経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第43回】 過年度遡及会計③ 「会計上の見積りの変更」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 耐用年数の変更 (*1) 期首帳簿価額750,000÷(変更後の耐用年数30年-取得後経過年数10年)=37,500 ② 減価償却方法の変更 (*2) 期首帳簿価額112,500÷(変更前の耐用年数8年-取得後経過年数2年)=18,750 〈会計処理の解説〉 「会計上の見積り」とは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいいます(過年度遡及会計基準4(3))。 「会計上の見積り」の代表的なものは引当金です。例えば、貸倒引当金は、債権の貸倒見積高を引当金として計上するものですが、その金額を算定するに当たっては、債務者の財政状態、担保提供を受けている資産の処分価値等を総合的に評価して判断しなければなりません。会計上の見積りには、その時々に応じて予測や判断が必要となります。 本事例における耐用年数も同じです。耐用年数は固定資産の減価償却計算の基礎となるものですが、その決定に当たっては、対象となる資産の構造、使用環境、技術革新、経済事情等を勘案する必要があります。 会計上の見積りを変更したときは、当該変更による影響を過去に遡って反映させず、当期及び将来の期間にその影響を反映させます。 これは、会計上の見積りは、あくまでその時々に応じた予測や判断に基づくものであるため、それを過去に遡って修正するべきものではないと考えられているためです。 本事例のように耐用年数を変更した場合には、変更後の耐用年数で償却が完了するように償却計算を行います(①の仕訳)。 こうすることで、結果的に耐用年数の変更による影響が、当期及び将来の期間に反映されることとなります。 【耐用年数を変更した場合の減価償却のイメージ】 一方、減価償却方法の変更は、「会計上の見積りの変更と区別することが困難なもの」と取り扱われます。 日本の会計基準は、減価償却方法を「会計方針」と位置付けています。したがって、減価償却方法を変更した場合、本来であれば「会計方針の変更」として、当該変更による影響を過去に遡って反映させる必要があります。 しかし、減価償却方法は、当該資産がどのように消費されるか(どのように価値が減少していくか)という将来の予測に基づいて決定されるものです。したがって、「将来の予測」に基づいて決定されるという点に着目すれば、減価償却方法は「会計上の見積り」と捉えることも可能です。 そこで、過年度遡及会計基準では、減価償却方法をこれまでどおり会計方針として位置付け、減価償却方法の変更は、会計方針の変更とするものの、会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当するものと整理しました。 結果、減価償却方法の変更は、会計方針の変更ではあるものの、過去の財務諸表に遡及適用はせず、会計上の見積りの変更と同様に、当期及び将来の期間にその影響を反映させることとされました。 本事例のように減価償却方法を変更した場合には、変更時点の帳簿価額を基礎として、変更後の減価償却方法で償却計算を行います(②の仕訳)。 こうすることで、結果的に減価償却方法の変更による影響が、当期及び将来の期間に反映されることとなります。 【減価償却方法を変更(定率法から定額法)した場合の減価償却のイメージ】 これらをまとめると、以下のように整理されます。 * * * 次回は、過去の誤謬の訂正について解説します。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第5回:2014年5月改訂】 退職給付会計② 「退職一時金制度」─ 数理計算上の差異 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (個別財務諸表上の会計処理) (仕訳なし) (連結財務諸表上の会計処理) (*1) 前提条件②6,000-前提条件①5,400=数理計算上の差異600 〈会計処理の解説〉 退職給付債務の算定の際には、見積数値が用いられます。そして、見積数値と実際数値には、差異が生じます。この差異が、数理計算上の差異です。具体的には、数理計算上の差異は、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により生じます。 また、本事例では、年金資産は積み立てられていませんが、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果の差異によっても、数理計算上の差異が生じます(退職給付に関する会計基準第11項)。 