検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10446 件 / 8381 ~ 8390 件目を表示

法人税に係る帰属主義及びAOAの導入と実務への影響 【第9回】「改正の内容⑧」

法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第9回】 「改正の内容⑧」   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   3-1-18 PEの定義 (1) 恒久的施設の定義 PEの範囲は変更されていないが、改正前の規定の場所が課税標準の定めの場所にあったのに対して、法人税法2条12号の18、法人税法施行令4条の4の定義規定の場所に移された。 PEを有しない外国法人が再びPEを有することとなった場合には、再進出日に当該外国法人が設立されたものとみなして、青色欠損金又は災害損失金の繰越控除及び期限切れ欠損金の損金算入の規定を適用する(法法57①、58①、59、142②)。つまり、こうした欠損金を再進出日以降に損金算入することはできないことになる。 (2) みなし事業年度 《改正前》 外国法人はPEの有無とその種類によって課税の範囲が異なっていたため、それらが変化した際に事業年度を区切る(みなし事業年度を認識)こととされている(旧法法14二十三、同二十四)。 《改正後》 PEの種類の違いによる課税所得の範囲の違いがなくなったことから、みなし事業年度についても所要の整備が行われた(法法14二十三・二十四)。 PEを有しない外国法人が事業年度の途中でPEを有することになった場合は、その事業年度開始の日からその有することとなった日の前日までの期間を、その有することとなった日からその事業年度終了の日までの期間をそれぞれ事業年度として区分する。 PEを有しないこととなった場合は、有しないこととなった日までと翌日から事業年度終了の日とまでの期間をそれぞれ事業年度とする(法法14二十四)。 (参考)   (「平成26年度税制改正の解説」(財務省)754頁)   3-1-19 外国法人の内部取引に係る課税の特例(独立企業原則の適用) (1) 制度の概要 PEを有する外国法人の本店等とPEの間の内部取引の対価の額が独立企業間価格と異なることによりPE帰属所得の計算上益金に算入すべき金額が過大になる場合又は損金の額に算入する金額が過大になる場合には、恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の規定の適用については、その内部取引は独立企業間価格によるものとされた(措法66の4の3①)。これは関連者間の移転価格税制の内容と同じである。 (2) 独立企業間価格の算定 内部取引に係る独立企業間価格は、移転価格税制における独立企業間価格と同様に算定することとされた(措法66の4の3②、措令39の12の3①)。 当然であるが、比較対象取引には内部取引は含まれない。比較対象は第三者間取引であることを要するからである。 (3) 内部寄附金の損金不算入 PEから本店等に対する寄附に相当する内部取引が行われた場合には、国外関連者に対する寄附金と同様に全額損金不算入とされた(措法66の4の3③)。 (4) 比較対象企業に対する質問検査等 内部取引に関する独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類又はその写しが遅滞なく提示又は提出されない場合における同業者に対する質問検査権の行使による情報収集(措法66の4の3④)、推定課税(措法66の4の3⑪において準用する措法66の4⑥)等についても、移転価格税制と同様とされた。 (5) 文書化 内部取引に係る独立企業間価格算定に必要と認められる書類が関連取引の規定に準じて定められた(措規22の10の3①一、措規22の10の3①ニ)。 (了)

#No. 110(掲載号)
#小林 正彦
2015/03/12

貸倒損失における税務上の取扱い 【第38回】「法人税基本通達改正の歴史⑦」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第38回】 「法人税基本通達改正の歴史⑦」   公認会計士 佐藤 信祐   昭和54年度から昭和55年度の間には、法人税基本通達等の総点検が行われており、第一次分は昭和54年10月18日付直法2-31通達、第二次分は昭和55年5月15日付直法2-8通達、第三次分は昭和55年12月25日付直法2-15通達として公表されている。 このうち、子会社支援損失についての通達は第二次分として新設され、貸倒損失についての通達は第三次分として改正されている。 本稿では、これらの通達のうち、第二次分の改正である子会社支援損失について解説を行う。   7 昭和55年度法人税基本通達改正における子会社支援損失の取扱い 第6回から第8回までで解説したように、昭和53年3月30日において、大阪高等裁判所で清水惣事件についての判決が下された。本通達の改正は清水惣事件の判決を受けたものであると言われており、具体的には、「合理的な経済目的」がある場合においては、法人税基本通達9-4-1、9-4-2において寄附金の額に算入しないことが明らかにされた。 具体的な通達の内容は以下の通りである。 気づかれた読者もいるかと思うが、現在の法人税基本通達9-4-2と異なり、債権放棄等が含まれておらず、平成10年度法人税基本通達の改正により追加されることになる。 当時の解説をひも解いてみると、国税庁のHP上のタックスアンサー「No.5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等 Q2-3」に掲げている内容(*1)と変わらない。 (*1) タックスアンサーには以下のように解説がなされている。 平成10年度法人税基本通達改正前の文献については、不良債権処理や子会社整理が行われる前の時代であることから、現在ほどは解説がなされている文献は多くはないが、ここでは、平成3年に出版された『法人税実例集成(東京国税局調査第一部調査審理課、税務研究会出版局)』、平成元年に出版された『寄附金課税の知識(渡辺淑夫、財経詳報社)』、平成7年に出版された『Q&A不良債権処理の税務判断(東京国税局調査第一部調査審理課、ぎょうせい)』をご紹介したい。 まず、『法人税実例集成』335、336頁においては、「子会社の経営不振に伴う債務の引受け」について説明がなされているが、経営不振で債務超過に陥った子会社の再建を図るために債務引受を行った事例に対し、 と解説している。また、その根拠として、法人税基本通達9-4-1を紹介したうえで、 と解説している。すなわち、子会社の再建のための債務引受けについて、強引に解釈すれば、「経営権の譲渡等」の「等」に該当し、「相当な理由」があると認められる場合があり得なくもないとも読むことも可能である。 さらに、『寄附金課税の知識』130、131頁においては、第2会社方式が紹介されており、 と説明されたうえで、 と説明されている。 さらに、『Q&A不良債権処理の税務判断』175、176頁においても第2会社方式について説明されており、第一会社(旧会社)と第二会社(新会社)との間において、持株関係、商号、所在地、役員構成、従業員、資産内容、事業内容、事業形態などを総合的に勘案して、同一性のない場合について法人税基本通達9-4-1の適用を認め、同一性がある場合には適用を認めない旨の解説がなされている。 すなわち、子会社の事業を廃止する場合や経営権を譲渡する場合だけでなく、子会社の再生手段として第2会社方式を利用する場合についても、第一会社と第二会社との間に同一性がなければ、法人税基本通達9-4-1を適用することができるというのが当時の解釈であったと考えられる。 このように、平成10年度の法人税基本通達の改正前であっても、改正後の取扱いとおおむね同じ取扱いがなされていたようではある。無論、国税局において再建支援等についての相談窓口が設けられたり、私的整理に関するガイドライン等ができたりするなど、平成10年度の法人税基本通達改正の意義は大きかったと思われるが、法人税法の解釈として、すでに昭和55年法人税基本通達の改正時点では子会社再建のための債権放棄についての考え方が成立し始めており、むしろ、バブル崩壊前であったことから事例が少なかったに過ぎないだけの可能性もあったのではないかと思われる。 次回においては、第三次分の改正として行われた貸倒損失の改正について解説を行う。 (了)

