〔平成28年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第2回】 「法人事業税及び地方法人特別税の見直し・ 欠損金の繰越控除限度額の見直し」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成27年度税制改正における改正事項を中心として、平成28年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第1回】は、「法人税率の引下げ」「地方法人税の創設」及び「法人住民税均等割の資本金等の見直し」について解説した。 【第2回】は、「法人事業税及び地方法人特別税の見直し」と「欠損金の繰越控除限度額の見直し」について、平成28年3月期決算において留意すべき点を解説する。 1 法人事業税及び地方法人特別税の見直し 平成26年度及び平成27年度税制改正において、事業税が大きく見直されている。平成26年度改正においては事業税所得割の税率引上げと、地方法人特別税の税率引下げが行われている。更に平成27年度改正において、外形標準課税の見直しが行われている。 ① 外形標準課税の適用対象でない法人 平成26年度税制改正により、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から、事業税所得割と地方法人特別税の税率が変更されている。平成28年3月期決算申告においては、税率の変更が必要である。 (※) 所得割額に対して乗じる税率 ② 外形標準課税の適用対象法人 ①で解説した通り、平成26年度改正により、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から、事業税所得割と地方法人特別税の税率が変更されている。しかし、平成27年度改正により、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から、外形標準課税について更なる見直しが行われている。 したがって、外形標準課税の適用対象法人の平成28年3月期決算申告においては、平成27年度改正による税率等が適用されることになるので、注意が必要である。 (※) 所得割額に対して乗じる税率 また、事業税資本割の課税標準についても見直しが行われている。平成27年4月1日以後に開始する事業年度から、事業税資本割の課税標準は、法人税法上の「資本金等」と、会計上の「資本金+資本準備金」のいずれか大きい方を用いることとされた。過去に自己株式の取得等により、資本金等の金額が減少している法人等は、税額が増加する可能性があるので、注意が必要である。 ③ 事業税付加価値割における所得拡大促進税制の導入 平成27年4月1日から平成30年3月31日までに開始する事業年度については、給与等支給額が一定額以上増加している法人において、一定額を付加価値割の課税標準から控除する制度が導入されている。 ④ 外形標準課税の負担増加の軽減措置 平成27年4月1日から平成29年3月31日までに開始する事業年度については、付加価値額が40億円未満の法人において、外形標準課税の拡大によって事業税の負担が増加することに対して、一定額を控除する制度が導入されている。 なお、この制度は平成28年度税制改正により拡充されることが予定されている。 2 欠損金の繰越控除限度額の見直し 平成23年12月の税制改正において、中小法人等を除き、欠損金の繰越控除限度額は、繰越控除前所得の100%相当額から80%相当額にまで引き下げられていた。これが、平成27年度税制改正によりさらに引き下げられている。 平成27年4月1日から平成29年3月31日までに開始する事業年度については、繰越控除限度額は繰越控除前所得の65%相当額にまで引き下げられているので、注意が必要である。 また、平成28年度税制改正により、平成28年4月1日以後に開始する事業年度については、繰越控除限度額の見直しが予定されている。 ただし、中小法人等については、引き続き繰越控除前所得の100%相当額を繰越控除限度額とし、引下げは行われていない。 (※) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) また、新設法人及び経営再建中の法人については、繰越控除限度額を引き下げることによる負担が大きいことから、次の通り特例が設けられている。 ① 新設法人 設立直後の法人については、一定期間内の事業年度においては、控除限度額を控除前所得の100%相当額とする特例措置が設けられている。 ② 経営再建中の法人 次のような事実が発生した経営再建中の法人については、一定期間内の事業年度においては、控除限度額を控除前所得の100%相当額とする特例措置が設けられている。 上記改正事項の詳細については、下記拙稿を参照されたい。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第3回】 「退社時の書類」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 従業員が退社した際に作成する行政手続書類のマイナンバー対応について教えてください。 〈A〉 従業員が退社した際に作成する行政手続書類のマイナンバー対応は、以下の(1)~(6)の通りである。 (1) 給与所得の源泉徴収票 〈提出時期〉 従業員が退社してから1ヶ月以内に会社が従業員へ交付する。 〈法人番号〉 従業員交付用は記載不要。