公開日: 2015/05/28 (掲載号:No.121)
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確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望 【第3回】「今回改正が意味すること②」

筆者: 秦 穣治

確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」

【第3回】

「今回改正が意味すること②」

 

特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研)
理事長 秦 穣治

 

4 実施のスピード感

厚生労働省は今回の改正を“企業年金制度の大改革”と明言しているが、その理由は、【第1回】及び【第2回】をお読みの読者はご了解いただけたことと思われる。筆者がこの部分に相当数のページを割いて説明したのは、まさにそのことをご理解いただきたいためである。

今回改正は小手先のものではなく大改正なのだ、ということをしっかりご理解いただくと今までの延長線上にはない次世代企業年金制度が見えてくる。しかしながら、法改正案に盛り込まれた内容だけではわかりづらいのも事実で、今回あえてしつこく記述させてもらった。

ただこれから具体的な全体像を設計していく段階になると、すぐに問題になりそうなのが次の2点である。

(A)
企業年金制度全体をガラガラポンするのが狙いである以上、既に相応の歴史を有し、かつ、多くの既得権益を有する制度、具体的に言えば、厚生年金基金制度及びDBは今後、その既得権益が縮小ないし消滅する可能性がある。厚生労働省が考えているDB・DCの一体運営、合算上限の考え方が議論されることになると、DB等の当事者にとっては非常に大きな問題であり、良くも悪くも“抵抗勢力”となる可能性が大であり、今後の帰趨を注視する必要がある。

(B)
企業年金を受給する際には、年金受給を基本とする考え方が明確に打ち出された。企業年金だから“年金”で受給するのは当たり前と思われるかもしれないが、実態は違う。定年退職の場合であっても、DBでも7割以上、DCに至っては9割以上が、実は退職一時金(すなわち現金)で受給されているのである。まして中途退職する場合には当然のごとく一時金受給である((A)に関連するが、DBや厚生年金基金では中途退職時には一時金受給であるが、DCでは法制上、一時金受給は困難である)。これを、ポータビリティ(持ち運び)を保証して離転職があっても企業年金残高を定年時まで持ち続ける制度にし、定年後に年金受給原資にしようという考え方に転換しようというのである。

総論として反対するのはなかなか難しいが、実態として、会社を辞めたら現金が入るというイメージは事業主・加入者の双方にあり、かつ、俗に“退職一時金税制”と呼ばれる一時金でもらうと非常に有利な税制があることから(大企業のサラリーマンで大学卒業後新卒で就職し、定年退職した場合、21百万円程度まで無税と言われている)、税制も絡めて今後議論されていくことになるであろう。

今回の法改正案に盛り込まれた内容は、DCが中心で、かつ現行のDCに比べれば明らかに条件良化となるから、いわば、問題の少ないところから法案化されたと言ってよいであろう。

ただし、DC制度にとって発足以来の懸案となっている、

  • 拠出上限の大幅引上げ、ないし上限撤廃
  • DBと比べて厳しい中途脱退一時金要件(中途で転退職した場合の一時金受取の制約)の緩和

上記の点については、DC単独での解決が難しく、今般、厚生労働省はDB・DCを一体化して問題を解決するしか道はない、と腹を括ったように思われる。したがって、結果としては既得権を多く有していたDBにとって条件悪化は不可避になるかもしれない。

いずれにせよこの問題は、企業年金部会の今年度の最大の課題となるであろう。

一方、拡張されるDC部分だが、“DC資産運用の改善”項目を除けば(【第2回】で詳述)、課題は、対象者拡大を狙いとした

  • 中小企業対象の安価で使い勝手の良い制度の創設
    ・・・簡易型DC制度
  • 個人型DCの加入対象者拡大及び個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度の創設
    ・・・逆マッチング拠出制度

が中心となるが、実はこれがなかなか難問なのである。

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確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」

【第3回】

「今回改正が意味すること②」

 

特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研)
理事長 秦 穣治

 

4 実施のスピード感

厚生労働省は今回の改正を“企業年金制度の大改革”と明言しているが、その理由は、【第1回】及び【第2回】をお読みの読者はご了解いただけたことと思われる。筆者がこの部分に相当数のページを割いて説明したのは、まさにそのことをご理解いただきたいためである。

今回改正は小手先のものではなく大改正なのだ、ということをしっかりご理解いただくと今までの延長線上にはない次世代企業年金制度が見えてくる。しかしながら、法改正案に盛り込まれた内容だけではわかりづらいのも事実で、今回あえてしつこく記述させてもらった。

