公開日: 2015/09/17 (掲載号:No.136)
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国境を越えた役務の提供に係る消費税課税の見直し等と実務対応 【第1回】「改正前の国内取引の判定基準」

筆者: 安部 和彦

国境を越えた役務の提供に係る
消費税課税の見直し等と実務対応

【第1回】

「改正前の国内取引の判定基準」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

○●○ 本連載の構成 ○●○

【第1回】 改正前の国内取引の判定基準(本稿)

【第2回】 国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い

【第3回】 内外判定基準の見直し

【第4回】 リバースチャージ方式の導入

【第5回】 国外事業者申告納税方式と登録国外事業者制度

【第6回】 国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式の見直し

【第7回】 リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引

 

1 はじめに

平成27年度の税制改正により、国境を越える役務の提供に係る消費税の課税が大幅に見直されることとなった。当該改正は原則として平成27年10月1日以降において行われる取引について適用されることから、正にこれから実務で問題となり得る項目であるといえる。

そこで本連載では、国境を越える役務の提供に係る消費税の課税に関し、新たに導入されることとなる「リバースチャージ方式」が国内企業の実務に及ぼす影響と対策について検討することとする。

 

2 消費税法における国内取引の判定基準

平成27年度税制改正に伴う「リバースチャージ方式」の中身を確認する前に、その前提となる改正前消費税法における国内取引の判定基準をまず見ていくこととしたい。

(1) 国内取引の判定基準

現行消費税法において課税対象となる取引は、国内取引と輸入取引(※1)である。このうち国内取引とは、国内において事業者が行った資産の譲渡等である(消法4①)。問題は、取引が国内において行われたかどうかの判断基準である。

(※1) 輸入取引はリバースチャージ方式とは関係ないため、本稿では原則として取り扱わない。

資産の譲渡・貸付については、消費税法上、原則として、譲渡・貸付が行われたときに資産が所在していた場所を基準としてその判定を行うこととされている(消法4③一)。しかしながら、船舶・航空機・無体財産権といった一定の資産については、資産の譲渡・貸付が行われたときにおける登録機関の所在地等を基準として判定することとされている(消法4③一カッコ書、消令6①)。

また、役務の提供に関しては、消費税法上、原則として、役務の提供が行われた場所を基準としてその判定を行うこととされている(消法4③二)。しかし、役務の提供が運輸・通信等、国内及び国外に渡って行われるものであるときには、国際運輸の場合には出発地・発送地又は到着地、国際郵便の場合には差出地又は配達地など、一定の場所を基準として判定することとされている(消法4③一カッコ書、消令6②)。

いずれにせよ、現行税法上の国内取引の判定は、「資産の譲渡等を行う者」を基準に行うものであることが分かる。

(2) 国内取引の判定基準のまとめ表

消費税法における資産の譲渡等に係る態様別の内外判定基準を表にまとめると、以下のとおりとなる。特に注目すべきは、改正前の役務の提供に関する内外判定基準である。

① 資産の譲渡又は貸付に係る国内取引の判定基準のまとめ表(消令6①・改正なし)

資産の譲渡又は貸付の態様 判定基準 船舶又は航空機 ・登録をした機関の所在地 ・登録を受けていないものは、その譲渡又は貸付けを行う者の譲渡又は貸付けに係る事務所の所在地 鉱業権・租鉱権・採石権等 鉱業権に係る鉱区、租鉱権に係る租鉱区、採石権等に係る採石場の所在地 特許権・実用新案権・意匠権・商標権・回路配置利用権・育成者権 ・権利の登録した機関の所在地 ・二以上の国において登録している場合は、これらの権利の譲渡又は貸付けを行う者の住所地 公共施設等運営権 公共施設等の所在地 著作権等 著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地 営業権・漁業権・入漁権 これらの権利に係る事業を行う者の住所地 有価証券 有価証券が所在していた場所 登録国債 登録した機関の所在地 合名会社・合資会社・合同会社等の持分 法人の本店又は主たる事務所の所在地 金銭債権 債権者の譲渡に係る事務所等の所在地 ゴルフ場利用株式等 ゴルフ場その他の施設の所在地 上記以外の資産でその所在地が明らかでないもの その資産の譲渡又は貸付けを行う者の当該譲渡又は貸付けに係る事務所等の所在地