税務署提出用は記載必要。図表1の青枠内に記載する。 〈個人番号〉 従業員交付用は記載不要。税務署提出用は記載必要。図表1の赤枠内に記載する。 図表1 給与所得の源泉徴収票(左:税務署提出用、右:従業員交付用) ※画像をクリックすると別ウィンドウでPDFが開きます (2) 退職所得の源泉徴収票 〈提出時期〉 従業員が退社してから1ヶ月以内に会社が従業員へ交付する。 〈法人番号〉 従業員交付用は記載不要。税務署提出用は記載必要。図表2の青枠内に記載する。 〈個人番号〉 従業員交付用は記載不要。税務署提出用は記載必要。図表2の赤枠内に記載する。 図表2 退職所得の源泉徴収票(左:税務署提出用、右:従業員交付用) ※画像をクリックすると別ウィンドウで大きい画像が開きます (3) 退職所得の受給に関する申告書 〈提出時期〉 退職金の支給日までに従業員が会社へ提出する。提出を受けた会社は、社内で保管する。提出しない場合、退職金に20.42%の税率を乗じた源泉所得税を徴収しなければならない。 〈法人番号〉 記載必要。図表3の青枠内に記載する。 〈個人番号〉 記載必要。図表3の赤枠内に記載する。 図表3 退職所得の受給に関する申告書 ※画像をクリックすると別ウィンドウで大きい画像が開きます (4) 雇用保険被保険者資格喪失届 〈提出時期〉 退社日の翌日から10日以内に会社がハローワークへ提出する。 〈法人番号〉 記載不要。 〈個人番号〉 記載必要。図表4の赤枠内に記載する。 従業員が個人番号の記載を拒否したり、会社が退社日までに個人番号を取得しなかったために個人番号の取得が困難になり、個人番号を記載せずにハローワークへ提出した場合であっても、ハローワークは受理する。ハローワークから個人番号の届出を督促されることはない。 後日、個人番号を取得できた場合は、個人番号を個人番号登録・変更届出書(図表5)の赤枠内に記載し、ハローワークへ提出する。 図表4 雇用保険被保険者資格喪失届 ※画像をクリックすると別ウィンドウで大きい画像が開きます 図表5 個人番号登録・変更届出書 ※画像をクリックすると別ウィンドウで大きい画像が開きます (5) 雇用保険被保険者離職証明書 〈提出時期〉 退社日の翌日から10日以内に会社がハローワークへ提出する。提出後、ハローワークから離職票-1、離職票-2、失業者向けパンフレットが会社へ交付され、会社は従業員へそれらを渡す。 離職票-1は、従業員の個人番号を記載する箇所がある(図表6参照)。ただし、従業員本人が個人番号を記載することとされているので、会社は記載不要である。 離職票-2は、雇用保険被保険者離職証明書の複写なので、以下の通り、法人番号、個人番号は記載不要である。 〈法人番号〉 記載不要。 〈個人番号〉 記載不要。 図表6 離職票-1 ※ 画像をクリックすると別ウィンドウで大きい画像が開きます (6) 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届 〈提出時期〉 退職日から5日以内に会社が年金事務所へ提出する。 〈法人番号〉 記載不要。 〈個人番号〉 記載不要。 (了)
財産債務調書の実務における留意点 【第2回】 「財産債務調書に記載する財産等の価額」 デロイト トーマツ税理士法人 ディレクター 税理士 飯塚 信吾 財産債務調書に記載する財産の価額は、その年の12月31日における「時価」又は時価に準ずるものとして「見積価額」による(国外送金等調書令12の2②、国外送金等調書規則12⑤、15④)こととされており、国外財産調書の規定が準用されている。 時価とは、その年の12月31日における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に成立すると認められる価額をいい、具体的には専門家による鑑定評価額、金融商品取引所等の公表する同日の最終価格などをいう(取扱通達6の2-8)とされ、財産評価基本通達が定める時価と同じである。 要するに、財産債務調書に記載する価額は、財産評価基本通達が定める時価のほか、国外財産調書と同様に時価に準ずるものとして見積価額によることが認められている。 ここで見積価額とは、事業所得における棚卸資産の場合にはその評価額、青色申告書を提出する者の不動産所得、事業所得及び山林所得に係る減価償却資産については、その償却後の金額とされているほか、それ以外の財産については、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的に算定した価額(取扱通達6の2-8)とされている。 見積価額の例示は、取扱通達において概要以下のとおり定められている(取扱通達6の2-9)。 * * * (文中、意見にわたる部分は筆者の見解であり、所属する組織の見解ではないので、ご留意いただきたい。) (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第5回】 「雑収入(従業員の横領による損害賠償請求権の収益計上)」 ~従業員の横領による損害賠償請求権を 収益に計上しなければならないと判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 前回に引き続いて、青色申告法人X社に対して行われた売上計上漏れ(損害賠償請求権に係る雑収入計上漏れ)を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成23年2月8日裁決(裁決事例集82号117頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (再掲) (注) 本裁決の事案における実際の理由付記の一部を筆者が加工している。 