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メンタルヘルス不調と労災 【第1回】「メンタルヘルス不調者の増加と企業の責任」

メンタルヘルス不調と労災 【第1回】 「メンタルヘルス不調者の増加と企業の責任」   社会保険労務士 井下 英誉   はじめに これから全5回にわたり、「メンタルヘルス不調と労災」というテーマで、昨今話題になっているメンタルヘルスについて、企業が知っておくべき現状や企業活動への影響を解説し、対策のヒントを紹介する。   1 精神障害による労災申請・認定が増加している!? 図表1は精神障害に係る労災請求・決定件数の年別推移であるが、多少の増減はあるものの、この5年間、請求件数、支給決定件数共に増加の傾向にある。 特に平成24年の支給決定件数は大幅に増加しているが、これは後で解説する「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が定められた影響が大きいと考えられる。 図表1 精神障害に係る労災請求・決定件数の推移   (厚生労働省資料より)   2 なぜ、労災申請・認定は増加しているのか? 労災申請・認定の増加の原因を考えるうえで、まず注目しなければいけないのが、我が国の自殺者の問題である。 我が国は、平成10年から平成23年にかけて、14年連続で年間自殺者が3万人を超えていた。幸いにも平成24年にはその数が2.7万人に減少し、平成25年も微減となっているが、それでも世界的にみて、自殺者が多い国であることに変わりはない。 自殺の原因は様々であるが、1位は健康問題であり、その割合は原因全体の50%程度になる。そして、その多くがうつ病などの精神疾患によるものである。 一方、企業活動に目を移すと労働者は図表2に示されるような問題に日々ストレスを感じながら働いている現状も浮かび上がる。 図表2 仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの有無及び内容別労働者割合   (厚生労働省資料より) このような状況の中、国は平成23年12月26日に、仕事が原因でメンタルヘルス不調になった(精神疾患を発症した)者の労災認定が広く、そして迅速に認められるように基準を見直し、新たに「心理的負荷による精神障害者の労災認定基準」を定めた。 これは労災保険という補償の視点からすれば、前向きな労働者保護と認められるが、内容を見ると企業側のリスク増大(国からの警告)とも受け取れる。 また、司法の場では、メンタルヘルスをめぐる訴訟も増加しており、ハラスメント(いじめ、嫌がらせ)に対する措置やプライベートに起因するメンタルヘルス不調に対する配慮不足が原因で、企業側の過失責任を問われる判例も出てきている。   3 労災認定を受けた企業がどのようなリスクを被るか? 社員から“うつ病”等の精神疾患の診断書が提出された場合、社員から「これは労災では・・・?」の申し出がなければ、私傷病として一定期間の休職を命じ、その期間が満了しても復職できない場合は、退職(または解雇)手続を経て退職(解雇)扱いとしている企業は多いのではないだろうか。 しかしながら、もし、その精神疾患が業務に起因していたら、労働基準法第19条の解雇制限の適用を受け、一方的な退職は原則認められなくなる。つまり、企業は戦力にならない社員を抱え込むことになるのである。 これは、企業経営の観点からするとコスト増を意味する。 また、企業には安全配慮義務(労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」)が課されているため、仕事が原因で精神疾患になった場合、その社員(社員が自殺した場合はその遺族)から安全配慮義務違反に問われ、損害賠償請求訴訟を起こされる可能性もある。 賠償額は事件によって異なるが、業務が起因して精神疾患を患い、自殺した事件の場合は数千万から億単位になることもある。一方、業務が起因して精神疾患を患った場合でも数百万円に及ぶ。 さらに、今後改正が予定されている労働安全衛生法には、「企業単位で安全・健康に対する意識改革を促進する仕組み」の創設が盛り込まれている。 この仕組みの具体的内容は以下の2つであるが、重大な労働災害には精神障害(7級以上)も含まれるため、改正法が施行された場合は、メンタルヘルス対策を怠り、精神障害の労災認定を複数回受けた企業は企業名が公表されることになる。 その結果、国から問題企業として取り扱われるのはもちろんであるが、風評リスクにより、企業間取引や採用等、企業活動に大きな負の影響を及ぼす可能性があることも認識しておきたい。   4 メンタルヘルス対策に対する経営者の意識 上記のような現状やリスクを理解していても、企業のメンタルヘルス対策への意識は低く、取組みが行われていない企業も少なくない。 特に企業規模が小さいほどその傾向は強く、労働安全衛生法における衛生委員会の設置義務や産業医の選任義務がない50人未満の事業所では、「取り組んでいない」割合が非常に高い(図表3)。 図表3 メンタルヘルスケアの取組の有無及び取組内容別事業所割合   (厚生労働省資料より一部抜粋) 「取り組んでいない」中小・零細企業では、対策に要するコストやマンパワーの問題もあると思われるが、その根底にはもう一つ、大きな理由があると筆者は考えている。 それは、メンタルヘルス不調と仕事との因果関係が外傷性の労災(「機械に誤って指を挟んだらで、切断した」等)のように明確ではない(グレーゾーンが存在する)ため、企業の責任にされにくいという意識が働くからだと思われる。 つまり、メンタルヘルス対策に積極的に取り組まない企業は、ストレス耐性には個人差があるため、業務上の負荷よりも業務外のストレスや個体側の要因(性格傾向や既往歴等)が原因で精神障害になることのほうが多いという考えを持っている傾向が強いと言える。 (了)

