初めて訪れた客からの質問はだいたい次の3つになる。 1、「何時までやってるんですか」 2、「いつからやってるんですか」 3、「どうして始めたんですか」 のどれかで、3つとも答は用意してある。 1、の答「お客さんがいなければ11時半、いても12時で閉めます」 2、の答「7年やってます」 3、の答「脱サラです」 いつもはこれぐらい簡単に答えているが、3、の答はもっと長いものもある。 最終回なので、今夜は長い方を語ろう。 2006年3月中旬の日曜日、私は親戚の法事で酒を飲んでいた。7回忌なので故人を偲ぶなどという雰囲気もなく、話し相手もいなかったので、ひたすら食事をし酒を飲み、傍らの老人たちの話に耳を傾けていた。 「町内会の仕事、あれ、ちょっとした小遣いにはなるんだよ」 「そうだねえ、年金だけじゃなくてさ、少しは稼ぎたいね」 なんだか小市民的な話だなあとのんびり聞いていたら、いつの間にか私自身の問題に置き換えて考えていた。 私は50才になったばかりで定年まであと10年。定年後はどうしているだろう。駅前の駐輪場で自転車を並べ替えているじいさんか。それとも嘱託で会社に残り、隅っこで小さくなっているのだろうか。そのふたつぐらいしか思い浮かばない。これからの10年、今までのように仕事をし、最後に待っているのはそんな自分でしかないというのはどうにも遣り切れない。 娘ふたりは社会人になって自立したので、もう私の親としての役目は終わっている。 妻も収入は少ないが仕事を持っているし、借金は無いし少しは貯金もある。のちのち年金も入るだろうし生活に困ることはないだろう。 私が死んでも誰も困らない。それに今の年齢で死ねば高額の保険金も入る。 「なんだ、おれはもう終わっていたんだ」 いささか短絡的な結論ではあるが、そのころの私は何年も前から仕事に限界を感じていて、すっきりしたかったのだと思う。 自分の存在意義を失って一週間後の日曜日、私は家で昼食のスパゲッティを作っていた。誰に迷惑をかけることもなく、ただ家族のために作っていた。 「スパゲティ屋をやろうかな」ふとそう思い、声が出ていた。 「いいんじゃない。作るの上手だから」と妻の声が返ってきた。 そうだ、好きにすればいいんだ。たった一度の人生だし。自分の奥底から声が聞こえた。 今の自分の置かれている状況をもう一度考えてみた。子供はもう自立していて今までほど稼ぐ必要はない。妻もいくらか稼いでいる。貯金は少ないけど借金はない。会社を辞めれば退職金もある。そのうち年金も入ってくるだろう。 「なあんだ」自分で何か始めるにはまあまあの条件が揃っていた。 年内いっぱいで会社を辞めることにして、図書館で飲食店に関わる本を片っ端から読み、事業計画を検討した。 デザインや設計は、勤務していた会社が展示会の会場の設計・施工会社だったので、自分でもなんとかできる。施工費を安くするために仕事仲間の大工さん、電気屋さんなどに協力してもらう段取りもつけた。後の事になるが、実際の造作費用は通常の4分の1ぐらいで済んだ。 早い段階で、場所は御茶ノ水・神保町界隈に決めていたが、賃貸の店鋪物件はなかなか見つからず、一日一度はネットで検索していた。 ある日、検索を手伝ってくれていた仕事の同僚が地下の物件を見つけた。 「地下? そうだ、音楽の店ができる! 」 ここでスパゲッティ屋から「ロックやジャズを聴かせる飲食店」に変わった。その物件は条件が合わないのでやめたが、以後は地下の物件だけを探した。さらに、ロックは自分の嫌いなものは聴きたくないのでジャズだけに絞り、下手な生演奏は客を遠ざけるので諦め、レコードはあまり持っていないのでCDだけを音源とする店にした。 9月、今の場所に決め、予定通り12月に会社を辞めた。12月中から工事を始め、翌年の2月に「jazz bar gugan」は開店した。 そして、7年経ってもまだ続いているのでした。 (連載了)
《速報解説》 EDINETで提出する監査報告書及び財務諸表等に関する監査上の留意点などについて 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年4月18日付(掲載日)で、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 ②については、①の公表に伴い、従来の公表物を廃止するものである。 ③については公開草案が公表されていたが、今回確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 審理通達第2号 (1) 監査報告書の欄外の注書き 審理通達第2号でも、EDINETで提出する監査報告書の欄外の注書きの記載について、会社に依頼することが適当であるとされている。 平成26年2月12日に、「EDINETで提出する監査報告書の欄外記載の変更及びXBRLデータが訂正された場合の監査上の取扱い」(自主規制・業務本部 平成26年審理通達第1号)がすでに公表されており、EDINETで提出する監査報告書の欄外の注書きについて、次の記載が述べられている。 (従前の記載例) (見直し後の記載例) (2) 監査報告書の同一性確保 EDINETで提出する監査報告書については、監査報告書の原本との同一性が確保されていることを確かめるために、監査人は、監査報告書の原本の記載事項と監査報告書に記載された事項を電子データ化してEDINETで提出されたものとが同一であることを確かめることが適当であるとされている。 ただし、当該手続は、監査の終了後に行われるため監査手続には含まれないとされている。 (3) 財務諸表等の同一性確保 EDINETで提出する有価証券報告書等についても、監査の対象とした財務諸表等との同一性が確保されていることを確かめるために、監査人は、監査の対象とした財務諸表等の記載事項とEDINETで提出されたものとが重要な点で同一であることを確かめることが望まれるとされている。 ただし、当該手続も監査の終了後に行われるため監査手続には含まれないとされている。 (4) 四半期等の取扱い 上記の監査上の留意点については、中間監査報告書及び中間財務諸表等並びに四半期レビュー報告書及び四半期財務諸表等についても同様の取扱いとするとされている。 2 IT委員会研究報告第44号 (1) EDINETの状況 平成25年9月17日から稼働したEDINET(以下「新EDINET」という)では、XBRLの対象範囲が拡大し、財務諸表本表から、注記を含めた有価証券報告書等全体となっている。 当該XBRLの対象範囲の拡大には独立監査人の監査報告書(中間監査報告書及び四半期レビュー報告書を含む)も含まれている。 (2) 監査人の留意事項 「新EDINETで提出する監査報告書と監査報告書の原本との一致の確認」に関して、「新EDINETで提出した後」について、監査人はこれまでと同様に新EDINETで提出された監査報告書と監査報告書の原本との記載事項が同一であることを確かめることが適当であると述べられている。 また、「新 EDINETで提出する財務諸表等と監査済財務諸表等との一致の確認」として、監査人は従前と同様に提出会社による新EDINETでの提出後の財務諸表等が監査済財務諸表等と重要な点で同一であることを確かめることが望まれると述べられている。 (3) XBRLデータが訂正された場合の監査上の取扱い 前述の審理通達第1号において、XBRL データが訂正された場合の監査上の取扱いが示されている。 従来は、XBRLデータのうちEDINETで表示されない内容について誤りがあった場合には、訂正報告書ではなく、「XBRLの修正」として修正後のXBRLデータとともに提出していた。 平成25年8月に公表されたEDINET概要書では、インラインXBRLで作成された提出書類の訂正報告時には、訂正報告書とともに、訂正後のXBRL形式書類を構成するファイル一式(提出者別タクソノミ、報告書インスタンス及びマニフェストファイル)を再提出することとされている ただし、監査の対象となった財務諸表自体を訂正する必要がないときは、XBRLデータは監査の対象に含まれていないため、当該誤りを原因として提出される訂正報告書等については、その内容に対して監査を実施する必要がないことは従前と変わらないと述べられている。 (4) 適用時期 XBRLで作成された有価証券報告書については、平成25年12月31日以後に終了する事業年度に係るものから適用されている。 四半期報告書又は半期報告書については、平成26年1月1日以後開始する事業年度に属する四半期又は半期に係るものから適用されている。 (了)
《速報解説》 国税通則法第74条の9の改正に係る 「国税通則法関係通達の一部改正」等について ~税務代理人のみへの事前通知が可能に~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 去る3月20日に成立し、同31日に公布された「所得税法の一部を改正する法律」において、国税通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》の一部が改正された。 具体的には、平成23年12月の改正国税通則法では、調査の事前通知は納税者と税務代理人の双方に対して通知することとされていたが、平成26年7月1日以後に行う事前通知については、「税務代理権限証書」に納税者の同意が記載されている場合には、税務代理人に対してすれば足りることとされた。 本稿では、この改正に伴って公表された「国税通則法第7章の(国税の調査)関係通達」の改正点、税務代理権限証書の様式変更、「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」の内容を見ておきたい。 2 国税通則法第74条の9の改正点 具体的には、第5項として、次の規定が挿入されることとなった。 この規定に伴い「税務代理権限証書」の様式が改められ、「調査の通知に関する同意」が記載されていれば、納税義務者と税務代理人の双方に行うこととされていた税務調査の事前通知は、税務代理人にすれば足りることとなった(「国税通則法第2章の2(国税の調査)関係通達7-1」)。 なお、本制度は、平成26年7月1日以後に行う事前通知から適用される。 3 税務代理権限証書の様式変更について 改正された税務代理権限証書には、以下の変更が加えられた。 〈改正後の「税務代理権限証書」〉 なお、改正された税務代理権限証書は、平成26年7月1日以後に提出する場合に使用することとされている。 (1) 過年分に関する税務代理 新たに「過年分に関する税務代理」についてのチェックボックスが設けられ、ここに依頼者がチェックを附すことによって、税務代理を依頼する税目については、過年分に関しても、調査に際して税務代理を委任することができることとされた。 (2) 事前通知に関する同意 上記国税通則法79条の9第5項に対応するため、同じく、「調査の通知に関する同意」についてもチェックボックスが設けられ、税務代理を委任した事項(過年分を含む)に関して調査が行われる場合には、依頼者への通知は、税務代理人に対して行われることに同意することができることとされた。 (3) 税務代理の対象に関する事項の様式変更 旧様式では、税目を書きこむこととなっていたが、新様式では、以下の4税目があらかじめ印刷されており、それ以外の税目について記入することとなっている。 4 「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」の改正ポイント 国税通則法第74条の9の改正に伴い、追加され又は改訂された「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」の中から、注意したい項目をいくつかピックアップする。 (1) 平成26年6月30日以前に税務代理権限証書を提出する場合〈問2・問5〉 改訂前の税務代理権限証書に「事前通知に関する同意」を記載することは可能であり、「2 その他の事項」欄に以下の記載を行うことに注意する。 (2) 相続税に関する税務代理権限証書〈問4〉 相続税については、他の税目と異なり、翌年分等の申告がないため、納税者から「事前通知に関する同意」を得た場合には、速やかに「同意を記載した税務代理権限証書」を再提出する必要がある。 (3) 新たに税務代理を委任された場合〈問7〉 納税者が過年分に関しても税務代理を委任し、事前通知に関する同意をしている場合には、提出する税務代理権限証書の「過年分に関する税務代理」及び「調査の通知に関する同意」のチェックボックスにチェックを附することによって、前任の税務代理人が税務代理権限証書を提出していた場合であっても、過年分の調査が行われる場合の税務代理を委任することができる。 平成26年6月30日以前に税務代理権限証書を提出する場合には、改訂前の税務代理権限証書の「2 その他の事項」欄に以下の記載を行うことに注意する。 (了)
2014年4月17日(木)AM10:30、Profession Journal No.65 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
日本の企業税制 【第6回】 「課税ベース各論」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 政府税制調査会・法人課税ディスカッショングループでは、早くも法人税課税ベースの拡大の議論が進められている。 3月31日に開催された第2回会合では、欠損金繰越控除制度と受取配当等の益金不算入制度につき議論された。4月14日には減価償却、政策税制(租税特別措置法)がテーマに上げられている。 そこで、課税ベースの各論として、これらの問題の概要と、現時点における経団連の見解を明らかにしておきたい。 2 繰越欠損金 法人は継続的に事業を営んでいることから、ある事業年度の欠損金額を他の事業年度の利益金額と通算せずに、利益の生じた事業年度についてだけ課税するならば、税負担が過重となる。 欠損金の繰越控除制度については、どの国にも存在しているが、繰越期間をみると、先進国の中でも欧州主要国の無制限、米国の20年に比べ、日本の現行制度9年は非常に短い。 現行80%である繰越控除額の使用制限の引下げについては、繰越期間延長とセットで考えてはどうかとの主張がなされているが、「8割×9年間=6割×12年間」などという単純な議論はできない。 欠損金の繰越控除に制限を設けているのは、主要国ではドイツのみであるが、ドイツでは繰越期間が無期限であることから、わが国の欠損金の繰越期間について、大幅な延長が必要である。 また、繰延税金資産のある企業への会計上の影響も念頭に置いた議論が必要である。 なお、日本の欠損法人割合が70%という数字が取り沙汰されているが、その原因の一つとみられるのは、米国よりも多い日本の課税対象法人数であり、その主因である法人成りであると考えられる。 政府税調で示された財務省資料では、米国のデータにおいて法人税が課税されない“S法人”が含まれている一方、日本のデータにおいては、法人税が課税される法人のみが対象となっていたが、S法人の欠損は個人の損失として処理されるため、S法人自体には繰越欠損金は生じることはなく、繰越欠損金の損金算入後の欠損法人の数をカウントするにあたっては、S法人を対象にするのは誤解を招く恐れがある。 法人税が課される普通法人のみを見ると、米国も欠損法人割合が70%となり、日本と類似する。 【米国における法人の状況】 さらに、欠損法人が全く税金を払っていないかのごとく認識されがちだが、欠損法人でも、固定資産税、事業所税、住民税均等割など、所得に関わらず負担すべき税が多いことにも留意すべきである。 【所得に関わらず法人が負担する税の国際比較(対税収総額比)】 3 受取配当益金不算入 法人擬制説では、法人段階で課税された法人税相当額を、配当を受けた個人の段階で所得税から控除する必要がある。 内国法人と個人株主の間に他の法人が株主として存在するときは、中間段階にある法人が受け取る配当にそのまま課税すると、個人段階で所得税から控除する法人税相当額を控除する際に、中間段階で法人税が課された回数に応じてその都度配当控除額を定めなければならないが、そのような計算は不可能であることから、法人が受け取る配当は益金の額に算入しないことで解決している。 