フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第8回】 「持分法会計」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 前回は持分法会計を除く連結会計を解説した。今回は、持分法会計を解説する。 【連結・持分法会計の全体イメージ】(再掲) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 連結会計は、個別財務諸表を単純合算して、そこに連結修正仕訳を追加する。いったん、すべて合計して、そこから修正を行うことから、「全部連結」ともいう。 一方、持分法会計は、持分法を適用する関連会社又は非連結子会社(持分法適用会社)のうち、投資会社(関連会社又は非連結子会社の株式を保有している会社)持分を基本的に という一行の仕訳で連結財務諸表に取り込む。そのため、「一行連結」ともいう。 なお、個別財務諸表では、関連会社又は非連結子会社は、関連会社株式又は子会社株式で表示されるが、連結財務諸表では、持分法適用会社に対する投資勘定は、投資有価証券で表示される。 持分法会計は、以下の7つのステップに分けることができる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) まず、持分法の適用範囲を決定しなければならない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 関連会社とは 出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えている場合における当該子会社以外の他の企業は、関連会社に該当する。 具体的には、以下の①~③に該当する場合、関連会社に該当する。 ただし、更生会社、破産会社その他これらに準ずる企業であって、かつ、当該企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができないと認められる企業は除く(企業会計基準第16 号「持分法に関する会計基準」(以下「持分法基準」という)5、5-2)。 (2) 非連結子会社とは 非連結子会社とは、子会社であるが、連結の範囲に含まれなかった子会社である。詳細は、第7回【STEP1】参照。 (3) 持分法の適用範囲 関連会社及び非連結子会社については、原則として持分法を適用する(持分法を適用した会社を「持分法適用会社」という)。ただし、以下の①及び②は、持分法の適用範囲に含めない(企業会計基準適用指針第22 号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」25、26)。また、以下の③の会社は、持分法の適用範囲に含めないことができる(監査・保証実務委員会報告第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」5)。 持分法の適用から除いた会社を「持分法非適用会社」という。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 持分法の適用にあたっては、持分法適用会社の直近の財務諸表を使用する。そのため、仮決算は必ずしも求められていない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ただし、投資会社と持分法適用会社の決算日に差異があり、その差異の期間内に重要な取引又は事象が発生しているときには、必要な修正又は注記を行う(持分法基準10)。 (注) なお、以下では、基本的に関連会社を前提に解説する。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 投資会社と関連会社間で会計方針に違いがある場合、持分法の会計処理を行う前にその違いを統一しておく必要がある。また、決算日が異なることによる修正の検討も必要である。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 会計方針の統一による修正 同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、投資会社と持分法を適用する関連会社の会計方針は原則として統一しなければならない(会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」(以下「持分法指針」という)5)。 上場会社の株式を関連会社としたときなど、支配力が及ぶ子会社とは異なり、修正のために必要となる詳細な情報の入手が極めて困難なことがあり得る。 このような場合、投資会社と持分法適用会社である関連会社の会計処理方法を統一しないことが認められる(実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い 本実務対応報告の考え方(2)」。 (※) 在外関連会社における会計方針の統一については、本フロー・チャートでは解説していない。 (2) 決算日が異なることによる修正 連結決算日と持分法適用会社の決算日に差異があり、その差異の期間内に重要な取引又は事象が発生しているときには、影響する時期により、以下の修正又は注記を行う(持分法基準10)。 ① 当期に影響 その差異の期間内に発生した取引又は事象のうち、その影響を持分法適用会社の当期の損益又は純資産に反映すべきもので、かつ連結上重要なものについては修正を行う。 ② 次期以後に影響 また、持分法適用会社の次期以後の財政状態及び経営成績に影響を及ぼすもので、かつ連結上重要なものについては注記を行う(持分法指針4)。 例えば、以下のような場合に修正が必要となる。 連結決算日が3月末で関連会社の決算日が12月末の場合に、3月中に関連会社が重要な土地を外部に売却した。この場合に何ら修正しないと、関連会社の土地売却という取引は連結財務諸表に反映されない。 そのため、関連会社の12月末の個別財務諸表に土地売却取引の会計処理を追加する必要がある。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 在外関連会社の場合、個別財務諸表は外貨で表示されているため、日本円に換算する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 具体的には、以下のように換算を行う(外貨建取引等会計処理基準第三、会計制度委員会第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下「外貨指針」という)39、44)。 (*1) 在外関連会社の決算日が連結決算日と異なる場合、在外関連会社等の貸借対照表項目の換算に適用する決算時の為替相場は、在外関連会社の決算日における為替相場とする(外貨指針33)。なお、連結決算日との差異期間内において為替相場に重要な変動があった場合、在外関連会社は連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続による決算を行い、当該決算に基づく貸借対照表項目を連結決算日の為替相場で換算する(外貨指針33、71)。 (*2) 在外関連会社の決算日が連結決算日と異なる場合、在外関連会社の損益計算書項目の換算に適用する期中平均相場は、連結会計期間に基づく期中平均相場ではなく、当該在外関連会社の会計期間に基づく期中平均相場とする(外貨指針34)。 換算したことによる差額のうち、投資会社持分は「為替換算調整勘定」として連結貸借対照表の純資産の部に計上する(外貨指針46)。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 連結会計と同様に、持分法会計においても資本連結と同様の項目について会計処理する(第7回【STEP6】参照)。 本フロー・チャートでは、以下のような項目を「持分法会計における資本連結」とする。 (※) 他にも応用的な論点として、株式売却による関連会社でなくなった場合、増資の場合等あるが、本フロー・チャートでは解説していない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 持分法会計は一行連結ともいうが、考え方は連結会計と同様のため、以下の解説では、まず連結会計と同様に考えた上で(実際に会計処理するのではなく、あくまでも考え方である)、持分法における会計処理(実際の会計処理)を解説している箇所がある。当該箇所には、【連結会計と同様の考え方】と記載している。 (1) 持分法適用時の資本連結 持分法会計における資本連結も大きく持分法適用時と持分法適用後に分けることができる。 また、持分法適用時の資本連結は「一括取得」と「段階取得」に分けて考えることができる。 ① 一括取得における資本連結 一括取得とは、例えば関連会社株式を一度で20%以上取得した場合などが該当する。 一括取得における資本連結では「のれん(又は負ののれん)を認識(計上ではない)」するために、以下の4つを検討する。 (ⅰ) 関連会社の資産・負債の時価評価 通常、資産を購入するときに、時価を考慮する。したがって、関連会社株式を取得する時も時価を考慮するはずである。 したがって、持分法適用時には、関連会社の資産・負債のすべてを持分法適用時の時価で評価する(持分法基準8)。関連会社は「部分時価評価法」という方法で評価する(持分法指針6-2)。 なお、非連結子会社は連結子会社と同様に「全面時価評価法」で評価する。詳細は、第7回【STEP6】参照。 部分時価評価法には、原則法と簡便法がある。 時価評価の金額と個別貸借対照表上の金額の差額のうち、投資会社持分に対応する部分の金額(税効果額控除後)は評価差額として認識する。 【連結会計と同様の考え方】 (*1) (時価-帳簿価額)×投資会社持分比率 (*2) (*1)×(1-法定実効税率) (*3) (*1)× 法定実効税率 上記で認識した評価差額及び繰延税金負債は、連結財務諸表に計上されることはない。あくまでも、のれん(又は負ののれん)を認識するためのものである。 (ⅱ) 投資と資本の相殺 投資会社の投資(関係会社株式の取得)は企業グループで見ると、単に金銭が投資会社から関連会社へ移動しているにすぎない。つまり、企業グループ内の内部取引にすぎない。 したがって、投資会社の投資と関連会社の資本を相殺する必要がある。 ここで、関連会社の資本には、連結子会社と同様に以下が含まれる。 (※) 資本には新株予約権は含まれない。 なお、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、連結会計では、連結財務諸表上、発生した事業年度の費用として処理するが、関連会社株式を取得(追加取得を含む)した場合、個別財務諸表及び連結財務諸表とも、取得関連費用は関連会社株式の取得原価に含まれる(持分法指針36-4)。 (ⅲ) 非投資会社持分の認識 関連会社の資本(評価差額を除く)のうち投資会社に帰属する部分を「投資会社持分」という。また、本フロー・チャートでは、投資会社に帰属しない部分(投資会社以外の株主に帰属する部分)を、「非投資会社持分」とする。 のれん(又は負ののれん)を認識するため、非投資会社持分を認識する。 (ⅳ) のれん(又は負ののれん)の認識 投資会社が関連会社株式を取得するとき、関連会社の資本の金額よりも高く購入したり、安く購入したりする。投資会社の関連会社への投資額=関連会社の資本になるとは限らない。 そのため、投資会社の関連会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去をすると、差額が生じる。この場合に、借方に生じた差額を「のれん」という。貸方に生じた差額を「負ののれん」という(持分法基準11)。会計処理の考え方は連結会計と同様である。 【連結会計と同様の考え方】 (*1) 取得原価 (*2) 関連会社の資本(評価差額を除く)×非投資会社持分比率 (*3) 関連会社の株主資本 (*4) (時価-帳簿価額)×投資会社持分比率×(1-法定実効税率) (*5) 差額 持分法会計上、のれん(負ののれん)は認識するが、連結貸借対照表に計上されることはない。 ただし、のれんは、原則として、20年以内に、定額法その他合理的な方法により償却する。負ののれんは、発生時の損益として計上する(持分法指針9)。そして、のれん償却額、負ののれんの発生額は、「持分法による投資損益」に含めて表示する(持分法指針10)。 (イ) のれんの償却 のれんの償却の会計処理は以下のとおりである。 【連結会計と同様の考え方】 【会計処理】 (*1) 償却額 (ロ) 負ののれんの計上 負ののれんの計上は以下のようになる。 【会計処理】 (*2) 負ののれん発生額 《設例》持分法適用時の資本連結 持分法適用時の資本連結の会計処理は以下のようになる。 【当期(連結会計と同様の考え方)】 以下の仕訳によりのれんを認識する。 (*1) 取得原価(=個別上の簿価) (*2) 800×80%=640 (*3) 持分法上の簿価300(=800×20%+20+120) (*4) 差額 【翌期(のれんの償却のみ)】 (*1) のれん120÷10年=12 (注) 「個別上の簿価」とは、個別財務諸表上の関連会社株式の金額をいう。「持分法上の簿価」とは、「関連会社の資本(評価差額を除く)に対する投資会社持分」、「評価差額」と「のれん未償却残高」の合計をいう。なお、持分法適用時には、個別上の簿価=持分法上の簿価となる。 ② 段階取得における資本連結 段階取得とは、例えば関連会社株式を二度以上の取得により20%以上保有した場合などが該当する。 段階取得における資本連結でも「のれん(又は負ののれん)を認識(計上ではない)」するために、以下の5つを検討する。 (ⅰ) 持分法適用開始年度よりも前に発生した取得後利益剰余金 当期において持分法の適用となった関連会社の利益剰余金のうち、株式の段階的取得に伴い生じた取得後利益剰余金の持分法適用日における投資会社持分額は、連結株主資本等変動計算書の利益剰余金の区分に「持分法適用会社の増加に伴う利益剰余金増加高(又は減少高)」等の科目をもって表示する(持分法指針32)。 【会計処理】 (*1) 持分法適用開始年度よりも前に発生した取得後利益剰余金(のれんの償却額控除後) (ⅱ) 関連会社の資産・負債の時価評価 通常、資産を購入するときに、時価を考慮する。したがって、関連会社株式を取得する時も時価を考慮するはずである。 したがって、持分法適用時には、関連会社の資産・負債のすべてを持分法適用時の時価で評価する(持分法基準8)。関連会社は「部分時価評価法」という方法で評価する(持分法指針6-2)。