#No. 67(掲載号)
#井下 英誉
2014/05/01

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第5回】「初の勧告事例」

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第5回】 「初の勧告事例」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳       1 初の勧告事例の公表 平成26年4月23日、公取委は、食料品・衣料品・雑貨等を販売する大規模小売事業者が買いたたきを行ったとして、消費税転嫁対策特別措置法6条1項に基づき、初の勧告を行った。 消費税転嫁対策特別措置法6条2項は、消費税転嫁拒否等の行為について公取委が勧告を行った際には、その事実を公表する旨を定めている。 そのため、上記事案についても、公取委のホームページにおいて、当該大規模小売事業者の社名、違反事実の概要及び勧告の概要が公表され、各報道機関による報道もなされた。   2 上記事例の概要 公取委公表資料によれば、上記勧告事例の概要は、以下のとおりである。 (1) 大規模小売事業者であるX社の仕入価格は、以下の方法により決められていた。 なお、仕入率は、納入業者ごとに一定率に定められており、セール等でも変更はされていなかった。 (2) X社は、平成26年4月以後の消費税率引上げに伴う売上の減少を防止するため、以下の企画を実施することを独自に決定した。 (3) X社は、平成25年11月及び12月、5店舗で販売する商品を継続的に供給するすべての納入業者(161社)に対し、毎月の定例会議において、文書を配布の上、販売促進企画の内容を説明し、参加を要請した。   3 公取委の勧告の概要 公取委が行った勧告の概要は、以下のとおりである。 (1) 差額の返還 X社は、買いたたきに係る差額分に対象商品の販売数量を乗じ、これに仕入率を乗じて算定した額を取引先納入業者に支払うこと。 (2) コンプライアンス体制の整備 X社は、今後、買いたたきを行わないよう、自社の役員・従業員に勧告の内容を周知徹底するとともに、消費税転嫁対策特別措置法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じること。 (3) 納入業者への通知 X社は、前記(1)及び(2)に基づいて採った措置について、取引先納入業者に通知すること。 (4) 公取委への報告 X社は、前記(1)から(3)に基づいて採った措置について、速やかに公取委に報告すること。   4 勧告・公表がなされるに至ったポイント 消費税転嫁拒否等の行為を行った場合にも、必ず勧告・公表の措置がとられるわけではなく、多くの事例は、非公表の指導に止まっている。 それにもかかわらず、本件が勧告・公表に至ってしまったポイントは、以下の点にあると考えられる。 ① 納入業者の費用負担を回避する客観的事情がみられないこと 公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)は、買いたたきに当たらない合理的な理由が認められる場合の例として、特定供給事業者(売手)にも客観的にコスト削減効果が生じており、当事者間の自由な交渉の結果、当該コスト削減効果を対価に反映させる場合を挙げている(公取委ガイドライン第1部、第1、3(3)イ)。 これに対し、本件では、仕入率がセール等の場合であっても一定とされているため、既存商品の税込価格を据え置く場合には、自動的に納入業者の利幅が圧縮されるという構図にあった。 ② 一方的と評価されてもやむを得ない導入経緯であったこと 公取委ガイドラインは、買いたたきに当たらない合理的な理由が認められる上で、「当事者間の自由な交渉の結果」であること、すなわち、当事者間の実質的な意思が合致しており、特定供給事業者(売手)との協議の上に、当該特定供給事業者が納得して合意していることを重視している。 これに対し、X社は、生活応援バザール及びクオリティプライスキャンペーンの内容を、納入業者と相談することなく、独自に決定している。 その上で、X社は、納入業者に対し、毎月の定例会議において、文書の配布の上、販売促進企画の内容を説明し、参加を要請するという手法で販売促進企画を導入したとされている。 公取委公表資料にすべての事情が現れているわけではないが、公表資料を見る限りでは、X社と納入業者との間で十分な協議が行われ、納入業者が納得して合意したとみることは困難なようである。 ③ 買いたたきが広範囲にわたって行われたこと X社は、5つの小売店舗で販売する商品を継続的に供給しているすべての納入業者(161社)に対し、販売促進企画への参加を要請した。 すなわち、買いたたきの対象とされた納入業者の数が多く、必然的に、納入業者に生じた不利益の額も大きかったと思われる。   5 企業が採るべき対応 消費税転嫁拒否等の行為に対して公取委が勧告・公表の措置をとるか否かの基準は公表されておらず、どの程度深刻な違反があれば勧告・公表がなされるのかは明らかでない。 しかし、本件が公表されたことで、勧告・公表に至る事例のおおよその相場観をつかむことができるようになった。 ところで、下請法に関しては、以下の要件をすべて満たす場合について、公取委は勧告を行わない旨が公表されている(公正取引委員会「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」)。 消費税転嫁拒否等の行為については、同様の対応は公表されておらず、企業が自ら違反を申し出た場合にどのような対応がとられるかは明らかでないが、自ら違反を申告して調査に協力したという事実は、少なくとも再発可能性が低いことを示す事情として、当該企業に有利な方向に働くと考えられる。 そこで、本勧告事例に相当するような深刻な違反を発見した企業においては、下請法の上記取扱いにならい、自ら違反を公取委に申し出ることも一案であろう。 (了)