#No. 110(掲載号)
#佐藤 信祐
2015/03/12

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第74回】税効果会計⑤「繰延税金資産の回収可能性」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第74回】 税効果会計⑤ 「繰延税金資産の回収可能」   仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 繰延税金資産の計上 (*1) 税金負担を軽減できる一時差異 20 × 法定実効税率35% =繰延税金資産 7 〈会計処理の解説〉 繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内(図中の赤色部分)で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければなりません(基準 注解5)。そのため、一時差異のうち、税金負担額を軽減しない範囲(図中の青色部分)を除き、繰延税金資産を計上します。一時差異については、本連載の【第34回】税効果会計③をご参照ください。 会計上、棚卸資産について評価損を計上していますが、税務上は損金算入が認められないことから、X1年3月期の課税所得を計算する際に当該評価損を加算していますので、税務上の棚卸資産の価額は50であり、会計上、計上した評価損30が一時差異に該当します。 また、評価損を計上した棚卸資産は、翌年度に売れ残る場合廃棄していることから、X2年3月期の課税所得の計算において、X1年3月期に加算した評価損は税務上損金算入が認められ、減算されることとなり、これに相当する税金負担を減額する効果が見込まれます。 しかし、X2年3月期の課税所得の見積額が20であることから、評価損30のうち20に見合う税金負担額しか軽減できません。そのため評価損のうち10は、税負担を軽減しない一時差異に該当すると考えられます。よって、繰延税金資産を計上するに当たり、一時差異20に対して法定実効税率を乗じます。法定実効税率については、前回の解説をご参照ください。 なお、繰延税金資産については、将来の税負担を軽減できるかどうか毎期見直しを行わなければなりません。そのため、期末時においては、当期及び過年度に発生した将来減算一時差異が将来の税負担を軽減するかどうかを検討する必要があります。 *   *   * 次回は「法人税等調整額の計上」について解説します。 (了)