詳細は、上記①(ⅰ)参照。 (ⅲ) 投資と資本の相殺 投資会社の投資(関係会社株式の取得)は企業グループで見ると、単に金銭が投資会社から関連会社へ移動しているにすぎない。つまり、企業グループ内の内部取引にすぎない。したがって、投資会社の投資と関連会社の資本を相殺する必要がある。詳細は、上記①(ⅱ)参照。 (ⅳ) 非投資会社持分の認識 のれん(又は負ののれん)を認識するため、非投資会社持分を認識する。詳細は、上記①(ⅲ)参照。 (ⅴ) のれん(又は負ののれん)の認識 投資会社が関連会社株式を取得するとき、関連会社の資本の金額よりも高く購入したり、安く購入したりする。投資会社の関連会社への投資額=関連会社の資本になるとは限らない。 そのため、投資会社の関連会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去をすると、差額が生じる。この場合に、借方に生じた差額を「のれん」という。貸方に生じた差額を「負ののれん」という(持分法基準11)。会計処理の考え方は連結会計と同様である。詳細は、上記①(ⅳ)参照。 (2) 持分法適用後の資本連結 持分法適用後の資本連結では、例えば、以下のような検討が必要である。 ① 当期純損益の按分 関連会社が獲得した利益のうち、投資会社の持分相当額を連結財務諸表に取り込む。 具体的には、持分法適用日以降における関連会社の純利益又は純損失のうち投資会社の持分相当額を算定して、投資の額(投資有価証券勘定)を増額又は減額し、当該増減額を「持分法による投資損益」に含める(持分法指針10)。 【会計処理】 (*1) 関連会社の当期純利益×投資会社持分比率 ② 配当金の消去 配当は、関連会社の過去の利益から行われる。そして、過去の利益は、その利益が発生した時点で投資会社に帰属している。帰属した時には、 として連結財務諸表に計上している。 他方、関連会社から投資会社へ配当が行われた時に受取配当金として計上してしまうと、既に利益を取り込んでいる上に、受取配当金も取り込んでしまい、二重計上になってしまう。そのため、受取配当金を消去する必要がある。 また、配当により利益剰余金(資本)が減少し、投資会社持分も減少するから、投資勘定(投資有価証券勘定)を減少させる(持分法基準14)。 【会計処理】 (*1) 関連会社の配当金総額×投資会社持分比率 ③ その他の包括利益の按分 上記①の当期純損益と同様に、持分法適用日以降に発生したその他の包括利益(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整累計額等)のうち、投資会社の持分に相当する額を算定して、投資の額(投資有価証券勘定)を増額又は減額する(持分法指針10-2)。 また、持分法会計では、単純合算を行わないため、投資有価証券の相手科目はその他の包括利益の各勘定科目を使用する。 (ⅰ) その他有価証券評価差額金の場合 【会計処理】 (*1) 「当期末のその他有価証券評価差額金-前期末のその他有価証券評価差額金」×投資会社持分比率 (ⅱ) 退職給付に係る調整累計額の場合 【会計処理】 (*1) 「当期末の退職給付に係る調整累計額-前期末の退職給付に係る調整累計額」×投資会社持分比率 ④ のれんの償却 のれんは、原則として、その計上後20年以内に、定額法その他合理的な方法により償却しなければならない(持分法指針9)。詳細は、上記(1)①(ⅳ)参照。 (3) 追加取得 追加取得とは、前期末に20%株式を取得し、関連会社となった後に、当期末にさらに10%取得した場合等の、持分法適用後にさらに株式を取得した場合(子会社になる場合を除く)をいう。 追加取得すると、非投資会社の持分比率が減少し、投資会社の持分比率が増加するため、関連会社の資本に対する非投資会社持分が減少し、投資会社持分が増加する。 また、関連会社の時価評価は、部分時価評価法により行われるため、追加取得持分について、株式の取得の都度、時価評価する。 そして、追加取得によって増加した投資会社持分は、追加投資額と相殺する。この相殺によって生じる差額はのれん(又は負ののれん)として認識する(持分法指針16)。連結会計と異なり、資本剰余金として認識するわけではない。 【連結会計と同様の考え方】 (*1) (時価-帳簿価額)× 追加取得比率 (*2) (*1)×(1-法定実効税率) (*3) (*1)× 法定実効税率 【連結会計と同様の考え方】 (*4) 追加取得した関連会社株式の取得原価 (*5) 関連会社の資本(評価差額を除く)×追加取得比率 (*6) 差額 【会計処理】 追加取得時には、のれんを認識するのみであり、特段の会計処理は行わず、その後、償却を行う。負ののれんを認識した場合には、発生時の損益として計上する。会計処理は上記(1)①(ⅳ)と同様である。 (4) 一部売却(売却後も持分法を適用) 一部売却(売却後も持分法を適用)とは、前期末に30%の株式を保有していて、当期末に10%売却した場合等の、売却後も影響力が続き、持分法を適用する場合をいう。 一部売却すると、投資会社の持分比率が減少し、非投資会社の持分比率が増加するため、関連会社の資本(評価差額を除く)に対する投資会社持分が減少し、非投資会社持分が増加する。また、評価差額及びのれん未償却残高のうち、売却した部分も取り崩す。 そして、売却した株式と「一部売却によって減少した投資会社持分、評価差額及びのれん未償却残高の売却部分の合計額」の差額は、売却損益の修正として会計処理する。 なお、当該差額のうち、関連会社が計上しているその他の包括利益累計額に係る部分については、売却損益の修正には含めず、連結財務諸表に計上したその他の包括利益累計額(上記(2)③参照)のうち、売却した持分に相当する金額を消去する(持分法指針17)。 【連結会計と同様の考え方】 (*1) 関連会社株式の取得原価×売却比率÷売却前投資会社持分比率 (*2) 売却時の関連会社の資本(評価差額を除く)×売却比率 (*3) 売却時の評価差額×売却比率÷売却前投資会社持分比率 (*4) 売却時ののれん未償却残高×売却比率÷売却前投資会社持分比率 (*5) 連結財務諸表に計上している関連会社のその他有価証券評価差額金×売却比率÷売却前投資会社持分比率 (*6) 差額 【会計処理】 (*7) 差額 (次ページ【STEP6】へ進む) (前ページ【STEP5】へ戻る) 連結会計と同様に、連結会社と持分法適用会社間の取引、持分法適用会社同士の取引により未実現損益が生じている場合、重要性が乏しい場合を除き、未実現損益を消去する必要がある(持分法基準13)。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 例えば連結会社と持分法適用会社間で商品や固定資産を売却側の帳簿価格より高い(又は安い)金額で売買した場合、未実現損益の消去が必要となる。 なお、未実現損失の場合、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分の消去は行わない(持分法指針11)。回収可能と認められる部分まで消去することになる。 消去すべき未実現損益及び使用する勘定科目は以下のとおりである(持分法指針11~13)。 (注) 状況から判断して、他の株主の持分についても実質的に実現していないと判断される場合には、全額消去する。 未実現損益の実現は連結会計と同様である。