#No. 67(掲載号)
#大東 泰雄、山田 瞳
2014/05/01

会社を成長させる「会計力」 【第9回】「グローバル連結経営の『深化』」

会社を成長させる「会計力」 【第9回】 「グローバル連結経営の『深化』」   島崎 憲明   《Tweedie氏が説いたIFRSの有用性》 少々古い話になるが、2007年11月に東京で「第4回IOSCO(証券監督者国際機構)国際コンファレンス」が開催され、IFRS関連のパネルディスカッションで当時のIASB(国際会計審議会)議長Sir David Tweedieと同席したことがあった。 このパネルディスカッションには、財務諸表の作成者という立場で参加を要請された。 私は後にIFRS財団のトラスティに就任することとなったが、当時はIFRSについて深い知識があったわけではなかった。ただし、日本経団連では資本市場部会長を務めていたこともあり、我が国資本市場の国際競争力の観点から、会計基準の国際化と統一には強い関心があった。 パネルディスカッション本番の前夜、Tweedie氏と会食する機会があり、議長の大好物である“しゃぶしゃぶ”の鍋を囲み、“熱燗”の盃を交わしながらの会計談議に話は尽きなかった。 私からは住友商事の事業概要を説明したが、話が事業のグローバル展開に及ぶと、Tweedie氏は我が意を得たりという顔つきで、このような発言をされた。 翌日のパネルディスカッション冒頭での発言者はIASB議長の同氏であったが、前夜の話を引用しながら、IFRSによる会計基準の国際的統一の必要性を熱く語られたことは記憶に新しい。   《IFRS導入は連結経営を深化させる》 「週刊経営財務」(4月28日号)によると、我が国でのIFRS任意適用会社数は予定も含め39社になり、その中には、三井、三菱、住友、伊藤忠、丸紅、双日の総合商社6社が含まれている。双日を除く5社は米国基準からの変更である。 三井物産はIFRS導入に関する説明会で、IFRS導入の目的として次の2点を挙げている。 ①は、まさにIASB議長が7年前に強調していたことであり、IFRS導入を決めた企業のほとんどが挙げる導入理由だ。②が本稿のテーマでもあるが、IFRSの導入により、グローバル連結経営の質的高度化を図るということである。 連結経営の質的高度化は、総合商社が総合事業会社としてグローバルな事業展開を拡充し加速した2000年代初めから、各社共通の課題であった。住友商事においても、前述のIOSCO国際コンファレンスが開かれた頃であったと思うが、「グローバルな連結経営をいかにして深化させるか」が喫緊の経営課題であった。 当時のグローバルスタンダードである米国会計基準に基づく財務諸表は作成していたが、これを如何にしてグループ経営に生かすかという課題である。 この時期は、住友商事が2000年以降進めてきた経営改革の成果が、B/SやP/Lに顕著に表れ始めた頃でもあった。2000年当時、500億円に届かなかった連結純利益が2,000億円を上回るレベルにまで拡大しており、リスクリターン指標についても、資本コスト(7.5%)を大幅に下回っていたものが、15%を超えつつあった。 利益の規模や資本効率など、数値的目標は着実に達成してきたが、それらを確かなものにして企業グループを持続的成長させるには、経営の質の面でのさらなる改善が必要との認識を持つに至るのである。 同社の「インベスターズ・ガイド2007」によると、中期経営計画2007-2008年度では、「更なる質の向上」と「規模の拡大」をバランス良く追及する戦略にシフトするとし、次のように述べられている。   《連結の浸透に時間を要した日本》 ここで、わが国における連結決算の歴史を簡単に振り返ってみたい。 1977年に連結財務諸表の開示が義務付けられているが、その歴史は比較的新しい。米国や欧州諸国では、子会社がある場合、原則として連結財務諸表の開示が求められ、個別の開示は必要とされない。まずは連結ありきで、個別はその内訳という位置付けなのである。 我が国での連結開示制度が制定される以前に、米欧での資金調達を必要としていた企業は、米国などの会計基準に基づく連結財務諸表の作成と開示が求められた。1961年にソニーが米国でADRを発行し、米国会計基準による連結財務諸表をSECに登録したのが最初であり、翌1962年のホンダへと続く。 現在、我が国において米国基準に基づく連結財務諸表の作成が特例措置で認められているのは、このような経緯が背景にある。 整理してみると、次のようになる。 このように、連結財務諸表の開示が義務付けられてから20年余を経て、連結決算中心の経営管理へ変わってきた。ずいぶんと時間をかけているが、国内的には連結主体の考え方に慎重な意見が根強くあったことも一因のようだ。 1991年になって初めて、連結財務諸表を有価証券報告書の本体に組み入れるが、これを議論した企業会計審議会では時期尚早との意見であったと聞く。 我が国における会計制度の国際化においては、当時も今も、「現状維持」「改革に慎重」という姿勢が根強くあるように思う。私がこの数年取り組んできた「わが国におけるIFRS導入」についても同様の議論が繰り返されている(IFRSについては後の機会で取り上げたい)。   《何をもって『深化』と呼ぶか》 「連結経営の質を高める(深化する)」とは、具体的にはどういうことなのであろうか? 第一には、連結ベースで経営資源の最適配分を図り、連結グループでの持続的成長を目指すということである。 それを適切に進めるためには、連結グループ共通の評価尺度を定めること、つまり、連結グループとして全体最適な評価方法を策定することが必要だ。 評価の対象となる数値は財務諸表に基づくことになるが、財務諸表作成の会計基準がグループ内で統一されているのが好ましいのは当然である。業績評価の結果が個々人の考課に影響してくる場合には、公平性の観点からもグループ内の会計基準が同一の方がよい。 第二には、「親会社単体+子会社群=連結経営」という足し算の時代から、親会社・子会社をより高いレベルで一体と捉え、グループを運営していくということである。 これが『深化』の意味するところであり、グループとしての企業文化・価値観の共有など、マインド面での連結経営がどこまでできているか、また十分かということである。 住友商事ではグループ経営の質的向上について、戦略性、成長性、経営管理、役職員の活用という4つの定性要件を定め、新たな子会社の設立や買収に際しては、これらの要件を満たしていることをハードルとしたことがあった。 つまり、次のような点がグループ内で達成されているかということだ。 親会社と子会社はグループ共通の経営理念の下で戦略を共有し、一体感を醸成し、リスクマネジメントやインターナル・コントロールなどの管理レベルを同質化することが必要である。 つまり、リーガル・コンプライアンスも含めた子会社における管理のレベルを親会社と同レベルまで引き上げるということである。 人材活用の面では、子会社の役職員が生き生きとして働き、仕事を通して「自らの豊かさと夢を実現できているか」ということである。親会社の下請的業務がもっぱらで、子会社で働く人たちの士気が上がらないということでは、連結経営の質を高めることはできない。 連結経営を深化させる場合に、親会社を中心としたグループとしての成長戦略やリスクマネジメントなどの経営管理を各子会社にまで徹底させる「求心力」と、子会社の経営は子会社の自主管理に任せ、自己責任を求めるグループ経営の「遠心力」とのバランスをどうとるのかが極めて重要である。 企業のグローバル化と事業多角化の進展により、連結グループにおける子会社や関連会社の定量、定性両面での重要度はますます高まっている。また、連結業績の過半がそれらの会社群から成る企業も増えつつある。 この流れは今後も加速すると予想され、親会社・子会社を一体とした連結経営の深化はこれまで以上に求められる経営課題なのである。 (了)

