現代金融用語の基礎知識 【第16回】 「REIT(リート)」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 REITとは ここ最近、新聞などで「REIT相場が高騰」や「REITの増資が活発」といった記事をよく目にする。そのREITとは、“Real Estate Investment Trust”の略称で、「不動産投資信託」のことである。投資信託は、投資家から集めた資金を株式や債券などに投下するものだが、REITは、文字どおり投資家から集めた資金を不動産に投下するものである。 REITは、証券取引所が運営する市場に上場していて、本稿執筆時点では、東京証券取引所が運営する市場に50銘柄が上場している。2008年の世界的金融危機(リーマンショック)以降、REIT相場は低迷していたのだが、景気回復に伴う好調な不動産市況を背景に高騰しているため(全体の時価総額は2008年の頃の2倍超に)、最近REITに関する記事をよく目にするのである。 なお、未上場のREITも存在するのだが、通常、REITというと、上場REITを指すため、本稿では上場REITを念頭に置いて解説する。 2 不動産投資を事業とする会社? REITは不動産投資信託なのだが、上場会社と同様にとらえて、「不動産投資を事業とする会社」であると考えるとわかりやすいだろう。 上場会社は、投資家から集めた資金をその事業に投下し、収益を得て、投資家に配当として還元するのだが、REITは、投資家から集めた資金を不動産に投下し、収益を得て、投資家に分配金として還元するのである。 〈上場会社とREITの資金の流れ〉 仕組みも会社と似ており、REITは「不動産投資法人」という会社のような形態で運営されている。株式会社の「株主総会」に当たるものが、REITでは「投資主総会」、「取締役会」に当たるものが「役員会」、株式に当たるものが「投資口」、「配当」に当たるものが「分配金」といった具合で、株式会社と変わらない。ただし、REIT自体が実質的な業務を行うことはできないこととされており、資産運用は運用会社に、資産保管は資産保管会社に、一般事務は事務受託会社にそれぞれ委託される。 〈株式会社とREITの用語比較〉 3 配当性向100%? REIT投資のメリットとして、よく分配金利回り(投資金額に対する分配金の割合)の高さが挙げられる。実際、REITの配当性向(当期純利益のうち分配金に充てられる割合)はほぼ100%である。これは、分配可能な利益の90%超を分配金に充てると、法人税が免除されるためである。 したがって、REITはインカムゲイン(投資先からの利益還元)を得やすい金融商品といえるだろう。しかし、それは約束されたものではなく、当然、利益が出なければ、分配金を得ることはできない。また、キャピタルゲイン(売却益)を得られるか否かは、株式投資などの場合と変わらない。 4 投資判断の基準は 株式投資の判断基準は、様々な考え方があると思うが、筆者は発行会社の事業内容と経営能力であると考えている。事業内容は、ビジネスモデルが優れているか、成長可能性が高い分野であるかといったことであり、経営能力は、端的に言えば経営者の能力の高低である。 REIT投資の判断基準も同様に考えられるだろう。不動産投資を事業とする会社であるREITの事業内容と経営能力から判断すべきである。そのうち事業内容は不動産投資なので、投資している不動産の良し悪しを見る必要がある(投資している不動産の情報は、それぞれのREITのホームページや有価証券報告書に掲載されている)。 REITの詳細を知らないと、分配金利回りの高低などだけを見て判断してしまうだろうが、投資するからには、開示されている情報を吟味して、事業内容と経営能力を見極めるように努力する必要がある。株式投資もREIT投資も、「今だと儲かりそう」だけで手を出すと、痛い目に遭う可能性が高い。 (了)
プロフェッションネットワーク主催の税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 4月10日(金)開催のお申込み受付を開始しました! 今回は、笹岡氏の著書『これだけはおさえておきたい 相続税の実務Q&A』の改訂版が4月上旬に発刊にされることに合わせ、平成27年からの相続税の大増税の実施に備え、相続税申告を行う前に最低限習得しておくことが望ましい『民法知識の基礎と+α』を確認します。 タイトルに『基礎』とあるものの、笹岡氏が教える基礎は、深く、実務家にとって興味深い講義内容になることでしょう。 書籍『平成27年3月改訂 これだけはおさえておきたい 相続税の実務Q&A』が特別割引でご購入いただけるお得なセットお申込みプランをおススメいたします! 書籍代(税込定価:4,536円)込みの 受講料 14,700円(税込)(プレミアム会員の場合) ※書籍なしのお申込みプランもございます。 ※書籍販売ページでの書籍の取扱い開始は4月上旬を予定しております。 各回のセミナーの内容は各々独立しており、1日単位で内容は完結しておりますので、どの回からでもご受講いただけます。 お申し込み受付 : 4月8日(水) 17:00まで (※銀行振込をご利用の場合のお振込期限も4月8日となります。) ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