#No. 110(掲載号)
#横塚 大介
2015/03/12

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第6回】「「表示方法の変更」で起こるコピペのミス」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第6回】 (最終回) 「「表示方法の変更」で起こるコピペのミス」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトには、うっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例6-1】 表示方法の変更の記載で、「前連結会計年度の決算書について組換えした」旨を記載してしまうミス。 【事例6-1】は、連結注記表に記載される「表示方法の変更」の文章です。 連結貸借対照表の表示科目について、前年度の連結貸借対照表と異なる表示に変更したため、そのことを注意喚起すべく記載したものです。 上段が誤った事例、下段が正しい事例で、赤字部分が両者の異なる部分です。 誤った事例では、前連結会計年度の連結貸借対照表を組み替えたと言っていますが、正しい事例では、組換えについては言及していません。 たったそれだけの違いでしかないのですが、これは、わかる人が見れば一発で間違いとわかるミスです。こうしたミスが、そのまま社外に公表されてしまうと、その会社の決算書作成能力に疑問を持たれるかもしれません。 したがって、こういうミスは必ず防がなければならないのです。 実はこのミス、起こるべくして起こったものです。 そして、原因を知れば防止法も自ずと見えてきます。   2 誤りの原因は有価証券報告書からのコピペ 注記表(連結・個別)では、定型文章による記述式の注記が多いため、他の書類からのコピペのミスが多いと、本連載の【第5回】に述べました。 今回の【事例6-1】も、【第5回】と同様にコピペによるミスです。 【事例6-1】の誤った事例は、有価証券報告書の注記からコピペしてきたものです。有価証券報告書の記載を何も修正せずに連結注記表の注記として貼り付けたため、間違ってしまったものです。筆者が『フルコピー・ミス』と呼んでいるものです。   3 会社法の決算書は単年度開示 誤った事例の赤字部分を改めて読んでみましょう。以下のとおりです。 もっともらしい内容ですが、明らかに間違いです。 前連結会計年度の連結財務諸表を組み替えていると書いてありますが、連結計算書類には前連結会計年度の決算書は掲載されていません。会社が任意に2期併記で開示していれば別ですが、会社計算規則上は、その要求はないのです。ほとんどの会社は単年度開示です。 したがって、組み替えの対象になる決算書がないのです。にもかかわらず、組み替えた旨を記載するのはおかしいわけです。 これに対して有価証券報告書は2期併記です。当年度の決算書の横に前年度の決算書が掲載されます。当年度の決算書で科目表示を変更した場合は、それに対応させるように前年度の決算書の組換えを行います。したがって、組み替えた旨の注記が必要になります。 【事例6-1】の誤った事例が有価証券報告書からのコピペであると述べたのは、そういうわけです。赤字部分で「連結財務諸表」という有価証券報告書特有の用語を使用していることからも、有価証券報告書のコピペであることは明らかです。   4 注記内容は対前年比較の便宜のため 正しい事例の方も見ておきましょう。 赤字部分は以下のとおりです。 この記載は必ずしも義務ではありませんが、書くのであればこうした記載になります。 当連結会計年度から独立科目として開示されるようになった連結貸借対照表の「長期貸付金」は、前連結会計年度までは「その他」に含まれていましたので、対前年比較を可能とするための情報ということです。 「長期貸付金」の残高について前期比較をしたいというとき、前連結会計年度の連結貸借対照表を見ても、「長期貸付金」の残高がいくらであったかはわかりません。そのため、当年度の連結注記表の「表示方法の変更」に、前年度の「長期貸付金」がいくらだったのかを書いているのです。 これがもし誤った事例の書き方だったらどうでしょうか。 前連結会計年度の連結貸借対照表を組み替えたのでそれを見るようにと言っていますが、実際見てみても、「長期貸付金」の残高はどこにも載っていないわけです。 こうした矛盾した記載になってしまうので、絶対に間違いたくないところです。   〈今回のまとめ〉 連結注記表や個別注記表の中で、前年度の決算書に言及している箇所がある場合は、不要な記載でないか確認すること。 (連載了)

