホワイトボードに書きながら説明した。 「へぇ。人件費に関する基準は2つあるんですね。」   従業員給付の定義 「まず初めに、基準のタイトルでもある従業員給付(Employee Benefits)とは何か、ということから押さえよう。」 「はい。」 「従業員給付とは、従業員の勤務の提供を受けて、会社がその対価として負担することになるあらゆる形態の給付のこと言うんだ。」 ここで藤原は一旦間を置くと、続けて定義の中の言葉を説明し始めた。 「この『従業員』とは、常勤やパートタイムで勤務を提供する者だけでなく、取締役や他の役職者も含んでいる。」 「へぇ。」 「続いて『あらゆる形態の給付』についてだが・・・」 「『あらゆる形態』って、何か引っかかる表現ですね。」 聞きなれない表現に桜井は眉をひそめた。 「冴えてるじゃないか。これは、給与や賞与などの貨幣性給付のみならず、住宅の提供や会社負担の医療費などの非貨幣性給付も含まれているっていう意味なんだ。」 「なるほど。一言で『従業員給付』と言っても、その対象はかなり広いんですね。」 桜井は感心したような口調で言った。 「ということは、先輩、有給休暇もその給付に含まれているってことですか?」 「その通り。図で表すとこんな感じだな。」 藤原は、さっそくホワイトボードに関係図を描き始めた。 「あ、この方が分かりやすいですね。」 そうだろう、と藤原は満足そうに頷いた。 【勤務の提供と給付の関係】   4種類の従業員給付 「さて、この従業員給付だが、大きく4種類に分かれているんだ。」 続いて藤原はホワイトボードに4つのボックスを書き出した。 「短期従業員給付(short-term employee benefits)、退職後給付(post-employment benefits)、その他の長期従業員給付(other long-term employee benefits)、解雇給付(termination benefits)だ。」 「えーと。退職後給付は、退職給付会計のことですよね?」 桜井は、とりあえず中身が特定できそうなものから確認した。 「そうだ。そして、解雇給付は雇用を終了するという企業の決定または雇用の終了と交換に企業の給付の申し出を受け入れるという従業員の決定により生じる従業員給付だな。」 「つまり、解雇給付は『勤務の提供』により生じる債務ではなくて、『雇用の終了』により生じる債務なんですね。」 藤原は頷いて、桜井の言葉を肯定した。 「そういうことだ。あとの2つについては、言葉通りだ。さっき説明した退職後給付と解雇給付以外の給付で、期末日から12ヶ月以内にすべてを決済すると予想されるものを短期従業員給付、予想されないものをその他の長期従業員給付に区分することになる。」 「なるほど。すべての従業員給付はこの4つのいずれかになるんですね。」   有給休暇は短期従業員給付 「じゃあ、有給休暇はどの給付になるか、分かるか?」 「この中だと、短期従業員給付でしょうか?」 桜井はさっき藤原が教えてくれた定義を反芻しながら答えた。 「その通りだ。」藤原は「短期従業員給付」のボックスに赤いペンで丸を付けた。 「ただし、有給休暇の権利行使が期末日から1年を超えるような有給休暇については、その他の長期従業員給付に該当することになるから、そこは留意が必要だぞ。」 桜井が頷いたのを確認した後、藤原はさらにこう続けた。 「では、ここからは短期従業員給付であることを明確にするために、単に有給休暇ではなく、『短期有給休暇』(short-term paid absences)と表現して説明していくことにする。」 「はい、分かりました。」   短期従業員給付の会計処理 「短期有給休暇が短期従業員給付に該当することを確認できたら、次は短期従業員給付がどう認識されるのかを見ていこう。」 「はい。認識とは、『いつ』、『どの勘定科目』で計上するのかということでしたよね。」 「そうだ。すべての短期従業員給付は、従業員が勤務を提供した時に企業が対価として支払うと見込まれる給付の割引前の金額を負債、または費用として認識することになる。」 藤原は勤務の提供と給付の関係図の『給付』の下に説明を追加した。 