2015年3月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.111 が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第17回】 「BEPS行動6(租税条約の濫用防止)の動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 第三国の居住者が不当に租税条約の特典を得ようとする行為(トリーティ・ショッピング=条約漁り)をはじめとした租税条約の濫用は、BEPS=税源浸食と利益移転の最も重要な原因の一つとされている。 BEPS行動6=租税条約濫用の防止では、租税条約締約国でない第三国の個人・法人等が不当に条約の特典を享受することを防止するためのモデル租税条約規定及び国内法に関する勧告を策定することとされており、本年9月に最終勧告及びモデル租税条約の改定が予定されている。 そこで本稿では、議論がヤマ場となっている行動6=租税条約濫用の防止を取り上げ、その概要をみていきたい。 2 これまでの経緯 行動6では、 が検討課題とされている。 昨年3月14日に「不適切な状況における租税条約の特典付与の防止」と題する公開討議草案が提示され、パブリック・コメント、公開コンサルテーションを経て、昨年年9月16日、OECD租税委員会より第1次報告書が公表されている。 この報告書では、租税条約の濫用防止のために最低限必要な措置として、以下の措置が勧告されている。 また、租税条約の締結・改正等を行う際に政策的に考慮すべき要素について、モデル租税条約コメンタリーに追加する案が提示された。 以下、第1次報告書に即して、特典制限規定、主要目的テストの具体的内容についてみていくこととしたい。 3 特典制限規定(Limitation on Benefit:LOB) 「特典制限条項」とは、租税条約の締約国以外の第三国の居住者が、締約国に法人等を設立し、その法人を経由して所得を得ることにより租税条約で定められた特典を享受することを禁じるために、適格居住者のみが特典を受けられることを規定するものである。米国が1977年よりモデル条約に導入し各国との租税条約締結に際して求めているものであり、日米租税条約第22条がこれに該当する。 第1次報告書では、特典を居住できる要件として、①適格居住者、②事業活動基準、③派生的受益者基準、④権限ある当局の認定を挙げるほか、それぞれの基準に関して事例を含めた詳細な解説を付している。 4 主要目的テスト(Principal Purpose Test:PPT) トリーティ・ショッピングに対するLOB条項の導入に加え、「主要目的テスト(Principal Purpose Test)」として、LOB条項の規定で適格居住者に該当していたとしても、アレンジメントや取引が、条約特典を享受することを「主要な目的の一つ」としているのであれば、当該特典を付与しないとする規定を導入することが提言されている。 主要目的テストは、近年、わが国が締結する租税条約(2006年日英租税条約、2007年日仏租税条約、2008年日豪租税条約等)でも導入されているものである。 第1次報告書では、 とした上で、その具体的な適用について5つの事例が示されている。 5 おわりに 2014年11月21日には、OECD租税委員会事務局より、追加的討議草案(Discussion Draft:Follow up work on BEPS Action 6)が公表され、その中では、能動的活動基準に係る規定の明確化、権限ある当局の認定が適用される場合の明確化など、20項目についてコメントが求められ、寄せられたコメントをもとに、2015年1月22日には、公開コンサルテーションが開催された。 OECDは今後、主としてLOBについて、集団的投資ビークルの取扱い、派生的受益者条項、能動的活動基準、権限ある当局による認定などの残された課題に取り組み、2015年9月に最終勧告を取りまとめる予定である。 経団連では、租税条約の特典を享受することのみを目的とした事業実態のない法人を通じた取引等(条約漁り)に対し条約特典を与えないのは当然でありOECDの取組みを支持している。 ただし、提案されている特典制限規定、主要目的テストについては適用要件が過度に厳格・不透明であり改善が必要であると考える。もともと、租税条約の役割は課税権を配分し、二重課税の排除を行うことにあり、特典条項は課税権の配分の当然の結果であり、決して「優遇措置」ではない。真正な経済活動に対して当然認められるべきものであり、課税関係の透明性向上の観点から、事前ルーリング等の手続きの整備も不可欠であると考える。