《速報解説》 四半期財務諸表に関する会計基準の改正(確定)について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年5月16日付で、 企業会計基準委員会は次の会計基準等を公表した。 これにより、平成26年2月25日付で公表した公開草案が確定することとなる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正事項 平成25年9月13日に改正された「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)等において、企業結合に係る暫定的な会計処理が確定した場合の取扱いが示されたことに対応して、四半期財務諸表における取扱いを示している。 公開草案においては、上記の③(1株当たり情報関係)に関する具体的な改正案は示されていなかったが、改正後の「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」では規定されている。 Ⅲ 適用時期 適用時期は、平成25年に改正された企業結合会計基準の暫定的な会計処理の確定の取扱いに係る事項の適用時期と同様とする。 (了)
2014年5月15日(木)AM10:30、Profession Journal No.69 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。
日本の企業税制 【第7回】 「政策税制の見直しに不可欠な視点」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 法人税率引下げの財源として、租税特別措置の見直しが当然のように言われている。 例えば政府税制調査会法人課税DGの第1回会合(2014年3月12日)において、大田弘子座長名で配布された「法人税の改革の論点について」では、課税ベースの拡大の第1に「租税特別措置はゼロベースで見直すべきではないか」とされている。 確かに、ある政策を推進するために税制上の支援措置として講じられたものについては、その政策効果を検証しつつ見直していくことが必要である。 特に、26年度税制改正で講じられた生産性向上設備投資促進税制のように、当初から期限を限定しての政策効果を狙う措置については、期限到来時に廃止を含めて見直すことも当然である。 2 税制として当然の措置 しかし、租税特別措置の中には、特定の政策を推進するためとは言い難いものがいくつかある。 例えば、移転価格税制や外国子会社合算税制など、国際租税の基本的な仕組みは租税特別措置法で定められているが(外国税額控除制度は本法で規定)、これらを政策税制と考えることはできないであろう。 そもそも、租税特別措置法に規定されているかどうかで制度の要否を判断するのは不毛な議論である。 法人税関係ではないが、石油化学原料用ナフサに対して揮発油税や石油石炭税を課すならば、日本では石油化学工業は存立できないことになる。また、原料への課税として税制の基本的な考え方に反することとなり、そのような課税を行っている国はない。 本来であれば、本法に規定されてしかるべきであるが、これも租税特別措置とされている。 3 産業存立のために必要な措置 また、その産業においては国際標準であるような仕組みであって、産業の存立のために不可欠な措置であっても、特定の業界向けの仕組みとして租税特別措置に規定されているものもある。 例えば、外航海運業については、所得ではなく、船舶の運航トン数を標準して課税を行うことは、少なくとも世界の主要海運国においては、普遍的な仕組みである。 わが国においても2008年より適用対象を日本船舶に限定したトン数標準課税が導入され、2013年4月からは一部の外国船舶(準日本船舶)にも対象が拡大されたが、その割合は全運航船の15.8%であり、全運航船(自国船舶・外国船舶)が対象である諸外国と比べ、依然として適用割合が著しく低い状況となっている。 海洋立国・貿易立国であるわが国が、海洋におけるプレゼンスを確保しつつ持続的に成長していくため、また世界の成長をわが国に取り込むためには、わが国輸入物資(原材料・食糧等)の約7割を輸送している日本商船隊の競争力の維持・強化が必要であり、このため、徹底した国際競争条件均衡化の観点からの改善が不可欠である。 鉱業における探鉱準備金等の措置も同様である。 日本経済が持続的な成長を実現するためには資源・エネルギーの安定供給の確保が重要であるが、近年は探鉱開発費の高騰、資源獲得競争の激化、国際資源メジャーの寡占化、資源国のナショナリズムの高揚などにより、資源の安定供給確保は以前に比べ格段に困難さを増している(資源開発コストは2000年代当初の約2.5倍程度に増加)。 このような切迫した状況の中、わが国の資源開発企業と資源メジャー等との財務力の格差は、依然として大きい。 わが国は「資源を持たざる国」であることを忘れてはならず、資源関連税制はわが国において必要不可欠である。 【資源確保のための税制措置】 4 経済活性化のために必要な措置 政策税制であるとしても、その国が置かれた環境や、将来にわたり何をもって成長していくかとの国の方針を税制で支援するという重要な役割を果たすものである。 