#No. 110(掲載号)
#石王丸 周夫
2015/03/12

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第27回】株式会社クワザワ「第三者委員会調査報告書(平成26年12月12日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第27回】 株式会社クワザワ 「第三者委員会調査報告書(平成26年12月12日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【調査委員会の概要】   株式会社クワザワの概要 株式会社クワザワ(以下「クワザワ」と略称する)は、1951年(昭和26年)2月設立。建設資材の販売及び建設工事の施工を主たる事業とする。連結売上高97,045百万円、連結経常利益1,721百万円(数字はいずれも平成26年3月期)。従業員数357名。本店所在地、北海道札幌市白石区。札幌証券取引所上場。   調査報告書のポイント 1  調査に至った経緯――外部からの指摘 本件調査の対象となった会計不正は7つの事案を数えるが、そのうち5件について、その発覚の経緯として「外部からクワザワ従業員口座に不適切な金員が流入しているとの指摘があった」こととされている。 しかし、「外部」が具体的に何を意味するのかについては、調査報告書に言及はない。 平成26年9月中旬、こうした指摘を受けたクワザワは、内部調査委員会を組織して調査を開始したが、「新たな事実・事件が発覚したこともあり」、外部の公正中立かつ独立した第三者委員会に調査を委ねることとしたものである。   2 調査報告書により判明した事実 (1) 不適切な事案の概要、被害金額 第三者調査委員会が不適切な事案であると認定した行為は以下の7つ(事案1~7)であり、調査報告書上はいずれも匿名になっているが、年代や経歴を読む限り、別々の行為者による不正行為である。 (2) 報告書の中で気になった事案 【事案2】の行為者は、第三者委員会の調査前に死去したため、供述が得られなかったとする一方、行為者が上司に充てた「遺書」には、「本件に関して責任を痛感していることが記されていた」ということであるが、行為者が責任を感じて自死を選んだとも受けとれる記述であり、「下請先の選定に関して強い影響力を有していた」とされる、【事案2】の行為者の死去の原因と不正行為の関係が気になるところである。 また、【事案3】の行為者は、外部から他の事案についての指摘がなされたときに失踪したものの、クワザワによって捜索・発見がなされ、身辺調査や事情聴取の結果、【事案3】が発覚したということであるが、外部からの「不適切な金員の流入」の指摘を、【事案3】の行為者がどうして知ることとなったのか、報告書には記述がない。 (3) 過年度決算に与えた影響額 クワザワの12月12日付リリースによれば、過年度決算の修正について、以下のようにコメントされている。 同日公表された「平成27年3月期第2四半期決算短信」には、損益計算書の営業外費用として、「不正関連損失71百万円」という記載はあるものの、その内容について、特段の記述はなく、クワザワが言う「必要な処理」の全容は検証できない。 (4) 関係者の処分・経営責任 同リリースでは、不正行為を主体的に行った当事者及び管理・監督する立場にあった上司について、「社内規程に則り厳正な処分を行う」こととしているが、処分内容の具体的記述や、私的に費消した金員の返還請求などについては言及がない。 また、「当社の信用を毀損したことを厳粛かつ真摯に受け止め」、代表取締役社長以下、社外取締役を除く取締役及び常勤監査役の報酬の一部減額を公表している。   3 調査報告書の特徴 (1) 2種類のアンケート調査 クワザワ第三者委員会は、「社内向けアンケート」と「仕入先向けアンケート」の2種類のアンケートにより、発覚した事案以外の類似事案の有無を検証した。 このうち、社内向けアンケートでは、上記【事案7】が自己申告されており、報告書によれば、「アンケート実施後、良心の呵責に悩み、自己の行為を代表取締役に直接告白したことにより発覚したものである」ということであり、第三者委員会は「特筆すべき効果」と自賛している。 一方、仕入先向けアンケートでは、新たな不正の事案は確認できなかった。 (2) 原因分析総論 第三者委員会は、各事案を通底して見られる原因を「総論」としてまとめている。 ここには、「企業風土」「人事異動の少なさ」「昭和56年頃からのクワザワの冬の時代」「M&Aによる拡大と統制不完全」「会社の監督、監査体制」「不十分な規範意識」「不祥事から学ぶ姿勢の不足」という7項目が挙げられているが、クワザワに特有の原因として、「クワザワ冬の時代」について、第三者委員会の指摘を取り上げたい。 昭和56年頃、経営危機に陥ったクワザワは「交際費は15,000円まで」という社内ルールに代表される倹約体制がとられた。それから30年余りが経過しても、交際費を上司に請求できない状況が続き、裏金の捻出に至る原因となったというのが第三者委員会の指摘である。クワザワの現取締役を見ても、生え抜きの取締役はすべて「冬の時代」を経験しており、交際費使用を抑制する企業風土は容易に推察できるところである。 (3) 原因メカニズム 報告書66頁に図示されている「原因メカニズム」は、樋口晴彦『組織不祥事研究』(2012年、白桃書房)34頁以下を参考に図示されたものであるということが明記されている。潜在的原因として、「クワザワの企業風土」と「昭和56年のクワザワの経営危機」を根底に、さまざまな機能不全、人事の固定化など、従業員の遵法意識の欠如などの要因が相互に関係しあって、不正の直接の原因へとつながっている様子が描かれていて、参考になる。   4 提言 第三者委員会の提言は、次の10項目にわたっている。 いくつか、特徴的な提言を見ておきたい。 「社風・企業風土」として、第三者委員会は、クワザワについて「代表取締役を頂点とし、傘の骨のように各部署が単独でトップまで直結しているような組織」であると指摘し、「各部門の自律的な連携や改善という意識が欠落している」として、改善を求めている。また、女性管理職が存在しないことも問題視し、女性従業員の積極的な登用や外部からのヘッドハンティングにより、組織の活性化を考えるべきである、としている。 また、「チェック体制の見直しと強化」では、それぞれ2名しか専従者のいない内部監査室と法務部門について、増員を検討すべきであるとしているのは当然としても、そのうえで、新たに「売上高・仕入高に係る証票を精査することで不透明な取引をあぶり出せる部署」を、各分野に精通した60歳定年者を中心にして新設するという対策を講じて、「早期の不正発見を可能とし、ひいては従業員に対して不正を行っても発見されるという牽制体制を構築すべきである」という提言は、定年後の従業員の積極的な活用という点からも興味深い。 こうした提言を受けて、クワザワが12月12日のリリースで公表した再発防止に向けた取り組みは以下のとおりである。 いずれの記述も抽象的で、具体策の検討はこれからといった感が否めない。かなり具体策にまで踏み込んでいる第三者委員会の提言がどこまで生かされるか、気になるところである。 その後、クワザワは、2月16日になって、「外部通報窓口の設置について」というリリースを出し、同社及びグループ会社の「役職員の行為を対象とした外部通報窓口」として、同社総務部長、顧問弁護士、ホームページを紹介している。ただ、このリリース自体も、「外部」とは誰を指すのか、通報対象となる「行為」とは何か、などについての言及がなく、具体性に欠けたものとなっている。 また、提言の最後に置かれた「第三者委員会報告書の履行状況を監視する機関の設置」については、本稿執筆時点において、何らリリースが出されていない。 (了)

#No. 110(掲載号)
#米澤 勝
2015/03/12

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《固定資産》編 【第2回】「有形・無形固定資産の減損(2)~売却時の取扱い」

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《固定資産》編 【第2回】 「有形・無形固定資産の減損(2)~売却時の取扱い」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 前回は、中小企業会計指針でも対象とされる減損損失の計上時の取扱いを示しました。 今回は、減損損失の対象となった固定資産の売却時の取扱いをご紹介します。   1 売却時(X5年4月1日)の仕訳 〈売却時(X5年4月1日)〉 会計上は、X3年3月期に減損損失を計上した後、時価が回復しても減損損失の戻入は行わず、減損損失計上後の帳簿価額(会計上の帳簿価額)に基づいて減価償却費、固定資産売却・処分損益を計上します。 X5年4月1日現在の会計上の土地と建物の簿価は、それぞれ40,000,000円と1円です。この土地と建物を30,000,000円で売却したので、その差額10,000,001円がX6年3月期の特別損失に計上されます。   2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉   3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 【第1回】において記載したとおり、減損損失の金額は、税務上それを計上した事業年度の損金の額に算入されません。会計上は、減損損失計上後の帳簿価額(会計上の帳簿価額)に基づいて減価償却費、固定資産売却・処分損益を計上しますが、税務上は、減損損失計上前の帳簿価額(税務上の帳簿価額)に基づいて算定した減価償却費、固定資産売却・処分損益の額を各期の損金又は益金の額に算入します。 B工場の土地と建物のそれぞれの会計上と税務上の帳簿価額は、取得当初のX1年3月期から減損損失計上期のX3年3月期、さらに売却したX6年3月期まで、次のとおり示されます。 [B工場の土地] [B工場の建物] X6/3期における固定資産売却損は、会計上は10,000,001円(=土地簿価40,000,000円+建物簿価1円-売却額30,000,000円)であるのに対して、税務上は256,500,000円(=土地簿価200,000,000円+建物簿価86,500,000円-売却額30,000,000円)ですが、同時に246,499,999円(土地160,000,000円、建物86,499,999円)が減算調整され、X6/3期末においては税務上も会計上も土地と建物の簿価は0円で一致します。  (了)

