『社外取締役』をめぐる 「交際費」の取扱い 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 社外取締役とは 「社外取締役」とは、会社の取締役であって、次のすべてに該当する者のことである。 取締役相互間の馴れ合い等から、取締役の経営監督機能が充分に機能しなくなる可能性があるため、社外の者を取締役に起用し、第三者的視点からチェックさせることで、取締役会の監督機能の強化を図ることが、社外取締役を設置する目的である。 会社法において、次の会社は、社外取締役の設置が義務付けられている。 また、上記に該当しない会社であっても、様々な目的のために社外取締役を任意で選任する会社が増加している。 2 社外取締役と交際費 ① 社外取締役をめぐる交際費課税上の問題点 平成26年度税制改正後の交際費課税の概要については、下記の拙稿を参照いただきたい。 現在の交際費課税では、いわゆる「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」の適用に関して、社外取締役の取扱いが問題となる。 なお、「5,000円基準」の概要と、「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」の関係については、下記拙稿を参照されたい。 ここで、「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」は、社内の者だけで行われる会食等には適用されず、会食等に「社外の者」が参加している場合にのみ適用される。 この点、「社外取締役」は名称に『社外』と付いてはいるが、その会社の取締役として選任されている以上、あくまで「社内の者」である。 したがって、会食等に社外取締役が参加したことを理由として、「5,000円基準」や「接待飲食費の50%損金算入」を適用することはできない。 ② 出向者の取扱いを確認 国税庁が公開している「接待飲食費に関するFAQ」のQ5(社内飲食費-出向者)では、出向者に関する取扱いについて解説されている。 その要点は次のとおりである。 この場合、次のとおりXが「どの立場で参加したか」によって、取扱いが異なる。 このように、出向者については、「出向元」あるいは「出向先」のどちらの役員等の立場で会食等に参加したのかによって、「社内の者」か「社外の者」かの判定が異なるとしている。 ③ 社外取締役の取扱いを検討する ここで、社外取締役についても、出向者の取扱いと同様に解することができると考えられる。つまり、社外取締役が会食等に「どのような立場で参加したか」で取扱いが異なると考えられる。 実務上、社外取締役として選任される者には、他社の現役役員や役員経験者、大学教授、弁護士・公認会計士等の有資格者などが多い。つまり、普段は全く別の立場を有し、業務を行っている場合も多いのである。 このような場合、「社外取締役としての立場」ではなく、「全く別の立場」で会食等に参加することもあるだろう。 具体的には、次のような事例である。 この場合、次のとおりXが「どの立場で参加したか」によって、取扱いが異なると考えられる。 このように、社外取締役についても出向者と同様、「自社の社外取締役」あるいは「別会社の役員等」のどちらの立場で会食等に参加したかによって、「社内の者」か「社外の者」かの判定が異なると考えられる。 なお、「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」を適用する場合、「飲食等に参加した得意先等の氏名又は名称及びその関係」を領収書等の書類に記録して保存する必要がある。 上記のように社外取締役としてではなく、あくまで取引先の役員等「社外の者」として参加していたことを理由に「5,000円基準」および「接待飲食費の50%損金算入」を適用する場合、課税庁から誤解を受けることのないよう、「社外の者」としての立場やその会食の目的等を明確に記録しておくべきであろう。 (了)
多様化する『生前贈与』の選択肢 ~大幅拡充の平成27年度改正を受け、どういう視点で検討すべきか~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 平成27年1月1日以後に生じる相続について、相続税の基礎控除額の引下げや最高税率の引上げなど大増税となる改正が行われ、今後は相続税の納税義務者となる人の数が増加し、さらに相続税の納付税額も従来よりも多額となることが想定される。 これら相続税の増税に対し、贈与税については納税者有利となる改正が行われ、生前に贈与した場合の非課税規定である住宅取得等資金の贈与や教育資金の贈与につき適用期限の延長、非課税枠の拡大が行われることとなった。 これらの規定以外にも、暦年贈与につき直系尊属からの贈与における特例税率の創設や相続時精算課税制度・事業承継税制の拡充が行われ、さらに平成27年4月1日からは、結婚・子育て資金を贈与した場合の非課税規定が創設されている。 したがって、従来からある贈与税の配偶者控除も含めると、生前に贈与した場合に非課税となる規定が多数存在することとなり、どの規定を選択するのかという観点から、慎重に対応しなければならない。 このように、相続税の増税規定と贈与税の非課税規定の改正がなされたことから、今後は、相続税の節税対策として各種の生前贈与規定を活用する生前贈与対策を検討することが有効的な手段となる。