② 役務提供に係る国内取引の判定基準のまとめ表(消令6②・改正前)

役務の提供の態様 判定基準 国際運輸 出発地もしくは発送地又は到着地 国際通信 発信地又は受信地 国際郵便 差出地又は配達地 保険 保険事業者の契約締結に係る事務所等の所在地 情報の提供又は設計★ 情報の提供又は設計を行う者の情報の提供又は設計に係る事務所等の所在地 専門的な科学技術に関する知識を必要とする調査、企画、立案、助言、監督又は検査に係る役務提供で生産設備等の建設又は製造に関するもの 生産設備等の建設又は製造に必要な資材の大部分が調査される場所 上記以外の国内及び国内以外の地域に渡って行われる役務の提供★ 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地

(注) 印は今回の改正事項

(了)

「国境を越えた役務の提供に係る消費税課税の見直し等と実務対応」は、隔週で掲載されます。

国境を越えた役務の提供に係る
消費税課税の見直し等と実務対応

【第1回】

「改正前の国内取引の判定基準」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

○●○ 本連載の構成 ○●○

【第1回】 改正前の国内取引の判定基準(本稿)

【第2回】 国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い

【第3回】 内外判定基準の見直し

【第4回】 リバースチャージ方式の導入

【第5回】 国外事業者申告納税方式と登録国外事業者制度

【第6回】 国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式の見直し

【第7回】 リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引

 

1 はじめに

平成27年度の税制改正により、国境を越える役務の提供に係る消費税の課税が大幅に見直されることとなった。当該改正は原則として平成27年10月1日以降において行われる取引について適用されることから、正にこれから実務で問題となり得る項目であるといえる。

そこで本連載では、国境を越える役務の提供に係る消費税の課税に関し、新たに導入されることとなる「リバースチャージ方式」が国内企業の実務に及ぼす影響と対策について検討することとする。

 

2 消費税法における国内取引の判定基準

平成27年度税制改正に伴う「リバースチャージ方式」の中身を確認する前に、その前提となる改正前消費税法における国内取引の判定基準をまず見ていくこととしたい。

(1) 国内取引の判定基準

現行消費税法において課税対象となる取引は、国内取引と輸入取引(※1)である。このうち国内取引とは、国内において事業者が行った資産の譲渡等である(消法4①)。問題は、取引が国内において行われたかどうかの判断基準である。

(※1) 輸入取引はリバースチャージ方式とは関係ないため、本稿では原則として取り扱わない。

資産の譲渡・貸付については、消費税法上、原則として、譲渡・貸付が行われたときに資産が所在していた場所を基準としてその判定を行うこととされている(消法4③一)。しかしながら、船舶・航空機・無体財産権といった一定の資産については、資産の譲渡・貸付が行われたときにおける登録機関の所在地等を基準として判定することとされている(消法4③一カッコ書、消令6①)。

また、役務の提供に関しては、消費税法上、原則として、役務の提供が行われた場所を基準としてその判定を行うこととされている(消法4③二)。しかし、役務の提供が運輸・通信等、国内及び国外に渡って行われるものであるときには、国際運輸の場合には出発地・発送地又は到着地、国際郵便の場合には差出地又は配達地など、一定の場所を基準として判定することとされている(消法4③一カッコ書、消令6②)。

いずれにせよ、現行税法上の国内取引の判定は、「資産の譲渡等を行う者」を基準に行うものであることが分かる。

(2) 国内取引の判定基準のまとめ表

消費税法における資産の譲渡等に係る態様別の内外判定基準を表にまとめると、以下のとおりとなる。特に注目すべきは、改正前の役務の提供に関する内外判定基準である。

① 資産の譲渡又は貸付に係る国内取引の判定基準のまとめ表(消令6①・改正なし)