【勤務の提供と給付の関係】 「つまり、『いつ』は従業員の勤務提供があった時、『どの勘定科目』という所は負債または費用として計上するってことですね。ということは、有給休暇引当金も勤務を提供した期に対応させて負債計上することになるんですよね?」 桜井は、藤原の説明をそのまま短期有給休暇に当てはめて確認してみたが、藤原は少し間を置いて答えた。 「んー。累積型有給休暇だとそうなるな。」 「累積型?何ですか、それ?」 初めて聞く言葉に戸惑った桜井は、眉をひそめて藤原に聞いた。 「あ、そっか。まず短期有給休暇の分類について説明しなくちゃいけないな。」 そう言うと、再びホワイトボード用のペンを手に取った。   短期有給休暇に分類がある? 「よし。じゃあ次に、短期有給休暇の分類について説明するぞ。」 「短期有給休暇に分類なんてあるんですか?」 「あれ?お前、有給休暇引当金の説明、本で読んだんじゃないのか?」 「読んだとは言ってませんよ。見たと言ったんです。」 桜井はさらりと答えた。 「あー、そういうことね。」 この世代は言葉に細かいな、と自分も同世代であることを棚に上げて藤原は思った。 ◆分類1:累積型有給休暇と非累積型有給休暇 「まず、短期有給休暇は、累積型有給休暇(accumulating paid absences)か、非累積型有給休暇(non-accumulating paid absences)に分けることができるんだ。」 気を取り直した藤原は再び説明を再開した。 「はぁ。」 桜井はホワイトボードに書きこんでいる藤原の背中を見ながら相槌を打った。 「まず、累積型有給休暇とは当期付与された権利のうち、未使用分を繰り越して将来の期間に使用することができるものをいう。非累積型有給休暇はその逆だな。当期付与された未使用の権利は繰り越されず失効してしまうタイプの有給休暇だ。」 「では、ウチの会社の年次有給休暇に当てはめると、未使用の有給休暇は翌1年間繰り越すことができるので、累積型有給休暇と言うわけですね。」 桜井の言葉を受けて、藤原がさらに補足した。 「そうだ。一方、慶弔時に取る特別休暇や育児休暇、裁判員休暇なんかは非累積型に当てはまるな。」 「なるほど。確かにそれらの休暇は翌期に繰り越せないですもんね。」 ◆分類2:権利確定するものと権利確定しないもの 藤原はさらに説明を続けた。ホワイトボード上の『累積型有給休暇』の下に左右に分かれた線を引いていく。 「さらに累積型有給休暇には『権利確定するもの』と『権利確定しないもの』に分かれる。」 「え、確定って有給休暇の権利はもう確定してるんじゃないんですか?」 「そういう意味での確定じゃない。」藤原は苦笑しながら言った。 「離職時に未使用の有給休暇の権利について現金の支払いを受ける権利が与えられているものを『権利確定するもの(vesting)』と言い、現金の支払いを受ける権利を有しないものを『権利確定しないもの(non-vesting)』と言うんだ。」 「ということは、ウチの会社の有給休暇は買い取ってもらえないから『権利確定しないもの』に該当するんですね。結局未消化のまま失効してしまうんだから、ウチの会社にも買取制度できてほしいですよね。」 「気持ちは分かるが、難しいだろな~」 2人は暫く思いを馳せた後、同時にため息をついた。   短期有給休暇をなぜ分類するのか? 「ところで、なんで短期有給休暇の分類なんて要るんですか?」 桜井はふと疑問に思った。日本ではそもそも有給休暇に分類なんて聞いたことないし、必要だとも思わなかったからだ。 「お。なんでだと思う?」 藤原は、少し嬉しそうに聞き返した。 「えー、分からないから聞いてるんですけどー」 桜井は藤原のニヤニヤ笑いから顔を背け、その理由を考えてみた。 「んー、会計基準で分類があるってことは、会計処理が違ってくるってことですか?」 「ビンゴ。」 藤原はペン先を桜井に向けて言った。 ◆分類1:累積型と非累積型で認識のタイミングが違う 「まず、累積型か非累積型かで、認識のタイミングが異なるんだ。」 「と、言うと・・・?」 「累積型有給休暇の場合は、将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を従業員が提供した時に有給休暇の形式による短期従業員給付の予想コストを認識することになる。 