#No. 110(掲載号)
#前原 啓二
2015/03/12

テレワーク・在宅勤務制度導入時に気をつけたい労務問題 【第3回】「『雇用契約書』でおさえておきたい点」

テレワーク・在宅勤務制度導入時に 気をつけたい労務問題 【第3回】 「『雇用契約書』でおさえておきたい点」   社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美   これまでお伝えしてきたように、テレワークという働き方は、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方である一方、労働時間の管理や業務遂行指示の方法などが、職場に出勤して就労しているものと異なる。 そのため、就業規則に定めるものの他、『テレワーク勤務規程』(詳細は次回参照)など別規則を用意するなどし、さらに当該労働者と個別に雇用契約書を取り交わし、詳細な条件を締結しておくべきといえる。 テレワーカー・在宅ワーカーとの雇用契約にあたりポイントとなる事項を列挙すると以下のとおりである。 (1) 労働時間管理について 具体的には、一週間の労働日、業務開始時刻、業務終了時刻、休憩時間、時間外労働の有無、深夜労働の有無を定める。 テレワークについては、厚生労働省の行政通達が発達されており、以下の要件を満たしている場合には、事業場外のみなし労働時間制を採ることができるとされている。 (2) 賃金について テレワーク時の賃金が通常勤務時の賃金と異なる場合は、当該期間中に支払われる賃金額、賞与、退職金の取扱いについて定めておく。 (3) 交通費等の取扱い 以下の事項を定めておく。 (4) 電子機器の取扱い 以下の事項を定めておく。 (5) 情報の取扱い 以下の事項を定めておく。 (6) その他 テレワーク時にのみ適用されるルール等を定めておく。 *  *  * 連載最終回となる次回は、テレワーク・在宅ワーカーに関する就業規則で注意すべき点についてお伝えしたい。 (了)

