こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第32回】 「プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社がスポンサーになり、東京・後楽園ホールで7月10日にプロレスの試合、7月20日にプロボクシングの試合を開催しました。8月6日に当社からプロレスラーとプロボクサーへ報酬(ファイトマネー)を支払う予定です。具体的な金額は、次の通りです。なお、全員、日本人です。 プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 プロレスラーの報酬は、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。1回に支払う額が100万円超の場合、100万円以下の部分は10.21%、100万円超の部分は20.42%にて源泉徴収しなければならない(所法204条1項4号、205条1項)。 プロボクサーの報酬は、5万円を差し引いた上、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。5万円を差し引く点と、1回に支払う額が100万円超でも税率は10.21%のままである点で、プロレスラーと異なる(所法204条1項4号、205条2項、所令322条)。 プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 ① プロレスラーA ② プロレスラーB 1回に支払う額が100万円超のため、100万円以下の部分は10.21%、100万円超の部分は20.42%にて源泉徴収する。 ③ プロボクサーC 報酬から5万円を差し引く点で①と異なる。 ④ プロボクサーD 1回に支払う額が100万円超であるが、税率は10.21%のままである点で②と異なる。 当社は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税275,670円(10,210円+142,940円+5,105円+117,415円=275,670円)を9月10日までに納付しなければならない。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【66】 〔第8章〕判決を読む (その2) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 判決をみるポイント ① 当事者の主張をしっかり読む 判決の全文を入手しても、その量が多い場合には、判決部分である「裁判所の判断」だけを見て、当事者の主張は軽視しがちである。 しかし、結論である判決は当然当事者の主張を背景にしたものであるから、これを見落としてはいけない。 というのも、民事訴訟においては弁論主義が採られており、裁判所はあくまでも当事者の主張したことの中で判決を下さなければならないからである。 租税訴訟は、地裁に関して言えば、東京地裁や大阪地裁(その他の幾つかの大都市の地裁にもある)といった行政事件を専門に扱う部署がある裁判所を除き、刑事・民事に大別した中では民事に属するため(【第49回】参照)、普段民事訴訟を審理している裁判官が裁判に当たることになる。 租税訴訟の手続法としては国税通則法や行政事件訴訟法によるが、この行政事件訴訟法第7条において、特に行政事件訴訟法に規定がない場合には民事訴訟法による旨が規定されており、民事訴訟と同様、弁論主義をベースにした審理がなされているからである(これに対し、刑事事件の場合には当事者の主張如何により結論が左右されてはいけないため、職権探知主義が採られている)。 もっとも、租税訴訟については、私見としては、本来、弁論主義ではなく職権探知主義によるべきものと思っている。 以下にその点を少し詳しく記していこう。 当事者の提出した主張と資料のみに基づいて判断を行うのが弁論主義(不干渉審理主義)であり、これは、私的自治を尊重する民事訴訟の基本原則とされている。 私人間の訴訟においては、自己に有利な主張・資料を提出するインセンティブが双方に存在するから、弁論主義を採っても十分な資料が法廷に提出されることを期待でき、もし十分な証拠が提出されず真偽不明の状態になった場合においても、立証責任の分配により、判決を行うことが可能であるとされている。したがって取消訴訟(行政行為の取消しを求める訴訟。租税訴訟として最も多い更正処分の取消しを求めるものは、これにあたる。)についても、基本的には、弁論主義が妥当するとされている 。 しかし、取消訴訟においては行政処分が取り消されるべきかが争点になり、公益と関わる面が大きいため、訴訟における勝敗を当事者の主張・証拠提出の努力にのみ委ねてしまうことは適切とは思われない。 このことから行政事件訴訟法第23条の2には「釈明処分の特則」が、そして第24条には「職権証拠調べ」が設けられている。 行政事件訴訟法第23条の2は平成16年改正で設けられたものであり、改正前は裁判所の釈明権については民事訴訟法第149条に、釈明処分は第151条に依っていたが、取消訴訟における訴訟関係を明瞭にし、審理の充実・迅速化を実現させるために、訴訟の早期の段階で処分又は裁決の理由を明らかにすることが必要であるという認識に基づき、設けられたものとされている。 なお第23条の2については、その他の抗告訴訟としては無効等確認の訴えについて準用されており(同法第38条第3項)、さらに当事者訴訟における処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出についても準用されている(第41条第1項、その他第45条第4項にも準用規定あり)。 また行政事件訴訟法第24条は、行政事件訴訟法の「第二章 抗告訴訟」中「第一節 取消訴訟」にあるものであるが、その他の抗告訴訟にも準用されている(同法第38条第1項)。また当事者訴訟も同様である(第41条第1項、その他第45条第4項にも準用規定あり)。 なお、この職権証拠調べの規定は、昭和37年施行の行政事件訴訟法制定前に施行されていた行政裁判法第38条第1項や行政事件訴訟特例法第9条においても明文で規定されていたものである。 かつて最高裁一小昭和28年12月24日判決 は「証拠につき充分の心証を得られない場合、職権で、証拠を調べることのできる旨を規定したものであつて、原審が証拠につき十分の心証を得られる以上、職権によって更に証拠を調べる必要はないのである」と判示している。このことからこれは「職権証拠調べは裁判所の権限であるが義務ではない」とされている。 しかし、必要があると認めながら調べないという選択肢が許されるはずはない(【第25回】参照)。もっとも必要があると認めるか否かについては裁量が許されるであろう。上記判決においても、証拠につき充分の心証が得られたため必要と認めなかったからであり、必要と認めながら裁量がある旨判示したわけではない 。 ところで、税法においては、重要な原則として「合法性の原則」がある。 この合法性の原則については とされている(金子宏『租税法(第19版)』2014年、弘文堂、79-80頁)。 すなわち、租税負担の公平が要請されているのであるが、当事者の主張如何により訴訟の勝敗が決せられ、租税負担の公平性が害されることは、この合法性の原則上許されないはずである。そうであるならば、租税訴訟においては、行政訴訟一般よりも職権探知主義によるべきことが強く要請されるものと思われる。 そもそも、税法が侵害法規である以上、民法よりも刑法に近い性質を持つものであるから、刑事訴訟と同様に、職権探知主義によるべきであろう。 しかしながら、現実には、この行政事件訴訟法第24条の職権証拠調べはあまり機能していないとも言われており、通常は弁論主義に基づいて判断が為されているようである。 したがって、裁判所の判断が、当事者(原告、被告)のどのような主張に基づくものなのかという点は、判決を考えるうえで重要な意味を持つのである。 (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第34回】 株式会社東芝 「第三者委員会調査報告書(平成27年7月21日付)」 (後編) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 株式会社東芝(以下「東芝」という)は、平成27年7月20日に第三者委員会調査報告書を受領した旨、及びその要約版(以下「要約版」という)を公表し、翌21日には約300ページの大部となった調査報告書全文(以下「全文」という)を公表するとともに、取締役代表執行役社長である田中久雄氏以下8名の取締役と相談役で元社長の西田厚聰氏の辞任が伝えられた。 