なお、ア及びイの部分に係る理由付記の十分性については前回検討したため、今回は、ウの部分に係る理由付記の十分性について検討する。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図と仕訳 (再掲) (1) 関係図 【X社の処理】 【本件更正処分】 (2) 仕訳 3 本裁決の判断 (再掲) 本裁決は、次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分の理由は、損害賠償請求権の雑収入計上漏れである。したがって、課税庁は、X社が帳簿書類に損害賠償請求権として雑収入計上していない100万円を、雑収入に計上すべきであるとして更正処分を行ったことになる。 そうであれば、損害賠償請求権(雑収入)として計上していないことの否認という広い意味において、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える(この点については、最高裁昭和38年12月27日第二小法廷判決・民集17巻12号1871頁、最高裁昭和54年4月19日第一小法廷判決・民集33巻3号379頁など参照)。 そうすると、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第二小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記(ウの部分に限る)は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 ア 本件理由付記に対する疑問 本裁決に係る審査請求において、課税庁は次のように主張している。 上記主張によれば、課税庁は、Rに対する損害賠償請求権の益金(収益)計上時期について、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から、判断を行うことになる(これは、いわゆる日本美装事件における東京高裁平成21年2月18日判決・訟月56巻5号1644頁の判示を参考とした主張であろう)。 しかしながら、本件理由付記には、このような観点から判断を行うのに必要な事実(Rによる不正行為の内容・手口など)の記載がない。したがって、本件理由付記に対して、次のような疑問や問題点が生じる。 以下、これらの疑問や問題点を踏まえて、本件理由付記の十分性を検討してみたい。 イ 根拠資料の摘示 ウ 理由付記の趣旨目的との適合性 ただし、別の考え方として、不法行為による損害賠償請求権については、損害発生時に発生・確定することが原則であることを重視して、本件理由付記は、本件ではこのような原則的な取扱いが当てはまらない特段の事情の存在を認めることはできないため、原則どおりの課税を行うことを記載したものであり、理由付記に不備はないという見解があり得る。 * * * 次回は、仕入取引の一部が架空であり、架空仕入れに係る仕入代金が代表取締役に返金されていると認定した法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第44回】 (最終回) 「日本IBM事件」 公認会計士 佐藤 信祐 平成27年3月25日に日本IBM事件の控訴審判決が下された。 日本IBM事件の第一審判決は、本連載の【第16回】から【第18回】で解説したが、控訴審判決の内容は、やや第一審判決と異なるものとなっている。 30 日本IBM事件控訴審判決(TAINSコード:Z888-1926) 控訴人(国)は、第一審では、①被控訴人を中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと、②本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること及び③本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められることを主張していたが、控訴審では、①及び③の主張を撤回した。 そのうえで、 とした。 これに対し、被控訴人(納税者)は、 と反論した。 これらの主張に対して、裁判所は、 と判断したため、控訴人の主張が一部認められたと考えられる。 さらに、 としたものの、本件一連の行為が、源泉所得税の圧縮の実現のために一体的に行われたものか否かについては、 と判示した。 このように、「独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合」にも、経済合理性基準により、同族会社等の行為計算の否認が適用できることを認めただけでなく、源泉所得税の負担を減少させるために行われたスキームであったことも認めながらも、本事件では、同族会社等の行為計算の否認の適用を認めなかった。朝長英樹氏の「国が本件の事実関係に関して『源泉所得税を減らすことを目的として本件一連の行為を行った』という見方を前面に強く打ち出して自らの主張を述べようとしたことが、かえって裏目に出た、という印象を受けます」(注1)という指摘は、本事件が、法人税の負担を不当に減少させたか否かを争っていることから、まさにその通りである。 (注1) 朝長英樹「検証・IBM事件高裁判決(第1回)」T&Amaster592号16ページ(平成27年) このように、日本IBM事件控訴審判決の内容は、どちらかというと訴訟戦術によるものが強すぎるため、今後の実務にはあまり参考にならないのかもしれない。東京高裁の判断も、控訴人の主張が変わっていれば、異なる結果になったことも否めないからである。 敢えて参考になる点を挙げれば、同族会社等の行為計算の否認が適用できる場合として、「独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合」を挙げた点であろう。しかしながら、この点についても、拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務(中央経済社、平成21年)』1頁において、「『通常用いられない法形式の選択』については、達成しようとする経済的成果に合理的な理由がない場合だけでなく、達成しようとする経済的成果に合理的な理由があるものの当該経済的成果を達成するために選択する法形式に合理的な理由がない場合も含まれるべきである」と指摘させていただいているため、従来の解釈と変わらないということになる。 前回、解説したヤフー・IDCF事件の控訴審判決と、今回、解説した日本IBM事件の控訴審判決は、いずれも組織再編・資本等取引に関する裁判例として注目されていたものであり、本連載のきっかけとなったものである。いずれの事件も細かな事実認定を除いては納得感のある判決であり、今までの実務とさほど変わらない内容となっているが、今後、本事件を受けて、さらなる研究が行われることが期待される。 * * * 本連載は、いったんここで終了させていただくが、別の連載(包括的租税回避防止規定の理論と解釈)を通じて、さらなる研究を続けたいと思う。 本連載が読者のお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)
税務判例を読むための税法の学び方【75】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その3:「生計を一にする親族」の範囲~最判昭51.3.18①) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 1 「生計を一にする」 税法の条文には、明確な定義がなされていないにもかかわらず、「生計を一にする親族」や「生計を一にするもの」というものが多く出てきており、様々な規定の適用に「生計を一にする」という要件が重要なものとなっている。 適用条文は、所得税法では大きく次の2つに区分することができる。 1つは、控除対象配偶者、扶養親族、寡婦及び寡夫の定義に関する規定(所得税法第2条)のほか、雑損控除(所得税法第72条)、医療費控除(所得税法第73条)等、所得控除に関する規定の適用要件である。 もう1つは、事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例(所得税法第56条)、事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等に関する規定(所得税法第57条)の適用要件である。 この所得税法第56条では、必要経費の特例として、生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金等の金額(条文は「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額」)は必要経費にならないと定めている(ただし同57条ではその例外として専従者給与を規定している)が、一方で、その親族がその収入を得るために支出した金額等については、「その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する」と、必要経費となるべきことを規定している。 この問題に関しては、「夫弁護士・妻弁護士事件」(最高裁平成16年11月2日判決)及び「夫弁護士・妻税理士事件」(最高裁平成17年7月5日判決)が有名である。 すなわち、お互いに独立した事業を営む夫婦間の弁護士報酬や税理士報酬が必要経費として認められるか否かが争点となっており、「夫弁護士・妻弁護士事件」での最高裁は、「生計を一にする親族が居住者と別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に所得税法56条の適用を否定することはできない」との判示が、立法趣旨の点からは問題あるという批判もあるが、「生計を一にする」の意義については何ら見解を示していない。 これから取り上げる昭和51年3月18日判決は、被引用判例の数は決して多くはないが、「生計を一にする」の意義について判示した最高裁判決として著名なものであり、また原審と最高裁が結論を異にしているため、2つの見解の相違を比較しながら「生計を一にする親族」のメルクマールが何かについて検討する。 2 概要 3 判決の構造 (1) 一般的法命題 この最高裁判決においては、「一般的法命題」は示されていない。 判決の中で、「主文」に続き「理由」が記され、その中で原判決が、当該事案について所得税法第56条に該当すると判断した事実認定を挙げた上で、その事実認定を否定している。 本連載【69】に、一般的法命題を欠いた判決を通常「事例判決」と呼ぶ旨記したが、この判決もこの事例判決の1つといえる。 (2) 事実認定 判決は、上記高裁の認定事実に続けて とした。 (3) 結論 上記事実認定を受けて「Dらと上告人とが生計を一にする関係にあったと判断し、上告人の本訴請求中被上告人Y税務署長に対して本件更正及び過少申告加算税賦課決定の取消を求める部分を失当とした原判決は、ひっきょう、所得税法56条の規定の解釈適用を誤り・・・」と判示している。 4 検討 (1) 高裁判決 高裁判決では、「生計を一にする」と認定して国側の主張を認めている。では何が判断を分けたのであろうか。 まず原審である高裁判決を入手し、読んでいただきたい。 この中で事実認定として(もっともこれは、当然、上記3(1)に記した「原判決が、当該事案について所得税法56条に該当すると判断した事実認定」と同じものとなる)以下を挙げている。 そして続けて「以上の事実によれば、前記両名は控訴人の印刷業を手伝い控訴人は右両名に対し生活費を支給して有無相扶ける関係にあるものと認めるのが相当であり、したがって右両名は所得税法(略)56条の控訴人と生計を一にする親族にあたるものというべきである」と結論付けている。 それに続けて「前記両名は昭和40年当時いずれも結婚して控訴人と別居していたことが認められるが、別居していても、生活費の面で有無相扶ける関係にあれば、生計を一にするものということができるから、右別居の事実は、なんら前記認定および判断の妨げとはならない」と判示し、結婚して別居していることは「生計を一にする」の判断に影響がないと判示している。 この点、最高裁は、「毎月支給を受ける右金員のうちから自らの責任と計算でそれぞれの家賃や食費その他の日常の生活費を支出し」ている点を重視している。一方高裁は、Xの長男次男への支払いにおけるその支払金額の計算根拠の曖昧な点や支払期日の不統一な点、源泉所得税の未徴収や賃金台帳がない点など、Xの給与支払いにおける不備なところを重視し、これを給与ではなく生活費と認定したのであった。 * * * 次回も引き続き本事案について検討を行うこととする。 (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第42回】 倉敷紡績株式会社 「特別調査委員会報告書(平成27年11月24日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【倉敷紡績株式会社の概要】 倉敷紡績株式会社(以下「クラボウ」と略称する)は、1888年(明治21年)3月創立。繊維事業、化成品事業をはじめとする事業を展開。国内17社、海外15社のグループ会社を有する〈同社webより〉。連結売上高169,755百万円、包括利益9,167百万円(数字はいずれも平成27年3月期)。従業員数4,628名。本店所在地、岡山県倉敷市。東京証券取引所一部上場。 【調査報告書のポイント】 1 不正行為が発覚した経緯 平成27年6月、元従業員A氏(平成27年6月末日退職)と、クラボウの中国子会社であるP社との取引において、①P社が立替払いをしていた検品代等の費用の未払い、②P社からの仕入商品に係る不適切な単価調整及び③P社への預け在庫に係る実地棚卸不備及び架空生地在庫の存在が明らかとなった。 社内調査の過程で、A氏が買戻し条件付取引を行っていたのではないかと疑われるメール等が発見されたことから、さらに事実確認を行った結果、A氏による買戻し条件付取引の存在が確定的であることが認められ、A氏による上記各不適切行為は、複数年度にわたり、かつ、その影響額も営業利益にして累計約4億円に及ぶ可能性が見込まれた。 そこで、クラボウは、本件に関しては、社内調査ではなく、弁護士、公認会計士等の外部専門家を含む特別調査委員会を設置して、さらなる調査を実施することが必要であると判断し、特別調査委員会の設置に至った。 2 調査報告書により判明した事実 (1) A氏による不適切行為の類型(報告書p.5以下) 報告書によれば、A氏による不適切行為は、グループ会社との間のものと、グループ会社も含む複数の社との間の買戻し条件付取引(循環取引)とに大別できる。 (2) A氏が不適切行為を行うに至った背景事情及び動機 A氏は、仕入業務及び販売業務の両方を担当し、また、単価調整等による重大な弊害についての問題意識を十分に有していなかった、とされている。さらに、当時の上司である課長は、「自身が過去に買戻し条件付取引を行っていた上、A氏による買戻し条件付取引等についても、これを認識しながら制止しなかった可能性が高い」(報告書p.17)ということであり、内部統制が機能していなかったことがうかがわれる。 そのうえで、A氏の動機としては、 などが挙げられている。 一方、過去に発覚した買戻し条件付取引の実行行為者に対する処分が「始末書を書いた程度」(報告書p.17)であったことから、「それほど重大なことではないと認識した」という、A氏における不正の正当化につながるような記述もみられる。 (3) 類似行為に関する調査(調査報告書p.18以下) 委員会が、A氏の行為と類似する行為の調査を行った結果、他に6人が買戻し条件付取引を行っていたことが判明した。それらの行為者の動機は、A氏と同じく、売上予算達成や長期滞留在庫の評価損の計上を避けるものであり、また、そのうち、B氏の上司については、A氏の上司同様、「買戻し条件付取引に気づきながら、これを容認ないし黙認していた」と評価されている。 (4) 長期滞留在庫の評価損計上ルール(調査報告書p.17) A氏による買戻し条件付取引が行われた当時、クラボウでは、各四半期末の時点で滞留期間が18ヶ月以上の長期滞留在庫は、帳簿価格の50%に相当する評価損を、当該在庫を担当する者又は課が負担するというルール(以下「18ヶ月ルール」という)があった。 