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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第20回】「実質主義①」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第20回】

「実質主義①」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

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本稿では、実質主義について検討を行うこととする。実質主義は、実質課税の原則とも呼ばれることがあるが、その内容の意味するところは論者によって大きく異なる。そのため、実質主義が容認されるべきかどうかを論じるためには、まずは、実質主義の定義を明確化する必要がある。

 

1 実質主義の定義

「実質主義」という言葉を使う場合、「法的実質主義」と「経済的実質主義」の2つに区別する必要がある(※1)

(※1) 吉良実『実質課税論の展開』64-65頁(中央経済社、昭和56年)

法的実質主義は、法適用上の表見的事実と法適用上の真実の法律事実がある場合には後者を優先すべきであるという考え方である。これに対し、経済的実質主義は、私法上の法律要件を満たした法律事実と経済的成果をもたらす事実がある場合に後者を優先すべきであるという考え方である。

現在の通説では、法的実質主義は認められるものの、経済的実質主義は認められないとされている(※2)。とりわけ、実質主義の否認を否定した東京高裁昭和47年4月25日判決以降は、経済的実質主義を否定する判決が増えてきていると言われている(※3)

(※2) 矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』133頁(財経詳報社、平成27年)、松田直樹『租税回避行為の解明』18頁(ぎょうせい、平成21年)

(※3) 松田直樹前掲書(※2)18頁

これから、裁判例として、東京高裁昭和47年4月25日判決、東京高裁平成11年6月21日判決、大阪高裁平成14年10月10日判決、東京高裁平成16年1月28日判決についてそれぞれ解説していく予定である。

 

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

本事件は、金銭消費貸借契約により、株式会社三越から1億2,900万円の借入れがあることから、債務控除を行って相続税の課税所得を計算したところ、当該金銭消費貸借契約は租税負担回避のためになされた通媒による虚偽仮装のものであって無効であるから、これによって原告らに対する相続税の課税財産価額から控除すべき相続債務が生じたということはできないとして課税処分が行われた事件である。

そのため、第一審において、課税庁は「地上権設定の対価として授受する趣旨にあったものであり、これをあえて消費貸借の目的として授受する趣旨の契約に仮装したのは伊助が負担すべき所得税(当時は不動産所得)を回避する目的に出たものと解される」という主張がなされている。

本事件では、課税庁から相続債務の評価減についても主張されているが、本連載の論点とは異なるため、ここでは解説を省略するものとする。

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

被告は右契約内容が当時、契約当事者の置かれていた右経済的実情にそぐわないとし、それから推して、前記金銭の授受は当事者の真意においては地上権設定の対価たる趣旨であったのを、租税の負担を回避するため、消費貸借の目的たる趣旨に仮装したものであって、これによる金銭消費貸借契約は通媒による虚偽表示である旨を主張するが、右認定の事実からしても、伊助と三越とは前記各契約によって、それぞれ当時必要としていた財貨を取得するとともに、その約定によって互いに過不足のない取引をなしたものと認めるに難くないから、被告主張のような前提から契約当事者の真意を疑うのは当らない。そして、ほかには前記金銭消費貸借契約が通媒による虚偽表示であることを認むべき証拠はない。

(3) 控訴審

同族会社の行為計算の否認(法人税法132条、所得税法157条、相続税法64条)のほか一般的に租税回避の否認を認める規定のないわが税法においては、租税法律主義の原則から右租税回避行為を否認して、通常の取引行式を選択しこれに課税することは許されないところというべきである。

(4) 上告審、差戻控訴審

上告審(最高裁昭和49年9月20日判決・TAINSコード:Z076-3395)、差戻控訴審(東京高裁昭和50年3月20日判決・TAINSコード:Z080-3505)では、相続債務の評価減についてのみ争われているため、本稿では解説を省略するものとする。

(5) 評釈

このように、本事件では、租税法律主義に観点から、実質主義による租税回避の否認を認めなかった(※4)。もともと、経済的実質主義を認める考え方が主張されていた経緯としては、ドイツの経済的観察法の影響によるものとされているが(※5)、前述の通り、本判決以降では、経済的実質主義は認められないという考え方が主流となっていった。

(※4) なお、相続債務の評価減についての課税庁の主張は一部認められているため、必ずしも納税者が勝訴した事件とは言い難い。

(※5) 松田直樹前掲書(※2)18頁、谷口勢津夫『税法基本講義』36頁(弘文堂、第3版、平成24年)

本事件でも、金銭消費貸借契約を地上権設定の対価であると課税庁は主張しているが、法的実質主義の観点からもこのような主張は可能であると考えられる。第一審にて、「仮装」「通謀虚偽表示」という文言が主張されていることからもその余地は十分にあったと考えられる。しかし、そのためには証拠の積上げが必要となり、前回、解説したように、証拠のない事実認定は認められないということになる。

やや古い事件であるが故にやむを得ないのかもしれないが、現在から本事件を見てみると、課税庁の主張はやや乱暴であったのかもしれない。

次回では、岩瀬事件(東京高裁平成11年6月21日判決)について解説を行う予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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