本稿では、公表された調査報告書に基づき、先週、前編としてお届けした会計不正の手口や原因分析に引き続き、後編として、再発防止策、調査報告書の特徴、調査報告書によっても明らかにならなかった事実について、検討することとしたい。 【第三者委員会調査報告書受領に至るまでの経緯】(再掲) 【第三者委員会の概要】(再掲) 【株式会社東芝の概要】(再掲) 株式会社東芝は、1875(明治8)年創業。日本を代表する総合電機メーカー。売上高6兆5,000億円余。営業利益2,900億円余、総資産額6兆2,400億円、純資産額1兆6,500億円を超える企業規模を誇り、連結子会社は598社に上る。従業員数約20万名(平成27年3月期)。本店所在地は東京都港区。東証、名証1部上場。 【再発防止策】 1 第三者委員会による提言 第三者委員会は、再発防止策として、「直接的な原因については原因それ自体の除去を目的」として、また「間接的な原因についてはハード面及びソフト面の双方から是正を行うことを目的」とするという考え方のもとに、以下の提言を行っている。 2 東芝による対応 7月21日のリリースで、東芝は、「経営責任の明確化」と「経営刷新委員会の設置」を公表した。「経営責任の明確化」について、本稿の冒頭で取り上げたように、歴代3人の社長が辞任、その他の取締役及び執行役についても、「調査報告書を精査、検討し、別途判断のうえで」経営責任を公表するとしている。 一方、「今後の経営体制、ガバナンス体制、再発防止策等について前社外取締役が社外専門家の助言も受けつつ集中的に検討」することを目的に経営刷新委員会を設置することを決定している。経営刷新委員会はまた、内部統制システム及びコンプライアンス体制の抜本的な見直しを含む再発防止策の具体的な内容を検討するとされている、 また、監査委員会委員長には、辞任した久保誠取締役(元CFO)に代わり、社外取締役の伊丹敬之氏を選定し、取締役会の過半数を社外取締役とすること等を含めて、慎重かつ迅速に検討するとしている。 3 再発防止策の検討 第三者委員会によって提言された再発防止策は、認定した発生原因に対応するものとはいえ、残念ながらあまり具体的なものではない。 唯一実効性がありそうな施策として、「経営監査部を発展的に解消」したうえで、「各事業部門・カンパニー等から独立した立場」で、「社外取締役などを統括責任者とする」「強力な内部監査部門」を新設することが挙げられている。 この組織が実現すれば、「経営トップによる不正が行われた場合においても監査権限を適切に行使できるような体制」と権限、予算措置までが講じられるということである。 実現できるかどうかは、東芝経営陣にかかっていると言えようが、本稿執筆時点においては、上述のように経営刷新委員会の設置、委員の人選などは進んでいるが、「強大な内部監査部門」の新設については、まだ進行状況は不明である。 【調査報告書の特徴】 1 第三者委員会委員の人選について 第三者委員会の委員選定を公表した際のリリースには、以下のようなコメントがあり、就任時から、「東芝との利害関係」を指摘する声も多く見られた。 弁護士の松井秀樹氏に関しては、次のような記述がある。 報道では、顧問契約の解約は5月13日付、第三者委員会の委員就任が5月15日付であるから、「委員就任に際して」解約されたのではなく、「委員就任のために」解約したというのが実情であり、いくら「独立性・中立性を阻害する要因とはならない」と強弁したところで、委員会設置前から会計不正の疑いが濃いと思われていた電力事業に関連する連結子会社の顧問弁護士に、あえて、第三者委員会の委員を委嘱したことに何らかの理由なり、思惑なりを感じざるを得まい。 また、公認会計士の山田和保氏に関しても、次のように記されている。 こちらも、あえて取引関係にあった監査法人の出身者を第三者委員会に加えることについて、会社側の意図がなかったと言えるのだろうか。 こうした断り書きなしに第三者委員への就任を依頼できる弁護士・公認会計士はいくらでも存在すると思われるのであるが、委員就任を要請した積極的な理由があるのであればそちらを強調すればいいわけで、こうした弁解じみたリリースを出さざるを得ない人選がなぜ行われたのかは不明のままである。 2 調査対象の絞り込み(全文p.15以下、要約版p.11以下) 通常の第三者委員会であれば、すでに顕現している会計不正と同種の、あるいは異なる手段による不正が存在しないかどうか、網羅的な調査が要請される。 また、そうした網羅性が、社内調査ではない独立した第三者による調査が必要であるという論拠の1つにも挙げられるのであるが、東芝の第三者委員会は、委嘱された調査しか行わないことを報告書冒頭に明記し、報告書の中でも繰り返し「委嘱されていない」として、「調査を行ったのかどうか」明言を避けている箇所が散見された。 3 異例の「調査の前提条件」(全文p.18以下、要約版p.13以下) 「2 調査の前提」には10項目の記載があるが、きわめて異例といっても過言ではない項目が少なくとも2つ存在している。それぞれ引用する。 この記述は、明らかに第三者委員会の設置目的に適合しないものであろう。実際、東芝も、「第三者委員会設置のお知らせ(5月8日付)」の中で、第三者委員会による調査への移行の理由として、「調査結果に対するステークホルダーの皆様からの信頼性をさらに高めるため」と明記している。 「東芝のためだけに」という文言は、果たして何を避止するために挿入されたものであるのか、報道では、アメリカにおける訴訟で証拠開示請求を避けるためなどという憶測も出ているようだが、不明である。 さらに、前提条件は続く。 第三者委員会は「派生的な修正項目」と評しているが、報告書公表後、さまざまなメディアが報じているように、東芝の会計不正の真の動機は、固定資産(特に「のれん」)の減損による損失計上を避けるためであったり、繰延税金資産の計上が認められない「連結資本欠損」の状態になることを避けるためであったりしたかもしれないのであるが、こうした分析を「派生的」として切り捨ててしまったことが、会計不正の真の動機を明らかにできないまま、調査を終えた一因ではないかと思料する。 第三者委員会の調査が何を目的として行われたのかという点について、前項ともども、疑問に感じるところである。 【調査報告書によっても明らかになったと言えない事実】 1 会計不正を実行するに至った本当の理由(動機) 歴代社長が、部下である社内カンパニーの社長らに対して「チャレンジ」と称する高い目標を課し、それに応える形で社内カンパニーでは不適切な会計処理が繰り返され、莫大な架空利益が計上されてきた。これをもって、第三者委員会は「組織ぐるみ」の会計不正を認定したというのが、長文の調査報告書の要約になるわけだが、それでは、歴代社長はなぜ「チャレンジ」を命じ続けてきたのか。残念ながら、その回答は調査報告書から読み取れない。 一方、調査報告書に記載がない真の動機に関するメディアの報道をまとめると、概ね、次の4点に絞られそうである。 もちろん、これらの要因が各事業年度において複雑に錯綜して、会計不正の真の動機を醸成したものであろうが、第三者委員会による調査報告書にこうした記述がないことは、かえって奇異に映ってしまうのではないだろうか。 2 会計不正はいつから始まっていたのか この疑問点についても、第三者委員会は、調査対象期間を「2009年度から2014年度第3四半期」と設定し、2009年度において会計不正が行われていたことは認定しているものの、その前年以前については言及がなく、最初に会計不正が行われた時点における「動機」とその後の「動機の変遷」が判明しないことも、調査報告書を読み終えた後の納得感が得られない原因になっていると言えよう。 3 会計監査人はどうして不正を見抜けなかったのか(全文p.286、要約版p.69) 会計監査人である新日本監査法人の監査が機能しなかったことについては、今回の会計不正の「間接的な原因」」の1つとして位置づけられている。 そして、機能しなかった理由として、第三者委員会は、以下のように会計監査人を擁護するような記述をしている。 しかし、工事進行基準を悪用した会計不正が繰り返されてきたことは、「健全な懐疑心」を有する会計監査人であれば、当然に知っておくべき事実であったはずだし、PC事業の月次損益状況を見れば、売上高を超える利益が計上されていることなど、明らかに異常点が表面化していたわけであり、第三者委員会として、会計監査人がそのことを問題視しなかった理由を検証することなしに、「会計監査人による監査」を「間接的な原因」に含めてしまっていいのか、疑問が残るところである。 しかも、同じ項目で、第三者委員会はこうも語っている。 ここでも、第三者委員会は、「委嘱事項ではない」という理由で、「監査手続や監査判断」における問題点を調査しないとしているわけだが、であるとするならば、なぜ「会計監査人による監査」を「間接的な原因」に含めるという判断が可能だったのであろうか。