現行、持株比率25%未満の株式に係る配当については、50%しか益金不算入を認められていないが、株式保有によって一定の支配や影響力を持ちつつ、事業を展開し、配当で回収することは、資本主義下における当然の経営手法であり、25%未満であっても、他企業とのアライアンス確保や、インフラ事業のように当局による持株制限がある場合もあるので、現行25%で益金不算入制限を区切る考え方には、経営感覚として違和感がある。 また、英国、ドイツなどでは出資比率に関わらず益金不算入とされており、イコールフッティングの確保という観点も重要と考える。 経営上の要請ではなく、ポートフォリオとして保有している分であるとすれば、大量保有報告の基準である5%以下がせいぜいである。 4 減価償却制度 法人が事業に使用する固定資産を取得するために支出した費用の額(取得費)は、その固定資産が事業のために使用されることにより年々、減価する部分に相当する金額を費用として計上することが合理的である。 減価償却については、期間差異に過ぎず、現行の200%定率法を廃止し、定額法一本としても全法定耐用年数内で損金とできる額は変わらないとの見方もされているが、投資コストの早期償却は企業の国際競争力の観点からは軽視できない。 また、減価償却制度については、平成19年度改正において、250%定率法導入、残存価額、償却可能限度額廃止などの大改正が行われたのにもかかわらず、平成23年度改正では、200%定率法へと変更されている。 頻繁な制度改正は、企業の投資計画にも悪影響をもたらすものである。 5 政策税制 政策税制については、各税制措置の内容が政策目的に沿ったものか検証が必要である。 特に、国際標準ないし国際的な動向に沿い、国際的イコールフッティングを実現するために不可欠な制度は恒久化すべきである。 (1) 研究開発税制 諸外国では、法人税率の引下げと研究開発税制の継続・深堀りを同時に実施しており、控除上限・繰越期間等日本よりも優遇されている。また、日本のように政策税制としてではなく、本法で恒久化されている例も多い。 日本が科学技術立国を標榜する以上、成長戦略を実行する上で企業の研究開発は生命線であり、研究開発投資を継続していく上で、特に恒久措置となっている総額部分は、不可欠の制度であり、縮減は絶対に行うべきでない。 (2) 原料用途免税 ナフサ等原料用途については免税が国際標準となっている中、各国とも本則化されているにもかかわらず、日本では「期限の定めのない」租税特別措置に留まっている。 (3) 減耗控除 わが国経済が持続的な成長を実現するためには資源・エネルギーの安定供給の確保が重要であるが、近年は探鉱開発費の高騰、資源獲得競争の激化、国際資源メジャーの寡占化、資源国のナショナリズムの高揚などにより、資源の安定供給確保は以前に比べ、格段に困難さを増している。 減耗控除制度、海外減耗控除制度ともに3年間の期限付きで創設され、直近では平成25年度税制改正において延長・拡充が行われたが、エネルギー資源に乏しい我が国において必要不可欠な制度である。 (4) トン数標準税制 主要海運国においては、1996年以降、トン数標準税制の導入が相次ぎ、同税制は海運業界の世界標準となっている。 わが国においても2008年より適用対象を日本船舶に限定したトン数標準税制が導入され、2013年4月からは一定条件を満たした外国船舶(準日本船舶)にも適用対象の拡大が図られたが、一定の条件の下、全運航船(自国船舶・外国船舶)が適用対象となる諸外国と比較すると依然として適用割合が低い状況となっており、徹底した国際競争条件均衡化の観点からの改善が不可欠である。 * * * 政策税制の見直しについては、あくまでも政策目的と効果の検証がなされることが前提であり、財源策として考えることは問題であると考える。 (了)
区分所有登記要件をめぐる 小規模宅地評価減特例 【第2回】 「所有権の構成と相続開始時期による適用判定ケーススタディ」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 前回は小規模宅地評価減特例(措法69の4)についての平成25年度税制改正の内容を確認し、判定に当たっての論点を整理した。 今回は具体的なケースにより、小規模宅地評価減特例(特定居住用宅地等、配偶者以外の同居親族が相続する場合)の適用について、 に分けて、それぞれ検討していくこととする。 なお、本稿は区分所有登記要件をめぐる小規模宅地評価減特例がテーマであるが、区分所有でない建物との比較において説明をすることにより理解が深まると考えられるため、区分所有でない建物の小規模宅地評価減特例についても検討を行い、区分所有か否かでどのように影響があるのか、理解を深めることする。 検討するのは、以下の6パターンである。 また前提となる土地・建物は下図のとおり。 【前提となる土地・建物】 《ケース1》 二世帯住宅(単独所有) [構造上、内部で行き来ができるもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 構造上、内部で行き来ができるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース2》 二世帯住宅(単独所有) [構造上、内部で行き来ができないもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 構造上、内部で行き来ができないため、被相続人A及び長男Cは同居とは判定されないためである。 なお、被相続人Aには配偶者Bがいるため、改正前措置法通達69の4-21に定められていた同居特例は適用できず、この点でも被相続人Aと長男Cとは同居として判断することはできない。