ただし、規定によっては、贈与者や受贈者に年齢制限があったり、贈与後の用途に制限があったりすることから、それぞれの規定の適用要件等を明確に把握した上で、顧客のニーズに合った規定を選択し、生前贈与対策を実施する必要がある。 以下では各規定の概要をまとめることとしたい。 上記のように、一言で「生前贈与対策」といっても様々な規定が存在し、どの規定を選択するのか、またはどの規定を組み合わせて適用するのかといった観点から多種多様の生前贈与対策が存在する。適用する規定によってはその対策の実施時期が重要となる場合もあるので、生前贈与対策を検討する際に注意が必要である。 また近年は、税制改正が頻繁に行われており、従来の生前贈与対策では節税効果を高めることができなくなる可能性もあることから、相続税や贈与税の改正はもちろん、他の税目の税制改正も確認した上で対策を講じなければならない。 具体的には、平成27年7月1日から施行された国外転出時課税制度や平成28年より施行されるジュニアNISA制度についても、生前贈与を前提とした規定が含まれていることに留意する必要がある。 (了) プロフェッションネットワーク主催の「最旬情報!『生前贈与対策』はこう使う~平成27年度税制改正にともなう4つの活用スキーム~」。 9月4日(火)開催のお申込み受付中です! お申込みは終了しました。 ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《平成27年度改正対応》 住宅取得等資金の贈与税非課税特例 【第3回】 「面積要件の留意点」 税理士 齋藤 和助 前回は、平成27年度改正により一部について認められることとなった「再適用」について、具体例をもとに適用の有無を確認した。今回は特例適用にあたって注意すべき面積要件について、次の具体例を使って確認してみたい。 【具体例】 ~二世帯住宅の場合~ 私は平成27年10月に、父から住宅取得等資金として1,500万円の贈与を受け、父が所有する土地に、父と持分2分の1ずつの二世帯住宅(省エネ等住宅に該当)を5,000万円で新築する予定である。 父は2,500万円を全額自己資金で、私は不足金額1,000万円を金融機関から調達する予定である。 新築家屋の合計床面積は300㎡であるが、住宅取得等資金の贈与税非課税特例(非課税限度額:1,500万円(【第1回】参照))は受けられるか。 【回答】 住宅取得等資金の贈与税非課税特例に係る面積要件は、親子などで共有する住宅の場合、床面積に共有持分を乗じて判断するのではなく、共有部分を含めた建物全体の床面積によって判断する。 したがって、床面積は300㎡となり、特例適用の面積要件50㎡以上240㎡以下に該当しないため、適用できない。 しかし、下図のように父と受贈者の持分部分を区分登記して建築することで、受贈者の専有部分は150㎡となることから、要件を満たすことができる。 ただし、父に相続の開始があった場合には、区分登記の二世帯住宅の父の専有部分は、特定居住用宅地等として小規模宅地の特例の適用ができないケースも考えられるため、相続を見据えて判断する必要がある。 【解説】 1 対象となる住宅の要件 (1) 住宅用家屋の要件 住宅取得等資金の贈与税非課税特例の対象となる「住宅用家屋」とは、特定受贈者(【第1回】参照)の居住の用に供する家屋で、次の要件を満たすものをいう。 なお、特定受贈者の居住の用に供する家屋が二以上ある場合には、これらの家屋のうち、特定受贈者が主として居住の用に供すると認められる一の家屋に限る。 (2) 建築後使用されたことのある住宅用家屋の要件 この特例の対象となる「建築後使用されたことのある住宅用家屋」とは、特定受贈者の居住の用に供する家屋で、次の要件を満たすものをいう。 なお、特定受贈者の居住の用に供する家屋が二以上ある場合には、これらの家屋のうち、特定受贈者が主として居住の用に供すると認められる一の家屋に限る。 2 床面積の判定 非課税制度の対象となる住宅用家屋は、1棟の家屋で、床面積が50㎡以上240㎡以下であることが要件である。 この床面積基準の判定に当たり、次に掲げる家屋については、それぞれに掲げる床面積により行う。店舗併用住宅や賃貸併用住宅、共有住宅の場合も、床面積の判定では対象物件の全体床面積で判定する。 3 区分登記 上記2(2)により床面積の要件を満たさず特例が適用できないような場合は、【回答】のように、受贈者の持分部分を分割して区分登記すれば、それぞれの専有部分は150㎡となり、面積要件(50㎡以上240㎡以下で、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること)を満たすため、特例適用が可能となる。 4 小規模宅地等の課税価格の評価減特例との関係 ただし、住宅取得時に、3のように特例の適用等のために区分登記すると、土地所有者(【具体例】の場合、父)の相続の際に、小規模宅地等の課税価格の評価減特例(措法69の4、以後「小規模宅地等の特例」)を適用する上で不利になる場合がある。 小規模宅地等の特例を受けることができる特定居住用宅地等の要件である「被相続人と同居していた親族」とは、その親族が、相続開始の直前において宅地上の被相続人の居住用の1棟の建物に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していることが要件である。 ここで、「1棟の建物」とは、当該被相続人、当該被相続人の配偶者又は当該親族の居住の用に供されていた部分として、次の部分とされている(措法69の4③二イ)。 