現代金融用語の基礎知識 【第25回】 (最終回) 「日本版スクーク」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 日本版スクークとは まずスクークとは、利子を生じさせる社債を取り扱うことができないイスラム社会の企業や投資家でも取り扱うことができる、イスラム法(シャリア)に沿った金融商品であるが、実質的には社債と同様の性質を有するものである。 そして、日本版スクークとは、日本企業がイスラム社会の投資家に対して発行するスクークである。 【第7回】の「イスラム金融」で触れたように、イスラム金融においては利子の受け取りを禁じているため、こうした金融商品が考え出されたのである。 2 日本版スクークの仕組み スクークは、利子が発生しないもののはずであるが、実質的には社債と同様の性質を有するものである。それはどういうことか? イスラム金融において、銀行は顧客から利子を受け取ることができないとされているが、顧客から実質的に利子に相当するものを受け取り、それを利子には当たらない形のものにしている。スクークにおいても、実質的に利子に相当するものが発生するが、それを利子には当たらない形のものにしているのである。 日本版スクークには様々な形態があるが、一例として下図のようなものがある(「資産の流動化に関する法律」に規定される「特定目的信託」の「社債的受益権」を活用する)。 まず企業が所有する不動産を特定目的信託の受託者に信託したうえで(①)、投資家が日本版スクークの発行代わり金を企業に支払い(②)、企業が日本版スクークを投資家に発行する(③)。 そして、企業は信託した不動産を受託者から賃借し(④)、受託者に賃料を支払い(⑤)、その賃料を原資とする分配金が受託者から投資家に支払われる(⑥)。 日本版スクークの償還時は、企業が信託した不動産を受託者から買い戻し(⑦)、受託者に代金を支払い(⑧)、その代金を原資とする償還金が受託者から投資家に支払われる(⑨)。 なお、ここでは、日本企業が日本版スクークを発行する場合を想定して説明しているが、外国政府や外国企業が日本で日本版スクークを発行する場合もあり得る。そうした日本版スクークは「サムライ・スクーク」といわれる(外国政府や外国企業が日本で発行する円建ての債券を「サムライ債」という)。 また、イスラム社会の投資家だけでなく、日本の投資家が日本版スクークを購入することも可能である。 3 税制上の取扱い 税制上、投資家が受ける日本版スクークの分配金(上図⑥)は、社債の利子と同様に取り扱われる。 また、企業と受託者の間で行われる不動産の信託(上図①)と買戻し(上図⑦)は、法人税法及び消費税法上、不動産の譲渡として取り扱われないほか、その移転登記に係る登録免許税と不動産取得税も非課税とされている(不動産の買戻しに当たっては、一定の要件を満たした場合に非課税)。 4 日本版スクークの将来 【第7回】の「イスラム金融」において、「近い将来、イスラム金融は、決して特殊ではない普通の金融取引の一つとなるのかもしれない」と述べたが、現在ではイスラム金融という言葉をよく耳にするようになり、イスラム金融が普通の金融取引の一つとなりつつあるように思われる。 海外投資家に対する日本版スクークの分配金に係る非課税措置や、日本版スクークの発行に伴う不動産の買戻しに係る不動産免許税の非課税措置は、平成28年3月31日が適用期限とされているのだが、おそらく延長されることになるだろう。 日本版スクークも、近い将来、決して特殊ではない普通の金融商品の一つとなるだろう。 (連載了)
実務家による実務家のための ブックガイド -No.1- 井ノ上陽一 著 『ひとり税理士の仕事術』 〈評者〉 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 私も「ひとり税理士」である。職員を雇う予定もなければ、規模を拡大する気持ちもない。おそらく、本書の著者である井ノ上陽一氏に、考え方はかなり近い。とはいえ、共感できない部分も少なくはない。 たとえば、著者は、「はしがき」の中で、「ひとり税理士を提唱する理由」として、次の3つを挙げている。 1 お客様のため 2 税理士業界のため 3 自分自身のため わが身に置き換えて考えてみると、「3 自分自身のため」という理由が最も近いのではあるが、その中身は、著者の主張する「人件費をまかないきれなくなる可能性もある」ことではなく、「一人でいることがもっとも楽だ」ということに尽きる。「お客様」や「税理士業界」のことを思って、「ひとり税理士」という形態を選んだわけではない。 そうした相違点もまた、読んでいて面白いところである。 