公開日: 2026/06/11 (掲載号:No.672)
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〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第1回】「国際税務において最初におさえるべき考え方」

筆者: 吉本 壮介

〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド

【第1回】

「国際税務において最初におさえるべき考え方」

太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター
税理士 吉本 壮介

◆ ◇ ◆ 連載開始にあたって ◆ ◇ ◆

「海外取引や国際税務は難解で、全体像が見えにくい」―そう感じてはいませんか?

近年、中小企業においても海外進出やクロスボーダー取引は珍しいものではなくなりました。それに伴い、顧問税理士や企業の経理・財務担当者にも国際税務への対応が求められる場面が増えています。しかし、日々の業務に追われる中で、分厚い専門書を読み解く時間を確保するのは容易ではないのが実情でしょう。

本連載は、そのような悩みを持つ方々が「最短ルートで実務の全体像をつかむ」ことを目的とした実務ガイドです。具体的には、以下の3点を意識して解説を進めていきます。

 難解な制度を、できる限り平易な言葉で整理する

 断片的な知識を、体系的な理解へとつなげる

 日常業務の合間でも読み進められる分量と構成にする

各回、具体的なQ&Aを通じて実務のポイントを押さえつつ、制度の骨格についても解説していきます。実務において特に重要なのは、「何が論点になり得るか」に気づけるかどうかではないかと筆者は感じております。

本連載が、読者の皆様にとって視点を整理する一助となれば幸いです。

*   *   *

Q
最近、顧問先でも海外進出やクロスボーダー取引が増えてきました。これから国際税務を検討するにあたり、そもそも国際税務とはどのような仕組みで、顧問税理士としてまず何を理解しておくべきでしょうか。

A
国際税務とは、国境を越えた取引や投資活動を前提に、課税の重複と抜け穴の双方を防ぐための各国の税制を調整するルールであると言えるでしょう。
顧問税理士の役割としては、国際税務に特有の課税もれリスクを点検しつつ、二重課税などの税負担を極力排除できるよう配意することが重要ではないかと考えられます。

解 説

国際税務と聞くと、世界共通で適用される特別な国際租税法のようなものが存在するように感じるかもしれませんが、実際にはそのような単一の法律は存在しません。

国際税務は、複数国の国内税法が同一の所得に対して同時に課税権を主張することにより生ずる二重課税や課税権の競合について、租税条約や外国税額控除などの制度を通じて、その調整を図る役割を担います。

国際取引が発生すると、同じ所得に対して複数の国が課税しようとする場面が生じます。

この「課税の重なり」をどう調整するか、そして「過度な課税逃れ」をどう防ぐか―これが国際税務の出発点です。

実務担当者がまず意識すべき国際税務の大きなポイントは、次の三点と言えるでしょう。

 国家間で生じる課税権の競合

 二重課税の排除

 租税回避行為への対応

 

1 なぜ国際課税が問題になるのか― 課税権の競合という出発点 ―

国際取引において最も基本的な問題は、1つの所得に対して複数の国が課税権を主張することです。これを調整しないまま放置すると、企業は同じ利益に対して二重(それ以上)に税金を支払うことになり、国際ビジネスは課税によって大きく阻害されてしまいます。これは「税の中立性」の要請にも反することとなり、非常に憂慮すべき事態です。

この問題の背景には、次の2つの課税原則の考え方があります。

 居住地国課税(全世界所得課税)

企業や個人の「本拠地」がある国が、世界中で得たすべての所得に対して課税するという考え方です。日本もこの考え方を採用しており、日本の法人・居住者は、原則として国内外で稼得した全ての所得が日本で課税されます(世界のどこで稼ごうが平等に課税)。

 源泉地国課税

実際に経済活動が行われた場所(支店、工場、店舗、サービス提供地など)がある国で課税すべきだという考え方です(実際に現地で汗をかいた国で課税)。

例えば、日本の会社が米国で事業を行い利益を上げた場合、日本は「日本法人の所得だから」と課税し(居住地国課税)、米国は「米国内で生じた利益だから」と課税しよう(源泉地国課税)とします。このような居住地国と源泉地国との課税権の競合を調整するために用いられるのが、租税条約や各国の調整制度です。

 

