〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《固定資産》編 【第3回】 「圧縮記帳」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 特定資産の買換えの圧縮記帳には、税法上、帳簿価額直接減額方式と積立金方式がありますが、中小企業会計指針では後者の方法が原則とされます。 今回は、この特定資産の買換えの圧縮記帳について、会計処理の一例をご紹介します。 1 大阪工場売却時、鳥取工場建物取得時、圧縮記帳の特例適用時の仕訳 〈大阪工場売却時(X0年4月1日)〉 〈鳥取工場建物取得時(X0年4月1日)〉 〈圧縮記帳の特例適用時(X1年3月31日)〉 (1) 特定資産の買換えの場合の圧縮記帳(税務上) 税法上、特定資産の買換えの場合に、圧縮記帳の制度があります。 法人(清算中の法人を除く)が、所定の期間内に、その有する所定の固定資産を譲渡した場合、その譲渡の日を含む事業年度において、特定の買換資産を取得し、かつ、その取得の日から1年以内にその法人の事業の用に供した(又は供する見込である)ときは、その買換資産につき、その圧縮基礎取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の80%に相当する金額(圧縮限度額)の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額をその事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法(剰余金の処分により積立金として積み立てる方法を含む)により経理したときに限り、その減額又は経理した金額に相当する金額は、その事業年度の損金の額に算入します(措法65の7①)。 この設例は、既成市街地等の内から外への買換え(措法65の7①)に該当するものとし、圧縮限度額を、次のように算定します。 (ⅰ) 圧縮基礎取得価額 (ⅱ) 差益割合 (ⅲ) 圧縮限度額 このように算定した圧縮限度額56,000,000円を圧縮額とし、この金額を当期(X0年4月1日~X1年3月31日)において損金の額に算入します。 (ⅳ) 当期(X0年4月1日~X1年3月31日)における圧縮額の取崩し 圧縮額56,000,000円をその事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法により経理したときは、減価償却費の計上に対応させて、積立金を取り崩して益金の額に算入していきます。当期(X0年4月1日~X1年3月31日)においては次の金額だけ圧縮積立金を取り崩し、益金の額に算入します。 (2) 中小企業会計指針の会計処理 上記のとおり、税法上、圧縮記帳には買換資産の帳簿価額を直接減額する方法と決算において積立金として積み立てる方法があります。しかし、中小企業会計指針では、圧縮記帳は原則としてその他利益剰余金の区分における積立て及び取崩しにより行うものとされ(中小企業会計指針 固定資産要点)、決算において積立金として積み立てる方法が原則とされています。上記〈圧縮記帳の特例適用時(X1年3月31日)〉の仕訳は、この方法によっています。圧縮積立金は、圧縮額から繰延税金負債を控除した純額を計上します。また、減価償却資産についてはその耐用年数にわたり、減価償却に対応して圧縮積立金を取り崩します(中小企業会計指針35)。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第4回】 「金融資産の消滅の認識」 公認会計士 阿部 光成 第3回では、金融資産及び金融負債を、いつ、財務諸表に計上すべきか、すなわち、金融資産及び金融負債の発生をいつ認識するのかについて解説した。 財務諸表に認識した金融資産及び金融負債を、いつ財務諸表から除外するのか、すなわち、金融資産及び金融負債の消滅の認識についても、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)において規定されている。 今回は、金融資産の消滅の認識に関する基本的な規定について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 金融資産の消滅の認識要件 金融商品会計基準は、①金融資産の契約上の権利を行使したとき、②権利を喪失したとき又は③権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識しなければならないと規定している(金融商品会計基準8項、9項)。 