なお、数理計算上の差異のうち、費用処理されていないものを「未認識数理計算上の差異」といいます。 本事例では、退職給付費用の計上及び退職金の支払いの結果、期末の退職給付債務は5,400となっています。これが、期末時点の「予測」の退職給付債務となります。一方、「実際」の退職給付債務は6,000となっています。したがって、数理計算上の差異は600となります。 そして、数理計算上の差異は、個別財務諸表上は発生しただけでは負債を構成せず、費用処理をして初めて退職給付引当金として負債を構成しますが、連結財務諸表上は発生した期に退職給付に係る負債として負債を構成し、税効果会計を適用しない場合、その同額が退職給付に係る調整累計額として純資産の部に計上されます。 費用処理は、数理計算上の差異が発生した期の翌期(又は発生した期)から定額法(又は定率法)により、従業員の平均残存勤務期間以内で行います(退職給付に関する会計基準第24項)。 本事例では当期末の未認識数理計算上の差異は600となり、当期に発生した数理計算上の差異は、個別財務諸表上は当期末の貸借対照表には計上されませんが、連結財務諸表上は退職給付に係る負債として当期末の貸借対照表に計上されます。 なお、本事例において、平均残存勤務期間の15年、定額法で費用処理するため、翌期の会計処理は以下のようになります。 (個別財務諸表上の会計処理) (*2) 600÷15年=40 (連結財務諸表上の会計処理) (*3) 600÷15年=40。連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異は発生時に貸借対照表に計上されているため、費用処理の影響額は、退職給付に係る調整額で調整する。 (了)
メンタルヘルス不調と労災 【第3回】 「業務上の出来事と心理的負荷の関係」 社会保険労務士 井下 英誉 はじめに 前回は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日付基発1226第1号)」における労災認定要件を確認しながら、各要件の具体的解釈や労働基準監督署の実務上の取扱いについて解説した。 今回は、認定要件②「業務による心理的負荷」の強度の評価方法について解説し、評価の結果、労災の対象となり得る出来事にはどのようなものがあるのかについても触れたい。 1 業務による心理的負荷の評価指標 業務による心理的負荷の評価は「業務による心理的負荷評価表」(以下、「評価表」という)を指標として行う。 なお、書面の都合上、本文では評価表の一部のみを取り上げる。読者の皆様は必要に応じ全文を参考にして、理解を深めていただきたい。 〈業務による心理的負荷評価表(一部抜粋)〉 2 業務による心理的負荷の評価方法 心理的負荷の評価は、発病前おおむね6ヶ月の間にあった具体的出来事の内容により、以下の3つの方法のいずれかを用いて行う。 ① 「特別な出来事」に該当する出来事がある場合の評価方法 発病前おおむね6ヶ月の間に、「特別な出来事」に該当する業務による出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」と判断する。 ② 「特別な出来事」に該当する出来事がない場合の評価方法 「特別な出来事」に該当する出来事がない場合は、以下の手順により心理的負荷の総合評価を行い、「強」、「中」、又は「弱」に評価する。 ③ 出来事が複数ある場合の評価方法 対象疾病の発病に関与する業務による出来事が複数ある場合の心理的負荷の程度は、次のように全体的に評価する。 ④ 恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価 出来事に対処するために生じた長時間労働は、心身の疲労を増加させ、ストレス対応能力を低下させる要因となることや、長時間労働が続く中で発生した出来事の心理的負荷はより強くなることから、出来事自体の心理的負荷と恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)を関連させて総合評価を行う。 3 心理的負荷の評価が「強」になる出来事 「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、心理的負荷の評価が「強」であり、他の要件も満たした場合、労災と認定される。 では、心理的負荷が「強」と評価される出来事にはどのようなものがあるのか。 ここでは3つに分けて紹介する。 ① 「特別な出来事」に該当する出来事 心理的負荷評価表では次表に挙げる「出来事を特別な出来事」として定め、これらの出来事に該当した場合は、心理的負荷を「強」と評価する。 ② 心理的負荷の評価が「強」となる出来事 心理的負荷評価表では、出来事を全36項目に分類している。 その中で、具体的な出来事の心理的負荷を「強」と評価している項目は次表の5項目である。 なお、表中1と3については、上記①の特別な出来事の中に明示されている項目である。 ※左列の番号は心理的負荷評価表の項目番号(全36項目) ③ 複数の出来事又は出来事と恒常的な長時間労働を総合評価すると「強」になる場合 1つの出来事に対する心理的負荷の評価が「強」にならない場合でも、複数の出来事やその前後の時間外労働との関連で評価が「強」になる場合がある。 次表は、評価に用いる具体的な考え方である。 (了)