実現の態様を資産の種類ごとにまとめると以下のように異なる。 (次ページ【STEP7】へ進む) (前ページ【STEP6】へ戻る) 持分法会計で考慮する一時差異は以下の2つである。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 資産・負債の評価差額に係る一時差異 連結会計と同様に持分法適用会社は、時価評価に伴う評価差額についても税効果を認識する。詳細は、第5回【STEP1】(2)①及び上記【STEP5】(1)①参照。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異 未実現損益の消去に係る一時差異における税効果の上限に関する考え方は、第5回【STEP4】(2)と同様である。ただし、ダウンストリームとそれ以外で使用する勘定科目が異なる。 ① ダウンストリームの場合 ダウンストリームの場合、投資会社で未実現損益を消去するため、投資会社で税効果を認識する(持分法指針26)。そのため、「繰延税金資産(繰延税金負債)」及び「法人税等調整額」の勘定科目を使用する。 投資会社が関連会社に商品を販売し、関連会社がその商品を保有している場合の会計処理は以下のとおりである。 【会計処理】 (*1) 投資会社から購入した商品の期末残高×利益率×投資会社持分比率 (*2) (*1)×法定実効税率 ② ダウンストリーム以外の場合 ダウンストリーム以外(アップストリーム、持分法適用会社間の取引)の場合、持分法適用会社で未実現損益を消去するため、持分法適用会社で税効果を認識する(持分法指針25)。 ただし、持分法会計では、持分法適用会社の個別財務諸表を合算せず、「投資有価証券」の増減で持分法適用会社に対する持分の増減を表すため、税効果についても「投資有価証券」及び「持分法による投資損益」の勘定科目を使用する。 関連会社が投資会社に建物を販売し、投資会社がその建物を保有している場合の会計処理は以下のとおりである。 【会計処理】 (*1) (売却価額-関連会社で計上していた際の帳簿価額)×投資会社持分比率 (*2) (*1)×法定実効税率 * * * 以上、7のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《貸倒損失・貸倒引当金》編 【第1回】 「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 個別注記表の重要な会計方針において、貸倒引当金の計上基準として、「一般債権については法人税法の規定する貸倒実績率(法人税法の法定繰入率が貸倒実績率を超える場合には法定繰入率)により計上するほか、個々の債権の回収可能性を勘案して計上している」という記載を見ることがあります。 この「個々の債権の回収可能性を勘案して計上している」ケースには、法人税法の規定する個別評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入の損金算入ができる事業年度以前の事業年度において、決算書上は貸倒引当金計上すべきとされる場合がよくあります。 今回は、このような有税引当となる貸倒引当金の繰入についてご紹介します。 1 当期末の引当計上の仕訳 〈A社〉 〈B社〉 〈C社〉 〈D社〉 破産更生債権等(経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権)に係る取立不能見込額の原則的な算定方法は、債権金額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を取立不能額とします(中小企業会計指針18)。 A社、B社、C社をこの方法により取立不能見込額を算定すると、会計上の貸倒引当金繰入額は次のとおりです。 貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権)に係る取立不能見込額の原則的な算定方法は、債権金額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して算定します(中小企業会計指針18)。 D社をこの方法により取立不能額を算定すると、会計上の貸倒引当金繰入額は下記のとおりです。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、金銭債権に係る債務者につき次に掲げる事由が生じている場合におけるその金銭債権の額(その金銭債権の債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行等により取立て又は弁済の見込があると認められる部分の金額を除く)の50%に相当する金額は、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入限度額に含められます(法令96①)。 この設例では、税務上の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる債務者に、A社・B社・C社は該当しますが、D社は該当しません。貸倒引当金に係る税務上の加算調整は次のとおりです。 (注) 期末資本金が1億円を超える法人で、かつ、貸倒引当金の適用法人に該当しない場合など所定の法人については、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度において、上記の繰入限度額の4分の3、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度において、上記の繰入限度額の4分の2、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度において、上記の繰入限度額の4分の1が損金算入限度額となります(平成23年度税制改正)。 (了)
減損会計を学ぶ 【第15回】 「減損損失の認識の判定③」 ~将来キャッシュ・フローの見積期間が20年を超えるケース~ 公認会計士 阿部 光成 減損損失の認識の判定は、割引前将来キャッシュ・フローの総額を用いて、それが帳簿価額を下回るかどうかによって行うこととされている(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)二、2(1))。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)では、減損損失の認識の判定に用いる将来キャッシュ・フローについて、その見積期間が20年を超えるかどうかによって、異なる取扱いとしている。 今回は、将来キャッシュ・フローの見積期間が20年を超えるケースについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 減損損失の認識 減損損失の認識の判定は、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行い、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識することになる(減損会計基準二、2(1))。 減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方で行うことになる(減損会計基準二、2(2))。 