資産の譲渡又は貸付の態様 判定基準 船舶又は航空機 ・登録をした機関の所在地 ・登録を受けていないものは、その譲渡又は貸付けを行う者の譲渡又は貸付けに係る事務所の所在地 鉱業権・租鉱権・採石権等 鉱業権に係る鉱区、租鉱権に係る租鉱区、採石権等に係る採石場の所在地 特許権・実用新案権・意匠権・商標権・回路配置利用権・育成者権 ・権利の登録した機関の所在地 ・二以上の国において登録している場合は、これらの権利の譲渡又は貸付けを行う者の住所地 公共施設等運営権 公共施設等の所在地 著作権等 著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地 営業権・漁業権・入漁権 これらの権利に係る事業を行う者の住所地 有価証券 有価証券が所在していた場所 登録国債 登録した機関の所在地 合名会社・合資会社・合同会社等の持分 法人の本店又は主たる事務所の所在地 金銭債権 債権者の譲渡に係る事務所等の所在地 ゴルフ場利用株式等 ゴルフ場その他の施設の所在地 上記以外の資産でその所在地が明らかでないもの その資産の譲渡又は貸付けを行う者の当該譲渡又は貸付けに係る事務所等の所在地

② 役務提供に係る国内取引の判定基準のまとめ表(消令6②・改正前)

役務の提供の態様 判定基準 国際運輸 出発地もしくは発送地又は到着地 国際通信 発信地又は受信地 国際郵便 差出地又は配達地 保険 保険事業者の契約締結に係る事務所等の所在地 情報の提供又は設計★ 情報の提供又は設計を行う者の情報の提供又は設計に係る事務所等の所在地 専門的な科学技術に関する知識を必要とする調査、企画、立案、助言、監督又は検査に係る役務提供で生産設備等の建設又は製造に関するもの 生産設備等の建設又は製造に必要な資材の大部分が調査される場所 上記以外の国内及び国内以外の地域に渡って行われる役務の提供★ 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地

(注) 印は今回の改正事項

(了)

「国境を越えた役務の提供に係る消費税課税の見直し等と実務対応」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「国境を越えた役務の提供に係る消費税課税の見直し等と実務対応」(全7回)

【第1回】 改正前の国内取引の判定基準 ★無料公開中★

1 はじめに

2 消費税法における国内取引の判定基準

(1) 国内取引の判定基準

(2) 国内取引の判定基準のまとめ表

【第2回】 国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い

3 国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い

(1) デジタル財取引に対する消費税課税

(2) 国際的な取引に対する消費税の課税原則

(3) 「課税の空白」への対応の必要性

【第3回】 内外判定基準の見直し

4 国境を越えた役務提供に対する消費税課税に関する平成27年度税制改正の内容

(1) 内外判定基準の見直し

(2) 電気通信利用役務の提供の分類

(3) 電気通信利用役務の提供に付随して行われる役務の提供

【第4回】 リバースチャージ方式の導入

(4) リバースチャージ方式の導入

(5) リバースチャージ方式の仕組み

【第5回】 国外事業者申告納税方式と登録国外事業者制度

(6) 消費者向け電気通信利用役務の提供に対する消費税の課税

(7)  電気通信役務の提供に係る判定フロー

【第6回】 国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式の見直し

5 国外事業者による芸能等の役務提供に係る消費税

(1) 制度の概要

(2) 制度導入の背景

(3) 特定役務の提供の意義

(4) 特定役務の提供と内外判定

【第7回】 リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引

6 リバースチャージ方式等の導入に伴う実務上注意すべき取引

(1) 電気通信利用役務の提供に該当するか否かの判定

(2) 国外登録事業者の登録

(3) 国外事業者による芸能等の役務提供に係る契約等の見直し

(4) 電気通信利用役務の提供を受ける国内事業者の留意事項

(5) 国外事業者が平成27年3月31日までに締結した電気通信利用役務の提供

7 まとめ

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『新版 修正申告と更正の請求の対応と実務』(2025年・清文社)
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

           

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