年俸制と裁量労働制
【第1回】
「給与の支払方法(年俸制)と
労働時間管理の方法(裁量労働制)は別物」
なりさわ社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 成澤 紀美
年俸制と裁量労働制の違いを正しく理解する
「うちは年俸制で給与を支払い、裁量労働制を導入しているので残業代を支払っていない」という声をよく耳にする。特に設立間もない企業や、比較的小規模な企業で顕著であるように感じられる。
「年俸制」とは月給制・日給月給制など賃金の支払方法の一つであり、「裁量労働制」は労働時間管理方法の一つである。
年俸制は賃金の支払方法の一つであるために規制はないが、裁量労働制は労働基準法に定められた内容に基づいて運用する必要がある。基本的には、裁量労働制適用者には年俸制を適用するという関連性を持たせてもよいものではあるが、いわゆる固定費=人件費を削減する目的だけで年俸制を導入し、割増賃金が適正に支払われないという状況は避けなければならない。
年俸制でも割増賃金の支払いは必要
年俸制と裁量労働制を組み合わせて導入している場合、勤務時間には社員に裁量性を持たせ、給与額を年額で定めて年俸制として支給し、この年俸額には割増賃金(時間外勤務・深夜勤務・休日出勤)が含まれているとして、年俸額を超えた割増賃金を支給しないケースがある。
一見すると勤務時間にも裁量制があり問題がないように捉えられがちであるが、年俸制を導入していても、元々の年俸額に一定時間の時間外手当相当分が含まれていない場合には、深夜勤務や休日出勤分も含め割増賃金の支払いが必要となる。
また専門型裁量労働制を適用する場合は一定の職種に限られるが、職種に限らず裁量労働制を導入しており、例えば、本来、専門業務型裁量労働制を適用できないプログラマーにも裁量労働制を導入し、時間管理を全く行わないというケースもみられる。
労働基準法との関係
年俸制を採用した場合には、労働基準法の法定労働時間や賃金支払との関係が問題になる。
労働基準法では、1週間に40時間、1日に8時間の労働が原則である。この「法定労働時間」を超える労働時間を定めた労働契約は労働基準法違反となり、その場合、年俸は自動的に年間の法定労働時間に対する賃金と解釈され、時間外労働・休日労働・深夜労働等の割増賃金については、年俸と別に支払わなければならない。
ただし、あらかじめ一定の金額を割増賃金分として含んだ金額を年俸額とするのであれば、その内訳(年俸○○円、うち時間外労働分××円、深夜勤務分××円など)を明らかにしておくことが必要となる。また、実際に働いた結果、事前に決められた割増賃金相当分を超過した場合には、正しい割増賃金との差額を追加して支払うことが求められる。
* * *
次回は、年俸制の支払方法についてお伝えしたい。
(了)