つまり、②の共有登記である場合は、父と受贈者はたとえ構造上区分されていたとしても、区分登記ではないため、1棟の建物に同居しているものとされ、特定居住用宅地等の同居要件を満たすことになる。 しかし、①のように区分登記されていた場合は、父の区分登記の専有部分に同居者や適格者がいなければ、父の所有建物部分に係る敷地は特定居住用宅地等に該当しない。 したがって、区分登記のままでは、特定居住用宅地等として小規模宅地の特例の適用ができない場合がある。 これらのことから、今年度改正による適用要件だけを考えるのではなく、相続までを見据えた判断を行う必要がある。 (了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第9回】 「特定資産の買換えの場合の課税の特例の縮減・延長」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [9] 特定資産の買換えの場合の課税の特例の縮減・延長 1 改正の内容 連結親法人又は連結子法人が、平成14年4月1日から平成29年3月31日までの期間内に、土地等、建物又は構築物のうち所用期間が10年を超えるものから国内にある土地等(事務所等の敷地の用に供されるもの等で、その面積が300㎡以上のもの)、建物、構築物、機械及び装置等を買換資産として取得した場合に、一定の条件及び手続の下、その譲渡した資産の譲渡益の80%相当額について課税の繰り延べができる「特定資産の買替えの場合の課税の特例」(9号買換え特例)について、適用期限が平成29年3月31日まで2年3ヶ月延長されるとともに、対象資産及び一部の資産について課税繰延べ割合が見直された(措法68の78、68の80、措令39の106)。 (1) 対象資産の見直し 買換えの対象資産から、「機械及び装置並びにコンテナ用の貨車」が除外された(措法68の78①、措令39の106③)。 (2) 課税の繰延べ割合の見直し 「地域再生法の一部を改正する法律」(改正地域再生法)の集中地域以外の地域から集中地域への買換えの課税の繰延べ割合を75%、集中地域以外の地域から特定業務施設の集積の程度が特に著しく高い集中地域への買換えの課税の繰延べ割合を70%(改正前はいずれも80%)に引き下げられた(措法68の78⑭)。 なお、集中地域、特定業務施設の集積の程度が特に著しく高い集中地域、特定業務施設の範囲は、平成27年8月7日付けで公布された地域再生法施行令又は地域再生法施行規則において定められているが、その範囲はおおむね以下のとおりである。 2 適用時期 (1)の改正は、連結親法人又は連結子法人が平成27年1月1日以後に対象資産の譲渡をして、同日以後に買換資産の取得をする場合のその買換資産について適用する(平成27年所法等改正法附則93②)。 (2)の改正は、改正地域再生法の施行日(平成27年8月10日)以後に対象資産を譲渡し、同日以後に買換資産を取得する場合に適用される(平成27年所法等改正法附則93③、①十一)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第49回】 「法人税基本通達9-6-1(4)の具体的内容」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、法人税基本通達9-6-1(2)及び9-6-1(3)の取扱いについて解説を行った。 本稿においては、同通達9-6-1(4)に規定する書面による債権放棄について解説を行う。 4 書面による債権放棄 (1) 概要 法人税基本通達9-6-1(4)では、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」について、貸倒損失として損金の額に算入することが明らかにされている。 すなわち、①債務者の債務超過の状態が相当期間継続している、②金銭債権の弁済を受けることができないと認められる、③書面により明らかにするという3つの要件を満たす必要がある。このうち、③については、第35回で解説したように、昭和42年度の法人税基本通達の改正により、「当事者間の協議により締結された契約で公証力のある書面によるもの」ではなく、「書面により明らか」にされたもので足りることになった(昭和42年法基通78の2(4))。 民法上、債権の放棄は一方的な行為とされていることから(民法519)、書面により明らかにする必要はないはずであるが、客観性の問題もあり、法人税基本通達では書面により明らかにすることが求められている。なお、理論上は、公証力のある内容証明郵便である必要はないものの(※1)、実務的には、立証力を確保するために、内容証明郵便によるべきであると考えられる。 (※1) 渡辺淑夫ほか『法人税基本通達の疑問点』642-643頁(ぎょうせい、5訂版、平成24年) さらに、昭和42年度の法人税基本通達の改正では、「当該契約に基づく切捨てにより当該債務者に対して贈与したこととなると認められる場合において切り捨てられることとなるものを除く。」という文言が削除されたが、「わざわざかっこ書をおかなくても贈与となるものは貸倒れとならないことは当然であることから削除したものです。」(※2)と解説されている。 (※2) 桜井巳津男「貸倒れ・債権償却特別勘定の取扱い」税理11巻3号78頁(昭和43年) そのため、現行の法人税基本通達においても、上記②に掲げるように、金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合に限って、貸倒損失として損金の額に算入することができるのであって、寄附金に該当するものについては、損金の額に算入することができず、実務上も問題となる点である。 (2) 債務超過状態の相当期間の継続 前述のように、法人税基本通達9-6-1(4)では、債務者の債務超過の状態が相当期間継続していることを要求している。 この場合における債務超過状態の判定は、言うまでもなく時価ベースである。そして、「相当期間」を何年とすべきかについては、当時の法人税基本通達が定められた背景を考えると、3~5年とするのが通常であるように思えるが、現在の経済環境や金融機関における不良債権の処理状況を考えると、必ずしも、3~5年と考えるのが相当であるわけでなく、より柔軟に考えるべきであろう。 すなわち、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し」という文言は、その後に続く「その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」という文言の枕詞に過ぎないものであり、金銭の弁済を受けることができないと認められるかどうか、換言すれば、寄附金に該当しないかどうかという点が重要であると考えられる。 (3) 消滅時効が完成した債権 消滅時効が完成したとしても、債務者が時効を援用しない場合には、法的に債権が消滅したことにならないため、債務者が時効を援用した場合に限り、貸倒損失として損金の額に算入することができるとされている(※3)。 (※3) 中村慈美『貸倒引当金制度廃止後の不良債権処理の税務 要点解説』34頁(大蔵財務協会、平成24年)、森文人「貸倒損失等の法人税法上の取扱いについて」租税研究743号233頁(平成23年) しかしながら、時効が援用されれば、すべての場合において貸倒損失として損金の額に算入することができるかと言えば、その点については慎重に考えるべきである。 なぜならば、とりわけオーナー社長の親族に対する債権については、請求されないまま放置されているケースが少なからず存在し、容易に消滅時効が完成している場合も少なからず存在する。そのような場合には、当該消滅時効の完成は、やむを得ず生じたものではなく、当初から積極的に回収するつもりがなかったものであり、半ば贈与の意図があったのではないかという疑念が生じることも少なくない。 このような場合には、寄附金又は役員給与として、損金の額に算入することを否定すべきであると思われる。さらに、贈与を受けた債務者としては債務免除益を認識する必要があり、所得税の課税対象になるという問題も生じる。 そのため、実務上、時効を援用させるというよりも、債務者の財産状態や将来所得の状態を考慮しながら、特定調停手続等を用いたうえで、回収不能部分に限って債権放棄を行うことにより、債権者側における損金算入の問題だけでなく、債務者側の債務免除益の問題も同時に解決することを検討すべきであると考えられる。 なお、実務上は、これらの判断はかなり曖昧なものであり、相当に慎重な対応が求められるということは言うまでもない。 (4) 金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合 第48回で解説したように、特定調停手続による法人に対する債権放棄については、法人税基本通達9-4-2で検討することとされたため、同通達9-6-1(3)(4)に該当するケースとしては、債務者が自然人であるケースが主流になると考えられる。 これに対し、債務者が法人である場合に必ずしも同通達9-6-1(3)(4)に該当するケースがないかと言えば、同通達9-4-2は、子会社等に対する債権放棄に限定されており、「子会社等」とは、「当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる」としていることから、これに該当しないものであれば、同通達9-6-1(3)(4)に該当することはあり得よう。 具体的には、かつては取引があった者に対する金銭債権であっても、もはや回収可能性が乏しいことから、弁護士を通じて和解を行ったうえで、回収不能な部分について債権放棄を行った場合には、これに該当する可能性は十分にあり得よう。また、特定調停手続のすべてが同通達9-4-2に該当するわけではなく、事業関連性が乏しくなった者に対する調停であれば、同通達9-6-1(3)(4)に該当することから、特定調停手続により債権放棄を行う場合も該当し得る。 しかしながら、同通達9-6-1(4)の適用は貸倒償却であるという理由から、債権放棄後の経営支援は矛盾することから認められないという指摘があるという点は留意する必要があろう(※4)。 (※4) 高橋俊樹『実例に学ぶ金融機関の債権償却』100-101頁(金融財政事情研究会、第5版、平成24年) また、担保物件が無処分である場合には、原則として、当該担保物件の処分による回収が未確定であり、必ずしも、債権の回収可能性がないとは言い切れない場合があるため、合理的に回収不能見込額を見積もって債権放棄を行ったとしても、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすことはできないという点に争いはないと思われる。しかしながら、国税庁のHPの質疑応答事例では、「担保物がある場合の貸倒れ」として、「担保物の処分による回収可能額がないとは言えないケースであっても、回収可能性のある金額が少額に過ぎず、その担保物の処分に多額の費用が掛かることが見込まれ、既に債務者の債務超過の状態が相当期間継続している場合に、債務者に対して書面により債務免除を行ったときには、その債務免除を行った事業年度において貸倒れとして損金の額に算入されます。」