#No. 67(掲載号)
#島崎 憲明
2014/05/01

私が出会った[相続]のお話 【第5回】「相続財産を隠そうとするクライアントへの説得」~税理士の品位と矜持が試される2つの事例~

私が出会った[相続]のお話 【第5回】 「相続財産を隠そうとするクライアントへの説得」 ~税理士の品位と矜持が試される2つの事例~   財務コンサルタント 木山 順三   説得に成功したNさんのケース 〔相続前の状況〕 Nさんのご主人は山林業を営み、以前から妻・子供・孫たちに手持ちの山林の一部を贈与していました(贈与税の申告済み)。 その結果、木材売却等による所得が生じ、今や本人の保有金融資産額(2億円強)よりも家族の方が多くなりました(妻・子供・孫の合計保有金融資産額9億円強)。 そんな時、ご主人の相続が発生したのです。 私の頭の中に、当家の相続対応の課題が浮かびました。 これらのことを頭に入れながら。当家の相続手続のお世話をすることになりました。 〔配偶者の言い分〕 まずは相続人の相続財産確定のため、自宅の保管金庫内の現物チェックに入りました。 数冊の銀行預金通帳や株券(当時はまだ現物で持っておられる方が多かった)などが出てきましたが、そのうち割引債券を入れた袋が見つかりました。 中身を見ますと・・・なんと6,000万円もあるではないですか。 すると隣にいた夫人が、 「これはダメ! 主人が『絶対に税務署にわからないようにしてあるから、万一私が亡くなっても相続財産に入れるな!』と言っていたので、主人の遺言だから財産には入れません!」 と言って、あわててその袋を取り上げてしまわれました。 私は 「見つかれば過少申告加算税、延滞税、悪意とみなされれば重加算税、さらには配偶者に対する税額軽減の優遇も受けられなくなり、結果として多大なる税の負担を強いられることになりますよ」 と申し上げ、さらに 「脱税と分かっていてお手伝いするわけにはまいりません。お子様たちと相談の上、正しい手続をなさるのであれば、改めてご依頼ください」 と言って突き放しました。 それから数日後。夫人が長男と共に来店されました。 手には割引債券の入った袋があり、6,000万円の割引債のはずが1億2,000万円に増えていました。 どうやら他からも見つかったようです(危ない、危ない・・・)。 私は 「もう本当にこれ以外にないですね? 究極の節税策は、すべてオープンにすることです。特に当家の場合は必ず調査があるのですから」 と念を押しました。 〔税務調査対策を指導〕 幸いにして、こちらのアドバイスを聞いていただき、正しい申告を行いました。 残るは1~2年後の税務調査対応のみです。 すなわち、家族への正しい贈与申告であっても仮装行為の指摘を受けないように、念のため相続人への税務調査時までに、彼らに自己の資産の自覚と認識を醸成するための指導と教育を行いました。 〔やっぱり査察が〕 それから2年後。やっぱり来ました。 局の査察が30人態勢で、信託銀行、債券発行銀行、信用金庫、相続人宅へ。 私はリーダーの調査官につきっきりで当家の説明を行いました。その間にも他の銀行から別の調査官からの連絡が入ってきました。 リーダー調査官曰く 「ふん、ふん、合っているな。他にもないな」 そうして丸3日間の調査が終わりました。 どうやら子供たちもうまく対応したみたいです。 〔把握されていた割引債〕 後日聞いたところによりますと、あれだけ故人が割引債について「絶対にわからないようにしているから出すな!」と言っていたにもかかわらず、数度その割引債の償還時に、本人が直接自宅近くの信用金庫宛てに振込みしていた経緯があった模様です。 したがって割引債の取引があることは、税務当局としては事前に把握していたのです。 「正しく申告していて良かった。木山さんの言う通りで助かりました!」 Nさんより心からのお礼の言葉をいただきました。   説得に失敗したKさんのケース 〔相続前の状況〕 Kさんのご主人は、一部上場企業の役員として経営に注力されていました。 それだけに資産運用・管理は、もっぱら妻のKさんが仕切っておられました。 もともとKさんは株式の運用知識が豊富で、証券会社の担当者が教えを乞うほどでした。したがって保有金資産に占める割合も株式が多く、保有額も20億円余りとなっていました。 そんな時、Kさんのご主人の相続が発生したのです。 〔配偶者の言い分〕 ちょうどKさんのご主人が亡くなられたのは、前述のNさんの税務調査が終わって間もないときでした。したがってNさんの事例を踏まえ、Kさんにも正しい申告の指導と説得を行いました。 なぜならKさんは、常日頃から納税に対してやや否定的な考え方だったからです(亡くなられたご主人は様々な役職に就いておられ、税務行政に対し協力的な方だったのですが・・・)。 