金融商品会計基準56項は、例えば、債権者が貸付金等の債権に係る資金を回収したとき、保有者がオプション権を行使しないままに行使期間が満了したとき又は保有者が有価証券等を譲渡したときなどには、それらの金融資産の消滅を認識することとなると述べている。 Ⅱ 金融資産の消滅の認識に係る会計処理 1 発生の認識と消滅の認識に関する基本的な会計処理 金融資産がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該金融資産の消滅を認識することになり、帳簿価額とその対価としての受払額との差額については当期の損益として処理することになる(金融商品会計基準11項)。 有価証券(その他有価証券に分類される株式)の売買の例を用いて、発生の認識と消滅の認識に関する一連の会計処理を示すと次のようになる(約定日基準により会計処理する。金融商品会計実務指針22項)。 下記の例では、発生の認識と消滅の認識に関する会計処理の趣旨を示すために、付随費用などについては省略した例としている。また、金額及び日付については、仮定のものである。 2 金融資産の一部が消滅の認識要件を充たすケース 金融資産又は金融負債の一部がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該部分について消滅を認識し、消滅部分の帳簿価額とその対価としての受払額との差額については当期の損益として処理することとなる(金融商品会計基準12項)。 この際、消滅部分の帳簿価額は、当該金融資産又は金融負債全体の時価に対する消滅部分と残存部分の時価の比率により、当該金融資産又は金融負債全体の帳簿価額を按分して計算する。 また、金融資産又は金融負債の消滅に伴って新たな金融資産又は金融負債が発生した場合には、当該金融資産又は金融負債は時価により計上することとなる(金融商品会計基準13項)。 (了)
テレワーク・在宅勤務制度導入時に 気をつけたい労務問題 【第4回】 (最終回) 「『テレワーク勤務規程』の作成」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 テレワーク勤務時と通常の職場での勤務時において同じ労働時間制度を採用する場合は、テレワーク勤務規程を作成しなくても、既存の就業規則でテレワーク勤務は可能である。 ただし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じることもあり、この場合、労働時間に関わるような原則的な事項は就業規則を改正すべきで、テレワーク勤務のみの限定事項については『テレワーク勤務規程』として別規程を用意した方がよいといえる。 なお、別規程を用意した際には、本規程は就業規則の一部とされ、本規程を作成・変更したときは所轄労働基準監督署へ届出が必要となる。 テレワーク向け規程を用意する際には、以下の項目について検討していただきたい。 ▷テレワーク勤務者の対象範囲・業務の種類 育児休業明けの従業員を対象とするのか、又は業務内容によって適用される範囲を定めるかなどを具体的に取り決める。 ▷テレワーク勤務者の選定基準 テレワーク勤務を認める従業員の勤続年数や職位など、適用される従業員の選定基準について具体的に定める。 ▷就業場所等の労働条件の明示 実務上注意しなければならないのは、実際に在宅勤務やモバイル勤務を命じるときは「労働条件通知書」あるいは「辞令」、新たに労働者を雇い入れる場合は「雇用契約書」等でその内容を明示する必要があるという点である。また、自宅で勤務させる場合にはその就業場所を「自宅」と明記しなければならない。 テレワーク勤務規程を別に設ける場合は、その規程の適用があることを就業規則に記載しておくのが望ましい。 ▷テレワーク時の服務(ルール) オフィス勤務と違い、その勤務形態が「離れて働く」ことから、会社から見えない場所であっても「職務専念義務」のあることを規則に記載しておくことが必要である。 企業によっては、在宅勤務において「図書館」「スポットオフィス」等で作業することを禁止している例も見受けられ、これは労働災害、通勤途上災害や機密保持等を懸念したものである。 なお、資料の持ち帰りルールや漏洩防止のための情報管理の方法も必要である。 ▷テレワーク時の労働時間制 テレワーク勤務が、就業規則に規定されていない勤務体系(例えばフレックスタイム制)を適用する場合や在宅勤務時のみなし労働時間制を適用する場合において、就業規則に事業場外みなし労働時間制の規定がないときは、その規定を追加する。 ▷賃金、通勤手当、在宅勤務手当等の諸手当 人事評価制度を新設あるいは改定したり、通勤手当を変更する場合や在宅勤務手当を新設する時、又は、業務内容の変更による給与の変更を行う場合のルール等を定める。 ▷テレワーク勤務者に対する安全衛生・健康 常時型在宅勤務の場合、健康管理については自己に委ねることが多くなることから、導入時や定期的に、一般の健康診断とは別に健康診断を実施したり、産業医による健康相談を義務づける。 作業環境として、特に在宅勤務では働く場所が従業員の自宅であるため、使用者が従業員の自宅まで干渉することとなり、プライバシーの侵害等の問題がある。一方、使用者には職場の安全衛生に関する配慮義務があることから、在宅勤務については作業環境に関するルールを作り、これに従って作業環境を整えるよう指示をする。 ▷テレワーク勤務者に対する教育・研修 テレワークを導入する際には、当然ながら、その内容を社内にきちんと周知を行うことが重要である。 具体的には、在宅勤務を導入するねらい・目的、対象となる部門、実施の概要などを社内に伝える。社内に周知がされていないと、誤った情報や噂などが広がり、従業員が困惑したり、テレワーク実施者に対する批判(怠けている等の誤解)などが起こることも考えられる。 特に在宅勤務者については、「楽をしているように見える」であるとか「厚遇を受けている」とかの批判も見られるため、このような誤った考えがテレワーク導入の阻害要因となっていることが少なからず見られる。 テレワーク導入時にはこの点にも配慮が必要であり、在宅勤務者だけでなく、その部署の従業員に対してもテレワークの研修と理解が必要である。 ▷テレワーク時の情報セキュリティ 本連載の第2回で取り上げたように、在宅勤務時は、ネットワーク回線を通じて、オフィスに設置されたサーバーへアクセスしたり、電子メールを活用する機会が増える。また、自宅で仕事するために、オフィスに置いてある資料などを持ち帰ることもあり、在宅勤務時には、これまで以上に情報セキュリティに気をつかわなければならない。さらに電子メールやホームページを閲覧することによって、ウィルスなどの被害に遭う確率も高まるため、こうした点への対応も必要となる。 そこで、会社としてのセキュリティ・ポリシーや情報管理規程を策定ないしは改定し、情報システム上の機密防衛策と、従業員に対するセキュリティ教育を実施することが必要になる。在宅勤務者に対する条件は、こうした会社全体のポリシーや運用体制を整備するなかで合理的に定めていくべきである。 ▷テレワーク時の通信費等の費用負担 厚生労働省の「在宅勤務ガイドライン」にも示されているとおり、在宅勤務に関わるコストに関しては、労使の話し合いにより会社負担か個人負担かを項目によって決めておくことが必要である。 (連載了)
最新!《助成金》情報 【第11回】 「雇用関連助成金の活用(その11) 《雇用調整助成金・障害者雇用関連助成金》」」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 《雇用調整助成金》 1 目的 この助成金は、景気変動や産業構造の変化など経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、休業、教育訓練、出向により雇用を維持する事業主を助成することで、労働者の失業予防や雇用安定を図ることを目的とする。 2 対象要件 対象となる事業活動の縮小の要件は、次のすべてを満たすこと。 3 対象措置 この助成金の対象となる措置の概略は、事業主自らが指定した対象期間(1年間)内に行われる次のものとなる。 ① 休業 所定の労働日・時間内に1日又は1時間以上行い休業手当を支払うもの。 ② 教育訓練 職業に関する知識、技能、技術の習得向上を目的とする次のもの。 事業所内訓練 事業主自ら実施するもので所定の労働日・時間内に賃金を支給し1日又は3時間以上行い受講日に業務に就かせないもの。 事業所外訓練 外部の教育訓練機関等で所定の労働日・時間内に賃金を支給し1日又は3時間以上行い受講日に業務に就かせないもの。 ③ 出向 同意を得て出向元事業主が賃金を支払い3ヶ月~1年以内で出向し、終了後は出向元事業所に復帰するもの。 4 支給額 (1) 対象措置ごとの支給額 ① 休業 対象者に支払われた休業手当相当額に下記表[1]の助成率を乗じた額。 ② 教育訓練 対象者に支払われた賃金相当額に下記表[1]の助成率を乗じた額にさらに下表[2]の加算額を加えた額。 ③ 出向 出向元事業主の負担額に下表[1]の助成率を乗じた額。 【助成率と加算額】 (2) 支給対象期間 1年間に100日、3年間で150日を限度とする。 5 手続の流れ 6 活用のポイント 売上などが減少して従来の雇用者数を維持することが困難になった事業主が、必要な人材の雇用を継続するにはとても有効な制度である。 特にこの助成金を活用して業務に関連する教育や訓練を実施し、従業員の知識や技能、技術を向上することにより事業所全体のレベルの向上を実現できれば、将来に向けてさらに高い効果が期待できる。 《障害者トライアル雇用奨励金》 1 目的 この助成金は、ハローワークや民間職業紹介事業者等の紹介により就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより、その適性や業務遂行能力を見極めて求職者と求人者の相互理解を促進させ、障害者の早期の就職の実現と雇用機会を創出することを目的とする。 2 対象労働者 この奨励金の対象となる労働者は、次の(1)か(2)のいずれかの労働者となる。 (1) 障害者トライアル雇用の対象労働者 次の①と②の両方に該当する者。 (2) 障害者短時間トライアル雇用の対象労働者 次の①と②の両方に該当する者。 3 支給額 (1) 支給対象期間 [障害者トライアル雇用] 雇用開始日から1ヶ月単位で最長3ヶ月間を対象として支給する。各月の合計額をまとめて1回で支給する。 [障害者短時間トライアル雇用] 雇用開始日から1ヶ月単位で最長12ヶ月間を対象として支給する。最初の6ヶ月間とその後の6ヶ月間の合計額を2回に分けて支給する。 (2) 支給額 [障害者トライアル雇用] 対象者1人につき月額4万円 [障害者短時間トライアル雇用] 対象者1人につき月額2万円 4 対象外事業主 雇入日前日から6ヶ月前の日からトライアル雇用終了日までに、事業主都合による解雇者や勧奨退職者又は一定数以上の特定受給資格者となる退職者を出した事業主はこの助成金の対象とならない。 5 手続の流れ 6 活用のポイント この助成金は、障害者を初めて雇用しようとする事業主にとって、その適性や業務遂行の可能性を見極めるにはとても有効である。 ハローワーク等障害者の紹介機関には障害者の雇用に関する多くの情報もあるため、仕事内容や受入れ態勢などを説明し、また、障害者の適性などについても相談することもでき、障害者の雇入れと雇用継続には有効となる。 《障害者初回雇用奨励金(ファースト・ステップ奨励金)》 1 目的 この助成金は、障害者雇用の経験のない中小企業(労働者数50~300人)において、障害者を初めて雇用することで障害者の法定雇用率を達成する場合に助成するものであり、中小企業の障害者雇用を促進することを目的とする。 2 対象となる措置 この奨励金は、次の(1)の対象労働者を(2)の条件により雇入れし、(3)の要件を満たした場合に支給される。 (1) 対象労働者 次の①②③のいずれかに該当する65歳未満の求職者。ただし、事前に雇用予約があった場合や過去に派遣やアルバイトなどで就労経験がある場合、雇入れ事業主と密接な関係にある事業主に雇用されていた場合などは対象とならない。 (2) 雇入れ条件 次の①②いずれかの条件を満たすこと。 (3) 支給要件 1人目の対象労働者を、雇入れ日の翌日から起算して3ヶ月後までに雇い入れた対象労働者数が、障害者雇用促進法第43条第1項に規定する法定障害者数以上となり法定雇用率を達成すること。 【法定雇用率達成のために必要な対象労働者数】 3 支給額 支給申請時に常用労働者数が50人~300人の事業主が、要件をすべて満たして雇い入れた場合に120万円が支給される。 4 対象外事業主 過去3年間に対象となる障害者の雇用実績のある事業主や、雇入日前日から6ヶ月前の日から1年経過日までに、事業主都合による解雇者や勧奨退職者又は一定数以上の特定受給資格者となる退職者を出した事業主はこの助成金の対象とならない。 5 手続の流れ 6 活用のポイント この助成金は、障害者の法定雇用率を達成しようとする対象中小事業主にとってはとても有効である。 特に平成27年4月から障害者雇用納付金制度が常用労働者101人以上の事業主も対象とすることになるため、ぜひ検討していただきたい。 《中小企業障害者多数雇用施設設置等助成金》 1 目的 この助成金は、中小企業事業主が事業計画に基づき障害者を10人以上雇用するとともに、障害者の雇入れに必要な事業所の施設・設備等を設置整備した場合に、その費用に対して助成することで、中小企業での障害者の雇入れを促進することを目的とする。 