それぞれの措置の内容が、わが国として必要な政策目的に沿ったものかを検証し、特に、国際的な動向も十分に把握した上で、わが国の将来を支えるもの、国際的イコール・フッティングを実現するために不可欠なものは維持・拡充していくことが必要である。 例えば、研究開発税制については、諸外国でも法人税率引下げと同時に研究開発税制の拡充を進めている。控除上限については、英国やフランスは無制限であり、繰越期限についても英国は無期限、米国は20年となっているが、日本の税制措置はこれらの面で劣後している。また、日本のように租税特別措置としてではなく、本法で恒久化されている例が多い。 日本は科学技術立国であり、成長戦略を実行する上で企業の研究開発は生命線である。「第4期科学技術基本計画」では、官民合わせた研究開発投資の対GDP4%以上を目標にしているが、組織別研究費負担割合において日本は民間企業の占める割合が81%と、他国(英国:50.1%、ドイツ:66.4%、米国:67.5% 等)に比べ大きいことも忘れてはならない。 その効果についても、最近の研究成果によれば、研究開発税制は、税額控除額の約2.33倍の研究開発費の支出増加をもたらしている。 研究開発投資を継続していく上で、特に恒久措置となっている総額部分は不可欠の制度であり、縮減は絶対に行うべきでない。 政府税制調査会では、研究開発税制、特に総額型について「税率引下げに応じて、その必要性を抜本的に見直すべきではないか」としているが、大いに疑問である。 【主要国の研究開発税制】 5 おわりに 租税特別措置であっても、単なる政策措置ではない税制の基本的仕組みとして理解すべき措置や、たとえ業界特有の制度であったとしても、当該業界にあっては国際標準となっている措置は、恒久化・拡充さえ必要であり、財源として考えることはできない。 また、研究開発税制は政策税制であるとしても、わが国が将来に向け活力を維持していくために不可欠である上に、法人税負担の国際的なイコール・フッティングを考えていく上では、実効税率と同じほどの重要性がある。 少なくとも基本的制度としての総額型を縮減するようなことでは、法人税改革の目的である日本経済の活性化にも反するものと考える。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第1回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)①」 公認会計士 佐藤 信祐 1 みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決) (1) 判決の概要 新聞報道で有名であるため、その概要を知っている読者も少なくないと思われるが、法人税法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定についての最初の裁判例である。 実際に包括的租税回避防止規定が適用されたものとしては、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返した行為について租税回避行為として否認された事例(※1)が存在するが、この事例は裁判において争われていないため、今のところ、唯一存在する裁判例が東京地裁平成26年3月18日判決である。 (※1) 平成24年2月12日、読売新聞朝刊 包括的租税回避防止規定の射程範囲として、法人税法132条の射程範囲である「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」だけでなく、「組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものも含む」として、買収の2ヶ月前に副社長を送り込んだ行為について、包括的租税回避防止規定の適用対象とすることにより、繰越欠損金の引継ぎを認めなかった更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を適法と判断した。 原告はこれを不服として、東京高裁に控訴を行っている(※2)。 (※2) 新日本法規「検証ヤフー・IDCF事件」T&Amaster 542号4頁 なお、本事件においては、別途、非適格分割により設立された子会社が計上した資産調整勘定についても包括的租税回避防止規定が争われており、同日に原告の子会社が敗訴しているが、本連載において、いずれ解説する予定である。 (2) 事実の概要 原告(以下、「A社」という)の議決権のうち、B社が約42.1%を保有しており、当該B社からC社を買収し、その後、合併を行うことにより繰越欠損金の引継ぎを行っている。なお、当該買収に先立ち、C社は会社分割によりF社を設立し、当該F社もA社が買収を行っている。本件会社分割は非適格分割に該当することから、F社において資産調整勘定が計上されているが、当該資産調整勘定の計上についても別訴において争われている。 本件買収、合併におけるスケジュールは以下の通りである。 本件合併当時、丙氏は、A社の代表取締役でもあるが、B社の取締役でもあった。 (3) 主たる争点 ① 法人税法132条の2の意義【争点1】 (ⅰ) 法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)の解釈について (ⅱ) 「その法人の行為又は計算」の意義について ② 法人税法施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について、法132条の2の規定に基づき否認することができるか否か【争点2】 ③ 本件更正処分に理由付記の不備があるか否か【争点3】 (4) 本事件における特徴 法人税法上、合併を行った場合において、税制適格要件を満たしたときは、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことが可能である(法法57②)。しかしながら、例えば、本事件のような100%子会社との合併については、合併の直前において、合併法人と被合併法人との間に完全支配関係が成立していれば税制適格要件を満たすことができることから(法令4の3②一、当時の政令では法令4の2②一)、繰越欠損金を有する法人を買収した後に合併を行うような租税回避が考えられるため、特定資本関係(現行法では「支配関係」に名称変更)が生じてから5年を経過しない適格合併については、みなし共同事業要件を満たさない限り、繰越欠損金の引継制限が課されることとなった(※3)(法法57③)。 (※3) 朝長英樹(2001)『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』日本税制研究協会94頁 この場合のみなし共同事業要件であるが、以下の①から④の要件を満たすか、①及び⑤の要件を満たした場合に充足することとされている(※4)(法令112③、当時の政令では法令112⑦)。 (※4) 佐藤信祐(2010)『組織再編における繰越欠損金の税務詳解(第3版)』中央経済社、稲見誠一・佐藤信祐(2012)『実務詳解組織再編・資本等取引の税務Q&A』中央経済社においては、事業関連性要件、規模要件、規模継続要件、経営参画要件と表記したが、本稿においては判決文における表現に合わせるものとする。 この場合における特定役員引継要件であるが、特定資本関係発生日以後に特定役員を入れ替えることにより形式的に本要件を満たすような行為については制度趣旨に反することから、特定資本関係発生日前に役員であった者に限定することとしている。 本事件においては、特定資本関係発生日前に合併法人の特定役員を被合併法人の特定役員として送り込むことにより、形式的に特定役員引継要件を満たしており、これに対して、包括的租税回避防止規定が適用された事案である。 奇しくも、本事件は、「組織再編における繰越欠損金の税務詳解(佐藤信祐、中央経済社)」の93-94頁(※5)に記載させていただいた内容に類似したものであり、当時の解説として、 としたうえで、「送り込んだ特定役員がほとんど何もしていないような場合」には、事実認定により否認される可能性があると指摘させていただいた。 (※5) ここで紹介したのは初版(2007)であるが、第2版(2009)102頁、第3版(2010)105-106頁においても同様の記載をした。 事実、事業上の理由で特定役員を送り込む事案は少なからず見受けられるものであり、結果的に法人税の負担が減少したとしても、事業目的の方が税目的よりも上位にあることから、制度の濫用とも言い難いため、控訴審、上告審において同様の判決となったとしても、判例の射程の範囲外にあり、包括的租税回避防止規定を適用すべき事案にはならないと考えられる。 しかしながら、本事件の特殊性としては、株式譲渡の提案から副社長就任、株式譲渡、合併までの一連の取引が極めて短期間で行われており、事業目的よりも税目的が上位にあるという疑義を抱かせる原因ともなっている。 次回以降は、それぞれの争点における被告、原告の主張についてそれぞれ解説し、本事件においてどのようなことが争われたのかについて分析を行っていく予定である。なお、【争点3】は形式的なものであるため、本連載においては【争点1】と【争点2】についてのみ分析を行うこととする。 (了)
中小法人の〈交際費課税〉 平成26年度改正のポイント 【第1回】 「改正のあらまし」 公認会計士・税理士 新名 貴則 はじめに 平成25年度税制改正に引き続き、平成26年度税制改正においても、消費税率の引上げに伴う景気後退を防ぐ施策として、交際費課税の見直しが行われた。 本連載では、この改正による中小法人への影響について解説するが、まず第1回目は、平成26年度税制改正における交際費課税の改正のあらましについて解説する。 1 平成26年度税制改正前の交際費課税 平成26年度税制改正前の交際費課税の概要は、次のとおりである。 (*1) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) (*2) 平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度 【平成26年度改正前の中小法人の特例のイメージ】 このように平成26年度税制改正前の交際費課税においては、資本金1億円超の大法人については、税務上の交際費等の損金算入は一切認められていなかった。 これに対して一定の中小法人については、特例として年間800万円までは全額損金算入が認められていたが、平成26年3月31日までに開始する事業年度までとされていた。 2 平成26年度税制改正における改正点 (1) 中小法人の特例の延長 平成26年度税制改正において、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)の期限が2年間延長された。