#No. 110(掲載号)
#成澤 紀美
2015/03/12

常識としてのビジネス法律 【第21回】「会社法《平成26年改正対応》(その2)」

常識としてのビジネス法律 【第21回】 「会社法《平成26年改正対応》(その2)」   弁護士 矢野 千秋   4 募集株式発行(持分価値&持分比率) 新株発行は、本来、会社組織の人的物的拡大行為であり、会社の実質的所有者である株主が決定すべき事項であるともいえる。しかし、新株発行は資金調達の意味合いが強く、そのつど株主総会の決議を要求していてはその機動性が阻害される。 そこで会社が発行することができる株式の総数を定款に記載させ、会社が発行する株式総数の差にあたる部分は、公開会社では取締役会(非公開会社では株主総会)の決議によって随時発行できるようにしている。これを授権資本制度といい、定款により授権された新株発行権限の限度枠を授権枠という。 会社法は基本的に商法の4倍という授権枠を引き継いでいる。すなわち、株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができない(113条1項)とし、さらに、定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合には、変更後の発行可能株式総数は、定款変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることができない(同条3項)として、授権資本制度の4倍枠を定款変更の面から規定している。 ただし、非公開会社の場合はこの限りでない(同条3項但書)として、やはり商法の閉鎖会社における授権枠の撤廃を非公開会社において引き継ぐ形となっている。会社法でも非公開会社での募集事項の決定は株主総会の特別決議によらなければならないとして(199条1項2項、202条1項3項)、旧株主の持分比率は保護されているからである。 (1) 募集株式発行(新株発行および自己株式処分)の手続 公開会社においては通常株式市場に上場などがなされており持分比率は保護されているので取締役会が募集事項を決定するが(201条1項。199条3項を除く)、第三者に対する有利発行の場合には、旧株式の持分価値が水割り現象を起こすため、持分価値保護のため株主総会の特別決議が必要である(199条3項、309条2項5号)。株主総会の特別決議で株式数の上限と払込金額の下限を定め(持分価値の減少の最大値を総会が承認すれば)、その他の募集事項の決定を取締役会に委任することができる(200条1項)。この場合は株主総会で有利発行が必要な理由を説明せねばならない(200条2項)。 非公開会社の場合には、持分比率保護のため株主総会が特別決議により募集事項を決定するが(199条)、株主割当ならば、持分比率は保護されているので定款で募集事項の決定権限を取締役・取締役会に委任可能であるし(202条1項3項)、第三者割当ならば、持分比率および価値保護のため定款で募集事項の決定権限の委任はできないが、株主総会の特別決議で株式数の上限と払込金額の下限を定め(持分比率の減少の最大値と持分価値の減少の最大値を総会が承認すれば)、その他の募集事項の決定を取締役・取締役会に委任可能である(199条1項2項、200条1項、309条2項5号)。有利発行ならば株主総会で有利発行が必要な理由を説明せねばならない(200条2項)。 非公開会社が、第三者に対して特に有利な価額で募集株式の発行を行う場合には、第三者発行決議と有利発行の決議とを一度の特別決議により行うことができる(199条1項2項3項、309条2項5号)。ちなみに、会社法が「募集株式の発行」という用語を用いたのは、新株発行ばかりでなく、自己株式の処分も含めた用語としたためである。 (2) 出資を履行する期間の設定 従来新株発行等については、払込期日が定められ、現実の払込みの日にかかわらず払込期日から株主となるとされていた(商280条の9第1項)。これだと現実の払い込みから株主となるまでの期間の株価値下がりのリスクは申込人が負担することとなる。そこで会社法では、金銭の払込みまたは出資を履行する期間というものを設定することも認め、この期間が設定された場合は出資を履行した日から株主となることとした(208条、209条)。 (3) 株主割当 公開会社の株主割当は取締役会の決議で定める(202条3項3号)。非公開会社の株主割当については株主総会の決議を要するが(202条1項)、定款に定めがある場合には、取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)が募集事項等を決定することとなった(202条3項1号2号)。株主割当なら持分比率も持分価値も保護されているからである。(1)を株主割当の面で整理した。 (4) 払込証明 旧法では払込金保管証明(金融機関が禁反言の責任を負わされるので厳格な調査が行われ、そのため手続が遅滞する恐れがあった)のみであったが、新株発行および新株予約権の行使における変更の登記の際に必要となる払込金の支払の事実の証明には、残高証明による方法等が認められた(整備法135条による改正後の商登56条2号)。 (5) 新株予約権 新株予約権は、新株予約権者が、あらかじめ定められた期間(行使期間)内に、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)を会社に対して払い込めば、会社から一定数の株式の交付を受けることができる権利である(2条21号)。したがって新株予約権の目的たる株式の時価が上昇するほど新株予約権者は利益を得ることになる。 もともと取締役等に対するインセンティブ報酬としてのストックオプションとしてスタートしたものであるが、平成17年ごろからは敵対的企業買収に対する防衛策として主要な方法(ポイズンピルとかライツプランと呼ばれる)の一つになった。236条以下に募集株式とほぼ同様の規定が置かれている。 (6) 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等 公開会社が、ある引受人(親会社等を除く)に募集株式を割り当てることにより、その引受人が総株主の議決権の過半数を有することとなるような第三者割当をする場合は、払込期日の2週間前までに株主に対して、引受人の名称などについて通知(206条の2第1項)または公告(206条の2第2項)を行い、通知・公告から2週間以内に10%以上の議決権を有する株主が反対の旨を通知した場合は、株主総会の普通決議による承認を受けなければ、その第三者割当を実施することができない(206条の2第4項)。これは実質会社の乗っ取りに等しいからである。   【取締役会設置会社における募集事項の決定機関】   5 株主 (1) 株主の権利 会社は法人であるから、会社自身が自然人と同じように自ら権利を取得し義務を負担する主体となっている。そのため、会社が獲得した利益は、会社に帰属することになる。そして会社をどのように経営していくかという判断も、会社自身が会社の機関を通じて判断することとなる。 このように直接的には利益は法人たる会社自身に帰属し、経営は法人たる会社自身がその機関を通して行うわけであるから、実質的所有者である株主は、いわば間接的に会社に対して経済的利益を分配することを請求する権利を有し、また会社の意思決定に参加する形で経営に参加する権利を有することになる。 このような社員たる地位から生ずる権利は、会社から経済的利益を受けることを目的とする自益権と、会社の経営に参加することを目的とする共益権とに分類されることになる。自益権は剰余金配当請求権(105条1項1号)と残余財産分配請求権(同2号)が中心であり、共益権は株主総会における議決権(同3号)と、株主総会とは無関係に個々の株主が行使する監督是正権(360条等)に分けられることになる。 (2) 単独株主権、少数株主権、行使要件 単独株主権とは、1株の株主でも行使できる権利である。先述の自益権や共益権中の議決権(ただし単元株式は後述)がこれに属する。その他各種訴権等がある。 少数株主権とは、総株主の議決権の一定割合以上の議決権を有する株主または発行済株式総数の一定割合以上の株式数を有する株主が行使できる権利をいう。株主総会招集権(297条)は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権、取締役の解任請求権(854条1項、2項)は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権または発行済株式の100分の3以上の株式数などとされている。 例えば議題提案権は、取締役会設置会社においては、総株主の議決権(議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は算入しない)の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権または300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を6ヶ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合、その請求は、株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない(同条2項)。 非公開会社である取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする(同条2項)として、6ヶ月要件を外している。非公開会社では株式の取得が制限されているから、駆け込み的な株式取得による単独株主権や少数株主権の乱用を防ぐ意味を持つ6ヶ月要件は必要性が低いからである。 一般に少数株主権は単独株主権よりも強力な権限が多く、乱用されると会社側に与える影響が大きいので行使要件を高められているものであるが、会社が乱用の恐れがないとして、定款でその行使要件を引き下げることまで法が禁ずる理由はない。そこで定款自治の範囲を拡大し、定款をもって、少数株主権とされている権利の全部について、その行使要件を引き下げ、または単独株主権とすることは妨げられないものとした。 【株主の権利】 (※)画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (3) 基準日 株式会社は、一定の日(基準日)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、または記録されている株主(基準日株主)をその権利を行使することができる者と定めることができる(124条1項)。その権利は基準日から3ヶ月以内に行使せねばならない(同条2項)。多数の株主の権利行使を確実かつ迅速に処理するためである。   6 株券と株主名簿 株式会社は、その株式に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる(214条)とし、株券は定款の定めがある場合にのみ発行することができる(原則、株券は不発行となった)。そして、非公開会社においては、株券を発行する旨の定款の定めがある場合であっても、株主からの請求があるときまでは株券を発行しないこととすることができる(215条4項)。 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名または名称及び住所を株主名簿に記載し、または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない(130条1項)。そこで株式の権利行使をするためには、株式取得者は名義を書き換えなければならない。ところが株券が原則として発行されないとなると、株式取得者は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、または記録することを請求することができる(133条1項)とし、その請求は、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない(2項)として、原則として共同申請となった。株券が原則無いとなれば、権利は目に見えない以上、共同申請とならざるを得ないからである。   7 株式買取請求権 組織再編行為等の際に一定の株主に与えられる株式買取請求権は、会社の組織に変動が生ずる場合に、その変動等に反対する株主に投下資本を回収する方法を保証するために与えられているものであり(組織変動ともなれば株価は大きく変動し、株式市場での売却では投下資本の適正な回収とならない可能性があるからである)、必ずしも議決権を前提とした権利として規律する必要はない。 そこで組織再編行為等の場合には、次に掲げる反対株主が買取請求権を行使することができる(116条1項・2項、469条1項2項、785条1項2項、797条1項2項、806条1項2項)とした。   8 端株・単元株 単元株の制度とは、会社が市場での株価動向、株主管理費用等を考慮して、議決権を与える株式数を定款で決めることを認め(188条)、1単元の株式数に満たない数の株式について議決権を有さないとする制度である(308条1項但書)。 これにより株価の低い会社が株式併合をせずに同様の効果すなわち株主管理費用等の削減の効果を上げることができ、株価の高い会社が株式分割を行いながら分割割合を1単元とすれば、株主管理費用を増大させることなく株価の割り負け状態(あまり株価が高くなると株価が一種の頭打ち状態となることである)を解消できる。 1単元の株式数は、1,000株を超えることができない(188条2項)。あまりにも大きく1単元の株式数を設定すれば、株主の議決権を不当に奪うことになるからである。1,000株に加え「発行済株式総数の200分の1に当たる数を超えることができない」を加える改正が行われた(平成21年改正・規34条)。これは最低でも200議決権を保証するための改正である。 1単元の株式数を減少させ、あるいは単元株制度の採用を廃止するための定款変更は、取締役(取締役会)の決議でできる(195条)。これらは小さな単元の株式に対して議決権等の権利を付与するものであり、既存の株主になんら不利益を与えるものではないのだからわざわざ総会の特別決議を要求して株主の保護を図ってやる必要がないというのがその理由である。191条も分割割合が単元株式数以上のときであるから、取締役または取締役会で定款変更可能である。 これに対して、1単元の株式数を増大させるには株主総会の定款変更決議が必要である(466条)。容易に株式数の増大を許してしまうと議決権が奪われるなど、既存の株主の利益を害するからである。 上記のとおり単元未満株主は議決権を行使できず、単元未満株式の譲渡が一般に比して制約されることがあるので、単元未満株式を有するものは、会社に対して、いつでもその買取りを請求することができるとした(192条)。 端株制度は会社法において廃止された。  (続く)