特にKさんのご友人が、かなり前、夫の相続の際に郵便貯金を隠して成功(?)したことがあったようで、「木山さんは“税務署のまわし者”だと友達が言っているよ」と言われました。 それでもなんとか説得して、郵便貯金も相続財産に算入し、無事申告が終わりました。 〔あれだけ言ってたのに・・・〕 それから約2年後。税理士さんから税務調査の立ち合いの連絡が入りました。 当時は税理士と共に実務を携わった私も同席することが了承されました。 本来は局ベースの調査と思っていたのですが、本件は所轄税務署での調査でした。 すると、税務署の調査官はこう言いました。 「Kさん、我々も亡くなられたご主人の税務行政に対するご支援に対し、極力紳士的に対応してきたつもりです。それでもご協力いただけないのなら、徹底的に調査しますがよろしいですか?」 それを聞いたKさんは、やおら席を立ち、娘さんに電話。 「そこにある通帳、持ってきて・・・」 しばらくして駆けつけた娘さんの手には、かなりの数の郵便局の通帳がありました。 税務署「最初からご協力いただければよかったのです。これで結構です」 税理士&木山「あれだけ郵便局は隠せないと言っていたのに。全部出したと言っておられたのではないですか!」 Kさん「だって、友達が大丈夫と言ったから・・・」 〔その結果・・・〕 後日修正申告の上、税務署から多額の追徴が科せられました。 日頃大変お元気なKさんも、さすがにしばらくの間、体調を崩されていました。 Kさんの事例で学んだ反省点と教訓は、以下のとおりです。 (了)  

#No. 67(掲載号)
#木山 順三
2014/05/01

《速報解説》 財産評価基本通達の一部改正について~純資産価額方式における法人税額等相当額は40%に~

 《速報解説》 財産評価基本通達の一部改正について ~純資産価額方式における法人税額等相当額は40%に~   弁護士 木村 浩之   1 はじめに 平成26年度税制改正に伴う通達改正の一環として、平成26年4月2日付けで、財産評価基本通達の一部改正がなされている(4/18に国税庁ホームページにて公表)。 平成26年度税制改正においては、復興特別法人税(法人税額に対する10%の付加税)が前倒しで廃止され【法律改正①】、さらに地方法人税が創設されるとともに地方税の税率が改正された【法律改正②】。 今回の通達改正は、これらの税制改正に伴い、取引相場のない株式等の財産評価として用いる純資産価額方式における「評価差額に対する法人税額等」の計算割合を42%から40%に改正したものである。 なお、この改正に併せて、取引相場のない株式等の評価明細書の様式等についても改正がなされているので、こちらも参照されたい。   2 純資産価額方式について 純資産価額方式は、相続税及び贈与税の税額計算に当たって、取引相場のない株式等の評価をする際に用いられる評価方式であるが、これは相続又は贈与によって株式等の取得がなされた日に対象会社が清算したと仮定した場合に、株主等に分配される正味財産の価額をもって、その評価額とみる評価方法である。 この「正味財産の価額」については、相続税評価額としての総資産額から総負債額を控除して純資産価額を算出した上で、その価額と帳簿上の純資産価額との差額(評価差額)を資産の含み益とみて、その含み益に対する法人税額等に相当する額を控除して算出することになる。 ここでの「法人税額等相当額」は、対象会社が清算の際に総資産を譲渡して含み益を実現させた場合に課せられることになる法人税額等に相当する額であり、正確に計算することは困難であることから、今回の改正前の通達では、その計算割合を便宜的に42%とすることが定められていた。   3 通達改正の概要 今回の通達改正では、まず、復興特別法人税の廃止【法律改正①】に伴い、平成26年4月1日以降、法人税額等の範囲から復興特別法人税が除かれることが明らかにされ、併せて、その計算割合を42%から40%に改正することが明らかにされている〔通達改正①〕。 また、地方法人税の創設【法律改正②】に伴い、平成26年10月1日以降、法人税額等の範囲に地方法人税が含まれることが明らかにされたが、これに対応して地方税率の引下げがなされたことにより、全体としての税額等が同じになるため、計算割合そのものは40%から変更がないことが明らかにされている〔通達改正②〕。   4 適用時期 以上の通達改正については、それぞれ適用時期が異なる(通達改正①:平成26年4月1日以降、通達改正②:平成26年10月1日以降)ものの、ここでは、評価差額に対する法人税額等の計算割合につき、平成26年4月1日以降、一律に40%が適用されるという点に留意しておけば十分であるといえる。 (了)