と解説されており、実務上も参考になると考えられる。 (5) 連帯保証人が存在する場合 実務上、連帯保証人が存在する場合には、当該連帯保証人に対する責任追及をどこまで行うのかという点が問題となる。 この点につき、連帯保証人が自己破産等の法的整理を行う場合には、それ以上の保証責任を追及することができなくなるため、特に問題にはならない。 これに対し、自己破産等の法的整理を行わないのであれば、連帯保証人の弁済能力からして最大限の回収を行ったうえで、回収することができない部分について、書面によりこれ以上の保証責任を追及しないことを明らかにするのであれば、貸倒損失として損金の額に算入することができると考えられる。 この場合における回収不能の判断については、貸倒引当金の通達ではあるものの、法人税基本通達11-2-7において、連帯保証人が個人であって、次のいずれにも該当する場合には、個別貸倒引当金の計算において、連帯保証人からの回収可能額を考慮しないことができる旨が明らかにされており、貸倒損失を計上する場合における回収可能性の判断でも参考にすることができると考えられる。 ① 当該保証人が有する資産について評価額以上の質権等が設定されていることなどにより、当該資産からの回収が見込まれないこと。 ② 当該保証人の年収額が当該保証人に係る保証債務の額の合計額の5%未満であること。 すなわち、連帯保証人が有する資産のすべてを換価し、借入金の弁済に充てたうえで、残った保証債務の額が当該連帯保証人の年収の20倍以上である場合には、当該連帯保証人からの回収が見込まれないと考えられるため、書面によりこれ以上の保証責任を追及しないことを明らかにするのであれば、貸倒損失として損金の額に算入することができる可能性はあると考えられる。 (6) 損害賠償金に対する未収債権 法人税基本通達2-1-43において、他の者から支払いを受ける損害賠償金の額は、その支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入することを原則とするものの、実際に支払いを受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することも認めている。 そのため、実際に支払いを受けた日の属する事業年度に益金の額に算入するのであれば、損害賠償金に対する未収債権が貸し倒れたとしても、そもそも計上されていない債権に対する貸倒れであるため、法人税の計算上、何ら影響を受けない。 しかしながら、その支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入する手法を選択した場合において、その後の経済状況により当該未収債権の債権放棄を行うときは、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすか否かを別途検討する必要がある。この点については、同通達の要件を満たすか否かの通常の判断と変わらない。 次回では、法人税基本通達9-6-2の取扱いについて解説を行う予定である。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第12回】 「継続的取引の基本となる契約書①(売買契約)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は製造会社です。 商社との間で、商品売買を行うことの基本契約書を作成しましたが、課税文書に該当しますか。 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当し、印紙税額4,000円となる。 なお、納税義務者は売主甲と買主乙であるが、丙の所持する文書も課税の対象となる。 [検討1] 第7号文書の要件(令26①) 第7号文書の要件は、特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者の間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する2以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの(令26①抜粋)とされている。 事例の製品売買基本契約書は、第7号文書の要件の、営業者の間において売買に関する2以上の取引を継続して行うために作成される契約書で、2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類(甲の製造する電気器具)、対価の支払方法(月末締切り、翌月10日銀行振込み)を定めるものであり、第7号文書に該当する。 [検討2] 連帯保証人に関する事項 第11条(保証人の義務)において、丙が連帯保証人となる旨の定めがあるが、主たる債務の契約書に併記する保証契約は、第13号文書(債務の保証に関する契約書)から除かれている(第13号文書の課税物件名欄かっこ書)。 ただし、併記された債務の保証契約を変更又は補充する契約書の場合は、債務の保証契約のみが記載されることとなるので、第13号文書に該当することとなる。 (例) ※この場合、債務の保証の変更は第7号文書の重要事項にはあたらないため、第7号文書には該当しない。 ▷ まとめ ◆2以上の取引の意義 令26条第1号に規定する「2以上の取引」とは、契約の目的となる取引が2回以上継続して行われることをいう(基通別表第17号文書4)。 ◆目的物の種類の意義 令26条第1号に規定する「目的物の種類」とは、取引の対象の種類をいい、その取引が売買である場合には目的物の種類が、請負である場合には仕事の種類・内容等が、これに該当する。また、当該目的物の種類には、例えばテレビ、ステレオ、ピアノというような物品等の品名だけでなく、電気製品、楽器というように共通の性質を有する多数の物品等を包括する名称も含まれる(基通別表第17号文書8)。 ◆対価の支払方法の意義 令26条第1号、第2号及び第4号に規定する「対価の支払方法を定めるもの」とは、「毎月分を翌月10日に支払う。」、「60日手形で支払う。」、「借入金と相殺する。」等のように、対価の支払に関する手段方法を具体的に定めるものをいう(基通別表第17号文書11)。 ◆納税義務者 一の課税文書を2以上の者が共同して作成した場合には、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある(法3②)。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第9回】 「重要性の有無の判定方法①」 ~「枝葉末節」は担当者ベースで判断 公認会計士 石王丸 周夫 今回は「明らかに僅少な額」を使った重要性判断について解説します。 「明らかに僅少な額」とは、【第4回】で解説したとおり、一番細かい“ふるい”にもひっかからないような、微小な粒にたとえられる金額のことでした。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 「明らかに僅少な額」という概念は、知っていて損はしません。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《明らかに僅少な額の求め方》 「明らかに僅少な額」とは、重要性の基準値よりごく少額な水準の額のことです。 会計監査の実務では、これを以下のように求めています。 重要性の基準値に対して一定の割合を掛けて、十分に小さな値となるように求めるのです。基本的には、重要性の基準値が変動すれば、それに伴って「明らかに僅少な額」も変動します(⇒したがって、問題9のウの記述は誤りです)。 上の式で気になるのは、「一定の割合」を何%にするかでしょう。 実務的には、5%にしている監査人もいれば2%にしている監査人もいます。イギリスの監査実務では平均4%という調査結果もあります。 ちなみに、日本公認会計士協会から公表されている監査基準委員会報告書450には、以下のように説明されています。 (監査基準委員会報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」A2項) つまり、「何%」ということは書かれていません。「重要性の基準値の一定の割合にしなければいけない」といったことも書かれていません。はっきりとした決まりはないのです(⇒したがって、問題9のアの記述は正しいです)。 《「明らかに僅少な額」が意味すること》 「明らかに僅少な額」が会計監査においてどういう意味を持っているのかということも、ぜひ知っておきましょう。 その点についても、前出の監査基準委員会報告書450で以下のように説明されています。 (監査基準委員会報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」第4項) 監査では、発見された決算数値の誤り(虚偽表示)を集計して、それが決算書に与えている影響を見極めます。その際、「明らかに僅少な額」以下の虚偽表示は集計対象に含まれないのです。 ごく少額な誤りは決算書への影響を無視できるので、あえて集計しなくてもよいというわけです。 《監査役や経営者にも報告されない》 「明らかに僅少な額」以下の虚偽表示が虚偽表示として集計されないということが、何を意味するかおわかりでしょうか。 会計監査では、発見事項を監査役や経営者に報告します。その主な内容は、未修正となっている虚偽表示です。監査人が発見した決算書の誤りで、会社側がそれを修正していない事項です。監査役や経営者は、未修正の虚偽表示に関する報告を受けて、それを本当に修正しなくてよいかどうか判断するわけです。 その未修正の虚偽表示に、「明らかに僅少な額」以下の虚偽表示は含まれません。ということは、「明らかに僅少な額」以下の間違いというのは、監査役や経営者に報告されず、経理担当者レベルで認識されるにとどまるということになります。 以上から、監査人は「明らかに僅少な額」以下の残高や取引を積極的に検証することはしていません(⇒したがって、問題9のイの記述は誤りです)。仮にそこから誤りが検出されたとしても、金額的に問題にならないので、検証の必要性がないのです。 たまたま、他の重要な項目の監査手続を実施している中でそうした誤りを検出した場合は、監査調書に記載し、会社の経理担当者に伝えますが、監査意見の形成に影響が出ることはありません。 《担当者ごとにそれぞれ判断してよい》 「明らかに僅少な額」が監査でこのように取り扱われることを前提とすれば、経理実務ではこれを利用して重要性判断を行うことができます。「明らかに僅少な額」以下のものは、上司に相談せずに、個々の担当者の判断で重要性が乏しいとするのです。 「明らかに僅少な額」は、虚偽表示の集計の対象外であり、監査人も検証しないような金額なので、個々の担当者の判断で重要性が乏しいとみなすことができます。