Ⅱ 将来キャッシュ・フローの見積期間(20年を超えるケース) 1 基本的な考え方 減損適用指針は、①主要な資産と、②主要な資産以外の構成資産に分けて規定している。そして、主要な資産の経済的残存使用年数と、主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数のいずれが長いかによって、さらに詳細な規定を設けている。 2 主要な資産(20年を超える) 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20 年を超える場合には、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて算定された20年経過時点における回収可能価額を、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する(減損適用指針18項(2))。 回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額である(減損会計基準注解(注1)1)。 このため、20年経過時点の回収可能価額については、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローも、その割り引かれた金額が減損損失を認識するかどうかを判定するために見積もられる割引前の将来キャッシュ・フローに含まれることになる(減損適用指針98項)。 【将来キャッシュ・フローの見積りのイメージ(20年を超えるケース)】 (出所:監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)103ページを一部修正) 3 主要な資産以外の構成資産(主要な資産の経済的残存使用年数を超えない) 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合には、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フロー(当該構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えるときには21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フロー)に加算する(減損適用指針18項(3))。 4 主要な資産以外の構成資産(主要な資産の経済的残存使用年数を超える) 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合には、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額を、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算する。(減損適用指針18項(4))。 以上についてまとめると、資産グループ中の主要な資産のほか、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合には、以下を21 年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算するということになる。 また、資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数は20年を超えるが、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算するとされている(減損適用指針18項(3))。 減損適用指針98項では次のイメージ図を示している。 (横軸は経済的残存使用年数、矢印は割引前将来キャッシュ・フローに加算する金額) (了)
国際出向社員の人事労務上の留意点 (海外から日本編) 【第3回】 (最終回) 「帰国前後の事務処理」 社会保険労務士 平澤 貞三 (1) 手続の概要 エクスパットが帰任により出国することとなった場合、給与、社会保険関連では以下の事務処理が必要となる。 (2) 帰国後の給与処理 出国日の翌日から非居住者となるので、たとえ居住者であった期間に対する金銭給与や現物給与であっても、出国日の翌日以降に支払う給与については20.42%の税率で源泉徴収を行う必要がある。 3年間日本で勤務したエクスパットが、9月30日に出向元企業のあるアメリカへ帰任した。その後、本人が使用した水道電気代の最後の請求(50,000円)が届き、会社は10月に入ってから本人に代わってすべて支払いをした。 ⇒給与(会社が本人の水道光熱費を負担したという経済的利益)を支給した時点の居住形態は「非居住者」であり、国内勤務時に受けた利益であるから「国内源泉所得」に該当する。したがって、20.42%の税率でグロスアップ計算が必要となる。 〔事例①〕のエクスパットに対し、出国年の7月1日から12月31日までの勤務に対する賞与が確定し、翌年1月にその全額がアメリカ側で払われた。 ⇒日本勤務に基づく部分のみが国内源泉所得に該当するため、上記例では全体の約半分が日本での課税所得となる。 (連載了)
現代金融用語の基礎知識 【第9回】 「GPIF」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 GPIFとは GPIFとは、Government Pension Investment Fundの略で、年金積立金管理運用独立行政法人のことである。文字どおり年金積立金の管理と運用を行う組織だが、より具体的に言うと、国民年金と厚生年金で国民から集めた保険料のうち、国民に年金として給付した後に余ったお金を運用する組織である。実際には自身で運用を行っているわけではなく、民間の信託銀行や投資顧問会社に運用を委託している。運用資産額は平成26年3月末時点で126兆5,771億円あり、世界最大の年金基金である。 〈GPIFによる年金積立金の運用〉 2 今なぜGPIFが注目されるのか GPIFは民間の信託銀行や投資顧問会社に運用を委託しているのだが、それらに完全に運用を任せっぱなしというわけではない。管理運用方針を定めたうえで、運用を委託した信託銀行や投資顧問会社に対して運用目標や運用手法などを指示する。ポートフォリオ(資産構成割合)も定めていて、現在は、日本債権60%、日本株12%、外国債券11%、外国株12%、短期資産5%の割合で運用することとしている。 最近になって急にメディアでGPIFという名前を見聞きするようになったが、その理由はこのポートフォリオの内訳を変更する可能性があるからなのである。平成26年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014においてもGPIFのポートフォリオの見直しがあげられている。昨年平成25年にも、アベノミクスによる株価の上昇を受けて、日本株の割合が11%から12%に増やされたのだが、今後行われるポートフォリオの見直しにおいても日本株の割合が増やされるのではないかと見られている。 3 ポートフォリオ変更のはらむリスク 上述のとおりGPIFは世界最大の年金基金である。それが日本株として運用する割合を増やせば、日本の株式市場に大量の資金が投入されることになり、当然、株価が上がることになる。だから今GPIFは注目を集めているのである。