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第6回】 「広大地の評価ができるとき、できないとき」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 1 標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大とは [1] 国税庁質疑応答事例 評価対象地が、都市計画法の開発許可を必要とする面積以上であれば、原則として、その地域の標準的な宅地に比して著しく地積が広大であると判断することができる。 ただし、評価対象地の地積が開発許可面積基準以上であっても、その地域の標準的な宅地の地積と同規模である場合は、広大地に該当しないこととされている。 [2] 争訟事例 さて、評価対象地がその地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であるか否かの判断はどのようにして行うのであろうか。 まず、地域の標準的な宅地の指標として、近隣の公示価格の標準地や都道府県地価調査の基準地と比較する方法が挙げられる。 平成14年2月25日裁決〔TAINS・F0-3-054〕においては、公示価格の標準地の地積が150㎡で、近隣宅地がほぼ200㎡以下であるのに対して、評価対象地が2,527.93㎡であること、平成16年11月9日裁決〔TAINS・F0-3-102〕においては、公示価格の標準地の地積が188㎡、近隣の宅地が100㎡台であるのに対して、評価対象地が947㎡であることから、標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地であると判断されている。 一方、平成8年6月13日裁決〔裁事51・548〕においては、評価対象地の590.84㎡について近隣に所在する画地と比較して特に著しく広大であるとは認められないとし、平成14年7月22日裁決〔裁事64・416〕においては、評価対象地が5,850.13㎡について、付近の公示地、基準地等の面積の状況からみて広大地に該当するとは認められないとされている。 また、地域の建築物の最低敷地面積や近隣の宅地開発の面積を参考とする方法もある。 2 公共公益的施設用地の負担が必要な宅地とは [1] 国税庁質疑応答事例 広大地の評価における「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」とは、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路の開設が必要なものをいう。 したがって、例えば、次のような場合は、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担がほとんど生じないと認められるため、広大地には該当しないこととなる。 [2] 争訟事例 さて、上記(1)~(6)の中で最も判断に迷う点が、(6)の『路地状開発を行うことが合理的と認められる場合』とはどのような場合かである。 路地状開発により戸建分譲を行うことが経済的に最も合理性のある開発に当たるかどうかについては、 といった点をもとに判断すべきと解されている(平成18年12月8日裁決〔裁事72・565〕)。 路地状による開発を肯定する見解として、道路を新設せずに分割すれば、建築基準法の容積率、建ぺい率の算定に当たって路地状部分の面積も敷地面積に含まれることから、より広い延べ床面積及び建築面積の建築物を建てられることが可能になる上、路地状部分を駐車場として利用することもできることなどから経済的合理性があるとするものがある(東京地裁平成17年11月10日判決〔TAINS・Z888-1090〕、平成24年2月10日裁決〔TAINS・Z888-1684〕)。 一方、これに否定的な見解として、旗状に画地を分ける開発の方法は、土地に不整形な画地を生み出すこととなり公共公益的施設としての道路を設ける開発と同様に、本件土地の評価額を低下させる要因となるとするもの(平成16年6月28日裁決〔TAINS・F0-3-093〕)がある。 (1) 公共公益的施設用地が必要とされた事例 公共公益的施設用地の要否が争われた事例においては、 に道路用地が必要となり広大地に該当するとされている。 例えば、平成23年5月9日裁決〔裁事83・887〕においては、納税者は【開発想定図①】のように主張し、課税庁は【開発想定図②】のように主張した。 裁決においては【開発想定図①】が採用されている。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P212より (2) 公共公益的施設用地が必要でないとされた事例 公共公益的施設用地の要否が争われた事例において、 は道路用地が不要となり広大地に該当しないとされている。 例えば、東京地裁平成17年11月10日判決〔TAINS・Z888-1090〕においては、下記のような課税庁分割図に従って区画割を想定すれば公共公益的施設用地の負担は不要であるとされている。