著者の文章の特徴を一言で表せば、センテンスが短く、難しい言葉を使わないで、どんどん読ませるという点にある。本書は250ページ余りの体裁であるが、私は、90分くらいで読んでしまった。それだけのスピードで読んでいても、記憶に残るフレーズが随所に現れる。 130項目にわたる仕事術+「独立を後押しするナインストーリー」の中で、印象に残ったフレーズをいくつか。 「仕事」ではなく、「人」=「自分」で評価されることを目指す 季節性のない仕事を増やす努力 「徹夜明けの医者に手術をしてもらいたか?」 税務会計ソフトを使う=IT化と考えてはいけない 勉強にならない仕事はさけるべき 基本的には税理士業務に直接結びついた「仕事術」が多く紹介されているのだが、会社員の読者にとっても、仕事をするうえで参考になる考え方も数多く示されている。また、読み進むうちに、著者のストイックさに驚かされる場面も少なくない。 最後に、「税理士事務所の経験なしに独立できる?」という項目について、私の見解を少し。 著者は、この問いに対し、「税理士事務所に勤務しないと経験できないことがある」ことをデメリットとして挙げたうえで、「変なクセ」「古い慣習や固定観念」にとらわれないだけゼロベースで独立した方がいい部分も多い、と説明する。私も税理士事務所勤務経験がない状態での独立だったため、実務はまったくの手探りでスタートした。とはいえ、1年もすれば、たいていの経験はできるものである。そうした実感からも、著者の「仕事を必死にこなすことで、独立後に経験を積むことができる」という解説には大いに頷けるのであった。 試験勉強中の税理士志望者のみなさんがこの本を読めば、合格後の自分の生き方が具体的に見えてくることは間違いなく、それが勉強を続けるモチベーションになるのではないだろうか。また、組織で仕事をしている方(必ずしも税理士とは限らない)にとっては、自分の生き方を考え直すきっかけになるのではないだろうか。 ITの進化は、働き方をどんどん多様化している。税理士業界もまた、大きな変動期を迎えている。 そうした変動期に相応しい実務書として、本書をとりあげた次第である。 (了) 〔書籍情報〕 ひとり税理士の仕事術―雇われない・雇わない働き方 仕事も人生も楽しむ税理士 井ノ上 陽一 大蔵財務協会、2015年7月 ISBN:978-4754722388 Amazonで詳しく見る
《速報解説》 外国人旅行者向け消費税免税制度、 対象下限額の引下げ等さらに拡充へ ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 石田 修朗 1 概要 平成27年12月16日に公表された「平成28年度税制改正大綱」(与党大綱)において、好調に拡大する外国人旅行者による旅行消費の経済効果を地方に波及させる観点から、平成26年度・27年度改正に続き、外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充が決まった(大綱P86)。 改正項目は次の通りである。 上記の改正は、平成28年5月1日以後に行われる課税資産等又は輸出物品販売場の許可申請について適用される。 2 国家戦略としての背景 政府は「2030年には訪日外国人旅行者数3,000万人を超えることを目指す。」(2012年:836万人、2014年:1,341万人)としており、2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2015-未来への投資・生産性革命-では、「2,000万人が訪れる年に、外国人観光客による旅行消費額4兆円を目指す」、「地方の免税店数を約6,600店(2015年4月)から、2017年に12,000店規模、2020年に20,000店規模へと増加させる」などを目標としている。 その具体的施策として、免税手続カウンター制度を活用した「免税商店街」の実現に向けて自治体、商工会議所、商店街関係者に強く働きかけを行うこと、商店街が「免税商店街」化にあわせて行うキャッシュレス決済に必要な端末、免税システム、Wi-Fi機器の導入等への支援を拡充し、地方において外国人旅行者が快適に買い物できる環境づくりを進めること、などが挙げられる。 3 免税店を取り巻く環境 平成26年10月改正における免税対象品目の拡大、平成27年4月改正における免税手続カウンター制度やクルーズ埠頭における臨時の免税店届出制度の導入により、免税店数はこの1年で約3倍(平成26年10月1日:9,361店、平成27年10月1日:29,047店)と順調に増加している。 しかし、その内訳をみると、平成26年10月1日現在の三大都市圏の免税店数の全体に対する比率は66.9%、平成27年4月1日現在のそれは65.1%となっており、都市圏にその多くが集中している状況は改善されていない。