報告書では、あくまで「当時」という表現が使われており、その後のルールの変化を想起させるものとなっているが、現在において、18ヶ月ルールがどのように運用されているかは、報告書にも、クラボウのリリースにも記述がないため、不明である。 (5) 人事査定制度(調査報告書p.26) ここまで見てきたように、買戻し条件付販売の動機としては、「18ヶ月ルールの適用を避ける」というものが多く見られたが、調査委員会によると、クラボウでは、成果報酬制や予算達成度合いを直接反映するような人事査定制度は設けられておらず、また、クラボウの繊維営業部門において、過度の売上偏重の風潮があったとも認められなかったということである。 3 再発防止策(調査報告書p.28以下) 調査委員会がまとめた再発防止策の概要は以下のとおりである。 特に目新しい提言ではないが、買戻し条件付取引では必ず協力者の存在が必要であることから、「(2) 環境の改善」で提言されている「取引先に対する積極的通報の要請」については、さらに報奨金制度のようなものまでも含めて、検討すべきではないかと思料する。 また、内部通報制度におけるリニエンシー制度については、「検討」することが提言されているが、損害の拡大を防ぐ意味でも、制度導入が望ましいであろう。 4 調査報告書の特徴 (1) 過年度決算への影響(調査報告書別紙) 報告書によれば、連結売上高の過大計上が1,018百万円、税引前利益の過大計上が288百万円であった。このうち、A氏の行為による影響がそれぞれ625百万円、291百万円となっている。これは、A氏以外の行為者による買戻し在庫は、調査時点ですでに処分がされているため、損益に与える影響が軽微であったことによるものである。 (2) 「会社ぐるみ」の行為とは認められないこと(調査報告書p.24) 特別調査委員会の調査によって買戻し条件付取引を行っていることが判明したA氏を含む7名以外にも、クラボウにおいては、買戻し条件付取引の発覚による従業員の処分がなされてきた。 そうした事実を解明してもなお、調査委員会は以下の理由から、「会社ぐるみ」とは言えないと結論づけた。 (3) 新たな従業員による不祥事の発生 クラボウが、特別調査委員会の調査期間中である、平成27年11月9日に公表した「グループ会社従業員による横領事案の発生について」というリリースでは、繊維部門グループ会社の営業補助担当であった従業員が、繊維原料を私的に転売して、現金を着服、その被害額は75百万円であることが説明されている。 この不正行為が、本特別調査委員会による調査の過程で発覚したかどうかは説明されていない。 (4) 会社側の再発防止策の概要 12月15日、クラボウは、本件不適切行為及び上記(3)の不正行為に対する再発防止策を公表した。会社側の再発防止策の概要は以下のとおりである(一部抜粋)。 なお、会社側の再発防止策では、調査委員会による提言の最初に記されている「トップマネジメントによる明確なメッセージの発出」に関しては触れられていない。また、本稿執筆時点(平成28年1月29日)において、クラボウ社のwebサイトにおける「トップメッセージ」も、平成27年6月からまったく変わっていない。 不適切行為にどう対応するのか、「トップマネジメントによる明確なメッセージの発出」の重要性を提言した調査委員会の報告書の理念は、残念ながら、十分に活かされてはいないのではないかと評価せざるを得ない。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第107回】 連結会計⑨ 「子会社の欠損」 仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:百万円) ×1年4月1日(A社設立) A社個別仕訳 当社個別仕訳 当社連結仕訳 ×2年3月31日(決算日) 当社連結仕訳 ×3年3月31日(決算日) 当社連結仕訳 (※1) 持分比率に応じて処理すれば、A社で計上した損失100百万円の30%である30百万円を非支配株主が負担することになりますが、非支配株主は出資額30百万円を上限として損失を負担するため、×2年度に非支配株主が負担した損失9百万円を控除した金額21百万円が×3年度における非支配株主の損失負担額となります。 その結果、×3年度末における当社の損失負担累計額は、A社で計上した累計損失130百万円から非支配株主が負担した累計損失30百万円を控除した100百万円となり、出資額70百万円を超えた金額となっています。 ×4年3月31日(決算日) 当社連結仕訳 (※2) ×4年度にA社が計上した当期純利益70百万円のうち、×3年度までに当社が負担していた出資額を超える30百万円の累計損失を優先的に回収し、残りの40百万円を持分に応じて非支配株主に按分することになります。この場合の非支配株主に按分する金額は40百万円の30%である12百万円となります。 〈会計処理の解説〉 1 法制度の確認 現行の会社法では、株主は出資額以上の負担をしない旨が規定されている(株主有限責任の原則)ため、原則として株主は欠損について責任を負いません。 A社は×2年度においては出資額を上回る損失を計上していないため、持分割合に応じて各株主が損失を負担することになりますが、×3年度に100百万円の損失を計上した結果、債務超過となっています。法律上は債務超過について当社も非支配株主も責任を負わないため、子会社の欠損について負担する必要はないということになります。 