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P222より 3 マンション適地等の判断はどのように行うのか [1] 国税庁質疑応答事例 広大地の判定において、評価対象地がマンション適地である場合は、宅地を細分化せずに一体として有効利用できることから地積が広大であることの減価を行う必要がないため、広大地に該当しないとされている。 マンション適地に該当するか否かであるが、まず形式的な基準として、原則として地域の指定容積率が300%以上である場合にはマンション適地とされる。 容積率が200%以下の地域の場合は、例えば、次のように「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」に該当すると判断できる場合を除いて、マンション適地には該当しないと判断して差し支えないものとされている。 [2] 争訟事例 戸建住宅とマンションが混在している地域において、土地の最有効使用がマンション敷地であるか否かは、容積率や面積の多寡のみでなく、その土地の周辺地域の標準的使用の状況や専門家の意見等から、社会的・経済的・行政的見地から総合的に判断される。 評価対象地がマンション適地であるか否かにおいては、 などで判断することとされている。 (了)
贈与実務の頻出論点 【第3回】 「名義財産と贈与の関係」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 名義預金の判定 名義預金に該当するか否かの判定は、財産評価基本通達等に規定されておらず、過去の判例等を参考にして判定が必要になります。基本的には下記5要素を総合的に考慮して判定します。 [2] 妻の固有財産と認められる金額 夫婦間の預金については、上記[1] の5要素のうち、①の原資が重要視されます。口座管理を妻がしていたとしてもその預金の出捐者が夫である場合に夫の財産と考えるのが通例です。 なお、専業主婦である妻名義の預金で妻の固有財産(社長である夫の財産に含めなくてもよい財産)は下記のようなものが想定されます。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第22回】 「投資信託の分配金に課された所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成27年2月20日に当社名義で500万円の投資信託を購入しました。この投資信託は、国内の株式割合が80%です。投資信託の分配金として、3月3日に普通分配金2,234円、3月14日に特別分配金7,419円が入金になりました。証券会社の明細によると、普通分配金からは所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されており、特別分配金からは所得税及び復興特別所得税は源泉徴収されていませんが、会計処理がよくわかりません。 投資信託の分配金に課された所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 1 会計上の取扱い 普通分配金は、15.315%の税率で所得税及び復興特別所得税が源泉徴収される。特別分配金は、元本の払い戻しに相当するため、投資有価証券の帳簿価額を減額する。 会計処理は、次の通りである。 〈投資信託の購入時の会計処理〉 【2月20日】 〈普通分配金の入金時の会計処理〉 【3月3日】 〈特別分配金の入金時の会計処理〉 【3月14日】 2 税務上の取扱い 普通分配金から源泉徴収された所得税及び復興特別所得税は、所得税額控除の適用があるため、法人税の税務申告書の別表六(一)所得税額の控除に関する明細書に記載する。 また、外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれも50%以下の株式投資信託は普通分配金の2分の1が益金不算入の対象になり、外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれも75%以下の株式投資信託は普通分配金の4分の1が益金不算入の対象になる。外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれかが75%超の株式投資信託は普通分配金の全額が益金算入になる。 当社が購入した投資信託は国内の株式割合が80%なので外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれも50%以下の株式投資信託に該当し、普通分配金の2分の1が益金不算入の対象になる。したがって、受取配当等の益金不算入の適用があるため、法人税の税務申告書の別表八(一)受取配当等の益金不算入に関する明細書に記載する。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第22回】 「裁決例②」 公認会計士 佐藤 信祐 平成18年に会社法が施行されたときに、みなし配当や資本金等の額の規定が整備され、その他利益剰余金の配当については利益積立金額の減額、その他資本剰余金の配当はプロラタ処理を行うことになった。 