つまり、平成28年3月31日までに開始する事業年度までは、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)が適用されることになった。 決算月が何月かによって異なるが、具体的には次の事業年度まで、税務上の交際費等を年間800万円まで全額損金に算入できることになる。 (2) 「接待飲食費の50%損金算入」制度の導入 平成26年度税制改正によって、接待の飲食のために支出した交際費等については、その50%を損金算入できることとされた。また、その損金算入額に上限は設定されていない。 この「接待飲食費の50%損金算入」の制度は、法人の規模等に関係なくすべての法人に認められた。したがって、平成26年度税制改正前は交際費等を一切損金算入できなかった大法人でも、接待飲食費に限っては50%を損金算入できることになった。 中小法人では、平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度においては、「中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)」と「接待飲食費の50%損金算入」を選択適用できることになった。 ただし、あくまで税務上の交際費等の中でも「接待飲食のために」支出したものに限定されており、すべての交際費等の50%が損金算入されるわけではない。 また、接待飲食のための支出であっても、いわゆる社内接待費については、50%損金算入の対象とはならず、全額が損金不算入となる。 【接待飲食費の50%損金算入のイメージ】 3 接待飲食費とは 50%損金算入の対象となるのは、あくまで「接待飲食費」に限定されている。 接待飲食費とは、交際費等の中でも「飲食その他これに類する行為のために支出する費用」を意味する。具体的には、次のような費用を指す。 ここで注意が必要なのは、法人内部の役員や従業員を接待した場合の飲食代(いわゆる社内接待費)は「接待飲食費」には含まれないので、50%損金算入の対象にはならないということである。 ただし、親会社の役員や従業員などを接待した場合は、グループ法人内部の者であってもあくまで別法人に属する者であるため、その飲食代は「接待飲食費」に含まれ、50%損金算入の対象となる。 また、次のような費用もここでいう「接待飲食費」には含まれないので、注意が必要である。 * * * 次回はこの改正が中小法人の交際費に係る実務にどのような影響を与えるかを検討したい。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第1回】 「復興特別所得税の納付もれへの対応」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成25年11月にフリーのデザイナーにデザイン料の報酬10万円(税込)を支払う際、10.21%で源泉徴収するところ、復興特別所得税0.21%の源泉徴収を失念し、源泉所得税10%として1万円を源泉徴収し、9万円を振り込みました。源泉所得税1万円は、所定の納期限までに納付しました(図表1参照)。 図表1 源泉所得税1万円を納付した際の源泉所得税の納付書 先日納付もれに気づき、復興特別所得税を追加で納付することになったのですが、納付書の作成についてご教示ください。 納付書は、図表1と同じ「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を用いる。ただし、記載方法は図表1と異なる点があるので注意していただきたい。以下にポイントをまとめた。 図表2 復興特別所得税を追加で納付する際の源泉所得税の納付書 (了)
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第6回】 「「有利選択」のケーススタディ③ 固定資産に関する税額調整を要するケース」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 第4回・第5回に引き続き、個別対応方式・一括比例配分方式「有利選択」の実務と題して、ケーススタディ形式でいずれが有利か見ていくこととする。 本稿で取り上げるケーススタディは、固定資産に関する税額調整を要するケースである。 ア.通算課税売上割合の計算 イ.課税売上割合が著しく増加したかの判定 ウ.調整額 ◆本ケースの評価◆ 本件の場合、課税売上割合が著しく増加したケースに該当するため、平成27年3月期において追加で548,480円控除できることとなった。本件の場合、事業者が個別対応方式を採用し、調整対象固定資産を共通対応分に分類していたため、追加での税額控除が認められることとなった。 仮に、調整対象固定資産を課税売上のみ又は非課税売上のみに要するものに分類していた場合には、追加の税額控除は不可能となる。そのような場合であっても、一括比例配分方式を採用していれば追加の税額控除は可能となる。用途区分は決して恣意的に変更できるものではないため、課税売上割合が著しく増加することが見込まれる場合には、一括比例配分方式の採用も検討すべきということになるだろう。 * * * 次回は、「課税売上割合に準ずる割合」の実務について解説を行う。 (了)
まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第10回】 「申告書作成の際の留意点について」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 吉田 知至(執筆) 第10回である今回は、施行日以後に終了する課税期間における申告書を作成する際の留意点について、以下の具体的な取扱いを確認する。 消費税率の引上げに伴い、次の申告書・付表の様式が変更されている。 上記のうち、特に付表1、付表2-(2)、付表4及び付表5-(2)については、従来は提出する機会が少なかったものと考えられるため、提出を失念しないよう注意されたい。 なお、施行日以後に終了する課税期間において、例えば、その課税期間中のすべての取引について8%の消費税率が適用される場合には、従来どおり確定申告書に付表2(簡易課税の場合は付表5)を添付して提出することになる。 【解 説】 今回のケースでは、確定申告書は次の手順で作成することとなる。 付表2-(2)は、課税売上割合の計算における課税売上額や課税仕入れに係る支払対価の額等を適用税率ごとに記載する。 したがって、課税売上割合の計算における課税売上額は、次のように計算することとなる。 同様に、仕入税額控除についても適用税率ごとに次のように計算する。 次に、付表1は確定申告書を適用税率ごとに計算するための計算表であり、課税標準額や消費税額、控除税額(控除対象仕入税額、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額)等を税率ごとに記載し、集計した金額を確定申告書に転記する。 売上に係る対価の返還等に関する経過措置では、施行日の前日までに販売した商品について、施行日以後に返品を受け、値引き、割戻しを行った場合には、旧税率により税額控除を行うこととされている。 したがって、売上に係る対価の返還等を行う場合には、次のように販売を行った時期に応じて返還等対価に係る税額を計算する必要がある。 なお、例えば4月中に返品を受けた商品は3月中の販売に対応するものとして処理をしている場合など、合理的な方法により継続して返品等の処理を行っているときは、事業者が継続している方法により売上げに係る対価の返還等に係る消費税額を計算しても差し支えないこととされている。 返還等対価に係る税額と同様、貸倒れに係る税額についても、貸倒れの対象となった債権に係る課税資産の譲渡等の時期に応じて税率を適用する。 例えば、施行日前に行った課税資産の譲渡等に係る債権について、施行日以後に貸倒れの事実が生じた場合には、旧税率により貸倒れに係る消費税額の控除の計算を行う。 上記により計算した返還等対価に係る税額及び貸倒れに係る税額を付表1の⑤欄及び⑥欄に記載する。 【解 説】 今回のケースでは、確定申告書は次の手順で作成することとなる。 付表4は確定申告書を適用税率ごとに計算するための計算表であり、課税標準額や消費税額、控除税額(控除対象仕入税額、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額)等を税率ごとに記載し、集計した金額を確定申告書に転記する。 なお、控除対象仕入税額については付表5-(2)において適用税率ごとに計算し、その金額を付表4の④欄に記載する。 【解 説】 今回の改正により、消費税率は6.3%に、地方消費税率は1.7%に引き上げられる。 (注1) 消費税額の25/100 (注2) 消費税額の17/63 消費税について旧税率と新税率が混在する場合には、地方消費税についても適用税率に応じて納税額を計算する必要があるため、次のように計算することとなる。 なお、この計算は付表1(簡易課税の場合には付表4)において行うことになる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【35】 〔第5章〕法令用語 (その21) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 12 課する・科する(「処する」も含めて) 「課する」と「科する」は、いずれも「かする」と読むが、法令用語としては、明確に使い分けられている(なお、条文として「課す」「科す」という文言の場合もある)。 法令用語としては、「科する」は、懲役刑や罰金刑などの「刑罰」や秩序違反に対する制裁である「過料(次回に詳述する)」をかける場合に使われる。なお読みとしては「課する」と区別する意味で「トガする」と読むことがある。 なお、刑罰をかける場合に「処する」という法令用語を使う場合もあるが、「処する」は具体的な刑をかける場合(例えば、「〇〇年の懲役に処す」)に用いられるが、抽象的に刑罰がかけられることを表現する場合には「科する」を用いる。 一方、「課する」は、制裁的意味ではなく、租税や義務といった負担をかける場合に用いられる。 この点、消費生活協同組合法において「過怠金を課する」という文言がある。 このように払込み義務を怠った者に対して制裁的にかけるものなのであるから「科する」ではないかという疑念も生じようが、ここで注意すべきは「過怠金」の法的な性質である。 