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば(構造上、内部で行き来できなくても)、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース3》 二世帯住宅(共有) [構造上、内部で行き来ができるもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 構造上、内部で行き来ができるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば(構造上、内部で行き来できなくても)、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース4》 二世帯住宅(共有) [構造上、内部で行き来ができないもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 構造上、内部で行き来ができないため、被相続人A及び長男Cは同居とは判定されないためである。 なお、被相続人Aには配偶者Bがいるため、改正前措置法通達69の4-21(上記〈ケース2〉参照)に定められていた同居特例は適用できず、この点でも被相続人Aと長男Cとは同居として判断することはできない。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば(構造上、内部で行き来できなくても)、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース5》 二世帯住宅(区分所有) [構造上、内部で行き来ができるもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 個人的には、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用されると考える(他の要件を満たしている前提)。 構造上、内部で行き来ができるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである(平成25年度税制改正前は、区分所有登記の有無による判断はなく、あくまで構造上、内部で行き来できるか否かで判断されると思われる)。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 区分所有である建物であるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されないためである。 《ケース6》 二世帯住宅(区分所有) [構造上、内部で行き来ができないもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 構造上、内部で行き来ができないため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されないためである。 なお、被相続人Aには配偶者Bがいるため、改正前措置法通達69の4-21(上記〈ケース2〉参照)に定められていた同居特例は適用できず、この点でも被相続人Aと長男Cとは同居として判断することはできない。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 区分所有である建物であるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されないためである。 - まとめ - 上記〈ケース1〉から〈ケース6〉については、被相続人Aには配偶者Bがおり、また、生計別の長男Cが二世帯住宅に住んでいること、長男Cが相続ですべての土地を取得することを前提としている。 ケースによっては、以下のような状況もあり、その場合には特定居住用宅地等としての小規模宅地評価減特例の適用関係も変わってくる可能性があるため、留意が必要である。 賃貸併用二世帯住宅(一棟のマンションを所有しており、その一部に居住し、その他は賃貸しているケースも含む)の場合もあり、小規模宅地評価減特例の適用は相当程度複雑になっている。 平成27年1月1日以降に他界した被相続人の相続税申告からは、基礎控除が引き下がることもあり、都市部で相続税申告業務が増加することが予想されるが、小規模宅地評価減特例の適用がより重要になってくるため、しっかりと理解をし、慎重に対応する必要がある。 (連載了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載58〕 所得拡大促進税制の平成26年度改正事項と 別表6(20)新様式の変更点 税理士 竹内 陽一 はじめに 所得拡大促進税制(措法42の12の4)は平成25年度改正で導入されたが、当初は適用要件である給与増加額(雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合)のハ-ドルが5%以上と高く、現実に適用例が出るか懸念された。 平成26年度改正において、この増加額が2%以上に縮小されたため、今後の適用の増加が予想されると同時に、適用できるにもかかわらず、失念したなどのリスクも増大している。 