明らかに、理路が一貫していないように感じられる。 4 新日本監査法人の対応 調査報告書の全文が公表された翌日である7月22日、新日本有限責任監査法人は理事長名で、「株式会社東芝の第三者委員会調査報告書公表を受けて」というタイトルのリリースを公表した。以下に全文を引用する。 新日本監査法人が、会計監査人として監査先に騙されてきたという第三者委員会の事実認定を前提にすれば、会計監査人を辞任しないという選択は理解に苦しむ。 会計監査人に対して虚偽の資料を提示し、説明を行うことは明らかに契約違反事由であるし、監査先の会計不正を発見できなかったことで新日本監査法人の評価も下がっていることからすれば、いったん、会計監査人を辞任したうえで、「報告書の内容を詳細に分析、検討」して、「必要な対策を講じる」べきではないだろうか。 また、東芝の修正後の有価証券報告書等の信頼性を高め、株主をはじめとするステークホルダーの会計監査制度に対する信用度を増すためにも、別の監査法人が会計監査を行うべきではなかったか。 本来であれば、証券取引所が介入して、「過年度の有価証券に修正すべき事由を生じた場合には、別の監査法人による会計監査を受けること」を上場維持の要件にすることを制度化すべきなのかもしれない。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第8回】 「金融資産及び金融負債の評価(時価)」 公認会計士 阿部 光成 前回までは金融資産・金融負債の消滅の認識を解説してきたが、今回は、金融資産及び金融負債の評価について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 当初認識時の測定 金融資産又は金融負債の当初認識は、時価により測定する(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)29項)。 付随費用については、次のように規定されている(金融商品実務指針56項)。 取得時における付随費用を、取得した金融資産の取得価額に含めることとしたのは、金融資産以外の資産の場合、原則としてその付随費用を資産の取得価額に計上しており、金融資産についてもその処理方法と同様にすることが適当であると考えたためである(金融商品実務指針261項)。 なお、付随費用に関しては、「金融商品会計に関するQ&A」のQ15-2において、「有価証券の取得の付随費用と取得関連費用」としても述べられている。 Ⅱ 金融商品の「時価」 金融商品会計において、「時価」とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場(以下「市場価格」という)に基づく価額をいう(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)6項)。 市場価格がない場合には、合理的に算定された価額を公正な評価額とする。 次のことに注意が必要である。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第90回】 連結会計⑦ 「持分法の適用」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈仕訳〉(単位:百万円) (※1) 持分法による投資利益の金額の計算 持分法による投資利益375=B社当期純利益1,500×持分比率25% 〈会計処理の解説〉 A社は、当社の持分比率が60%であり、当社にとって子会社に該当します。そのため、当社はA社を連結の範囲に含めています(連結財務諸表に関する会計基準13)。 B社は、当社の持分比率が25%であることから、子会社以外の他の企業の議決権の100 分の20 以上を自己の計算において所有している場合に該当し、当社にとって関連会社に該当します。ここで関連会社とは、企業(当該企業が子会社を有する場合には、当該子会社を含みます)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業をいいます(基準5)。関連会社には持分法を適用する(基準6)ことから、当社はB社に持分法を適用します。 C社は、当社の持分比率が100%でありますが、C社の資産や売上等が当社と比して僅少であることを考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性が乏しいと判断し、連結の範囲に含めていません。そのため、当社にとってC社は非連結子会社に該当します。ここで、非連結子会社に対する投資については、原則として持分法を適用します。しかし、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には持分法の適用会社としないことができる(基準6但書き)ため、当社はC社を持分法適用会社としていません。 以上のように、非連結子会社C及び関連会社Bに対する投資については、原則として持分法を適用しますが、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができます。 * * * 次回は、持分法の会計処理について解説します。 (了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第10回】 「加給年金の加算」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 65歳から支給される老齢厚生年金の年金額は、報酬比例部分の額に経過的加算額を加算した額だが、その受給権者に65歳未満の配偶者等がいるときは、年金の家族手当である加給年金が加算される。 1 加給年金の受給要件等 (1) 加給年金が受給できる人 加給年金が受給できるのは、厚生年金保険の加入期間(被保険者期間)が20年以上ある老齢厚生年金の受給権者で、生計維持関係(※)のある65歳未満の配偶者又は子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者又は、20歳未満の1級、2級の障害者)がある人である。 (※) 生計維持関係とは、加給年金が受給できる者(例えば夫)とその対象者(妻)が生計を同じくし、かつ、その対象者(妻)の年収が850万円未満の場合をいう。 (2) 支給開始年齢 加給年金は、65歳からの老齢厚生年金のみならず、特別支給の老齢厚生年金にも加算される。特別支給の老齢厚生年金を受給している人の場合は、定額部分が支給される年齢から加算される(【第2回】参照)。 (3) 加算される期間 加算される期間は、上記(2)の支給開始年齢から、配偶者又は子が下記に該当したときまでである。 (※) 加算の対象になっている配偶者は、65歳になると自分自身の老齢基礎年金に振替加算(【第4回】参照)が加算される。 2 加給年金額 加給年金の額は、下記の通りである。 (※) 特別加算額及び配偶者加給年金額 〈事例1〉加給年金の加算 夫の厚生年金保険の加入期間が20年以上あり、65歳未満の配偶者がいるので、加給年金が支給される。昭和25年8月生まれの夫は60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できるが、定額部分は支給されないため、加給年金は、夫が65歳になった翌月から妻が65歳に達する月まで、390,100円(月額32,508円)が支給される。 ただし、老齢厚生年金を繰り下げた場合は、その間、加給年金は支給されず、繰下げ受給後も加給年金部分は増額されないので、繰下げを検討されるときには、注意を要する。 3 加給年金が支給されない場合 加算の対象となっている配偶者が下記に該当する場合は、その間、加給年金が停止される。 〈事例2〉加給年金の停止 下記の事例では、夫の加給年金は67歳でストッブする。 《おさらいQ&A》 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第5回】 「戸籍の記載」 ~養子の氏と戸籍~ 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 普通養子縁組と特別養子縁組とでは、その成立要件となる各実質的要件(【第1回】参照)が異なること、特別養子縁組においてはできる限り実子と同様の戸籍の記載をすべきとの配慮等から、以下のとおり、養子の氏や戸籍に関する手続・内容等において差異が生じる。 [2] 普通養子縁組に関する氏と戸籍 1 普通養子の氏 【第2回】([2]普通養子縁組の効果)でも述べたとおり、養子は養親の氏を称することとなる。 ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は養親の氏を称しない(民810ただし書)。 