#No. 67(掲載号)
#木村 浩之
2014/05/01

7/12(土)開催:笹岡宏保氏セミナー【改正で大幅に見直された『小規模宅地等の課税特例』を検証する!!】お申込み受付開始

TAC八重洲校にて7月12日(土)開催。 税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 今回は、皆様からご要望の多かった「小規模宅地等の課税特例」をテーマに、課税特例の基本的な内容を確認するとともに、税法改正項目の確認とその実務的な影響、そして誤りやすい事例の検証まで、実務に必要なこの規定に関する知識を包括的に網羅、確認します。

#Profession Journal 編集部
2014/04/28

Profession Journal No.66が公開されました!~お薦め記事のご紹介~

2014年4月24日(木)AM10:30、Profession Journal  No.66 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。

#Profession Journal 編集部
2014/04/24

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例13(消費税)】 「特定目的会社の消費税選択につき「課税期間特例選択届出書」及び「簡易課税制度選択届出書」の提出を失念した事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例13(消費税)】   税理士 齋藤 和助   《事例の概要》 依頼者は不動産の証券化における特定目的会社であり、不動産を購入して投資家に分配金を支払う業務のみを行うものである。 税理士は、依頼者の設立から関与し、不動産購入に係る消費税の還付を受けるべく課税事業者を選択した。特定目的会社の場合、不動産購入後は不動産収入に対して課税仕入れがほとんどないことから、簡易課税が有利となる。 税理士は対象不動産購入後、「課税期間特例選択届出書」で課税期間を区切り、「簡易課税制度選択届出書」を提出して簡易課税を選択すべきところ、これを失念してしまった。 これにより、有利な簡易課税と不利な原則課税との差額2,100万円につき損害が発生し、賠償請求を受けた。   《賠償請求の経緯》 税理士は複数の特定目的会社の顧問税理士を兼任していた。 特定目的会社の消費税は設立時、対象不動産購入時、配当時によって有利選択が異なり、それぞれに期限があることから、たまたま本事例の会社の届出書の提出を失念してしまった。   《基礎知識》 ◆簡易課税制度(消法37) 基準期間における課税売上高が5,000万円以下である課税期間について「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、翌課税期間から簡易課税の適用がある。 簡易課税には2年間の継続適用要件がある。 ◆課税期間の特例選択(消法19②) 「課税期間特例選択届出書」の効力は、その提出日の属する課税期間の翌課税期間から適用される。したがって、本事例の場合には、「課税期間特例選択届出書」で課税期間を区切り、「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、原則課税の期間を短くすることができる。 課税期間の特例選択には2年間の継続適用要件がある。 ◆特定目的会社の消費税選択 特定目的会社の消費税選択は、以下のスキームで行われるのが一般的である。   《税理士の落とし穴》   《税理士の責任》 税理士は不動産購入後、「課税期間特例選択届出書」で課税期間を区切り、「簡易課税制度選択届出書」を提出すべきところこれを失念してしまい、申告時点で自らこれに気づいている。 不動産購入後に各届出書を提出していれば、原則課税の期間を短縮し、簡易課税を選択できたことから、税理士に責任がある。   《予防策》 [ポイント①] 時系列で管理 特定目的会社の消費税選択は設立時、対象不動産購入時、配当時によって有利選択が異なり、それぞれに期限があることから、複数の特定目的会社に関与している場合には、会社ごとに時系列で管理する。   [ポイント②] チェック体制の構築 特定目的会社の消費税選択は、対象不動産の金額が高額であり、届出書の提出失念が多額の損害賠償請求につながることから、チームを組む等複数人で担当し、所内でのチェック体制を構築することが必要である。   [ポイント③] 税賠保険の加入契約タイプの見直し どんなに気をつけて業務を行っていても、ミスは起こるものである。したがって、特定目的会社の税務業務を請け負う場合には、消費税選択ミスによる損害賠償請求に備え、より保障額の大きなタイプの税賠保険への加入見直しも必要である。   (了)

#No. 66(掲載号)
#齋藤 和助
2014/04/24

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載59〕 ヤフー事件(東京地裁判決)からみた買収後の合併により被合併法人の欠損金を引き継ぐ場合の「みなし共同事業要件」に関する考察