#No. 110(掲載号)
#矢野 千秋
2015/03/12

コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応のヒント 【第1回】「はじめに」~コーポレートガバナンス・コード(原案)の確定と企業への影響~

コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第1回】 「はじめに」 ~コーポレートガバナンス・コード(原案)の確定と企業への影響~   あらた監査法人 パートナー 公認会計士 小林 昭夫   〔コーポレートガバナンス・コード(原案)の確定〕 2014年12月に金融庁から公表された「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために~」(以下「コーポレートガバナンス・コード原案」または「コード」という)が、パブリック・コメント期間を経て、いよいよ最終版として確定することになった。 コーポレートガバナンス・コード原案の策定のために、2014年8月から金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする有識者会議が開催されていたが、2015年3月5日に開催された第9回において、コードの最終稿が示されている。 昨年12月から本年1月にかけて実施されたパブリック・コメントでは、国内・海外から合計121の団体・個人からのコメントが寄せられたが、その大部分は肯定的ものであったとのことである。公開草案からは修辞的な修正がいくつか入ったものの、概ね草案どおりの内容のまま確定することになる。 本シリーズでは、コーポレートガバナンス・コード原案のポイントをわかりやすく解説するとともに、企業実務における対応のヒントを全10回シリーズにてご説明したい。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。   〔上場制度の整備状況〕 このコードは2014年6月に閣議決定された政府の成長戦略(日本再興戦略 改訂2014)を受けて導入されようとしており、序文にも記載されているとおり、企業の「稼ぐ力」の向上をその狙いの一つとしている。「攻めのガバナンス」という言葉が象徴的に使われているように、経営陣の健全なリスクテイクを後押しすることが期待されている。さらに、企業と投資家との建設的な対話を促進することによって、企業の持続的成長を促すことが意図されている。 コードの最終化と並行して、上場企業が実際にこのコードの要求事項を実行に移すために、東京証券取引所の上場制度の整備が検討されている。既に2015年2月24日に東京証券取引所から上場制度整備案として「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」が公表されており、2015年3月26日までがパブリック・コメント期間とされている。 上場制度整備案では、 などが記載されている。   〔企業はどう対応すべきか〕 コードおよび上場制度整備案では適用時期を2015年6月1日としており、3月決算上場会社はあまり時間のない中で、本年の株主総会時期に向けた対応準備を行う必要があるが、コードが原則主義(プリンシプルベース・アプローチ)やコンプライ・オア・エクスプレインといった、日本企業にあまり馴染みのないコンセプトを採用していることもあり、対応方法について模索している企業も多いように思われる。 コードの要求事項に関しては、独立取締役2名以上の選任(原則4-8)について取り上げられることが多いが、その他にも体制整備や開示などを求める事項が多岐にわたって記載されている。 これらのコードの要求事項を個別に捉えて、実施しない説明を避けることに注力するあまり、拙速な対応になってしまうことはコードの趣旨に沿っているとは考えられない。むしろ、自社の状況、すなわち業種、規模、事業特性、機関設計、環境を考慮して、自社のあるべきガバナンスの方向をあらためて考える機会とすることが期待されていると捉えるべきであろう。自社が目指すガバナンスの姿には、すぐに到達しない場合も考えられるので、数年をかけて実施を目指す事項が出てくることもあり得ると思われる。 さらに、コードへの対応は、取締役会や監査役会に加え、企業の様々な部署(法務・IR・総務・企画・財務経理・内部監査等)に関連した取り組みになるものと想定される。実効性のあるガバナンスへの取り組みには、経営陣の主体的な関与が不可欠であることは言うまでもない。 本コードの策定・導入に際しては、国内外の企業や投資家からの高い関心が示されている。日本企業のコーポレート・ガバナンスの向上と企業価値の向上に向けた、企業と投資家との建設的対話を促すための取り組みに対し、これまでは概ね肯定的で高い評価が得られているようである。 コードを実際に適用していく企業には、コード導入の趣旨を忖度し、企業価値の向上とガバナンス向上のために実効性のある取り組みを進めていくことが期待されている。 (了)