そうしたGPIFの動きを期待して(株価が上がるかもしれないと期待して)、日本株を購入する動きもあり、それも現在株価を上げる要因となっている。 しかし、大丈夫なのだろうか。GPIFは、平成24年度以降、アベノミクスの影響で10兆円以上の収益を得ている。しかし、毎年度収益を得られているわけではなく、損失を出している年度もあり、平成20年度はリーマンショックの影響で9兆円以上の損失を出した。日本株として運用する割合を増やせば、株式相場の影響をより大きく受けることになり、損失を出すリスクがより高まることになる。 そうしたリスクに対応するため、「日本再興戦略」改訂2014では、GPIFのポートフォリオの見直しとともにガバナンス体制の見直しも行うこととされている。しかし、政府が行うこうした組織のガバナンス改革は当てにならないだろう。おそらく適当に形だけを整えて、自分達に都合の良い人達をそこに充当するのだろう。そうしたガバナンス体制が機能するはずがない。 そもそもなぜGPIFは日本株の運用割合を増やすのだろうか。日本株の運用割合を増やすに当たっては、それが合理的なのだという説明がなされるだろう。それが本当ならばいいのだが、他方、株価上昇を政権への支持につなげたいという安倍政権の意図があるのではないかという見方もある。もしも株価を上げるためにGPIFの日本株の運用割合を増やすのだとしたら、とんでもないことだ。年金積立金は国民のものであることを決して忘れないでいただきたいものである。 (了)
《速報解説》 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」について ~女性の登用等に関する記載を義務付けへ~ 大阪経済大学教授 小谷 融 平成26年8月22日に、金融庁から「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」が公表された。 本改正案は、平成26年9月22日(月)12時00分までコメントが募集されている。 Ⅰ 改正の背景 民間投資を喚起する成長戦略である「日本再興戦略」は、アベノミクスの「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」と併せて、三本の矢を形成するものである。 昨年の成長戦略で残された課題の1つに、「女性の更なる活躍の場の拡大や海外の人材の受入れの拡大を含めた『世界でトップレベルの雇用環境』をどう実現していくか」がある。これを含めた課題の解決に向けて、「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」が平成26年6月24日に閣議決定された。 このなかで、「女性の更なる活躍促進」の方策の一つとして、「企業側のマインドを変えるために、役員の女性比率や女性の登用方針等を積極的に開示することを促すこと」を提言している。 具体的には、「有価証券報告書における役員の女性比率の記載を義務付けるとともに、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において、企業における役員、管理職への女性の登用状況や登用促進に向けた取組を記載するよう各金融商品取引所に要請する」というもの。 Ⅱ 主な改正内容 有価証券報告書の【役員の状況】においては、定められた様式に、役員ごとの役名・職名・氏名・生年月日・略歴・任期・所有株式数を記載することになっている。改正案は、その様式の冒頭に「男性 名 女性 名(役員のうち女性の比率 %)」の欄が設けられ、「役員の男女別人数を記載するとともに、役員のうち女性の比率を括弧内に記載する」というもの。 なお、この改正は、有価証券報告書のほか有価証券届出書、四半期報告書および半期報告書が対象となっている。 Ⅲ 適用時期 改正後の規定は、平成27年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書およびその事業年度に係る有価証券報告書から適用される予定である。 (了)
2014年8月21日(木)AM10:30、Profession Journal No.82 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
日本の企業税制 【第10回】 「BEPS行動計画13『移転価格の文書化』をめぐる動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 欧州における米国系多国籍企業への過度なタックス・プランニングへの牽制から始まったBEPS(Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)問題は、G20の要請を受けたOECD租税委員会においてOECD加盟国に加え、OECD非加盟のG20メンバー国8カ国(中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ)も参加し、国際課税ルールの抜本改革を目指す一大プロジェクトとして進められている。 全15の行動計画のうち、今年9月には、行動計画1(電子商取引への課税)、行動計画2(ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの効果の否認)、行動計画6(租税条約の濫用防止)、行動計画13(移転価格文書化の再検討)について完了する予定であるが、そのいくつかは平成27年度税制改正を含めたわが国の国際租税制度の改正へとつながるものである。 そこで、本稿ではBEPS議論の全体像を示した上で、とくに現時点で、わが国での影響が大きいと考えられる「移転価格の文書化」を紹介することとしたい。 2 OECD租税委員会BEPSプロジェクトの概要 多国籍企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問題に対し、OECD租税委員会(議長:浅川・財務省国際局長)は、2012年6月よりBEPSプロジェクトを立ち上げ、2013年2月には「BEPS報告書」が、2013年7月には「BEPS行動計画」が公表されている。 このBEPS行動計画は、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2013年7月19~20日、モスクワ)に提出され、G20の全面的な支持を得た。 2013年2月のBEPS報告書では、税源を浸食する方法により利益を移転させることを目的としたプランニングのために、政府が相当の法人税収を失っており、「国境を越える利益への課税に係る国内的及び国際的なルールが今や崩壊しており、そして、租税はただ愚直な者によって支払われるだけであるという認識を助長した」との指摘がなされており、まさに、国際課税ルールの根本的な見直しが必要であるとの認識が示されている。 2013年7月の「BEPS行動計画」では、具体的に15項目の課題を示しているが、移転価格税制、外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)、租税条約はじめ国際課税全体にわたる見直しが提起されている。 【BEPS行動計画の概要】 3 行動計画13-移転価格関連の文書化の再検討 「移転価格文書化の再検討」とは、多国籍企業に対し、グローバルな所得の配分、経済活動、進出先国で支払われた税について必要な情報を共通のフォーマットにより、関係するすべての国の政府に提供することを求めるものである。 (1) ディスカッション・ドラフト 2014年1月、OECD租税委員会より「移転価格文書化と国別報告に係るディスカッション・ドラフト」が公表されているが、その主な内容は以下の通りであった。 (2) 産業界の意見 このディスカッション・ドラフトの提案に対しては、各国産業界から、直ちに以下のような問題点が指摘された。 そこで、経団連としても、OECDに対する各国産業界の諮問組織であるBIAC(The Business and Industry Advisory Committee)を通じてコメントを提出するとともに、本年2月、独自に意見書をOECD租税員会に提出し、 等を申し入れた。 また、4月にOECD租税員会のサンタマン事務局長他の税制担当幹部が来日した機会を捉え懇談会を東京で開催し、働きかけを行った。 さらに、本年5月19日にパリのOECD本部で開催された行動計画13に対する公聴会(Public Consultation on TP documentation & CBC reporting)に、経団連として川﨑日立製作所税務統括部長ほかが参加し、各国産業界とともに意見を述べている。 (3) OECD公聴会と今後の見通し この公聴会では、OECDから行動計画13に関わる検討状況について説明があり、その上で国別報告書の内容及びその提出・共有の方法、マスター・ファイル、ローカル・ファイルの内容等について討議がなされた。 国別報告書の内容については、ディスカッション・ドラフト段階からはかなり緩和され、ロイヤルティ・利子・役務提供の対価の支払・収受額)は削除され、また、データにはある程度のフレキシビリティが認められる見込みである。一方で、各国産業界が強く求めていた、重要性基準(Materiality)は認められず、その国で事業を行っていれば情報を記載することとされたが、数値情報は事業体(entity)ごとではなく、進出先国ごとの総体でも可能とされる見込みである。 国別報告書の提出・共有方法については、条約ベースの共有方式を支持する産業界・会計事務所と、各国ごとの提出方式又は国別報告書の公開を主張する途上国・NGOという構図となり、さらに、OECD租税員会で議論されることとなった。 4 おわりに 行動計画13に関するOECDの最終決定は、本年9月20日~21日にケアンズで開催されるG20財務大臣・中央銀行総裁会議への報告が予定されていることから、検討は既に最終段階にあるものと思われる。 経団連ではBIACを通じて詳細な情報収集を進めているが、提出が求められることとなるマスター・ファイル、ローカル・ファイル、国別報告書の内容はディスカッション・ドラフトよりは緩和されてはいるものの、なお相当に厳しいものである。 これが、OECD、G20を通じて、移転価格の文書化に関する新たな国際ルールとなることは間違いなく、わが国においても、早急に関連法制などの対応がなされることとなる。 大企業、中小企業を問わず、およそ海外に事業所や関連会社を持ち事業展開を行っている企業であれば、その動向に十分な注意が必要である。 (了)
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第20回】 「医療費控除の対象となる『医薬品』(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 借用概念と一般概念 自然医食品の医療費控除適用の有無について、前回紹介した福島地裁平成11年6月22日判決は、 としている。 ここでは、特に医療費控除の対象となる「医薬品」について関心を寄せたいが、福島地裁は、かかる自然医食品の購入費用を社会通念からみて「疾病の治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価」と認めることができないとしている。 課税実務では、前回述べたとおり、「医薬品とは、薬事法第2条第1項《定義》に規定する医薬品をいう」とされている(所基通73-5)。すなわち、課税実務は、所得税法73条2項、所得税法施行令207条2号にいう「医薬品」を薬事法からの借用概念と考え、薬事法2条1項に規定する「医薬品」と解している。これに対して、上記福島地裁は、そのようには解しておらず、社会通念に従って判断すべきとしているのである。 このように考えると、医療費控除の対象となる「医薬品」については、①薬事法にいう「医薬品」をいうとする理解と、②社会通念上の「医薬品」をいうとする理解の2つの解釈ルートがあるように思われる。 この2つの解釈ルートは、所得税法73条2項にいう「医薬品」を借用概念と捉えるべきか、あるいは一般概念として捉えるべきかの考え方の違いからくる見解の相違であるといえよう。 もっとも、福島地裁は、社会通念上「疾病の治療又は療養に必要」としているだけであって、「医薬品」を社会通念で判断するという態度に出たものではないかもしれない。そうであるとすれば、上図の借用概念と捉える解釈ルートによっていると考えることもできる。 Ⅲ 東洋医学と「医薬品」 ところで、薬事法2条1項は次のように「医薬品」を規定している。 ここにいう「日本薬局方」とは、薬事法41条により 、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書をいい、日本薬局方に収載されている医薬品は我が国で繁用されている医薬品が中心となっている。 日本薬局方作成基本方針には、「保健医療上重要な医薬品の全面的収載」が掲げられ、およそ適正な品質が確保されているとされる医薬品の多くを掲載することとされているため、医療費控除の対象となる医薬品の解釈に当たって、課税実務が薬事法2条1項に依拠することは網羅性などの点からみれば妥当であるように思われる。 もっとも、当然ながら、その網羅性は、政策的・行政的観点から、日本薬局方に収載すべきとされる医薬品にとどまるという意味でのものである。すなわち、薬事法が想定する医薬品に所得税法上の医療費控除の対象となる「医薬品」を限定するという判断枠組みを採用すれば、結果的には日本薬局方に収載されているか否かが医療費控除の適用を考える上での重要な判断要素となるのであるが、ここに問題はなかろうか。医療費控除の対象となる「医薬品」を、なぜ薬事法が規定する医薬品に限定して解釈しなければならないのかという点について、理論的な説明ができるのであろうか。 第十七改正日本薬局方作成基本方針では、具体的な方策として、「保健医療上重要な医薬品の全面的収載」が示されており、かかる「保険医療上重要な医薬品」とは、「有効性及び安全性に優れ、医療上の必要性が高く、国内外で広く使用されているもの」をいうとされているのであるが、「優先的に新規収載をすべき品目」としては、「米国薬局方(USP)や欧州薬局方(EP)等に収載され、国際的に広く使用されている医薬品」が一例に示されている。かような記述からすれば、日本薬局方は現代西洋医学を中心としているという見方ができるように思われる。 そして、課税実務がそれに依拠しているということは、相対的にみて東洋医学を基とする医薬品は医療費控除の対象として認められにくいということを意味することになりはしないだろうか。 あるいは、日本薬局方に示される医薬品には含有成分量に定量性があるという点が要請されるところ、漢方は定量性を充足しないという点で、かかる医薬品の定義には馴染まないという議論がある。