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載59〕 ヤフー事件(東京地裁判決)からみた 買収後の合併により被合併法人の欠損金を引き継ぐ場合の 「みなし共同事業要件」に関する考察   税理士 竹内 陽一   はじめに ヤフー事件の判決が平成26年3月18日に東京地裁で出された。 この判決文がTAINSデータベースに収録されたことから、以下、この判決文によりその概要をまとめ、欠損金のある法人の買収事案のうち、特定役員引継要件によって「みなし共同事業要件」をクリアしようとする場合の注意点について述べたい。 なお本件の教訓としては、欠損金のある法人の合併による買収事案においては、欠損金を引き継ぐために、買収による支配関係成立前に、規模要件や特定役員引継要件を満たすか否かを判断し、速やかに合併するか、あるいは、支配関係発生から5年超経過要件を満たしてから合併をするか、という2つの選択肢しかない、と言っても過言ではない。   1 事件の概要 判決文では、原告を「A株式会社」、その株式の42%を保有している法人を「B社」としているが、これらは既知であるため、本稿では、「B社」をソフトバンク=S社とし、「A株式会社」をヤフー日本法人=Y社と表示する。 そして、被合併法人は「C社」、C社の非適格分割によって設立された法人を「F社」と表示する。また、S社社長兼Y社会長を乙、S社取締役兼Y社社長を丙と表示する。 ヤフー事件においては、買収及び合併の直前に丙が被合併法人となるC社の副社長に就任した後に合併を行い、特定役員引継要件を充足したものとして、合併によりC社の繰越欠損金543億円(平成14年3月期から平成18年3月期まで)をY社に引き継いだことが問題とされた。   2 事件の事実関係 平成20年10月27日に、乙から丙に対し、S社の100%子会社であるC社をY社の100%子会社とする提案があり、同年11月21日には、この提案に沿う組織再編成計画書が作成されていた。 同計画書によると、その手順は、下記4段階で構成されていた。 以上のうちF社の件については、同日判決のIDCS事件の判決文に記載されているはずであるが、本稿執筆時点において、この判決文は確認できていない。 C社の繰越欠損金は、平成15年3月期から平成18年3月期までで、合計543億円である。 仮に、5年超経過要件を充足させて合併を行うということになれば、平成21年3月期が特定資本関係発生事業年度であるため、平成18年3月期以前の繰越欠損金はすべて控除できないこととなり、上記の543億円は、その全額が控除できないことになる。 Y社は、3月決算法人である。 実際には、本件合併は次のように行われている。 C社は、F社の分割まではデータセンター事業を行っていた。C社の代表取締役は乙であり、平成20年3月末のC社の従業員数は123名(ヤフー社IR情報平成21年2月19日)であったが、従業員は上記②の分割と同時にF社に出向した。   3 本件の争点に関する裁判所の判断 本件の争点のうち次に掲げるものについて、裁判所がどのように判断を下したのかを確認する。 (1) 合併法人の社長による被合併法人の副社長就任 本件裁判の焦点は、みなし共同事業要件を満たすために、買収直前に買収法人の社長が被合併法人の副社長に就任したというケースに対して、法人税法132条の2の規定を適用できるのか、という点にある。 (2) 132条(同族会社等の行為又は計算の否認)と132条の2の相違点 本件裁判のもう一つの焦点は、132条の2と132条には解釈の同一性があるのか否かということであり、原告側の鑑定意見書は、いずれも同一性があると主張した。 つまり、租税回避防止規定として従来から存在する同族会社等の行為又は計算の否認の規定と同様の解釈を求めた。 これに対して、裁判所の判断は、事業上の理由や事業目的がない事案に適用されることが多い132条とは違って、事業上の理由や事業目的があって行った組織再編成であっても、個別規定の趣旨・目的に明らかに反する状態となっているものには、132条の2の規定が適用される、ということを示した。 なお、法人税法132条の2については、下記の解説がある。 (大蔵財務協会『平成13年版改正税法のすべて』243・244頁) ここでは、個別の租税回避防止規定で否認されなかったものも含めて、租税回避となるものを否認するために132条の2を創設したことが明らかにされている。 (3) みなし共同事業要件における特定役員引継要件の趣旨 この法人税法施行令112条7項のみなし共同事業要件については、従来、同令4条の3第4項の適格判定の共同事業要件と同じものという程度の表面的な理解しかされていなかった。 一般には、事業規模要件については、特定資本関係発生時から合併までの期間において2倍以内の変化がないという要件と理解され、特定役員引継要件については、特定資本関係発生日前から特定役員であることを求める要件と理解されていたものの、これらの2つの要件を比較して特定役員引継要件の趣旨を深く理解するといったことまでは行われていなかった。 本件判決のように、特定資本関係の発生の前後の特定役員をどのように捉えて特定役員引継要件が設けられているのかということを深く考えるといったことは行われてこなかったと言ってよい。 本件判決により、適格判定の共同事業要件とは別に、繰越欠損金の引継ぎ要件であるみなし共同事業要件を厳しい基準として捉え、特に、特定資本関係(現在の支配関係)の発生の前後の状態に十分に注意しなければならない、ということが明確になった。 重要な点は、下記図の通り、特定資本関係発生の直前期以前の繰越欠損金を引き継ぐことから、特定資本関係発生の直前の期間における特定役員要件の充足が鋭く問われるということである。 法人税法施行令112条7項については、次の解説がある。 (大蔵財務協会『平成13年版 改正税法のすべて』199頁) 上記の解説においては、合併直前ではなく、特定資本関係発生時の要件が重要であることが端的に述べられている。 〈合併の場合の「共同事業要件」における検討期間の概要図〉 〈合併の場合の「みなし共同事業要件」における検討期間の概要図〉 (平成26年4月4日 日本税制研究所・一般社団法人FIC共催セミナー「組織再編成と行為計算否認」日本税制研究所代表理事 朝長英樹作成のレジュメ 論点7(副社長就任が租税回避行為となるのか否かの判断基準p8より引用) (4) 特定役員引継要件において考慮されるべき具体的事情 以上のように、特定資本関係発生以前の時期におけるその役員の任期、その職務内容が問われることとなる。 つまり、特定役員要件については、特定資本関係発生前の期間、特定資本関係から合併までの期間、合併以後の期間の3つの期間において、過去の事業の状態の継続性を考える必要があり、特定資本関係発生前の期間の事業の状態が継続することが求められているわけである。 繰越欠損金の引継ぎの制限があるのは、特定資本関係発生前の事業年度の欠損金であり、特定資本関係発生事業年度から最後事業年度までの欠損金は適格要件を満たすことのみで引き継がせることから、本来は、当然にそのように理解する必要があったのである。 なお、本件においては、適格要件を満たすことのみで繰越欠損金の引継ぎが可能な特定資本関係発生後の事業年度が1期だけあるが、その事業年度においては、欠損金が生じていない。 (5) 本件事案での特定役員引継要件の事情 本件の場合、C社副社長の業務は、特定資本関係発生前において、被合併法人に固有の事業であるデータセンター事業に関与したとは認められないということと、関与した職務が特定資本関係発生以後合併までの期間における本件スキ-ムに係る職務であり、後者は、特定役員引継要件からいえば、特段、考慮される事情ではない、とされている。 すなわち、第1に、特定資本関係発生以前に、特定役員として被合併法人において経営に従事していた事実はなく、第2に、法人税法施行令112条7項5号の要件を満たすためにのみ特定役員への就任時期が買収直前とされていること、第3に、特定役員の在任期間について、特段、3年というような要件はないが、同号の要件を満たすことが目的で不自然に短期となっていること、この3点により、租税回避とされているわけである。 なお、特定役員の在任期間が短期間である場合の問題点については、分割の例で、次のように指摘されていたが、当然、合併においても、同様となる。 (大蔵省主税局税制第一課(法人税制企画室)課長補佐 朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』(社団法人日本租税研究協会発行)90頁 平成13年8月10日) (了)