2 子会社で発生した欠損負担の実務対応 しかしながら、親会社は子会社の債務者に対して、保証債務等の契約に基づく責任を負う場合が多いだけでなく、親会社の経営責任や信用保持のための経営判断等から当該子会社の債務の肩代わりを行う可能性も高いと考えられます。 このような場合には、非支配株主が負担すべきA社の欠損金額は出資額を上限とし、それを超える部分については親会社である当社が負担することになります。×3年度はこの前提に立って会計処理を行っています。 3 子会社で欠損を相殺するほどの利益が計上された場合 株主有限責任の原則の見地から、当社はA社の欠損を負担する必要がないため、×4年度のように、A社で欠損を相殺するほどの利益が計上された場合には、当社が過去に負担していた欠損を優先的に相殺することになります。欠損の相殺を上回る利益が計上されている場合には、当該利益は通常通り持分割合に応じて非支配株主へ按分します。 4 特定の非支配株主との合意等が存在する場合 本稿の会計処理は、A社の欠損を親会社である当社が全額負担する前提に立っていますが、特定の非支配株主と当社又は他の株主や債権者との間でA社の債務の引受けなど、出資を超えた非支配株主による負担が合意されている場合があります。このような合意が存在する場合には、当該合意に基づいた負担額の配分を行う必要があります。 * * * 次回は、関連会社の債務超過の会計処理について解説します。 (了)
改正労働者派遣法への実務対応 《派遣先企業編》 ~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第4回】 「労働者派遣契約等の見直し」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【第4回】は、労働者派遣契約等の見直しについて検討する。 1 変更すべき書類 今回の改正により、派遣先が変更して整備すべき書類は、「労働者派遣契約」及び「派遣先管理台帳」の2点であり、変更すべき項目はそれぞれ以下の通りとなる。 (1) 労働者派遣契約 労働者派遣契約で締結しなければならない事項として、以下の3項目が追加されている。 ① [組織単位] 「個人」単位の期間制限では、同一の組織単位におけるに派遣可能期間は3年となるため、労働者派遣契約において派遣就業する組織単位を明確に定めるようになっている。 なお、組織単位を特定することができるよう、組織の名称や組織の長の職名を明記することとされている。 ② [紛争を防止するための措置] 労働者派遣契約終了後に派遣労働者を雇用する場合に、その雇用意思を事前に派遣元に示すことや紹介手数料を支払うこと等の派遣先と派遣元との紛争を防止するための措置を労働者派遣契約で定めることとされている。なお、紹介手数料を支払う取り決めは、派遣元が職業紹介事業を行っている場合に限られる。 ③ [無期雇用派遣労働者又は60歳以上の者に限定するか否かの別] 無期雇用者や60歳以上の者の派遣のみを受け入れる場合は、特例として期間制限の適用を受けないため、期間制限の適用を受けない労働者派遣に限定するか否かを労働者派遣契約で明確にしておく。 (2) 派遣先管理台帳 派遣先管理台帳に記載しなければならない事項として、以下の3項目が追加されている。 ① [無期雇用派遣労働者か有期雇用派遣労働者かの別] 募集内容の周知等、派遣労働者が無期雇用か有期雇用かにより対応すべき事項が異なるため、派遣先管理台帳に記録し把握しておく。 ② [組織単位] 労働者派遣契約で追加すべき[組織単位]((1)の①)と同様となる。 また、派遣先管理台帳に記載すべき事項のうち、派遣就業をした日の実績等については月に1回以上派遣元へ通知する必要があるが、その通知事項にも[組織単位]を追加する必要がある。 ③ [教育訓練を行った日時及び内容] 自社の従業員に対して業務関連の教育訓練を行う場合は、一定の場合を除き派遣労働者にも同様の教育訓練を行う配慮義務があるため、教育訓練を実施した場合はその内容を派遣先管理台帳に記録しておく。 2 確認体制 改正に対応した書類整備が行われているかは、法務等の契約を管理する部署や人事等の派遣先管理台帳を管理する部署が、書類の作成が必要になる都度確認して対応すればよいが、確認漏れを減らすためには、書類に記載すべき項目のチェックリストを作成してそれに基づいて確認する体制とするとより確実となるだろう。 3 対応スケジュール 労働者派遣契約については、平成27年9月30日以降に締結する契約から項目の追加が必要となる。 また、派遣先管理台帳については、平成27年9月30日以降に作成すべきものから項目の追加が必要となる。 なお、派遣先管理台帳は、派遣労働者を受け入れる都度作成するものであるため、平成27年9月30日以降新たに受け入れた派遣労働者のものだけでなく、改正前より引き続き受け入れている派遣労働者のものについても、項目の追加が必要となる。 * * * 労働者派遣契約や派遣先管理台帳は、派遣元が主体で準備し派遣先へ提供される場合も多いが、上記追加項目がきちんと記載されているか念のため確認をしていただきたい。特に派遣先管理台帳については、本来派遣先で作成すべきものであるため、派遣元から提供された資料を活用しつつ、派遣先で責任をもって整備する必要がある。 