2 対象措置 この助成金は、次の(1)の計画に基づき、(2)の対象労働者を(3)の条件により雇い入れるとともに、(4)の施設を設置した場合に支給する。 (1) 計画書の提出 次の①②③を満たしたうえで労働局へ提出する。 (2) 対象労働者 次の①~③のいずれかに該当する65歳未満の障害者が対象となる。 (3) 雇入れ条件 次の①②いずれかの条件を満たすこと。 (4) 施設設置等 次の①から⑤のすべてを満たすこと。 3 支給額 (※) 事業主の希望により、それぞれ下段〔 〕内の支給額を選択することも可能。 4 対象外事業主 雇入日前日から6ヶ月前の日から支給申請書が受理された日の前日までに、事業主都合による解雇者や勧奨退職者又は一定数以上の特定受給資格者となる退職者を出した事業主はこの助成金の対象とならない。 5 手続の流れ 6 活用のポイント この助成金は、障害者の状況に適したレベルで一定量の業務が確保できる中小企業にとってとても有効である。 施設設備費用に対する助成額は多額であり必要な施設設備の設置に効果的であり、多数の障害者の雇用で地域に対する貢献度も高くなるため、新たに多数の障害者雇用を計画している中小事業主は、ぜひ検討してほしい。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第6回】 「システム担当者不在が引き起こすリスクと回避策」 公認会計士 中原 國尋 はじめに 情報システムを導入する際に問題になることがある事象の一つとして、社内で情報システムをコントロールする担当部署や担当者が不明確になっているケースが挙げられる。 このような状況下で情報システムの導入作業をしなければならない場合、責任の所在が不明確になることも多く、導入時に問題が起こることも少なくない。 そのため以下では、担当者不在での情報システム導入が、実際にどのような問題を引き起こすのかについて紹介する。なお、最近のシステム導入では、特に会計システムの部分についてはフルスクラッチ(いわゆるゼロからの新規開発)で対応する事案は皆無であるため、本稿では、導入するシステムをパッケージソフトウェアに限定する。 ▼昨今の情報システム管理の体制▼ 言うまでもなく情報システム部門は間接部門であり、コストセンターである。そのため、多くの会社ではコスト削減のため縮小を図ってきた。現在では国内に多くのシステムベンダーが存在しており、情報システムを開発・導入する際には社内の人的資源ではなく、社外のシステムベンダーを活用するという状況が成立している。 しかし、外部のシステムベンダーは社内の状況を逐次、正確に把握しているわけではないため、残された情報システム部門の機能としては、経営戦略に沿った情報システム投資などの戦略を立案するなど、情報システムに関する企画機能が中心になる。 実際には、情報システム部門が廃止されその機能は総務部門や会計部門が担っている場合もあり、そのような企業では、それら総務部門などで情報システムに関する企画を検討・立案することが求められる。情報システム部門の役割が十分に認知されていない組織は特にこのような傾向にあり、結果として担当者の対応能力の欠如やスキル不足などの問題が生じやすい。 ▼情報システム部門に求められる役割▼ 情報システム導入段階における情報システム部門の役割は、情報システムの利用者である各部門の担当者と、実際にシステム導入を行う役割を持つシステムベンダーとのコミュニケーションの支援が重要であろうと想定される。 導入されるシステムのユーザーとなる各部門の担当者は、情報システムがどのように構成されているのかについて十分な知識はなく、またシステムベンダーについてはシステム導入の対象となる業務を詳細に理解しているわけではない。 また、一般に社内用語と呼ばれる、社外では通用しない業務に関する専門的な言葉が存在している場合もあり、またシステムベンダーの担当者も技術的な用語を頻繁に用いるなど、ユーザーとベンダーとの間の意思疎通を阻害する要因は多く存在している。 そのため情報システム部門としては、以下のようなことを役割として認識し、それを果たしていくことが必要となる。 ▼システムベンダーとのつき合い方▼ 情報システムの導入を行うにあたって、企画段階からシステムベンダーと協働するケースが見受けられる。 早い段階で情報システム導入にあたってのパートナーを選定し協議を重ねることは有効性が高い方法の一つであると考えられるが、一定程度のデメリットが存在していることも認識する必要がある。 