地方においてよく売れている民芸品・伝統工芸品等は、少額な販売が多く、現行の最低購入金額である1万円に満たないことが多いこともその要因の一つであろう。 また、現行の免税手続カウンター制度は、「特定商業施設」内の店舗が免税販売手続を他の事業者である免税販売手続事業者に委託できるという制度であり、商店街なら商店街内に設置する必要があり、近接するショッピングセンターと共同で免税手続カウンターを設置することは認められていない。 免税販売の現場では「購入記録票の作成」や「購入物品の包装」など、手数のかかることも多く、商店街内に免税手続カウンターを設置することの障壁にもなっている。 4 改正の与える影響 免税対象物品の購入下限額が「5,000円以上」に引き下げられたことで、従来の電化製品だけでなく、民芸品や伝統工芸品等が対象物品として扱われることになり、地方都市においても免税店が増加し、免税販売の流れが加速するであろう。 また、ショッピングセンター運営事業者が商店街振興組合法上の組合の組合員である場合等には、そのショッピングセンターとその組合に係る地区又は地域を一の「特定商業施設」として、免税手続カウンターを共同で設置することが認められることになるため、中小商店街における免税販売への障壁が下がり、外国人旅行者の中小商店街での消費が拡大するものと予想される。 さらに、外国人旅行者が免税対象物品を購入した場合に、その物品を免税店から海外へ直送するときは、「購入記録票の作成」の省略が可能になること、また、外国人旅行者から提出を受けた「購入者誓約書」の保存について電磁的記録によることが可能になることが決定し、外国人旅行者および免税販売事業者双方にとって手続が簡素化される。 5 実務上の対応 免税対象物品の最低購入金額が「5,000円以上」に引き下げられたことにより、地方都市においても「輸出物品販売場許可」を申請するケースが増加するものと思われる。 それに伴い、従来は「課税売上」が売上のほぼすべてを占めていた地方都市の民芸品や土産品を扱う店舗において、消費税法上の「免税売上」が発生する可能性が高まることが予想される。 【参考図】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 財務省ホームページより (了)
《速報解説》 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例 (3,000万円控除)が創設 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 内山 隆一 平成27年12月16日、平成28年度税制改正大綱が公表された。 近年社会問題となっている空き家問題について、地域住民の生活環境を整備し、より住みやすい環境を確保する観点から、適切な管理が行われない空き家の増加を抑制するため、相続により取得した一定の家屋で旧耐震基準しか満たしていないものを、耐震改修して売却した場合や、建物を取り壊してその敷地を売却した場合の譲渡所得について3,000万円の特別控除を適用することができる制度を導入することが盛り込まれており、その内容は次のとおりである。 1 空き家に係る譲渡所得の特別控除の内容 相続開始の直前において被相続人のみが居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築されたものに限り、マンション等の区分所有家屋を除く。以下「被相続人居住用家屋」という)及びその敷地の用に供されていた土地等を相続により取得した個人が、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に、次の2のいずれかの譲渡をした場合で、次の要件を満たすときは、その譲渡に係る譲渡所得について、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用することができる。 2 特別控除の対象となる譲渡 〔追記(2015/12/24)〕 (※) 財務省ホームページより 3 特例を受けるための手続 この特例は、確定申告書に、その被相続人居住家屋及びその敷地の用に供されていた土地等が上記2(1)又は(2)の要件を満たすことを地方公共団体の長等が確認した旨を証する書類等の添付をすることを要件として適用する。 4 その他 今回の大綱では、本特例を相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税額の取得費加算)との選択適用とするほか、居住用財産の買換え等の特例との重複適用など所要の措置を講ずる旨が盛り込まれている。 