現行民法は夫婦の一方のみが養子となることを認めているため(民796)、例えば(ア)婚姻によって夫の氏を称することとなった妻が単独で養親の養子となったとき、養親の氏を称するのではなく、夫の氏(夫婦の氏)を称し続けていくこととなる。 逆に、(イ)この場合の夫が養子となった場合には本条ただし書の適用はなく養親の氏を称することとなり、夫婦同氏の原則(民750)から妻も養親の氏を称することとなる。 なお、(ア)において、その後、妻が夫と離婚した場合には、婚姻前の氏に復することとなるが(民767①)、この場合、実親の氏が婚姻前の氏となるか、養親の氏が婚姻前の氏となるかが問題となる。 この点、離婚によって一旦、観念的に婚姻前の実親の氏に復すものの、養子縁組が継続していることから、養子は養親の氏を称するとの原則に従い、妻は民法810条本文により直ちに養親の氏を称することになる(昭62・10・1民事(二)発5000号通達)。 もっとも、民法767条第2項に基づき、離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することは可能である。 2 普通養子の戸籍 養子は縁組により養親の戸籍に入る。なお、養親が戸籍の筆頭者及びその配偶者以外の者であるときは、養親について新戸籍が編成され(戸法17)、養子はこの戸籍に入る。 しかし、上記(ア)のように、戸籍の筆頭者(夫)の配偶者(妻、すなわち婚姻により氏を改めている者)が養子となる場合には、養子(妻)の戸籍に変動はなく、身分事項欄に養子縁組をしたことが記載されるだけである。この場合、養子の氏(斉藤)と養親の氏(鈴木)は異なることとなる。 また、上記(イ)のように、戸籍の筆頭者(夫、すなわち婚姻により氏を改めていない者)が養子となる場合には、養子(夫)はその縁組によって養親の氏の新戸籍を編成し、養親の戸籍には入らない。そして、養子(夫)の配偶者(妻)も筆頭者である夫に伴ってこの戸籍に入籍する(随従入籍)。これにより、夫婦ともに養親の氏である鈴木を称することとなる。 3 「養子の子」の氏と戸籍 養子は養子縁組により養子の氏を称するが、縁組当時存在する養子の子は当然に養親の氏を称するわけではない(昭23・4・20民事甲209号回答)。養子の子は従前称していた氏を称し続けることとなるが、その場合、改氏した養子と、養子の子の氏が異なるケースが生じる。 養子の子が養子と同じ氏を望む場合には、民法791条に従い、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるとことにより届け出ることで、養子の氏を称することができる。 もっとも、養子の子は、養子夫婦が婚姻を継続している限り、家庭裁判所の許可を得ることなく戸籍法98条の入籍届によって養子の氏を称することができる(民791②)。 4 正当な代諾権者の代諾を欠く養子縁組の効力と戸籍の記載 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人がその者に代わって、養子縁組の承諾をしなければならず(民797①)、これを「代諾養子縁組」という。 ところが、生まれたばかりの子を他人夫婦の嫡出子として出生届をするなどした場合、当該他人夫婦による承諾は、正当な代諾による養子縁組とはならない。 もっとも、最高裁昭和27年10月3日判決により、養子が15歳に達した後、有効にこの縁組を追認できる旨判示したことにより、戸籍実務上でも、たとえ親子関係不存在確認の判決が確定した場合であっても、当該親子関係に関する記載のみにとどめ、養子が15歳に達した後、自ら縁組を追認して追完届を提出した場合には、これを受理し、「養子からの縁組の追完があった」旨戸籍に補記する扱いとされている(昭和34年4月8日民事甲624号通達)。これにより縁組は当初から有効であったものと取り扱われる。 [3] 特別養子縁組に関する氏と戸籍 1 特別養子の氏 特別養子縁組は、養子縁組の特別類型であり、縁組であることには変わりない以上、民法上養子縁組に関する規定は明文で排除されているものや特別養子縁組の規定の趣旨から当然にその適用が排除されるものを除き、特別養子縁組にも適用される。そのため、養子は、養親の氏を称することなる(民810)。 もっとも、特別養子縁組は、原則として6歳未満の児童を対象とする以上、養子となる者が婚姻した後に特別養子縁組がなされることはない。そのため、上記(ア)(イ)のような事態が生ずることはなく、養子の子の氏、戸籍等に関する問題も生じない。 また、特別養子縁組導入の発端となったとされる菊田医師事件(実母が出産した経歴が戸籍に残らないよう、乳児の出生証明書を医師が偽造し、子供を欲しがっている夫婦に斡旋していた事件)に見られるように、特別養子縁組の成立趣旨からすれば、正当な代諾権者の代諾を欠くような事態は、本来、想定されていない(もっとも、後述のとおり、戸籍の記載により間接的に特別養子縁組がなされたことは判明してしまう)。 2 特別養子の戸籍 戸籍の処理に関しては、できるだけ実子と同様の記載がなされる。 すなわち、特別養子が養親と戸籍を異にしている場合には、特別養子縁組の届出によって、まず特別養子について養親の氏で従前の本籍地に新戸籍を編成した上、直ちにその新戸籍から特別養子を養親の戸籍に入籍させる(戸法20の3①・18③・30③)。 この場合、できるだけ実子と同様の記載をするという配慮から、「特別養子縁組」、「実父母」、「養子」等の字句は使用せず、特別養子の身分事項欄に「〇年〇月〇日民法817条の2による裁判確定」と間接的に記載されることとなる。 これに対し、特別養子が既に養親の戸籍に在籍している場合には(普通養子を特別養子とするような場合)、特別養子縁組の届出によってその戸籍の末尾に特別養子を記載した上、従前特別養子が記載されていた戸籍の一部を削除する(戸法20の3・14③・戸則40③)。 特別養子縁組の審判が確定した場合、審判が確定した日から10日以内に審判の謄本を添付して戸籍の届出をしなければならず(戸法68の2・63①)、この届出を怠ると過料の制裁が科される(戸法135)。 (了)
常識としてのビジネス法律 【第26回】 「会社法《平成26年改正対応》(その7)」 弁護士 矢野 千秋 第6 監査役 1 監査役の資格、員数、任期、選任・解任 取締役と同様、非公開会社について、定款の定めをもって、監査役の資格を株主に限ることを認めた(335条1項、331条2項)。また、商法で欠格事由とされた「破産手続開始の決定を受け復権していない者」を監査役の欠格事由から外すとともに、金融商品取引法や各種倒産法制に定める罪を犯した者を欠格事由に加え(335条1項、331条1項3号)、さらに、法人などが監査役になれないことを明文化した(335条1項、331条1項1号2号)。 監査役設置会社においては員数の制限はない。監査役会設置会社においては、監査役は、3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない(335条3項)。 会社法は、監査役の任期を原則4年としながら、非公開会社については、定款に定めることで、監査役の任期を最長で10年まで伸長できることとした。非公開会社では株主構成が変わらないような会社も多いからである。 監査役を選任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない(341条)。 監査役を解任する株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。監査役の独立性である。 2 監査役の権限 監査役は、原則として業務監査権限および会計監査権限を有する(381条)。 監査役は取締役の職務の執行を監査する機関であるから、その職務権限は会計監査を含む業務全般の監査に及ぶ。しかし監査はその性格上消極的・防止的なものに過ぎず、しかも違法又は著しく不当な点を指摘できるだけであって、取締役の裁量的決定に容喙(ようかい)すべきものではない(適法性監査)。 (1) 事業報告請求権、業務財産の調査権(381条2項) 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる(381条2項)。 請求の相手方の「使用人」とは一般的には雇用契約による被用者を指すが、取締役に継続的に従属する地位にあるものも含む。嘱託、相談役、顧問等の名称の如何を問わない。 請求の時期には法文上制限は無いので、それが会社の業務に著しい支障を及ぼすような時間でない限り拒絶はできない。 調査の範囲であるが、取締役が調査を拒否できる範囲は限られている。監査役の職務と関係のない個人的利益のための場合や、必要性を明らかに欠くような場合である。