《税務必敗法》
【第16回】
「退職時に引継ぎミスがあった」
公認会計士・税理士 森 智幸
【事例】
X会計事務所の顧問先のA社は印刷工場を営む小規模な株式会社である。決算月は3月であり、消費税の計算については簡易課税を適用している。
A社は印刷工場について緊急の修繕工事を×09年6月から12月に行うことを×09年2月の取締役会で決定した。
X会計事務所は、A社が×09年度において一般課税を適用した場合、消費税の還付が見込まれることから、×09年3月末日までに消費税簡易課税制度選択不適用届出書(以下「不適用届出書」という)を提出することとした。
そこで、担当税理士の甲は不適用届出書の案をe-Taxで作成してPDFにし、メールでA社に送付して決裁を得た。
しかし、甲は×09年3月末で退職することになり、有給休暇の消化のため、3月15日が最終出勤日となった。後任は税理士乙となった。
A社では×09年度に緊急修繕工事が行われ、工事代金が支払われた。そして×10年5月24日、乙はA社の消費税の申告において還付申告を行った。
しかし、還付申告後、所轄税務署から「A社は簡易課税制度選択届出書が提出されているので、×09年度も簡易課税が適用されます。」という電話があった。
驚いた乙が税務申告ソフトを調べると、不適用届出書の電子データが残ったままであり、送信されていなかったことが発覚した。
甲は不適用届出書を電子データで作成し、送信できる状態としたが、3月15日までは所得税の確定申告業務に追われ、電子送信ができなかったのだった。
また、甲は、不適用届出書の案をメールでA社に送付したとき、CCに乙を入れていたため、後は乙が対応してくれるだろうと考え、引継ぎを行わず休暇に入っていた。
一方、乙は、甲が不適用届出書を提出済みと思い込み、受信通知の確認をしていなかった。
さらに、X会計事務所では、引継ぎ書を作成して引継ぎを行う仕組みがなく、担当者任せの慣習となっていた。
乙がA社に消費税の還付が受けられなくなったことを伝えると、A社の社長は、「得られたはずの還付はどうしてくれるのか。」と憤慨した。
その結果、X会計事務所は損害賠償請求を受けることになった。
1 はじめに
本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「退職時に引継ぎミスがあった」である。
会計事務所の中には、事務所として引継ぎを行う仕組みがなく、担当者任せとなっているところも少なくない。
また、退職者が常に協力的に引継ぎを行うとは限らない。職員が急に休職したり、退職したりすることで、引継ぎ時間を十分にとることができないこともある。特に繁忙期と退職時期が重なると引継ぎ時間の確保が難しくなる。
この退職時に引継ぎにミスがあると【事例】のように、届出書の提出ミスなどが発生するリスクが高まる。
そこで、今回は退職者が出る場合の引継ぎのポイントと対策について説明する。
なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。
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