まず、検討の初期段階からシステムベンダーを確定することによって、選択可能なパッケージソフトウェアは、そのベンダーが取り扱うことのできる製品に限られることから、パッケージの選択肢が制約されるケースがある。選択可能なパッケージソフトウェアが導入すべきシステムの要件を比較的満たすことができる場合は問題ないが、想定している業務に適合するパッケージソフトウェアが見当たらない場合には、別途検討を要することになる。 また、システムベンダーとユーザーとの間には情報の非対称性が存在することから、議論がベンダー有利に進む傾向にあることが挙げられる。つまり、システムベンダーはパッケージの機能については当然詳細な情報を有しているが、一方、ユーザー側では、どのようにシステム化を果たせばよいのかという点も含めて情報に乏しいケースが多い。ベンダーが議論を優位に進めることが可能という特徴は、特にコスト面において表れやすい。 同様にユーザー側がシステム化したいと考えている機能のうち、業務プロセス全体として考慮したときに、システム化すべきか否かの判断が合理的に行われないリスクも否定できない。すなわち、ユーザーが実装したいと考えているシステム上の機能について、パッケージそもそもの機能としては存在しないが、追加開発をすれば対応可能である場合に、システムベンダーは多くの場合、実現可能であるとの判断を下す傾向にあるように思われる。実際、それは可能ではあるにせよ、費用対効果の議論が欠落しているかもしれない。一般的に、実装が困難な機能は、期間とコストが多く必要であるし、ソフトウェアの品質としても管理が難しくなるのである。 そのため、あらかじめ情報システム担当者を中心にある程度情報の整理を行うことが望まれる。例えば、対象の業務プロセスを明らかにしたうえで自動化すべき業務を明らかにし、その優先度合いを検討する。それによってシステム上の機能として優先すべき項目が明らかになるので、その希望を実現できるパッケージソフトウェアを選定することが可能になる。 必要な機能等をRFP(Request For Proposal:要求仕様書)として取りまとめ、同じ条件でシステムベンダーに検討してもらうことによって、想定されるシステム導入のコストと期間を比較・検討することが可能となるのである。 ▼外部人材を活用したリスク回避▼ 仮に、情報システム担当者が中心になった導入作業を行うことができない場合、ユーザーの要求を無制限に取り込み、全体としての業務処理のデザインを考慮せず、ベンダーの提案をすべて受け入れる等のリスク事象が発生する。それによって導入したシステムは、ユーザーからの不評を買い、導入したシステムの利用が限定的になるリスクが生じる。 情報システムの導入は非常に大きな投資であるため、それが失敗することは将来数年間の業務処理を不効率化ならしめる結果となる。 ユーザーニーズのうち、将来の業務プロセスを想定する中で全体最適を図るために必要な機能のみを実装することで、ユーザー満足度の向上や開発コストの適正化、円滑な業務遂行の実現を支援することができる。その目的を達成するために、社内の人的資源を質・量ともに補完する意味合いで外部の人材(コンサルタント等)を一時的に利用することは、1つの判断として有用であると考えられる。 結果的に開発期間の短縮、コストの低減、ユーザー満足度の向上が実現すれば、外部のリソースの利用は必ずしもコスト高につながるものではないだろう。 ▼まとめ▼ システム担当者が不在である場合、あるいは不在ではなくともシステム導入のプロジェクトに時間を割くことが困難な場合、結果的にベンダーに都合良く対応されるケースがある。それを社内でコントロールできないのは、不幸な結果を招くことになりかねない。 情報システム部門の組織を拡充し担当者を増やすことは容易ではない。そのような場合には、外部人材の活用を通じ、システム導入の失敗を回避できるように検討することが望まれる。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第27話】 「自信のないことは知ったかぶりしない」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ◆ワンポントアドバイス◆ 会社に新しい仕組みを導入する場合には、ひと足飛びにはいきません。入念な準備が必要です。時間をかけて進めましょう。 その際、自信のないことは知ったかぶりをせず、正直にわからないことを告げ、その分野のスペシャリストに確認しましょう。 (了)