高度の企業秘密等でも、それが監査に必要である以上拒否できない。監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役(下記(6)。監査の範囲を会計に関するものに限定されている監査役を便宜上こう呼ぶ)は会計のみ。 (2) 子会社調査権(381条3項) 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる(381条3項)。その場合、子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる(同条4項)。 子会社に対する事業報告請求権・業務財産調査権である。親会社の監査役としての職務を行うために必要である限り、親会社の監査役は子会社の代表取締役に対して事業報告を求め、または子会社の業務財産を調査することができる。子会社を利用した粉飾決算等を監査するためである。監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役は会計のみ。 (3) 会計監査人の選任・解任等に関与する権利 監査役(監査役会設置会社では監査役会)は、監査役が2人以上ある場合には、監査役の全員の同意によって、会計監査人が職務上の義務に違反し又は職務を怠ったとき、会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないときのいずれかに該当するときは、その会計監査人を解任することができる(340条)。監査等委員、監査委員全員の同意。 監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会)は、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容についての決定権を有するものとする(344条)。監査等委員会、監査委員会にもあり。限定監査役はなし。 (4) 監査役の任免に関する意見陳述権 取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数。監査役会設置会社では監査役会)の同意を得なければならない(343条)。 監査役は、株主総会において、監査役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる(345条1項・4項)。 監査役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができる(同条2項・4項)。 以上、いずれも監査役の独立性から認められている。 監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役もあり。 (5) 取締役の違法行為差止請求権 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる(385条)。監査等委員、監査委員も同。限定監査役はなし。 (6) 監査範囲限定の監査役 非公開会社(監査役会設置会社および会計監査人設置会社を除く)で、取締役または取締役会と監査役のみを置く株式会社においては、定款により、監査役の権限を会計監査権限に限定することができる(389条1項)。会計監査権限のみに限定された監査役を置く株式会社については、監査役設置会社に該当しない(2条9号)ため、株主の監督権限が強化されている。 3 監査役の責任 監査役と会社との間の法律関係は委任の規定に従う(330条)ので、監査役は会社に対して善良な管理者としての注意義務を負担する(民644条)。すなわち、会社の業務及び経理等に対して相当程度の知識、経験及び監査能力を有する標準型の人が監査を行うにあたり通常払うであろう注意の程度を指す。 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない(381条1項)。監査等委員会、監査委員会も同。限定監査役は会計のみ。 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない(382条)。なお招集請求権(367条、383条2項3項)。監査等委員、監査委員にもあり。限定監査役はなし。 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。意見陳述義務の範囲は、原則として取締役会審議事項に限られるが、取締役が会社の目的の範囲外の行為、法令定款違反行為をし、又はそのおそれあるときは、審議事項に限らず報告し意見を述べなければならない。またその意見は適法性に関するものに限られる。限定監査役はなし。 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない(384条)。監査等委員も同。監査委員にはない。限定監査役は会計のみ。 非取締役会設置会社の監査役の任務懈怠についても、取締役会設置会社と同様の一部免除制度を導入した(425条~427条)。また、監査役につき、定款の定めに基づく責任限定契約による責任の一部免除を認めた。詳細は前回の取締役の免責の箇所を参照されたい。限定監査役はあり。 4 監査役会 (監査等委員会は399条の8、9、10等。監査委員会は410条、411条、413条等) 監査役全員で監査役会を組織することにより、監査役相互間で職務の分担ができ、かつ情報及び意見を交換させて監査役の組織化、効率化を図り、その業務監査機能を実効あらしめようとするものである。監査役は3人以上、そのうち半数以上は社外監査役でなければならない(335条3項)。監査等委員会および監査委員会は過半数が社外取締役。 監査役会は、監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定をする(390条2項3号)。ただしこの決定は各監査役の権限の行使を妨げることはできない(2項但書)(監査役の独任制)。 (注) 監査役の独任制 監査役が複数存在してもそれぞれ独立して会社全体の業務・財産の状況を調査し監査せねばならない。これを「監査役の独任制」という。 監査役会は、監査役の中から常勤の監査役(職務専念義務を負う監査役。本店機能を有する場所で9時~5時必要とあらばそれを超えてフルタイムで職務に従事する監査役。)を選定しなければならない(同条3項)。 監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない(同条4項)。 監査報告書は、記載事項に関する各監査役の報告を受け、監査役会が多数決(定足数無し)で作成する(同条2項1号)。監査等委員会(399条の2第3項1号)監査委員会(404条2項1号)。定足数が無いのは独任制から個々の監査役の意思を反映させるためである。 監査役会は会計監査人の選解任に関与する。選任、解任、不再任の議案を総会に提出する(344条)。監査等委員会(399条の2第3項2号)監査委員会(404条2項2号)。監査役会の全員の同意(書面も可)で解任できる。 監査役会は、各監査役が招集し、原則として監査役の過半数をもって決する。書面決議(持ち回り決議)議決権代理行使は許されない(393条1項)。受任者性からである。監査等委員会(399条の10第1項2号)、監査委員会(412条1項)。 監査役会設置会社においては、監査役会が各監査役の報告(監査役監査報告)を受け、監査役会が多数決で作成する(390条2項1号、規130条1項3項、計規123条、計規128条)が、ある事項に関する監査役会監査報告の内容と自己の監査役監査報告の内容が異なる場合には、各監査役は監査役会監査報告に自己の監査役監査報告の内容を付記することができる(規130条2項後段、計規123条2項後段、計規128条2項後段)。監査等委員会(399条の2第3項1号)、監査委員会(404条2項1号)。 5 監査役の報酬等 報酬等は定款に定めある場合はそれにより、ない場合は株主総会の決議によって、取締役の報酬とは別にその額を定める(387条1項)。監査役の独立性である。その他、取締役の報酬に準ずる。前回の取締役の該当箇所を参照されたい。 (続く)