それに対して、非累積型有給休暇では休暇が発生した時に当該給付を認識することになるんだ。」 「累積型有給休暇は勤務提供のあった期に認識・・・あ、短期従業員給付の会計処理の説明の時に先輩が言ったのはこのことだったんですね。」 メモを取っていた手を止めて、桜井は顔を上げた。 「その通り。ただし、非累積型有給休暇の場合は従業員の勤務が給付を増加させるとは考えないため、休暇を取得する時まで負債または費用として認識することはないんだ。」 「なるほど。1つ目の分類では、いつ認識するのかが違うんですね。」 ◆分類2:権利確定するかしないかで測定に違いがある 「続いて権利確定するものと、しないものを分類する理由について、だ。」 藤原はホワイトボードから桜井に向き直って、引き続き説明する。 「さっきは認識の違いだったな。じゃ、次は何が来ると思う?」 「えー、認識の次ですから、測定の話ですか?」 「そうだ。だいぶ基準の作りに慣れてきたじゃないか。」 桜井は自分の答えが合っていたことにホッとした。測定とは、認識した項目をいくらで計上するか、という金額を決定するプロセスのことを言う。 「権利確定する場合はそのまま期末の有給休暇未使用分に対する負債を計上するんだが、権利確定しないものについては、有給休暇未使用分に、従業員がこれを使用する前に離職する可能性を債務の測定に影響させる必要があるんだ。」 「どうして買取制度があるかどうかが、離職の可能性を考慮するかどうかに関わってくるんですか?」 「権利確定するものの場合、会社は従業員の離職時に未使用分の権利に対して支払義務を負うため、有給休暇の未使用分すべてに対して負債を計上することになる。」 「はい。そこまでは理解できます。」 桜井は相槌を打った。 「でも、権利確定しない有給休暇の場合だと離職時に未使用の有給休暇はそのまま失効してしまうだろう?会社は失効部分に係る債務は計上する必要はないのだから、その分を債務の測定に際して考慮して計上することになる、というわけだ。」 「あ。なるほど。やっと分かりました。」 「今説明した分類と処理のポイントをまとめてみるとこうなる。分かりやすくなっただろう?」 藤原は鼻高々にホワイトボードを指さした。 「あー、ハイ。ソウデスネ。」 桜井はやや呆れ気味に返事をした。 【短期有給休暇の分類】   累積型有給休暇の測定方法 「よし、短期有給休暇の分類が分かったところで、次に行くぞ。」 「え、まだあるんですか?」 「期末に計上すべき有給休暇引当金をどう測定するか、まだ説明してないだろう?」 「そう言えば、そうですね。」 「基準の言葉をそのまま引用すると、『累積型有給休暇の予想コストを報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない』、とある。」 「えーと・・・」 桜井はすんなり理解できないようだ。 「では、これを3つに区分して見ていこう。」と藤原は提案した。 として、測定しなければならない。 「1つ目なら大丈夫です。『(a)累積型有給休暇の予想コスト』とあるのが、『有給休暇引当金として計上すべき額』ってことですね。」 桜井は安堵して、分かる箇所から内容の確認をした。 「そうだ。次の『(b) 報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果』は期末時点で繰り越される未使用の有給休暇日数のことだ。」 「はい。」 「『(c)企業が支払うと見込まれる追加』とあるが、これは(b)のうち、翌期に消化されると予想される有給休暇ということだ。確定しないタイプの場合は、従業員が行使する前に離職する可能性を加味することになる。 そして、その翌期消化が予想される有給休暇日数に日給を乗じることで、追加金額を算定するんだ。」 桜井は再び頷いた。 「なるほど、こうして分解して読んでいくと、難しいことを書いているわけではないんですね。」   追加支払額をどう捉えるのか? 「以上が有給休暇引当金の基礎編ってところだな。」 「ありがとうございました。」桜井が頭を下げる。 「礼を言うのはまだ早いぞ。」 「え?まだ何かあるんですか?」 「今度は実践編だ。」 藤原が不敵な笑みを浮かべて桜井を見下ろす。 「実はもう1つ、測定に関して規定があるんだ。」 