2015年3月12日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.110 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第27回】 「消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」(その3)」 ~租税法内部における同一概念の解釈~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅳ 解説(承前) 2 消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」(承前) (2) 租税法律主義の要請 所得税法と消費税法に用いられている用語の意義を考えるに当たって、それぞれの法の趣旨を「担税力」の相違という観点から眺めて、その違いを論じることができたとしても、租税法律主義の要請する法的安定性等の議論は依然として残されているというべきであろう。 租税法中に用いられている概念の意義を他の法分野におけるのと同じ意義に用いることが法的安定性等に資するとして、租税法一般の解釈論において借用概念論が支配しており、また、その中でも統一説が通説的な地位を占めていることを考えると、この点については深慮ある検討が必要であるように思われる。 例えば、相続税の事案であるが、東京地裁平成7年6月30日判決(訟月42巻3号645頁)をみてみたい(注1)。 (注1) 本件は、父親の死亡により、その財産等を相続した原告が、相続した土地の一部について、租税特別措置法69条の3(平成4年法律第14号による改正前のもの)の定める事業の用に供されていた宅地に該当し、特例の適用を受けるものとして相続税の申告等をしたところ、被告から、特例の適用が認められないとして、相続税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため、原告が課税処分の取消しを求めて提訴した事案である。 これは、租税特別措置法69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の適用が争われた事例であるが、同地裁は、次のように論じている。 ただし、これは単に、所得税法上の「事業」概念を租税特別措置法69条の4にいう「事業」の概念と合致させることが法的安定性等に資するからというだけの議論ではない。 これは、次のように各条項の規定振りを検討した上での説示であった。 その上で、東京地裁は、 としているのである。 さらに、同地裁は、措置法は、各税法についての特例を設けるものであるから、相続税法の特例として設けられた本件特例制定の趣旨、目的等から、その「事業」概念を所得税法上の「事業」概念と別異に解すべきものといえるか否かを、なお検討する必要があるとして、同特例の制定及び改正の経緯を検証している。 このように、「事業」と称するに至らない不動産貸付け等の用に供されていた宅地等について、本件特例の対象から除外された経緯などに鑑みると、租税特別措置法は、そもそも所得税法上の「事業」を念頭において規定されてきたことが判然とするのである。 このような条文構成及び立法趣旨に鑑みて、所得税法33条と租税特別措置法69条の4の文言を同義に解してよいか否かについての検証がなされたのが、上述の東京地裁平成7年6月30日判決であって、単に法的安定性という見地のみでの議論であっただけではないのである。 このことからいえることは、法的安定性の要請を論じるに当たっても、異なる租税法上の用語を検討するに当たっては、それぞれの法の趣旨や沿革等を検証する必要があるのであって、本件においても、消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」が同じ意義を持つと論じるためには、立法経緯等からの検証がなされる必要があったのではなかろうか。 もっとも、そのような検証を行っても、やはり結論的には、消費税法と所得税法における「事業」の意義を同じものとするに足る根拠を導くことは難しかったであろう。 3 消費税法上の「事業」該当性 消費税法が事業以外の資産の譲渡等に消費税を課していないのは、事業外の取引、例えば個人が知人に資産を譲渡する等の行為に課税をするとしても、①把握が困難であること、②税収ポテンシャルが少ないためであると説明されている(金子宏『租税法〔第19版〕』664頁(弘文堂2014))。