ただこれから具体的な全体像を設計していく段階になると、すぐに問題になりそうなのが次の2点である。

(A)
企業年金制度全体をガラガラポンするのが狙いである以上、既に相応の歴史を有し、かつ、多くの既得権益を有する制度、具体的に言えば、厚生年金基金制度及びDBは今後、その既得権益が縮小ないし消滅する可能性がある。厚生労働省が考えているDB・DCの一体運営、合算上限の考え方が議論されることになると、DB等の当事者にとっては非常に大きな問題であり、良くも悪くも“抵抗勢力”となる可能性が大であり、今後の帰趨を注視する必要がある。

(B)
企業年金を受給する際には、年金受給を基本とする考え方が明確に打ち出された。企業年金だから“年金”で受給するのは当たり前と思われるかもしれないが、実態は違う。定年退職の場合であっても、DBでも7割以上、DCに至っては9割以上が、実は退職一時金(すなわち現金)で受給されているのである。まして中途退職する場合には当然のごとく一時金受給である((A)に関連するが、DBや厚生年金基金では中途退職時には一時金受給であるが、DCでは法制上、一時金受給は困難である)。これを、ポータビリティ(持ち運び)を保証して離転職があっても企業年金残高を定年時まで持ち続ける制度にし、定年後に年金受給原資にしようという考え方に転換しようというのである。

総論として反対するのはなかなか難しいが、実態として、会社を辞めたら現金が入るというイメージは事業主・加入者の双方にあり、かつ、俗に“退職一時金税制”と呼ばれる一時金でもらうと非常に有利な税制があることから(大企業のサラリーマンで大学卒業後新卒で就職し、定年退職した場合、21百万円程度まで無税と言われている)、税制も絡めて今後議論されていくことになるであろう。

今回の法改正案に盛り込まれた内容は、DCが中心で、かつ現行のDCに比べれば明らかに条件良化となるから、いわば、問題の少ないところから法案化されたと言ってよいであろう。

ただし、DC制度にとって発足以来の懸案となっている、

  • 拠出上限の大幅引上げ、ないし上限撤廃
  • DBと比べて厳しい中途脱退一時金要件(中途で転退職した場合の一時金受取の制約)の緩和

上記の点については、DC単独での解決が難しく、今般、厚生労働省はDB・DCを一体化して問題を解決するしか道はない、と腹を括ったように思われる。したがって、結果としては既得権を多く有していたDBにとって条件悪化は不可避になるかもしれない。

いずれにせよこの問題は、企業年金部会の今年度の最大の課題となるであろう。

一方、拡張されるDC部分だが、“DC資産運用の改善”項目を除けば(【第2回】で詳述)、課題は、対象者拡大を狙いとした

  • 中小企業対象の安価で使い勝手の良い制度の創設
    ・・・簡易型DC制度
  • 個人型DCの加入対象者拡大及び個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度の創設
    ・・・逆マッチング拠出制度

が中心となるが、実はこれがなかなか難問なのである。

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連載目次

「確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」(全6回)

【第1回】 今回改正の背景と全体像

1 改正の背景

2 改正の全体像

【第2回】 今回改正が意味すること①

1 退職給付企業年金(DB)・確定拠出企業年金(DC)共通の問題

2 DCの資産運用に関し追加予定の諸規制

3 DC投資教育に関する新しい整理

【第3回】 今回改正が意味すること②

4 実施のスピード感

5 運営管理機関をはじめとする金融機関の反応

【第4回】 今回法改正案に盛り込まれたこと①

1 中小企業対象「簡易型DC制度」創設

2 個人型DCへの「小規模事業主掛金納付制度」の創設

3 拠出限度額の年単位化

4 個人型DCの加入対象拡大と新個人型DC拠出限度額

【第5回】 今回法改正案に盛り込まれたこと②

5 企業型DCの新拠出限度額&自助努力の選択肢

6 制度間のポータビリティの拡充

7 その他の措置

【第6回】 今後検討されること

1 DB・DC合算での拠出限度額

2 DB・DC共通の給付ルール

3 新DC個人型の問題

4 商品除外問題

5 指定運用方法の設定(デフォルト設定)

筆者紹介

秦 穣治

(はた・じょうじ)

特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研)
理事長

1969年4月
旧富士銀行、現みずほ銀行入社
本店営業部・ニューヨーク支店・大阪営業部・国際営業部など、主として大企業及び国際関係ビジネスに携わる。

1998年5月
サンデン(株)入社
経営企画部部長、人事本部部長、総務人事本部本部長歴任。日本における確定拠出企業年金導入の最先発企業となる。

2007年4月
(株)想研取締役
NPO確定拠出年金教育協会専務理事

2008年4月
(株)クライテリア代表取締役
NPO確定拠出年金教育協会専務理事

2013年2月
プルーデント・ジャパン(株)プルーデント退職年金研究所理事長
NPO確定拠出年金総合研究所理事長

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