公開日: 2025/01/16 (掲載号:No.602)
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谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第33回】「国税通則法74条の2《補論》」-国税通則法上の「納税義務」と消費税法上の「納税義務」-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

国税通則法構造手続

【第33回】

「国税通則法74条の2《補論》」

-国税通則法上の「納税義務」と消費税法上の「納税義務」-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

国税通則法74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)

(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)

第74条の2 国税庁、国税局若しくは税務署(以下「国税庁等」という。)又は税関の当該職員(税関の当該職員にあつては、消費税に関する調査(第131条第1項(質問、検査又は領置等)に規定する犯則事件の調査を除く。以下この章において同じ。)を行う場合に限る。)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(税関の当該職員が行う調査にあつては、課税貨物(消費税法第2条第1項第11号(定義)に規定する課税貨物をいう。第4号イにおいて同じ。)若しくは輸出物品(同法第8条第1項(輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税)に規定する物品をいう。第4号イにおいて同じ。)又はこれらの帳簿書類その他の物件とする。)を検査し、又は当該物件(その写しを含む。次条から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)において同じ。)の提示若しくは提出を求めることができる。

一 所得税に関する調査 次に掲げる者

イ 所得税法の規定による所得税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者又は同法第123条第1項(確定損失申告)、第125条第3項(年の中途で死亡した場合の確定申告)若しくは第127条第3項(年の中途で出国をする場合の確定申告)(これらの規定を同法第166条(申告、納付及び還付)において準用する場合を含む。)の規定による申告書を提出した者

ロ 所得税法第225条第1項(支払調書及び支払通知書)に規定する調書、同法第226条第1項から第3項まで(源泉徴収票)に規定する源泉徴収票又は同法第227条から第228条の3の2まで(信託の計算書等)に規定する計算書若しくは調書を提出する義務がある者

ハ イに掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があつたと認められる者若しくは当該義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があつたと認められる者若しくは当該権利があると認められる者

二 法人税又は地方法人税に関する調査 次に掲げる者

イ 法人(法人税法第2条第29号の2(定義)に規定する法人課税信託の引受けを行う個人を含む。第4項において同じ。)

ロ イに掲げる者に対し、金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者又は金銭の支払若しくは物品の譲渡を受ける権利があると認められる者

三 消費税に関する調査(次号に掲げるものを除く。) 次に掲げる者

イ 消費税法の規定による消費税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者又は同法第46条第1項(還付を受けるための申告)の規定による申告書を提出した者

ロ 消費税法第57条の5第1号若しくは第2号(適格請求書類似書類等の交付の禁止)に掲げる書類を他の者に交付したと認められる者又は同条第3号に掲げる電磁的記録を他の者に提供したと認められる者

ハ イに掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等(消費税法第2条第1項第8号に規定する資産の譲渡等をいう。以下この条において同じ。)をする義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者

四 消費税に関する調査(税関の当該職員が行うものに限る。) 次に掲げる者

イ 課税貨物を保税地域から引き取る者又は輸出物品を消費税法第8条第1項に規定する方法により購入したと認められる者

ロ イに掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等をする義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者

《第2項以下略》

 

1 はじめに

国税通則法74条の2は「当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権」という見出しの下、所得税、法人税又は地方法人税及び消費税に関する税務職員の調査に係る質問検査権を規定しているが、第28回では、「消費税は、『課税標準等又は税額等』の計算において[課税売上げと課税仕入れとの]差引計算を要素とする点で、所得税や法人税と共通の性格をもつといえよう。」と述べた上で、次のとおり述べた。

このように、国税通則法は消費税については、質問検査手続との関係では、上記の差引計算を要素とする営業利益税的な性格をもつ一種の企業税として、所得税や法人税と類似ないし概ね同様の扱いを定めたものと解される。その際、消費税が間接消費税であることは重視されておらず、むしろ、消費税に関する帳簿書類の検査については所得税や法人税と共通する検査項目が多いことが重視されたものと解される。消費税法が仕入税額控除について当初から基本的方式として採用してきた帳簿方式(消税30条7項)は、質問検査手続において以上のような意味をもつと考えられる。

上の叙述では、消費税を「営業利益税的な性格をもつ一種の企業税」として捉えて、消費税に関する質問検査手続が所得税や法人税と類似ないし概ね同様の手続とされていることに対する理解を述べたが、ただ、それは、消費税の「課税標準等又は税額等」の計算構造に着目して示した理解であって、「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)の負担内容、、、、に着目して示した理解ではなかった。そこで、今回は、第28回に関する「補論」として、後者の理解を中心に消費税に関する質問検査手続について検討することにする。