本号においては、その他利益剰余金とその他資本剰余金の配当を同時に行った場合において、その全額をその他資本剰余金の配当と同一の処理を行うべきであるとされた事件について取り扱う。 7 平成24年8月15日裁決 (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が請求人の子会社からその他利益剰余金及びその他資本剰余金をそれぞれ原資とする剰余金の配当を受けたことについて、原処分庁が、これらの剰余金の配当は、その効力発生日が同じ日であることなどから、その他利益剰余金及びその他資本剰余金の双方が同時に減少されて配当されたものであり、当該配当に係る配当金の全額が資本の払戻しによるものであるとして、いわゆるみなし配当の額の計算、当該みなし配当の額に係る所得税額控除、所有株式の譲渡損益の計算を行うなどして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、これらの剰余金の配当は会社法上別々の決議に基づくものであり、その全額が資本の払戻しによるものには該当しないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。 なお、本事件の争点は以下の4つである。 本稿においては、このうち、【争点1】についてのみ解説を行うこととする。 (2) 原処分庁の主張 法人税法第24条第1項第3号は、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち」と規定しているから、剰余金の配当の原資に資本剰余金が含まれる場合には、当該剰余金の配当に係る全額が同号に規定する「資本の払戻し」によるものに該当することになる。そして、J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、同年11月1日を効力発生日とする、本件2号議案配当と本件4号議案配当を行うことを決議しており、同日(同年11月1日)に利益剰余金及び資本剰余金の双方を同時に減少させたものと認められるので、法人税法上の所得金額の計算における本件配当は、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当の額に該当し、その全額が法人税法第24条第1項第3号の資本の払戻しによるものに該当する。 (3) 請求人の主張 J社は、普通株式、A種株式及びB種株式を発行しているが、このうち、B種株式については、J社の定款規定により平成36年12月期までの間は利益剰余金からの配当は行わないこととされている。そのため、J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、本件2号議案配当については、同年10月14日を基準日とする普通株式及びA種株式に割り当てること、本件4号議案配当については、同月15日を基準日とする普通株式、A種株式及びB種株式に割り当てることを別々の議案として決議しており、本件2号議案配当と本件4号議案配当は、会社法上、それぞれ別々の法律行為として成立している。 したがって、本件2号議案配当と本件4号議案配当は、配当の効力発生日が同じ日であったとしても、それぞれの法律行為に法令を適用することとなるので、本件2号議案配当は、法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当に、本件4号議案配当は、同法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しに該当するから、本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものには該当しない。 (4) 国税不服審判所の判断 法人税法第23条第1項第1号は「剰余金の配当(〔中略〕資本剰余金の額の減少に伴うもの〔中略〕を除く。)」と規定し、同法第24条第1項第3号は「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、〔中略〕)」と規定しているところ、剰余金の配当の原資に資本剰余金の額が含まれている場合には、当該剰余金の配当は、「資本剰余金の額の減少に伴うもの」として同号に規定する資本の払戻しに該当するものと解され、資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少させて剰余金の配当を行った場合もまた、当該剰余金の配当に係る全額が同号に規定する資本の払戻しによるものに該当すると解するのが相当である。 (5) 評釈 本事件においては、会社法上、別々の手続きとして取り扱っているその他資本剰余金の配当とその他利益剰余金の配当を、効力発生日が同日であることを理由として、一体として取り扱われているという特徴がある。 おそらくは、納税者側の主張の方が理論的であり、これを支持する見解も少なくないと考えられる。