複数の経理担当者が、それぞれこのような判断を行って、明らかに僅少な額以下の虚偽表示の修正を見送ったとしても、それらの集計額は財務諸表の適正表示に影響を与えることはない、そういうロジックなのです。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第91回】 連結会計⑧ 「持分法による損益の取込み」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈仕訳〉(単位:百万円) (※1) 持分法による投資利益の金額の計算 持分法による投資損益200=持分法の対象となる利益800×持分比率 25% 〈会計処理の解説〉 当社は、X1年10月1日よりB社を持分法適用会社としているため、同月日以降のB社の損益(持分法の対象となる利益800百万円)を対象に、持分法による投資利益を算定する必要があります。具体的には、持分法の対象となる利益800百万円に持分比率(25%)を乗じて、持分法による投資損益(200百万円)を算定します。 また、持分法の対象となる損益のうち、当社の持分比率に応じた金額をB社株式の簿価に加減算し、当該金額を当社の損益として計上する必要があります。そのため、持分法の対象となる損益(800百万円)に持分比率(25%)を乗じた金額(200百万円)をB社株式の簿価(連結貸借対照表上、投資有価証券)に加算し、同額を持分法による投資利益として計上します。 ※9月は、人件費に関する会計処理について解説します。 (了)
社外取締役の教科書 【第5回】 「『コーポレート・ガバナンスの実践』 (経済産業省報告書)が示すもの(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 経産省研究会による報告書の公表 経済産業省は、平成27年7月24日、有識者により構成された「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」における議論の成果を「コーポレート・ガバナンスの実践 ~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」という報告書に整理した。 本報告書は、奇しくも、東芝における不適切会計問題が世間に衝撃を与え、我が国におけるコーポレート・ガバナンスのあり方が揺らいでいる状況下で公表される結果となった。 同書の内容は、今後の社外取締役の職務・活動内容等のあり方を考える上でも参考になることから、当初の予定を変更し、今回と次回にかけて、その概要を紹介したい。 2 総論-我が国企業を取り巻く環境の変化と対応の必要性 本報告書は、まず、総論として、次に述べるような一般的状況を確認している。 すなわち、本格的なグローバル競争が熾烈なものとなっている現状において、企業の「稼ぐ力」を向上させていくためには、短期的な業績ではなく中長期的な収益性・生産性を高めることこそが重要であると指摘している。この点に関するこれまでの我が国の取組み・実績は、十分とはいえなかった。 今後は、中長期的な生産性を高めるため、株主や取締役等といった各立場に対するインセンティブをどう付与していくかという制度設計ないし環境整備が重要となるといえる。 以上のような一般論そのものには、特に異論はないところであろう。 【第1回】で説明した近時におけるハード・ローとソフト・ローの両面からのコーポレート・ガバナンスの整備・強化の傾向は、本報告書が示すのと同様の問題意識によるものである。 ここで重要なことは、以上のように共通の問題意識を背景にした提言・立法・ルール化が、あらゆる方向から、重層的になされているという現状である。 これは取りも直さず、コーポレート・ガバナンスの強化が我が国の経済活動の根幹を支えるほどに重要なものと認識されている証拠である。単なる法令遵守という“綺麗ごと”にとどまらず、自由主義経済体制を前提に、企業が「より業績を伸ばす」、「より成長する」という“実利”を獲得していくための基盤づくりとして、コーポレート・ガバナンスの強化が必須だという理解である。 このような観点は、今後よりいっそう各方面で重要さを増していくものと考えられる。 3 各論-中長期的な生産性向上のための基本的考え方と具体策 以上の目的を実現するため、本報告書は次の4つの観点の充実化を挙げている。 4 ここまでのまとめ 以上のように、本報告書は、中長期的な企業価値の向上にはコーポレート・ガバナンスの強化・実践が必要であることを広く論じるものであるが、その中でも社外取締役の役割に寄せられた期待は大きいといえる。 社外取締役制度は、間違いなく、我が国企業を取り巻く“トレンド”の一翼を占めるに至っていると言ってよいであろう。 次回は、より具体的な実践例を参照すべく、本報告書に添付されたプラクティス集より、社外取締役の監督機能の面に関連した取り組み例を紹介する。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第1回】 「税理士が資金調達支援を行うメリット」 ~他の専門家との差別化を図る~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 税理士が資金調達支援を行う大きなメリットは、「他の専門家との差別化を図ることができる」という点にある。そこで、まず同じ税理士との差別化にどう資するのか、さらに税理士以外の専門家との差別化にどう資するのか、解説を行っていく。 