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第17回】 「養子と法定相続人(相続税の負担が不当に減少させる結果となる場合)」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに(相続税法上の養子縁組の制限について) 相続税の計算を行うに当たり、①基礎控除額、②生命保険金及び死亡退職金の非課税限度額、③相続税の総額の計算については、民法の定める法定相続人の数を基準とする。 例えば、①基礎控除額については、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が相続税の基礎控除額となり(相法15①)、②生命保険金及び死亡退職金の非課税限度額についても、「500万円×法定相続人の数」が非課税限度額となることから(相法12①五・六)、法定相続人の数が増えれば増えるほど相続税の負担を減少させる結果となる。 また、③相続税の総額を計算するに当たっては、法定相続分に応じた各取得金額に超過累進税率(高い取得金額部分には高い税率が課せられる)を乗じて計算されることから(相法16)、法定相続人の数が増えれば増えるほど相続税の負担を減少させることとなる。 しかしながら、昭和63年の相続税法改正により、上記相続税の計算を行う際の法定相続人の数に含める養子の数は、被相続人に実子がいる場合は1人まで、被相続人に実子がいない場合には2人までと制限されることとなった(相法15②)。 [2] 実子とみなされる養子 もっとも、特別養子縁組により養子となった者や、被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者(いわゆる配偶者の連れ子との養子縁組)は、相続税法上、実子とみなされる結果、たとえ、養子縁組が介在していたとしても、相続税法上の養子縁組の制限対象とはならない(相法15③、相令3の2、相基通15-2)。 すなわち、このような者は相続税法上、実子とみなされるため、たとえ複数人存在する場合であっても、相続税法上の養子縁組の制限において実子としてカウントされ、養子としてカウントされない。 [3] 法定相続人としての地位 以上の相続税法等の定めは、あくまでも相続税の計算を行うに当たっての相続税法等の制限であり、同相続税法等の定めを超えた民法上の養子縁組の効力や養子の相続人としての地位を否定するものではない。 たとえば、未成年者控除(相続人が一定の要件を満たす未成年者である場合、相続税の額から一定の金額を差し引くこと(相法19の3))は、実子のみならず、養子についても適用を受けることができるし、障害者控除(相続人が一定の要件を満たす85歳未満の障害者である場合、相続税の額から一定の金額を差し引くこと(相法19の4))についても同様である。 他にも、不動産の相続税評価額を下げるために、相続税法上の養子縁組の制限を超えても、あえて養子縁組を行うことで法定相続人の数を増やすことも考えられる。 たとえば、1筆の土地を1人が相続するのと比べ、土地を分割し何人かで相続する方が土地の道路づけや地形などにより、その土地の相続税評価額を安くすることができる場合などが考えられる。 逆に、養子が相続人としての地位を得ることで、考慮しなければならない事項も存在する。 たとえば、「相続開始前3年以内の贈与財産の相続財産への加算」(相法19)は、あくまでも相続や遺贈で財産を取得した人を対象とするもので、年間110万円の基礎控除の範囲内での贈与も含め、被相続人の死亡前3年以内になされた贈与は相続税の課税対象に加算されることになる。そのため、相続の発生が近いと考えられるケースでは、あえて法定相続人とはならない複数の親族へ贈与する選択肢も存在する。 [4] 養子の数の否認規定 相続税法第63条では、たとえ1人または2人の養子縁組であっても、相続税の負担を不当に減少させる結果となると税務署長が認める時は、これを否認して、相続税額を更正決定できるという「養子の数の否認規定」が規定されている。 「養子の数の否認規定」の解釈に関し、相続税法基本通達逐条解説では、 と解説されている(加藤千博編『平成22年版相続税法基本通達逐条解説』大蔵財務協会、2010年、641頁)。 ここでいう「専ら相続人の地位を有する者の増加だけにある」との「養子縁組の目的」は、あくまでも主観的なものであるため、その主観を裏付ける状況証拠の積み重ねによって課税庁が立証していくことになろう。 一般的には、相続開始により近い時期になされた養子縁組は、そうでない養子縁組に比べ、「専ら相続人の地位を有する者の増加だけにある」との目的が推認されやすいといえ、同居の親族や日頃から親密に交流していた者との養子縁組は、そうでない養子縁組に比べ、「専ら相続人の地位を有する者の増加だけにある」との目的が推認されにくいといえる。 もっとも、たとえ相続開始直前になされた養子縁組であっても、養子となる者が、日頃、被相続人が気に懸けていた孫などであった場合には、その者の将来の生計等を配慮してなされたともいえるのであり、一概に「専ら相続人の地位を有する者の増加だけにある」との目的であったと課税庁が立証することは困難といえる。 そのため、実際に養子の数の否認規定が適用された事例はないとも言われているが、規定が存在する以上、留意しておく必要はある。 なお、縁組意思や届出意思を欠いている養子縁組は、民法上も無効と解せられているので、ここにいういわゆる不当減少養子とは異なって相続人の地位すら有しないことになる(前掲書641頁)。 また、一部の養子について相続税の負担を不当に減少させる結果となる場合には、その不当な減少の原因となった養子だけを除いて計算することとされており、他の養子は法定相続人の数に含めて計算されることとなる。 (了)