過怠金は、規約違反や義務の不履行などに対する懲戒として科される金銭罰ではあるが、組織や団体における自治的な取組みとして実施される制裁であって、この点罰金や過料と大きく異なるのである。 では次に、「課する」と「科する」の使用例を、国税通則法で見てみよう。 まず、一般的に「課税」という言葉からも、税が「課される」ものという点に異論はない。しかし、加算税(それも重加算税すらも)も税の一種として、刑罰や制裁とは区別されたものとして「課する」が使われるのである。 これと類似の使用例が、金融商品取引法や独占禁止法の課徴金である。 課徴金も制裁的意味合いでかけられるものであるが、罰金とは性格を異にするものとして、通常「課徴金を課する」というように表現される。「課徴金」が刑罰ではないこと、そしてその名称から「課」するものとされているが、実は条文上は「課徴金を命ずる」というように規定されており、「課する」とも「科する」ともされていない点は注意を要する。 これに対して「科する」は、129条にあるように、違反行為に対する罰金刑をかけるという場合に使われている。 なお、先の「処する」の使用例を、国税犯則取締法で見てみよう。 この場合には、具体的に刑罰の種類が罰金刑と定めているため、「処す」が使われている。しかし、それならば国税通則法129条の文言も、「処す」としても良いようにも思われる。 この点、実は曖昧である。 例えば、刑法においても「刑に処する」という表現で、具体的ではない場合もある(通常は「死刑に処す」というように具体的である)が、刑法158条では、以下のようにある。 この場合などは、「同一の刑に処する」とするのみで、具体的ではない。このように語呂や語感により使用する場合もあるため、先の「具体的か否か」という点は、確定的ではない。 このように多少使い分けに曖昧なところがあるが、前の助詞が「に」の場合には「処す(る)」を、「を」の場合には「科す(る)」を使っている点は明確に使い分けられている。 (了)
減損会計を学ぶ 【第8回】 「減損の兆候の例示③」 ~経営環境の著しい悪化の場合・市場価格の著しい下落の場合~ 公認会計士 阿部 光成 「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損適用指針」という)では、減損の兆候として、経営環境の著しい悪化のケースと市場価格の著しい下落のケースについて例示している。 以下では、上記の減損の兆候を識別する際の留意点を解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 1 経営環境の著しい悪化 「経営環境が著しく悪化した」場合として、次のものが例示されている(減損適用指針14項)。 経営環境の著しい悪化は、個々の企業において大きく異なるため、減損適用指針では、考えられる例示を示すにとどめていると述べられている(減損適用指針88項)。 実務における減損の兆候の識別の際には、これらが例示であることを踏まえて判断する必要があると解される。 連結財務諸表には、減損損失を認識するに至った経緯等を注記することになるが(財務諸表等規則95条の3の2、連結財務諸表規則63条の2)、「原材料価格の高騰」及び「技術の陳腐化」を記載している事例としては、次のものがある。 日本化成(株)(平成22年3月31日) パシフィックシステム(株)(平成22年3月31日) 2 市場価格の著しい下落 (1) 50%程度以上の下落 前述のとおり、資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したことは、減損の兆候に該当する。 もともと、減損の兆候は、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象であって、その程度は必ずしも画一的に数値化できるものではない。 一方で、一定の目安を設けることも実務上の指針として役立つ側面もあることから、減損適用指針では、必要と考えられる範囲において、その目安を示している(減損適用指針77項)。 減損適用指針15項は、「市場価格が著しく下落したこと」には、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当すると規定している。 50%程度以上下落していない場合でも、例えば、処分が予定されている資産で、市場価格の下落により、減損が生じている可能性が高いと見込まれるときのように、状況に応じ個々の企業において判断することが必要なときがあると述べられている(減損適用指針89項)。 (2) 減損の兆候に関する市場価格 「市場価格」とは、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場と考えられる(金融商品会計基準6項)。 しかしながら、固定資産については、市場価格が観察可能な場合は多くない。 このため、例えば、いわゆる実勢価格や査定価格などの評価額や、土地の公示価格や路線価など適切に市場価格を反映していると考えられる指標が容易に入手できる場合には、それらを減損の兆候を把握するための市場価格とみなして使用し、資産又は資産グループの当該価格が著しく下落した場合には、減損の兆候があるものとして扱うことが適当と考えられている(減損適用指針15項、90項)。 そのほかの留意点は次のとおりである。 (了)