#No. 66(掲載号)
#竹内 陽一
2014/04/24

貸倒損失における税務上の取扱い 【第16回】「判例分析②」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第16回】 「判例分析②」   公認会計士 佐藤 信祐   第15回目においては、日本興業銀行事件に係る第1審における当事者の主張についてそれぞれ解説を行った。 本稿においては、これに対する裁判所の判断について解説を行うこととする。 ③ 裁判所の判断 (ⅰ) 争点の整理 (ⅱ) 本件債権を全額回収不能と評価することの可否(争点1) (ⅲ) 本件債権放棄と損金算入の当否(争点2) (ⅳ) 総括 このように、争点1については、法人税基本通達9-6-2に近い考え方により判断し、争点2については、「債権放棄の有無にかかわらず、その全額を損金に算入できるものというべきであるから、争点2についてはもはや判断を示す必要はない」としながらも、法人税基本通達9-4-1に近い考え方により判断していると考えられる。なお、法人税基本通達9-4-1の根拠については、法人税法37条7項括弧書により寄附金から除外するのではなく、経済合理性があるという理由により、「無償による経済的利益の供与」に該当しないとしているのも注目に値する点である。 なお、争点1については法人税基本通達9-6-2に近い考え方により判断しているものの、債権放棄の効力が生じており、かつ、全額回収不能であるということであれば、法人税基本通達9-6-1(4)で判断する余地もあるため、全額回収不能ということが立証されれば、債権放棄の効力が生じていれば法人税基本通達9-6-1(4)、債権放棄の効力が生じていなければ法人税基本通達9-6-2で判断すると整理することになるのかもしれない。また、全額回収不能と評価し得ない前提で争点2の検討をしていることから、争点2のみで判断するとなれば、法人税基本通達9-4-1で判断するという整理になるのかもしれない。このような法人税基本通達の当てはめについては判決文においてはほとんど触れられていない。法人税基本通達は解釈に過ぎず、法令ではないことから、判決文ではほとんど触れられていなかったことについてはやむを得ないが、税務実務の現場感覚と、税務訴訟における感覚との差異という点で興味深い判決文であるとも言える。 また、第1審における裁判官の中に藤山雅行氏が含まれていたことについても注目に値する点である。藤山雅行氏は納税者に有利な判決を下すことが多く、東京地方裁判所民事第三部に所属されていたことから、「国破れて三部あり」と揶揄されることもあったが、判決文における理論構成は、オウブンシャホールディングス事件(東京地裁平成13年11月9日判決)、日本スリーエス事件(東京高裁平成12年11月30日判決)にあるように、一考に値するものであり、とりわけ日本スリーエス事件では納税者が敗訴しているように、必ずしも納税者に有利な判決を下しているわけでもないことが分かる。 次回以降は、控訴審判決、上告審判決についてそれぞれ触れた上で、さらなる詳細な分析を行う予定である。 (了)

#No. 66(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/04/24
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