しかしながら、本裁決例は『改正税法のすべて(平成18年度版)』256-257頁において、 と解説されていたことを受けたものであり、実務上は、このように解さざるを得ないと考えられる。そのため、別々に取り扱うことを望むのであれば、効力発生日を1日ずらすということが必要になってくると考えられる。 また、納税者に有利な取扱いになるような場合には、このような裁決例を悪用する事例も想定されるという問題もあるため、本来であれば、別々に取り扱うべきだったのかもしれないが、この点については、立法論として考えるべきものともいえる。 いずれにしても、本事件のようなことが生じる可能性は十分に考えられ、実務上、慎重な対応が必要になってくる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【56】 〔第7章〕判例の探し方 (その3) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (7) 『高等裁判所刑事裁判速報』『高等裁判所刑事裁判速報集』 『高等裁判所刑事裁判速報』は、各高等検察庁により昭和26年(国立国会図書館の紹介ページでは昭和24年からとなっている。ただし未所蔵)から刊行されているもので、それぞれの高等検察庁が、その高等裁判所における刑事事件の裁判(判決・決定)として実務的有用と判断した判決を編集したものである。最高裁判所図書館で閲覧可能である。 最高裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所刑事裁判速報」と入力して検索。 ただし、上記検索結果画面を見て分かる通り、福岡高裁・大阪高裁の分は昭和26年より所蔵されているが、東京高裁の分は昭和28年分からしか所蔵されていない。 『高等裁判所刑事裁判速報集』は、『高等裁判所刑事裁判速報』に掲載された裁判(判決・決定)を1年ごとにまとめて全文を収録したものである。昭和56年から法務大臣官房司法法制調査部(平成12年からは法務省大臣官房司法法制部)により編集され、法曹会から出版されている。各高等裁判所別で速報番号順に掲載されており、巻頭に法条別索引、巻末に裁判年月日索引、事項索引が付されている。 CiNiiによれば、現在37大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「高等裁判所刑事裁判速報集」 (8) 『高等裁判所刑事判決特報』 最高裁判所事務総局刑事局が、各高等裁判所の刑事事件の判決の中から重要なものをピックアップし掲載したものである。重要とされる部分のみが抜き出された抄録となっており、条文別、裁判年月日順の総索引が付いている。昭和25年から昭和31年の1号~40号まであり、最高裁判所図書館で全号が閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所刑事判決特報」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在71大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「高等裁判所刑事判決特報」 国立国会図書館にも所蔵されているが、23号は欠号となっている。 「高等裁判所刑事判決特報」(国立国会図書館) (9) 『高等裁判所刑事裁判特報』 最高裁判所事務総局刑事局が、各高等裁判所の刑事事件の裁判(判決・決定)の中から重要なものをピックアップして掲載したものである。重要とされる部分のみが抜き出された抄録となっており、昭和29年から昭和33年(※ 下記追記参照)の1巻1号~5巻12号まである。なおこの『高等裁判所刑事裁判特報』の役割は、昭和34年以降、『第一審刑事裁判例集』と併合して『下級裁判所刑事裁判例集』に引き継がれている。 (8)の『高等裁判所刑事判決特報』(以下「高判特」)と期間的に重複している部分もあるが、高判特と異なり、判決以外の決定も収録されている。最高裁判所図書館で全号が閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所刑事裁判特報」と入力して検索。 CiNiiによれば、高判特と同様、現在71大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「高等裁判所刑事裁判特報」 国立国会図書館にも所蔵されているが、2巻5号と3巻3号は欠号となっている。 「高等裁判所刑事裁判特報」(国立国会図書館) 昭和34年以降は、『第一審刑事裁判例集』と合併して『下級裁判所刑事裁判例集』に引き継がれている(次回詳述)。 (10) 『東京高等裁判所刑事判決時報』『東京高等裁判所判決時報』 東京高裁が独自に発行しているもので、『東京高等裁判所刑事判決時報』(以下「東高刑時報」)は、東京高等裁判所調査室が東京高裁の刑事事件の裁判の中から実務上参考となる裁判(判決・決定)を選択して掲載したものである(タイトルは「判決」となっており紛らわしい)。重要とされる部分が抜き出された抄録となっている。