#No. 110(掲載号)
#小林 昭夫
2015/03/12

此の国にも『日本企業』! 【第3回】「《フィリピン》 一品モノ受注生産をフィリピン人の手で~F.R.P.Philippines~」

此の国にも『日本企業』! 【第3回】 「《フィリピン》 一品モノ受注生産をフィリピン人の手で ~F.R.P.Philippines~」   中小企業診断士 西田 純     日系大企業が立ち並ぶフィリピン・マニラSEZ(特別経済区)の中ほどに、決して新しくはないFRP加工工場があります。現在は京都の(株)旭東樹脂がグループ会社として管理運営するF.R.P.Philippines社の工場です。   〈進出、成功、そして2工場体制へ〉 まだ中小企業の海外進出が一般的でなかった1990年代前半に、縁あってフィリピンに進出した(株)旭東樹脂は、当初ミンダナオ島のカガヤンディオ市に工場を持ち、繊維強化プラスチック、いわゆるFRPの生産を始められたそうです。当時はバブルの最盛期、あるいはバブル崩壊直前ということで、周囲からはフィリピン、しかもミンダナオへの進出について随分と疑義の声もあったのだと伺いました。 それが、同業他社のマニラ工場と取引する中でやがて操業を手助けするようになり、結局はその手伝っていた他社のマニラの工場を引き取って、現在は2工場体制で事業を進めるまでになっています。 同社会長の山分哲さんは、成功要因の一つとして顧客の分散化によるリスク管理を挙げておられます。以前は某大企業の仕事を中心に下請けをしていた時代もあったのだそうですが、そうすると発注量の増減が直接会社の損益に関わってくることから、現在ではできるだけ顧客を分散させ、リスクの低減を心がけている、ということでした。   〈国民性の差を乗り越えて〉 FRPというと、型の廻りにガラス繊維の布などを置いて樹脂を塗りつける作業の繰り返しで成形されてゆくという、とても労働集約的な製造工程を持つのですが、顧客を分散させることにより、自動車部品など規格・大量生産のものと、工場のサイズや工程に合わせた薬液漕やタンクなど、いわゆる「一品生産もの」が混在することになったのだそうです。 早くから事業を立ち上げ、生産現場のみならず生産計画・生産管理まで現地化を進めていたミンダナオ工場から人を入れ、マニラの工場でも大量生産の規格品と一品生産の製品を混在させた形で操業できるようにされたということなのですが、その過程にはずいぶんと御苦労もあったと伺いました。 フィリピン人は、手に職を持つことへの価値観が高く、英語もよくできるため、作業をさせるにはもってこいの人材が多いのに、管理者層と労働者層の間には明確な身分差が存在して日本のように「たたき上げの管理者」といえるような人材を得にくいこと、一方で仲間との情報共有に極めて消極的で、「自分さえ良ければよい」という考え方の人間が多いことなどから、自律的に工場を運営させるには大変な試行錯誤があったということでした。 さらにビサヤ語を話すミンダナオの人にとって、タガログ語圏のマニラでの生活は必ずしも快適ではなく、工場間の人事交流にも相当神経を使ったそうです。それが20年を経て、今やR&D部門までフィリピン人が主体的に動かすようになり、受注による一品生産ものが混在するラインの生産管理も問題なくこなせるようになってきたのだそうです。 苦労しただけ成果があったことの理由の一つには、フィリピンの場合、正社員の待遇が法律で手厚く保護されているわりに失業率が高く、一度得た仕事を失いたくないとする労働者の定着率が高かったことが挙げられるようです。 管理者クラスだといわゆるジョブ・ホッピングも発生するそうですが、一般の労働者は安定的な雇用条件を捨てて他社へ移ることをほとんどしなかったそうです。   〈生産工程だけではない、自立した海外拠点として〉 製造業でよくある海外展開というと、マザー工場を日本に持ち、R&Dを含まない生産工程のみを海外に移す、という事例が比較的多かったのではないかと思うのですが、F.R.P.社の場合はすでにR&Dを含む製造工程のすべてをフィリピンに移しており、日本の会社((株)旭東樹脂)は営業拠点としての役割が中心だそうです。 製造に関しては山分会長もほとんど口出しをせず、生産管理・品質管理を含めて、受注生産の一品モノも規格品も、フィリピン人がフィリピン人の手でこなしている、そんな会社もあるんだということで、今回はF.R.P.Philippines社をご紹介させていただきました。 (了)

#No. 110(掲載号)
#西田 純
2015/03/12
#