【参考図】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国土交通省ホームページより (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 役員給与税制、譲渡制限付株式による給与やROE連動型報酬等、 「攻めの経営」への対応を図る ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成27年12月16日、与党(自由民主党及び公明党)より平成28年度税制改正大綱が公表された。本年度においても、経済の「好循環」を確実なものとするため、企業が収益力を高めて前向きな国内投資や賃金引き上げに一層積極的に取り組んでいくよう促す観点から、引き続き成長志向の法人税改革が盛り込まれている。 その中で、企業の「稼ぐ力」の向上に向けた「攻めの経営」を促すべく、企業経営者に適切なインセンティブを付与するため、役員給与をめぐる税務上の取扱いについても改正されることとなった。 本稿では、平成28年度税制改正大綱に含まれた役員給与税制の見直しについての解説を行う。 2 改正前の制度の概要 法人の役員給与については、以下の区分のいずれかに該当するものは損金の額に算入される(法法34①)。 3 現行制度の問題点 法人税における役員給与の取扱いは、もともと、役員給与の支給の恣意性を排除して適正な課税を実現するという観点で整備されたものである。 平成18年度の税制改正において、それまで「報酬」か「賞与」という形式的な基準で損金算入の可否を定めていた取扱いを改め、「支給額に恣意性があるかどうか」との観点から損金算入の可否を判断することとされた。 この中で、恣意性の排除された「事前確定届出給与」及び「利益連動給与」について損金算入が認められることとなったとはいえ、特に利益連動給与については、法人の利益と連動して設定されるため課税上の弊害が最も大きいと考えられ、損金算入のための厳格な要件が付されている(法令69⑥~⑩)。 このことがネックとなって、経営者のインセンティブを確保するための柔軟な報酬設計が困難な状況となっているとの指摘がなされていた。 この点、平成27年8月25日に経済産業省より公表された「平成28年度税制改正に関する要望」においても、『役員報酬税制に関する上場企業の声』として、以下のような意見が紹介されていたところである。 4 改正の概要 平成28年度税制改正大綱では、わが国企業の「稼ぐ力」向上に向けた「攻めの経営」を促すべく、企業経営者に適切なインセンティブを付与するため、役員給与における多様な株式報酬や業績連動報酬の導入促進等を図る観点から、事前確定届出給与及び利益連動給与の取扱いについて、以下の2点の改正が行われることが盛り込まれた。 (1) 事前確定届出給与に係る改正事項 役員報酬として付与された一定の譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)による給与について、事前確定の届出を不要とすることで損金算入の対象とすることとされた。 この点に関し、法人が、個人(役員及び使用人)から受ける将来の役務の提供の対価として一定の譲渡制限付株式を交付した場合には、その役務の提供に係る費用の額は、原則として、その譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度の損金の額に算入することとされた。 すなわち、役員に対して一定の譲渡制限付株式を交付した場合には、その譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度において、役員給与として損金算入できるということになる。 この改正は、平成28年4月1日以後に交付の決議がされる譲渡制限付株式について適用される。 (2) 利益連動給与に係る改正事項 利益連動給与の算定指標の範囲にROE(自己資本利益率)その他の利益に関連する一定の指標が含まれることを明確化することとされた。 (了) ↓お勧め記事↓