従業員等からの 『マイナンバー』入手の手順 【第2回】 「本人確認について(その1)」 ~理解するための“おさえどころ”~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 本連載の第2回となる本稿から第3回にかけては、「本人確認」の内容とその方法について解説する。 「本人確認」は、民間の事業者によるマイナンバー制度への対応にあたって最も実務的な負担が大きく、前回解説したような「対処の仕方」を決定するのにも苦慮する領域と考えられる。 そこで以下では、できるだけ理解しやすく、かつ、実務に即した解説をしていきたい。 1 本人確認の基本的な理解 「本人確認」については番号法第16条に定められているが、端的に言うと、民間の事業者が本人から個人番号の提供を受けるときは、 というものである(※1)。 (※1) 一般的には、①を「身元確認」、②を「番号確認」と呼称している。 そこで、これらを実践すべく、「個人番号カード」や「個人番号の通知カード」、運転免許証等の顔写真付き身分証明証等の提示を受けることなどを総称して「本人確認」という。 「本人確認」は、個人番号の提供を受ける場合には、必ず行わなければならない。 後述するとおり、本人確認の方法として具体的に定められている個々の方法によって、そのやりやすさによる違いはあっても、基本的には例外が認められていないという点が重要である。 なお、この本人確認の具体的な方法は、番号法、番号法施行令、番号法施行規則及び個人番号利用事務実施者である行政機関(※2)による告示通達(※3)等により体系化されている。 (※2) 代表的には、税分野については国税庁、社会保障分野については厚生労働省であり、国税庁からは既に告示として公表されている。 (※3) 国税庁の告示については、「国税庁告示について」(国税庁ホームページ)を参照。 2 基本的な「本人確認」の方法 対面で本人の「本人確認」を行うとした場合、内閣府等からの各種説明資料にもあるとおり、大きく分けて、次の2つの方法がある。 (方法1)について、個人番号カードにはその表面に顔写真が表示されており、裏面には個人番号が記載されている(下図参照)。 そこで、本人からその提示を受けた場合、対面で確かにその本人であることを確かめたうえで、個人番号を取得することができる。本人確認を行う民間の事業者側からすると、最もやりやすい手段といえる。 (方法2)にはさまざまな組み合わせがあるが、次の方法が一般的である。 個人番号が記載されるのは、個人番号カードのほかに、通知カードと(個人番号を記載して出力した)住民票のいずれかであることから、個人番号カードの裏面の確認に代わる番号確認は、この「通知カード」もしくは「住民票」のいずれかで行うことになる。 また、基本的に身元確認はその趣旨からは「顔写真付身分証明証」によって行うことが望ましいと考えられることから、個人番号カードの表面の確認に代わる身元確認は、「運転免許証」や「旅券」等の確認によって行われる。 整理すると、以下のようになる。 先ほど述べたとおり、本人確認の具体的な方法は既述のものも含め、番号法、番号法施行令、番号法施行規則及び個人番号利用事務実施者である行政機関による告示通達等により体系化されているが、あらゆる事態を想定してさまざまな書類の組み合わせによることが認められている点が、本人確認を必要以上にややこしく感じさせる一要因であるといえる。 読者の皆様におかれては、個人番号カードによる方法か、通知カード又は個人番号付住民票と運転免許証や旅券等の顔写真付身分証明証の組み合わせによる方法かを、本人確認の方法の基本として、ぜひ理解していただきたい。 次に、少しずつ応用を加えていきたい。 「応用の場面」とは、上述した基本的な方法によることが実務的にあるいは現実的に難しい場合に考えていくケーススタディであると理解されるとよい。 3 『代理人』から本人の個人番号を取得する場合の「本人確認」の方法 例えば、国民年金の第3号被保険者関係届については、第3号被保険者に該当する本人(=従業員の配偶者)の個人番号が記載されることになる。そこで、原則的には事業者は、当該従業員の配偶者との対面により、本人確認を行う必要がある。 しかしながら、この取扱いは一般的に実務的ではないと考えられることから、実務上は別の方法を考えることになる。 (注) なお補足すると、当然ながら、当該従業員の配偶者を事業所に呼び、対面で本人確認を行うことが禁じられているわけではない。 具体的には、従業員を「配偶者本人の代理人」として、配偶者本人の個人番号を取得するというケースが考えられる。 このように、本人から個人番号を直接取得することが難しい場合には、本人の代理人を通じて、本人の個人番号を取得するということが考えられる。 この場合の本人確認の方法は、番号法施行令第12条第2項に規定されており、以下のとおり、3つの書類を確認しなければならないとされる。 つまり、代理人が誰であるのか、その身元とともに、本人から確かに適切な委任を受けて本人に代わって個人番号を提出する者であることを確かめたうえで、本人の番号を取得することになるのである。 4 国税庁の告示の位置づけについて 2で述べた原則的な方法によることが難しい場合には、個人番号利用事務実施者として実際に個人番号を利用することになる行政機関が適当と認める方法によることもできるとされている(番号法第16条参照)。当該規定を受け、現時点では税分野において国税庁から本人確認に関する告示(以下、国税庁告示)が公表されている。 つまり、国税庁告示は、原則的な方法による本人確認が困難と認められる場合の、いわば例外的な方法とその内容について定めたものであるといえる。 本稿公表時段階において、厚生労働省からはまだ類似の告示通達等は公表されてはいないものの、概ね国税庁告示と同様の内容になると考えられることから、事業者としては当該国税庁告示を参考に対応を練っていけばよい。 5 最後に 次回(第3回)では、今回解説した基本的な理解をベースに、具体的に企業として検討しなければならないケースにおける本人確認の方法や、本人確認について筆者がよく受ける質問事項をQ&Aの形で紹介していきたい。 (了)
〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第11話】 「調査官への道」 税理士 堀内 章典 多楠の決意 年が明けた1月半ば、その日、多楠調査官と淡路調査官の2人は青砥税務署で行われた調査1年目の研修を受けていた。研修の帰り、めずらしく淡路が青砥駅前にあるコーヒーショップに多楠を誘った。 「良太の保育園のお迎えまで少し時間があるから、ちょっと寄って行かない?」 淡路は国税局人事課に勤めるご主人と一人息子の3人で川崎市内の宿舎に住んでいる。青砥駅からは京成線、都営浅草線、京急の直通運転があるため、帰宅は思ったほど時間がかからないという。 先輩ながら、しっかり「割り勘でね!」とブレンドコーヒーを頼む淡路は、やや混雑している手狭なコーヒーショップの奥の席に腰を掛けた。席に着くなり、淡路は周りを見回しながら小声で話はじめた。 「今日の事案発表、多楠君の発表が一番目立ってたわ。そう、例のカバン屋・・・」 淡路の言う「カバン屋」とは、昨年、多楠が単独で調査をした株式会社関東貿易商会の調査のことである(くわしくは第5話を参照)。 淡路が辺りを見回したのは、自分たちの会話に聞き耳を立てている者がいないか、確認するためである。どこで誰が話を聞いて調査の内容が漏れるかわからない。外で話をするときは常に周りに注意を払いながら、具体的な名前や名称を出さずに話をするのが、淡路に限らず、調査官の習いである。 その淡路が続ける。 「それに比べて、ウチのペアは全然ダメ。いつも最初だけ花火が上がったように三浦上席が大騒ぎするけど、結局思い込みが激しすぎて尻つぼみに終わってしまうの。上期(※)部門の事績には全然貢献していないし、完全な敗戦処理班っていう感じよ。しかも件数もそんなに上がっていない・・・、ホント、イヤになるわ。」 (※) 上期とは、7月から12月までのこと(税務署の年度は毎年7月から翌年の6月)。 昨年から城東ブロック9署が持ち回りで数回にわたり行われていた会社調査1年目の調査官研修は、今日が最終日であった。今回は各自が上期で実際に着手した事案を持ち寄り発表することになっていた。 発表した事案についてどこが良かったとか、ここはこうすべきであったとか、青砥署のベテラン上席調査官の岩井が進行役とまとめ役を兼ねてディスカッションを行い、1年目調査官のスキルアップを図るのが、この研修のねらいである。 国税当局は調査ベテラン職員の大量退職による調査能力の低下を防止するため、若手調査官の育成に躍起になっている。今日のような集合研修をはじめOJT研修なども実施され、多大な時間と先輩調査官たちの労力を費やして、調査ノウハウの伝承や調査能力の向上を図っているのだ。 淡路が発表したのは、昨年最初に着手した仏壇屋であった。他の1年目調査官の発表事案も同じように、調査に同行した先輩調査官、ときには統括官が同行し、不正の端緒からまとめまで行った事案ばかりであった。 各自の話している事案の内容を聞いていれば、とても1年目調査官が端緒を見つけたり、まとめられるはずがないといったものばかりであった。 そのような事案の中で、多楠が発表したカバン屋の事案は明らかに異彩を放っていた。誰が聞いても多楠が一人で調査に行き、調査の展開を考え、不正を見つけた事案であることが明らかだった。