そこで以下では、平成26年度改正で公布された改正政省令を踏まえ、本制度の適用要件を改めて確認するとともに、4月14日付けで公布された「法人税法施行規則の一部を改正する省令」で明らかとなった法人税申告書別表6(20)「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の新様式における主な変更点をまとめた。 1 用語の整理 (1) 雇用者給与等支給額 国内雇用者(※1)の適用年度損金算入給与等(※2)支給額で、国内事業所賃金台帳(※3)記載ベ-スである(この点は以下(3)まで同じ)。 (※1) 対象は法人の使用人に限られ、役員及びその親族を除く(措令27の12の4①)。 (※2) 給与等とは、所得税法28条1項の給与等をいう。 (※3) 労働基準法108条に規定する賃金台帳(措令27の12の4②)。 (2) 基準雇用者給与等支給額 平成24年度の上記(1)の支給額(個人は平成25年)である。 3月決算法人は最も古く「平成24年3月終了事業年度」であり、2月決算法人は最も新しく「平成25年2月終了事業年度」となる。 (3) 比較雇用者給与等支給額 適用年度前期の決算期の上記(1)の支給額である。 (※) 以上(1)から(3)は、賃金台帳ベ-スで計算する。また下記(4)から(6)はその中で継続雇用者に係るものとなるため、雇用保険の一般被保険者ベ-スで計算することとなる。 (4) 平均給与等支給額 継続雇用者給与等支給額を適用年度の給与等月別支給対象者数の合計額で除した金額である。 継続雇用者給与等支給額は、平成26年度改正前は、「(1)から日雇労働者を除く」であったが、平成26年度改正により、2期連続継続雇用者のうち、雇用保険一般被保険者の給与等(継続雇用者給与等支給額)とされた。 したがって上記(1)から(3)までは賃金台帳ベ-スであるが、(4)は賃金台帳のうち、雇用保険の一般被保険者ベ-スとなった(企業において、雇用者が雇用保険一般被保険者のみの場合、これは一致する)。 「継続雇用者」とは、「2期にわたる雇用者」をいい、適用年度でみて、新入社員は前期入社を含み、当期入社を除く。 また退職社員の給与は、前期退職者は除き、当期退職者は含む。 なお、当期定年退職者について「高年齢者継続雇用者」となった場合、その継続雇用に係る給与等は除かれる(措法42の12の4②六・七、措令27の12の4⑪⑫、措規20の9)。 この(4)と下記(5)は月別平均計算であるため、このためにのみ、2期における給与等月別支給対象者数を各月別に計算し合計する必要がある(措法42の12の4②七、措令27の12の4⑬⑭)。 (5) 比較平均給与等支給額 (4)の前期分である。 この(4)(5)及び(6)の給与等月別支給対象者の合計数は、雇用保険一般被保険者ベ-スで、(4)(5)は年間合計額を、(6)は月別で人数を計算し合計する。 (6) 月別支給対象者の合計数 (4)(5)の平均給与等支給額を求めるためには、この2期において、この雇用保険の一般被保険者の月別支給対象者数を合計し、その各期の数を合計する(措令27の12の4⑫)。 この(4)から(6)についての継続雇用者及び継続雇用者の給与等を図示すると、下記のようになる。 赤の部分が継続雇用者及び継続雇用者給与等支給額に該当し、青の部分が継続雇用者及び継続雇用者給与等支給額から除かれることになる。 「定年退職者高年齢継続雇用者」は、その支給額がこの所得拡大促進税制の「継続雇用者給与等支給額」から除かれることになり、その受給者は給与等月別支給対象数からも除かれることになる。 ※高年齢者雇用安定法9①二に規定する継続雇用制度による。 なお、雇用保険の一般保険者は次図を参照いただきたい。 〈雇用保険の適用基準(一般被保険者)〉 (厚生労働省資料より) 2 法人税申告書別表6(20)新様式の変更点 平成26年度改正に対応した別表6(20)「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」は、平成26年4月14日付けで公布された「法人税法施行規則の一部を改正する省令」において明らかとなった(官報号外第84号P17)。 新たな様式は下記のとおりであり、赤枠が新規追加部分、青枠が一部改正部分、緑枠が微修正部分となっている(改正前の旧様式はこちら)。 【別表6(20)新様式】 (1) [4欄]雇用者給与等支給増加割合 ※様式変更なし [4欄]「雇用者給与等支給増加割合」については、様式に変更はないが、判定が5%以上から2%等以上に改定されている点に注意が必要である。 【別表6(20)新様式より抜粋】 (2) 平均給与等支給額等の計算 上記青枠部分である「平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算」枠(下記抜粋)においては、1で解説した平成26年度改正を受け、下記の変更が行われているので注意したい。 [22欄]「雇用者給与等支給額」:賃金台帳記載額 [23欄]「同上のうち一般被保険者である継続雇用者に係る金額」:同上のうち、一般被保険者の継続雇用者、すなわ2期継続雇用者なので、当期入社社員と前期退職者の給与を除いた金額 [24欄]「同上のうち継続雇用制度対象者に係る金額」:当期において定年退職後に高年齢継続雇用者となった継続雇用者給与(高年齢者雇用安定法9①二に規定する継続雇用制度による) [25欄]「継続雇用者給与等支給額」:[23欄]-[24欄] [26欄]「月別支給対象者の合計額」:[23欄]の月別社員数-[24欄]の月別社員数 [27欄]「平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額」:[25欄]/[26欄] 【別表6(20)新様式より抜粋】 (3) 新規に追加された「各経過年数における計算」 上記の赤枠部分(下記抜粋)は、平成26年改正法附則82条2項の適用を受ける場合の記載事項である。 