「な、何でしょう?」と、桜井は顔を引きつらせて尋ねた。 「累積型有給休暇の将来コストの測定は、給付が累積するという事実のみから発生すると見込まれる追加支払額により債務を測定する必要がある、という規定だ。」 「『累積するという事実のみから発生』って、またややこしい表現がありますね。」 桜井は渋い顔をして言った。こういう含みがある言葉は好きではない。 「そうなんだよな。そして、この『追加支払額』をどう解釈するかで、日本では会社ごとで処理方法に違いがあるのが現状なんだ。」   処理方法の違い:先入先出法と後入先出法 「処理方法って、どんな方法があるんですか?」 「大きく分けて、先入先出法と後入先出法の2つがある。」 「あ、それ、簿記で棚卸資産の払出方法の項目で習いました。」 桜井は自分の知っている言葉が出てきて、少し元気づいた。 「先入先出法は、先に取得したものから順に払い出していく方法ですよね。 そして、後入先出法は後に取得したものから先に払い出すんでしたっけ。」 「そうだ。」 ◆先入先出法を採用する考え方 「ということは、累積型有給休暇制度で先入先出法で処理するとなると、前期繰り越した有給休暇から先に消化していくってことですね。」 桜井は少し考えて付け加える。 「でも、それって当たり前じゃないですか?」 「ほう?何でそう思うんだ?」 藤原は机に腰かけて、腕を組んだ。桜井はやや興奮気味で答える。 「だって、一般的に年次有給休暇制度って、翌1年しか繰り越せないですよね。先に前期からの繰越分から消化しないと、次の年には失効してしまうじゃないですか。現実的には丸々年間付与される20日間の有給を取ることなんてできないんですから、後入先出法で考えると実質的には繰り越せないことと一緒ですよ。」 「そうなんだよな。会社の就労規定には先入先出法でやるなんて書いてないけど、先入先出法に基づいて運用されているのが実態だ。」 「はい。運用方法が先入先出法なら、会計上も先入先出法で計上したほうが実態に即していると思います。」 桜井は自分の意見が通って、落ち着いたようだ。先ほどよりややトーンダウンして答えた。 「確かにその考え方から、追加支払額の測定する際に先入先出法で処理している会社もある。」 ◆後入先出法を採用する考え方 「だとしたら、後入先出法を採用している会社はどう考えてるんでしょうか?」 桜井にはその考えがさっぱり思いつかない。 「条文にある『累積するという事実のみから発生』をどう捉えるかがキーになっているんだ。」 「さっき、僕が引っかかった表現ですね。」 藤原は一度頷くと、具体的な数字を出して説明することにした。 「例えば、俺が今期25日休みを取ったとする。」 「はい。」 「俺が年間で付与される有給休暇は20日だから、25日のうち20日はその有給休暇を充当することになる。ここまではいいな?」 「はい。大丈夫です。」 「残りの5日は本来なら欠勤扱いになるはずだが、前期に繰り越した有給休暇が5日残っていたので前期繰越分を充てる。すると、どうなる?」 「えーと、もし欠勤扱いなら給料が発生しないので、その5日分給料が減額されますよね。でも、前期の有給休暇を使うことで、5日分の給料を会社は支払うことになりますね。」 「その通り。この5日分の給料が『累積するという事実のみから発生』した『追加支払額』と考えるんだ。これが後入先出法を採用する根拠だ。」 「うーん。確かに説得力ありますね。」 桜井はしぶしぶ頷いた。 「さらに、IAS第19号の設例は個別後入先出法で説明しているし、結論の根拠にも選択した理由について、『この方法(個別後入先出法)は、債務を累積型の特徴のみから発生すると予想される追加的な将来の支払の現在価値で測定するからである。』と明言しているんだ。」 「なんだか先入先出法の方が分が悪いですね。」 藤原は頭をポリポリ掻きながら答えた。 「経団連の『IFRS任意適用に関する実務対応参考事例』を見てみると、後入先出法を採用している会社の方が多いが、先入先出法を採用している会社もある。どちらの解釈も一理あるから、会社が自分で判断することになるんだろうな。」 「さっそく、原則主義の洗礼ですね。」 桜井はため息をつきながら言った。 「やりがいがありそうだろ?」 