《速報解説》 不動産登記に係る登録免許税の軽減措置の延長等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 平成27年12月16日、与党(自由民主党と公明党)による「平成28年度税制改正大綱」が公表された。 大綱で明らかとなった登録免許税に係る主な改正事項は、次のとおりである。 1 復興支援のための税制上の措置 ▷新設 復興整備事業(被災市町村が集団移転促進事業により取得した土地を利用する事業に限る。)が実施される一定の区域内の土地に関する権利を有する者が、平成28年4月1日から平成33年3月31日までの間に復興整備事業の用に供するためにその土地に関する権利を被災市町村に対して交換により譲渡し、交換により区域外の土地の所有権を取得した場合における土地の所有権の移転登記に対する登録免許税を免税とする措置を講ずる。 ▷延長 株式会社商工組合中央金庫が受ける抵当権の設定登記等に対する登録免許税の税率の特例に係る適用期間の延長の特例の適用期限を、平成33年3月31日まで延長する。 ① 不動産等の抵当権の設定の登記又は登録(本則:1,000分の4) ② 航空機等の抵当権の設定の登記又は登録(本則:1,000分の3) ③ 工場財団等の抵当権等の設定の登記又は登録(本則:1,000分の2.5) 2 租税特別措置等 ▷延長・拡充 (1) 特定創業支援事業による支援を受けて行う株式会社の設立の登記に対する登録免許税の税率の軽減措置について、適用期限を2年延長する。 ① 適用対象に次に掲げる会社の設立の登記に加え、登録免許税の税率を下記のとおり軽減する。 ② 事業を開始した日以後5年を経過していない個人が特定創業支援事業による支援を受けた場合における会社の設立の登記を適用対象に加える。 (2) 特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成30年3月31日まで2年間延長する。 (3) 認定低炭素住宅の所有権の保存設定登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成30年3月31日まで2年間延長する。 (4) 特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を平成30年3月31日まで2年間延長する。 ▷廃止 信託会社等が地方公共団体との信託契約に基づき建築する特定施設に係る土地等の所有権の信託登記に対する登録免許税は適用期限をもって廃止されることとなった。 (了)
《速報解説》 史上初、固定資産税での設備投資減税が創設、 赤字中小企業にも節税効果 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 平成27年12月16日に公表された「平成28年度税制改正大綱」(与党大綱)により、中小企業者等が新たな機械装置の投資をした場合の固定資産税の特例措置が創設されることとなった。 ローカルアベノミクスのさらなる浸透による地域経済の活性化に向けて、地域の中小企業による設備投資の促進を図ることが目的である。 1 制度の概要 「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」(※1)の制定を前提に、中小企業者等(※2)が、この法律の施行日から平成31年3月31日までの間において、「認定生産性向上計画(仮称)」に記載された「生産性向上設備(仮称)」(2を参照)のうち一定の機械装置(新品)の取得をした場合には、その機械装置に係る固定資産税(償却資産税)について、課税標準を最初の3年間、価格の2分の1とする。 (※1) 「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」は、平成28年1月に召集される第190回通常国会に提出される予定。 (※2) 「中小企業者等」とは、次の法人又は個人をいう。 ① 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人 ② 資本若しくは出資を有しない法人の場合、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 ③ 常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人 2 対象となる機械装置 対象となる機械装置は、次の①から③までのいずれにも該当するものとなる(※3)。 (※3) 既存の設備投資減税(生産性向上設備投資促進減税)の支援要件(①160万円以上、②生産性1%向上(10年以内に販売開始)、③最新モデル)から、中小企業への配慮から、③の最新モデル要件が除外されている。 【参考図】 (※) 経済産業省ホームページより 3 期待される効果 史上初の固定資産税での設備投資減税であり、赤字法人にも課される固定資産税を軽減することで、赤字比率の高い中小企業の設備投資意欲を高める効果が期待される。 (了)
