《税務必敗法》
【第15回】
「預かった資料の管理をしていなかった」
公認会計士・税理士 森 智幸
【事例】
クリニックを営むAは個人事業者である。税務についてはX会計事務所と顧問契約を締結しており、記帳代行と税務申告書の作成を依頼している。
Aのクリニックでは、毎月、記帳のための資料は紙の状態で一式をX会計事務所に郵送している。なお、現在使用中の預金通帳はコピーを送付し、繰越済みの通帳は原本を送付していた。しかし、X会計事務所では預り証は発行していなかった。
ある月、Aから「α銀行の通帳が返ってきていないが、そちらに残っていないか? β銀行から運転資金の融資を受けようと思っているが、保有している口座の通帳すべての提示を求められているので。」という電話がかかってきた。
そこで、担当税理士の甲が、記帳代行担当の職員乙に伝えて調べてもらったが、手元にα銀行の通帳はなかった。そのため、甲は「調べてみましたが、こちらにはありませんでした。資料はすべて返却したため、そちらにあるはずですが。」と回答した。
しかし、約3週間後、乙が自宅で掃除をしていた時、机に置いた書類の中からα銀行の通帳があることを発見した。
X会計事務所では在宅勤務が可能であるが、乙は記帳代行に使用する資料の一部を自宅に持ち帰っていたのだった。
翌日、甲はAに電話をかけて「α銀行の通帳の件ですが、こちらにありました。」と謝罪した。
すると、Aは「こちらは診療の合間に、事務員全員でクリニックの中の書類を全部出して探したんだぞ。その時間はどうしてくれるんだ。β銀行からの融資も遅れてしまっている。資金繰りも大変なんだよ!」と激高した。
後日、X会計事務所の所長と甲の2名がAのクリニックを訪れ謝罪したが、「預けた資料の管理はどうなっているのか。今後の契約も考え直さないといけないな。」というクレームを受けた。
1 はじめに
本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「預かった資料の管理をしていなかった」である。
近年はデジタル化が進んでいるが、記帳代行を行っている会計事務所においては、記帳のための資料を顧問先から紙で送ってもらっているところがまだ多いと推測される。また、相続税においても個人からの資料は紙で預かることが多いと推測される。
このように顧問先から紙の資料を預かったときは、当然のことながら確実に返却する必要がある。しかしながら、【事例】のように、預かった資料の管理を行っていないと返却したつもりが返却されていないといったことも起こりうる。このようなことが起こると紛議にもなりかねない。
そこで、今回は会計事務所が紙の資料を預かった場合の注意点や対策を紹介する。
なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。
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