藤原は頭を掻いていた手を止めて、ニヤリと返した。 ◆設例を用いて計算してみよう 「以上が、IAS第19号で定めている短期有給休暇の会計処理だ。」 「理解できたと思うんですけど、実際にどうやって有給休暇引当金を算定するか確認したいです。」 「そうだな。じゃあ、簡単な設例を使って説明していこう。先入先出法と後入先出法とでどう違ってくるのか見てみたいだろ?」 「はい。」 桜井は藤原が書いた条件を眺めると、おもむろに口を開いた。 「先輩、翌期の予想有給休暇消化日数が平均23日ってありえないですよ。」 藤原は長いため息をついた。 「いいんだよ。分かりやすく説明するための設例なんだから。」 と、いつものペースで設例の前提を確認したところで、2人は計算方法の確認に移った。 ◆それぞれの処理方法の比較 「まず、先入先出法と後入先出法それぞれで計算した場合のイメージだ。」 桜井は2つの図を見比べて、計算式を確認した。 「えーと、先入先出法だと、期末未使用分丸々5日分が追加支払額になるんですね。」 藤原は、「そうだ」と頷き、説明を引き継いだ。 「一方、後入先出法では、来期予想される消化有給休暇が23日とあることから、来期付与される20日を超える日数、つまり23日-20日=3日分に対する債務が当期末計上すべき債務額と考える。」 「あぁ、なるほど。こういうふうに考えていくんですね。」 「考え方としては難しくないだろう?」 藤原の言葉を受けて、桜井は頷いた。 「はい。それにしても、同じ条件なのに会計処理が違うだけでこんなに計上額が違ってくるんですね。」 「面白いよな。」と、藤原はホワイトボードへ再び視線を向けた。   藤原が設例の説明を終えた時、ちょうどタイミング良く午後の予鈴が鳴った。 「これで桜井も有給休暇引当金については、バッチリだな。」 「ええ。だと思います。」 桜井も素直に藤原の言葉に頷いた。 「さて、仕事に戻るか。」 2人は席から立ち上がり、ミーティングルームを後にすることにした。部屋を退出する際に、桜井に背中を向けたまま藤原が言った。 「IFRS導入後はお前が有給休暇引当金の担当だな。」 桜井はあまりにもさり気ない藤原の言い方が引っかかり、ふと鎌をかけてみた。 「それって、先輩が総務部と関わるのを避けたいから、なんて理由じゃないですよね?」 表情は見えないものの、藤原の背中は明らかに動揺している。 「ば、ば、バカを言うな。俺は、ビッグママなんて怖くないぞっ!」 「あれ?なんで狼狽えているんですか~?」 誰もビッグママなんて言ってないのになー、と思いつつ桜井は冷静につっこんだ。 「う、うるせー!」 「せんぱーい、廊下は走っちゃいけませんってばー」 2人のパタパタという足音が廊下に響き渡った。 ・・・そして2人が向かう経理部では、〇タバのキャラメルマキアートを待つ橋本が、腕組みをして待ちかまえているのだった・・・   (了)

#No. 180(掲載号)
#関根 智美
2016/08/04

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔会計面のアドバイス〕 【第4回】「棚卸資産の処理」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のアドバイス〕 【第4回】 「棚卸資産の処理」   公認会計士 深谷 玲子   1 棚卸資産の被害 大地震や集中豪雨などにより、法人の所有する製品や商品などの棚卸資産に物理的な被害が発生することがある。棚卸資産が被災した場合、法人は会計上どのような対応をとるべきか。 本稿では、災害の混乱が収まるまでの対応、その後の実地棚卸による災害被害額の認識と測定の仕方及び会計処理について見ていく。 ここで、棚卸資産とは、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の資産であり、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産のほか、売却を予定しない資産であっても、販売活動及び一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も含まれる(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第3項)。 