《速報解説》 固定資産税は遊休農地への課税強化、 農地中間管理事業のための賃借権等設定に係る2分の1軽減措置 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 島田 晃一 以下では平成28年度税制改正大綱(与党大綱)で示された農地に係る固定資産税の課税強化及び軽減措置について解説する。 1 農地の固定資産税評価額の計算 農地の固定資産税評価額は「農地評価」と「宅地並み評価」に区分される。 このうち農地評価となる農地は、都市計画区域外にある農地、都市計画区域内にある農地で市街化調整区域・非線引区域にある農地、及び、三大都市圏の特定市の市街化区域農地で生産緑地指定がされたものである。 農地評価は将来にわたる農地利用が前提になるため、その農地の収益力を考慮して算定される。結果として、全国平均の評価額が1㎡あたり70円ほどで宅地の約500分の1と非常に低い金額になっている。 具体的には、各市町村内において田又は畑の別に状況類似地区を区分し、その地区内の農地から標準田又は畑が選定される。状況類似地区内の農地の価額は当該地区の標準田又は畑の価額に比準して計算される。 標準田又は畑の価額は、正常売買価格といい当該地区内の農地の売買実例を参考に定められた金額に0.55の割合を乗じて評定される。これは農地ごとの収益力の差を考慮し、評価に安全性を持たせるためである。 2 平成28年度における改正事項 (1) 遊休農地に対する課税の強化 平成28年度における改正では、耕作がされていない遊休農地のうち農業委員会による農地中間管理機構の農地中間管理権(農地を担い手に貸し付けることを目的とする賃借権又は使用貸借による権利をいう)の取得に関する協議の勧告を受けたものについて、正常売買価格に乗じていた0.55の割合を乗じないこととすることとされた。 これにより、対象遊休農地の固定資産税評価額及び税額は改正前の約1.8倍になる。 この改正は平成29年度から実施される。 各市町村に設置されている農業委員会は、毎年1回農地の現況を調査し、その農地が1年以上耕作が放棄されており今後再び耕作される見込みがないと認められるような場合は、農地所有者に対し自ら再び耕作をするか、農地中間管理機構に貸し付けるか、又は、農地中間管理機構以外の者に貸し付けるかといった意思を確認する利用意向調査を行う。 仮に意向調査から6ヶ月以内に回答がなかった場合、意向調査では自ら耕作すると回答しても実際には6ヶ月を経ても耕作を開始する様子がないような場合には、農業委員会から農地所有者に農地中間管理機構が農地中間管理権を取得するよう同機構との協議を行うことが勧告される。 平成29年度以降は、この勧告の段階で固定資産税評価額引上げの対象にされることになる。最終的に勧告に従わないときは、都道府県知事の裁定により、同機構が農地中間管理権を取得できるよう措置される。 なお、農地中間管理機構とは各都道府県に設置されている組織で、農業の継続が困難であるなどの理由等で農地を貸したい者から農地を借り受け農地としての管理を行い、一方で、農地を借りたい新たな担い手に対して農地を貸し付けることを主な業務としている(必要であれば基盤整備等の条件整備も行う)。 (2) 農地中間管理事業のための賃借権等の設定 10a(1,000㎡)以上の農地を所有する者が、所有するすべて農地に農地中間管理事業のための賃借等を設定し、かつ、賃借権等の設定期間が10年以上である農地の固定資産税・都市計画税については、次表のように評価額が軽減される。 この軽減措置は大綱では「2年間に限り講ずる」とされているが、平成28年度から2年間の間に賃借権等の設定を行った場合なのか、遊休農地に対する課税強化と同様に平成29年度からなのかは現段階では明らかにされていない。今後の情報を待ちたいところである。 (了)
《速報解説》 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例、 対象法人を縮小し適用期限2年延長 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 伊村 政代 12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)において、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例について適用期限の2年延長が決まった。ただし、次の通り対象法人の見直しが行われているため留意されたい。 Ⅰ 概要 この制度は、青色申告法人である中小企業者等が30万円未満である減価償却資産を取得した場合に、その取得価額相当額をその事業年度の損金の額に算入することができる制度である。 通常の減価償却であれば、取得価額相当額を耐用年数に応じた率で按分した金額を当期の減価償却費として損金算入するが、この制度では、取得事業年度での即時償却が認められる。 