1 新規顧客獲得のためのツールとしての資金調達支援業務 税理士業界は年々競争が厳しくなっており、他の税理士と差別化を図ることは多くの税理士にとって重要な問題である。その差別化の一手段として、資金調達支援を検討するわけであるが、実のところ資金調達支援を業務として行うことができる税理士は多くない。 相続税や資産税などの専門分野に特化している税理士が、これまで融資に関する業務に携わったことすらない、というのはよくある話ではあるし、そうでない税理士においても、おおよそ7、8割の税理士は資金調達支援を業務として行ったことがない、行うことができない、というのが実情であろう。 実際に、筆者がこれまで資金調達支援の相談を受けた中小企業で、会計士や税理士が役員を務めていたことも少なくない。つまり、それらの専門家が自らが役員を務める企業の資金調達支援を行うことができなかったということである。 さらに具体的なメリットとして、資金調達支援が直接新規顧客の獲得に繋がるケースもある。筆者の経験談ではあるが、関東圏にある不動産仲介会社から「資金調達支援が必要なのだが、現在の顧問税理士に相談しても『支援したことがない、できない』と言われてしまった。あなたの事務所に支援をお願いできないだろうか?」という依頼を受け、実際に支援を行い、資金調達できたことがあった。それをきっかけとし、その企業は数年来続いていた前任税理士との顧問契約を打ち切り、筆者の事務所に顧問先を変更することになった。 2 資金調達支援は既存顧客に対するサービス向上にも繋がる 1で説明した内容は新規顧客獲得という点からのメリットだが、さらに既存顧客への対応という点でも差別化に資するメリットがある。 税理士の交流会に足を運ぶと、「毎月、毎月、会社に訪問するのだけれども、何を話せば良いか分からない」という声をよく聞くし、筆者も資金調達支援に取り組む前は同じような悩みを持っていた。年に1回、税務申告時に顔を合わせる程度では、経営者との信頼関係も構築しづらく、何かのきっかけで税理士を変えられてしまうのではという不安が払拭できない。 そこで存在感をアピールしようと毎月訪問してはみても、何を話せば良いか分からない。税法改正の説明を毎月繰り返すわけにもいかないし、週刊の税務雑誌に書いてある記事をネタにしても経営者の反応は薄い。決算見込みが固まらないうちは具体的な節税提案も難しい。もちろん税務調査の対応では存在感を示せるかもしれないが、調査は通常数年に一度しかない。さらに調査の結果次第では逆に顧客喪失の危険がある。 こういった悩みを抱える税理士も、資金調達支援を行うことで、既存顧客との信頼関係を深めることができる。業績が悪い時は、運転資金の調達需要があるし、業績が良い時は事業投資や新店舗の出店などの資金需要がある。経営者と会話する機会を増やすことができる。 「金融機関からの借り入れだって毎月あるわけではないだろう」と思われるかもしれない。確かにそのとおりである。しかし、本連載の後半で解説するが、資金調達支援ノウハウは経営改善支援にも応用できる。それを活用すれば、資金需要がない場合でも、経営者に対して存在感を示すことができ、既存顧客への対応の点でも、他の税理士との違いを打ち出すことができる。 3 独占業務ではない資金調達支援における、税理士の持つ優位性 次に、税理士以外の他の専門家との差別化について解説する。 資金調達支援は、特定の資格者に認められた独占業務ではない。他の専門家、例えば中小企業診断士などのコンサルタントや行政書士も、資金調達支援のサービス提供が可能である。 しかし、税理士はこれら専門家との差別化が図りやすい。なぜなら「会計の専門家」という強みを有しているからである。金融機関に提出する財務関係資料の信用度は、他の専門家が関与した場合よりも、税理士が関与した場合の方が高い。金融機関に対する信用面で税理士は有利に立てるのである。 また、通常クライアントである企業と継続的な顧問契約を結んでいる、という点でも税理士は有利である。継続的な関係を結んでいることで、会社に資金調達支援が必要になった場合、迅速に対応することができ、他の専門家に対してスピード面で有利に立てる。 他の専門家は、一時の契約という形が一般的で、迅速な対応は難しい。相談を受けるまでに時間がかかるであろうし、受けた後も、会社の事業内容や資金調達の目的を理解するための時間が必要になる。 つまり、税理士は「信用」と「スピード」の面で他の専門家に対し強みを持ち、優位な立場で資金調達支援を行うことができる。逆にいえば、資金調達支援を行わない税理士は、その資格が持つ強みを活かせていないということである。 4 税理士であるからこそ、資金調達支援を 以上、資金調達支援業務は税理士にとって他の税理士、また他の専門家に対して差別化ができるというメリットがあることを説明した。税理士としての強みを明確にしたいと思う場合は、選択肢の1つになる。 支援業務の経験が無いと、特別な知識が必要なのではないか、敷居が高いのではないか、という印象を持つかもしれない。しかし、会計の専門家であれば、つまり税理士であれば支援業務を行うことは可能である。会社側としても、別の専門家に依頼するよりも、現在の顧問税理士に依頼した方が効率的であることは言うまでもない。 もし資金調達の相談を受ける機会があったら、それを逃さず、一度、取り組んでみるべきである。 * * * 次回は、「資金調達支援における税理士の役割」について、つまり税理士は、会社と金融機関との間で、仲介者としての役割を果たすことができる、という点について述べる。 (了)