リゾート会員権をめぐる法律問題とトラブル事例 【第1回】 「権利関係による代表的類型と複数の関連法規」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 リゾート会員権とは何か? (1) 会員権市場の活況 アベノミクスによる脱デフレ・景気回復の兆しが見えてきたことの影響もあり、バブル経済崩壊以来、長年にわたり低調に推移してきた会員権市場が再び賑わいを見せつつある。 「会員権」というとき、「ゴルフ会員権」はその内容や権利関係について比較的イメージが湧きやすいが、「リゾート会員権」は漠然としたイメージしか持てず、具体的な権利関係や法律上の処理については曖昧な理解しか有していない場合が多い。 そこで本連載では、リゾート会員権をめぐる法律関係やトラブルにつき整理・解説したい。 (2) 単行法規が存在しない権利 リゾート会員権とは、保養地・観光地における宿泊施設やレジャー・スポーツ施設等の利用を目的とした会員契約を締結することで発生する施設利用上の権利をいう。 リゾート会員権の法的位置づけや権利の内容等については、「この法律によって具体的な権利関係が明確に定められている」というような単行法規が存在しない。 このことがリゾート会員権をめぐる法律関係を複雑にし、理解を困難としている根本的な原因である。出発点として、この点を念頭に置く必要がある。 2 リゾート会員権をめぐる権利関係の代表的類型 リゾートクラブと会員との結合形態や会員が有する権利の内容等については、個々の案件ごとの契約内容により定まるものである。そのため、契約内容によって様々な種類が存在する。 このうち代表的な類型は、以下の3つである。 (1) 会員自身がリゾート施設を所有するタイプ【持分共有型】 この形態のクラブでは、会員は、ホテル等の施設(不動産)の所有権を共有持分にて所有し、共有者である他の会員との間の利用調整を会員契約により定めるという形態をとる。 この形態では、施設全体の所有権を共有で取得する場合と、分譲マンションのように特定の区分所有建物だけを共有する場合がある。 会員権を取得したのちは、施設維持のための各種費用(固定資産税等の税金、施設維持のための管理費用、補修費用等)を毎年負担する必要がある。加えて、定期的な会費の支払いも必要となる。 そして、この形態の会員権が譲渡される場合には、施設の共有持分に加え、共有者との間で調整されることを前提とした施設利用権とが一体として売買されることになる。 (2) クラブからリゾート施設を借りて利用するタイプ【利用権設定型】 この形態のクラブでは、会員は、クラブないし運営会社が所有権を有する施設につき、クラブから施設を優先的に利用できる権利(利用権)を与えてもらい、施設を利用するという形態をとる。 よって、会員は、施設そのものの所有権に関しては何らの権利も有さず、単にクラブに対して施設の利用を求める権利があるだけになる。その反面、会員は、年会費や施設利用費、設備の維持管理費等の一定料金を支払えば足りることになるが、入会時に預託金の預入れを求められるケースも多い。 この形態はゴルフ会員権に類似する類型といえる。 (3) 会員で出資した法人がリゾート施設を所有するタイプ【出資型】 この形態のクラブでは、会員が出資してクラブ運営のための法人(株式会社等)を設立し、法人が施設の所有権を取得する形式を取るものであり、会員は、会員契約をもって施設の利用のために相互で調整を行うという形態をとる。 その意味では、上述した「持分共有型」と「利用権設定型」の複合形態ともいえる。 3 リゾート会員権に関係する代表的な法令 リゾート会員権をめぐる権利関係の確定やトラブル解決のためには、様々な諸法令が関わってくる。以下では、そのうち代表的なものを挙げる。 トラブル解決のためには、関連する複数の法規を幅広く確認し、内容を慎重に検討する必要があるため、大変複雑な法律問題となる。そのうえで、今後も法改正や新規立法についての動向に目を配る必要がある。 (1) クラブとの契約内容-リゾート施設利用契約及び会員規約等 リゾート会員権は、会員となろうとする者とクラブとの間の契約により発生する権利の総体である。 したがって、リゾート会員権をめぐる法律問題を検討する際には、そもそもの出発点として、会員とクラブとの間で締結した会員契約等の内容を十分に確認することが必要である。 この点、入会時に交付された契約書や利用規約、施設パンフレット等の各種書類についてはすべて必ず保管し、必要に応じて参照できるようにしておく必要がある。 (2) 民法 次に、私法の一般法である民法の適用があることは勿論である。 ただし、以下に掲げるような特別法の適用により、民法上の定めが変更を受ける場合も多いので、注意を要する。 (3) 建物の区分所有等に関する法律 「持分共有型」あるいは「複合型」において区分所有権の対象となる不動産を所有する場合には、建物の区分所有等に関する法律の適用がある。 (4) 会社法 「出資型」においては、施設の所有関係とは別個に、会員は、法人であるクラブの構成員(出資者)としての権利を有する。 この法律関係を定めるのが会社法であり、クラブとしての意思決定の手続やその他の権利関係について規制を受けることになる。 (5) 消費者契約法 会員権の売買が、消費者と事業者との間で締結された消費者契約(同法2条3項)に該当する場合には、消費者契約法が適用される。 その結果、事業者から会員権を購入する際に、事業者により不実の告知や断定的判断の提供、不利益事実の不告知等がなされた場合は、購入者は、事業者との契約を取り消すことができる(同法4条)。 それ以外にも、民法、商法その他の法律に比して消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、その程度が民法上の信義則に反する条項についても無効とされる余地がある(同法10条)。 (6) 宅地建物取引業法 持分共有型の場合には、会員権の譲渡は共有持分の販売を伴うことになる。 そのため、販売者が同法2条2号の「宅地建物取引業」に該当する場合には、同法が定める重要事項説明義務(同法35条1項)や誇大広告等の禁止(同法32条)、事務所等以外の場所において締結した契約に関するクーリングオフ(同法37条の2)等の規定に服する。 (7) 特定商取引に関する法律 会員権の形態に関わらず、会員権の売買が「訪問販売」(同法2条1項)に該当する場合には、同法が定める契約内容を記載した書面の交付義務(同法4条)や契約書面の交付義務等の各種義務を負う(同法5条)。 また、契約に際しての不実の告知や重要事項の不告知等が禁止され(同法6条)、誇大広告等も禁止される(同法12条)ほか、同法が定める条件をみたす場合のクーリング・オフ(同法9条1項)の適用もある。 (了)
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第7回】 「公正取引委員会及び中小企業庁による書面調査への対応」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 調査の必要性、根拠と意義 消費税転嫁対策特別措置法は、特定事業者(買手側)が、特定供給事業者(売手側)に対して、減額、買いたたき、商品購入・役務利用又は利益提供の要請、本体価格での交渉拒否、報復行為を行うことを、消費税転嫁拒否等の行為として禁止する(消費税転嫁対策特別措置法3条)。 そして、実社会において行われる取引における消費税の転嫁状況を把握することで、消費税転嫁拒否等の行為を是正するため、公正取引委員会、主務大臣及び中小企業庁長官には、買手側や売手側を調査する権限が与えられている(消費税転嫁対策特別措置法15条第1項)。 消費税転嫁拒否等の行為に対しては、当局から、指導・助言がなされ、特に、悪質な違反行為等に対しては勧告・公表がなされるところ(消費税転嫁対策特別措置法4条、6条)、書面調査は、これらの指導・助言や勧告・公表にかかる事実が発覚するきっかけになるものとして、重要な役割を果たす。 2 平成25年11月に実施された書面調査とこれに基づく措置 上記のような調査権限に基づき、平成25年11月、公正取引委員会と中小企業庁は合同で、94業種15万事業者を対象に、消費税転嫁拒否等の行為に関する書面調査を実施した(※1)。この結果、建設業、製造業、卸売業・小売業について、既に取引先に対して消費税の転嫁拒否等の行為を行っているか、今後行うことが予測されると指摘する回答が比較的多かった(※2)ことから、公正取引委員会は、平成26年1月17日には、上記4業種の業界団体計575団体に対して、文書で消費税の円滑かつ適正な転嫁の徹底を要請し、また、消費税転嫁拒否等の行為の疑いがある事業者に対しては立入検査や違反行為に対する改善指導を行っていると公表した。 その後の発表によれば、平成26年3月までに、公正取引委員会と中小企業庁は、消費税転嫁拒否等の行為に関して、861件の立入検査と1,199件もの指導を行ったということであり(※3)、平成25年10月の消費税転嫁対策特別措置法の施行後わずか半年間でこれほどの数の立入検査や指導がなされたことは、当局の並々ならぬ意気込みの表れということができる。 (※1) 公正取引委員会「(平成26年1月17日)消費税の円滑かつ適正な転嫁の要請等について」(平成26年1月17日公表) (※2) 「消費税の転嫁拒否に関する15万件調査 (調査結果)」(中小企業庁作成資料) (※3) 公正取引委員会「平成26年3月までの消費税転嫁対策の取組について」(平成26年4月7日公表) 3 平成26年4月以降実施の書面調査(以下「本件書面調査」という) このような中、公正取引委員会と中小企業庁は、平成26年4月から、合同で、 と公表した。 具体的には、売手側については、同年4月から、全国の中小企業・小規模事業者等を対象に、調査票を郵送により送付し、または、各地の商工会、商工会議所、都道府県中小企業団体中央会、都道府県商店街振興組合連合会等を通じて、調査票を広く配布する。他方で、買手側(資本金1億円以上)については、約4万事業者に対して、報告義務のある調査票を送付して、回答を求めるとしている(※4)。 (※4) 公正取引委員会「平成26年度における消費税の転嫁拒否等の行為に関する書面調査について」(平成26年4月24日公表) 4 本件書面調査に対して企業がとるべき対応 (1) 商品・役務(サービス)の売手である中小企業・小規模事業者等における対応(※5) 売手を対象とした本件書面調査は、約400万の中小事業者等がすべて対象となるような極めて広範にわたるものとなる見通しであり(※6)、日本中のあらゆる中小企業に調査票が送付されることになりそうである。 売手に対する本件書面調査は、消費税転嫁拒否等の行為を受けている場合にのみ回答すればよいとされ、提出期限(平成26年7月31日)の後でも、同行為等を受けた場合には回答・提出できる。また、対象者に対して回答を義務付けるものではなく、回答を希望しない場合には回答を拒否することも可能である。 他方で、回答する場合、調査票には、問題のある買手の取引先事業者の情報欄に、消費税の転嫁拒否等の問題行為を行っている事業者の情報を、実名をあげて回答した上で、買いたたき等の行為の有無やその内容を回答もするようになっている(※7)。 なお、当該調査票の回答内容の秘密は厳守されるとともに当該調査の目的以外には一切使用されないとされ、当該調査票に記載された買手の取引先業者に対する将来の調査においては、上記のような実名をあげた調査票の内容に基づく調査とは分からないように配慮される。 よって、本件書面調査を受ける売手においては、買手からの制裁等をおそれることなく、消費税の転嫁拒否等の問題行為をありのまま回答すべきである。 (※5) 公正取引委員会「「消費税の転嫁拒否等に関する調査」に関するよくある質問(FAQ)」 (※6) 「平成26年4月2日付公正取引委員会事務総長定例会見記録」 (※7) 「消費税の転嫁拒否等の行為の有無についての調査(調査票・回答用紙一式)」 (2) 商品・役務(サービス)の買手(資本金1億円以上)である大規模小売事業者及び大企業等における対応(※8) これに対して、買手に対する本件書面調査は、対象者に対して回答を義務付ける(消費税転嫁対策特別措置法15条第1項)ものであり、対象者は、提出期限(平成26年6月20日)までに必ず郵送で提出する必要がある。 調査票は、対象者の事業内容・規模の他、消費税率引上げ後の販売等価格の値上げの有無・値上げ相当額の原資の内容、消費税転嫁拒否等の行為の有無・方法等に関する質問に対して回答するものとなっている(※9)。 本件書面調査に対して対象者が報告をせず又は虚偽の報告をした場合には、50万円以下の罰金に処されることもある(消費税転嫁対策特別措置法21条)ので、対象者は、ありのままの事実をそのまま回答するよう、注意が必要である。 (※8) 公正取引委員会「「供給事業者との取引における消費税の転嫁状況等に関する調査」に関するよくある質問(FAQ)」 (※9) 「供給事業者との取引における消費税の転嫁状況等に関する調査(調査票・回答用紙一式)」 (3) 回答にあたっての検討事項等 本件書面調査への回答は、これを契機として、遅かれ早かれ、具体的な買いたたきや減額といった消費税転嫁拒否等の行為が当局に発覚するものといえ、回答にあたっては、判断に迷いが生ずることもあろう。 このような場合には、公正取引委員会及び中小企業庁の書面調査事務局コールセンター(0570‐050‐510(売手用)、0570‐005‐550(買手用) 受付時間:土日祝日を除く9時~18時)に事前相談をしたり、専門知識を有する弁護士に相談することが好ましい。 また、本件書面調査の性質が、上記のとおり、当局への消費税転嫁拒否等の行為の発覚のきっかけとなるものであり、ひいては、これに基づいて当局による立入検査(公正取引委員会は、平成26年4月中に約100件の大規模小売事業者などの大企業を中心とした買手側に対する集中的な立入検査の実施を予定していると公表した(※10)。)、指導・助言、勧告・公表等の措置が行われるものであることから、本件書面調査に回答する過程などで、消費税転嫁拒否等の行為を行っていたことを自ら発見した企業は、自社に対する措置を回避するため、すみやかに次のような措置を講じるべきである。 (※10) 「平成26年4月9日付 事務総長定例会見記録」 ア 消費税転嫁拒否行為の停止、是正等 消費税転嫁拒否等の行為を直ちに停止するとともに、売手への不利益回復を講じ、同行為に及んだ原因を検証するとともに再発防止策を講じる。 イ 当局に対する自主報告等 本連載第5回「初の勧告事例」の第4項でも既に述べたとおり、公正取引委員会は、下請法の運用に関してではあるが、以下の条件をすべて満たす場合、下請法に基づく勧告を行わないとの方針を明らかにしている(※11)。 (※11) 公正取引委員会「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」 他方、消費税転嫁拒否等の行為については、同様の扱いは公表されておらず、企業が上記①から⑤と同様の対応をとった場合に、勧告等の措置を回避することができるか否かは、必ずしも明確でないところではあるが、このような事情があれば、少なくとも、当該企業が再び消費税転嫁拒否等の行為を繰り返す可能性は低いと判断される方向に働くとはいえよう。 したがって、企業が、本件書面調査にあたって、消費税転嫁拒否等の行為を自ら発見した場合は、調査票には、当該行為についてありのままの事実を記載して報告するとともに、立入調査等が行われる前に、速やかに上記①から⑤に準ずる措置を講じた上、そのような事情を斟酌するよう当局に求めていくことが一考に値するといえる。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第17話】 「正しい提案は正しい状況把握から」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 * * * 《生産性向上設備投資促進税制について》 平成26年1月20日に産業競争力強化法が施行され、質の高い設備投資の促進によって事業者の生産性向上を図り、もって我が国経済の発展を図るため、「先端設備」や「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」を導入する際の以下のような税制措置が新設されました。 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様からのご依頼については、すぐに対応する必要がありますが、お客様の現状をきちんと把握してからシミュレーションをしなければなりません。 そうでなければ、社長の意思決定に資する資料を作ることはできず、的外れになってしまいます。 (了)
《速報解説》 「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」 及び「接待飲食費に関するFAQ」の公表について 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成26年度税制改正において交際費課税が見直されたことに対応して、国税庁は下記の情報を公表した。 「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」 「接待飲食費に関するFAQ」 以下では、その内容について解説する。 1 「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」 平成26年度税制改正における、交際費課税の改正の概要を解説している。内容としては、これまでに様々な記事等で解説されている内容の確認であり、新たな事項が公表されているというものではない。 ① 交際費等の損金不算入制度について ② 中小法人における選択適用 資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)では、平成28年3月31日までに開始する事業年度においては、「接待飲食費の50%損金算入」と「年間800万円まで全額損金算入」を選択適用できる。 したがって、接待飲食費が年間1,600万円を超える中小法人では「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が有利となる。 ③ 交際費等の損金不算入制度の適用期限 交際費等の損金不算入制度そのものの適用期限が、平成28年3月31日まで2年延長されている。 2 「接待飲食費に関するFAQ」 平成26年度税制改正において交際費課税が見直されたことに対して、国税庁に寄せられた主な質問とそれに対する回答をQ&A形式で公表している。 また、その前文でいわゆる「1人当たり5,000円基準」を満たす飲食費については、従来どおりそもそも交際費等には該当しない(全額損金に算入される)ことを確認している。 ① 改正の概要 上記「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」と内容が重複するので、ここでは省略する。 ② 飲食費の範囲 50%損金算入の対象となる飲食費を、次のとおり例示している。 ③ 飲食費に該当しない費用 50%損金算入の対象となる飲食費に「該当しない」費用を、次のとおり例示している。 ④ 社内飲食費に該当しない費用 一見社内飲食費に該当しそうだが実は該当せず、50%損金算入の対象となる費用を次のとおり例示している。 ⑤ 出向者 自社から他法人へ出向している者を接待等した際の飲食費については、その出向者がどのような立場でその場に出席したかに応じて、次のとおり取り扱うとしている。 (※) その出向者以外にも、他法人の役員等が出席している場合は社内飲食費ではない。 ⑥ 帳簿書類への記載事項 50%損金算入の対象となる接待飲食費について、領収書等の帳簿書類に記載すべき事項を列挙している。 ⑦ 帳簿書類への記載事項の注意点 帳簿書類の記載事項として「飲食等に参加した得意先等の氏名又は名称及びその関係」が要求されているが、これには原則として というように、相手方の氏名や名称のすべての記載が必要としている。 ただし、相手方の氏名の一部が不明の場合や、多数の者が参加したような場合には、 という記載でも差し支えないとしている。 ⑧ 中小法人における選択適用 資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)では、「接待飲食費の50%損金算入」と「800万円まで全額損金算入」を、事業年度ごとに選択して適用できる。 具体的には法人税申告書別表15(下記【参考】参照)において、選択した方法に従った記入をして申告することになるとしている。 ⑨ 申告に誤りがあった場合 接待飲食費として50%損金算入の対象となる飲食費の一部又は全部を、接待飲食費以外の交際費等に含めて全額を損金不算入としてしまった場合には、更正の請求が可能であるとしている。 【参考】 法人税申告書(別表15) 交際費等の損金算入に関する明細書 〔新様式〕 (了)
2014年5月8日(木)AM10:30、Profession Journal No.68 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第17回】 「建替え建築は『新築』か『改築』か?(その2)」 ~住宅借入金等特別控除と借用概念~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 前回の内容 本件では、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建店舗兼居宅(旧建物)を取り壊し、その残地に鉄骨造アルミニウム板葺3階建店舗兼居宅(本件建物)を建てたこと(本件建築)が、「改築」に当たるかどうかが問題となっている。 「改築」に当たれば、住宅借入金等特別控除(本件特例)の適用があるため、X(納税者)は改築に当たると主張し、Y(税務署長)は改築に当たらないと主張した。 具体的には、措置法上の「改築」の意義について、用途・規模・構造が著しく異なる建築を「改築」と扱う建築基準法上のそれと同義に解釈すべきとするYと、別意に解釈すべきとするXの主張が対立したのである。 Ⅳ 第一審静岡地裁判決の要旨 静岡地裁平成13年4月27日判決(税資250号順号8892)は、 として、課税処分を適法と判示した。 これはYが主張する見解と同様である。 Ⅴ 解説―固有概念と借用概念 1 条文に定義のない用語の意味 学説は、 と理解する(金子宏『租税法〔第19版〕』115頁(弘文堂2014))。 その意味で、 とされているのである(金子・同書116頁)。 このように租税法に定義のない用語を考えるに当たっては、他の法律から借用している場合には、その法律におけると同じ意義に解釈をすべきとする考え方が通説とされている。 しかしながら、そのほかの見解もある。学説を簡単に見ておこう。 (1) 独立説 エンノ・ベッカー(Enno Becker)は、租税法が民法上の概念を使用するのはやむを得ずしてしていることであって、それは応急手段にすぎず、その概念の解釈に当たって私法上の解釈に固執すべきではないと論じられる。この見解は独立説と呼ばれている。 しかしながら、独立説に対しては、法秩序の一体性や法的安定性を顧慮しないものとの批判がなされている。 (2) 統一説 中川一郎教授は、法秩序の統一の観点から統一説を展開される(中川一郎『税法の解釈及び適用』90頁以下(三晃社1961))。 また、金子宏教授は、租税法が用いている概念を固有概念と借用概念の二種類に区分し、このうち、借用概念を他の法分野で用いられている概念と捉えた上で、借用概念の解釈について、 とされる(金子・前掲書115頁)。 法的安定性を強調する文脈から、租税法上の概念を私法と同一の意義に解釈すべきであると主張する立場は、多くの学説上の支持を得ている。