この制度の適用を受けるためには、事業供用日の属する事業年度において取得価額相当額を全額損金経理し、明細書を確定申告書に添付することが必要である。 Ⅱ 改正の沿革 平成15年の税制改正において創設された制度であり、創設以来、適用期限が延長されてきたものである。現在、平成15年4月1日から平成28年3月31日までの間に対象資産を取得等し、事業の用に供した場合に適用することができることとなっている。 12月16日に公表された「平成28年度税制改正大網」(与党大綱)によれば、対象法人から従業員数1,000人超の法人を除外した上、この適用期限が平成30年3月31日まで2年延長される。 つまり、改正前においては法人税の規定により定義される中小企業者のうち、青色申告法人であるすべての中小企業者及び農業協同組合等について適用があったが、改正後はそのうち資本等を有する中小企業者であっても、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人は適用ができなくなる。 Ⅲ 適用にあたっての留意点 1 適用対象となる法人 (※1) 「中小企業者」とは、次の法人をいう。 ・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち大規模法人との間に一定の支配関係のないもの。 ・資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 ・なお、増資や減資により資本金の額が事業年度中に増減した場合には、事業供用日の現況により判定する。 〈適用対象法人のポイント〉 2 適用対象となる資産(今回改正による変更なし) (※2) 取得価額は税務上の金額であるので、購入対価に引取運賃や取付け費用などの付随費用を加算した金額である。 (※3) 30万円未満であるかどうかの判定は通常取引される単位とする。したがって、1台、1組、1そろい等で判定することとなる。ただし、適用を受けようとする資産が複数であり、これらの取得価額の合計額が年300万円を超えるときは、その合計額のうち年300万円に達するまでの取得価額の合計額とする。なお、事業年度が1年未満であるときは、300万円をその月数で按分した金額を限度とする。 (※4) 有形、無形減価償却資産のほか、所有権移転外リース取引により取得をした資産、中古の資産も適用資産に該当する。 【参考図】 (中小企業庁ホームページより) 3 適用除外となる資産(今回改正による変更なし) 取得価額が10万円未満であるものは、法人税法上の少額の減価償却資産に該当し、その規定が優先的に適用される。また、一括償却の適用を受けるものについても、この制度の適用はない。 なお、租税特別措置法上の特別償却、税額控除、圧縮記帳との重複適用はできない。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置、 適用期限を2年延長 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 伊村 政代 12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)において、中小企業者等のみ認められている現行の「欠損金の繰戻し還付制度」が2年延長されることとなった。 Ⅰ 制度の確認 この制度は、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(欠損事業年度)において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる制度である。 ただし、次の欠損金額については、その適用が停止されている。 Ⅱ 平成28年度改正事項 上記Ⅰにおける②の不適用措置の適用期限は、平成28年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額となっているが、「平成28年度税制改正大綱」(与党大綱)により、その期限が平成30年3月31日まで2年間延長されることとなった。 つまり、今回の改正によって、中小企業者等以外の法人にあっては、欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる事業年度が2年間先送りとなったのである。 Ⅲ 適用にあたっての留意点 1 適用対象となる法人 欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる法人は、次の各期間に終了する各事業年度によって異なる。 2 還付金額の計算 3 適用の要件 この制度の適用を受けるには、次の要件をすべて満たさなければならない。 (了)