そうであるとすれば、客観的に把握の困難性が認められないものを「事業」と捉えるという考え方もあり得よう。 そこで、学説は、消費税法上の「事業」を「同種の行為を独立の立場で反覆・継続して行うこと」と理解しているのである。すると、本件賃貸を、消費税法上の「事業」に当たるとした本件富山地裁判決は、法の趣旨や学説に沿った判断を展開したものといえよう。 ところで、事業に限定している理由が上記①や②にあるとしても、そのことから直ちに、消費税法上の納税義務者を画するに当たり、独立性や反覆継続性が要請されるということになるのであろうか。この点は釈然としない。 この点、水野忠恒教授は、なぜ、消費税法上の納税義務者が個人事業者及び法人に限定されるべきであるのか議論となり得るとされた上で、「付加価値税が企業による付加価値に対する課税であることを考えれば、事業者とは『企業』であるようにも思われる。」とされつつも、次のように続けている。 とされるのである(水野忠恒『租税法〔第5版〕』740頁(有斐閣))。 この見解からは、事業者であるかどうかが問題とされるのがせいぜいであって、その事業者の行う業務の程度にまでは拘泥する必要性に乏しいということになろうか。かような意味では、消費税法上の納税義務者の範囲という観点からも同様の結論を導出し得たのかもしれない。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第1回】 「一の契約書で課税物件表の複数の号に該当した場合」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 継続してエレベーターの保守契約を結ぶ際には、記載内容により第2号文書の請負に関する契約書と第7号文書の継続的取引の基本となる契約書に該当する場合があると聞きましたが、違いを教えてください。 一つの契約書で課税物件表の複数の種類(この場合は第2号文書と第7号文書に該当したと仮定した場合)に該当する場合がある。この場合、印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則3の規定により、いずれかの一の課税文書として取り扱うこととされる。 第2号文書と第7号文書に該当した場合の通則3の規定を図示すると下記のとおりであり、原則は第2号文書に該当するが、契約金額の記載のない場合は第7号文書に該当する。 [事例] 工事請負及び工事手付金の 受取事実を記載した契約書(第2号文書と第17号文書) ⇒ 第2号文書 [事例] 継続する物品運送についての基本的な事項を定めた契約書で契約金額のないもの(第1号の4文書と第7号文書) ⇒ 第7号文書 具体的事例で考えてみると、下記のパターン1とパターン2は同一内容の契約であるが、契約書の記載の方法により、所属が異なる。 パターン1及びパターン2はともに第2号文書と第7号文書に該当するが、パターン1は契約金額の記載があることにより第2号文書に該当し、パターン2は契約金額の記載がないことにより第7号文書に該当することとなる。 このように、同一内容の契約で第2号文書と第7号文書に該当した場合、契約金額の記載の有無により所属が分かれることとなり、印紙税額も変わってくる。当事者において合意があれば、印紙税額の安い方法で作成することは節税につながり得策と考える。 ① エレベーター保守契約書(パターン1) ② エレベーター保守契約書(パターン2) (参考) (了)
贈与実務の頻出論点 【第2回】 「贈与税の除斥期間」 税理士法人チェスター 解 説 国税の除斥期間(税務署長が納税義務の確定手続を行うことができる期間)は、原則として5年となりますが、贈与税については、相続税法において次のそれぞれに定める期限または日から6年と規定されています。 なお、偽りその他不正の行為により、税額の全部もしくは一部を免れまたは還付を受けた場合における更正決定等の除斥期間は7年となります(通法70④)。 ちなみに税目別の更正の期間制限は、下記のとおりとなります。 *1 揮発油税及び地方揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、たばこ税及びたばこ特別税、電源開発促進税、航空燃料科税、印紙税(印11 、12 に掲げるもの)、地価税をいう。 *2 平成20年4月1日以降に終了した事業年度または連結事業年度において生じた純損失等の金額から適用される(通附則37)。 *3 出典:税大講本「国税通則法」 (了)