もっとも、立法趣旨等を考慮すべきか否かについては個々に若干の見解の相違も見られるところであるが、私法と同じ用語が使用されている場合は「借用概念」と捉え、原則としては統一的に解すべきとする見解が通説であるといえよう。 (3) 目的適合説 田中二郎教授は、統一説を法的安定性の見地から一理ある考え方とした上で、 と述べられる(田中二郎『租税法〔第3版〕』126頁(有斐閣1990))。 これに対して、金子宏教授は、「別意に解すべきことが租税法規の明文またはその趣旨から明らかな場合」については別意に解する余地があるとしつつも、目的適合説に対しては、 と批判論を展開されている(金子宏「租税法と私法」租税6号11頁)。 金子教授が指摘されるように、租税法における用語について目的論的に解釈する場合には、法的安定性や予測可能性が損なわれる懸念が伴うことは否めないであろう。 このように、学説の対立はあるものの、通説は、予測可能性や法的安定性の観点から、統一説に従い、他の法分野での用語の意味に合わせて解釈をすべきという見解に立っているのである。 そうであるとすると、本件事案の場合、Yが建築基準法にいう「改築」の意義に合わせて、措置法上の「改築」も理解すべきとした主張は妥当であるということになるのであろうか。静岡地裁は、そのように考えているようであるが・・・。 (続く)
《編集部レポート》 太陽光パネルの設置で特定事業用等特例の適用が可能!? ~遊休地にパネルを設置して小規模宅地特例の適用を狙う場合は、ここに注意~ Profession Journal 編集部 本誌No.67(5月1日号)に既報のとおり、来年1月の小規模宅地特例の特定居住用等と特定事業用等との完全併用のスタートを前に、特定事業用等の活用に注目が集まっている。 こうした状況にあって、今、注目されているスキームが遊休地に太陽光パネルを設置することによって特定事業用等特例の適用を狙うというものだ。 〇売電が事業所得となる場合=小規模宅地特例の適用OK ソーラーパネルの設置メリットは、 ――など、まさに良いこと尽くめ。 これに加えて、遊休地にパネルを設置した場合に、小規模宅地特例の適用が可能となれば、魅力は倍増する。 では、パネルを設置するだけで、特例の適用が可能なのだろうか? その判断ポイントは、No.67のとおり、パネルの設置により売電して稼得した所得が事業所得に該当するか否かが、判断の分かれ目となりそうだ。 では、その売電が事業所得となるか否かは、どう判断するのだろうか。 ここで注目したいのが資源エネルギー庁がホームページ上で事業所得に該当するか否かの判断の目安として掲げている、次のポイントだ。 50kWの発電システムに必要な面積は500㎡程度とされており、およそ150坪程度の敷地が必要となるため、都心部などでは特例が適用できるケースは限定的。だが、資源エネルギー庁のホームページには、出力量50kW未満の場合であっても、次のように一定の管理を行っているときは、一般的に事業所得になると考えられる、として4つの要件を掲げている。 つまり、小規模のパネル設置であっても、「特段の管理」が行われていれば事業所得として認められるため、小規模宅地特例の適用が認められそうだ。 だが国税庁は、所得税と相続税の取扱いは別であり、たとえこの4要件を満たしたとしても、小規模宅地特例は「建物又は構築物の用に供されている土地」であることが求められるため、パネルが簡単に撤去できるなどの場合は特例から外れる、と注意を喚起する。 太陽光パネルを設置する場合は、通常、発電量を阻害する雑草の育成を抑えるために砂利敷きをしたり、コンクリートを張り巡らす工夫を施すため、こうした場合には構築物として認定されよう。 〇余剰電気の売電の場合は・・・? さて、上記は発電した電気をすべて販売している場合を想定したものだが、では、発電の一部を自家消費し、その余剰電気を販売しているケースではどうであろうか。 ちなみに、国税庁ホームページの質疑応答事例では、余剰電力の売却収入については、それを事業として行っている場合や、他に事業所得がありその付随業務として行っているような場合には事業所得に該当すると考えられるが、給与所得者が太陽光発電設備を家事用資産として使用し、その余剰電力を売却しているような場合には、雑所得に該当するとしている。だが、これもまた所得税法の扱いであり、相続税法は別の見方となる。 国税庁は「売電量がゼロのケースは当然ながら特定事業用宅地等には該当しない。だが、一部を売電している場合については、主目的が自家消費なのか売電なのかなどケース・バイ・ケースであり、その適否については状況に応じて判断する」と事実認定によるとしている。 全発電量が売電とはならないケースについては、事前照会に対する文書回答手続を利用するなどして、個々のケースで確実に特例の適用が可能であるかを確認されたい。 (了)