含有成分量の定量性という観点は、果たして所得税法上の医療費控除の対象となる「医薬品」を考える上で特段の意味を持ち得るものであろうか。 国税不服審判所平成14年11月26日裁決(裁決事例集64号172頁)では、 と判断されている。 ここでは、自然医食品が薬事法上の医薬品ではないという点によって医療費控除該当性が否定されている。なるほど、「食品」が食品衛生法により定義されているのに対して、「医薬品」は薬事法により定義され、それぞれの取扱いが規制されていると考えれば、法律上、食品と医薬品は別個のものとして整理されているようにも思われる。さすれば、自然食品あるいは健康食品とされた時点で薬事法が規定する医薬品に該当しなくなり、ひいては医療費控除の対象から排除されることになりそうである。 この点、昭和26年当時の所得税法に関する基本通達では、入院患者の食事の費用は医療費控除の対象とはされておらず、食品と医薬品とは厳格に区別されていたのかもしれない。 Ⅳ 「食品」か「医薬品」か しかしながら、現行の課税実務上、入院若しくは入所の対価として支払う食事代の費用は医療費控除の対象となると解されており(所基通73-3)、特段「食品」に係る費用を入院費から除外するようなことは求められていない。さらにいえば、課税実務では、入院患者の付添人の食事代であっても、家政婦などの付添いの対価の一部として支払われている場合には医療費控除の対象と解されているのである。 このことを図示すると、次のようになる。 この点、医療費控除の対象に食事代が含まれるか否かが議論された事例において、国税不服審判所昭和63年2月18日裁決(裁決事例集35号83頁)も同様の判断を示している。 すなわち、同審判所は、 とする。 この判断は、請求人が、 と主張したことに対するものであるが、入院若しくは入所の対価を構成しているかどうかという点のみが判断を分けている。 すなわち、病院で東洋医学による食事療法が採用された場合の当該食事代は「食品」の対価であるにもかかわらず医療費控除の対象となるが、病床数の制約関係で、自宅治療に切り替えられた場合には、同様に医者からの指導で「食品」を購入したとしても、かかる対価は医療費控除の対象とはならなくなるということになる。 食事療法を前提として考えた場合に、病院内における「食品」の摂取が医療費控除の対象となり、自宅における「食品」の摂取が医療費控除の対象とはならないというのは、「医薬品」であるかどうかという判断基準の絶対性を肯定するものではないことを意味している。 まして、次の薬事法上の判決を考慮に入れれば、自然医食品が薬事法上の医薬品に該当しないということが本当にいえるのかは必ずしも判然とはしないのである。 広島高裁昭和55年2月26日判決(刑集36巻2号201頁)は、 との被告の主張を、 と判示している。 すなわち、 とし、 と説示するのである。 かような判断を考慮に入れると、「食品」か「医薬品」かは必ずしも明確に峻別できるものとは言い切れないように思われるのである。 もっとも、薬事法上の医薬品に該当するとしても、「医療又は療養に必要な」という所得税法73条2項の要件によって、「自然医食品」が排除されるということは考えられるが、その際には、処方せんがあるということの意味が検討されるべきではなかろうか。 しかしながら、前述の国税不服審判所平成14年11月26日裁決においては、「処方せん」があるということが医療費控除該当性の判断において何らの考慮もされていない。なるほど、現行所得税法上、医薬品の購入代金が医療費控除の対象となるか否かの判断において、処方せんの有無は要件とはされていないのであるが、入院患者に行う食事療法と医師の処方箋に従った食事療法との本質的な違いは、上記に述べたとおり必ずしも判然とはしないのである。 なお、医薬品の購入代金に係る医療費控除の判断基準としての処方せん要件は、昭和26年の所得税法改正において撤廃されている。 (続く)
平成26年度税制改正における 消費税関係の改正事項 【第1回】 「簡易課税制度のみなし仕入率の見直し① (改正内容の確認)」 税理士 金井 恵美子 ◆ はじめに ◆ 平成26年度税制改正において、消費税は、簡易課税制度のみなし仕入率、課税売上割合の計算、輸出物品販売場における免税対象物品の範囲等の改正が行われた。 本連載では、今週から連続して、その主な改正点を解説する。 1 簡易課税制度のみなし仕入率の見直し 簡易課税制度におけるみなし仕入率が、次のように改正された。 〈改正前〉 〈改正後〉 2 事業区分は日本標準産業分類の大分類による 平成26年5月29日付けで公表された改正後の消費税法基本通達13-2-4は、第三種事業に該当することとされている製造業等、第五種事業に該当することとされているサービス業等、第六種事業に該当することとされている不動産業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定することとしている。 日本標準産業分類の大分類と、簡易課税制度の第三種事業、第五種事業及び第六種事業とを対比してみると、次のように整理することができる(改正消基通13-2-4、13-2-8の3)。 日本標準産業分類は、統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定された統計基準であり、すべての経済活動を産業別に分類している。昭和24年10月に設定され、平成19年5月に現行統計法(平成19年法律第53号)が成立して、平成21年3月に同法第28条における統計基準となったものである。直近は、平成25年10月30日付け総務省告示第405号をもって改定され、平成26年4月1日から適用されている。 上記以外の大分類には、「I 卸売業、小売業」、「S 公務(他に分類されるものを除く)」「T 分類不能の産業」がある。「T 分類不能の産業」とは、「A 農業、林業」から「S 公務(他に分類されるものを除く)」までのいずれにも該当しない産業があるという積極的な分類ではなく、「主として調査票の記入が不備であって、いずれに分類すべきか不明の場合又は記入不詳で分類しえないものである。」と説明されている。 3 不動産業の範囲 今回の改正により、第六種事業に該当することとなった不動産業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類の「K 不動産業、物品賃貸業」のうち、不動産業に該当するものである(改正消基通13-2-4)。 日本標準産業分類の大分類において不動産業に該当する事業は、「建物売買業、土地売買業、不動産代理業・仲介業、貸事務所業、土地賃貸業、貸家業、貸間業、駐車場業、その他の不動産賃貸業、不動産管理業」であるが、このうち、建物売買業及び土地売買業は、第一種事業又は第二種事業となる。 4 金融業、保険業の範囲 改正により、第五種事業に該当することとなった金融業、保険業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類 「J 金融業、保険業」に該当するものである。 「J 金融業、保険業」の内容は、次のように整理することができる。 これらの事業において生ずる主な取引は非課税資産の譲渡等に該当するものが多いが、手数料収入などを得る事務手続などは、第五種事業に該当することとなる。 (了)