【別表6(20)新様式より抜粋】 3 その他の注意点 企業グル-プ内において、出向があり、かつ、その者の給与について出向先と出向元が負担している場合は、賃金台帳に記載された給与となるそれぞれの負担額=損金算入額を給与等支給額とする(財務省「平成25年度税制改正の解説」p.435)。 この点はこの解説で明快であるが、平成26年度改正により、平均給与等支給額計算において、継続雇用者が雇用保険一般被保険者となった場合、この出向者給与分担金を支出する企業の取扱いは定かではないが、このように、出向元と出向先の両方で賃金が支払われる場合は、雇用保険の被保険者は主たる賃金を支払う事業主との雇用関係についての被保険者となるため、その企業における継続雇用者となると考える。 4 平成26年3月決算法人の注意点 下図のとおり、旧基準を満たす場合は旧基準のみの適用となる。 詳しくは本誌掲載の拙稿「所得拡大促進税制の経過措置(平成26年度税制改正)-3月決算法人の場合-」を参照いただきたい。 【参考図】 ((出典)長谷川敏也「所得拡大促進税制の拡充と平成25年度申告実務の留意点」『T&A master』(No.539(2014.3.17)p.16)) (了)
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第4回】 「「有利選択」のケーススタディ① 事業用不動産の譲渡があるケース」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 本連載では消費税の仕入税額控除の実務についてみているところであるが、第4回となる今回からは、個別対応方式・一括比例配分方式「有利選択」の実務と題して、ケーススタディ形式でいずれが有利か見ていくこととする。 最初のケーススタディは事業用不動産の譲渡があるケースである。 《損益計算書》 税込(単位:円) 《上記損益計算書に係る留意事項》 ① 売上高の内訳 売上高はすべて国内における商品売上高である。 ② 当期商品仕入高の内訳 当期商品仕入高はすべて国内における商品仕入高である。 ③ 販売費及び一般管理費の内訳 ④ 受取利息配当金の内訳 受取利息配当金の内訳は銀行預金利息6,800円と上場株式の配当金100,000円である。 ⑤ 支払利息 支払利息は銀行からの借入金に関する利息である。 ⑥ 貸倒損失 貸倒損失は国内の商品売上に係る売掛金の貸倒額で、すべて平成27年3月期の売上分に係るものである。 ⑦ 不動産売却益 不動産売却益は事業用不動産を120,000,000円で売却したときの、その帳簿価額100,000,000円及び仲介手数料3,240,000円(税込)を控除した金額である。 ⑧ 基準期間の課税売上高 基準期間の課税売上高は458,200,000円である。 《課税売上割合の計算》 ① 課税資産の譲渡等の対価の額を計算する。 ② 非課税売上高を計算する。 なお、上場株式の配当金は課税対象外(不課税)である。 ③ 資産の譲渡等の対価の額を計算する。 ④ 課税売上割合を計算する。 《課税仕入れに係る消費税額の計算》 次に課税仕入れに係る消費税額を計算する。 ① 課税仕入れに係る支払対価の額 ② 課税仕入れに係る消費税額 《個別対応方式による場合の控除税額》 ① 課税売上対応分 ② 共通売上対応分 ③ 個別対応方式による場合の控除税額の計算 《一括比例配分方式による場合の控除税額》 《個別対応方式又は一括比例配分方式の選択》 《貸倒損失》 6.3%課税売上(税率8%のうちの国税分)に係る売掛債権の貸倒れについては、その領収できなくなった日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その領収することができなくなった課税資産の譲渡等の税込価格に係る消費税額の合計額を控除することとなる(消法39①)。 ◆本ケースの評価◆ 本ケースは、通常の課税期間であれば課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が500,000,000円以下であるため、仕入税額の全額控除が受けられたにもかかわらず、たまたま非課税取引となる事業用不動産である土地の譲渡があったため、課税売上割合が大幅に低下したことから、仕入税額控除に関し個別対応方式と一括比例配分方式の選択適用が求められることとなった事案である。 本ケースの場合、課税売上割合も低下したが、一括比例配分方式による仕入控除税額も課税売上割合の低下に合わせて減額した。また、課税仕入れに係る消費税額のうちその大部分を課税売上対応分に分類することができた。 このように、個別対応方式の用途区分を的確に分類でき、かつ課税売上対応分にできるだけ金額を寄せることができる場合には、一般に個別対応方式を選択する方が有利である。 なお、課税仕入れに係る消費税額であるが、消費税においては法人税のような費用収益対応の原則が適用されず、ある課税期間に仕入れた物品やサービスに係る税額は、対応する売上の計上すべきタイミングにかかわらず、原則としてその課税期間において控除される。したがって、当期商品仕入高(8%適用)は当課税期間において仕入税額控除を行い、期首商品棚卸高に含まれる税額は前課税期間以前に既に仕入税額控除を行っていることとなる。 * * * 次回は、医療機関のケースについて検討を行う。 (了)
まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第8回】 「売上の計上基準における適用税率の取扱い」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 寺村 維基(執筆) 第8回である今回は、事業者間で売上・仕入の計上基準が異なる場合について、以下の具体的な事例を交えて解説を行うこととする。 【解 説】 消費税の新税率は、経過措置の適用がある場合を除き、施行日以後に行われる資産の譲渡等及び課税仕入れ等に適用される(改正法附則2)。 上記事例の場合、売り手側が施行日前に行った課税資産の譲渡等に該当するので、買い手側においても、旧税率による仕入税額控除の計算を行うこととなる。結果として、売り手側も買い手側も旧税率による処理を行うこととされる。 まず、消費税における棚卸資産の引渡しの時期については、売り手側は原則として消費税法基本通達9-1-2(※1)によるものと考えられ、買い手側は消費税法基本通達11-3-1(※2)により「資産の譲渡等の時期の取扱いに準ずる」ものとされている。 この取扱いによると、検収基準を継続して採用している場合には、施行日以後に検収したものは新税率である8%を適用することが想定される。 しかしながら、請求書等で「本体価格○○円、消費税××円」、「○○円(うち消費税××円)」と記載されていることにより、その商品に係る消費税率が明らかな場合には、売り手側と買い手側の適用税率に相違が生まれ、検収基準を適用する買い手側が有利となってしまうことを、課税の公平の観点からも売り手側の適用税率に合わせることを要請したものと思われる。また、売上げに係る対価の返還等について、平成25年4月公表の「消費税率の経過措置Q&A」における取扱いにおいても、売り手側と買い手側との適用税率を統一することを前提としている。 よって、実務的には、売り手側が発行した請求書等に記載された税率に従って買い手側も処理することが、平成26年1月公表の「消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A」において明記された。 なお、買い手側は、4月に検収した商品について一律に新税率を適用して仕入税額控除の計算を行うことができなくなり、売り手側が5%で売上計上した部分を抜き出すために請求書と突合する作業を行わなくてはならなくなり、事務処理の手間が増えることとなる。 また、請求書にて税込金額のみを記載(総額表示)しているような場合には、新税率、旧税率のどちらの税率の適用時の分を請求されたものか判断できないため、請求書への適用税率の付記や再発行してもらう等の対応が必要になるものと思われる。 【解 説】 委託販売を行っている場合において、委託者が消費税法基本通達9-1-3のただし書きによる売上計算書が到着した日に売上計上を行っている(いわゆる仕切計算書到達日基準を採用している)ときは、施行日以後に到着した売上計算書に受託者が施行日前に販売した商品の売上げが含まれていても、その売上げについても原則として委託者は新税率である8%を適用することとなる。 ただし、売上計算書おいて委託した商品の譲渡日が明らかな場合には、原則通り施行日前に売り上げたものは旧税率である5%、施行日以後に売り上げたものは新税率である8%を適用することとなる。 例えば、平成26年3月21日から4月20日までの間に行われた委託品の販売状況が記載された売上計算書が4月25日に届いた場合において、その売上計算書で譲渡日が明らかにされているときは、平成26年3月21日から平成26年3月31日までの間に譲渡されたものは5%、平成26年4月1日から平成26年4月20日までの間に譲渡されたものは8%の税率が適用される。 なお、売上計算書において譲渡日が明らかでない場合には、売上計算書の到着日における適用税率を採用することとなる。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第27問】 「転勤のため単身赴任し、妻子の住む家屋を譲渡した場合」 -配偶者等の居住用家屋- 税理士 大久保 昭佳 Q 会社員Xは、5年前に会社から大阪勤務を命ぜられ、妻子を東京に残して単身赴任しました。 Xは大阪で社宅住まいをし、妻子はX所有の東京の家屋に引き続き居住していましたが、このほど、東京の家屋を売却して大阪で家族一緒に住むことにしました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、当該事情が解消したときは当該配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、当該配偶者等が居住の用に供している家屋は、その者にとっても、その居住の用に供している家屋に該当する(措通31の3-2(居住用家屋の範囲)(1))。 ただし、その者が、その居住の用に供している家屋を2以上所有する場合は、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋のみが「特例」の対象となる家屋に該当することにも留意が必要である(措通31の3-2(1)(注))。 (了)