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国税通則法構造手続

【第33回】

「国税通則法74条の2《補論》」

-国税通則法上の「納税義務」と消費税法上の「納税義務」-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

国税通則法74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)

(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)

第74条の2 国税庁、国税局若しくは税務署(以下「国税庁等」という。)又は税関の当該職員(税関の当該職員にあつては、消費税に関する調査(第131条第1項(質問、検査又は領置等)に規定する犯則事件の調査を除く。以下この章において同じ。)を行う場合に限る。)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(税関の当該職員が行う調査にあつては、課税貨物(消費税法第2条第1項第11号(定義)に規定する課税貨物をいう。第4号イにおいて同じ。)若しくは輸出物品(同法第8条第1項(輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税)に規定する物品をいう。第4号イにおいて同じ。)又はこれらの帳簿書類その他の物件とする。)を検査し、又は当該物件(その写しを含む。次条から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)において同じ。)の提示若しくは提出を求めることができる。

一 所得税に関する調査 次に掲げる者

イ 所得税法の規定による所得税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者又は同法第123条第1項(確定損失申告)、第125条第3項(年の中途で死亡した場合の確定申告)若しくは第127条第3項(年の中途で出国をする場合の確定申告)(これらの規定を同法第166条(申告、納付及び還付)において準用する場合を含む。)の規定による申告書を提出した者

ロ 所得税法第225条第1項(支払調書及び支払通知書)に規定する調書、同法第226条第1項から第3項まで(源泉徴収票)に規定する源泉徴収票又は同法第227条から第228条の3の2まで(信託の計算書等)に規定する計算書若しくは調書を提出する義務がある者

ハ イに掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があつたと認められる者若しくは当該義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があつたと認められる者若しくは当該権利があると認められる者

二 法人税又は地方法人税に関する調査 次に掲げる者

イ 法人(法人税法第2条第29号の2(定義)に規定する法人課税信託の引受けを行う個人を含む。第4項において同じ。)

ロ イに掲げる者に対し、金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者又は金銭の支払若しくは物品の譲渡を受ける権利があると認められる者

三 消費税に関する調査(次号に掲げるものを除く。) 次に掲げる者

イ 消費税法の規定による消費税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者又は同法第46条第1項(還付を受けるための申告)の規定による申告書を提出した者

ロ 消費税法第57条の5第1号若しくは第2号(適格請求書類似書類等の交付の禁止)に掲げる書類を他の者に交付したと認められる者又は同条第3号に掲げる電磁的記録を他の者に提供したと認められる者

ハ イに掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等(消費税法第2条第1項第8号に規定する資産の譲渡等をいう。以下この条において同じ。)をする義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者

四 消費税に関する調査(税関の当該職員が行うものに限る。) 次に掲げる者

イ 課税貨物を保税地域から引き取る者又は輸出物品を消費税法第8条第1項に規定する方法により購入したと認められる者

ロ イに掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等をする義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者

《第2項以下略》

 

1 はじめに

国税通則法74条の2は「当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権」という見出しの下、所得税、法人税又は地方法人税及び消費税に関する税務職員の調査に係る質問検査権を規定しているが、第28回では、「消費税は、『課税標準等又は税額等』の計算において[課税売上げと課税仕入れとの]差引計算を要素とする点で、所得税や法人税と共通の性格をもつといえよう。」と述べた上で、次のとおり述べた。

このように、国税通則法は消費税については、質問検査手続との関係では、上記の差引計算を要素とする営業利益税的な性格をもつ一種の企業税として、所得税や法人税と類似ないし概ね同様の扱いを定めたものと解される。その際、消費税が間接消費税であることは重視されておらず、むしろ、消費税に関する帳簿書類の検査については所得税や法人税と共通する検査項目が多いことが重視されたものと解される。消費税法が仕入税額控除について当初から基本的方式として採用してきた帳簿方式(消税30条7項)は、質問検査手続において以上のような意味をもつと考えられる。

上の叙述では、消費税を「営業利益税的な性格をもつ一種の企業税」として捉えて、消費税に関する質問検査手続が所得税や法人税と類似ないし概ね同様の手続とされていることに対する理解を述べたが、ただ、それは、消費税の「課税標準等又は税額等」の計算構造に着目して示した理解であって、「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)の負担内容、、、、に着目して示した理解ではなかった。そこで、今回は、第28回に関する「補論」として、後者の理解を中心に消費税に関する質問検査手続について検討することにする。

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連載目次

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同「日税研究賞」選考委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)、『基礎から学べる租税法〔第3版〕』(共著・弘文堂・2022年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社、2023年)など。
 
  

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