なぜ工事契約会計で不正が起こるのか?
~東芝事件から学ぶ原因と防止策~
【第1回】
「工事原価総額の見積りの信頼性」
公認会計士・税理士 中谷 敏久
Ⅰ はじめに
東芝は2003年に委員会等設置会社に移行し、企業統治改革の先駆者としてこれまで国内外から高く評価されてきた。にもかかわらず順守できなかった「工事契約会計」とはいったいどのような会計制度なのか、また日本を代表する企業がその会計制度を使ってどのように会計不正を行ったかを明らかにしたい。
Ⅱ 工事契約会計とは
わが国では長い間、長期請負工事に関する収益は工事完成基準又は工事進行基準のいずれかを選択して計上することが認められてきた。工事完成基準は、工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益を計上する方法であり、工事進行基準は、決算期末に工事進行程度を見積もり、適正な工事収益率によって工事収益の一部を当期の損益計算に計上する方法である(企業会計原則注解7)。
この結果、同様の長期請負工事であっても、企業により収益の計上方法が異なることになり、財務諸表の比較可能性が損なわれるという弊害が生じていた。この弊害を解消するため、民間団体である企業会計基準委員会が2007年に公表した会計基準が「工事契約に関する会計基準」(以下、「会計基準」という)である。
会計基準によると、工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する(会計基準9項)。今までは、成果の確実性が認められるか否かにかかわらず、企業が任意に両基準を選択適用することができたが、それができなくなったのである。
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