昭和26年から刊行されており、刊行当初は1号~13号と巻が付されていなかったが、27年から28年までは2巻1号~3巻6号となっている。4巻以降は民事を加えて下記の『東京高等裁判所判決時報』(以下「東高時報」)となっている。 東高時報自体は1つの冊子であるが、『最高裁判所判例集』等と同様、刑事と民事の二部に分かれている(前回参照)。刑事の部は上記東高刑時報を引き継いだものであり、民事の部には、民事事件及び行政事件の裁判(判例・決定)が掲載されている。通常、この刑事と民事を分けて各々をひとまとめにして製本し、前者を『東京高等裁判所判決時報 刑事』又は『東京高等裁判所刑事判決時報』、後者を『東京高等裁判所判決時報 民事 』又は『東京高等裁判所民事判決時報』と呼ぶ(どちらの呼び方の場合にも、「民事」・「刑事」に括弧を付し「(民事)」・「(刑事)」や「〈民事〉」・「〈刑事〉」等とする場合もある)。 なお上述のとおり東高時報は4巻からとなるため、『東京高等裁判所判決時報 民事』には1巻~3巻が存在しない。これも重要とされる部分のみが抜き出された抄録となっており、最高裁判所図書館で閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「東京高等裁判所刑事判決時報」又は「東京高等裁判所判決時報」と入力して検索。 CiNiiによれば、東高刑時報については、現在47大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「東京高等裁判所刑事判決時報」 国立国会図書館にも所蔵されているが、民事の部を「東京高等裁判所判決時報 」、刑事の部を「東京高等裁判所判決時報 刑事 」と称している。 「東京高等裁判所判決時報 民事」(国立国会図書館) 「東京高等裁判所判決時報 刑事」(国立国会図書館) 東高刑時報は後に駿河台出版社から市販されており、下記リンク先の大学図書館に所蔵されている。 「東京高等裁判所刑事判決時報」 一方、東高時報の刑事、民事のそれぞれについては、名称が不統一なこともあり、検索結果がまとまって表示されないため(刑事の場合には上記東高刑時報に含まれている場合もある)、大学図書館へ収集に行く際には注意が必要である。 「東京高等裁判所判決時報」 「東京高等裁判所判決時報 刑事」 「東京高等裁判所判決時報 民事」 「東京高等裁判所刑事判決時報」[公文書版] 「東京高等裁判所刑事判決時報」[市販書版] (続く)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第75回】 税効果会計⑥ 「法人税等調整額の計上」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 X2年3月期 繰延税金資産の計上 (*1) [X2年3月期 期末 繰延税金資産:105]-[X2年3月期 期末 繰延税金負債:0]=105 [X2年3月期 期首 繰延税金資産:70]-[X2年3月期 期首 繰延税金負債:0]=70 [X2年3月期 期末 差額:105]-[X1年3月期 期首 差額:70]=35 〈会計処理の解説〉 会計上棚卸資産の評価損を、X1年3月期において200、また、X2年3月期において300計上していることから、それぞれの繰延税金資産は、X2年3月期 期首70、期末105となります。なお、X1年3月期に評価損計上の対象となった棚卸資産はX2年3月期には売却されているか廃棄されており、評価損が税務上損金算入される結果、X2年3月期の期末時点で一時差異は解消しています。 一方、資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額を直接純資産の部に計上する場合には、当該評価差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を当該評価差額から控除して計上しなければなりません(基準 第二.二.3)。そのため、当期に納付すべき法人税等の調整額を算定する場合において、評価差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の増減額を含めないことに留意が必要です。 本事例においては、保有する有価証券の時価がX1年3月期において120、また、X2年3月期において140であることから、有価証券の評価替えの仕訳は以下のとおりです。 X2年3月期 有価証券の評価替え (*2) X1年3月期 (時価120-取得原価100)× 法定実効税率35% = 繰延税金負債7 (*3) X2年3月期 (時価140-取得原価100)× 法定実効税率35% = 繰延税金負債14 上記のとおり、有価証券の評価替えからは法人税等調整額は計上されません。そのため、当期に納付すべき法人税等の調整額を算定する際に、評価差額に係る繰延税金負債を含めません。 以上より、X2年3月期において法人税等調整額は、貸方に35計上されます。 法人税等調整額を算定するための上記の表には、評価差額に係る繰延税金負債の増減額を含めません。 ※4月は純資産会計を取り上げます。 (了)