以下では、通常の販売目的(販売するための製造目的を含む)で保有する棚卸資産を対象とする。   2 災害の混乱が収まるまでの会計上の対応 現場では災害の混乱の中にあっても出荷しなければならない場合がある。あるいは、被災者支援のため、自社の商品を緊急に提供することも考えられるだろう。 一方で、法人が利用している在庫システム、会計システムは、被災により使用できない状態にあることが多い。 この場合、手書き伝票でもメモでもよいので、出荷の記録を残すように努めたい。記録さえあればシステム復旧後に入力することができるからである。そうすることで棚卸資産の継続記録法(※)の中断を避けることができ、後述する災害被害額の正確な認識と測定が可能となる。 (※) 棚卸資産を受け入れた時及び払い出した時にそれぞれの数量を継続的に記録しておき、棚卸資産の在庫数量を帳簿上において常に明らかにしておく方法。 被災者支援のため自社の商品を緊急に提供する場合については、下記「6 被災者支援のための自社製品商品の提供」で詳細に見ていくこととする。   3 実地棚卸の実施及び被害状況の把握 ある程度災害が落ち着いたら、災害被害額の正確な認識と測定のため、被災した棚卸資産について、実地棚卸を行う。数量確認はもちろんのこと、販売可能かどうか、損壊の程度はどのくらいか、という棚卸資産の状態確認が重要となる。 例えば、小売業の場合、棚卸資産である商品を下記のようにランクに分けて把握する。 その際、社内で統一したランク評価ができるよう、明確な基準を示すことが必要である。特に[ランクB]と[ランクC]の判断は、困難が予想される。具体的な判断基準として、写真や図などを用いることも有効であろう。明確な判断基準が示されることで、棚卸担当者によるランク評価が一貫性をもって、かつ、迅速に行うことができる。 また、法人の扱う商品の規格よっては、[ランクB]をさらに細分化して把握することも考えられる。製造業においては、再加工の必要性という視点も必要となるであろう。 棚卸資産の評価ランクについては、法人ごとの独自の事情を考慮して、平素から「災害時における棚卸資産ランク評価マニュアル」を作成しておくことがより望ましい。 また、預け在庫の被災状況も忘れずに把握する。 実地棚卸によって棚卸資産に対する被害が把握された場合、その被害状況(ランク評価)に応じて次のような対応が考えられる。   4 棚卸資産の被害に対する会計処理 次に、上記①~④における会計処理について、それぞれ詳しく見ていく。 ① 棚卸資産が滅失した場合 棚卸資産そのものが存在しない、あるいは発見されない場合がある。この場合、被災直前の当該棚卸資産の帳簿価額の全額を、「棚卸資産滅失損」などの適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。災害による他の費用・損失とまとめて「災害損失」等の科目で特別損失に計上し、その内訳を注記することもできる。 (※) ただし、上記計上額が多額でない場合には、経常的な費用として計上されることも考えられる。 ② 棚卸資産が損壊しており、販売可能性がない場合 現物としての棚卸資産は確認できるが、著しく損壊しており、もはや販売不能であると判断される場合がある。すでに棚卸資産としての価値を失っていると判断される場合である。 この場合、被災直前の当該棚卸資産の帳簿価額の全額を、「棚卸資産滅失損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。災害による他の費用・損失とまとめて「災害損失」等の科目で特別損失に計上し、その内訳を注記することもできる。 (※) ただし、上記計上額が多額でない場合には、経常的な費用として計上されることも考えられる。 状況によっては、損壊した棚卸資産の撤去費用が必要となることも考えられる。撤去にかかる費用も、「災害損失」などの適当な科目を用いて損益計算書の特別損失に計上する。 〈決算日までに行った撤去にかかる費用〉 (※) ただし、上記計上額が多額でない場合には、経常的な費用として計上されることも考えられる。 