2 二重課税をどのように解消するか― 実務で押さえるべき2つの仕組み ―

こうした二重課税を防ぐため、実務担当者が必ず押さえておくべき代表的な手段が、租税条約と外国税額控除です。

(1) 租税条約 ― 課税権そのものを制限する仕組み ―

租税条約は、日本と相手国との間で締結される「税金に関する取り決め」です。

日本では、原則として租税条約に従って国内法の適用が調整されます。

実務で特に頻出するのは、「配当・利子・使用料(ロイヤルティ)」に対する源泉税の軽減や免除です。例えば、海外子会社から配当を受け取る場合、相手国の国内法では20%の源泉税が課されるケースでも、租税条約を適用すれば10%、あるいは0%などに軽減されることがあります。租税条約は、新たに課税関係を生み出すものではなく、現状の課税関係の中で、主に源泉地国の課税権の縮小を図り、二重課税を極力排除するための仕組みなのです。

実務上のチェックポイント

取引や送金の前に、次の点を必ず確認する必要があります。これらを事前に確認することで、不要な税金のキャッシュアウトを防ぐことができます。

  • 相手国と日本の間で租税条約が締結されているか
  • 条約適用のための届出書(租税条約に関する届出書、特典条項に関する付表、居住者証明など)が必要か

(2) 外国税額控除 ― 国内で二重課税を調整する仕組み ―

租税条約を適用しても、源泉地国で税金が0にならない限り、そのままでは二重課税は完全に排除できません。

その際に用いられるのが外国税額控除です。

これは、海外で実際に支払った税金を、日本の法人税額から一定の限度内で差し引くことで二重課税を排除する制度です。

実務上のチェックポイント

外国税額控除は自動的に適用されるものではなく、法人税申告書において、国外所得の金額や控除限度額を精緻に計算することで、二重課税の排除の恩恵を享受することが可能になります。

ただし、支払った外国税額の全額が必ず控除できるわけではなく、控除限度額を超えた部分については、二重課税が残ることになります。そのため、事前に外国税額控除の適用を前提とした税負担のシミュレーションを行うことは、税のリスク管理の観点からも望ましいものと言えます。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド

【第1回】

「国際税務において最初におさえるべき考え方」

太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター
税理士 吉本 壮介

◆ ◇ ◆ 連載開始にあたって ◆ ◇ ◆

「海外取引や国際税務は難解で、全体像が見えにくい」―そう感じてはいませんか?

近年、中小企業においても海外進出やクロスボーダー取引は珍しいものではなくなりました。それに伴い、顧問税理士や企業の経理・財務担当者にも国際税務への対応が求められる場面が増えています。しかし、日々の業務に追われる中で、分厚い専門書を読み解く時間を確保するのは容易ではないのが実情でしょう。

本連載は、そのような悩みを持つ方々が「最短ルートで実務の全体像をつかむ」ことを目的とした実務ガイドです。具体的には、以下の3点を意識して解説を進めていきます。

 難解な制度を、できる限り平易な言葉で整理する

 断片的な知識を、体系的な理解へとつなげる

 日常業務の合間でも読み進められる分量と構成にする

各回、具体的なQ&Aを通じて実務のポイントを押さえつつ、制度の骨格についても解説していきます。実務において特に重要なのは、「何が論点になり得るか」に気づけるかどうかではないかと筆者は感じております。

本連載が、読者の皆様にとって視点を整理する一助となれば幸いです。

*   *   *

Q
最近、顧問先でも海外進出やクロスボーダー取引が増えてきました。これから国際税務を検討するにあたり、そもそも国際税務とはどのような仕組みで、顧問税理士としてまず何を理解しておくべきでしょうか。
A
国際税務とは、国境を越えた取引や投資活動を前提に、課税の重複と抜け穴の双方を防ぐための各国の税制を調整するルールであると言えるでしょう。
顧問税理士の役割としては、国際税務に特有の課税もれリスクを点検しつつ、二重課税などの税負担を極力排除できるよう配意することが重要ではないかと考えられます。

解 説

国際税務と聞くと、世界共通で適用される特別な国際租税法のようなものが存在するように感じるかもしれませんが、実際にはそのような単一の法律は存在しません。

国際税務は、複数国の国内税法が同一の所得に対して同時に課税権を主張することにより生ずる二重課税や課税権の競合について、租税条約や外国税額控除などの制度を通じて、その調整を図る役割を担います。