多楠の説明を聞いていた進行役の青砥署の岩井上席も、多楠の話に聞き入り、その後、事案について熱心にコメントをした。 しかし、多楠には「あの日」以来、頭にこびりついて離れない思いがあった。それは “今年こそ、すし勢の汚名を絶対に晴らしたい。このまま終わるわけには行かない!” まさにその一心であった。 ▼ ▲ ▼ 話を昨年に戻そう。 11月も終わりごろになると、調査官は調査の最盛期を迎える。調査官たちは、年内に良い事績を挙げ、事務処理を終え、正月をすっきりした気持ちで迎えようとする。東上野税務署法人課税第5部門のメンバーも同様に、上期の調査事績の締めに向かい、多忙な時を迎えていた。 いつも尻切れトンボで事案が終わってしまう三浦と淡路ペアも、抱えている事案の年内終結に向け、忙しい日々を送っていた。寡黙な小泉調査官は常に一人で淡々と調査をこなし、新田には及ばないものの、着実に良い事績を挙げるようになっていた。すし勢の調査以来、他の事案でも田村統括官に復命する機会が増え、その時間もかなり長くなっていた。 12月、東上野署3階の法人課税部門全体が慌ただしい雰囲気の中、田村統括官はいつもご機嫌で日に何度も副署長室に入っては、何を話しているかわからないが、安倍副署長と長々と話し込んでいるのだった。 安倍はリョウチョウ(資料調査課)のエースとの評判ながら、細身で長身、リョウチョウが通算12年と長かったせいか、やや強面。だが、常に腰が低く、ベテランから若手職員まで分け隔てなく声をかけるので、職員の間でも評判が良かった。 年末調整説明会や法人会などの年末の各種会合で忙しい中でも、10歳年長の田村にいつも敬意を払い、どんなときでも厭な顔ひとつせず、ニコニコ嬉しそうに会話をするのであった。 そんな2人の姿を見て、淡路がいつものように小声で多楠に言った。 「田村統括もご機嫌よね。隣の特調部門よりも事績が倍近く上がっていて、ウチの部門が法人部門全体でも断然トップらしいから。でも、ウチのペアはまるっきり蚊帳の外だけど。」 多楠はそんな淡路の愚痴を苦笑いしながら聞き流し、イソイソと決議(※)をあげていた。 (※) 「決議」とは調査報告書のようなもので、事案ごとに作成し、上司の決裁を仰ぐ作業をいう。 確かに法人課税第5部門の事績は良い。そしてそれは、新田の成果によるところが大きかった。さらに、すし勢の調査に着手したころからは、俄然小泉が追い込みをかけている。最近の事案では、新田よりも小泉の方が事績を上げているかもしれない。 多楠のすし勢での失態に対する心の傷はまだ癒えないが、その後、多楠と新田はまるで何事もなかったかのように、今までと同じようにペアで調査を行っており、最近は内部での仕事に追われていた。 新田はというと、当然ながら内部の仕事も早く、仕事が思うように進まない多楠を残し、最近では小泉と一緒に帰る機会が多くなっていた。 多楠はあの日以来、“スナックかわばた”には行っていない。 ▼ ▲ ▼ やがて、決議の締め日も過ぎ、12月も後半を迎えるころ、部門の忘年会が行われた。 さすがに副署長の安倍は多忙を理由に出席を断っていたので、会は田村の独壇場と化していた。会が始まってすぐ、上機嫌の田村は満面の笑みを浮かべながら、部門の皆に話かけた。 「昼の打ち合わせでも皆さんに発表したけど、1月からは1年目の調査官も単独で調査に行ってもらいます。おかげさまで事績はヨソの部門より群を抜いているけど、調査件数は計画していた件数に大幅に届いていません。 だから淡路さんと多楠君は大変だけど、来年からは一人で調査に行ってもらいます。 三浦上席や新田君もそれぞれ自分の事案で忙しくなるから、これからの調査の報告は直接私にするように。」 淡路と多楠は昼の部門の打ち合わせで聞いていた話なので、“わかりました” とうなずく。 田村は、珍しく日本酒をぐびぐびと2、3杯たて続けに飲んだせいか、早くも顔を真っ赤に染めながら話を続けた。 「皆さんには直接関係ないけど、件数が計画通りいかないと主務課(※)の補佐から厳しく叱られるんだよね。せっかく良い事績を出しても退職金が減額になったら元も子もなくなる。頼むよ、皆さん!」 (※) 主務課とは、税務署の法人課税部門の事務運営を取り仕切っている国税局法人税課税課のこと。 「また退職金の話か」と、シラケる部門のメンバーだが、そんなこと意にも介さず、終始田村はニコニコしていた。その後2時間半ほどでお開きとなり、部門の全員が上野駅で散会した。 多楠はてっきり新田から“スナックかわばた”に誘いを受けるものと思っていたが、誘いはなかった。まだ、すし勢の件が尾を引いているのであろうか。 調査部門の冬休みは早い。忘年会が終了した翌日から三浦上席が休暇を取り、12月25日からは5部門のメンバー全員が年末年始の休みに入った。 (次ページへ) (前ページへ) 執念の反面調査 いよいよ後半戦が始まった。 年が明けると、東上野署法人課税の各部門は新年早々に着手する調査先の準備調査を行い、1月の中旬から一斉に調査に出かけた。多楠と淡路も青砥署の研修が終了すると同時に、調査に出始めた。 1月から6月の後半戦は、所得税の確定申告期間が2~3月にあり、5月にはゴールデンウィークがある。所得税の確定申告という繁忙期は、首都圏周辺の税務署では猫の手も借りたいほどの忙しさになるが、東上野署の管内人口は東京局の中でも下から2番目と少ないことから、さほど忙しくはない。 しかし、所得税の確定申告期間と3月決算会社の申告書作成で忙しい5月のゴールデンウィーク明けは、年間で税理士が最も忙しい時期であるため、調査のできる期間が限られており、調査日程の確保にけっこう苦労するのだ。 昨年末に田村から話のあったとおり、下期からは調査件数の処理重視で、多楠も淡路も原則一人で調査に行くことになった。 田村から指令を受けた7件のうち、真っ先に多楠が選んだのが次の会社である。 1月下旬、丸誠紙業の調査に一人着手する多楠。 朝、出かける前に新田が“準備調査の資料を見せろ”というので見せたものの、具体的な指示は何もなかった。出かける多楠の背中を心配そうに見つめる田村、24歳になる自分の長男と多楠の姿が重なってしまい、どうしても感情移入してしまうようだ。田村は内心で叫んだ。 (多楠君頑張れ! 君には将来がある! 部門の皆が君を応援しているよ! だけど本音を言うと、チョット心配なんだけど・・・) 多楠は予定どおり10時に丸誠紙業の前に到着すると、躊躇せず会社事務所兼店舗に入った。 ▼ ▲ ▼ 1階の店舗には人がいない。『御用の方は2階事務室へ』という案内板を頼りに、狭くて古い建物の階段を2階に上がると、天井の低い息が詰まりそうな事務室に専務の丸野と税理士の三村が座っていた。天井がやたら低いのは、この事務所がJR山手線と京浜東北線の高架下にあるからだ。 多楠は心に期すものがあったが、なぜか落ち着いていた。 昨年、関東貿易商会に一人で調査に行き不正を見つけたこと、そして何より半年間、新田の調査を間近に見ながらみっちり鍛えられたこともあってか、自分でも不思議なくらい気負いがなく、平常心であった。 世間話も早々に、丸野から事業概況を聴き出す多楠、この会社はアメ横の事業者向けに、事務用品、時にコピー機などの事務機器を販売している会社だという。前回の調査は5年前、期末の締め後の請求売上が漏れていたので、100万円程度の修正申告で終了していた。 多楠には特に注目した点があった。 それは、専務の丸野が、社長誠の娘明日香の夫、つまり婿養子である、ということだ。 多楠は先日の青砥署での研修会で聞いた、岩井上席の言葉を思い出していた。 調査のベテランで査察にも在籍していたことがあるという、ラグビー選手のように体格の良い岩井上席はこう言った。 「すべてのケースに当てはまるかはわかりませんが、私の経験則からして、社長や専務が婿養子の場合、不正が行われていることが意外に多い。 会社からの役員報酬はそのまま奥さんに入ってしまうからか、遊び金や自分が自由に使えるお金がほしくて義父や奥さんの目を盗んで不正を行い、会社のお金を誤魔化すケースが多いようです。 実は私が横浜西署の特調部門の時に行った会社でも・・・」 さらに岩井は、研修の締めくくりに、熱く、こう語った。 「皆さんは調査1年目です。何もかもわからなくて当然、だが人から指示されて動いているようではダメです。何が不審なのか、矛盾しているのか、自分の五感、そしてときには第六感さえも使って、証拠をつかむように心がける。常日ごろ自らの感性を磨く努力をし、おかしいと思ったら自分を信じて即行動に起こすことです。」 「こういった心がけで常に調査をした人が、一人前の調査官になるのです。優秀な調査官になる道なのです。税務調査に近道も王道もありません。頭で考えているだけではダメです。地道に努力し、想定し、試行錯誤しながら動き回って靴底を減らすしかないのです。」 ▼ ▲ ▼ 丸野が娘婿であると聞いた瞬間、多楠は自分の腕に鳥肌が立つのを覚えた。 “なんていうタイミングだ! 岩井上席から聞いたばかりの『娘婿のパターン』じゃないか!” その腕をワイシャツの上から手で擦りながら、半信半疑ながら多楠は考え “もし丸野専務が不正をしているとしたら、何を誤魔化しているだろう・・・。専務の役員報酬は年間720万円と、役員としては決して多い方じゃない。” 丸野からの概況を聴きながら、多楠は頭の片隅で、様々なシミュレーションを行っていた。 未熟な多楠の思い込みかもしれないが、不正が出そうなときに調査官が感じると言われている“何とも言えない、ゾクゾクするような、くすぐったいような感覚”が多楠を襲っていた。 丸野紙業は売上と仕入以外に、大きな取引はない。仕入先は事務機の大手メーカーであったり、かなりの規模と思われる事務用品の卸売会社が主であり、誤魔化すなら売上しかないはずだ。 “新年早々の事案で面白そうなのに当たったようだ。” はやる気持ちを抑え、帳簿や証拠書類の何を確認すべきか、多楠の頭の中は早くもフル回転を始めていた。 ▼ ▲ ▼ 店舗はほとんど無人、呼び鈴が鳴れば2階から社員が下りていくといった具合で、店の売上はあまりなさそうだ。話によると、丸野専務が店に出るケースはまずないとのこと。 丸野専務は今の会社に入る十数年前、中堅の総合商社で営業をしていた。商社を辞め丸誠紙業に入社した当初は営業部長として勤務、次に専務となり、5年前に義父の社長が病気で体調を崩してからは、いつ社長に就任してもおかしくない状況にあると三村税理士は言う。 多楠は想定した。 娘婿である丸野が誤魔化すとしたら売上、しかも自分が営業でまわっている会社の売上ではないだろうか。しかし、午前中の概況聴取から昼食を挟んでの帳簿調査の間、立ち会っている丸野の素振りを見ても、常に落ち着き払った態度で温厚そうな性格、岩井上席が言った経験則が当たっているのか、信じがたい気持ちの方が強かった。 しかし、それでは調査にならない。多楠はExcelで管理されている売上帳3期分の確認作業に入った。 ▼ ▲ ▼ 電車が数分おきに頭上を通過するたび、思わず耳をふさぎたくなるほどの騒音の中、多楠はひたすら帳簿調査に没頭した。Excel表を見る限り、不審な箇所は特に見当たらない。 売上決済のほとんどが振込であり、アメ横商店街の魚屋、肉屋などの現金商売の店は、頑なに昔ながらの現金決済を行っているところもある。多楠は関東貿易商会の時と同じように領収証の控と計上されている売上をチェックしたが、柳の下にドジョウは二匹いなかった。 さすがに今回、売上の漏れは見当たらない。 丸野はますます落ち着き払っている。 税理士の三村は忙しいのか、盛んに携帯に電話が入ってきて、その都度1階まで降り、通りに出てはクライアントらしき相手と話をしているようであった。50歳前くらい、紳士的で調査にも協力的である。 調査1日目の午後と2日目のほとんどを売上の確認に費やした多楠であったが、売上計上漏れは一切出てこなかった。 その間も、元商社の営業マンであった専務は、終始調査に協力的であった。 岩井上席が言っていたように、“すべてのケースに当てはまるかはわかりません”の例外の事案なのか、2日目の夕方、相変わらず落ち着いて表情ひとつ変えない専務の顔を見ながら多楠は思った。いつの間にか事務所内には、近くの飲み屋で焼いている焼き鳥の臭いが漂っていた。 ▼ ▲ ▼ 2日目の調査が終わり、3年間の売上を管理しているexcel表の写しをもらい受け、多楠は署に戻ると、田村に事案の報告をした。 「特に何がおかしいというわけではないのですが、専務の役員報酬が年間720万円と会社の規模に比して少なく、商社マン出身の専務は自分のテリトリーの得意先の売上を誤魔化しているように思えてならないのですが・・・。 明日から月末で調査の予約が入っていないので、丸誠紙業の得意先何件かに反面調査を行いたいのですが、よろしいでしょうか。」 多楠の意識の高さ、成長ぶりに思わず顔がほころぶ田村 「多楠君がそういうなら、ぜひやってみなさい。ただし、何件か反面調査に行って見込みがないようだったら、直ちに撤収すること。いいね。」 田村が意外とあっさり反面調査に了承したことを受け、喜ぶ多楠 「ありがとうございます!ではさっそく明日から反面調査に行ってきます!」 田村 「そうそう、あと、反面に行くにしても、新田調査官に相談して反面先を選んだらどうかな。」 「わかりました」とうなずき、多楠は後ろを振り向いたが、さっきまでいた新田は席を外していなかった。 多楠は思う。 “どうせ新田さんに相談しても何も指示が出るわけではない。このまま新田さんには黙ったまま、明日、反面調査に行こう。そうだ、それが良い!” 翌日から多楠は、丸誠紙業の得意先に無予告の反面調査を実施した。 最初はセオリーどおり、ある程度規模が大きいところから反面に着手、張り切って行った反面初日、2日目と多楠は精力的に岩井上席いわく“靴底が減るくらい”アメ横を中心に動き回ったが、1件の売上漏れも把握することはできなかった。 訪れたとある玩具店では、ある国の国家元首の大きな写真が壁一面に掲げられている部屋に案内され、帳簿の提示までしばらく待たされた。部屋に案内された当初は、壁の写真を見てビックリした多楠であったが、結局帳簿の提示があり突合の結果、残念ながら売上の漏れはなかった。 反面調査を行う場合、立て続けに5件も行って何も問題点が出ないと、調査官のマインドは落ち、諦めるケースが多い。しかし、このときの多楠は違っていた。昨年喫したあの屈辱を晴らすという強い一念が、多楠を奮い立たせていた。 ▼ ▲ ▼ 予定していた2日間もあっという間に過ぎ、2日目は午前午後と5件まわったが何の問題も発見できず、昼過ぎから天気はミゾレ模様、すでに時刻は3時を過ぎていた。 丸誠紙業はやはり岩井上席が言っていた例外事案なのか、さすがの多楠にも精神的、肉体的な疲労を感じ始めていた。 多楠は心に決めた。 “よし、これから中野区にある三本木商会に行って、何もなかったらこの事案は諦めよう。” 多楠が最後に目指す反面先、三本木商会株式会社は、アメ横でも有名なスポーツ用品店で、アメ横内にいくつか小売店を有していた。だが、丸誠の調査で三本木商会の本社事務所が中野にあることを把握していたので、アメ横近隣を反面先として優先的に選んだ多楠は、訪れる順を後にしたのだ。 JR中野駅からほど近い三本木商会に4時過ぎに着いた多楠は、古い茶色いタイル貼りの事務所の2階にある経理部に向かった。アメ横の会社といっても業種業態、規模は様々である。三本木商会はテレビのコマーシャルにも出てくるような、アメ横では名の知れた大きな会社であった。 多楠は2階のドアを開け、入口の応接電話越しに経理担当者に面会を求めた。しばらくすると中から中年の男が機嫌悪そうに出てきた。来意を告げ、協力を求める多楠、2日間で10件以上の反面調査を行っていたので、そのあたりの会話には馴れていた。 多楠に名刺を差し出した経理課長の峰岸は40歳前半、いきなりこう言い放った。 「東上野税務署? いつもなら連絡があるのに急に来て、こんな時間に何の用?? 来るなら事前に連絡してくれればいいのに・・・」 再度丸誠の反面調査であるとの来意を告げる多楠、「明日にしてくれ」とでも言われるかと思ったが、 「あっそう、それなら少し待ってて、書類を持ってくればいいのね。」 と言いながら、峰岸は近くのパーティション内に多楠を案内し、事務室内に戻って行った。多楠が来た趣旨が理解できたからか、5分ほど経ってから戻った峰岸は、先ほどより少しだけ応対が丁寧になったものの、相変わらず馴れ馴れしい。 「ウチは中野中央税務署の所轄だけど、いつも予告してから来るよ。ヨソの税務署が来るなんて何事かと思ったよ。ましてこんな夕方、突然にさ。」 多楠は素直に頭を下げ 「お忙しいところお伺いして恐縮です。」 峰岸 「ウチじゃなくて、丸誠さんの調査だよね。何かあったんですか、丸誠さんに。あそこの専務さん、そうそう、婿養子の。」 いきなり核心を突かれた多楠だったが、落ち着いたまま 「いえ、先ほども申し上げましたように、今日は御社と丸誠さんの取引を確認するためにお伺いしただけです。」 峰岸はまだ解せないというように 「ふーん、そうなんだ。はい、これがウチの支払の明細、とりあえず1年分、ウチは6月決算なので、あるのは去年の6月分までだけど・・・」 多楠は峰岸に礼を言い、さっそくチェックを始めた。しかし、丸誠から入手した売上を管理しているexcelの写しと突合するも、すべての売上が合致した。 “やはりダメか・・・。どうやら丸誠は例外の会社だったようだ。” 多楠はため息とともに肩を落とした。 書類をカバンにしまって帰り支度をしようとしたとき、峰岸が思い出したようにポツリと言った。 「そうそう、今調査官に見せた経費帳は第1営業部のもの。」 “えっ!” 驚く多楠に一瞬、稲妻が走る、 この峰岸の機転が、思わぬ展開をもたらすことになるのだった。 (続く)