決算日までに撤去が完了していない場合は、引当金の要件を満たすものについては引当金を計上する。 (※) ただし、上記計上額が多額でない場合には、経常的な費用として計上されることも考えられる。 ③ 棚卸資産が損壊しているが、販売可能性がある場合 現物としての棚卸資産は確認できるが、災害前の完全な状態ではない場合がある。災害による一部損壊により品質が低下し当初の価格では販売できない状態となっている場合、あるいは、販売できる状態にするための再加工等何らかの工程を必要とする場合である。この場合は、収益性の低下を認識し、帳簿価額を切り下げる。 具体的には、正味売却価額を把握し、それが当該棚卸資産の帳簿価額よりも下落している場合には、下落部分について損失を認識する。この際、収益性の低下の有無に係る判断及び帳簿価額切下げは原則として個別品目ごとに行う(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準第12項)。 ④ 被害なし、完全な状態で棚卸資産として存在する場合 現物としての棚卸資産が災害前と同じ完全な状態で確認できる場合がある。この場合、会計上なんら処理する必要はない。 ただし、棚卸資産が災害前と同じ完全な状態であることと、災害前後により正味売却価額が変動しないということとは別問題である。 災害前と同じ完全な状態であっても、被災後、正味売却価額が変動する場合がある。例えば、受注生産の場合や特別仕様品等の場合、取引先の被災状況によっては、販売可能性に疑義が生じる場合がある。 このような可能性も考慮し、棚卸資産が災害前と同じ状態で存在することを確かめるだけでなく、棚卸資産の販売可能性、正味売却価額を実態に応じて適切に判断する必要がある。もし、販売可能性に疑義が生じている場合には、②③に準じた処理を行うことになる。   5 保険金の会計処理 棚卸資産の被災により損害保険金を受け取った場合は、以下の会計処理を行う。 (※) ただし、上記計上額が多額となる場合には、特別利益として計上されることも考えられる。 この仕訳は、保険金を受け取った時点で行われる。一方で、災害が大規模になると、保険金受取の確定、保険金の入金までにかなりの時間を要する場合もある。その間に決算日を迎えた場合には、災害の起きた期に上記の仕訳をすることはできない。災害による損失を計上した期と災害による損害保険の収益を計上する期がずれるのである。 実務的対応としては、被災棚卸資産の保険に関してその付保状況を注記において説明することが考えられる。   6 被災者支援のための自社製品・商品の提供 被災者支援のため、自社の商品を緊急に提供する場合がある。ある程度災害が落ち着いてから、実地棚卸による棚卸資産の評価ランクが決定した後の提供については、特に注意が必要である。 ここで再び小売業に例をとり、上記「3 実地棚卸の実施及び被害状況の把握」で見たランク評価を再掲する。 [ランクA]・[ランクB]の商品を被災者支援のために提供することには問題はないであろう。問題は、[ランクC]の商品を被災者支援のため提供するか否かである。 法人は、以下のようなポイントを考慮して、提供するか否かを判断されたい。 これらを踏まえて判断した結果、被災者支援のために提供した自社商品は、「被災者提供品費」などの適当な科目を用いて、損益計算書の費用に計上する。金額が多額となる場合は特別損失、そうでない場合には営業費用(販売費及び一般管理費)となる。 また、この際に計上された費用は、税務上の取扱いに注意が必要である。 通常時であれば、無償・あるいは無償に近い価額での自社商品・製品の提供は寄付金となり、すべてが税務上の損金となるわけではない。ただし、法人税基本通達9-4-6の4(自社製品等の被災者に対する提供)において、災害時の特例が認められている。 災害時の場合には、会計上費用とした金額が、税務上も全額損金として認められる。 その結果、税効果会計における一時差異に該当しないこととなるため、会計上も留意が必要である。 (了)

#No. 180(掲載号)
#深谷 玲子
2016/08/04
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