国際取引が発生すると、同じ所得に対して複数の国が課税しようとする場面が生じます。

この「課税の重なり」をどう調整するか、そして「過度な課税逃れ」をどう防ぐか―これが国際税務の出発点です。

実務担当者がまず意識すべき国際税務の大きなポイントは、次の三点と言えるでしょう。

 国家間で生じる課税権の競合

 二重課税の排除

 租税回避行為への対応

 

1 なぜ国際課税が問題になるのか― 課税権の競合という出発点 ―

国際取引において最も基本的な問題は、1つの所得に対して複数の国が課税権を主張することです。これを調整しないまま放置すると、企業は同じ利益に対して二重(それ以上)に税金を支払うことになり、国際ビジネスは課税によって大きく阻害されてしまいます。これは「税の中立性」の要請にも反することとなり、非常に憂慮すべき事態です。

この問題の背景には、次の2つの課税原則の考え方があります。

 居住地国課税(全世界所得課税)

企業や個人の「本拠地」がある国が、世界中で得たすべての所得に対して課税するという考え方です。日本もこの考え方を採用しており、日本の法人・居住者は、原則として国内外で稼得した全ての所得が日本で課税されます(世界のどこで稼ごうが平等に課税)。

 源泉地国課税

実際に経済活動が行われた場所(支店、工場、店舗、サービス提供地など)がある国で課税すべきだという考え方です(実際に現地で汗をかいた国で課税)。

例えば、日本の会社が米国で事業を行い利益を上げた場合、日本は「日本法人の所得だから」と課税し(居住地国課税)、米国は「米国内で生じた利益だから」と課税しよう(源泉地国課税)とします。このような居住地国と源泉地国との課税権の競合を調整するために用いられるのが、租税条約や各国の調整制度です。

 

2 二重課税をどのように解消するか― 実務で押さえるべき2つの仕組み ―

こうした二重課税を防ぐため、実務担当者が必ず押さえておくべき代表的な手段が、租税条約と外国税額控除です。

(1) 租税条約 ― 課税権そのものを制限する仕組み ―

租税条約は、日本と相手国との間で締結される「税金に関する取り決め」です。

日本では、原則として租税条約に従って国内法の適用が調整されます。

実務で特に頻出するのは、「配当・利子・使用料(ロイヤルティ)」に対する源泉税の軽減や免除です。例えば、海外子会社から配当を受け取る場合、相手国の国内法では20%の源泉税が課されるケースでも、租税条約を適用すれば10%、あるいは0%などに軽減されることがあります。租税条約は、新たに課税関係を生み出すものではなく、現状の課税関係の中で、主に源泉地国の課税権の縮小を図り、二重課税を極力排除するための仕組みなのです。

実務上のチェックポイント

取引や送金の前に、次の点を必ず確認する必要があります。これらを事前に確認することで、不要な税金のキャッシュアウトを防ぐことができます。

  • 相手国と日本の間で租税条約が締結されているか
  • 条約適用のための届出書(租税条約に関する届出書、特典条項に関する付表、居住者証明など)が必要か

(2) 外国税額控除 ― 国内で二重課税を調整する仕組み ―

租税条約を適用しても、源泉地国で税金が0にならない限り、そのままでは二重課税は完全に排除できません。

その際に用いられるのが外国税額控除です。

これは、海外で実際に支払った税金を、日本の法人税額から一定の限度内で差し引くことで二重課税を排除する制度です。

実務上のチェックポイント

外国税額控除は自動的に適用されるものではなく、法人税申告書において、国外所得の金額や控除限度額を精緻に計算することで、二重課税の排除の恩恵を享受することが可能になります。

ただし、支払った外国税額の全額が必ず控除できるわけではなく、控除限度額を超えた部分については、二重課税が残ることになります。そのため、事前に外国税額控除の適用を前提とした税負担のシミュレーションを行うことは、税のリスク管理の観点からも望ましいものと言えます。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

〈最短で理解する〉
海外取引の税務実務ガイド

筆者紹介

吉本 壮介

(よしもと・そうすけ)

税理士
太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター

東京国税局に勤務し、調査部にて大規模法人を中心とする調査事務に従事し、国際税務専門官を最後に退職。2024年9月に太陽グラントソントン税理士法人に入社。ディレクターに就任。

現在は、多くの日系企業及び多国籍企業の税務業務を担当し、国内税務(グループ通算制度、組織再編等)及び国際税務(タックスヘイブン対策税制、クロスボーダー取引等)などに従事している。

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